IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国電力株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-気中開閉器の浸水判定装置 図1
  • 特許-気中開閉器の浸水判定装置 図2
  • 特許-気中開閉器の浸水判定装置 図3
  • 特許-気中開閉器の浸水判定装置 図4
  • 特許-気中開閉器の浸水判定装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】気中開閉器の浸水判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/04 20060101AFI20240820BHJP
   G01M 3/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G01M3/04 P
G01M3/02 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020086984
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021181910
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 久征
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-038886(JP,A)
【文献】特開2003-042886(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111363(WO,A1)
【文献】特開2016-168834(JP,A)
【文献】特開2020-028885(JP,A)
【文献】特開2000-237874(JP,A)
【文献】特開2019-219254(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073377(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/147831(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00~3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱上に設置された気中開閉器の内部における浸水の有無を判定する気中開閉器の浸水判定装置であって、
前記気中開閉器の筐体に対して、前記気中開閉器の内部が浸水しているか否かを判定するためのレーザーを照射するレーザー照射器と、
前記レーザー照射器の照射開始を契機として計時を行うタイマーを含み、前記タイマーの計時時間が第1時間以内であるときに前記筐体における前記レーザーの照射位置の温度が第1温度を超過した場合、前記気中開閉器の内部は浸水していないものと判定し、前記タイマーの計時時間が前記第1時間よりも長い第2時間を経過しても前記筐体における前記レーザーの照射位置の温度が前記第1温度よりも低い第2温度を超過しない場合、前記気中開閉器の内部は浸水しているものと判定し、前記タイマーの計時時間が第1時間を経過したときに前記筐体における前記レーザーの照射位置の温度が第1温度を超過せず、前記タイマーの計時時間が前記第2時間を経過したときに前記レーザーの照射位置の温度が前記第2温度を超過した場合、前記気中開閉器の内部が浸水しているかどうかの判定を行わずに判定動作を終了する判定装置と、
前記筐体に対する前記レーザーの照射位置がずれた場合、前記レーザー照射器からの前記レーザーの出射を停止させる停止装置と、
を備えたことを特徴とする気中開閉器の浸水判定装置。
【請求項2】
前記停止装置は、前記レーザー照射器と一体的に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の気中開閉器の浸水判定装置。
【請求項3】
前記停止装置は、前記レーザー照射器を支持する脚部に対して、前記レーザー照射器とともに一体的に設けられる
ことを特徴とする請求項2に記載の気中開閉器の浸水判定装置。
【請求項4】
前記停止装置は、前記筐体に対する前記レーザーの照射位置のずれを検出するために、加速度センサおよび傾斜センサの少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の気中開閉器の浸水判定装置。
