(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
B08B 3/02 20060101AFI20240820BHJP
B05B 3/14 20060101ALI20240820BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B08B3/02 G
B05B3/14
B05C5/00 101
(21)【出願番号】P 2020173223
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 毅
(72)【発明者】
【氏名】関野 博一
(72)【発明者】
【氏名】小島 英揮
(72)【発明者】
【氏名】松崎 尚洋
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 祐司
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特公昭56-035909(JP,B2)
【文献】特開2008-246278(JP,A)
【文献】特開2017-123899(JP,A)
【文献】特開2020-040019(JP,A)
【文献】特開2004-275721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/00- 3/14
B05B 3/14
B05C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、
第1軸に沿って延伸し、内部を液体が流通可能な噴射管と、を備え、
前記噴射管は、
前記第1軸に沿う方向の一方の端部であって、前記液体が吐出される吐出孔を有する先端部と、
前記本体部に接続される基部と、を有し、
前記基部は、前記噴射管に、ねじり共振振動を付与する揺動機構を有し、
前記液体は、前記吐出孔から連続流として
前記第1
軸に沿う方向に吐出され、前記揺動機構により付与された前記ねじり共振振動により液滴化され、
前記ねじり共振振動の周波数は、前記噴射管の前記基部から前記先端部までの間において、振動の腹を1つ以上有する第1周波数であ
り、
前記揺動機構は、前記基部を前記本体部に対して、前記第1軸を回転軸として回動かつ反復運動させ、
前記基部は、前記第1軸と交差する第2軸に沿う方向に延出する支持部と、前記揺動機構として、前記支持部と前記本体部との間に介在する圧電素子と、を有し、
前記吐出孔は、前記第1軸と直交する断面において、前記第2軸に沿う方向の長さが、前記第1軸および前記第2軸と交差する第3軸に沿う方向の長さよりも長いことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記ねじり共振振動は、前記基部に振動の節が位置し、前記先端部に前記振動の腹が位置することを特徴とする、請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記基部は、複数の前記圧電素子を有し、
前記支持部は、前記第2軸に沿う方向の一方に延出する第1支持部と、前記第2軸に沿う方向の他方に延出する第2支持部と、を有し、
前記第1支持部は、前記第1軸および前記第2軸を含む第1面を有し、
前記第2支持部は、前記第1軸および前記第2軸を含む第2面を有し、
複数の前記圧電素子は、前記第1面および前記第2面に配置されることを特徴とする、請求項
1に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記噴射管の外径は、前記本体部の外径よりも小さく、10mm以下であることを特徴とする、請求項
1または請求項
3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記基部から前記先端部までの長さは、50mm以上300mm以下であることを特徴とする、請求項
4に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記第1周波数は、前記噴射管の共振周波数であることを特徴とする、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記基部は、前記ねじり共振振動の共振を検出する共振検出器を有することを特徴とする、請求項
