IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-自律走行装置および自律走行制御装置 図1
  • 特許-自律走行装置および自律走行制御装置 図2
  • 特許-自律走行装置および自律走行制御装置 図3
  • 特許-自律走行装置および自律走行制御装置 図4
  • 特許-自律走行装置および自律走行制御装置 図5
  • 特許-自律走行装置および自律走行制御装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】自律走行装置および自律走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/639 20240101AFI20240820BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20240820BHJP
【FI】
G05D1/639
G05D1/43
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020169335
(22)【出願日】2020-10-06
(65)【公開番号】P2022061371
(43)【公開日】2022-04-18
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 勇人
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0032259(US,A1)
【文献】特開平03-022110(JP,A)
【文献】特開2020-106872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00 - G05D 1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動の指示に従って自機を駆動する駆動部と、
前記自機の位置を得るためのセンサと、
前記センサによって得られた前記自機の位置に基づいて目標位置への進路を決定する進路決定部と、
前記進路決定部によって決定された進路を進むための駆動を前記駆動部に指示する駆動指示部と、
前記駆動指示部による指示を記憶する記憶部と、
前記自機がスタックに至ったことを判定するスタック判定部と、
前記スタックに至ったと判定された場合に前記記憶部から前記指示を読み出して、当該指示が示す駆動とは逆の駆動を前記駆動部に指示する逆駆動指示部と、を備え
前記スタック判定部は、前進と方向転換との組み合わせでは目標位置に向かう進路が得られない場合に前記自機がスタックしたと判定することを特徴とする自律走行装置。
【請求項2】
前記スタック判定部は、前記自機の外接円の一部が障害物に掛かっていて目標位置に向かう進路が得られない場合に前記自機がスタックしたと判定することを特徴とする請求項1に記載の自律走行装置。
【請求項3】
前記進路決定部は、前記進路を決定するにあたり、所定の地図情報を参照して決定することを特徴とする請求項1または2に記載の自律走行装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記指示を決められた量まで記憶し、当該量を超える指示が来た場合には、最も古い指示を削除して新たな指示を記憶することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の自律走行装置。
【請求項5】
前記スタックに至ったとの判定が所定回数以上生じた場合にエラーを通知するエラー通知部を更に備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の自律走行装置。
【請求項6】
自機の位置に基づいて目標位置への進路を決定する進路決定部と、
前記進路決定部によって決定された進路を進むための駆動を、前記自機を駆動する駆動部に指示する駆動指示部と、
前記自機がスタックに至ったことを判定するスタック判定部と、
前記スタックに至ったと判定された場合に、前記駆動指示部による指示を記憶していた記憶部から当該指示を読み出して、当該指示が示す駆動とは逆の駆動を前記駆動部に指示する逆駆動指示部と、を備え
前記スタック判定部は、前進と方向転換との組み合わせでは目標位置に向かう進路が得られない場合に前記自機がスタックしたと判定することを特徴とする自律走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行装置および自律走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境情報である地図情報と、センサから得られる自己位置情報に基づいて、ユーザが要求する目標位置に向かって走行経路を自律的に選択しながら走行する自律走行装置が知られている。自律走行装置は、例えば工場の搬送ロボットや掃除ロボットや案内ロボットなどに応用される。
