(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】酸化ガリウム半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20240820BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20240820BHJP
C30B 31/22 20060101ALI20240820BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B33/02
C30B31/22
H01L21/265 Z
H01L21/265 602A
(21)【出願番号】P 2020069366
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】加渡 幹尚
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109902(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109671612(CN,A)
【文献】M Peres1 et.al,Doping β-Ga2O3 with europium: influence of the implantation and annealing temperature,Journal of Physics D: Applied Physics,2017年,VOL.50,325101,p.1-9,https://doi.org/10.1088/1361-6463/aa79dc
【文献】Marco J. Tadjer ,Review-Theory and Characterization of Doping and Defects in β-Ga2O3,ECS Journal of Solid State Science and Technology,2019年,8(7),Q3187-Q3194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/16
C30B 33/02
C30B 31/22
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム単結晶層にイオン注入した後に活性化アニール処理を行うことを含む、酸化ガリウム半導体の製造方法であって、
前記イオン注入を行う際の前記酸化ガリウム単結晶層の温度が300℃~
350℃であることを含んでおり、
前記イオン注入によって前記酸化ガリウム単結晶層にドープされる不純物の原子種は、
Nである、
酸化ガリウム半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化ガリウム半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、省電力技術の開発が求められており、パワーデバイスの低損失化が期待されている。パワーデバイスは、ハイブリッド車や電気自動車に搭載されるインバーターなど、あらゆる電力変換器に搭載されている。
【0003】
低損失なパワーデバイスの実現に向けて、現状のシリコン(Si)よりも更に高耐圧・低損失なパワーデバイスの実現が期待できるSiC、GaN等の新しいワイドギャップ半導体材料が注目され、活発に研究開発が進められている。その中でも、酸化ガリウムは、SiC、GaNと比較して更に大きなバンドギャップに代表される物性から、パワーデバイスに応用した場合、より一層の高耐圧・低損失化等の優れたデバイス特性が期待される。
【0004】
そのため、最近では、酸化ガリウムのパワーデバイスへの応用を目的として、イオン注入法を用いて酸化ガリウム単結晶に不純物をドープする方法が提案されている。特許文献1には、酸化ガリウム単結晶にMgをイオン注入した後に活性化アニールを行って、高抵抗領域を形成する製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高抵抗領域を形成するためにイオン注入法を用いて酸化ガリウム単結晶層に不純物をドープしたときに、酸化ガリウム単結晶層の結晶構造が破壊されてアモルファス化する場合がある。酸化ガリウム単結晶層のアモルファス化の程度が大きいと、その後の活性化アニール処理を行っても結晶構造が十分に回復されない。
【0007】
そのため、従来の製造方法では、得られる酸化ガリウム半導体に結晶欠陥が生じやすいという問題があった。
【0008】
本開示は、結晶欠陥を低減した酸化ガリウム半導体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
酸化ガリウム単結晶層にイオン注入した後に活性化アニール処理を行うことを含む、酸化ガリウム半導体の製造方法であって、
前記イオン注入を行う際の前記酸化ガリウム単結晶層の温度が300℃~800℃であることを含む、
酸化ガリウム半導体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、結晶欠陥を低減した酸化ガリウム半導体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1及び比較例1の試料それぞれについて、イオン注入前、イオン注入後、及び活性アニール処理後における結晶性を評価したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0013】
本開示の製造方法は、酸化ガリウム単結晶層にイオン注入した後に活性化アニール処理を行うことを含む、酸化ガリウム半導体の製造方法であって、上記イオン注入を行う際の上記酸化ガリウム単結晶層の温度が300℃~800℃であることを含む、酸化ガリウム半導体の製造方法である。
【0014】
原理によって限定されるものではないが、本開示の製造方法によって、結晶欠陥を低減した酸化ガリウム半導体を製造することができる原理は、以下のとおりである。
【0015】
上記のように、従来の酸化ガリウム半導体の製造方法では、イオン注入法を用いて酸化ガリウム単結晶層に不純物をドープする際に、酸化ガリウム単結晶層の結晶構造が破壊されてアモルファス化し、その後の活性化アニール処理を行っても結晶構造が十分に回復されない場合があった。
【0016】