6に記載の液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子を用いて高圧の連続水流を液滴とし、該液滴を衝突させて対象物の洗浄を行う液体噴射装置が知られていた。例えば、特許文献1には、ピエゾ圧電素子のトランスデューサーによって高圧のウォータージェットに振動を加えて、ノズルからパルス化された水を放出する超音波ウォータージェット装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、細部へのジェットの照射を可能にするために噴射管を延伸した場合、対象物がノズルの間近にあると十分な洗浄力を得にくいという課題があった。詳しくは、ノズルから放出された水流は、振動が付与されてはいるものの、ノズルの近傍では液滴化が完了せずに連続流のまま進行する。したがって、ノズルから放出された水流を液滴として対象物に衝突させるには、対象物からノズルを離す必要があった。そのため、小型の装置として、一方の手に持った対象物を他方の手に持ったノズルで洗浄する作業では、水流の液滴化が不十分になる可能性があった。液滴化が不十分になると、連続流として対象物に衝突することとなり、液滴が衝突する場合に比べて衝撃圧が小さくなって洗浄力が低下する。すなわち、従来よりもノズルに近い位置での洗浄力を向上させる液体噴射装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
液体噴射装置は、本体部と、第1軸に沿って延伸し、内部を液体が流通可能な噴射管と、を備え、前記噴射管は、前記第1軸に沿う方向の一方の端部であって、前記液体が吐出される吐出孔を有する先端部と、前記本体部に接続される基部と、を有し、前記基部は、前記噴射管に、ねじり共振振動を付与する揺動機構を有し、前記ねじり共振振動の周波数は、前記噴射管の前記基部から前記先端部までの間において、振動の腹を1つ以上有する第1周波数であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態に係る液体噴射装置の構成を示す模式図。
【
図5】揺動機構を作動させない場合の液滴化の状態を示す模式図。
【
図6】揺動機構を作動させた場合の液滴化の状態を示す模式図。
【
図7】第2実施形態に係る揺動機構の構成を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の各図においては、必要に応じて相互に直交するXYZ軸を付し、各矢印が指す方向を+方向とし、+方向と反対の方向を-方向とする。なお、本明細書において、第1軸はX軸に沿い、第1軸と交差する第2軸はZ軸に沿い、第1軸および第2軸と交差する第3軸はY軸に沿う。第1軸、第2軸、および第3軸は、相互に直交することに限定されず、相互に交差していればよい。
【0008】
1.第1実施形態
1.1.液体噴射装置
本実施形態では、片手に把持しての洗浄作業に適用可能な小型の液体噴射装置を例示する。第1実施形態に係る液体噴射装置1の構成について
図1を参照して説明する。
【0009】
図1に示すように、液体噴射装置1は、ノズルユニット2、液体容器3、液体供給管4、送液ポンプ5、および制御部6を備える。液体容器3は液体Lを貯留する。液体供給管4は、液体容器3とノズルユニット2とを繋ぐ。送液ポンプ5は、液体容器3とノズルユニット2との間にあって、液体供給管4を介して、液体容器3から液体Lを吸引してノズルユニット2へ圧送する。制御部6は、送液ポンプ5および後述する揺動機構などの稼働を制御する。また、液体噴射装置1は、図示しない電源部も備える。電源部は、制御部6、送液ポンプ5、および揺動機構などに電力を供給する。
【0010】
液体容器3は、密閉された容器であってもよく、大気解放された容器であってもよい。液体容器3の材料は液体Lの性状に応じて選定される。該材料には、液体Lによる腐食や溶解が発生しないものが好ましい。液体Lは、水や有機溶剤などの洗浄用途に供されるものであれば特に限定されない。液体Lは、界面活性剤などの洗浄剤や添加剤を含んでもよい。
【0011】
液体供給管4は液体Lが流動する、屈曲可能な配管である。液体供給管4には、送液ポンプ5の吸引圧および送液圧に耐えうる構造および材料が選定される。該材料としては、例えば、弾性を有する樹脂が挙げられる。液体供給管4には、金属メッシュなどで補強を施してもよい。
【0012】
送液ポンプ5は、液体容器3側の液体供給管4に負圧を生じさせて、液体容器3の液体Lを液体供給管4に吸引させる。そして、送液ポンプ5は、吸引した液体Lを、液体供給管4を介してノズルユニット2に圧送する。送液ポンプ5が圧送する液体Lの流量は制御部6によって調節される。送液ポンプ5は、液体供給管4の液体容器3側の端部に配置されてもよい。送液ポンプ5には、送液量を調節可能な公知の装置が適用される。
【0013】
ノズルユニット2は、本体部26および噴射管24を備える。本体部26は、略円柱形の筐体であって、内部に噴射管24および液体供給管4の一部が収容される。噴射管24は、後述する内部の流路を液体Lが流通可能である。噴射管24の先端には、ノズルである吐出孔22が配置される。ノズルユニット2では、本体部26、噴射管24、および吐出孔22がX軸に沿って配置される。
【0014】
液体容器3から吸引された液体Lは、液体供給管4を流通してノズルユニット2に至り、吐出孔22から吐出される。液体Lは、吐出孔22から連続流L1として吐出され、吐出孔22近傍にて液滴化されて液滴L2となる。液滴L2は、被洗浄物である対象物Oに衝突して洗浄用途に供される。ノズルユニット2は小型であるため、例えば、本体部26をペンの様に片手で把持して使用する。
