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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20240820BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F02D29/02 Z
B60K11/04 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021023205
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125557
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2023-12-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年11月19日 製品販売による公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】小川 大策
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-093945(JP,A)
【文献】特開2019-172011(JP,A)
【文献】特開2010-241228(JP,A)
【文献】特開2007-131018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00-29/06
B60K 11/00-15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御システムであって、
前記車両の駆動輪を駆動するためのトルクを発生させる駆動力源と、
前記車両の操舵装置の操舵角関連値を検出する操舵角関連値センサと、
前記車両の車体前面に形成された開口の開閉度合を調整可能なグリルシャッターと、
前記操舵角関連値に基づき車両姿勢を制御すべく、前記駆動力源が発生するトルクの制御を行うように構成されたコントローラと、を有し、
前記コントローラは、前記操舵角関連値に基づき、前記操舵装置が切り込み操作されていると判定されたときに、前記車両に減速度を付加するように前記駆動力源が発生するトルクを低減させるトルク低減制御を行い、前記グリルシャッターの開度が大きいときには、前記開度が小さいときよりも、前記トルク低減制御におけるトルクの低減量を大きくするように構成されている、
ことを特徴とする車両の制御システム。
【請求項2】
前記グリルシャッターは、前記開口の開閉度合を全閉まで調整可能である、請求項1に記載の車両の制御システム。
【請求項3】
前記コントローラは、少なくとも前記操舵角関連値センサによって検出された操舵角に基づき、前記駆動力源が発生するトルクを制御するように構成されている、請求項1又は2に記載の車両の制御システム。
【請求項4】
前記駆動力源は、内燃エンジンを含み、前記コントローラは、前記内燃エンジンが発生するトルクの制御を行うように構成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵に応じて車両の姿勢を制御する車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドライバによるステアリングホイール(以下では単に「ステアリング」とも呼ぶ。)の操作に応じて車両に減速度や加速度を生じさせることにより、車両姿勢を制御して、ステアリング操作に対する車両挙動の応答性や安定感を向上させる技術が知られている。例えば、ステアリングホイールが切り込み操作されたときに、車両の駆動力を低下させて減速度を付加する制御が知られている。この制御により、ステアリングホイールの切り込み操作に合わせて前輪の荷重が増加し、前輪のコーナリングフォースが増大するので、カーブ進入初期における車両の回頭性が向上し、ステアリングの切り込み操作に対する応答性や操安性が向上する。
【0003】
また、燃費改善等を目的として、車両前面の開口の開閉度合を調整可能なグリルシャッターを用いることにより、エンジンルーム内に流入する外気の量を調節して、エンジンの冷却水や潤滑油の温度制御を行うことが知られている。ここで、上述した車両姿勢の制御中にグリルシャッターを開閉すると、車両の走行空気抵抗が変動するので、車両の減速度にばらつきが生じ、狙い通りの車両姿勢制御を実現できない可能性がある。そこで、走行空気抵抗の増加方向へグリルシャッターの状態が変化したとき(即ちグリルシャッターの開度が大きくなったとき)に、車両姿勢の制御による駆動力の低下度合いが小さくなるようにした車両の制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6481745号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、グリルシャッターの開度を変更し、エンジンルーム内に流入する外気の量が変動すると、走行空気抵抗の変動と共に、エンジンルーム内の圧力が変動し、車両の前部を上方へ付勢する揚力が変動する。その結果、前輪の荷重が変動し、コーナリングフォースが変動する。しかしながら、上記の特許文献1に記載されたような従来の技術では、グリルシャッターの開度の変動に伴う車両前部の揚力の変動を考慮していないので、ステアリングの切り込み操作に対する応答性を向上できなかったり、逆に応答性を過剰に高めてしまったりする可能性がある。