【0003】
自律走行装置における走行経路選択(算出)は、通常、走行距離が最短となる経路が選択(算出)されるロジックとなっている。また、自己位置情報を得るためのセンサとしては、ジャイロセンサやGPSなど様々なセンサが用いられ得るが、高精度なセンサは高価であるため、精度の低いセンサでも自律走行が可能であることが望ましい。
【0004】
地図情報には、自律走行装置が走行可能な領域と、壁や障害物が置かれている走行不可能領域がある。自律走行装置は、自律走行を行う際、走行不可能領域に立ち入らないのはもちろん、自身の筐体が走行不可能領域に接触しないよう、走行不可能領域から一定の距離をとるように走行経路を決定する。また、地図情報を用いない自律走行装置も存在し、例えばセンサによる壁や設置物などの検出によって走行不可能領域が確認される。
例えば特許文献1および特許文献2には、掃除ロボットに応用された例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-95361号公報
【文献】特開2019-58803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に自律走行装置は、目標の位置と姿勢に到達するよう制御されるが、例えば精度の低いセンサで自己位置情報を得る場合などは、誤差が原因で、目標の位置と姿勢に対して、到達した位置と姿勢には一定のばらつきが生じる。例えば目標位置が走行不可能領域の近傍に位置する場合や、走行経路が走行不可能領域の近傍を通過する場合などでは、上記ばらつきと、走行不可能領域に自機が接触することを避けようとする動作とにより、前進も回転もできず、有効な経路生成、指令生成が不可能な状態(スタック状態)に陥ることがあることが知られている。スタック状態になると、自律走行装置は動作継続ができなくなるばかりでなく正常動作への自己復帰もできないため、復帰には人手による装置の移動と自己位置の再設定が必要となり、大きな手間となる。
そこで、本発明は、スタック状態になったときにも自動でスタック状態から復帰し、人手を介さずに動作継続が可能となる手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る自律走行装置の一態様は、駆動の指示に従って自機を駆動する駆動部と、上記自機の位置を得るためのセンサと、上記センサによって得られた上記自機の位置に基づいて目標位置への進路を決定する進路決定部と、上記進路決定部によって決定された進路を進むための駆動を上記駆動部に指示する駆動指示部と、上記駆動指示部による指示を記憶する記憶部と、上記自機がスタックに至ったことを判定するスタック判定部と、上記スタックに至ったと判定された場合に上記記憶部から上記指示を読み出して、当該指示が示す駆動とは逆の駆動を上記駆動部に指示する逆駆動指示部と、を備える。
【0008】
上記自律走行装置によれば、逆駆動指示部からの指示によって駆動部が、スタックに至った道筋(走行経路)を逆に辿る駆動を行い、スタック状態から正常動作に復帰することができる。従って、自律走行装置は、スタック状態になったときにも自動でスタック状態から復帰し、人手を介さずに動作を継続することができる。
【0009】
上記の自律走行装置において上記スタック判定部は、前進と方向転換との組み合わせでは目標位置に向かう進路が得られない場合に上記自機がスタックしたと判定することが好ましい。このようなスタック判定部は、スタックの判断が容易であるとともに、復帰のために逆に辿るべき経路が短距離且つ単純な経路となり、より確実な復帰が期待される。
【0010】
また、上記の自律走行装置において上記スタック判定部は、上記自機の外接円の一部が障害物に掛かっていて目標位置に向かう進路が得られない場合に上記自機がスタックしたと判定することが好ましい。外接円の一部が障害物に掛かっていると自由回転が制限されるため、走行を無理に継続すると深刻なスタックに至る虞がある。そこで、外接円の一部が障害物に掛かっていることに基づいてスタック判断をすることによって、正常動作により確実に復帰することができる。
【0011】
また、上記の自律走行装置において上記進路決定部は、上記進路を決定するにあたり、所定の地図情報を参照して決定するものであってもよい。地図情報を参照することで、効率的な進路の決定が可能となる。
【0012】
また、上記の自律走行装置において上記記憶部は、上記指示を決められた量まで記憶し、当該量を超える指示が来た場合には、最も古い指示を削除して新たな指示を記憶することが好ましい。この好ましい記憶部によれば、記憶容量の無駄を省いて復帰に必要な情報を記憶することができる。
【0013】
