(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
B24B 5/04 20060101AFI20240820BHJP
B24B 47/20 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B24B5/04
B24B47/20
(21)【出願番号】P 2020151707
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 明
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-161445(JP,A)
【文献】実開昭62-100856(JP,U)
【文献】特開2002-079444(JP,A)
【文献】特開2002-263992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 5/04
B24B 7/02
B24B 29/08
B24B 47/00 - 47/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の砥石車を備え、円筒状の工作物の回転軸線と交差する切り込み方向に前記砥石車と前記工作物とを相対移動させ、前記回転軸線に沿ったトラバース方向に前記砥石車と前記工作物とを相対移動させることによりトラバース研削を行う円筒研削装置であって、
前記砥石車の外周面には、前記トラバース方向に段状に連続する環状のM(Mは2以上の整数)個の研削面であって、前記トラバース方向の後方に位置する研削面の直径が前方に位置する研削面の直径に比べて大きなM個の研削面が形成されており、
前記M個の研削面の幅は、いずれも前記工作物の1回転当たりの前記砥石車の前記トラバース方向への相対移動量と等しく、
前記M個の研削面において互いに隣接する研削面の間の径方向の段差の大きさは、いずれも前記トラバース研削による前記工作物への前記切り込み方向の切り込み量として予め定められた設定量の1/Mに等し
く、
前記砥石車は、前記トラバース方向の移動の往路と復路のいずれにおいても前記工作物をトラバース研削し、
前記M個の研削面は、前記往路において前記工作物を研削し、
前記外周面には、前記トラバース方向に段状に連続し、前記復路において前記工作物を研削する環状のN(Nは2以上の整数)個の研削面であって、前記復路の後方に位置する研削面の直径が前方に位置する研削面の直径に比べて大きなN個の研削面が形成されており、
前記N個の研削面の幅は、いずれも前記相対移動量と等しく、
前記N個の研削面において互いに隣接する研削面の間の径方向の段差の大きさは、いずれも前記設定量の1/Nに等しい、
円筒研削装置。
【請求項2】
請求項1に記載の円筒研削装置であって、
前記外周面には、前記M個の研削面のうちの前記トラバース方向の最後方に位置する第M番目の研削面に対して前記トラバース方向の後方に隣接し、前記第M番目の研削面と直径が等しく、スパークアウトを実行するスパークアウト部が、さらに形成されている、
円筒研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、砥石車の幅よりも長い円筒状の工作物の外周面を研削するために、トラバース研削方法が用いられている(特許文献1、2参照)。トラバース研削方法では、工作物を回転させつつ、工作物の回転軸に沿って砥石車を相対移動させながら工作物の表面を研削させる。そして、工作物の端部まで達すると、砥石車を反対方向に相対移動させながら工作物の表面を研削させる、或いは、研削は行わずに反対方向への相対移動のみ行い、その後再び相対移動させながら研削させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭48-70991号公報
【文献】特開昭55-58972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のトラバース研削方法では、研削する厚さによっては砥石車を非常に多くの回数往復させる必要があり、研削加工時間が非常に長くなるという問題がある。また、砥石車の外周の研削面のうち、砥石車の相対移動方向の端部側の領域であって、工作物の1回転当たりの砥石車の回転軸方向に沿った移動量(以下、「リード」と呼ぶ)に相当する幅の領域に研削の負荷が集中するため、砥石車全体としての寿命(砥石表面の形状を維持できる期間)が短いという問題がある。このため、砥石車の寿命が短くなることを抑制しつつ研削加工時間を短縮可能な技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
[形態1]円盤状の砥石車を備え、円筒状の工作物の回転軸線と交差する切り込み方向に前記砥石車と前記工作物とを相対移動させ、前記回転軸線に沿ったトラバース方向に前記砥石車と前記工作物とを相対移動させることによりトラバース研削を行う円筒研削装置であって、前記砥石車の外周面には、前記トラバース方向に段状に連続する環状のM(Mは2以上の整数)個の研削面であって、前記トラバース方向の後方に位置する研削面の直径が前方に位置する研削面の直径に比べて大きなM個の研削面が形成されており、
前記M個の研削面の幅は、いずれも前記工作物の1回転当たりの前記砥石車の前記トラバース方向への相対移動量と等しく、前記M個の研削面において互いに隣接する研削面の間の径方向の段差の大きさは、いずれも前記トラバース研削による前記工作物への前記切り込み方向の切り込み量として予め定められた設定量の1/Mに等しく、前記砥石車は、前記トラバース方向の移動の往路と復路のいずれにおいても前記工作物をトラバース研削し、前記M個の研削面は、前記往路において前記工作物を研削し、前記外周面には、前記トラバース方向に段状に連続し、前記復路において前記工作物を研削する環状のN(Nは2以上の整数)個の研削面であって、前記復路の後方に位置する研削面の直径が前方に位置する研削面の直径に比べて大きなN個の研削面が形成されており、前記N個の研削面の幅は、いずれも前記相対移動量と等しく、前記N個の研削面において互いに隣接する研削面の間の径方向の段差の大きさは、いずれも前記設定量の1/Nに等しい、円筒研削装置。
【0006】
(1)本開示の一形態として、円盤状の砥石車を備え、円筒状の工作物の回転軸線と交差する切り込み方向に前記砥石車と前記工作物とを相対移動させ、前記回転軸線に沿ったトラバース方向に前記砥石車と前記工作物とを相対移動させることによりトラバース研削を行う円筒研削装置が提供される。この円筒研削装置において、前記砥石車の外周面には、前記トラバース方向に段状に連続する環状のM(Mは2以上の整数)個の研削面であって、前記トラバース方向の後方に位置する研削面の直径が前方に位置する研削面の直径に比べて大きなM個の研削面が形成されており、前記M個の研削面の幅は、いずれも前記工作物の1回転当たりの前記砥石車の前記トラバース方向への相対移動量と等しく、前記M個の研削面において互いに隣接する研削面の間の径方向の段差の大きさは、いずれも前記トラバース研削による前記工作物への前記切り込み方向の切り込み量として予め定められた設定量の1/Mに等しい。
