(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】熱化学電池電極用導電性組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 14/00 20060101AFI20240820BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
H01M14/00 Z
H02N11/00 A
(21)【出願番号】P 2020066347
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩田 貫
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-251809(JP,A)
【文献】特開平09-259944(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109616678(CN,A)
【文献】国際公開第2017/155046(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079325(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 14/00
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮合多環六角網面を有する材料(A)とバインダー樹脂(B)を含んでなる熱化学電池電極用導電性組成物であって、縮合多環六角網面の構成元素として炭素元素およびヘテロ元素を含んでなり、構成元素の主成分が炭素元素であ
り、ヘテロ元素として窒素元素を含んでなる熱化学電池電極用導電性組成物。
【請求項2】
X線光電子分光法(XPS)によって測定された、縮合多環六角網面を有する材料(A)表面の全原子に対する窒素原子のモル比をNとし、縮合多環六角網面を有する材料(A)表面の全窒素原子量に対する、N1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合をそれぞれ、N
1、N
2としたとき、式:N×(N
1+N
2)で求められる表面末端窒素原子の割合が0.5~25%である請求項
1記載の熱化学電池電極用導電性組成物。
【請求項3】
さらに、構成元素として卑金属元素を含んでなる、請求項1
または2記載の熱化学電池電極用導電性組成物。
【請求項4】
卑金属元素が、Coおよび/またはFeを含んでなる請求項
3記載の熱化学電池電極用導電性組成物。
【請求項5】
全構成原子に対する、炭素原子のモル比および窒素原子のモル比をそれぞれ、R
CおよびR
Nとしたとき、R
Cに対するR
Nの割合が1~40%である請求項
1~4いずれか記載の熱化学電池電極用導電性組成物。
【請求項6】
全構成原子に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、R
C、R
NおよびR
Mとしたとき、R
Cに対するR
Nの割合が1~40%であり、R
Cに対するR
Mの割合が0.01~20%である請求項
3~5いずれか記載の熱化学電池電極用導電性組成物。
【請求項7】
縮合多環六角網面を有する材料(A)の窒素を吸着種としたBET比表面積(BET
N2)が、50~1200m
2/gである請求項1~
6いずれか記載の熱化学電池電極用導電性組成物。
【請求項8】
縮合多環六角網面を有する材料(A)のCuKα線を用いて得られるX線回折図において、回折角(2θ)が24~27°の範囲内にピークを有し、該ピークの半値幅が8°以下である請求項1~
7いずれか記載の熱化学電池電極用導電性組成物。
【請求項9】
さらに、溶剤を含んでなる請求項1~
8いずれか記載の熱化学電池電極用導電性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱化学電池は、熱源のある所において熱エネルギーによる化学反応(酸化還元反応など)を利用して発電したり(非特許文献1)、熱エネルギーによる化学反応を利用して発電(充電)した後に、熱源がない場所で電池として使用できる(非特許文献2)。
前者は、半永久的に連続で発電することが可能であり、後者も熱源(高温)と熱源のない場所(低温)とに繰り返して配置・保持することで繰り返し使用することが可能である。熱化学電池は、基本的に正極と負極あるいは陽極と陰極の両電極とその間に存在する電解質とからなり、主に二つの動作形態がある。一つ目は、両電極間に温度差がある場合に、化学反応の速度差により電解質中にキャリア濃度差が生じ、電位差が発生する形態である(1セルタイプと呼ばれる)。
後者は、電解質を分離材で仕切り、両電極を含めた全体を熱により温めた場合に、分離材の左右の化学反応の違いにより発電(充電)し、低温の場所では逆反応を起こし電位差が発生する形態である(これを2セルタイプと呼ぶ)。いずれの場合も、電解質に接する電極界面でイオンと電子との反応が必要であり、電極が必要となる。
従来の熱化学電池の電極としては、金属、特に触媒活性の大きい白金など貴金属を使用したもの(非特許文献3)や、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)―ポリ(スチレンスルホン酸) (以下、PEDOT/PSSと略記することがある)などの導電性高分子を使用したもの(特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】“Seebeck coefficients in ionic Liquids prospects for thermo-electrochemical cell", T.J.Abraham, et al., Chem. Commun., 47, (2011) pp.6260-6262.
【文献】“Charging-free electrochemical system for harvesting Low-grade thermal energy", Y.ang, et al. , PNAS, 111(48), (2014), pp.17011-17016.
