(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20240820BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G01S7/40 191
G01S7/02 210
(21)【出願番号】P 2021151270
(22)【出願日】2021-09-16
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】新井 知広
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-106878(JP,A)
【文献】特開2008-292244(JP,A)
【文献】特開2000-227474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
G01S 13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信アンテナを用いてなる複数の送信チャネルと、複数の受信アンテナを用いてなる複数の受信チャネルと、を備え、複数の前記送信チャネルから、前記送信チャネルごとに異なる位相コードで変調された探査波を送信させるとともに、前記受信チャネルでの受信信号を解析することにより、ターゲットに係る検出物情報を取得するレーダ装置であって、
前記送信チャネルのそれぞれから前記探査波を無線送信させる送信制御部(F2)と、
複数の前記受信チャネルのそれぞれで受信された信号を、前記送信チャネルごとの前記位相コードを用いて、送信元としての前記送信チャネルごとの信号に分ける分離処理部(G1)と、
前記受信チャネルごと及び前記送信チャネルごとの受信信号を解析した結果として、前記ターゲットの速度又は存在方向を直接的に又は間接的に示す解析結果データを取得する解析結果取得部(G2、F1)と、
それぞれ異なる時刻にて前記解析結果取得部が取得した前記解析結果データを比較することより、前記送信チャネルが正常に動作しているか否かを判断する診断部(F3)と、を備え、
前記診断部は、
所定のタイミングで任意の2つの前記送信チャネルの前記位相コードを入れ替えることと、
前記位相コードの入替に伴い、前記分離処理部における前記送信チャネルと前記位相コードの対応関係を修正することと、
前記位相コードの入替前の所定時間以内に取得された前記解析結果データと、前記位相コードの入替実施から所定時間以内に取得された前記解析結果データとを比較することにより、前記送信チャネルの異常を検出することと、を実施するレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記解析結果データは、ターゲットごとの存在方向を示す測角値を含み、
前記診断部は、特定のターゲットに対する、コード入替前に取得した前記測角値と、コード入替後に取得した前記測角値が所定値以上異なることに基づいて、複数の前記送信チャネルの何れかに異常が生じていると判定するように構成されているレーダ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーダ装置であって、
前記診断部は、
それぞれ異なる前記送信チャネルの組み合わせにおいて前記位相コードを入れ替える処理を所定のスケジュールに沿って順次実施し、
コード入替前後で前記解析結果データに所定値以上の変化が観測された前記組み合わせのパターンに基づいて、異常が生じている送信チャネルである異常チャネルを特定するように構成されているレーダ装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のレーダ装置であって、
前記診断部は、
コード入替前後の前記解析結果データに対して所定値以上の変化を検出した場合、検証処理として、前記変化が検出された前記送信チャネルの組み合わせである要検証ペアのうち、何れか一方の前記送信チャネルである第1検証チャネルと、前記要検証ペアに含まれない別の前記送信チャネルとで前記位相コードを入れ替え、
前記検証処理として行われたコード入替前後の前記解析結果データに所定値以上の変化が生じている場合には、前記第1検証チャネルに異常が生じている可能性があると判定する一方、
前記検証処理として行われたコード入替前後の前記解析結果データに所定値以上の変化が生じていない場合には、前記要検証ペアのうち、前記第1検証チャネルではないほうの前記送信チャネルである第2検証チャネルに異常が生じている可能性があると判定するレーダ装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のレーダ装置であって、
前記診断部は、
コード入替前後の前記解析結果データに対して所定値以上の変化を検出した場合、1次検証処理として、前記変化が検出された前記送信チャネルの組み合わせである要検証ペアのうち、何れか一方の前記送信チャネルである第1検証チャネルと、前記要検証ペアに含まれない別の前記送信チャネルとで前記位相コードを入れ替え、
前記1次検証処理として行われたコード入替前後の前記解析結果データに所定値以上の変化が生じている場合には、前記第1検証チャネルに異常が生じている可能性があると判定する一方、
前記1次検証処理として行われたコード入替前後の前記解析結果データに所定値以上の変化が生じていない場合には、2次検証処理として、前記要検証ペアのうち、前記第1検証チャネルではないほうの前記送信チャネルである第2検証チャネルと、前記要検証ペアに含まれない別の前記送信チャネルとで前記位相コードを入れ替え、
前記2次検証処理として行われたコード入替前後の前記解析結果データに所定値以上の変化が生じている場合には、前記第2検証チャネルに異常が生じている可能性があると判定する一方、
前記2次検証処理として行われたコード入替前後の前記解析結果データに所定値以上の変化が生じていない場合には、前記第1、第2検証チャネルが異常動作しているとは判定しないか、或いは、前記第1検証チャネル及び前記第2検証チャネルに対する診断を保留とするように構成されているレーダ装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のレーダ装置であって、
前記診断部は、
それぞれ異なる前記送信チャネルの組み合わせにおいて前記位相コードを入れ替える処理を所定のスケジュールに沿って実施し、
コード入替前後において前記解析結果データに所定の変化が観測された組み合わせである要検証ペアが複数存在する場合には、複数の前記要検証ペアにおいて共通して含まれている前記送信チャネルに異常が生じていると判定する一方、
前記要検証ペアが0個である場合には、複数の前記送信チャネルには異常は生じていないと判定し、
前記要検証ペアが1個である場合には、前記スケジュールに沿って順番に前記位相コードの入れ替える処理を再実行するレーダ装置。
【請求項7】
請求項3から6の何れか1項に記載のレーダ装置であって、
前記診断部にて異常が生じていると判定された前記送信チャネルである異常チャネルの使用を停止するように構成されているレーダ装置。
【請求項8】
請求項3から7の何れか1項に記載のレーダ装置であって、
複数の前記送信チャネルの何れか1つは、距離の測定に使用する測距用チャネルに設定されており、
前記診断部にて前記測距用チャネルに設定されている前記送信チャネルに異常が生じていると判定された場合には、前記測距用チャネルを変更するように構成されているレーダ装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載のレーダ装置であって、
前記診断部は、走行用電源がオフからオンに切り替えられたこと、停車していること、一定速度で走行していること、及び、先行車を追従走行する制御を実施中であることの少なくとも何れか1つを条件として、前記送信チャネルが正常に動作しているか否かの判定に係る処理を実行するレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置の送信系回路が正常に動作しているか否かを診断可能なレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)の技術を用いたレーダ装置(以降、MIMOレーダ装置)が開示されている。MIMOレーダ装置は、複数の送信アンテナと、複数の受信アンテナとを備え、複数の送信アンテナを所定間隔で配置することで仮想的に受信アンテナ(ひいては受信チャネル数)を増やすことができる。
【0003】
