(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】運動マネージャ、車両、車両の制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/00 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
B60W30/00
(21)【出願番号】P 2021149394
(22)【出願日】2021-09-14
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳久
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一城
(72)【発明者】
【氏名】神田 渉
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-32894(JP,A)
【文献】特開2017-30472(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転支援に関する行動計画に従った前記車両の運動を前記車両に設けられる複数のアクチュエータのうちの少なくともいずれかに要求する運動マネージャであって、
複数の行動計画を示す情報を受け付ける受付部と、
前記複数の行動計画を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて前記車両に対する運動要求を算出する算出部と、
前記算出部により算出された前記運動要求を前記複数のアクチュエータのうちの少なくともいずれかに分配する分配部とを備え、
前記受付部は、受け付けた前記複数の行動計画を示す情報を、前記車両の運動量を示す物理量の要求値と、前記車両の運動方向を示す情報と、前記行動計画に従った前記車両の運動の優先度を示す情報とを含む予め定められた項目に分類して、前記行動計画の設定元を特定、区別せずに、前記行動計画の目的に適した実現方法を選択できるように受け付ける、運動マネージャ。
【請求項2】
前記予め定められた項目は、前記行動計画に従った前記車両の運動の応答性および静粛性のうちの少なくともいずれかの優先度を示す情報をさらに含む、請求項1に記載の運動マネージャ。
【請求項3】
前記予め定められた項目は、運転支援のレベルを示す情報をさらに含む、請求項1または2に記載の運動マネージャ。
【請求項4】
車両の運転支援に関する複数の行動計画をそれぞれ独立して設定する複数の行動計画部と、
前記複数の行動計画部のうちの少なくともいずれかにおいて設定された行動計画に従った前記車両の運動を前記車両に設けられる複数のアクチュエータのうちの少なくともいずれかに要求する運動マネージャとを備え、
前記運動マネージャは、前記複数の行動計画部の各々において設定された前記行動計画を示す情報を、前記車両の運動量を示す物理量の要求値と、前記車両の運動方向を示す情報と、前記行動計画に従った前記車両の運動の優先度を示す情報とを含む予め定められた項目に分類して、前記行動計画の設定元を特定、区別せずに、前記行動計画の目的に適した実現方法を選択できるように受け付ける、車両。
【請求項5】
前記予め定められた項目は、前記行動計画に従った前記車両の運動の応答性および静粛性のうちの少なくともいずれかの優先度を示す情報をさらに含む、請求項4に記載の車両。
【請求項6】
前記予め定められた項目は、運転支援のレベルを示す情報をさらに含む、請求項4または5に記載の車両。
【請求項7】
コンピュータが、車両の運転支援に関する複数の行動計画を、前記車両の運動量を示す物理量の要求値と、前記車両の運動方向を示す情報と、行動計画に従った前記車両の運動の優先度を示す情報とを含む予め定められた項目に分類して、前記行動計画の設定元を特定、区別せずに、前記行動計画の目的に適した実現方法を選択できるように受け付けるステップと、
コンピュータが、受け付けた前記複数の行動計画を調停するステップと、
コンピュータが、調停結果に基づいて前記車両に対する運動要求を算出するステップと、
コンピュータが、算出された前記運動要求を前記車両に設けられる複数のアクチュエータのうちの少なくともいずれかに分配するステップとを含む、車両の制御方法。
【請求項8】
コンピュータに、
車両の運転支援に関する複数の行動計画を、前記車両の運動量を示す物理量の要求値と、前記車両の運動方向を示す情報と、行動計画に従った前記車両の運動の優先度を示す情報とを含む予め定められた項目に分類して、前記行動計画の設定元を特定、区別せずに、前記行動計画の目的に適した実現方法を選択できるように受け付けるステップと、
受け付けた前記複数の行動計画を調停するステップと、
調停結果に基づいて前記車両に対する運動要求を算出するステップと、
算出された前記運動要求を前記車両に設けられる複数のアクチュエータのうちの少なくともいずれかに分配するステップとを実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の運転支援に関する複数のアプリケーションから受ける行動計画を調停する運動マネージャの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転支援に関する行動計画を設定し、要求する複数のアプリケーションと、複数のアプリケーションからの複数の行動計画を一本化し、一本化した行動計画に基づいて運動要求を設定する運動マネージャと、設定された運動要求を実現するアクチュエータシステムとから構成される車両が公知である。この車両においては、たとえば、複数のアプリケーションの各々から運動マネージャに要求される行動計画に対して要求元のアプリケーションの特定が可能になるように識別情報(以下、IDと記載する)が付与される場合がある。運動マネージャは、付与されたIDと行動計画とを対応付けて取り扱い、運動要求を設定する。
【0003】
このような車両に関して、たとえば、特開2021-049990号公報(特許文献1)には、運転支援システムから複数の要求を受け付けて、複数の要求を調停し、アクチュエータシステムに対しての要求を設定する制御装置において、運転支援システムからの要求にアプリケーションの識別情報が含まれる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような車両において、たとえば、新たな機能を追加するためにアプリケーションが新たに追加される場合には、運動マネージャが取り扱うIDについても新たに追加されることになるため、IDに紐付くすべてのシステム(運動マネージャおよびアクチュエータシステム)に対して新たにIDを追加するための設計変更が発生する。設計変更箇所が多くなると、設計変更に時間を要し、アプリケーションの更新スピードや商品の展開スピードが鈍化する可能性がある。
【0006】
