(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】車両のフロントバンパ及びそれを備えた車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
B62D25/08 D
(21)【出願番号】P 2020172737
(22)【出願日】2020-10-13
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 信哉
(72)【発明者】
【氏名】水口 浩爾
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-001005(JP,A)
【文献】特開2014-069591(JP,A)
【文献】特開2017-087942(JP,A)
【文献】特開2015-113042(JP,A)
【文献】特開2017-217992(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0005074(KR,A)
【文献】国際公開第2012/147546(WO,A1)
【文献】特開2013-216145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前面に設けられたバンパーフェーシアと、
前記バンパーフェーシアの中央部上方に設けられたアッパーパネルと、
前記アッパーパネルの内部に設けられた衝撃吸収部材と、剛性部材とを備えた車両のフロントバンパであって、
前記衝撃吸収部材は、車幅方向に亘って車両上方に延びる前壁と、
前記前壁の下部に連続しかつ車体部材に固定される固定部と、前記前壁の上部から車両後方に延びる上壁と、前記上壁の後部から車両下方に延びる後壁と、前記後壁の下部より車両後方に延びる下壁により断面ハット形に形成され、
前記剛性部材は、前記上壁に固定される上端部、前記下壁に固定される下端部、前記上端部と前記下端部を車両上下方向に繋ぐ中間部とからなり、該中間部が
前記後壁から車両前後方向に間隔をあけて配置されていることを特徴とする車両のフロントバンパ。
【請求項2】
前記固定部は、前記車体部材としてのグリルブラケットに固定され、
前記グリルブラケットは、ボンネットの下側で車幅方向に延びるアッパーフレームに、バンパ支持部を介して支持されていることを特徴とする、請求項1に記載の車両のフロントバンパ。
【請求項3】
車両の前面に設けられたバンパーフェーシアと、
前記バンパーフェーシアの中央部上方に設けられたアッパーパネルと、
前記アッパーパネルの内部に設けられた衝撃吸収部材と、剛性部材とを備えた車両のフロントバンパであって、
前記衝撃吸収部材は、車幅方向に亘って車両上方に延びる前壁と、前記前壁の上部から車両後方に延びる上壁と、前記上壁の後部から車両下方に延びる後壁と、前記後壁の下部より車両後方に延びる下壁により断面ハット形に形成され、
前記剛性部材は、前記上壁に固定される上端部、前記下壁に固定される下端部、前記上端部と前記下端部を車両上下方向に繋ぐ中間部とからなり、該中間部が前記後壁から車両前後方向に間隔をあけて配置され、
前記剛性部材は、前記衝撃吸収部材に沿って車幅方向に延びており、
前記中間部は車両上下方向に面状に延び、前記下端部は車両後方に面状に延び、前記中間部と前記下端部とが屈曲部を介して繋がっており、
前記屈曲部には、切欠きが形成されていることを特徴とす
る車両のフロントバンパ。
【請求項4】
車両の前面に設けられたバンパーフェーシアと、
前記バンパーフェーシアの中央部上方に設けられたアッパーパネルと、
前記アッパーパネルの内部に設けられた衝撃吸収部材と、剛性部材とを備えた車両のフロントバンパであって、
前記衝撃吸収部材は、車幅方向に亘って車両上方に延びる前壁と、前記前壁の上部から車両後方に延びる上壁と、前記上壁の後部から車両下方に延びる後壁と、前記後壁の下部より車両後方に延びる下壁により断面ハット形に形成され、