このようなMIMOレーダシステムでは、複数の受信チャネルのそれぞれにおいて、送信チャネルごとの信号を分離して信号処理する必要がある。信号の分離手法としては、送信チャネル毎に異なる位相コーディングを実施させる方法がある。送信チャネル毎に異なる位相コードを割り当てる方式によれば、受信信号に対して復号処理を施すことにより、送信チャネルごとの信号を分離可能となる。
【0004】
ところでMIMOレーダ装置では、複数の送信/受信チャネルの何れかに異常が生じていると、物標の検出精度が劣化しうる。そのため、受信回路や送信回路が正常に動作しているか否かを診断する機能が求められている。特許文献1には、送信チャネルとは別に、IQ(In-Phase/Quadrature-Phase)直交ミキサなどの診断用の回路(28)を設けた構成が開示されている。
【0005】
なお、送信チャネルの異常は、回路の温度上昇や、湿気、経年劣化などにより生じうる。或る送信チャネルにおいて、移相器による位相シフト量やアンプの利得が設計値とは異なる値となっていると、送信レベルの低下や、位相ズレなどが生じる。送信チャネルや受信チャネルに異常が生じていると、当該異常が受信信号の解析結果にも影響を及し、ターゲットの存在方向や速度、距離等の検出精度が劣化しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-110589号公報
【文献】特開2021-1799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように、送信用回路の周辺に、診断用(異常検知用)の回路を別途設けた構成では、回路基板のサイズが増大したり、部品点数の増加に応じたコストが増加したりするなどといった課題がある。
【0008】
本開示は、上記の検討又は着眼点に基づいて成されたものであり、その目的の1つは、異常検知用の回路を設けることなく、送信チャネルの異常を検出可能なレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに開示されるレーダ装置は、複数の送信アンテナを用いてなる複数の送信チャネルと、複数の受信アンテナを用いてなる複数の受信チャネルと、を備え、複数の送信チャネルから、送信チャネルごとに異なる位相コードで変調された探査波を送信させるとともに、受信チャネルでの受信信号を解析することにより、ターゲットに係る検出物情報を取得するレーダ装置であって、送信チャネルのそれぞれから探査波を無線送信させる送信制御部(F2)と、複数の受信チャネルのそれぞれで受信された信号を、送信チャネルごとの位相コードを用いて、送信元としての送信チャネルごとの信号に分ける分離処理部(G1)と、受信チャネルごと及び送信チャネルごとの受信信号を解析した結果として、ターゲットの速度又は存在方向を直接的に又は間接的に示す解析結果データを取得する解析結果取得部(G2、F1)と、それぞれ異なる時刻にて解析結果取得部が取得した解析結果データを比較することより、送信チャネルが正常に動作しているか否かを判断する診断部(F3)と、を備え、診断部は、所定のタイミングで任意の2つの送信チャネルの位相コードを入れ替えることと、位相コードの入替に伴い、分離処理部における送信チャネルと位相コードの対応関係を修正することと、位相コードの入替前の所定時間以内に取得された解析結果データと、位相コードの入替実施から所定時間以内に取得された解析結果データとを比較することにより、送信チャネルの異常を検出することと、を実施する。
【0010】
送信チャネルの移相器やアンプが正常に動作している場合には、送信チャネル毎に割り当てる位相コードを変更しても、解析結果には影響を及ぼさない。一方、送信チャネルに異常が生じていると、復号して得られる送信元ごとの受信信号データを変動しうる。また、送信チャネルに生じた異常の影響度合いは、当該送信チャネルに割り当てる位相コードを変更することにより変化しうる。つまり、位相コードの割当を変更した結果として、解析結果に大幅な変化が生じている場合には、送信チャネルに異常が生じている可能性を示唆する。
【0011】
本開示は上記の着想に基づいて創出されたものであって、送信チャネルごとの位相コードの割当変更前後での受信信号の解析結果を比較することにより、送信チャネルが正常に動作しているか否かを判定する。当該構成によれば、診断用の回路を設けなくとも、コード割当の変更といったソフトウェア処理によって、送信チャネルの異常を検知可能である。なお、本開示は、異常検出用の回路を任意の要素とするものであって、異常検出用の回路の導入を禁止するものではない。本開示は、異常検出用の回路が設けられたレーダ装置に対しても適用可能である。
【0012】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】送信系モジュールの構成の一例を概略的に示す図である。
【
図3】送信チャネルごとの位相コードの割当例を示す図である。
【
図4】受信系モジュールの構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】仮想チャネルについて説明するための図である。
【
図6】2D-FFT処理結果を概念的に示す図である。
【
図8】位相コードの入替スケジュールの一例を示す図である。
【
図9】位相コードの入替前後における割当状態の一例を示す図である。
【
図10】診断モード時のコントローラ2の作動を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について
図1等を用いて説明する。レーダ装置1は、ミリ波またはマイクロ波等の電波を探査波として送受信することにより、検知範囲内に存在する物標(以降、ターゲット)に関する情報である検出物情報を生成する。検出物情報には、レーダ装置1からターゲットまでの距離、ターゲットの移動速度、ターゲットが存在する方位角などが含まれる。
【0015】
本開示のレーダ装置1は一例としてFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式が採用されている。すなわち、レーダ装置1は、探査波としての周波数変調波(いわゆるチャープ信号)を、送信アンテナから所定の送信周期Tcrで定期送信する。チャープ信号は、時間とともに周波数を連続的/線形的に変化させた電波である。1つのチャープ信号は、所定の初期周波数から最終周波数まで漸増又は漸減させた後に瞬時に初期周波数に戻すことにより実現されうる。1つのチャープ信号を構成する時間的な長さを本開示ではチャープ周期Tcと称する。TCM方式は、所定のレスト期間Trを挟んでチャープ信号を定期送信する方式である。Tcr=Tc+Trの関係を有する。レスト期間Trは、0秒、あるいは、0とみなせるほど微小な時間であってもよい。もちろん、レスト期間Trは、例えばチャープ周期の半分など、有意な長さに設定されていてもよい。なお、レーダ装置1は、より好適な態様として、周波数を高速パルス状に変調するFCM(Fast- Chirp Modulation)が採用されていても良い。FCMはFMCWの一種に相当する。
【0016】
レーダ装置1は、
図1に示すように、車両状態センサ101、及び、車載ECU102と接続されている。部材名称中のECUは、Electronic Control Unitの略であり、電子制御装置を意味する。レーダ装置1は、車両状態センサ101及び車載ECU102と車両内ネットワークを介して接続されている。もちろん、レーダ装置1は一部のセンサ/ECUと、専用の通信線を用いて直接的に接続されていても良い。
【0017】
車両状態センサ101は、自車両の挙動に関する情報、および車両の挙動に影響を与える運転操作に関する情報(以降、挙動情報)を検出するためのセンサである。本開示における自車両とは、レーダ装置1が使用される車両を指す。挙動情報とは、例えば、自車両の走行速度や、自車両に作用する加速度、ヨーレート、ペダル操作量、操舵角などである。ペダル操作量とは、アクセルペダル及びブレーキペダルのそれぞれについての踏込量/踏込力を指す。レーダ装置1には、それぞれ検出対象が異なる、複数の車両状態センサ101が接続されうる。車両状態センサ101は、検出結果を示す信号をレーダ装置1に出力する。
【0018】
車載ECU102は、自車両に搭載されている任意のECUである。例えば、レーダ装置1は、運転支援ECUなどと接続されて使用される。運転支援ECUは、ドライバの運転操作を支援する処理を実行するECUである。運転ECUは、レーダ装置1の検出結果に基づいて、他の移動体や静止物との衝突にかかる報知をドライバに対して実施する。運転支援ECUは情報提示にとどまらず、レーダ装置1の検出結果に応じた自動的な制動制御や操舵を実施するECUであってもよい。他の移動体とは、歩行者や他車両、サイクリストなどを指す。
