IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -熔融原料の調製方法及び有価金属回収方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】熔融原料の調製方法及び有価金属回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20240820BHJP
   B09B 3/30 20220101ALI20240820BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20240820BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240820BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20240820BHJP
   B09B 101/16 20220101ALN20240820BHJP
【FI】
C22B7/00 C
B09B3/30
B09B3/40
C22B1/02
H01M10/54
B09B101:16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020091595
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021188068
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 義裕
(72)【発明者】
【氏名】永倉 俊彦
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-158751(JP,A)
【文献】特開2019-131871(JP,A)
【文献】特開2010-138427(JP,A)
【文献】特開2020-076132(JP,A)
【文献】特開2015-063740(JP,A)
【文献】特開2006-265569(JP,A)
【文献】特開平04-002734(JP,A)
【文献】特開2013-091826(JP,A)
【文献】特開2019-135321(JP,A)
【文献】特開2021-143394(JP,A)
【文献】特開2021-188067(JP,A)
【文献】特開平01-228586(JP,A)
【文献】特開平09-071825(JP,A)
【文献】特開昭63-024560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00
B09B 3/30
B09B 3/40
C22B 1/02
H01M 10/54
B09B 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属を含む金属複合体の焙焼物を熔融原料として還元熔融することにより、スラグと、該有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程に供する熔融原料の調製方法であって、
前記金属複合体は廃リチウムイオン電池を含み、
前記焙焼物と酸化カルシウムを含むフラックスとを混合し、得られる混合物に2t/cm以上の圧力を加えて造粒することで造粒物を得る造粒工程を含む、
熔融原料の調製方法。
【請求項2】
前記造粒工程では、前記フラックスの含有割合を前記混合物中の焙焼物100質量部に対して10質量部以上50質量部以下となるように、前記焙焼物と前記フラックスとを混合して造粒物を得る
請求項1に記載の熔融原料の調製方法。
【請求項3】
有価金属を含む金属複合体の焙焼物を熔融原料として還元熔融することにより該有価金属を回収する有価金属回収方法であって、
前記金属複合体は廃リチウムイオン電池を含み、
前記金属複合体を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、
前記焙焼物と酸化カルシウムを含むフラックスとを混合し、得られる混合物に2t/cm以上の圧力を加えて造粒して造粒物を得る熔融原料調製工程と、
熔融原料として前記造粒物を還元熔融して、スラグと、該有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程と、
を有する
有価金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熔融原料の調製方法及び有価金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の、使用済みあるいは工程内の不良品である電池(以下廃電池という)をリサイクルし、含有する有価金属を回収しようとする調製方法には、大きく分けて乾式法と湿式法がある。
【0003】
乾式法は、破砕した廃電池を熔融処理し、回収対象である有価金属と、付加価値の低いその他の金属等とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収するものである。すなわち、鉄等の付加価値の低い元素を極力酸化してスラグとし、かつコバルト等の有価物は酸化を極力抑制して合金として回収するものである。
