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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】電池測定装置及び電池測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/50 20200101AFI20240820BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20240820BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240820BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240820BHJP
【FI】
G01R31/50 ZHV
G01R19/00 B
H01M10/48 P
G01R31/389
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021107923
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005756
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】北川 昌明
(72)【発明者】
【氏名】石部 功
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-134467(JP,A)
【文献】特開2021-077516(JP,A)
【文献】特開2021-012065(JP,A)
【文献】特開2018-179652(JP,A)
【文献】特開2018-032558(JP,A)
【文献】特表2020-532271(JP,A)
【文献】特開2021-012135(JP,A)
【文献】特開2007-085772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/50
G01R 19/00
G01R 31/36-31/396
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池(42)の状態を測定する電池測定装置(50)において、
前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路(81)上に設けられ、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御部(56)と、
前記正極と前記負極との間を結ぶ第2電気経路(82)上に設けられ、当該第2電気経路を介して、前記交流信号に対する前記蓄電池の電圧変動を入力する電圧測定部(50a,52)と、
前記電圧変動に基づいて複素インピーダンスに関する情報を算出する演算部(53)と、
前記複素インピーダンスに関する情報に基づいて、前記第2電気経路の異常及び異常の前兆を判定する判定部(53)と、を備え
前記判定部は、
前記複素インピーダンスの実部における今回値と前回値との差が第1閾値以上である場合において、前記複素インピーダンスの虚部における今回値と前回値との差が第2閾値未満の差である場合、異常の前兆である前記第2電気経路における接続不良又は配線不良が生じていると判定し、
前記複素インピーダンスの実部における今回値と前回値との差が第1閾値以上である場合において、前記複素インピーダンスの虚部における今回値と前回値との差が第2閾値以上の差である場合、前記蓄電池の異常又は前記第2電気経路の異常である断線が生じていると判定する電池測定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記複素インピーダンスの虚部における今回値と前回値との差が第2閾値以上の差である場合であって、前記複素インピーダンスの実部について、今回値が前回値よりも大きくなり、かつその差が前記第1閾値よりも大きい電池異常判定値以上である場合、前記蓄電池の異常が生じていると判定する請求項に記載の電池測定装置。
【請求項3】
前記判定部は、所定期間中、前記複素インピーダンスの虚部におけるN回目(Nは任意の整数)とN+1回目との差が第2閾値未満であるにもかかわらず、前記複素インピーダンスの実部におけるN回目とN+1回目との差が第1閾値以上であることが複数回繰り返される場合、前記第2電気経路における接続不良又は配線不良が生じていると判定する請求項1又は2に記載の電池測定装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記交流信号の測定周波数が、所定周波数以上である場合において、前記第2電気経路の異常及び異常の前兆を判定する請求項1~のうちいずれか1項に記載の電池測定装置。
【請求項5】
蓄電池(42)の状態を測定する電池測定装置(50)において、
前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路(81)上に設けられ、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御部(56)と、
前記正極と前記負極との間を結ぶ第2電気経路(82)上に設けられ、当該第2電気経路を介して、前記交流信号に対する前記蓄電池の電圧変動を入力する電圧測定部(50a,52)と、
前記電圧変動に基づいて複素インピーダンスに関する情報を算出する演算部(53)と、
前記複素インピーダンスに関する情報に基づいて、前記第2電気経路の異常及び異常の前兆を判定する判定部(53)と
前記第1電気経路に流れる交流信号を測定する電流測定部(56c)と、を備え、
前記演算部は、前記電流測定部により測定された交流信号の測定値と前記電圧変動に基づいて、複素インピーダンスに関する情報を算出するように構成され、
前記判定部は、前記電流測定部により測定された交流信号の測定値と、前記信号制御部により入出力させる交流信号との比較に基づいて、第1電気経路における異常を判定する電池測定装置。
【請求項6】
