IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-スクロール型圧縮機 図1
  • 特許-スクロール型圧縮機 図2
  • 特許-スクロール型圧縮機 図3
  • 特許-スクロール型圧縮機 図4
  • 特許-スクロール型圧縮機 図5
  • 特許-スクロール型圧縮機 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】スクロール型圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
F04C18/02 311E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021047895
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146762
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 洋介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 久弥
(72)【発明者】
【氏名】村西 明広
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 周斗
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-321850(JP,A)
【文献】特開平10-153182(JP,A)
【文献】特開2020-094555(JP,A)
【文献】特開2016-075175(JP,A)
【文献】特開2006-183527(JP,A)
【文献】特開2008-208715(JP,A)
【文献】特開2002-180977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに収容される回転軸と、
固定スクロールと、
前記固定スクロールに対し旋回する旋回スクロールと、
前記旋回スクロールの自転を阻止して前記固定スクロールに対して前記旋回スクロールを公転させる自転阻止機構と、
前記旋回スクロールに対向して前記旋回スクロールを支持するとともに前記回転軸を支持するハウジング構成体と、を有し、
前記自転阻止機構は、前記旋回スクロール及び前記ハウジング構成体のいずれか一方の第1面に設けられた収容部と、前記第1面に対向する他方の第2面に設けられるとともに前記収容部に向けて突出する自転阻止ピンと、を複数有し、
前記収容部と前記自転阻止ピンとが当接することにより前記旋回スクロールの自転が阻止されるスクロール型圧縮機において、
前記第2面には、複数の前記自転阻止ピンを保持する筒状の保持壁がそれぞれ立設されるとともに、
前記第2面は、前記保持壁の外周に形成された溝を有し、前記保持壁の先端面から前記保持壁の内底面までの深さと、前記溝の深さは同じであることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
ハウジングと、
前記ハウジングに収容される回転軸と、
固定スクロールと、
前記固定スクロールに対し旋回する旋回スクロールと、
前記旋回スクロールの自転を阻止して前記固定スクロールに対して前記旋回スクロールを公転させる自転阻止機構と、
前記旋回スクロールに対向して前記旋回スクロールを支持するとともに前記回転軸を支持するハウジング構成体と、を有し、
前記自転阻止機構は、前記旋回スクロール及び前記ハウジング構成体のいずれか一方の第1面に設けられた収容部と、前記第1面に対向する他方の第2面に設けられるとともに前記収容部に向けて突出する自転阻止ピンと、を複数有し、
前記収容部と前記自転阻止ピンとが当接することにより前記旋回スクロールの自転が阻止されるスクロール型圧縮機において、
前記第2面には、複数の前記自転阻止ピンを保持する筒状の保持壁がそれぞれ立設され
前記ハウジング構成体は前記回転軸が挿通される挿通孔を有し、
前記固定スクロールと前記旋回スクロールとの噛み合いによって形成され、前記回転軸の回転によって容積減少する圧縮室を有し、
前記圧縮室で圧縮された冷媒が吐出された吐出圧領域と前記挿通孔を接続して前記吐出圧領域から前記挿通孔に潤滑油を供給する油供給通路を有し、