この形態の円筒研削装置によれば、砥石車の外周面に形成されたM個の研削面の幅はいずれも工作物の1回転当たりの砥石車のトラバース方向への相対移動量と等しく、また、M個の研削面において互いに隣接する研削面の間の径方向の段差の大きさは、いずれもトラバース研削による工作物への切り込み方向の切り込み量として予め定められた設定量の1/Mに等しいので、工作物が1回転する間に或る研削面によって予め定められた設定量の1/Mだけ研削された領域について、次の1回転の間に隣接する研削面によって予め定められた設定量の1/Mだけ研削することができる。このようにして、砥石車が工作物の端に達するまで相対移動する間に、予め設定されている切り込み量だけ工作物を研削できる。また、合計の研削面として、工作物の1回転当たりの砥石車のトラバース方向への相対移動量のM倍の幅を有する研削面を利用して工作物を研削することとなるので、研削面として工作物の1回転当たりの砥石車のトラバース方向への相対移動量と同じ大きさの幅を有する研削面を利用して研削する従来構成に比べて、砥石車における研削領域を分散でき、砥石車の寿命が短くなることを抑制できる。このように、この形態の円筒研削装置によれば、砥石車の寿命が短くなることを抑制しつつ研削加工時間を短縮できる。
(2)上記形態の円筒研削装置において、前記外周面には、前記M個の研削面のうちの前記トラバース方向の最後方に位置する第M番目の研削面に対して前記トラバース方向の後方に隣接し、前記第M番目の研削面と直径が等しく、スパークアウトを実行するスパークアウト部が、さらに形成されていてもよい。
この形態の円筒研削装置によれば、第M番目の研削面に対してトラバース方向の後方に隣接し、第M番目の研削面と直径が等しく、スパークアウトを実行するスパークアウト部が形成されているので、工作物の中心軸線と回転軸線とがずれていた場合であっても、M個の研削面による研削の後にスパークアウトを実行して工作物の断面形状をより真円に近い形状に形成できる。
(3)上記形態の円筒研削装置において、前記砥石車は、前記トラバース方向の移動の往路と復路のいずれにおいても前記工作物をトラバース研削し、前記M個の研削面は、前記往路において前記工作物を研削し、前記外周面には、前記トラバース方向に段状に連続し、前記復路において前記工作物を研削する環状のN(Nは2以上の整数)個の研削面であって、前記復路の後方に位置する研削面の直径が前方に位置する研削面の直径に比べて大きなN個の研削面が形成されており、前記N個の研削面の幅は、いずれも前記相対移動量と等しく、前記N個の研削面において互いに隣接する研削面の間の径方向の段差の大きさは、いずれも前記設定量の1/Nに等しくてもよい。
この形態の円筒研削装置によれば、砥石車の外周面には、さらにN個の研削面が形成されており、トラバース方向の移動の往路と復路のいずれにおいても工作物をトラバース研削するので、研削加工時間を短縮でき、また、研削面をより広げることができる(より分散できる)ので、砥石車の寿命が短くなることをより抑制できる。
(4)本開示の他の形態として、円盤状の砥石車を備え、平板状の工作物の表面に沿った互いに直交する第1方向および第2方向に、前記砥石車と前記工作物とのうちの少なくとも一方を移動させることにより研削を行う平面研削装置が提供される。この平面研削装置において、前記第2方向は前記砥石車の回転軸線と平行であり、前記砥石車の外周面には、前記第2方向に段状に連続する環状のP(Pは2以上の整数)個の研削面であって、前記第2方向の後方に位置する研削面の直径が前方に位置する研削面の直径に比べて大きなP個の研削面が形成されており、前記P個の研削面の幅は互いに等しく、前記砥石車は、前記第1方向の移動の往路と復路のいずれにおいても前記工作物を平面研削し、前記往路および前記復路の端でそれぞれ前記P個の研削面の幅に相当する長さ分、前記第2方向に相対移動し、前記P個の研削面において互いに隣接する研削面の間の径方向の段差の大きさは、いずれも前記平面研削による前記工作物への切り込み量として予め定められた設定量の1/Pに等しい。
この形態の平面研削装置によれば、砥石車の外周面に形成されたP個の研削面の幅はいずれも砥石車の第1方向の移動の往路と復路の端で第2方向に相対移動する際の移動量に等しく、また、P個の研削面において互いに隣接する研削面の間の径方向の段差の大きさは、いずれも平面研削による工作物への切り込み量として予め定められた設定量の1/Pに等しいので、砥石車の往路において或る研削面によって予め定められた設定量の1/Pだけ研削された領域について、復路において、隣接する研削面によって予め定められた設定量の1/Pだけ研削することができる。このようにして、砥石車が第2方向の端に達する間に、予め設定されている切り込み量だけ工作物を研削できる。また、合計の研削面として、砥石車の第1方向の移動の往路と復路の端で第2方向に相対移動する際の移動量のP倍の幅を有する研削面を利用して工作物を研削することとなるので、研削面として砥石車の第1方向の移動の往路と復路の端で第2方向に相対移動する際の移動量と同じ大きさの幅を有する研削面を利用して研削する構成に比べて、砥石車における研削領域を分散でき、砥石車の寿命が短くなることを抑制できる。このように、この形態の平面研削装置によれば、砥石車の寿命が短くなることを抑制しつつ研削加工時間を短縮できる。
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、円筒研削装置または平面研削装置に用いられる砥石車、円筒研削装置または平面研削装置の制御方法、工作物の研削方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態としての研削装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】研削装置による切削加工の対象となる工作物の外観形状を模式的に示す平面図である。
【
図3】砥石車の径方向の端部の詳細構成を示す部分断面図である。
【
図4】研削実行時の砥石車の相対移動の様子を模式的に示す平面図である。
【
図5】往路時における砥石車による研削動作の詳細を模式的に示す説明図である。
【
図6】第2実施形態の研削装置における砥石車の詳細構成を模式的に示す部分断面図である。
【
図7】第2実施形態における研削実行時の砥石車の相対移動の様子を模式的に示す平面図である。
【
図8】第3実施形態の研削装置の概略構成の一部を示すブロック図である。
【
図9】第3実施形態の研削装置における砥石車の詳細構成を模式的に示す部分外観図である。
【
図10】第4実施形態における砥石車および工作物を模式的に示す斜視図である。