【0004】
例えば、特許文献1は、乾式法を含む有価金属回収方法を開示している。特許文献1によれは、この技術はリチウムイオン電池等の廃電池を乾式処理する際に、スラグ粘度を低減して低温での操業を可能とするとともに、スラグと合金の分離を確実にして有価金属を効率的に回収できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-224876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、有価金属回収方法における還元熔融処理は、例えば、熔融炉を使用して行うことができる。しかしながら、例えば廃電池のような金属複合体は、有価金属に対して金属複合体全体の体積が大きく、そのまま熔融炉に装入するだけでは、熔融炉の単位容量あたりに装入することのできる熔融原料の重量(以下、炉内充填嵩密度ともいう。)を高めることができなくなることがある。
【0007】
また、炉内充填嵩密度が低いと、還元炉内での熔融原料の伝熱性が悪化して還元熔融に必要な所定の温度に昇温するまでに多くの時間を要してしまい、効率的な還元熔融処理を行うことができなくなることがある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、有価金属に対して金属複合体全体の体積が大きい熔融原料であっても効率的な還元熔融処理を行うことができる熔融原料の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、熔融原料を酸化カルシウムを含むフラックスとの混合物にして造粒物とすることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明の第1は、価金属を含む金属複合体の焙焼物を熔融原料として還元熔融することにより、スラグと、該有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程に供する熔融原料の調製方法であって、前記焙焼物と酸化カルシウムを含むフラックスとを混合し、得られる混合物を造粒して造粒物を得る熔融原料の調製方法である。
【0011】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記混合物に2t/cm以上の圧力を加えることで造粒物を得る熔融原料の調製方法である。
【0012】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、前記金属複合体は廃リチウムイオン電池を含む熔融原料の調製方法である。
【0013】
(4)本発明の第4は、有価金属を含む金属複合体の焙焼物を熔融原料として還元熔融することにより該有価金属を含有する合金を得る有価金属回収方法であって、前記金属複合体を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、前記焙焼物と酸化カルシウムを含むフラックスとを混合し、得られる混合物を造粒して造粒物を得る熔融原料調製工程と、熔融原料として前記造粒物を還元熔融して、スラグと、該有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程と、を有する有価金属回収方法である。
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、効率的な還元熔融処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】有価金属回収方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0017】
≪1.熔融原料の調製方法の概要≫
本実施の形態に係る熔融原料の調製方法は、主に有価金属を回収する有価金属回収方法での還元熔融処理を行うに際し、その処理対象である熔融処理に供する熔融前の原料(熔融原料)を調製する方法である。ここで、有価金属回収方法では、有価金属を含む金属複合体を焙焼して焙焼物を得て、その焙焼物を熔融処理に供する熔融原料として還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る。
【0018】
具体的に、本実施の形態に係る熔融原料の調製方法では、熔融原料として用いる金属複合体の焙焼物について、予め酸化カルシウムを含むフラックスと混合して混合物を得て(混合工程S41)、得られた混合物を造粒して造粒物を得る(造粒工程S42)ことを特徴としている。
【0019】
このように熔融原料をフラックスと混合し造粒して造粒物とし、そしてこの造粒物を熔融炉に装入することにより、熔融炉への充填量を増やし、炉内充填嵩密度を高めることができる。また、焙焼物とフラックスとを混合して造粒物の形態とすることで、造粒物中において焙焼物とフラックスとの密着性が高まるため、還元熔融処理時における焙焼物への熱伝導性も向上する。これにより、還元熔融に必要な所定の温度に昇温するまでの速度(昇温速度)が高まり、効率的な還元熔融処理を行うことができる。
【0020】
