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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20240820BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240820BHJP
   B41J 2/19 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B41J2/175 201
B41J2/01 307
B41J2/19
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020161008
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054046
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】森山 恵多
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147008(JP,A)
【文献】特開2019-014212(JP,A)
【文献】特開2017-140723(JP,A)
【文献】特開2020-069767(JP,A)
【文献】特開2016-049725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルと、フィルターを収容するフィルター室と、前記フィルター室から液体を流出させるための流出口と、を備える液体噴射ヘッドと
前記フィルターが水平面に対して傾斜するようにして前記液体噴射ヘッドを保持する保持部と、
を備え、
前記フィルター室は、前記フィルターに垂直な方向に見た平面視で、前記流出口に向かって延在する第1の辺および第2の辺を有し、
前記流出口は、前記平面視で前記第1の辺または前記第2の辺の何れかに沿って長尺であ
前記第1の辺は、前記平面視で、前記フィルターと前記水平面とが交差する交線に直交するとともに前記フィルターに沿う方向に延在する仮想直線に対して、第1の角度を成し、
前記第2の辺は、前記平面視で、前記仮想直線に対して、前記第1の角度よりも小さい第2の角度を成し、
前記流出口は、前記第1の辺に沿って長尺である
ことを特徴とする液体噴射装置
【請求項2】
前記流出口は、前記フィルター室から前記ノズルへ液体を供給するための開口である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置
【請求項3】
前記液体噴射ヘッドは、前記ノズルが形成されたノズル面を備え、
前記ノズル面は、前記フィルターと平行である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記フィルター室に液体を流入させるための流入口を備え、
前記流出口は、前記流入口よりも重力方向とは反対方向に配置される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の液体噴射装置
【請求項5】
前記第1の角度及び第2の角度の夫々は、0度より大きく90度未満である、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記平面視での前記フィルター室の形状は、前記第1の辺と、前記第2の辺と、前記第1の辺に平行な第3の辺と、前記第2の辺に平行な第4の辺と、を有する略四角形である、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記平面視での前記フィルター室の前記フィルターよりも下流側の下流室の形状は、略平行四辺形又は略菱形である、
ことを特徴とする請求項に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記液体噴射ヘッドによって構成されたラインヘッドを備え、
前記ラインヘッドの長手方向は、前記交線と平行な方向である、
ことを特徴とする請求項乃至請求項の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
搬送方向へ媒体を搬送する搬送部を備え、
前記搬送方向は、前記交線に直交する方向である、
ことを特徴とする請求項から請求項の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。インクジェット式記録ヘッドは、流路の途中にフィルター室を設け、フィルター室に設けたフィルターによってインクに含まれる気泡などの異物を捕捉する。フィルターに捕捉された気泡をフィルター室から排出し易くするために様々な液体噴射ヘッドが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の液体噴射ヘッドでは、気排性向上のために、ノズルへ液体を供給するための流出口がフィルター室を構成する下流室の重力方向の上方に配置され、且つ、下流室の幅が重力方向の上方へ向かって漸減するようにして、流出口に向かって傾斜する一対の直線部を有する。また、流出口は真円形状である。なお、ノズル面は水平面に平行であり、フィルターが水平面に対して垂直に配置されている。
【0004】
また、例えば、インクに含まれる気泡を排出するため、インクの増粘を抑制するため、及び、液体に含まれる成分が沈降するのを抑制するために、インクの供給手段との間でインクを循環するようにしたインクジェット式記録ヘッドが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2に記載の液体噴射ヘッドでは、フィルター室の上流と下流の夫々に循環用の流出口を備え、下流室にはノズルへインクを供給するための流出口を備える。ノズル面は傾斜していないが、フィルターは傾斜している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-176715号公報
【文献】特開2012-056248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の液体噴射ヘッドは、下流室を平面視した場合、一対の直線部が線対称(傾斜角が同じ)であるため、下流室に発生する気泡は一対の直線部に沿って左右均等に流出口に向かって排出される。しかし、流出口へ向かう一対の直線部が線対称ではない場合、すなわち傾斜角が異なる場合には、傾斜が緩い方の直線部に沿って流れる気泡の移動速度が、傾斜が急な方の直線部に沿って流れる気泡の移動速度よりも遅くなる為、気排性が悪化する虞がある。