【0019】
<レーダ装置1の構成>
レーダ装置1は、コントローラ2及びRF部3を備える。部材名称中のRFは、Radio Frequencyの略である。RF部3は、探査波に対応する高周波信号を取り扱う回路モジュールである。RF部3は、シンセサイザ4、制御レジスタ5、ロジック回路6、送信系モジュール7、及び受信系モジュール8を備える。なお、ここでは一例としてコントローラ2とRF部3とを分離して配置した形態を示すが、これに限定されるものではなく、これらは一体化されていても良い。また、一方の回路(例えばRF部3)に搭載されている機能が、他方の回路(例えばコントローラ2)に組み込まれていても良い。機能配置は適宜変更可能である。
【0020】
コントローラ2は、RF部3の動作を制御するとともに、RF部3から入力される信号を元に、検出物情報を生成する。コントローラ2は、プロセッサ21、RAM(Random Access Memory)22、ストレージ23を用いて実現されている。コントローラ2は、プロセッサ21として、DSP(Digital Signal Processor)やCPU(Central Processing Unit)などを備える。コントローラ2は、RF部3が備える制御レジスタ5に、種々の制御指令を記憶させる。例えばコントローラ2は、チャープ信号を構成する初期周波数や最終周波数、チャープ周期Tc、レスト期間Tr、送信チャネルTxごとの位相コードといった、動作設定パラメータを、制御レジスタ5に書き込む。
【0021】
コントローラ2は動作モードとして、診断モードと通常モードを備える。診断モードは、複数の送信チャネル、及び、複数の受信チャネルが何れも正常に動作しているか否かを判定するシーケンスである異常検出シーケンスを実行するモードである。異常検出シーケンスは、後述するように、送信チャネルごとの位相コードを所定のスケジュールに沿って順次入れ替える処理を含む。故に、診断モードは、定期的に送信チャネルごとの位相コードを入れ替えるモードと解することができる。通常モードは診断モードではないモードに相当する。通常モードは送信チャネルごとの位相コードを動的には入れ替えないモード、換言すれば初期のコード割当で運用するモードに相当する。
【0022】
コントローラ2は、例えば車両の走行用電源がオフからオンに切り替えられたことに基づいて、診断モードに移行し、異常検出シーケンスを開始する。本開示における走行用電源とは、車両を走行させるための駆動源に係る電源である。例えばエンジン車両においてはイグニッション電源が走行用電源に相当する。電気自動車やプラグインハイブリッド車などといった、電動車においてはシステムメインリレーが走行用電源に相当する。コントローラ2は、停車したことをトリガとして診断モードに移行しても良い。
【0023】
さらに、コントローラ2は、先行車追従制御を実施していることを条件として診断モードに移行しても良い。また、コントローラ2は、一定速度で走行していることを条件として診断モードに移行してもよい。一定速度で走行している状態とは一定時間(例えば5秒)以内における速度の変化幅が所定値(例えば3km/h)以下である状態を指す。一定速度で走行している状態とは、所定時間以内における加速度が所定値未満に収まっている状態であってもよい。その他、コントローラ2は、例えば走行用電源がオンからオフに切り替えられたことや、シフトポジションがパーキングポジションに設定されたことに基づいて、診断モードに移行してもよい。診断モードに移行する条件である診断モード開始条件としては多様な条件を採用可能である。
【0024】
また、コントローラ2は、例えば異常検出シーケンスを所定回数実施したことに基づいて、診断モードを終了し、通常モードに移行する。コントローラ2は、診断モード移行後の最初の異常検出シーケンスにて、異常の疑いがある送信/受信チャネルが発見されなかった場合に診断モードを終了してもよい。別途後述するように診断モードにおいても、通常モードと同様に、ターゲットの検出は可能である。そのため、コントローラ2は、走行用電源がオンに設定されている間は常に診断モードで動作するように構成されていてもよい。コントローラ2は、走行用電源がオンからオフに切り替えられたことに基づいて診断モードを終了するように構成されていても良い。診断モードを終了する条件である診断モード終了条件は、診断モード開始条件とともに適宜設計されうる。
【0025】
ロジック回路6は、制御レジスタ5に記憶されている制御指令を実行する構成である。ロジック回路6は、制御レジスタ5が保持するデータに基づき、後述する移相器72ごと移相量や、可変増幅器における増幅率などを動的に調整する。ロジック回路6は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いて実現されうる。
【0026】
シンセサイザ4は、ロジック回路6から入力される制御信号に基づき、所定の波形を有するチャープ信号を定期出力する回路である。シンセサイザ4は、いわゆるPLL回路により構成されている。シンセサイザ4が生成したチャープ信号は、送信系モジュール7及び受信系モジュール8にそれぞれに入力される。シンセサイザ4と送信系モジュール7、受信系モジュール8との間には、周波数ダブラや周波数トリプラといった周波数逓倍器が設けられていてもよい。
【0027】
送信系モジュール7は、探査波を送信するための回路モジュールである。送信系モジュール7は、
図2に示すように、送信チャネルTxとして、第1送信チャネルTx1、第2送信チャネルTx2、第3送信チャネルTx3、及び第4送信チャネルTx4を備える。
【0028】
複数の送信チャネルTxは、それぞれ生成したミリ波帯のチャープ信号によりレーダ波をターゲットに照射する。送信チャネルTxの数である送信チャネル数をNとすると、本実施形態のレーダ装置1はN=4に設定された構成に相当する。送信チャネル数(N)は3以上の範囲において任意の値とすることができる。物体の検出精度向上/冗長性向上の観点においては、送信チャネル数(N)は多いほど好ましい。複数の送信チャネルTxにはそれぞれ、識別のための番号が付与されている。複数の送信チャネルTxは、ポート番号などで管理されても良い。本開示ではk番目の送信チャネルTxを第k送信チャネルとも称する。
【0029】
各送信チャネルTxは、送信電力調整部71、移相器72、パワーアンプ73、及びアンテナ素子74を備える。送信電力調整部71は、シンセサイザ4から入力されたチャープ信号の電力を所定の比率で増幅させて移相器72に出力する。送信電力調整部71は、ロジック回路6からの制御信号に基づき、その増幅率を動的に変更しうる。なお、送信電力調整部71は、任意の要素であって省略可能である。
【0030】
移相器72は、送信電力調整部71から入力されたチャープ信号の位相を所定量シフトさせてパワーアンプ73に出力する。移相器72による位相のシフト量を移相量とも記載する。移相器72は、例えば移相量を0とπの2つで切替可能な、いわゆる2値移相器である。もちろん、移相器72は、π/2(90°)単位、π/4(45°)単位で移相可能に構成されていても良い。各移相器72の移相量は、チャープごと、換言すれば送信周期Tcr毎に、ロジック回路6により切り替えられうる。これにより後述する位相コーディングが実現される。つまり、所定個数の一連のチャープ信号が所定パターンで位相コーディングされた探査波が送信されうる。
【0031】
図3は、送信チャネルTxごとの位相コードを概念的に示したものである。図中に示す「Ch」はチャネルを指す。例えば図中における「送信Ch1」との記載は、第1送信チャネルTx1を指す。第1コードは初期状態において第1送信チャネルTx1に割り当てられている位相コードであり、第2コードは初期状態において第2送信チャネルTx2に割り当てられている位相コードである。第3コードは初期状態において第3送信チャネルTx3に割り当てられている位相コードであり、第4コードは初期状態において第4送信チャネルTx4に割り当てられている位相コードである。初期状態とは所定のデフォルト設定が適用されている状態を指す。4つの位相コードの具体的なパターン構成は適宜変更可能である。各位相コードは直交符号として生成されていることが好ましい。ロジック回路6は、シンセサイザ4にチャープ信号を生成させつつ、各移相器72の移相量を動的に調整する。
【0032】
