(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物および電子装置
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240820BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240820BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240820BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/013
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2020025094
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】熊本 玄昭
(72)【発明者】
【氏名】東野 稔久
(72)【発明者】
【氏名】杉野 遼介
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/098026(WO,A1)
【文献】特開2019-104887(JP,A)
【文献】特開2014-005464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00-63/10
C08K 3/013
H01L 23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、
着色剤と、
を含む、封止用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、およびビフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種または2種以上を含み、前記エポキシ樹脂の含有量が、前記封止用樹脂組成物全体に対し、7.18質量%以下であり、
前記無機充填材の含有量が、前記封止用樹脂組成物全体に対し、60質量%以上、95質量%以下であり、
前記着色剤が、黒色酸化チタンおよび黒色染料の少なくとも一方を含み、前記着色剤の含有量が、前記封止用樹脂組成物全体に対して、0.01質量%以上、3.0質量%以下であって、
以下の条件を満たす、封止用樹脂組成物。
条件:当該封止用樹脂組成物を用いて、175℃、2分で硬化させた硬化物の5GHz、23℃の誘電正接が0.008未満である。
【請求項2】
前記着色剤が、カーボンブラックを含む、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
前記黒色酸化チタンは、TiOx(ただし、Xは1以上、2未満を示す)で表される化合物を含む、請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
前記黒色染料は、アンスラキノン系染料、アジン系染料、アゾ系染料、ジスアゾ系染料およびクロム錯塩系染料からなる群より選択される一種または二種以上を含む、請求項1乃至3いずれか一項に封止用樹脂組成物。
【請求項5】
以下の手順により算出される熱伝導率が、0.1W/mK以上、20W/mK以下である、請求項1乃至4いずれか一項に記載の封止用樹脂組成物。
手順:金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で当該封止用樹脂組成物の成形体(1.0×1.0mm、厚さ1.0mm)を作製し、175℃、2時間で後硬化し、試験片を得る。得られた試験片を用いて、レーザーフラッシュ法で熱拡散率を測定し、さらに、比重および比熱を測定し、得られた各測定値から、当該試験片の厚さ方向の熱伝導率を算出する。
【請求項6】
当該封止用樹脂組成物の硬化物のL
*a
*b
*色座標において、
明度L
*の値が、24~30であり、
a
*の値が、-2.0~-0.1であり、
b
*の値が、-5.0~-2.5である、請求項1乃至5いずれか一項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項7】
活性エステル樹脂をさらに含む、請求項1乃至6いずれか一項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項8】
前記硬化剤が、エステル型硬化剤、ビフェニルアラルキル型
硬化剤、フェノールアラルキル樹脂、および芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂の中から選ばれる一種または二種以上を含む、請求項1乃至7いずれか一項に封止用樹脂組成物。
【請求項9】
粒子状、顆粒状、タブレット状またはシート状である、請求項1乃至8いずれか一項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項10】
電子部品と、前記電子部品を封止する封止材とを備える電子装置であって、
前記封止材が、請求項1乃至9いずれか一項に記載の封止用樹脂組成物の硬化物で構成される、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物および電子装置に関する。より具体的には、特定の組成の封止用樹脂組成物、および、その組成物の硬化物である封止材を備える電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
主として電子装置の封止を行うための封止用樹脂組成物として、エポキシ樹脂を含むものが様々に知られている。
【0003】
通信情報の大容量化、多様化に伴い、通信の基地局用プリント基板、サーバ用プリント基板、ルータ用プリント基板などは通信速度の高速化が進んでいる。通信速度の高速化に対応するためには、信号を高周波化する必要がある。
【0004】
一方、信号の品質を確保するためには、伝送損失の低減が重要となる。伝送損失は、主に、電子装置に用いられている樹脂に起因する誘電体損失と、導体に起因する導体損失が挙げられる。前者の誘電体損失は、電子装置に用いられている樹脂の誘電率及び誘電正接が小さくなるほど減少する傾向がある。
【0005】