例えば、グリルシャッターの開度を大きくすると、エンジンルーム内の圧力が上昇するので、車両前部に作用する揚力が増大し、前輪の荷重が減少する。この場合、上記の特許文献1に記載の技術では、グリルシャッターの開度が大きくなったときには車両姿勢の制御による駆動力の低下度合いが小さくなるようにしているので、さらに前輪の荷重を減少させてしまう。その結果、前輪のコーナリングフォースが低下し、ステアリングの切り込み操作に対する応答性や操安性の向上が得られない可能性がある。
このように、従来の技術では、グリルシャッターの開度を変更することにより、ステアリングの切り込み操作に対する応答性や操安性が変化し、ドライバに違和感を与える可能性がある。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、操舵に応じて車両姿勢を制御する車両の制御システムにおいて、グリルシャッターの開度に影響されることなく、ステアリングホイールの操作に対して一貫した応答性や操安性が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、車両の制御システムであって、車両の駆動輪を駆動するためのトルクを発生させる駆動力源と、車両の操舵装置の操舵角関連値を検出する操舵角関連値センサと、車両の車体前面に形成された開口の開閉度合を調整可能なグリルシャッターと、操舵角関連値に基づき車両姿勢を制御すべく、駆動力源が発生するトルクの制御を行うように構成されたコントローラと、を有し、コントローラは、操舵角関連値に基づき、操舵装置が切り込み操作されていると判定されたときに、車両に減速度を付加するように駆動力源が発生するトルクを低減させるトルク低減制御を行い、グリルシャッターの開度が大きいときには、開度が小さいときよりも、トルク低減制御におけるトルクの低減量を大きくするように構成されている、ことを特徴とする。
【0008】
このように構成された本発明によれば、トルク低減制御の実行中にグリルシャッターの開度が大きくなると車両の前部に作用する揚力が増大するが、トルク低減制御におけるトルクの低減量を大きくすることにより前輪に付加される荷重も大きくなるので、グリルシャッターの開度の変化に起因する前輪のコーナリングパワーの変化を抑えることができる。これにより、グリルシャッターの開度に影響されることなく、ステアリングホイールの操作に対して一貫した応答性や操安性を得ることができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、グリルシャッターは、開口の開閉度合を全閉まで調整可能である。
このように構成された本発明によれば、ドライバに与える違和感の発生を抑制しつつ、切り戻し操作されたステアリングホイールが中立位置を跨いだ後の切り込み操作中には前方向減速度を車両に速やかに付加することができる。これにより、中立位置を跨いだ後のステアリングホイールの切り込み操作時の操縦性や安定性を向上させ、車両の挙動をスムーズにすることができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、コントローラは、少なくとも操舵角センサによって検出された操舵角に基づき、駆動力源が発生するトルクを設定するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、ドライバのステアリング操作に対する車両挙動の応答性や安定感を向上させるように、車両姿勢を速やかに制御することができる。
【0011】
本発明において好適な例では、駆動力源は、内燃エンジンを含み、コントローラは、内燃エンジンが発生するトルクの制御を行うように構成されている。
このように構成された本発明によれば、エンジンの燃費改善等を図るためにグリルシャッターの開度を調整する必要性が高い車両において、グリルシャッターの開度に影響されることなく、ステアリングホイールの操作に対して一貫した応答性や操安性を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、操舵に応じて車両姿勢を制御する車両の制御システムにおいて、グリルシャッターの開度に影響されることなく、ステアリングホイールの操作に対して一貫した応答性や操安性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態による車両の全体構成を概略的に示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両の前部を左側方から見た断面図である。
図3】グリルシャッターの開度と前輪のコーナリングパワーとの関係を示した線図である。
図4】本発明の実施形態による車両の電気的構成を示すブロック図である。
図5】本発明の実施形態によるトルク低減制御処理のフローチャートである。
図6】本発明の実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。
図7】本発明の実施形態による操舵速度と付加減速度との関係を示したマップである。