【0008】
このような気排性の悪化は、特許文献2に記載の液体噴射ヘッドにおいて、フィルター室の上流と下流の夫々に設けられた循環用の流出口から気泡を排出する際にも同様に生じる。
【0009】
なお、このような問題はインクジェット式記録装置だけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射装置においても同様に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の好適な態様に係る液体噴射ヘッドの一態様は、液体を噴射するノズルと、フィルターを収容するフィルター室と、前記フィルター室から液体を流出させるための流出口と、を備え、前記フィルター室は、前記フィルターに垂直な方向に見た平面視で、前記流出口に向かって延在する第1の辺および第2の辺を有し、前記流出口は、前記平面視で前記第1の辺または前記第2の辺の何れかに沿って長尺である。
【0011】
本発明の好適な態様に係る液体噴射装置の一態様は、上記記載の液体噴射ヘッドと、前記フィルターが水平面に対して傾斜するようにして前記液体噴射ヘッドを保持する保持部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係るインクジェット式記録装置の概略構成を示す図である。
図2】実施形態1に係る記録ヘッドを示す分解斜視図である。
図3】実施形態1に係る記録ヘッドのノズル面側の平面図である。
図4】フィルターに垂直な方向に見たフィルター部材の平面図である。
図5】フィルターに垂直な方向に見たフィルター部材の内部の平面図である。
図6図4のA-A’線断面図である。
図7】フィルターに垂直な方向に見た下流室の平面図である。
図8】フィルターに垂直な方向に見たフィルター部材の平面図である。
図9図8のB-B’線断面図である。
図10】フィルターに垂直な方向に見た上流室の平面図である。
図11】フィルターに垂直な方向に見た下流室の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〈実施形態1〉
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同じ符号を付したものは、同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。
【0014】
各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。また、Y軸を中心としてX軸を角度θ回転させたものをV軸、Z軸を角度θ回転させたものをW軸とし、これらの軸に沿った方向をV方向、W方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。Z方向は、鉛直方向を示し、+Z方向は鉛直下向き、-Z方向は鉛直上向きを示す。
【0015】
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置1の概略構成を示す図である。
【0016】
図1に示すようにインクジェット式記録装置1は、液体の一種であるインクをインク滴として印刷用紙等の媒体Sに吐出・着弾させて、媒体Sに形成されるドットの配列により画像等の印刷を行う印刷装置である。
【0017】
インクジェット式記録装置1は、インクを噴射するインクジェット式記録ヘッド100(以下、単に記録ヘッド100とも言う)から構成されたラインヘッド2と、液体供給部3と、搬送方向へ媒体Sを搬送する搬送部4と、支持台5と、保持部6と、を具備し、これらラインヘッド2、液体容器12、搬送部4、支持台5及び保持部6が筐体7内に収容されている。
【0018】
ラインヘッド2は、保持部6によって保持された複数の記録ヘッド100から構成されており、筐体7内に配置されている。保持部6は、記録ヘッド100の後述するフィルターが水平面であるXY平面に対して傾斜するようにラインヘッド2を保持する。
【0019】
ラインヘッド2の各記録ヘッド100は、インク滴の噴射方向が鉛直方向(別称、重力方向)である+Z方向をY軸周りに回転させて傾斜した+W方向となるように保持されている。言い換えれば、ノズルから噴射されるインク滴の噴射方向は、+Z方向に対して-X方向に傾斜させた+W方向となっている。なお、ラインヘッド2を構成する記録ヘッド100の+Z方向に対する傾斜角度θ、すなわち、インク滴の噴射方向であるW方向の+Z方向に対する傾斜角度θは、例えば、0<θ≦180°の範囲内に設定される。θが90°を超える場合は、インク滴の噴射方向に-Z方向の成分を含むことになる。
【0020】
なお、本実施形態では、ラインヘッド2の記録ヘッド100は保持部6により水平面に対して常時傾斜した状態に保持されているが、常時傾斜した状態に保持されている必要はない。例えば、ラインヘッド2の水平面に対する傾きを調整する調整機構を設けることで、後述する吸引クリーニングなどのメンテナンス動作や、媒体Sにインクを噴射する印刷時のみに記録ヘッド100を傾斜した状態に保持する構成であってもよい。
【0021】
本実施形態の媒体Sは、例えば、連続紙などの記録用紙、布、樹脂フィルム等からなる媒体の一種であり、操出軸8にロール状に巻き付けられた状態で保持されている。この媒体Sは、搬送部4によって記録ヘッド100のノズルが形成されたノズル面に対して間隔を空けて配置されたプラテン等の支持台5上に搬送され、支持台5上でラインヘッド2によって印刷が行われる。支持台5で記録ヘッド100によって印刷された媒体Sは、搬送部4によって巻取軸9に巻き取られるように構成されている。
【0022】
支持台5の媒体Sが載置される載置面は、記録ヘッド100のノズル面の傾斜角度に合わせて傾斜して配置されている。すなわち、印刷動作の際にノズル面の各ノズルと媒体Sとの間隔が一定となるように、ノズル面と支持台5との傾斜角度θが設定されている。換言すれば、支持台5の載置面は、V軸及びY軸で規定されるVY平面に平行であり、XY平面との角度が傾斜角度θとなっている。V方向は、W方向に直交する方向であり、且つ、Y方向に直交する方向である。媒体Sは、支持台5の載置面においては、搬送部4により+V方向又は-V方向に搬送される。以後、この+V方向又は-V方向を搬送方向ともいう。
【0023】
記録ヘッド100から構成されたラインヘッド2は、媒体Sの搬送方向に直交するY方向が長手方向となっており、Y方向における印刷範囲が、媒体SのY方向の印刷範囲以上となるように配置された多数のノズルを備えている。つまり、本実施形態のラインヘッド2は、印刷動作中に筐体7に対してY軸に沿って移動しないように固定されている。
