(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】インホイールモータ
(51)【国際特許分類】
B60K 7/00 20060101AFI20240820BHJP
F16D 7/02 20060101ALI20240820BHJP
F16D 9/00 20060101ALI20240820BHJP
F16D 9/06 20060101ALI20240820BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20240820BHJP
H02K 7/12 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B60K7/00
F16D7/02 A
F16D9/00 200
F16D9/06
H02K7/14 C
H02K7/12 A
(21)【出願番号】P 2021043166
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 晋
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-014303(JP,A)
【文献】特開平11-118003(JP,A)
【文献】特開2016-130572(JP,A)
【文献】特開2012-192766(JP,A)
【文献】特開2012-225488(JP,A)
【文献】特開2001-106025(JP,A)
【文献】特開2002-068070(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110858744(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 7/00
F16D 7/02
F16D 9/00
F16D 9/06
H02K 7/14
H02K 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成されたステータと、前記ステータの外周側に所定の間隔を空けて設けられた円筒状のロータとにより構成されたアウターロータ型のモータが、ホイールの内部に設けられたインホイールモー
タであって、
前記モータの外周側を覆うロータカバーと、前記ロータカバーを前記ホイールに連結している連結部材と、前記ロータカバーと前記連結部材との間で伝達されるトルクを制限するトルクリミッタとを有し、
前記ロータカバーは、前記ロータが内周面に取り付けられた円筒部と、前記円筒部の車幅方向での車両外側の端部から半径方向で内周側に延びるとともに前記ステータの内周側で前記車幅方向での車両内側に屈曲し、さらにその屈曲した部分から半径方向で内周側に延びている側面部とを備え、
前記連結部材は、環状かつ板状をなすとともに、前記ホイールに一体化される内周部と、前記側面部の最も内周側の内周端部の内周側に嵌合する外周部とを有し、
前記トルクリミッタは、前記外周部に半径方向で外側に突出した状態に一体に形成したキーと、前記キーに対応させて前記内周端部に形成されたキー溝とを有し、前記キーが破断することによりトルクを制限するように構成されている
ことを特徴とするインホイールモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のインホイールモー
タであって、
前記キーの前記連結部材の回転方向での幅は、前記キー溝の連結部材の回転方向での幅より小さい
ことを特徴とするインホイールモータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインホイールモー
タであって、
前記側面部のうち前記円筒部の車幅方向での車両外側の端部から半径方向で内周側に延びるとともに前記ステータの内周側で前記車幅方向での車両内側に屈曲している部分の外周側に、前記ステータとの間をシールするシール部材が嵌合している
ことを特徴とするインホイールモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪に内蔵されるインホイールモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2には、車体に保持されたハウジングに環状のステータが連結され、そのステータの内側に所定の間隔を空けてロータが配置されたいわゆるインナーロータ型のモータを備えたインホイールモータが記載されている。これらのインホイールモータは、その出力軸に減速機などの伝達部材を介してホイールが連結されている。そして、車輪から想定外の大きな荷重が入力された場合に、モータや減速機が破損することを抑制するためのトルクリミッタを設けている。