【
図11】第4実施形態における研削実行時の砥石車の相対移動の様子を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
A1.研削装置の全体構成:
図1は、本開示の一実施形態としての研削装置100の概略構成を示すブロック図である。
図1では、互いに直交するX1軸、Y1軸およびZ1軸が表されている。X1-Y1平面は、水平面に相当する。Z1軸は、鉛直方向と平行である。本実施形態では、
図1における下方、具体的には、Y1軸に沿って後述の砥石台48から後述のテーブル40に向かう方向を「手前側」と呼び、Y1軸に沿ってテーブル40から砥石台48に向かう方向を「奥側」と呼ぶ。また、
図1における右側、具体的には、X1軸に沿って後述の主軸台30から後述の心押台42に向かう方向を「右側」と呼び、心押台42から主軸台30に向かう方向を「左側」と呼ぶ。
【0009】
研削装置100は、工作物W1の外周面を研削する。このとき、研削装置100は、工作物W1の回転軸線(後述の回転軸線CX)と交差する切り込み方向に砥石車(後述の砥石車46)と工作物W1とを相対移動させ、回転軸線CXに沿ったトラバース方向に砥石車46と工作物W1とを相対移動させることによりトラバース研削を行う。本実施形態において、上述の回転軸線はX1軸と平行であり、切り込み方向は回転軸線と直交し、Y1軸と平行である。研削装置100は、「円筒研削装置」とも呼ばれる。また、後述のように、工作物W1の回転軸(後述の回転軸線CX)と直交する方向に砥石台(後述の砥石台48)が進退するため、「ラジアル研削盤」とも呼ばれる。研削装置100は、ベッド36と、テーブル40と、砥石台48と、主軸台30と、心押台42と、定寸装置70とを備える。
【0010】
ベッド36の上面(Z1軸方向の上方端面)には、テーブル40と砥石台48と定寸装置70とが取り付けられている。その他、ベッド36には、モータ24、54が取り付けられている。モータ24は、テーブル40をX1軸方向に沿って移動させるために用いられる。モータ24の回転量は、エンコーダ22により検出される。モータ24およびエンコーダ22は、テーブル移動モータ駆動回路19に電気的に接続されている。テーブル移動モータ駆動回路19は、エンコーダ22により検出される回転量を取得し、かかる回転量を利用してモータ24の回転を制御する。モータ54は、砥石台48をY1軸に沿って移動させるために用いられる。モータ54の回転量は、エンコーダ52により検出される。モータ54およびエンコーダ52は、砥石台移動モータ駆動回路18に電気的に接続されている。砥石台移動モータ駆動回路18は、エンコーダ52により検出される回転数を取得し、かかる回転量を利用してモータ54の回転を制御する。なお、ベッド36の上面には、テーブル40がX1軸に沿って移動するための摺動面が形成されている。同様に、ベッド36の上面には、砥石台48がY1軸に沿って移動するための摺動面が形成されている。
【0011】
テーブル40には、工作物W1を支持し且つ回転および移動させるための構成要素が取り付けられている。具体的には、テーブル40には、主軸台30と、心押台42とが取り付けられている。
【0012】
砥石台48は、砥石車46の移動および回転を実行する。砥石台48には、砥石車46と、砥石車46が取り付けられた取付軸44と、モータ50と、無端ベルト51と、回転軸53とを備える。砥石車46は、円盤状の外観形状を有し、取付軸44の外周面の全周に亘って設けられている。砥石車46の詳細構成については後述する。なお、
図1では、理解を助けるため、後述する砥石車46の外周面における特徴的な形状を拡大して表している。無端ベルト51は、モータ50の出力軸と、回転軸53とに亘って架け渡されている。回転軸53は、砥石車46に対して中心軸線が一致した状態で接続されている。このため、モータ50が回転することにより、無端ベルト51および回転軸53を介して砥石車46が回転することとなる。モータ50は、図示しない駆動回路によってその回転が制御される。
【0013】
主軸台30は、主軸31と、チャック32と、ツルーイング装置33と、モータ28と、エンコーダ26とを備える。主軸31は、工作物W1を回転させるときの軸として機能する。したがって、主軸31の中心軸線A0は、工作物W1の回転軸線(後述の回転軸線CX)に一致する。チャック32は、工作物W1の一方の端部を回転可能に把持する。チャックの一端は、工作物W1の端部を把持し、他端は、主軸31に接続されている。ツルーイング装置33は、主軸台30の外周面のうち砥石台48に近い側に配置されている。ツルーイング装置33は、砥石車46における表面形状(後述の研削面BS1~BS3の形状)を所定の形状に成形する。モータ28は、主軸31を回転させる。モータ28の回転量はエンコーダ26により検出される。モータ28およびエンコーダ26は、主軸モータ駆動回路20に電気的に接続されている。
【0014】
心押台42は、X1軸方向において主軸台30と対向し、工作物W1においてチャック32により把持されている端部とは反対側の端部を、回転可能に支持する。心押台42は、X1軸に沿って左側に突出したセンタ38を備える。センタ38は、工作物W1の右側の端面に当接して工作物W1を支持し、工作物W1の回転に併せて回転可能に構成されている。
【0015】
定寸装置70は、砥石車46の外周面に対向して配置されている。定寸装置70は、Y1軸方向に移動可能に構成されており、工作物W1の円筒部分の外径等の測定に用いられる。
【0016】
研削装置100の動作は、数値制御装置10により制御される。数値制御装置10は、メモリ1と、CPU2と、第1インターフェイス部3と、第2インターフェイス部4とを備える。メモリ1には予め制御プログラムが記憶されており、CPU2は、かかる制御プログラムを実行することにより、研削装置100を制御するための機能部として各種処理を実行する。第1インターフェイス部3は、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)14、アンプ16、砥石台移動モータ駆動回路18、テーブル移動モータ駆動回路19、および主軸モータ駆動回路20と、CPU2とのデータの送受信を仲介する。第2インターフェイス部4は、キーボードやディスプレイ等からなる入出力装置12とCPU2とのデータの送受信を仲介する。プログラマブルロジックコントローラ14は、定寸装置70の制御を行う。アンプ16は、定寸装置70の出力を増幅し、また、アナログ/ディジタル変換(A/D変換)する。
【0017】
砥石台移動モータ駆動回路18は、CPU2から受信する制御指示に応じて、駆動制御信号を増幅してモータ54に出力し、また、エンコーダ52の検出結果を利用してモータ54をサーボ制御する。同様に、テーブル移動モータ駆動回路19は、駆動制御信号をモータ24に出力し、また、エンコーダ22の検出結果を利用してモータ24をサーボ制御する。同様に、主軸モータ駆動回路20は、駆動制御信号をモータ28に出力し、また、エンコーダ26の検出結果を利用してモータ28をサーボ制御する。
