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  • 特許-4輪駆動車両の制御装置 図1
  • 特許-4輪駆動車両の制御装置 図2
  • 特許-4輪駆動車両の制御装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】4輪駆動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/35 20060101AFI20240820BHJP
   B60K 23/08 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B60K17/35 B
B60K23/08 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021050752
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148899
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】新井 政行
(72)【発明者】
【氏名】前田 直明
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-157894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/35
B60K 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源のトルクが伝達される左右の前輪と、
前記駆動力源のトルクがプロペラシャフトを介して伝達される左右の後輪と、
前記駆動力源のトルクを前記後輪側へ伝達する動力伝達経路に配設され、該後輪に対する伝達トルクを電気的に制御可能な電子制御式クラッチと、
運転者のパーキングブレーキ操作に従って前記後輪に制動力を付与するパーキングブレーキ装置と、
を備えている4輪駆動車両に関し、走行中に前記パーキングブレーキ装置が作動させられた場合に前記電子制御式クラッチを開放し、前記後輪をロックしてスリップさせながら旋回するパーキングブレーキターンを可能とした4輪駆動車両の制御装置において、
前記4輪駆動車両のヨーレイトが予め定められた判定値以上、前記4輪駆動車両の車両横加速度が予め定められた判定値以上、且つ前記4輪駆動車両のギヤ段が予め定められた判定値以下であることに基づいて前記4輪駆動車両を360°以上継続して旋回させるジムカーナターンであるか否かを判定するジムカーナ判定部を、有し、
前記パーキングブレーキターン中に前記パーキングブレーキ装置が解除された場合に、前記ジムカーナ判定部により前記4輪駆動車両のジムカーナターンであると判定されると、前記後輪を空転によりスリップさせながら旋回できるように前記電子制御式クラッチを締結し、前記ジムカーナ判定部により前記4輪駆動車両のジムカーナターンでないと判定されると、タイトコーナーブレーキング現象が発生しないように前記電子制御式クラッチをスリップ可能に係合させ
ことを特徴とする4輪駆動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は4輪駆動車両に係り、特に、左右の後輪をスリップさせながら旋回できるようにする制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 駆動力源のトルクが伝達される左右の前輪と、(b) 前記駆動力源のトルクがプロペラシャフトを介して伝達される左右の後輪と、(c) 前記駆動力源のトルクを前記後輪側へ伝達する動力伝達経路に配設され、その後輪に対する伝達トルクを電気的に制御可能な電子制御式クラッチと、を備えている4輪駆動車両が知られている(特許文献1参照)。また、特許文献2には、運転者のパーキングブレーキ操作に従って後輪に制動力を付与するパーキングブレーキ装置を有し、走行中にパーキングブレーキ装置が作動させられた場合に電子制御式クラッチを開放することにより、後輪をロックしてスリップさせながら旋回するパーキングブレーキターンを可能とした制御装置が提案されている。パーキングブレーキターンは、サイドブレーキターン、スピンターンとも言われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-208633号公報