【0003】
具体的には、特許文献1に記載されたインホイールモータは、モータの出力軸に減速ギヤ対が取り付けられていて、その減速ギヤ対のうちの出力側のギヤには、軸線方向に突出した円筒軸が形成されている。その円筒軸の端部には、円周方向に所定の間隔を空けて切り欠きが形成されている。また、ホイールを取り付ける車輪ハブが、円筒軸と同一軸線上に配置され、車輪ハブのうち円筒軸に対向する部分に、切り欠きに係合する突起部が形成されている。そして、この突起部がトルクリミッタとして機能するように、想定外の荷重が車輪から入力された場合に、突起部が破断する強度に形成されている。
【0004】
特許文献2に記載されたインホイールモータは、モータから減速ギヤ対を介してトルクが伝達される中空の伝達軸を備え、その伝達軸に減速機として機能するプラネタリギヤを介してホイールが連結されている。この伝達軸は、板厚(肉厚)が他の部分よりも薄く形成され、あるいは他の部分よりも耐久性が弱い材質で形成された最弱部位を備えている。そして、その最弱部位がトルクリミッタとして機能するように構成されている。すなわち、車輪から想定外の荷重が入力された場合に最弱部位が破断するように、最弱部位の板厚や材質が定められている。
【0005】
特許文献3には、車体に保持されたハウジングに環状のステータが連結され、そのステータの外側に所定の間隔を空けてロータが配置されたいわゆるアウターロータ型のモータを備えたインホイールモータが記載されている。このロータと、回転中心軸上に設けられたシャフトとがハブによって連結され、そのシャフトにホイールが取り付けられるように構成されている。なお、ステータに巻き付けられたコイルに通電する交流電流の周波数や電流値を制御するためのインバータが、ステータの内周側の空間に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-130572号公報
【文献】特開2010-47121号公報
【文献】特開2020-14303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたインホイールモータは、モータ側の回転部材とホイール側の回転部材とを連結し、その連結部がトルクリミッタとして機能するように構成されている。また、特許文献2に記載されたインホイールモータは、モータからホイールにトルクを伝達する伝達軸に、トルクリミッタとして機能する最弱部位を形成している。すなわち、特許文献1や特許文献2に記載されたインホイールモータは、モータと、モータのトルクを伝達する入力側伝達部材(または、入力側伝達部)と、トルクリミッタ(または最弱部位)と、出力側伝達部材(または出力側伝達部)とが軸線方向に並んで配置されている。そのため、トルクリミッタを配置する部分を軸線方向に確保する必要があり、その分、インホイールモータの軸長が長くなる可能性がある。すなわち、インホイールモータの搭載性が低下する可能性がある。
【0008】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、ロータやホイールに過大なトルクが伝達されることを抑制することができるとともに、軸長を短縮することができるインホイールモータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明は、円筒状に形成されたステータと、前記ステータの外周側に所定の間隔を空けて設けられた円筒状のロータとにより構成されたアウターロータ型のモータが、ホイールの内部に設けられたインホイールモータであって、前記モータの外周側を覆うロータカバーと、前記ロータカバーを前記ホイールに連結している連結部材と、前記ロータカバーと前記連結部材との間で伝達されるトルクを制限するトルクリミッタとを有し、前記ロータカバーは、前記ロータが内周面に取り付けられた円筒部と、前記円筒部の車幅方向での車両外側の端部から半径方向で内周側に延びるとともに前記ステータの内周側で前記車幅方向での車両内側に屈曲し、さらにその屈曲した部分から半径方向で内周側に延びている側面部とを備え、前記連結部材は、環状かつ板状をなすとともに、前記ホイールに一体化される内周部と、前記側面部の最も内周側の内周端部の内周側に嵌合する外周部とを有し、前記トルクリミッタは、前記外周部に半径方向で外側に突出した状態に一体に形成したキーと、前記キーに対応させて前記内周端部に形成されたキー溝とを有し、前記キーが破断することによりトルクを制限するように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、この発明では、前記キーの前記連結部材の回転方向での幅は、前記キー溝の連結部材の回転方向での幅より小さくてよい。