本開示は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、行動計画を設定するアプリケーションを新たに追加する場合でもアプリケーションの追加に起因する設計変更箇所の増加を抑制する運動マネージャ、車両、車両の制御方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に係る運動マネージャは、車両の運転支援に関する行動計画に従った車両の運動を車両に設けられる複数のアクチュエータのうちの少なくともいずれかに要求する運動マネージャである。この運動マネージャは、複数の行動計画を示す情報を受け付ける受付部と、複数の行動計画を調停する調停部と、調停部による調停結果に基づいて車両に対する運動要求を算出する算出部と、算出部により算出された運動要求を複数のアクチュエータのうちの少なくともいずれかに分配する分配部とを備える。受付部は、受け付けた複数の行動計画を示す情報を、車両の運動量を示す物理量の要求値と、車両の運動方向を示す情報と、行動計画に従った車両の運動の優先度を示す情報とを含む予め定められた項目に分類して、行動計画の設定元を特定、区別せずに、行動計画の目的に適した実現方法を選択できるように受け付ける。
【0008】
このようにすると、行動計画の設定元を特定、区別せずに(すなわち、ID等の識別情報を付与することなく)受け付けた行動計画に従った車両の運動を実現することができる。そのため、アプリケーションが新たに追加される場合でも予め定められた項目に分類可能な行動計画を受け付けることにより、アプリケーションの追加による設計変更の箇所の増加を抑制することができる。
【0009】
ある実施の形態においては、予め定められた項目は、行動計画に従った車両の運動の応答性および静粛性のうちの少なくともいずれかの優先度を示す情報をさらに含む。
【0010】
このようにすると、行動計画の設定元を区別せずに受け付けた行動計画に従った車両の運動を精度高く実現することができる。
【0011】
さらにある実施の形態においては、予め定められた項目は、運転支援のレベルを示す情報をさらに含む。
【0012】
このようにすると、行動計画の設定元を区別せずに受け付けた行動計画に従った車両の運動を精度高く実現することができる。
【0013】
本開示の他の局面に係る車両は、車両の運転支援に関する複数の行動計画をそれぞれ独立して設定する複数の行動計画部と、複数の行動計画部のうちの少なくともいずれかにおいて設定された行動計画に従った車両の運動を車両に設けられる複数のアクチュエータのうちの少なくともいずれかに要求する運動マネージャとを備える。運動マネージャは、複数の行動計画部の各々において設定された行動計画を示す情報を、車両の運動量を示す物理量の要求値と、車両の運動方向を示す情報と、行動計画に従った車両の運動の優先度を示す情報とを含む予め定められた項目に分類して、行動計画の設定元を特定、区別せずに、行動計画の目的に適した実現方法を選択できるように受け付ける。
【0014】
ある実施の形態においては、予め定められた項目は、行動計画に従った車両の運動の応答性および静粛性のうちの少なくともいずれかの優先度を示す情報をさらに含む。
【0015】
さらにある実施の形態においては、予め定められた項目は、運転支援のレベルを示す情報をさらに含む。
【0016】
本開示のさらに他の局面に係る車両の制御方法は、車両の運転支援に関する複数の行動計画を、車両の運動量を示す物理量の要求値と、車両の運動方向を示す情報と、行動計画に従った車両の運動の優先度を示す情報とを含む予め定められた項目に分類して、行動計画の設定元を特定、区別せずに、行動計画の目的に適した実現方法を選択できるように受け付けるステップと、受け付けた複数の行動計画を調停するステップと、調停結果に基づいて車両に対する運動要求を算出するステップと、算出された運動要求を車両に設けられる複数のアクチュエータのうちの少なくともいずれかに分配するステップとを含む。
【0017】
本開示のさらに他の局面に係るプログラムは、コンピュータに、車両の運転支援に関する複数の行動計画を、車両の運動量を示す物理量の要求値と、車両の運動方向を示す情報と、行動計画に従った車両の運動の優先度を示す情報とを含む予め定められた項目に分類して、行動計画の設定元を特定、区別せずに、行動計画の目的に適した実現方法を選択できるように受け付けるステップと、受け付けた複数の行動計画を調停するステップと、調停結果に基づいて車両に対する運動要求を算出するステップと、算出された運動要求を車両に設けられる複数のアクチュエータのうちの少なくともいずれかに分配するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によると、行動計画を設定するアプリケーションを新たに追加する場合でもアプリケーションの追加に起因する設計変更箇所の増加を抑制する運動マネージャ、車両、車両の制御方法およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】運動マネージャの動作の一例を説明するための図である。
【
図3】アプリIDを用いて複数の行動計画を調停する動作の一例を説明するための図である。
【
図4】運動マネージャ200において分類される予め定められた項目の一例を示す図である。
【
図5】アプリケーションに応じて設定される静粛性/応答性に関する制御パラメータの一例を示す。
【
図6】車両のシステム起動時に運動マネージャで実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
図1は、車両1の構成の一例を示す図である。
図1に示すように、車両1は、ADAS-ECU(Electronic Control Unit)10と、ブレーキECU20と、アクチュエータシステム30と、セントラルECU40とを含む。
【0022】
車両1は、後述する運転支援システムの機能を実現できる構成を有する車両であればよく、たとえば、エンジンを駆動源とする車両であってもよいし、あるいは、電動機を駆動源とする電気自動車であってもよいし、エンジンと電動機とを搭載し、少なくともいずれかを駆動源とするハイブリッド自動車であってもよい。
【0023】
ADAS-ECU10、ブレーキECU20およびセントラルECU40は、いずれもCPU(Central Processing Unit)などのプログラムを実行するプロセッサ、メモリ、および入出力インターフェースを有するコンピュータである。
【0024】
ADAS-ECU10は、車両1の運転支援に関する機能を有する運転支援システム100を含む。運転支援システム100は、実装されるアプリケーションを実行することにより、車両1の操舵制御、駆動制御および制動制御のうちの少なくともいずれかを含む車両1の運転を支援するための様々な機能を実現するように構成される。運転支援システム100において実装されるアプリケーションとしては、たとえば、自動運転システム(AD:Autonomous Driving System)の機能を実現するアプリケーション、自動駐車システムの機能を実現するアプリケーション、および、先端運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assist System)の機能を実現するアプリケーション(以下、ADASアプリケーションと記載する)などを含む。