また、上記の自律走行装置において、上記スタックに至ったとの判定が所定回数以上生じた場合にエラーを通知するエラー通知部を更に備えることが望ましい。エラー通知部が備えられることにより、スタックが繰り返された場合には速やかにエラーが通知されることになる。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る自律走行制御装置の一態様は、自機の位置に基づいて目標位置への進路を決定する進路決定部と、上記進路決定部によって決定された進路を進むための駆動を、上記自機を駆動する駆動部に指示する駆動指示部と、上記自機がスタックに至ったことを判定するスタック判定部と、上記スタックに至ったと判定された場合に、上記駆動指示部による指示を記憶していた記憶部から当該指示を読み出して、当該指示が示す駆動とは逆の駆動を上記駆動部に指示する逆駆動指示部と、を備える。
【0015】
上記自律走行制御装置によれば、逆駆動指示部からの指示によって自律走行装置に、スタックに至った道筋を逆に辿る駆動を行わせ、スタック状態から正常動作に復帰させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スタック状態になったときにも自律走行装置が自動でスタック状態から復帰することができ、人手を介さずに自律走行装置の動作継続が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の自律走行装置の一実施形態に相当する搬送ロボットを示す側面図である。
図2】本発明の自律走行装置の一実施形態に相当する搬送ロボットを示す下面図である。
図3】搬送ロボットの機能構造を示す機能ブロック図である。
図4】搬送ロボットの動作を表すフローチャートである。
図5】指令値が記憶部に入力される状況を示す図である。
図6】指令値が記憶部から読み出される状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、先に説明した図に記載の要素については、後の図の説明において適宜に参照する場合がある。
【0019】
図1および図2は、本発明の自律走行装置の一実施形態に相当する搬送ロボットを示す外観図である。図1には側面図が示され、図2には下面図が示されている。
搬送ロボット1は、外観上、本体10と駆動輪20と支持輪30とを備えている。
【0020】
本体10は例えば正方形状の外形を有しており、上部には載荷台11が設けられている。また、本体10の例えば四隅それぞれには、例えば近接センサ12が備えられている。なお、近接センサ12の配備箇所は四隅に限られるものでは無く、近接センサ12は例えば対角に位置した2隅に備えられてもよいし、例えばいずれか1隅に備えられてもよい。本実施形態の搬送ロボット1は、載荷台11に資材などの荷物を載せて搬送するロボットである。
【0021】
駆動輪20は例えば本体10の左右それぞれに備えられており、本体10内部のモータによって各駆動輪20が個別に駆動されることで搬送ロボット1の走行(即ち前進、後退)や方向転換などが実現される。
【0022】
支持輪30は、本体10の例えば四隅それぞれの下部に備えられ、搬送ロボット1全体の重さを支持している。なお、支持輪30の配備箇所も四隅に限られるものでは無く、支持輪30は、例えば本体10の中心軸に沿って前後の1対で設けられてもよいし、例えば前方では2隅に設けられ後方では中心軸上の1箇所に設けられてもよいし、逆に、例えば前方では中心軸上の1箇所に設けられ後方では2隅に設けられてもよい。
支持輪30はモータなどに繋がっておらず、駆動輪20による搬送ロボット1の走行や方向転換に従って転がる。また、各支持輪30の車軸は回転式の保持台31に保持されており、駆動輪20による走行や方向転換を妨げないように、各支持輪30の転がり方向が本体10の底面に沿った360度の各方向に自由に向く構造となっている。
図3は、搬送ロボット1の機能構造を示す機能ブロック図である。
搬送ロボット1は機能的に、コントローラ40と駆動部50と位置センサ60と記憶部70と通信部80を備えている。
コントローラ40は、搬送ロボット1の全体的な制御を担っている。
【0023】
駆動部50は、駆動輪20や図示を省略したモータや電源などを含み、搬送ロボット1の駆動を担っている。駆動部50は、本発明にいう、駆動の指示に従って自機を駆動する駆動部の一例に相当する。
【0024】
位置センサ60は、近接センサ12や駆動輪20の回転センサ(図示省略)などを含み、搬送ロボット1の位置や向きの検出を担っている。位置センサ60は、GPSなどのように搬送ロボット1の絶対位置を検出できるものであってもよいし、検出値を地図情報などと照らし合わせることで相対的に位置が確認できるものでもよいし、地図情報などを有さずに周囲の検出値などからいわば手探りで位置を推定するものでもよい。本実施形態では、位置センサ60の検出値が地図情報と照らし合わされることで位置が確認されるものとする。位置センサ60は、本発明にいうセンサの一例に相当する。
