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特許7540427着色剤分散体、インキ、インキセット、および印刷物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】着色剤分散体、インキ、インキセット、および印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20240820BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20240820BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240820BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240820BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C09D11/326
C09D11/40
C09D17/00
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021207842
(22)【出願日】2021-12-22
(65)【公開番号】P2023092681
(43)【公開日】2023-07-04
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】手塚 俊博
(72)【発明者】
【氏名】大月 恵美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 征寿
(72)【発明者】
【氏名】杉原 真広
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-203965(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03985071(EP,A1)
【文献】特開2021-058819(JP,A)
【文献】特開2020-122037(JP,A)
【文献】特開2007-169470(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0176070(US,A1)
【文献】特開2015-193836(JP,A)
【文献】特表2011-521019(JP,A)
【文献】特開2009-165910(JP,A)
【文献】特表2020-508844(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0255570(US,A1)
【文献】特開2003-012995(JP,A)
【文献】特開2018-162430(JP,A)
【文献】特開平03-030833(JP,A)
【文献】特開2019-119763(JP,A)
【文献】特開2022-170110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B41M
B41J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤、着色剤、及び水を含む着色剤分散体であって、
前記分散剤が、マレイン酸単位、および、マレイン酸アミド単位を含む重合体であり、
前記重合体の酸価が、50~300mgKOH/gである着色剤分散体。
【請求項2】
分散剤が、さらに、α-オレフィン単位およびまたは(メタ)アリルモノマー単位を含む、請求項1記載の着色剤分散体。
【請求項3】
(メタ)アリルモノマー単位が、アルキレンオキシ基を有する、請求項2に記載の着色剤分散体。
【請求項4】
マレイン酸アミド単位が、環構造基、並びに直鎖状または分岐鎖状の炭素原子数1~22のアルキル基からなる群のうち1種以上の官能基を有する、請求項1~3いずれかに記載の着色剤分散体。
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載の着色剤分散体を含む、インキ。
【請求項6】
請求項5に記載の複数のインキを含む、インキセット。
【請求項7】
基材、および請求項5に記載のインキから形成されてなる印刷層を備える、印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインキ等に好適に用いられる着色剤分散体、それを含むインキ、インキセット、および印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷では、記録対象(以下、記録メディアという)として紙が頻繁に選択される。紙は、アート紙、およびコート紙等の塗工紙、ならびにフォーム紙、上質紙等の非塗工紙に大別できる。塗工紙は、記録面が平滑である一方、非塗工紙は、表面が粗く、両者ではインキの吸収性が大きく異なる。そのため、低粘度でより紙の吸収性が影響されやすい水性インクジェットインキにおいて、塗工紙、非塗工紙の双方で高い印刷濃度を発現することは困難である。そのため、表面にインキ受容層を形成する必要や、それぞれの記録メディアに適したインキを設定する必要がある。しかし、それらのコストや手間の削減といった観点から、インキ受容層を必要とせず、塗工紙、非塗工紙の双方で高い印刷濃度を発現する水性インクジェットインキが求められている。