送信チャネルTxごとの位相コードの割当状態は、別途後述する割当変更部F31によって動的に入れ替えられうる。位相コードを入れ替えることは、受信系から見て送信アンテナごとの役割を変えることに相当する。位相コーディングされた所定数のチャープ信号を1組とする一連の信号系列を、本開示では1つのフレームとも称する。1つのフレームを構成するチャープ信号の数であるフレーム長Lsは、位相コードの長さと同じかそれ以上に設定される。
図3に示す通り、本実施形態ではフレーム長Lsは4に設定されている。フレーム長Lsは、6や8などであってもよい。フレーム長は、送信チャネル数や位相コードの長さに応じて変更されうる。
【0033】
パワーアンプ73は、移相器72の出力信号を電力増幅してアンテナ素子74にそれぞれ出力する。アンテナ素子74は、パワーアンプ73から順次入力されるチャープ信号を探査波として無線送信するためのアンテナである。アンテナ素子74が送信アンテナに相当する。アンテナ素子74の基本構造としては、パッチアンテナ、モノポールアンテナ、逆Fアンテナ、メタマテリアルアンテナなど多様な構造を採用可能である。複数のアンテナ素子74は、例えば所定の配列に整列されており、フェーズドアレイアンテナ方式によりレーダ波の送信エリアを切替可能になっている。
【0034】
受信系モジュール8は、ターゲットで反射されて返ってきた探査波(つまり反射波)を受信するための回路モジュールであって、受信用のアンテナ素子81を複数含む。受信系モジュール8は
図4に示すように、受信チャネルRxとして、第1受信チャネルRx1、第2受信チャネルRx2、第3受信チャネルRx3、及び第4受信チャネルRx4を備える。受信チャネルRxの数である受信チャネル数をMとすると、本実施形態のレーダ装置1はM=4に設定された構成に相当する。受信チャネル数(M)は2以上の範囲において任意の値とすることができる。受信チャネル数(M)は多いほど好ましい。受信チャネル数は、例えば6や8などであってもよい。受信チャネルRxにも、識別のため、番号が付与されている。j番目の受信チャネルRxを第j受信チャネルとも記載する。
【0035】
複数の受信チャネルRxはそれぞれ、送信系モジュール7から送信されたチャープ信号に対応する信号、つまりターゲットでの反射波を受信するための構成である。個々の受信チャネルRxは、アンテナ素子81、LNA(Low Noise Amplifier)82、ミキサ83、中間周波数増幅器84、及び、A/D変換器85を備える。
【0036】
アンテナ素子81は、ターゲットからの反射波としての電波を電気信号に変換するための導体エレメントである。アンテナ素子81が受信アンテナに相当する。アンテナ素子81の基本構造は、送信アンテナと同様、パッチアンテナ、モノポールアンテナ、逆Fアンテナ、メタマテリアルアンテナなど多様な構造を採用可能である。複数のアンテナ素子81は、所定の配列に整列配置されている。複数のアンテナ素子81は、フェーズドアレイアンテナ方式によりレーダ波の受信走査エリアを切替可能になっている。複数のアンテナ素子81はアレイアンテナとして機能するように、1列に、又は複数列をなすように所定の間隔で配置されている。アンテナ素子81の出力、つまり受信信号はLNA82に入力される。
【0037】
LNA82は、低雑音増幅器であって、ローノイズアンプとも称される。LNA82は、アンテナ素子81による受信信号を低雑音増幅してミキサ83に出力する。ミキサ83は、LNA82の出力信号とシンセサイザ4の出力信号とを混合することにより、中間周波数(IF:Intermediate Frequency)信号を生成する。IF信号はビート信号とも称される。ミキサ83が生成するIF信号は、中間周波数増幅器84で増幅されたのちに、A/D変換器85に入力される。なお、ミキサ83からA/D変換器85までの間には、ローパスフィルタ(LPF)が設けられていてもよい。
【0038】
A/D変換器85は、アナログ信号をデジタル信号に変換する構成である。
図4では、受信チャネルRx毎にA/D変換器85を分離して配置した態様を示しているが、受信チャネルごとのA/D変換器85は、1つのICチップなどにまとめられても良い。以降におけるIF信号とは、主としてデジタル変換されたIF信号を指す。
【0039】
コントローラ2は、機能部として、復号分離器G1と、FFT処理部G2を備える。復号分離器G1やFFT処理部G2は、DSPなどを用いて実現されている。復号分離器G1は、受信チャネルRxごとに配置されている。復号分離器G1は、送信チャネルTxごとの位相コードを用いて、受信チャネルRxから入力された1フレーム相当のIF信号を、送信元ごとの信号に分離する。
【0040】
例えば復号分離器G1は、受信チャネルRxが出力する一連のIF信号に対して、第1送信チャネルTx1に割り当てられている位相コードでの復号を行うことにより、第1送信チャネルTx1から送信された信号に対応するIF信号を取得する。他の送信チャネルTxからの信号成分の抽出も同様に、対応付けられている位相コードを用いた復号により実現される。当該復号分離器G1の処理はデコード処理(デコーディング)と呼ぶことができる。復号分離器G1は、復号機能を備えるため、デコーダと呼ぶこともできる。復号分離器G1が分離処理部に相当する。
【0041】
コントローラ2においては、上記の復号処理を受信チャネルRxごとに並列的に実行することにより、受信チャネルごと及び送信チャネルごとのIF信号を取得する。復号分離器G1が生成した、受信チャネルごと及び送信元ごとのIF信号は、RAM22等のメモリに一時的に保持されて、FFT処理部G2によって参照される。
【0042】
MIMOにおいては、同一の受信チャネルで得られた送信元ごとのIF信号は、仮想的に、1つの送信元に対する複数の受信チャネルでのIF信号として機能しうる。つまり、本実施形態では
図5に示すように16チャネル分のIF信号が得られる。本開示では第1送信チャネルTx1と受信チャネルRx1~Rx4の組み合わせによる仮想的な受信チャネルをVC(Virtual Channel)11~14と記載する。同様に、第2送信チャネルTx2による仮想的な受信チャネルをVC21~24、第3送信チャネルTx3による仮想チャネルをVC31~34、第4送信チャネルTx4による仮想チャネルをVC41~44とも記載する。
【0043】
FFT処理部G2は、仮想チャネルごとのIF信号に対し、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier transform)処理を施す構成である。FFT処理部G2は、1次FFTと、2次FFTと、3次FFTを実施可能に構成されている。
【0044】
1次FFTは、ターゲットとの距離を検出するためのFFTである。1次FFTは、距離FFT、レンジ(range)FFT、或いは1D-FFTとも呼ばれる。FFT処理部G2は、コントローラ2より指定された一部の/全ての仮想チャネルのIF信号に対してFFT処理を施すことにより、ターゲットごとの距離を示す周波数スペクトルを取得する。当該周波数スペクトルにおいてピークが立っている周波数は、ターゲットとの距離を示す。1次FFTは、チャープ単位で、換言すれば各チャープに対して実行されうる。
【0045】
2次FFTは、ターゲットの速度を検出するためのFFT処理である。2次FFTは、1フレームを構成する複数のチャープに対する1次FFT後のデータに対して、更にFFT処理を施す処理に相当する。FFT処理部G2がフレーム内のチャープをまたいでFFTを行うことにより、自車両との相対速度に比例する位相差が得られる。2次FFTは、フレーム単位で、換言すれば各フレームに対して実行される。2次FFTは、ドップラーFFT、あるいは、2D-FFTとも呼ばれうる。FFT処理部G2は、2次FFTを行うことにより、ターゲットごとの速度を示すデータを生成する。
【0046】
なお、自車両と物標との間に速度差が生じている場合、送信波と反射波の周波数差を示すピーク波形の位相はドップラー効果によって変化する。複数の1次FFT処理の出力信号に対して、さらにFFT処理を施すことにより、チャープ間での位相差の分布を示すスペクトルを取得することができる。位相差スペクトルにおいてピークが観測される角度値が、ターゲットの速度を間接的に示す。故に、コントローラ2は、上記2次FFT処理の結果を元にターゲットごとの速度を求めることができる。
【0047】
図6は、2次FFT処理の結果として得られるデータを概念的に示したものである。
図6に例示する2次FFT処理結果は、仮想チャネルの数だけ得られる。2次FFT処理の結果としては、距離及び速度ごとの振幅及び位相を示すデータセットが得られる。ピークは反射物の存在を示すデータ点であって、反射物の数だけ発生しうる。ピークには振幅、位相、イメージ除去比などの情報が含まれる。
