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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】電子装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/34 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
H05K3/34 501D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020138856
(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公開番号】P2022034914
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-01-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】山本 大貴
【審査官】小南 奈都子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-222195(JP,A)
【文献】特開2005-286274(JP,A)
【文献】特開平11-040949(JP,A)
【文献】特開平05-136285(JP,A)
【文献】特開2014-239261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層をなす絶縁基板である表層基板(20)と内層をなす前記絶縁基板である内層基板(30)とが互いに板厚方向に重なって設けられている多層基板(10)と、
前記表層基板に設けられている表層ランド(21)と、
前記表層基板に実装される電子部品(80)と、
前記電子部品と前記表層ランドとを接合している接合はんだ(25)と、
前記絶縁基板を貫通する電流経路を構成しているビアホール(50)とを備え、
前記接合はんだは、固液相線幅が13℃以上であり、
前記ビアホールは、前記接合はんだと前記板厚方向に重ならない位置に設けられた前記ビアホールのうち前記接合はんだから最も近い距離に位置している近接ビアホール(51)を備え、
前記ビアホールと前記表層ランドとの間に、金属材料が配置されることなく前記表層基板が設けられており、
前記近接ビアホールは、前記接合はんだから前記近接ビアホールまでの距離である離間距離(Ld)が前記近接ビアホールの直径であるホール直径(Dh)よりも大きくなる位置に設けられている電子装置。
【請求項2】
前記電子部品は、前記接合はんだに接触している接続部(82)を備え、
前記接続部は、前記接合はんだのうち前記接合はんだの中央部分よりも前記近接ビアホールから離れた部分に接触している請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
表層をなす絶縁基板である表層基板(20)と内層をなす前記絶縁基板である内層基板(30)とが互いに板厚方向に重なって設けられている多層基板(10)と、
前記表層基板に設けられている表層ランド(21)と、
前記表層基板に実装される電子部品(80)と、
前記電子部品と前記表層ランドとを接合している接合はんだ(25)と、
前記絶縁基板を貫通する電流経路を構成しているビアホール(250)とを備え、
前記接合はんだは、固液相線幅が13℃以上であり、
前記ビアホールは、前記接合はんだと前記板厚方向に重なる位置に設けられた前記ビアホールのうち前記接合はんだから最も近い距離に位置している近接ビアホール(251)を備え、
前記ビアホールと前記表層ランドとの間に、金属材料が配置されることなく前記表層基板が設けられており、
前記近接ビアホールは、前記接合はんだから前記近接ビアホールまでの距離である離間距離(Ld)が前記表層基板の基板厚さ(Ts)よりも大きくなる位置に設けられている電子装置。
【請求項4】
前記内層基板は、前記表層基板よりも厚い前記絶縁基板であり、
前記近接ビアホールは、前記離間距離が前記内層基板の基板厚さ(Ti)よりも大きくなる位置に設けられている請求項3に記載の電子装置。
【請求項5】