【0025】
ADASアプリケーションとしては、たとえば、前走車との車間距離を一定に保ちながら走行する先行車との車間を保つ追従走行(ACC(Adaptive Cruise Control)など)の機能を実現するアプリケーション、制限車速を認識し自車の速度上限を維持するASL(Auto Speed Limiter)の機能を実現するアプリケーション、走行する車線の維持を行なう車線維持支援(LKA(Lane Keeping Assist)あるいはLTA(Lane Tracing Assist)など)の機能を実現するアプリケーション、衝突の被害を軽減させるために自動的に制動をかける衝突被害軽減ブレーキ(AEB(Autonomous Emergency Braking)あるいはPCS(Pre-Crash Safety)など)の機能を実現するアプリケーション、および、車両1の走行車線の逸脱を警告する車線逸脱警報(LDW(Lane Departure Warning)あるいはLDA(Lane Departure Alert)など)の機能を実現するアプリケーションのうちの少なくともいずれかが含まれる。
【0026】
この運転支援システム100の各アプリケーションは、図示しない複数のセンサから取得(入力)する車両周囲状況の情報やドライバの支援要求等に基づいて、アプリケーション単独での商品性(機能)を担保した行動計画の要求をブレーキECU20(より具体的には運動マネージャ200)に対して出力する。複数のセンサは、たとえば、前向きカメラ等のビジョンセンサ、レーダ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、あるいは、位置検出装置等を含む。
【0027】
前向きカメラは、たとえば、車室内のルームミラーの裏側に配置されており、車両の前方の画像の撮影に用いられる。レーダは、波長の短い電波を対象物に照射し、対象物から戻ってきた電波を検出して、対象物までの距離や方向を計測する距離計測装置である。LiDARは、レーザ光(赤外線などの光)をパルス状に照射し、対象物に反射して戻ってくるまでの時間によって距離を計測するための距離計測装置である。位置検出装置は、たとえば、地球の軌道上を周回する複数の衛星から受信する情報を用いて車両1の位置を検出するGPS(Global Positioning System)などによって構成される。
【0028】
各アプリケーションは、1つもしくは複数のセンサの検出結果を統合した車両周囲状況の情報を認識センサ情報として取得するとともに、スイッチ等のユーザインタフェース(図示せず)を経由したドライバの支援要求を取得する。各アプリケーションは、たとえば、複数のセンサによって取得された車両の周囲の画像や映像に対する人工知能(AI)や画像処理用プロセッサを用いた画像処理によって車両の周囲にある他の車両、障害物あるいは人を認識可能とする。
【0029】
また、行動計画には、たとえば、車両1に発生させる前後加速度/減速度に関する要求や、車両1の操舵角に関する要求や、車両1の停止保持に関する要求など、が含まれる。
【0030】
車両1に発生させる前後加速度/減速度に関する要求としては、たとえば、パワートレインシステム302に対する動作要求や、ブレーキシステム304に対する動作要求を含む。
【0031】
車両1の停止時保持に関する要求としては、たとえば、電動パーキングブレーキおよびパーキングロック機構(いずれも図示せず)のうちの少なくとも1つの作動の許可および禁止に関する要求を含む。
【0032】
電動パーキングブレーキは、たとえば、アクチュエータの動作によって車両1の車輪の回転を制限する。電動パーキングブレーキは、たとえば、車両1に設けられる複数の車輪のうちの一部に設けられるパーキングブレーキ用のブレーキをアクチュエータを用いて作動させて、車輪の回転を制限するように構成されてもよい。あるいは、電動パーキングブレーキは、パーキングブレーキ用のアクチュエータを動作させてブレーキシステム304の制動装置に供給される油圧を調整して、制動装置を作動させることにより車輪の回転を制限してもよい。
【0033】
パーキングロック機構は、アクチュエータの動作によりトランスミッションの出力軸の回転を制限する。パーキングロック機構は、たとえば、車両1のトランスミッション内の回転要素に連結して設けられる歯車(ロックギヤ)の歯部に対して、アクチュエータにより位置が調整されるパーキングロックポールの先端に設けられる突起部を嵌合させる。これにより、トランスミッションの出力軸の回転が制限され、駆動輪の車輪の回転が制限される。
【0034】
なお、運転支援システム100において実装されるアプリケーションとしては、特に上述したアプリケーションに限定されるものではなく、他の機能を実現するアプリケーションが追加されてもよいし、既存のアプリケーションが省略されてもよく、特に実装されるアプリケーションの数は限定されるものではない。
【0035】
また、本実施の形態においては、ADAS-ECU10が、複数のアプリケーションによって構成される運転支援システム100を含むものとして説明したが、たとえば、アプリケーション毎にECUが設けられてもよい。たとえば、自動運転システムの機能を実現するアプリケーションが実装されたECUと、自動駐車システムの機能を実現するアプリケーションが実装されたECUと、ADASアプリケーションが実装されたECUとによって運転支援システム100が構成されてもよい。
【0036】
ブレーキECU20は、運動マネージャ200を含む。本実施の形態においては、ブレーキECU20が、運動マネージャ200を含むハードウェア構成である場合を一例として説明するが、運動マネージャ200は、ブレーキECU20とは別の単体のECUとして設けられてもよいし、あるいは、ブレーキECU20とは異なる他のECUに含まれるようにしてもよい。ブレーキECU20は、ADAS-ECU10と、アクチュエータシステム30に含まれる各種ECUと、セントラルECU40との各々と通信可能に構成される。
【0037】
運動マネージャ200は、運転支援システム100の複数のアプリケーションの少なくともいずれかにおいて設定された行動計画に従った車両1の運動をアクチュエータシステム30に対して要求する。運動マネージャ200の詳細な構成については、後述する。
【0038】
アクチュエータシステム30は、運動マネージャ200から出力される車両1の運動の要求を実現するように構成される。アクチュエータシステム30は、複数のアクチュエータを含む。