【0011】
また、この発明では、前記側面部のうち前記円筒部の車幅方向での車両外側の端部から半径方向で内周側に延びるとともに前記ステータの内周側で前記車幅方向での車両内側に屈曲している部分の外周側に、前記ステータとの間をシールするシール部材が嵌合していてよい。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、ステータの外周側にロータが設けられたアウターロータ型のモータによってインホイールモータが構成されている。そのロータと一体に回転するロータカバーと、ホイールと一体に回転する連結部材とのいずれか一方に作用するトルクが所定トルク以上の場合に、ロータカバーと連結部材とを相対回転させて、伝達するトルクを所定トルクに制限するように構成されている。つまり、アウターロータ型のモータにおけるロータの出力側にトルクリミッタを備えている。そのように構成することにより、トルクを発生させるモータ部と、そのトルクをホイールに伝達するトルク伝達部とを半径方向に並べて配置することができ、インホイールモータの軸長を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
ロータカバーと連結部材とを備えるインホイールモー
タを説明するための断面図である。
【
図4】
この発明のロータカバーと連結部材とを連結す
る実施例の構成を説明するための斜視図である。
【
図5】
実施例における連結部の構成を説明するための断面図である。
【
図6】ロータカバーと連結部材とを連結す
る参考例の構成を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
インホイールモータにおけるロータカバーと連結部材との構成の一例を説明するための断面図を
図1に示してある。
図1に示すインホイールモータ1は、貫通孔2が形成された保持部3を備え、その貫通孔2には、サスペンションやショックアプソーバーなどのダンパー機構4が挿入されている。すなわち、インホイールモータ1は、ダンパー機構4を介して図示しない車体に保持されている。
【0026】
車幅方向における保持部3の外側(以下、アウトボード側と記す)に、断面形状が矩形状に形成されたナックル5が連結されている。したがって、保持部3とナックル5とが一体となって、ダンパー機構4を中心として回動できるように構成されている。
【0027】
そのナックル5の外周を囲うように円筒状のステータ6が連結されている。
図1に示すステータ6は、ホイールの中心軸線Jを中心とした円筒状のベース部6aと、ベース部6aの外周に嵌合した円筒状のステータヨーク6bと、ベース部6aの内周側に形成された環状の取り付け部6cとを備えている。なお、
図1に示すベース部6aには、中空部が形成されていて、その中空部に冷媒を流動させることにより、ステータ6を冷却するように構成されている。
【0028】
ベース部6aの外周面には、焼き嵌めやスプライン係合などによってステータヨーク6bが取り付けられている。このステータヨーク6bは、環状に形成された鋼板を積層して構成されていて、ベース部6aにステータヨーク6bを嵌合させて組み付けられている。具体的には、ベース部6aの軸線方向における一方側(
図1に示す左側)からステータヨーク6bを嵌合させることにより、ベース部6aにステータヨーク6bが組み付けられる。そのため、
図1に示す例では、ステータヨーク6bのアウトボード側の位置決めをするために、ベース部6aのアウトボード側にフランジ部6dが形成されている。なお、ベース部6aとステータヨーク6bとをスプライン係合させる場合には、ステータヨーク6bが、車幅方向の内側(以下、インボード側と記す)に移動することを規制するためのスナップリングなどの規制部材を、ステータヨーク6bのインボード側に設けていてもよい。
【0029】
ステータヨーク6bの外周面には、図示しない複数のステータティースが円周方向に所定の間隔を空けて形成され、それぞれのステータティースにコイル6eが巻き付けられている。また、取り付け部6cにおけるインボード側を向いた側面がナックル5の開口端に当接し、取り付け部6cを挟み付けるようにボルト7によって固定されている。