【文献】“Review of Thermally Regenerative Electrochemical Systems”, H.L.Chum and R.A.Osteryoung, Synopsis and Summary, vol.1, Solar Energy Research Institute, (1980) pp.1-53.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
背景技術に記載した材料を使用した場合、白金などの貴金属は加工性が課題であり、また、PEDOT/PSSなどの導電性高分子は、耐久性、腐食性に課題がある。そこで、本発明が解決しようとする課題は、熱化学電池の低コスト化、高出力化、高耐久性に繋がる、導電性に優れた熱化学電池電極用導電性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、縮合多環六角網面を有する材料(A)とバインダー樹脂(B)を含んでなる熱化学電池電極用導電性組成物であって、縮合多環六角網面の構成元素として炭素元素およびヘテロ元素を含んでなり、構成元素の主成分が炭素元素である熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【0007】
また、本発明は、ヘテロ元素として窒素元素を含んでなる上記熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、X線光電子分光法(XPS)によって測定された、縮合多環六角網面を有する材料(A)表面の全原子に対する窒素原子のモル比をNとし、縮合多環六角網面を有する材料(A)表面の全窒素原子量に対する、N1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合をそれぞれ、N1、N2 としたとき、式:N×(N1+N2)で求められる表面末端窒素原子の割合が0.5~25%である上記熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、さらに、構成元素として卑金属元素を含んでなる上記熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、卑金属元素が、Coおよび/またはFeを含んでなる上記熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、全構成原子に対する、炭素原子のモル比および窒素原子のモル比をそれぞれ、RCおよびRNとしたとき、RCに対するRNの割合が1~40%である上記熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、全構成原子に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、RC、RNおよびRMとしたとき、RCに対するRNの割合が1~40%であり、RCに対するRMの割合が0.01~20%である上記熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、縮合多環六角網面を有する材料(A)の窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、50~1200m2/gである上記熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、縮合多環六角網面を有する材料(A)のCuKα線を用いて得られるX線回折図において、回折角(2θ)が24~27°の範囲内にピークを有し、該ピークの半値幅が8°以下である上記熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【0015】
また、本発明は、さらに、溶剤を含んでなる上記熱化学電池電極用導電性組成物に関する。
【発明の効果】
【0016】
熱化学電池電極用導電性組成物中の炭素材料をヘテロ元素がドープされた炭素材料とすることで、酸化還元反応の活性点を増やし、熱化学電池の加工性の向上、高出力化、高耐久性に繋がる、導電性に優れたに優れた熱化学電池電極用導電性組成物を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、詳細に本発明について説明する。尚、本明細書では、「縮合多環六角網面を有する材料(A)」を、単に「材料(A)」ということがある。又、「熱化学電池電極用導電性組成物」を、単に「導電性組成物」ということがある。又、「樹脂」を「重合体」ということがある。
【0018】
<縮合多環六角網面を有する材料(A)>
縮合多環六角網面を有する材料(A)とは、六角網面を構成する原子同士が共有結合している材料を指す。六角網面を構成する元素(構成元素)は、炭素元素が主成分であり、その他ヘテロ元素(N、B、P等)を含む。また、構成元素として、卑金属元素を含んでいても良い。ここでいう卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、Au) を除く金属元素であり、卑金属元素としては、Co、Fe、Ni、Mn、Cu、Ti、Vo、Cr、ZnおよびSnからなる群より選ばれる一種以上を含有することが好ましく、Coおよび/またはFeを含有することがより好ましい。
【0019】
本発明における材料(A)は、比表面積が大きく、電子伝導性が高いほど好ましい。酸化還元反応は電極の表面で起こるため、比表面積が大きいほど、電解質イオンとプロトン、電子との反応場が多くなり、電池出力の向上に繋がるため好ましい。また、導電性が高いほど、電極中における酸化還元反応に必要な電子を上記反応場に供給できるため、電流の増加に繋がりやすく、好ましい。また、材料表面のヘテロ原子、特に窒素量が多いほど表面の活性点の数が多くなりやすいため好ましく、更にNが後述のN1型窒素原子を主とした末端窒素であるとより好ましい。
【0020】
本発明における材料(A)は、全構成原子に対する、炭素原子のモル比および窒素原子のモル比をそれぞれ、RCおよびRNとしたとき、RCに対するRNの割合が1~40%であることが好ましい。
【0021】