前記自転阻止ピンは前記ハウジング構成体に設けられ、前記ハウジング構成体の前記第2面には、前記保持壁の外周に形成された溝を有し、前記溝は、前記挿通孔を画成する前記ハウジング構成体の内周面に開口していることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記挿通孔を画成する前記ハウジング構成体の内周面には、前記回転軸を支持するための軸受が圧入されている請求項に記載のスクロール型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型圧縮機は、旋回スクロールの自転を阻止して固定スクロールに対して旋回スクロールを公転させる。旋回スクロールを公転させるため、スクロール型圧縮機は自転阻止機構を備える。
【0003】
特許文献1に開示されるスクロール型圧縮機では、フロントケースの内側端面には、複数個のリング穴が設けられている。リング穴の内壁には、4つの突起が90度間隔おきに設けられている。リング穴にはリングが遊嵌されている。リングは、複数の突起によって周方向の一部において支持されている。つまり、リングはリング穴に隙間嵌めされている。旋回スクロールの背面側の端面には複数のピンが挿嵌されている。各ピンは、対応するリング内に遊挿されている。
【0004】
旋回スクロールは、ピンがリング内に遊挿されていることでフロントケースと係合し、公転するときの自転が防止される。このとき、ピンは、リングの内周面に沿って旋回スクロールの公転方向と同一方向に回転する。
【0005】
このようなスクロール型圧縮機は、旋回スクロールの1回転中に4回、旋回スクロールに作用するモーメントを受け止めるピンが切り替わる。その切り替わり時において、リングによって荷重が受け止められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-184774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、リングにおいて、突起によって支持されている部分は、突起による支持が無い部分に比べて剛性が高い。一方、リングにおいて、突起によって支持されていない部分は、突起による支持が有る部分に比べて剛性が低い。このようにリングの周方向に剛性の高い部分と低い部分とが並存しているため、剛性の違いに応じて荷重の受け止め方が異なり、振動及び騒音の原因となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するためのスクロール型圧縮機は、ハウジングと、前記ハウジングに収容される回転軸と、固定スクロールと、前記固定スクロールに対し旋回する旋回スクロールと、前記旋回スクロールの自転を阻止して前記固定スクロールに対して前記旋回スクロールを公転させる自転阻止機構と、前記旋回スクロールに対向して前記旋回スクロールを支持するとともに前記回転軸を支持するハウジング構成体と、を有し、前記自転阻止機構は、前記旋回スクロール及び前記ハウジング構成体のいずれか一方の第1面に設けられた収容部と、前記第1面に対向する他方の第2面に設けられるとともに前記収容部に向けて突出する自転阻止ピンと、を複数有し、前記収容部と前記自転阻止ピンとが当接することにより前記旋回スクロールの自転が阻止されるスクロール型圧縮機において、前記第2面には、複数の前記自転阻止ピンを保持する筒状の保持壁がそれぞれ立設されることを要旨とする。
【0009】
これによれば、筒状の保持壁は、その外周側から局所的に支持されないため、保持壁の剛性は周方向に一様であるとともに、自転阻止ピンを保持する部分の剛性を下げることができる。このため、自転阻止ピンが旋回スクロールからの荷重を受け止めるとき、保持壁の周方向のいずれの場所であっても一様に荷重を受け止めつつ、保持壁を傾かせて荷重を受け止めることができる。その結果として、自転阻止ピンが荷重を受け止める際の変動を緩やかにして振動及び騒音を低減できる。
【0010】
スクロール型圧縮機について、前記第2面には、前記保持壁の外周に形成された溝を有し、前記保持壁の先端面から前記保持壁の内底面までの深さと、前記溝の深さは同じであってもよい。
【0011】
これによれば、保持壁の深さが溝の深さより深い場合と比べると、自転阻止ピンに荷重が加わったとき、自転阻止ピンが傾きやすくなる。
