(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 21/08 20060101AFI20240820BHJP
F02M 26/49 20160101ALI20240820BHJP
F02D 41/06 20060101ALI20240820BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F02D21/08 301C
F02M26/49
F02D41/06
F02D41/22
(21)【出願番号】P 2020100040
(22)【出願日】2020-06-09
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和通
(72)【発明者】
【氏名】松永 英雄
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-245660(JP,A)
【文献】特開2006-083710(JP,A)
【文献】特開2013-083249(JP,A)
【文献】特開2006-274952(JP,A)
【文献】特開2002-327643(JP,A)
【文献】特開2001-271687(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0032590(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 - 45/00
F02M 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室に接続された吸気通路及び排気通路と、
前記エンジンに燃料を供給する噴射装置と、
前記エンジンの空燃比を検出する空燃比
センサと、
前記空燃比センサの活性後に実施され、前記空燃比
センサの検出結果に応じて空燃比を制御する空燃比フィードバック制御を行う空燃比フィードバック制御手段と、
前記吸気通路と前記排気通路とを結び排気の一部を排気還流ガスとして吸気に導入する排気ガス再循環装置と、
前記空燃比センサの活性前であり、エンジン始動時から前記空燃比フィードバック制御が開始されるまでの間に、前記エンジンの回転変動を検知した際に前記噴射装置による燃料噴射量を増加させる燃焼フィードバック制御を行う燃焼フィードバック制御手段と、
前記排気ガス再循環装置の故障を検知する排気ガス再循環装置故障検知手段と、
を備え、
前記排気ガス再循環装置に故障が発生した時に、前記燃焼フィードバック制御手段は、前記故障の内容に基づいて前記燃焼フィードバック制御における燃料噴射量の増量値を調整するエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記排気ガス再循環装置は、前記吸気通路と前記排気通路とを結ぶ排気還流通路と、前記排気還流通路を開閉する排気還流バルブと、を備え、
前記排気ガス再循環装置の故障の内容が、前記排気還流バルブが開放状態で故障する開故障である場合に、前記燃焼フィードバック制御手段は前記燃焼フィードバック制御における燃料噴射量の増量値を増量する請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記排気ガス再循環装置故障検知手段は、前記
開故障
した状態における前記排気還流バルブの
開度である故障開度を判定する機能を有し、
前記燃焼フィードバック制御手段は、前記故障開度が大きいほど前記燃焼フィードバック制御における燃料補正量を増量する請求項2に記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記燃焼フィードバック制御手段は、前記燃焼フィードバック制御における燃料噴射量が上限値を超えないように前記燃料噴射量を制御し、
前記排気ガス再循環装置に故障が発生した場合、前記燃焼フィードバック制御手段は、前記上限値を
前記排気ガス再循環装置の故障の発生が検知されない場合に比べ高く設定することで、前記燃焼フィードバック制御における燃料補正量を増量する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジン始動後において、空燃比がリーン側となる所定の燃料噴射量に制御することにより、HCの排出を抑制するとともに排気浄化装置の触媒温度を早期に上昇させて活性化を促進し、排気浄化性能を改善する手法がある。このとき、失火しない程度に、安定限界ぎりぎりの所定値まで空燃比をリーン化することが行われる。