前記第1電気経路に流れる交流信号を測定する電流測定部(56c)を備え、
前記演算部は、前記電流測定部により測定された交流信号の測定値と前記電圧変動に基づいて、複素インピーダンスに関する情報を算出するように構成され、
前記判定部は、前記電流測定部により測定された交流信号の測定値と、前記信号制御部により入出力させる交流信号との比較に基づいて、第1電気経路における異常を判定する請求項1~のうちいずれか1項に記載の電池測定装置。
【請求項7】
蓄電池(42)の状態を測定する電池測定装置(50)が実施する電池測定方法において、
前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路上に設けられた信号制御部を利用して、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力させる信号制御ステップと、
前記正極と前記負極との間を結ぶ第2電気経路(82)上に設けられた電圧測定部(50a,52)を利用して、当該第2電気経路を介して、前記交流信号に対する前記蓄電池の電圧変動を取得する電圧取得ステップと、
前記電圧変動に基づいて複素インピーダンスに関する情報を算出する演算ステップと、
前記複素インピーダンスに関する情報に基づいて、前記第2電気経路の異常及び異常の前兆を判定する判定ステップと、を備え
前記判定ステップでは、
前記複素インピーダンスの実部における今回値と前回値との差が第1閾値以上である場合において、前記複素インピーダンスの虚部における今回値と前回値との差が第2閾値未満の差である場合、異常の前兆である前記第2電気経路における接続不良又は配線不良が生じていると判定し、
前記複素インピーダンスの実部における今回値と前回値との差が第1閾値以上である場合において、前記複素インピーダンスの虚部における今回値と前回値との差が第2閾値以上の差である場合、前記蓄電池の異常又は前記第2電気経路の異常である断線が生じていると判定する電池測定方法。
【請求項8】
蓄電池(42)の状態を測定する電池測定装置(50)が実施する電池測定方法において、
前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路上に設けられた信号制御部を利用して、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力させる信号制御ステップと、
前記正極と前記負極との間を結ぶ第2電気経路(82)上に設けられた電圧測定部(50a,52)を利用して、当該第2電気経路を介して、前記交流信号に対する前記蓄電池の電圧変動を取得する電圧取得ステップと、
前記電圧変動に基づいて複素インピーダンスに関する情報を算出する演算ステップと、
前記複素インピーダンスに関する情報に基づいて、前記第2電気経路の異常及び異常の前兆を判定する判定ステップと
前記第1電気経路に流れる交流信号を測定する電流測定ステップと、を備え、
前記演算ステップでは、前記電流測定ステップにより測定された交流信号の測定値と前記電圧変動に基づいて、複素インピーダンスに関する情報を算出し、
前記判定ステップでは、前記電流測定ステップにより測定された交流信号の測定値と、前記信号制御ステップにより入出力させる交流信号との比較に基づいて、第1電気経路における異常を判定する電池測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池測定装置及び電池測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電池セルの過放電状態及び過充電状態を検出する回路と電池セルとを接続する検出ライン(電気経路)の異常(接続不良等)を検出する構成が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、隣接する電池セルに対応する短絡スイッチのオンオフが制御された際の電圧検出の差に基づいて、検出ラインに異常が生じているか否かを判定する構成としている。これにより、検出ラインの断線に加えて、接続不良などにより検出ラインの配線抵抗が上昇するような不具合を、検出ラインの異常として適切に検出することができていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-102127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、検出ラインは通常、回路基板上に配線されており、電池監視回路と電池セルとの間における検出ライン上には、電池セルと検出ラインとを接続するためのハーネスやコネクタ、及びヒューズ、ビーズ、フィルタ回路などの素子が設けられていることが一般的である。このため、短絡スイッチをオンオフする際、これらの抵抗の大きさや、フィルタ回路の影響により、一時的に電圧降下し、測定電圧の検出精度が悪化する。このため、短絡スイッチをオンオフする際、電圧が復帰するまで電圧を測定することを待つ必要があった。したがって、電圧を頻繁に測定する必要がある場合、短絡スイッチをオンオフする時間を確保することができず、問題となっていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、測定精度の悪化を抑制しつつ、異常及び異常の前兆を検出することができる電池測定装置及び電池測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する蓄電池の状態を測定する電池測定装置は、前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路上に設けられ、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力する信号制御部と、前記正極と前記負極との間を結ぶ第2電気経路上に設けられ、当該第2電気経路を介して、前記交流信号に対する前記蓄電池の電圧変動を入力する電圧測定部と、前記電圧変動に基づいて複素インピーダンスに関する情報を算出する演算部と、前記複素インピーダンスに関する情報に基づいて、前記第2電気経路の異常及び異常の前兆を判定する判定部と、を備える。