図8】本発明の実施形態によるグリルシャッターの開度の開度と低減トルクに対する補正ゲインとの関係を示したマップである。
図9】本発明の実施形態によるトルク低減制御を実行した場合のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御システムについて説明する。
【0015】
<車両の構成>
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態による車両の制御システムが適用された車両について説明する。図1は、本発明の実施形態による車両の全体構成を概略的に示すブロック図であり、図2は、本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両の前部を左側方から見た断面図である。
【0016】
図1に示すように、車両1の車体前部には、駆動輪である左右の前輪2を駆動する原動機(駆動力源)として、エンジン4が搭載されている。エンジン4は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃エンジンであり、本実施形態では、スロットル弁26、点火プラグ28、可変動弁機構30、燃料噴射装置32を有するガソリンエンジンである。この車両1は、所謂FF車として構成されている。
【0017】
また、車両1は、当該車両1を操舵するための操舵装置(ステアリングホイール6など)と、この操舵装置においてステアリングホイール6に連結されたステアリングコラム(図示せず)の回転角度を検出する操舵角センサ8と、アクセルペダルの踏込量に相当するアクセル開度を検出するアクセル開度センサ10と、車速を検出する車速センサ12とを有する。なお、操舵角センサ8は、ステアリングホイール6の回転角度の代わりに、操舵系における各種状態量(アシストトルクを付加するモータの回転角や、ラックアンドピニオンにおけるラックの変位等)や、前輪2の転舵角(タイヤ角)を、操舵角として検出してもよい。これらの各センサは、それぞれの検出値をコントローラ14に出力する。このコントローラ14は、例えばPCM(Power-train Control Module)などを含んで構成される。
【0018】
また、車両1は、車体の前面に形成された開口を開閉するグリルシャッター16(空気流入量調整機構、開閉装置)を備えている。図2に示すように、グリルシャッター16は、車両1の前面においてエンジン4の前方に形成された開口部に設けられている。グリルシャッター16は、車幅方向に沿って延びる細長い板状のフィン18を複数枚備えている。各フィン18は、その板面が車両1の前後方向に平行な向きと、車両1の前後方向に垂直な向きとの間で回動可能となっている。具体的には、フィン18の向きが車両1の前後方向に平行なとき(図2において実線により示す)に、グリルシャッター16の開度は最大となり、車両1の前方からグリルシャッター16を通過してエンジンルーム20内に流入する空気(図2において実線の矢印により示す)の流量が最大となる。この場合、エンジンルーム20内の圧力が上昇し、車両1の前部を上方へ付勢する揚力が増大する。
【0019】
一方、フィン18の向きが車両1の前後方向に垂直なとき(図2において破線により示す)に、グリルシャッター16の開度は最小となり、車両1の前方からグリルシャッター16を通過してエンジンルーム20内に入る空気の流れは遮断される。これにより、エンジンルーム20内の圧力上昇に伴う揚力が抑制される。さらに、グリルシャッター20の開度を小さくすることにより、車両1の車体下方へ流入する空気(図2において破線の矢印により示す)の流量が増加し、フロア22の下方を流れる空気の流速が上昇する。この場合、フロア22の下方の圧力が低下し、車両1の前部を下方へ付勢するダウンフォースFが増大する。
【0020】
上述のように、グリルシャッター16の開度を変化させることにより、車両1の前部に作用する揚力あるいはダウンフォースFが変化する。その結果、前輪2の接地荷重が変化するので、コーナリングパワーが変化することになる。このグリルシャッター16の開度と前輪2のコーナリングパワーとの関係を、図3を参照して説明する。図3は、車速一定の条件の下でグリルシャッター16の開度を全閉から全開まで変化させたときの、グリルシャッター16の開度と前輪2のコーナリングパワーとの関係を示した線図である。
【0021】
図3において、横軸はグリルシャッター16の開度(deg)を示している。ここでは、グリルシャッター16のフィン18が車両1の前後方向に垂直な向きであるとき(即ち全閉のとき)の開度を0度とし、フィン18が車両1の前後方向に水平な向きであるとき(即ち全開のとき)の開度を90度とする。また、図3において、縦軸は前輪2のコーナリングパワー(CP)(N/deg)を表している。
【0022】
図3に示すように、グリルシャッター16の開度が0度(すなわち全閉)のとき、車両1の前部を下方へ付勢するダウンフォースFが最大となるので、前輪2のコーナリングパワーが最大となる。そして、グリルシャッター16の開度が大きくなるにつれて、車両1の前部に作用するダウンフォースFが減少すると共に、エンジンルーム20内の圧力上昇に伴う揚力が増大するので、前輪2のコーナリングパワーは減少し、グリルシャッター16の開度が90度(すなわち全閉)のとき、コーナリングパワーは最小となる。つまり、グリルシャッター16の開度が大きくなるほど、ステアリングホイール6の操作に対する車両1の挙動の応答性が低下する傾向にあると言える。
