(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】レーザー干渉計
(51)【国際特許分類】
G01S 17/58 20060101AFI20240820BHJP
G01H 9/00 20060101ALI20240820BHJP
G01P 3/36 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G01S17/58
G01H9/00 C
G01P3/36 E
(21)【出願番号】P 2020142498
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕平
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-152387(JP,A)
【文献】国際公開第98/053733(WO,A1)
【文献】特開平02-038889(JP,A)
【文献】特開平02-107988(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0282968(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102564563(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51,
G01S 17/00-17/95,
G01H 9/00,
G01P 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1レーザー光を射出する光源部と、
水晶振動子を有する振動素子を備え、前記振動素子を用いて前記第1レーザー光を変調し、変調信号を含む第2レーザー光を生成する光変調器と、
前記第1レーザー光が対象物で反射して生成されたサンプル信号を含む第3レーザー光と、前記第2レーザー光と、の干渉光を受光し、受光信号を出力する受光素子と、
デジタル回路を含み、前記デジタル回路に入力された基準信号に基づいて、前記受光信号から前記サンプル信号を復調する復調回路と、
前記
デジタル回路に入力される前記基準信号を出力し、かつ、前記
水晶振動子に入力される駆動信号を出力する信号生成器と、
を備え、
前記デジタル回路に入力される前記基準信号の電圧をVrとし、
前記水晶振動子に入力される前記駆動信号の電圧をVdとするとき、Vd/Vr<10を満たすことを特徴とするレーザー干渉計。
【請求項2】
Vd/Vr<2を満たす請求項1に記載のレーザー干渉計。
【請求項3】
第1レーザー光を射出する光源部と、
水晶振動子を有する振動素子を備え、前記振動素子を用いて前記第1レーザー光を変調し、変調信号を含む第2レーザー光を生成する光変調器と、
前記第1レーザー光が対象物で反射して生成されたサンプル信号を含む第3レーザー光と、前記第2レーザー光と、の干渉光を受光し、受光信号を出力する受光素子と、
基準信号に基づいて、前記受光信号から前記サンプル信号を復調する復調回路と、
前記復調回路に入力される前記基準信号を出力し、かつ、前記
水晶振動子に入力される駆動信号を出力する信号生成器と、
を備え、
前記信号生成器から出力された前記駆動信号が、増幅されることなく、前記水晶振動子に入力されることを特徴とするレーザー干渉計。
【請求項4】
前記水晶振動子の共振周波数をfQとし、前記駆動信号の周波数をfoscとするとき、|fQ-fosc|≦3000[Hz]を満たす請求項
1ないし3
のいずれか1項に記載のレーザー干渉計。
【請求項5】
前記駆動信号は、DC成分がゼロである請求項
1ないし4のいずれか1項に記載のレーザー干渉計。
【請求項6】
前記光源部は、半導体レーザー素子を含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載のレーザー干渉計。
【請求項7】
前記復調回路は、前記サンプル信号として、位相信号または周波数信号を復調する請求項1ないし6のいずれか1項に記載のレーザー干渉計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー干渉計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、振動している物体にレーザービームを照射し、ドップラー効果により変化したレーザービームの周波数を利用して、物体の速度を測定するレーザードップラー速度計が開示されている。レーザードップラー速度計では、物体の振動現象の方向性を検出するために、レーザー光源から出射した光を変調する構造が必要となる。このため、特許文献1では、音響光学変調器や電気光学変調器を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の音響光学変調器や電気光学変調器には、発振回路から出力されたRF(Radio Frequency)信号が入力される。これにより、変調器内の光学素子の屈折率を変化させ、光を変調する。
【0005】
しかしながら、これらの変調器に入力される信号には、発振回路からのRF信号をさらに増幅した信号が用いられる。このため、発振回路と変調器との間には、増幅率の大きなアンプを挿入する必要がある。このような理由から、特許文献1に記載のレーザードップラー速度計は、小型化が難しいという課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の適用例に係るレーザー干渉計は、
第1レーザー光を射出する光源部と、
水晶振動子を有する振動素子を備え、前記振動素子を用いて前記第1レーザー光を変調し、変調信号を含む第2レーザー光を生成する光変調器と、
前記第1レーザー光が対象物で反射して生成されたサンプル信号を含む第3レーザー光と、前記第2レーザー光と、の干渉光を受光し、受光信号を出力する受光素子と、
デジタル回路を含み、前記デジタル回路に入力された基準信号に基づいて、前記受光信号から前記サンプル信号を復調する復調回路と、
前記デジタル回路に入力される前記基準信号を出力し、かつ、前記水晶振動子に入力される駆動信号を出力する信号生成器と、
を備え、
前記デジタル回路に入力される前記基準信号の電圧をVrとし、前記水晶振動子に入力される前記駆動信号の電圧をVdとするとき、Vd/Vr<10を満たす。
本発明の適用例に係るレーザー干渉計は、
第1レーザー光を射出する光源部と、
水晶振動子を有する振動素子を備え、前記振動素子を用いて前記第1レーザー光を変調し、変調信号を含む第2レーザー光を生成する光変調器と、
前記第1レーザー光が対象物で反射して生成されたサンプル信号を含む第3レーザー光と、前記第2レーザー光と、の干渉光を受光し、受光信号を出力する受光素子と、
基準信号に基づいて、前記受光信号から前記サンプル信号を復調する復調回路と、
前記復調回路に入力される前記基準信号を出力し、かつ、前記水晶振動子に入力される駆動信号を出力する信号生成器と、
を備え、
前記信号生成器から出力された前記駆動信号が、増幅されることなく、前記水晶振動子に入力される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係るレーザー干渉計を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1に示すセンサーヘッド部および光学系を示す概略構成図である。