【0008】
上記課題を解決する電池測定方法は、蓄電池の状態を測定する電池測定装置により実施され、前記蓄電池の正極と負極との間を結ぶ第1電気経路上に設けられた信号制御部を利用して、前記蓄電池から所定の交流信号を出力させる、又は前記蓄電池に所定の交流信号を入力させる信号制御ステップと、前記正極と前記負極との間を結ぶ第2電気経路上に設けられた電圧測定部を利用して、当該第2電気経路を介して、前記交流信号に対する前記蓄電池の電圧変動を取得する電圧取得ステップと、前記電圧変動に基づいて複素インピーダンスに関する情報を算出する演算ステップと、前記複素インピーダンスに関する情報に基づいて、前記第2電気経路の異常及び異常の前兆を判定する判定ステップと、を備える。
【0009】
第1電気経路に交流信号を入出力させると、当該交流信号に応じて蓄電池の電圧が変動し、当該電圧変動に基づいて複素インピーダンスに関する情報を算出することができる。この複素インピーダンスは、蓄電池の状態を反映するだけではなく、第2電気経路の状態も反映する。このため、複素インピーダンスに関する情報から、第2電気経路の異常やその前兆を判定することができる。
【0010】
また、第2電気経路には、電圧変動を測定するため、第1電気経路に流れる電流に比較して、微小な電流しか流れない。つまり、第1電気経路の電流を停止しても、それによる電圧の変動は微小である。このため、電圧測定部を利用して蓄電池の電圧を測定する場合に、第1電気経路の交流信号を停止しても、電圧降下の度合いが少ない。したがって、電圧を任意のタイミングで取得しても、電圧の測定精度の悪化を抑制することができる。又は電圧が正常な状態になるまでの待機時間を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電源システムの概略構成図。
図2】電池測定装置の構成を示すブロック図。
図3】電池測定装置と電池セルとの接続態様を示す模式図。
図4】インピーダンス算出処理のフローチャート。
図5】(a)は、接続不良時における複素インピーダンスの実部と虚部を示す図、(b)は、接続良好時における複素インピーダンスの実部と虚部を示す図。
図6】異常判定処理のフローチャート。
図7】(a)は、接続不良時における複素インピーダンスの実部を示す図、(b)は、切断時における複素インピーダンスの実部を示す図、(c)は、電池セルの異常時における複素インピーダンスの実部を示す図。
図8】別例における電池測定装置と電池セルとの接続態様を示す模式図。
図9】別例における電池測定装置と電池セルとの接続態様を示す模式図。
図10】別例における電池測定装置と電池セルとの接続態様を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、「電池測定装置」を車両(例えば、ハイブリッド車や電気自動車)の電源システムに適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1に示すように、電源システム10は、回転電機としてのモータ20と、モータ20に対して3相電流を流す電力変換器としてのインバータ30と、充放電可能な組電池40と、組電池40の状態を測定する電池測定装置50と、モータ20などを制御するECU60と、を備えている。
【0014】
モータ20は、車載主機であり、図示しない駆動輪と動力伝達可能とされている。本実施形態では、モータ20として、3相の永久磁石同期モータを用いている。
【0015】
インバータ30は、相巻線の相数と同数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、各アームに設けられたスイッチ(半導体スイッチング素子)のオンオフにより、各相巻線において通電電流が調整される。
【0016】
インバータ30には、図示しないインバータ制御装置が設けられており、インバータ制御装置は、モータ20における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、インバータ30における各スイッチのオンオフにより通電制御を実施する。これにより、インバータ制御装置は、組電池40からインバータ30を介してモータ20に電力を供給し、モータ20を力行駆動させる。また、インバータ制御装置は、駆動輪からの動力に基づいてモータ20を発電させ、インバータ30を介して、発電電力を変換して組電池40に供給し、組電池40を充電させる。
【0017】
組電池40は、インバータ30を介して、モータ20に電気的に接続されている。組電池40は、例えば百V以上となる端子間電圧を有し、複数の電池モジュール41が直列接続されて構成されている。電池モジュール41は、複数の電池セル42が直列接続されて構成されている。電池セル42として、例えば、リチウムイオン蓄電池や、ニッケル水素蓄電池を用いることができる。各電池セル42は、電解質と複数の電極とを有する蓄電池である。
【0018】
図1に示すように、組電池40の正極側電源端子に接続される正極側電源経路L1には、インバータ30等の電気負荷の正極側端子が接続されている。同様に、組電池40の負極側電源端子に接続される負極側電源経路L2には、インバータ30等の電気負荷の負極側端子が接続されている。なお、正極側電源経路L1及び負極側電源経路L2には、それぞれリレースイッチSMR(システムメインリレースイッチ)が設けられており、リレースイッチSMRにより、通電及び通電遮断が切り替え可能に構成されている。
【0019】
電池測定装置50は、各電池セル42の蓄電状態(SOC)及び劣化状態(SOH)などを測定する装置である。電池測定装置50は、ECU60に接続されており、各電池セル42の状態などを出力する。電池測定装置50の構成については、後述する。
【0020】
ECU60は、各種情報に基づいて、インバータ制御装置に対して力行駆動及び発電の要求を行う。各種情報には、例えば、アクセル及びブレーキの操作情報、車速、組電池40の状態などが含まれる。
【0021】
次に、電池測定装置50について詳しく説明する。図2に示すように、第1実施形態では、電池セル42毎の状態を測定し、監視できるように電池測定装置50が設けられている。