【文献】特開平11-278088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記パーキングブレーキターンは、車両を180°程度以下の角度で旋回させる場合に行なわれるのが一般的であり、ジムカーナ等で360°以上継続して旋回させるジムカーナターン(スリップによるタイヤ痕がドーナツ形状になるターンで、ドーナツターンとも言われる)を行うことは困難である。すなわち、ジムカーナターンを行なうには後輪のスリップ状態を継続する必要があり、例えばパーキングブレーキターン中にパーキングブレーキ装置が解除された場合に、電子制御式クラッチを締結することにより後輪にトルクを伝達して空転させることが考えられるが、4輪駆動車両の場合、タイトコーナーブレーキング現象が発生しないように伝達トルク(クラッチの係合トルク)が抑制されるため、後輪を空転させてスリップ状態を継続することは難しい。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、4輪駆動車両においてもジムカーナターンを行なうことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、本発明は、(a) 駆動力源のトルクが伝達される左右の前輪と、(b) 前記駆動力源のトルクがプロペラシャフトを介して伝達される左右の後輪と、(c) 前記駆動力源のトルクを前記後輪側へ伝達する動力伝達経路に配設され、その後輪に対する伝達トルクを電気的に制御可能な電子制御式クラッチと、(d) 運転者のパーキングブレーキ操作に従って前記後輪に制動力を付与するパーキングブレーキ装置と、を備えている4輪駆動車両に関し、(e) 走行中に前記パーキングブレーキ装置が作動させられた場合に前記電子制御式クラッチを開放し、前記後輪をロックしてスリップさせながら旋回するパーキングブレーキターンを可能とした4輪駆動車両の制御装置において、(f) 前記4輪駆動車両のヨーレイトが予め定められた判定値以上、前記4輪駆動車両の車両横加速度が予め定められた判定値以上、且つ前記4輪駆動車両のギヤ段が予め定められた判定値以下であることに基づいて前記4輪駆動車両を360°以上継続して旋回させるジムカーナターンであるか否かを判定するジムカーナ判定部を、有し、(g) 前記パーキングブレーキターン中に前記パーキングブレーキ装置が解除された場合に、前記ジムカーナ判定部により前記4輪駆動車両のジムカーナターンであると判定されると、前記後輪を空転によりスリップさせながら旋回できるように前記電子制御式クラッチを締結し、前記ジムカーナ判定部により前記4輪駆動車両のジムカーナターンでないと判定されると、タイトコーナーブレーキング現象が発生しないように前記電子制御式クラッチをスリップ可能に係合させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このような制御装置を備えた4輪駆動車両においては、走行中にパーキングブレーキ装置が作動させられた場合に電子制御式クラッチが開放され、左右の後輪をロックしてスリップさせながら旋回するパーキングブレーキターンが行なわれ、そのパーキングブレーキターンの実行中にパーキングブレーキ装置が解除された場合に、ジムカーナ判定部により前記4輪駆動車両のジムカーナターンであると判定されると、後輪を空転によりスリップさせながら旋回できるように電子制御式クラッチが締結され、ジムカーナ判定部により4輪駆動車両のジムカーナターンでないと判定されると、タイトコーナーブレーキング現象が発生しないように電子制御式クラッチがスリップ可能に係合させられる。このため、前記ジムカーナ判定部により前記4輪駆動車両のジムカーナターンであると判定されると、アクセル操作等により電子制御式クラッチを介して後輪に所定のトルクが伝達されることにより、後輪を回転(空転)させることが可能となり、パーキングブレーキターン時の後輪のスリップ状態が継続して、そのままジムカーナターンへ移行することができる。また、ジムカーナ判定部により4輪駆動車両のジムカーナターンでないと判定されると、タイトコーナーブレーキング現象が発生しないように電子制御式クラッチをスリップ可能に係合させられ、後輪をロックしない通常旋回時のタイトコーナーブレーキング現象の発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用された4輪駆動車両の駆動系統を説明する骨子図である。