【0023】
次に、図4により、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を説明する。図4は、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0024】
図4に示すように、本実施形態によるコントローラ14は、上述したセンサ8、10、12の検出信号の他、車両1の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、エンジン4の各部(例えば、スロットル弁26、点火プラグ28、可変動弁機構30、燃料噴射弁32等)やグリルシャッター16に対する制御を行うべく、制御信号を出力する。
【0025】
コントローラ14は、回路を含んで構成されており、周知のマイクロコンピュータをベースとする制御器である。コントローラ14は、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)としての1以上のマイクロプロセッサと、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力を行う入出力バス等を備えている。なお、ステアリングホイール6、操舵角センサ8、及びコントローラ14を含むシステムは、本発明における車両の制御システムに相当する。
【0026】
<車両姿勢制御>
以下では、本発明の実施形態による車両姿勢制御について説明する。本実施形態においては、基本的には、コントローラ14は、操舵角センサ8によって検出された操舵角に基づき車両姿勢(車両挙動)を制御する。具体的には、コントローラ14は、ステアリングホイール6が中立位置から離れるように切り込み操作されているとき(即ち操舵角が増大しているとき)、車両1に減速度(即ち前進している車両1を減速させる減速度)を付加するように、エンジン4が発生するトルクを低減させるトルク低減制御を行う。このようなトルク低減制御を行うことで、コーナー進入時の車両1の旋回性能や操安性などを向上させることができる。
【0027】
なお、以下では、トルク低減制御において適用するトルク、つまり車両1に減速度を付加するためにエンジン4が発生するトルクに付加する負のトルクを「低減トルク」と呼ぶ。トルク低減制御では、車両1の運転状態(アクセル開度など)に応じた加速度を実現するためにエンジン4が発生すべきトルク(以下では「基本トルク」と呼ぶ。)に対して、低減トルクが減算される。以下では、こうして、基本トルクに対して、低減トルクを減算した後のトルク、つまり最終的にエンジン4が発生すべきトルクを、「最終目標トルク」と呼ぶ。
【0028】
次に、図5を参照して、本発明の実施形態によるトルク低減制御の全体的な流れを説明する。図5は、本発明の実施形態によるトルク低減制御処理のフローチャートである。
【0029】
図5のトルク低減制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、コントローラ14に電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。トルク低減制御処理が開始されると、ステップS1において、コントローラ14は、車両1の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、コントローラ14は、操舵角センサ8が検出した操舵角、アクセル開度センサ10が検出したアクセル開度、車速センサ12が検出した車速、現在のグリルシャッター16の開度等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0030】
次いで、ステップS2において、コントローラ14は、ステップS1において取得された車両1の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、例えば、コントローラ14は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を設定する。
【0031】
次いで、ステップS3において、コントローラ14は、ステップS2において設定した目標加速度を実現するためのエンジン4の基本トルクを設定する。この場合、コントローラ14は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4が出力可能なトルクの範囲内で、基本トルクを設定する。
【0032】
また、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、コントローラ14は、後述する低減トルク設定処理を実行し(図6参照)、ステアリングホイール6の操舵速度などに基づき、車両姿勢を制御するためにエンジン4が発生するトルクに適用すべき低減トルクを設定する。
【0033】