【請求項5】
前記停止装置は、前記加速度センサおよび前記傾斜センサを含み、前記加速度センサおよび前記傾斜センサの少なくとも何れか一方が前記筐体に対する前記レーザーの照射位置のずれを検出したときに、前記レーザー照射器からの前記レーザーの出射を停止させる
ことを特徴とする請求項4に記載の気中開閉器の浸水判定装置。
【請求項6】
前記レーザーは、ファイバーレーザーである
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の気中開閉器の浸水判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気中開閉器の浸水判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、配電線路における電気の流れを変更させたり、停電工事の際に停電区間を構築したりするために、配電線路には、この配電線路を気中で接続または遮断する気中開閉器(例えば高圧気中開閉器)が施設されている。
【0003】
気中開閉器は、気中開閉器内部における充電部等の部品が気中開閉器外部に生じる要因(風雨、湿気、紫外線等)の影響を受けないように、気密性をもって構成されている。しかし、経年劣化により、気中開閉器に使用されているパッキン等に亀裂が生じると、雨水がパッキンを通して気中開閉器の内部に侵入することがある。雨水が気中開閉器の内部に一旦侵入してしまうと、気中開閉器内部の充電部が雨水と接触することによって短絡が発生し、配電線路の停電事故につながる虞がある。このような停電事故が発生しないように、気中開閉器の内部が浸水していないかどうかを定期的に確認することが望ましいが、気中開閉器は金属の筐体で充電部を覆う構造であるため、気中開閉器の内部の様子を外部から確認することは容易ではない。
【0004】
そこで、気中開閉器の内部への浸水の有無を確認する装置として、例えば、特許文献1に記載されているような浸水判定装置が提案されている。
【0005】
特許文献1の浸水判定装置は、ヒータ及び温度センサが露出している面を開閉器の底面に当接させた状態で、開閉器の底面をヒータで加熱したときの底面の温度を温度センサで検出し、熱伝導率の原理を利用して温度検出結果から開閉器内部の浸水の有無を判定する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-89807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の装置を用いて開閉器内部の浸水の有無を判定する場合、作業者が高所作業車に上り、ヤットコ等の工具を使って浸水判定装置を開閉器の底面に固定しなければならず、更に、開閉器内部の浸水の有無を判定するためには少なくとも数分程度の温度検出結果が必要となる。このように、1台の開閉器の浸水の有無を点検するために、膨大な労力と時間を要することとなり、効率的な点検作業とは言えない。
【0008】
そこで、本発明は、作業者が地上にいながら、気中開閉器の筐体にレーザーを照射することによってこの筐体の温度を非接触で検出し、気中開閉器の内部が浸水しているか否かを遠隔で容易に判定することが可能な浸水判定装置を提供することを目的とする。また、気中開閉器にレーザーを照射している際に、例えば作業者がレーザー照射器に接触することによって、レーザー照射器の設置位置がずれたり、或いは、レーザー照射器が転倒したりしてしまい、筐体に対するレーザーの実際の照射位置が本来照射すべき位置とは異なることとなってしまった場合、レーザー照射器からのレーザーの出射を停止させて、レーザーによる人的被害(例えばレーザーが目に照射されることによる失明)を防止することが可能な浸水判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決する主たる本発明は、柱上に設置された気中開閉器の内部における浸水の有無を判定する気中開閉器の浸水判定装置であって、前記気中開閉器の筐体に対して、前記気中開閉器の内部が浸水しているか否かを判定するためのレーザーを照射するレーザー照射器と、前記レーザー照射器の照射開始を契機として計時を行うタイマーを含み、前記タイマーの計時時間が第1時間以内であるときに前記筐体における前記レーザーの照射位置の温度が第1温度を超過した場合、前記気中開閉器の内部は浸水していないものと判定し、前記タイマーの計時時間が前記第1時間よりも長い第2時間を経過しても前記筐体における前記レーザーの照射位置の温度が前記第1温度よりも低い第2温度を超過しない場合、前記気中開閉器の内部は浸水しているものと判定し、前記タイマーの計時時間が第1時間を経過したときに前記筐体における前記レーザーの照射位置の温度が第1温度を超過せず、前記タイマーの計時時間が前記第2時間を経過したときに前記レーザーの照射位置の温度が前記第2温度を超過した場合、前記気中開閉器の内部が浸水しているかどうかの判定を行わずに判定動作を終了する判定装置と、前記筐体に対する前記レーザーの照射位置がずれた場合、前記レーザー照射器からの前記レーザーの出射を停止させる停止装置と、を備える。