前記剛性部材は、前記上壁に固定される上端部、前記下壁に固定される下端部、前記上端部と前記下端部を車両上下方向に繋ぐ中間部とからなり、該中間部が前記後壁から車両前後方向に間隔をあけて配置され、
前記衝撃吸収部材は、前記前壁を含む前側衝撃吸収部材と、前記後壁を含む後側衝撃吸収部材とにより形成され、
前記前側衝撃吸収部材及び前記後側衝撃吸収部材は、前記上壁において重ね合わされて、前記上端部と共に固定されていることを特徴とす
る車両のフロントバンパ。
【請求項5】
前記前側衝撃吸収部材の板厚は、前記後側衝撃吸収部材の板厚より小さいことを特徴とする、請求項4に記載の車両のフロントバンパ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載されたフロントバンパと、
前記フロントバンパを支持するバンパ支持部と、を備え、
前記バンパ支持部は、一端が前記衝撃吸収部材よりも車両後方側において車幅方向に延びる車体のアッパーフレームに固定され、他端が前記アッパーフレームより車両前方に離れた位置で前記フロントバンパに固定されていることを特徴とする車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のボンネットより前方において、バンパーフェーシア上方を車幅方向に覆うアッパーパネル内に設けられた歩行者保護の為の衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のアッパーパネルやボンネット上部に歩行者保護を目的としたエネルギ吸収構造が検討されてきた。
【0003】
例えば、アッパーパネルに対して車両前方の斜め上方から大腿部が衝突した場合や、ボンネット前端部に対して車両前方の斜め上方から頭部が衝突した場合に衝突部位における車両の構成部品(歩行者保護用衝撃吸収部材)を変形させてエネルギ吸収を行うことで歩行者への衝撃を軽減することが提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車体前部構造によれば、車両前方の斜め上方から入力される衝突荷重に対して歩行者保護用衝撃吸収部材を変形させることで衝突時の衝撃を軽減できるものの、車両前方や、車両上方など複数方向から荷重が入力される状況や、変形しないように剛性を確保する状況を想定できておらず、改善の余地があった。
【0006】
具体的には、車高が比較的に高いSUV等においてボディサイズの大きい車両では、地面からボンネット上面までの高さが高くなり、歩行者の大腿部は車両に対して前方からほぼ垂直に衝突する。また、子供の歩行者を想定した場合では、歩行者の頭部が車両前方の斜め上方からボンネット前方のアッパーパネルに衝突する。このように、ボディサイズに起因して車両前部に入力される衝突荷重の位置、方向が変化するため、複数方向の入力荷重に対してエネルギ吸収を行う必要がある。
【0007】
本発明者らは、歩行者保護の観点から大腿部、及び頭部の衝突部位を変形することでエネルギ吸収可能な衝撃吸収部材を設ける構造に関して鋭意検討を行った。大腿部の衝突を想定した荷重は車両に対して前後方向の荷重ベクトルとなる。一方で、頭部の衝突を想定した荷重は車両に対して上下方向の荷重ベクトルと、前後方向の荷重ベクトルとなる。よって、頭部、及び大腿部の衝突では前後方向の荷重ベクトルが共通しており、衝撃吸収部材は、前後方向の荷重ベクトルに対して変形可能な構造とする必要がある。
【0008】
一方で、アッパーパネルには、ボンネットを開けてエンジンルーム内の整備を行う場合に車両上方から作業者が体重を預けることが想定されるため、上下方向の荷重ベクトルに対しては一定以上の剛性を確保する必要がある。しかしながら、衝撃吸収部材に、単純に剛性の高い材料を用いたのみでは前後方向への変形を阻害する恐れがある。
【0009】