本発明における材料(A)は、全構成原子に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、RC、RNおよびRMとしたとき、RCに対するRNの割合が1~40%であり、RCに対するRMの割合が0.01~20%であることが好ましい。
【0022】
炭素原子に対する窒素原子や卑金属原子の元素比が上記範囲にあると、活性点形成段階において、卑金属金属元素が炭素の結晶化促進、細孔の発達、エッジの生成等の熱化学電池用電極として効果的に作用することで活性点の数や質を向上させることが期待できる。
【0023】
また、X線光電子分光法(XPS)によって測定された、材料(A)表面の全原子に対する窒素原子のモル比をNとし、材料(A)表面の全窒素原子量に対する、N1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合をそれぞれ、N1、N2 としたとき、式:N×(N1+N2)で求められる表面末端窒素原子の割合が0.5~25%であることが好ましい。より好ましくは1~18%である。
【0024】
例えば、材料(A)表面の全元素に対する窒素原子のモル比N が0.1、材料(A)表面の全窒素量に対する、XPSのN1sスペクトルのピーク分離により求めたN1型窒素原子量の割合N1が30%、N2型窒素原子量の割合N2が20% である材料(A)の場合は、下記計算式により表面末端窒素割合は5%となる。
{N×(N1+N2)}=0.1×(30%+20%)=5%
【0025】
下記構造式に示すように、材料(A)中のヘテロ原子として窒素原子である場合、その窒素原子は、様々な状態で炭素六角網面中の炭素元素を置換するように存在する。本発明において、N1型窒素原子とは、N1s電子の結合エネルギーが398.5±0.5eVであり、ピリジン類似の構造を有している。N2型窒素原子とは、N1s電子の結合エネルギーが400±0.5eVであり、ピロール類似の構造を有している。これらはそれぞれピリジンN、ピロールNと呼ばれ、本発明ではこれらを合わせ末端窒素と呼称する。これらのピークが重なっている場合には、各ピーク成分をガウス関数としてピーク強度、ピーク位置、ピーク半値全幅をパラメーターとして最適化することにより、フィッティングを行ってピークを分離する。ここで、ピリドン類似の構造をしているものはピークの分離が困難なため、便宜上、末端窒素に含まれていてよいものとする。上記以外の窒素原子は、N3型窒素原子(主に炭素環の内部に存在する、3つの炭素原子と結合している4級のもの)、N4型窒素原子(酸化された状態で、酸素のような異種元素が結合しているもの)に分類される。
【0026】
【0027】
上記末端窒素は、非共有電子対を有しており、末端窒素は周囲の炭素の電子状態に影響を及ぼし、隣接する炭素原子が活性サイトとして働くことに加え、卑金属に窒素原子が配位する卑金属-N4構造形成に有利に働くことが報告されている。そのため、活性の高い触媒表面には末端窒素が多く存在していると考えられ、表面末端窒素割合は、表面に存在
する末端窒素の量を表す指標となる。
【0028】
本発明における材料(A)は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2) が、50~1200m2/gであることが好ましい。BETN2が上記の範囲にあると、反応が起こる反応場を多くできるため好ましい。より好ましくは100~1000m2/g である。
【0029】
本発明における比表面積とは試料単位質量当たりの表面積のことであり、ガス(N2又
はH2O) 吸着法によって求めることができる。解析法はBET法を用い、相対圧(P(吸着平衡圧)/P0(飽和蒸気圧)=0.05~0.3)とガス吸着量のプロットより得られる直線の切片と勾配から、単分子吸着量を求めることで、BET比表面積を算出できる。
【0030】
本発明における材料(A)は、CuKα線をX 線源として得られるX 線回折(XRD) 図において、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が8°以下であることが好ましい。
【0031】
CuKα線を用いて得られるのX 線回折図において、24~27°の範囲内に炭素の(002) 面に由来する回折ピークを有することが好ましい。炭素の(002)面に由来する回折ピークは、六角網面の面間距離によって上記範囲内でピークの位置が変化するが、ピーク位置が高角側であるほど六角網面の距離が近いことを示し、構造規則性が高いことを意味する。また、上記ピークの形状がシャープであるほど、ピークの半値幅が小さくなるが、結晶子サイズが大きく、結晶構造が発達していることを示す。
【0032】
上記ピークの半値幅が小さいものほど、結晶性が高く、電気伝導性が高くなる。電気伝導性が高いもの程、電極中における酸素還元反応に必要な電子を上記反応場に供給することができるため、電流の増加に繋がり、好ましい。半値幅は、8°以下であることが好ましく、1°以下であることがより好ましい。
【0033】
材料(A)の含有率は、導電性組成物の固形分100質量%中、40~99質量%であることが好ましく、60~96質量%であることがより好ましく、70~92質量%であることがさらに好ましく、75~85質量%であることが特に好ましい。材料(A)の含有率が40~99質量%の場合では、導電性組成物により形成される電極の導電ネットワーク形成が良好な状態で、高い密着性による高耐久性を発現することができる。
【0034】
<バインダー樹脂(B)>
まず、バインダー樹脂(B)について説明する。
バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ブタジエン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂及びシリコン樹脂等からなる群から選ばれる1種以上を含むことができる。特に、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。ただし、これらの樹脂に限定されるわけではない。バインダー樹脂は1種単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