【
図3】
図2に示す光変調器の第1構成例を示す斜視図である。
【
図4】光変調器の第2構成例の一部を示す平面図である。
【
図6】
図3に示す振動素子の表面に対して垂直な方向から入射光K
iが入射したとき、複数の回折光が発生することを説明する概念図である。
【
図7】入射光K
iの進行方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°となるように構成された光変調器を説明する概念図である。
【
図8】入射光K
iの進行方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°となるように構成された光変調器を説明する概念図である。
【
図9】入射光K
iの進行方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°となるように構成された光変調器を説明する概念図である。
【
図10】従来のレーザー干渉計の構成を簡略化して示す図である。
【
図11】
図1のレーザー干渉計の構成を簡略化して示す図である。
【
図12】受光信号の波形の一例を示すグラフである。
【
図13】復調回路で被測定物由来のサンプル信号を復調して変位を計測したとき、振動素子のB値と、計測変位の標準偏差および決定係数(R2値)と、の関係を示すグラフである。
【
図14】振動素子を信号生成器で励振するとき、駆動信号の電圧値とB値との関係を示すグラフである。
【
図15】振動素子を信号生成器で励振するとき、B値と、駆動信号のDCオフセット値と、の関係を説明するための概念図である。
【
図16】水晶振動子の共振周波数をfQとし、駆動信号の周波数をfoscとし、水晶振動子をファンクションジェネレーターで励振するとき、駆動信号の周波数foscとB値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のレーザー干渉計を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、実施形態に係るレーザー干渉計を示す機能ブロック図である。
【0009】
図1に示すレーザー干渉計1は、光学系50を備えるセンサーヘッド部51と、光学系50からの信号が入力される復調回路52と、光学系50および復調回路52に信号を出力する信号生成器54と、を有する。
【0010】
1.センサーヘッド部
図2は、
図1に示すセンサーヘッド部51および光学系50を示す概略構成図である。
【0011】
光学系50は、光源部2と、偏光ビームスプリッター4と、1/4波長板6と、1/4波長板8と、検光子9と、受光素子10と、周波数シフター型の光変調器12と、被測定物14が配置されたセット部16と、を備えている。
【0012】
光源部2は、所定の波長の出射光L1(第1レーザー光)を射出する。受光素子10は、受けた光を電気信号に変換する。光変調器12は、振動素子30を備えており、出射光L1を変調し、変調信号を含む参照光L2(第2レーザー光)を生成する。セット部16は、必要に応じて設けられればよいが、被測定物14を配置することができるようになっている。被測定物14に入射した出射光L1は、被測定物14に由来するサンプル信号を含む物体光L3(第3レーザー光)として反射する。
【0013】
光源部2から射出される出射光L1の光路を、光路18とする。光路18は、偏光ビームスプリッター4の反射により、光路20に結合される。光路20上には、偏光ビームスプリッター4側から1/4波長板8および光変調器12がこの順で配置されている。また、光路18は、偏光ビームスプリッター4の透過により、光路22に結合される。光路22上には、偏光ビームスプリッター4側から1/4波長板6およびセット部16がこの順で配置されている。
【0014】
光路20は、偏光ビームスプリッター4の透過により、光路24に結合される。光路24上には、偏光ビームスプリッター4側から検光子9および受光素子10がこの順で配置されている。
【0015】
光源部2から射出された出射光L1は、光路18および光路20を経て、光変調器12に入射する。また、出射光L1は、光路18および光路22を経て、被測定物14に入射する。光変調器12で生成された参照光L2は、光路20および光路24を経て、受光素子10に入射する。被測定物14での反射により生成された物体光L3は、光路22および光路24を経て、受光素子10に入射する。
【0016】
以下、レーザー干渉計1の各部について順次説明する。
1.1.光源部
光源部2は、可干渉性を有する線幅の細い出射光L1を射出するレーザー光源である。線幅を周波数差で表示した場合、線幅がMHz帯以下のレーザー光源が好ましく用いられる。具体的には、HeNeレーザーのようなガスレーザー、DFB-LD(Distributed feedback - laser diode)、FBG-LD(Fiber bragg Grating付き laser diode)、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)のような半導体レーザー素子等が挙げられる。
【0017】
光源部2は、特に半導体レーザー素子を含むことが好ましい。これにより、光源部2を特に小型化することが可能になる。このため、レーザー干渉計1の小型化を図ることができる。特に、レーザー干渉計1のうち、光学系50が収容されるセンサーヘッド部51の小型化および軽量化が図られるため、レーザー干渉計1の操作性を高められる点でも有用である。
【0018】
1.2.偏光ビームスプリッター
偏光ビームスプリッター4は、入射光を透過光と反射光とに分割する光学素子である。また、偏光ビームスプリッター4は、P偏光を透過し、S偏光を反射させる機能を有し、入射光の偏光状態を直交成分に分けることができる。以下、直線偏光であって、P偏光とS偏光の比を例えば50:50にした出射光L1を、偏光ビームスプリッター4に入射させる場合を考える。
【0019】
偏光ビームスプリッター4では、前述したように、出射光L1のS偏光を反射し、P偏光を透過させる。
【0020】
偏光ビームスプリッター4で反射した出射光L1のS偏光は、1/4波長板8で円偏光に変換され、光変調器12に入射する。光変調器12に入射した出射光L1の円偏光は、fm[Hz]の周波数シフトを受け、参照光L2として反射する。したがって、参照光L2は、変調周波数fm[Hz]の変調信号を含む。参照光L2は、再び1/4波長板8を透過するときP偏光に変換される。参照光L2のP偏光は、偏光ビームスプリッター4および検光子9を透過して受光素子10に入射する。
【0021】
偏光ビームスプリッター4を透過した出射光L1のP偏光は、1/4波長板6で円偏光に変換され、動いている状態の被測定物14に入射する。被測定物14に入射した出射光L1の円偏光は、fd[Hz]のドップラーシフトを受け、物体光L3として反射する。したがって、物体光L3は、周波数fd[Hz]の周波数信号を含む。物体光L3は、再び1/4波長板6を透過するときS偏光に変換される。物体光L3のS偏光は、偏光ビームスプリッター4で反射され、検光子9を透過して受光素子10に入射する。