【0015】
制御部6は、揺動機構制御部62、ポンプ制御部64、および記憶部66を備える。制御部6は、配線291によりノズルユニット2と電気的に接続され、配線292により送液ポンプ5と電気的に接続される。
【0016】
揺動機構制御部62は、ノズルユニット2の揺動機構に駆動信号を出力し、揺動機構の駆動を制御する。揺動機構を含むノズルユニット2の詳細は後述する。ポンプ制御部64は、送液ポンプ5に駆動信号を出力する。該駆動信号によって、送液ポンプ5が駆動されて、所望の送液量および所望の駆動時間にてノズルユニット2へ液体Lが供給される。ここで、制御部6は、揺動機構制御部62による揺動機構の駆動と、ポンプ制御部64による送液ポンプ5の駆動とを協調して制御してもよい。記憶部66の機能については後述する。
【0017】
制御部6は、演算装置、メモリー、外部インターフェースなどのハードウェアである。演算装置としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)などが挙げられる。メモリーとしては、ROM(Read Only Memory)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory)、およびハードディスクなどが挙げられる。
【0018】
1.2.ノズルユニット
液体噴射装置1に備わるノズルユニット2および揺動機構の構成について、
図2および
図3を参照して説明する。なお、
図2および
図3では、揺動機構における駆動用の配線類を省略している。
図3は、
図2のA-A直線を含みYZ平面に沿う断面を示している。
【0019】
図2に示すように、噴射管24は、第1軸R1に沿って延伸する円管である。噴射管24は、先端部24a、基部24b、および流路24cを有する。流路24cの管軸は第1軸R1と一致する。噴射管24の材料には、例えば、金属および樹脂などが採用される。
【0020】
噴射管24は、-X方向の端部が本体部26内にて液体供給管4に接続される。液体供給管4の内側と、噴射管24の流路24cとが連通する。
【0021】
基部24bは、本体部26の+X方向の端部にて、本体部26に接続されて支持される。基部24bは、第1軸R1と交差する、Z軸に沿う方向の一方に延出する第1支持部24b1と、Z軸に沿う方向の他方に延出する第2支持部24b2とを有する。
【0022】
基部24bは、揺動機構として複数の圧電素子27a,27b,27c,27dを有する。圧電素子27a,27bは第1支持部24b1に配置される。圧電素子27c,27dは第2支持部24b2に配置される。ここで、以降の説明において、圧電素子27a,27b,27c,27dを総称して、単に圧電素子27ともいう。
【0023】
先端部24aは、噴射管24における、第1軸R1に沿う+X方向の端部である。先端部24aは、尖端に流路24cに貫通する吐出孔22を有する。吐出孔22は、+X方向からの平面視にて円形である。
【0024】
流路24cの内径は、液体供給管4に接続される-X方向の端部から先端部24aの直前までは一定であり、先端部24aにて吐出孔22の口径に合わせて絞り込まれる。これにより、流路24cを流通してきた液体Lの圧力が先端部24aで増大する。そのため、対象物Oに衝突する液滴L2の運動エネルギーが高まり、洗浄力をさらに向上させることができる。
【0025】
基部24bから先端部24aまでの長さ、つまり本体部26の+X方向の端部から吐出孔22までの長さは、50mm以上300mm以下であることが好ましい。これによれば、本体部26を片手で把持して洗浄作業を行うことが容易になり作業性が向上する。そのため、対象物Oの細部を精密に洗浄することができる。また、把持を確実にかつ操作を容易にするために、本体部26のX軸に沿う長さは50mm以上150mm以下であることが好ましく、先端部24aおよび基部24bを除く噴射管24の外径は本体部26の外径よりも小さく、10mm以下であることが好ましい。
【0026】
ここで、従来の装置にて精密な洗浄操作を行うには、先端にノズルを持つ細い噴射管を延伸させる必要がある。そのため、トランスデューサー手元に配置して、ステムも同様に延長しなければならなかった。そうすると、ステムの質量が増加して共振周波数が低下して、液滴化のための所望の周波数が確保し難かった。また、ステムが短いまま基部にて液体を振動させると、噴射管内で振動が減衰して十分な洗浄力が得られなかった。これに対して、液体噴射装置1は、揺動機構として圧電素子27を有するため、小型で精密な洗浄操作に好適に用いることができる。
【0027】
以上の構成により、液体Lは、液体供給管4からノズルユニット2に圧送され、噴射管24内の流路24cを流通して、吐出孔22から吐出される。