なお、本明細書において造粒物とは、金属複合体の焙焼物を一体に結合することにより顆粒化したものをいい、少なくともその形状を維持できる程度の硬度を有するものをいう。
【0021】
この造粒物は、焙焼物とフラックスとが混合されて造粒して得られるものであり、その形状を維持できる程度の硬度を有する。そのため、例えばその形状を維持したまま崩壊せずにコンベアー等により搬送することも可能である。このように本実施の形態に係る熔融原料の調製方法により処理された熔融原料は取り扱い性も良好である。
【0022】
さらに、本実施の形態では、焙焼物と酸化カルシウムを含むフラックスとを混合することを特徴としている。カルシウムを主成分として含むフラックスを熔融原料に含ませることにより、カルシウムを主成分として含むフラックスが粘結剤としての機能を有するため、造粒物の硬度を高くすることができる。ところが、炭酸カルシウムを主成分として含むフラックスを熔融原料に含ませると、還元熔融時の過程で、短時間に熱分解して炭酸ガスが発生する。このように熔融物が発泡状態であると、発泡による熔融物の上面の盛り上がり量を考慮して原材料の装入量を制御しなければならない。例えば、原材料の装入量を抑制すると生産効率が低下する。また、熔融物が発泡状態であると、熔融炉上面の開口部から熔融物が溢れ出てしまうおそれもある。
【0023】
そこで、焙焼物と酸化カルシウムを含むフラックスとを混合することで熔融物が発泡状態になることを効果的に抑制して、熔融物が発泡状態となることによる生産効率の低下を抑制することが可能となる。
【0024】
さて、処理対象である熔融原料としては、例えば、自動車若しくは電子機器等の劣化による廃棄物、リチウムイオン電池の寿命に伴い発生したリチウムイオン電池のスクラップ、又は電池製造工程内の不良品等の廃電池等を含む金属複合体が挙げられる。
【0025】
以下では、リチウムイオン電池の廃電池から得られた熔融原料を処理対象とする場合を一例として、熔融原料の調製方法を有価金属回収方法の各工程とともに説明する。
【0026】
なお、本発明において、処理対象である熔融原料は、廃電池を含む金属複合体の焙焼物に限定されるものではないが、廃電池は電極に由来する有価金属の他に電池パック等に由来する有価金属以外のものを多く含むことから、有価金属に対して金属複合体全体の体積が大きくなる。このため、炉内充填嵩密度を高めることができなくなり効率的な還元熔融処理を行うことができなくなるという課題が発生しやすいものであるので、廃電池を含む金属複合体の焙焼物を処理対象とすることで本発明の利益を好適に享受できる。
【0027】
≪2.有価金属回収方法の各工程≫
以下、熔融原料の調製方法について、その前提となる有価金属回収方法と共に説明する。
【0028】
具体的には、有価金属回収方法は、図1に示すように廃電池から電解液及び外装缶を除去する廃電池前処理工程S1と、廃電池前処理工程S1に供された廃電池を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程S2と、粉砕物を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程S3と、焙焼物と酸化カルシウムを含むフラックスとを混合して得られる混合物を造粒して造粒物を得る熔融原料調製工程S4と、熔融原料として造粒物を還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程S5と、を有する。
【0029】
[廃電池前処理工程]
廃電池前処理工程S1では、廃電池から電解液及び外装缶を除去する。廃電池内には電解液等を有しているためそのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがある。また、廃電池に含まれる外装缶は金アルミニウムや鉄などが含まれる場合が多く、こうしたアルミニウムや鉄などの外装缶はそのまま有価金属として比較的容易に回収することが可能である。本工程を経ることで、電池から電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高め、また、銅、ニッケル、コバルト等の有価金属の回収生産性を高めることができる。
【0030】
廃電池前処理工程S1の具体的な方法は特に限定されないが、例えば針状の刃先で廃電池を物理的に開孔し、電解液及び外装缶を除去する方法などが挙げられる。また、廃電池を加熱して電解液を燃焼して無害化してもよい。
【0031】
なお、廃電池前処理工程S1において、例えば外装缶に含まれるアルミニウムや鉄を回収する場合、除去した外装缶を粉砕した後に篩振とう機を用いて篩分けを行うようにすることができる。アルミニウムの場合、軽度の粉砕であっても容易に粉状となるため、外装缶からアルミニウムを効率的に回収することができる。また、磁力による選別によって、外装缶から鉄を回収することができる。
【0032】
[粉砕工程]
粉砕工程S2では、廃電池前処理工程S1に供された廃電池(金属複合体)を粉砕して粉砕物を得る。これにより、後述する還元熔融工程S5にて反応効率を高めて、銅、ニッケル、コバルトの有価金属の回収率を高めることができる。
【0033】