【0022】
前述したように、出射光L1は可干渉性を有しているため、参照光L2および物体光L3は、干渉光として受光素子10に入射する。
【0023】
なお、偏光ビームスプリッターに代えて無偏光ビームスプリッターを用いるようにしてもよい。この場合、1/4波長板6および1/4波長板8が不要となるため、部品点数の削減によるレーザー干渉計1の小型化を図ることができる。
【0024】
1.3.検光子
互いに直交するS偏光およびP偏光は、互いに独立しているので、単純に重ね合わせただけでは干渉が現れない。そこで、S偏光とP偏光を重ね合わせた光波を、S偏光およびP偏光の双方に対して45°傾けた検光子9に通す。検光子9を用いることにより、互いに共通した成分同士の光を透過させ、干渉を生じさせることができる。その結果、検光子9では、変調信号とサンプル信号とが干渉し、fm-fd[Hz]の周波数を持つ干渉光が生成される。
【0025】
1.4.受光素子
参照光L2および物体光L3は、偏光ビームスプリッター4および検光子9を介して受光素子10に入射する。これにより、参照光L2と物体光L3とが光ヘテロダイン干渉し、fm-fd[Hz]の周波数を持つ干渉光が受光素子10に入射する。この干渉光から後述する方法でサンプル信号を復調することにより、最終的に、被測定物14の動き、すなわち速度や振動を求めることができる。受光素子10としては、例えば、フォトダイオード等が挙げられる。
【0026】
1.5.光変調器
図3は、
図2に示す光変調器12の第1構成例を示す斜視図である。
【0027】
1.5.1.第1構成例に係る光変調器の概要
周波数シフター型の光変調器12は、板形状の振動素子30と、振動素子30を支持する基板31と、を備えている。
【0028】
振動素子30は、電位を加えることにより、面に沿う方向に歪むように振動するモードを繰り返す材料で構成されている。本実施形態では、振動素子30は、MHz帯の高周波領域で、振動方向36に沿って厚みすべり振動する水晶AT振動子である。振動素子30の表面には、回折格子34が形成されている。回折格子34は、直線状の複数の溝32が周期的に並んでなる構造を有している。
【0029】
基板31は、互いに表裏の関係を有する表面311および裏面312を有している。表面311には、振動素子30が配置されている。また、表面311には、振動素子30に電位を加えるためのパッド33が設けられている。一方、裏面312にも、振動素子30に電位を加えるためのパッド35が設けられている。
【0030】
基板31の大きさは、例えば、長辺が0.5mm以上10.0mm以下程度とされる。また、基板31の厚さは、例えば、0.1mm以上2.0mm以下程度とされる。一例として、基板31の形状は、1辺が1.6mmの正方形とされ、その厚さは0.35mmとされる。
【0031】
振動素子30の大きさは、例えば、長辺が0.2mm以上3.0mm以下程度とされる。また、振動素子30の厚さは、例えば、0.003mm以上0.5mm以下程度とされる。
【0032】
一例として、振動素子30の形状は、1辺が1.0mmの正方形とされ、その厚さ0.07mmとされる。この場合、振動素子30は、基本発振周波数24MHzで発振する。なお、振動素子30の厚さを変えたり、オーバートーンまで考慮したりすることにより、発振周波数を1MHzから1GHzの範囲で調整することが可能である。
【0033】
なお、
図3では、回折格子34が振動素子30の表面全体に形成されているが、一部にのみ形成されていてもよい。
【0034】
光変調器12による光変調の強さは、光変調器12に入射させる出射光L1の波数ベクトルと光変調器12から出射される出射光L2の波数ベクトルとの差分波数ベクトルと、振動素子30の振動方向36のベクトルとの内積で与えられる。本実施形態では、振動素子30が厚みすべり振動するが、この振動は面内振動であることから、振動素子30単体の表面に対して垂直に光を入射させても、光変調はできない。そこで、本実施形態では、振動素子30に回折格子34を設けることにより、後述する原理によって光変調を可能にしている。
【0035】
図3に示す回折格子34は、ブレーズド回折格子である。ブレーズド回折格子は、回折格子の断面形状が階段状になっているものをいう。回折格子34の直線状の溝32は、その延在方向が振動方向36に対して直交するように設けられている。
【0036】
図1に示す信号生成器54から
図3に示す振動素子30に駆動信号S1を供給する(交流電圧を印加する)と、振動素子30が発振する。振動素子30の発振に必要な電力(駆動パワー)は、特に限定されないが、0.1μW~100mW程度と小さい。このため、信号生成器54から出力した駆動信号S1を増幅することなく、振動素子30を発振させるために用いることができる。したがって、本実施形態では、増幅率の大きな増幅器(アンプ)は不要となり、駆動パワーによっては増幅器自体が不要になるため、レーザー干渉計1の小型化を図ることができる。
【0037】
1.5.2.回折格子の形成方法
回折格子34の形成方法は、特に限定されないが、一例として、機械刻線式(ルーリングエンジン)を用いた方法で型を作り、水晶AT振動子の振動素子30の表面に成膜した電極上に、ナノインプリント法で溝32を形成する方法が挙げられる。ここで、電極上としたのは、水晶AT振動子の場合は、原理上、電極上で高品質な厚みすべり振動を発生させることができるためである。なお、溝32を形成するのは、電極上に限定されず、非電極部の材料の表面上であってもよい。また、ナノインプリント法に代えて、露光およびエッチングによる加工方法、電子線描画リソグラフィー法、集束イオンビーム加工法(FIB)等を用いるようにしてもよい。
【0038】
また、水晶AT振動子のチップ上にレジスト材料で回折格子を形成し、そこに、金属膜や誘電体多層膜によるミラー膜を設けるようにしてもよい。金属膜やミラー膜を設けることにより、回折格子34の反射率を高めることができる。
【0039】
さらに、水晶AT振動子のチップやウエハー上にレジスト膜を形成し、エッチングによって加工を施した後、レジスト膜を除去し、その後、加工面に金属膜やミラー膜を形成するようにしてもよい。この場合、レジスト材料が除去されるため、レジスト材料の吸湿等による影響がなくなり、回折格子34の安定性を高めることができる。また、Au、Alのような導電性の高い金属膜を設けることにより、振動素子30を駆動する電極としても用いることができる。
【0040】
なお、回折格子34は、陽極酸化アルミナ(ポーラスアルミナ)のような技術を用いて形成されてもよい。
【0041】
1.5.3.他の構成例に係る光変調器
また、振動素子30は、水晶振動子に限定されず、例えば、Si振動子、弾性表面波(SAW)デバイス等であってもよい。
【0042】
図4は、光変調器12の第2構成例の一部を示す平面図である。
図5は、光変調器12の第3構成例を示す平面図である。
【0043】
図4に示す振動素子30Aは、MEMS技術を用いて製造されたSi振動子である。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は、微小電気機械システムのことである。
【0044】