本発明の他の特徴については、添付図面及び本明細書の記載により明らかとなる。

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業者が地上にいながら、気中開閉器の筐体にレーザーを照射することによってこの筐体の温度を非接触で検出し、気中開閉器の内部が浸水しているか否かを遠隔で容易に判定することが可能となる。更に、気中開閉器にレーザーを照射している際に、筐体に対するレーザーの実際の照射位置が本来照射すべき位置とは異なることとなった場合であっても、レーザー照射器からのレーザーの出射を停止させて、レーザーによる人的被害(例えばレーザーが目に照射されることによる失明)を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る気中開閉器の浸水の有無の判定方法を説明するための概略図である。
図2】本実施形態に係る浸水判定装置に用いられるレーザー照射器の機能の一例を示す図である。
図3】本実施形態に係る浸水判定装置に用いられるレーザー照射器を固定する脚部の一例を示す斜視図である。
図4】本実施形態に係る浸水判定装置に用いられる判定装置の機能の一例を示す図である。
図5】本実施形態に係る浸水判定装置に用いられる停止装置の機能の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0013】
===気中開閉器の浸水の有無の判定方法===
図1は、本実施形態に係る気中開閉器における浸水の有無を判定する方法を説明するための概略図である。
【0014】
図1において、気中開閉器100は、電柱200の高位置(例えば地上から約10mの位置)に設置され、例えば、配電線路210における電気の流れを変更させたり、停電工事の際に停電区間を構築したりするために、配電線路210を気中で接続または遮断する電力機器である。例えば、気中開閉器100が高圧気中開閉器である場合、高圧気中開閉器は、配電線路210上における電力会社と需要家との責任分界点の位置を接続又は遮断することができるように設置されている。
【0015】
気中開閉器100は、上流側(例えば電力会社側)の配電線路210と、下流側(例えば需要家側)の配電線路210と、を接続または遮断するための充電部110を有している。この充電部110は、気中開閉器100の外部要因(風雨、湿気、紫外線等)の影響を受けて劣化することがないように、気中開閉器100を構成する金属製の筐体120の内部に密閉された状態で収容されている。しかし、気中開閉器100内部の気密性を確保するために使用されているパッキン(不図示)は、気中開閉器100から露出している場合が多く、そのため、上記外部要因の影響を受けて経年劣化してしまう。パッキンの劣化が一定以上に進むと、気中開閉器100の気密性を確保することができなくなり、雨や湿気等がパッキンを通して気中開閉器100の内部に侵入してしまう。このようにして、気中開閉器100が浸水してしまうと、水が筐体120内の底部に溜まり、筐体120内に収容されている充電部110と接触して短絡事故を引き起こす虞があるため、定期的な点検作業が必要となる。
【0016】
気中開閉器100を構成する筐体120は金属製であることから、気中開閉器100が浸水しているか否かを外部から目視で判断することは困難である。そこで、上記の点検作業として、作業者が気中開閉器100の設置場所まで上って、特許文献1に示すような浸水判定装置を気中開閉器100に取り付けるといった大変な作業を強いられているのが現状である。
【0017】
本実施形態では、作業者が地上にいながら、気中開閉器100が浸水しているか否かを非接触でなおかつ比較的短時間で容易に判定する装置を提供するものである。また、本実施形態では、気中開閉器100が浸水しているか否かを判定するために、後述するレーザー照射器300を用いている。そこで、レーザー照射器300によるレーザーの照射方向が気中開閉器100の底面130の所定位置に向かう方向からずれた場合、レーザー照射器からのレーザーの出射を停止させて、レーザーによる人的被害(例えばレーザーが目に照射されることによる失明)を防止する装置を提供するものでもある。