スクロール型圧縮機について、前記ハウジング構成体は前記回転軸が挿通される挿通孔を有し、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとの噛み合いによって形成され、前記回転軸の回転によって容積減少する圧縮室を有し、前記圧縮室で圧縮された冷媒が吐出された吐出圧領域と前記挿通孔を接続して前記吐出圧領域から前記挿通孔に潤滑油を供給する油供給通路を有し、前記自転阻止ピンは前記ハウジング構成体に設けられ、前記ハウジング構成体の前記第2面には、前記保持壁の外周に形成された溝を有し、前記溝は、前記挿通孔を画成する前記ハウジング構成体の内周面に開口していてもよい。
【0012】
これによれば、吐出圧領域の潤滑油が、油供給通路を通じて挿通孔に供給される。ハウジング構成体の内周面には、溝が開口するため、挿通孔に供給された潤滑油は溝内に供給される。溝内に供給された潤滑油は、自転阻止ピンと、収容部との摺動部に供給されるため、自転阻止ピンと、収容部との摺動部を潤滑できる。
【0013】
スクロール型圧縮機について、前記挿通孔を画成する前記ハウジング構成体の内周面には、前記回転軸を支持するための軸受が圧入されていてもよい。
これによれば、軸受をハウジング構成体の内側に圧入するときの変形を溝で吸収できるため、ハウジング構成体の変形を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、振動及び騒音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態のスクロール型圧縮機を示す断面図。
図2】自転阻止ピン、保持壁、及び溝を示す斜視図。
図3】旋回スクロールを背面側から示す図。
図4】圧縮ハウジング構成体を示す正面図。
図5】自転阻止ピン、保持壁、及び溝を示す拡大断面図。
図6】別例のスクロール型圧縮機を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、スクロール型圧縮機を具体化した一実施形態を図1図5にしたがって説明する。本実施形態のスクロール型圧縮機は、例えば、車両空調装置に用いられる。
図1に示すように、スクロール型圧縮機10は、ハウジング11と、ハウジング11に収容される回転軸12と、回転軸12を回転させる電動モータ20と、回転軸12の回転によって駆動する圧縮機構40と、を有する。
【0017】
ハウジング11は、モータハウジング構成体13と、圧縮ハウジング構成体15と、吐出ハウジング構成体24と、固定スクロール41の固定基板42と、インバータカバー36と、から構成される。モータハウジング構成体13と、圧縮ハウジング構成体15と、吐出ハウジング構成体24と、固定スクロール41の固定基板42とは、複数本のボルト38によって固定されている。
【0018】
モータハウジング構成体13は、板状の端壁13aと、端壁13aの外周縁から筒状に延在する周壁13bと、周壁13bに設けられた吸入ポート13cと、端壁13aに設けられたボス部13dとを有する。周壁13bの軸線方向は、回転軸12の軸線方向に一致する。周壁13bには第1ボルト挿通孔13eが設けられている。各第1ボルト挿通孔13eは、周壁13bの先端面から凹設されている。モータハウジング構成体13の第1ボルト挿通孔13eは雌ねじを有する。
【0019】
吸入ポート13cは、冷媒をハウジング11の内部に吸入するために設けられている。吸入ポート13cは、周壁13bに配置されている。ボス部13dは、端壁13aの内面からハウジング11内に向けて円筒状に突出している。周壁13bの先端面は、圧縮ハウジング構成体15に接触している。
【0020】
圧縮ハウジング構成体15は、周壁13bの先端面と固定スクロール41の固定基板42との間に挟まれている。圧縮ハウジング構成体15は、円筒状の軸支部16と、軸支部16の外周縁から筒状に延びる室形成周壁部18とを有する。室形成周壁部18の先端面18aには、第2ボルト挿通孔18bが形成されている。第2ボルト挿通孔18bは、室形成周壁部18を貫通する。
【0021】
圧縮ハウジング構成体15は、回転軸12が挿通される挿通孔16aを軸支部16の中央部に有する。挿通孔16aは、小径孔16bと、小径孔16bより大径の大径孔16cと、を有する。小径孔16bは、大径孔16cよりも端壁13a寄りに配置されている。