前記近接ビアホールは、少なくとも前記電子部品が実装されている前記表層基板を貫通しない電流経路を構成している内層ビアホールである請求項1から請求項のいずれかに記載の電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、リフトオフ現象の発生を低減させることが可能な多層プリント配線板、回路モジュールおよび電子機器を開示している。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-172329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術文献の構成では、スルーホールランド部と基板との密着面積を多くすることでリフトオフ現象の発生を低減させている。また、所望の性能のはんだを得る目的で、組成の異なる様々なはんだが開発されている。ここで、剥離が引き起こされる状況は様々であり、同じ電子装置であっても、はんだの性能によって剥離が引き起こされる場合と引き起こされない場合があり得る。このため、剥離が引き起こされやすいはんだに対しては、剥離を防止するための特別な対策を行う必要がある。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、電子装置にはさらなる改良が求められている。
【0005】
開示される1つの目的は、多層基板に電子部品が安定して接合された電子装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された電子装置は、表層をなす絶縁基板である表層基板(20)と内層をなす絶縁基板である内層基板(30)とが互いに板厚方向に重なって設けられている多層基板(10)と、表層基板に設けられている表層ランド(21)と、表層基板に実装される電子部品(80)と、電子部品と表層ランドとを接合している接合はんだ(25)と、絶縁基板を貫通する電流経路を構成しているビアホール(50)とを備え、接合はんだは、固液相線幅が13℃以上であり、ビアホールは、接合はんだと板厚方向に重ならない位置に設けられたビアホールのうち接合はんだから最も近い距離に位置している近接ビアホール(51)を備え、ビアホールと表層ランドとの間に、金属材料が配置されることなく表層基板が設けられており、近接ビアホールは、接合はんだから近接ビアホールまでの距離である離間距離(Ld)が近接ビアホールの直径であるホール直径(Dh)よりも大きくなる位置に設けられている。
【0007】
開示された電子装置によると、近接ビアホールは、接合はんだから近接ビアホールまでの距離である離間距離が近接ビアホールの直径であるホール直径よりも大きくなる位置に設けられている。このため、温度変化に起因して多層基板表面に段差が発生した場合であっても、接合はんだが多層基板表面の段差の影響を受けにくい。したがって、接合はんだによる接合を安定させやすい。よって、多層基板に電子部品が安定して接合された電子装置を提供できる。
【0008】
ここに開示された電子装置は、表層をなす絶縁基板である表層基板(20)と内層をなす絶縁基板である内層基板(30)とが互いに板厚方向に重なって設けられている多層基板(10)と、表層基板に設けられている表層ランド(21)と、表層基板に実装される電子部品(80)と、電子部品と表層ランドとを接合している接合はんだ(25)と、絶縁基板を貫通する電流経路を構成しているビアホール(250)とを備え、接合はんだは、固液相線幅が13℃以上であり、ビアホールは、接合はんだと板厚方向に重なる位置に設けられたビアホールのうち接合はんだから最も近い距離に位置している近接ビアホール(251)を備え、ビアホールと表層ランドとの間に、金属材料が配置されることなく表層基板が設けられており、近接ビアホールは、接合はんだから近接ビアホールまでの距離である離間距離(Ld)が表層基板の基板厚さ(Ts)よりも大きくなる位置に設けられている。
【0009】
開示された電子装置によると、近接ビアホールは、接合はんだから近接ビアホールまでの距離である離間距離が表層基板の基板厚さよりも大きくなる位置に設けられている。このため、温度変化に起因して多層基板表面に大きな段差が生じることを抑制できる。したがって、接合はんだが多層基板表面の段差の影響を受けにくい。よって、接合はんだによる接合を安定させやすい。以上により、多層基板に電子部品が安定して接合された電子装置を提供できる。
【0010】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電子装置の上面図である。
図2図1のII-II線における断面を示す断面図である。
図3】準備工程での多層基板表面を示す拡大断面図である。
図4】溶融工程での多層基板表面を示す拡大断面図である。
図5】溶融工程での電子装置を示す断面図である。
図6】第2実施形態における電子装置の上面図である。
図7図6のVII-VII線における断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。以下において、互いに直交する3つの方向をX方向、Y方向、Z方向とする。また、Z方向を上下方向と対応させて説明する場合がある。
【0013】
第1実施形態