振動素子30Aは、隙間を介して同一平面上に隣り合う第1電極301および第2電極302と、第1電極301上に設けられた回折格子載置部303と、回折格子載置部303上に設けられた回折格子34と、を備えている。第1電極301および第2電極302は、例えば、静電引力を駆動力として、
図4の左右方向に、互いに接近と離間とを繰り返すように振動する。これにより、回折格子34に面内振動を与えることができる。Si振動子の発振周波数は、例えば1kHzから数100MHz程度である。
【0045】
図5に示す振動素子30Bは、表面波を利用するSAWデバイスである。SAW(Surface Acoustic Wave)は、弾性表面波のことである。
【0046】
振動素子30Bは、圧電基板305と、圧電基板305上に設けられた櫛歯状電極306と、接地電極307と、回折格子載置部303と、回折格子34と、を備えている。櫛歯状電極に交流電圧を印加すると、圧電効果により、表面波が励振される。これにより、回折格子34に面内振動を与えることができる。SAWデバイスの発振周波数は、例えば数100MHzから数GHz程度である。
【0047】
以上のようなデバイスについても、回折格子34を設けることにより、水晶AT振動子の場合と同様、後述する原理によって光変調が可能になる。
【0048】
一方、振動素子30が水晶振動子を有している場合、水晶が持つ極めて高いQ値を利用して、高精度な変調信号を生成することができる。Q値とは、共振のピークの鋭さを示す指標である。また、水晶振動子は、外乱にも影響を受けにくいという特長を持つ。したがって、水晶振動子を備える光変調器12で変調された変調信号を用いることにより、被測定物14に由来するサンプル信号を高精度に取得することができる。
【0049】
1.5.4.振動素子による光変調
次に、
図3に示す光変調器12を用いて光を変調する原理について説明する。
【0050】
図6は、
図3に示す振動素子30の表面に対して垂直な方向から入射光K
iが入射したとき、複数の回折光が発生することを説明する概念図である。
【0051】
振動方向36に沿って厚みすべり振動をしている回折格子34に入射光K
iが入射すると、回折現象により、
図6に示すように、複数の回折光K
nsが発生する。nは、回折光K
nsの次数であり、n=0、±1、±2、・・・である。なお、
図6に示す回折格子34には、
図3に示すブレーズド回折格子ではなく、別の回折格子の例として、凹凸の繰り返しによる回折格子を図示している。
【0052】
図6では、入射光K
iが振動素子30の表面に対して垂直な方向から入射しているが、この入射角は特に限定されず、振動素子30の表面に対して斜めに入射するように入射角を設定するようにしてもよい。斜めに入射させた場合には、回折光K
nsの進行方向もそれに対応して変化する。
【0053】
なお、回折格子34の設計によっては、│n│≧2の高次の光は出現しないことがある。そこで、安定して変調信号を得るために、│n│=1に設定するのが望ましい。すなわち、
図2のレーザー干渉計1において、周波数シフター型の光変調器12は、±1次回折光が参照光L2として利用されるように配置されることが好ましい。この配置により、レーザー干渉計1による計測の安定化を実現することができる。
【0054】
一方、回折格子34から│n│≧2の高次の光が出現している場合には、±1次回折光ではなく、±2次以上のいずれかの回折光が参照光L2として利用されるように、光変調器12を配置するようにしてもよい。これにより、高次の回折光を利用することができるので、レーザー干渉計1の高周波化と小型化を実現することができる。
【0055】
本実施形態では、一例として、光変調器12に入射する入射光Kiの進入方向と光変調器12から出射する参照光L2の進行方向とのなす角度が180°となるように、光変調器12が構成されている。以下、3つの構成例について説明する。
【0056】
図7ないし
図9は、それぞれ、入射光K
iの進行方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°となるように構成された光変調器12を説明する概念図である。
【0057】
図7では、光変調器12が、振動素子30に加えてミラー37を備えている。ミラー37は、回折光K
1sを反射して回折格子34に戻すように配置されている。このとき、ミラー37に対する回折光K
1sの入射角とミラー37における反射角とのなす角度が180°になっている。この結果、ミラー37から出射して回折格子34に戻された回折光K
1sは、回折格子34で再び回折し、光変調器12に入射する入射光K
iの進行方向と反対の方向に進行することになる。このため、ミラー37を追加することによって、前述した、入射光K
iの進入方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°という条件を満たすことができる。
【0058】
また、このようにミラー37を経由させることで、光変調器12で生成される参照光L2は、2回の周波数変調を受けたものとなる。したがって、ミラー37を併用することにより、振動素子30単体を用いた場合に比べて、より高周波の周波数変調が可能になる。
【0059】
図8では、
図6に示す振動素子30を傾斜角度θで傾けている。このときの傾斜角度θは、前述した、入射光K
iの進入方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°という条件を満たすように設定されている。
【0060】
図9に示す回折格子34は、ブレーズ角θ
Bを有するブレーズド回折格子である。そして、振動素子30の表面の法線Nに対し、入射角βで進行する入射光K
iが回折格子34に入射すると、法線Nに対してブレーズ角θ
Bと同じ角度で参照光L2が戻ることになる。したがって、入射角βをブレーズ角θ
Bと等しくすることで、前述した、入射光K
iの進入方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°という条件を満たすことができる。この場合、
図7に示すミラー37を用いずに、また、
図8に示すように振動素子30自体を傾けることなく、前記条件を満たすことができるので、レーザー干渉計1のさらなる小型化および高周波化を図ることができる。特に、ブレーズド回折格子の場合には、前記条件を満たす配置を「リトロー配置」といい、回折光の回折効率を特に高めることができるという利点もある。
【0061】
なお、
図9のピッチPは、ブレーズド回折格子のピッチを表しており、一例として、ピッチPが1μmとされる。また、ブレーズ角θ
Bは、25°とされる。この場合、前記条件を満たすためには、入射光K
iの法線Nに対する入射角βも25°にすればよい。
【0062】
2.信号生成器
図1および
図2に示すように、信号生成器54は、光学系50の光変調器12に入力される駆動信号S1を出力する。また、信号生成器54は、復調回路52に入力される基準信号S2を出力する。
【0063】
信号生成器54には、周波数安定性、低ジッター等の良好な特性を有する信号を生成可能な発振器であれば、いかなるものであってもよい。具体的な信号生成器54としては、例えば、ファンクションジェネレーター、シグナルジェネレーター、水晶発振器、PLL(Phase Locked Loop)回路等が挙げられる。
【0064】
