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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】水性インクジェットインキ及び印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240820BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240820BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021170007
(22)【出願日】2021-10-18
(65)【公開番号】P2023060416
(43)【公開日】2023-04-28
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀雄
(72)【発明者】
【氏名】亀山 雄司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洸洋
(72)【発明者】
【氏名】服部 和昌
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-105310(JP,A)
【文献】特開2020-100712(JP,A)
【文献】特開2005-239947(JP,A)
【文献】特開2013-199605(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073562(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0266776(US,A1)
【文献】国際公開第2017/169840(WO,A1)
【文献】特開2004-175918(JP,A)
【文献】特開2021-102726(JP,A)
【文献】特開2023-006417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料(A)、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)、水溶性有機溶剤(C)、界面活性剤(D)、及び、水を含む水性インクジェットインキであって、下記(1)~(5)の条件をすべて満たす、水性インクジェットインキ。
(1)前記水溶性アクリルウレタン樹脂(B)が、
アクリルジオール(b1)由来の構成単位、
ポリイソシアネート(b2)由来の構成単位、及び、
酸基一つと水酸基二つとを有する、分子量100~500の低分子ジオール(b3)由来の構成単位、を含む。
(2)前記アクリルジオール(b1)が、
メルカプト基一つと水酸基二つとを有する連鎖移動剤(t)由来の構成単位、
酸基を有するビニル単量体(f1)由来の構成単位、及び、
酸基を有しない(メタ)アクリレート(f2)由来の構成単位、を含む。
(3)前記水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の重量平均分子量が、9,000~32,000である。
(4)前記水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の含有量が、前記水性インクジェットインキ全量中2~10質量%である。
(5)前記界面活性剤(D)のHLB値が、0~7である。
【請求項2】
前記アクリルジオール(b1)の酸価が、25~310mgKOH/gである、請求項1記載の水性インクジェットインキ。
【請求項3】
前記アクリルジオール(b1)中に含まれる、前記連鎖移動剤(t)由来の構成単位の含有率が、前記アクリルジオール(b1)由来の構成単位の全量に対して1~8.7質量%である、請求項1または2記載の水性インクジェットインキ。
【請求項4】
前記水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の単位質量あたりに存在する、前記酸基を有するビニル単量体(f1)由来の酸基の量と、前記低分子ジオール(b3)由来の酸基の量との比率が、1:4~4:1である、請求項1~3いずれか1項に記載の水性インクジェットインキ。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の水性インクジェットインキを、紙基材に印刷してなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインキ、及び、当該水性インクジェットインキを用いて作製した印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方法は、インクジェットヘッドにある非常に微細なノズルからインキの微小液滴を基材に対して吐出し、着弾させて、画像や文字を形成する方法である(以下、画像及び/または文字が記録された基材を「印刷物」と総称する)。インクジェット印刷方法は、他の印刷方法と比べて、印刷装置の設計自由度及びコスト、印刷時のランニングコスト、フルカラー化の容易性などの面で優れており、普及が著しい。また、近年のインクジェットヘッド性能の著しい向上に伴い、従来オフセット印刷方法が用いられていた産業印刷市場への、インクジェット印刷方法の展開が期待されている。
【0003】
一般に紙基材は、上質紙、中質紙等の非塗工紙、コート紙、アート紙等の塗工紙に大別され、産業印刷市場では、これら両方の紙基材に対して、画像品質等に優れた印刷物が作製できることが求められる。しかし、インクジェット印刷方法で使用されるインキ(インクジェットインキ)、特に、水を主成分として含む水性インクジェットインキ(以下では単に「インキ」ともいう)は、オフセット印刷方式で使用されるインキと比較して粘度が低いために、例えば表面コート層を有する塗工紙に対して画像を印刷した際、異色のインキ間で色が混ざってしまう「混色滲み」、及び、同一色である部分において、当該色が不均一な状態になってしまう「色ムラ」といった現象が発生し、画像品質が落ちてしまう。また、表面コート層を有しない非塗工紙に印刷した際には、基材の繊維に沿ってインキの不規則な滲みが発生する「フェザリング」と呼ばれる現象が起こり、画像品質が低下してしまうとともに、インキが紙の裏面にまで浸透してしまう「裏抜け」という現象が発生し、印刷物の画像濃度(発色性)が低下してしまう。
【0004】
上記課題の解決を図るべく、これまでにも様々な検討が行われている。例えば特許文献1では、表面張力が小さい1,2-アルカンジオールと、標準沸点が250℃以下であり炭素数が3以上である両末端アルカンジオールとを含む水性インクジェットインキを、循環機構を備えるインクジェットヘッドを用いて印刷する方法が開示されている。しかしながら特許文献1では、吐出安定性の確保及び向上を、上記循環機構を備えるインクジェットヘッドを含む印刷装置設計によって実現しており、インクジェット印刷方法の特徴として上述した、印刷装置の設計自由度及びコストの観点からは、有効なものとはいえなかった。また、本発明者らが検討したところ、特許文献1の実施例に具体的に開示されている処方では、非塗工紙に対するフェザリングの完全な抑制には至らないことが判明した。
【0005】
また特許文献2では、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールまたは1,2-ヘキサンジオールと、ステアリルメタクリレートやα-メチルスチレン由来の構成単位を有するアクリル樹脂を含む、水性インクジェットインキが開示されている。しかしながら上記の水溶性有機溶剤は沸点が高いため、単に特許文献2に記載のインキを、例えば塗工紙に印刷した場合、上述した混色滲みや色ムラが発生してしまう恐れが強い。
更に特許文献3では、上記特許文献2に開示された水性インクジェットインキに対し、更に、星形構造を有する変性ポリアルコキシレートを添加している。しかしながら上記星形構造を有する変性ポリアルコキシレートは親水性が高いと考えられるため、特許文献2の場合と同様、塗工紙に印刷した際の画像品質に劣ることが予想される。
【0006】
以上のように、印刷される紙基材の種類によらず、画像品質及び発色性に優れた印刷物が得られ、吐出安定性にも優れる、水性インクジェットインキは、これまで存在しない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2021-133555号公報
【文献】特開2014-91760号公報
【文献】特開2015-151482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、印刷される紙基材の種類によらず、画像品質及び発色性に優れた印刷物が得られ、吐出安定性にも優れる、水性インクジェットインキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、特定の構成を有する水溶性アクリルウレタン樹脂を一定量含み、かつ、HLB値が0~7である界面活性剤(D)を併用した水性インクジェットインキを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、顔料(A)、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)、水溶性有機溶剤(C)、界面活性剤(D)、及び、水を含む水性インクジェットインキであって、下記(1)~(5)の条件をすべて満たす、水性インクジェットインキに関する。
(1)前記水溶性アクリルウレタン樹脂(B)が、
アクリルジオール(b1)由来の構成単位、
ポリイソシアネート(b2)由来の構成単位、及び、
酸基一つと水酸基二つとを有する、分子量100~500の低分子ジオール(b3)由来の構成単位、を含む。
(2)前記アクリルジオール(b1)が、
メルカプト基一つと水酸基二つとを有する連鎖移動剤(t)由来の構成単位、
酸基を有するビニル単量体(f1)由来の構成単位、及び、
酸基を有しない(メタ)アクリレート(f2)由来の構成単位、を含む。
(3)前記水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の重量平均分子量が、9,000~32,000である。
(4)前記水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の含有量が、前記水性インクジェットインキ全量中2~10質量%である。
(5)前記界面活性剤(D)のHLB値が、0~7である。
【0011】
また本発明は、前記アクリルジオール(b1)の酸価が、25~310mgKOH/gである、上記水性インクジェットインキに関する。
【0012】
また本発明は、前記アクリルジオール(b1)中に含まれる、前記連鎖移動剤(t)由来の構成単位の含有率が、前記アクリルジオール(b1)由来の構成単位の全量に対して1~8.7質量%である、上記水性インクジェットインキに関する。
【0013】
また本発明は、前記水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の単位質量あたりに存在する、前記酸基を有するビニル単量体(f1)由来の酸基の量と、前記低分子ジオール(b3)由来の酸基の量との比率が、1:4~4:1である、上記水性インクジェットインキに関する。
【0014】
また本発明は、上記水性インクジェットインキを、紙基材に印刷してなる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、印刷される紙基材の種類によらず、画像品質及び発色性に優れた印刷物が得られ、吐出安定性に優れる、水性インクジェットインキを提供することが可能となる。具体的には、本発明の水性インクジェットインキは、非塗工紙に対して、フェザリングがなく、かつ、裏抜けのない発色性に優れた印刷物が得られ、塗工紙に対して、混色滲み及び色ムラがなく、発色性にも優れた印刷物が得られ、更には、印刷条件によらず、インクジェットヘッドからの吐出安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の好適な実施形態の例について説明する。なお本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で実施される各種の変形例も含む。
【0017】
上述したように、非塗工紙は表面コート層を有しないため、印刷されたインキが内部に浸透しやすい。その結果、非塗工紙表面にインキが残りづらく、見かけの乾燥性には優れる一方で、印刷物に、フェザリング、及び、裏抜けによる画像濃度(発色性)の低下といった問題が発生する恐れがある。一方で塗工紙は、印刷されたインキが内部に浸透しづらいため、色の異なるインキや多量のインキを印刷した際に、印刷物に混色滲み及び色ムラが発生する等の問題が生じる。
【0018】
本発明の水性インクジェットインキは、上述した課題を解決し、紙基材の種類によらず、画像品質及び発色性に優れた印刷物を得ることを目的としたものであり、以下に説明する構成を有する。
【0019】
まず、本発明の水性インクジェットインキは、HLB値が0~7である界面活性剤(D)を含む。一般に界面活性剤(D)は、HLB値が小さいほど疎水性が高く、水性インクジェットインキの気液界面に配向しやすい。その結果、塗工紙上に水性インクジェットインキを印刷した際、当該塗工紙上に着弾したインキの液滴が速やかに濡れ拡がるとともに、液滴同士の合一も抑制することで、混色滲みや色ムラの抑制が可能となる。一方、HLB値が小さい界面活性剤(D)が含まれる水性インクジェットインキでは表面張力が大幅に低下するため、上述した、非塗工紙に印刷した際の問題が発生しやすくなってしまう。更に、表面張力の低下により、インクジェットヘッドからの吐出安定性の悪化も引き起こされる恐れがある。
【0020】
そこで、本発明の水性インクジェットインキには、更に、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)を一定量含めることで、この問題の解決を図っている。
【0021】
