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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】紙容器用積層シート、及び紙容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20240820BHJP
   B65D 5/06 20060101ALI20240820BHJP
   B65D 3/04 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B65D5/06 300
B65D3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019208247
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021079974
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐貴泰
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 竜也
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-253763(JP,A)
【文献】特開2003-221024(JP,A)
【文献】特開2011-126560(JP,A)
【文献】特開2010-208174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B65D 5/06
B65D 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙層の一方の面側に接着性樹脂層、バリアフィルム層及びシーラント層がこの順に積層し、上記紙層の他方の面側に熱可塑性樹脂層が積層した紙容器用積層シートであって、
上記熱可塑性樹脂層を構成する全ての熱可塑性樹脂が、上記接着性樹脂層の上記紙層と接する樹脂よりも融点が低く、
上記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の融点が、84℃以上100℃以下であり、
上記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体のみであり、またはエチレン-メタクリル酸共重合体のみであり、
上記接着性樹脂層は、エチレン-メタクリル酸共重合体のみで形成された層、またはエチレン-メタクリル酸共重合体のみで形成された層と低密度ポリエチレンのみで形成された層との積層体であり、
上記バリアフィルム層が、以下の(1)から(3)の中から選ばれるいずれかのフィルムであることを特徴とする紙容器用積層シート。
(1)金属の蒸着膜を設けたPETフィルム
(2)無機酸化物の蒸着膜を設けたPETフィルム
(3)アルミニウム箔とPETフィルムの積層フィルム
【請求項2】
紙層の一方の面側に接着性樹脂層、バリアフィルム層及びシーラント層がこの順に積層し、上記紙層の他方の面側に熱可塑性樹脂層が積層した紙容器用積層シートであって、
上記熱可塑性樹脂層を構成する全ての熱可塑性樹脂が、上記接着性樹脂層の上記紙層と接する樹脂よりも融点が低く、
上記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の融点が、84℃以上100℃以下であり、
上記熱可塑性樹脂層の厚さは、10μm以上30μm以下の範囲内であり、
上記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体のみであり、またはエチレン-メタクリル酸共重合体のみであり、
上記接着性樹脂層は、エチレン-メタクリル酸共重合体のみで形成された層、またはエチレン-メタクリル酸共重合体のみで形成された層と低密度ポリエチレンのみで形成された層との積層体であり、
上記バリアフィルム層が、以下の(1)から(3)の中から選ばれるいずれかのフィルムであることを特徴とする紙容器用積層シート。
(1)金属の蒸着膜を設けたPETフィルム
(2)無機酸化物の蒸着膜を設けたPETフィルム
(3)アルミニウム箔とPETフィルムの積層フィルム
【請求項3】
上記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体のみであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の紙容器用積層シート。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の紙容器用積層シートを容器形状に成形してなる紙容器。
【請求項5】