なお、信号生成器54は、必要に応じて、恒温環境を生成する温調器を備えていてもよい。これにより、発振装置の恒温化を図ることができる。その結果、信号生成器54は、気温変化が激しい環境でも、良好な特性を有する信号を生成することができる。温調器には、例えばペルチェ素子を用いることができる。
【0065】
3.復調回路
復調回路52は、受光素子10から出力された受光信号から、被測定物14に由来するサンプル信号を復調する復調処理を行う。サンプル信号とは、例えば、位相信号または周波数信号である。位相信号からは、被測定物14の変位情報を取得することができる。また、周波数信号からは、被測定物14の速度情報を取得することができる。このように異なる情報を取得することができれば、変位計や速度計としての機能を持たせられるため、レーザー干渉計1の高機能化を図ることができる。
【0066】
復調回路52は、変調処理の方式に応じて、その回路構成が設定される。本実施形態に係るレーザー干渉計1では、振動素子30を備えた光変調器12が用いられている。振動素子30は、単振動する素子であるため、振動速度が時々刻々と変化する。このため、変調周波数も変化することになり、従来の復調回路をそのまま用いることはできない。
【0067】
従来の復調回路とは、音響光学変調器(AOM)を用いて変調された変調信号を含む受光信号からサンプル信号を復調する回路を指す。音響光学変調器では、変調周波数が変化しない。このため、従来の復調回路は、変調周波数が変化しない光変調器で変調された変調信号を含む受光信号からサンプル信号を復調することはできるが、変調周波数が変化する光変調器12で変調された変調信号を含む場合、そのままでは復調することができない。
【0068】
そこで、
図1に示す復調回路52は、前処理部53と、復調部55と、を備えている。受光素子10から出力された受光信号は、まず、前処理部53を通された後、復調部55に導かれる。前処理部53は、受光信号に前処理を施す。この前処理により、従来の復調回路で復調可能な信号が得られる。したがって、復調部55では、公知の復調方式により、被測定物14由来のサンプル信号が復調される。
【0069】
3.1.前処理部の構成
図1に示す前処理部53は、第1バンドパスフィルター534と、第2バンドパスフィルター535と、第1遅延調整器536と、第2遅延調整器537と、乗算器538と、第3バンドパスフィルター539と、第1AGC540と、第2AGC541と、和算器542と、を備えている。なお、AGCは、Auto Gain Controlである。
【0070】
また、前処理部53と受光素子10との間には、受光素子10側から電流電圧変換器531およびADC532がこの順で接続されている。
【0071】
さらに、信号生成器54と第2遅延調整器537との間には、ADC533が接続されている。
【0072】
電流電圧変換器531は、トランスインピーダンスアンプであり、受光素子10からの電流出力を電圧信号に変換する。ADC532、533は、アナログ-デジタル変換器であり、所定のサンプリングビット数でアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0073】
第1バンドパスフィルター534、第2バンドパスフィルター535および第3バンドパスフィルター539は、それぞれ、特定の周波数帯の信号を選択的に透過させるフィルターである。
【0074】
第1遅延調整器536および第2遅延調整器537は、それぞれ、信号の遅延を調整する回路である。乗算器538は、2つの入力信号の積に比例した出力信号を生成する回路である。第1AGC540および第2AGC541は、それぞれ、信号の振幅を互いに揃える回路である。和算器542は、2つの入力信号の和に比例した出力信号を生成する回路である。
【0075】
受光素子10から出力された電流出力は、電流電圧変換器531で電圧信号に変換される。電圧信号は、ADC532でデジタル信号に変換され、第1信号と第2信号の2つに分割される。
【0076】
第1信号は、第1バンドパスフィルター534に通された後、第1遅延調整器536で群遅延を調整する。第1遅延調整器536で調整する群遅延は、後述する第2バンドパスフィルター535による第2信号の群遅延に相当する。この遅延調整によって、第1信号が通過する第1バンドパスフィルター534と、第2信号が通過する第2バンドパスフィルター535および第3バンドパスフィルター539と、の間でフィルター回路の通過に伴う遅延時間を揃えることができる。第1遅延調整器536を通過した第1信号は、第1AGC540を経て、和算器542に入力される。
【0077】
第2信号は、第2バンドパスフィルター535に通された後、乗算器538に入力される。乗算器538では、第2信号に対し、第2遅延調整器537から出力された基準信号cos(ωmt)が乗算される。具体的には、信号生成器54から出力された基準信号S2に対し、ADC533でデジタル変換、第2遅延調整器537で位相の調整を行い、乗算器538に出力される。その後、第2信号は、第3バンドパスフィルター539に通された後、第2AGC541を経て、和算器542に入力される。和算器542では、第1信号と第2信号の和に比例する出力信号が、復調部55に出力される。
【0078】
3.2.前処理部による前処理の原理
次に、前処理部53における前処理の原理について説明する。まず、
【0079】
【数1】
としたとき、受光素子10から出力される受光信号強度I
PDは、理論的に次式で表される。
【0080】
【0081】
なお、Em、Ed、φm0、φd0、φ0、fm(t)、fd(t)、f0、am、adは、それぞれ以下のとおりである。
【0082】
【0083】
また、式(4)中の<>は、時間平均を表している。
なお、f0は、一例として300THz程度であり、fm(t)は、一例として100kHz~100MHz程度であり、fd(t)は、一例として1kHz~10MHz程度である。
【0084】
上記式(4)の第1項は、直流成分を表しており、第2項は、交流成分を表している。この交流成分をIPD.ACとすると、IPD.ACは次式のようになる。
【0085】
【0086】
さらに、IPD.ACは、次のように変形できる。
【0087】
【0088】
ここで、次式のようなν次ベッセル関数が知られている。
【0089】
【0090】
上記式(8)を上記式(11)および式(12)のベッセル関数を使って級数展開すると、次のように変形できる。
【0091】
【0092】
ただし、J0(B)、J1(B)、J2(B)、・・・は、それぞれベッセル係数である。
【0093】
そして、展開後の各項における、振動周波数の次数と係数との関係を以下の表1に示す。
【0094】
【0095】
以上のように展開すると、理論的には、特定の次数に対応する帯域をバンドパスフィルターによって抽出することが可能であるといえる。
【0096】
そこで、前述した前処理部53では、この理論に基づいて、以下のフローで受光信号に前処理を行っている。
【0097】
まず、前述したADC532から出力されたデジタル信号は、第1信号と第2信号の2つに分割される。第1信号は、第1バンドパスフィルター534に通される。第1バンドパスフィルター534は、中心角周波数がωmに設定されている。これにより、第1バンドパスフィルター534を通過後の第1信号は、さらに第1遅延調整器536および第1AGC540で位相および振幅を調整された結果、次式で表される。