【0022】
電池測定装置50は、ASIC部50aと、フィルタ部55と、電流モジュレーション回路56と、を備えている。ASIC部50aは、安定化電源供給部51と、入出力部52と、演算部としてのマイコン部53と、通信部54と、を備えている。
【0023】
安定化電源供給部51は、電池セル42の電源ラインに接続されており、電池セル42から供給された電力を入出力部52、マイコン部53、及び通信部54に対して供給している。入出力部52、マイコン部53、及び通信部54は、この電力に基づいて駆動する。
【0024】
入出力部52は、測定対象とする電池セル42に対して接続されている。具体的に説明すると、入出力部52は、電池セル42から直流電圧を入力(測定)可能な直流電圧入力端子57を有する。直流電圧入力端子57は、電圧検出用の第3電気経路83を介して電池セル42に接続されている。電池セル42と直流電圧入力端子57との間における第3電気経路83には、フィルタ部55が設けられている。すなわち、直流電圧入力端子57の正極側端子57aと、負極側端子57bとの間には、フィルタ回路としてのRCフィルタ55a、及び保護素子としてのツェナーダイオード55bなどが設けられている。つまり、電池セル42に対して、RCフィルタ55aやツェナーダイオード55bなどが並列に接続されている。
【0025】
また、入出力部52は、電池セル42の端子間において、電池セル42の内部複素インピーダンス情報を反映した応答信号(電圧変動)を入力するための応答信号入力端子58を有する。応答信号入力端子58は、図3に示すように、第2電気経路82を介して電池セル42に接続されている。つまり、応答信号入力端子58の正極側端子は、第2電気経路82を介して電池セル42の正極側電源端子71aに接続され、応答信号入力端子58の負極側端子は、第2電気経路82を介して電池セル42の負極側電源端子71bに接続されている。本実施形態では、第2電気経路82と第3電気経路83とを独立して設けたが、一部又は全部を共用してもよい。以上により、入出力部52は、電圧測定部として機能する。
【0026】
なお、電池セル42の正極側電源端子71a及び負極側電源端子71bは、それぞれ電極(正極又は負極)に繋がっている。そして、応答信号入力端子58は、正極側電源端子71a及び負極側電源端子71bの接続可能な部分のうち、最も電極に近い箇所に接続されることが望ましい。また、直流電圧入力端子57の接続箇所も同様に、最も電極に近い箇所、又は応答信号入力端子58の接続箇所の次に近い箇所であることが望ましい。これにより、主電流又は均等化電流による電圧低下の影響を最低限にすることができる。
【0027】
また、入出力部52は、信号制御部としての電流モジュレーション回路56に接続されており、電流モジュレーション回路56に対して、電池セル42から出力させる正弦波信号(交流信号)を指示する指示信号を出力する指示信号出力端子59aを有する。また、入出力部52は、フィードバック信号入力端子59bを有する。フィードバック信号入力端子59bは、電流モジュレーション回路56を介して、電池セル42から実際に出力される(第1電気経路81を流れる)交流電流を、フィードバック信号(測定された交流電流、つまり、測定値)として入力する。
【0028】
また、入出力部52は、マイコン部53に接続されており、直流電圧入力端子57が入力した直流電圧や、応答信号入力端子58が入力した応答信号、フィードバック信号入力端子59bが入力したフィードバック信号などをマイコン部53に対して出力するように構成されている。なお、入出力部52は、内部にAD変換器を有しており、入力したアナログ信号をデジタル信号に変換してマイコン部53に出力するように構成されている。
【0029】
また、入出力部52は、マイコン部53から指示信号を入力するように構成されており、指示信号出力端子59aから、電流モジュレーション回路56に対して指示信号を出力するように構成されている。なお、入出力部52は、内部にDA変換器を有しており、マイコン部53から入力したデジタル信号をアナログ信号に変換して、電流モジュレーション回路56に対して指示信号を出力するように構成されている。また、電流モジュレーション回路56に指示信号により指示される交流信号(正弦波信号)は、直流バイアスがかけられており、正弦波信号が負の電流(電池セル42に対して逆流)とならないようになっている。
【0030】
電流モジュレーション回路56は、測定対象である電池セル42を電源として、所定の交流信号(正弦波信号)を出力させる回路である。電流モジュレーション回路56は、図3に示すように、電池セル42の正極側電源端子71aと負極側電源端子71bとを結ぶ第1電気経路81上に配置されている。本実施形態において、第1電気経路81と第2電気経路82とは独立して設けられている。
【0031】
図2に基づいて、具体的に説明すると、電流モジュレーション回路56は、スイッチ部としての半導体スイッチ素子56a(例えば、MOSFET)と、半導体スイッチ素子56aに直列に接続されたシャント抵抗としての抵抗56bとを有する。半導体スイッチ素子56aのドレイン端子は、第1電気経路81を介して電池セル42の正極側電源端子71aに接続され、半導体スイッチ素子56aのソース端子は、抵抗56bの一端に直列に接続されている。また、抵抗56bの他端は、第1電気経路81を介して電池セル42の負極側電源端子71bに接続されている。半導体スイッチ素子56aは、ドレイン端子とソース端子との間において通電量を調整可能に構成されている。また、半導体スイッチ素子56aの動作領域に応じて、半導体スイッチ素子56aにかかる電圧を調整するために、抵抗を電流モジュレーション回路内に直列に挿入する場合もある。
【0032】
また、電流モジュレーション回路56には、抵抗56bの両端に接続された電流測定部としての電流検出アンプ56cが設けられている。電流検出アンプ56cは、抵抗56bに流れる交流電流(つまり、第1電気経路81を流れる交流電流)を検出し、検出結果をフィードバック信号として、入出力部52のフィードバック信号入力端子59bに出力する。