そこで、低誘電率、低誘電正接を実現可能な材料として、例えば、特許文献1には、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂と塩化ベンゾイルおよびビス(クロロカルボニル)ベンゼンとを反応させて得られる活性エステル化合物をエポキシ樹脂用硬化剤として用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1などに記載のような従来の封止用樹脂組成物においては、近年の高周波化に十分対応することはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、着色剤と、を含む封止用樹脂組成物であっても、高周波に対する誘電体損失が低減される場合とそうでない場合とがあることを知見した。そして、さらに検討を行った結果、当該封止用樹脂組成物について新たな指標を考案し、当該封止用樹脂組成物がかかる指標を満たすことで、高周波に対する誘電体損失が低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、
着色剤と、
を含み、以下の条件を満たす、封止用樹脂組成物が提供される。
条件:当該封止用樹脂組成物を用いて、175℃、2分で硬化させた硬化物の5GHz、23℃の誘電正接(Tanδ)が0.008未満である。
【0010】
また、本発明によれば、
電子部品と、前記電子部品を封止する封止材とを備える電子装置であって、
前記封止材が、上記の封止用樹脂組成物の硬化物で構成される、電子装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、封止用樹脂組成物の硬化物の誘電正接を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】電子装置の構造の一例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に
図2以降において、
図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。
【0014】
本明細書中、「略」という用語は、特に明示的な説明の無い限りは、製造上の公差や組立て上のばらつき等を考慮した範囲を含むことを表す。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0015】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
本明細書における「電子装置」の語は、半導体チップ、半導体素子、プリント配線基板、電気回路ディスプレイ装置、情報通信端末、発光ダイオード、物理電池、化学電池など、電子工学の技術が適用された素子、デバイス、最終製品等を包含する意味で用いられる。
【0016】
<封止用樹脂組成物>
本実施形態の封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、着色剤と、を含み、以下の条件を満たすものである。
条件:当該封止用樹脂組成物を用いて、175℃、2分で硬化させた硬化物の5GHz、23℃の誘電正接(Tanδ)が0.008未満である。
これにより、封止用樹脂組成物の硬化物の誘電正接をより高度に低減できる。
【0017】
ここで、本発明者の知見によれば、誘電正接は、封止用樹脂組成物に含まれる水酸基量が多くなると上昇する傾向があるため、封止用樹脂組成物中の水酸基の量を低減することが誘電正接の低減に有効である。また、従来カーボンブラックは、黒色の成形体を得るために封止用樹脂組成物に含まれるが、これにより導電性が発生し、低誘電正接を実現しにくくなる。そこで、本実施形態の封止用樹脂組成物においては、以下のような公知の方法の組み合わせにより、上記の条件を満たす封止用樹脂組成物を得ることができ、かかる条件を満たすことによって、低誘電正接を実現できると考えられる。本実施形態の封止用樹脂組成物は、特定の成分のみが寄与するのではなく、封止用樹脂組成物全体に対し、公知の方法を適切に組み合わせることにより得られる。
・封止用樹脂組成物のエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材および着色剤について、それぞれの特性に応じて適切に組み合わせる。
・封止用樹脂組成物のエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材および着色剤の含有量を組み合わせに応じて、調整する。
例えば、水酸基の量が少ないエポキシ樹脂や硬化剤を選択したり、表面に水酸基を有する無機充填材を選択した場合は事前に表面処理を行ったり、着色剤の種類に応じてその含有量を調整する等が挙げられる。だたし、かかる記載はあくまでも一例であり、本実施形態の封止用樹脂組成物は、これに限定されるものではない。
以下、各成分について詳細を説明する。
【0018】
[エポキシ樹脂]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含む。
エポキシ樹脂は、具体的には、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般でありうる。エポキシ樹脂の分子量や分子構造などは特に限定されない。
【0019】
本実施形態の封止用樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂としては、半導体封止用エポキシ封止用樹脂組成物に一般に使用されているものを使用できる。これらの例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を含むフェノール;クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類および/またはα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合または共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化することにより得られるエポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールA/D等のジグリシジルエーテル;アルキル置換または非置換のビフェノールのジグリシジルエーテルであるビフェニル型エポキシ樹脂;フェノール類および/またはナフトール類とジメトキシパラキシレンまたはビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂のエポキシ化物;スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンとフェノ-ル類の共縮合樹脂のエポキシ化物であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ナフタレン環を有するエポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂;ビフェノール型エポキシ樹脂;テルペン変性エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;脂環族エポキシ樹脂;およびこれらのエポキシ樹脂をシリコーン、アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン系ゴム、ポリアミド系樹脂等により変性したエポキシ樹脂などが挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、およびフェノールアラルキル樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、およびビフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0020】