【0098】
【0099】
一方、第2信号は、第2バンドパスフィルター535に通される。第2バンドパスフィルター535の中心角周波数は、第1バンドパスフィルター534の中心角周波数とは異なる値に設定されている。ここでは、一例として、第2バンドパスフィルター535の中心角周波数が2ωmに設定されている。これにより、第2バンドパスフィルター535通過後の第2信号は、次式で表される。
【0100】
【0101】
第2バンドパスフィルター535通過後の第2信号には、乗算器538で基準信号cos(ωmt)が乗算される。乗算後の第2信号は、次式で表される。
【0102】
【0103】
乗算器538通過後の第2信号は、第3バンドパスフィルター539に通される。第3バンドパスフィルター539の中心角周波数は、第1バンドパスフィルター534の中心角周波数と同じ値に設定されている。ここでは、一例として、第3バンドパスフィルター539の中心角周波数がωmに設定されている。これにより、第3バンドパスフィルター539通過後の第2信号は、次式で表される。
【0104】
【0105】
第3バンドパスフィルター539通過後の第2信号は、第2AGC541で第1信号と振幅が揃えられた結果、次式で表される。
【0106】
【0107】
上記式(14)で表される第1信号および上記式(18)で表される第2信号は、和算器542で和算される。和算結果は、次式で表される。
【0108】
【0109】
上記式(19)のように、和算の結果、不要項が消え、必要項を取り出すことができる。この結果が復調部55に出力される。なお、前処理部53はADCを用いたデジタル処理にて説明したが、ADCのないアナログ回路構成であってもよい。
【0110】
3.3.復調部の構成
復調部55は、前処理部53から出力された信号から被測定物14に由来するサンプル信号を復調する復調処理を行う。復調処理としては、特に限定されないが、公知の直交検波法が挙げられる。直交検波法は、入力信号に対し、互いに直交する信号を外部から混合する操作を行うことにより、復調処理を施す方法である。
【0111】
図1に示す復調部55は、第1乗算器551と、第2乗算器552と、移相器553と、第1ローパスフィルター555と、第2ローパスフィルター556と、除算器557と、逆正接演算器558と、信号出力回路559と、を備えたデジタル回路である。
【0112】
3.4.復調部による復調処理の原理
復調処理では、まず、前処理部53から出力された信号を、2つに分割する。分割後の一方の信号に対し、第1乗算器551において、信号生成器54から出力した基準信号S2である周波数信号cos(ωmt)を乗算する。分割後の他方の信号に対しては、第2乗算器552において、信号生成器54から出力した基準信号S2の位相を移相器553で-90°シフトさせた周波数信号-sin(ωmt)を乗算する。周波数信号cos(ωmt)と周波数信号-sin(ωmt)は、互いに位相が90°ずれた信号である。
【0113】
第1乗算器551を通された信号は、第1ローパスフィルター555を通され、その後、信号xとして除算器557に入力される。第2乗算器552を通された信号も、第2ローパスフィルター556を通され、その後、信号yとして除算器557に入力される。除算器557では、信号yを信号xで除する除算を行い、信号y/xを逆正接演算器558に通して、信号atan(y/x)を求める。
【0114】
その後、信号atan(y/x)を信号出力回路559に通すことにより、被測定物14由来のサンプル信号として位相φdが求められる。そして、位相φdに基づいて、被測定物14の変位情報を算出することができる。これにより、被測定物14の変位を計測する変位計が実現される。また、変位情報から、速度情報を求めることができる。これにより、被測定物14の速度を計測する速度計が実現される。
【0115】
以上、復調部55の回路構成について説明したが、上記のデジタル回路の回路構成は、一例であり、これに限定されない。また、復調部55は、デジタル回路に限定されず、アナログ回路であってもよい。アナログ回路には、F/V(Frequency Voltage)コンバーター回路やΔΣカウンター回路が含まれていてもよい。
【0116】
また、上述した復調部55の回路構成は、被測定物14由来のサンプル信号として周波数信号が求められるようになっていてもよい。周波数信号に基づいて、被測定物14の速度情報を算出することができる。
【0117】
4.信号生成器による駆動信号および基準信号の出力
信号生成器54は、前述したように、光学系50および復調回路52の双方に信号を出力する。
【0118】
具体的には、信号生成器54から光変調器12が備える振動素子30に駆動信号S1を出力する。これにより、振動素子30が発振する。一方、信号生成器54は、復調回路52が備える前処理部53に基準信号S2を出力する。
【0119】
本実施形態では、光変調器12に振動素子30を用いているため、前述したように、振動素子30の駆動に必要な電力が小さくて済む。具体的には、基準信号S2の電圧をVrとし、駆動信号S1の電圧をVdとするとき、駆動信号S1の電圧Vdが基準信号S2の電圧Vrの10倍未満であれば、増幅率の大きな増幅器が用いられることはなく、その分、レーザー干渉計1の小型化を図ることができる。
【0120】
なお、電圧Vdは、駆動信号S1が振動素子30に入力される直前の電圧のことをいう。また、電圧Vrも、基準信号S2が前処理部53に入力される直前の電圧のことをいう。
【0121】
また、増幅率が大きいとは、10倍以上であることをいう。例えば、従来の光変調器である音響光学変調器(AOM)や電気光学変調器(EOM)の場合、駆動信号の電圧が100V以上必要とされるため、基準信号との関係を考慮した場合、駆動信号を10倍以上に増幅する増幅器が必要となる。
【0122】
以上で説明したように、本実施形態に係るレーザー干渉計1は、光源部2と、光変調器12と、受光素子10と、復調回路52と、信号生成器54と、を備えている。光源部2は、出射光L1(第1レーザー光)を射出する。光変調器12は、振動素子30を備え、振動素子30を用いて出射光L1を変調し、変調信号を含む参照光L2(第2レーザー光)を生成する。受光素子10は、出射光L1が被測定物14(対象物)で反射して生成された、被測定物14に由来する信号を含む物体光L3(第3レーザー光)と、参照光L2と、の干渉光を受光し、受光信号を出力する。復調回路52は、基準信号S2に基づいて、受光信号から被測定物14に由来する信号を復調する。信号生成器54は、復調回路52に入力される基準信号S2を出力し、かつ、光変調器12に入力される駆動信号S1を出力する。
【0123】
そして、基準信号S2の電圧Vrおよび駆動信号S1の電圧Vdが、Vd/Vr<10を満たす。
【0124】
このような構成によれば、光変調器12に入力する駆動信号S1を大きな増幅率で増幅する増幅器(アンプ)等を用いる必要がないため、レーザー干渉計1の小型化を図ることができる。
【0125】
また、増幅に伴って変調信号に位相ずれ等が発生するのを防止することができるため、被測定物14由来の情報の復調精度が低下するのを抑制することができる。