つまり、フロントバンパには、衝突時の車両前方及び前方の斜め上方からの荷重に対しては変形してエネルギ吸収可能とする低剛性と、車両上方からの荷重に対しては変形しない高剛性とを合わせ持つことが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者らは、アッパーパネル内において前後方向の荷重に対しては変形を阻害せず、上下方向の荷重に対しては十分な剛性を確保することにより前方及び斜め上方の荷重に対する低剛性と上方からの荷重に対する高剛性とを合わせ持つ、車両のフロントバンパの構造を発明した。
【0011】
具体的には本発明は、車両の前面に設けられたバンパーフェーシアと、前記バンパーフェーシアの中央部上方に設けられたアッパーパネルと、前記アッパーパネルの内部に設けられた衝撃吸収部材と、剛性部材とを備えた車両のフロントバンパであって、
前記衝撃吸収部材は、車幅方向に亘って車両上方に延びる前壁と、前記前壁の下部に連続しかつ車体部材に固定される固定部と、前記前壁の上部から車両後方に延びる上壁と、前記上壁の後部から車両下方に延びる後壁と、前記後壁の下部より車両後方に延びる下壁により断面ハット形に形成され、
前記剛性部材は、前記上壁に固定される上端部、前記下壁に固定される下端部、前記上端部と前記下端部を車両上下方向に繋ぐ中間部とからなり、該中間部が前記後壁から車両前後方向に間隔をあけて配置されているものである。
【0012】
上記発明によれば、大腿部が前方から車両に衝突した場合は、衝撃吸収部材の前壁が車両後方側の後壁に向かって変形することで衝撃を吸収する。前壁と後壁との間には、空間が設けられており、後壁は、前壁が車両後方へ変形することを妨げない。また、剛性部材の中間部は、後壁に対して間隔をあけて配置されているため、剛性部材も、前壁が車両後方へ変形することを許容する。
【0013】
頭部が車両前方の斜め上方から衝突した場合は、断面ハット形の衝撃吸収部材における前壁及び後壁は車両後方に倒れ込むように変形することで衝撃を吸収する。剛性部材の中間部は、後壁から前後方向に間隔をあけて配置されているため、衝撃吸収部材の前壁及び後壁が車両後方へ変形することを妨げない。また、車両後方へ変形する後壁によって剛性部材の中間部が後方へ押された場合は、その中間部も下端部から倒れ込むように変形する。剛性部材は、前後方向への変形を許容する。
【0014】
一方で、作業時等にアッパーパネルを介した上下方向の荷重は、剛性部材の上端部が、衝撃吸収部材の上壁に固定されているため、剛性部材に入力される。剛性部材の中間部は、衝撃吸収部材の後壁から前後方向に間隔をあけて配置されているため、その後壁と、剛性部材の上端部及び中間部とで閉断面が形成されている。上下方向の荷重に対して、剛性部材及び衝撃吸収部材は、高い剛性を発揮することができる。
【0015】
従って、前方及び斜め上方の荷重に対する低剛性と上方からの荷重に対する高剛性とを合わせ持つ、車両のフロントバンパの構造が実現する。
【0016】
前記固定部は、前記車体部材としてのグリルブラケットに固定され、
前記グリルブラケットは、ボンネットの下側で車幅方向に延びるアッパーフレームに、バンパ支持部を介して支持されている、としてもよい。
【0017】
本発明はまた、車両の前面に設けられたバンパーフェーシアと、
前記バンパーフェーシアの中央部上方に設けられたアッパーパネルと、
前記アッパーパネルの内部に設けられた衝撃吸収部材と、剛性部材とを備えた車両のフロントバンパであって、
前記衝撃吸収部材は、車幅方向に亘って車両上方に延びる前壁と、前記前壁の上部から車両後方に延びる上壁と、前記上壁の後部から車両下方に延びる後壁と、前記後壁の下部より車両後方に延びる下壁により断面ハット形に形成され、
前記剛性部材は、前記上壁に固定される上端部、前記下壁に固定される下端部、前記上端部と前記下端部を車両上下方向に繋ぐ中間部とからなり、該中間部が前記後壁から車両前後方向に間隔をあけて配置されているものである。
【0018】