図1においては、アクチュエータシステム30が、たとえば、パワートレインシステム302と、ブレーキシステム304と、ステアリングシステム306とをアクチュエータとして含む場合を一例として示している。なお、運動マネージャ200の要求先となるアクチュエータの個数としては、上述のような3つに限定されるものではなく、4つ以上であってもよいし、2つ以下であってもよいものとする。
【0039】
パワートレインシステム302は、車両1の駆動輪に駆動力を発生させることが可能なパワートレインと、パワートレインの動作を制御するECU(いずれも図示せず)とを含む。パワートレインは、たとえば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関、変速機や差動装置などを含むトランスミッション、駆動源となるモータジェネレータ、モータジェネレータに供給する電力を蓄電する蓄電装置、モータジェネレータと蓄電装置との間で相互に電力を変換する電力変換装置、燃料電池等の発電源等のうちの少なくともいずれかを含む。パワートレインの動作を制御するECUは、運動マネージャ200からのパワートレインシステム302における対応機器に対する運動の要求を実現するように対応機器を制御する。
【0040】
ブレーキシステム304は、たとえば、車両1の各車輪に設けられる、複数の制動装置を含む。制動装置は、たとえば、油圧を用いて制動力を発生させるディスクブレーキ等の油圧ブレーキを含む。なお、制動装置としては、たとえば、車輪に接続され、回生トルクを発生させるモータジェネレータをさらに含むようにしてもよい。複数の制動装置を用いた車両1の制動動作は、ブレーキECU20により制御される。ブレーキECU20には、たとえば、運動マネージャ200と別にブレーキシステム304を制御するための制御部(図示せず)が設けられる。
【0041】
ステアリングシステム306は、たとえば、車両1の操舵輪(たとえば、前輪)の舵角を変化可能な操舵装置と、操舵装置の動作を制御するECU(いずれも図示せず)とを含む。操舵装置は、たとえば、操作量に応じて舵角を変化させるステアリングホイールと、ステアリングホイールの操作とは別にアクチュエータにより舵角の調整が可能な電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)とを含む。操舵装置の動作を制御するECUは、EPSのアクチュエータの動作を制御する。
【0042】
セントラルECU40は、記憶内容の更新が可能なメモリ42を含む。セントラルECU40は、たとえば、ブレーキECU20と通信可能に構成されるとともに、図示しない通信モジュールを経由して図示しない車両1の外部の機器(たとえば、サーバ)と通信可能に構成される。セントラルECU40は、車両1の外部のサーバから更新情報を受信する場合に受信した更新情報を用いてメモリ42内に記憶される情報を更新する。メモリ42内には、所定の情報が記憶される。所定の情報は、たとえば、車両1のシステム起動時に各種ECUから読み出される情報を含む。
【0043】
本実施の形態において、セントラルECU40は、車両1のシステム起動時に各種ECUから所定の情報が読み出されるものとして説明したが、各種ECU間の通信を中継する等の機能(ゲートウエイ機能)を有するものであってもよい。
【0044】
以下、
図2を用いて運動マネージャ200の動作の一例について詳細に説明する。
図2は、運動マネージャ200の動作の一例を説明するための図である。
【0045】
図2には、運転支援システム100が、たとえば、AEB102と、LKA104と、ACC106と、ASL108とをアプリケーションとして含む場合が一例として示されている。運転支援システム100から運動マネージャ200に対しては、複数のアプリケーションのうちの少なくともいずれかにおいて設定された行動計画の要求が要求信号PLN1として送信される。
【0046】
要求信号PLN1としては、たとえば、ACC、AEBまたはASLにおいて行動計画の一つとして設定される目標加速度についての情報や、LKAにおいて行動計画の一つとして設定される目標曲率についての情報等を含む。
【0047】
運動マネージャ200は、受信した要求信号PLN1に含まれる行動計画の要求に基づいて車両1に要求する運動を設定し、設定された運動の実現をアクチュエータシステム30に要求する。すなわち、運動マネージャ200は、パワートレインシステム302に対する動作の要求を要求信号ACL1としてアクチュエータシステム30に送信する。運動マネージャ200は、ブレーキシステム304に対する動作の要求を要求信号BRK1としてアクチュエータシステム30に送信する。さらに、運動マネージャ200は、ステアリングシステム306に対する動作の要求を要求信号STR1としてアクチュエータシステム30に送信する。
【0048】
要求信号ACL1は、たとえば、駆動トルクまたは駆動力の要求値に関する情報や、調停の仕方に関する情報等(たとえば、最大値あるいは最小値を選択するか、ステップ的に変化させるか、徐変させるか等)を含む。
【0049】
要求信号BRK1は、たとえば、制動トルクの要求値に関する情報や、調停の仕方に関する情報(たとえば、ステップ的に変化させるか、徐変させるか等)や、制動の実施タイミングについての情報(即時実施か否か等)等を含む。
【0050】
要求信号STR1は、たとえば、目標舵角や、目標舵角が有効であるか否かについての情報や、ステアリングホイールの操作の支援トルクの上下限トルクに関する情報等を含む。
【0051】
アクチュエータシステム30を構成する複数のアクチュエータのうちの対応する要求信号を受信したアクチュエータにおいては、要求信号に含まれる動作の要求が実現されるように制御される。
【0052】
以下に、運動マネージャ200の構成の一例について説明する。
図2に示すように、運動マネージャ200は、受付部202と、調停部204と、算出部206と、分配部208とを含む。
【0053】
受付部202は、運転支援システム100の1つまたは複数のアプリケーションが出力する行動計画の要求を受け付ける。本実施の形態における行動計画の詳細については後述する。
【0054】
調停部204は、各アプリケーションから受付部202を介して受け付けた複数の行動計画の要求を調停する。この調停の処理としては、所定の選択基準に基づいて複数の行動計画の中から1つの行動計画を選択することが一例として挙げられる。また、調停の処理としては、複数の行動計画に基づいて新たな行動計画を設定することも他の例として挙げられる。なお、調停部204は、アクチュエータシステム30から受信する所定の情報をさらに加えて、複数の行動計画の要求を調停してもよい。さらに、調停部204は、調停結果に基づいて決定した行動計画に対応する車両1の運動よりも、ドライバ状態および車両状態に応じて求められる車両1の運動を一時的に優先させるか否かを判定してもよい。
【0055】