図2図1の電子制御装置が機能的に備えているクラッチ制御部によって実行される車両旋回時の3種類の制御を説明するフローチャートである。
図3】クラッチ制御部によって実行されるジムカーナ判定フラグのON、OFF切替制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
電子制御式クラッチは、例えば電磁クラッチをパイロットクラッチとしてカム機構を介してメインクラッチを摩擦係合させるように構成されるが、油圧クラッチをパイロットクラッチとして用いることもできるし、送りねじ機構等を用いてパイロットクラッチを係合させることもできる。また、電磁クラッチをそのまま電子制御式クラッチとして用いることもできるし、油圧式の摩擦クラッチを採用することもできるなど、伝達トルク(クラッチの係合トルク)を電気的に制御可能な種々のクラッチを採用することができる。この電子制御式クラッチは、例えばプロペラシャフトの端部或いは途中に設けられるが、左右の後輪ドライブシャフトに設けることもできるし、駆動力源のトルクを後輪側へ分配するトランスファ装置に設けることもできるなど、種々の態様が可能である。
【0010】
ジムカーナターンは、パーキングブレーキターンから後輪のスリップ状態を引き継いで実施されるが、通常の旋回走行時に電子制御式クラッチが締結されると、前後輪の回転差に起因してタイトコーナーブレーキング現象が発生する恐れがある。このため、パーキングブレーキ装置が解除された場合に、例えばヨーレイト、車両横G、ギヤ段等の車両状態に基づいてジムカーナターンか通常の旋回走行かを判断するジムカーナ判定部を設け、ジムカーナターンと判断した場合には電子制御式クラッチを締結するジムカーナターン制御が実行され、通常旋回時と判断した場合には電子制御式クラッチを例えば前後輪の差回転を吸収できるようにスリップ可能に係合させる通常旋回時制御が実行されるようにすることが望ましい。
【実施例
【0011】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された駆動力源前置式の前輪駆動(FF)を基本とする4輪駆動車両10(以下、単に車両10とも言う)の駆動系統を説明する骨子図である。この車両10は、駆動力源としてエンジン12を備えており、そのエンジン12により発生させられたトルク(駆動力)は、変速機14等を経て前輪用差動装置18に伝達され、左右の前輪ドライブシャフト20L、20Rを介して主駆動輪である左右の前輪22L、22Rへ伝達される。また、前輪用差動装置18へ伝達されたトルクの一部が、トランスファ装置24からプロペラシャフト26、電子制御式クラッチ28(以下、単にクラッチ28とも言う)を経て後輪用差動装置30に伝達され、左右の後輪ドライブシャフト32L、32Rを介して副駆動輪(補助駆動輪とも言われる)である左右の後輪34L、34Rへ伝達されることにより、前後輪の4輪駆動走行を行なうことができる。
【0012】
上記エンジン12は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関であるが、エンジン12の代わりに、或いはエンジン12に加えて、電動モータを駆動力源として用ることもできる。変速機14は、変速比(=入力回転数/出力回転数)が異なる複数のギヤ段Grを成立させることができる遊星歯車式等の有段変速機で、例えば前進5速のギヤ段Grを有し、自動的に或いは運転者の変速指示操作に従って切り替えられる。変速機14は、運転者の手動操作のみによって複数のギヤ段Grが切り替えられる手動変速機であっても良い。また、変速機14は、変速比を連続的に変化させることができるベルト式等の無段変速機であっても良い。
【0013】