【0024】
なお、媒体Sは、連続紙のようなものに限定されず、記録ヘッド100のノズルから噴射されたインク滴が着弾可能な種々の被噴射媒体を採用することができる。例えば、立体的な形状を有する被噴射媒体に対してインク滴を噴射させる用途にも本発明を適用することができる。また、支持台5は、媒体Sを載置する載置面が平坦なプラテンに限定されず、媒体Sを載置する載置面が曲面となるドラム等の所謂ドラムプラテンであってもよい。また、無端ベルト等の搬送ベルトによって媒体Sの裏面側を支持するようにしてもよい。
【0025】
搬送部4は、給紙ローラー10と搬送ローラー11とを備えている。給紙ローラー10は、媒体Sを挟持した状態で互いに反対方向に同期回転可能な上下一対のローラーにより構成されている。給紙ローラー10は、図示しないモーターの動力によって駆動され、媒体Sを操出軸8側から支持台5側に供給する。搬送ローラー11は、給紙ローラー10とは支持台5を挟んで反対側に配置され、印刷後の媒体Sを巻取軸9側に案内する。なお、媒体Sは、必ずしも巻取軸9に巻き取られなくてもよい。また、本実施形態では、搬送部4は、給紙ローラー10と搬送ローラー11とを備えたものを例示したが、特にこれに限定されず、ベルトやドラムによって媒体Sを搬送するものであってもよい。
【0026】
液体供給部3は、インクが収容された液体容器12と、液体容器12からのインクを記録ヘッド100へ供給する供給流路13と、を備える。
【0027】
液体容器12は、記録ヘッド100から噴射されるインクを貯留するものである。液体容器12は、色や種類の異なる複数種類のインクを個別に収容する。本実施形態では、4つの液体容器12が筐体7内に設けられている。このような液体容器12としては、着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、インクを補充可能なインクタンクなどが挙げられる。なお、液体容器12の数は特に限定されず、1つであってもよく、また、2以上の複数であってもよい。
【0028】
供給流路13は、液体容器12からインクを記録ヘッド100に供給するものであり、供給流路13の途中には、液体容器12からのインクを記録ヘッド100に向かって圧送する圧送手段15が設けられている。圧送手段15としては、例えば、液体容器12を外部から押圧する押圧手段や、加圧ポンプ等が上げられる。本実施形態では、圧送手段15として加圧ポンプが設けられている。なお、圧送手段15としては、例えば、記録ヘッド100と液体容器12との鉛直方向の相対位置を調整して発生する水頭圧差を用いるようにしてもよい。
【0029】
ここで、本実施形態の記録ヘッド100について、さらに図2及び図3を参照して詳細に説明する。なお、図2は、本発明の実施形態1に係る記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図3は、記録ヘッドのノズル面側の平面図である。これらの図2及び図3では、インクの噴射方向が+Z方向となるように配置された状態の記録ヘッドを示してある。
【0030】
ラインヘッド2は、複数の記録ヘッド100と、複数の記録ヘッド100を保持する保持部6と、を具備する。
【0031】
記録ヘッド100は、保持部6の+Z方向側、すなわち媒体Sに相対向する面側に固定されている。そして、複数の記録ヘッド100は、X方向に直交するY方向に沿って保持部6に並設されている。なお、本実施形態では、保持部6に4個の記録ヘッド100を固定するようにしたが、記録ヘッド100の数は2個以上の複数個であってもよいし、1個の記録ヘッド100でラインヘッド2を構成してもよい。
【0032】
また、保持部6は、-Z方向側の面に供給流路13が接続される接続部201が設けられている。本実施形態では4個の接続部201が設けられており、接続部201のそれぞれに1本の供給流路13が接続されている。
【0033】
保持部6の内部には、接続部201に連通した図示しない流路が設けられている。保持部6内の流路は、複数の記録ヘッド100、本実施形態では4個の記録ヘッド100にインクを分配するように形成されている。
【0034】
本実施形態の記録ヘッド100は、複数のヘッドチップ30と、複数のヘッドチップ30に供給されるインクの流路を有するホルダー23と、ホルダー23に供給されるインクの流路を有するフィルター部材20と、ヘッドチップ30のノズル面30a側に設けられたカバー40と、を具備する。
【0035】
ヘッドチップ30は、+Z方向側にノズル31が設けられたノズル面30aを有する。また、複数のヘッドチップ30の-Z方向側が、ホルダー23の+Z方向側の面に接着されている。ホルダー23の内部には、フィルター部材20から供給されたインクを複数のヘッドチップ30に分配して供給する分配流路が設けられている。ヘッドチップ30の図示しない内部には、ノズル31に連通する流路と、流路内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段等が設けられている。圧力発生手段としては、例えば、電気機械変換機能を呈する圧電材料を有する圧電アクチュエーターの変形によって液体流路の容積を変化させて液体流路内のインクに圧力変化を生じさせてノズル31からインク滴を吐出させるものや、流路内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル31からインク滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気力を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル31からインク滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用することができる。
【0036】
フィルター部材20は、ホルダー23を介してヘッドチップ30に供給されるインクの流路の一部となるフィルター室50と、フィルター室50に配置されたフィルター57とを有している。フィルター部材20についての詳細な構成については後述する。
【0037】
ホルダー23は、+Z方向側に溝状の空間を形成する固定部25を有する。固定部25は、ホルダー23の+Z方向側の面に、Y方向に亘って連続して設けられることで、Y方向の両側面に開口して設けられている。ホルダー23の固定部25内に、複数のヘッドチップ30がY方向に並設されており、接着剤などによって固定されている。本実施形態では1つのホルダー23に6個のヘッドチップ30が接着されている。もちろん、1つのフィルター部材20に固定するヘッドチップ30の数は特にこれに限定されず、1つのフィルター部材20に対してヘッドチップ30が1個であっても、また、2個以上の複数であってもよい。