水溶性アクリルウレタン樹脂(B)は、アクリルジオール(b1)を構成単位として含有するウレタン樹脂であり、当該アクリルジオール(b1)由来の構成単位が、ウレタン樹脂鎖に対してグラフトした形になっている。また、アクリルジオール(b1)も、ウレタン樹脂鎖も、ともに酸基を有している。この「主鎖及びグラフト鎖にともに酸基を有する水溶性ポリマー」である水溶性アクリルウレタン樹脂(B)が、非塗工紙を構成するパルプと絡み合う、及び/または、当該非塗工紙に含まれる、サイズ剤等のイオン性成分と相互作用を起こすことにより、当該水溶性アクリルウレタン樹脂(B)を含む水性インクジェットインキの浸透を抑制すると考えられる。その結果、非塗工紙上に印刷した際に、フェザリング抑制され、裏抜けもなく発色性に優れた印刷物が得られると考えられる。また、当該水溶性アクリルウレタン樹脂(B)中に存在する酸基が形成する水素結合ネットワークにより、水性インクジェットインキの液滴が合一しにくくなり、塗工紙に印刷した際の混色滲み及び色ムラの更なる低減も可能となる。
【0022】
なお上述した通り、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)は酸基を複数含み、また水溶性であるため、親水性が高い。そのため、疎水性が高い界面活性剤(D)とは混和しにくく、上述したそれぞれの効果を阻害しあうことがない。
【0023】
更に、上記の水素結合ネットワークに加え、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の親水性の高さ、主鎖であるウレタン樹脂鎖の弾性の高さ、等の要因により、当該水溶性アクリルウレタン樹脂(B)を一定量含む水性インクジェットインキの粘弾性が好適化する。一般に、水溶性樹脂を含む水性インクジェットインキは、当該水溶性樹脂による構造粘性や乾燥増粘により、吐出安定性の確保が難しいが、本発明の水性インクジェットインキでは、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の採用による上記の効果により、吐出安定性の大幅な改善が実現できる。
【0024】
以上のように、インクジェットヘッドからの吐出安定性に優れ、また、印刷される紙基材の種類によらず画像品質及び発色性に優れた印刷物が得られる、具体的には、非塗工紙に対し、フェザリングがなく発色性に優れた印刷物が得られ、塗工紙に対し、混色滲み及び色ムラがなく発色性にも優れた印刷物が得られる水性インクジェットインキを得るためには、上記構成の採用が必須不可欠である。
【0025】
続いて以下に、本発明の水性インクジェットインキについて、その構成材料等を詳細に説明する。
【0026】
<水溶性アクリルウレタン樹脂(B)>
一般に「アクリルウレタン樹脂」とは、アクリル樹脂鎖とウレタン樹脂鎖を含む樹脂を指す。そして、本発明の水性インクジェットインキに含まれる水溶性アクリルウレタン樹脂(B)は、アクリルジオール(b1)由来の構成単位と、ポリイソシアネート(b2)由来の構成単位と、酸基一つと水酸基二つとを有する、分子量100~500の低分子ジオール(b3)由来の構成単位とを含む。
【0027】
なお、本明細書における「水溶性樹脂」とは、対象となる樹脂1gと水99gとの混合物が、肉眼で見て透明である、または、当該混合物を試料として、粒子径を測定することができない状態を意味するものとする。ただし、上記粒子径とは、動的光散乱法による測定値であり、例えばマイクロトラック・ベル社製「ナノトラックUPA-EX150」を用い、25℃の条件下で測定される、体積基準のメジアン系である。
【0028】
水溶性アクリルウレタン樹脂(B)は、少なくともバインダー樹脂として使用されることが好適である。また、吐出安定性の向上、非塗工紙に対する印刷物における、フェザリングの抑制及び発色性の確保、並びに、塗工紙における発色性の維持の観点から、その好ましい含有量は、水性インクジェットインキ全量中2~10質量%であり、より好ましくは2.5~9質量%であり、特に好ましくは3~8質量%である。
【0029】
なお、本願における「バインダー樹脂」とは、基材上に顔料を結着させるとともに、乾燥後の印刷物に、耐擦過性、耐水性、基材密着性等を付与するために使用される樹脂である。後述するように、本発明に用いられる水性インクジェットインキは顔料分散樹脂を含んでもよいが、「顔料分散樹脂」とは、インキ中での顔料の分散安定化を目的として使用される樹脂であり、その使用目的はバインダー樹脂とは異なる。
【0030】
そのため、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の機能を十分に発現させ、本発明の効果を有効に得るという観点から、本発明の水性インクジェットインキが顔料分散樹脂を含む場合は、当該顔料部酸樹脂として水溶性アクリルウレタン樹脂(B)ではない樹脂を含むことが好ましい。また、顔料(A)が、顔料分散樹脂ではない材料または方法(詳細は後述する)で分散されていてもよい。
【0031】
なお、前記顔料分散樹脂とバインダー樹脂とは、顔料に対する吸着率によって区別される。すなわち、顔料(A)と、判断対象となる樹脂と、水系媒体(水を50質量%以上含む液体媒体)とを含む顔料分散液であって、顔料(A)の濃度を5質量%とし、水の量を水系媒体全量中98質量%以上とした顔料分散液において、当該顔料(A)に対する樹脂の吸着率が35質量%以上である樹脂を顔料分散樹脂、35質量%未満である樹脂をバインダー樹脂とする。
【0032】
また、上記吸着率の測定に使用する顔料分散液は、例えば、後述するシアン顔料分散液の製造例に記載した方法により、顔料濃度が20質量%である高濃度顔料分散液を製造したのち、当該顔料濃度が5質量%になるまで、水で希釈することで作製できる。また上記吸着率は、例えば、顔料濃度を5質量%とした顔料分散液に対して超遠心分離処理(例えば、30,000rpmで4時間)を施し、上澄み液中に含まれる樹脂量を測定したのち、下記式1を用いて算出することができる。
【0033】

(式1) 吸着率(%)=(WR1-WR2)×100/WR1
【0034】
上記式1において、WR1は、超遠心分離処理前の顔料分散液中に含まれる樹脂量を表し、WR2は、上澄み液中に含まれる樹脂量を表す。
【0035】
水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の重量平均分子量は9,000~32,000である。重量平均分子量が9,000以上であると、非塗工紙内部への水性インクジェットインキの浸透を抑制することができ、当該非塗工紙上に、フェザリングがなく発色性にも優れた印刷物が作製できる。また、水素結合ネットワークが強固になることで、非塗工紙に印刷した際の、混色滲みや色ムラの抑制にも有効である。更に、印刷物の耐擦過性の観点からも好適である。また、重量平均分子量が32,000以下であると、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の構造粘性が小さくなり、水性インクジェットインキの粘弾性が好適化することで、吐出安定性が向上する。なお、上記効果を更に好適に発現させる観点から、重量平均分子量は、10,000~30,000であることがより好ましく、11,000~28,000であることが更に好ましく、12,000~26,000であることが特に好ましい。また、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の重量平均分子量は、後述する方法によって測定される、ポリスチレン換算値である。
【0036】
また、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の酸価は25~90mgKOH/gであることが好ましい。水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の酸価が25mgKOH/g以上であると、水系媒体に対する溶解度が向上するため、例えばインクジェットヘッド上で一部乾固した樹脂(B)を再溶解させることが容易になり、吐出安定性の向上につながる。また、上述した水素結合ネットワークが好適に形成されるため、非塗工紙に印刷した際のフェザリングの抑制及び発色性の向上、並びに、塗工紙に印刷した際の混色滲み及び色ムラの抑制が容易になる。一方、90mgKOH/g以下であると、水性インクジェットインキの乾燥増粘を抑制することができるため、吐出安定性を向上させることができる。水溶性アクリルウレタン樹脂の酸価は、上記の効果を好適に発現させる観点、及び、合成上のハンドリングの観点から、30~80mgKOH/gであることが好ましく、35~70mgKOH/gであることがより好ましい。なお、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の酸価は、後述する方法によって測定される、実測値である。
【0037】
また、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の単位質量あたりに存在する、酸基を有するビニル単量体(f1)由来の酸基の量と、低分子ジオール(b3)由来の酸基の量との比率は、1:4~4:1であることが好ましい。それぞれの原料由来の酸基の比率が上記範囲内であると、当該酸基を有するビニル単量体(f1)由来の酸基の水和に基づく、水に対する溶解性が高くなり、吐出安定性が向上すると同時に、詳細は不明ながら上述した水素結合ネットワークが好適に形成されるため、非塗工紙に印刷した際のフェザリングの抑制及び発色性の向上、並びに、塗工紙に印刷した際の混色滲み及び色ムラの抑制が容易になる。上記比率は、より好ましくは1:3~3:1であり、特に好ましくは2:3~3:2である。
【0038】
水溶性アクリルウレタン樹脂(B)は、例えば、後述する方法で製造されたアクリルジオール(b1)、及び、分子量100~500の低分子ジオール(b3)を含むポリオール(2個以上の水酸基を有する化合物)と、ポリイソシアネート(b2)とを重付加(ウレタン重合)させることで製造される。また、上記重付加ののち、更に、後述する鎖延長剤と反応(ウレア反応)させてもよい。この場合、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)は、ウレタン結合に加えてウレア結合も有することになる。
【0039】
続いて以下に、上記水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の製造例において使用される各材料について、詳細に説明する。
【0040】
<アクリルジオール(b1)>
水溶性アクリルウレタン樹脂(B)を構成するアクリルジオール(b1)は、メルカプト基一つと水酸基を二つ含有する連鎖移動剤(t)由来の構成単位と、酸基を有するビニル単量体(f1)由来の構成単位と、酸基を有しない(メタ)アクリレート(f2)由来の構成単位とを有する。
【0041】
アクリルジオール(b1)の酸価は、25~310mgKOH/gであることが好ましい。アクリルジオール(b1)の酸価が25mgKOH/g以上であると、水性アクリルウレタン樹脂(B)が水に溶解しやすくなるうえ、上述した水素結合ネットワークが好適に形成されるため、非塗工紙に印刷した際にフェザリングがなく発色性にも優れた印刷物が得られ、塗工紙に印刷した際には混色滲み及び色ムラのない印刷物となる。また、酸価が310mgKOH/g以下であると、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)を用いた水性インクジェットインキの吐出安定性が向上する。アクリルジオール(b1)の酸価は、上記効果が好適に発現する点、及び、合成上の観点から、50~300mgKOH/gであることがより好ましく、65~280mgKOH/gであることが更に好ましい。なお、アクリルジオール(b1)の酸価は、後述する方法によって測定される、実測値である。
【0042】
上記アクリルジオール(b1)は、例えば、メルカプト基一つと水酸基を二つ含有する連鎖移動剤(t)の存在下で、酸基を有するビニル単量体(f1)と、酸基を有しない(メタ)アクリレート(f2)とを重合させて得ることができる。
【0043】
(酸基を有するビニル単量体(f1))
酸基を有するビニル単量体(f1)は、酸基を有しているビニル重合体であれば特に限定されるものではない。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、3-アリルオキシプロピオン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、フタル酸ビニル、ピロメリット酸ビニル、5-ヘキセン酸、5-ヘプテン酸、6-ヘプテン酸、7-オクテン酸、8-ノネン酸、9-デセン酸、10-ウンデシレン酸、11-ドレシレン酸、17-オクタデシレン酸、オレイン酸、3-(2-アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、3-(2-アリロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸、3-(2-ビニロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸、3-(2-ビニロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸等のカルボキシ基含有ビニル単量体;
スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、メタクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有ビニル単量体;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェートなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキル(C1-C24)リン酸モノエステル、(メタ)アクリロイルオキシアルキル(炭素数1-24)ホスホン酸、アシッドホスフォオキシエチル(メタ)アクリレート、モノ(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)ホスフェートなどのリン酸基含有ビニル単量体;
等が挙げられる。上記列挙した中でも、材料選択の幅が広い点、酸基を有しない(メタ)アクリレート(f2)等との合成が容易である等点から、カルボキシ基含有ビニル単量体を使用することが好ましい。特に、入手容易性、合成のハンドリング性の点等から、アクリル酸及び/またはメタクリル酸がより好ましく使用できる。