【0018】
本実施形態では、この装置を実現するための手段として、レーザー照射器300、判定装置400、停止装置500を用いる。
【0019】
レーザー照射器300は、気中開閉器100の外側の底面130に対して、気中開閉器100が浸水しているか否かを判定するためのレーザーを照射するものである。レーザー照射器300は、レーザーの出射口330が気中開閉器100の外側の底面130の方向を向くように、地上に設置される。尚、本実施形態では、このレーザーの一例としてファイバーレーザーを用いることとし、レーザー照射器300の具体的な説明については後述する。
【0020】
判定装置400は、ファイバーレーザーが気中開閉器100の底面130に照射されているときの、底面130に現れる赤外線放射エネルギーを検出して見かけの温度に変換し、底面130におけるファイバーレーザーの照射位置の見かけの温度と所定の温度との関係において、気中開閉器100の内部が浸水しているか否かを判定するものである。判定装置400の具体的な説明については後述する。
【0021】
停止装置500は、気中開閉器100の底面130の所定位置にレーザー照射器300からレーザーが照射されている状態において、レーザー照射器300によるレーザーの照射方向が気中開閉器100の底面130の所定位置に向かう方向からずれたか否かを検出する装置である。そして、レーザー照射器300によるレーザーの照射方向が気中開閉器100の底面130の所定位置に向かう方向からずれていることが検出された場合、停止装置500は、レーザー照射器300によるレーザーの出射を停止させる。停止装置500の具体的な構成については後述する。
【0022】
このように、レーザー照射器300を地上に設置し、判定装置400によって、ファイバーレーザーが気中開閉器100の底面130に照射されているときの底面130の温度を、底面130に現れる赤外線放射エネルギーを見かけの温度に変換することで非接触に検出し、この見かけの温度が所定の温度を越えているか否かに応じて、気中開閉器100の内部が浸水しているか否かを判定する。従って、作業者は、気中開閉器100の内部が浸水しているか否かの判定作業のために、気中開閉器100が設置されている高所まで上る必要はなく、安全に比較的短時間で点検作業を行うことが可能となる。
【0023】
ここで、レーザー照射器300は地上に設置されることから、気中開閉器100の底面130の所定位置にレーザー照射器300からレーザーを照射している最中に、例えば、作業者がレーザー照射器300に接触したり、或いは、レーザー照射器300が強風に煽られたりすることによって、レーザー照射器300の設置位置がずれたり、レーザー照射器300が転倒してしまう場合がある。この場合、レーザーの照射方向が気中開閉器100の底面130の所定位置からずれてしまい、レーザー照射器300の転倒やずれた位置によっては、周囲にいる作業者にレーザーが照射されてしまい、人的被害を引き起こす虞がある。しかし、本実施形態では、停止装置500を用いることにより、このような場合にレーザー照射器300からのレーザーの出射を停止させ、レーザーによる人的被害を防止することが可能となっている。
===浸水判定装置===
【0024】
<レーザー照射器>
図2は、本実施形態に係る浸水判定装置に用いられるレーザー照射器の機能の一例を示す図である。
【0025】
図2において、レーザー照射器300は、気中開閉器100の底面130に照射するべきレーザーとして、近赤外波長(例えば1064nm)を有するファイバーレーザーを出力するものである。
【0026】
レーザー照射器300は、ファイバーレーザーを出射するための手段として、励起部310、共振器部320、出射口330、脚部340を含んで構成されている。
【0027】
励起部310は、励起用の複数の半導体レーザー311と、複数の半導体レーザー311から出力されたレーザー(波長は約0.9μm)がそれぞれ光ファイバー312を介して伝搬される励起用コンバイナ313と、励起用コンバイナ313に伝搬された複数のレーザーが励起光として1つにまとまった状態で出力される光ファイバー314と、を含んで構成されている。
【0028】