【0038】
本実施形態の複数のヘッドチップ30は、ノズル面30aの面内方向において、X方向に対してノズル列が傾斜するように固定されている。すなわち、X方向に対して、ノズル列を構成するノズル31の並設方向であるXa方向が傾斜する方向となっている。つまり、複数のノズル31は、Xa方向と、Xa方向に交差するY方向とで規定される平面上にXa方向に沿って配置されている。
【0039】
カバー40は、金属等の板状部材を折り曲げることで形成されたものであり、カバー40には、各ヘッドチップ30のノズル31を露出するための貫通孔である露出開口部41が設けられている。本実施形態では、露出開口部41は、ヘッドチップ30毎に独立して開口するように設けられている。すなわち、本実施形態の記録ヘッド100は、6個のヘッドチップ30を有するため、カバー40には6個の独立した露出開口部41が設けられている。
【0040】
カバー40は、ホルダー23に接着剤を介して接合されている。そして、カバー40がホルダー23に接合された状態では、ノズル面30a側から平面視した際に、露出開口部41から各ヘッドチップ30のノズル面30a及びノズル31が露出している。
【0041】
なお、本実施形態の記録ヘッド100は、ノズル面30a側からみた平面視において、略平行四辺形となる形状を有するが、略平行四辺形に限定されず、矩形状や台形状、多角形状等であってもよい。
【0042】
図4から図7を用いて、本実施形態に係る記録ヘッド100のフィルター部材20について説明する。図4はフィルターに垂直な方向である+Z方向に見たフィルター部材の平面図であり、図5はフィルターに垂直な方向である+Z方向に見たフィルター部材の内部の平面図であり、図6図4のA-A’線断面図であり、図7はフィルターに垂直な方向である+W方向に見た下流室の平面図である。
【0043】
図4及び図5は、図2及び図3と同様に、インクの噴射方向が+Z方向となるように配置された状態における記録ヘッド100のフィルター部材20を示している。図6は、図1と同様に、インクの噴射方向が+W方向となるように配置された状態における記録ヘッド100のフィルター部材20を示している。図7は、インクの噴射方向が+W方向となるように配置された状態における記録ヘッド100の下流室50Bを+W方向に見たものである。
【0044】
フィルター部材20は、第1フィルター部材21、第2フィルター部材22が積層されて構成されたものであり、内部にはフィルター57を収容するフィルター室50が設けられている。具体的には、フィルター部材20は、保持部6側(図4及び図5に示す-Z方向側)に設けられた第1フィルター部材21と、第1フィルター部材21のホルダー23側(図4及び図5に示す+Z方向側)に設けられた第2フィルター部材22とを具備し、第1フィルター部材21及び第2フィルター部材22は積層されている。第1フィルター部材21及び第2フィルター部材22は、例えば樹脂材料から形成することができるが、特に材料は樹脂材料に限定されない。
【0045】
第1フィルター部材21には、第2フィルター部材22側(図4及び図5に示す+Z方向側)の面に第1凹部51が形成されている。第1フィルター部材21の保持部6側(図4及び図5に示す-Z方向側)には、第1フィルター部材21の表面から突出した供給部55が形成されている。供給部55は、図4及び図5に示すZ方向に貫通した貫通孔である流入口54が形成されている。供給部55は、保持部6に設けられた図示しない流路の出口に接続される。流入口54は、当該流路から供給されたインクをフィルター室50に導入させる流路となっている。
【0046】
第2フィルター部材22には、第1フィルター部材21側(図4及び図5に示す-Z方向側)の面に第2凹部52が形成されている。第2フィルター部材22のホルダー23側(図4及び図5に示す+Z方向側)には、フィルター室50からホルダー23を介してヘッドチップ30のノズル31へインクを供給するための開口であるノズル導入口56が形成されている。本実施形態では、第2凹部52の底面に設けられた貫通孔としてノズル導入口56が形成されている。なお、ノズル導入口56は、フィルター室50からインクを流出させるための「流出口」の一例である。第2フィルター部材22には、ノズル導入口56に連通した図示しない流路が形成されており、ノズル導入口56から排出されたインクは、当該流路を介してホルダー23に設けられた図示しないインクを導入するための開口からホルダー23へ供給される。ホルダー23に供給されたインクは、ホルダー23の内部に形成された図示しない流路でヘッドチップ30の個数分(本実施形態では6個)だけ分岐し、各ヘッドチップ30に供給される。
【0047】
第1フィルター部材21と第2フィルター部材22とが積層されることで、第1凹部51と第2凹部52からなるフィルター室50が形成されている。フィルター室50には、第2凹部52の開口を覆うようにしてフィルター57が設けられている。以後、フィルター室50においてフィルター57よりも上流側の空間を上流室50A、フィルター57よりも下流側の空間を下流室50Bと称する。フィルター57よりも上流側とは、記録ヘッド100においてインクを噴射するノズル31から相対的に遠い方をいい、下流側とはノズル31に相対的に近い方をいう。
【0048】
フィルター57は、インクに含まれる異物や気泡などを捕捉するものであり、本実施形態では第2フィルター部材22に熱溶着や接着剤などで固定されている。また、フィルター57は、例えば、線状の金属を綾畳みにしたものや、SUSからなる平板状部材に多数の孔を設けたものや、不織布などを挙げることができる。
【0049】
本実施形態では、第1フィルター部材21には4個の第1凹部51が形成され、第2フィルター部材22には4個の第2凹部52が形成されている。そして、フィルター部材20は、これらの第1凹部51と第2凹部52とから4個のフィルター室50が設けられている。各フィルター室50には、1個の供給部55と1個のノズル導入口56が設けられている。
【0050】