図1において、電子装置1は、多層基板10と電子部品80とを備えている。多層基板10は、複数の絶縁基板を重ねて構成されている。多層基板10は、絶縁基板の表面や隣り合う絶縁基板同士の間に層を形成している。絶縁基板の表面の層は、多層基板10における表層であり、絶縁基板同士の間の層は、多層基板10における内層である。まとめると、多層基板10は、2つの表層と複数の内層とを備えている基板である。絶縁基板の板厚方向をZ方向とした場合、X方向とY方向とは、板厚方向に交差する方向である交差方向である。
【0014】
多層基板10の表面には、表層ランド21が設けられている。表層ランド21は、X方向に沿う方向を長手方向とする長方形状である。表層ランド21は、銅などの金属材料で構成され、電流経路を構成している。表層ランド21は、互いに離間して2つ設けられている。2つの表層ランド21の並び方向は、X方向に沿う方向である。表層ランド21の形状、数および配置は、上述の例に限られない。表層ランド21は、他の配線部分に接続している。
【0015】
電子部品80は、本体部81と接続部82とを備えている。本体部81は、電子部品80としての機能を発揮するための部分である。接続部82は、本体部81に通電するための部分である。接続部82は、例えば銅などの金属めっきで構成されている。接続部82は、本体部81の両端に設けられている。ただし、接続部82として機能する接続端子を3本以上備える構成としてもよい。
【0016】
電子部品80としては、チップ抵抗やチップコンデンサやチップダイオードなどを採用可能である。ここで、電子装置1が備える電子部品80の数は、1つに限られず、複数の電子部品80を採用可能である。複数の電子部品80としては、同一の機能を発揮する部品を採用してもよく、異なる機能を発揮する部品を採用してもよい。
【0017】
電子装置1は、接合はんだ25を備えている。接合はんだ25は、表層ランド21上に設けられている。接合はんだ25は、表層ランド21と電子部品80の接続部82とを接合している。接合はんだ25が接続部82と接触して接合している部分は、接合はんだ25の中央部分よりも後述する近接ビアホール51から離れた位置に設けられている。言い換えると、接続部82から近接ビアホール51までの長さは、接合はんだ25の中央部分から近接ビアホール51までの長さよりも大きい。
【0018】
接合はんだ25は、表層ランド21と電子部品80との間の電流経路を構成する通電部材である。また、接合はんだ25は、多層基板10と電子部品80とを機械的に接着する接着部材である。電子部品80は、接合はんだ25によって適切に接合されることで実装されている。
【0019】
接合はんだ25は、ペースト状のリフローはんだである。接合はんだ25のリフロー処理については、後に詳述する。接合はんだ25は、様々なはんだの中でも固液相線幅が大きいはんだである。固液相線幅とは、はんだ全体が固相となる温度を示す固相線と、はんだ全体が液相となる温度を示す液相線との間の温度幅のことである。言い換えると、固液相線幅とは、固相のはんだと液相のはんだとが共存する温度幅のことである。固相のはんだと液相のはんだとが共存している二相共存状態は、半溶融状態とも呼ばれる。固液相線幅は、はんだの組成に応じて固有の値を示す。
【0020】
接合はんだ25の固相線の温度は、例えば200℃であり、液相線の温度は、例えば225℃である。この場合、接合はんだ25の固液相線幅は、25℃である。一般的なはんだにおいては、固液相線幅は、2℃から10℃程度である。このため、接合はんだ25の固液相線幅は、通常のはんだよりも大きい。
【0021】
一般的に、固液相線幅が小さいはんだほどはんだ全体が素早く凝固するため、安定して接合しやすい。しかしながら、はんだに必要な条件を得る目的ではんだの組成を調整した結果として、固液相線幅が大きくなってしまう場合がある。はんだに必要な条件の一例としては、良好な熱衝撃性能を得ることが挙げられる。はんだに必要な条件の一例としては、所望の融点を得ることが挙げられる。はんだに必要な条件の一例としては、鉛などの特定の材料を含まないことが挙げられる。はんだに必要な条件の一例としては、安価であることが挙げられる。はんだは、用途に応じた様々な条件を踏まえて組成が調整されることとなる。
【0022】
電子装置1は、ビアホール50を備えている。ビアホール50は、多層基板10の絶縁基板を貫通する電流経路を構成する部品である。ビアホール50は、銅などの金属材料で構成されている。ビアホール50は、Z方向に沿う方向を軸方向とする円筒形状である。
【0023】
ビアホール50は、多層基板10の板厚方向であるZ方向において、接合はんだ25と重ならない位置に設けられている。言い換えると、ビアホール50は、接合はんだ25に対してX方向またはY方向に離れた位置に設けられている。
【0024】
ビアホール50は、近接ビアホール51と遠隔ビアホール56とを備えている。近接ビアホール51は、ビアホール50のうち、接合はんだ25に最も近い位置に設けられているビアホール50である。ビアホール50のうち、近接ビアホール51以外のビアホール50は、遠隔ビアホール56である。仮に、ビアホール50が3つ存在する場合には、1つが近接ビアホール51であり、残りの2つが遠隔ビアホール56である。ただし、接合はんだ25から等距離に複数のビアホール50が存在する場合には、最も近いビアホール50である近接ビアホール51が複数存在する場合があり得る。
