(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】デュアルフューエルエンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02D 19/08 20060101AFI20240820BHJP
F02D 41/30 20060101ALI20240820BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20240820BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240820BHJP
F02M 25/00 20060101ALI20240820BHJP
F02M 25/10 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F02D19/08
F02D41/30
F02M37/00 341D
F02M37/00 341Z
F02M21/02 G
F02M21/02 L
F02M21/02 N
F02M25/00 F
F02M25/00 Z
F02M25/10 B
(21)【出願番号】P 2020215229
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/136151(WO,A1)
【文献】特開2015-214955(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0288249(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0100469(US,A1)
【文献】特開2008-144637(JP,A)
【文献】特開2009-221086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 21/02
F02B 43/00
F02D 13/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア、水素、天然ガスおよび液体燃料からなる群から選択され、かつ、アンモニアまたは水素の少なくとも一方を含む、少なくとも2種類の燃料を使用するデュアルフューエルエンジンと、
アンモニアまたは水素の少なくとも一方を使用する運転中に、前記デュアルフューエルエンジンの燃焼が異常か否かを判定し、前記デュアルフューエルエンジンの燃焼が異常であると判定された場合に、アンモニア、水素、天然ガスまたは液体燃料の少なくとも1つを追加して、燃料の配合または燃料の配合割合を変えるように、前記デュアルフューエルエンジンを制御する、制御装置と、
を備え
、
前記制御装置は、アンモニアのみを主燃料として使用する運転中に、デュアルフューエルエンジンに失火またはアンモニアスリップが発生したか否かを判定し、失火またはアンモニアスリップが発生したと判定された場合に、水素を追加するように、前記デュアルフューエルエンジンを制御し、
前記制御装置は、水素を追加した後に、前記デュアルフューエルエンジンに失火またはアンモニアスリップが発生したか否かを判定し、失火またはアンモニアスリップが発生したと判定された場合に、液体燃料または天然ガスを追加するように、前記デュアルフューエルエンジンを制御する、デュアルフューエルエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、デュアルフューエルエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の燃料を使用するデュアルフューエルエンジンが知られている。例えば、特許文献1は、重油等の液体燃料を使用するディーゼルモードと、天然ガス等の気体燃料を主に使用するガスモードと、上記の液体燃料および気体燃料の双方を使用するアシストモードと、を備えるデュアルフューエルエンジンを開示している。このエンジンは、通常は、ガスモードで運転する。運転中に、回転速度に対するエンジンの負荷が閾値を超えると、エンジンはアシストモードを開始する。その後、エンジンの負荷が閾値よりも下がると、エンジンはガスモードに復帰する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地球環境を保護するために、二酸化炭素の排出の削減が一般的に要求されている。アンモニアおよび水素は、二酸化炭素を排出しない燃料として知られている。したがって、これらの燃料は、デュアルフューエルエンジンでも使用されることが望ましい。しかしながら、これらの燃料を使用するエンジンでは、ノッキング、失火、または、アンモニアスリップ等の燃焼異常が問題となり得る。
【0005】