【0044】
(酸基を有しない(メタ)アクリレート(f2))
酸基を有しない(メタ)アクリレート(f2)として使用できる化合物は、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸-アリルフェニル等の芳香環含有(メタ)アクリレート;
パーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロイソノニルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロノニルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、アリルアルコール、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n-ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n-ペンタキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n-ブトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n-ペンタキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリエーテル鎖含有(メタ)アクリレート;
イソボニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸1-メチルアリル、(メタ)アクリル酸2-メチルアリル、(メタ)アクリル酸1-ブテニル、(メタ)アクリル酸2-ブテニル、(メタ)アクリル酸3-ブテニル、(メタ)アクリル酸2-クロルアリル、(メタ)アクリル酸3-クロルアリル、(メタ)アクリル酸ビニル等のその他(メタ)アクリレート;
マレイン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、クロトン酸ビニル、オレイン酸ビニル等のエチレン性不飽和基含有エステル;
等が挙げられる。中でも、アルキル(メタ)アクリレートは、分子鎖が長く、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)がパルプと絡み合いやすくなるため、非塗工紙上に印字した際、フェザリングが抑制された、画像品質及び発色性に優れる印刷物が得られる点から、好適に選択される。また特に、アルキル基の炭素数が4~18であるアルキル(メタ)アクリレートが、好ましく使用できる。
【0045】
(その他ビニル単量体(f3))
アクリルジオール(b1)の重合にあたっては、上述した酸基を有するビニル単量体(f1)、及び、酸基を有しない(メタ)アクリレート(f2)以外のビニル単量体(以下、本願では「その他ビニル単量体(f3)」ともいう)が使用されていてもよい。なおその場合、アクリルジオール(b1)には、当該その他ビニル単量体(f3)由来の構成単位も含まれることとなる。
【0046】
上記その他ビニル単量体(f3)として、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等のα-オレフィン系ビニル単量体;スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、アリルベンゼン等の芳香族ビニル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、プロピルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等のアミド基含有単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の脂肪酸ビニル単量体;等が使用できる。
【0047】
(連鎖移動剤(t))
アクリルジオール(b1)は、メルカプト基一つと水酸基二つとを有する連鎖移動剤(t)由来の構成単位を含む。なお、アクリルジオール(b1)にメルカプト基一つと水酸基二つとを有する連鎖移動剤(t)由来の構成単位を含めるためには、例えば、当該連鎖移動剤(t)の存在下で、上記列挙した複数のビニル単量体を重合させればよい。そうすることにより、連鎖移動剤(t)がビニル単量体と反応し、分子鎖末端に2つの水酸基を有するアクリルジオール(b1)が得られる。
【0048】
本発明で好適に使用できる連鎖移動剤(t)として、例えば、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、2-メルカプト-1,3-プロパンジオール、2-メルカプト-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メルカプト-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2メルカプトエチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メルカプトエチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。
【0049】
アクリルジオール(b1)中に含まれる、連鎖移動剤(t)由来の構成単位の含有率は、当該アクリルジオール(b1)由来の構成単位の全量に対して1~8.7質量%であることが好ましい。連鎖移動剤(t)由来の構成単位の量が、アクリルジオール(b1)由来の構成単位の全量に対して1質量%以上になるようにすると、アクリルジオール(b1)の分子量、及び、当該アクリルジオール(b1)を使用して製造される水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の重量平均分子量が制御しやすくなる。またその結果、紙基材の種類によらず、画像品質及び吐出安定性に優れた水性インクジェットインキを得ることが容易になる。また、連鎖移動剤(t)由来の構成単位の量が8.7質量%以下であると、相対的に、アクリルジオール(b1)を構成するビニル重合体由来の構成単位の量が多くなるため、当該アクリルジオール(b1)に含まれる酸基の効果を十分に発現させることが可能となる。なお、上記効果を更に好適に発現させる観点、及び、合成時のハンドリング性を向上させる観点から、連鎖移動剤(t)由来の構成単位の量は、当該アクリルジオール(b1)由来の構成単位の全量に対して1.1~7.8質量%であることが更に好ましく、1.2~7.4質量%であることが特に好ましい。
【0050】
(重合開始剤)
アクリルジオール(b1)の重合にあたっては、ラジカル重合開始剤(以下、単に「重合開始剤)ともいう)を使用することが好ましい。重合開始剤は、ラジカル重合を開始する能力を有するものであればよく、従来既知の油溶性重合開始剤及び水溶性重合開始剤を使用することができる。
【0051】
油溶性重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等のアゾビス化合物;等が使用できる。
【0052】
また水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドが使用できる。
【0053】
上記列挙した重合開始剤は1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を混合して使用することもできる。
【0054】
<ポリイソシアネート(b2)>
ポリイソシアネート(b2)は、従来既知のものを任意に用いることができ、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、トリイソシアネート等が挙げられる。具体的には、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’ -ビフェニレンジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、テトラヒドロナフチレン-1,5-ジイソシアネート、4,4’-ビベンジルジイルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;
テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;
ジシクロヘキシルメタンジイシシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;
トリフェニルメタントリイソシアネート、リジントリイソシアネート等のトリイソシアネート;
等が挙げられる。
【0055】
また、トリイソシアネートとして、イソシアネート化合物から得られるアダクト体及びイソシアヌレート体等を使用してもよい。なお、「アダクト体」とは、イソシアネート化合物とトリメチロールプロパンとの付加体であり、「イソシアヌレート体」とは、イソシアネート化合物の三量体である。
【0056】
上記列挙したポリイソシアネート(b2)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
<低分子ジオール(b3)>
水溶性アクリルウレタン樹脂(B)は、酸基一つと水酸基二つとを有する、分子量100~500の低分子ジオール(b3)由来の構成単位を含む。例えば、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の合成における重付加の際に、酸基一つと水酸基二つとを有する、分子量100~500の低分子ジオール(b3)を使用することにより、上記構成単位を含む樹脂を得ることができる。上記酸基として、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基等があり、中でも、水素結合の形成性に優れ、水性インクジェットインキの吐出安定性も向上できる点から、カルボキシ基を選択することが好ましい。また、上述した低分子ジオール(b3)に由来する酸基の量の調整がしやすい点、水性インクジェットインキの吐出安定性も向上できる点から、当該低分子ジオール(b3)の分子量は、100~200であることが好ましく、120~160であることが特に好ましい。
【0058】
低分子ジオール(b3)の具体例として、例えば、下記一般式2で表されるジメチロールカルボン酸;ジヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシフェニルプロピオン酸等の芳香族ジヒドロキシカルボン酸;等が挙げられる。
【0059】

(一般式2) R-C(CH2OH)2-COOH
【0060】
上記一般式2において、Rは水素原子または炭素数1~20のアルキル基である。
【0061】
上記列挙した中でも、低分子ジオール(b3)として、ジメチロールプロピオン酸及びジメチロール酪酸(上記一般式2で表されるジメチロールカルボン酸のうち、Rがメチル基またはエチル基であるもの)、並びに、ジヒドロキシ安息香酸からなる群から選択される1種以上が好ましく使用できる。
【0062】
<酸基を有しないポリオール>
上述した水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の製造例における重付加(ウレタン重合)において、アクリルジオール(b1)及び低分子ジオール(b3)以外に、ポリオールとして、酸基を有しないポリオールを使用してもよい。酸基を有しないポリオールとして、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエステルアミドポリオール等の高分子ポリオール;、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等の酸基非含有低分子ジオール;トリメチロールプロパン、グリセリン等のトリオール;等が使用できる。中でも、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)に様々な機能を付与できるうえ、上述した水素結合ネットワークが強固になることで、非塗工紙に印刷した際の、混色滲みや色ムラの抑制にも有効である点から、酸基を有しないポリオールとして、高分子ポリオールを使用することが好ましい。また高分子ポリオールの中でも、ポリカーボネートポリオールを用いることが好ましい。ポリカーボネートポリオールを用いることで、カーボネート基の高い凝集力による、印刷物の耐水性、耐擦過性、耐溶剤性の向上が実現できる。
【0063】
なお、酸基を有しないポリオールを使用する場合、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。また、上記「高分子ポリオール」とは、分子量が500超であるポリオールを表す。
【0064】
ポリカーボネートポリオールとして、例えば、アルキレンカーボネート、ジアリルカーボネート、ジアルキルカーボネート等のカーボネート成分と、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブチンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の酸基非含有低分子ポリオールとの縮合体が使用できる。
【0065】
また、ポリエステルポリオールとして、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の多価カルボン酸、または、当該多価カルボン酸のジアルキルエステルと、上記列挙した酸基非含有低分子ポリオールとのエステル反応生成物;あるいは、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β-メチル-γ-バレロラクトン)等のラクトン類の開環重合反応物;ヒマシ油等の水酸基含有植物油;等が使用できる。
【0066】
また、ポリエーテルポリオールとして、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を、水、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等を開始剤として開環重合させて得られる化合物が使用できる。
【0067】
<鎖延長剤>