封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂を一種のみ含んでもよいし、二種以上含んでもよい。
エポキシ樹脂の含有量は、成形時に好適な流動性を得て充填性や成形性の向上を図る観点から、封止用樹脂組成物全体に対して、例えば2質量%以上、好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上である。
別観点として、封止用樹脂組成物を用いて得られる封止材の絶縁特性向上の観点からエポキシ樹脂の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して、例えば40質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0021】
[硬化剤]
硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等のアミン化合物;ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等のアミド化合物;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミンやベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
高度な低誘電正接を実現する観点から、硬化剤の種類は、エポキシ樹脂の種類に応じて、選択されることが望ましい。
【0022】
硬化剤の含有量は、電子装置を封止する際の優れた流動性、充填性、成形性などの向上を図る観点から、組成物全体に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。
一方、電子装置の耐湿信頼性や耐リフロー性向上の観点から、硬化剤の含有量は、組成物全体に対して、好ましくは25質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0023】
なお、エポキシ樹脂と硬化剤の量については、当量比が適当な値となるようにすることが好ましい。当量比を適切に調整することで、低誘電正接を実現しやすくなり、より良好な成形性、封止材としたときの一層の信頼性向上などの効果が得られる傾向がある。
例えば、硬化剤がフェノール系硬化剤である場合、エポキシ樹脂と硬化剤との当量比、すなわち、エポキシ樹脂中のエポキシ基モル数/硬化剤中のフェノール性水酸基モル数の比は、例えば0.5~2、好ましくは0.6~1.8、より好ましくは0.8~1.5である。
硬化剤がアミン系硬化剤である場合は、アミノ基(-NH2)は2つの活性水素を有するため、エポキシ樹脂中のエポキシ基モル数/硬化剤中のアミノ基のモル数の比は、例えば1~4、好ましくは1.2~3.6、より好ましくは1.6~3である。
【0024】
[無機充填材]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、無機充填材を含む。無機充填材としては、一般的に電子装置封止用の封止用樹脂組成物に使用されているものを用いることができる。
【0025】
無機充填材として具体的には、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ、2次凝集シリカ等のシリカ(二酸化ケイ素);アルミナ;チタンホワイト;水酸化アルミニウム;タルク;クレー;マイカ;ガラス繊維等が挙げられる。これらの中でもシリカが好ましく、特に溶融球状シリカが好ましい。また、高度な低誘電正接を実現する観点から、表面処理が施されたものであってもよい。
【0026】
無機充填材の粒子形状は、略真球状であることが好ましい。
無機充填材のメジアン径は、特に限定されない。典型的には0.01~100μm、好ましくは0.05~50μm、より好ましくは0.5~30μmである。メジアン径が適当であることにより、成形時の流動性の一層の向上等を図ることができたり、電子装置の峡部に対する組成物の充填性を高めたりすることができる。
また、粒度分布において、0.01~10μmと、10~100μmの間にそれぞれピークを有するものでもよい。すなわち、異なる平均粒径の無機充填材を混合して用いてもよい。
【0027】
無機充填材の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
また、封止用樹脂組成物の成形時における流動性や充填性をより効果的に向上させる観点から、無機充填材の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
無機充填材の含有量を適切に調整することで、高度な低誘電正接を実現しつつ、封止材の低吸湿性や低熱膨張性の一層の向上、得られる電子装置の耐湿信頼性や耐リフロー性の一層の向上、成形時の流動性や充填性の一層の向上などの効果を得ることができる。
【0028】
[着色剤]
着色剤は、誘電正接を低減しつつ、最終的な封止材を所望の色味にするために用いられる。着色剤としては、オレンジ染料、黄色染料、黒色染料、カーボンブラックおよび酸化チタンなどが挙げられる。なかでも、誘電正接を低減しつつ、適度な黒色を得る観点から、黒色酸化チタンおよび黒色染料の少なくとも一方を含むことが好ましい。
上記の黒色酸化チタンとしては、TiOx(ただし、Xは1以上、2未満を示す)で表される化合物を含むことがより好ましい。
上記の黒色染料としては、アンスラキノン系染料、アジン系染料、アゾ系染料、ジスアゾ系染料およびクロム錯塩系染料からなる群より選択される一種または二種以上が挙げられる。これら染料は、分解温度が比較的高いために硬化時の変質や変色が抑えられる、電子材料として望ましくないハロゲン系不純物が少ないものを入手しやすい、等の点で好ましい。
【0029】