このように構成されたフィルター部材20は、4個の液体容器12から供給流路13、保持部6内の流路、及び供給部55を経由してフィルター室50にインクが供給される。フィルター室50では、第1凹部51側に供給されたインクがフィルター57を透過して第2凹部52側に流入するとともに、フィルター57によって異物や気泡が捕捉される。そして、フィルター57を透過したインクは、フィルター室50からノズル導入口56に排出される。また、ノズル導入口56から排出されたインクは、上述したようにホルダー23を介して各ヘッドチップ30に供給され、ノズル31から噴射される。
【0051】
ノズル31が形成されたノズル面30aは、フィルター57と平行となるように配置されている。
【0052】
図1及び図6に示すように、記録ヘッド100は保持部6によって傾斜した状態でインクを噴射する。このように記録ヘッド100が傾斜した状態では、ノズル導入口56は、流入口54よりも重力方向である+Z方向とは反対側に配置されている。つまり、ノズル導入口56は、Z方向において流入口54よりも上方に配置されている。また、図1及び図2に示したラインヘッド2の長手方向であるY方向は、図7に示した交線Mに平行な方向となっている。さらに、媒体Sが搬送されるV方向は、交線Mに直交するV方向となっている。
【0053】
ここで、図7を用いてフィルター室50の構成について詳細に説明する。
フィルター室50は、フィルター57に垂直な方向である+W方向に見た平面視で、「流出口」であるノズル導入口56に向かって延在する第1の辺61及び第2の辺62を有している。さらにフィルター室50は、前記平面視で第1の辺61に平行な第3の辺63と、第2の辺62に平行な第4の辺64とを有する。前記平面視でのフィルター室50の形状は、第1の辺61と、第2の辺62と、第3の辺63と、第4の辺64と、を備える略菱形である。
【0054】
第1の辺61、第2の辺62、第3の辺63及び第4の辺64のそれぞれが交差する部分を交差部と称する。各交差部は、直線の辺同士が交差したものであってもよいし、R形状であってもよい。R形状とは弧の形状、又は円形に近い多角形の形状である。第1の辺61と第2の辺62との交差部は、ノズル導入口56がフィルター室50に一つ設けられている場合においては、フィルター室50のうち最も上方に配置されることが好ましい。図7の場合では、第1の辺61と第2の辺62の交差部は、4つの交差部のうち重力方向において最も上方に配置された交差部となっている。
【0055】
第1の辺61及び第2の辺62がノズル導入口56に向かって延在するとは、第1の辺61及び第2の辺62の交差部の近傍にノズル導入口56が配置されていることをいう。交差部の近傍にノズル導入口56が配置されるとは、交差部とノズル導入口56の縁との最小間隔Dがノズル導入口56の最大寸法であるノズル導入口56の長辺の長さL1よりも小さいことをいう。本実施形態では、交差部とノズル導入口56の縁との最小間隔Dは、ノズル導入口56の最小寸法であるノズル導入口56の短辺の長さL2よりも小さい。
【0056】
なお、本実施形態では、フィルター室50を構成する上流室50A及び下流室50Bはほぼ同形状としてある。すなわち、上流室50A及び下流室50Bともに第1の辺61~第4の辺64を有している。具体的には、上流室50Aに設けられた第1の辺61~第4の辺64の夫々は、前記平面視で、第1凹部51の流入口54が形成された底面から第2フィルター部材22へ向かって突出する側壁の内縁、又は、第1凹部51の流入口54が形成された底面の外縁である。同様に、下流室50Bに設けられた第1の辺61~第4の辺64の夫々は、前記平面視で、第2凹部52のノズル導入口56が形成された底面から第1フィルター部材21へ向かって突出する側壁の内縁、又は、第2凹部52のノズル導入口56が形成された底面の外縁である。しかしながら、必ずしも上流室50Aと下流室50Bとは同形状である必要はない。例えば、インクの「流出口」となるノズル導入口56を有する下流室50Bについて、上述したような第1の辺61~第4の辺64を構成し、上流室50Aについては任意の形状としてもよい。
【0057】
第1の辺61は、前記平面視で、フィルター57と水平面とが交差する交線Mに直交するとともにフィルター57に沿う方向であるV方向に延在する仮想直線Nに対して、第1の角度αを成す。水平面とは、鉛直方向の+Z方向に直交する平面であり、X軸及びY軸によって形成されるXY平面である。フィルター57に沿う方向とは、V軸及びY軸によって形成されるVY平面に平行な方向である。また、第2の辺62は、前記平面視で、仮想直線Nに対して、第1の角度αよりも小さい第2の角度βを成す。なお、第1の角度α及び第2の角度βのそれぞれは0度より大きく90度未満である。
【0058】
第1の辺61と第2の辺62とが成す第1の角度αは、第1の辺61と仮想直線Nとが成す角度のうち小さい方の角度である。図7に示す例では、第1の辺61を延長した線と仮想直線Nとが成す角度はαとγがあるが、このうちの小さい方であるαが第1の角度となる。第2の角度βについても同様であり、第2の辺62と仮想直線Nとが成す角度のうちの小さい方の角度である。
【0059】
ノズル導入口56は、前記平面視で第1の辺61に沿って長尺である。換言すると、ノズル導入口56を構成する辺のうちの第1の辺61に沿う一辺が第2の辺62に沿う一辺よりも長尺である。本実施形態では、ノズル導入口56は、前記平面視において第1の辺61に沿う方向の長さL1は、第2の辺62に沿う方向の長さL2よりも長い長尺の形状となっている。
【0060】
なお、本実施形態のノズル導入口56は、図7に示す平面視において略平行四辺形であるが、このような形状に限定されない。例えば、ノズル導入口56の形状は、略楕円、略菱形、略長方形、略多角形などであってもよい。ノズル導入口56が略楕円、略多角形などである場合において、ノズル導入口56が前記平面視で第1の辺61に沿って長尺である、とは次のような形状をいう。すなわち、ノズル導入口56は、ノズル導入口56の第1の辺61に沿う方向における開口幅の最大幅が第2の辺62に沿う方向における開口幅の最大値よりも長い。
【0061】
このようなフィルター室50は、液体容器12からインクが充填され、異物や気泡をフィルター57で捕捉し、フィルター57を透過したインクをノズル導入口56からホルダー23を介してヘッドチップ30へ排出する。フィルター57で捕捉された気泡をフィルター室50から排出するために、吸引クリーニングが行われる。吸引クリーニングとは、記録ヘッド100のノズル面30aをキャップ等で閉空間内に封止し、当該閉空間内を吸引ポンプ等の吸引装置で吸引することで、インクとともに気泡をノズル31から強制的に排出させる動作である。吸引クリーニングが行われることで、上流室50Aに捕捉されていた気泡70は、フィルター57を通って下流室50Bに流入する。