バインダー樹脂は、バインダー樹脂が基材に担持された後に、硬化(架橋)反応を受ける、硬化性樹脂とすることもできる。
つまり、バインダー樹脂は、自己硬化性のものを選択したり後述する硬化剤と組み合わせたりして、導電性組成物を基材上に印刷したり塗工したりした後、硬化(架橋)させることもできる。
【0035】
バインダー樹脂としては、体積抵抗率と基材への密着性および耐久性の観点からポリウレタン樹脂が好ましい。導電性組成物を基材上に印刷したり塗工したりした後、(熱)プレスする際、樹脂分が軟化し、印刷・塗工時の導電回路の平面的なパターン形状をほぼ維持しつつ、厚み方向に流動すると、空隙を減らし材料(A)同士の接触が増すので、得られる導電回路の体積抵抗率の低下が期待できる。従って、バインダー樹脂としては、(熱)プレスの際、適度に軟化・流動するものが好ましい。
【0036】
バインダー樹脂の重量平均分子量は、塗工性や取扱い性の観点から、1000~200000の範囲が好ましい。また、密着の観点から、ガラス転移温度が-40℃~200℃であることが好ましい。また、膜の耐久性の観点から、硬化時に架橋点として作用する酸価、または水酸基価は、何れか高い値の方が5.0mgKOH/g以上が好ましく、更には5.0mgKOH/g以上50mgKOH/gが好ましい。
【0037】
<ポリウレタン樹脂>
ポリウレンタン樹脂の合成方法としては、特に限定はされないが、例えば、ポリオール化合物(a)とジイソシアネート(b)とを反応させて得られるものなどが挙げられる。
【0038】
ポリオール化合物(a) としては、一般にポリウレタン樹脂を構成するポリオール成分として知られている、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、その他低分子ジオール類等が使用できる。
【0039】
ポリエーテルポリオール類としては、酸化エチレン、酸化プロピレン、テトラヒドロフランなどの重合体または共重合体などが挙げられる。
ポリエステルポリオール類としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4-ブチレンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ダイマージオール等の飽和およびまたは不飽和の炭化水素ジオールに代表される低分子ジオール類と、n-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル類のアルキルグリシジルエーテル類、バーサティック酸グリシジルエステル等のモノカルボン酸グリシジルエステル類と、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のジカルボン酸類、またはこれらの無水物類とを、脱水縮合して得られるポリエステルポリオール類や、環状エステル化合物を開環重合して得られるポリエステルポリオール類が挙げられる。
【0040】
ポリカーボネートポリオール類としては、1)ジオールまたはビスフェノールと炭酸エステルとの反応生成物、2)ジオールまたはビスフェノールにアルカリの存在下でホスゲンとの反応生成物等が挙げられる。炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。また、ジオールとしては、上記低分子ジオール類等が挙げられる。また、ビスフェノールとしては、ビスフェノールAやビスフェノールF、ビスフェノール類にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させたビスフェノール類等が挙げられる。
【0041】
上記ポリオール化合物の数平均分子量(Mn)は、導電性組成物を製造する際のポリウレタン樹脂の溶解性、形成される導電回路の耐久性や基材に対する接着強度等を考慮して適宜決定されるが、通常は580~8000の範囲が好ましく、さらに好ましくは1000~5000である。
上記ポリオール化合物は、単独で用いても、2種類以上併用してもよい。
【0042】
ジイソシアネート化合物(b)としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族イソシアネート、またはこれらの混合物が挙げられる。芳香族ジイソシアネートとしては、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4′-ベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0043】
脂肪族ジイソシアネートとしては、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環族ジイソシアネートとしては、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアナートメチル、ビス(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0044】
<ポリアミド樹脂>
バインダー樹脂としては、体積抵抗率と基材への密着性および耐久性の観点からポリアミド樹脂が好ましい。体積抵抗率は、(熱)プレス中の樹脂分が流動しやすいため良好な結果となる。
本発明に用いられるポリアミド樹脂とは、基本的に二塩基酸とジアミンの重縮合、アミノカルボン酸の重縮合、或いはラクタムの開環重合などの各種反応で得られるアミド結合を有する高分子の総称であり、各種の変性ポリアミドをはじめ、一部水素添加された反応物で製造されたもの、他のモノマーが一部共重合された製造物、或いは各種添加剤などの他の物質が混合されたものなどを含む広い概念である。
【0045】
本発明に用いられるポリアミド樹脂は上記のような条件が満たされれば特に限定されないが、ダイマー酸を主成分とする二塩基酸とポリアミン類とを縮合重合させて得られるダイマー酸変性ポリアミド樹脂が好ましい。ダイマー酸変性ポリアミド樹脂を製造する際のダイマー酸としては、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸などに含まれる天然の一塩基性不飽和脂肪酸を重合したダイマー酸が工業的に広く用いられる。当該ダイマー酸の市販品としては、ハリダイマー200、300(ハリマ化成社製)、バーサダイム228、216、エンポール1018、1019、1061、1062(コグニス社製)などが挙げられる。さらに、水素添加されたダイマー酸も使用でき、水添ダイマー酸の市販品としてはプリポール1009(クローダジャパン株式会社製)、エンポール1008(コグニス社製)などが挙げられる。