共振器部320は、励起部310の光ファイバー314から出力される励起光を増幅してファイバーレーザーとして出力する。共振器部320は、励起光をファイバーレーザーとして増幅して出力するための手段として、高反射率ミラー321、増幅用ファイバー322、低反射率ミラー323を含んで構成されている。ここで、ファイバーレーザーは、光ファイバーを増幅媒体とする固体レーザーの一種である。増幅用ファイバー322は、光ファイバーの中心部の屈折率が最も高くなるように、コアに希土類元素Yb(イッテルビウム)がドープされている。励起部310から出力された励起光は、高反射率ミラー321で増幅された後に、増幅ファイバー322内でコアにドープされているYbを励起し、更に低反射率ミラー323で増幅され、ファイバーレーザーとして発振出力される。
【0029】
ファイバーレーザーは、増幅ファイバー322を通して伝搬されるため、エネルギー変換効率が良く、長焦点となる設計が可能といった利点を有している。そこで、本実施形態では、気中開閉器100の底面130までの照射距離が約10mと長いことを考慮し、その底面130に対してレーザー照射器300からファイバーレーザーを照射することとする。
【0030】
図3は、本実施形態に係る浸水判定装置に用いられるレーザー照射器を固定する脚部の一例を示す斜視図である。
【0031】
脚部340は、周知のカメラ用三脚のような構造であって、各脚の長さが調節可能である。脚部340の上部には、レーザー照射器300と、停止装置500に含まれる加速度センサ510および傾斜センサ520とを、載置して固定するための平板形状の台座341が設けられている。台座341におけるレーザー照射器300、加速度センサ510、傾斜センサ520が載置される載置面は、各脚の長さを地面の形状に応じて調節することによって、例えば水平を保つように調整される。
【0032】
台座341の載置面には、レーザー照射器300、加速度センサ510、傾斜センサ520が固定具(不図示)を用いて固定されている。
【0033】
レーザー照射器300は、台座341上において、台座341に垂直な軸を中心に、水平方向に回動させるための第1調整ダイアル350と、ファイバーレーザーを台座341に垂直な真上の方向に出射する位置とファイバーレーザーを台座341に水平な真横の方向に出射する位置との間を扇状に回動させるための第2調整ダイアル360と、を有している。そして、第1調整ダイアル350および第2調整ダイアル360を適宜調整することによって、レーザー照射器300の出射口330は気中開閉器100の底面130の方向を向くこととなる。これにより、出射口330を通してファイバーレーザーを気中開閉器100の底面130に確実に照射することが可能となる。
【0034】
加速度センサ510および傾斜センサ520は、台座341上にレーザー照射器300とともに一体に設けられている。つまり、加速度センサ510および傾斜センサ520は、レーザー照射器300の動きや傾きを正しく検出することが可能となる。
【0035】
尚、脚部340は、レーザー照射器300、加速度センサ510、傾斜センサ520を一体的に支持する構造の一例であって、レーザー照射器300の出射口330が底面130の方向を向くように調整可能な構造であれば、如何なる構造であってもよい。
【0036】
ここで、気中開閉器100の浸水の有無を判定するためのレーザーの強度について説明する。
【0037】
気中開閉器100は、外部要因からの劣化を抑制するために、筐体120を含む外周面に対して塗装が施されている。気中開閉器100の底面130に照射する際のファイバーレーザーの出力は、この塗装を痛めることがない程度の大きさに抑える必要がある。本出願人は、気中開閉器100と同等の仕様の開閉器サンプル(新品、錆のない劣化品、錆のある劣化品等)を用意し、約10mの距離を離して、レーザー照射器300からファイバーレーザーの出力を変えながら照射する実験を行った。その結果、ファイバーレーザーの出力は、気中開閉器100内の浸水の有無を判定するには、20W程度で十分であることが知見として得られた。
【0038】
また、出願人は、気中開閉器100の底面130にファイバーレーザーを照射したときの反射光が、人体に影響を与える可能性があるか否かについても実験を行った。例えば、気中開閉器100の底面130に相当する試験片サンプルとして、新品、錆のない劣化品、錆のある劣化品を用意し、それぞれの試験片サンプルに対して、一定の照射距離、複数の照射角度の条件で、ファイバーレーザー(例えば20W)の照射を行った。この結果、反射光の強度は、屋外の紫外線の強度である70mW程度と比較しても十分に小さく、気中開閉器100の底面130に20Wのファイバーレーザーを照射したときの反射光が人体に悪影響を及ぼすことはないことが知見として得られた。