インクジェット印刷に使用する水性インクジェットインキにおいて、着色剤に顔料を使用したインキは、顔料が微細に分散した状態で存在している。通常印刷濃度を高めるには、着色剤を微細分散したインキを使用すればよいが、インキを吸収しやすい非塗工紙への印刷では、微細分散したインキは紙の内部へとより浸透し、印刷濃度が低下する傾向にある。これに対し、着色剤の分散粒子径を大きくすると非塗工紙の表面に着色剤が留まり印刷濃度を高めることができるが、一方で、塗工紙における印刷濃度低下や、インクの保存安定性の低下、インクジェット吐出不良が生じてしまう。
【0003】
印刷濃度を高めるインキとして特許文献1には、分散剤にスチレンマクロマー/スチレン/ベンジルメタクリレート/アルキレンオキシ鎖含有メタクリレート/メタクリル酸のランダム共重合体を使用したインキが開示されている。また、特許文献2には、分散剤にAブロックにベンジルメタクリレート、Bブロックにメタクリル酸/ブチルメタクリレートで構成されたブロックポリマーを使用したインキが開示されている。
また、特許文献3~5は、分散剤に無水マレイン酸単位を含む重合体が開示されているが、いずれも印刷濃度の点で、さらなる改良が求められている。さらに、特許文献3においては鉱油ペーストおよび溶剤系インキに関する内容が示されているが、水性インクジェットインキの特性から生じる上記課題への言及はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-108115号公報
【文献】特開2020-125452号公報
【文献】特開平5-230388号公報
【文献】国際公開WO2009/132738
【文献】特開2020-203965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のインキは、良好な保存安定性、優れたインクジェット吐出性、塗工紙と非塗工紙の双方での高い印刷濃度の両立ができなかった。
【0006】
本発明は、インキ受容層を必要とせず、塗工紙と非塗工紙の双方で高い濃度の印刷が可能であり、良好な保存安定性を有するインクジェットインキを作製できる着色剤分散体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の着色剤分散体は、分散剤、着色剤、及び水を含み、
前記分散剤が、マレイン酸単位、および、マレイン酸アミド単位を含む重合体であり、
前記重合体の酸価が、50~300mgKOH/gである着色剤分散体である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明における用語を定義する。「C.I.」は、カラーインデックス(C.I.)を意味する。モノマー(以下、単量体ともいう)は、エチレン性不飽和基含有単量体である。(ポリ)アルキレンオキシ基は、ポリアルキレンオキシ基およびアルキレンオキシ基の両者を含む。アルキレンオキシ基は、例えば、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基等である。モノマーが重合して重合体を構成する部分構造をモノマー単位という。分散剤は、予め微細化した着色剤を分散するために使用する化合物である。
【0009】
本発明の着色剤分散体は、分散剤、着色剤、及び水を含む着色剤分散体であって、前記分散剤が、マレイン酸単位、および、マレイン酸アミド単位を含む重合体であり、好ましくは、さらに、α-オレフィン単位およびまたは(メタ)アリルモノマー単位を含む。
本発明の着色剤分散体は、例えば、インクジェットインキ、フレキソ印刷インキ、文具、捺染剤、塗料等の用途に使用することが好ましい。
【0010】
分散剤が、マレイン酸単位、および、マレイン酸アミド単位を含むことにより、着色剤分散体の保存安定性が向上し、さらに、インクジェット吐出を可能とする微細な分散性を維持しながら、非塗工紙上および塗工紙上での印刷濃度を飛躍的に向上できる。
これらの効果は、マレイン酸単位に由来する2つのカルボキシル基の反発効果と、紙中に含まれるCaイオンなどの僅かな金属イオンをキレート化する現象が、マレイン酸アミド単位を含むことにより顕著に向上したと推測している。また、マレイン酸アミド単位が、高極性かつ疎水性であることにより、様々な顔料種に対しての吸着性を大幅に向上させることができたと考える。これにより分散剤が、様々な顔料種に対して優れた分散性を有しながら紙中の僅かな金属イオンとのキレート化で不溶化する現象が発現し、印刷時に着色剤分散体が紙面表面に留まることにより高い印刷濃度が実現できると推測している。また、マレイン酸アミド単位の置換基を変えることにより、相溶性や、着色剤への吸着率を調整できる。
【0011】
<着色剤>
着色剤は、粒子形態の化合物であり、凝集体でも良い。また、着色剤は、有機顔料、無機顔料から適宜選択して使用できる。染料も併用できる。
【0012】
有機顔料は、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
【0013】