クラッチ28は、トランスファ装置24から後輪34L、34R側へトルクを伝達する動力伝達経路に配設されて、その後輪34L、34Rへのトルク配分量(伝達トルク)を電気的に制御可能なトルク配分装置として機能する。このクラッチ28は、例えば図示しない電磁クラッチをパイロットクラッチとしてカム機構等を介してメインクラッチを摩擦係合させ、そのメインクラッチの係合トルクに応じて入力部材であるプロペラシャフト26から出力部材であるドライブピニオン軸36へトルクを伝達する。メインクラッチの係合トルク、すなわち後輪34L、34Rに対するトルク配分量は、電磁クラッチの係合トルクに対応する励磁電流によって連続的に制御することが可能で、その電磁クラッチの励磁電流は、車両10に搭載された電子制御装置60によって例えば走行状態等に応じて制御される。なお、前輪22L、22Rは、変速機14等を介してエンジン12に機械的に連結されており、クラッチ28の作動状態に拘らず走行時には常時エンジントルクが伝達される。
【0014】
車両10にはまた、運転者のパーキングブレーキ操作に従って後輪34L、34Rに制動力を付与するパーキングブレーキ装置40が設けられている。パーキングブレーキ装置40は、運転席の近傍に設けられた操作部材42と、左右の後輪34L、34Rにそれぞれ配設されたパーキングブレーキ作動部46L、46Rと、操作部材42とパーキングブレーキ作動部46L、46Rとを機械的に連結する連結機構44とを備えており、操作部材42が操作されることにより連結機構44を介してパーキングブレーキ作動部46L、46Rが機械的に作動させられ、左右の後輪34L、34Rにそれぞれ制動力が付与される。操作部材42は、例えば運転者によって引き上げ操作されるパーキングブレーキレバーや踏込み操作されるパーキングブレーキペダルなどである。連結機構44は、例えばブレーキケーブルやリンク機構などである。パーキングブレーキ作動部46L、46Rは、例えばリーディングトレーリング式ドラムブレーキなどである。スイッチ操作に従って電気的にパーキングブレーキ作動部46L、46Rを作動させる電動式のパーキングブレーキ装置を採用することもできる。
【0015】
このような車両10は、エンジン12のトルクを制御したり変速機14のギヤ段Grを切り替えたりクラッチ28の係合トルク(伝達トルク)を制御したりする制御装置として電子制御装置60を備えている。電子制御装置60は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等を有するマイクロコンピュータを備えて構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って各種制御の信号処理を実行する。電子制御装置60には、例えばアクセル操作量センサ70、車速センサ72、エンジン回転数センサ74、ヨーレイトセンサ76、横Gセンサ78、ギヤ位置センサ80、パーキングブレーキスイッチ82、舵角センサ84等が接続されており、アクセルペダルの操作量であるアクセル操作量Acc、車速V、エンジン回転数NE、ヨーレイト(ヨー角速度)Yaw、車両横G(車両横加速度)、変速機14のギヤ段Gr、パーキングブレーキ信号PB、操舵車輪(前輪22L、22R)の舵角Φなど、制御に必要な各種の情報を表す信号が供給される。アクセル操作量Accは運転者の要求出力や要求駆動力に相当する。車速Vは、例えば変速機14の出力回転数等から求められるが、前輪22L、22R、および後輪34L、34Rの各車輪速の平均値などから求めても良い。ギヤ段Grは、変速機14の変速制御の指令信号や作動状態などから判断できるが、変速機14の入力回転数および出力回転数から判断することもできる。パーキングブレーキ信号PBは、パーキングブレーキ装置40によるパーキングブレーキの作動状態を表す信号で、ONは作動状態(制動状態)、OFFは非作動状態(非制動状態)であり、例えば操作部材42であるパーキングブレーキレバーの引き上げ角度が所定値以上でONになる。舵角Φは、ステアリングホイールの回転操作角度でも良い。
【0016】
電子制御装置60は、機能的にエンジン制御部62、変速制御部64、クラッチ制御部66を備えている。エンジン制御部62は、例えばアクセル操作量Accおよび車速V等に基づいてエンジントルクを制御する。変速制御部64は、例えばアクセル操作量Accや車速V等をパラメータとして予め定められた変速マップに従って変速機14のギヤ段Grを自動的に切り替える自動変速制御を実行するとともに、運転者の変速指示操作に従ってギヤ段Grを切り替えるマニュアル変速制御を実行する。クラッチ制御部66は、車両発進時や、主駆動輪である前輪22L、22Rのスリップ発生時、雪道走行モードの選択時等の走行状態に応じて、所定のトルク配分量となるようにクラッチ28を係合制御する。