算出部206は、調停部204における行動計画の要求の調停結果およびその調停結果に基づいて決定した車両1の運動に基づいて、運動要求を算出する。この運動要求は、アクチュエータシステム30の少なくともいずれかのアクチュエータを制御するための物理量であり、行動計画の要求の物理量とは異なる物理量を含む。たとえば、行動計画の要求(第1の要求)が前後加速度である場合には、算出部206は、加速度を駆動力や駆動トルクに変換した値を運動要求(第2の要求)として算出する。
【0056】
分配部208は、算出部206によって算出された運動要求をアクチュエータシステム30の少なくとも一つのアクチュエータに分配する。分配部208は、たとえば、車両1の加速が要求される場合、パワートレインシステム302に対してのみに運動要求を分配する。あるいは、分配部208は、車両1の減速が要求される場合には、目標となる減速度を実現するためにパワートレインシステム302とブレーキシステム304とに運動要求を適切に分配する。
【0057】
アクチュエータシステム30のパワートレインシステム302からは、パワートレインシステム302の状態について情報が信号ACL2として運動マネージャ200に送信される。パワートレインシステム302の状態についての情報としては、たとえば、アクセルペダルの操作に関する情報や、パワートレインシステム302の実駆動トルクあるいは実駆動力に関する情報や、実シフトレンジ情報や、駆動トルクの上下限についての情報や、駆動力の上下限についての情報や、パワートレインシステム302の信頼性についての情報等が含まれる。
【0058】
アクチュエータシステム30のブレーキシステム304からは、ブレーキシステム304の状態についての情報が信号BRK2として運動マネージャ200に送信される。ブレーキシステム304の状態についての情報としては、たとえば、ブレーキペダルの操作に関する情報や、ドライバが要求する制動トルクに関する情報や、調停後の制動トルクの要求値に関する情報や、調停後の実制動トルクに関する情報や、ブレーキシステム304の信頼性に関する情報等が含まれる。
【0059】
アクチュエータシステム30のステアリングシステム306からは、ステアリングシステム306の状態についての情報が信号STR2として運動マネージャ200に送信される。ステアリングシステム306の状態についての情報としては、たとえば、ステアリングシステム306の信頼性に関する情報や、ドライバがステアリングホイールを把持しているかについての情報や、ステアリングホイールを操作するトルクに関する情報や、ステアリングホイールの回転角に関する情報等が含まれる。
【0060】
また、アクチュエータシステム30は、上述したパワートレインシステム302、ブレーキシステム304およびステアリングシステム306に加えてセンサ群308を含む。
【0061】
センサ群308は、車両1の挙動を検出する複数のセンサを含む。センサ群308は、たとえば、車両1の前後方向の車体加速度を検出する前後Gセンサと、車両1の左右方向の車体加速度を検出する横Gセンサと、各車輪に設けられ、車輪速を検出する車輪速センサと、ヨー方向の回転角(ヨー角)の角速度を検出するヨーレートセンサとを含む。センサ群308は、複数のセンサの検出結果を含む情報を信号VSS2として運動マネージャ200に送信する。すなわち、信号VSS2は、たとえば、前後Gセンサの検出値と、横Gセンサの検出値と、各車輪の車輪速センサの検出値と、ヨーレートセンサの検出値と、各センサの信頼性に関する情報とを含む。
【0062】
運動マネージャ200は、アクチュエータシステム30から受信した各種信号を受信すると、所定の情報を信号PLN2として運転支援システム100に送信する。
【0063】
なお、以上説明した、車両1に搭載された機器の構成および運動マネージャ200の構成は一例であって、適宜、追加、置換、変更、省略などが可能である。また、各機器の機能は適宜1つの機器に統合したり複数の機器に分散したりして実行することが可能である。
【0064】
以上のような構成を有する車両1において、運動マネージャ200は、上述したように、運転支援システム100の各アプリケーションから受け付けた複数の行動計画の要求の中から所定の選択基準に基づいて調停する。この調停の処理としては、所定の選択基準に基づいて複数の行動計画の中から1つの行動計画を選択するものとして説明したが、複数の行動計画の中から1つの行動計画を選択する方法として、たとえば、各アプリケーションが、行動計画とともに、自身のアプリケーションを一意に特定することができる識別情報(以下、「アプリID」と記載する)を用いて行動計画を選択することが考えられる。
【0065】
図3は、アプリIDを用いて複数の行動計画を調停する動作の一例を説明するための図である。
【0066】
図3(A)に示すように、たとえば、運転支援システム100がアプリケーション(1)100Aと、アプリケーション(2)100Bとを含むものとする。運動マネージャ200は、アプリケーション(1)100Aから要求量Aと、要求量Aの要求元がアプリケーション(1)100Aであることが特定可能な識別情報ID1とを受信するものとする。さらに、運動マネージャ200は、アプリケーション(2)100Bから要求量Bと、要求量Bの要求元がアプリケーション(2)100Bであることが特定可能な識別情報ID2とを受信するものとする。
【0067】
運動マネージャ200は、ID毎に要求の取り扱いを選ぶ。具体的には、運動マネージャ200において、たとえば、ID毎に優先度が設定されており、識別情報ID1が識別情報ID2よりも優先度が高い場合には、要求量Aと要求量Bとを受け付けると、要求量Aに従ってアクチュエータシステム30に対して運動要求を算出することになる。
【0068】
このような場合に、たとえば、
図3(B)に示すように、運転支援システム100において、新たな機能を有するアプリケーション(3)100Cが新たに追加される場合を想定する。このとき、アプリケーション(3)100Cは、要求量Cと、要求元がアプリケーション(3)100Cであることが特定可能な識別情報ID3とを行動計画として運動マネージャ200に出力する。そのため、運動マネージャ200としては、既存の識別情報ID1,ID2に加えて、新たな識別情報ID3に対する取り扱いを設定することが求められる。すなわち、識別情報に紐付く全てのシステム(運動マネージャ200およびアクチュエータシステム30)に対して新たに識別情報ID3で特定されるアプリケーション(3)100Cに対する取り扱いについての設計変更が発生することとなる。設計変更箇所が多くなると、設計変更に時間を要し、アプリケーションの更新スピードや商品の展開スピードが鈍化する可能性がある。
【0069】
そこで、本実施の形態においては、運動マネージャ200は、複数のアプリケーションから複数の行動計画を示す情報を受け付ける場合に、受け付けた複数の行動計画を示す情報を、車両1の運動量を示す物理量の要求値と、車両1の運動方向を示す情報と、行動計画に従った車両1の運動の優先度を示す情報とを含む予め定められた項目に分類して、行動計画の設定元を特定、区別せずに、行動計画の目的に適した実現方法を選択できるように受け付けるものとする。