上述した水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の製造例において示したように、ポリオールとポリイソシアネート(b2)との重付加(ウレタン重合)の後、更に、得られた生成物中に存在する未反応のイソシアネート基と、鎖延長剤とを反応(ウレア反応)させてもよい。このウレア反応により、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)中にウレア結合が形成され、印刷物の耐水性や耐擦過性が向上するだけではなく、詳細は不明ながら、当該印刷物の画像品質及び吐出安定性が更に良化する。
【0068】
鎖延長剤として、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジアミン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-p-フェニレンジアミン、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)-1,3-プロパンジアミン、N-(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ダイマージアミン(ダイマー酸のカルボキシ基をアミノ基に転化した化合物)等が使用できる。また上記列挙した鎖延長剤は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0069】
<数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)の測定方法>
本願では、アクリルジオール(b1)の数平均分子量(Mn)、並びに、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)及び後述する顔料分散樹脂の重量平均分子量(Mw)として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される、ポリスチレン換算値を使用する。詳細な測定装置及び測定条件は、下記条件に記載した通りである。ただし、測定する樹脂の種類等によって、キャリア及びカラムを適宜変更し、また、当該キャリアに溶けにくい樹脂に関しては、溶解可能な試料濃度条件下で測定を行う。なお、その他の事項についてはJIS K 7252-1~4に準じることとする。
キャリア(溶離液): テトラヒドロフラン
カラム: TOSOH TSKgel SuperHZM-H、TOSOH TSKgel SuperHZ4000、及び、TOSOH TSKgel SuperHZ2000を連結したもの
測定温度: 40℃
キャリア流量: 1.0mL/min
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI(屈折率)検出器
注入量: 0.1mL
【0070】
<酸価の測定方法>
本願における酸価は、JIS K 0070に準じ、下記方法で測定した実測値である。具体的には、試料0.5~2gを精秤したのち、中性エタノール10mLを加え溶解させる。その後、京都電子工業社製電位差自動滴定装置「AT-610」を使用し、溶解後の溶液を、0.1mol/Lエタノール性水酸化カリウム溶液で滴定する。そして、電位差曲線が極大となった点を終点とし、当該終点までの滴定量を使用して、下記式3を用いて酸価を算出する。
【0071】

(式3) 酸価(mmol/g)=(A×F×0.1)/S
【0072】
上記式3において、Aは終点までに水酸化カリウム溶液を滴定した量(mL)、Fは当該水酸化カリウム溶液の力価、Sは試料に含まれる測定対象物質の量(固形分換算値)(g)である。
【0073】
<界面活性剤>
本発明の水性インクジェットインキは、HLB値が0~7である界面活性剤(D)を含む。上述したとおり、当該界面活性剤(D)を含む水性インクジェットインキは、特に塗工紙に印刷した際に、混色滲みや色ムラのない、画像品質に優れた印刷物を得ることが可能となる。また、静的及び動的表面張力を調整し、吐出安定性を向上させる観点からも、界面活性剤(D)は必須の材料である。
【0074】
なお、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値とは、材料の親水・疎水性を表すパラメータの一つであり、小さいほど疎水性が高く、大きいほど親水性が高いことを表す。化学構造からHLB値を算出する方法は種々知られており、また実測する方法も様々知られているが、本発明では、後述するアセチレンジオール系界面活性剤及びアセチレンアルコール系界面活性剤のように、化合物の構造が明確に分かる場合は、グリフィン法を用いてHLB値の算出を行う。グリフィン法とは、対象の材料の分子構造と分子量を用いて、下記式4を用いてHLB値を算出する方法である。
【0075】

(式4) HLB値=20×(親水性部分の分子量の総和)÷(材料の分子量)
【0076】
一方、シロキサン系界面活性剤のように、構造不明の化合物が含まれる場合は、例えば「界面活性剤便覧」(西一郎ら編、産業図書株式会社、1960年)のp.324に記載されている以下方法によって、界面活性剤のHLB値を実験的に求めることができる。具体的には、界面活性剤0.5gをエタノール5mLに溶解させたのち、前記溶解液を25℃下で撹拌しながら、2質量%フェノール水溶液で滴定し、液が混濁したところを終点とする。終点までに要した前記フェノール水溶液の量をA(mL)としたとき、下記式5によってHLB値が算出できる。
【0077】

(式5) HLB値=0.89×A+1.11
【0078】
なお、塗工紙に印刷した際の画像品質を更に向上させる観点、水性インクジェットインキ中に含まれる顔料(A)の分散安定性を確保する観点、当該水性インクジェットインキの吐出安定性を向上させる観点、並びに、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)との親和性を低め、その機能を阻害しない観点から、界面活性剤(D)のHLB値は1~6であることがより好ましく、2~4であることが特に好ましい。
【0079】
一般に界面活性剤として、アセチレンジオール系、アセチレンアルコール系、シロキサン系、アクリル系、フッ素系、ポリオキシアルキレンエーテル系等、様々な種類の化合物が知られている。本発明では、上記HLB条件を満たす範囲内で、界面活性剤(D)として、上記列挙したものの1種以上が任意に使用できる。中でも本発明の場合は、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)との混和を防止し、それぞれの効果を阻害しないようにするという観点から、一定の大きさを有する疎水基が存在する界面活性剤が好適に使用できる。上記列挙した中では、アセチレンジオール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、シロキサン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上のノニオン系界面活性剤を含むことが好ましく、少なくともシロキサン系界面活性剤を含むことが特に好ましい。
【0080】
一方で、あまりに界面活性剤(D)の疎水性が強すぎると、水性インクジェットインキから分離してしまう恐れがある。そのため、界面活性剤(D)は、分子中に1~4個の水酸基を有している化合物であることが好適であり、分子中に1~2個の水酸基を有している化合物であることが特に好適である。
【0081】
好適に使用できるアセチレンジオール系界面活性剤として、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、ヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、6,9-ジメチル-テトラデカ-7-イン-6,9-ジオール、7,10-ジメチルヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、並びに、そのエチレンオキサイド及び/またはプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0082】
また、好適に使用できるアセチレンアルコール系界面活性剤として、例えば、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3,6-ジメチル-1-ヘプチン-3-オール、並びに、そのエチレンオキサイド及び/またはプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0083】
また、好適に使用できるシロキサン系界面活性剤として、例えば、デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル社製のDOWSIL(登録商標) FZ-2110、FZ-2164、FZ-2191、FZ-5609、L-7001、L-7002、SH8400、SH8700、Y-7006、FZ-2203;、エボニック社製のTEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 260、TEGO Wet 270、TEGO Wet 280、TEGO Twin 4000、信越化学工業社製のKF-352A、KF-945、KF-6020、X-22-4515、KF-6012、KF-6015、KF-6017;等が挙げられる。特に、1個以上のエチレンオキサイド基及び/または1個以上のプロピレンオキサイド基を、ポリジメチルシロキサン鎖の側鎖及び/または両末端に導入したシロキサン系界面活性剤が好適に使用できる。
【0084】
上記効果を好適に発現させる観点から、界面活性剤(D)の含有量は、水性インクジェットインキ全量に対して0.2~4質量%であることが好ましく、より好ましくは0.3~3質量%であり、特に好ましくは0.5~2質量%である。
【0085】
<顔料(A)>
本発明の水性インクジェットインキは、顔料(A)を含む。当該顔料(A)として、従来既知の有機顔料及び/または無機顔料が任意に使用できる。また、顔料(A)として、1種の顔料のみを使用してもよいし、例えば色相及び発色性の調整のため、2種以上の顔料を併用してもよい。更に、着色力の向上等を目的として、顔料(A)と、従来既知の染料とを併用してもよい。
【0086】
発色性及び鮮明性の高い、画像品質に優れた印刷物が得られ、更には当該印刷物の耐水性、耐光性、耐候性等も向上できる観点から、水性インクジェットインキ中の顔料(A)の量は、一定量以上とすることが好適である。その際、使用する顔料(A)の比重も考慮して配合量を決定することが好ましい。具体的には、「水性インクジェットインキ全量に対する顔料(A)の量/当該顔料(A)の比重」で表される値(顔料(A)が2種以上の顔料を含む場合、それぞれの顔料について算出された「水性インクジェットインキ全量に対する顔料の量/当該顔料の比重」の値の総和)を、0.2~6とすることが好適であり、0.5~5とすることがより好適であり、0.8~4.5とすることが特に好適である。上記範囲内とすることで、上述した鮮明性、耐水性、耐光性、対候性等に優れる印刷物が得られるだけでなく、水性インクジェットインキの粘度を、インクジェット印刷に適した範囲に収めることが可能となるうえ、当該水性インクジェットインキ中の顔料(A)の分散安定性も良好となるため、長期に渡って吐出安定性が確保できる。
【0087】
本発明の水性インクジェットインキで使用できるシアン有機顔料として、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、66等が挙げられる。中でも発色性及び耐光性に優れる点から、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:4からなる群から選択される1種以上が好ましく使用できる。
【0088】
また、マゼンタ有機顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、22、23、31、48、49、52、53、57(Ca)、57:1、112、122、146、147、150、185、202、209、238、242、254、255、266、269、282、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、43、50等が使用できる。中でも発色性及び耐光性に優れる点から、C.I.ピグメントレッド122、150、166、185、202、209、266、269、282、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される1種以上が好ましく使用できる。なお発色性を更に高め、画像品質に優れた印刷物を得る観点で、マゼンタ有機顔料として、キナクリドン顔料及び/またはナフトール顔料を含む固溶体顔料を用いることも好ましい。
【0089】
また、イエロー有機顔料として、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213等が使用できる。中でも発色性に優れる点からC.I.ピグメントイエロー12、13、14、74、120、180、185、及び213からなる群から選択される1種以上が好ましく使用できる。
【0090】
また、ブラック有機顔料として、例えば、アニリンブラック、ルモゲンブラック、アゾメチンアゾブラック等が使用できる。なお、上記のシアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料や、下記のオレンジ顔料、グリーン顔料、ブラウン顔料等の有彩色顔料を複数混合使用し、ブラック顔料とすることもできる。
【0091】
また、オレンジ顔料、グリーン顔料、ブラウン顔料等の特色顔料を使用することもできる。具体的には、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、 71、C.I.ピグメントグリーン7、36、43、58、ピグメントブラウン23、25、26等が好適に使用可能である。
【0092】
一方、本発明の水性インクジェットインキで使用できる無機顔料にも特に限定がなく、例えばブラック顔料としてカーボンブラック及び/または酸化鉄、ホワイト顔料として酸化チタン及び/または酸化亜鉛を用いることができる。
【0093】
顔料(A)の含有量は、水性インクジェットインキの全量中1~12質量%であることが好ましく、2~10質量%がより好ましく、2.5~8質量%であることが更に好ましい。