市場で入手可能な黒色染料(d1)としては、NUBIAN BLACK PC-5857(アンスラキノン系、オリエント化学工業社)、SEP-L-0040(アンスラキノン系、オリエント化学工業社)、NUBIAN BLACK PC-8550(アンスラキノン系およびアジン系の混合、オリエント化学工業社)、SOL-L-0693(アンスラキノン系およびアゾ系の混合、オリエント化学工業社)、VALIFAST BLACK 1821(アジン系、オリエント化学工業社)、OIL BLACK BS(アジン系、オリエント化学工業社)、ORIPACS B-35(アジン系、オリエント化学工業社)、OIL BLACK 860(ジスアゾ系、オリエント化学工業社)、OIL BLACK 803(アゾ系、オリエント化学工業社)、VALIFAST BLACK 3830(クロム錯塩、オリエント化学工業社)、VALIFAST BLACK 3877(クロム錯塩、オリエント化学工業社)等を挙げることができる。
ここで、「NUBIAN」、「ORIPACS」および「VARIFAST」は、オリエント化学工業社の登録商標である。
【0030】
着色剤の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して、0.01質量%以上、3.0質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上、2.0質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上、1.0質量%以下がさらに好ましい。
着色剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止体を所望の色味にしやすくなる。一方、着色剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、所望の色味を得つつ、低誘電正接を実現できる。
ただし、着色剤として、カーボンブラックを含む場合、誘電正接が高くなることを抑制するため、その含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して、0.1質量%未満が好ましく、実質的に含まないことがより好ましい。
【0031】
[活性エステル樹脂]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、さらに活性エステル樹脂を含んでもよい。活性エステル樹脂は、以下の式(1)で表される活性エステル基を有する。エポキシ樹脂と活性エステル樹脂との硬化反応において、活性エステル樹脂の活性エステル基はエポキシ樹脂のエポキシ基と反応して2級の水酸基を生じる。この2級の水酸基は、活性エステル樹脂のエステル残基により封鎖される。そのため、硬化物の誘電率と誘電正接が低減される。
【0032】
【0033】
(式(1)において、Aは、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、Ar'は、置換または非置換のアリール基であり、kは、繰り返し単位の平均値であり、0.25~3.5の範囲であり、Bは、以下の式(2)で表される構造である。)
【0034】
【0035】
(式(2)中、Arは、置換または非置換のアリーレン基であり、Yは、単結合、炭素原子数2~6の直鎖または環式のアルキレン基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、あるいはスルホン基である。)
【0036】
上記式(2)で表される構造は、以下の式(2-1)~式(2-6)から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0037】
【0038】
式(2-1)~(2-6)において、
R1はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、
R2はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基の何れかであり、Xは炭素原子数2~6の直鎖のアルキレン基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、スルホン基のいずれかであり、
n、pは1~4の整数である。
【0039】
上記式(2-1)~(2-6)で表される構造は、いずれも配向性が高い構造であることから、これを含む活性エステル樹脂を用いた場合、得られる封止用樹脂組成物の硬化物は、低誘電率および低誘電正接を有するとともに、金属に対する密着性に優れ、そのため半導体封止材料として好適に用いることができる。中でも、低誘電率および低誘電正接の観点から、式(2-3)または(2-5)で表される構造を有する活性エステル樹脂が好ましく、さらに式(2-3)のXがエーテル結合である構造、または式(2-5)において二つのカルボニルオキシ基が4,4'-位にある構造を有する活性エステル樹脂がより好ましい。また各式中のR1はすべて水素原子であることが好ましい。
【0040】
式(1)における「Ar'」はアリール基であり、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、3,5-キシリル基、o-ビフェニル基、m-ビフェニル基、p-ビフェニル基、2-ベンジルフェニル基、4-ベンジルフェニル基、4-(α-クミル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等であり得る。中でも、特に誘電率および誘電正接の低い硬化物が得られることから、1-ナフチル基または2-ナフチル基であることが好ましい。
【0041】
本実施形態において、式(1)で表される活性エステル樹脂における「A」は、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、このようなアリーレン基としては、例えば、1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状炭化水素化合物と、フェノール性化合物とを重付加反応させて得られる構造が挙げられる。
【0042】
前記1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状炭化水素化合物は、例えば、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエンの多量体、テトラヒドロインデン、4-ビニルシクロヘキセン、5-ビニル-2-ノルボルネン、リモネン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、耐熱性に優れる硬化物が得られることからジシクロペンタジエンが好ましい。尚、ジシクロペンタジエンは石油留分中に含まれることから、工業用ジシクロペンタジエンにはシクロペンタジエンの多量体や、他の脂肪族或いは芳香族性ジエン化合物等が不純物として含有されることがあるが、耐熱性、硬化性、成形性等の性能を考慮すると、ジシクロペンタジエンの純度90質量%以上の製品を用いることが望ましい