本開示は、上記のような課題を考慮して、アンモニアまたは水素の少なくとも一方を使用するデュアルフューエルエンジンにおいて、燃焼異常を低減することができる、デュアルフューエルエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、アンモニア、水素、天然ガスおよび液体燃料からなる群から選択され、かつ、アンモニアまたは水素の少なくとも一方を含む、少なくとも2種類の燃料を使用するデュアルフューエルエンジンと、アンモニアまたは水素の少なくとも一方を使用する運転中に、デュアルフューエルエンジンの燃焼が異常か否かを判定し、デュアルフューエルエンジンの燃焼が異常であると判定された場合に、アンモニア、水素、天然ガスまたは液体燃料の少なくとも1つを追加して、燃料の配合または燃料の配合割合を変えるように、デュアルフューエルエンジンを制御する、制御装置と、を備え、制御装置は、アンモニアのみを主燃料として使用する運転中に、デュアルフューエルエンジンに失火またはアンモニアスリップが発生したか否かを判定し、失火またはアンモニアスリップが発生したと判定された場合に、水素を追加するように、デュアルフューエルエンジンを制御し、制御装置は、水素を追加した後に、デュアルフューエルエンジンに失火またはアンモニアスリップが発生したか否かを判定し、失火またはアンモニアスリップが発生したと判定された場合に、液体燃料または天然ガスを追加するように、デュアルフューエルエンジンを制御する、デュアルフューエルエンジンシステムである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、アンモニアまたは水素の少なくとも一方を使用するデュアルフューエルエンジンにおいて、燃焼異常を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係るデュアルフューエルエンジンシステムの概略的な断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のデュアルフューエルエンジンシステムで使用される燃料のパターンを示す。
【
図3】
図3は、
図1のデュアルフューエルエンジンシステムの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図1のデュアルフューエルエンジンシステムの動作の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示される寸法、材料、および、具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能および構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、実施形態に係るデュアルフューエルエンジンシステム100の概略的な断面図である。本実施形態では、デュアルフューエルエンジンシステム(以下、本開示において単に「システム」とも称され得る)100は、船舶に適用される。システム100は、例えば、デュアルフューエルエンジン(以下、本開示において単に「エンジン」とも称され得る)10と、第1タンクT1と、第2タンクT2と、第3タンクT3と、制御装置50と、を備える。なお、
図1において、エンジン10と各タンクとを接続する実線は、燃料の流れを示し、制御装置50と各構成要素とを接続する破線は、これらの間の通信を示す。本実施形態では、エンジン10は、2ストロークエンジンである。他の実施形態では、エンジン10は、4ストロークエンジンであってもよい。
【0014】
エンジン10は、例えば、シリンダ1と、ピストン2と、ピストンロッド3と、シリンダカバー4と、排気弁箱5と、排気弁6と、駆動装置7と、掃気溜8と、シリンダジャケット9と、第1噴射口R1と、第2噴射口R2と、圧力センサS1と、ノックセンサS2と、アンモニアセンサS3と、を有する。
【0015】
シリンダ1内に、ピストン2が配置される。ピストン2は、シリンダ1内を往復移動する。ピストン2には、ピストンロッド3の第1端部(
図1において上端部)が連結される。ピストンロッド3の第2端部(
図1において下端部)には、不図示のクロスヘッドが連結される。クロスヘッドは、連接棒等を介してクランクシャフトに連結される(不図示)。ピストン2の往復移動が、クランクシャフトの回転運動に変換される。
【0016】
シリンダカバー4が、シリンダ1の第1端部(
図1において上端部)を閉じる。シリンダカバー4には、排気弁箱5の一部が挿入され、ピストン2と対向する。燃焼室11が、シリンダ1と、シリンダカバー4と、排気弁箱5と、ピストン2と、によって画定される。排気弁箱5は、排気ポート5aを含む。排気ポート5aは、燃焼室11に開口する。
【0017】
シリンダカバー4に、第1噴射口R1および第2噴射口R2が設けられる。第1噴射口R1からは、気体燃料(アンモニア、水素、または、天然ガスの少なくとも1つ)が燃焼室11内に噴射される。第2噴射口R2からは、液体燃料が燃焼室11内に噴射される(燃料について詳しくは後述)。