【0033】
また、電流モジュレーション回路56には、フィードバック回路56dが設けられている。フィードバック回路56dは、入出力部52の指示信号出力端子59aから、指示信号を入力するとともに、電流検出アンプ56cからフィードバック信号を入力するように構成されている。そして、指示信号とフィードバック信号とを比較し、その結果を半導体スイッチ素子56aのゲート端子に出力するように構成されている。
【0034】
半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dからの信号に基づいて、指示信号により指示された正弦波信号(所定の交流信号)を電池セル42から出力させるように、ゲート・ソース間に印加する電圧を調整して、ドレイン・ソース間の電流量を調整する。なお、指示信号により指示される波形と、実際に抵抗56bに流れる波形との間に誤差が生じている場合、半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dからの信号に基づいて、その誤差が補正されるように、電流量を調整する。これにより、抵抗56bに流れる交流信号(正弦波信号)が安定化する。
【0035】
次に、電池セル42の複素インピーダンスの算出方法について説明する。電池測定装置50は、所定周期ごとに、図4に示すインピーダンス算出処理を実行する。
【0036】
インピーダンス算出処理において、マイコン部53は、最初に複素インピーダンスの測定周波数を設定する(ステップS101)。測定周波数は、予め決められた測定範囲内の周波数の中から設定される。
【0037】
次にマイコン部53は、測定周波数に基づいて、所定の交流信号(正弦波信号)の周波数を決定し、入出力部52に対して、当該交流信号の出力を指示する指示信号を出力する(ステップS102)。ステップS102が、信号制御ステップに相当する。
【0038】
入出力部52は、指示信号を入力すると、DA変換器により、アナログ信号に変換し、電流モジュレーション回路56に出力する。電流モジュレーション回路56は、指示信号に基づいて、電池セル42を電源として交流信号を出力させる。具体的には、半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dを介して入力された信号に基づき、指示信号により指示された交流信号を電池セル42から出力させるように、電流量を調整する。これにより、電池セル42から交流信号が出力される。
【0039】
電池セル42から交流信号を出力させると、すなわち、電池セル42に外乱を与えると、電池セル42の端子間に電池セル42の複素インピーダンスに関する情報を反映した電圧変動が生じる。入出力部52は、応答信号入力端子58を介して、その電圧変動を入力し、応答信号としてマイコン部53に出力する。その際、AD変換器により、デジタル信号に変換して出力する。
【0040】
ステップS102の実行後、マイコン部53は、入出力部52から応答信号を入力する(ステップS103)。また、マイコン部53は、電流モジュレーション回路56の抵抗56bに流れる交流電流をフィードバック信号として取得する(ステップS104)。具体的には、マイコン部53は、入出力部52を介して、電流検出アンプ56cから出力されたフィードバック信号を入力する。なお、フィードバック信号の代わりに、電流モジュレーション回路56に指示した指示信号に比例した値を取得してもよい。ステップS103が、電圧取得ステップに相当する。
【0041】
次に、マイコン部53は、応答信号及びフィードバック信号(測定された交流電流)に基づいて、電池セル42の複素インピーダンスに関する情報を算出する(ステップS105)。本実施形態では、マイコン部53は、フィードバック信号を参照信号として、応答信号を2位相ロックイン検出することにより、電池セル42の複素インピーダンスに関する情報を算出する。つまり、マイコン部53は、応答信号の実部、応答信号の虚部、電流信号の実部、及び電流信号の虚部等に基づいて複素インピーダンスの実部、虚部、絶対値、位相のすべて若しくはいずれかを算出する。ステップS105が、演算ステップに相当する。マイコン部53は、通信部54を介して、算出結果をECU60に出力する(ステップS106)。そして、算出処理を終了する。
【0042】
この算出処理は、測定範囲内の複数の周波数についての複素インピーダンスが算出されるまで繰り返し実行される。ECU60は、算出結果に基づいて、例えば、複素インピーダンス平面プロット(コールコールプロット)を作成し、電極及び電解質などの特性を把握する。例えば、蓄電状態(SOC)や劣化状態(SOH)を把握する。
【0043】
なお、コールコールプロット全体を必ずしも作成する必要はなく、その一部に着目してもよい。例えば、走行時、一定の時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOC、SOH及び電池温度等の走行時における変化を把握してもよい。または、1日毎、1周ごと、若しくは1年ごとといった時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOH等の変化を把握してもよい。
【0044】
また、電池測定装置50は、算出された複素インピーダンスに基づいて、電池セル42の異常を判定可能に構成されているとともに、第2電気経路82の異常及び異常の前兆を判定可能に構成されている。第2電気経路82の異常とは、具体的には、第2電気経路82における断線のことである。断線とは、完全に接続が絶たれ、通電不能の状態になることを指す。より詳しくは、電気経路の途中で、導体部分が切断され、導体部分を覆う絶縁被膜のみで繋がっている状態や、電気経路の途中で、経路が完全に切り離されて、空気による絶縁層ができている状態のことを断線という。等価回路的に言えば、断線した場合、絶縁被膜又は空気による絶縁層によって、いずれも大きな抵抗が経路上に配置された状態であるともいえる。
【0045】