【0028】
図3に示すように、圧電素子27a,27bは第1支持部24b1と本体部26との間に介在し、圧電素子27c,27dは第2支持部24b2と本体部26との間に介在する。
【0029】
詳しくは、第1支持部24b1は、XZ平面に沿う第1面241,242を有する。第1支持部24b1において、第1面241は-Y方向の面であり、第1面242は+Y方向の面である。第1面241は圧電素子27aを介して本体部26に支持され、第1面242は圧電素子27bを介して本体部26に支持される。
【0030】
第2支持部24b2は、XZ平面に沿う第2面243,244を有する。第2支持部24b2において、第2面243は-Y方向の面であり、第2面244は+Y方向の面である。第2面243は圧電素子27cを介して本体部26に支持され、第2面244は圧電素子27dを介して本体部26に支持される。このように複数の圧電素子27a,27b,27c,27dは、第1面241,242および第2面243,244に配置される。
【0031】
本体部26および流路24cは、+X方向からの平面視にて円形であり、第1軸R1を回転中心とする。基部24bと本体部26とは、圧電素子27a,27b,27c,27d以外の部分は接触せずに、互いに離れて配置される。第1軸R1に対して圧電素子27aと圧電素子27dとは対称に配置され、第1軸R1に対して圧電素子27bと圧電素子27cとは対称に配置される。
【0032】
圧電素子27aと圧電素子27dとを同時に伸長方向に駆動させる一方、圧電素子27bと圧電素子27cとを収縮させるように駆動させると、基部24bには、第1軸R1を回転中心とする左回りの回転力が作用する。逆に圧電素子27aと圧電素子27dとを同時に収縮方向に駆動させる一方、圧電素子27bと圧電素子27cとを伸長方向に同時に駆動させると、基部24bには、第1軸R1を回転中心とする右回りの回転力が作用する。これにより、圧電素子27a,27dの駆動と、圧電素子27b,27cの駆動とを逆相の交流波で行うと、本体部26に対して基部24bが右回りと左回りとに微小に振動する。すなわち、圧電素子27a,27b,27c,27dは、基部24bを本体部26に対して相対的に、第1軸R1を回転軸として回動かつ反復運動させる。
【0033】
基部24bの回動および反復運動である揺動を周期的に行わせることにより、噴射管24にねじり共振振動が付与される。
【0034】
ねじり共振振動とは、噴射管24に対して、+X方向からの平面視で右回り方向と左回り方向とに交互にねじれて印加される振動をいう。詳しくは、圧電素子27が駆動されない状態では、噴射管24にねじり共振振動が付与されず、回転力が印加されない。これに対して、圧電素子27の駆動により、例えば、基部24bが右回りに微動すると、噴射管24に右回りの回転力が印加される。次いで、圧電素子27の駆動により、基部24bが左回りに微動すると、噴射管24に左回りの回転力が印加される。そして、再び基部24bが右回りに微動して噴射管に右回りの回転力が印加される。
【0035】
流路24cを流通する液体Lは所定の流速で圧送され吐出孔22から噴射される。吐出孔22は流路24cの中で最も断面積が小さく液体Lに与える管摩擦力が大きい。そのため、吐出時に液体Lは、第1軸R2に対する右回りの回転力と左回りの回転力とを、X軸に沿う方向において交互に内包する連続流となる。この互い違いの回転力を含む連続流が、上述した連続流L1として吐出されると、該回転力により吐出孔22の近傍での液滴化が促進される。
【0036】
圧電素子27には、公知の圧電体が適用される。圧電体の材料としては、例えば、ペロブスカイト(ABO3)構造を有する複合酸化物を用いる。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの鉛系複合酸化物、鉄酸ビスマス(BFO)系材料およびニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)などの非鉛系複合酸化物が挙げられる。鉛系複合酸化物を用いると、ねじり共振振動の変位量を確保し易くなる。非鉛系複合酸化物を用いると、環境対応を促進し易くなる。
【0037】
本実施形態では、揺動機構として圧電素子27を適用した構成を例示したが、揺動機構はこれに限定されない。揺動機構としては、磁歪素子、電磁アクチュエーター、モーターおよびカムの組み合わせなどを用いたものが挙げられる。
【0038】
1.3.ねじり共振振動
揺動機構である圧電素子27によるねじり共振振動の詳細、およびその作用について、
図4、
図5、および
図6を参照して説明する。
図4では、噴射管24と、噴射管24の各部に対応するねじり共振振動の複数種類の振動波形とを、対比させて図示している。
【0039】