【0062】
このような吸引クリーニングの他にも、気泡70は下流室50Bに流入する場合がある。例えば、ノズル31からインクを媒体Sに噴射して画像を形成する印刷動作をしている際にフィルター室50で気泡が捕捉されると気泡が集まって大きく成長することがある。上流室50Aにおいて気泡が大きくなると、気泡はフィルター57に接触し、気泡の一部がフィルター57を透過して下流室50Bに流入することがある。このように吸引クリーニングや印刷動作によって下流室50Bに流入した気泡は、次のようにフィルター室50から排出される。
【0063】
上述したように第2の角度βは第1の角度αよりも小さい。換言すれば、第1の辺61は、水平面であるWY平面に対して緩やかに傾斜しており、第2の辺62はWY平面に対して急傾斜している。このため、下流室50Bにおいては、浮力やインクの流れによって、第1の辺61に沿う気泡70は比較的遅くノズル導入口56へ進み、第2の辺62に沿う気泡70は比較的早くノズル導入口56へ進む。
【0064】
一方、ノズル導入口56は、第1の辺61に沿って長尺となっている。このため、第1の辺61に沿う気泡70がノズル導入口56に到達するまでの距離は、第2の辺62に沿う気泡70がノズル導入口56に到達するまでの距離よりも短い。
【0065】
したがって、第1の辺61に沿う気泡70は、ノズル導入口56へ向かう早さは遅いものの、ノズル導入口56に到達するまでの距離が短いので、速やかにノズル導入口56へ流入する。第2の辺62に沿う気泡70は、ノズル導入口56に到達するまでの距離が長いものの、ノズル導入口56へ向かう早さが早いので、速やかにノズル導入口56へ流入する。このように、第1の辺61及び第2の辺62の仮想直線Nに対する第1の角度α及び第2の角度βが異なっていても、ノズル導入口56が第1の辺61に長尺であるので、フィルター室50からノズル導入口56への気泡70の排出性を向上させることができる。
【0066】
ここで、フィルターへの平面視でフィルター室の下流室が従来技術のように線対称である場合、複数のフィルター室を並設すると、記録ヘッドの形状や構成によっては、それらのフィルター室を配置するためのスペースをより多く確保しなければならず、記録ヘッドが大型化してしまう。このような大型化を避けるためにはフィルター57の面積を減少させなければならないが、記録ヘッド100の性能が制約される。
【0067】
しかしながら、本実施形態の下流室50Bのように第1の辺61及び第2の辺62がそれぞれ仮想直線Nに対して成す第1の角度α及び第2の角度βが異なる、すなわち仮想直線Nについて非対称の形状とすることで、複数のフィルター室50を配置するためのスペースを小さくし、記録ヘッド100の大型化を抑制することができ、フィルター57の面積を大きくすることができる。このように非線対称のフィルター室50を備えることで、記録ヘッド100の大型化を抑制し、フィルター57の面積を大きくすることができるとともに、気泡の排出性を向上させることができる。
【0068】
以上に説明したように、本実施形態に係る記録ヘッド100は、インクを噴射するノズル31と、フィルター57を収容するフィルター室50と、フィルター室50からインクを流出させるための流出口であるノズル導入口56と、を備え、フィルター室50は、図4に示すようにフィルター57に垂直な方向である+Z方向に見た平面視で、ノズル導入口56に向かって延在する第1の辺61及び第2の辺62を有し(何れも図7参照)、ノズル導入口56は、前記平面視で第1の辺61に沿って長尺であることを特徴とする。
【0069】
このような記録ヘッド100を図1及び図6に示すように鉛直方向である+Z方向とは傾斜した+W方向にインクを噴射するように傾斜させて保持した状態では、図7に示すように、第1の辺61及び第2の辺62の仮想直線Nに対する第1の角度α及び第2の角度βが異なっていても、ノズル導入口56が第1の辺61に長尺であるので、フィルター室50からノズル導入口56への気泡70の排出性を向上させることができる。
【0070】
また、本実施形態の記録ヘッド100は、ノズル導入口56がフィルター室50からノズル31へインクを供給するための開口であることが好ましい。これにより、フィルター室50からノズル31へ向かって気泡を排出し易くすることができる。
【0071】
また、本実施形態のインクジェット式記録装置1は、記録ヘッド100と、フィルター57が水平面であるXY平面に対して傾斜するようにして記録ヘッド100を保持する保持部6とを備えることを特徴とする。このようなインクジェット式記録装置1によれば、図1及び図6に示すように鉛直方向である+Z方向とは傾斜した+W方向にインクを噴射するように傾斜させて保持した記録ヘッド100のフィルター室50において気泡70の排出性を向上させることができる。
【0072】
また、本実施形態のインクジェット式記録装置1では、記録ヘッド100は、ノズル31が形成されたノズル面30aを備え、ノズル面30aは、フィルター57と平行であることが好ましい。これにより、記録ヘッド100を+W方向にインクを噴射するように傾斜させて用いた場合であっても、フィルター室50の気泡の排出性を向上させることができる。なお、ノズル面30aはフィルター57と平行でなくてもよい。
【0073】
また、本実施形態の記録ヘッド100では、フィルター室50にインクを流入させるための流入口54を備え、ノズル導入口56は、流入口54よりも重力方向である+Z方向とは反対の-Z方向に配置されることが好ましい。
【0074】
また、本実施形態のインクジェット式記録装置1では、第1の辺61は、前記平面視で、フィルター57と水平面であるXY平面とが交差する交線Mに直交するとともにフィルター57に沿うV方向に延在する仮想直線Nに対して、第1の角度αを成し、第2の辺62は、前記平面視で、仮想直線Nに対して、第1の角度αよりも小さい第2の角度βを成し、ノズル導入口56は、第1の辺61に沿って長尺であることが好ましい。
【0075】
第1の辺61と第2の辺62のそれぞれの仮想直線Nに対する傾斜角である第1の角度αと第2の角度βとが異なる場合であっても、ノズル導入口56は第1の辺61に沿って長尺であるため、第1の辺61に沿って移動する気泡をノズル導入口56から効率よく排出させることができる。
【0076】
また、本実施形態のインクジェット式記録装置1では、第1の角度α及び第2の角度βの夫々は、0度より大きく90度未満であることが好ましい。
【0077】