有機顔料をカラーインデックスでいうと、例えば、C.I.PigmentRed1、2、3、4、5、6、7、9、10、14、17、22、23、31、32、38、41、48:1、48:2、48:3、48:4、49、49:1、49:2、52:1、52:2、53:1、57:1、60:1、63:1、66、67、81:1、81:2、81:3、83、88、90、105、112、119、122、123、144、146、147、148、149、150、155、166、168、169、170、171、172、175、176、177、178、179、184、185、187、18
8、190、200、202、206、207、208、209、210、216、220、224、226、242、246、254、255、264、266、269、27
0、272、279、
C.I.PigmentYellow1、2、3、4、5、6、10、11、12、13、14、15、16、17、18、20、24、31、32、34、35、35:1、36、36:1、37、37:1、40、42、43、53、55、60、61、62、6
3、65、73、74、77、81、83、86、93、94、95、97、98、100、101、104、106、108、109、110、113、114、115、116、117、118、119、120、123、125、126、127、128、129、137、138、139、147、148、150、151、152、153、154、155、156、161、162、164、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、179、180、181、182、185、187、188、193、194、199、213、214、
C.I.PigmentOrange2、5、13、16、17:1、31、34、36、38、43、46、48、49、51、52、55、59、60、61、62、64、71、73、
C.I.PigmentGreen7、10、36、37、58、59、62、63、
C.I.PigmentBlue1、2、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、66、79、79、80
C.I.PigmentViolet1、19、23、27、32、37、42
C.I.PigmentBrown25、28
C.I.PigmentBlack1、7
C.I.PigmentWhite1、2、4、5、6、7、11、12、18、19、21、22、23、26、27、28等が挙げられる。
【0014】
これらの中でもC.I.PigmentRed31、48:1、48:2、48:3、48:4、57:1、122、146、147、148、150、170、176、177、184、185、202、242、254、255、264、266、269、
C.I.PigmentYellow12、13、14、17、74、83、108、109、120、150、151、154、155、180、185、213
C.I.PigmentOrange34、36、38、43、64、73
C.I.PigmentGreen7、36、37、58、62、63、
C.I.PigmentBlue15:1、15:3、15:6、16、22、60、66、
C.I.PigmentViolet19、23、32、
C.I.PigmentBrown25、
C.I.PigmentBlack1、7
C.I.PigmentWhite6が好ましい。
【0015】
無機顔料は、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属錯塩、その他無機顔料等が挙げられる。カーボンブラックは、例えば、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化鉄、水酸化鉄、ジルコニア、アルミナ等が挙げられる。その他無機顔料は、例えば、群青、黄鉛、硫化亜鉛、コバルトブルー等が挙げられる。
【0016】
前記カーボンブラックは、平均一次粒子径が11~50nm、BET法による比表面積が50~400m/g、pHが2~10などの特性を有することが好ましい。カーボンブラックの市販品は、例えばNo.25、30、33、40、44、45、52、850、900、950、960、970、980、1000、2200B、2300、2350、2600;MA7、MA8、MA77、MA100、MA230(三菱ケミカル社製)、RAVEN760UP、780UP、860UP、900P、1000P、1060UP、1080UP、1255(コロンビアンカーボン社製)、REGAL330R、400R、660R、MOGULL(キャボット社製)、Nipex160IQ、170IQ、35、75;PrinteX30、35、40、45、55、75、80、85、90、95、300;SpecialBlack350、550;Nerox305、500、505、600、605(オリオンエンジニアドカーボンズ社製)等が挙げられる。
【0017】
前記酸化チタンは、アナターゼ型、ルチル型が挙げられる。これらの中でも、印刷物の隠蔽性が向上する面でルチル型が好ましい。また、酸化チタンは、塩素法、硫酸法等で合成できるところ、白色度が向上する面で塩素法が好ましい。
【0018】