上記紙容器の形状が、ゲーゲルトップ型形状、カップ形状、又は円筒形状のいずれかの形状であることを特徴とする請求項4に記載の紙容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙容器用積層シート及びその紙容器用積層シートを用いた紙容器に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料、酒等の液体物や粉体物などを収容する容器には、ビン、缶、ペットボトル等の容器が採用されることが多かった。一方で近年、地球環境保護に対する意識の高まりから、リサイクル性に優れ、環境負荷の少ない紙容器が、飲料、酒、等の内容物を収容する収容体として広く用いられている。
【0003】
一般に、液体を収容するための液体用紙容器は、内容物の保存性、容器としての強度、ガスバリア性等を確保するために、複数の材料を積層した積層シートからなる包装材料が用いられる。この液体用紙容器に用いられる包装材料(積層シート)としては、容器の外面側から、熱可塑性樹脂層/紙層/接着性樹脂層/バリア層/シーラント層の順に積層した層構成となったものが知られている。
このような積層シートを用いて目的とする容器の形状に成形する際、シーラント層を溶融するためにホットエアを当てて加熱する加熱工程を有する。この加熱工程で、ホットエアをシーラント層へ当てた際に、その熱で紙層中に含まれる水分が急激に加熱されて水蒸気となる。そして、この水蒸気の膨張圧力によって、紙層/接着性樹脂層間を剥離させる発泡現象(バブリング)が発生するおそれがある。
【0004】
上記のようなバブリングが発生すると、それに伴ってシール不良、外観不良が発生する可能性がある。また、更に加熱を続けた場合や、より高温で加熱した場合には、バブリングによって剥離した接着性樹脂層/バリア層/シーラント層の各膜に穴が開いてしまう現象(ピンホール)が発生するおそれがある。このピンホールの発生は、内容物の液漏れやバリア機能低下の原因となってしまう。特にピンホールに関しては、クレームに繋がる不良であるため、紙容器を製造する際におけるシーラント加熱条件には細かな調整が必要となる。
以上のような背景から、紙容器用積層シートには、バブリング、ピンホールが発生しにくいことが求められている。
【0005】
バブリングやピンホールを抑制する技術として、従来、特許文献1や特許文献2に記載のような方法が提案なされている。
特許文献1では、少なくとも、紙層とバリアフィルム層とを溶融押し出し樹脂層を介して積層した紙基材を主体とする積層材料を成形してなる紙容器であって、上記紙層紙基材の接着剤塗布面のJIS P8122の測定法に準拠したサイズ度が400秒以上であって、その接着剤塗布面にウレタン結合を有する2液硬化型接着剤からなる接着剤層を0.5g/m以上4g/m以下の塗布量で塗布形成し、その接着剤層を紙層と溶融押し出し樹脂層の間に介在させるようにして紙層とバリアフィルム層を積層した積層材料を成形してなることを特徴とする紙容器が提案されている。この特許文献1に記載の方法の場合、接着剤層を設けることによって、耐熱性を向上し、また、水蒸気膨張の圧力に耐えるだけの強度を付与すると開示されている。この結果、特許文献1の方法では、バブリングを抑制することが可能となり、結果的にピンホールの抑制にも繋がる。
【0006】
特許文献2では、主体とする厚紙層の一面に少なくとも外層樹脂層をラミネートし、その厚紙層の他面にプラスチック樹脂層等の接着層やバリア層などを介して内層シーラント樹脂層をラミネートした液体包装用の紙製容器材料において、上記外層樹脂層に厚紙層に達する水蒸気透過性の微細な細孔からなる孔設部が設けられていることを特徴とする液体包装用の紙製容器シート材料が提案されている。この特許文献2に記載の方法によれば、外層樹脂層の孔設部がホットエアによる加熱(加熱工程)にて蒸発した水蒸気の逃げ道となって、水蒸気による膨張圧力を下げられるため、バブリングを抑制することが可能となり、結果的にピンホールの抑制にも繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4577001号公報
【文献】特開2000-203565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、紙層と溶融押し出し樹脂層の間に接着層を設けることが必要となる。このため、特許文献1に記載の方法では、材料コスト、工程数が増えることにより製造コストが上がる。
また、特許文献2に記載の方法では、孔設部を設ける工程を要し、工程数が増えてしまうため、さらなる工程の簡略化が求められている。また、特許文献2に記載の方法では、紙容器の使用時に、周りの水分や臭気などが細孔や細孔を介して紙層へ入り込むおそれもある。
【0009】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、製造の工程数の増加を抑えつつ容器成形時のホットエア(加熱)によるバブリングやピンホールを抑制することが可能な紙容器用積層シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するために、本発明の一態様は、紙層の一方の面側に接着性樹脂層、バリアフィルム層及びシーラント層がこの順に積層し、上記紙層の他方の面側に熱可塑性樹脂層が積層した紙容器用積層シートであって、上記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂が、上記接着性樹脂層を構成する樹脂よりも融点が低いことを要旨とする。