図1に示す例では、ナックル5と一体に形成された円筒軸8が、ステータヨーク6bのインボード側の端部に接触している。なお、コイル6eは、ロータ9が回転することによってロータカバー10内で生じる空気流などによって空冷される。
【0030】
上記のステータ6の外周面との間に所定の間隔を空けて、円筒状のロータ9が配置されている。すなわち、
図1に示すインホイールモータ1は、ステータ6の外周側にロータ9が設けられたアウターロータ型のモータである。このロータ9は、ステータヨーク6bと同様に環状に形成された複数の鋼板を積層して形成されていて、その内周側に永久磁石9aが円周方向に所定の間隔を空けて組み付けられている。
【0031】
このロータ9は、図示しないホイールの内部に設けられたロータカバー10に、焼き嵌めやスプライン係合などによって取り付けられている。すなわち、ロータ9とロータカバー10とが一体に回転するようにロータ9とロータカバー10とが連結されている。具体的には、
図1に示すロータカバー10は、ロータ9が内面に連結された円筒部10aと、その円筒部10aのうちのアウトボード側の端部に連なった環状の側面部10bとによって構成されていて、その円筒部10aの内面にロータ9が一体に回転するように連結されている。
【0032】
図1に示す円筒部10aは、ロータ9を組み付ける位置までの内径が、ロータカバー10b側の内径よりも大きく形成されている。すなわち、円筒部10aの内面に段差が形成されている。そのため、その段差によって、円筒部10aを組み付ける際の位置決めを行っている。なお、ロータ9とロータカバー10とをスプライン係合させる場合には、ロータ9がインボード側に移動することを規制するためのスナップリングなどの規制部材を、ロータ9のインボード側に設けていてもよい。
【0033】
また、円筒部10aにおけるインボード側の端部は、円筒軸8のインボード側の端部と同一位置まで形成されていて、外部から異物が混入することを抑制するためのシール部材11が、円筒部10aの内面と円筒軸8の外面との間に設けられている。
【0034】
側面部10bの外周側の部分は、コイル6eおよびベース部6aのアウトボード側の端部に所定の隙間を空けて対向して形成され、ベース部6aよりも内側の部分でインボード側に屈曲している。その屈曲した円筒状の部分と、ベース部6aとの間に外部から異物が混入することを抑制するためのシール部材11が設けられている。そして、上記屈曲した円筒状の部分のインボード側の端部が内側に屈曲して形成されている。すなわち、側面部10bの内周縁は、ステータ6の内側、またはホイールの回転中心軸線方向でステータ6と少なくとも一部がオーバーラップしている。なお、側面部10bの内周縁の板厚は、他の部分の板厚よりも厚く形成されている。また、側面部10bの内周縁のアウトボード側の側面には、断面形状が円形の凹部10cが形成されている。
【0035】
また、ナックル5の内周部分には、アウトボード側に突出した円筒部5aが一体に形成されている。その中空部に支持軸12が円筒部5aと相対回転可能に保持されている。その支持軸12は、ホイールを取り付ける部材であって、円筒部5aに挿入される円筒部12aと、その円筒部12aのアウトボード側の端部に形成されたフランジ部12bとにより構成され、そのフランジ部12bに、ホイールを固定する図示しないナットがねじ止めされる雄ネジ部13aが一体化されている。
【0036】
上記の各円筒部5a,12aの間には、各円筒部5a,12a間で生じるラジアル荷重およびアキシャル荷重を受けることができるコロ14が配置されている。すなわち、円筒部5aがアウターレースとして機能し、かつ円筒部12aがインナーレースとして機能するアンギュラボールベアリングとなっている。なお、コロ14を挟んで両側にシール部材15が設けられ、また支持軸12の中空部には、回転軸16が嵌合している。この回転軸16におけるインボード側には、
図1におけるインボード側のコロ14を挟み付けるように構成されたフランジ部が形成され、アウトボード側には、雄ネジ16bが形成されて、外周側が支持軸12の端部に当接するナット16cが雄ネジ部16bに締め付けられている。すなわち、回転軸16にナット16cを締め付けることにより、支持軸12の位置決めが行われ、その結果、ステータ6とロータ10との軸線方向での位置決めが行われる。
【0037】