【0003】
その後、排気浄化装置の暖機が完了すれば、始動時以外の通常の運転状態で用いられる空燃比フィードバック制御に移行する(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
また、一般に、エンジンの排気通路と吸気通路との間には、排気の一部を排気還流ガスとして吸気に導入する排気ガス再循環装置が設けられる場合がある。排気ガス再循環装置は、排気通路と吸気通路との間を連通する排気還流通路と、その排気還流通路に設けられる排気還流バルブ等を備えている。排気還流バルブの開閉とスロットルバルブの開閉等に伴う吸気通路内の圧力状態に応じて、適宜必要な量の排気還流ガスが吸気に導入される。排気還流ガスの吸気への導入により、燃焼室内における燃焼温度が低下するので、その温度低下により、窒素酸化物等の抑制や燃費の向上が図られ、ノッキングの抑制も図られる(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-53492号公報(段落0002,0003等参照)
【文献】特開2012-202333号公報(段落0027~0029、
図3等参照)
【文献】特開2019-148214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2のように、エンジン始動後は、空燃比を所定値とする制御が行われる。このとき、エンジンの回転変動が所定の閾値より大きくなると、失火の可能性があると判断して燃料噴射量を増量する燃焼フィードバック制御が働く。
【0007】
しかし、排気ガス再循環装置を備えたエンジンでは、整備が不充分であった場合に、あるいは経年により、排気ガス再循環装置に不具合(故障)が発生する場合がある。その事例として、例えば、経年による排気還流バルブの固着や、異物の噛み込みや詰りによるものが考えられる。
【0008】
故障の内容が、排気還流バルブが開放状態で固着する開固着や異物の噛み込みによりある開度から閉まらないような状態である場合、過度に多い排気還流ガスが吸気に導入され、その結果、燃焼が不安定になる場面が想定される。このような運転状態では、いわゆる半失火の状態になる可能性がある。半失火が生じると、完全失火に至る(エンストする)おそれがある。また、故障の内容が、排気還流バルブが閉鎖状態で固着する閉固着や異物の詰りによりある開度から開かないような状態の不具合である場合、排気還流ガスの導入量が過少になり、その結果、燃焼温度が上昇する場面が想定される。このような運転状態では、排出ガスの窒素酸化物等の増加や、ノッキングが発生するおそれがある。
【0009】
そこで、この発明の課題は、エンジン始動時から空燃比フィードバック制御が開始されるまでの間に、エンジンの回転変動に応じて空燃比を制御する燃焼フィードバック制御において、排気ガス再循環装置に故障が発生した際にも排気ガスの悪化を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、エンジンの燃焼室に接続された吸気通路及び排気通路と、前記エンジンに燃料を供給する噴射装置と、前記エンジンの空燃比を検出する空燃比センサと、前記空燃比センサの活性後に実施され、前記空燃比センサの検出結果に応じて空燃比を制御する空燃比フィードバック制御を行う空燃比フィードバック制御手段と、前記吸気通路と前記排気通路とを結び排気の一部を排気還流ガスとして吸気に導入する排気ガス再循環装置と、前記空燃比センサの活性前であり、エンジン始動時から前記空燃比フィードバック制御が開始されるまでの間に、前記エンジンの回転変動を検知した際に前記噴射装置による燃料噴射量を増加させる燃焼フィードバック制御を行う燃焼フィードバック制御手段と、前記排気ガス再循環装置の故障を検知する排気ガス再循環装置故障検知手段と、を備え、前記排気ガス再循環装置に故障が発生した時に、前記燃焼フィードバック制御手段は、前記故障の内容に基づいて前記燃焼フィードバック制御における燃料噴射量の増量値を調整するエンジンの制御装置を採用した。