また、第2電気経路82における異常の前兆とは、接続不良又は配線不良の状態になることである。以下では、まとめて接続不良等と示す場合がある。接続不良又は配線不良とは、通電はするものの、電気経路が切断寸前の状態であり、電気経路の抵抗が通常よりも増大している状態、若しくは変動している状態のことである。つまり、図示はされていないが、電池セル42と第2電気経路82との間には、配線を接続するための構成(例えば、ハーネスやコネクタ等)が存在し、何らかの事情で、これらの接続が外れかけ(緩くなり)、接続不良が生じる可能性がある。また、図示されていないが、第2電気経路82上には、回路を保護するための素子(例えば、ヒューズ等)やノイズを除去するための素子(ビーズ、フィルタ)があり、これらの劣化や故障等により、配線不良が生じる可能性がある。また、第2電気経路82における配線が切れかけて配線不良が生じる場合もある。
【0046】
ここで、複素インピーダンスと、第2電気経路82の断線との関係について説明する。第2電気経路82の断線している場合、電圧変動を測定することが困難となり、複素インピーダンスが測定不能、若しくは極めて小さい値となるため、判断可能である。
【0047】
次に、複素インピーダンスと、第2電気経路82の接続不良等との関係について説明する。図3に示すように、第2電気経路82には、配線インピーダンス82a,82bや配線間インピーダンス82cが存在している。配線インピーダンス82a,82bは、配線や経路に配置された各種回路素子に基づくインピーダンスが合成されたものである。配線間インピーダンス82cも同様に経路間に配置された回路素子や浮遊容量に基づくインピーダンスが合成されたものである。
【0048】
このため、第2電気経路82における電圧変動を入出力部52によって測定し、測定された電圧変動に基づいて、複素インピーダンスZを電池測定装置50によって算出する場合、算出された複素インピーダンスZは、電池セル42の内部複素インピーダンスのみならず、それらの配線インピーダンス82a,82bや配線間インピーダンス82cの影響を受ける。そして、接続不良等が生じた場合、一般的に、第2電気経路82における配線抵抗などが増大するため、配線インピーダンス82a,82bや配線間インピーダンス82cも変化する。
【0049】
より詳しく説明すると、図5(a)は、接続不良等が生じたときに算出された複素インピーダンスの実部(左図)と虚部(右図)を示す。図5(b)は、接続や配線が良好なときに算出された複素インピーダンスの実部(左図)と虚部(右図)を示す。図5は、複数回同じ条件で測定したものである。
【0050】
図5において、複素インピーダンスの虚部(右図)を比較すると、接続等が良好か不良かにかかわらず、測定周波数が所定周波数f1以上であれば、ほぼ同じ値が算出されることがわかる。一方、複素インピーダンスの実部(左図)を比較すると、測定周波数が所定周波数f1以上であれば、接続等が良好の場合、ほぼ同じ値が算出される(図5(b)参照)が、接続不良等の場合、算出される値にバラツキが生じることがわかる(図5(a)参照)。同じ条件であるにもかかわらず、接続不良等の場合に算出された複素インピーダンスの実部にバラツキが生じるのは、接続不良等によって経路の抵抗成分が増大若しくは変動するからだと考えられる。
【0051】
また、複素インピーダンスの虚部は、経路の容量成分に関連する値である。そして、接続不良等が生じて抵抗成分が増大しても容量成分への影響は少ない(あまり変動しない)。このため、接続不良等が生じても、通電しているのであれば交流信号を流すことにより測定される複素インピーダンスの虚部は、ほぼ同様に測定することができると考えられる。
【0052】
本実施形態では、この原理を利用して以下に説明するように第2電気経路82の異常及び異常の前兆を判定している。図6を参照してマイコン部53が実行する異常判定処理について説明する。異常判定処理は、例えば、インピーダンス算出処理の後に実行される。
【0053】
マイコン部53は、今回算出された複素インピーダンスのうち、所定周波数f1以上の特定周波数における複素インピーダンスの実部と虚部を取得する(ステップS201)。以降、ステップS201で取得された実部と虚部をそれぞれ今回値と示す場合がある。
【0054】
次に、マイコン部53は、前回算出された複素インピーダンスのうち、特定周波数における複素インピーダンスの実部と虚部を取得する(ステップS202)。以降、ステップS202で取得された実部と虚部をそれぞれ前回値と示す場合がある。前回算出された時点から今回算出された時点までの経過時間は、電池セル42の状態(SOC,電圧,SOH等)を含む測定条件が変化しないような短い時間であることが望ましい。なお、測定条件が同じであることを判定するのであれば、経過時間が長くても問題はない。
【0055】
次に、マイコン部53は、取得した複素インピーダンスの実部を比較し、今回値と前回値との差が第1閾値以上であるか否かを判定する(ステップS203)。この判定結果が否定の場合、マイコン部53は、異常判定処理を終了する。第1閾値は、少なくとも接続不良等が生じていることを示す閾値であり、予め実験などにより定められる。
【0056】
一方、ステップS203の判定結果が肯定の場合、マイコン部53は、取得した複素インピーダンスの虚部を比較し、今回値と前回値との差が第2閾値未満であるか否かを判定する(ステップS204)。第2閾値は、断線又は電池セル42の異常が生じていることを示す閾値であり、予め実験などにより定められる。この判定結果が肯定の場合、マイコン部53は、第2電気経路82の異常の前兆として第2電気経路82における接続不良等が生じている可能性があると判定する(ステップS205)。そして、マイコン部53は、第2電気経路82における接続不良等が生じている可能性がある旨をECU60等に通知して、異常判定処理を終了する。
【0057】
一方、ステップS204の判定結果が否定の場合(第2閾値以上である場合)、マイコン部53は、複素インピーダンスの実部について、今回値が前回値よりも大きくなり、かつその差が第1閾値よりも大きい電池異常判定値以上であるか否かを判定する(ステップS206)。この判定結果が肯定の場合、マイコン部53は、電池セル42に異常が生じている可能性があると判定する(ステップS207)。そして、マイコン部53は、電池セル42に異常が生じている可能性がある旨をECU60等に通知して、異常判定処理を終了する。