圧電素子27によるねじり共振振動は、噴射管24のねじり共振周波数であることが望ましい。具体的には、ねじり共振振動は、噴射管24の基部24bに振動の節を有し、基部24bから先端部24aまでの間において、振動の腹を1つ以上有し、当該ねじり共振振動の周波数が第1周波数である。第1周波数で振動するねじり共振振動は、
図4の振動波形に示すように、振動の節n0が基部24bに位置する。
【0040】
1次の振動波形では、振動の節n0が基部24bに位置し、振動の腹a1が先端部24aに位置する。3次の振動波形では、振動の節n0が基部24bに、振動の節n3が基部24bから先端部24aまでの間に、各々位置する。また、振動の腹a3が先端部24aと基部24bから先端部24aまでの間とに位置する。5次の振動波形では、振動の節n0が基部24bに、2つの振動の節n5が基部24bから先端部24aまでの間に位置する。また、3つの振動の腹a5が基部24bから先端部24aまでの間に位置する。
【0041】
基部24bを節とした共振周波数で駆動することにより、基部24のねじり振幅が小さくても、先端部24aはねじり共振の腹にあたるためねじり振幅が大きくなり、液体Lの液滴化がより促進される。ねじり共振振動の振動波形は、5次以下であることに限定されず、より高次で振動の腹および振動の節を多く含むものであってもよい。
【0042】
ねじり共振振動の第1周波数は、圧電素子27の駆動を制御することにより調節される。圧電素子27の駆動制御は、上述した記憶部66が保持する駆動パターンによってなされる。記憶部66は、例えば、流路24cにおける液体Lの流速などに応じて、上記駆動パターンを複数種類保持してもよい。
【0043】
基部24bは、ねじり共振振動の共振を検出する共振検出器を有してもよい。該共振検出器には、例えば、圧電素子27の共振検出回路が適用される。これによれば、液体Lの粘度などの物性が温度により変化した場合などに応じて、第1周波数を調節してねじり共振周波数とすることが可能となる。
【0044】
図5に示すように、揺動機構である圧電素子27を駆動させない場合には、吐出孔22から吐出された液体Lは、吐出孔22から距離Laまで連続流L1として+X方向に進み、液滴化されて液滴L2となる。
【0045】
これに対して、
図6に示すように、圧電素子27を駆動させて液体Lにねじり共振振動が付与されると、吐出孔22から吐出された液体Lは、吐出孔22から距離Lbまで連続流L1として+X方向に進み、液滴化されて液滴L2となる。このとき、ねじり共振振動の作用によって、距離Lbは距離Laよりも短くなり液滴化が促進される。
【0046】
詳しくは、上述したように、圧電素子27駆動時の連続流L1は第1軸R1に対する右回りの回転力と左回りの回転力とを、+X方向において交互に内包している。この回転方向が異なる回転力によって、連続流L1は分断され易くなり、液滴化が促進される。時間当たりに発生する液滴L2の個数は、ねじり共振振動の第1周波数に比例する。
【0047】
具体的には、第1周波数を100kHzとすると、1秒間に約20万個の液滴L2が生じる。第1周波数は、対象物Oの材質、液体Lの種類や特性、および洗浄によって除去する付着物などに応じて設定される。第1周波数は、例えば、20kHz以上1MHz以下とする。
【0048】
本実施形態の液体噴射装置1は、例えば、歯科医院における歯の清掃や治療、微細な細工を含む工芸品、および腕時計、精密型付着物などの洗浄用途に好適に用いられる。
【0049】
本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0050】
近接する対象物Oに対して洗浄力を向上させることができる。詳しくは、ねじり共振振動によって、噴射管24の吐出孔22を流通する液体Lの連続流にねじれが発生して液滴化が促進される。そのため、従来よりも近い位置で液滴L2を対象物Oに衝突させることができる。また、ねじり共振振動が第1周波数であることから、振動の腹の数が1つ未満の場合に比べて、ねじり共振振動の周波数が高くなり、液滴化によって発生する液滴L2の個数が増加する。対象物Oに衝突する液滴L2の個数が増加するため、洗浄力を向上させることができる。これらにより、従来よりも吐出孔22に近い位置での洗浄力を向上させる液体噴射装置1を提供することができる。
【0051】
2.第2実施形態
本実施形態では、第1実施形態と同様に片手に把持しての洗浄作業に適用可能な小型の液体噴射装置を例示する。本実施形態に係る液体噴射装置は、第1実施形態の液体噴射装置1に備わるノズルユニット2において、揺動機構を異ならせたものである。そのため、第1実施形態と同一の構成部位については、同一の符号を使用して重複する説明は省略する。
【0052】
本実施形態に係る液体噴射装置が備えるノズルユニット30の構成について、
図7を参照して説明する。
図7は、ノズルユニット30における、第1実施形態の
図3に相当する部位を示したものである。なお、以下の説明は、特に断りがない限り、+X方向から平面視した状態を述べるものである。
【0053】