【0018】
研削装置100では、モータ24が回転してテーブル40がX1軸方向に移動することにより、砥石車46を工作物W1に対してX1軸方向に相対移動させることができる。
【0019】
A2.加工物の構成:
図2は、研削装置100による切削加工の対象となる工作物W1の外観形状を模式的に示す平面図である。工作物W1は、段付きの円筒状(円柱状)の外観形状を有する。工作物W1は、第1円柱部R1と、第1円柱部R1を挟んで配置される2つの第2円柱部R2と、各第2円柱部R2において、第1円柱部R1と接する側とは反対側の面に接する2つの第3円柱部R3とを備えている。各円柱部R1、R2、R3の中心軸線は、互いに一致しており、また、工作物W1全体としての中心軸線A1に一致している。
【0020】
第1円柱部R1の直径が最も大きく、第2円柱部R2の直径が2番目に大きく、第3円柱部R3の直径が最も小さい。このため、第1円柱部R1と第2円柱部R2との間には、径方向の段差STが形成されている。同様に、第2円柱部R2と第3円柱部R3との間にも、径方向の段差が形成されている。
【0021】
上記構成を有する工作物W1は、例えば、研削装置100による切削加工等の各種処理の後、新聞等の大判印刷物の輪転機に用いられるローラーの心材として用いられる。このようにローラーの心材として用いられる場合、例えば、金属製の円筒部材の中央の軸孔部分を充填するための円柱部材として用いられる。
【0022】
上記のようなローラーでは、高速回転の要請から工作物W1の軽量が求められる。このため、工作物W1は、例えば、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)の押出成形および焼成により形成される。このような材料および形成過程を経て得られる工作物W1では、形成精度が低いため、金属製の円筒部材の内径に合わせて表面を研削する際の研削量(切り込み量)は、非常に大きくなる。しかし、本実施形態の研削装置100では、後述する砥石車46を用いることにより、工作物W1の外周面の研削に要する時間を短縮できる。また、砥石車46の寿命が短くなることを抑制できる。なお、工作物W1は、CFRPに限らず、SUS(ステンレス鋼)やチタニウム(Ti)といった金属など、任意の材料により形成されてもよい。また、工作物W1は、輪転機に用いられるローラーの心材に限らず、任意の用途で用いられる円筒部材であってもよい。
【0023】
A3.砥石車46の詳細構成:
図3は、砥石車46の径方向の端部の詳細構成を示す部分断面図である。砥石車46の外周面には、X1軸方向に段状に連続する複数の環状の研削面が形成されている。なお、X1軸はトラバース方向と平行であるので、砥石車46の外周面には、トラバース方向に段状に連続する複数の研削面が形成されているともいえる。複数の環状の研削面は、具体的には、第1研削面BS1と、第2研削面BS2と、第3研削面BS3とが該当する。これら3つの研削面BS1~BS3は、工作物W1と接して、工作物W1の外周面を研削する。
【0024】
第1研削面BS1は、トラバース方向において最も前方に位置し、直径が最も小さい。第2研削面BS2は、第1研削面BS1に対してトラバース方向において後方に隣接し、直径が2番目に小さい。第3研削面BS3は、第2研削面BS2に対してトラバース方向において後方に隣接し、直径が最も大きい。
【0025】
3つの研削面BS1~BS3において、X1軸方向の幅(換言すると、トラバース方向の幅)は互いに等しく、工作物W1の1回転当たりの砥石車46のトラバース方向への相対移動量1L(以下、「リード1L」とも呼ぶ)に等しい。リード1Lは、例えば、10~20mm(ミリメートル)の範囲の任意の値としてもよい。なお、リード1Lは、かかる範囲の値に限らず任意の値としてもよい。
【0026】
砥石車46の外周面には、上述の3つの研削面BS1~BS3に加えて、第1スパークアウト部SP1が形成されている。第1スパークアウト部SP1は、第3研削面BS3に対してトラバース方向の後方に位置する。第1スパークアウト部SP1の直径は第3研削面BS3の直径と等しい。第1スパークアウト部SP1のトラバース方向の幅は、リード1Lの2倍(2L)である。第1スパークアウト部SP1は、自身が回転することによりいわゆる「スパークアウト」を実行する。「スパークアウト」とは、ゼロカットとも呼ばれる。なお、第3研削面BS3と、第1スパークアウト部SP1とで構成の相違は無い。第3研削面BS3によって所定の切り込み量の研削(切り込み)が行われ、トラバース方向においてより後方に位置する2つのリード1L分に相当する第1スパークアウト部SP1により2リード(2L)分のスパークアウトが行われることとなる。
【0027】
第1研削面BS1と第2研削面BS2との間の径方向の段差の大きさと、第2研削面BS2と第3研削面BS3との間の径方向の段差の大きさとは、互いに等しい。本実施形態では、かかる段差の大きさは、トラバース研削による工作物W1への切り込み方向の切り込み量として予め設定された設定量の1/3に等しい。本実施形態では、上述の「予め設定された設定量」は、「3Δ」である。したがって、段差の大きさは、3Δの1/3の「1Δ」となる。この1Δは、3つの研削面BS1~BS3がそれぞれ切り込み方向に切り込む際の切り込み量に相当する。なお、
図3では、各研削面BS1~BS3の切り込み量1Δを、砥石車46の右側に示している。切り込み量1Δとしては、例えば、10~20μm(マイクロメートル)の範囲の任意の値としてもよい。なお、切り込み量1Δは、かかる範囲の値に限らず任意の値としてもよい。
【0028】
上述した砥石車46の外周面の各研削面BS1~BS3は、ツルーイング装置33によって、トラバース研削が完了する度に、上述した形状となるように成形される。
【0029】
A4.研削動作:
図4は、研削実行時の砥石車46の相対移動の様子を模式的に示す平面図である。テーブル40がX1軸に沿って右から左へ所定の速度で移動することにより、砥石車46は、工作物W1に対してX1軸に沿って左から右へ所定の速度で相対移動する。また、その逆に、テーブル40がX1軸に沿って左から右へ所定の速度で移動することにより、砥石車46は、工作物W1に対してX1軸に沿って右から左へ所定の速度で相対移動する。
【0030】