上記フロントバンパにおいて、剛性部材の中間部が下端部を起点として車両後方側への変形を促進すべく、前記剛性部材は、前記衝撃吸収部材に沿って車幅方向に延びており、前記中間部は車両上下方向に面状に延び、前記下端部は車両後方に面状に延び、前記中間部と前記下端部とが屈曲部を介して繋がっている。
【0019】
上記発明によれば、衝撃吸収部材の後壁が車両後方に倒れ込むように変形する際に、後壁が中間部に接触し車両後方への荷重を伝達することで、中間部が下端部に対して屈曲部を起点に容易に車両後方へ変形できる。
【0020】
上記フロントバンパにおいて、屈曲部における前後方向への変形をより容易にすべく、前記屈曲部には、切欠きが形成されている。
【0021】
上記発明によれば、屈曲部に設けられた切欠きにより中間部が車両後方に変形する荷重をより低くすることができ、衝撃吸収部材は前後方向の変形を阻害されることなく容易に変形できる。
【0022】
本発明はさらに、車両の前面に設けられたバンパーフェーシアと、
前記バンパーフェーシアの中央部上方に設けられたアッパーパネルと、
前記アッパーパネルの内部に設けられた衝撃吸収部材と、剛性部材とを備えた車両のフロントバンパであって、
前記衝撃吸収部材は、車幅方向に亘って車両上方に延びる前壁と、前記前壁の上部から車両後方に延びる上壁と、前記上壁の後部から車両下方に延びる後壁と、前記後壁の下部より車両後方に延びる下壁により断面ハット形に形成され、
前記剛性部材は、前記上壁に固定される上端部、前記下壁に固定される下端部、前記上端部と前記下端部を車両上下方向に繋ぐ中間部とからなり、該中間部が前記後壁から車両前後方向に間隔をあけて配置されているものである。
【0023】
上記フロントバンパにおいて、大腿部および頭部の衝突による車両前後方向の荷重ベクトルについて、前壁からの入力荷重を後壁及び剛性部材に効率的に伝達させると共に、衝撃吸収部材による車両前後方向の変形を阻害しないものとすべく、前記衝撃吸収部材は、前側衝撃吸収部材と、後側衝撃吸収部材とにより形成され、前記前側衝撃吸収部材及び前記後側衝撃吸収部材は、前記上壁において重ね合わされて、前記上端部と共に固定されている。
【0024】
上記発明によれば、前側衝撃吸収部材の前壁に荷重が入力されると、その荷重が剛性部材の上端部に入力される。このことで、剛性部材の屈曲部に対して車両後方に向かう曲げモーメントが生じ、剛性部材を車両後方側に屈曲部を起点に容易に変形させることができる。また、後側衝撃吸収部材についても同様に、前側衝撃吸収部材の前壁に入力された荷重は、上壁を通じて後側衝撃吸収部材に入力されるから、後壁の下端部に対して車両後方に向かう曲げモーメントが生じる。このことで、後側衝撃吸収部材も、容易に変形させることができる。
【0025】
上記フロントバンパにおいて、車両前方からの入力荷重を効率的に吸収するには、車両前方から順次変形させてエネルギ吸収を行う距離(エネルギ吸収ストローク)を最大限に活用することが有効である。効率的なエネルギ吸収を行うべく、前記前側衝撃吸収部材の板厚は前記後側衝撃吸収部材の板厚より小さくしてもよい。
【0026】
上記発明によれば、前側衝撃吸収部材は後側衝撃吸収部材に比べて変形しやすい。大腿部の衝突時には前側衝撃吸収部材が車両後方に向かって移動しながら変形することで、前側衝撃吸収部材を確実に変形させると共に、衝突直後の荷重を小さくできる。また、頭部衝突時においては、前側衝撃吸収部材を車両後方に倒れ込むように変形させることで、頭部が衝撃吸収部材の上壁に対して広い面積で接触し、衝突荷重を分散できる。さらに、前側衝撃吸収部材に入力された荷重を後側衝撃吸収部材に伝達して、前側衝撃吸収部材及び後側衝撃吸収部材の両方を車両後方に倒れ込むように変形させることで、エネルギ吸収ストロークを断面ハット形の衝撃吸収部材に対して対角線状に長くでき、歩行者への衝撃を軽減できる。
【0027】