【0025】
近接ビアホール51と接合はんだ25とは、互いに離間して設けられている。近接ビアホール51から接合はんだ25までの距離は、離間距離Ldである。近接ビアホール51の直径は、ホール直径Dhである。ここで、離間距離Ldは、ホール直径Dhよりも大きい。遠隔ビアホール56から接合はんだ25までの距離は、離間距離Ldよりも大きい。
【0026】
ビアホール50同士は、互いに絶縁されている状態を維持するため、互いに離間して設けられている。互いに隣り合うビアホール50同士の距離のうち、最も短い距離は、絶縁距離Liである。離間距離Ldは、絶縁距離Liよりも大きい。
【0027】
まとめると、近接ビアホール51を含むすべてのビアホール50は、交差方向において接合はんだ25から十分に離れた位置に設けられている。
【0028】
図2において、多層基板10は、表層基板20と内層基板30とを備えている。表層基板20と内層基板30とは、ともにエポキシ樹脂などの樹脂材料で構成された絶縁基板である。表層基板20と内層基板30とは、絶縁基板の板厚方向であるZ方向に沿う方向に互いに重なっている。表層基板20の基板厚さTsは、内層基板30の基板厚さTiよりも小さい。言い換えると、表層基板20は、内層基板30よりも薄い基板である。
【0029】
3枚の内層基板30は、コア基板10cを構成している。ただし、コア基板10cを構成する内層基板30の枚数は、3枚に限られない。2枚の表層基板20は、ビルドアップ基板10bを構成している。ビルドアップ基板10bは、コア基板10cの外側に設けられた基板のことである。多層基板10は、コア基板10cに対してビルドアップ基板10bを形成することで構成されている。
【0030】
多層基板10は、電子部品80が実装されている1層目から反対側の6層目までの6つの層を備えている。多層基板10の表層は、1層目と6層目で構成されている。多層基板10の表側が1層目に対応し、多層基板10の裏側が6層目に対応している。多層基板10の内層は、2層目と3層目と4層目と5層目で構成されている。多層基板10の表側に最も近い内層が2層目に対応し、多層基板10の表側から最も遠い内層が5層目に対応している。ただし、多層基板10における層の数は、6層に限られない。多層基板10の各層には、任意の位置に任意の形状のランドを形成可能である。1層目や6層目の表層に設けられているランドは、表層ランド21である。2層目から5層目までの内層に設けられているランドは、内層ランドである。
【0031】
多層基板10全体を貫通して表側と裏側の表層ランド21同士を接続するビアホール50は、スルーホールビアホールと呼ばれる。表層基板20を貫通して表層ランド21と内層ランドとを接続するビアホール50は、ブラインドビアホールと呼ばれる。内層基板30を貫通して内層ランド同士を接続するビアホール50は、ベリッドビアホールと呼ばれる。内層ランドを含んで接続しているブラインドビアホールとベリッドビアホールとは、インタースティシャルビアホールと呼ばれる。以下では、インタースティシャルビアホールのことを内層ビアホールと呼ぶことがある。近接ビアホール51は、コア基板10cを貫通し、表層基板20については貫通していない。近接ビアホール51は、2層目の内層ランドと5層目の内層ランドとを接続している。このため、近接ビアホール51は、ベリッドビアホールであり、内層ビアホールの一種である。
【0032】
近接ビアホール51のZ方向の長さLhは、表層基板20の基板厚さTsよりも大きい。近接ビアホール51のZ方向の長さLhは、内層基板30の基板厚さTiよりも大きい。近接ビアホール51のZ方向の長さLhは、多層基板10の基板厚さTaよりも小さい。近接ビアホール51のZ方向の長さLhは、多層基板10の基板厚さTaの半分以上である。
【0033】
近接ビアホール51の内部には、埋設樹脂54が設けられている。埋設樹脂54は、円柱形状である。埋設樹脂54は、円筒形状の近接ビアホール51の内部に隙間なく充填されている。
【0034】
接合はんだ25によるリフロー処理について、以下に説明する。リフロー処理には、準備工程と溶融工程と凝固工程とが含まれる。準備工程では、表層ランド21の上にペースト状の接合はんだ25を塗布し、その上に電子部品80を載置する。これにより、接合はんだ25は、表層ランド21と電子部品80の接続部82との両方に接触した状態となる。準備工程における接合はんだ25は、フラックスが揮発する前の状態である。
【0035】