また、本発明の他の態様は、発明の一態様である紙容器用積層シートを容器形状に成形してなる紙容器である。
また、本発明の他の態様は、紙層の一方の面側に接着性樹脂層、バリアフィルム層及びシーラント層がこの順に積層し、上記紙層の他方の面側に熱可塑性樹脂層が積層した紙容器用積層シートから紙容器に成形する際に、上記紙容器用積層シートに対しシーラント層に熱を加える加熱工程を有する、紙容器の製造方法であって、上記加熱工程において、上記シーラント層への加熱によって上記熱可塑性樹脂層の少なくとも一部が溶融し、上記加熱によって上記紙層中から発生した水蒸気の少なくとも一部が、上記溶融状態の熱可塑性樹脂層を通過して排出されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、容器成形時のホットエアによるバブリングやピンホールを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に基づく実施形態に係る紙容器用積層シートの構成例を説明する断面模式図である。
図2】本発明に基づく実施形態に係る製造の工程例を示す図である。
図3】本発明に基づく実施形態に係る紙容器用積層シートの製造例を説明する概念図である。
図4】本発明に基づく実施形態に係る紙容器の製造工程の一例を説明する図である。
図5】実施例における評価のための加熱を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
なお、各図は模式的に示した図であり、各部の大きさや形状等は理解を容易に知るために適宜誇張して示している。また、以下の説明は、本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0014】
(紙容器用積層シート)
本実施形態の紙容器用積層シートは、図1に示すように、紙層の一方の面側に接着性樹脂層、バリアフィルム層及びシーラント層がこの順に積層し、紙層の他方の面側に熱可塑性樹脂層が積層した積層シートである。
【0015】
次に、紙容器用積層シートを構成する各層について個別に説明する。
(紙層)
紙層2は、主に容器の成形性や剛性を付与するための層である。
紙層2としては、例えば、表面処理されたコート紙や、処理されていないノーコート紙が例示できる。紙層2には、紙容器に用いられている公知の紙材を用いればよい。
紙層2の紙坪量は、例えば200g/m以上500g/m以下が好ましいが、容器サイズに合わせて適宜選択すればよい。
ここで、紙層2の表面に対し、熱可塑性樹脂層1や接着性樹脂層3との接着性を向上させるために、適宜コロナ処理などの表面処理が施されていることが好ましい。
【0016】
(接着性樹脂層)
接着性樹脂層3は、紙層2の一方の面側にバリアフィルム層4を接着するために設けられる。接着性樹脂層3は、例えば、紙層2とバリアフィルム層4とを押出ラミネートにより接着するために積層する。
接着性樹脂層3は、紙層2とバリアフィルム層4とを接着する接着性を有していれば、特に制限されない。接着性樹脂層3は、単一樹脂による単層構成であっても良いし、共押出成形等による複層構成であっても良い。
【0017】
接着性樹脂層3を構成する樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-αオレフィンの共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体などのエチレン-不飽和カルボン酸又はそのエステル化合物との共重合体、アイオノマー樹脂などが挙げられる。
【0018】
接着性樹脂層3の厚さは、20μm以上50μm以下が好ましい。接着性樹脂層3の厚さが20μmよりも薄い場合には、紙層2とバリアフィルム層4との接着性低下によるデラミ発生の可能性が高まる。また、接着性樹脂層3の厚さが50μmよりも厚い場合には、容器の形状に成形する際の罫線が上手く入らなくなるなど、成形工程での不具合が発生しやすくなる。
接着性樹脂層3の積層には、接着剤をドライラミネート法や押出ラミネート法など公知の方法を用いることができる。ドライラミネート法は乾燥工程や積層後のエージング等に時間を要するため、接着性樹脂層3の積層には、それらの工程を要さない押出ラミネート法が最も効率よく製造可能であるため好ましい。
【0019】
(バリアフィルム層)
バリアフィルム層4は、容器にガスバリア性を持たせるために設ける。
バリアフィルム層4には、例えば、2軸延伸のポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂等の基材フィルム等にシリカ、アルミナ、アルミニウム等の無機物を蒸着したフィルムが使用できる。そして、この基材フィルムの厚さは5~30μm程度が適当である。また、蒸着膜自体の厚さは、必要とするガスバリア性を発現するのに十分な厚さに蒸着されていればよく、例えばシリカを蒸着する場合は30~200nm程度が好ましい。