【0011】
ここで、前記排気ガス再循環装置は、前記吸気通路と前記排気通路とを結ぶ排気還流通路と、前記排気還流通路を開閉する排気還流バルブと、を備え、前記排気ガス再循環装置の故障の内容が、前記排気還流バルブが開放状態で故障する開故障である場合に、前記燃焼フィードバック制御手段は前記燃焼フィードバック制御における燃料噴射量の増量値を増量する構成を採用することができる。
【0012】
また、前記排気ガス再循環装置故障検知手段は、前記開故障した状態における前記排気還流バルブの開度である故障開度を判定する機能を有し、前記燃焼フィードバック制御手段は、前記故障開度が大きいほど前記燃焼フィードバック制御における燃料補正量を増量する構成を採用することができる。
【0013】
これらの各態様において、前記燃焼フィードバック制御手段は、前記燃焼フィードバック制御における燃料噴射量が上限値を超えないように前記燃料噴射量を制御し、前記排気ガス再循環装置に故障が発生した場合、前記燃焼フィードバック制御手段は、前記上限値を前記排気ガス再循環装置の故障の発生が検知されない場合に比べ高く設定することで、前記燃焼フィードバック制御における燃料補正量を増量する構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
エンジン始動時から空燃比フィードバック制御が開始されるまでの間に、エンジンの回転変動に応じて空燃比を制御する燃焼フィードバック制御において、排気ガス再循環装置に故障が発生した際にも、排気ガスの悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の一実施形態を示すエンジンの制御装置を模式的に示す全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1はこの発明のエンジン1の制御装置の構成を示す全体図である。
【0017】
エンジン1は自動車用の4気筒エンジンである。
図1に示すように、シリンダ(燃焼室)2を4つ並列に備えており、それぞれのシリンダ2内に空気を送り込む吸気ポートに通じる吸気通路4、排気ポートから引き出された排気通路5、各シリンダ2に燃料を供給する噴射装置10等を備えている。なお、
図1では、この発明に直接関係する部材、手段のみを示し、他の部材等については図示省略している。また、図面では、4つのシリンダ2を備えた例を示しているがシリンダ2の数は自由であり、エンジンは、2気筒以上であればよく、気筒の配置は直列には限定されない。また、噴射装置10は各シリンダ2内に直接燃料を噴射するものとしているが、吸気ポートに燃料を噴射するものとしてもよい。
【0018】
吸気通路4の上流側の部分には、流路面積を調整するスロットルバルブ3が設けられ、吸気量を調整可能としている。また、排気通路5には、排気通路5内の空燃比を検出する空燃比検出手段が設けられている。空燃比検出手段として、排気マニホールドの各通路の合流部よりも下流側の合流後排気通路11に、第一空燃比センサ(第一空燃比検出手段)12が取り付けられている。合流後排気通路11の先には、下流側へ向かって、排気中の窒素酸化物等を除去する触媒等を備えた排気浄化装置13、さらにその下流側に空燃比検出手段として第二空燃比センサ(第二空燃比検出手段)14が取り付けられ、さらにその下流側にマフラ15等が設けられている。
【0019】
吸気通路4と排気通路5との間には、その吸気通路4と排気通路5との間を連通する排気還流通路21と、その排気還流通路21の流路を開閉する排気還流バルブ22等を備えた排気ガス再循環装置20が設けられている。排気還流通路21は、スロットルバルブ3より下流側で吸気通路4に連結している。排気還流バルブ22は、排気還流通路21の途中、あるいは、排気還流通路21と吸気通路4との合流部に設けられる。排気還流バルブ22の開閉とスロットルバルブ3の開閉等に伴う吸気通路4内の圧力状態に応じて、適宜必要な量の排気還流ガスが吸気に導入される。
【0020】