図4において太い実線で示す砥石車46は、工作物W1の左側の端部において、段差STに各研削面BS1~BS3が位置するようにY1軸方向の位置決めが行われる。その後、砥石車46は、一点鎖線の矢印で示す往路m11のように、工作物W1に対してX1軸に沿って左から右へ相対移動しながら工作物W1の外周面を研削する。工作物W1の右側の端部まで研削が完了すると、砥石車46は、一点鎖線の矢印で示す復路m12のように、工作物W1に対してX1軸に沿って右から左へ相対移動して工作物W1の左側の端部に至る。本実施形態では、この復路m12においては、工作物W1を研削しない。その後、砥石台48がY1軸に沿って手前側に移動することにより、細い鎖線の矢印で示すように、砥石車46は手前側に移動する。その後、先ほどと同様にして、砥石車46は、細い破線で示す往路m21のように工作物W1に対してX1軸に沿って左から右へ相対移動しながら工作物W1の外周面を研削し、細い破線の矢印で示す復路m22のように工作物W1に対してX1軸に沿って右から左へ移動する。このような往路における研削と、復路により元の位置に戻ってさらに手前側に移動することとを繰り返し行うことにより、工作物W1の外周面を所望の厚さだけ研削することができる。
【0031】
図5は、往路時における砥石車46による研削動作の詳細を模式的に示す説明図である。上述のように、工作物W1が回転軸線CXを中心として回転している状態において、砥石車46がX1軸方向に相対移動することにより、工作物W1の外周面が研削される。研削が開始されると、まず、右側の端部に位置する第1研削面BS1により、工作物W1の第1表層部WL1が研削される。第1表層部WL1の厚さ(Y1軸方向の長さ)は、切り込み量1Δに等しい。砥石車46がリード1L分研削して右側へ相対移動すると、今度は、第2研削面BS2が工作物W1の表面、すなわち第1表層部WL1が研削されたことにより現れた第2表層部WL2に当接し、かかる第2表層部WL2を研削する。このとき、第1研削面BS1も、リード1L分だけ第1表層部WL1を研削する。なお、第2表層部WL2の厚さ(Y1軸方向の長さ)は、切り込み量1Δに等しい。第1研削面BS1および第2研削面BS2によりそれぞれリード1L分だけ研削されると、今度は、第3研削面BS3が工作物W1の表面、すなわち、第2表層部WL2が研削されたことにより現れた第3表層部WL3に当接し、かかる第3表層部WL3を研削する。このとき、第1研削面BS1および第2研削面BS2は、それぞれが接する表層部(第1表層部WL1および第2表層部WL2)をリード1L分だけ研削する。なお、第3表層部WL3の厚さ(Y1軸方向の長さ)は、切り込み量1Δに等しい。その後、第1研削面BS1による第1表層部WL1の研削と、第2研削面BS2による第2表層部WL2の研削と、第3研削面BS3による第3表層部WL3の研削とが、同時に行われる。なお、第3研削面BS3により研削された第3表層部WL3は、次の2つのリード1L分(2L)の相対移動の間に、第1スパークアウト部SP1によりスパークアウトが施される。
【0032】
上述のようにして一往路分の研削が完了すると、3つの研削面BS1~BS3によって切り込み方向の切り込み量として予め定められた設定量(3Δ)だけ、工作物W1の外周面が研削されることとなる。加えて、1往路分の研削が完了すると、第1スパークアウト部SP1により、各領域に対して2回転分のスパークアウトが施されることとなる。例えば、砥石車の外周面のうちの右端部のリード1L分のみで研削を行う比較例の構成では、一往路分研削が完了した時点において、切り込み量1Δだけ工作物W1が研削されるに過ぎない。また、かかる比較例の構成では、砥石車の外周面のうちの右端部のリード1L分のみで研削を行うため、かかる部分に研削の負荷が掛かってしまう。これに対して、第1実施形態の研削装置100では、一往路分の研削によって比較例に比べて3倍の切り込み量だけ研削でき、また、比較例に比べてX1軸方向に3倍の長さの部分を研削面として用いるので、より広い部分に研削の負荷が掛かるようにできる。このため、砥石車46全体としての寿命(砥石表面の形状を維持できる期間)が短くなることをより抑制できる。
【0033】
以上説明した第1実施形態の研削装置100によれば、砥石車46の外周面には、回転軸線CX方向に段状に連続する第1研削面BS1、第2研削面BS2および第3研削面BS3が形成されており、3つの研削面BS1~BS3の回転軸線CX方向の幅は、いずれも工作物W1の1回転当たりの砥石車46のトラバース方向への相対移動量(リード1L)に等しく、また、第1研削面BS1と第2研削面BS2との間の径方向の段差の大きさ、および第2研削面BS2と第3研削面BS3との間の径方向の段差の大きさは、いずれもトラバース研削による工作物W1への切り込み方向への切り込み量として予め設定されている設定量(3Δ)の1/3と等しいので、工作物W1が1回転する間に第1研削面BS1によって切り込み量1Δだけ研削し、同じ領域について、次の1回転の間に第2研削面BS2によって切り込み量1Δだけ研削し、さらに、同じ領域について、次の1回転の間に第3研削面BS3によって切り込み量1Δだけ研削することができる。このため、砥石車46が工作物W1の端に達するまで相対移動する間に、予め定められている設定量(3Δ)だけ工作物W1を研削できる。また、外周面において右端部の第1研削面BS1の回転軸方向の幅の3倍の幅の研削面を利用して工作物W1を研削できるので、砥石車46において研削領域を分散でき、砥石車46の寿命が短くなることを抑制できる。このように、第1実施形態の研削装置100によれば、砥石車46の寿命が短くなることを抑制しつつ研削加工時間を短縮できる。
【0034】
また、トラバース方向の最後方の研削面である第3研削面BS3に対してトラバース方向の後方に隣接し、第3研削面BS3と直径が等しく、スパークアウトを実行する第1スパークアウト部SP1が形成されているので、工作物W1の中心軸線A1と回転軸線CXとがずれていた場合であっても、3つの研削面BS1~BS3による研削の後にスパークアウトを実行して工作物W1の断面形状をより真円に近い形状に形成できる。
【0035】
B.第2実施形態:
図6は、第2実施形態の研削装置100における砥石車146の詳細構成を模式的に示す部分断面図である。第2実施形態の研削装置100は、砥石車46に代えて
図6に示す砥石車146を備える点と、トラバース方向の移動の往路に加えて復路においても工作物W1の外周面を研削する点とにおいて、第1実施形態の研削装置100と異なる。第2実施形態の研削装置100における他の構成は、第1実施形態の研削装置100と同様であるので、同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0036】
第2実施形態の砥石車146は、第1スパークアウト部SP1に代えて、第2スパークアウト部SP2を備える点と、第4研削面BS4、第5研削面BS5および第6研削面BS6を追加して備える点とにおいて、第1実施形態の砥石車46と異なる。砥石車146におけるその他の構成は、第1実施形態の砥石車46と同じであるので、同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0037】