【0022】
図2に示すように、圧縮ハウジング構成体15は、大径孔16cが開口する軸支部16の端面に対向面15aを有する。対向面15aは平坦な環状面である。圧縮ハウジング構成体15は、対向面15aから突出する自転阻止ピン17を4本有する。したがって、対向面15aは、自転阻止ピン17が突出する第2面である。自転阻止ピン17は、大径孔16cの周囲に等間隔おきに配置されている。
【0023】
図1に示すように、モータハウジング構成体13と圧縮ハウジング構成体15は、ハウジング11内にモータ室Mを画成する。したがって、スクロール型圧縮機10はモータ室Mを有する。電動モータ20は、モータ室Mに収容されている。ハウジング11の内部であるモータ室M内には、図示しない外部冷媒回路から吸入ポート13cを経由して冷媒が吸入される。したがって、モータ室Mは吸入圧領域である。
【0024】
電動モータ20は、ステータ21と、ステータ21の内側に配置されるロータ22と、を有する。ロータ22は、回転軸12と一体に回転する。ステータ21は、ロータ22を取り囲んでいる。
【0025】
回転軸12の軸線方向の第1端部は、ボス部13d内に挿入されている。ボス部13dの内周面と回転軸12の第1端部の周面との間には、軸受14が設けられている。回転軸12の第1端部は、軸受14を介してモータハウジング構成体13に支持されている。
【0026】
回転軸12の第2端部は、挿通孔16aに挿通されている。回転軸12の第2端部の端面12aは、軸支部16の内側に位置している。回転軸12の第2端部の周面と、小径孔16bでの圧縮ハウジング構成体15の内周面との間には軸受19が設けられている。回転軸12は、軸受19を介して圧縮ハウジング構成体15に回転可能に支持されている。
【0027】
軸受19は、軸支部16の内周面に圧入された外輪19aと、回転軸12と一体回転する内輪19bと、外輪19aの内周面と内輪19bの外周面との間に配置された転動子19cと、を有する。したがって、挿通孔16aを画成する圧縮ハウジング構成体15の内周面には、回転軸12を支持するための軸受19が圧入されている。
【0028】
吐出ハウジング構成体24は、室形成凹部25と、油分離室26と、吐出ポート27と、排出孔28と、を有する。
吐出ハウジング構成体24は、固定基板42側の端面24aを有する。吐出ハウジング構成体24には、端面24aに開口する第3ボルト挿通孔24bが形成されている。第3ボルト挿通孔24bは、吐出ハウジング構成体24を貫通する。
【0029】
室形成凹部25は、吐出ハウジング構成体24の端面24aから凹む。室形成凹部25と固定基板42とによって囲まれた空間に吐出室30が画成されている。したがって、スクロール型圧縮機10は吐出室30を有する。
【0030】
吐出ポート27は図示しない外部冷媒回路と接続されている。油分離室26は、吐出ポート27に接続されている。油分離室26には、油分離筒31が設けられている。排出孔28は、吐出室30と油分離室26とを接続する。
【0031】
インバータカバー36は、モータハウジング構成体13の端壁13aに取り付けられている。インバータカバー36とモータハウジング構成体13の端壁13aとによって画成された空間にはインバータ装置37が収容されている。スクロール型圧縮機10は、インバータ装置37を有する。このインバータ装置37は、電動モータ20を駆動させる。
【0032】
スクロール型圧縮機10は、前記した固定スクロール41と、固定スクロール41に対して旋回する旋回スクロール51と、を有する。圧縮機構40は、固定スクロール41と旋回スクロール51とを有する。固定スクロール41及び旋回スクロール51は、圧縮ハウジング構成体15の軸支部16を間に挟んでモータ室Mとは反対側に配置されている。また、圧縮ハウジング構成体15は、旋回スクロール51に対向して旋回スクロール51を支持する。
【0033】
固定スクロール41は、固定基板42と、固定基板42から起立する固定渦巻壁43と、固定外周壁44と、吐出孔45と、を有する。