次いで、ステップS2~S4を実行した後、ステップS5において、コントローラ14は、ステップS3において設定した基本トルク及びステップS4において設定した低減トルクに基づき、最終目標トルクを設定する。基本的には、コントローラ14は、基本トルクから低減トルクを減算することにより、最終目標トルクを算出する。
【0034】
次いで、ステップS6において、コントローラ14は、ステップS5において設定した最終目標トルクを出力させるようにエンジン4を制御する。具体的には、コントローラ14は、ステップS5において設定した最終目標トルクと、エンジン回転数とに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量(例えば、空気充填量、燃料噴射量、吸気温度、酸素濃度等)を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4の各構成要素のそれぞれを駆動する各アクチュエータを制御する。この場合、コントローラ14は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定して制御を実行する。
【0035】
より詳細には、コントローラ14は、点火プラグ28の点火時期を、ステップS5において基本トルクをそのまま最終目標トルクとしたときの点火時期よりも遅角させる(リタードする)ことにより、エンジン4が発生するトルクを低減させる。なお、エンジン4がディーゼルエンジンである場合、コントローラ14は、燃料噴射量を、ステップS5において基本トルクをそのまま最終目標トルクとしたときの燃料噴射量よりも減少させることにより、エンジン4が発生するトルクを低減させることができる。ステップS6の後、コントローラ14は、トルク低減制御処理を終了する。
【0036】
次に、図6を参照して、本発明の実施形態による低減トルク設定処理について説明する。図6は、本発明の実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。この低減トルク設定処理は、図5に示したトルク低減制御処理のステップS4において実行される。
【0037】
低減トルク設定処理が開始されると、ステップS11において、コントローラ14は、図5に示したトルク低減制御処理のステップS1において操舵角センサ8から取得した操舵角に基づき操舵速度を取得する。次いで、ステップS12において、コントローラ14は、ステップS11において取得した操舵速度が所定値以上であるか否かを判定する。その結果、コントローラ14は、操舵速度が所定値以上であると判定された場合(ステップS12:Yes)、ステップS13に進む。
【0038】
一方、操舵速度が所定値以上であると判定されなかった場合(ステップS12:No)、コントローラ14は付加トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。この場合、低減トルクは0となり、図5に示したトルク低減制御処理のステップS3で設定された基本トルクが最終目標トルクとなる。
【0039】
次いで、ステップS13において、コントローラ14は、ステアリングホイール6の切り込み操作中か否かを判定する。具体的には、コントローラ14は、例えば操舵角センサ8から取得した操舵角の絶対値が増加している場合(即ちステアリングホイール6の操舵角が中立位置から遠ざかっている場合)に、ステアリングホイール6の切り込み操作中であると判定する。一方、コントローラ14は、例えば操舵角センサ8から取得した操舵角の絶対値が減少している場合(即ちステアリングホイール6の操舵角が中立位置に近づいている場合)に、ステアリングホイール6の切り戻し操作中である(つまり切り込み操作中ではない)と判定する。その結果、コントローラ14は、ステアリングホイール6の切り込み操作中であると判定した場合(ステップS13:Yes)、ステップS14に進む。
【0040】
次いで、ステップS14において、コントローラ14は、操舵速度に基づき低減トルクを取得する。具体的には、コントローラ14は、低減トルクを取得する前に、まず、図7のマップに示すような操舵速度と付加減速度との関係に基づき、現在の操舵速度に対応する付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバによるステアリングホイール6の切り込み操作の意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき前方減速度である。
図7において、横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。図7に示すように、操舵速度が閾値S1以下の場合、付加減速度は0である。操舵速度が閾値S1を超えると、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値ADmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値ADmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が所定値以上になると、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