第2スパークアウト部SP2は、第1実施形態の第1スパークアウト部SP1と同様にスパークアウトを実行する。第2スパークアウト部SP2は、X1軸に沿って第3研削面BS3を挟んで第2研削面BS2とは反対側に位置し、第3研削面BS3に隣接する。第2スパークアウト部SP2の直径は第3研削面BS3の直径と等しい。第2スパークアウト部SP2のトラバース方向の幅は、リード1Lに一致する。第2スパークアウト部SP2の直径は、第3研削面BS3の直径と等しい。
【0038】
3つの研削面BS4~BS6は、第2スパークアウト部SP2を挟んで3つの研削面BS1~BS3と対称な形状を有する。このため、3つの研削面BS4~BS6は、3つの研削面BS1~BS3と同様に、X1軸方向に段状に連続する。具体的には、第4研削面BS4は、第2スパークアウト部SP2を挟んで第3研削面BS3とは反対側に位置し、第2スパークアウト部SP2に隣接する。第5研削面BS5は、第4研削面BS4を挟んで第2スパークアウト部SP2とは反対側に位置し、第4研削面BS4に隣接する。第6研削面BS6は、第5研削面BS5を挟んで第4研削面BS4とは反対側に位置し、第5研削面BS5に隣接する。第4研削面BS4の直径は、第3研削面BS3の直径と等しい。同様に、第5研削面BS5の直径は第2研削面BS2の直径と、第6研削面BS6の直径は第1研削面BS1の直径と、それぞれ等しい。このため、第4研削面BS4と第5研削面BS5との間の径方向の段差の大きさと、第5研削面BS5と第6研削面BS6との間の径方向の段差の大きさとは、いずれも上述の設定量(3Δ)の1/3(1Δ)で共通している。また、3つの研削面BS4~BS6の回転軸線CX方向の幅(X1軸方向の幅)は、リード1Lである点において共通する。3つの研削面BS4~BS6は、砥石車46のトラバース方向の移動の復路において、工作物W1を研削する。なお、3つの研削面BS1~BS3は、砥石車46のトラバース方向の移動の往路において、工作物W1を研削する。
【0039】
図7は、第2実施形態における研削実行時の砥石車146の相対移動の様子を模式的に示す平面図である。上述のように、第2実施形態の研削装置100では、研削動作時に復路においても工作物W1の外周面を研削する。したがって、第2実施形態では、X1軸に沿って左から右の方向と、左から右の方向とのいずれの方向も「トラバース方向」に相当する。
【0040】
図7において太い実線で示す砥石車146は、一点鎖線の矢印で示す往路m31のように、工作物W1に対してX1軸に沿って左から右へ相対移動しながら工作物W1の外周面を研削する。このとき、第1研削面BS1、第2研削面BS2および第3研削面BS3により工作物W1が研削されるので、その研削量(切り込み量)は、上述の設定量(3Δ)となる。また、第2実施形態では、第3研削面BS3でリード1L分だけ研削された次の1回転において、第2スパークアウト部SP2によってスパークアウトが施され、さらに、第4研削面BS4がスパークアウトとしてもう1リード1L分作用する。
【0041】
砥石車146が工作物W1の右側の端部に至ると、第1実施形態とは異なり、砥石車146は、X1軸の位置はそのままに、Y1軸に沿って手前側に切り込み量3Δ分だけ移動する。その後、テーブル40が左から右へ移動することにより、砥石車146は、工作物W1に対して右から左へ相対移動して復路での研削が実行される。
【0042】
復路での研削では、まず、砥石車146において最も左側に位置する第6研削面BS6によって工作物W1の外周面、すなわち第3研削面BS3により研削されて第2スパークアウト部SP2によりスパークアウトが施された面の研削が行われる。その後、砥石車146がリード1L分研削して左側に相対移動すると、今度は、第5研削面BS5が工作物W1の表面、すなわち第6研削面BS6による研削によって現れた表面を研削する。さらに、砥石車146がリード1L分研削して左側に相対移動すると、今度は、第4研削面BS4が工作物W1の表面、すなわち第5研削面BS5による研削によって現れた表面を研削する。その後、第2スパークアウト部SP2によってリード1Lだけ(1回転分)スパークアウトが実行され、さらに、第3研削面BS3がスパークアウトとしてもう1リード1L分作用する。この復路における第6研削面BS6、第5研削面BS5および第4研削面BS4による研削動作と、第2スパークアウト部SP2によるスパークアウト動作は、往路における第1研削面BS1、第2研削面BS2および第3研削面BS3による研削動作と、第2スパークアウト部SP2によるスパークアウト動作と同様である。このようにして砥石車146が工作物W1の左側の端部に至ると、往路での研削動作が完了する。この往路での研削動作により、工作物W1の表面は上述の設定量(3Δ)だけ研削されることとなる。したがって、第2実施形態の研削装置100によれば、砥石車146の1回の往復により上述の設定量の2倍(6Δ)の研削(切り込み)が実行される。
【0043】
以上説明した第2実施形態の研削装置100は、第1実施形態の研削装置100と同様な効果を有する。加えて、砥石車146の外周面には、第4研削面BS4、第5研削面BS5および第6研削面BS6が形成されているので、砥石車146が右から左へ相対移動する際には第1研削面BS1、第2研削面BS2および第3研削面BS3によって工作物W1を研削でき、砥石車が右から左へ相対移動する際には第4研削面BS4、第5研削面BS5および第6研削面BS6によって工作物W1を研削できる。このため、トラバース方向の往路と復路のいずれにおいても工作物W1をトラバース研削するので、研削加工時間をより短縮できる。また、研削面をより広げることができる(より分散できる)ので、砥石車146の寿命が短くなることをより抑制できる。
【0044】
C.第3実施形態:
図8は、第3実施形態の研削装置200の概略構成の一部を示すブロック図である。第3実施形態の研削装置200は、工作物W1の回転軸線A2と鋭角度である角度θで交差する方向に砥石台(後述の砥石台248)が進退する。研削装置200は、いわゆる「アンギュラ研削盤」とも呼ばれる。第3実施形態の研削装置200は、第1実施形態の研削装置100と同様に、それぞれベッド236と、テーブル240と、砥石台248と、主軸台230と、心押台242と、ツルーイング装置243とを備える。なお、その他に、第3実施形態の研削装置200は、第1実施形態の研削装置100と同様に、定寸装置70、モータ24、54、エンコーダ22、52等を備えている。また、各モータ24、54は、第1実施形態と同様に、図示しない各駆動回路18、19、20を介して数値制御装置10により制御される。
【0045】
ベッド236は、第1実施形態のベッド36と同様な機能を有する。同様に、テーブル240は第1実施形態のテーブル40と、砥石台248は第1実施形態の砥石台48と、主軸台230は第1実施形態の主軸台30と、心押台242は第1実施形態の心押台42と、ツルーイング装置243は第1実施形態のツルーイング装置33と、それぞれ同様な機能を有する。なお、本実施形態では、ツルーイング装置243は、主軸台230ではなく心押台242に設けられている。