図3において、準備工程の状態では、多層基板10の表面全体は、平坦な形状である。より詳細には、多層基板10表面のうち近接ビアホール51の直上の部分とそれ以外の部分とで段差がほとんどない状態である。準備工程の完了後、溶融工程に進む。
【0036】
溶融工程では、接合はんだ25の液相線の温度を上回る温度まで電子装置1を加熱する。仮に、液相線の温度が225℃であれば、225℃を上回る250℃程度まで加熱する。電子装置1を加熱することで、接合はんだ25が溶融し、表層ランド21や接続部82の表面に濡れ広がる。
【0037】
また、電子装置1を加熱することで、電子装置1を構成している各部品が準備工程の状態に比べて膨張する。ここで、電子装置1は、金属材料部品と樹脂材料部品とを含んで構成されている。また、一般的に金属材料の熱膨張率は、樹脂材料の熱膨張率よりも小さい。このため、電子装置1において、金属材料が使われている部分と樹脂材料が使われている部分との間で、膨張の仕方が異なる。
【0038】
図4において、準備工程における多層基板10表面の位置を仮想線VLで表示している。多層基板10表面の全体は、仮想線VLを超えて膨出している。ただし、多層基板10表面の仮想線VLに対する膨出量は、場所によって異なる。多層基板10表面のうち近接ビアホール51の直上に位置する部分は、膨出量が小さい。一方、多層基板10表面のうち近接ビアホール51の直上に位置しない部分は、膨出量が大きい。より詳細には、近接ビアホール51から離れるほど、膨出量が大きくなっている。
【0039】
図5において、準備工程を基準とした状態からの多層基板10表面の膨出量は、近接ビアホール51から十分に離れた位置では、ほとんど一定である。言い換えると、近接ビアホール51から十分に離れた位置においては、多層基板10の表面が平坦な形状である。
【0040】
溶融工程の状態では、多層基板10の表面は、部分的に段差が形成されている形状である。より詳細には、多層基板10表面のうち近接ビアホール51の直上およびその周辺の部分は、それ以外の部分よりも凹んでいる状態である。
【0041】
溶融工程における膨出量の違いは、近接ビアホール51を構成している金属材料の熱膨張率と多層基板10を構成している樹脂材料の熱膨張率との違いに起因している。このため、近接ビアホール51のZ方向の長さLhが、多層基板10の基板厚さTaに近いほど、多層基板10の表面に形成される段差が大きくなる。言い換えると、近接ビアホール51のZ方向の端部から多層基板10表面までの距離が小さいほど、多層基板10の表面に形成される段差が大きくなる。
【0042】
また、近接ビアホール51の熱膨張率と多層基板10の熱膨張率の違いが大きいほど、多層基板10の表面に形成される段差が大きくなる。また、溶融工程における温度が高いほど、多層基板10の表面に形成される段差が大きくなる。また、近接ビアホール51のホール直径Dhが大きいほど、多層基板10の表面に段差が形成される範囲が広くなる。溶融工程の完了後、凝固工程に進む。
【0043】
凝固工程では、接合はんだ25の固相線の温度を下回る温度まで電子装置1を冷却する。仮に、固相線の温度が200℃であれば、200℃を下回る195℃程度まで加熱を弱めることで電子装置1を冷却する。電子装置1を冷却することで、接合はんだ25が凝固し、表層ランド21や接続部82に濡れ広がった状態で固定される。
【0044】
また、電子装置1を冷却することで、電子装置1を構成している各部品が溶融工程の状態に比べて収縮した状態となる。ただし、電子装置1を構成している各部品は、準備工程の状態に比べて膨張した状態である。このため、溶融工程の状態に比べて小さい膨出量ではあるが、多層基板10表面に部分的に段差が形成されている状態となる。
【0045】
凝固工程においては、接合はんだ25全体が均一な温度であることが好ましいが、実際には、接合はんだ25の部位によって温度に偏りが生じ得る。例えば、接合はんだ25の表面は、接合はんだ25の内部に比べて温度が低くなりやすい。このため、凝固工程が完了するまでの間、接合はんだ25は、温度の低い一部分が固相の状態となり、温度の高い一部分が液相の状態となる半溶融状態が発生し得る。接合はんだ25の量が多いほど、温度に偏りが生じやすく、半溶融状態が発生しやすい。
【0046】
接合はんだ25には、ある程度の大きさの固液相線幅が存在する。このため、仮に接合はんだ25全体が均一な温度であったとしても、凝固工程が完了するまでの間、接合はんだ25は、半溶融状態となり得る。接合はんだ25の固液相線幅が大きいほど、半溶融状態が発生しやすい。
【0047】