【0018】
シリンダカバー4に、圧力センサS1が設けられる。圧力センサS1は、燃焼室11内の圧力を測定する。圧力センサS1は、有線または無線で制御装置50と通信可能に接続されており、測定された圧力データを制御装置50に送信する。
【0019】
シリンダカバー4に、ノックセンサS2が設けられる。例えば、ノックセンサS2は、振動センサであり、シリンダカバー4の振動を測定する。ノックセンサS2は、ノッキングによって発生するシリンダカバー4の振動を検出することができる。ノックセンサS2は、有線または無線で制御装置50と通信可能に接続されており、測定された振動データを制御装置50に送信する。他の実施形態では、ノッキングは、圧力センサS1によって検出されてもよい。ノッキングが発生すると、燃焼室11内の圧力が振動する。この振動を測定することによって、ノッキングを検出することができる。この場合、ノックセンサS2は、設けられなくてもよい。
【0020】
排気弁箱5には、排気弁6が設けられる。排気弁6は、排気ポート5aを開閉するように燃焼室11内に配置される。排気弁6は、駆動装置7に連結される。駆動装置7は、排気弁箱5に設けられる。駆動装置7は、排気弁6を、ピストン2の往復移動と平行な方向に移動させる。排気弁6がピストン2に向かって移動すると、排気ポート5aが開かれる。排気弁6が排気弁箱5に向かって移動すると、排気ポート5aが閉じられる。
【0021】
排気弁箱5には、排気管12が接続される。排気ポート5aは、燃焼室11と排気管12とを接続する。排気管12には、アンモニアセンサS3が設けられる。アンモニアは毒性を有するため、アンモニアが外部に放出されることを防止すべく、アンモニアセンサS3が、排気管12中の排気ガスにおけるアンモニアの濃度を測定する。燃焼室11に未燃のアンモニアが残り、排気管12に排気されると(アンモニアスリップ)、アンモニアセンサS3によってアンモニアが検出される。アンモニアセンサS3は、有線または無線で制御装置50と通信可能に接続されており、測定されたアンモニアの濃度のデータを制御装置50に送信する。
【0022】
シリンダ1の下端は、シリンダジャケット9で囲繞される。シリンダジャケット9の内部には、掃気室9aが形成される。掃気室9aは、掃気溜8に接続される。掃気溜8には、活性ガス(例えば、空気(例えば、外気))が導入される。掃気溜8内の活性ガスは、掃気室9aに導入される。シリンダ1の下部には、複数の掃気ポート1aが設けられる。掃気ポート1aは、シリンダ1を内側から外側まで貫通する孔である。複数の掃気ポート1aは、シリンダ1の周方向に離隔して形成される。
【0023】
上記のようなエンジン10において、ピストン2が下死点(
図1において掃気ポート1aより下方の位置)に移動すると、掃気室9aとシリンダ1との間の差圧によって、掃気ポート1aからシリンダ1内に活性ガスが吸入される。続いて、ピストン2が下死点から上死点に向かって移動すると、活性ガスがピストン2によって圧縮される。圧縮された活性ガスに対して、第1噴射口R1および第2噴射口R2からそれぞれ気体燃料および液体燃料が噴射される。液体燃料は、高温高圧下で気化され着火される。液体燃料の着火によって、気体燃料も着火されて燃焼する。ピストン2は、燃焼による膨張圧によって下死点に向かって移動する。排気ポート5aが開かれ、シリンダ1内の燃焼後の排気ガスが、排気ポート5aを介して排気管12に排気される。排気ガスは更に、不図示の浄化装置等のいくつかの構成要素を介して、外部に放出される。排気後、排気ポート5aが閉じられる。
【0024】
制御装置50は、例えば、ECU(Engine Control Unit)を含む。制御装置50は、例えば、中央処理装置(CPU)、および、記憶装置(ハードディスク、プログラム等が格納されたROM、および、ワークエリアとしてのRAM等)等の構成要素を含み、システム100を制御する。制御装置50は、他の構成要素を更に含んでもよい(例えば、液晶ディスプレイまたはタッチパネル等の表示装置、および、キーボード、ボタンまたはタッチパネル等の入力装置)。
【0025】
上記のように、制御装置50は、圧力センサS1、ノックセンサS2およびアンモニアセンサS3と通信可能に接続されており、それぞれ、圧力データ、振動データおよびアンモニアの濃度のデータを受信する。制御装置50は、これらのデータに基づいて、エンジン10の運転中に、エンジン10の燃焼が異常か否か(すなわち、失火(燃料が燃焼しない現象)、ノッキング、または、アンモニアスリップが発生したか否か)を判定し、判定結果に基づいて、エンジン10で使用される燃料を制御する(詳しくは後述)。
【0026】
例えば、燃焼室11において失火が発生する場合、燃焼室11内の圧力が通常時の圧力よりも低下する。例えば、制御装置50の記憶装置は、ピストン2の各位置における容積Vと、各容積Vに対する圧力と、の関係を示すPV線図を記憶していてもよい。制御装置50は、圧力センサS1からの圧力データおよびPV線図に基づいて、燃焼室11において失火が発生したか否かを判定してもよい。