【0043】
一方、前記フェノール性化合物は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビニルフェノール、イソプロペニルフェノール、アリルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クロルフェノール、ブロムフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、1,4-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等が挙げられ、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、硬化性が高く硬化物における誘電特性に優れる活性エステル樹脂となることからフェノールが好ましい。
【0044】
好ましい実施形態において、式(1)で表される活性エステル樹脂における「A」は、以下の式(3)で表される構造を有する。式(1)における「A」が以下の構造である活性エステル樹脂を含む封止用樹脂組成物は、その硬化物が低誘電率、低誘電正接であり、インサート品に対する密着性に優れる。
【0045】
【0046】
式(3)において、R3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、lは0または1であり、mは1以上の整数である。
【0047】
式(1)で表される活性エステル樹脂のうち、特に好ましいものとして、下記式(1-1)および式(1-2)で表される樹脂が挙げられる。
【0048】
【0049】
(式(1-1)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、又は、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0又は1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。)。
【0050】
【0051】
(式(1-2)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、又は、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0又は1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。)。
【0052】
本発明で用いられる活性エステル樹脂は、脂肪族環状炭化水素基を介してフェノール性水酸基を有するアリール基が複数結節された構造を有するフェノール性化合物(a)と、芳香核含有ジカルボン酸又はそのハライド(b)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(c)とを反応させる、公知の方法により製造することができる。
【0053】
上記フェノール性化合物(a)と、芳香核含有ジカルボン酸又はそのハライド(b)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(c)との反応割合は、所望の分子設計に応じて適宜調整することができるが、中でも、より硬化性の高い活性エステル樹脂が得られることから、芳香核含有ジカルボン酸又はそのハライド(b)が有するカルボキシル基又は酸ハライド基の合計1モルに対し、前記フェノール性化合物(a)が有するフェノール性水酸基が0.25~0.90モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(c)が有するヒドロキシル基が0.10~0.75モルの範囲となる割合で各原料を用いることが好ましく、前記フェノール性化合物(a)が有するフェノール性水酸基が0.50~0.75モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(c)が有するヒドロキシル基が0.25~0.50モルの範囲となる割合で各原料を用いることがより好ましい。
【0054】
また、活性エステル樹脂の官能基当量は、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基およびフェノール性水酸基の合計を樹脂の官能基数とした場合、硬化性に優れ、誘電率及び誘電正接の低い硬化物が得られることから、200g/eq以上230g/eq以下の範囲であることが好ましく、210g/eq以上220g/eq以下の範囲であることがより好ましい。
【0055】
本実施形態の封止用樹脂組成物において、活性エステル樹脂を含む場合、活性エステル樹脂とエポキシ樹脂との配合量は、硬化性に優れ、誘電率及び誘電正接の低い硬化物が得られることから、活性エステル樹脂中の活性基の合計1当量に対して、エポキシ樹脂中のエポキシ基が0.8~1.2当量となる割合であることが好ましい。ここで、活性エステル樹脂中の活性基とは、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基及びフェノール性水酸基を指す。
【0056】
本実施形態の組成物において、活性エステル樹脂は、封止用樹脂組成物の固形分全体に対して、1質量%以上15質量%以下、好ましくは、3質量%以上10質量%以下の量で用いられる。
【0057】
[その他の成分]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、上記のいずれにも該当しないその他の成分を含んでもよい。その他の成分として具体的には、他の熱硬化性樹脂、硬化促進剤、カップリング剤、離型剤、イオン捕捉剤、難燃剤、酸化防止剤、および低応力剤等を挙げることができる。封止用樹脂組成物がその他の成分を含む場合は、一種のみを含んでもよいし、二種以上を含んでもよい。
【0058】
上記の他の熱硬化性樹脂としては、シアネートエステル化合物、ビニルベンジル化合物、アクリル化合物、マレイミド化合物、スチレンとマレイン酸無水物の共重合物などが挙げられる。中でも、得られる封止用樹脂組成物の流動性が良好であることから、アクリル化合物を用いることが好ましい。上記した他の熱硬化性樹脂を使用する場合、その使用量は本発明の効果を阻害しなければ特に制限をうけないが、封止用樹脂組成物の固形分全体に対して、1質量%以上50質量%の範囲であることが好ましい。
【0059】
上記の硬化促進剤としては、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等のアミジンまたは3級アミン、アミジンまたはアミンの4級塩、などの窒素原子含有化合物を挙げることができる。