固定基板42には、第4ボルト挿通孔42bが形成されている。第4ボルト挿通孔42bは、固定基板42を厚み方向に貫通する。吐出孔45は、固定基板42の中央に配置されている。吐出孔45は、円孔状である。また、吐出孔45は、固定基板42を厚み方向に貫通している。固定基板42における旋回スクロール51とは反対側の端面42aには、吐出孔45を開閉する吐出弁機構45aが取り付けられている。
【0034】
固定基板42の外周部は、圧縮ハウジング構成体15の室形成周壁部18の先端面18aと、吐出ハウジング構成体24の端面24aによって挟まれている。第3ボルト挿通孔24bと、第4ボルト挿通孔42bと、第2ボルト挿通孔18bと、第1ボルト挿通孔13eにボルト38が挿通されるとともに、ボルト38が第1ボルト挿通孔13eの雌ねじに螺子込まれている。その結果、吐出ハウジング構成体24と、固定基板42と、圧縮ハウジング構成体15と、モータハウジング構成体13とが回転軸12の軸線方向に互いに接触して固定されている。
【0035】
固定渦巻壁43は、固定基板42から旋回スクロール51に向けて起立している。固定外周壁44は、固定基板42の外周部から円筒状に起立している。固定外周壁44は、固定渦巻壁43を囲繞している。固定外周壁44には図示しない導入凹部が形成されている。
【0036】
旋回スクロール51は、旋回基板52と、旋回渦巻壁53と、ボス部54と、4つの収容部55と、を有する。
旋回基板52は、円板状である。旋回基板52は、固定基板42に対向している。旋回渦巻壁53は、旋回基板52から固定基板42に向けて起立している。旋回渦巻壁53は、固定渦巻壁43と噛み合っている。旋回渦巻壁53は、固定外周壁44の内側に位置している。固定渦巻壁43の先端面と旋回基板52との間に図示しないクリアランスが確保されているとともに、旋回渦巻壁53の先端面と固定基板42との間には図示しないクリアランスが確保されている。固定渦巻壁43と旋回渦巻壁53との噛み合いによって複数の圧縮室46が画成されている。つまり、圧縮室46は、固定スクロール41と旋回スクロール51との噛み合いによって形成される。
【0037】
ボス部54は、旋回基板52における固定基板42とは反対側の背面52aから円筒状に突出している。背面52aは、圧縮ハウジング構成体15の対向面15aに対向する。ボス部54の軸線方向は、回転軸12の軸線方向に一致している。
【0038】
図3に示すように、4つの収容部55は、旋回基板52の背面52aにおけるボス部54の周囲に配置されている。4つの収容部55は、回転軸12の周方向に等間隔おきに配置されている。各収容部55は、凹部55bの内側に配置された環状のリング部材55aの内側に形成されている。リング部材55aの外周面は、凹部55bの内周面に接触している。各収容部55の内側には、圧縮ハウジング構成体15の軸支部16から収容部55に向けて突出する自転阻止ピン17が挿入されている。したがって、スクロール型圧縮機10の自転阻止機構は、背面52aに設けられた収容部55と、背面52aに対向する対向面15aに設けられるとともに収容部55に向けて突出する自転阻止ピン17と、を複数有する。旋回スクロール51及び圧縮ハウジング構成体15のうちの一方は旋回スクロール51であり、旋回スクロール51の背面52aは第1面である。また、旋回スクロール51及び圧縮ハウジング構成体15のうちの他方は圧縮ハウジング構成体15であり、圧縮ハウジング構成体15の対向面15aは第2面である。
【0039】
図1に示すように、回転軸12の端面12aには偏心軸47が配置されている。偏心軸47は回転軸12の軸線Lに対して偏心した位置から旋回スクロール51に向けて突出する。偏心軸47の軸線方向は、回転軸12の軸線方向に一致している。偏心軸47は、ボス部54内に挿入されている。偏心軸47の外周面にはブッシュ49が嵌合されている。ブッシュ49にはバランスウェイト48が一体化されている。バランスウェイト48は、大径孔16c内に収容されている。旋回スクロール51は、ブッシュ49及び軸受50を介して偏心軸47と相対回転可能に偏心軸47に支持されている。
【0040】
スクロール型圧縮機10は、油分離室26と、大径孔16cとを繋ぐ油供給通路39を備える。油供給通路39は、第1端が油分離室26に接続されるとともに、第2端が大径孔16cに接続されている。
【0041】