【0046】
上記ダイマー酸以外に、二塩基酸として各種のジカルボン酸を用いることができる。ジカルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、(無水)コハク酸、(無水)マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ビメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,3-又は1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸などが用いられる。
【0047】
<ポリエステル樹脂>
バインダー樹脂としては、体積抵抗率と基材への密着性の観点からポリエステル樹脂が好ましい。体積抵抗率は、(熱)プレス中の樹脂分が流動しやすいため良好な結果となる。
ポリエステル樹脂は、単量体として多価カルボン酸と多価アルコールより構成される重合体である。ポリエステル樹脂は、公知のものが採用できる。 ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、3価以上のカルボン酸等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を選択し使用できる。一方、ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、脂肪族グリコール、エーテルグリコール類、3価以上のポリアルコール等が挙げることができ、これらの中から1種、又はそれ以上を選び使用できる。ポリエステル樹脂の市販品としてはバイロン(東洋紡株式会社製、「バイロン」は登録商標)、ポリエスター(日本合成化学工業株式会社製、「ポリエスター」は登録商標)、テスラック(日立化成ポリマー株式会社製、「テスラック」は登録商標)などが挙げられる。
【0048】
また、水性液状媒体を使用する場合、一般的に水性エマルションとも呼ばれるバインダー樹脂も使用できる。水性エマルションとは、バインダー樹脂が水中で溶解せずに、微粒子の状態で分散されているものである。
【0049】
使用するエマルションは特に限定されないが、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(SBR(スチレンブタジエンゴム)など) 、フッ素系エマルション(PVDF(ポリフッ化ビニリデン)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など)等が挙げられる。
【0050】
<熱化学電池電極用導電性組成物>
熱化学電池電極用導電性組成物は、材料(A)と、バインダー樹脂(B)とを含み、材料(A)の全表面がバインダー樹脂(B)で覆われることなく活性点が露出できているため、目的とする酸化還元反応に対して反応活性点が効果的に機能できる。
【0051】
また、熱化学電池電極用導電性組成物は、必要に応じて溶剤、または分散剤を含有する。材料(A)及び溶剤と、バインダー樹脂(B)、分散剤の割合は、特に限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。熱化学電池電極用導電性組成物の適正粘度は、熱化学電池電極用導電性組成物の塗工方法によるが、一般には、10mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
【0052】
<溶剤>
次に、溶剤について説明する。導電性組成物中の材料(A)と、バインダー樹脂(B)を均一に混合する場合、溶剤を適宜用いることが出来る。そのような溶剤としては、有機溶剤や水を挙げることが出来る。
有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類などの内から導電性組成物の組成に応じ適当なものが使用できる。また、溶剤は2種以上用いてもよい。
尚、スクリーン印刷などの導電性組成物に一定以上の粘性が要求される印刷塗工方式を採用する場合、有機溶剤の25℃で粘度は、30mPa・s~75000mPa・sが好ましい。上記範囲内であれば、高い導電性と塗工に適した分散性を両立することができる。
例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1、3-ブチレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノールが挙げられる。ここで示すところの高粘度溶剤は、二種以上用いて良いし、メチルエチルケトン、トルエン、イソプロピルアルコールのような25℃の時の粘度が30mPa・s未満の低粘度溶剤と併用して使用することも可能である。
【0053】
次に、その他の成分について説明する。本発明の熱化学電池電極用導電性組成物には、必要に応じて、本発明による効果を妨げない範囲で、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、ラジカル補足剤、充填剤、チクソトロピー付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、熱伝導性改良剤、可塑剤、ダレ防止剤、防汚剤、防腐剤、殺菌剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、増粘剤、顔料分散剤、シランカップリング剤等の各種の添加剤を添加してもよい。
【0054】
<分散機・混合機>
導電性組成物を得る際に用いることができる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルが、セラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0056】
<電極>