【0027】
燃焼室11においてノッキングが発生する場合、燃焼室11を画定する構成要素が通常時の振動よりも大きく振動する。例えば、制御装置50の記憶装置は、ノッキングが発生したか否かを判定するための閾値を記憶していてもよい。制御装置50は、ノックセンサS2からの振動データおよび閾値に基づいて、燃焼室11においてノッキングが発生したか否かを判定してもよい。
【0028】
排気管12においてアンモニアスリップが発生する場合、排気管12中を流れる排ガス中のアンモニアの濃度が通常時の濃度よりも増加する。例えば、制御装置50の記憶装置は、アンモニアスリップが発生したか否かを判定するための閾値を記憶していてもよい。制御装置50は、アンモニアセンサS3からの濃度のデータおよび閾値に基づいて、排気管12においてアンモニアスリップが発生したか否かを判定してもよい。
【0029】
上記のようなノッキング、失火およびアンモニアスリップは、例えば、エンジン10の出力が増加若しくは低下するとき、または、外気温が変化するときに発生し得る。制御装置50は、これら失火、ノッキング、または、アンモニアスリップが発生した場合に、エンジン10で使用される燃料を制御する。
【0030】
続いて、エンジン10において使用される燃料について詳細に説明する。
【0031】
本実施形態では、エンジン10は、アンモニア、水素、天然ガスおよび液体燃料を使用する。
【0032】
具体的には、第1タンクT1は、アンモニアを貯留する。第1タンクT1は、配管L1によって第1噴射口R1に接続される。例えば、エンジン10は、配管L1上に、バルブV1および増圧器P1を有する。また、例えば、エンジン10は、バルブ(例えば、三方弁)V11および触媒Cを有する。例えば、触媒Cは、バルブV11を介して配管L1に並列に接続される。触媒Cは、不図示の加熱手段(例えば、ヒータ等)によって加熱される。触媒Cは、例えばルテニウム、アルミナなどである。アンモニアを高温化で触媒Cを通すことによって、アンモニアから水素を製造することができる。一般的に、液体の水素は、常圧下において超低温(20K程度)で輸送される必要がある一方で、液体のアンモニアは、0.9MPa程度の圧力下において常温(293K程度)で輸送可能である。本実施形態では、システム100は、上記のように、アンモニアを水素のキャリアとして使用する。したがって、システム100では、高額な冷却設備無しに、船舶上において水素を容易に入手することができる。バルブV1、増圧器P1およびバルブV11は、有線または無線で制御装置50と通信可能に接続されており、制御装置50によって制御される。
【0033】
第2タンクT2は、天然ガス(例えば、LNG)を貯留する。第2タンクT2は、配管L2によって第1噴射口R1に接続される。例えば、エンジン10は、配管L2上に、バルブV2および増圧器P2を有する。バルブV2および増圧器P2は、有線または無線で制御装置50と通信可能に接続されており、制御装置50によって制御される。
【0034】
以上のような構成によれば、第1噴射口R1からは、アンモニア、水素または天然ガスの少なくとも1つが、制御装置50によって制御された量で噴射される。
【0035】
第3タンクT3は、液体燃料(例えば、重油、軽油またはバイオ燃料等)を貯留する。第3タンクT3は、配管L3によって第2噴射口R2に接続される。例えば、エンジン10は、配管L3上に、バルブV3およびポンプP3を有する。バルブV3およびポンプP3は、有線または無線で制御装置50と通信可能に接続されており、制御装置50によって制御される。
【0036】
以上のような構成によれば、第2噴射口R2からは、液体燃料が、制御装置50によって制御された量で噴射される。
【0037】
図2は、
図1のデュアルフューエルエンジンシステムで使用される燃料のパターンPT1~PT10を示す。エンジン10は、上記の燃料のうち、アンモニアまたは水素の少なくとも一方を主燃料として使用する(
図2のパターンPT1を除く)。制御装置50は、アンモニアまたは水素の少なくとも一方を使用する運転中に、エンジン10の燃焼が異常と判定された場合に、アンモニア、水素、天然ガスまたは液体燃料の少なくとも1つを追加して、燃料の配合(または、配合の割合)を変えるように、エンジン10を制御する。なお、本開示において、「燃料の配合を変える」とは、アンモニアまたは水素の少なくとも一方を主燃料として使用する場合に、主燃料として使用されていない燃料を追加することを意味し得る。また、本開示において、「燃料の配合の割合を変える」とは、アンモニアおよび水素の混合ガスを主燃料として使用する場合に、燃料の組み合わせを維持しつつ、アンモニアまたは水素のいずれかの割合を増加させることを意味し得る。なお、本実施形態では、パターンPT1~PT10の全てにおいて、着火用に所定の少量の液体燃料が使用される。