これらの中でも、硬化性の向上の点からは、リン原子含有化合物が好ましい。また、成形性と硬化性のバランスを向上させる観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましい。
硬化促進剤を用いる場合、その量は、他の成分とのバランス等を考慮し、封止用樹脂組成物全体に対してに対して、下限は好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、上限は好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0060】
上記のカップリング剤としては、エポキシシラン、メルカプトシラン、フェニルアミノシラン等のアミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を挙げることができる。
これらの中でも、流動性等の観点から、エポキシシランまたはアミノシランを含むことがより好ましく、2級アミノシランを含むことがさらに好ましい。好ましいカップリング剤として具体的には、例えばフェニルアミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0061】
上記のカップリング剤を用いる場合、その含有量は、他の成分とのバランス等を考慮し、封止用樹脂組成物全体に対してに対して、下限は好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、上限は好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0062】
上記の離型剤としては、カルナバワックス等の天然ワックス、酸化ポリエチレンワックス、モンタン酸エステルワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類、パラフィン、等を挙げることができる。
離型剤を用いる場合、その含有量は、他の成分とのバランス等を考慮し、封止用樹脂組成物全体に対して、下限は好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、上限は好ましくは2.0質量%以下で、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0063】
上記のイオン捕捉剤としては、たとえば、ハイドロタルサイトを挙げることができる。
イオン捕捉剤を用いる場合、封止用樹脂組成物中のイオン捕捉剤の含有量は、電子装置の信頼性を向上させる観点から、封止用樹脂組成物全体に対して、下限は好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、上限は好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0064】
上記の難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、ホスファゼンなどを挙げることができる。
難燃剤を用いる場合、封止用樹脂組成物中の難燃剤の含有量は、難燃性の向上と他の性能とのバランスの点から、封止用樹脂組成物全体に対して、例えば0.1~20質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは3~10質量%である。
【0065】
上記の低応力剤としては、シリコーンオイル、シリコーンゴム、カルボキシル基末端ブタジエンアクリロニトリルゴム等を挙げることができる。
低応力剤を用いる場合、封止用樹脂組成物中の低応力剤の含有量は、他の性能とのバランスの点から、封止用樹脂組成物全体に対して、例えば0.1~5質量%、好ましくは0.15~3質量%、より好ましくは0.2~1質量%である。
【0066】
上記の酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、チオエーテル系化合物などを挙げることができる。
酸化防止剤を用いる場合、封止用樹脂組成物中の酸化防止剤の含有量は、他の性能とのバランスの点から、封止用樹脂組成物全体に対して、例えば0.1~5質量%、好ましくは0.15~3質量%、より好ましくは0.2~1質量%である。
【0067】
[封止用樹脂組成物の性状]
本実施形態の封止用樹脂組成物の形状は、特に限定されない。形状は、例えば粒子状、顆粒状、タブレット状またはシート状が挙げられる。
封止用樹脂組成物がタブレット状である場合は、例えばトランスファー成形法を用いて封止用樹脂組成物を成形することができる。封止用樹脂組成物が粉粒体である場合には、例えば、圧縮成形法を用いて封止用樹脂組成物を成形することができる。ここで、封止用樹脂組成物が粉粒体であるとは、粉末状または顆粒状のいずれかである場合を指す。
【0068】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、以下の手順により算出される熱伝導率が、2W/mK以上、50W/mK以下である。
手順:金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で封止用樹脂組成物の成形体(1.0×1.0mm、厚さ1.0mm)を作製し、175℃、2時間で後硬化し、試験片を得る。得られた試験片を用いて、レーザーフラッシュ法で熱拡散率を測定し、さらに、比重および比熱を測定し、得られた各測定値から、当該試験片の厚さ方向の熱伝導率を算出する。
これにより、より安定的に誘電正接を低減できる。
【0069】
すなわち、所定の条件で測定され、算出された熱伝導率を0.1W/mK以上、20W/mK以下の範囲内に制御することによって、封止用樹脂組成物の用途に適した放熱性が得られる。当該熱伝導率は、好ましくは0.2W/mK以上、より好ましくは0.5W/mK以上である。一方、当該熱伝導率は、好ましくは15W/mK以下、より好ましくは8W/mK以下、さらに好ましくは2W/mK以下、ことさら好ましくは1W/mK以下である。
当該熱伝導率を、上記下限値以上とすることにより、上記下限値以上とすることにより、低誘電正接を保持しつつ、放熱性が良好になる。一方、当該熱伝導率を、上記上限値以下とすることにより、生産安定性が良好になる。
【0070】
本実施形態において、当該熱伝導率は、材料の選択、または製法上の工夫を施すことにより、実現することができる。例えば、エポキシ樹脂の種類に応じて硬化剤を選択したり、無機充填材の種類の選択、含有量の調整、無機充填材として平均粒子径が互いに異なる2種以上の粒子を用いること、または、封止樹脂組成物の製造時の混練条件を制御することなどが挙げられる。ただし、本実施形態の封止樹脂組成物は、かかる材料や製造方法に限定されるものではない。