そして、コントローラ14は、このように設定した付加減速度に基づき、低減トルクを取得する。具体的には、コントローラ14は、基本トルクの低減により付加減速度を実現するために必要となる低減トルクを、現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。
【0041】
次いで、ステップS15おいて、コントローラ14は、グリルシャッター16の開度を取得する。グリルシャッター16の開度は、例えばフィン18を動作させるアクチュエータに対してコントローラ14から出力された指示値や、当該アクチュエータの回転位置等から取得することができる。
【0042】
次いで、ステップS16おいて、コントローラ14は、グリルシャッター16の開度に応じて低減トルクを補正するための補正ゲインを取得する。具体的には、コントローラ14は、図8のマップに示すグリルシャッター16の開度と補正ゲインとの関係に基づき、現在のグリルシャッター16の開度に対応する補正ゲインを取得する。
【0043】
図8において、横軸はグリルシャッター16の開度を示し、縦軸は補正ゲインを示す。図8に示すように、グリルシャッター16の開度が0度(即ち全閉)の場合、補正ゲインは最小値(図8の例では0.92程度)である。グリルシャッター16の開度が90度に近づくに従って、つまりグリルシャッター16の開度が大きい程、このグリルシャッター16の開度に対応する補正ゲインは大きくなる。そして、グリルシャッター16の開度が90度の場合、つまりグリルシャッター16の開度が全開の場合、補正ゲインは1となる。また、グリルシャッター16の開度が0度に近づくほど、グリルシャッター16の開度の変化に応じた補正ゲインの変化率(図8に示すグラフの傾き)は小さくなるように設定されている。
【0044】
図3を参照して説明したように、グリルシャッター16の開度が大きいほど、車両1の前部に作用するダウンフォースFが減少すると共に、エンジンルーム20内の圧力上昇に伴う揚力が増大するので、前輪2のコーナリングパワーは減少し、ステアリングホイール6の操作に対する車両1の挙動の応答性が低下する傾向にある。そこで、図8に示したように、グリルシャッター16の開度が大きいほど低減トルクを大きくして、トルク低減制御により車両1に付加される減速度が大きくなるように(つまり前輪2に付加される荷重が大きくなりコーナリングパワーが増大するように)、補正ゲインが設定されている。
【0045】
次いで、ステップS17において、コントローラ14は、ステップS16で取得した補正ゲインにより、ステップS14で取得した低減トルクを補正する。具体的には、コントローラ14は、ステップS16で取得した補正ゲインを、ステップS14で取得した低減トルクに乗算する。このように補正することにより、グリルシャッター16の開度が大きいほど低減トルクは大きくなる。
【0046】
次いで、ステップS18において、コントローラ14は、ステップS17において補正した低減トルクと、低減トルクの変化率の上限を定める閾値(予め定められてメモリ等に記憶されている)とに基づき、低減トルクの変化率が閾値以下となるように今回の処理サイクルにおける低減トルクを設定する。ステップS18の後、コントローラ14は、低減トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。この場合、図3のトルク低減制御処理のステップS5において、コントローラ14は、ステップS3において設定した基本トルク及びステップS18で設定された低減トルクに基づき、最終目標トルクを設定する。
【0047】
また、ステップS13において、コントローラ14がステアリングホイール6の切り込み操作中ではないと判定した場合(ステップS13:No)、具体的には例えば操舵角センサ8から取得した操舵角の絶対値が減少している場合(即ちステアリングホイール6の操舵角が中立位置に近づいている場合)、コントローラ14は、低減トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。この場合、低減トルクは0となり、図5に示したトルク低減制御処理のステップS3で設定された基本トルクが最終目標トルクとなる。
【0048】
<作用及び効果>
次に、図9のタイムチャートを参照して、本発明の実施形態による車両の制御システムの作用及び効果について説明する。図9は、上述した本実施形態によるトルク低減制御を実行した場合のタイムチャートである。図9において、横軸は時間を示す。また、縦軸は、上から順に、(a)操舵角、(b)操舵速度、(c)低減トルク及び(d)最終目標トルクを示している。また、図9(c)及び(d)において、実線はグリルシャッター16の開度が90度(全開)の場合(つまり補正ゲインが1の場合)の低減トルク及び最終目標トルクの変化を示し、一点鎖線はグリルシャッター16の開度が0度(全閉)の場合の補正ゲインを低減トルクに適用した場合の低減トルク及び最終目標トルクの変化を示している。
【0049】
図7の例は、図7(a)に示すように、まず、中立位置から時計回り(CW)にステアリングホイール6の切り込み操作が行われ、その後ステアリングホイール6の回転位置がある操舵角で保持される場合を示している。
【0050】