上述したロータ9(より具体的には、ロータカバー10)と支持軸12(より具体的には、フランジ部12b)とを連結するための環状に形成された板状の連結部材17が設けられている。この連結部材17におけるインボード側に向いた側面には、上記フランジ部12bが当接していて、上記雄ネジ部13aが形成されたリベット13によってフランジ部12bおよび連結部材17が一体化させられている。すなわち、連結部材17は、ホイールと一体に回転するように設けられている。
【0038】
また、連結部材17の外周端は、
図2に示すように断面形状がL字型に形成されている。具体的には、ロータカバー10の内周縁に半径方向で対向し、かつロータカバー10が嵌合する嵌合部17aと、ロータカバー10の内周側でかつインボード側の側面に当接する側壁部17bとを備えている。
【0039】
この側壁部17bのうち、上記ロータカバー10の側面部10bに形成された凹部10cに対応した位置に、
図3に示すように円周方向に所定の長さを有する貫通孔17cが形成されている。そして、側壁部17bに形成された貫通孔17cを貫通するとともに、ロータカバー10の側面部10bに形成された凹部10cに圧入されるノックピン18が設けられている。すなわち、ノックピン18によりロータカバー10と連結部材17とが連結される部分は、ステータ6の内側、またはホイールの回転中心軸線方向でステータ6の少なくとも一部がオーバーラップしている。
【0040】
なお、凹部10c、貫通孔17c、およびノックピン18を、ロータカバー10や連結部材17の円周方向に所定の間隔を空けて複数設けていてもよい。また、ノックピン18のインボード側の先端をかしめるなどしてロータカバー10の側面部10bと連結部材17とを軸線方向で一体化させてもよい。さらに、凹部10cを円弧状に形成し、貫通孔17cを円形に形成し、その貫通孔17cにノックピン18を圧入させて、ロータカバー10と連結部材17とを連結してもよい。
【0041】
上述したように構成されたインホイールモータ1は、コイル6eに通電することによって発生する磁束と、ロータ9に設けられた永久磁石の磁束とによってロータ9を回転させる方向に荷重が作用し、その荷重とロータ9の半径とに応じたトルクが発生する。そのトルクは、ロータカバー10と一体化されたノックピン18に伝達され、そのノックピン18の外周面と連結部材17に形成された貫通孔17cの内周面とが、ロータ9の回転方向で接触して、連結部材17に伝達される。すなわち、ロータカバー10、ノックピン18、および連結部材17を介してロータ9からホイールにトルクが伝達される。
【0042】
また、インホイールモータ1が駆動トルクを出力している状態で、例えば、車輪の回転数が急激に変化するなどして、車輪から過大なトルクが入力された場合には、その過大なトルクに応じた荷重がノックピン18に作用する。同様に、コイル6eに通電する電流値を制御するための図示しないコントローラがフェールして意図しない過大なトルクが発生した場合も、その過大なトルクに応じた荷重がノックピン18に作用する。
【0043】
そのような過大なトルクの伝達を抑制するように、言い換えると、トルクリミッタとして機能するようにノックピン18の強度が定められている。具体的には、ロータ9とホイールとの間で伝達可能なトルク(上限トルク)を予め定め、その上限トルク以上のトルクがロータカバー10や連結部材17に伝達された場合に、ノックピン18が破断するように定められている。このノックピン18の強度は、ノックピン18の材料や外径の大きさなどを適宜設定することにより調整することができる。
【0044】
したがって、ロータカバー10と連結部材17とによってロータ9とホイールとを連結し、その連結部(ここでは、ノックピン18)の強度を、予め定めたトルク以上のトルクが伝達された場合に破断するトルクリミッタとして機能する強度に定めることにより、ロータ9とホイールとの間で過剰なトルクが伝達されることを抑制(制限)することができる。すなわち、ロータカバー10と連結部材17との間で伝達するトルクを、所定トルクに制限することができる。
【0045】
また、上述したようにアウターロータ型のモータを採用するとともに、そのロータ9の出力側にトルクリミッタとして機能する連結部(ここでは、ノックピン18)を設けることにより、トルクを発生させるモータ部と、そのトルクをホイールに伝達するトルク伝達部とを半径方向に並べて配置することができる。そのため、インナーロータ側のモータを採用した場合と比較して、インホイールモータ1の軸長を短縮することができる。特に、ロータカバー10と連結部材17とを連結するとともに、トルクリミッタとして機能する部分(ここでは、ノックピン18が設けられた部分)を、ステータ6の内側に形成することによって、トルクリミッタを設けるための空間を軸線方向に確保する必要がなく、インホイールモータ1の軸長を短縮することができる。