【0038】
[パターンPT1:液体燃料]
パターンPT1では、液体燃料のみが使用される。船舶は、エンジンの始動時および停止時に、液体燃料が使用されなければならないことを定める法律を有する。したがって、パターンPT1は、例えば、エンジン10の始動時および停止時に使用される。また、例えば、エンジン10が他のパターンPT2~PT10で運転中に良好に動作しないときに、燃料は、パターンPT1に切り替えられてもよい。
【0039】
[パターンPT2:アンモニア]
パターンPT2では、アンモニアが主に使用される。例えば、パターンPT2は、エンジン10が安定し、エンジン10の出力が変化しないときに使用される。
【0040】
[パターンPT3~PT7:アンモニア+水素、天然ガスまたは液体燃料の少なくとも1つ]
パターンPT3~PT7では、アンモニアに加えて、水素、天然ガスまたは液体燃料の少なくとも1つが使用される。一般的に、アンモニアは燃焼しにくいため、失火に繋がり得る。燃焼室11において失火が発生すると、未燃のアンモニアが排気管12に排出される(アンモニアスリップ)。したがって、例えば、上記のパターンPT2によるエンジン10の運転中に、失火またはアンモニアスリップが発生したと判定された場合、アンモニアよりも燃えやすい燃料を追加すべく、燃料は、以下のパターンPT3~PT7のいずれかに切り替えられてもよい。
【0041】
パターンPT3では、アンモニアに加えて、液体燃料が使用される。すなわち、パターンPT3では、着火用の所定の少量の液体燃料に加えて、更なる液体燃料が追加される。液体燃料によって、燃焼が安定する。
【0042】
パターンPT4では、アンモニアに加えて、天然ガスが使用される。天然ガスによって、燃焼が安定する。
【0043】
パターンPT5では、アンモニアに加えて、水素が使用される。上記のように、アンモニアは、燃焼しにくく、失火およびアンモニアスリップに繋がり得る。対照的に、水素は、燃焼しやすく、ノッキングに繋がり得る。このように、アンモニアおよび水素は相反する特性を有する。したがって、アンモニアに加えて、水素を使用することによって、安定した燃焼を可能にし得る。
【0044】
上記のパターンPT5に関して、例えば、アンモニアを主に使用するパターンPT2によるエンジン10の運転中に、失火またはアンモニアスリップが発生したと判定された場合に、アンモニアよりも燃えやすい水素を追加すべく、燃料は、パターンPT2からパターンPT5に切り替えられてもよい。
【0045】
また、例えば、水素を主に使用するパターンPT8(後述)によるエンジン10の運転中に、ノッキングが発生したと判定された場合に、水素よりも燃えにくいアンモニアを追加すべく、燃料は、パターンPT8からパターンPT5に切り替えられてもよい。
【0046】
また、例えば、パターンPT5は、上記のようにパターンPT2,PT8から切り替えられること無く、直接的に使用されてもよい。具体的には、エンジン10が安定し、エンジン10の出力が変化しないときに、エンジン10は、所定の割合のアンモニアおよび水素の混合ガスを使用して、パターンPT5で運転されてもよい。この場合に、パターンPT5によるエンジン10の運転中に、失火またはアンモニアスリップが発生した場合には、アンモニアよりも燃えやすい水素を追加してもよい。対照的に、パターンPT5によるエンジン10の運転中に、ノッキングが発生した場合に、水素よりも燃えにくいアンモニアを追加してもよい。
【0047】
パターンPT6では、アンモニアに加えて、水素および液体燃料が使用される。例えば、エンジン10が上記のパターンPT2,PT8からパターンPT5に切り替えられた後に、ノッキング、失火またはアンモニアスリップが発生し続ける場合に、燃焼を安定させるべく液体燃料を追加するために、燃料は、パターンPT5からパターンPT6に更に切り替えられてもよい。
【0048】
パターンPT7では、アンモニアに加えて、水素および天然ガスが使用される。上記のパターンPT6と同様に、例えば、エンジン10がパターンPT2,PT8からパターンPT5に切り替えられた後に、ノッキング、失火またはアンモニアスリップが発生し続ける場合に、燃焼を安定させるべく天然ガスを追加するために、燃料は、パターンPT5からパターンPT7に更に切り替えられてもよい。
【0049】
[パターンPT8:水素]
パターンPT8では、水素が主に使用される。例えば、パターンPT8は、エンジン10が安定し、エンジン10の出力が変化しないときに使用される。
【0050】
[パターンPT9,PT10:水素+天然ガスまたは液体燃料]
パターンPT9,PT10では、水素に加えて、天然ガスまたは液体燃料が使用される。上記のように、水素は、燃焼しやすく、ノッキングに繋がり得る。したがって、例えば、水素を使用する上記のパターンPT8によるエンジン10の運転中に、ノッキングが発生したと判定される場合、燃焼を安定させるために天然ガスまたは液体燃料を追加すべく、燃料は、パターンPT8から以下のパターンPT9,PT10のいずれかに切り替えられてもよい。