上記フロントバンパを備えた車体構造において、衝突時の衝撃をアッパーパネル内に設けた衝撃吸収部材により吸収することに加え、車体構造を含めてエネルギ吸収を行うべく、ここに開示する車体構造は、前記フロントバンパを支持するバンパ支持部を備え、
前記バンパ支持部は、一端が前記衝撃吸収部材よりも車両後方側において車幅方向に延びる車体のアッパーフレームに固定され、他端が前記アッパーフレームより車両前方に離れた位置で前記フロントバンパに固定されているものである。
【0028】
上記発明によれば、フロントバンパが車体のアッパーフレームから車両前方に延ばしたバンパ支持部材により片持ち状態で固定されているため、アッパーパネルへの衝撃に伴いバンパ支持部材が撓むことで、衝撃エネルギの吸収を車体構造も含めて行うことが出来る。
【発明の効果】
【0029】
上記発明によれば、歩行者保護の目的において、車両前方及び前方の斜め上方からの荷重に対しては衝突時に変形してエネルギ吸収可能とする低剛性と、車両上方からの荷重に対しては変形しない高剛性とを合わせ持つ構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態における、フロントバンパを含む車体前部の側端面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、車両のフロントバンパ及び車体構造の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する車体のフロントバンパ及び車体構造は例示である。
【0032】
図1は、フロントバンパ1を含む車体前部を、側方から見た縦断面図であり、
図2は、車体前部の斜視図である。この車両は、車高が比較的に高いSUVであって、ボディサイズも比較的大きい。そのため、地面からボンネット上面までの高さが比較的高い。
【0033】
車体前部には、バンパーフェーシア11が配設されている。バンパーフェーシア11の車幅方向の中央部には、
図2では図示を省略するが、フロントグリル12が設けられる(
図1参照)。バンパーフェーシア11の車幅方向の中央部における上方にはアッパーパネル13が配設されている。アッパーパネル13は、車幅方向に延びている。アッパーパネル13は、フロントグリル12の上縁を構成する。
【0034】
フロントグリル12は、グリルレイン14に支持されている。尚、
図1における符号15は、グリルブラケットである。グリルブラケット15は、車幅方向に長く延びている。
【0035】
アッパーパネル13の車両後方にはボンネット16が設けられている。ボンネット16とアッパーパネル13とは、車体前部の上面を構成する。ボンネット16の下側には、エンジンルームが形成されている。また、ボンネット16の下側には、アッパーフレーム17が配設されている。アッパーフレーム17は、
図2に破線で示すように、車幅方向に延びると共に、その車幅方向の両端部において屈曲して、車両後方へ延びている。
【0036】
図1に示すように、グリルブラケット15は、バンパ支持部18を介してアッパーフレーム17に支持されている。バンパ支持部18は、
図2に示すように、車幅方向に間隔を空けて四つ設けられており、各バンパ支持部18は、アッパーフレーム17の前端部から車両前方に向かって延びている。各バンパ支持部18の前端部は、グリルブラケット15に固定されている。各バンパ支持部18の後端部は、アッパーフレーム17に固定されている。グリルブラケット15を含むフロントバンパ1は、バンパ支持部18を介してアッパーフレーム17に支持されている。バンパ支持部18は、フロントバンパ1を片持ち状態で支持する。
【0037】
そして、フロントバンパ1の上部を構成するアッパーパネル13内には衝撃吸収部材2及び剛性部材3が配設されている。衝撃吸収部材2は、アッパーパネル13に沿うように、車幅方向に延びている。剛性部材3は、衝撃吸収部材2の後ろ側において、衝撃吸収部材2に沿って、車幅方向に延びている。尚、
図1に示す符号19は、ラッチカバーである。
【0038】
