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特許7540335処理ガス調整装置、処理ガス調整方法、及び、金属水素化物を製造するシステム
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  • 特許-処理ガス調整装置、処理ガス調整方法、及び、金属水素化物を製造するシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】処理ガス調整装置、処理ガス調整方法、及び、金属水素化物を製造するシステム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/00 20060101AFI20240820BHJP
   B01D 53/26 20060101ALI20240820BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20240820BHJP
   C01B 6/00 20060101ALI20240820BHJP
   H05H 1/46 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
C01B3/00 Z
B01D53/26
B01J19/08 K
C01B6/00 Z
H05H1/46 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020218955
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103999
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】長坂 政彦
(72)【発明者】
【氏名】内山 晃臣
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 康孝
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-033201(JP,A)
【文献】特表2005-500237(JP,A)
【文献】国際公開第2020/080303(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0151604(US,A1)
【文献】特開2002-249032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00
B01D 53/26
B01J 19/08
C01B 6/00
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給された水素ガスを処理ガスとした雰囲気中のチャンバ内において発生させた水素プラズマを前記チャンバ内の金属元素を組成に含む粉末である金属粉末に作用させて金属水素化物を製造する装置に接続され、前記処理ガスの水素の純度を調整する処理ガス調整装置であって、
前記チャンバから送出される前記処理ガスを、前記水素ガスを追加することなく前記チャンバへ戻す循環ラインと、
前記循環ラインに設けられ、前記処理ガスを圧送するポンプと、
前記ポンプの上流側に位置するように前記循環ラインに設けられ、前記処理ガスに含有される水を除去するエアドライヤと、
を備える処理ガス調整装置。
【請求項2】
前記エアドライヤの上流側に位置するように前記循環ラインに設けられ、前記処理ガスを通過させる液体を貯留するタンクを備える、請求項1に記載の処理ガス調整装置。
【請求項3】
前記液体を前記タンクから排出する排出機構を備える、請求項2に記載の処理ガス調整装置。
【請求項4】
前記タンクの上流側に位置するように前記循環ラインに設けられ、前記タンクから前記チャンバへの前記処理ガスの逆流を防止する逆止弁を備える、請求項2又は3に記載の処理ガス調整装置。
【請求項5】
前記ポンプの下流側に位置するように前記循環ラインに設けられ、前記チャンバへ戻される前記処理ガスの流量を調整する調整弁を備える、請求項1~4の何れか一項に記載の処理ガス調整装置。
【請求項6】
前記調整弁の下流側において前記循環ラインに接続され、前記循環ラインと装置外部とを接続する分岐ラインと、
前記循環ラインと前記分岐ラインとの前記処理ガスの流れを切り換える切替弁と、