本発明の導電性組成物を用いて電極を製造する場合、導電性組成物を、使用用途に応じて紙、プラスチック等の基材の片面または両面上に、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、オフセット印刷、凸版印刷、インクジェット、キャスト法等の通常の印刷方式により印刷または自立膜を形成することができる。
【0057】
紙基材としては、コート紙、非コート紙、その他、合成紙、ポリエチレンコート紙、含浸紙、耐水加工紙、絶縁加工紙、伸縮加工紙等の各種加工紙が使用できる。また、プラスチック基材としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロハン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリスチレン、ビニルアルコール、エチレン- ビニルアルコール、ナイロン、ポリイミド、ポリカーボネート等のプラスチックからなる基材を使用することができる。また、金属基材としては、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔又はステンレス箔などの金属箔または合金箔が使用することができる。
【0058】
本発明の導電性組成物を用いて製造された電極の体積抵抗率は、5×10-2Ω・cm未満であることが好ましい。体積抵抗率は、5×10-2Ω・cm未満であることで、熱化学電池用電極として好適に利用することができる。なお、体積抵抗率が低いほど、熱化学電池内での内部抵抗を減らすことができるため好ましい。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、製造例、実施例および比較例における「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表し、Mwは重量平均分子量、Tgはガラス転移温度を意味する。
【0060】
実施例を説明する前に実施例で使用する材料(A)およびバインダー樹脂(B)の製造法について記載する。
【0061】
材料(A)は、以下の測定機器を使用し、表1 に示す元素モル比(N1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合) 、表面末端窒素割合、BET比表面積、X線回折角のピーク位置とピーク半値幅を求めた。また、炭素六角網面を構成する炭素原子と、炭素六角網面の炭素原子から置換された窒素原子の存在を確認した。
・表面末端窒素: X線分光分析(XPS) (島津/KRATOS社製AXIS-HS)
・BET比表面積の測定: 窒素吸着量測定(マイクロトラック・ベル社製BELSORP-mini)
・X線回折:全自動水平型多目的X線回折装置(リガク社製Smartlab)
・RC、RN、RM: C H N 元素分析(パーキンエルマー社製2400型CHN元素分析装置)、ICP発光分光分析(SPECTRO社製SPECTROARCOSFHS12)
【0062】
なお、バインダー樹脂(B)の評価は下記の通りに行った。
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
Mwの測定は東ソー株式会社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC-8020」を用いた。測定は、溶離液にテトラヒドロフラン(THF)、カラムに「LF-604」(昭和電工株式会社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続して用い、流量0.6ml/分、カラム温度40℃の条件で行い、重量平均分子量(Mw)の決定は、分子量既知のポリスチレン換算で行った。
【0063】
<酸価の測定>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持した。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定した。酸価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0064】
<水酸基価の測定>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解した。更にアセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mlとした溶液)を正確に5ml加え、約1時間攪拌した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間持続した。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定した。
水酸基価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。
水酸基価(mgKOH/g)=[{(b-a)×F×28.05}/S]+D
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
b:空実験の0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
D:酸価(mgKOH/g)
【0065】
<ガラス転移温度の測定方法>
メトラー・トレド(株)製「DSC-1」を使用し、-80~150℃まで2℃/分で昇温して測定した。
【0066】
< 縮合多環六角網面を有する材料(A)の製造>
[製造例1]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGsciences社製)と鉄フタロシアニンP-26(山陽色素社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、材料(A-1)を得た。
【0067】
[製造例2]
ケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とコバルトフタロシアニン( 東京化成社製) を、質量比1/0.5(ケッチェンブラック/コバルトフタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で2時間熱処理を行い、材料(A-2)を得た。