【0017】
クラッチ制御部66はまた、前記舵角Φが予め定められた所定値以上の車両旋回中に、図2のフローチャートのステップS1~S5(以下、ステップを省略して単にS1~S5と言う。他のフローチャートも同じ。)に従って信号処理を実行し、前後輪の差回転に起因するタイトコーナーブレーキング現象の発生を防止するとともに、パーキングブレーキターンやジムカーナターンを可能にする。パーキングブレーキターンは、パーキングブレーキ装置40により左右の後輪34L、34Rをロックして車両10を旋回させる運転で、一般に180°程度以下の旋回範囲で行なわれる。ジムカーナターンは、エンジン12からの伝達トルクで左右の後輪34L、34Rを空転させることにより、パーキングブレーキターンと合わせて車両10を360°以上継続して旋回させる運転であり、ジムカーナで行なわれることが望ましいが、ジムカーナ以外で行なうこともできる。図2のS3はタイトコーナーブレーキング現象の発生を防止しつつ旋回走行できるようにする通常旋回時制御部で、S4はジムカーナターンを可能にするジムカーナターン制御部で、S5はパーキングブレーキターンを可能にするパーキングブレーキターン制御部である。なお、図2等のフローチャートで菱形の判断ステップにおけるYESは肯定を意味し、NOは否定を意味する。
【0018】
図2のS1では、パーキングブレーキ信号PBに基づいてパーキングブレーキ装置40が作動状態(ON)か否かを判断し、ONの場合には、運転者がパーキングブレーキターンを行なう可能性があると判断してS5のパーキングブレーキターン制御を実行する。このパーキングブレーキターン制御は、クラッチ28を開放する制御である。すなわち、車両旋回中にパーキングブレーキ装置40が作動させられた場合にクラッチ28を開放すると、パーキングブレーキ装置40によって左右の後輪34L、34Rがロックされ、その後輪34L、34Rをスリップさせながら旋回するパーキングブレーキターンを行なうことが可能となる。
【0019】
S1の判断がNOの場合、すなわちパーキングブレーキ装置40が非作動の場合には、S2を実行してジムカーナ判定フラグがONか否かを判断する。ジムカーナ判定フラグは、図2のフローチャートと並行して実行される図3のフローチャートに従ってON、OFFが切り替えられ、運転者がパーキングブレーキターンに続いてジムカーナターンを行なう可能性がある場合にはONとされ、そうでない場合、すなわち通常の旋回走行の可能性が高い場合はOFFになる。したがって、ジムカーナ判定フラグがONの場合には、運転者がジムカーナターンを行なう可能性があるためS4のジムカーナターン制御を実行する。このジムカーナターン制御は、クラッチ28を完全に係合させるように締結する制御である。すなわち、パーキングブレーキターン中にパーキングブレーキ装置40が解除された場合にクラッチ28を締結すると、クラッチ28を介して後輪34L、34Rにエンジントルクが伝達されるようになるため、パーキングブレーキターンでスリップ中の後輪34L、34Rがアクセル操作量Accに応じて回転(空転)させられるようになる。これにより、パーキングブレーキターン時の後輪のスリップ状態が継続して、そのままジムカーナターンへ移行することができる。このジムカーナターンでは、前輪22L、22Rもスリップ(空転)させられる。
【0020】
上記S2の判断がNOの場合、すなわちジムカーナ判定フラグがOFFの場合は、S3の通常旋回時制御を実行する。この通常旋回時制御は、前後輪の差回転に起因するタイトコーナーブレーキング現象の発生を防止しつつ旋回走行できるようにクラッチ28の係合トルクを抑制する制御である。具体的には、クラッチ28のスリップによって前後輪の差回転を吸収できるように、クラッチ28の係合トルクを抑制する。旋回走行中にパーキングブレーキ装置40が非作動状態のままの通常の旋回走行時には、常にS1、S2に続いてS3が実行され、タイトコーナーブレーキング現象が発生しないようにクラッチ28がスリップ可能に係合制御される。
【0021】