を備える、請求項5に記載の処理ガス調整装置。
【請求項7】
前記切替弁は、
前記循環ラインと前記分岐ラインとの接続箇所の下流側に位置するように前記循環ラインに設けられた第1開閉弁と、
前記分岐ラインに設けられた第2開閉弁と、
を含む、請求項6に記載の処理ガス調整装置。
【請求項8】
供給された水素ガスを処理ガスとした雰囲気中のチャンバ内において発生させた水素プラズマを前記チャンバ内の金属元素を組成に含む粉末である金属粉末に作用させて金属水素化物を製造する方法において、前記処理ガスの水素の純度を調整する処理ガス調整方法であって、
前記チャンバから前記処理ガスを循環ラインへ送出する工程と、
前記循環ラインに設けられたエアドライヤに前記処理ガスを通過させて、前記処理ガスに含有される水を除去する工程と、
前記エアドライヤを通過させた前記処理ガスを、前記水素ガスを追加することなくポンプを用いて前記チャンバへ戻す工程と、
を含む処理ガス調整方法。
【請求項9】
金属元素を組成に含む粉末である金属粉末を収容するチャンバと、
前記チャンバに水素ガスを処理ガスとして供給するガス供給装置と、
水素雰囲気中のチャンバ内において水素プラズマを発生させるプラズマ発生装置と、
前記チャンバの内部を減圧する排気装置と、
前記チャンバから送出される前記処理ガスを、前記水素ガスを追加することなく前記チャンバへ戻す循環ラインと、
前記循環ラインに設けられ、前記処理ガスを圧送するポンプと、
前記ポンプの上流側に位置するように前記循環ラインに設けられ、前記処理ガスに含有される水を除去するエアドライヤと、
を備える金属水素化物を製造するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、処理ガス調整装置、処理ガス調整方法、及び、金属水素化物を製造するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、水素化マグネシウムの製造方法を開示する。この製造方法においては、一例として酸化マグネシウムが水素化マグネシウムの原料とされる。水素雰囲気中のチャンバ内に収容された原料には、水素プラズマが照射される。チャンバ内には、水素化マグネシウムの析出温度以下となる表面を有する付着手段が配置される。水素化マグネシウムは、付着手段の表面に析出し、回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-203607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の方法は、水素化マグネシウムの製造時に水素ガスを用いているため、チャンバ内に残留した酸素原子又は原料に含まれる酸素原子と水素とが結合して、水が生成されることがある。この場合、チャンバ内は、水素ガスと水蒸気とが混合した雰囲気となる。よって、特許文献1記載の方法では、チャンバ内の処理ガスにおける水素の純度が低下し、安定した水素プラズマを生成することができないおそれがある。本開示は、金属水素化物を製造する際にチャンバ内の処理ガスの水素の純度が低下することを抑制できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面は、処理ガス調整装置である。この処理ガス調整装置は、金属水素化物を製造する装置に接続される。金属水素化物を製造する装置は、水素プラズマをチャンバ内の金属粉末に作用させて金属水素化物を製造する。水素プラズマは、供給された水素ガスを処理ガスとした雰囲気中のチャンバ内において発生される。処理ガス調整装置は、処理ガスの水素の純度を調整する。処理ガス調整装置は、循環ライン、ポンプ及びエアドライヤを備える。循環ラインは、チャンバから送出される処理ガスをチャンバへ戻す。ポンプは、循環ラインに設けられ、処理ガスを圧送する。エアドライヤは、ポンプの上流側に位置するように循環ラインに設けられ、処理ガスに含有される水を除去する。
【0006】
本開示の一側面に係る処理ガス調整装置によれば、チャンバ内の処理ガスは、循環ラインへ送出され、循環ラインに設けられたエアドライヤによって水が除去され、再びチャンバへと戻される。よって、この処理ガス調整装置によれば、金属水素化物を製造する際にチャンバ内の処理ガスの水素の純度が低下することを抑制できる。
【0007】