油供給通路39は、第1通路39aと、第2通路39bと、第3通路39cと、を有する。第1通路39aは、吐出ハウジング構成体24に設けられた通路である。第1通路39aの第1端は油分離室26に接続されている。第1通路39aの第2端は、端面24aに位置している。
【0042】
第2通路39bは、固定スクロール41に形成されている。第2通路39bは、固定スクロール41を厚み方向に貫通している。
第3通路39cは、圧縮ハウジング構成体15の対向面15aに形成されている。第3通路39cは、軸支部16の外周側から内周面に向けて軸支部16の径方向に延びている。
【0043】
第1通路39aの第2端と第2通路39bの第1端は接続されている。第2通路39bの第2端と第3通路39cの第1端は接続されている。第3通路39cの第2端は大径孔16cの内周面に開口している。油供給通路39の第1通路39aは、油分離室26に接続されている。このため、油供給通路39には潤滑油が満たされるとともに、大径孔16cの内周面には潤滑油が供給されている。
【0044】
上記構成のスクロール型圧縮機10では、回転軸12の回転は、偏心軸47、ブッシュ49、及び軸受50を介して旋回スクロール51に伝達される。このとき、自転阻止ピン17は、リング部材55aの内周面に沿って旋回スクロール51の公転方向と同一方向に回転するようになっている。
【0045】
各収容部55と、自転阻止ピン17の先端部17bとが当接することにより、旋回スクロール51の自転が阻止されて、旋回スクロール51を公転させる。これにより、旋回スクロール51は、回転軸12の回転によって旋回渦巻壁53が固定渦巻壁43に接触しながら公転し、圧縮室46が容積減少する。
【0046】
旋回スクロール51の1回転中に4回、旋回スクロール51に作用するモーメントを受け止める自転阻止ピン17が切り替わる。その切り替わりタイミングにおいて、自転阻止ピン17と収容部55とが当接する。このとき、自転阻止ピン17によって荷重が受け止められる。
【0047】
そして、吸入ポート13cを通じてモータ室Mに吸入された冷媒は、圧縮ハウジング構成体15及び固定スクロール41の導入凹部を経由して圧縮室46における最外周部分に吸入される。圧縮室46における最外周部分に吸入された冷媒は、旋回スクロール51の公転により圧縮室46内で圧縮される。
【0048】
圧縮室46で圧縮された冷媒は、吐出孔45から吐出弁機構45aを経て吐出室30へ吐出される。吐出室30へ吐出された冷媒は、排出孔28を通って油分離室26へ排出される。油分離室26へ排出された冷媒に含まれる潤滑油は、油分離筒31により冷媒から分離される。
【0049】
潤滑油が分離された冷媒が油分離筒31内に流入し、吐出ポート27から外部冷媒回路へ吐出される。外部冷媒回路に吐出された冷媒は、吸入ポート13cを経てモータ室Mへ還流する。一方で、油分離筒31により冷媒から分離された潤滑油は、吐出圧領域としての油分離室26から油供給通路39を経由して大径孔16c内に供給される。したがって、油供給通路39は、圧縮室46で圧縮された冷媒が吐出された油分離室26と大径孔16cとを接続して油分離室26から大径孔16cに潤滑油を供給する。
【0050】
次に、圧縮ハウジング構成体15における自転阻止ピン17の設置構造について説明する。
図2図4及び図5に示すように、圧縮ハウジング構成体15は、複数の保持壁72と、複数の溝70と、を有する。なお、複数の溝70の構成は全て同じであるため、一つの溝70について説明し、その他の溝70の説明は省略する。複数の保持壁72の構成は全て同じであるため、一つの保持壁72について説明し、その他の保持壁72の説明は省略する。
【0051】
溝70は、軸支部16の対向面15aから回転軸12の軸線方向に凹む。複数の溝70は、挿通孔16aの周囲に等間隔おきに配置される。溝70は、挿通孔16aを画成する軸支部16の内周面にて大径孔16cに向けて開口している。圧縮ハウジング構成体15を対向面15aから見ることを正面視とする。圧縮ハウジング構成体15の正面視で、溝70は、対向面15aから凹んだ先に対向面15aの一部である底面70aを有する。溝70は、底面70aと対向面15aとを繋ぐ内壁面70bを有する。したがって、溝70は、底面70aと内壁面70bと保持壁72の外周面とによって画成されている。
【0052】
