(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 19/00 20060101AFI20240820BHJP
F01N 13/18 20100101ALI20240820BHJP
B22D 19/02 20060101ALI20240820BHJP
B22C 9/24 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B22D19/00 P
F01N13/18
B22D19/02
B22D19/00 Z
B22C9/24 A
(21)【出願番号】P 2020208754
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】神崎 泰典
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-138216(JP,A)
【文献】特開2017-115829(JP,A)
【文献】特開2011-247208(JP,A)
【文献】特開2013-217289(JP,A)
【文献】特開2000-254766(JP,A)
【文献】特開2009-090303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 19/00
F01N 13/18
B22D 19/02
B22C 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンハウジングと触媒コンバータとを接続する筒状の排気部材を鋳造する鋳造方法であって、
他の部材と締結する締結部を前記排気部材の上部に配置し、
溶湯を注入するための第1及び第2の注湯ゲートを前記排気部材の下部に位置するように設け、
前記排気部材の下部において、前記第1及び第2の注湯ゲートの間に位置するように、前記排気部材の外周面から外側に向かって突出したリブを設け、
前記リブは、前記締結部から近い第1の注湯ゲートよりも前記締結部から遠い第2の注湯ゲートの近くに位置するように、設けられて
おり、
前記リブの位置を調節することによって、上側の溶湯の合流地点を調節し、前記排気部材の締結部において溶湯を合流させ、結晶粒を小さくする、
鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、タービンハウジングと触媒コンバータとを接続する排気通路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タービンハウジングと触媒コンバータとを接続する排気部材を例えばロストワックス精密鋳造のような鋳造方法によって製造する場合がある。鋳造部品は、鍛造部品や板金部品と比較して、結晶粒が大きく強度が劣るという課題があった。
図9に示すように、金属中に含まれるニオブや、クロムが析出物Sとして鋳物中に存在する場合、析出物Sを起点としクラックCRが発生する。その結果、結晶粒の境界面に亀裂が進展する。ここで、金属の粒径が大きいと境界も大きいので大規模な亀裂になる。加えて、排気部材において他の部材と締結する締結部では、強度が必要であるという課題があった。
【0005】
本開示では、そのような課題を解決することによって、排気部材の締結部の強度を向上できる鋳造方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の鋳造方法は、タービンハウジングと触媒コンバータとを接続する筒状の排気部材を鋳造する鋳造方法であって、他の部材と締結する締結部を前記排気部材の上部に配置し、溶湯を注入するための第1及び第2の注湯ゲートを前記排気部材の下部に位置するように設け、前記排気部材の下部において、前記第1及び第2の注湯ゲートの間に位置するように、前記排気部材の外周面から外側に向かって突出したリブを設け、前記リブは、前記締結部から近い第1の注湯ゲートよりも前記締結部から遠い第2の注湯ゲートの近くに位置するように、設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、排気部材の締結部の強度を向上できる鋳造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る排気部材を示す斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る鋳型を示す断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係る鋳型における湯流れを示す斜視図である。
【
図4】第1の実施形態に係る鋳型における湯流れを示す側面図である。
【
図5】第1の実施形態に係る鋳型における湯流れを示す正面図である。
【
図6】第1の実施形態に係る加工前の排気部材を示す図である。
【
図7】第1の実施形態に係る加工前の排気部材における結晶粒を示す図である。
【
図8】第1の実施形態に係る加工前の排気部材における結晶粒を示す拡大図である。
【
図9】本開示における課題を補足するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略する。なお、当然のことながら、
図1及びその他の図面に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸正方向が鉛直上向き、xy平面が水平面であり、図面間で共通である。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、
図1を用いて、第1の実施形態にかかる排気部材10の構成を説明する。
図1に示すように、排気部材10は、タービンハウジングと触媒コンバータとを接続するための部材であり、例えばロストワックス精密鋳造によって鋳造される。排気部材10は、Y軸方向と平行な仮想軸に延びる筒状体である。Y軸正方向における排気部材10の開口は第1の開口14であり、Y軸負方向における排気部材10の開口は第2の開口15である。排気部材10のY軸方向における長さは、上部側(Z軸正方向側)と下部側(Z軸負方向側)とで非対称である。ここで、下部側の排気部材10のY軸方向における長さは、上部側の排気部材10のY軸方向における長さより短い。