中立位置から時計回り(CW)にステアリングホイール6の切り込み操作が開始されることに伴い、時計回り(CW)の操舵速度(絶対値)が増加する。時刻t1において操舵速度が閾値S1以上になると、コントローラ14は、車両1に減速度を付加するように、操舵速度に基づき低減トルクを設定して、エンジン4が発生するトルクを低減させるトルク低減制御を行う。そして、コントローラ14は、操舵速度が増加している間、操舵速度に応じて低減トルク(絶対値)を増加させ、そして、操舵速度が一定になると、低減トルクを一定に維持する。さらに、操舵速度が減少すると、それに応じて低減トルク(絶対値)を減少させる。
【0051】
その後、ステアリングホイール6が切り込まれた状態で保持されることにより、時刻t2において操舵速度が閾値S1未満になると、コントローラ14は、トルク低減制御を終了し、低減トルクが0となる。すなわち、車両1に付加される減速度は0になる。
【0052】
コントローラ14は、グリルシャッター16の開度に応じた補正ゲインを低減トルクに適用し、補正後の低減トルクによりトルク低減制御を行う。上述したように、グリルシャッター16の開度が大きくなるほど、グリルシャッター16の開度に対応する補正ゲインは大きくなるように設定されている。したがって、コントローラ14は、グリルシャッター16の開度が大きいとき(例えばグリルシャッター16の開度が90度(全開)の場合。図9(c)に実線で示す)には、グリルシャッター16の開度が小さいとき(例えばグリルシャッター16の開度が0度(全閉)の場合。図9(c)に一点鎖線で示す)よりも低減トルク(絶対値)を増大させる。これにより、グリルシャッター16の開度が大きいときには、開度が小さいときよりも、トルク低減制御により車両1に付加される減速度が大きくなる。つまり、トルク低減制御により前輪2に付加される荷重が大きくなる。
【0053】
このように、本実施形態では、コントローラ14は、操舵角に基づき、ステアリングホイール6が切り込み操作されていると判定されたときに、車両1に減速度を付加するようにトルク低減制御を行い、グリルシャッター16の開度が大きいときには、開度が小さいときよりも、トルク低減制御におけるトルクの低減量を大きくする。したがって、トルク低減制御の実行中にグリルシャッター16の開度が大きくなると車両1の前部に作用する揚力が増大するが、トルク低減制御におけるトルクの低減量を大きくすることにより前輪2に付加される荷重も大きくなるので、グリルシャッター16の開度の変化に起因する前輪2のコーナリングパワーの変化を抑えることができる。これにより、グリルシャッター16の開度に影響されることなく、ステアリングホイール6の操作に対して一貫した応答性や操安性を得ることができる。
【0054】
また、本実施形態では、グリルシャッター16は、開口の開閉度合を全閉まで調整可能である。グリルシャッター16の開度を全閉とすると、エンジンルーム20内の圧力上昇に伴う揚力が抑制されると共に、車両1の前部を下方へ付勢するダウンフォースFが増大するが、それに応じてトルク低減制御におけるトルクの低減量を小さくすることにより前輪2に付加される荷重も小さくなるので、グリルシャッター16の開度の変化に起因する前輪2のコーナリングパワーの変化を抑えることができる。
【0055】
また、本実施形態では、コントローラ14は、少なくとも操舵角センサ8によって検出された操舵角に基づき、低減トルクを設定するので、ドライバのステアリング操作に対する車両挙動の応答性や安定感を向上させるように、車両姿勢を速やかに制御することができる。
【0056】
また、本実施形態では、車両1の駆動力源はエンジン4であり、コントローラ14は、エンジン4が発生するトルクを制御するので、エンジン4の燃費改善等を図るためにグリルシャッター16の開度を調整する必要性が高い車両において、グリルシャッター16の開度に影響されることなく、ステアリングホイール6の操作に対して一貫した応答性や操安性を得ることができる。
【0057】
<変形例>
上記では、本発明を、内燃エンジンを駆動力源として有する車両1に適用する実施形態を示したが、本発明は、電気モータを駆動力源として有する車両にも適用することができる。この場合、トルク低減制御において低減トルクを実現するために、例えばインバータから電気モータに供給される電流を制御すればよい。
【0058】
また、上記した実施形態では、コントローラ14は、少なくとも操舵角センサ8によって検出された操舵角に基づき、トルク低減制御を実行するが、操舵角に代えて、あるいは操舵角と共に、アクセルペダルの操作以外の車両1の運転状態(横加速度、ヨーレート、スリップ率等)に基づきトルク低減制御を実行するようにしてもよい。例えば、車両1が、車両1のヨーレートを検出するヨーレートセンサや、車両1の加速度を検出する加速度センサを備え、コントローラ14は、操舵角に代えて、ヨーレートセンサにより検出したヨーレートや加速度センサにより検出した横加速度等の操舵角関連値に基づきトルク低減制御を実行するようにしてもよい。これらの操舵角、ヨーレート、横加速度は、本発明における「操舵角関連値」の一例に相当する。
【符号の説明】
【0059】
1 車両
2 車輪
4 エンジン
6 ステアリングホイール
8 操舵角センサ
10 アクセル開度センサ
12 車速センサ
14 コントローラ
16 グリルシャッター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9