破砕処理において使用する破砕装置は、特に限定されず、カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて粉砕することができる。
【0034】
[焙焼工程]
焙焼工程S3では、廃電池の粉砕物を焙焼して焙焼物を得る。熔融原料に炭素が含まれると、後述する還元熔融工程S5においてメタルの凝集が阻害されて、メタルとスラグとの分離性が低下して有価金属の回収率が低下する。そこで、粉砕物を焙焼することにより粉砕物に含まれる炭素を酸化して除去することで後述する還元熔融工程S5においてメタルとスラグとを効果的に分離させて、有価金属の回収率を向上させることができる。
【0035】
また、焙焼工程これによりS3では、粉砕物に含まれる金属のうち少なくともアルミニウムを酸化する。後述する還元熔融工程S5において粉砕物に含まれるアルミニウムをスラグとしてメタルと分離することができる。
【0036】
焙焼処理における条件は、特に限定されないが、少なくとも粉砕物に含まれる炭素とアルミニウムを酸化できる程度の酸化度で焙焼処理を施すことが好ましい。具体的には、焙焼温度としては700℃以上に加熱して行うことが好ましい。なお、焙焼温度の上限としては、特に限定されないが、900℃以下とすることが好ましい。焙焼温度が高すぎると、主に廃電池の外部シェルに用いられている鉄等の一部がキルン等の焙焼炉本体の内壁等に付着してしまい、円滑な操業の妨げになる場合や、キルン自体の劣化につながる場合があり好ましくない。
【0037】
また、焙焼処理の際に、酸化度を調整するにあたって、炉内に適量の酸化剤を導入することが好ましい。酸化剤としては特に限定されないが、取り扱いが容易な点から、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体を用いることが好ましい。なお、酸化剤の導入量については、例えば、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度とすることができる。
【0038】
[熔融原料調製工程]
熔融原料調製工程S4は、次工程の還元熔融工程S5での還元熔融処理に供する原料(熔融原料)を調製する工程である。具体的に、熔融原料調製工程S4では、焙焼物と酸化カルシウムを含むフラックスとを混合して混合物を得て(混合工程S41)、得られた混合物を造粒することで造粒物を得る(造粒工程S42)。
【0039】
このように、還元熔融処理に先立ち、熔融対象である焙焼物とフラックスを混合し造粒して、焙焼物とフラックスとを含む造粒物を得る。そしてこのような造粒物の形態の熔融原料を熔融炉に装入して還元熔融処理に供することで、炉内への充填量や充填嵩密度を高め、また焙焼物への熱伝導性を向上させることができ、効率的な還元熔融処理を可能にする。
【0040】
以下、熔融原料調製工程S4に含まれる混合工程S41と、造粒工程S42と、についてそれぞれ説明する。
【0041】
(混合工程)
混合工程S41では、焙焼工程S3で得られた焙焼物と酸化カルシウムを含むフラックスとを混合して混合物を得る。従来一般的に、フラックスは、スラグを溶解させて除去することを目的として還元熔融処理時に熔融炉内に添加して使用されている。本実施の形態に係る熔融原料の調製方法においては、還元溶融処理に先立ち、予め焙焼物と酸化カルシウムフラックスとを混合して混合物を得て、後述する造粒工程S42にてその混合物を造粒して造粒物を作製する。
【0042】
また、造粒物に酸化カルシウムを含むフラックスを含むことによって、熔融物が発泡状態になることを効果的に抑制して、熔融物が発泡状態となることによる生産効率の低下を抑制することが可能となる。さらに、得られる造粒物の強度特性が向上し、炉内への充填量や充填嵩密度をより効果的に高めることができる。
【0043】
焙焼物への酸化カルシウムを含むフラックスの混合割合の下限は、混合物中の焙焼物100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましい。フラックスの含有割合の上限は、混合物中の焙焼物100質量部に対して50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
【0044】
また、フラックスは、それ自体が粘結剤として機能する。そのため、焙焼物とフラックスとを混合し、得られる混合物を造粒することで、一体に結合した造粒物と有効に得ることができる。
【0045】
焙焼物とフラックスとを混合するに際しては、ヘンシェルミキサー等の種々の混合機を用いて行うことができる。上述のように、フラックス自体が粘結剤としての機能を有するため、水や粘結剤を必要としない。なお、水や粘結剤を混合しないで得られる造粒物では、その造粒物を乾燥する工程が不要となるため、操業コスト面で優れる。
【0046】
なお、後述する還元熔融工程S5で還元剤として炭素を使用する場合には、炭素をフラックスとともに混合物に含有させてもよい。
【0047】
(造粒工程)
造粒工程S42では、混合工程S41で得られた混合物を造粒して造粒物を得る。具体的には、例えば造粒機を使用して、得られた混合物を一体に結合し得る所定の圧力(線圧)を加えて造粒することで、その形状を維持できる程度の硬度を有する造粒物を得る。