保持壁72は、自転阻止ピン17の基端部17aを保持する。保持壁72は、対向面15aの一部である、溝70の底面70aから円筒状に立設されている。保持壁72の内側にはピン穴71が形成されている。ピン穴71は、保持壁72の先端面72aから円柱状に凹む。保持壁72の先端面72aはピン穴71を囲む環状面である。
【0053】
溝70は、保持壁72の外周に形成されている。つまり、スクロール型圧縮機10は、対向面15aには、保持壁72の外周に形成された溝70を有する。この溝70は、保持壁72の外周面の全体を内壁面70bから離間させている。
【0054】
保持壁72の先端面72aは、軸支部16の対向面15aと同じ高さに位置している。対向面15aから溝70の底面70aまでを溝70の深さF1とする。保持壁72の先端面72aから内底面72bまでを保持壁72の深さF2とする。溝70の深さF1と、保持壁72の深さF2は同じである。
【0055】
ピン穴71に自転阻止ピン17の基端部17aが圧入されている。この圧入により、自転阻止ピン17の基端部17aが保持壁72に保持されている。自転阻止ピン17の基端部17a寄りの端面は、保持壁72の内底面72bに接触している。自転阻止ピン17の基端部17aの寸法は、保持壁72の深さF2と同じである。保持壁72の厚みは、自転阻止ピン17の基端部17aが保持壁72から抜け出ないように保持できる値に設定されている。
【0056】
自転阻止ピン17のうち、保持壁72に保持されていない部位を先端部17bとする。自転阻止ピン17の先端部17bは、保持壁72の先端面72aから突出した部位である。保持壁72の先端面72aは、軸支部16の対向面15aと同じ高さである。このため、自転阻止ピン17の先端部17bは、軸支部16の対向面15aから突出しているといえる。自転阻止ピン17の先端部17bは、収容部55に向けて突出するとともに、収容部55の内側に挿入されている。
【0057】
次に、スクロール型圧縮機10の作用を説明する。
スクロール型圧縮機10では、旋回スクロール51の1回転中に4回、旋回スクロール51に作用するモーメントを受け止める自転阻止ピン17が切り替わる。その切り替わり時において、自転阻止ピン17と収容部55とが当接する。このとき、各自転阻止ピン17によって荷重が受け止められる。
【0058】
自転阻止ピン17の基端部17aを保持する保持壁72は円筒状に立設しているため、保持壁72の外周面の全体が、内壁面70bから離れている。このため、荷重を受けた自転阻止ピン17は、保持壁72と共に容易に傾く。その結果、自転阻止ピン17が傾かない場合と比べると、自転阻止ピン17と収容部55との当接時の振動及び騒音が低減される。
【0059】
上記実施形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
(1)円筒状の保持壁72に自転阻止ピン17を保持させた。保持壁72の外周面の全体が内壁面70bから離れている。保持壁72は外周側から局所的に支持されることがないため、保持壁72の剛性は周方向に一様である。また、保持壁72を設けずに対向面15aに自転阻止ピン17を圧入した場合と比べると、保持壁72の剛性が低下している。このため、自転阻止ピン17が旋回スクロール51からの荷重を受け止めたとき、保持壁72の周方向のいずれの場所でも一様に荷重を受け止めつつ、保持壁72を傾かせて荷重を受け止めることができる。その結果として、自転阻止ピン17が荷重を受け止める際の変動を緩やかにして振動及び騒音を低減できる。
【0060】
(2)4本の自転阻止ピン17のうち、いずれか1本が理想位置からずれて配置されることがある。ずれた自転阻止ピン17には、他の3本の自転阻止ピン17に加わる荷重が加わるが、保持壁72に自転阻止ピン17を保持させたことにより、保持壁72から自転阻止ピン17が傾きやすい。このため、自転阻止ピン17と収容部55が当接するときの振動及び騒音を低減できる。
【0061】
(3)溝70の深さF1と保持壁72の深さF2は同じである。例えば、保持壁72の深さF2が溝70の深さF1より深い場合と比べると、自転阻止ピン17に対し荷重が加わったとき、保持壁72から自転阻止ピン17を傾かせやすい。
【0062】