【0039】
<判定装置>
図4は、本実施形態に係る浸水判定装置に用いられる判定装置の機能の一例を示す図である。
【0040】
図4において、判定装置400は、レーザー照射器300からファイバーレーザーが気中開閉器100の底面130に照射されているときの、底面130に現れる赤外線放射エネルギーを検出して見かけの温度に変換し、底面130におけるファイバーレーザーの照射位置の見かけの温度と所定の温度との関係において、気中開閉器100の内部が浸水しているか否かを判定するものである。
【0041】
判定装置400は、上記の機能を実現するための手段として、赤外線サーモグラフ410、判定部420、記憶部430、タイマー440を含んで構成されている。
【0042】
赤外線サーモグラフ410は、レーザー照射器300からファイバーレーザーが気中開閉器100の底面130に照射されているときの、底面130に現れる赤外線放射エネルギーを検出して見かけの温度に変換し、例えば底面130全体を、見かけの温度に対応する色を付した温度分布図にして、ディスプレイ411に表示する。このとき、底面130において、ファイバーレーザーが照射されている位置の見かけの温度を示す情報は、記憶部430に逐次更新されながら記憶される。尚、赤外線サーモグラフ410の動作は、例えば、レーザー照射器300に設けられている照射開始ボタン(不図示)を作業者が操作したときに発生する照射開始信号を受信することによって開始することとする。
【0043】
タイマー440は、例えば、照射開始ボタンの操作を契機としてリセットされた状態から計時を開始する。
【0044】
本出願人は、気中開閉器100と同等の仕様の開閉器サンプルであって、浸水していない状態の開閉器サンプルと浸水(数mm~数cm)した状態の開閉器サンプルとを用意し、約10mの距離を離して、レーザー照射器300から20Wのファイバーレーザーを照射する実験を行った。この結果、浸水していない状態の開閉器サンプルの底面にファイバーレーザーを照射すると、ファイバーレーザーの照射位置の見かけの温度が照射開始から1分以内に140℃を超過することが分かった。一方、浸水した開閉器サンプルの底面にファイバーレーザーを照射すると、ファイバーレーザーの照射位置の見かけの温度は照射開始から2分が経過しても95℃以上には上昇しないことが分かった。
【0045】
この知見に従って、判定部420は、照射開始信号を契機として、タイマー440の計時時間を取得するとともに、記憶部430に記憶されている、気中開閉器100の底面130におけるファイバーレーザーの照射位置の見かけの温度を示す情報を記憶部430から取得し、この見かけの温度が1分以内に140℃を超過したか、2分を経過しても95℃以上に上昇していないかを検出する。そして、判定部430は、見かけの温度が1分以内に140℃を超過した場合、気中開閉器100は浸水していないものと判定し、一方、2分を経過しても95℃以上に上昇していない場合、気中開閉器100は浸水しているものと判定する。尚、判定部420はマイクロコンピュータを含んで構成され、判定部420の機能は、記憶部430に記憶されているプログラムを実行することによるソフトウエア処理によって実現されることとする。判定部420は、上記の判定動作を終了すると、判定終了信号を出力し、タイマー440の動作を停止させるとともにタイマー440をリセットする。
【0046】
<停止装置>
図5は、本実施形態に係る浸水判定装置を構成する停止装置の機能の一例を示すブロック図である。
【0047】
気中開閉器100の底面130の所定位置にレーザー照射器300からレーザーを照射している最中に、例えば、作業者がレーザー照射器300に接触したり、レーザー照射器300が強風に煽られたりして、レーザー照射器300の設置位置がずれたり、レーザー照射器300が転倒したりすると、レーザー照射器300から出射されているレーザーの照射方向がずれることによって、周囲にいる作業者等に対してレーザーによる人的被害が発生する虞がある。そこで、停止装置500は、このような人的被害の発生を防止するために、レーザー照射器300が初期の設置位置からずれたこと(気中開閉器100の底面130に対するレーザーの実際の照射位置が本来照射すべき位置から異なってしまったこと)を検出し、この検出結果を契機として、レーザー照射器300からのレーザーの出射を停止させるものである。