記憶部70には、地図情報71と直近の走行指令72が記憶される。
【0025】
通信部80は、例えば無線通信が可能で、目標位置の設定情報の受信や、走行不能時のエラー情報の送信などを担っている。なお、本実施形態では目標位置が例えば通信で搬送ロボット1に与えられるものとするが、目標位置としては、搬送ロボット1が複数の候補位置から状況等に応じて選んだものでもよいし、あるいは最終の目標位置に向かうために搬送ロボット1が地図情報などから算出した中間的な目標位置などでもよい。
コントローラ40は、走行指令演算部41と駆動制御部42を備えており、本発明の自律走行制御装置の一実施形態に相当する。
【0026】
走行指令演算部41は、位置センサ60の検出値と地図情報71とを照らし合わせることによる位置確認と、確認した位置と目標位置とに基づいた走行経路の算出とを行う。走行指令演算部41は、進む方向としての進路だけを算出してもよいが、本実施形態の搬送ロボット1では、搬送ロボット1が通るべき道筋としての走行経路も走行指令演算部41によって算出される。このような走行経路の算出により、壁や設置物などの走行不可能領域を適切に回避することができる。走行指令演算部41は、本発明にいう進路決定部の一例に相当する。
【0027】
走行指令演算部41は、算出した走行経路を辿るための駆動部50の駆動を示した走行指令を駆動制御部42に入力すると共に、走行指令を記憶部70にも送って直近の走行指令72として記憶させる。走行指令が示す駆動部50の駆動としては、例えば駆動輪20の回転速度であってもよく、回転加速度であってもよく、周回数であってもよい。また、走行指令は、駆動輪20を駆動するモータの回転速度等を示してもよい。
後述するように走行指令演算部41はスタック状態の判定も行う。つまり、走行指令演算部41は、本発明にいうスタック判定部の一例にも相当する。
【0028】
駆動制御部42は、走行指令演算部41から入力された走行指令に従って駆動部50を制御して搬送ロボット1を走行させる。駆動制御部42は、本発明にいう駆動指示部の一例に相当する。
次に、搬送ロボット1の動作について説明する。
図4は、搬送ロボット1の動作を表すフローチャートである。
【0029】
搬送ロボット1の動作が開始されると、まずステップS101で動作の継続か終了かが判定される。搬送ロボット1が最終の目標位置に達していれば走行指令演算部41が動作終了と判定し、搬送ロボット1が最終の目標位置に達していなければ走行指令演算部41が動作継続と判定する。
【0030】
ステップS101で動作継続と判定された場合は、ステップS102で、自律走行動作が実行される。自律走行動作では、走行指令演算部41が上述した位置確認と走行経路の算出とを行って走行指令を出力し、駆動制御部42が走行指令に従って駆動部50を制御し、搬送ロボット1が当該走行経路を辿って走行する。本実施形態では、駆動輪20による駆動の誤差は小さく、搬送ロボット1は当該走行経路をほぼ正確に辿るものとする。但し、小さい誤差が累積することで結果的に走行経路が、本来の目標位置や姿勢に到達する本来の走行経路からずれてしまう場合がある。また、例えばゴミなどによる予測不能な凹凸や滑りなどによっても走行経路が目標位置に対してずれる場合がある。そのため、本実施形態では位置センサ60に近接センサ12などが含まれており、近接センサ12による壁の検出値などに基づいて、上述した地図情報との照合などによって位置の補正が適宜に行われる。
ステップS102の自律走行動作で出力された走行指令の指令値は、ステップS103で記憶部70に直近の走行指令72として記憶される。
【0031】
次にステップS104で、走行指令演算部41は、搬送ロボット1がスタック状態になっているか否かの判定を行う。スタック状態では無く正常状態であると判定された場合には、上記ステップS101~ステップS103の動作が繰り返され、ステップS104でのスタック状態の判定も繰り返される。
【0032】
本実施形態では、前進と方向転換との組み合わせでは目標位置に向かう進路が得られない場合に、走行指令演算部41は自機がスタックした(即ちスタック状態になった)と判定する。
【0033】
上述したように、本実施形態では駆動部50による誤差の累積を近接センサ12による検出値などに基づいて適宜に補正しているが、目標位置が走行不可能領域の近くに設定されている場合などでは、走行経路のずれが原因で走行中に搬送ロボット1が走行不可能領域に近づき過ぎる虞がある。そのように走行不可能領域に近づき過ぎると、当該走行経路をそのまま辿るのは危険であるため、近接センサ12による壁などへの大幅な接近の検出をトリガとして走行指令演算部41によって改めて走行経路の算出が行われる。