また、バリアフィルム層4はアルミニウム箔と上述の基材フィルムをドライラミネート法にて接着して作製してもよい。
【0020】
バリアフィルム層4としては、以下の(1)から(3)の中から選ばれるいずれかのフィルムであることが好ましい。
(1)金属の蒸着膜を設けたPETフィルム
(2)無機酸化物の蒸着膜を設けたPETフィルム
(3)アルミニウム箔とPETフィルムの積層フィルム
ここで、上記の「設けた」とは、PETフィルムの片面に設ける場合だけではなく、両面に設ける場合も含まれる。
【0021】
(シーラント層)
シーラント層5は、一般的にシーラント層として使用されている樹脂を用いることができる。シーラント層5を構成する樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィンの共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂やポリプロピレン等が挙げられる。シーラント層5は、これらの樹脂を単層、又は複数組み合わせた多層として使用することもできる。
シーラント層5の厚さは、容器成形時に十分なシール性を有していれば特に限定されない。シーラント層5の厚さは、例えば、30μm以上100μm以下が適当である。
シーラント層5とバリアフィルム層4との積層方法は、特に限定されないが、フィルム製膜後にウレタン結合を有する2液硬化型接着剤を用いたドライラミネート法や、押出ラミネート法が一般的である。
【0022】
(熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層1は、積層シートを角形や丸形等の各種容器の形態に成形する際に熱可塑性樹脂層同士を熱融着するため、ヒートシール性を有する必要がある。
本実施形態では、熱可塑性樹脂層1を構成する熱可塑性樹脂として、接着性樹脂層3を構成する樹脂よりも融点が低い樹脂材料を用いる。なお、接着性樹脂層3が2層以上の複数層から構成される場合には、接着性樹脂層3を構成する複数の層のうちの紙層2に接する層の融点よりも、熱可塑性樹脂層1を構成する熱可塑性樹脂の融点が低くなるように設定する。
【0023】
熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂として、融点が107℃以下の低融点の熱可塑性樹脂を使用するのが好ましい。より好ましくは、熱可塑性樹脂の融点は84℃以上100℃以下である。
そのような融点への設定が可能で、かつヒートシール性を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィンの共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、アイオノマー樹脂などのエチレン-不飽和カルボン酸又はそのエステル化合物との共重合体などが挙げられる。
【0024】
熱可塑性樹脂層1の厚さは、紙容器の熱可塑性樹脂層に用いられている公知の厚さを適用することができる。熱可塑性樹脂層1の厚さは、容器成形時に熱可塑性樹脂層同士を熱融着し、容器成形後に落下等の衝撃に耐えるのに最低限必要な厚さを有していれば良い。熱可塑性樹脂層1の厚さは、例えば、10μm以上30μm以下とする。
熱可塑性樹脂層1の積層には、溶融状態で紙層に積層する押出コーティング法を用いることができる。ドライラミネート法を用いた場合、ホットエア加熱時に、接着剤の層が紙層2にて発生した水蒸気の逃げ道を塞いでしまい、紙層2中の内部圧力が高まるため、バブリングが発生しやすくなってしまう。
熱可塑性樹脂層1の表面に対し、必要に応じてコロナ処理などの表面処理を施し、印刷を行うことができる。
【0025】
(紙容器)
紙容器は、上記実施形態で説明した紙容器用積層シートを用いて成形される。
紙容器用積層シートから目的の容器形状からなる紙容器を製造する製造工程20には、図2に示すように、成形工程20Aと、加熱工程20Bとを有する。
成形工程20Aでは、紙容器用積層シートを、立体的に容器形状に成形する。この成形時の形状は、最終的な紙容器となる前の途中形状を含む。
【0026】
加熱工程20Bは、容器の内側となる、紙容器用積層シートのシーラント層5側に熱を加えて、シーラント層5を一時的に溶融状態とする処理を行う工程である。この加熱工程20Bでは、例えば、シーラント層5側からホットエアを当てて加熱して、シーラント層5を溶融し、シールする。ここで、後述のように、紙容器に成形しつつ、上記加熱工程20Bが実行される。
加熱工程20Bによる加熱処理は、例えば、温度340℃の温風(ホットエア)を、1秒間吹き付けることで実行する。
そして、最終的な目的の容器形状からなる紙容器とする。目的の容器形状としは、ゲーゲルトップ型容器、れんが型容器、筒状容器などが例示できるが、特に限定されない。
【0027】