一実施形態においては、処理ガス調整装置は、処理ガスを通過させる液体を貯留するタンクを備えてもよい。このタンクは、エアドライヤの上流側に位置するように循環ラインに設けられる。この場合、処理ガスが液体を通過する際に冷却され、処理ガス中の水蒸気が水に戻り、液体にトラップされる。さらに、処理ガスは、原料の金属粉末やプラズマ生成時の副生成物も含むことがある。処理ガスが液体を通過する際には、これらの副生成物などもまた液体にトラップされる。これにより、原料の金属粉末やプラズマ生成時の副生成物がポンプに到達することが抑制される。このため、ポンプの部品の摩耗や動作不良、さらには金属粉末の粉塵爆発が回避される。よって、この処理ガス調整装置によれば、金属水素化物を製造する際にチャンバ内の処理ガスの水素の純度が低下することをさらに抑制できるとともに、ポンプ故障を回避しつつ、安全性を向上できる。
【0008】
一実施形態においては、処理ガス調整装置は、液体をタンクから排出する排出機構を備えてもよい。この場合、処理ガス調整装置は、液体にトラップした金属粉末やプラズマ生成時の副生成物を回収して再利用できる。
【0009】
一実施形態においては、処理ガス調整装置は、タンクの上流側に位置するように循環ラインに設けられ、タンクからチャンバへの処理ガスの逆流を防止する逆止弁を備えてもよい。この場合、処理ガス調整装置は、タンク内の液体がチャンバへ逆流することを防止できる。
【0010】
一実施形態においては、処理ガス調整装置は、ポンプの下流側に位置するように循環ラインに設けられ、チャンバへ戻される処理ガスの流量を調整する調整弁を備えてもよい。この場合、処理ガス調整装置は、チャンバへ送り込む処理ガス及びチャンバから引き込む処理ガスの流量を調整できる。
【0011】
一実施形態においては、処理ガス調整装置は、分岐ライン及び切替弁を備えてもよい。分岐ラインは、調整弁の下流側において循環ラインに接続され、循環ラインと装置外部とを接続する。切替弁は、循環ラインと分岐ラインとの処理ガスの流れを切り換える。この場合、切換弁が動作することで、処理ガスの循環と処理ガスの外部への排出との何れか一方が選択される。これにより、処理ガス調整装置は、例えば処理ガスの水素の純度が設定値と大きくずれた場合、チャンバに新たな水素ガスを供給しつつ、チャンバ内の処理ガスを分岐ラインから排気することで、チャンバ内の処理ガスを入れ替えることができる。
【0012】
一実施形態においては、切替弁は、循環ラインに設けられた第1開閉弁と、分岐ラインに設けられた第2開閉弁と、を含んでもよい。第1開閉弁は、循環ラインと分岐ラインとの接続箇所の下流側に位置するように設けられる。この場合、処理ガス調整装置は、第一開閉弁と第2開閉弁とを設けることにより、ポンプを止めずとも循環ラインの機能を停止できる。
【0013】
本開示の他の側面は、処理ガス調整方法である。この処理ガス調整方法は、金属水素化物を製造する方法において、処理ガスの水素の純度を調整する。製造方法は、水素プラズマをチャンバ内の金属粉末に作用させて金属水素化物を製造する。水素プラズマは、供給された水素ガスを処理ガスとした雰囲気中のチャンバ内において発生される。処理ガス調整方法は、以下の工程を含む。
(1)チャンバから処理ガスを循環ラインへ送出する工程。
(2)循環ラインに設けられたエアドライヤに処理ガスを通過させて、処理ガスに含有される水を除去する工程。
(3)エアドライヤを通過させた処理ガスを、ポンプを用いてチャンバへ戻す工程。
【0014】
本開示のさらに他の側面は、金属水素化物を製造するシステムである。このシステムは、チャンバ、ガス供給装置、プラズマ発生装置、排気装置、循環ライン、ポンプ、及び、エアドライヤを備える。チャンバは、金属粉末を収容する。ガス供給装置は、チャンバに水素ガスを処理ガスとして供給する。プラズマ発生装置は、水素雰囲気中のチャンバ内において水素プラズマを発生させる。排気装置は、チャンバの内部を減圧する。循環ラインは、チャンバから送出される処理ガスをチャンバへ戻す。ポンプは、循環ラインに設けられ、処理ガスを圧送する。エアドライヤは、ポンプの上流側に位置するように循環ラインに設けられ、処理ガスに含有される水を除去する。
【0015】
処理ガス調整方法及び金属水酸化物を製造するシステムは、上述した処理ガス調整装置と同一の効果を奏する。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、金属水素化物を製造する際にチャンバ内の処理ガスの水素の純度が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る、金属水素化物を製造するシステムの一例を示す概要図である。