【0058】
ステップS207の判定結果が否定の場合、マイコン部53は、第2電気経路82に断線が生じている可能性があると判定する(ステップS208)。例えば、マイコン部53は、複素インピーダンスの実部について、今回値が前回値よりも第1閾値以上、小さくなる場合、第2電気経路82に断線が生じている可能性が高いと判定する。そして、異常判定処理を終了する。
【0059】
上述したように、マイコン部53は、異常判定処理を実施することにより、判定部としての機能を備えている。また、異常判定処理のステップS201~208が、判定ステップに相当する。インピーダンス算出処理及び異常判定処理を実施することにより、電池測定方法が電池測定装置50により実施されることとなる。
【0060】
以上、上記実施形態によれば、以下のような優れた効果を有する。
【0061】
第1電気経路81を介して電池セル42から交流信号を出力させると、当該交流信号に応じて電池セル42の電圧が変動する。電池測定装置50は、第2電気経路82を介してその電圧変動を測定し、測定された当該電圧変動に基づいて複素インピーダンスに関する情報を算出する。この複素インピーダンスは、電池セル42の内部状態を反映するだけではなく、第2電気経路82の状態も反映する。このため、複素インピーダンスに関する情報から、マイコン部53は、第2電気経路82の異常やその前兆を判定することができる。
【0062】
第2電気経路82及び第3電気経路83は電圧を検出するラインであるため、電圧変動を測定する際、第2電気経路82及び第3電気経路83には、第1電気経路81に流れる電流に比較して微小な電流しか流れない。つまり、第1電気経路81の電流を停止しても、それによる電圧の変動は微小である。このため、第2電気経路82又は第3電気経路83を介して電池セル42の電圧を測定する場合に、第1電気経路81の交流信号を停止しても、第2電気経路82及び第3電気経路83における電圧降下の度合いが少ない。したがって、電圧を任意のタイミングで取得しても、電圧の測定精度の悪化を抑制することができる。又は電圧が正常な状態になるまでの待機時間を少なくすることができる。
【0063】
接続不良等が生じた場合、第2電気経路82の抵抗成分は増大若しくは変動する。その一方、接続不良等が生じても、第2電気経路82の容量成分は変化しにくい。また、複素インピーダンスは、交流信号に応じた電圧変動に基づいて測定されるため、接続不良等が生じても、通電可能であれば、測定可能である。このため、複素インピーダンスに基づいて異常の前兆である接続不良等を判定することができる。
【0064】
そこで、マイコン部53は、複素インピーダンスの実部における今回値と前回値との差が第1閾値以上である場合において、複素インピーダンスの虚部における今回値と前回値との差が第2閾値未満の差である場合、異常の前兆である第2電気経路82における接続不良又は配線不良が生じている可能性があると判定する。また、マイコン部53は、複素インピーダンスの実部における今回値と前回値との差が第1閾値以上である場合において、複素インピーダンスの虚部における今回値と前回値との差が第2閾値以上の差である場合、電池セル42の異常又は第2電気経路82の異常である断線が生じている可能性があると判定する。これにより、複素インピーダンスに基づいて、第2電気経路82における接続不良等か、それとも第2電気経路82の断線若しくは電池セル42に異常が生じているかについて判定することができる。
【0065】
電池セル42が劣化する場合、基本的に、複素インピーダンスの実部が大きくなる傾向がある。一方、第2電気経路82が断線する場合、複素インピーダンスの実部は、極端に小さくなる。このため、マイコン部53は、複素インピーダンスの虚部における今回値と前回値との差が第2閾値以上の差である場合であって、複素インピーダンスの実部について、今回値が前回値よりも大きくなり、かつその差が第1閾値よりも大きい電池異常判定値以上である場合、電池セル42の異常が生じている可能性があると判定することとした。これにより、第2電気経路82の断線と、電池セル42の異常とを判別することができる。
【0066】
図5に示すように、測定周波数が所定周波数f1未満である場合、同じ条件下であっても、複素インピーダンスの実部及び虚部にバラツキが生じ、誤判定の要因となりうる。このため、マイコン部53は、交流信号の測定周波数が、所定周波数f1以上である場合において、第2電気経路82の異常及び異常の前兆を判定することとしている。これにより、誤判定を抑制することができる。
【0067】
(変形例)
・上記実施形態において、マイコン部53は、複素インピーダンスの今回値と前回値とを比較したが、測定条件が同じであれば、前回値に限る必要なく、前回値以外の過去の値であってもよい。
【0068】
・上記実施形態において、マイコン部53は、複素インピーダンスの履歴を参照して、異常及び異常の前兆を判定してもよい。具体的には、図7(a)に示すように、マイコン部53は、所定期間T10において、複素インピーダンスの虚部におけるN回目(Nは任意の整数)とN+1回目との差が第2閾値未満であるにもかかわらず、複素インピーダンスの実部におけるN回目とN+1回目との差が第1閾値以上であることが複数回繰り返される場合、第2電気経路82における接続不良等が生じていると判定してもよい。所定期間は、電池セル42の状態(SOC,電圧,SOH等)を含む測定条件が変化しないような短い時間であることが望ましい。ただし、測定条件が同じであることを判定するのであれば、所定時間が長くても問題はない。
【0069】
また、図7(b)に示すように、マイコン部53は、複素インピーダンスの実部におけるN回目よりも以前の値と、N+1回目以降との値との差が継続的に第1閾値以上である場合、第2電気経路82における断線が生じていると判定してもよい。
【0070】