【0048】
3次FFTは、反射波の到来方向(いわゆるAoA:Angle of Arrival)、換言すればターゲットが存在する方向である方向を推定するためのFFTである。到来方向は、複数の受信アンテナ間での位相差に基づいて特定される。3次FFTでは、仮想チャネルごとの2D-FFT処理結果に対して更にFFTをかける処理に相当する。或る仮想チャネルについての2D-FFT処理結果とは、当該仮想チャネルで観測された1フレーム分のIF信号を元にする2D-FFT処理の結果を指す。このような3次FFTは3D-FFTとも称される。
【0049】
なお、到来方向の具体的な推定方法としてはMUSIC(Multiple Signal Classification)法やESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)法など、多様なアルゴリズムを援用可能である。到来方向はターゲットの存在方向に対応する。本開示では、3次FFT処理の結果として得られるターゲットの存在方向を示す値を測角値とも称する。なお、測角値は、仮想チャネルごとの位相差及び距離を示すデータセットであってもよい。
【0050】
本開示ではFFT処理部G2の出力データを解析結果データと称する。解析結果データには、例えば、仮想チャネルごとの2D-FFT処理の結果、及び、3D-FFT処理の結果の、少なくとも何れか一方が含まれる。解析結果データは、2D又は3D-FFT処理の結果に応じて定まる、ターゲットごと/特定のターゲットについての速度情報や方向情報(測角値)、距離情報であってもよい。
【0051】
また、コントローラ2は、
図7に示すように機能ブロックとして、検出物情報取得部F1、送信制御部F2、及び診断部F3を備える。検出物情報取得部F1は、サブ機能部として、距離推定部F11、速度推定部F12、及び方向推定部F13を備える。診断部F3は、サブ機能部として割当変更部F31、受信設定修正部F42、及び異常検出部F33を備える。
【0052】
検出物情報取得部F1は、FFT処理部G2との協働により、ターゲットに係る情報を取得する構成である。距離推定部F11は、1次FFT処理の結果を元に、ターゲットごとの距離を取得する。なお、ターゲットとの距離Rは、1次FFTの結果としてピークが観測されている周波数をfbとすると、距離Rは周波数fbに比例する。距離Rは、所定の定数としての係数αを用いてR=α・fbで概略的に求まる。係数αはチャープ信号の設定によって一意に定まるパラメータであって、初期周波数から最終周波数までの帯域幅をB、光速をC、チャープ周期をTcとすると、α=C・Tc/(2・B)の関係を有する。距離推定部F11は、2次FFTの結果をもとに、検出結果としてターゲットごとの距離を決定しても良い。本開示におけるデータの「取得」には、内部演算によって生成/検出することも含まれる。
【0053】
速度推定部F12は、2次FFT処理の結果を元に、ターゲットごとの速度を取得する。例えば速度推定部F12は、ターゲット(ピーク)ごとの、チャープ間の位相角の変化量の統計値(平均値)に所定の変換係数を乗じることでターゲットごとの速度を算出する。方向推定部F13は、3次FFT処理の結果を元に、ターゲットごとの存在方向を取得する。例えば方向推定部F13は、アンテナ間の位相差情報に基づいてターゲットの存在方向、換言すれば測角値を取得する。検出物情報取得部F1やFFT処理部G2が解析結果取得部に相当する。
【0054】
送信制御部F2は、RF部3による探査波の送信態様を制御する。例えば探査波の送信開始/停止、チャープ周期、レスト期間などの調整を行う。送信制御部F2は、探査波の送信にかかる命令データを制御レジスタ5に書き込む/書き換える。送信制御部F2は例えば診断部F3からの指示に基づき、送信チャネルごとの位相コードの設定にかかるデータを書き換える。
【0055】
診断部F3は、送信系モジュール7及び受信系モジュール8が正常に動作しているか否かを判定する構成である。割当変更部F31は、所定の割当変更タイミングで、送信チャネルTxごとの位相コードを所定の規則に基づき入れ替える。割当変更タイミングは、例えば、診断モード時において、1フレーム分のチャープ信号の送信が完了したタイミングとすることができる。つまり、割当変更はフレーム送信ごとに実施されうる。もちろん、割当変更は、複数フレームごとに実施されても良い。
【0056】
割当変更部F31は例えば診断モードに移行したことに基づいて、任意の2つの送信チャネルTxの組み合わせにおいて、割当中の位相コードを入れ替える。位相コードの割当を入れ替える処理を、本開示ではコード入替処理とも称する。入替対象とする送信チャネルの組み合わせは、所定のスケジュールに沿ってフレームごとに変更される。例えば割当変更部F31は
図8に示す組み合わせの順に、位相コードの入替を実施する。
【0057】
本開示では、位相コードの割当を入れ替えた状態で探査波を送受信してから、その解析結果データを取得するまでの一連の処理を1サイクルと称する。第iサイクルとは、スケジュール上、i番目に設定されているサイクルを指す。また、サイクル番号に対応させて、第iサイクルにて位相コードを入れ替える送信チャネルの組み合わせを、第iペアとも称する。例えば、第1ペアとは第1送信チャネルTx1と第2送信チャネルTx2の組み合わせを指し、第3ペアとは第1送信チャネルTx1と第3送信チャネルTx3の組み合わせを指す。
【0058】
1サイクルにおいて送受信される探査波は、1フレームとすることができる。もちろん、1サイクルにおいて送受信される探査波は、複数フレームであってもよい。なお、距離、速度、及び方向を推定する処理、つまり2D/3D-FFTは、フレームごとに実施される。また、割当変更後には少なくとも1回、変更後の位相コードを用いたフレームの送受信が行われる。このような構成は、コード割当の変更が行われるたびに、フレームの送受信、ひいては、測角処理が行われることに相当する。
【0059】
図9は、初期状態におけるコード割当状態と、第1サイクルにおけるコード割当状態を示したものである。なお、
図8に示す5サイクル目(#5)と6サイクル目(#6)の入替処理は省略されても良い。複数の送信チャネルのうち、異常チャネルは1つだけである場合を想定すると、1サイクル目から4サイクル目までの入替により、異常チャネルは特定可能であるためである。本開示における異常チャネルは、異常が生じている送信チャネルを指す。コントローラ2は、1サイクルが終わるごとに、いったん各送信チャネルに対する位相コードの割当を初期状態に戻しても良い。
【0060】
受信設定修正部F42は、割当変更部F31による位相コードの割当変更に対応して、復号分離器G1が使用する、送信チャネルごと位相コードの対応関係を示すデータを修正する。初期状態においては、復号分離器G1は、第1コードを用いて復号できた信号系列が第1送信チャネルTx1からの信号に対応するIF信号として処理する。一方、仮に第1送信チャネルTx1と第2送信チャネルTx2の割当コードが
図9の右側に示すように入れ替えられている場合、復号分離器G1は、第2コードを用いて復号できた信号系列を第1送信チャネルTx1からの信号に対応するIF信号として処理する。また、第1サイクルにおいては、第1コードを用いて復号できた信号系列を第2送信チャネルTx2からの信号に対応するIF信号として処理する。
【0061】
異常検出部F33は、位相コードの入替前後におけるFFT処理部G2の出力データを比較することにより、送信チャネル及び受信チャネルの異常を検出する。異常検出部F33は比較部と呼ぶこともできる。
【0062】
なお、チャネルの異常としては、高温や経年劣化、過剰電圧の印加等による、回路特性の変化などが挙げられる。より具体的には、パワーアンプ73におけるゲインの変化や、移相器72の故障など異常要因として想定される。これらの異常は、高負荷等により回路内温度が想定温度範囲外となっている場合や、多湿、高圧、経年劣化などにより生じうる。異常には、経年劣化等による永続的なものの他、一時的な不具合も含まれうる。一時的な不具合は、温度の低下や、リセットなどにより正常な状態に復帰するタイプの異常に相当する。
【0063】
仮に一部の送信チャネルTxにおける移相器72が故障していると、位相コーディング後の波形が不正となり、当該送信チャネルTxからの信号成分が復号分離器G1で抽出されにくくなる。その結果、チャープ間での位相差、ひいては速度情報が不正な値となりうる。また、移相器72の故障の影響度合いは位相コードのパターンを変更することにより変動しうる。よって、上記のように位相コードの割当状態を変更することにより、仮に移相器72に不具合が生じている場合には、コード入替前後でその影響度合いが変化、換言すれば2D-FFT結果などが変化しうる。