図2図1の処理ガス調整装置の一例を示す概要図である。
図3】金属水素化物を製造する方法を示すフローチャートである。
図4】実施形態に係る処理ガス調整方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附す。
【0019】
[金属水素化物を製造するシステム]
図1は、実施形態に係る、金属水素化物を製造するシステムの一例を示す概要図である。図1に示されるシステム100は、水素プラズマを、金属元素を組成に含む粉末である金属粉末に作用させて金属水素化物を製造する。
【0020】
金属粉末は、例えばマグネシウム系粉末である。マグネシウム系粉末は、一例として、マグネシウム、酸化マグネシウム又は水酸化マグネシウムの粉末などである。マグネシウム系粉末に水素プラズマを作用させて製造される金属水素化物の一例は、水素化マグネシウムである。金属粉末は、ナトリウム又はほう酸塩の粉末であってもよい。ほう酸塩は、例えば、メタほう酸塩、四ほう酸塩、又は、五ほう酸塩である。メタほう酸塩は、一例として、NaBO、KBO、LiBO、Ca(BO、又は、Mg(BOである。四ほう酸塩は、一例として、Na、NaO・2BO、KO・B、Li、又は、Mgである。五ほう酸塩は、一例として、NaB、NaO・5B、KB、KO・5B、又は、LiBである。ほう酸塩は、天然のほう酸塩鉱物であるNa・10HO、Na・4HO、Ca11・5HO、CaNaB・6HO、MgCl1730などとしてもよい。入手容易性、入手コスト、化学的安定性、水素脱着容易性、水素貯蔵密度などの観点から、ほう酸塩として上述した例の中からメタほう酸ナトリウム(NaBO)を選択してもよい。マグネシウム系粉末及びメタほう酸ナトリウムに水素プラズマを作用させて製造される金属水素化物の一例は、テトラヒドロほう酸塩である。なお、金属粉末は、マグネシウム系粉末と、ナトリウム又はほう酸塩の粉末との混合物であってもよい。
【0021】
図1に示されるように、システム100は、内部に処理空間が画成されたチャンバ10を備える。チャンバ10の内部には試料ホルダ11が収容される。試料ホルダ11は、金属粉末Sを支持する。試料ホルダ11には振動発生器14が接続される。振動発生器14は、試料ホルダ11に振動を与えることにより、試料ホルダ11内の金属粉末Sを流動させる。チャンバ10には配管15を介して真空ポンプ16(排気装置の一例)が接続される。真空ポンプ16は、チャンバ10内部を減圧し、所定の圧力に調整する。
【0022】
チャンバ10には配管42を介して水素ガスボンベ30が接続される。水素ガスボンベ30は配管42を介してチャンバ10の内部へ水素ガスを供給する。つまり、水素ガスボンベ30及び配管42は、ガス供給装置の一例として機能する。チャンバ10の内部へ供給された水素ガスは、処理ガスとして用いられる。処理ガスとは、プラズマ励起用のガスである。水素ガスボンベ30からチャンバ10へ水素ガスが供給されることにより、チャンバ10内は水素雰囲気となる。チャンバ10には、その他のガス源、例えば、パージ用の窒素ガスボンベ31、水素化合物ガスボンベ32などが配管42を介して接続されてもよい。
【0023】
チャンバ10には、チャンバ10内に供給される処理ガスを励起させるためのマイクロ波を出力するマイクロ波発生機構18(プラズマ発生装置の一例)が可撓同軸導波路40を介して接続される。マイクロ波発生機構18は、マイクロ波発振器20、アイソレーター21、パワーモニター22、チューナー23、及び、矩形同軸導波路変換器24を備える。マイクロ波発振器20は、予め定められた周波数、パワー及び帯域幅のマイクロ波を発生させる。アイソレーター21は、マイクロ波の伝搬方向を限定し、マイクロ波をチャンバ10へ伝搬させる。パワーモニター22はマイクロ波の進行波パワー及び反射波パワーをモニターし、マイクロ波発振器20にフィードバックする。チューナー23は、マイクロ波が進行する導波管に設けられ、チャンバ10とマイクロ波発生機構18とのインピーダンスが整合するように調整される。矩形同軸導波路変換器24は、マイクロ波のモードを変換し、マイクロ波をチャンバ10の上部に設けられたアンテナへ伝送する。
【0024】