衝撃吸収部材2は、グリルブラケット15に支持されている。衝撃吸収部材2は、グリルブラケット15の上に載置されている。衝撃吸収部材2は、
図3にも示すように、前側衝撃吸収部材21と後側衝撃吸収部材22とを有している。後側衝撃吸収部材22は、前側衝撃吸収部材21の後ろ側に配置されている。前側衝撃吸収部材21及び後側衝撃吸収部材22はそれぞれ、車幅方向の右側の部位と左側の部位とに分離している。右側の前側衝撃吸収部材21及び後側衝撃吸収部材22、及び、左側の前側衝撃吸収部材21及び後側衝撃吸収部材22はそれぞれ、車体の前端縁に沿うように、前後方向に対して斜めに配置されている。
【0039】
前側衝撃吸収部材21は、前壁211と、前側上壁212とを有している。前壁211は、グリルブラケット15の上面から垂直、又は、略垂直の上方に向かって起立していると共に、車幅方向に延びている。前壁211の下端には、グリルブラケット15に固定するための固定部213が設けられている。
【0040】
前側上壁212は、前壁211の上端に連続している。前側上壁212は、前壁211の上端から車両後方へ延びている。前側上壁212は、側方から見たときに、上向きに凸となるように湾曲している。前側上壁212の後端には、後述する後側上壁221に対して、剛性部材3を介して接続される接続部214が、車両後方に向かって突出するように、設けられている。接続部214は、
図3に示すように、櫛歯状に形成されている。
【0041】
後側衝撃吸収部材22は、後側上壁221と、後壁222と、下壁223とを有している。後側上壁221は、前側上壁212の接続部214の下側に重なるように配置され、当該接続部214に対して、接続固定される。後側上壁221は、前側上壁212とは異なり、車両後方へ水平、又は、ほぼ水平に広がっている。
【0042】
後壁222は、後側上壁221の後端に連続している。後壁222は、グリルブラケット15の上面から垂直、又は、略垂直の上方に向かって起立していると共に、車幅方向に延びている。下壁223は、後壁222の下端に設けられている。下壁223は、後側衝撃吸収部材22をグリルブラケット15に固定するための壁である。下壁223は、後壁222の下端から車両後方へ延びている。下壁223は、前側衝撃吸収部材21の固定部213よりも前後方向の長さが長い。
【0043】
前側衝撃吸収部材21の接続部214と後側衝撃吸収部材22の後側上壁221とが互いに接続されることにより、前側衝撃吸収部材21と後側衝撃吸収部材22とによって構成される衝撃吸収部材2は、横断面がハット形を成す。つまり、前壁211と後壁222とが車両前後方向に間隔を空けて配置されると共に、前壁211の上端と、後壁222の上端とが、前側上壁212及び後側上壁221によって互いに連結されている。
【0044】
ここで、衝撃吸収部材2の前壁211、前側上壁212、及び、後壁222には、それぞれ開口部23が形成されている。開口部23は、前壁211、前側上壁212、及び、後壁222のそれぞれにおいて、車幅方向に並んで複数、形成されている。開口部23は、衝撃吸収部材2の軽量化を実現すると共に、前壁211、前側上壁212、及び、後壁222それぞれの剛性を低下させることによって、衝突時の変形を促進して衝撃吸収効果を高める。
【0045】
また、前壁211に設けた開口部23の開口面積は、前側上壁212に設けた開口部23の開口面積に比べて大に設定されている。これにより、衝突時には、前壁211の方が、前側上壁212よりも変形しやすくなる。
【0046】
また、詳細な図示は省略するが、前側衝撃吸収部材21の板厚は、後側衝撃吸収部材22の板厚より小さい。前側衝撃吸収部材21の方が、後側衝撃吸収部材22よりも剛性が低くて、変形しやすい。
【0047】
図4は、剛性部材3の斜視図である、