また、本実施形態のインクジェット式記録装置1では、前記平面視でのフィルター室50の形状は、第1の辺61と、第2の辺62と、第1の辺61に平行な第3の辺63と、第2の辺62に平行な第4の辺64と、を有する略四角形であることが好ましい。これによれば、複数のフィルター室50を設けた場合でも、仮想直線Nに線対称な形状のフィルターを設けた場合に比べ、フィルター57の大型化を抑制しつつ、フィルター部材20の大きさを小さくすることができる。
【0078】
また、本実施形態のインクジェット式記録装置1では、前記平面視でのフィルター室50のフィルター57よりも下流側の下流室50Bの形状は、略平行四辺形又は略菱形であることが好ましい。これによれば、複数のフィルター室50を設けた場合でも、仮想直線Nに線対称な形状のフィルターを設けた場合に比べ、フィルター57の大型化を抑制しつつ、フィルター部材20の大きさを小さくすることができる。
【0079】
また、本実施形態のインクジェット式記録装置1では、記録ヘッド100によって構成されたラインヘッド2を備え、ラインヘッド2の長手方向は、交線Mと平行なY方向であることが好ましい。ラインヘッド2は、長手方向(図1の例ではY方向)を回転軸として記録ヘッド100を傾斜させるが、このようなラインヘッド2を用いた場合であっても、フィルター室50の気泡の排出性を向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態のインクジェット式記録装置1では、搬送方向へ媒体Sを搬送する搬送部4を備え、搬送方向は、交線Mに直交する+V方向又は-V方向であることが好ましい。これによれば、媒体Sを搬送する搬送方向が傾斜していても、フィルター室50の気泡の排出性を向上させることができる。
【0081】
〈実施形態2〉
図8は本発明の実施形態2に係るフィルターに垂直な方向である+Z方向に見たフィルター部材の平面図であり、図9図8のB-B’線断面図であり、図10はフィルターに垂直な方向である+W方向とは反対方向に見た上流室の平面図である。なお、実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0082】
図8は、インクの噴射方向が+Z方向となるように配置された状態における記録ヘッド100のフィルター部材20を示している。図9は、インクの噴射方向が+W方向となるように配置された状態における記録ヘッド100のフィルター部材20を示している。図10は、インクの噴射方向が+W方向となるように配置された状態における記録ヘッド100の上流室50Aを+W方向とは反対方向(-W方向)に見たものである。
【0083】
本実施形態のインクジェット式記録装置は、特に図示しないが、記録ヘッド100に供給したインクが記録ヘッド100から液体容器12に戻る、いわゆる循環式の液体噴射装置の一例である。本実施形態の保持部6は、液体容器12のインクを記録ヘッド100に供給する不図示の第1流路の他に、記録ヘッド100から戻ってきたインクが流通する不図示の第2流路を備えている。そして、保持部6は、第2流路と液体容器12とを接続する不図示の排出流路が接続されている。すなわち、液体容器12から供給流路13、第1流路、記録ヘッド100へとインクが供給され、記録ヘッド100で噴射されなかったインクは、記録ヘッド100、第2流路、排出流路、液体容器12へと戻るように構成されている。
【0084】
本実施形態の記録ヘッド100は、第1フィルター部材21の保持部6側(図8の-Z方向側)に、第1フィルター部材21の表面から突出した排出部58が形成されている。排出部58は、図8に示すZ方向に貫通した貫通孔である排出口59が形成されている。排出部58は、保持部6に設けられた前述の第2流路に接続される。排出口59は、保持部6の第2流路にインクを戻す流路となっている。
【0085】
このように構成されたフィルター部材20では、保持部6から流入口54を介して上流室50Aにインクが供給される。上流室50Aにおいてフィルター57を通過しなかったインクは、排出口59を介して保持部6の第2流路に戻される。
【0086】
本実施形態では、フィルター室50からインクを流出させるための「流出口」は、ノズル導入口56及び排出口59である。図10に示すように、排出口59は、前記平面視で第1の辺61に沿って長尺である。換言すると、排出口59を構成する辺のうちの第1の辺61に沿う一辺が第2の辺62に沿う一辺よりも長尺である。本実施形態では、排出口59は、前記平面視において第1の辺61に沿う方向の長さL1は、第2の辺62に沿う方向の長さL2よりも長い長尺の形状となっている。また、記録ヘッド100が傾斜した状態では、排出口59は、流入口54よりも重力方向である+Z方向とは反対側に配置されている。つまり、排出口59は、Z方向において流入口54よりも上方に配置されている。
【0087】
なお、本実施形態の排出口59は、図10に示す平面視において略平行四辺形であるが、このような形状に限定されない。排出口59は、ノズル導入口56の形状と同様に略楕円、略菱形、略長方形、略多角形などであってもよい。
【0088】
このような構成の記録ヘッド100は、上流室50Aにおける第1の辺61及び第2の辺62が仮想直線Nに対して成す第2の角度βは第1の角度αよりも小さい。換言すれば、第1の辺61は、水平面であるWY平面に対して緩やかに傾斜しており、第2の辺62はWY平面に対して急傾斜している。このため、上流室50Aにおいては、浮力やインクの流れによって、第1の辺61に沿う気泡70は比較的遅く排出口59へ進み、第2の辺62に沿う気泡70は比較的早く排出口59へ進む。
【0089】
一方、排出口59は、第1の辺61に沿って長尺となっている。このため、第1の辺61に沿う気泡70が排出口59に到達するまでの距離は、第2の辺62に沿う気泡70が排出口59に到達するまでの距離よりも短い。
【0090】
したがって、第1の辺61に沿う気泡70は、排出口59へ向かう早さは遅いものの、排出口59に到達するまでの距離が短いので、速やかに排出口59へ流入する。第2の辺62に沿う気泡70は、排出口59に到達するまでの距離が長いものの、排出口59へ向かう早さが早いので、速やかに排出口59へ流入する。このように、第1の辺61及び第2の辺62の仮想直線Nに対する第1の角度α及び第2の角度βが異なっていても、排出口59が第1の辺61に長尺であるので、フィルター室50の上流室50Aにおいても排出口59への気泡70の排出性を向上させることができる。
【0091】
なお、下流室50Bにおいては実施形態1と同様にノズル導入口56が下流室50Bの第1の辺61に沿って長尺であるが、このような態様に限定されない。例えば、ノズル導入口56は、第1の辺61に沿って長尺である必要はない。