チャンバ10の天井部、つまりアンテナの下方には、雰囲気を遮蔽しながらマイクロ波が伝搬可能である石英板41が設けられる。石英板41は例えば誘電体で形成され、マイクロ波をチャンバ内へ導入するための窓部材として機能する。チャンバ10内では、供給された処理ガスが所定圧力に減圧され、マイクロ波による電界によって加速させた電子と処理ガスの分子(ここでは水素分子)とが衝突し電離することで水素プラズマPが発生する。これにより、金属粉末がプラズマ処理され、金属水素化物を得ることができる。一例として、金属粉末が酸化マグネシウムの場合は反応式(1)、金属粉末が水酸化マグネシウムの場合は反応式(2)、金属粉末がメタほう酸ナトリウムの場合は反応式(3)で示される反応により、金属水化物が得られる。
MgO+3H→MgH+2HO (1)
Mg(OH)+2H→MgH+2HO (2)
NaBO+4H→NaBH+2HO (3)
【0025】
(1)~(3)の何れの反応式においても水が生成される。この場合、チャンバ10の水素雰囲気に水蒸気が混合することになるため、処理ガス中の水素の純度が低下する。このため、チャンバ10には、処理ガスの水素純度を調整するための処理ガス調整装置50が接続される。
【0026】
[処理ガス調整装置]
図2は、図1の処理ガス調整装置の一例を示す概要図である。図2に示されるように、処理ガス調整装置50は、循環ライン51を備える。チャンバ10には、チャンバ10の内部に連通する送出口10a及び送入口10bが形成される。循環ライン51は、送出口10a及び送入口10bに接続され、チャンバ10から送出される処理ガスを流通させてチャンバ10へ戻す管路である。
【0027】
循環ライン51には、処理ガスの流通方向に沿って、逆止弁52、タンク53、エアドライヤ55、ポンプ56、調整弁57、第1開閉弁58(切替弁の一例)が設けられる。チャンバ10の送出口10aから送出された処理ガスは、最初に逆止弁52に到達する。
【0028】
逆止弁52は、処理ガスの流れを一方向に制御する弁である。逆止弁52は、チャンバ10の送出口10aから送出された処理ガスがタンク53へ流通することを許容しつつ、タンク53からチャンバ10への処理ガスの逆流を防止する。逆止弁52を通過した処理ガスは、タンク53へと送られる。
【0029】
タンク53は、逆止弁52の下流側に位置するように循環ライン51に設けられる。タンク53は、処理ガスを通過させる液体を貯留する容器である。タンク53には、一例として水が貯留される。貯留される液体は、処理ガスをバブリングさせるために用いられる。つまり、逆止弁52を通過した処理ガスは、タンク53に貯留された液体中を通過させられる。処理ガスに含まれる水蒸気、金属粉末、プラズマ処理における副生成物が液体にトラップされる。タンク53には、液体をタンク53から排出するドレインバルブ54(排出機構の一例)が設けられてもよい。ドレインバルブ54を介して排出された液体は回収され、液体に含まれる金属粉末又は副生成物が回収され、再利用される。タンク53を通過した処理ガスは、エアドライヤ55へと送られる。
【0030】
エアドライヤ55は、タンク53の下流側に位置するように循環ライン51に設けられる。エアドライヤ55は、処理ガスに含有される水を除去する。エアドライヤ55は、冷凍式、メンブレン式、吸着式の何れの方式であってもよい。エアドライヤ55を通過した処理ガスは、ポンプ56へと送られる。
【0031】
ポンプ56は、エアドライヤ55の下流側に位置するように循環ライン51に設けられる。ポンプ56は、処理ガスを圧送する機器である。ポンプ56は、一例としてドライ真空ポンプであり、より具体的な一例としてダイヤフラムポンプである。ポンプ56が動作することで、循環ライン51内に処理ガスが循環する。ポンプ56を通過した処理ガスは、調整弁57へと送られる。
【0032】
調整弁57は、ポンプ56の下流側にするように循環ライン51に設けられる。調整弁57は、チャンバ10へ戻される処理ガスの流量を調整する弁である。調整弁57は、一例としてニードル弁である。調整弁57の開閉量を調整することで、調整弁57の下流側における処理ガスの流量及び圧力が調整される。調整弁57を通過した処理ガスは、第1開閉弁58を通過して送入口10bからチャンバ10内部へと戻される。第1開閉弁58は一例としてボール弁である。このように、処理ガスに含まれる水がタンク53及びエアドライヤ55によって除去されるため、処理ガスに含まれる水素の純度を向上できる。