【0094】
<顔料分散樹脂>
上述した顔料(A)を水性インクジェットインキ中で安定的に分散保持する方法として、(1)顔料(A)表面の少なくとも一部を顔料分散樹脂によって被覆する方法、(2)水溶性及び/または水分散性の界面活性剤を顔料(A)表面に吸着させる方法、(3)顔料(A)表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、顔料分散樹脂や界面活性剤なしで水性インクジェットインキ中に分散する方法(自己分散顔料)などを挙げることができる。
【0095】
本発明の水性インクジェットインキは、上記のうち(1)の方法、すなわち、顔料分散樹脂を用いる方法が好適に選択される。これは、樹脂を構成する重合性単量体組成や分子量を選定・検討することにより、顔料(A)に対する顔料分散樹脂の被覆能や当該顔料分散樹脂の電荷を容易に調整できるため、顔料(A)の粒子径によらず分散安定性を付与することが可能となり、更には吐出安定性、発色性、及び色再現性に優れた印刷物が得られるためである。
【0096】
顔料分散樹脂の種類は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、(無水)マレイン酸樹脂、スチレン(無水)マレイン酸樹脂、オレフィン(無水)マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂(多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体)等を使用することができるが、これらに限定されない。中でも、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)との親和性の向上による吐出安定性の良化、材料選択性の大きさ等の点で、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。なお上記「(無水)マレイン酸」は、無水マレイン酸またはマレイン酸を表す。
【0097】
またある実施形態では、詳細は不明ながら、非塗工紙に印刷した際に、フェザリング及び裏抜けがない印刷物が得られる観点から、顔料分散樹脂として、スチレン(無水)マレイン酸樹脂、オレフィン(無水)マレイン酸樹脂からなる群より選択される1種以上を使用することが好適である。
【0098】
顔料分散樹脂は、従来既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。またその構造についても特に制限なく、例えばランダム構造、ブロック構造、櫛形構造、星型構造等を有する樹脂が利用できる。更に、顔料分散樹脂として、水溶性樹脂を選択してもよいし、非水溶性樹脂を選択してもよい。
【0099】
本発明において、顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、その酸価が100~450mgKOH/gであることが好ましく、120~400mgKOH/gであることがより好ましい。特に好ましくは150~350mgKOH/gである。酸価を上記の範囲内とすることで、顔料(A)の分散安定性を保つことが可能であり、インクジェットヘッドから安定して吐出することが可能となる。また、顔料分散樹脂の水に対する溶解性が確保できるうえ、当該顔料分散樹脂間での相互作用が好適なものとなることで、顔料分散液の粘度を抑えることができる点からも好ましい。
一方、顔料分散樹脂として非水溶性樹脂を用いる場合、その酸価は0~100mgKOH/gであることが好ましく、5~90mgKOH/gであることがより好ましく、10~80mgKOH/gであることが更に好ましい。酸価が上記範囲内であれば、乾燥性や耐擦過性に優れた印刷物が得られる。
【0100】
なお顔料分散樹脂の酸価とは、上述した水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の酸価と同様の方法によって測定される値である。
【0101】
顔料(A)に対する吸着能を向上させ分散安定性を確保するという観点から、顔料分散樹脂は芳香族基を有することが好ましい。芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、アニシル基などが挙げられるが、これらに限定されない。中でもフェニル基、ナフチル基やトリル基が、分散安定性を十分に確保できる面から好ましい。
【0102】
顔料(A)の分散安定性、吐出安定性、印刷物の画像品質、乾燥性の両立の観点から、芳香環を含有する単量体の導入量は、顔料分散樹脂を構成する単量体全量に対し5~75質量%であることが好ましく、5~65質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることが更に好ましい。
【0103】
顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、その重量平均分子量は、1,000~500,000の範囲であることが好ましく、5,000~40,000の範囲であることがより好ましく、10,000~35,000の範囲であることが更に好ましく、15,000~30,000の範囲であることが特に好ましい。重量平均分子量が上記範囲であることにより、顔料(A)が水中で安定的に分散し、吐出安定性が向上する。また、重量平均分子量が1,000以上であると、水性インクジェットインキ中に添加されている水溶性有機溶剤(C)に対して顔料分散樹脂が溶解しにくくなるために、顔料(A)に対する当該顔料分散樹脂の吸着が強まり、分散安定性及び吐出安定性が向上する。重量平均分子量が50,000以下であると、分散時の粘度が低く抑えられるとともに、水性インクジェットインキの分散安定性やインクジェットヘッドからの吐出安定性が向上し、長期にわたって安定な印刷が可能になる。
【0104】
なお、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)との親和性を向上させ、吐出安定性が良化できるとともに、発色性に優れた印刷物が得られる観点から、当該水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の重量平均分子量と、顔料分散樹脂の重量平均分子量との差が、12,000以下であることが好ましく、10,000以下であることがより好ましく、8,000以下であることが特に好ましい。
【0105】
また、顔料分散樹脂の重量平均分子量は、上述した水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の場合と同様の方法によって測定される値である。
【0106】
<水溶性有機溶剤(C)>
本発明の水性インクジェットインキは、水溶性有機溶剤(C)を含む。なお本願における「水溶性有機溶剤」とは、物質を溶解及び/または分散させるのに用いられ、25℃かつ1気圧下において液体であり、かつ、1気圧下において、25℃の水に対する溶解度が1g/100gH2O以上である有機化合物を表す。当該水溶性有機溶剤として、例えば、1価アルコール系溶剤、2価アルコール系溶剤(ジオール系溶剤)、3価アルコール系溶剤(トリオール系溶剤)、アルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤、アルキレングリコールジアルキルエーテル系溶剤、アルキレングリコールジアルキルエーテルアセテート系溶剤が好適に使用できる。
【0107】
本発明の水性インクジェットインキは、乾燥性を高め、紙基材の種類によらず画像品質に優れた印刷物を得る観点から、水溶性有機溶剤(C)として、1気圧下における沸点が80~195℃である水溶性有機溶剤(以下、本願では「水溶性有機溶剤(c1)」ともいう)を含むことが好ましい。なお、1気圧下での沸点は、DSC(示差走査熱量分析)などの熱分析装置を用いることで測定できる。
【0108】
水溶性有機溶剤(c1)を例示すると、1-プロパノール(沸点97℃)、イソプロパノール(沸点82℃)、1-ブタノール(沸点117℃)、2-ブタノール(沸点100℃)、イソブタノール(沸点108℃)、1-ペンタノール(沸点137.8℃)、3-メチル-1-ブタノール(沸点132℃)、3-メチル-2-ブタノール(沸点112℃)、2-メチル-2-ブタノール(沸点102℃)、3-ペンタノール(沸点115.6℃)、シクロヘキサノール(沸点161℃)、グリシドール(沸点167℃)、フルフリルアルコール(沸点170℃)、テトラヒドロフルフリルアルコール(沸点178℃)、3-メトキシ-1-ブタノール(沸点158℃)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(沸点174℃)等の1価アルコール系溶剤;
1,2-プロパンジオール(沸点188℃)、2,3-ブタンジオール(沸点182℃)、1,2-ブタンジオール(沸点193℃)等の2価アルコール系溶剤(ジオール系溶剤);
エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点161℃)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点142℃)、エチレングリコールモノアリルエーテル(沸点159℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点121℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点160℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点170℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点187℃)等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤;
エチレングリコールジメチルエーテル(沸点85℃)、エチレングリコールジエチルエーテル(沸点121℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(沸点176℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点171℃)等のアルキレングリコールジアルキルエーテル系溶剤;
エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点156℃)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点192℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点146℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点160℃)等のアルキレングリコールジアルキルエーテルアセテート系溶剤;並びに、
N,N-ジメチルホルムアミド(沸点153℃)、N,N-ジメチルプロピオンアミド(沸点176℃)、ピペラジン(沸点110℃)、モルホリン(沸点129℃)、N-メチルモルホリン(沸点115℃)、N-エチルモルホリン(沸点138℃)、乳酸エチル(沸点155℃)、シクロヘキサノン(沸点156℃)等;
が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの水溶性有機溶剤は単独で使用してもよく、複数を混合して使用することもできる。
【0109】
上記列挙した中でも、1価アルコール系溶剤、2価アルコール系溶剤、グリコールモノアルキルエーテル系溶剤からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましく、特に、2価アルコール系溶剤及び/またはアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤を含むことが好ましい。これらの水溶性有機溶剤(c1)を含むことによって、紙基材の種類によらず、画像品質に優れた印刷物が得られる。更に、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)の溶解性が向上することで、水性インクジェットインキの吐出安定性が向上する。
【0110】
また、上記効果をより好適に発現させる観点から、本発明の水性インクジェットインキは、水溶性有機溶剤(c1)を2種以上含むことが好ましい。その際は、1価アルコール系溶剤、2価アルコール系溶剤、グリコールモノアルキルエーテル系溶剤からなる群から選択される水溶性有機溶剤を2種以上含むことが好ましい。また、水溶性有機溶剤(c1)を2種以上使用する場合、当該水溶性有機溶剤(c1)の中で最も沸点が高い水溶性有機溶剤の沸点と、最も沸点が低い水溶性有機溶剤の沸点との差が、10~100℃であることが好ましく、25~90℃であることがより好ましく、30~70℃であることが特に好ましい。沸点の差を上記範囲内とすることで、非塗工紙に対する印刷物においては、フェザリング、及び、裏抜けによる発色性の低下といった問題が抑制され、一方で塗工紙に対する印刷物においては、混色滲み及び色ムラが低減できる。
【0111】
一方、本発明の水性インクジェットインキは、水溶性有機溶剤(C)として、1気圧下における沸点が200~250℃であり、かつ、25℃における表面張力が20~30mN/mである水溶性有機溶剤(以下、本願では「水溶性有機溶剤(c2)」ともいう)も好適に使用できる。水溶性有機溶剤(c2)を含む水性インクジェットインキは、塗工紙上で速やかに濡れ拡がると同時に乾燥性にも優れるため、混色滲み及び色ムラのない、画像品質に優れた印刷物が得られる。また、詳細は不明ながら水溶性アクリルウレタン樹脂(B)との親和性も高いため、非塗工紙に対して印刷した際も、フェザリングが悪化することがなく、また水性インクジェットインキの吐出安定性も好適なまま維持することが可能となる。
【0112】
水溶性有機溶剤(c2)を例示すると、1,2-ペンタンジオール(沸点206℃、表面張力28mN/m)、1,2-ヘキサンジオール(沸点224℃、表面張力26mN/m)等の2価アルコール系溶剤(ジオール系溶剤);