酸化チタンは、表面を無機化合物で処理することで活性を抑制することが好ましい。無機化合物の処理後、さらに有機化合物で表面処理することが好ましい。これにより酸化チタンの分散安定性が向上する。無機化合物は、例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン、およびチタンの化合物、ならびにこれらの水和酸化物が挙げられる。有機化合物は、例えば、多価アルコール、およびアルカノールアミンならびにその誘導体、ならびに高級脂肪酸およびその金属塩、ならびに有機金属化合物等が挙げられる。
【0019】
染料は、分散染料が好ましい。分散染料は、加熱により昇華する性質を有する染料である。分散染料は、例えば、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240、343;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、60、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、165、359、360等が挙げられる。
【0020】
着色剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0021】
着色剤の平均一次粒子径は、通常5~1,000nmが好ましい。なお、平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡を使用した2,000~10万倍の範囲から選択した拡大画像から任意の約20個の粒子の平均値である。粒子が楕円形の場合、縦軸長さを用いる。
【0022】
<分散剤>
分散剤は、マレイン酸単位、および、マレイン酸アミド単位を含む重合体である。分散剤の合成は、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合等が挙げられる。重合法は、例えば、ランダム重合、交互共重合、ブロック重合が挙げられる。重合反応は、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等が挙げられる。本明細書で分散剤は、これらの手法を適宜組み合わせて合成できる。
本発明では、ラジカル重合開始剤を使用して溶液中でランダム重合、または交互共重合する分散剤を一例として以下説明する。
【0023】
分散剤は、マレイン酸、マレイン酸アミドもしくはその前駆体(マレイン酸である場合もある)、ならびに、必要に応じてその他のエチレン性不飽和基含有単量体を含むモノマー混合物を共重合して合成することが好ましい。
【0024】
<マレイン酸単位>
マレイン酸単位は、マレイン酸、または無水マレイン酸のうち少なくとも一方(以下、マレイン酸単位前駆体ともいう)を共重合して形成される。これらの中でも共重合性に優れる面で無水マレイン酸が好ましい。共重合体中マレイン酸単位は、ジカルボン酸の形態であっても、酸無水物の形態であっても、ジカルボン酸の形態と酸無水物の形態が混在する形態でもよい。
【0025】
<マレイン酸アミド単位>
マレイン酸アミド酸単位は、前述した通り、着色剤分散体の保存安定性や、インクジェット吐出を可能とする微細分散性を維持しながら、非塗工紙上および塗工紙上での印刷濃度を飛躍的に向上させることが出来る。
マレイン酸アミド単位は、マレイン酸単位前駆体と、マレイン酸アミドとの共重合により形成することができる。
当該マレイン酸アミドとしては、市販のマレイン酸アミドを使用しても良いし、無水マレイン酸をアンモニアまたはアミン化合物で変性して得ても良い。
マレイン酸単位と、マレイン酸アミド単位のmol%比率は、マレイン酸単位と、マレイン酸アミド単位との合計を100%としたとき、マレイン酸アミド単位が25~90%が好ましく、50~90%がより好ましく、特に75~90%がより好ましい。
無水マレイン酸を1級アミン化合物で変性した場合は、N置換マレイン酸モノアミドというべき構造となる。具体的には、アミドの窒素原子に、1級アミン化合物由来の置換基を有する構造となる。
当該置換基としては、炭化水素基、環状炭化水素基、芳香族基などが挙げられる。
前記炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基、オレイル基等、およびこれらの構造異性体;
環状炭化水素基としては、例えばシクロヘキシル基等;
芳香族基としては、例えばフェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2-エチルフェニル基、2-フルオロフェニル基、o-メトキシフェニル基、m-ヒドロキシフェニル基、p-ヒドロキシフェニル基、p-カルボキシルフェニル基、ベンジル基等;
が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
保存安定性、バインダーとの相溶性、非塗工紙上での印刷濃度の観点から、置換基は環構造基または炭化水素基が良い。炭化水素基は、炭素原子数1~22が好ましく、4~22がより好ましく、特に12~22がより好ましい。炭化水素基は、直鎖状または分岐鎖状であってもよい。環構造基は、芳香族基が好ましく、さらに、置換基として炭化水素基と芳香族基とを併用することが好ましく、特にベンジル基と併用することが好ましい。
【0026】