【0071】
[硬化物]
また、本実施形態の封止用樹脂組成物の硬化物(成形温度175℃、硬化時間100秒、成形圧力8MPa)は、L*a*b*色座標において、L*の値が、24~30であり、a*の値が、-2.0~-0.1であり、b*の値が、-5.0~-2.5であることが好ましい。
硬化物のL*、a*およびb*が上記数値範囲となるように封止用樹脂組成物を設計することで、カーボンブラックを含む従来の封止用樹脂組成物と同程度の色味(黒色性)を得つつも、誘電特性を低減できる。
L*、a*およびb*の数値は、公知の方法によって制御でき、着色剤の種類を選択したり、含有量を調整することによって、制御できる。
【0072】
ここで、L*、a*およびb*の値は、国際照明委員(CIE)の1976年の定義下での値である。L*、a*およびb*は、市販の測色計を用いることで測定することができる。
【0073】
[封止用樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の封止用樹脂組成物の製造方法は特に限定されない。
例えば、上述の各成分を、公知の手段で混合し、さらにロール、ニーダーまたは押出機等の混練機で溶融混練し、冷却し、その後に粉砕する方法により得ることができる。
必要に応じて、粉砕後にタブレット状に打錠成形してもよい。
必要に応じて、粉砕後に例えば真空ラミネート成形または圧縮成形によりシート状にしてもよい。あるいは、本実施形態の封止用樹脂組成物は、有機溶剤に溶かして液状の封止材料として使用することができる。この場合、液状封止用樹脂組成物を板またはフィルム上に薄く塗布し、樹脂の硬化反応が余り進まないような条件で有機溶剤を飛散させることによって得られるシートあるいはフィルム状の材料として使用することもできる。
必要に応じて、得られた封止用樹脂組成物の分散度や流動性等を調整してもよい。
【0074】
<半導体装置>
次に、本実施形態の半導体装置について説明する。本実施形態の半導体装置は、電子部品と、前記電子部品を封止する封止材とを備え、当該封止材が、上述の封止用樹脂組成物の硬化物で構成されている。すなわち、半導体装置は、上述の封止用樹脂組成物により半導体素子を封止することにより得られる。
このような半導体装置としては、銅リードフレームの支持部材に、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子等の素子を搭載し、必要な部分を本発明の半導体封止用エポキシ封止用樹脂組成物で封止した、半導体装置などが挙げられる。また、このような半導体装置としては、例えば、銅リードフレーム上に半導体素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部をワイヤーボンディングやバンプで接続した後、本発明の半導体封止用エポキシ封止用樹脂組成物を用いてトランスファー成形などにより封止してなる、DIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outlaine J-lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Package)等の一般的な樹脂封止型ICが挙げられる。また、MCP(Multi Chip Stacked Package)等の半導体チップが多段に積層された半導体パッケージも挙げられる。
【0075】
図1は、本発明に係る封止用樹脂組成物を用いた半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。
図1において、ダイパッド3上に、ダイボンド材硬化体2を介して半導体素子1が2段に積層されて固定されている。半導体素子1の電極パッドとリードフレーム5との間は金線4によって接続されている。半導体素子1は、上述の封止用樹脂組成物の硬化体からなる封止材6によって封止されている。半導体素子1は、誘電特性に優れ、インサート品に対して優れた密着性を有する上述の封止用樹脂組成物の硬化物により封止されているため、信頼性に優れた半導体装置を得ることができる。
【0076】
本発明の封止用樹脂組成物を用いて素子を封止する方法としては、低圧トランスファー成形法が最も一般的であるが、インジェクション成形法、圧縮成形法等を用いてもよい。封止用樹脂組成物が常温で液状またはペースト状の場合は、ディスペンス方式、注型方式、印刷方式等が挙げられる。
【0077】
また、素子を直接樹脂封止する一般的な封止方法ばかりではなく、素子に直接封止用樹脂組成物が接触しない形態である中空パッケージの方式もあり、中空パッケージ用の封止用樹脂組成物としても好適に使用できる。
【0078】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、
着色剤と、
を含み、以下の条件を満たす、封止用樹脂組成物。
条件:当該封止用樹脂組成物を用いて、175℃、2分で硬化させた硬化物の5GHz、23℃の誘電正接が0.008未満である。
2. 前記着色剤の含有量を、前記封止用樹脂組成物全体に対して、0.01質量%以上、3.0質量%以下とする、1.に記載の封止用樹脂組成物。
3. 前記着色剤が、黒色酸化チタンおよび黒色染料の少なくとも一方を含む、1.または2.に記載の封止用樹脂組成物。
4. 前記黒色酸化チタンは、TiOx(ただし、Xは1以上、2未満を示す)で表される化合物を含む、3.に記載の封止用樹脂組成物。
5. 前記黒色染料は、アンスラキノン系染料、アジン系染料、アゾ系染料、ジスアゾ系染料およびクロム錯塩系染料からなる群より選択される一種または二種以上を含む、3.または4.に封止用樹脂組成物。
6. 以下の手順により算出される熱伝導率が、0.1W/mK以上、20W/mK以下である、1.乃至5.いずれか一つに記載の封止用樹脂組成物。
手順:金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で当該封止用樹脂組成物の成形体(1.0×1.0mm、厚さ1.0mm)を作製し、175℃、2時間で後硬化し、試験片を得る。得られた試験片を用いて、レーザーフラッシュ法で熱拡散率を測定し、さらに、比重および比熱を測定し、得られた各測定値から、当該試験片の厚さ方向の熱伝導率を算出する。
7. 当該封止用樹脂組成物の硬化物のL
*
a
*
b
*
色座標において、
明度L
*
の値が、24~30であり、
a
*
の値が、-2.0~-0.1であり、
b
*
の値が、-5.0~-2.5である、1.乃至6.いずれか一つに記載の封止用樹脂組成物。