図5は、剛性部材3の端面図である。剛性部材3は、上端部31と、下端部32と、中間部33とを備えている。上端部31は、衝撃吸収部材2の上壁に固定される。より詳細に、上端部31は、前側衝撃吸収部材21の接続部214と、後側衝撃吸収部材22後側上壁221との間に、上下方向に挟まれて、接続部214及び後側上壁221とのそれぞれに固定される(
図1参照)。衝撃吸収部材2の接続部214及び後側上壁221と、剛性部材3の上端部31とは重なり合っている。
【0048】
上端部31は、上方に突出する突出部311を有している。突出部311は、
図1に示すように、前側衝撃吸収部材21の前側上壁212の上端と、ほぼ同じ高さ位置か、それよりも上方の位置まで突出している。
【0049】
下端部32は、衝撃吸収部材2の下壁223に固定される。より詳細に、下端部32は、下壁223の上に重なった状態で、下壁223に固定されている。下端部32は、車両後方に向かって、面状に広がる。
図1に示すように、下端部32の後端は、下壁223の後端よりも、車両後方に位置している。
【0050】
中間部33は、上端部31の後端と下端部32の前端とをつないでいる。より詳細に、中間部33は、上端部31の突出部311の後端と、下端部32の前端とをつないでいる。中間部33は、垂直、又は、略垂直に、面状に広がる。上端部31、下端部32及び、中間部33によって構成される剛性部材3は、横断面略Z字状を成している。
【0051】
中間部33は、
図1に示すように、衝撃吸収部材2の後壁222に対して、車両後方に間隔をあけて配置されている。これにより、後側衝撃吸収部材22の後壁222と、剛性部材3の上端部31及び中間部33との間で、閉断面が形成される。
【0052】
面状に広がる中間部33と、面状に広がる下端部32とは、屈曲部34を介してつながっている。屈曲部34には、切欠きが形成されている。切欠きは、
図5に示すように下端部32の上面から凹陥すると共に、中間部33の下端に沿って、車幅方向に延びている。
【0053】
次に、
図6を参照しながら、前記構成のフロントバンパ1の機能について説明する。フロントバンパ1は、アッパーパネル13内に配設された、衝撃吸収部材2及び剛性部材3を備えている。
図1に示すように、衝撃吸収部材2は、アッパーパネル13における前後方向の中間部から後端部にかけての位置に配設され、剛性部材3は、アッパーパネル13の後端部からボンネット16の前端部にかけての位置に配設されている。
【0054】
衝撃吸収部材2及び剛性部材3は、衝突時の車両前方又は前方の斜め上方からの荷重に対しては変形することによりエネルギ吸収を可能とする低剛性と、車両上方からの荷重に対しては変形しない高剛性とを合わせ持つ。
【0055】
先ず、
図6(a)は、歩行者が前方から車両の前部に衝突した場合を例示している。前述したように、この車両は、ボディサイズが比較的大きいSUVであり、地面からボンネット上面までの高さが比較的高い。そのため、歩行者の大腿部41が、車両に対して前方からほぼ垂直に衝突する。大腿部41は、衝撃吸収部材2の前壁211に当たる。前壁211には、複数の開口部23が設けられているため、剛性が低い。しかも、前壁211の開口部23の方が、前側上壁212の開口部23よりも開口面積が大きい。前壁211は、前壁211と前側上壁212との角部において折れ曲がるように変形し、車両後方に向かって傾く(
図6(a)の破線参照)。このときに、前壁211と後壁222との間には空間が設けられているため、後壁222は、前壁211が車両後方へ変形することを妨げない。剛性部材3の中間部33は、後壁222のさらに後ろに配置されているため、剛性部材3も、前壁211が車両後方へ変形することを許容する。こうして、前方からの衝突に対して、衝撃吸収部材2が変形することによって、衝撃が吸収される。
【0056】
そして、相対的に板厚が小さい前側衝撃吸収部材21は、後側衝撃吸収部材22に比べて変形しやすい。このため、大腿部41の衝突時に、前側衝撃吸収部材21が車両後方に向かって移動しながら変形する。前側衝撃吸収部材21の変形によって、衝突直後の荷重を小さくできる。