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点231℃、表面張力28mN/m)、ジエチレングリコールイソブチルエーテル(沸点217℃、表面張力25mN/m)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点212℃、表面張力28mN/m)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点229℃、表面張力28mN/m)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点242℃、表面張力28mN/m)等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤;
ジエチレングリコールメチルブチルエーテル(沸点212℃、表面張力24mN/m)等のアルキレングリコールジアルキルエーテル系溶剤;
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点213℃、表面張力29mN/m)等のアルキレングリコールジアルキルエーテルアセテート系溶剤;
等が挙げられる。
【0113】
上記列挙した中でも、詳細は不明ながら、紙基材の種類によらず画像品質に優れた印刷物が得られ、更に水性インクジェットインキの吐出安定性も向上する点から、水溶性有機溶剤(c2)として、2価アルコール系溶剤、及び/または、アルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤を使用することが好適である。また、塗工紙上において乾燥性を高め、画像品質及び発色性に優れる印刷物が得られる観点から、水溶性有機溶剤(c2)として、1気圧下における沸点が200~230℃である化合物を選択することが好適である。
【0114】
本発明の水性インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤(C)は、25℃における静的表面張力の加重平均値が22~40mN/mであることが好ましく、25~37mN/mであることが更に好ましく、28~34mN/mであることが特に好ましい。25℃における静的表面張力の加重平均値が22mN/m以上であると、塗工紙上での濡れ拡がり性及び乾燥性が向上し、混色滲み及び色ムラが抑制された印刷物が得られるうえ、水性インクジェットインキの吐出安定性も向上する。一方、25℃における静的表面張力の加重平均値が40mN/m以下であると、非塗工紙への水性インクジェットインキの浸透性が制御され、フェザリング及び裏抜けが抑制され、発色性に優れた印刷物が得られる。
【0115】
なお、水性インクジェットインキ中に含まれる水溶性有機溶剤(C)が2種類以上である場合、「25℃における静的表面張力の加重平均値」とは、それぞれの水溶性有機溶剤の25℃における静的表面張力と、水溶性有機溶剤全量に対する質量割合との乗算値を、足し合わせることで得られる値である。また、水性インクジェットインキ中に含まれる水溶性有機溶剤(C)が1種類である場合、上記「25℃における静的表面張力の加重平均値」を、「25℃における静的表面張力」に読み替えるものとする。
【0116】
25℃下における水溶性有機溶剤の静的表面張力は、ウィルヘルミー法により測定される値であり、具体的には、協和界面科学社製「DY-300」を用い、白金プレートを使用して測定される値である。
【0117】
本発明の水性インクジェットインキでは、紙基材の種類によらず、画像品質に特段に優れた印刷物を得る観点から、水溶性有機溶剤(c1)と、水溶性有機溶剤(c2)とを併用することが好ましい。またその際、紙基材の種類によらず画像品質及び発色性に優れた印刷物が得られる観点、並びに、吐出安定性に優れた水性インクジェットインキを得る観点から、水溶性有機溶剤(c1)の配合量と水溶性有機溶剤(c2)の配合量との比は、(水溶性有機溶剤(c1)の配合量÷水溶性有機溶剤(c2)の配合量)=0.6~6であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1.5~4.5であることが特に好ましい。
【0118】
水性インクジェットインキ中に含まれる水溶性有機溶剤(C)の総量は、当該水性インクジェットインキ全量に対し1~40質量%であることが好ましい。また吐出安定性を確保し、塗工紙上における密着性、乾燥性、及び、画像品質(ブリード及びビーディングの抑制等)を有する印刷物が得られるという観点から、水性インクジェットインキ全量中3~35質量%であることがより好ましく、5~30質量%であることが特に好ましい。
【0119】
<水>
本発明の水性インクジェットインキに含まれる水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。またその含有量は、水性インクジェットインキ全質量中40~90質量%の範囲であることが好ましく、50~85質量%であることが特に好ましい。
【0120】
<炭化水素ワックス>
上述した成分のほか、本発明の水性インクジェットインキは、炭化水素ワックスを含有することが好ましい。非塗工紙に印刷した際、炭化水素ワックスが非塗工紙を構成するパルプと絡み合う、及び/または、非塗工紙表面の空隙を塞ぐことで、フェザリングがなく発色性にも優れた印刷物が得られる。また、塗工紙に印刷した際、炭化水素ワックスが水性インクジェットインキの液滴表面に配向することで、混色滲み及び色ムラが抑制された、画像品質に優れた印刷物が得られる。
【0121】
本発明で使用できる炭化水素ワックスを具体的に示すと、例えば、石油系ワックスである、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等;合成ワックスである、ポリオレフィン系ワックス(例えば、ポリエチレン系ワックス、及び、ポリプロピレン系ワックス)、フィッシャー・トロブシュワックス、パラフィンワックス誘導体;等を挙げることができる。これらの炭化水素ワックスは、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。
【0122】
炭化水素ワックスは、水溶性の材料であっても非水溶性の材料であってもよいが、非水溶性の材料(例えば、樹脂粒子)であることが好ましい。詳細は不明ながら、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)と炭化水素ワックスの樹脂粒子とが、それぞれ微視的なクラスターを形成し、乾燥する際の液滴内において、水性インクジェットインキ成分の偏りを抑制し、画像品質が改善される。さらに、当該クラスターがインクジェットヘッドでの局所的な乾燥及び粘度上昇を防止するように機能することで、吐出安定性が向上する。
【0123】
なお、炭化水素ワックスが樹脂粒子である場合、その粒子径は10~300nmであることが好ましく、30~250nmであることがより好ましく、40~200nmであることが特に好ましい。炭化水素ワックス樹脂粒子の粒子径が10nm以上であれば、印刷物の耐擦過性及び画像品質が向上し、300nm以下であれば、吐出安定性が向上するだけでなく、紙基材の種類によらず優れた画像品質の印刷物を得ることができる。なお、炭化水素ワックス樹脂粒子の粒子径の測定方法は、上述した水溶性樹脂の判定において使用した方法と同様であり、具体的には、動的光散乱法(例えばマイクロトラック・ベル社製「ナノトラックUPA-EX150」)により、25℃の条件下で測定される。また上記「粒子径」とは、動的光散乱法で測定される、体積基準のメジアン系である。
【0124】
樹脂粒子の形態を有する炭化水素ワックスは、例えば、加熱して溶融させた常温固体の炭化水素ワックスと、熱水と、乳化剤とを混合することで製造できる。また、炭化水素ワックスは市販品を使用することもでき、例えば、BYK社製のAQUACER 507、513、515、531、537、539、552、593、840、1547、AQUAMAT 208、263、272N等、サンノプコ社製のノプコートPEM-17等、BASF社製のJONCRYL WAX4、WAX26、WAX28、WAX120等、東邦化学社製のハイテックEシリーズ、ハイテックPシリーズ等、が挙げられる。
【0125】
吐出安定性、及び、印刷物の画像品質、発色性並びに耐擦過性が向上する点で、炭化水素ワックスの含有量は、水性インクジェットインキ全量中0.2~8質量%であることが好ましく、0.3~5質量%であることがより好ましく、0.5~4質量%であることが特に好ましい。
【0126】
また、非塗工紙に印刷した際には、フェザリングがなく発色性にも優れた印刷物が得られ、塗工紙に印刷した際には、混色滲み及び色ムラが抑制された、画像品質に優れた印刷物が得られる、という観点より、水性インクジェットインキ全質量中の炭化水素ワックスの含有量をW(質量%)、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)量をB(質量%)としたとき、両者の含有量の比(B÷W)が0.5~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、5~15であることが特に好ましい。
【0127】
<その他成分>
また、本発明の水性インクジェットインキは、上述した成分のほか、必要に応じて、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤などの添加剤を添加することができる。これらの添加剤の添加量は、水性インクジェットインキの全質量に対して0.01~10質量%が好適である。
【0128】
一方で、本発明の水性インクジェットインキは重合性単量体を実質的に含まないことが好ましい。なお本願において「実質的に含まない」とは、本発明の効果の発現を妨げる程度まで、当該材料を意図的に添加することを認めないことを表すものであり、例えば、不純物や副生成物の意図せぬ混入まで排除するものではない。具体的には、水性インクジェットインキ全量に対し、対象となる材料を2.0質量%以上含まないことであり、好ましくは1.0質量%以上含まないことであり、より好ましくは0.5質量%以上含まないことであり、特に好ましくは0.1質量%以上含まないことである。
【0129】
(pH調整剤)
例えば、その他材料としてpH調整剤を使用する場合、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等のアルカノールアミン;
アンモニア水、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、尿素、ピペリジン等のその他含窒素化合物;
水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;
炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;
塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、(無水)マレイン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸、ホウ酸、フマル酸、マロン酸、アスコルビン酸、グルタミン酸等の酸性化合物;
等が使用できる。これらのpH調整剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0130】
pH調整剤を使用する場合、その配合量は、水性インクジェットインキ全量に対し0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.2~1.5質量%であることが特に好ましい。
【0131】
<水性インクジェットインキの製造方法>
上述した成分を含む、本発明の水性インクジェットインキは、例えば、以下のプロセスを経て製造される。ただし、水性インクジェットインキの製造方法は以下に限定されるものではない。
【0132】
(1.顔料分散液の製造)
顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、当該水溶性樹脂と水と、必要に応じて水溶性有機溶剤(C)とを混合・撹拌し、顔料分散樹脂混合液を作製する。この顔料分散樹脂混合液に、顔料(A)を添加し、混合及び撹拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、必要に応じて遠心分離、濾過、固形分濃度の調整等を行い、顔料分散液を得る。
【0133】
また、水不溶性樹脂により被覆された顔料(A)の分散液を製造する場合、あらかじめ、2-ブタノン等の有機溶媒に水不溶性樹脂を溶解させ、必要に応じて当該水不溶性樹脂を中和した、水不溶性樹脂溶液を作製する。この水不溶性樹脂溶液に、顔料(A)と、水とを添加し、混合・撹拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、減圧蒸留により上記有機溶媒を留去し、必要に応じて、遠心分離、濾過、固形分濃度の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0134】
顔料(A)の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら任意に使用可能であるが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザー等が挙げられる。上記の中でもビーズミルが好ましく使用され、具体的にはスーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル等の商品名で市販されている。また粉砕メディアの材質として、ガラス、ジルコン、ジルコニア、チタニア等が使用できる。
【0135】
(2.水性インクジェットインキの調製)
次いで、上記顔料分散液に、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)、水溶性有機溶剤(C)、界面活性剤(D)、水、及び必要に応じて炭化水素ワックス、pH調整剤、その他材料を加え、撹拌及び混合する。なお、必要に応じて混合物を40~100℃の範囲で加熱しながら、撹拌及び混合してもよい。
【0136】
(3.粗大粒子の除去)