【0051】
パターンPT9では、水素に加えて、液体燃料が使用される。すなわち、パターンPT9では、着火用の所定の少量の液体燃料に加えて、更なる液体燃料が追加される。液体燃料によって、燃焼が安定する。
【0052】
パターンPT10では、水素に加えて、天然ガスが使用される。天然ガスによって、燃焼が安定する。
【0053】
以上のような各パターンにおける各燃料の量は、各燃料から得られるエネルギーの合計が、エンジン10に要求される出力と等しくなるように、制御装置50によって決定される。例えば、アンモニアを使用する運転中に液体燃料が追加される場合に、液体燃料の追加によってエネルギーの合計がエンジン10に要求される出力よりも大きくなるときには、制御装置50は、アンモニアの使用を減らすように、エンジン10を制御する。なお、燃料の組み合わせは、上記のパターンPT1~PT10に限定されず、他の組み合わせが使用されてもよい。
【0054】
続いて、システム100の動作の例について説明する。
【0055】
図3は、
図1のデュアルフューエルエンジンシステム100の動作の一例を示すフローチャートである。
図3の例では、システム100は、アンモニアを主に使用し、エンジン10の燃焼が異常であると判定された場合に、液体燃料を追加する(パターンPT2→パターンPT3)。例えば、
図3の動作は、エンジン10が安定し、パターンPT2で運転を開始すると、開始されてもよい。
【0056】
制御装置50は、燃焼室11においてノッキングが発生したか否かを判定する(ステップS100)。具体的には、制御装置50は、ノックセンサS2からの振動データおよび記憶装置に記憶された閾値に基づいて、エンジン10でノッキングが発生したか否かを判定してもよい。
【0057】
ステップS100において、燃焼室11においてノッキングが発生していない(NO)と判定される場合、制御装置50は、燃焼室11において失火が発生したか否かを判定する(ステップS102)。具体的には、制御装置50は、圧力センサS1からの圧力データおよび記憶装置に記憶されたPV線図に基づいて、燃焼室11において失火が発生したか否かを判定してもよい。
【0058】
ステップS102において、燃焼室11において失火が発生していない(NO)と判定される場合、制御装置50は、排気管12においてアンモニアスリップが発生したか否かを判定する(ステップS104)。具体的には、制御装置50は、アンモニアセンサS3からの濃度のデータおよび記憶装置に記憶された閾値に基づいて、排気管12においてアンモニアスリップが発生したか否かを判定してもよい。
【0059】
ステップS104において、排気管12においてアンモニアスリップが発生していない(NO)と判定される場合、制御装置50は、ステップS100に戻る。
【0060】
ステップS100において、燃焼室11においてノッキングが発生した(YES)と判定される場合、ステップS102において、燃焼室11において失火が発生した(YES)と判定される場合、および、ステップS104において、排気管12においてアンモニアスリップが発生した(YES)と判定される場合、制御装置50は、液体燃料を追加するように、エンジン10を制御し(ステップS106)、ステップS100に戻る。
【0061】
制御装置50は、例えば、任意の指令を受信するまで上記の動作を繰り返してもよい(例えば、燃料を切り替えるための指令(例えば、燃料をパターンPT2に戻すための指令)、または、エンジン10を停止させるための指令等)。例えば、上記の動作は、所定のインターバルで繰り返されてもよい(例えば、百~数百ミリ秒、一~数秒、十~数十秒、または、一~数分)。指令は、例えば、制御装置50の入力装置を介して、船舶のオペレータによって入力されてもよい。代替的に、制御装置50は、例えば、エンジン10の出力が再び安定したと判定される場合に、燃料をパターンPT2に自動的に戻してもよい。上記のように、ノッキング、失火およびアンモニアスリップは、エンジン10の出力が増加若しくは低下するときに発生し得るため、エンジン10の出力が再び安定したと判定される場合には、燃料は、制御装置50によってパターンPT2に自動的に戻されてもよい。
【0062】
図3の例では、システム100は、アンモニアを主に使用し、エンジン10の燃焼が異常であると判定された場合に、液体燃料を追加する(パターンPT2→パターンPT3)。しかしながら、他の例では、システム100は、水素を主に使用してもよい(パターンPT8→パターンPT9)。
【0063】