【0057】
次に、
図6(b)は、身長の低い歩行者、例えば子供が前方から車両の前部に衝突した場合を例示している。この場合、頭部42が、車両に対して前方の斜め上方から斜め下向きに衝突する。頭部42は、衝撃吸収部材2の前壁211及び前側上壁212に当たる。前壁211及び前側上壁212にはそれぞれ、複数の開口部23が設けられているため、剛性が低い。また、前側上壁212は、上向きに凸となるように湾曲している。前壁211及び前側上壁212が共に、車両後方へ倒れるように変形する。
【0058】
そして、前側衝撃吸収部材21の接続部214と、後側衝撃吸収部材22の後側上壁221とが接続されているため、前側衝撃吸収部材21に入力された荷重は、上壁を通じて後側衝撃吸収部材22に入力される。後壁222の下端部に対して車両後方に向かう曲げモーメントが生じるから、後側衝撃吸収部材22の後壁222も、後方に倒れる(
図6(b)の破線参照)。
【0059】
衝撃吸収部材2の全体が後方に倒れることに伴い、剛性部材3の中間部33が、衝撃吸収部材2によって後方に押される。また、剛性部材3は、上端部31が衝撃吸収部材2の上壁に重ね合わされて固定されている。衝撃吸収部材2に荷重が入力されると、その荷重が剛性部材3の上端部に入力されるから、剛性部材3の屈曲部34に対して車両後方に向かう曲げモーメントが生じる。
【0060】
そして、剛性部材3の中間部33と下端部32との間に設けられた屈曲部34に切欠きが形成されているため、中間部33は、その屈曲部34を起点として、容易に後方へ倒れる。こうして、斜め上方からの衝突に対して、衝撃吸収部材2及び剛性部材3が変形することによって、衝撃が吸収される。
【0061】
また、前側衝撃吸収部材21の板厚が小さくかつ、開口部23によって変形しやすいことにより、頭部42の衝突時には、頭部42が衝撃吸収部材2の上壁に対して広い面積で接触し、衝突荷重を分散できる。
【0062】
さらに、斜め上方からの衝突に対しては、前側衝撃吸収部材21及び後側衝撃吸収部材22の両方を車両後方に倒れ込むように変形させることで、エネルギ吸収ストロークを断面ハット形の衝撃吸収部材2に対して対角線状に長くでき、歩行者への衝撃を軽減できる。
【0063】
また、このフロントバンパ1は、アッパーフレーム17から車両前方に延ばしたバンパ支持部18により片持ち状態で支持されている。アッパーパネル13へ、前方から、又は、前方の斜め上方から衝撃が入力されると、バンパ支持部18が撓むことで衝撃が吸収される。衝撃エネルギの吸収が、フロントバンパ1だけでなく、車体構造も含めて行うことが出来る。
【0064】
図6(c)は、例えば作業者の胴体43によって、車両上方から下向きに、アッパーパネル13に荷重が入力された場合を例示している。アッパーパネル13の後端部に相当する位置には、衝撃吸収部材2の後壁222と剛性部材3の中間部33とによって閉断面が形成されている。上方から下向きにかかる荷重は、剛性部材3の上端部31、より正確には、最も上方に位置する突出部311に入力されるが、前記の閉断面構造により、衝撃吸収部材2及び剛性部材3は、上下方向の荷重に対して高い剛性を発揮できる。その結果、ボンネット16を開けてエンジンルーム内の整備を行う場合に、車両上方からアッパーパネル13に作業者が体重を預けたような場合でも、アッパーパネル13が変形してしまう事態を回避することができる。
【0065】
尚、上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0066】
1 フロントバンパ
11 バンパーフェーシア
13 アッパーパネル
17 アッパーフレーム
18 バンパ支持部
2 衝撃吸収部材
21 前側衝撃吸収部材
211 前壁
212 前側上壁
22 後側衝撃吸収部材
221 後側上壁
222 後壁
223 下壁
3 剛性部材
31 上端部
32 下端部
33 中間部
34 屈曲部