(製造工程例)
本実施形態の紙容器用積層シート及び紙容器の製造方法の一例を示す。
<紙容器用積層シートの製造例>
まず、図3(a)のように、バリアフィルム層4を構成する樹脂とシーラント層5を構成する樹脂を、押出成形によって積層した積層シート(4,5)を製造する。
次に、図3(b)のように、上記の製造した積層シート(4,5)と紙層2とを、接着性樹脂層3を介して押出成形を実行して、積層シート(2~5)を製造する。
次に、図3(c)のように、上記の製造した積層シート(2~5)と熱可塑性樹脂層1とを押出成形によって積層して、順次、紙容器用積層シートとし、その紙容器用積層シートをロール状とする。
【0028】
<紙容器の製造例>
図4(a)のように、製造した紙容器用積層シートからシート状にカットして、図4(b)のようなブランク材を得る(打ち抜き工程)。
次に、図4(c)のように、組み立てやすいように、ブランク材に折り目を付ける罫線工程を行う。
次に、図4(d)のように、筒状に成形する(成形工程20A)。
次に、図4(e)のように、筒状とした成形品における底部側のシーラント層側の面(内面)をホットエアにて加熱し、シールすると共に、容器の底部を閉塞する成形処理を実行する。
【0029】
(加熱工程20B)。
次に、図4(f)のように、トップ側から内容物を充填する(充填工程)。
次に、図4(g)のように、トップ側のシーラント層側の面(内面)をホットエアにて加熱し、シールすると共に、容器の底部を閉塞する成形処理を実行する(加熱工程20B)。
【0030】
(作用その他)
加熱工程20Bでシーラント層5を溶融するだけの高温度で加熱すると、その加熱位置よりも上層の紙層2も100℃以上となって、紙層2に含有されていた水分が水蒸気となる。なお、水分が水蒸気となる際には、圧力が高くなる。
本実施形態では、接着性樹脂層3に設ける樹脂よりも低融点の熱可塑性樹脂を熱可塑性樹脂層に採用する。このため、加熱工程20Bでシーラント層5を加熱した際に、その加熱によって、熱可塑性樹脂層1の少なくとも一部が一時的に溶融状態となり、相対的に高圧となった水蒸気の少なくとも一部が、熱可塑性樹脂層1を通り抜けて外部に放出されることで、水蒸気よる膨張圧力が抑制される。
これによって、紙中の水分が蒸発することによる、紙層と接着性樹脂層3との間でのバブリングが抑制され、ピンホールも抑制されるという効果を奏する。
【0031】
上記加熱によって熱可塑性樹脂層1が溶融状態となり、水蒸気が通過する微細な通過路が熱可塑性樹脂層1に一時的に形成されるが、加熱終了後の冷却の際に、上記微細な通過路のほとんどは閉塞状態となる。このため、紙容器を使用時、周りに水分や臭気などが紙層側に浸入するようなことが抑制される。
ここで、加熱工程20Bでの加熱条件にもよるが、加熱時には、熱可塑性樹脂層1は107℃よりも高温の温度となる。
【0032】
また、以上のように、本実施形態の紙容器用積層シート10は、熱可塑性樹脂層1、接着性樹脂層3が、接着剤を介さず、押出コーティング法又は押出ラミネート法にて直接紙層2に積層することが可能となる。更に、タンデム押出機を用いれば、熱可塑性樹脂層1、接着性樹脂層3を同一ラインで積層することができるため製造効率を高めることが可能である。この方法は、従来の紙容器用積層シート製造工程を行えることから、バブリング・ピンホールを抑制するための特別な工程を要することがなく安価に効果を得ることができる。
また、本実施形態の紙容器用積層シート10を用いることで、紙容器のシール性を、簡易且つ確実に確保することが可能となる。
【実施例
【0033】
[実施例1]
シーラント層5として、片面にコロナ処理を施したLDPEフィルム(厚さ55μm)を用意した。また、バリアフィルム層4として、片面にシリカ蒸着、反対側の面にコロナ処理を施したPETフィルム(厚さ12μm)を用意した。
そして、バリアフィルム層4のシリカ蒸着面とLDPEフィルムのコロナ処理面とを、ウレタン系接着剤を用いてドライラミネート法にて積層し、バリアフィルム層/シーラント層の積層シートを作製した。また、バリアフィルム層/シーラント層の積層シートにおけるバリアフィルム層側に露出しているPET面に対してコロナ処理を行った。
【0034】
紙層2として坪量380g/mのノーコート紙を用意し、その紙の両面にコロナ処理を行った後に、紙層2の片面にタンデム押出機のうち第一のTダイからEVA(三井デュポンポリケミカル製エバフレックスEV450、融点84℃)を18μmの厚さで押出コーティングし、熱可塑性樹脂層1を形成した。
続いて紙層2の熱可塑性樹脂層を形成した面の反対面と、上記のバリアフィルム層/シーラント層の積層フィルムのPETフィルム面に対して、第二のTダイからEMAA(三井デュポンポリケミカル(株)製 AN4228C、融点104℃)にてサンドイッチラミネーションを行い、膜厚30μmの接着性樹脂層3を形成した。
【0035】