【0046】
砥石台248は、図示しないモータにより移動軸線A3に沿って進退可能に構成されている。砥石台248は、モータ250を有する。モータ250は、第1実施形態のモータ50と同様な機能を有する。すなわち、砥石車246を回転駆動させる。砥石車246の回転軸線A4は、砥石台248の移動軸線A3と直交している。
【0047】
テーブル240は、第1実施形態のテーブル40と同様に、X1軸方向に移動可能に構成されている。工作物W1の回転軸線A2は、工作物W1の図示しない中心軸線と一致している。砥石台248の移動軸線A3と回転軸線A2との成す角度θは、上述のように鋭角度である。
【0048】
図9は、第3実施形態の研削装置200における砥石車246の詳細構成を模式的に示す部分外観図である。砥石車246は、外周面に、第7研削面BS7と、第8研削面BS8と、第9研削面BS9と、第3スパークアウト部SP3とを備える。3つの研削面BS7~BS9は、いずれも環状の外観形状を有する。第7研削面BS7、第8研削面BS8および第9研削面BS9のX1軸方向(回転軸線CX方向)の幅は、いずれもリード1Lに一致する。3つの研削面BS7~BS9は、工作物W1の外周面を研削する。第7研削面BS7は、砥石車246の外周面において最もX1軸に沿って左側に位置する。第8研削面BS8は、第7研削面BS7に対してX1軸に沿って右側に隣接する。第9研削面BS9は、第8研削面BS8に対してX1軸に沿って右側に隣接する。第8研削面BS8の直径(移動軸線A3に沿った直径の平均値)は、第7研削面BS7の直径(移動軸線A3に沿った直径の平均値)に比べて大きい。第9研削面BS9の直径(移動軸線A3に沿った直径の平均値)は、第8研削面BS8の直径(移動軸線A3に沿った直径の平均値)に比べて大きい。
【0049】
第3スパークアウト部SP3は、第1実施形態の第1スパークアウト部SP1および第2実施形態の第2スパークアウト部SP2と同様に、スパークアウトを実行する。第3スパークアウト部SP3は、環状の外観形状を有し、第9研削面BS9を挟んで第8研削面BS8とは反対側に位置し、第9研削面BS9に隣接する。第3スパークアウト部SP3の直径は、第9研削面BS9の直径と等しい。第3スパークアウト部SP3のX1軸方向の幅は、リード1Lの2倍(2L)に一致する。
【0050】
上記構成を有する砥石車246は、第1実施形態の研削装置100とは異なり、工作物W1に対してX1軸に沿って右から左へ相対移動しながら工作物W1の外周面を研削する。
【0051】
以上説明した第3実施形態の研削装置200は、第1実施形態の研削装置100と同様な効果を有する。
【0052】
D.第4実施形態:
図10は、第4実施形態における砥石車46および工作物W2を模式的に示す斜視図である。
図10では、互いに直交するX2軸、Y2軸およびZ2軸が表されている。X2-Y2平面は、水平面に相当する。Z2軸は、鉛直方向と平行である。
図11は、第4実施形態における研削実行時の砥石車46の相対移動の様子を模式的に示す斜視図である。
図11では、図示の便宜上、砥石車46を省略している。
【0053】
第4実施形態における図示しない研削装置は、いわゆる平面研削装置と呼ばれ、工作物W2の上部表面S1の平面研削を実行する。本実施形態の工作物W2は、平板状の形状を有し、その厚さ方向がZ2軸方向と平行となるように、また、上部表面S1がX2-Y2平面と平行になるように図示しないテーブルに固定される。図示しないテーブルは、第1実施形態のテーブル40と同様に移動可能に構成されている。具体的には、X2軸方向およびY2軸方向にそれぞれ移動可能に構成されている。第4実施形態において、X2軸に沿って
図11に示す端面S2から端面S3に向かう方向を「X2軸に沿って奥側」と呼び、X2軸に沿って端面S4から端面S5に向かう方向を「Y2軸に沿って奥側」と呼ぶ。また、第4実施形態において、X2軸に沿って端面S3から端面S2に向かう方向を「X2軸に沿って手前側」と呼び、Y2軸に沿って端面S5から端面S4に向かう方向を「Y2軸に沿って手前側」と呼ぶ。
【0054】
第4実施形態におけるX2軸に沿った方向は、本開示における「第1方向」に相当し、Y2軸に沿った方向は、本開示における「第2方向」に相当する。
【0055】
第4実施形態の砥石車46は、第1実施形態の砥石車46と同様な構成を有する。このため、第4実施形態の砥石車46において第1実施形態の砥石車46と同じ構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。第4実施形態の砥石車46は、
図10に示す中心軸線A5がY2軸方向と平行となるように配置されている。工作物W2がX2軸方向およびY2軸方向に移動することにより、砥石車46は、工作物W2に対してX2軸方向およびY2軸方向に相対移動することとなる。
【0056】
図11に示すように、研削開始前に、砥石車46は、工作物W2のX軸に沿って手前側の端面S2よりも手前側の位置において、リード1L分だけZ2軸方向に工作物W2と重なるように配置される。この状態から、砥石車46は、一点鎖線の矢印で示す往路m51のように、X2軸に沿って手前側から奥側へ相対移動する。このとき、砥石車46の第1研削面BS1は、切り込み量1Δの切り込みを実行する。砥石車46が工作物W2のX2軸に沿った奥側の端に至ると、砥石車46は、Y2軸に沿って奥側から手前側へ相対移動m61を実行する。この相対移動m61の長さは、リード1Lと同じ長さである。その後、砥石車46は、一点鎖線の矢印で示す復路m52のように、X2軸に沿って奥側から手前側へ相対移動する。このとき、往路m51で研削された部分は、今度は、第2研削面BS2により切り込み量1Δ分だけ研削される。また、第1研削面BS1により新たな部分が切り込み量1Δだけ研削される。砥石車46が工作物W2の手前側の端に至ると、砥石車46は、Y2軸に沿って奥側から手前側へ相対移動m62を実行する。この相対移動m62の長さは、リード1Lと同じ長さである。この状態から、砥石車46は、一点鎖線の矢印で示す往路m53のように、再びX2軸に沿って手前側から奥側へ移動する。このとき、復路m52において第2研削面BS2によって研削された部分は、今度は、第3研削面BS3によって切り込み量1Δだけ研削される。したがって、往路m51で第1研削面BS1によって研削された部分、すなわち、Y2軸方向の長さがリード1L分の領域は、切り込み量として予め定められた設定量(3Δ)だけ研削される(切り込まれる)。また、復路m52において第1研削面BS1によって研削された部分は、今度は第2研削面BS2によって切り込み量(1Δ)だけ研削される。このようにして、X2軸方向の往復動をしながら、往路および復路の端でそれぞれY軸に沿って奥側から手前側へリード1L分の相対移動を行うことが繰り返し実行されるにより、上部表面S1のすべての領域は、Z2軸方向に設定量(3Δ)だけ研削されることとなる。