凝固工程が完了するまでの間、電子装置1の温度は徐々に低下することとなる。このため、凝固工程が進む間に、多層基板10表面の段差の状態が変化し得る。したがって、接合はんだ25の一部は、温度が高く膨出量が多い状態で凝固し、接合はんだ25の他の一部は、温度が低く膨出量が少ない状態で凝固することとなる。よって、凝固工程の接合はんだ25において、凝固する前の部分が凝固した後の部分に引っ張られるなどして、表層ランド21との適切な接触状態が維持されない場合がある。この場合、接合はんだ25のうち本来であれば表層ランド21に接触した状態で凝固すべき部分が、表層ランド21から離れた状態で凝固してしまうことがある。言い換えると、接合はんだ25による接合が部分的に不適切な状態となり得る。このように、接合はんだ25に接合が不適切な部分が存在すると、接合はんだ25が表層ランド21から剥離してしまう場合がある。
【0048】
上述したような接合はんだ25の不適切な接合は、凝固の開始から完了までの間で多層基板10表面の段差の大きさが変化するほど、引き起こされやすい。言い換えると、凝固の開始から完了までの間で多層基板10表面の段差の大きさがほとんど変化しなければ、接合はんだ25の不適切な接合を抑制できる。このため、凝固の開始時点で多層基板10表面の段差が十分に小さい平坦な位置に接合はんだ25を配置することで、接合はんだ25の不適切な接合を抑制することができる。言い換えると、近接ビアホール51から十分に離れた位置に接合はんだ25を配置することで、接合はんだ25の不適切な接合を抑制することができる。
【0049】
固液相線幅が大きいほど、凝固工程で凝固完了までの温度変化が大きくなり、接合はんだ25の不適切な接合が引き起こされやすい。このため、近接ビアホール51と接合はんだ25との距離を離すことで接合の精度を高めることは、固液相線幅の大きな接合はんだ25を用いる電子装置1において非常に有用である。
【0050】
凝固工程の完了により、リフロー処理の全工程が完了することとなる。
【0051】
上述した実施形態によると、近接ビアホール51は、接合はんだ25から近接ビアホール51までの距離である離間距離Ldが近接ビアホール51の直径であるホール直径Dhよりも大きくなる位置に設けられている。言い換えると、近接ビアホール51は、接合はんだ25から十分に離れた位置に配置されている。このため、温度変化に起因して多層基板10表面に段差が発生した場合であっても、接合はんだ25が多層基板10表面の段差の影響を受けにくい。したがって、接合はんだ25による接合を安定させやすい。よって、多層基板10に電子部品80が安定して接合された電子装置1を提供できる。特に、リフロー処理の凝固工程において、接合はんだ25が多層基板10表面の段差の大きさの変化の影響を受けにくい。このため、接合はんだ25の凝固開始から凝固完了までの間、接合はんだ25が表層ランド21に接触した状態を維持しやすい。
【0052】
接合はんだ25の固液相線幅は、13℃以上である。このため、接合はんだ25は、固液相線幅が13℃未満のはんだに比べて、不適切な接合の結果として剥離が引き起こされやすいはんだである。したがって、剥離が引き起こされやすいはんだに対して特別な剥離対策を行うこととなる。一方、剥離が引き起こされにくいはんだに対しては特別な剥離対策を行う必要がない。よって、電子装置1の設計において、はんだの性能の1つである固液相線幅の大きさの観点から、剥離対策が必要か否かを判断できる。以上により、剥離対策を行う場合と行わない場合とを適切に判断することで、不要な剥離対策により電子装置1が大型化してしまうことを抑制できる。
【0053】
接続部82は、接合はんだ25のうち接合はんだ25の中央部分よりも近接ビアホール51から離れた部分に接触している。このため、接続部82を接合はんだ25の中央部分よりも近接ビアホール51に近い部分に接触させる場合に比べて、接続部82と接触している部分の接合はんだ25を近接ビアホール51から離れた位置とすることができる。したがって、リフロー処理などで大きな温度変化が生じた場合であっても、接続部82と接合すべき接合はんだ25が多層基板10表面の段差の変化の影響を受けにくい。
【0054】
近接ビアホール51は、少なくとも電子部品80が実装されている表層基板20を貫通しない電流経路を構成している内層ビアホールである。このため、近接ビアホール51と表層ランド21との絶縁を表層基板20によって確保することができる。したがって、近接ビアホール51と表層ランド21との絶縁に必要な距離を考慮することなく、近接ビアホール51と表層ランド21の位置関係を設定できる。
【0055】
第2実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、近接ビアホール251が多層基板10の板厚方向であるZ方向に十分大きく離れている。
【0056】
図6において、ビアホール250は、多層基板10の板厚方向であるZ方向において、接合はんだ25と重なる位置に設けられている。言い換えると、ビアホール250は、接合はんだ25に対してZ方向に離れた位置に設けられている。
【0057】
ビアホール250は、近接ビアホール251を備えている。近接ビアホール251は、ビアホール250のうち、接合はんだ25に最も近い位置に設けられているビアホール250である。