【0070】
このようにすると、行動計画の設定元を特定、区別せずに(すなわち、ID等の識別情報を付与することなく)受け付けた行動計画に従った車両の運動を実現することができる。そのため、アプリケーションが新たに追加される場合でも予め定められた項目に分類可能な行動計画を受け付けることにより、アプリケーションの追加による設計変更の箇所の増加を抑制することができる。
【0071】
以下に、運動マネージャ200において分類される予め定められた項目について
図4を参照しつつ説明する。
図4は、運動マネージャ200において分類される予め定められた項目の一例を示す図である。
【0072】
本実施の形態において、予め定められた項目としては、
図4に示すように、(A)要求物理量と、(B)要求元ECUと、(C)動きの方向と、(D)支援のレベルと、(E)実行の優先度と、(F)静粛性と、(G)動作制限とが含まれる。すなわち、予め定められた項目としては、ECUの構成と要求内容とがわかる諸元情報(静的な情報)によって構成される(A)~(D)の項目と、アプリ要求を実現するときに守るべき条件(動的な情報)によって構成される(E)~(G)の項目とを含む。
【0073】
たとえば、複数のアプリケーションのうちの各々において行動計画が設定されると、アプリケーションは、設定した行動計画を運動マネージャ200に送信する。運動マネージャ200は、設定元を区別することなく、受信した行動計画を上述の(A)~(G)のうちの対応する項目に分類する。行動計画としては、たとえば、行動計画に含まれる情報を少なくとも(A)、(C)~(G)の項目に分類可能な形式で設定される。なお、(B)要求元ECUの項目についての情報については、運動マネージャ200は、たとえば、車両1のシステム起動時に、セントラルECU40から複数のアプリケーションの要求元になるECUについての情報を取得する。
【0074】
以下に、運動マネージャ200において分類される予め定められた項目(A)~(G)について詳細に説明する。
【0075】
(A)要求物理量は、各アプリケーションにおいて車両1に要求する運動を実現するための物理量の要求値を示す。なお、要求値としては、たとえば、一つの値であってもよいし、あるいは、上限値と下限値との二つの値による一定の幅を有するものであってもよい。物理量は、アプリケーションによって異なる物理量が設定され、たとえば、加速度、力あるいは舵角等を含む。また、アプリケーションにおいて要求される物理量としては、1つの物理量に限定されるものではなく、たとえば、1つのアプリケーションにおいて複数種類の物理量の要求値が設定されてもよい。
【0076】
本実施の形態において、(A)要求物理量としては、たとえば、(1)対地加速度の要求値と、(2)総合駆動力の要求値と、(3)推進力の要求値と、(4)制動力の要求値と、(5)舵角の要求値とのうちの少なくともいずれかが含まれるものとする。
【0077】
(1)対地加速度は、車両1の加速度または減速度を示す。(2)総合駆動力は、たとえば、走行抵抗等の抵抗力を含む車両1の総合的な駆動力を示す。(3)推進力は、パワートレインシステム302が車両1の進行方向に作用させる力を示す。(4)制動力は、ブレーキシステム304の複数の制動装置によって車両1を制動させる力を示す。(5)舵角は、操舵輪の舵角を示す。
【0078】
(B)要求元ECUは、アプリケーションを有するECUを示す。たとえば、複数のアプリケーションが複数のECUにおいて構成される場合に、要求元ECUの情報によって、行動計画が設定されたECUや当該ECUからの情報の伝達経路を把握することが可能となる。たとえば、車両1にアプリケーションを含むECUとして、第1ECU、第2ECUおよび第3ECUが設けられる場合には、(B)要求元ECUとしては、たとえば、(1)第1ECUと、(2)第2ECUと、(3)第3ECUとが含まれるものとする。第1ECU、第2ECUおよび第3ECUとしては、たとえば、上述の複数のアプリケーションを含むADAS-ECU10のほかに、EPBやパーキングロック機構についての行動計画を設定するECUや、自動運転キットとのインターフェースを行なうECU等が含まれるようにしてもよい。運動マネージャ200は、要求元ECUの情報に基づいて車両1がどのようなアプリケーションを有する車両であるか(自動運転が可能な車両であるか、自動運転の機能はないが自動駐車の機能がある車両であるか、自動運転の機能がなく、EPBやパーキングロック機構のみの制御が可能な車両であるか等)を把握してもよい。
【0079】
(C)動きの方向は、車両1に要求される運動(動き)の方向を示す。アプリケーションが要求する車両1の動きとしては、たとえば、前後方向の動きと、左右方向(横方向)の動きと、前後方向と左右方向とが連携した動きとを含む。そのため、(C)動きの方向としては、(1)前後方向と、(2)左右方向と、(3)前後+左右方向とのうちのいずれかが含まれるものとする。
【0080】
(D)支援のレベルとしては、アプリケーションが車両1に対して、動き(位置変化)を要求するか、あるいは、力(速度や加速度の変化)を要求するかについて、さらに、要求を実現するタイミングや期間等が優先順位をつけて設定される。そのため、(D)支援のレベルとしては、たとえば、(1)動きかつ将来目標、(2)動きかつ直近目標、(3)力かつ定常目標、(4)力かつ過渡目標、(5)動きかつ作動全域の時間プロファイル、(6)力かつ作動全域の時間プロファイルのうちのいずれかが含まれるものとする。これらの(1)~(6)のうちの優先順位が予め設定される。優先順位は、たとえば、(1)~(6)の番号順であって、少ない番号であるほど優先順位が高いものとしてもよいし、あるいは、(1)~(6)の番号とは別に優先順位が別途設定されてもよい。
【0081】
(E)実行の優先度は、アプリケーションにおいて設定される行動計画の実行の優先順位を示す。(E)実行の優先度としては、(1)緊急と、(2)常用(低G)と、(3)常用(高G)と、(4)法規等要件とのうちのいずれかが含まれるものとする。(1)緊急は、緊急性が高い運動であって、優先順位としては最も高く設定される。なお、(1)緊急には、たとえば、車両の前後方向の動きについて緊急であるか、車両の旋回方向の動きについて緊急であるか特定可能な情報が付加されるものとする。(2)常用(低G)は、車両1の加速度がしきい値以下の低い加速度域の運動であって、(1)緊急よりも優先順位が低く設定される。(3)常用(高G)は、車両1の加速度がしきい値よりも高い加速度域の運動であって、(2)常用(低G)よりも優先順位が低く設定される。(4)法規等要件に従った運動であって、(3)常用(高G)よりも優先順位が低く設定される。
【0082】