なお、一般に、ターボチャージャを備えるエンジンでは、排気ガス再循環装置20として、比較的圧力が高い排気ガスを扱う高圧排気ガス再循環装置と、比較的圧力が低い排気ガスを扱う低圧排気ガス再循環装置とが選択的に、又はその両方が設けられる場合がある。また、排気還流ガスを冷却する排気還流ガスクーラも必要に応じて設けられる。本実施形態では、ターボチャージャや排気還流ガスクーラを有していないが、本発明は、これらを有したエンジンにも適用可能である。また、排気還流通路21は、スロットルバルブ3より上流側で吸気通路4に連結させてもよい。
【0021】
スロットルバルブ3、及び噴射装置10を含むエンジンの動作に必要な機器は、それぞれこのエンジン1を搭載する車両が備える電子制御ユニット(Electronic Control Unit)30によって制御される。また、第一空燃比センサ12、第二空燃比センサ14等からの各種情報は、電子制御ユニット30に伝達される。
【0022】
電子制御ユニット30は、シリンダ2内の空燃比を制御する空燃比フィードバック制御手段31を備えている。空燃比フィードバック制御手段31は、スロットルバルブ3を制御して吸気通路4の吸気量と、噴射装置10からシリンダ2に噴射する燃料の量を調整する。個々のシリンダ2の排気は排気通路5へ排出され、排気浄化装置13で浄化された後、マフラ15を通じて排出される。
【0023】
また、電子制御ユニット30は、排気ガス再循環装置20を制御する排気還流ガス制御手段32を備えている。排気還流ガス制御手段32は、運転状況に応じて排気還流バルブ22の開閉や吸気通路4内の圧力状態を制御し、排気還流ガスの吸気への導入量を調整する。排気還流ガスの吸気への導入量は、目標となる排気還流ガス率である目標排気還流ガス率に対して、実際の排気還流ガス率である実排気還流ガス率を近づけていく制御で調整される。
【0024】
空燃比フィードバック制御手段31は、エンジンの運転状態に応じて設定された目標空燃比となるように空燃比を制御する。詳細には、エンジンの排気通路の排気浄化装置13より上流に配置された第一空燃比センサ12(リニア空燃比センサ/Linear Air Fuel Ratio Sensor)の値を目標空燃比に一致させるように、エンジンへの燃料供給量を制御するメインフィードバック制御を実施している。
【0025】
ただし、排気浄化装置13より上流にある第一空燃比センサ12(リニア空燃比センサ)は、得られる値の変動が激しいという問題がある。また、第一空燃比センサ12は並列の排気通路5から排気されるガスを受けて検出するため、気筒ごとに検知精度への影響が異なる。さらに、空燃比はシリンダ2ごとに癖があり、全てのシリンダ2が同様の挙動を示すわけではない。このため、第一空燃比センサ12によるメインフィードバック制御だけでは、運転条件に対応できない場合もある。これを是正するため、排気浄化装置13より下流に設けた第二空燃比センサ14(リヤO2センサ)の値に基づいて、メインフィードバック制御が行う制御の値を補完するサブフィードバック制御も行われている。これらのメインフィードバック制御やサブフィードバック制御等を総称して、空燃比フィードバック制御と称する。
【0026】
上記のように、空燃比フィードバック制御は第一空燃比センサ12や第二空燃比センサ14の出力値により行われるが、エンジン始動直後は第一空燃比センサ12や第二空燃比センサ14が十分に活性化しておらず、空燃比フィードバック制御を正確に行うことができない。そこで、電子制御ユニット30は、エンジン始動時から所定時間が経過するまでの間は、燃料噴射量を所定の値である初期値とし、エンジンの回転変動に応じて燃料噴射量を補正制御する燃焼フィードバック制御を行う燃焼フィードバック制御手段33を備えている。燃焼フィードバック制御は、エンジン始動後から初期値での燃料噴射によるエンジン運転中に、エンジンの回転変動によりエンジンの失火を検知すると、噴射装置10によるエンジンへの燃料供給量を増量させてエンジンの回転を安定させるものである。初期値は、例えば排ガスの排出量が所定の目標値を下回るような値とすればよく、空燃比がリーンとなるような値が望ましい。初期値は、予め実験等で求めておけばよい。 また、エンジンの失火は、エンジンの回転変動が所定値を超えたことによって検知される。燃焼フィードバック制御は、エンジン始動時から上述の空燃比フィードバック制御が開始する時点までの限られた期間内のみ行われる。その期間は、通常はエンジンを始動した時から20秒~30秒程度の短時間である。