【0064】
また、仮に一部の送信チャネルTxにおけるパワーアンプ73が故障し、ゲインが低下している場合、当該送信チャネルTxからの信号が他の送信チャネルTxからの信号に埋もれやすくなる。位相コードによっては異常チャネルでの信号が受信側にて観測されにくくなってしまう。その結果、測角精度や速度推定精度が劣化し、コード入替前後での観測結果が揺らぎうる。
【0065】
以上で述べたように、コード入替前後での観測結果の変化が大きいということは、何れかの送信チャネルTxに異常が生じている可能性を示唆する。本開示の異常検出部F33(診断部F3)は、以上で例示した因果関係に基づき、送信チャネルTxの異常を検出する。異常検出部F33の詳細は別途後述する。
【0066】
<異常検出シーケンスについて>
ここでは
図10に示すフローチャートを用いて異常検出シーケンスにおけるレーダ装置1の作動について説明する。
図10に示す異常検出シーケンスは、診断モードに移行したこと、換言すれば診断モード移行条件が充足されたことに基づいて開始される。本実施形態では一例として異常検出シーケンスはステップS101~S112を備える。なお、本開示におけるフローチャートは何れも一例であって、ステップ数や処理順序、実行条件などは適宜変更可能である。以降の説明で用いるサイクル番号「i」は、繰り返し処理を行うための変数であって、整数である。本フロー開始直後の初期状態においてi=1に設定されている。
【0067】
ステップS101は割当変更部F31が任意の2つの送信チャネルTxに割り当てる位相コードを入れ替えるステップである。ステップS101は、i回目のサイクルとして予定されている組み合わせ(第iペア)におけるコード入替処理を行うステップに相当する。例えば本フロー開始直後のステップS101では、第1サイクルで規定されている送信チャネルTxの組み合わせにおいて位相コードを入れ替える。仮に
図8に示すスケジュールに沿ってコード入替処理を行う場合、割当変更部F31は、第1送信チャネルTx1と第2送信チャネルTx2の位相コードを入れ替える。位相コードの入替対象となる2つの送信チャネルTxを、コード入替チャネルとも称する。
【0068】
当該ステップS101に呼応して、送信制御部F2が、RF部3における送信チャネルTxごとの位相コードの設定変更を反映する処理を実施する。また、受信設定修正部F42が、復号分離器G1が使用する、送信チャネルごとの位相コードの対応関係データを修正する。なお、復号分離器G1は、送信制御部F2が書き換えるコード設定データを参照することにより、位相コードの対応関係を特定するように構成されていても良い。ステップS101が完了するとステップS102が実行される。
【0069】
ステップS102は1フレーム分のチャープ信号を送受信するステップである。各送信チャネルTxからステップS101で設定された位相コーディングが施された一連のチャープフレームが送信される。なお、受信系モジュール8は、探査波の送信に呼応して受信可能な待受状態に移行し、反射波の受信処理を随時行う。
【0070】
ステップS103は復号分離器G1が、各受信チャネルRxから入力されたIF信号に対してデコーディングを行い、送信チャネルTxと受信チャネルRxの組み合わせごとのIF信号を生成する。コントローラ2はステップS103により仮想チャネルごとのIF信号を取得する。
【0071】
ステップS104はFFT処理部G2が、ステップS103で取得された仮想チャネルごとのIF信号に対して2D-FFT処理を実施する。また、より好ましくは全仮想チャネルのIF信号に渡って3D-FFT処理を実施する。これにより、仮想チャネルごと/ターゲットごとの解析結果データが得られる。
【0072】
なお、本開示ではステップS102~S104までの一連の処理を測角処理とも称する。測角処理は、探査波の送信から受信信号の解析までの処理に相当する。測角処理の間隔はフレームの送信間隔に対応する。フレームの送信間隔は数100μ秒など、道路上に存在する物体の移動速度の想定値に対して十分小さく、フレーム間におけるターゲットの位置や速度は一定値以内に収まりうる。
【0073】
ステップS105は異常検出部F33が、位相コードの入替前後における解析結果データを比較することにより、送信チャネル及び受信チャネルの異常を検出するステップである。異常検出部F33はコード入替前の(つまり前回の)解析結果と、コード入替後(つまり今回)の解析結果との間に、所定の異常判定値以上の変化が生じている場合にはステップS106を肯定判定し、ステップS107を実行する。一方、コード入替前後において解析結果に所定値以上の変化が観測されなかった場合には、ステップS106を否定判定し、ステップS108に移る。
【0074】
例えば異常検出部F33は、仮想チャネルごとに、コード入替前における2D-FFT処理の結果が備えるピークの振幅/位相と、コード入替後における2D-FFT処理の結果が備えるピークの振幅/位相とを比較する。そして、異常検出部F33は、或る仮想チャネルにおいて今回観測された振幅/位相と、前回の観測値との変化量が所定の異常判定値以上となっているピークが存在する場合には、コード入替前後において解析結果データに所定値以上の変化が生じたと判定する。解析結果間におけるピーク同士の対応付けは、距離と速度との組み合わせから実施されうる。比較処理に使用する仮想チャネルは、コード入替チャネルに係る任意の1つの仮想チャネルであってもよいし、全ての仮想チャネルであってもよい。比較処理の回数を小さくするほど、コントローラ2の処理負荷は低減可能である。
【0075】
異常検出部F33が、コード入替前後における比較対象として使用するピークは、任意のターゲットに対応する観測点としてのピークとすることができる。換言すれば、異常検出部F33は特定のターゲットについてのコード入替前後における解析結果データを比較することで、異常を検出するように構成されていても良い。例えば異常検出部F33は、先行車に対応するピークの振幅/位相/イメージ除去比の変化量に基づいて異常判定を実施しても良い。また、異常検出部F33は、マンホールや、ガードレール、壁などといった静止物に対応するピークの振幅/位相/イメージ除去比のフレーム間変化量に基づいて異常判定を実施しても良い。ターゲットの種別は、サイズや、概略形状(縦横比)、反射強度、存在方向などを元に推定されうる。
【0076】
なお、異常検出部F33は、入替前後におけるピークの分布の変化量が所定値以上であることに基づいて、解析結果に所定値以上の変化が生じていると判定しても良い。ピークの分布の変化量は、パターンマッチングによる類似度をもとに算出されうる。ピークの分布の変化量が所定値以上であることは、ピーク分布の類似度(相関値)が所定値以下であることに対応する。
【0077】
さらに、異常検出部F33がコード入替前後における比較材料として使用する2D-FFT結果は、任意の仮想チャネルについての2D-FFT結果とすることができる。比較材料とする2D-FFT結果は、コード入替チャネルに紐づく仮想チャネルについての2D-FFT結果であればよい。異常検出部F33はコード入替チャネルに紐づく複数の仮想チャネルのそれぞれについて、コード入替前後の2D-FFT結果を比較しても良い。
【0078】
その他、異常検出部F33はコード入替前後における3D-FFT処理の結果を比較することで、異常の有無を判定しても良い。例えば3D-FFT結果として観測されるピークの分布などが所定量以上乖離している場合に、コード入替チャネルに異常の疑いがあると判定してもよい。その他、異常検出部F33は、ステップS105として、FFT処理結果に基づく最終的な出力であるターゲットごとの相対位置/速度の変化量が異常判定値以上であることに基づいて、コード入替チャネルに異常の疑いがあると判定してもよい。
【0079】
なお、i=1である場合、位相コードの入替前の解析結果データとしては、診断モードに移行するまえの解析結果データを採用可能である。コントローラ2は、診断モードに移行する前に、少なくとも1回、位相コードの割当を初期状態とした測角処理を実施するように構成されていても良い。
【0080】