【0048】
停止装置500は、上記の機能を実現するための手段として、加速度センサ510、傾斜センサ520、第1比較部530、第2比較部540、論理和回路550を含んで構成されている。
【0049】
加速度センサ510は、単位時間(1秒)あたりのレーザー照射器300の速度変化(加速度)を測定し、単位時間にレーザー照射器300に与えられる振動や動きの程度を検出するものである。
【0050】
一般に、加速度センサは、約20G以下の測定範囲を持つ低G加速度センサと、それ以上の測定範囲を持つ高G加速度センサとに大別される。ここで、単位Gは、標準重力(1G=9.80665m/s2)を基準とした加速度の値を示している。低G加速度センサは、重力・傾きの検知や物体の動きの検知に適している。一方、高G加速度センサは、主に衝撃の検知に適している。本実施形態では、レーザー照射器300の動きを検知することを目的として、低G加速度センサを採用することとする。
【0051】
一般に、低G加速度センサとしては、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を応用したMEMS加速度センサが挙げられる。このMEMS加速度センサは、加速度を検出する検出素子部と、検出素子部からの信号を増幅、調整して出力する信号処理回路で構成されている。
【0052】
MEMS加速度センサにおいて検出素子部に用いられる検出方式は、例えば、静電容量方式、ピエゾ抵抗方式、熱検知方式の3つに大別される。
【0053】
静電容量方式は、センサ素子可動部と固定部との間の容量の変化を、対象となる物体の動きとして検出する方式である。また、ピエゾ抵抗方式は、センサ素子可動部と固定部とをつなぐバネ部分に配置したピエゾ抵抗素子により、加速度に応じてバネ部分に発生した歪を、対象となる物体の動きとして検出する方式である。また、熱検知方式は、ヒーターにより筐体内に熱気流を発生させ、加速度による対流の変化を熱抵抗等で検出し、対象となる物体の動きとして検出する方式である。これら3つの方式は、周知の技術であって、本実施形態における加速度センサ510として、何れの方式を持つ低G加速度センサを採用してもよい。
【0054】
加速度センサ510は、3つのうち何れかの方式を持つ検出素子部によって検出された加速度に対して所定の信号処理を行うことによって、レーザー照射器300の動きを示す電圧信号を出力する。つまり、加速度センサ510は、レーザー照射器300の動きが大きくなればなるほど大きくなる電圧信号を出力する。
【0055】
第1比較部530は、加速度センサ510から出力された電圧信号を予め定められた閾値と比較し、この電圧信号が閾値を超えたときに、レーザー照射器300からのレーザーの出射を停止するための停止信号を出力するものである。ここで、閾値は、レーザー照射器300の動きが人的被害につながる可能性が高いものとして、例えば実験的に求められた値とすることができる。
【0056】
レーザー照射器300は、レーザーを気中開閉器100の底面130に向けて照射する前に、載置面が水平となった台座341上に載置された状態となっている。傾斜センサ520は、この水平となった台座341上に載置されたレーザー照射器300が、外的要因を受けて水平からどの程度傾斜したのかを測定するものである。
【0057】
一般に、傾斜センサとしては、単軸や2軸の傾斜センサが知られている。これらの傾斜センサには、MEMS、流体ベース、ポテンショメータ設計等の何れかの技術が採用されている。特に、MEMS技術を用いた傾斜センサの場合、傾斜による静電容量の変化を2電極間の導電率相対変化として捉えることによって、対象となる物体の傾斜を精度よく検出することができるようになっている。これらの傾斜センサは、周知であって、本実施形態における傾斜センサ520として、何れの傾斜センサを採用してもよいが、例えばMEMS技術を用いた2軸傾斜センサを採用すればよい。
【0058】
傾斜センサ520は、測定された水平からの傾斜角に対して所定の信号処理を行うことによって、レーザー照射器300の傾きを示す電圧信号を出力する。つまり、傾斜センサ520は、レーザー照射器300の水平からの傾きが大きくなればなるほど大きくなる電圧信号を出力する。
【0059】
第2比較部540は、傾斜センサ520から出力された電圧信号を予め定められた閾値と比較し、この電圧信号が閾値を超えたときに、レーザー照射器300からのレーザーの出射を停止するための停止信号を出力するものである。ここで、閾値は、レーザー照射器300の動きが人的被害につながる可能性が高いものとして、例えば実験的に求められた値とすることができる。