【0048】
混合物を造粒する際に付加する圧力(線圧)としては、特に制限されるものではないが、下限は、1.0t/cm以上であることが好ましく、1.5t/cm以上であることがより好ましく、2.0t/cm以上であることがさらに好ましい。上限は特に制限はないが、4.0t/cm超にしても炉内充填嵩密度を高めることができなくなることから4.0t/cm以下であることが好ましい。
【0049】
このようにして得られた造粒物であればフラックスが粘結剤として機能し、造粒する際に付加する圧力(線圧)によって一体に結合した造粒物が得られる。また、造粒物の形態となっているため、その造粒物中における焙焼物とフラックスとの密着性が高まり、焙焼物への熱伝導性を向上させることができる。
【0050】
[還元熔融工程]
還元熔融工程S5は、熔融原料として前記造粒物を還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る。還元熔融工程S5は、焙焼工程S3で酸化したアルミニウム等の不要な酸化物は酸化物のままで、焙焼工程S3で酸化してしまった銅等の有価金属の酸化物については還元及び熔融させ、還元物を一体化した合金として回収することを目的とする。なお、熔融物として得られる合金を「熔融合金」ともいう。
【0051】
ここで、本実施の形態では、熔融原料調製工程S4において、熔融原料を還元熔融するのに先立ち、熔融原料とフラックスとを混合して得られる混合物を造粒して造粒物を得ている。したがって、この造粒物を熔融原料として熔融炉に装入することで、熔融炉内への充填量を高め、また炉内充填嵩密度を高めることができ、熔融処理量を増やして効率的な還元熔融処理を行うことが可能となる。また、造粒物の形態となっているため、その造粒物中における焙焼物とフラックスとの密着性が高まり、還元溶融処理時における焙焼物への熱伝導性を向上させることができる。これにより、還元熔融に必要な所定の温度に昇温するまでの速度(昇温速度)が高まり、熔融処理時間が短縮されて、より一層効率的な還元熔融処理を行うことが可能となる。
【0052】
還元熔融工程S5では、例えば炭素又は一酸化炭素等の存在下で行うことが好ましい。炭素は、回収対象である有価金属の銅、ニッケル、コバルト等を容易に還元する能力があり、例えば炭素1モルで、銅酸化物やニッケル酸化物等の有価金属の酸化物2モルを還元することができる還元剤である。また、炭素又は一酸化炭素を用いた還元では、例えばアルミニウム等の金属粉を還元剤として還元するテルミット反応を利用する場合に比べ、極めて安全性が高い。
【0053】
炭素としては、人工黒鉛や天然黒鉛の他、不純物のコンタミの恐れが無ければ石炭やコークス等を使用することができる。
【0054】
熔融処理における温度条件(熔融温度)としては、特に限定されないが、1300℃以上1500℃以下の温度とすることが好ましい。熔融温度が1300℃を下回ると、熔融合金の流動性が悪化する場合があり、不純物と有価金属の分離効率が悪化する可能性がある。一方で、熔融温度を1500℃を超える温度とすると、熱エネルギーが無駄に消費され、るつぼ等の耐火物の消耗も激しくなり、生産性が低下する可能性がある。そのため、熔融温度としては1500℃以下とすることが好ましい。
【0055】
熔融炉は、バーナーを有するバーナー炉であっても、電気等を用いた加熱手段を有する電気炉であってもよいが、電気炉であることが好ましい。
【0056】
熔融処理においては、フラックスを用いることが好ましい。フラックスを用いて還元物を熔融することで、アルミニウム等の酸化物を含有するスラグをフラックスに溶解させて除去することができる。なお、本実施の形態では、熔融原料である粒状物にフラックスが所定量含まれているので、熔融処理においては、フラックスを必ずしも用いなくともよい。
【0057】
熔融処理においてフラックスを用いる場合、フラックスとしては、カルシウムを主成分として含むものが好ましく、例えば酸化カルシウムや炭酸カルシウムを用いることができる。また、フラックスとして炭酸カルシウムを用いると、熔融物が発泡状態となることがあるので、酸化カルシウムを含むものを使用することが好ましい。なお、熔融処理でのフラックスは粒状物に含まれるフラックスと同じものであっても異なるものであってもよい。
【0058】
また、還元熔融工程で得られた合金には、合金を回収する前に硫黄を添加しても良く、これにより合金を脆くして破砕しやすくすることができる。合金を破砕することで比表面積を大きくすることができ、これにより湿式製錬プロセスでの浸出性を向上させることができる。
【0059】
熔融原料にリンが含まれている場合、リンは酸化すると酸性酸化物になるため、スラグの組成は塩基性であるほどリンをスラグに除去しやすい。スラグ中で塩基性酸化物となるカルシウムが多いほうが良く、酸性酸化物となる珪素は少ない方が良く、特にスラグ中の二酸化珪素/酸化カルシウムの質量比が0.5以下であることが好ましい。また、酸化アルミニウムの割合が大きいとスラグの融点が上昇するため、酸化アルミニウムを熔融するために十分な量のカルシウムが必要であり、特にスラグ中の酸化カルシウム/酸化アルミニウムの質量比が0.3以上2以下であることが好ましい。これにより、スラグが塩基性となり、酸性酸化物を生成するリンを効果的に除去できる。なお、熔融処理においては、粉塵や排ガス等が発生することがあるが、従来公知の排ガス処理を施すことによって無害化することができる。