8. 活性エステル樹脂をさらに含む、1.乃至7.いずれか一つに記載の封止用樹脂組成物。
9. 粒子状、顆粒状、タブレット状またはシート状である、1.乃至8.いずれか一つに記載の封止用樹脂組成物。
10. 電子部品と、前記電子部品を封止する封止材とを備える電子装置であって、
前記封止材が、1.乃至9.いずれか一つに記載の封止用樹脂組成物の硬化物で構成される、電子装置。
【実施例】
【0079】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0080】
<封止用樹脂組成物の調製>
以下のようにして、実施例、比較例および参考例の封止用樹脂組成物を調製した。
まず、後掲の表1、2に記載の各成分を、ミキサーを用いて混合した。次いで、得られた混合物を、ロール混練し、その後冷却し、さらに粉砕した。これにより、粉粒体である封止用樹脂組成物を得た。
【0081】
用いた各成分の詳細は下記のとおりである。
【0082】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂1:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂「NC3000」日本化薬社製
エポキシ樹脂2:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂「NC3000L」日本化薬社製
エポキシ樹脂3:オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂「EOCN-1020-55」Chang Chun Plastics社製
エポキシ樹脂4:トリスヒドロキシフェニルメタン型+ビフェノール型エポキシ樹脂「YL6677」三菱化学社製
【0083】
(硬化剤)
硬化剤1:ビフェニルアラルキル型硬化剤「MEH-7851SS」明和化成社製
硬化剤2:エステル型硬化剤「EXB-8」DIC社製
硬化剤3:フェノール・P-キシレングリコールジメチルエーテル重縮合物、エア・ウォーター社製
硬化剤4:フェノールヒドロキシベンズアルデヒド型硬化剤「MEH-7500」明和化成社製
【0084】
(無機充填材)
無機充填材1:二酸化ケイ素「SC-2500-SQ」アドマ社製、平均粒径0.5μm
無機充填材2:二酸化ケイ素「TS-6021」マイクロン社製、平均粒径10μm
無機充填材3:二酸化ケイ素「レオロシ-ルCP102」トクヤマ社製、平均粒径<1μm
無機充填材4:二酸化ケイ素、東海ミネラル社製、平均粒径25μm
無機充填材5:二酸化ケイ素、「SC-2500-SQ」アドマ社製、粒径0.5μm
【0085】
(着色剤)
着色剤1:黒色酸化チタン、赤穂化成社製、平均粒径0.5μm
着色剤2:カーボンブラック、東海カーボン社製
【0086】
(カップリング剤)
カップリング剤1:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン「CF-4083」東レダウコーニング社製
カップリング剤2:γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン「KE-6137」九州住友ベークライト社製
【0087】
(その他調整成分)
離型剤1:低分子量エチレン、三洋化成社製、粘度(140℃)3500~5100mPa・s
離型剤2:グリセリントリモンタン酸エステル「リコルブ WE-4」クラリアントジャパン社製
離型剤3:酸化ポリエチレン「リコワックス PED191」クラリアントジャパン社製
イオン捕捉剤1:マグネシウム・アルミニウム系化合物、東亜合成社製
イオン捕捉剤2:マグネシウム・アルミニウム系化合物「DHT-4H」協和化学社製
触媒1:4-ヒドロキシ-2-(トリフェニルホスホニウム)フェノラート、ケイ・アイ化成社製
触媒2:2,3-ヒドロキシナフタレン、エア・ウォーター社製
難燃剤1:水酸化アルミニウム「CL-303」住友化学社製
添加剤1:フェノール・ビフェニレン樹脂と4,4-スルフォニルジフェノラートの混合物「MC11AC」九州住友ベークライト社製
添加剤2:フェノール・ビフェニレン樹脂と4,4-スルフォニルジフェノラートの混合物「MC70E」九州住友ベークライト社製
添加剤3:シリコーン「特許第5157473号公報の段落0068に記載される溶融反応物A」九州住友ベークライト社製
低応力剤1:カルボキシル基末端ブタジエン・アクリロニトリル共重合体「CTBN1008SP」ピイ・ティ・アイ・ジャパン社製
低応力剤2:エポキシ化ポリブタジエン、日本曹達社製
【0088】
得られた封止用樹脂組成物を用いて、以下の評価・測定を行った。結果を表1,2に示す。
【0089】
<誘電特性の測定>
得られた樹脂組成物を、金型温度175℃、注入圧力10MPa、硬化時間2分間で成型し、100×3.8×0.8mmの硬化物作製した。得られた硬化物について、JIS-C-6481に準拠し、株式会社エーイーティ製「ASMS01Oc1」により、絶乾後23℃、湿度50%の室内に24時間保管した後に試験片の5GHz、23℃での誘電率(Dk)および誘電正接(Df)を測定した。
【0090】
<色味の評価>
各組成物を、圧縮成形法により、成形温度175℃、硬化時間100秒、成形圧力8MPaの条件で硬化させて、短冊形状の硬化物を得た。
硬化物の表面のL*値、a*値およびb*を、カラーリーダーCR-13(コニカミノルタセンシング社製)を用いて測定した。
【0091】
<熱伝導率の評価>
得られた封止樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)に対し、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒間で注入成形し、幅10mm、厚み1mm、長さ10mmの成形体を得た。次いで、得られた成形体を175℃、2時間で後硬化し、試験片を得た。得られた試験片について、レーザーフラッシュ法(NETZSCH製のキセノンフラッシュアナライザーLFA447)を用いて熱拡散率を測定した。また、アルファーミラージュ株式会社製の電子比重計SD-200Lを用いて、熱伝導率測定に用いた試験片の比重を測定し、更に、株式会社リガク製の示差走査熱量計DSC8230を用いて、熱伝導率及び比重測定に用いた試験片の比熱を測定した。測定した熱拡散率、比重及び比熱の各測定値から、当該試験片の厚さ方向の熱伝導率を算出した。
【0092】
封止用樹脂組成物の組成と、評価結果を、まとめて表1に示す。
【0093】
【0094】
【符号の説明】
【0095】
1 半導体素子
2 ダイボンド材硬化体
3 ダイパッド
4 金線
5 リードフレーム
6 封止材(封止用樹脂組成物の硬化体)