【0126】
ここで、従来のレーザー干渉計の構成と、本実施形態に係るレーザー干渉計1の構成と、を比較する。
【0127】
図10は、従来のレーザー干渉計の構成を簡略化して示す図である。
図11は、
図1のレーザー干渉計1の構成を簡略化して示す図である。
【0128】
図10に示す従来のレーザー干渉計90は、音響光学変調器(AOM)、電気光学変調器(EOM)等の光変調器91と、受光素子92と、復調回路93と、発振回路94と、水晶振動子95と、増幅器96と、を備えている。発振回路94は、水晶振動子95を発振させることにより、駆動信号S1を発生させる。そして、増幅器96で増幅した駆動信号S1を光変調器91に入力し、光変調器91を動作させる。また、発振回路94は、復調回路93におけるサンプル信号の復調に必要な基準信号S2を出力する。
【0129】
従来のレーザー干渉計90では、発振回路94と光変調器91との間に大きな増幅率を持つ増幅器96が必要であった。
【0130】
これに対し、
図11に示すレーザー干渉計1では、光変調器12に振動素子30を用いているため、大きな電力を必要としない。このため、小さな増幅率の増幅器96であれば足りる。よって、また、
図11に示すように、増幅が不要な場合は、増幅器96を省略することもできる。
【0131】
よって、本実施形態では、復調精度を維持したまま小型化が図られたレーザー干渉計1を実現することができる。
【0132】
また、基準信号S2の電圧Vrおよび駆動信号S1の電圧Vdは、Vd/Vr<2を満たすことが好ましい。駆動信号S1の電圧Vdが基準信号S2の電圧Vrの2倍未満である場合、駆動信号S1を増幅する増幅器を用いる必要はない。このため、レーザー干渉計1のさらなる小型化を図ることができる。
【0133】
5.位相の振幅
前述した前処理部53による前処理の原理からもわかるように、前処理を安定して行うためには、受光信号の交流成分のうち、前述した表1に示す1・ωmの信号成分と2・ωmの信号成分の双方が必要となる。
【0134】
図12は、受光信号の波形の一例を示すグラフである。受光信号は、前述したように、直流成分と交流成分とに分けられる。
図12では、レーザー干渉計1の光路位相差φ
0が取り得る様々な状態を再現するため、φ
0に緩やかな周期変動を与えている。したがって、
図12において、直流成分cos(φ
0)は、長い波の周期に対応し、交流成分cos(ψ
m-ψ
d+φ
0)は、短い波の周期に対応している。ψ
mは、光変調器12による変調信号の位相であって、ψ
m=Bsin(ω
mt)で表される。ψ
dは、被測定物14由来のサンプル信号の位相である。なお、
図12では、ψ
d=0としている。また、一例として、B=0.27としている。
【0135】
長い波の周期および短い波の周期は、計測条件に応じて様々に変化することになる。そこで、いかなる動きをする被測定物14であっても、安定した計測を行うためには、受光信号を表す線が、
図12の「最適ゾーン」と記載した2つの領域に入っていることが求められる。最適ゾーンとは、受光信号の交流成分に、前述した1・ω
mの信号成分と2・ω
mの信号成分の双方が現れる領域のことをいう。つまり、最適ゾーンから外れている場合、
図12に示すように、1・ω
mの信号成分が消失したり、2・ω
mの信号成分が消失したりすることになる。
【0136】
したがって、前述した「最適ゾーン」に入るためには、交流成分のうち、ψm+φ0の振幅がπ/3より大きければよいことになる。また、π/2より大きいことが好ましい。
【0137】
これを踏まえると、変調信号の位相ψmの変化振幅をΔψmとし、サンプル信号の位相ψdの変化振幅をΔψdとしたとき、Δψm+Δψd>π/3が少なくとも成り立っていればよい。そして、Δψmがπ/3に向かってできるだけ大きい方が好ましい。これにより、安定した計測が可能になる。
【0138】
なお、前述したψm=Bsin(ωmt)の式から、変調信号の位相ψmの変化振幅ΔψmはBという値になる。したがって、振動素子30の選定にあたっては、B値がπ/3に向かってできるだけ大きいことが好ましい。一例として、B値は、0.5超であるのが好ましく、π/3超であるのがより好ましい。これにより、被測定物14の変位がより微小であっても、安定して計測することができる。
【0139】
また、B値は、振動素子30の変位振幅L0に換算することができる。例えば、出射光L1の波長が632nmである場合、B>π/3を満たすためには、L0>69.5nmであればよいことになる。また、出射光L1の波長が850nmである場合、B>π/3を満たすためには、L0>93.4nmであればよいことになる。したがって、振動素子30の選定にあたっては、変位振幅L0を目安に選定してもよい。
なお、これらの数値は、以下のようにして求められる。
【0140】
前記式(10)より、B=f
mdmax/f
mである。また、f
mdmax=(4π・f
m・L
0・sinθ)/λである。なお、λは、出射光L1の波長であり、θは、
図8に示す傾斜角度である。
【0141】
これにより、(4πL0sinθ)/λ>π/3が成り立つ。その結果、L0>λ/(12sinθ)となる。したがって、例えば、θ=49.3°とすると、上述したλ=632nmの場合、L0>69.5nm[=632/{12×sin(49.3)}]となる。また、λ=850nmの場合、L0>93.4nm[=850/{12×sin(49.3)}]となる。
【0142】
6.ADC部のサンプリングビット数
図13は、復調回路52で被測定物14由来のサンプル信号を復調して変位を計測したとき、振動素子のB値と、計測変位の標準偏差および決定係数(R2値)と、の関係を示すグラフである。なお、
図13では、
図1に示すADC532のサンプリングビット数を4、8、11、12、16ビットの5段階に変えつつ、計測した結果を図示している。
【0143】
被測定物14には、一例として、振動周波数10kHzで振動している試料を使用している。振動素子のB値は、0.265~2.000で振っている。また、レーザー光には、VCSELから射出させた波長850nmのレーザー光を使用している。
【0144】
図13に示すように、一般的なADCのサンプリングビット数である8ビットの場合でも、B値にかかわらず目標精度を達成できている。
なお、この目標精度とは、以下のとおりである。
【0145】
・サンプリングビット数が8ビット以上の場合、B値にかかわらず標準偏差が1nm以下であること
・サンプリングビット数が4ビットの場合、B値が1.0超である場合の標準偏差が1nm以下であること
・ビット数にかかわらず、B値が0.5超で、決定係数が99.9%以上であること
【0146】
なお、8ビット時の標準偏差の推移をみると、B≧0.5であれば、十分に余裕をもって目標精度を達成していることが認められる。したがって、8ビット以上の場合、B≧0.5であれば、計測時のロバスト性を十分に高めることができる。また、復調精度の観点からも、B値は大きいほど有利であることが認められる。
【0147】
なお、
図13の上図では、4ビットのデータ以外、1.000付近で重なっていて区別することができない。また、
図13の下図では、12ビットのデータと16ビットのデータが、0付近でほぼ重なっていて区別することができない。