【0068】
[製造例3]
カーボンナノチューブVGCF-H(昭和電工社製)と鉄フタロシアニン(山陽色素社製) を、質量比1/0.5(カーボンナノチューブ/ 鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃ で2時間熱処理を行い、材料(A-3)を得た。を得た。
【0069】
[製造例4]
クノーベルMJ(4)150(東洋炭素社製)と鉄フタロシアニン(山陽色素社製)を
、質量比1/0.5(クノーベル/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃ で2時間熱処理を行い、材料(A-4)を得た。
【0070】
[製造例5]
フェノール樹脂(群栄化学社製 PSM―4326)と鉄フタロシアニンP-26(山陽色素社製)を質量比3.3:1で秤量し、アセトン中で湿式混合した。上記混合物を減圧留去した後、乳鉢で粉砕し、前駆体とした。上記前駆体粉末をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、600℃ で2時間熱処理を行い、炭素焼結体(1)を得た。上記炭素焼結体(1)を濃塩酸中でリスラリーし、静置させ、炭素焼結体(1) 沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄みの着色がなくなるまで、繰り返し行い、ろ過、水洗、乾燥した後、乳鉢で粉砕し、アルミナ製るつぼに充填、電気炉にてアンモニア雰囲気下、800℃ で1時間熱処理し、炭素焼結体(2)を得た。上記炭素焼結体(2)を濃塩酸中でリスラリーし、静置させ、炭素焼結体沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄みの着色がなくなるまで、繰り返し行った後、ろ過、水洗、乾燥し、乳鉢で粉砕し、材料(A-5)を得た。
【0071】
[製造例6]
ポリビニルピリジン(PVP、アルドリッチ社製) をジメチルホルムアミドに溶解させ、PVPに対して質量比2:1の塩化鉄六水和物を加え、室温で24時間攪拌し、ポリビニルピリジン鉄錯体を得た。上記ポリビニルピリジン鉄錯体を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、得られた炭化物を乳鉢にて粉砕し材料(A-6)を得た。
【0072】
[製造例7]
ポリビニルピリジン(PVP、アルドリッチ社製)をジメチルホルムアミドに溶解させ、PVPに対して質量比2:1の塩化鉄六水和物を加え、室温で24時間攪拌し、ポリビニルピリジン鉄錯体を得た。上記ポリビニルピリジンとケッチェンブラック(ライオン社製EC-600JD)を、質量比1:1で秤量し、乳鉢にて乾式混合を行い前駆体とした。上記前駆体粉末を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、得られた炭化物を乳鉢にて粉砕し材料(A-7)を得た。
【0073】
[製造例8]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGsciences社製)を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にてアンモニア窒素雰囲気下、1000℃で2時間熱処理を行い、材料(A-8)を得た。
【0074】
[製造例9]
ガラス瓶にイオン交換水90部と、塩化鉄(II)四水和物0.2部、銅フタロシアニン誘導体SOLSPERSE12000(日本ルーブリゾール社製)3.2部を秤量し均一な水溶液を作製後、グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGsciences社製)6.6部を加え、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェーカー(ミツワテック社製:スキャンデックスSK450)で分散し、前駆体混合ペーストを得た。この前駆体混合ペーストをロータリーエバポレータにて減圧留去し、得られた固形分を乳鉢で細かく粉砕し、均一な前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、材料(A-9)を得た。
【0075】
製造例1~9で得られた材料(A)の物性値を表1に示す。
【0076】
【0077】
<バインダー樹脂(B)の製造>
[製造例10]
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、テレフタル酸とアジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールとから得られるポリエステルポリオール((株)クラレ製「クラレポリオールP-2011」、Mn=2011)455.5部、ジメチロールブタン酸16.5部、イソホロンジイソシアネート105.2部、トルエン140部を仕込み、窒素雰囲気下90℃3時間反応させ、これにトルエン360部を加えてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液を得た。次に、イソホロンジアミン19.9部、ジ-n-ブチルアミン0.63部、2-プロパノール294.5部、トルエン335.5部を混合したものに、得られたイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液969.5部を添加し、50℃で3時間続いて70℃2時間反応させ、トルエン126部、2-プロパノール54部で希釈後、取り出し、真空乾燥することで、Mw=61,000、酸価=10mgKOH/g、ウレタンプレポリマーの両末端に有する遊離のイソシアネート基に対してポリアミノ化合物および反応停止剤中のアミノ基の合計当量は0.98である、ポリウレタン樹脂のバインダー樹脂(B-1)を得た。
【0078】