【0011】
注湯ゲート11(11a、11b)は、排気部材10を鋳造するための鋳型M1(後述)において、排気部材10と対応するキャビティC10と金属材料の溶湯を注ぎ込むための湯道C23とを接続する部位である。注湯ゲート11は、排気部材10におけるY軸正方向側の第1の開口14の下部側に設けられる。なお、注湯ゲート11aと11b以外にも注湯ゲート11が設けられてもよい。
【0012】
締結部12は、他の部材と締結する部位であり、排気部材10において強度が求められる部位、すなわち、結晶粒微細化が求められる部位である。締結部12は、排気部材10の上部側に配置されている。
リブ13は、鋳型M1(後述)のキャビティC10に注ぎ込まれる湯の流れのバランスをとるためのリブである。リブ13は、排気部材10の外周面から外側に向かって突出した形状を有する。そして、リブ13は、締結部12から近い注湯ゲート11aよりも締結部12から遠い注湯ゲート11bの近くに位置している。
【0013】
続いて、
図2を用いて、第1の実施形態にかかる排気部材10の鋳造方法を説明する。鋳型M1は、排気部材10をロストワックス精密鋳造によって鋳造するための鋳型である。湯だまりC21、湯口C22、湯道(ランナー)C23、キャビティC10は、鋳型M1に形成された空洞である。ここで、キャビティC10は、上述の排気部材10に形状に対応している。
【0014】
鋳造方法として、まず、湯だまりC21に湯を注ぎ込む。以下、注ぎ込まれた湯は、矢印Pの方向に流れる。注ぎ込まれた湯は、湯口C22及び湯道C23を介して、キャビティC10に充填される。なお、キャビティC10に対して複数の湯道C23が連通する場合、湯は下側(Z軸負方向)の湯道C23を中心にキャビティC10に充填される。
【0015】
続いて、
図3-
図5を用いて、第1の実施形態に係る排気部材10の鋳造方法で用いられる鋳型M1のキャビティC10に注ぎ込まれる湯流れを具体的に説明する。なお、
図3-
図5において、キャビティC10に対応する加工後の排気部材10を用いて便宜的に説明する。
【0016】
第1に、
図3及び
図4を用いて、第1の実施形態に係る排気部材10におけるYZ軸平面における湯流れを説明する。まず、湯が注湯ゲート11aから排気部材10に注ぎ込まれる。以下、注ぎ込まれた湯は、矢印Pの方向に流れる。注ぎ込まれた湯は、注湯ゲート11aの下部(Z軸負方向)に流れる。ここで、下部側の排気部材10のY軸方向における長さは、上部側の排気部材10のY軸方向における長さより短い。よって、排気部材10の断面積が小さい部位に注湯ゲート11aから湯を注ぎ込むこととなり、注湯ゲート11aから注ぎ込まれた湯は急冷され結晶粒が小さくなる。次に、急冷された湯は、注湯ゲート11aから注ぎ込まれる後続の湯に押され、冷却されながら上部側(Z軸正方向)に充填される。なお、注湯ゲート11bから湯を鋳型に注ぎ込んだ場合も上述と同様に湯が流れる。
【0017】
第2に、
図5を用いて、第1の実施形態に係る排気部材10におけるXZ軸平面における湯流れを説明する。まず、湯が注湯ゲート11bから排気部材10に注ぎ込まれる。以下、注ぎ込まれた湯は、矢印Pの方向に流れる。注湯ゲート11bから排気部材10に注ぎ込まれた湯は、注湯ゲート11bの下部に流れる。また、注湯ゲート11aから排気部材10に注ぎ込まれた湯も同様に、注湯ゲート11aの下部に流れる。ここで、注湯ゲート11bと注湯ゲート11aとの間、且つ注湯ゲート11bと注湯ゲート11aの下部にはリブ13が設けられている。リブ13は、注湯ゲート11bから注ぎ込まれた湯と注湯ゲート11aから注ぎ込まれた湯との合流地点を調整する。
図5に示すリブ13は、排気部材10の中央より左側(X軸負方向側)に設置されている。そうすることによって、注湯ゲート11bから注ぎ込まれた湯は、充填に時間がかかる。そのため、注湯ゲート11bから注ぎ込まれた湯は、XZ平面において排気部材10の中央より左側で注湯ゲート11aから注ぎ込まれた湯と合流する。そして、排気部材10の下部に湯が充填される。
【0018】
排気部材10の下部に湯が充填された後、湯は排気部材10の上部側に時計回り及び反時計回りに流れる。上述したように、注湯ゲート11bから注ぎ込まれた湯と注湯ゲート11aから注ぎ込まれた湯との下側の合流地点は、ZX平面において中央より左側にずれている。そのため、湯の上側の合流地点はZX平面において中央より右側(X軸正方向側)にずれる。すなわち、リブ13の位置を調節することによって、上側の湯の合流地点を調節でき、締結部12において湯を合流させることができる。
【0019】
続いて、
図6、
図7及び
図8を用いて、第1の実施形態に係る排気部材10における結晶粒の粒度について説明する。
図6に示すように、鋳造後の排気部材10を切断面I及び切断面IIで切断した。次に、
図7に示すように、切断後の排気部材10において第2の開口15の範囲Rに研磨とエッジングを実施した。そして、
図7の範囲Rの拡大図を
図8に示す。ここで、
図7及び
図8に示される矢印Dの方向は、
図6に示す矢印Dの方向と一致する。
【0020】
図7及び
図8に示すように、締結部12側(矢印Dの先端側)の結晶粒が締結部12の反対側(矢印Dの後端側)よりも小さくなっている。結晶粒が小さくなることによって、締結部12側の強度が向上する。したがって、上述の排気部材10の鋳造方法によって締結部12の強度が向上することができることが示された。
【0021】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0022】
10 排気部材
11 注湯ゲート
11a 注湯ゲート(第1の注湯ゲート)
11b 注湯ゲート(第2の注湯ゲート)
12 締結部
13 リブ
14 第1の開口
15 第2の開口
C10 キャビティ
C21 湯だまり
C22 湯口
C23 湯道
M1 鋳型
S 析出物
CR クラック