ジムカーナ判定フラグのON、OFFを切り替える図3のフローチャートはジムカーナ判定部であり、例えば前記図2のフローチャートと同様に舵角Φが予め定められた所定値以上の車両旋回中に実行される。図3のSS1では、ヨーレイトYawが予め定められた判定値以上か否かを判断し、SS2では車両横Gが予め定められた判定値以上か否かを判断し、SS3ではギヤ段Grが予め定められた判定値以下か否かを判断する。これ等の判定値は、何れもパーキングブレーキターンが行なわれている場合にYESになるように定められており、ギヤ段Grの判定値は例えば変速比が大きい2速ギヤ段等の比較的低速のギヤ段である。そして、SS1~SS3の判断が何れもYESであればSS4を実行するが、何れか1つでもNOの場合はパーキングブレーキターンでないと判断し、SS6でジムカーナ判定フラグをOFFにする。SS1~SS3の一部を省略することもできるし、他の判定要件を追加しても良い。
【0022】
SS1~SS3の判断が何れもYESの場合に実行するSS4では、パーキングブレーキ装置40が作動状態(ON)か否かを判断する。そして、パーキングブレーキ装置40が作動状態の場合には、パーキングブレーキターンが行なわれていると判断し、引き続いてジムカーナターンが行なわれる可能性があるため、SS5でジムカーナ判定フラグをONにする。すなわち、ジムカーナ判定フラグは、パーキングブレーキターン中であるか否かを表すフラグと見做すこともできる。
【0023】
一方、SS4の判断がNOの場合、すなわちパーキングブレーキ装置40が非作動状態の場合には、ジムカーナ判定フラグのON、OFFを変更することなく終了し、SS1以下を繰り返し実行する。したがって、パーキングブレーキターン中にパーキングブレーキ装置40が解除された場合、その直後はジムカーナ判定フラグがONのままであり、図2のS2の判断がYESになってS4のジムカーナターン制御が行なわれ、運転者がジムカーナターンを行なうことが可能となる。また、パーキングブレーキターン中にパーキングブレーキ装置40が解除された場合でも、時間が経過してSS1~SS3の何れかの判断がNOになり、SS6でジムカーナ判定フラグがOFFにされると、図2のS2の判断がNOになってS3の通常旋回時制御が行なわれる。すなわち、パーキングブレーキターンからジムカーナターンを行なうことなく通常の旋回走行へ移行した場合には、通常旋回時制御でクラッチ28をスリップ可能に係合させることにより、タイトコーナーブレーキング現象の発生が防止される。
【0024】
このように、本実施例の車両10においては、走行中にパーキングブレーキ装置40が作動させられた場合にクラッチ28が開放され(S5)、左右の後輪34L、34Rをロックしてスリップさせながら旋回するパーキングブレーキターンが行なわれた場合に、そのパーキングブレーキターンの実行中にパーキングブレーキ装置40が解除されると(S1の判断がNO)、S2に続いてS4のジムカーナターン制御が行なわれ、後輪34L、34Rを空転によりスリップさせながら旋回できるようにクラッチ28が締結される。このため、アクセル操作によりクラッチ28を介して後輪34L、34Rに所定のトルクが伝達されることにより、後輪34L、34Rを空転させることが可能となり、パーキングブレーキターン時の後輪34L、34Rのスリップ状態が継続して、そのままジムカーナターンへ移行することができる。
【0025】
また、パーキングブレーキ装置40が解除された場合、すなわちS1の判断がNOとなった場合に、ヨーレイトYaw、車両横G、ギヤ段Grに基づいて図3のジムカーナ判定部によってON、OFFが切り替えられるジムカーナ判定フラグによってジムカーナターンか通常旋回時かを判断する。そして、ジムカーナターンと判断した場合にはS4を実行してクラッチ28を締結するジムカーナターン制御を実行し、通常旋回時と判断した場合には前後輪の差回転を吸収できるようにクラッチ28をスリップ可能に係合させる通常旋回時制御を実行するため、通常旋回時のタイトコーナーブレーキング現象の発生を抑制しつつ、ジムカーナターンを行なうことが可能となる。
【0026】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0027】
10:4輪駆動車両 12:エンジン(駆動力源) 22L、22R:前輪 26:プロペラシャフト 28:電子制御式クラッチ 34L、34R:後輪 40:パーキングブレーキ装置 60:電子制御装置(制御装置)
図1
図2
図3