上記混合物に含まれる粗大粒子を、濾過分離、遠心分離等の手法により除去し、水性インクジェットインキとする。濾過分離の方法としては、既知の方法を適宜用いることができる。またフィルター開孔径は、粗大粒子、ダスト等が除去できるものであれば、特に制限されないが、好ましくは0.3~5μm、より好ましくは0.5~3μmである。また濾過を行う際は、フィルターは単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0137】
<水性インクジェットインキセット>
本発明の水性インクジェットインキは単色で使用してもよいが、用途に合わせ、それぞれ色が異なる複数種の水性インクジェットインキを組み合わせ、水性インクジェットインキセットの形態で使用することもできる。組み合わせ方は特に限定されないが、例えば、シアン、イエロー、マゼンタの3色を使用することでフルカラーの印刷物を得ることができる。また、更にブラックインキを追加することで黒色感を向上させ、文字等の視認性を上げることができる。加えて、オレンジ、グリーン、バイオレット等の色を追加することで、色再現性を向上させることも可能である。なお、水性インクジェットインキセットは、本発明の水性インクジェットインキから顔料(A)を除外した、実質的に着色剤成分を含まないインキ(クリアインキ)を含んでもよい。
【0138】
<インキ-前処理液セット>
本発明の水性インクジェットインキ、及び、上述した水性インクジェットインキセットは、更に、凝集剤を含む前処理液と組み合わせた形態(インキ(セット)-前処理液セット)で使用することもできる。凝集剤を含む前処理液は、紙基材上に、水性インクジェットインキ中に含まれる固体成分(顔料(A)、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)等)を意図的に凝集させる層(インキ凝集層)を形成することができる。そして、このインキ凝集層上に水性インクジェットインキを着弾させることで、例えば塗工紙に印刷した際には、当該水性インクジェットインキ液滴同士の合一による混色滲みや色ムラを防止し、画像品質を著しく向上させることができる。更に、前処理液に樹脂成分を配合することで、非塗工紙に印刷した際に、当該樹脂成分が非塗工紙を構成するパルプと絡み合う、及び/または、非塗工紙表面の空隙を塞ぐことで、フェザリング及び裏抜けといった問題のない、画像品質及び発色性に優れた印刷物を得ることが可能となる。
【0139】
上記「凝集剤」とは、水性インクジェットインキに含まれる、顔料(A)の分散状態を破壊し凝集させる、及び/または、水溶性アクリルウレタン樹脂(B)を不溶化し水性インクジェットインキを増粘させることができる成分を意味する。本発明の水性インクジェットインキと組み合わせる前処理液に使用する凝集剤としては、画像品質を向上できる観点から、金属塩及びカチオン性高分子化合物から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。中でも、金属塩を使用することが好ましく、Ca2+、Mg2+、Zn2+、および、Al3+からなる群から選択される1種以上の多価金属イオンの塩を含むことが特に好ましい。なお凝集剤として金属塩を使用する場合、その含有量は、前処理液全量に対し、2~25質量%であることが好ましく、3~20質量%であることが特に好ましい。
【0140】
また、前処理液中に樹脂成分を添加する場合、非塗工紙に対する印刷物の画像品質を向上できる観点から、その含有量は、前処理液全量に対し、1.5~20質量%であることが好ましく、2.5~15質量%であることが特に好ましい。
【0141】
<紙基材>
上述したとおり、本発明の水性インクジェットインキは、紙基材に対して好適に使用される。当該紙基材として、例えば、上質紙、中質紙、更紙、クラフト紙、非コートライナー紙(非コート段ボール)等の非塗工紙;並びに、コート紙、マットコート紙、アート紙、キャストコート紙、アルミ蒸着紙、コートライナー紙(コート段ボール)等の塗工紙が挙げられる。
【0142】
上記列挙した紙基材は、表面が滑らかであっても凹凸のついたものであってもよい。また、これらの2種以上を互いに張り合わせたものでもよい。更に印字面の反対側に剥離粘着層などを設けてもよく、また印字後、印字面に粘着層などを設けてもよい。また本発明の水性インクジェットインキを印刷する際に使用される紙基材の形状は、ロール状であっても枚葉状であってもよい。
【0143】
<インクジェット印刷方法>
本発明の水性インクジェットインキは、インクジェットヘッドから吐出して紙基材上に印刷される方法(インクジェット印刷方法)において使用される。
【0144】
なお、水性インクジェットインキの吐出安定性を高めるとともに、当該水性インクジェットインキ中の成分の分布を均一化し、紙基材の種類によらず、印刷物の画像品質及び発色性を向上させるため、当該水性インクジェットインキは、インクジェットヘッドを連通するように構成されたインク循環機構を有する印刷装置で使用されてもよい。
【0145】
インクジェット印刷方法におけるパス方式として、紙基材に対しインクジェットインキを1回だけ吐出して記録するシングルパス方式、及び、紙基材の搬送方向と直行する方向に、短尺のシャトルヘッドを往復走査させながら吐出して記録を行うシリアル方式、のどちらを採用してもよい。ただし、シリアル方式の場合、インクジェットヘッドの動きを加味して吐出タイミングを調整する必要があり、着弾位置のずれが生じやすい。そのため、本発明の水性インクジェットインキを印刷する際は、シングルパス方式、特に、固定されたインクジェットヘッドの下方に紙基材を通過させる方式が好ましく用いられる。
【0146】
水性インクジェットインキを吐出する方式にも特に制限は無く、既知の方式、例えば、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、水性インクジェットインキを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等が利用できる。
【0147】
また、インクジェットヘッドから吐出される水性インクジェットインキの液滴量は、乾燥負荷の軽減効果が大きく、また発色性及び画像品質の向上という点からも、0.2~30ピコリットルであることが好ましく、1~20ピコリットルであることがより好ましい。
【0148】
本発明の水性インクジェットインキが搭載される印刷装置は、当該水性インクジェットインキを印刷した後、紙基材上のインキを乾燥する機構を備えていることが好ましい。乾燥機構で用いられる乾燥方法として、直接的または間接的にインキと熱源とを接触させる方法と、電磁波を照射する方法のいずれか1種を使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。例えば赤外線乾燥法と熱風乾燥法を併用することで、それぞれを単独で使用したときよりも素早く、インキを乾燥させることができる。
【0149】
特に、水性インクジェットインキ中の液体成分の突沸を防止し、紙基材の種類によらず、発色性及び画像品質に優れた印刷物を得る観点から、加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35~100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50~250℃とすることが、それぞれ好ましい。
一方で、電磁波として赤外線を使用する乾燥法(赤外線乾燥法)を採用する場合、紙基材の種類によらず、発色性及び画像品質に優れた印刷物を得る観点から、赤外線照射に用いる当該赤外線の全出力の積算値の50%以上が、700~1500nmの波長領域に存在することが好ましい。
【0150】
また、赤外線乾燥法で使用される、赤外線を照射する光源の例として、赤外線ランプ(ハロゲンランプ、シーズランプ、カーボンランプ等)、赤外線LED、赤外線LD等がある。これらの中でも、上述した赤外線出力条件を達成しやすい観点から、ハロゲンランプ、赤外線LEDが好適に選択される。なお、上記赤外線を照射する光源に、光学フィルター及び/または反射ミラーを組み合わせて使用してもよい。
【実施例
【0151】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例および比較例における「部」は「質量部」「質量%」を表す。
【0152】
<合成例1:アクリルジオール(b1-1)の合成例>
撹拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応容器に、メチルメタクリレートを360質量部、メタクリル酸を140質量部、1-チオグリセロール(連鎖移動剤(t)として使用)を28質量部、及び、有機溶媒として2-ブタノンを300質量部仕込んだ。反応容器内を窒素ガスで置換したのち、内温が65℃になるまで撹拌しながら加熱した。更に、65℃に到達してから15分維持した後、内容物を撹拌しながら2-ブタノンを50質量部と、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)を0.15質量部添加し、12時間重合反応させたのち、得られた生成物を単離することで、アクリルジオール(b1-1)を得た。なお、上述した方法で測定した、アクリルジオール(b1-1)の数平均分子量は1,770であり、酸価は171mgKOH/gであった。
【0153】
<合成例2~8:アクリルジオール(b1-2)~(b1-8)の合成例>
反応容器内に仕込んだ原料の種類及び量を、表1に記載したものに変更した以外は、アクリルジオール(b1-1)と同様の方法及び条件で、アクリルジオール(b1-2)~(b1-8)を合成した。なお表1における空欄は、その原料を配合していないことを表す(後に示す表2~4についても同様である。)。
【0154】
【表1】
【0155】
なお、表1に記載した略称の意味は、それぞれ下記のとおりである。
・MAA:メタクリル酸
・MMA:メチルメタクリレート
・BMA:ブチルメタクリレート
・LMA:ラウリルメタクリレート
・1-TG:1-チオグリセロール(分子量108)
・AIBN:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)
・MEK:2-ブタノン
【0156】
<合成例9:水溶性アクリルウレタン樹脂(B-1)の合成>
撹拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管、滴下漏斗を備えた反応容器に、窒素ガスを導入しながら、ポリカーボネートポリオールC-2090(クラレ社製、1,6-ヘキサンジオールと3-メチル-1,5-ペンタンジオールとの縮合体)を150質量部、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸を15質量部、アクリルジオール(b1-1)を43質量部、イソホロンジイソシアネートを57質量部、2-ブタノンを220質量部、それぞれ仕込んだのち、反応容器内を75℃まで昇温した。昇温後、反応容器内の内容物を撹拌しながら、2-エチルヘキサン酸錫を0.02質量部加え、さらに内温を80℃まで昇温した。その後、反応容器内を80℃に保持したまま、3時間重付加(ウレタン重合)させた後、内温が40℃以下になるまで冷却した。
次に、イソホロンジアミン5質量部と、2-ブタノン50質量部との混合物を、1時間かけて反応容器内に滴下し、さらに3時間ウレア反応させた。そして、28%アンモニア水8質量部とイオン交換水500質量部とを、反応容器内に1時間かけて滴下することで、得られた生成物を中和及び水溶化させたのち、減圧下で、内温を50℃に保持することで2-ブタノンの全量を留去し、さらに水を加えて固形分濃度を25%に調整することで、水溶性アクリルウレタン樹脂(B-1)の水溶液を得た。なお、上述した方法で測定した、水溶性アクリルウレタン樹脂(B-1)の重量平均分子量は17,000であり、酸価は50mgKOH/gであった。
【0157】
<合成例10~21、比較合成例1~4:水溶性アクリルウレタン樹脂(B-2)~(B-13)、(B’-14)~(B’-17)の合成>
反応容器内に仕込んだ原料の種類及び量を、表2に記載したものに変更した以外は、水溶性アクリルウレタン樹脂(B-1)と同様の方法及び条件で、水溶性アクリルウレタン樹脂(B-2)~(B-13)、(B’-14)~(B’-17)を合成した。
【0158】
【表2】
【0159】
なお、表2に記載した略称の意味は、それぞれ下記のとおりである。
・PC:クラレ社製ポリカーボネートポリオールC-2090(1,6-ヘキサンジオールと3-メチル-1,5-ペンタンジオールとの縮合体)
・PE:クラレ社製ポリエステルポリオールP-2010(アジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールとの縮合体)
・DMBA:ジメチロール酪酸(分子量148)
・BD:1,4-ブタンジオール
・IPDI:イソホロンジイソシアネート
・IPDA:イソホロンジアミン
【0160】
<顔料分散液の製造>
(シアン顔料分散液の製造)
C.I.ピグメントブルー15:3(トーヨーカラー社製「LIONOL BLUE 7358G」)を15部と、スチレン-アクリル樹脂(全ての酸基がジメチルアミノエタノールで中和された、スチレン/アクリル酸/ベヘニルアクリレート=45/30/25(質量比)のランダム重合体、酸価230mgKOH/g、重量平均分子量20,000)を3部と、水を82部とを、撹拌機を備えた混合容器中に投入し、1時間プレミキシングを行った。その後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填したシンマルエンタープライゼス社製「ダイノーミル」(容積0.6L)を用いて、C.I.ピグメントブルー15:3の粒子径が約150nmになるまで循環分散を行い、シアン顔料分散液を製造した。なお上記粒子径は、上述した炭化水素ワックス樹脂粒子の粒子径と同様の装置及び方法により測定した値である。
【0161】
(マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液、ブラック顔料分散液の製造)
顔料として、以下に示す顔料を使用し、それぞれ以下に示す粒子径になるまで循環分散を実施した以外は、上記シアン顔料分散液と同様の原料及び方法により、マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液、ブラック顔料分散液を製造した。