【0027】
また、電子制御ユニット30は、排気ガス再循環装置20の故障を検知する排気ガス再循環装置故障検知手段34を備えている。排気ガス再循環装置20の故障(以下、排気ガス再循環装置故障と称する)の検出には種々の方法があるが、例えば、吸気通路4内の圧力状態の情報を活用することができる。吸気通路4内の圧力状態は、例えば、インテークマニホールド内に設けた図示しない圧力センサ(Manifold Absolute Pressure Sensor)等によって把握することができる。
【0028】
排気ガス再循環装置故障は、排気還流ガスの導入制御の指令が行われている状態(排気還流バルブ22全開指令時)と、その指令が行われていない状態(排気還流バルブ22全閉指令時)とでインテークマニホールド内の圧力を比較し、その圧力差から判定することができる。すなわち、排気還流ガスの導入制御の指令が行われている状態と、その指令が行われていない状態とで、圧力差が極小である場合は、排気還流バルブ22の開度が変動していないと考えられ、排気還流バルブ22が完全に開いた状態で故障している(完全開故障)、完全に閉じた状態で故障している(完全閉故障)、若しくはある開度から動かない状態で故障している(バルブ移動故障)ものと判断される。また、圧力差がある程度大きいが、排気ガス再循環装置の故障が発生していない正常状態に想定される圧力差(故障判定値)よりも小さい場合は、排気還流バルブ22の開度の変動量が正常状態に比べ小さいと考えられ、排気還流バルブ22がある開度から開かない、若しくは閉じない状態に故障している(中間故障)ものと判断される。
【0029】
排気ガス再循環装置故障の一例として、完全開故障は排気還流バルブ22が全開状態で固着した場合、完全閉故障は排気還流バルブ22が全閉状態で固着した場合、バルブ移動故障は排気還流バルブ22がある開度で開いた状態で固着した場合が考えられる。また、中間故障は、排気還流バルブ22の閉方向に異物が噛み込み、それ以上排気還流バルブ22を閉じられない場合や、排気還流バルブ22の開方向に異物が詰り、それ以上排気還流バルブ22を開くことができない場合が考えられる。その他の排気ガス再循環装置故障の例としては、排気還流バルブ22を駆動するアクチュエータの出力異常により、排気還流バルブ22の開度が想定より大きくなる、若しくは小さくなる場合が考えられる。また、故障した状態の排気還流バルブ22の開度である故障開度は、上記のようなインテークマニホールド内の圧力によって判定することができる。すなわち、インテークマニホールド内の圧力が大きいほど、大きな開度で故障しているものと判定することができる。
【0030】
なお、排気ガス再循環装置故障の検出は、所定の運転状態、例えば、燃料カット時の走行中に検出する。故障判定値は、所定の運転状態における圧力差を予め実験等によって求めておき設定すればよい。また、排気還流バルブ22の故障が開方向へ動かない開方向故障なのか、閉方向へ動かない閉方向故障なのかは、正常状態における排気還流バルブ22全開指令時及び排気還流バルブ22全閉指令時のインテークマニホールド内の圧力と、排気ガス再循環装置故障の検出時における排気還流バルブ22全開指令時及び排気還流バルブ22全閉指令時のインテークマニホールド内の圧力とを比較することで判断すればよい。具体的には、正常状態における排気還流バルブ22全閉指令時のインテークマニホールド内の圧力に比べ排気ガス再循環装置故障の検出時における排気還流バルブ22全閉指令時のインテークマニホールド内の圧力が高い(負圧が小さい)場合は、排気還流バルブ22の故障が開方向故障であると判断できる。また、正常状態における排気還流バルブ22全開指令時のインテークマニホールド内の圧力に比べ排気ガス再循環装置故障の検出時における排気還流バルブ22全開指令時のインテークマニホールド内の圧力が低い(負圧が大きい)場合は、排気還流バルブ22の故障が閉方向故障であると判断できる。このとき、正常状態におけるインテークマニホールド内の圧力は、故障判定時と同様の運転状態における値を用いるとよい。
【0031】