以上により得られた、紙容器用積層シートの構成は、EVA(EV450、融点84℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ30μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である(図1参照)。
【0036】
[実施例2]
実施例1の接着性樹脂層3の樹脂を、LDPE(旭化成(株)製 L6810、融点107℃)とEMAA(三井デュポンポリケミカル(株)製 AN4228C、融点104℃)の2層構成に替えた以外は、実施例1と同じとした。
得られた積層シートの構成は、EVA(EV450、融点84℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/LDPE(L6810、融点107℃、厚さ20μm)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ10μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0037】
[実施例3]
実施例1の熱可塑性樹脂層1の樹脂をEMAA(三井デュポンポリケミカル(株)製 AN4228C、融点104℃)に替え、接着性樹脂層3の樹脂を、LDPE(旭化成(株)製 L6810、融点107℃)とEMAA(三井デュポンポリケミカル(株)製 AN4228C、融点104℃)の2層構成に替えた以外は、実施例1と同じとした。
得られた積層シートの構成は、EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/LDPE(L6810、融点107℃、厚さ20μm)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ10μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0038】
[実施例4]
実施例1の接着性樹脂層3の樹脂を、LDPE(東ソー(株)製 LW18A、融点130℃)とEMAA(三井デュポンポリケミカル(株)製 AN4228C、融点104℃)の2層構成に替えた以外は、実施例1と同じとした。
得られた積層シートの構成は、EVA(EV450、融点84℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/LDPE(LW18A、融点130℃、厚さ20μm)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ10μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0039】
[実施例5]
実施例1の熱可塑性樹脂層1の樹脂をEMAA(三井デュポンポリケミカル(株)製 AN4228C、融点104℃)に替え、接着性樹脂層3の樹脂を、LDPE(東ソー(株)製 LW18A、融点130℃)とEMAA(三井デュポンポリケミカル(株)製 AN4228C、融点104℃)の2層構成に替えた以外は、実施例1と同じとした。
得られた積層シートの構成は、EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/LDPE(LW18A、融点130℃、厚さ20μm)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ10μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0040】
[比較例1]
実施例1の熱可塑性樹脂層1の樹脂をLDPE(旭化成(株)製 L6810、融点107℃)に替えた以外は、実施例1と同じとした。
得られた積層シートの構成は、LDPE(L6810、融点107℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ30μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0041】
[比較例2]
実施例1の熱可塑性樹脂層1の樹脂をLDPE(旭化成(株)製 L2340、融点112℃)に替えた以外は実施例1と同じとした。
得られた積層シートの構成は、LDPE(L2340、融点112℃、18μm)/紙(坪量380g/m)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ30μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0042】
[比較例3]
実施例1の熱可塑性樹脂層1の樹脂をPP(日本ポリプロ(株)製 FL02T、融点160℃)に替えた以外は実施例1と同じとした。
得られた積層シートの構成は、PP(FL02T、融点160℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ30μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0043】
[比較例4]