【0058】
図7において、近接ビアホール251は、2枚の内層基板30を貫通し、1枚の内層基板30と2枚の表層基板20については貫通していない。近接ビアホール251は、3層目の内層ランドと5層目の内層ランドとを接続している。このため、近接ビアホール251は、ベリッドビアホールであり、内層ビアホールの一種である。
【0059】
近接ビアホール251のZ方向の長さLhは、表層基板20の基板厚さTsよりも大きい。近接ビアホール251のZ方向の長さLhは、内層基板30の基板厚さTiよりも大きい。近接ビアホール251のZ方向の長さLhは、多層基板10の基板厚さTaよりも小さい。近接ビアホール251のZ方向の長さLhは、多層基板10の基板厚さTaの半分以下である。
【0060】
接合はんだ25から近接ビアホール251までの距離である離間距離Ldは、表層基板20の基板厚さTsよりも大きい。接合はんだ25から近接ビアホール251までの距離である離間距離Ldは、内層基板30の基板厚さTiよりも大きい。近接ビアホール251の直上である1層目までの距離は、近接ビアホール251の直下である6層目までの距離よりも大きい。言い換えると、近接ビアホール251は、Z方向において、最上層である1層目よりも最下層である6層目に近い位置に設けられている。言い換えると、近接ビアホール251のZ方向の中央部分は、多層基板10全体のZ方向の中央部分よりも接合はんだ25から離れた位置に設けられている。
【0061】
リフロー処理の溶融工程において、近接ビアホール251のZ方向の端部から多層基板10表面までの距離が小さいほど、多層基板10の表面に形成される段差が大きくなる。言い換えると、近接ビアホール251のZ方向の端部から多層基板10表面までの距離が大きいほど、多層基板10表面に形成される段差が小さくなる。ここで、多層基板10表面のうち、電子部品80が実装される面を上面、電子部品80が実装されない面を下面とする。この場合、多層基板10の上面から近接ビアホール251までの距離は、多層基板10の下面から近接ビアホール251までの距離よりも大きい。このため、多層基板10の上面に形成される段差は、多層基板10の下面に形成される段差よりも小さな段差となる。
【0062】
凝固工程における接合はんだ25の不適切な接合は、凝固の開始から完了までの間で多層基板10表面の段差の大きさが変化するほど、引き起こされやすい。言い換えると、凝固開始から凝固完了までの間で多層基板10表面の段差の大きさがほとんど変化しなければ、接合はんだ25の不適切な接合を抑制できる。このため、凝固の開始時点で多層基板10表面の段差が十分に小さい平坦な位置に接合はんだ25を配置することで、接合はんだ25の不適切な接合を抑制できる。言い換えると、近接ビアホール251から板厚方向に十分に離れた位置に接合はんだ25を配置することで、接合はんだ25の不適切な接合を抑制することができる。
【0063】
上述した実施形態によると、近接ビアホール251は、接合はんだ25から近接ビアホール251までの距離である離間距離Ldが表層基板20の基板厚さTsよりも大きくなる位置に設けられている。このため、温度変化に起因して多層基板10表面に大きな段差が生じることを抑制できる。したがって、接合はんだ25が多層基板10表面の段差の影響を受けにくい。よって、接合はんだ25による接合を安定させやすい。以上により、多層基板10に電子部品80が安定して接合された電子装置1を提供できる。特に、リフロー処理の凝固工程において、接合はんだ25の凝固開始から凝固完了までの間、接合はんだ25が表層ランド21に接触した状態を維持しやすい。
【0064】
近接ビアホール251は、離間距離Ldが内層基板30の基板厚さTiよりも大きくなる位置に設けられている。このため、離間距離Ldが内層基板30の基板厚さTiよりも小さい場合に比べて、凝固工程において多層基板10表面の段差の大きさが変化することを抑制しやすい。
【0065】
他の実施形態
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、1つの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0066】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 電子装置、 10 多層基板、 10b ビルドアップ基板、 10c コア基板、 20 表層基板、 21 表層ランド、 25 接合はんだ、 30 内層基板、 50 ビアホール、 51 近接ビアホール、 56 遠隔ビアホール、 80 電子部品、 81 本体部、 82 接続部、 250 ビアホール、 251 近接ビアホール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7