たとえば、AEBのアプリケーションから減速要求を含む行動計画が出力される場合には、運動マネージャ200にて当該行動計画に対応する(E)実行の優先度は、(1)緊急(車両の前後方向について)に分類されることとなる。
【0083】
(F)静粛性は、静粛性が高い車両1の運動が要求されるか、応答性が高い車両1の運動が要求されるか、静粛性と応答性とをバランスさせた車両1の運動が要求されるかを示す。(F)静粛性としては、(1)応答性重視と、(2)応答性と静粛性とをバランスと、(3)静粛性重視とのうちのいずれかが含まれるものとする。
【0084】
たとえば、AEBのアプリケーションから減速要求を含む行動計画が出力される場合には、運動マネージャ200にて当該行動計画に対応する(F)静粛性は、(1)応答性重視に分類されることとなる。
【0085】
(F)静粛性として、たとえば、(1)応答性重視が設定されている場合には、FF(Feed Forward)制御およびFB(Feed back)制御の制御パラメータとして「高ゲイン」に対応する値が設定される。また、(F)静粛性として、たとえば、(2)応答性と静粛性とをバランスが設定されている場合には、FF制御およびFB制御の制御パラメータとして「中ゲイン」に対応する値が設定される。さらに、(F)静粛性として、たとえば、(3)静粛性重視が設定されている場合には、FF制御およびFB制御の制御パラメータとして「低ゲイン」に対応する値が設定される。
【0086】
図5は、アプリケーションに応じて設定される静粛性/応答性に関する制御パラメータの一例を示す。
図5には、たとえば、AEBのアプリケーションと、ACCのアプリケーションと、低速域機能のアプリケーションとの各々において設定される行動計画における制御パラメータ(FF制御における初回制御量およびFB制御におけるゲイン)が示される。低速域機能としては、たとえば、自動駐車時の速度制御や、ACCの速度域よりも低い速度域での速度制御などを含む。また、
図5においては、アプリケーション毎に設定される制御パラメータの設定パターンのうちの応答性が他のアプリケーションよりも高い設定パターンを便宜上の呼び名として「高ゲイン」と記載し、他のアプリケーションよりも応答性が低い設定パターンを「低ゲイン」と記載し、他のアプリケーションと比較して応答性が中程度の設定パターンを「中ゲイン」と記載している。
【0087】
たとえば、AEBのアプリケーションにおいて設定される行動計画の(F)静粛性の項目としては(1)応答性重視に分類される。この場合、制御パラメータとしては高ゲインの値が設定されることとなる。すなわち、AEBのアプリケーションにおいて設定される行動計画が実現される場合には、車両1の速度制御におけるFF制御の初期制御量としてS1が設定され、フィードバック制御におけるP項のゲインとしてGp1が設定され、I項のゲインとしてGi1が設定されることとなる。
【0088】
たとえば、ACCのアプリケーションにおいて設定される行動計画の(F)静粛性の項目として(2)応答性と静粛性とをバランスに分類される。この場合、制御パラメータとして中ゲインの値が設定されることとなる。すなわち、ACCのアプリケーションにおいて設定される行動計画が実現される場合には、車両1の速度制御におけるFF制御の初期制御量としてS2が設定され、フィードバック制御におけるP項のゲインとしてGp2が設定され、I項のゲインとしてGi2が設定されることとなる。
【0089】
たとえば、低速域機能のアプリケーションにおいて設定される行動計画の(F)静粛性の項目として(3)静粛性重視に分類される。この場合、制御パラメータとして低ゲインの値が設定されることとなる。すなわち、低速域機能のアプリケーションにおいて設定される行動計画が実現される場合には、車両1の速度制御におけるFF制御の初期制御量としてS3が設定され、フィードバック制御におけるP項のゲインとしてGp3が設定され、I項のゲインとしてGi3が設定されることとなる。
【0090】
(G)動作制限は、車両1に搭載される特定の機器の動作の許否について規定する項目である。特定の機器としては、たとえば、エンジンやトルクコンバータのロックアップ機構付きの自動変速機等を含む。そのため、たとえば、車両1がエンジンとトルクコンバータのロックアップ機構付きの自動変速機を含む場合においては、(G)動作制限としては、(1)フューエルカット禁止、(2)トルクコンバータのロックアップ禁止、および、(3)ダウンシフト禁止のうちの少なくともいずれかが含まれる場合がある。
【0091】
各アプリケーションは、行動計画を設定し、設定した行動計画を運動マネージャ200に送信する。アプリケーションが新たに追加される場合には、新たに追加されるアプリケーションは、上述の(A)~(G)の予め定められた項目に分類可能な形式で行動計画を設定するものとし、設定された行動計画を運動マネージャ200に送信するものとする。
【0092】
運動マネージャ200は、受付部202を介して追加されたアプリケーションを含む複数のアプリケーションの各々から行動計画を受け付ける。運動マネージャ200の調停部204は、受け付けた複数の行動計画を調停する。
【0093】
たとえば、運動マネージャ200は、(A)~(G)に分類された複数の行動計画のうちの1つを選択する。運動マネージャ200は、たとえば、受信した複数の行動計画のうち(E)実行の優先度における優先順位が高い行動計画を選択する。あるいは、運動マネージャ200は、たとえば、受信した複数の行動計画のうち、たとえば、(E)実行の優先度において優先順位が同じ行動計画が複数ある場合には、(D)支援のレベルにおける優先順位が高い行動計画を選択する。
【0094】
運動マネージャ200の算出部206は、選択した行動計画に沿った車両1の運動が実現するように、選択された行動計画に対応する(A)~(G)の予め定められた項目に従った車両1の運動要求を算出する。運動マネージャ200の分配部208は、アクチュエータシステム30のうちの(C)動きの方向に対応した少なくとも一つのアクチュエータに算出した運動要求を分配する。
【0095】
運動マネージャ200は、たとえば、車両1のシステム起動時に、要求元ECUと複数のアプリケーションとを対応付けた情報を含む所定の情報をセントラルECU40から取得する。これにより、運動マネージャ200は、要求元ECUを把握するとともに、車両1がどのようなアプリケーションを有し、どのような行動計画が設定される車両であるかを認識することができる。
【0096】
運動マネージャ200は、車両1のシステム起動時に、セントラルECU40のメモリ42から複数のアプリケーションと要求元ECUとの対応関係を示す情報を取得するとともに、行動計画を分類する項目についての情報を取得する。これらの情報により運動マネージャ200が分類する項目として上述の(A)~(D)に示す要求の項目と、上述の(E)~(G)の動作要件の項目とが設定される。
【0097】