【0148】
7.信号生成器による信号生成条件
図14は、振動素子を信号生成器54で励振するとき、駆動信号の電圧値とB値との関係を示すグラフである。なお、
図14では、同じ振動素子を駆動する駆動信号が正弦波信号である場合と駆動信号が矩形波信号である場合とに分けて図示している。また、
図14の縦軸には、B値と併せて、振動素子の変位振幅を示す目盛りも示している。駆動信号の生成には、ファンクションジェネレーターを使用している。
【0149】
ファンクションジェネレーターにより、振動素子に正弦波の駆動信号を印加した場合には、電圧値を高めると、B値が高くなる。正弦波の場合、電圧値を3V以上にすることで、B値をπ/3より大きくすることができる。
【0150】
振動素子に矩形波の駆動信号を印加する場合については、さらに、DCオフセットをゼロにした場合と、電圧下限値がゼロとなるようにDCオフセットを設定した場合と、に分けて、データを取得している。
【0151】
DCオフセットをゼロに設定した駆動信号を印加した場合には、DCオフセットを設定した場合に比べて、同じ電圧値でも大きいB値が得られている。具体的には、電圧値が3V以上であれば、B値がπ/3より大きくなる。
【0152】
DCオフセットの違いによるB値への影響は、次のような原理で説明することができる。
【0153】
図15は、振動素子を信号生成器で励振するとき、B値と、駆動信号のDCオフセット値と、の関係を説明するための概念図である。
【0154】
DCオフセットが設定されている場合、いずれか一方の面は常にグランド電位になる。このため、DCオフセットが設定されていない場合に比べて、位相ψmの変化振幅は小さくなり、B値が相対的に小さくなると考えられる。
【0155】
DCオフセットが設定されていない場合、つまり、DCオフセット値がゼロである場合には、電圧ゼロを挟んで電圧値が振れることになる。この場合、水晶振動子チップの両面のうち、いずれか一方の面がグランド電位であり、他方の面には正または負の電位が付与される。このため、水晶振動子チップは、厚みすべり振動に近い動きをすることになる。このため、DCオフセットが設定されている場合に比べて、位相ψmの変化振幅が大きくなり、B値が相対的に大きくなると考えられる。
【0156】
なお、ファンクションジェネレーターではなく発振回路を用いた場合には、水晶振動子チップの両面に、同時に、極性が交互に替わる電位を与えることができる。この場合、水晶振動子チップは厚みすべり振動をするため、特に大きなB値が得られると考えられる。
【0157】
以上のように、駆動信号S1は、DCオフセット(DC成分)がゼロであることが好ましい。このような駆動信号で振動素子30を駆動することにより、B値を大きくすることができる。その結果、変調信号のS/N比(Signal Noise ratio)を高めることができる。これにより、ロバスト性を高められるため、例えば、レーザー干渉計1の設置アライメントが揺らぐことに伴う計測精度の低下を抑制することができる。
【0158】
図16は、水晶振動子の共振周波数をfQとし、駆動信号の周波数をfoscとし、水晶振動子をファンクションジェネレーターで励振するとき、駆動信号の周波数foscとB値との関係を示すグラフである。
【0159】
図16では、ファンクションジェネレーターによる駆動信号の周波数foscを200Hz単位で振ったとき、受光信号から見積もられたB値がどのように変化しているかを示している。なお、ファンクションジェネレーターによる駆動信号は、3Vの矩形波とし、DCオフセット値はゼロとしている。また、
図16には、foscとfQとの差の絶対値を、併せて図示している。
【0160】
図16から明らかなように、foscを振ったとき、fosc=fQのとき、B値が極大となる。そして、foscがfQから離れるほど、B値が小さくなっている。したがって、foscは、fQを含んでfQに近い範囲であれば、大きいB値が維持され、高い復調精度を達成することができる。
【0161】
具体的には、Δf=|fQ-fosc|≦3000Hzを満たすとき、ADCのサンプリングビット数が11ビット以上である場合に1nmの変位計測精度を達成し得る、B≧0.265を満たす。
【0162】
また、Δf=|fQ-fosc|≦600Hzを満たすとき、ADCのサンプリングビット数が8ビット以上である場合に1nmの変位計測精度を達成し得る、B≧0.5を満たす。8ビットのサンプリングビット数は、ADCとして一般的である。このため、Δfが前記範囲内であれば、変調信号のS/N比を高めつつ、レーザー干渉計1の低コスト化に寄与する。
【0163】
さらに、Δf=|fQ-fosc|≦200Hzを満たすとき、ADCのサンプリングビット数が8ビット以上である場合に1nmの変位計測精度をより安定して達成し得る、B>π/3を満たす。8ビットのサンプリングビット数は、ADCとして一般的である。このため、Δfが前記範囲内であれば、変調信号のS/N比を高めつつ、レーザー干渉計1の低コスト化に寄与する。また、ロバスト性を高められるため、高精度の計測を安定して行い得るレーザー干渉計1を実現することができる。
【0164】
以上のように、水晶振動子の共振周波数をfQとし、駆動信号の周波数をfoscとするとき、少なくともΔf=|fQ-fosc|≦3000Hzを満たすことが好ましい。
【0165】
これにより、位相ψmの変化振幅であるB値を比較的大きくすることができる。このため、復調回路における復調精度を高めることができる。
【0166】
以上、本発明のレーザー干渉計を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明のレーザー干渉計は、前記実施形態に限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、前記実施形態に係るレーザー干渉計には、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【符号の説明】
【0167】
1…レーザー干渉計、2…光源部、4…偏光ビームスプリッター、6…1/4波長板、8…1/4波長板、9…検光子、10…受光素子、12…光変調器、14…被測定物、16…セット部、18…光路、20…光路、22…光路、24…光路、30…振動素子、31…基板、32…溝、33…パッド、34…回折格子、35…パッド、36…振動方向、37…ミラー、50…光学系、51…センサーヘッド部、52…復調回路、53…前処理部、54…信号生成器、55…復調部、311…表面、312…裏面、531…電流電圧変換器、532…ADC、533…ADC、534…第1バンドパスフィルター、535…第2バンドパスフィルター、536…第1遅延調整器、537…第2遅延調整器、538…乗算器、539…第3バンドパスフィルター、540…第1AGC、541…第2AGC、542…和算器、551…第1乗算器、552…第2乗算器、553…移相器、555…第1ローパスフィルター、556…第2ローパスフィルター、557…除算器、558…逆正接演算器、559…信号出力回路、L1…出射光、L2…参照光、L3…物体光、N…法線、P…ピッチ、S1…駆動信号、S2…基準信号、β…入射角、θ…傾斜角度、θB…ブレーズ角