ステップS107では異常検出部F33が、ステップS101で位相コードを入れ替えた送信チャネルTxの組み合わせ(つまり第iペア)に対して、要検証フラグをオンに設定し、ステップS108に移る。要検証フラグが設定された組み合わせを要検証ペアとも称する。また、要検証ペアを構成する送信チャネルを第1検証チャネル及び第2検証チャネルと称する。どちらを第1検証チャネルとするかは任意であって、例えばチャネル番号が小さいほうが第1検証チャネルに設定される。
【0081】
組み合わせに対する要検証フラグは、これらの組み合わせを構成する2つの送信チャネルTxの何れか一方に異常が生じている疑いがあることを示すフラグである。なお、本実施形態では一例として、送信チャネルの組み合わせ単位で要検証フラグを設定するが、これに限らない。送信チャネルの組み合わせに代えて/並列的に、要検証ペアを構成する2つの送信チャネルのそれぞれに対して、要検証フラグを立てても良い。なお、ステップS106においてコード入替前後において解析結果データに所定値以上の変化が生じたと判定することは、コード入替チャネルに異常の疑いがあると判定することに対応する。
【0082】
ステップS106の判定処理で使用される閾値としての異常判定値は、外界の変化としてあり得る範囲に基づいて設定される。異常判定値は、フレーム間隔の長さに応じて設定されうる。フレーム間隔が小さいほど、フレーム間において生じる外界の変化は小さくなるため、異常判定値もまた小さく設定されうる。
【0083】
実際の外界変化に由来する誤診断を抑制するため、異常検出部F33は、少なくとも100ミリ秒以内に実施された2つの測角処理の結果を比較することによって異常の有無を判断する。例えば、コード入替前の解析結果とは、コード入替の直前50ミリ秒以内に取得した解析結果データを指し、コード入替後の解析結果とは、コード入替の直後50ミリ秒以内に取得した解析結果データを指す。
【0084】
異常判定値は、項目毎に異なる値が適用される。例えば振幅の変化量に係る異常判定値としての具体的な値と、位相の変化量に係る異常判定値としての具体的な値とは当然相違する。異常判定値としての具体的な値は、フレーム間隔や比較材料として使用する項目/物理パラメータに応じて適宜設計されうる。
【0085】
異常検出部F33は、コード入替前後で変化が見られた仮想チャネルの組み合わせに応じて、受信チャネルRxに要検証フラグを立てることもできる。異常検出部F33は、コード入替の前後で所定値以上の変化が観測された仮想チャネルの組み合わせに基づいて、異常が送信系に生じているのか受信系に生じているのかを切り分け可能である。送信チャネルTxに異常が生じている場合、当該送信チャネルTxに紐づく全ての仮想チャネルにおいてコード入替による変化が観測される。例えば第1送信チャネルTx1に異常が生じている場合、VC11~14の何れにおいてもコード入替の前後で所定値以上の変化が観測されうる。つまり送信チャネルTxの異常の影響は、各受信チャネルRxでの受信信号(デコード結果)に波及するため、
図5に示す行列においては行単位で変化が観測される。
【0086】
一方、受信チャネルRxに異常が生じている場合、当該受信チャネルRxに紐づく仮想チャネルにおいてのみ、コード入替による変化が観測される。例えば第1受信チャネルRx1に異常が生じている場合、VC11、V21、VC31、V41のうち、コード入替チャネルに対応する仮想チャネルにおいてのみ、コード入替の前後で所定値以上の変化が観測されうる。
【0087】
つまり、コード入替前後において解析結果に変化が観測された仮想チャネルが、同一の受信チャネルRxに紐づく2つだけであることに基づいて、異常検出部F33は、受信チャネルRxの異常を検出可能である。また、コード入替前後において解析結果に変化が観測された仮想チャネルが、複数の受信チャネルRxにまたがっている場合には、異常の疑いがある箇所は送信チャネルRXと判断可能である。このように異常検出部F33は、コード入替前後において所定値以上の変化が見られた仮想チャネルの数/組み合わせから、異常発生の疑いがあるチャネルが送信系か受信系かを切り分け可能である。
【0088】
ステップS108では、1つの異常検出シーケンスとして予定されている全ての組み合わせにおける位相コードの入替を実施したか否かを判定する。換言すれば、ステップS108では
図8に例示される、予定されている全てサイクルが完了したか否かを判定する。未実施のサイクルが残っている場合にはステップS109に移る。例えば、まだ第1サイクルしか終わっていない場合には、ステップS108は否定判定され、ステップS109に移る。ステップS109ではiの値を1つ増加させてステップS101に以降の処理を再実行する。これにより、各サイクルが順に実行される。なお、ステップS109は、位相コードの割当状態の管理を簡素化するために、ステップS101で入れ替えた位相コードの割当を初期状態に戻す工程を含んでいてもよい。
【0089】
一方、全てのサイクルが完了している場合、例えば
図8に示す第6サイクルまで完了している場合には、ステップS110に移り、車両状態センサ101からの入力に基づき、診断モード終了条件が充足されたか否かを判定する。診断モード終了条件が充足している場合には本フローを終了する。一方、診断モード終了条件が充足していない場合には、i=1に設定して(ステップS111)、ステップS101以降の処理を再実行する。
【0090】
<以上検出シーケンスの補足>
異常検出部F33は、チャネル単位で要検証フラグを立てる場合、一連のサイクルにおいて複数回要検証フラグが設定された送信チャネルTxを異常チャネルと判断しても良い。仮に第1送信チャネルTx1に異常が生じている場合、第1、第4、第5サイクルにおいて、第1送信チャネルTx1に対して要検証フラグが設定されうる。なお、その他の送信チャネルTxに要検証フラグが設定される回数は1回である。第1送信チャネルTx1以外の送信チャネルTxに関しては、第1送信チャネルTx1と位相コードが入れ替えられた場合にのみ要検証フラグが設定されるためである。この場合、異常検出部F33は、複数の送信チャネルTxのうち、第1送信チャネルTx1に異常が生じていると判定する。
【0091】
また、異常検出部F33は、1つの態様として、位相コードの入替を行った送信チャネルの組み合わせそのものに対して要検証フラグを付与する。異常検出部F33は要検証フラグが設定されている組み合わせが複数存在する場合、それらに共通して含まれている送信チャネルTxを異常チャネルと特定する。換言すれば、異常検出部F33は、コード入替前後で解析結果データに所定値以上の変化が観測された組み合わせ(つまり要検証ペア)のパターンに基づいて異常チャネルを特定しうる。例えば第1ペアと第3ペアに要検証フラグが立った場合には、それらに共通して含まれる第1送信チャネルTx1が異常チャネルと判定する。
【0092】
以上では、途中での判断結果によらず、所定のスケジュールに基づき、予定されているサイクルを一通り実施する態様を例示したがこれに限らない。或るサイクルにて要検証フラグがたった場合には、当該サイクルに対応するコード入替チャネルのうちの何れか一方と他の送信チャネルTxとで位相コードを入れ替えて測角処理及び解析結果比較処理を実施しても良い。つまり、要検証フラグがたった組み合わせにおいて集中的に位相コードの入替えによる動作検証を実施しても良い。
【0093】
例えば第3送信チャネルTx3と第4送信チャネルTx4からなる第2ペアの位相コードを入れ替えた解析結果比較処理により要検証フラグがたった場合、コントローラ2は、第2ペアに係る1次検証処理を実施する。すなわち、コントローラ2は1次検証処理として、第1検証チャネルとしての第3送信チャネルTx3と、第2送信チャネルTx2の位相コードを入れ替えて測角処理及び解析結果比較処理を実施する。第3送信チャネルTx3と位相コードを入れ替える相手は、第4送信チャネルTx4以外であればよく、第2送信チャネルTx2の代わりに第1送信チャネルTx1などであってもよい。
【0094】
異常検出部F33は、1次検証処理の結果として解析結果データに変化が見られなかった場合、異常検出部F33は、第3送信チャネルTx3には不具合は生じていないとみなし、消去法的に第4送信チャネルTx4に異常が生じていると判定しても良い。もちろん、1次検証処理の結果として、解析結果データに変化が見られなかった場合、コントローラ2は2次検証処理を実施してもよい。すなわち、コントローラ2は2次検証処理として、第4送信チャネルTx4と、第3送信チャネルTx3以外の任意の送信チャネルTxと位相コードを入れ替え、測角処理及び解析結果比較処理を実施しても良い。
【0095】