この点に関して、本開示の製造方法では、イオン注入を行う際の酸化ガリウム単結晶層の温度が300℃~800℃であることによって、イオン注入法を用いて酸化ガリウム単結晶層に不純物をドープする際の酸化ガリウム単結晶層の結晶構造の破壊が抑制される。
【0017】
イオン注入を行う際の酸化ガリウム単結晶層の温度が300℃であることにより、酸化ガリウム単結晶層中のガリウム原子及び酸素原子、並びに注入される不純物の原子が安定な位置にとどまりやすくなり、結晶欠陥の発生が抑制される。また、イオン注入を行う際の酸化ガリウム単結晶層の温度が800℃以下であることにより、酸素空孔等の電気的特性に起因する結晶欠陥の発生が抑制される。
【0018】
これにより、本開示の製造方法では、イオン注入後においても酸化ガリウム単結晶層の結晶構造が破壊されにくく、引き続く活性化アニール処理によって結晶構造が十分に回復される。
【0019】
《酸化ガリウム単結晶層》
本開示の製造方法において用いられる酸化ガリウム単結晶層は、任意の手法で作製した酸化ガリウム単結晶層を用いることができる。酸化ガリウム単結晶層は、α-Ga2O3単結晶、β-Ga2O3単結晶、又は他の結晶構造を有するGa2O3単結晶の層であることができ、好ましくはβ-Ga2O3単結晶の層である。
【0020】
《イオン注入》
本開示の製造方法において用いられるイオン注入法は、イオン注入を行う際の酸化ガリウム単結晶層の温度が300℃~800℃であることを除いて、従来用いられている方法と同じであることができる。
【0021】
イオン注入を行う際の酸化ガリウム単結晶層の温度は、300℃以上、350℃以上、400℃以上、又は450℃以上であってよい。また、800℃以下、750℃以下、700℃以下、又は600℃以下であってよい。
【0022】
イオン注入によって形成される高抵抗層の厚さ、すなわち不純物の拡散深さは、イオン注入におけるエネルギーを変えることによって制御することができる。
【0023】
不純物のドーズ量は、例えば1×1010/cm2~1×1020/cm2であってよい。
【0024】
不純物のドーズ量は、1×1010/cm2以上、1×1011/cm2以上、1×1013/cm2以上、又は1×1015/cm2以上であってよく、1×1020/cm2以下、1×1019/cm2以下、1×1018/cm2以下、又は1×1017/cm2以下であってよい。
【0025】
本開示の製造方法は、不純物のドーズ量が多い場合、例えば不純物のドーズ量が1×1015/cm2以上であるときに、特に高い効果、すなわち本開示の製造方法によらない場合と比較して、より結晶欠陥を低減するという効果を得ることができる。
【0026】
イオン注入によって酸化ガリウム単結晶層にドープされる不純物の原子種は、酸化ガリウム単結晶層に高抵抗層を形成することができる任意の原子種、例えばN、Mg、Be、Zn、又はFeからなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0027】
本開示の製造方法は、ドープされる不純物の原子番号が大きい場合に特に高い効果、すなわち本開示の製造方法によらない場合と比較して、より結晶欠陥を低減するという効果を得ることができる。
【0028】
《活性化アニール処理》
本開示の製造方法では、酸化ガリウム単結晶層にイオン注入した後に活性化アニール処理を行う。
【0029】
本開示の製造方法において、活性化アニール処理における加熱温度は特に限定されないが、700℃以上であってよい。加熱温度の上限は特に制限されないが、1200℃であることができる。
【0030】
活性化アニール処理における加熱温度は、700℃以上、750℃以上、800℃以上、850℃以上、900℃以上、又は950℃以上であってよく、1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、又は1050℃以下であってよい。
【0031】
本開示の方法において、活性化アニール処理を行う時間は、好ましくは5分~30分であってよい。
【0032】
活性化アニール処理における雰囲気は、窒素雰囲気であることができる。
【0033】
《酸化ガリウム半導体》
本開示の製造方法によって得られる酸化ガリウム半導体は、高抵抗層を有する酸化ガリウム単結晶層を少なくとも有している。
【実施例】
【0034】
《実施例1及び比較例1》
〈実施例1〉
母材に用いる酸化ガリウム単結晶として、縦5mm、横5mm、及び厚み0.5mmの、市販のβ-Ga2O3単結晶基板を用意した。用意したGa2O3単結晶基板は、主面が(-201)面であり、Si濃度が2×1017/cm3のn型Ga2O3単結晶体であった。
【0035】
用意したβ-Ga2O3単結晶基板の主面に、N密度が1×1020/cm3の500nm厚のボックスプロファイルでNをイオン注入し、次いで800℃で30分間、活性化アニール処理を行って、酸化ガリウム半導体を得た。なお、イオン注入の際のβ-Ga2O3単結晶基板の温度は、300℃であった。
【0036】
イオン注入前のβ-Ga2O3単結晶基板、イオン注入後のβ-Ga2O3単結晶基板及び活性化アニール処理後のβ-Ga2O3単結晶基板それぞれについて、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)のチャネリング法によって、各β-Ga2O3単結晶基板の結晶性を評価した。
【0037】
〈比較例1〉
イオン注入の際のβ-Ga2O3単結晶基板の温度を室温としたことを除いて、実施例1と同様にして、イオン注入前のβ-Ga2O3単結晶基板、イオン注入後のβ-Ga2O3単結晶基板及び活性化アニール処理後のβ-Ga2O3単結晶基板それぞれについて、結晶性を評価した。
【0038】
〈結果〉
評価結果を、
図1に示した。なお、
図1において、χmin(%)は散乱強度を示しており、この値が小さいほど結晶性は高くなる。
【0039】
図1に示すように、イオン注入前のβ-Ga
2O
3単結晶基板の結晶性は、実施例1及び比較例1で等しかった(いずれもχmin=約15%)。
【0040】
これに対して、イオン注入後のβ-Ga2O3単結晶基板の結晶性は、比較例1(χmin=約67%)よりも実施例1(χmin=約43%)の方が高かった。この大小関係は、活性化アニール処理後のβ-Ga2O3単結晶基板についても同様であり、結晶性は、比較例1(χmin=約21%)よりも実施例1(χmin=約11%)の方が高かった。