図6は、車両1のシステム起動時に運動マネージャ200で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【0098】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、運動マネージャ200は、車両1のシステム起動時であるか否かを判定する。運動マネージャ200は、たとえば、車両1のシステムが停止状態である場合に、車両1のシステムを起動する起動条件が成立したときに車両1のシステム起動時であると判定してもよい。運動マネージャ200は、たとえば、車両1のシステムが停止状態である場合に、ユーザにより車両1のシステムを起動するための操作が行なわれた場合に、起動条件が成立したとして車両1のシステム起動時であると判定してもよい。車両1のシステム起動時であると判定される場合(S100にてYES)、処理はS102に移される。なお、車両1のシステム起動時でないと判定される場合(S100にてNO)、この処理は終了される。
【0099】
S102にて、運動マネージャ200は、要求元ECUと複数のアプリケーションとの対応関係を示す情報をセントラルECU40のメモリ42から取得する。
【0100】
S104にて、運動マネージャ200は、運動マネージャ200が分類する項目として要求の項目と動作要件の項目とをセントラルECU40のメモリ42から取得する。
【0101】
S106にて、運動マネージャ200は、運動マネージャ200が分類する項目を設定する。なお、運動マネージャ200は、たとえば、車両1に実装される複数のアプリケーションや要求元ECUとの関係から上述の(A)~(G)のうちのいずれかの項目(たとえば、(G)動作制限等)を省略して運動マネージャ200が分類する項目を設定してもよい。
【0102】
以上のような構造およびフローチャートに基づく運動マネージャ200の動作の一例について説明する。
【0103】
たとえば、車両1のシステムが停止状態である場合を想定する。ユーザが起動スイッチを操作するなどして車両1のシステムが起動すると(S100にてYES)、要求元ECUと複数のアプリケーションとの対応関係を示す情報がセントラルECU40から取得される(S102)。そして、運動マネージャ200が分類する項目として要求の項目と動作要件の項目とがセントラルECU40から取得される(S104)。取得した情報を用いて運動マネージャ200が分類する項目(上述の(A)~(G))が、各ECUが持つ主機能の演算開始よりも前に設定される(S106)。
【0104】
そのため、運動マネージャ200は、車両1のシステム起動後においては、各アプリケーションから受信する行動計画を上述の(A)~(G)の項目に分類して受け付ける。運動マネージャ200は、複数の行動計画を受け付けた場合には、実行の優先度や支援のレベル等の所定の基準(優先順位)に従って一つの行動計画を選択する。運動マネージャ200は、選択した行動計画を実現する運動要求を算出し、アクチュエータシステム30の少なくとも一つのアクチュエータに分配することによって、選択された行動計画に従った車両1の運動を実現する。
【0105】
以上のように、本実施の形態に係る車両1によると、行動計画の設定元を特定、区別せずに(すなわち、アプリID等を付与することなく)アプリケーションにおいて設定された行動計画に従った車両1の運動を実現することができる。そのため、アプリケーションが新たに追加される場合に、設計変更の箇所の増加を抑制することができる。したがって、行動計画を設定するアプリケーションを追加する場合でもアプリケーションの増加に起因する設計変更箇所の増加を抑制する運動マネージャ、車両、車両の制御方法およびプログラムを提供することができる。
【0106】
さらに、予め定められた項目は、運転支援のレベルを示す情報と、行動計画に従った車両1の運動の応答性および静粛性のうちの少なくともいずれかの優先度を示す情報とを含むため、行動計画の設定元を区別せずにアプリケーションにおいて設定された行動計画に従った車両1の運動を精度高く実現することができる。
【0107】
さらに、セントラルECU40のメモリ42を更新可能なメモリとすることにより、たとえば、車両1において自動運転、自動駐車およびその他の運転支援を全て可能とするアプリケーションとECUとが搭載される場合において、自動運転、自動駐車およびその他の運転支援を可能とする車両と、自動運転を無効とし、自動駐車およびその他の運転支援を可能とする車両と、自動運転および自動駐車を無効とし、その他の運転支援のみを可能とする車両とをメモリ内の要求元ECUとアプリケーションとの対応関係を変更することで共通のECUにより実現することができる。さらに、車両組み立て工場出荷後においてメモリ42を更新することにより、無効としていた機能を解放することが可能となる。
【0108】
以下、変形例について記載する。
本実施の形態においては、運動マネージャ200が分類する予め定められた項目として、上述の(A)~(G)の項目を一例として列挙したが、運動マネージャ200が分類する項目としては、上述の7つの項目に限定されるものではなく、たとえば、上述の(A)~(G)の項目のうちの少なくとも(A)要求物理量と、(C)動きの方向と、(E)実行の優先度とが含まれていればよい。
【0109】
さらに本実施の形態においては、アプリケーションからの行動計画を(A)、(C)~(G)に分類し、(B)要求元ECUについての情報を車両1のシステム起動時にセントラルECU40から取得するものとして説明したが、行動計画に(B)要求元ECUについての情報を含むようにしてもよい。
【0110】
さらに本実施の形態においては、運動マネージャ200は、受付部202と、調停部204と、算出部206と、分配部208とを含む構成を一例として説明したが、運動マネージャ200は、たとえば、少なくともアプリケーションから行動計画を受け付ける第1運動マネージャと、第1運動マネージャと通信可能であって、アクチュエータシステム30に運動を要求する第2運動マネージャとを含む構成を有していてもよい。なお、この場合、調停部204の機能と、算出部206の機能と、分配部208の機能については、第1運動マネージャと第2運動マネージャとのうちのいずれかに実装されればよい。
【0111】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を適宜組み合わせて実施してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0112】
1 車両、10 ADAS-ECU、20 ブレーキECU、30 アクチュエータシステム、40 セントラルECU、42 メモリ、100 運転支援システム、200 運動マネージャ、202 受付部、204 調停部、206 算出部、208 分配部、302 パワートレインシステム、304 ブレーキシステム、306 ステアリングシステム、308 センサ群。