しかし、図2に示す搬送ロボット1の外接円Rの一部が壁や設置物などの障害物に掛かっていると搬送ロボット1の自由回転が制限され、走行経路を算出し直しても目標位置に向かう進路が得られない場合がある。このような場合に、本実施形態では走行指令演算部41によってスタック状態と判定され、ステップS105に進んで復帰動作が実行される。
【0034】
ステップS105の復帰動作では、搬送ロボット1がスタック状態に至るまでの走行経路を逆に辿る駆動動作が駆動部50によって実行される。具体的には、記憶部70に記憶されている直近の走行指令72が走行指令演算部41によって読み出され、走行指令72の指令値が示している駆動の逆駆動が走行指令演算部41から駆動制御部42へと指示される。従って、走行指令演算部41は、本発明にいう逆駆動指示部の一例にも相当する。
ここで、記憶部70における指令値の記憶方式について説明する。
【0035】
図5および図6は、記憶部70における指令値の記憶方式を示す図である。図5には、指令値が記憶部70に入力される状況が示され、図6には、指令値が記憶部70から読み出される状況が示されている。
【0036】
記憶部70は、いわゆるファーストイン・ファーストアウト式のメモリであり、記憶部70には、合計で例えばn+1個の指令値73が図3に示す直近の走行指令72として記憶される。走行指令演算部41から最新時刻tに出力された指令値73は、図5に示すように、記憶部70の最下段に入力(push)され、時刻t-1以前の各指令値73が1つずつ上段側(即ち古い側)に繰り上げられる。そして、最上段にまで(即ち時刻t-nの分まで)指令値73が積み上がっている場合には、最下段への新たな指令値73の入力に伴い、最上段の最も古い指令値73が記憶部70から削除される。
このように、記憶部70には、最新時刻tから時間順に最大で時刻t-nまでの各時刻の指令値73が記憶される。
【0037】
復帰動作時には、記憶部70の最下段から最新時刻tの指令値73が読出(pop)され、時刻t-1以前の各指令値73が1つずつ下段側(即ち新しい側)に繰り下げられる。そして、最大で時刻t-nまでの各時刻の指令値73が、新しい順に記憶部70から読み出される。指令値73が読み出される度に各指令値73の表す駆動と逆の駆動が実行されることにより、搬送ロボット1は走行経路を逆に辿ることになる。
【0038】
搬送ロボット1が走行経路を逆に辿ることで、搬送ロボット1は容易にスタック状態を脱することができる。また、本実施形態では、スタック状態の判定が、前進と方向転換との組み合わせでは目標位置に向かう進路が得られないことを判定基準として行われるため、切り返し動作などが行われずに軽微なスタック状態のうちに逆駆動が行われ、確実な復帰が図られる。
【0039】
図4のステップS105の復帰動作が終了すると、ステップS101に動作が戻り、上述した動作が繰り返されることで、搬送ロボット1は目標位置へと向かうことができる。
【0040】
但し、スタック状態に至る走行経路によっては、復帰動作で用いられる最大で時刻t-nまでの指令値73では不十分で、改めて算出された走行経路でも再びスタック状態に至ることも考えられる。このため、ステップS104の判定では、スタック状態と判定された箇所の近傍で所定回数繰り返してスタック状態と判定された場合にはエラーと判定され、走行指令演算部41から通信部80にエラー情報が送られ、通信部80から管理者などにエラー情報が送信される。管理者などは、搬送ロボット1が深刻なスタック状態に至ったことをエラー情報で知ることができ、速やかな復旧を図ることができる。走行指令演算部41および通信部80を併せたものが、本発明にいうエラー通知部の一例に相当する。
また、スタックから復帰後にステップS102で走行経路が算出し直される場合には、再スタックを防ぐために、スタックした箇所の周辺が走行不可能領域に設定されて走行経路が算出されることが好ましい。具体的には、スタックが発生した位置座標と、そこを中心とした一定範囲のエリアとを走行不可能領域として地図情報が更新され、その更新された地図情報に基づいて走行経路が算出される。
【0041】
なお、上記説明では、搬送ロボットへの応用例が示されているが、本発明の自律走行装置や自律走行制御装置は、掃除ロボットや案内ロボットなどに適用されてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…搬送ロボット、10…本体、20…駆動輪、30…支持輪、40…コントローラ、
41…走行指令演算部、42…駆動制御部、50…駆動部、60…位置センサ、
70…記憶部、71…地図情報、72…直近の走行指令、73…指令値、80…通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6