運転時に排気ガス再循環装置故障を検出した際には、その排気ガス再循環装置故障の有無と故障の内容が電子制御ユニット30に記憶され、その記憶が、次回運転開始時におけるエンジン始動後の燃焼フィードバック制御に活用される。
【0032】
エンジン始動直後の燃焼フィードバック制御において、
図2(a)に示すように、前回の運転時に排気ガス再循環装置故障の発生の情報がある場合を想定する。
図2(a)において、インテークマニホールド内の圧力の変化量(インマニ圧変化量)を示す符号a1は判定値a0以下であり、排気ガス再循環装置故障が発生している故障状態である。符号a2は判定値a0を超えており、排気ガス再循環装置故障が発生していない正常状態である。なお、本実施形態では、故障の内容は、排気還流バルブ22の開固着であるものとする。
【0033】
図2(b)はエンジン回転数の変動を示している。
図2(b)の回転数の変動に基づき、
図2(c)の回転数偏差が算出される。回転数偏差が、半失火判定値を下回っている符号c1,c2,c3,c4・・・の各地点の情報に基づき、通常の燃焼フィードバック制御であれば、
図2(d)の符号e1に示す燃料噴射量の増量補正の制御に移行する。具体的には、符号c1,c2,c3,c4・・・の各地点において燃料噴射量を所定量増量させる。燃料噴射量を増量した後は、再び回転変動を検知するまでは徐々に燃料噴射量を減少させる。すなわち、短期間で回転変動が何度も発生した場合は燃料噴射量が徐々に増量し、長期間にわたり回転変動が発生しない場合は燃料噴射量が初期値に向かい減少していく。このようにすることで、エンジン回転を安定させつつ燃料噴射量を極力初期値でエンジンの運転を行うようにしている。このとき、燃料噴射量は上限値と下限値をそれぞれ有し、燃料噴射量が所定の上限値を超えないように、また、所定の下限値を下回らないように設定されている。しかし、排気ガス再循環装置故障が発生している故障状態であれば、符号d1に示すように、燃料の補正量がさらに高い値に制御される。すなわち、燃料噴射量の上限値が正常状態に比べ大きな値に変更される。図中の符号e0は正常状態での燃料噴射量の上限値を示し、符号d0は故障状態で増量された高い値の燃料噴射量の上限値を示している。すなわち、排気ガス再循環装置に故障が発生した時に、燃焼フィードバック制御手段33は、その故障の内容に基づいて、燃焼フィードバック制御における燃料補正量(増量値)を本来の正常状態で用いる値から増減する調整を行っている。特に、その故障の内容が、排気還流バルブ22の開固着である場合に、燃料補正量(増量値)を正常状態の値よりも増量する制御を行っている。
【0034】
また、排気ガス再循環装置故障の内容に基づいて、燃料補正量(増量値)を調整する度合いを変化させる制御も可能である。例えば、排気還流バルブ22の故障開度(故障した状態の弁の開度α/0%≦α≦100%)を基準に、その故障開度が大きいほど補正量を増大する度合いを高める(上限値を大きくする)制御が可能である。例えば、固着開度(故障開度)を、完全閉固着、中間開度固着、完全開固着等の複数段階のグレードに分けて、それぞれのグレードに異なる燃料補正量の増量度合いを設定することができる。
【0035】
また、燃焼フィードバック制御中に排気還流ガスを導入するような場合は、排気ガス再循環装置故障の内容が、排気ガス再循環装置が故障していない場合に比べ排気還流バルブ22の開度が小さくなるような故障開度で故障している場合は、燃料補正量の増量度合いを排気ガス再循環装置が故障していない場合に比べ小さく設定してもよい。更に、排気ガス再循環装置故障の内容が、排気還流通路21から排気ガスが漏れ出ているような場合は、燃料補正量の増量度合いを排気ガス再循環装置が故障していない場合に比べ小さく設定してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン
2 燃焼室(シリンダ)
3 スロットルバルブ
4 吸気通路
5 排気通路
10 噴射装置(筒内噴射装置)
12 第一空燃比検出手段(第一空燃比センサ)
13 排気浄化装置
14 第二空燃比検出手段(第二空燃比センサ)
20 排気ガス再循環装置
21 排気還流通路
22 排気還流バルブ
30 電子制御ユニット
31 空燃比フィードバック制御手段
32 排気還流ガス制御手段
33 燃焼フィードバック制御手段
34 排気ガス再循環装置故障検知手段