(4)溝70によって、保持壁72の外周面の全体を、内壁面70bから離したことにより、保持壁72から自転阻止ピン17を傾かせやすい。このため、自転阻止ピン17に収容部55が当接するときの振動及び騒音を低減できる。よって、振動及び騒音を低減するために、自転阻止ピン17の位置ずれがないように精度良く配置したり、自転阻止ピン17の本数を増やしたりする必要がなく、これらを実施するための製造コストの増加を抑制できる。
【0063】
(5)圧縮ハウジング構成体15において、溝70により、保持壁72の外周面の全体を内壁面70bから離したことにより、自転阻止ピン17と収容部55とが当接したときの振動及び騒音を低減できる。溝70は、軸支部16を切削して形成されるため、圧縮ハウジング構成体15の軽量化を図ることができる。
【0064】
(6)溝70は、圧縮ハウジング構成体15の軸支部16に設けられている。このため、軸支部16の内側に外輪19aを圧入したときの軸支部16の変形を溝70により吸収できる。よって、軸支部16の変形を抑制できる。
【0065】
(7)油供給通路39の第3通路39cは、大径孔16cに連通している。そして、大径孔16cには油供給通路39から潤滑油が供給される。溝70は、大径孔16cに連通している。このため、大径孔16cに供給された潤滑油は、溝70内に供給される。その結果、溝70内の潤滑油を、自転阻止ピン17と収容部55との摺動部に供給できるため、摺動部を潤滑できる。
【0066】
(8)自転阻止ピン17が荷重を受け止める際の変動を緩やかにするため、リング部材55aを円筒状の保持部で保持し、かつ保持部の外周面を周囲から離すことで保持部の剛性を下げることが考えられる。リング部材55aの保持部と保持壁72とを同じ厚みとした場合、小径の保持壁72の方が剛性が下がる。したがって、保持壁72と同じ程度に保持部の剛性を下げるには、リング部材55aの保持部の厚みを薄くする必要がある。したがって、自転阻止ピン17を保持する保持壁72を採用することで簡単な加工で騒音及び振動を低減できる。
【0067】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○ 溝70を軸支部16の内周面に開口させずに設けてもよい。この場合、溝70は環状である。
【0068】
図6に示すように、圧縮ハウジング構成体15における軸支部16の対向面15aを第1面とする。この対向面15aに収容部55を設ける。旋回スクロール51の背面52aを第2面として、背面52aから収容部55に向けて自転阻止ピン17を突出させる。そして、旋回スクロール51の旋回基板52に保持壁72を設けてもよいし、更に溝70を設けてもよい。
【0069】
○ 溝70の深さF1と保持壁72の深さF2とを異ならせてもよい。
○ 軸受19は、軸支部16に対し圧入以外の方法で固定されていてもよい。
○ 油供給通路39の第3通路39cは、挿通孔16aに連通していなくてもよい。
【0070】
○ リング部材55aはなくてもよい。この場合、凹部55bそのものが収容部55となり、凹部55bの内周面に自転阻止ピン17の先端部17bが当接する。
○ ハウジング11内に油分離室26から排出された貯油室を設けてもよい。そして、貯油室を吐出圧領域とする。この貯油室に油供給通路39の第1端を接続してもよい。
【0071】
○ 自転阻止ピン17及び収容部55の数は変更してもよい。
○ 圧縮ハウジング構成体15の対向面15aに溝70を設けずに、対向面15aから保持壁72を立設してもよい。
【0072】
○ スクロール型圧縮機10は、電動モータ20によって駆動されるとしたが、内燃機関からの動力によって駆動されてもよい。
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
【0073】
(イ)前記保持壁には前記自転阻止ピンが圧入されている。
【符号の説明】
【0074】
10…スクロール型圧縮機、11…ハウジング、12…回転軸、15…圧縮ハウジング構成体、15a…第2面としての対向面、16a…挿通孔、17…自転阻止ピン、19…軸受、26…吐出圧領域としての油分離室、39…油供給通路、41…固定スクロール、46…圧縮室、51…旋回スクロール、52a…第1面としての背面、55…収容部、70…溝、72…保持壁、72a…先端面、72b…内底面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6