[製造例11]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、多塩基酸化合物としてプリポール1009を156.2g、5-ヒドロキシイソフタル酸を5.5g、ポリアミン化合物としてプリアミン1074を146.4g、イオン交換水を100g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で、1時間保持し、温度を低下させた。最後に、酸化防止剤を添加し、重量平均分子量24000、酸価13.2KOHmg/g、水酸基価5.5KOHmg/g、ガラス転移温度―32℃のポリアミド樹脂のバインダー樹脂(B-2)を得た。
【0079】
<熱化学電池電極用導電性組成物の作製>
[実施例1]
材料(A-1)9.6部、水性液状媒体として水49.2部、更に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液40部(固形分2%)をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散した。その後、バインダー樹脂としてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W―168)4部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、熱化学電池電極用導電性組成物(1)を得た。
得られた熱化学電池電極用導電性組成物(1)をテフロン(登録商標)容器に注ぎ入れ、80℃1時間乾燥し、その後100℃3時間で乾燥させ、導電膜を得た。この際、硬化後の膜厚が60μmになるように導電性組成物の量を調整した。得られた導電膜をφ16mmの円板状に打ち抜き電極とした。
【0080】
<コイン型電池の組み立て>
アルゴン雰囲気で満たされたグローブボックス中でSUS316製のケースを用い、上記で得られた電極2枚の間にポリプロピレン製のセパレータを介し、さらに電解液として、0.5M K3[Fe(CN)6]/ K4[Fe(CN)6]・3H2Oの水溶液を注入してCR2032型のコイン型電池を作製した。
【0081】
[実施例2~9]
材料(A)、バインダー樹脂、をそれぞれ表2に記載した種類、量に変更した以外は、実施例1と同様の方法で電極およびコイン型電池を得た。
【0082】
[実施例10]
材料(A-1)12部、バインダー樹脂(B-1)2.9部、溶剤としてN-メチルピロリドンを29.5部、をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散を行い、熱化学電池電極用導電性組成物(10)を得た。得られた熱化学電池電極用導電性組成物(10)に対し、実施例1と同様にして、電極、コイン型電池の作製を行った。
【0083】
[実施例11~18]
材料(A)、バインダー樹脂、をそれぞれ表2に記載した種類、量に変更した以外は、実施例10と同様の方法で電極およびコイン型電池を得た。
【0084】
<比較例1>
PEDOT/PSS溶液 オルガコンS315(日本アグファケミカルズ社製)をテフロン(登録商標)容器に注ぎ入れ、80℃1時間乾燥し、更に150℃3時間で乾燥させ、導電膜を得た。この際、乾燥後の膜厚が60μmになるように導電性組成物の量を調整した。得られた導電膜をφ16mmの円板状に打ち抜き電極とした。更に、実施例1同様にして、コイン型電池を作製した。
【0085】
以上の方法により、得られた電極、コイン型電池において以下の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0086】
<電極の体積抵抗率>
電極の体積抵抗率は、ロレスタGP(三菱化学アナリテック社製)を用いて4端子法で測定(JIS-K7194)して判定した。評価結果を表1に示す。
◎◎:「体積抵抗率が3.5×10-3Ω・cm未満(非常に極めて良好)」
◎〇:「体積抵抗率が3.5×10-3Ω・cm以上、4×10-3Ω・cm未満(非常に極めて良好)」
◎:「体積抵抗率が4×10-3Ωcm以上、5×10-3Ω・cm未満(極めて良好)」
○:「体積抵抗率が5×10-3Ω・cm以上、1×10-2Ω・cm未満(良好)」
○△:「体積抵抗率が1×10-2Ω・cm以上、5×10-2Ω・cm未満(使用範囲内)」
△:「体積抵抗率が5×10-2Ω・cm以上、1×10-1Ω・cm未満(不良)」
×:「体積抵抗率が1×10-1Ω・cm以上(極めて不良)」
【0087】
<電極の耐久性>
耐湿熱試験前の体積抵抗率に対する耐湿熱試験後の体積抵抗率の上昇率(変化率)で評価した。以下に評価方法を示す。作製した電極を小型環境試験器(エスペック株式会社:型番SH-661)に投入し、温度60℃、相対湿度90%で5000時間保管して耐湿熱試験を行った後、上記と同様に体積抵抗率の測定を行った。
◎:体積抵抗率の上昇率が10%未満(極めて良好)
〇:体積抵抗率の上昇率が10%以上20%未満(良好)
△:体積抵抗率の上昇率が20%以上30%未満(使用範囲内)
×:体積抵抗率の上昇率が30%以上(極めて不良)
【0088】
<電池評価>
上記コイン型電池を用いて、電池の出力測定を実施した。25℃の屋内で、65℃に加熱したホットプレート上にコイン型電池を置き、コイン型電池の上下で40℃の温度差をつけた。次に、陽極側、陰極側にソースメータをつなぐことで電圧値、電流値を測定し、出力を求めた。
◎◎:電池出力が15μW以上(極めて良好)
◎:電池出力が10μW以上15μW未満(良好)
〇:電池出力が5μW以上10μW未満(使用範囲内)
△:電池出力が5μW未満(不良)
【0089】
【0090】
実施例で使用した材料を下記に示す。
<バインダー樹脂(B)>
・B-1:ポリウレタン樹脂(製造例10で得られたポリウレタン樹脂)
・B-2:ポリアミド樹脂(製造例11で得られたポリアミド樹脂)
・B-3:ポリエステル樹脂 バイロンGK130(東洋紡社製)
・B-4:(メタ)アクリル樹脂 NeoCryl B-728(楠本化成社製)
・B-5:ポリアクリロニトリル樹脂 製品No.181315(Sigma―Ald
rich社製)
【0091】
実施例1~18では、電極の抵抗値が低いため、熱化学電池としての高い出力を確認できた。一方で、比較例1では、抵抗値が高いため、熱化学電池としての出力が低くなった。また、実施例1~18は電極の耐久性が優れているが、比較例1は、耐久性が低く、熱化学電池用電極としての実用性に乏しいことが明らかとなった。