【0057】
以上説明した第4実施形態の研削装置によれば、砥石車46の外周面には、Y2軸方向に段状に連続する3つの研削面BS1~BS3が形成されており、第1研削面BS1、第2研削面BS2、および第3研削面BS3の中心軸線A5方向の幅は、いずれも砥石車46のY2軸方向への相対移動量(リード1L)と等しく、また、第1研削面BS1と第2研削面BS2との間の径方向の段差の大きさ、および第2研削面BS2と第3研削面BS3との径方向の段差の大きさは、いずれも平面研削による工作物W2への切り込み量として予め定められた設定量(3Δ)の1/3に等しいので、砥石車がX2軸に沿って手前から奥側へ相対移動する間に第1研削面BS1によって切り込み量1Δだけ研削し、同じ領域について、砥石車46がX2軸に沿って奥側から手前側へ相対移動する間に第2研削面BS2によって切り込み量1Δだけ研削することができる。同様に、砥石車がX2軸に沿って手前側から奥側へ相対移動する間に第2研削面BS2によって切り込み量1Δだけ研削し、同じ領域について、砥石車46がX2軸に沿って奥側から手前側へ相対移動する間に第3研削面BS3によって切り込み量1Δだけ研削することができる。このため、砥石車46が工作物W2のY2軸方向の手前側の端に達する間に、工作物W2の上部表面S1を、予め設定されている設定量(3Δ)だけ研削できるので、研削加工時間を短縮できる。また、第1研削面B1のY2軸方向の幅の3倍の幅の研削面を利用して工作物W2を研削できるので、砥石車46において研削領域を分散でき、砥石車46の寿命が短くなることを抑制できる。このように、第4実施形態の研削装置によれば、第1実施形態の研削装置100と同様に、砥石車46の寿命が短くなることを抑制しつつ研削加工時間を短縮できる。
【0058】
E.他の実施形態:
(E1)各実施形態では、砥石車46、146、246の相対移動は、テーブル40、240が移動することにより実現されていたが、本開示はこれに限定されない。テーブル40、240に代えて、または、テーブル40、240に加えて、砥石台48、248が移動することにより、実現されてもよい。かかる構成においては、第1~第4実施形態の砥石台48、248は、工作物W1の回転軸と平行な方向に移動可能に構成される。また、第5実施形態の砥石台は、X2軸方向およびY2軸方向に移動可能に構成される。
【0059】
(E2)各実施形態において、砥石車46の相対移動と相対移動との間において、ドレッシング(目立て)を行ってもよい。例えば、各実施形態において、往路と復路との間においてドレッシングを行ってもよい。
【0060】
(E3)各実施形態において、砥石車46、146が有する研削面の数は、いずれも3つ以上であったが、本開示はこれに限定されない。2以上の任意の整数であってもよい。例えば、研削面の数が4つである構成においては、隣接する研削面同士の径方向の段差の大きさを、切り込み方向の切り込み量として予め定められた設定量の1/4にすることにより、各実施形態と同様な効果を有する。すなわち、一般には、第1ないし第3実施形態においては、砥石車46、146、246の外周面にトラバース方向に段状に連続する環状のM個(Mは2以上の整数)個の研削面が形成された構成を採用してもよい。なお、第2実施形態においては、往路において工作物W1を研削する研削面をM個(Mは2以上の整数)設けると共に、復路において工作物W1を研削する研削面をN個(Mは2以上の整数)設けてもよい。また、第4実施形態においては、砥石車46の外周面に第2方向(Y2軸方向)に段状に連続する環状のP個(Pは2以上の整数)個の研削面が形成された構成を採用してもよい。これらの構成においても、各実施形態と同様な効果を有する。
【0061】
(E4)各実施形態において、研削装置100、200は、3つの駆動回路18~20と、プログラマブルロジックコントローラ14と、アンプ16と、数値制御装置10と、入出力装置12とのうちの少なくとも1つを備えていてもよい。
【0062】
(E5)各実施形態におけるスパークアウト部の幅は、あくまでも例示であり、各実施形態で示した大きさに限定されない。例えば、第1、4実施形態において第1スパークアウト部SP1の幅は、2リード(2L)分の大きさであったが、1リード(1L)分や3リード(3L)分などの任意のリード分の大きさであってもよく、或いは、第1スパークアウト部SP1の幅を0(ゼロ)とする、すなわち第1スパークアウト部SP1を省略してもよい。同様に、第2実施形態において第2スパークアウト部SP2の幅は、任意のリード分の大きさであってもよく、或いは、第2スパークアウト部SP2を省略してもよい。また、第3実施形態において第3スパークアウト部SP3の幅は、任意のリード分の大きさであってもよく、或いは、第3スパークアウト部SP3を省略してもよい。
【0063】
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…メモリ、1L…リード(相対移動量)、2…CPU、3…第1インターフェイス部、4…第2インターフェイス部、10…数値制御装置、12…入出力装置、14…プログラマブルロジックコントローラ、16…アンプ、18…砥石台移動モータ駆動回路、19…テーブル移動モータ駆動回路、20…主軸モータ駆動回路、22…エンコーダ、24…モータ、26…エンコーダ、28…モータ、30…主軸台、230…主軸台、31…主軸、32…チャック、33…ツルーイング装置、243…ツルーイング装置、36…ベッド、236…ベッド、38…センタ、40…テーブル、240…テーブル、42…心押台、242…心押台、44…取付軸、46…砥石車、146…砥石車、246…砥石車、48…砥石台、248…砥石台、50…モータ、250…モータ、51…無端ベルト、52…エンコーダ、53…回転軸、54…モータ、70…定寸装置、100…研削装置、200…研削装置、A0…中心軸線、A1…中心軸線、A2…回転軸線、A3…移動軸線、A4…回転軸線、A5…中心軸線、BP1…研削部、BP2…研削部、BP3…研削部、BP4…研削部、BS1…第1研削面、BS2…第2研削面、BS3…第3研削面、BS4…第4研削面、BS5…第5研削面、BS6…第6研削面、BS7…第7研削面、BS8…第8研削面、BS9…第9研削面、CX…回転軸線、R1…第1円柱部、R2…第2円柱部、R3…第3円柱部、S1…上部表面、S2…端面、S3…端面、S4…端面、S5…端面、SP1…第1スパークアウト部、SP2…第2スパークアウト部、SP3…第3スパークアウト部、ST…段差、W1…工作物、W2…工作物、WL1…第1表層部、WL2…第2表層部、WL3…第3表層部、m11…往路、m12…復路、m21…往路、m22…復路、m31…往路、m51…往路、m52…復路、m53…往路、m61…相対移動、m62…相対移動