具体的に、当該1級アミン化合物としては、例えば、ベンジルアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン、オレイルアミン、アニリン、o-トルイジン、2-エチルアニリン、2-フルオロアニリン、o-アニシジン、m-トルイジン、m-アニシジン、m-フェネチジン、p-トルイジン、2,3-ジメチルアニリン、5-アミノインダン、アスパラギン酸、グルタミン酸、γ-アミノ酪酸等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0027】
アミンは、単独または2種類以上を併用して使用できる。また、1級アミン化合物以外のアミン化合物を併用してもよい。
【0028】
また、マレイン酸アミド単位を形成するには、マレイン酸単位前駆体と、マレイン酸アミドとを共重合する以外にも、マレイン酸単位前駆体の重合体中のマレイン酸単位の一部をアンモニアまたはアミン化合物で、変性して、マレイン酸アミド単位を形成してもよい。ここで使用できるアミン化合物は、前述したものと同じである。
【0029】
マレイン酸アミド単位は、2種類以上存在してもよい。また、マレイン酸アミド単位は、重合体合成時や着色剤分散体の態様で、イミド結合状態、アミド結合状態のいずれかの態様になる場合がある。これらの態様もマレイン酸アミド単位に含まれる。
【0030】
<α-オレフィン単位>
分散剤は、マレイン酸単位、マレイン酸アミド単位以外に、α-オレフィン単位、(メタ)アリルモノマー単位、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー単位および環含有モノマー単位のうち1種以上を含むことが好ましい。これらの中でも、α-オレフィン単位およびまたは(メタ)アリルモノマー単位が、好ましい。
α-オレフィン単位は、α-オレフィンとマレイン酸単位前駆体などとを共重合することで形成される。α-オレフィンは、(無水)マレイン酸などとの共重合性および、分散剤の着色剤表面への吸着率の観点から好ましい。
【0031】
α-オレフィンは、炭素数6~50のα-オレフィンが好ましく、炭素数8~30がより好ましく、炭素数12~28がさらに好ましい。
α-オレフィンは、例えば、1-ヘキセン(炭素数6)、1-ヘプテン(炭素数7)、1-オクテン(炭素数8)、1-ノネン(炭素数9)、1-デセン(炭素数10)、1-ドデセン(炭素数12)、1-テトラデセン(炭素数14)、1-ヘキサデセン(炭素数16)、1-オクタデセン(炭素数18)、1-エイコセン(炭素数20)、1-ドコセン(炭素数22)、1-テトラコセン(炭素数24)、1-オクタコセン(炭素数28)、1-トリアコンテン(炭素数30)、1-ドトリアコンテン(炭素数32)、1-テトラトリアコンテン(炭素数34)、1-ヘキサトリアコンテン(炭素数36)、1-オクタトリアコンテン(炭素数38)等が挙げられる。
【0032】
α-オレフィンは、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0033】
<(メタ)アリルモノマー単位>
(メタ)アリルモノマー単位は、(メタ)アリルモノマーとマレイン酸単位前駆体などとを共重合することで形成される。
(メタ)アリルモノマーは、(メタ)アリル基を含むモノマーである。(メタ)アリルモノマーは、特に限定されないが、下記一般式(1)で示す(メタ)アリルエーテルモノマーが好ましい。
【0034】
【化1】
【0035】
一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を示す。ROは、アルキレンオキシ基を示し、2種類以上のアルキレンオキシ基がランダム状もしくはブロック状に付加していても良い。ROで示されるアルキレンオキシ基は、例えば、分散安定性の観点から炭素数2~5のアルキレンオキシ基が好ましい。
炭素数2~5のアルキレンオキシ基は、例えば、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基、テトラメチレンオキシ基が挙げられる。これらの中でも、分散性の観点でエチレンオキシ基、又はプロピレンオキシ基の単独付加、又はエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基のブロック又はランダム付加が好ましく、プロピレンオキシ基の単独付加、又はエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基のブロック又はランダム付加がより好ましい。
【0036】
一般式(1)中、mはアルキレンオキシ基の平均モル数で0又は、1~100の整数である。モノマーの共重合性および分散剤の着色剤への吸着率の観点から、1~60が好ましく、3~50がより好ましく、5~40がさらに好ましい。
【0037】
一般式(1)中、Rは、水素原子、又は直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、飽和アシル基、アルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。直鎖状もしくは分岐状のアルキル基は、例えば、炭素数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基があり、メチル基、エチル基、イソプロピル基などが好ましい。飽和アシル基は、炭素数1~10の飽和アシル基があり、エタン酸、ブタン酸、プロピオン酸、酪酸から誘導される置換基が好ましい。アルキル基で置換されていてもよいフェニル基は、例えば、フェニル基、ナフチル基、p-メチルフェニル等が挙げられる。