また、図7(c)に示すように、マイコン部53は、複素インピーダンスの実部におけるN+1回目以降の値が、N回目以前の値よりも大きくなり、N回目以前の値とN+1回目以降との値との差が継続的に電池異常判定値以上である場合、電池セル42の異常が生じていると判定してもよい。
【0071】
・上記実施形態において、マイコン部53は、複素インピーダンスの実部及び虚部の値が、測定できない場合、断線している可能性があると判定してもよい。測定できない場合とは、例えば、本来なら測定可能な周波数範囲において、複素インピーダンスの実部又は虚部、若しくは両方が、測定可能レンジの最大値(又は最小値)近傍に張り付いた状態が継続する、若しくはいずれかの状態が交互に生じる場合である。
【0072】
・上記実施形態において、マイコン部53は、フィードバック信号に基づいて第1電気経路81の異常(断線など)を判定してもよい。具体的には、マイコン部53は、測定結果であるフィードバック信号と、指示した交流信号とを比較して、予め決められた閾値以上の差がある場合や、フィードバック信号を検出できない場合には、第1電気経路81に異常が生じていると判定してもよい。
【0073】
・上記実施形態において、図8に示すように、第1電気経路81における一部の配線が、第2電気経路82の一部の配線と共通化されていてもよい。図8では、共通している配線を、共通配線101,102として図示している。この場合、共通配線101,102において断線した場合、断線前と比較して、複素インピーダンスの実部の値が少なくとも10倍以上の大きさとなる。また、断線の前兆がある場合、測定された複素インピーダンスの実部の値が大きくなる、若しくは図5に示すように実部のバラツキが大きくなる。なお、複素インピーダンスの実部の値が2倍以上となった場合、前兆が生じていると判断可能である。また、前兆の場合、図5に示すように、測定周波数が所定周波数f1以上であれば、虚部におけるバラツキは生じない。
【0074】
・上記実施形態において、図9に示すように、第2電気経路82は、収容ケース内の電極に直接接続されていてもよい。具体的に説明すると、電池セル42は、電解液(電解質)と、正極43aと、負極43bと、正極43a及び負極43bの間に配置されたセパレータとを含む電極体44を備える。電極体44は、正極43aと負極43bとセパレータとの積層体が巻回されて構成されている。正極43a及び負極43bは、それぞれ正極側電源端子71aと負極側電源端子71bとに接続されており、正極側電源端子71aと負極側電源端子71bは、収容ケース45の外部に突出している。そして、収容ケース45の外部において、正極側電源端子71aと負極側電源端子71bは、第1電気経路81に接続されている。一方、第2電気経路82は、収容ケース45内にまで配線されており、収容ケース45の内部において正極43a及び負極43bにそれぞれ接続されている。これにより、電圧低下の影響を最低限にすることができる。
【0075】
・上記実施形態において、交流信号を電池セル42から出力させたが、外部電源から電池セル42に交流信号(交流電流又は交流電圧)を入力して外乱を与えてもよい。このとき、交流信号の入力により電池セル42の蓄電状態(SOC等)に変化がないように、充電電荷量と放電電荷量が等しくなるような交流信号を入力してもよい。なお、充電電荷量と放電電荷量に差をつけて、電池セル42の蓄電状態が所望の値となるように調整してもよい。車両用の電池測定装置50である場合、外部電源は、車載されているものでもよいし、車外の装置であってもよい。
【0076】
・上記実施形態において、図10に示すように、交流信号を、直列に接続された複数の電池セル42に対して入出力させてもよい。
【0077】
・上記実施形態において、電池測定装置50は、車載の組電池40以外の蓄電池の状態を測定してもよい。
【0078】
・上記実施形態の電池測定装置50を、車両として、HEV,EV,PHV,補機電池、電動飛行機、電動バイク、電動船舶に採用してもよい。また、上記実施形態において、電池セル42は、並列に接続されていてもよい。
【0079】
・上記実施形態において、マイコン部53が複素インピーダンスを算出する必要はなく、複素インピーダンスに関する情報を応答信号及び電流信号に基づいて算出し、ECU60等の外部装置に出力してもよい。なお、複素インピーダンスに関する情報は、例えば、複素インピーダンスの絶対値や位相差等を算出するために必要な途中経過(例えば、電流と電圧の実部と虚部のみ)のことである。そして、外部装置に最終結果、つまり、複素インピーダンスの絶対値及び位相差等を算出させてもよい。そして、外部装置に、第2電気経路82の異常等を判定させてもよい。
【0080】
・上記実施形態において、測定周波数ごとに応答信号(電圧変動)を解析し、複素インピーダンスの振幅、位相等を測定、算出する方法は、任意の方法でよく、例えば、ロックイン検出に限らず、ヘテロダイン検出、フーリエ変換等を利用してもよい。
【0081】
・上記実施形態において、フィードバック信号(検出信号)をロックイン検出(2位相検出)して、実際に電池セル42に流れる交流信号を抽出し、測定された交流信号と応答信号(電圧変動)に基づいて、複素インピーダンスに関する情報を取得してもよい。
【0082】
・上記実施形態において、測定された電圧変動及び交流電流を記憶しておき、記憶された電圧変動及び交流電流に基づいて、測定周波数ごとに順次解析するようにしてもよい。つまり、同時期に複数の交流信号について電圧変動を解析しなくてもよい。
【0083】
・上記実施形態における交流信号は、正弦波信号とされているが、交流信号であれば、任意に変更してよく、矩形波や三角波などであってもよい。
【0084】
この明細書における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0085】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0086】
42…電池セル、50…電池測定装置、50a…ASIC部、52…入出力部、53…マイコン部、81…第1電気経路、82…第2電気経路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10