また、他の例では、システム100は、アンモニアおよび水素の混合ガスを主に使用してもよい(パターンPT5→パターンPT6)。この場合に、システム100は、エンジン10の燃焼が異常であると判定された際に、液体燃料を追加する代わりに、アンモニアまたは水素を追加してもよい(パターンPT5→パターンPT5)。例えば、ノッキングが発生した場合には、アンモニアを追加してもよい。この場合、ステップS106において、液体燃料の代わりに、アンモニアが追加される。対照的に、失火またはアンモニアスリップが発生した場合には、水素を追加してもよい。この場合、ステップS106において、液体燃料の代わりに、水素が追加される。
【0064】
また、他の例では、システム100は、アンモニアを主に使用し、エンジン10の燃焼が異常であると判定された場合に、水素を追加してもよい(パターンPT2→パターンPT5)。この場合、ステップS106において、液体燃料の代わりに、水素が追加される。
【0065】
また、他の例では、システム100は、アンモニア(または、水素)を主に使用し、エンジン10の燃焼が異常であると判定された場合に、天然ガスを追加してもよい(パターンPT2(または、パターンPT8)→パターンPT10)。この場合、ステップS106において、液体燃料の代わりに、天然ガスが追加される。
【0066】
図4は、
図1のデュアルフューエルエンジンシステム100の動作の他の例を示すフローチャートである。
図4の例では、システム100は、アンモニアを主に使用し、エンジン10の燃焼が異常であると判定された場合に、水素および液体燃料を段階的に追加する(パターンPT2→パターンPT5→パターンPT6)。例えば、
図4の動作は、エンジン10が安定しパターンPT2で運転を開始すると、開始されてもよい。
【0067】
ステップS200~S204は、それぞれ、上記のステップS100~S104と同様であってもよい。
【0068】
ステップS200において、燃焼室11においてノッキングが発生した(YES)と判定される場合、ステップS202において、燃焼室11において失火が発生した(YES)と判定される場合、および、ステップS204において、排気管12においてアンモニアスリップが発生した(YES)と判定される場合、制御装置50は、水素を追加するように、エンジン10を制御する(ステップS206)。
【0069】
続いて、制御装置50は、所定量以上の水素を追加したか否かを判定する(ステップS208)。ステップS208において、所定量以上の水素を追加していない(NO)と判定された場合、制御装置50は、ステップS200に戻る。上記の所定量は、制御装置50の記憶装置に記憶されていてもよい。
【0070】
図5は、
図4に続く動作を示す。上記のステップS208において、所定量以上の水素を追加した(YES)と判定された場合、制御装置50は、ステップS210に進む。ステップS210~S214は、それぞれ、上記のステップS100~S104と同様であってもよい。
【0071】
ステップS210において、燃焼室11においてノッキングが発生した(YES)と判定される場合、ステップS212において、燃焼室11において失火が発生した(YES)と判定される場合、および、ステップS214において、排気管12においてアンモニアスリップが発生した(YES)と判定される場合、制御装置50は、水素に代えて、液体燃料を追加するように、エンジン10を制御し(ステップS216)、ステップS210に戻る。
【0072】
制御装置50は、
図3の例と同様に、例えば、任意の指令を受信するまで上記の動作を繰り返してもよい。また、
図3の例と同様に、制御装置50は、例えば、エンジン10の出力が再び安定したと判定される場合に、燃料をパターンPT2に自動的に戻してもよい。
【0073】
図4の例では、システム100は、アンモニアを主に使用し、エンジン10の燃焼が異常であると判定された場合に、水素および液体燃料を段階的に追加する(パターンPT2→パターンPT5→パターンPT6)。しかしながら、他の例では、システム100は、水素を主に使用してもよい(パターンPT8→パターンPT5→パターンPT6)。この場合、
図4のステップS206において、水素の代わりに、アンモニアが追加される。
【0074】
また、他の例では、システム100は、アンモニアおよび水素の混合ガスを主に使用してもよい(パターンPT5→パターンPT5→パターンPT6)。例えば、ノッキングが発生した場合には、
図4のステップS206において、アンモニアを追加してもよい。対照的に、失火またはアンモニアスリップが発生した場合には、
図4のステップS206に示されるとおりに、水素を追加してもよい。
【0075】
また、他の例では、システム100は、アンモニア(または、水素)を主に使用し、エンジン10の燃焼が異常であると判定された場合に、
図5のステップS216において、液体燃料の代わりに、天然ガスを追加してもよい(パターンPT2(または、パターンPT8)→パターンPT5→パターンPT7)。
【0076】