【0033】
循環ライン51には、調整弁57の下流側であって第1開閉弁58の上流側に分岐ライン51Aが接続されてもよい。分岐ライン51Aは、循環ライン51との接続箇所と装置外部とを接続する排気用の管路であり、第2開閉弁59(切替弁の一例)が設けられる。第2開閉弁59は、一例としてボール弁である。第2開閉弁59は、分岐ライン51Aを使用しない場合には閉とされる。つまり、循環ライン51に処理ガスを循環させている場合には、第1開閉弁58が開、第2開閉弁59が閉とされる。これに対して、チャンバ10内の水素純度の低下により、チャンバ10内の雰囲気を入れ替える場合、あるいは、金属粉末の投入取り出しをする前段階時には、第1開閉弁58が閉、第2開閉弁59が開とされる。これにより、チャンバ10内の処理ガスは分岐ライン51Aを経て装置外部へと排気される。
【0034】
なお、図中において示されるように、チャンバ内圧力をP、送出口10aからポンプ56までの流路の圧力をP、ポンプ56から調整弁57までの流路の圧力をP、調整弁57から送入口10bまでの流路の圧力をPとすると、P>P>P>Pの関係となる。
【0035】
[金属水素化物を製造する方法]
図3は、金属水素化物を製造する方法を示すフローチャートである。図3に示される方法M1は、作業者の開始操作に従って開始される。
【0036】
図3に示されるように、方法M1は、2つの工程を含む。最初に、チャンバ10内の雰囲気を形成する工程(ステップS10)が実行される。最初に、作業者又はロボットは、金属粉末Sをチャンバ10の試料ホルダ11に載置する。続いて、システム100は、真空ポンプ16を動作させてチャンバ10内部を所定の圧力に減圧する。そして、システム100は、水素ガスボンベ30から配管42を介してチャンバ10へ所定の流量の水素ガスを供給する。そして、チャンバ10内の圧力が所定圧力に維持されるよう排気速度を調整する。これにより、チャンバ10内に水素雰囲気が形成される。
【0037】
次に、水素ブラズマを生成し、金属粉末に作用させる工程(ステップS12)が実行される。システム100は、マイクロ波発振器20を動作させてチャンバ10内に所定パワー及び所定周波数のマイクロ波を入射する。その際、システム100は、マイクロ波反射電力が最小となるようにチューナー23にて調整する。これにより、チャンバ10内にマイクロ波で励起された水素プラズマが発生し、試料ホルダ11に載せられた金属粉末Sをプラズマ処理する。システム100は、プラズマ処理中に、振動発生器14により試料ホルダ11に振動を与え、金属粉末Sを流動させる。所定の処理時間経過後、システム100は、マイクロ波発振器20、振動発生器14、及び赤外線加熱装置12の電源を切り、水素ガスの供給を停止する。その後、作業者又はロボットは、チャンバ10内を大気解放し、プラズマ処理された試料を取り出す。以上で金属水素化物を製造する方法M1の一連の流れが終了する。
【0038】
[処理ガス調整方法]
図4は、実施形態に係る処理ガス調整方法を示すフローチャートである。図4に示される方法M2は、図3のステップS10又はステップS12の実行中又は中断時に実施される。
【0039】
図4に示されるように、最初に、チャンバ10から処理ガスを循環ライン51へ送出する工程(ステップS20)が実行される。ステップS20では、チャンバ10の送出口10aから処理ガスが循環ライン51へ排出される。
【0040】
続いて、処理ガスに逆止弁52を通過させる工程(ステップS22)が実行される。ステップS22では、処理ガスが逆止弁52を通過し、タンク53へと送られる。
【0041】
続いて、処理ガスに液体を通過させる工程(ステップS24)が実行される。ステップS24では、処理ガスがタンク53に貯留された液体を通過する。処理ガスは液体を通過する際に冷却され、処理ガス中の水蒸気が水に戻り、液体にトラップされる。さらに、処理ガスに含まれる金属粉末やプラズマ生成時の副生成物も液体にトラップされる。液体を通過した処理ガスは、エアドライヤ55へと送られる。
【0042】
続いて、処理ガスにエアドライヤ55を通過させる工程(ステップS26)が実行される。ステップS26では、エアドライヤ55は、通過する処理ガスに含まれる水蒸気を除去する。エアドライヤ55を通過した処理ガスは、ポンプ56へと送られる。
【0043】