【0046】
さらに、上述したように連結部材17に、円周方向に所定の長さを有する貫通孔17cを形成することにより、ロータカバー10に連結部材17を組み付ける際に、ロータカバー10の位相(回転方向の位置)と連結部材17の位相(回転方向の位置)とのずれを許容することができ、組み付け性を向上させることができる。言い換えると、ロータカバー10に形成する凹部10cの位置と、連結部材17に形成する貫通孔17cの位置との誤差を大きくすることができる。つまり、ロータカバー10と連結部材17との製造時における加工誤差を許容することができ、製造コストを低下させることができる。
【0047】
この発明の実施形態におけるインホイールモータ
の実施例を説明するための斜視図を
図4に示し、その断面図を
図5に示してある。
図4および
図5に示す例は、ロータカバー10と連結部材17との取り付け構造が、上記
図1ないし
図3に示した例と異なっている。具体的には、嵌合部17aの外周面に、連結部材17の軸線方向に沿ってキー19が形成されている。そして、ロータカバー10の内面には、キー19よりも幅が広いキー溝20が形成されている。すなわち、上述した
図1ないし
図3に示す例では、ノックピン18によってロータカバー10と連結部材17とがトルク伝達可能に連結されているのに対し、
図4および
図5に示す例は、キー19およびキー溝20によってロータカバー10と連結部材17とがトルク伝達可能に連結されてい
る。
【0048】
また、キー19がトルクリミッタとして機能するようにキー19の強度が定められている。具体的には、上述したノックピン18の強度を定める場合と同様に、ロータ9とホイールとの間で伝達可能なトルクを予め定め、そのトルク以上のトルクが伝達された場合に、キー19が破断するように定められている。このキー19の強度は、キー19の材料や外径の大きさなどを適宜設定することにより調整することができる。つまり、キー19が、この発明の実施形態における「伝達部」に相当する。
【0049】
したがって、
図1ないし
図3に示す例と同様に、ロータカバー10と連結部材17とによってロータ9とホイールとを連結し、その連結部(ここでは、キー19)の強度を、予め定めたトルク以上のトルクが伝達された場合に破断するトルクリミッタとして機能する強度に定めることにより、ロータ9とホイールとの間で過剰なトルクが伝達されることを抑制することができる。
【0050】
また、上述したようにロータカバー10と連結部材17とを連結するとともに、トルクリミッタとして機能する部分(ここでは、キー19が設けられた部分)を、ステータ6の内側に形成することによって、トルクリミッタを設けるための空間を軸線方向に確保する必要がなく、インホイールモータ1が大型化することを抑制することができる。
【0051】
また、上述したように連結部材17に形成されたキー溝20の幅を、ロータカバー10に形成されたキー19の幅よりも広く形成することにより、ロータカバー10に連結部材17を組み付ける際に、ロータカバー10の位相(回転方向の位置)と連結部材17の位相(回転方向の位置)とのずれを許容することができ、組み付け性を向上させることができる。言い換えると、ロータカバー10に形成するキー19の位置と、連結部材17に形成するキー溝20の位置との誤差を大きくすることができる。つまり、ロータカバー10と連結部材17との製造時における加工誤差を許容することができ、製造コストを低下させることができる。
【0052】
上述した
図1ないし
図3に示す構成や、
図4および
図5に示す構成では、ロータカバー10と連結部材17との組み付け性を向上させることができる。しかしながら、凹凸のある路面を走行している場合の駆動力の変動を抑制するためにロータ9で発生するトルクの方向を反転させるなどする場合には、トルクの方向を反転させてから、そのトルクを迅速にホイールに伝達することができない。具体的には、
図1ないし
図3に示す例では、貫通孔17cの一方側の端部にノックピン18が接触した状態から、他方側の端部にノックピン18が接触するまでの間は、ホイールにトルクが伝達されない。同様に、
図4および
図5に示す例では、キー溝20の一方の側面にキー19が接触した状態から、他方側の側面にキー19が接触するまでの間は、ホイールにトルクが伝達されない。
【0053】