【0060】
このように、上述した乾式処理プロセスによってリンを除去することができるため、回収した熔融合金を湿式製錬プロセスに供する場合には、そのプロセスを単純化することができる。このとき、この湿式製錬プロセスでの処理量は、投入廃電池の量に比べて質量比で1/4から1/3程度まで少なくなっていることも有利な点である。したがって、乾式工程(廃電池前処理工程S1~還元熔融工程S5)を広義の前処理とすることで、不純物(リン)の少ない合金を得るとともに処理量も大幅に減らすことで、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとを組み合わせることが工業的に可能である。
【0061】
なお、湿式製錬プロセスにおける処理は、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の方法により行うことができ、特に限定されない。一例を挙げれば、コバルト、ニッケル、銅からなる合金の場合、硫酸等の酸で有価金属を浸出させた後(浸出工程)、溶媒抽出等により例えば銅を抽出し(抽出工程)、残存したニッケル及びコバルトの含有溶液は、電池製造プロセスにおける正極活物質製造工程に払い出すようにする。
【実施例
【0062】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
銅、アルミニウム、炭素を主成分とし、さらにニッケル、コバルト、鉄、リチウムを含むリチウムイオン電池の廃電池から電解液及び外装缶を除去し(廃電池前処理工程)、粉砕して粉砕物を得た(粉砕工程)。そして、粉砕物を焙焼し(焙焼工程)、酸化処理を行って得た焙焼物0.60tにフラックスとしてCaO(酸化カルシウム)0.10tを添加し、ヘンシェルミキサーで混合し、混合物0.70tを得た(混合工程)。この混合物を直径650mm、幅100mmのロールを有するブリケットマシンを用いて、線圧2.0t/cm、回転数3rpmの条件で加圧し、造粒物(30mm×25mm×7.5mm)を得た(造粒工程)。
【0064】
そして、この造粒物をコンベアー搬送して、熔融炉(電気炉)へ向けて装入量が60Lとなるように装入した。このときに装入した原料の重量と容積から、炉内へ装入された原料の充填嵩密度(以下、炉内充填嵩密度ともいう。)を求めた。
【0065】
次に、平均出力130kwの出力で熔融炉(電気炉)に通電して、装入した原料を1400℃に昇温した。この昇温に要した時間を計測し、昇温速度を求めた。
【0066】
さらに、1400℃に昇温後、この状態で30分保持するとともに、熔融物の上面の状態を観察した。
【0067】
[実施例2]
造粒工程でのブリケットマシンの加圧条件を線圧3.0t/cmとして加圧した以外は、実施例1と同様に行った。
【0068】
[比較例1]
酸化処理を行って得た焼結物0.54tにフラックスとしてCaCO(炭酸カルシウム)0.16tを添加し、ブリケットマシンの加圧条件を線圧3.0t/cmとして加圧した以外は、実施例1と同様に行った。
【0069】
[比較例2]
酸化処理を行って得た焼結物0.54tにフラックスとしてCaCO(炭酸カルシウム)0.16tを添加し、混合原料との重量比で1.0wt%の水と、1.0wt%の粘結剤(α澱粉)を混合原料に添加して、ブリケットマシンの加圧条件を線圧3t/cmとして加圧し、得られた造粒物を乾燥した以外は、実施例1と同様に行った。
【0070】
[比較例3]
混合物の造粒を行わず、この混合物そのものを熔融炉(電気炉)へ装入したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0071】
各実施例、比較例における焼結物量、フラックス量、造粒物量、及び造粒線圧を表1に示す。各実施例、比較例における炉内充填嵩密度、昇温速度、及び発泡の有無を表2に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
表1,2から分かるように、酸化カルシウムを含むフラックスとの混合物の造粒物を熔融原料を調製し、その造粒物の形態で還元熔融処理を施した実施例1,2は、炉内充填嵩密度を高めることができ、昇温速度も高く、熔融物が発泡状態になることを効果的に抑制できていることが分かる。
【0075】
また、造粒線圧を3.0t/cmにして造粒した実施例2では、炉内充填嵩密度をより高めることができ、還元熔融に必要な所定の温度に昇温するまでの時間をさらに短縮できることが分かる。
【0076】
一方、酸化処理を行って得た焼結物にフラックスとしてCaCO(炭酸カルシウム)を添加した比較例1、2では炉内充填嵩密度や昇温速度は実施例と同様に高いものであったが、熔融物に発泡が確認された。
【0077】
さらに、酸化カルシウムを含むフラックスとの混合物を造粒しなかった比較例3では、炉内充填嵩密度を高めることができず、昇温速度も低くなっており、効率的な還元熔融処理を行うという本発明の課題を達成できるものとなっていない。
図1