図7に示すように、ノズルユニット30は、図示しない本体部と、第1軸R2に沿って延伸し、内部の流路34cを液体Lが流通可能な噴射管34と、を備える。噴射管34は基部34bを有する。基部34bは、噴射管34に、ねじり共振振動を付与する揺動機構として、磁石部37a,37b、およびヨーク部38a,38bを有する。ヨーク部38a,38bは、図示を省略するが本体部26に取り付けられる。
【0054】
磁石部37aと磁石部37bとは、基部34bの外周に配置され、第1軸R2を挟んでY軸に沿う方向に対向する。磁石部37aは6個の磁石371から成り、磁石部37bは6個の磁石372から成る。
【0055】
6個の磁石371は、基部34bの外周に沿って円弧状に配列される。6個の磁石371は、隣り合う同士で着磁方向が異なる、具体的には、6個の磁石371のうち、最も+Z方向の磁石371は、第1軸R2に対して内周がS極、外周がN極に着磁される。該磁石371と-Z方向に隣り合う磁石371は、第1軸R2に対して内周がN極、外周がS極に着磁され、さらに-Z方向に隣り合う磁石371は、第1軸R2に対して内周がS極、外周がN極に着磁される。このように6個の磁石371は、着磁方向が互い違いに設定される。
【0056】
6個の磁石372は、基部34bの外周に沿って円弧状に配列される。6個の磁石372は、隣り合う同士で着磁方向が異なる、具体的には、6個の磁石372のうち、最も+Z方向の磁石372は、第1軸R2に対して内周がN極、外周がS極に着磁される。該磁石372と-Z方向に隣り合う磁石372は、第1軸R2に対して内周がS極、外周がN極に着磁され、さらに-Z方向に隣り合う磁石372は、第1軸R2に対して内周がN極、外周がS極に着磁される。このように6個の磁石372は、着磁方向が互い違いに設定される。
【0057】
ヨーク部38aは、突起部が6個の磁石371と対向すると共に、微小な隙間を空けて配置され、凹部にはコイル381,382,383,384が納められ、図示しない制御部6および電源部と電気的に接続され、隣り合うコイル同士で流れる電流の方向が逆向きに設定される。
【0058】
ヨーク部38bは、突起部が6個の磁石372と対向すると共に、微小な隙間を空けて配置され凹部にはコイル385,386,387,388が納められ、図示しない制御部6および電源部と電気的に接続され、隣り合うコイル同士で流れる電流の方向が逆向きに設定される。
【0059】
以上の構成で、コイル381,383,386,388に図の下向きの電流を流し、コイル382,384,385,387に図の上向きの電流を流すと、基部34bが第1軸R2を回転軸として右回りに回動する。また逆方向の通電では左回りに回動する。通電は、制御部6によって制御される。
【0060】
このように、コイル381からコイル388に交互に逆方向の電流を流すことによって、基部34bには、第1軸R2を回転中心とする右回りと左回りの回転力が交互に作用する。これにより、ノズルユニット30は、第1実施形態の圧電素子27と同様なねじり共振振動を、噴射管24に付与することができる。
【0061】
磁石371,372およびコイル381からコイル388の個数および配置は上記に限定されない。これらを基部34bの全外周に配置してもよい。これによれば、ねじり共振振動の変位量やねじりのトルクを増大させることができる。
【0062】
本実施形態によれば第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0063】
3.第3実施形態
上記実施形態では、吐出孔22を+X方向からの平面視にて円形としたが、吐出孔の形状は上記に限定されない。本実施形態に係るノズルユニットの吐出孔は、第1軸R1と直交するYZ平面に沿う断面において、第2軸であるZ軸に沿う方向の長さが、第3軸であるY軸に沿う方向の長さよりも長くてもよい。具体的には、吐出孔はZ軸に沿う方向に長い楕円形である。
【0064】
本実施形態によれば第1実施形態の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
【0065】
吐出孔の平面形状は、回転軸である第1軸R1に対して回転対称とならない。そのため、噴射管24の揺動と連動して、吐出孔から吐出される液体Lの断面形状がねじり共振振動に応じて変化する。これによって、吐出孔から吐出された液体Lの液滴化をさらに促進させることができる。
【符号の説明】
【0066】
1…液体噴射装置、22…吐出孔、24,34…噴射管、24a…先端部、24b,34b…基部、24b1…第1支持部、24b2…第2支持部、26…本体部、27,27a,27b,27c,27d…揺動機構としての圧電素子、37a,37b…揺動機構としての磁石部、38a,38b…揺動機構としてのヨーク部、241,242…第1面、243,244…第2面、n0,n3,n5…振動の節、a1,a3,a5…振動の腹、L…液体、R1,R2…第1軸。