以上のような実施形態に係るシステム100は、アンモニア、水素、天然ガスおよび液体を使用するエンジン10と、アンモニアまたは水素の少なくとも一方を使用する運転中に(パターンPT2,PT5,PT8)、ノッキング、失火またはアンモニアスリップが発生したか否かを判定し、これらのいずれかが発生したと判定された場合に、アンモニア、水素、天然ガスまたは液体燃料の少なくとも1つを追加して(パターンPT3,PT4,PT5,PT6,PT7,PT9,PT10)、燃料の配合または燃料の配合割合を変えるように、エンジン10を制御する、制御装置50と、を備える。したがって、システム100では、エンジン10の燃焼が安定するように、燃料が調整される。よって、エンジン10の燃焼異常を低減することができる。
【0077】
また、制御装置50は、アンモニアを使用する運転中に(パターンPT2,PT5)、エンジン10に失火またはアンモニアスリップが発生したか否かを判定し、失火またはアンモニアスリップが発生したと判定された場合に、液体燃料を追加するように(パターンPT3,PT6)、エンジン10を制御してもよい。この場合、失火またはアンモニアスリップを低減することができる。
【0078】
また、制御装置50は、アンモニアを使用する運転中に(パターンPT2,PT5)、エンジン10に失火またはアンモニアスリップが発生したか否かを判定し、失火またはアンモニアスリップが発生したと判定された場合に、水素を追加するように(パターンPT5)、エンジン10を制御してもよい。この場合にも、失火またはアンモニアスリップを低減することができる。
【0079】
また、上記の場合に、制御装置50は、水素を追加した後に(パターンPT5)、エンジン10に失火またはアンモニアスリップが発生したか否かを判定し、失火またはアンモニアスリップが発生したと判定された場合に、液体燃料を追加するように(パターンPT6)、エンジン10を制御してもよい。この場合、失火またはアンモニアリップをより確実に低減することができる。
【0080】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範囲において、様々な変更または修正に想到し得ることは明らかであり、それらについても本開示の技術的範囲に属すると理解される。
【0081】
例えば、上記の実施形態では、システム100は、船舶に適用される。しかしながら、他の実施形態では、システム100は、他の装置または施設に適用されてもよい(例えば、定置型の発電システムまたは非常用電源等)。例えば、システム100が定置型の発電システムに適用される場合、システム100は、アンモニアを貯留する第1タンクT1に代えて、水素を貯留するタンクを備えてもよい。この場合、水素は、例えば、風力発電等を使用して生成されてもよい。アンモニアは、周知のハーバーボッシュ法によって、水素から生成されることができる。
【0082】
上記の実施形態では、エンジン10は、アンモニア、水素、天然ガスおよび液体燃料の全てを使用可能である。しかしながら、他の実施形態では、エンジン10は、アンモニア、水素、天然ガスおよび液体燃料からなる群から選択され、かつ、アンモニアまたは水素の少なくとも一方を含む、少なくとも2種類の燃料を使用してもよい。例えば、システム100は、第2タンクT2を備えなくてもよく、天然ガスを使用しなくてもよい。また、例えば、システム100は、第3タンクT3を備えなくてもよく、液体燃料を使用しなくてもよい(但し、システム100が船舶に適用される場合を除く)。また、例えば、システム100は、アンモニアまたは水素のいずれか一方のみを使用してもよい。
【0083】
上記の実施形態では、着火手段として、液体燃料が使用される。しかしながら、他の実施形態では、着火手段として、スパークプラグが使用されてもよい。
【0084】
上記の実施形態では、第1噴射口R1は、気体燃料を活性ガスに直接噴射すべく、シリンダカバー4に設けられる。しかしながら、他の実施形態では、第1噴射口R1は、気体燃料を活性ガスに予混合すべく、エンジン10の他の位置に設けられてもよい。この場合、第1噴射口R1は、例えば、シリンダ1においてシリンダジャケット9よりも若干上方の位置に設けられてもよい。
【0085】
上記の実施形態では、アンモニア、水素および天然ガスは、同一の第1噴射口R1から噴射される。しかしながら、他の実施形態では、アンモニアおよび水素用の噴射口と、天然ガス用の別の噴射口と、が独立して設けられてもよい。この場合、例えば、一方の噴射口が予混合に使用されてもよく、他方の噴射口が直接噴射に使用されてもよい。
【0086】
本開示は、燃料として二酸化酸素を排出しないアンモニアおよび水素の使用を促進するので、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」および目標13「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0087】
10 デュアルフューエルエンジン
50 制御装置
100 デュアルフューエルエンジンシステム