・マゼンタ顔料分散液:東京色材工業社製トーシキレッド150TR(C.I.ピグメントレッド150)、粒子径=200nm
・イエロー顔料分散液:トーヨーカラー社製LIONOL YELLOW TT1405G(C.I.ピグメントイエロー14)、粒子径=150nm
・ブラック顔料分散液:オリオンエンジニアドカーボンズ社製PrinteX85(カーボンブラック)、粒子径=100nm
【0162】
<水性インクジェットインキ1の製造例>
下記材料を、撹拌機を備えた混合容器内に順次投入し、十分に均一になるまで撹拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、インクジェットヘッド詰まりの原因となる粗大粒子を除去することで、水性インクジェットシアンインキ1を得た。またシアン顔料分散液の代わりに、マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液、ブラック顔料分散液をそれぞれ使用することにより、水性インクジェットマゼンタインキ1、水性インクジェットイエローインキ1、水性インクジェットブラックインキ1を製造し、これら4色の水性インクジェットインキの組み合わせを、水性インクジェットインキセット1とした。
・シアン顔料分散液 33.3部
・水溶性アクリルウレタン樹脂(B-1)(固形分濃度25%) 20部
・1,2-プロパンジオール 15部
・1,2-ヘキサンジオール 5部
・サーフィノール104 1部
・TEGO Wet 280 1部
・AQUACER 515 3部
・トリエタノールアミン 1部
・イオン交換水 20.7部
なお上記に記載した商品名の詳細については、後述する。
【0163】
<インクジェットインキセット2~51の製造例>
表3に記載した材料を使用した以外はインクジェットインキセット1と同様の方法により、それぞれ、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色からなる、インクジェットインキセット2~51を製造した。
【0164】
【表3】
【0165】
【表3】
【0166】
【表3】
【0167】
なお、表3に記載した略称の意味は、それぞれ下記のとおりである。
(水溶性有機溶剤(C))
・PG:1,2-プロパンジオール(沸点188℃、25℃における静的表面張力35mN/m)
・BD:1,2-ブタンジオール(沸点193℃、25℃における静的表面張力32mN/m)
・PeD:1,2-ペンタンジオール(沸点206℃、25℃における表面張力28mN/m)
・HD:1,2-ヘキサンジオール(沸点224℃、25℃における表面張力26mN/m)
・MB:3-メトキシ-1-ブタノール(沸点158℃、25℃における静的表面張力26mN/m)
・MMB:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(沸点174℃、25℃における静的表面張力26mN/m)
・PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点121℃、25℃における静的表面張力26mN/m)
・PGB:プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点170℃、25℃における静的表面張力26mN/m)
・BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点231℃、25℃における静的表面張力28mN/m)
・dPGP:ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点212℃、25℃における静的表面張力28mN/m)
・dEGMB:ジエチレングリコールメチルブチルエーテル(沸点212℃、25℃における静的表面張力24mN/m)
(界面活性剤(D))
・SF104:日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値3.0
・SF420:日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値4.0
・SF440:日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値8.1
・DF110D:日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤のジプロピレングリコール溶液(有効成分32%)、HLB値2.7
・TW270:TEGO Wet 270(エボニック社製シロキサン系界面活性剤、HLB値2.2)
・TW280:TEGO Wet 280(エボニック社製シロキサン系界面活性剤、HLB値3.5)
・TT4000:TEGO Twin 4000(エボニック社製シロキサン系界面活性剤、HLB値2.0)
・BYK3455:ビックケミー社製シロキサン系界面活性剤、HLB値7.4
・EMALEX602:日本エマルジョン社製ポリオキシアルキレンエーテル系界面活性剤、HLB値4.9
(炭化水素ワックス)
・AQ515:AQUACER 515(ビックケミー社製ポリエチレン系ワックス樹脂粒子、固形分35%)
(pH調整剤)
・TEA:トリエタノールアミン
【0168】
[実施例1~41、比較例1~10]
上記で製造した水性インクジェットインキ1~51を使用して、以下に示す評価1~6を実施した。評価結果は下表4に示すとおりであった。
【0169】
【表4】
【0170】
【表4】
【0171】
【表4】
【0172】
<評価1:初期吐出安定性評価>
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B-1200(設計解像度1200dpi)を4個、基材の搬送方向に並べて設置したインクジェット印刷装置を準備し、当該搬送方向の最も下流側に設置したインクジェットヘッド1個に、水性インクジェットインキセットのうちのブラックインキを充填した。
次いで、ノズルチェックパターンを印刷し、全てのノズル(吐出口)から正常にブラックインキが吐出されていることを確認してから、25℃の環境下で1分間放置した後、周波数40kHz、1200×1200dpiの印字条件で印字率100%のベタ印刷を行った。そして、ベタ印刷の印刷開始部分が欠けることなく印刷されているか、目視及びルーペにて確認を行うことで、初期吐出安定性の評価を行った。評価基準は下記のとおりとし、◎、〇評価を実使用可能領域とした。
◎:目視及びルーペで確認して、印刷開始部分に欠けが確認されなかった
〇:印刷開始部分に、1mm未満の欠けが確認された
△:印刷開始部分に、1mm以上5mm未満の欠けが確認された
×:印刷開始部分に、5mm以上の欠けが確認された
【0173】
<評価2:間欠吐出安定性評価>
評価1と同様の印刷装置を使用し、基材の搬送方向の最も下流側に設置したインクジェットヘッド1個に、水性インクジェットインキセットのうちのブラックインキを充填した。
次いで、ノズルチェックパターンを印刷し、全てのノズル(吐出口)から正常にブラックインキが吐出されていることを確認してから、25℃の環境下で所定時間、インクジェット印刷装置を待機させた後、再度ノズルチェックパターンの印刷を行った。そして、ノズル抜けの有無を目視確認することで、間欠吐出安定性の評価を行った。評価基準は下記のとおりとし、◎、〇、△評価を実使用可能領域とした。
◎:2時間待機させた後に印刷しても、ノズル抜けが全くなかった
〇:1時間待機させた後に印刷してもノズル抜けが全くなかったが、2時間待機させた後に印刷すると、1本以上のノズル抜けが発生した
△:1時間待機させた後に印刷すると、1~9本のノズル抜けが発生した
×:1時間待機させた後に印刷すると、10本以上のノズル抜けが発生した
【0174】
<評価3:非塗工紙に対する発色性の評価>
評価1と同様の印刷装置を使用し、基材の搬送方向の最も下流側に設置したインクジェットヘッド1個に、水性インクジェットインキセットのうちのブラックインキを充填した。また、コンベヤ上に、上質紙(王子製紙社製「OKプリンス上質」)を固定した。
次いで、コンベヤを50m/分の速度で駆動させ、上記上質紙がインクジェットヘッドの設置部の下方を通過する際に、水性インクジェットインキをドロップボリューム2pLで吐出し、印字率100%のべた画像(幅5cm×長さ10cm)を印刷したのち、速やかに印刷物を70℃エアオーブンに投入した。そして1分間乾燥させた後に印刷物をエアオーブンから取り出し、分光濃度計(X-RITE社製eXact)を用いて光学濃度(OD値)の測定を行い、非塗工紙に対する発色性の評価を行った。なお、光源はD50、視野角は2°、濃度ステータスはISO Status T、濃度白色基準は絶対値とした。また評価基準は以下の通りとし、◎、〇、△評価を実使用可能領域とした。
◎:OD値が1.30以上
〇:OD値が1.20以上1.30未満
△:OD値が1.10以上1.20未満
×:OD値が1.10未満
【0175】
<評価4:非塗工紙に対する画像品質(フェザリング)の評価>
評価1で使用したインクジェット印刷装置に、基材の搬送方向の上流側のインクジェットヘッドから、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの順番になるように、水性インクジェットインキセットを構成する4種の水性インクジェットインキを充填した。また、コンベヤ上に、上質紙(王子製紙社製「OKプリンス上質」)を固定した。
次いで、コンベヤを50m/分の速度で駆動させ、上記上質紙がインクジェットヘッドの設置部の下方を通過する際に、各水性インクジェットインキをドロップボリューム2pLで吐出し、長さ5cmの単色細線が、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの順番に、間隔を開けて並んだ画像(細線画像)を印刷したのち、速やかに印刷物を70℃エアオーブンに投入した。なおあらかじめ、塗工紙である王子製紙社製「OKトップコート+」(坪量104.7g/m2)上に上記細線画像の印刷を行い、単色細線の幅が100μmとなるように、画像データ及びヘッド駆動条件を調整した。
そして1分間乾燥させた後に印刷物をエアオーブンから取り出し、細線の滲みの有無を目視観察することで、非塗工紙に対する画像品質(フェザリング)を評価した。評価基準は以下の通りとし、◎、〇、△評価を実使用可能領域とした。
◎:全色とも、滲みにより細線が太ることもなく、紙繊維に沿ったインキ滲みは確認されなかった
〇:全色とも、滲みにより細線が太ることはないが、上質紙の繊維に沿ったインキ滲みが、4色平均で10箇所未満観察された
△:滲みにより細線が若干太った色が存在し、また、上質紙の紙繊維に沿ったインキ滲みが、4色平均で10箇所以上20箇所未満観察された
×:滲みによる細線の太りが激しく、また、上質紙の紙繊維に沿ったインキ滲みが、4色平均で20箇所以上観察された
【0176】
<評価5:塗工紙に対する発色性の評価>
評価1と同様の印刷装置を使用し、基材の搬送方向の最も下流側に設置したインクジェットヘッド1個に、水性インクジェットインキセットのうちのブラックインキを充填した。また、コンベヤ上に、コート紙(王子製紙社製「OKトップコート+」、坪量104.7g/m2)を固定した。
次いで、コンベヤを50m/分の速度で駆動させ、上記コート紙がインクジェットヘッドの設置部の下方を通過する際に、水性インクジェットインキをドロップボリューム2pLで吐出し、印字率100%のべた画像(幅5cm×長さ10cm)を印刷したのち、速やかに印刷物を70℃エアオーブンに投入した。そして3分間乾燥させた後に印刷物をエアオーブンから取り出し、分光濃度計(X-RITE社製eXact)を用いて光学濃度(OD値)の測定を行い、塗工紙に対する発色性の評価を行った。なお、測色条件は、上記評価3と同様とした。評価基準は以下の通りとし、◎、〇、△評価を実使用可能領域とした。
◎:OD値が2.00以上
○:OD値が1.90以上2.00未満
△:OD値が1.80以上1.90未満
×:OD値が1.80未満
【0177】
<評価6:塗工紙に対する画像品質の評価>
評価1で使用したインクジェット印刷装置に、基材の搬送方向の上流側のインクジェットヘッドから、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの順番になるように、水性インクジェットインキセットを構成する4種の水性インクジェットインキを充填した。また、コンベヤ上に、コート紙(王子製紙社製「OKトップコート+」、坪量104.7g/m2)を固定した。
次いで、コンベヤを50m/分の速度で駆動させ、上記コート紙がインクジェットヘッドの設置部の下方を通過する際に、各水性インクジェットインキをドロップボリューム2pLで吐出し、5cm×5cmの大きさの単色ベタパッチ(印字率100%)が、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの順番で隣接した画像(ベタパッチ画像)を印刷したのち、速やかに印刷物を70℃エアオーブンに投入した。そして3分間乾燥させた後に印刷物をエアオーブンから取り出し、ベタパッチの境界における滲みの度合い、及び、各ベタパッチにおける色ムラの度合いを、ルーペおよび目視で確認することで、塗工紙に対する画像品質の評価を行った。評価基準は下記のとおりとし、◎、○、△評価を実使用可能領域とした。
◎:ルーペ及び目視で見た際、境界での混色滲み及び色ムラは見られなかった
○:ルーペではわずかに境界での混色滲みまたは色ムラが見られた色が存在したが、目視では混色滲み及び色ムラの有無を判別できなかった
△:目視でも境界での混色滲みまたは色ムラが観察された色が存在したが、その程度はわずかであった
×:目視で明らかに目立つ、境界での混色滲みまたは色ムラが観察された
【0178】
表4の実施例1~41から、特定の構成を有する水溶性アクリルウレタン樹脂(B)を一定量含み、かつ、HLB値が0~7である界面活性剤(D)を併用した水性インクジェットインキが、吐出安定性(初期吐出安定性及び完結吐出安定性)、非塗工紙に対する印刷物の発色性及び画像品質(フェザリング)、並びに、塗工紙に対する印刷物の発色性及び画像品質(混色滲み及び色ムラ)の全てにおいて、実使用可能な品質を有していることが確認された。