【0060】
論理和回路550は、第1比較部530から出力される停止信号と、第2比較部540から出力される停止信号との論理和を、レーザー照射器300に対して出力する回路である。つまり、第1比較部530および第2比較部540の何れが停止信号を出力した場合であっても、その停止信号はレーザー照射器300に出力される。よって、加速度センサ510が第1比較部530に設定されている閾値を超える大きさの電圧信号を出力するか、或いは、傾斜センサ520が第2比較部540に設定されている閾値を超える大きさの電圧信号を出力すると、レーザー照射器300からのレーザーの出射は停止することとなる。
【0061】
これにより、レーザー照射器300が初期の設置位置からずれて、レーザー照射器300から気中開閉器100の底面130に向かうレーザーの照射方向が本来照射すべき方向からずれた場合には、レーザー照射器300からのレーザーの出射を直ちに停止させることができ、レーザーによる人的被害を防止することが可能となる。
【0062】
尚、本実施形態では、加速度センサ510および傾斜センサ520の双方を設けたが、これに限定されず、加速度センサ510または傾斜センサ520の何れか一方のみを設けるようにしてもよい。
【0063】
また、本実施形態では、気中開閉器100の浸水の有無を判定するためにファイバーレーザーを用いているが、これに限るものではない。ファイバーレーザー以外の固体レーザーであっても、本実施形態と同様に気中開閉器100の浸水の有無を判定可能であれば採用してもよい。
===まとめ===
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る気中開閉器の浸水判定装置は、電柱200の高位置に設置された気中開閉器100の内部における浸水の有無を判定するために、気中開閉器100の筐体120に対して、気中開閉器100の内部が浸水しているか否かを判定するためのファイバーレーザーを照射するレーザー照射器300と、筐体120におけるレーザーの照射位置の温度に基づいて、気中開閉器100の内部が浸水しているか否かを判定する判定装置400と、筐体120に対するレーザーの照射位置が本来照射すべき位置からずれた場合、レーザー照射器300からのレーザーの出射を停止させる停止装置500と、を備えている。
【0065】
また、停止装置500は、レーザー照射器300と一体的に設けられている。具体的には、停止装置500は、レーザー照射器300を支持する脚部340に対して、レーザー照射器300とともに一体的に設けられている。
【0066】
また、停止装置500は、筐体120に対するレーザーの照射位置のずれを検出するために、加速度センサ510および傾斜センサ520を含み、加速度センサ510および傾斜センサ520の少なくとも何れか一方が筐体120に対するレーザーの照射位置のずれを検出したときに、レーザー照射器300からのレーザーの出射を停止させる。
【0067】
そして、本実施形態によれば、作業者が地上にいながら、気中開閉器100の筐体120にレーザーを照射することによってこの筐体120の温度を非接触で検出し、気中開閉器100の内部が浸水しているか否かを遠隔で容易に判定することが可能となる。更に、気中開閉器100にレーザーを照射している際に、筐体120に対するレーザーの照射位置がずれた場合であっても、レーザー照射器300からのレーザーの出射を停止させて、レーザーによる人的被害(例えばレーザーが目に照射されることによる失明)を防止することが可能となる。
【0068】
尚、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0069】
100 気中開閉器
110 充電部
120 筐体
130 底面
200 電柱
210 配電線路
300 レーザー照射器
310 励起部
311 半導体レーザー
312、314 光ファイバー
313 励起用コンバイナ
320 共振器部
321 高反射率ミラー
322 増幅用ファイバー
323 低反射率ミラー
330 出射口
340 脚部
341 台座
350 第1調整ダイアル
360 第2調整ダイアル
400 判定装置
410 赤外線サーモグラフ
411 ディスプレイ
420 判定部
430 記憶部
440 タイマー
500 停止装置
510 加速度センサ
520 傾斜センサ
530 第1比較部
540 第2比較部
550 論理和回路

図1
図2
図3
図4
図5