続いて、処理ガスにポンプ56を通過させる工程(ステップS28)が実行される。ステップS28では、ポンプ56によって処理ガスが圧送される。ポンプ56を通過した処理ガスは、調整弁57へと送られる。
【0044】
続いて、処理ガスに調整弁57を通過させる工程(ステップS30)が実行される。ステップS30では、ポンプ56によって圧送された処理ガスの流量が調整される。流量が調整された処理ガスは、ステップS32においてチャンバ10へと戻される。
【0045】
以上で図4に示されるフローチャートが終了する。図4に示されるフローチャートを実行することにより、処理ガスに含まれる水蒸気などを除去することができるので、水素の純度が低下することを抑制できる。
【0046】
なお、ドレインバルブ54を開とし、液体に含まれる金属粉末などを回収する工程は、適宜のタイミングで実行すればよい。また、分岐ライン51Aを用いてチャンバ10内部の処理ガスを排気したい場合には、第1開閉弁58を閉とし、その後第2開閉弁59を開として排気すればよい。チャンバ10内部の処理ガスを排気した場合、図3に示される、チャンバ10内の雰囲気を形成する工程(ステップS10)が実行される。なお、排気する行程と、チャンバ10内の雰囲気を形成する工程(ステップS10)とは同時に実行されてもよい。
【0047】
[実施形態のまとめ]
本実施形態に係る処理ガス調整装置50によれば、チャンバ10内の処理ガスは、循環ライン51へ送出され、循環ライン51に設けられたエアドライヤ55によって水が除去され、再びチャンバ10へと戻される。よって、処理ガス調整装置50によれば、金属水素化物を製造する際にチャンバ10内の処理ガスの水素の純度が低下することを抑制できる。
【0048】
本実施形態に係る処理ガス調整装置50によれば、処理ガスがタンク53の液体を通過する際に冷却され、処理ガス中の水蒸気が水に戻り、液体にトラップされる。さらに、処理ガスに含まれる金属粉末やプラズマ生成時の副生成物などもまた液体にトラップされる。これにより、原料の金属粉末やプラズマ生成時の副生成物がポンプ56に到達することが抑制される。このため、ポンプ56の部品の摩耗や動作不良、さらには金属粉末の粉塵爆発が回避される。よって、処理ガス調整装置50によれば、金属水素化物を製造する際にチャンバ10内の処理ガスの水素の純度が低下することをさらに抑制できるとともに、ポンプ56の故障を回避しつつ、安全性を向上できる。
【0049】
本実施形態に係る処理ガス調整装置50はドレインバルブ54を含むため、液体にトラップした金属粉末やプラズマ生成時の副生成物を回収して再利用できる。
【0050】
本実施形態に係る処理ガス調整装置50は逆止弁52を含むため、タンク53内の液体がチャンバ10へ逆流することを防止できる。
【0051】
本実施形態に係る処理ガス調整装置50は調整弁57を含むため、チャンバ10へ送り込む処理ガス及びチャンバ10から引き込む処理ガスの流量を調整できる。
【0052】
本実施形態に係る処理ガス調整装置50は、分岐ライン51Aと第1開閉弁及び第2開閉弁を含むため、処理ガスの循環と処理ガスの外部への排出との何れか一方を選択できる。処理ガス調整装置50は、例えば処理ガスの水素の純度が設定値と大きくずれた場合、チャンバに新たな水素ガスを供給しつつ、チャンバ内の処理ガスを分岐ラインから排気することで、チャンバ内の処理ガスを入れ替えることができる。これにより、作業効率が向上できる。
【0053】
以上、種々の実施形態について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく種々の変形態様を構成可能である。例えば、第1開閉弁58及び第2開閉弁59は、一つの切替弁(三方弁)で構成されてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…チャンバ、16…真空ポンプ(排気装置の一例)、18…マイクロ波発生機構(プラズマ発生装置の一例)、30…水素ガスボンベ(ガス供給装置の一例)、42…配管(ガス供給装置の一例)、50…処理ガス調整装置、51…循環ライン、51A…分岐ライン、52…逆止弁、53…タンク、54…ドレインバルブ(排出機構の一例)、55…エアドライヤ、56…ポンプ、57…調整弁、58…第1開閉弁(切替弁の一例)、59…第2開閉弁(切替弁の一例)、100…システム、S…金属粉末。
図1
図2
図3
図4