実施例2の熱可塑性樹脂層1の樹脂をLDPE(旭化成(株)製 L6810、融点107℃)に替えた以外は、実施例2と同じとした。
得られた積層シートの構成は、LDPE(L6810、融点107℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/LDPE(L6810、融点107℃、厚さ20μm)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ10μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0044】
[比較例5]
実施例2の熱可塑性樹脂層1の樹脂をLDPE(旭化成(株)製 L2340、融点112℃)に替えた以外は実施例2と同じとした。
得られた積層シートの構成は、LDPE(L2340、融点112℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/LDPE(L6810、融点107℃、厚さ20μm)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ10μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0045】
[比較例6]
実施例2の熱可塑性樹脂層1の樹脂をPP(日本ポリプロ(株)製 FL02T、融点160℃)に替えた以外は実施例2と同じとした。
得られた積層シートの構成は、PP(FL02T、融点160℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/LDPE(L6810、融点107℃、厚さ20μm)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ10μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0046】
[比較例7]
実施例4の熱可塑性樹脂層1の樹脂をLDPE(旭化成(株)製 L6810、融点107℃)に替えた以外は、実施例4と同じとした。
得られた積層シートの構成は、LDPE(L6810、融点107℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/LDPE(LW18A、融点130℃、厚さ20μm)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ10μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0047】
[比較例8]
実施例4の熱可塑性樹脂層1の樹脂をLDPE(旭化成(株)製 L2340、融点112℃)に替えた以外は実施例4と同じとした。
得られた積層シートの構成は、LDPE(L2340、融点112℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/LDPE(LW18A、融点130℃、厚さ20μm)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ10μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0048】
[比較例9]
実施例4の熱可塑性樹脂層1の樹脂をPP(日本ポリプロ(株)製 FL02T、融点160℃)に替えた以外は実施例4と同じとした。
得られた積層シートの構成は、PP(FL02T、融点160℃、厚さ18μm)/紙(坪量380g/m)/LDPE(LW18A、融点130℃、厚さ20μm)/EMAA(AN4228C、融点104℃、厚さ10μm)/シリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)/LDPE(厚さ55μm)である。
【0049】
(評価)
作成した実施例1~5、及び、比較例1~9についてピンホール耐性を評価した結果を表1に示した。
[評価方法]
図5(a)のように、積層シート10のシーラント層5側にヒートガン40((株)高儀製 アースマンHG-1450B)にて340℃のホットエアを、シーラント層5から2cmの距離をあけて噴射した。そして、その条件でピンホールが発生(図5(c))した時間を測定した。図5(b)はバブリング発生の状態を示している。
ピンホール発生までの時間が4秒以上であれば「○」、4秒より短ければ「×」と判定した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示されたように、熱可塑性樹脂層1に、接着性樹脂層3よりも融点が低い樹脂を使用することで、ピンホール発生時間が遅くなっていることが確認され、ピンホール耐性が改善されることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0052】
1 熱可塑性樹脂層
2 紙層
3 接着性樹脂層
4 バリアフィルム層
5 シーラント層
10 紙容器用積層シート
図1
図2
図3
図4
図5