2次検証処理の結果として、解析結果データに有意な変化が見られた場合には異常検出部F33は第4送信チャネルTx4に異常が生じている可能性があると判定する。なお、2次検証処理の結果として、解析結果データに有意な変化が見られなかった場合、診断部F3は、第3送信チャネルTx3及び第4送信チャネルTx4は何れも正常と判定してもよいし、診断を保留として異常検出シーケンスを再実行してもよい。
【0096】
また、異常検出部F33は、複数のコード入替サイクルを含む異常検出シーケンスをひと通り実施した結果として発見された要検証ペアが1つ以下である場合には送信チャネルに異常は生じていないと判定してもよい。異常検出部F33は、異常検出シーケンスを実施した結果として発見された要検証ペアが0組である場合には送信チャネルに異常は生じていないと判定してもよい。発見された要検証ペアが1組である場合、正常に動作しているのか否かが不明瞭である。また発見された要検証ペアが1組である場合、異常箇所も特定不能である。異常検出部F33は、異常検出シーケンスを実施した結果として発見された要検証ペアが1組である場合には、異常検出シーケンスを再実行してもよい。
【0097】
さらに、診断部F3は
図8に示す第1サイクルと第2サイクルを実施した結果、何れのサイクルにおいても解析結果に所定値以上の変化が検出されなかった場合には、第3サイクル以降を省略し、異常検出シーケンスを終了しても良い。換言すれば第3サイクル以降は、第1サイクルと第2サイクルを実施した結果として要検証ペアが生じた場合のオプションとして実行されても良い。位相コードの入替スケジュールは各送信元チャネルが少なくとも1回は位相コードが変更されるように設定されていることが好ましい。
【0098】
<期待される効果>
上記構成によれば、診断用の回路を設けなくとも、コード割当の変更といったソフトウェア処理によって、送信チャネルTxの異常を検知可能である。また、コード入替前後におけるFFT処理結果に変化が観測された仮想チャネルの組み合わせによって、異常原因が送信系モジュール7にあるのか、受信系モジュール8にあるのかも特定可能である。加えて、異常原因が受信系モジュール8にある場合には、コード入替前後におけるFFT処理結果に変化が観測された仮想チャネルの番号に基づき、異常が生じている受信チャネルRxを特定可能でもある。
【0099】
また、上記構成においては、コード入替処理を複数の組み合わせで実施することにより、異常が生じている可能性がある送信チャネルTxを絞り込む。つまり、異常が生じている送信チャネルTxを特定可能である。
【0100】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の補足や変形例などは、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。なお、以上で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略することがある。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については上記説明を適用することができる。
【0101】
コーディングに使用される位相は、0°(0)と180°(π)の組み合わせに限定されない。90°(π/2)や45°(π/4)、270°(3π/2)なども採用可能である。例えば、位相コードは、0°と、90°と、180°と、270°の4つのシフト量の組み合わせによって構成されていても良い。
【0102】
コントローラ2は、異常検出部F33にて異常チャネルが特定された場合には、当該異常チャネルの使用を停止してもよい。異常チャネルの使用を停止することには、例えば、当該異常チャネルからの送信を停止することに対応する。また、異常チャネルの使用を停止することは、異常チャネルからの探査波送信は停止しないものの、当該異常チャネルに紐づくIF信号をターゲットの速度、方向、距離の推定に使用しないようにすることを指す。例えば、異常チャネル以外の送信チャネル以外の仮想チャネルでのIF信号に対してのみ、2D/3D-FFTを実施することを指す。異常チャネルの使用を停止することにより、異常チャネルを使い続ける場合よりも測角値等の検出精度を高めることができる。このような構成は、異常チャネル検出時には、機能を縮退させつつ、センシングは継続させる構成に相当する。
【0103】
なお、コントローラ2は、ターゲットの距離に関しては、複数の送信チャネルTxのうち、任意の1つの送信チャネルTxに仮想チャネルでのIF信号に基づいて決定するように構成されても良い。本開示では、距離の特定に使用される送信チャネルTxを測距用チャネルとも称する。仮に第1送信チャネルTx1が測距用チャネルに設定されている場合、コントローラ2はVC11~VC14でのIF信号の1D/2D-FFT処理結果に基づいて、ターゲットごとの距離を特定する。
【0104】
また、コントローラ2は、測距用チャネルが異常チャネルと判定された場合、測距用チャネルとして使用する送信チャネルTxを変更しても良い。例えば、本来の測距用チャネルが第1送信チャネルTx1であって、第1送信チャネルTx1に異常が生じていると判定された場合、一時的に/所定の切り戻し操作が行われるまで、他の送信チャネルTxを測距用チャネルに設定する。例えば測距用チャネルを第1送信チャネルTx1から第2送信チャネルTx2などに切り替える。このように測距用チャネルは異常検出部F33の検出結果に基づいて動的に切り替えられても良い。測距用チャネルを診断部F3の診断結果に応じて動的に切り替える構成によればターゲットの距離等に係る検出精度を維持可能となる。
【0105】
以上では実際に物体検出に使用する送信チャネル間で位相コードを入れ替える態様について述べたが、これに限らない。通常のセンシング時には使用されない、予備の位相コードを、診断対象とする送信チャネルTxに割り当て、その前後における解析結果データを比較することで診断を実施してもよい。つまりコード入替処理として送信チャネルTxに割り当てる位相コードは、予備の位相コードであってもよい。予備の位相コードは、診断用の位相コードと解することもできる。当該構成によっても上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0106】
<付言>
本開示に記載の装置、システム、並びにそれらの手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。さらに、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。例えばレーダ装置1が備える機能の一部又は全部はハードウェアとして実現されても良い。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、1つ又は複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。プロセッサ(演算コア)としては、CPUや、MPU、GPU、DFP(Data Flow Processor)などを採用可能である。また、レーダ装置1が備える機能の一部又は全部は、複数種類の演算処理装置を組み合わせて実現されていてもよい。レーダ装置1が備える機能の一部又は全部は、システムオンチップ(SoC:System-on-Chip)や、FPGA、ASICなどを用いて実現されていても良い。
【0107】
また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に記憶されていてもよい。プログラムの保存媒体としては、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等を採用可能である。
【0108】
上述したレーダ装置1の他、コントローラ2としての制御回路モジュールや、レーダ装置1を構成要素とするシステムなど、種々の形態も本開示の範囲に含まれる。例えば、コンピュータをレーダ装置1として機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体等の形態も本開示の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0109】
1 レーダ装置、2 コントローラ、3 RF部、4 シンセサイザ、Tx・Tx1~Tx4 送信チャネル、72 移相器、73 パワーアンプ、74 アンテナ素子、81 アンテナ素子、G1 復号分離器(分離処理部)、G2 FFT処理部(解析結果取得部)、F1 検出物情報取得部(解析結果取得部)、F11 距離推定部、F12 速度推定部、F13 方向推定部、F2 送信制御部、F3 診断部、F31 割当変更部、F32 受信設定修正部、F33 異常検出部