したがって、貫通孔17cを円形に形成してノックピン18を圧入するなどして、ノックピン18と貫通孔17cとを密着させてもよく、同様に、キー溝20の幅をキー19の幅とほぼ同一に形成して、キー19をキー溝20に圧入して、キー19とキー溝20とを密着させてもよい。
【0054】
また、上述した各構成では、ノックピン18やキー19が、貫通孔17cやキー溝20を押圧することによってトルクを伝達し、そのノックピン18やキー19が破断することによりトルクリミッタとして機能するように構成されている。したがって、大きなトルクが入力されて、ノックピン18やキー19が破断した後は、ロータ9とホイールとの間でトルクを伝達することができなくなる。
【0055】
そのため
、参考例としてロータ9やホイールに大きなトルクが入力された場合に、そのトルクの伝達を遮断した後でも、トルクの伝達を遮断する以前と同様にトルクを伝達することができるように構成されている。
図6に、その構成を説明するための拡大断面図を示してある。
【0056】
図6に示すインホイールモータ1は、ロータカバー10と連結部材17とが摩擦力によってトルクを伝達するように構成されている。具体的には、嵌合部17aの外周面にスプライン歯17dが形成され、その嵌合部17aにスプライン係合する環状の二つのプレート部材21a,21bが互いに対向して配置されている。
【0057】
また、ロータカバー10の内周部分の両面には、環状の摩擦材22が取り付けられていて、その摩擦材22に接触するように二つのプレート部材21a,21bがロータカバー10を挟み付けている。そのロータカバー10を挟み付ける押圧力を発生するために、側壁部17bと一方のプレート部材21aとの間に皿バネ23が設けられている。この皿バネ23は、ロータカバー10と連結部材17との間で伝達する上限トルクを定めるためのものであり、予め定められた上限トルクに応じた摩擦力が作用するように皿バネ23の弾性係数や、変位量が設定されている。
【0058】
また、皿バネ23による押圧力に対抗した反力を発生するために、他方のプレート部材21bがインボード側(
図6における左側)に移動することを規制するスナップリング24が設けられてい
る。
【0059】
上述したように二つのプレート部材21a,21bによってロータカバー10を挟み付けるように構成することにより、ロータカバー10と連結部材17との位相(回転方向の位置)を合わせることなく組み付けることができ、組み付け性を向上させることができる。
【0060】
また、ロータカバー10や連結部材17に大きなトルクが作用した場合には、ロータカバー10と連結部材17とが相対回転(スリップ)することにより、過剰なトルクがロータ9やホイールに伝達されることを抑制できる。すなわち、ロータカバー10(具体的には、摩擦材22)と連結部材17との接触部が、トルクリミッタとして機能する。そのようにロータカバー10と連結部材17とが相対回転した場合であっても、ロータカバー10や連結部材17に作用するトルクが低下して、ロータカバー10と連結部材17とが一体に回転するようになると、その後には、ロータカバー10と連結部材17とが相対回転する以前と同一のトルクを伝達することができるようになる。そのため、トルクリミッタとして機能した後であっても、インホイールモータ1を交換するなどの必要がない。
【0061】
なお、
図6に示す例では、二つのプレート部材21a,21bを連結部材17に連結しているが、ロータカバー10と一体に回転し、かつ連結部材17の外周部分を挟み付けるように二つのプレート部材21a,21bを設けてもよい。また、ロータカバー10と連結部材17とが摩擦力によってトルク伝達可能に連結する構成は、
図6に示す構成に限らず、例えば、
図1に示すロータカバー10の内周面に嵌合部17aを圧入して、ロータカバー10の内周面と連結部材17の外周面との接触部の摩擦力によってトルクを伝達するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 インホイールモータ
5a,12a 円筒部
6 ステータ
6a ベース部
6b ステータヨーク
6c 取り付け部
6d フランジ部
6e コイル
9 ロータ
9a 永久磁石
10 ロータカバー
10a 円筒部
10b 側面部
10c 凹部
17 連結部材
17a 嵌合部
17b 側壁部
17c 貫通孔
17d スプライン歯
18 ノックピン
19 キー
20 キー溝
21a,21b プレート部材
22 摩擦材
23 皿バネ
24 スナップリング