【0092】
〈実施形態3〉
図11は本発明の実施形態3に係るフィルターに垂直な方向である+W方向に見たフィルター室の下流室の平面図である。図11は、インクの噴射方向が+W方向となるように配置された状態における記録ヘッド100の下流室を示している。なお、実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0093】
同図に示すように、フィルター室50は、複数の流出口であるノズル導入口56A及びノズル導入口56Bを備えている。このように、フィルター室50には、複数の流出口が設けられていてもよい。
【0094】
下流室50Bは、前記平面視で第1の辺61A及び第2の辺62A、並びに第1の辺61B及び第2の辺62Bを含む略多角形状を有している。
【0095】
第1の辺61Aは、前記平面視で、仮想直線Nに対して、第1の角度α1を成す。第2の辺62Aは、前記平面視で、仮想直線Nに対して、第1の角度α1よりも小さい第2の角度β1を成す。第1の辺61Bは、前記平面視で、仮想直線Nに対して、第1の角度α2を成す。第2の辺62Bは、前記平面視で、仮想直線Nに対して、第1の角度α2よりも小さい第2の角度β2を成す。
【0096】
ノズル導入口56Aは、前記平面視で第1の辺61Aに沿って長尺である。換言すると、ノズル導入口56Aを構成する辺のうちの第1の辺61Aに沿う一辺が第2の辺62Aに沿う一辺よりも長尺である。ノズル導入口56Bは、前記平面視で第1の辺61Bに沿って長尺である。換言すると、ノズル導入口56Bを構成する辺のうちの第1の辺61Bに沿う一辺が第2の辺62Bに沿う一辺よりも長尺である。
【0097】
ノズル導入口56Aとノズル導入口56Bは、V方向における位置に特に限定はなく、同図に示すようにV方向における位置がずれていてもよい。
【0098】
このような構成の記録ヘッド100では、第1の辺61Aに沿う気泡(図示せず)は、ノズル導入口56Aへ向かう早さは遅いものの、ノズル導入口56Aに到達するまでの距離が短いので、速やかにノズル導入口56Aへ流入する。第2の辺62Aに沿う気泡は、ノズル導入口56Aに到達するまでの距離が長いものの、ノズル導入口56Aへ向かう早さが早いので、速やかにノズル導入口56Aへ流入する。このように、第1の辺61A及び第2の辺62Aの仮想直線Nに対する第1の角度α1及び第2の角度β1が異なっていても、ノズル導入口56Aが第1の辺61Aに長尺であるので、フィルター室50の下流室50Bからノズル導入口56Aへの気泡の排出性を向上させることができる。ノズル導入口56Bについても同様である。
【0099】
〈他の実施形態〉
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されない。
【0100】
例えば、ノズル導入口56は、前記平面視で第1の辺61に沿って長尺であったが、これに限定されず、第2の辺62に長尺であってもよい。
【0101】
また、「流出口」は、ノズル導入口56を一例に挙げたが、これに限定されず、フィルター室からインクを流出させるためであればよい。例えば、「流出口」は、フィルター室50の下流室50Bから排出されたインクを記録ヘッド100の外部へ排出させるためのものであってもよい。
【0102】
上述した実施形態では、保持部6にはフィルター室50へインクを供給するための流路が形成されていたが、保持部6の内部に当該流路が形成されない構成でも構わない。つまり、保持部6の代わりにフィルター室50へインクを供給する流路部材を設けてもよいし、供給流路13とフィルター部材20の流入口54とを直接接続する構成でも構わない。
【0103】
本明細書における「略菱形」とは、例えば、フィルター室50の第1の辺61、第2の辺62、第3の辺63及び第4の辺64のそれぞれが交差する各交差部が、図7に示すようにR形状である場合、図7に示すようなR形状ではなく第1の辺61、第2の辺62、第3の辺63及び第4の辺64の各辺の直線同士が交差する場合の双方を含む。また、フィルター室50が略四角形、略平行四辺形、略長方形、略多角形等であっても、同様に交差部がR形状である場合、R形状でない場合の双方を含む。更に、フィルター室50の形状だけではなく、ノズル導入口56及び排出口59等の「流出口」の形状についても、同様である。
【0104】
上述した実施形態では、インクジェット式記録装置1として、記録ヘッド100を備えるラインヘッド2が保持部6に固定されて、媒体Sを搬送するだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置を例示したが、特にこれに限定されない。本発明は、記録ヘッド100を媒体Sの搬送方向とは交差する方向に移動するキャリッジに搭載して、記録ヘッド100を搬送方向とは交差する方向に往復移動しながら印刷を行う、所謂シリアル型記録装置にも適用することができる。このようなシリアル型記録装置のキャリッジが本発明の「保持部」に相当する。すなわち、キャリッジは記録ヘッド100を、インクが噴射される方向が+Z方向とは傾斜した方向となるように傾斜させて保持する。そして、キャリッジの往復移動する方向は、交線Mに対して平行な方向とする。このようなシリアル型記録装置においても、実施形態1と同様に、フィルター室における気泡の排出性を向上させることができる。
【0105】
さらに、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種のインクジェット式記録ヘッド等の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。勿論、このような液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置も特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0106】
M…交線、N…仮想直線、S…媒体、1…インクジェット式記録装置、2…ラインヘッド、4…搬送部、6…保持部、20…フィルター部材、23…ホルダー、30…ヘッドチップ、30a…ノズル面、31…ノズル、50…フィルター室、50A…上流室、50B…下流室、54…流入口、56、56A、56B…ノズル導入口(流出口)、57…フィルター、59…排出口(流出口)、61、61A、61B…第1の辺、62、62A、62B…第2の辺、63…第3の辺、64…第4の辺、70…気泡、100…インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11