これらの中でも、Rは、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、分散安定性
の観点からメチル基が最も好ましい。
【0038】
一般式(1)で示す(メタ)アリルエーテルモノマーは、例えば、メチル(メタ)アリルエーテル、エチル(メタ)アリルエーテル等のアルキル(メタ)アリルエーテル;フェニル(メタ)アリルエーテル、シクロへキシル(メタ)アリルエーテル等の環含有(メタ)アリルエーテル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル等のヒドロキシアルキル(メタ)アリルエーテル、プロピオン酸(メタ)アリル、ヘキサン酸(メタ)アリル、シクロヘキサンプロピオン酸(メタ)アリル等の(メタ)アリルエステル等が挙げられる。
また、一般式(1)で示す(メタ)アリルエーテルモノマーは、(ポリ)アルキレンオキシ基を有することが好ましい。例えば、ポリアルキレングリコール(メタ)アリルエーテル、アルキレンオキシグリコール(メタ)アリルエーテル、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アリルエーテルなどの(ポリ)アルキレンオキシ基含有(メタ)アリルエーテルが挙げられる。これら中でもバインダー樹脂との相溶性の観点から、(ポリ)アルキレンオキシ基を含むことが好ましく、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アリルエーテルがより好ましい。
【0039】
アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アリルエーテルは、例えば、メトキシエチレングリコール(メタ)アリルエーテル、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アリルエーテル、メトキシプロピレングリコール(メタ)アリルエーテル、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アリルエーテル、エトキシエチレングリコール(メタ)アリルエーテル、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アリルエーテル、エトキシプロピレングリコール(メタ)アリルエーテル、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アリルエーテル、プロポキシエチレングリコール(メタ)アリルエーテル、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アリルエーテル、プロポキシプロピレングリコール(メタ)アリルエーテル、プロポキシポリプロピレングリコール(メタ)アリルエーテル等が挙げられる。バインダー樹脂との相溶性の観点から、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アリルエーテル、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アリルエーテルがより好ましく、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アリルエーテルがさらに好ましい。
【0040】
(メタ)アリルエーテルは、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0041】
<アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー単位>
分散剤は、マレイン酸単位、マレイン酸アミド単位以外に、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー単位含むことが好ましい。
アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー単位は、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとマレイン酸単位前駆体などとを共重合することで形成される。
アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーのアルキル鎖は、炭素数6~50が好ましく、炭素数8~30がより好ましく、炭素数10~24がさらに好ましい。
アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、例えば、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
<環含有モノマー単位>
分散剤は、マレイン酸単位、マレイン酸アミド単位以外に、環含有モノマー単位含むことが好ましい。
環含有モノマー単位は、環含有モノマーとマレイン酸単位前駆体などとを共重合することで形成される。
環含有モノマーは、芳香環含有モノマーと、脂環含有モノマーが挙げられ、複素環含有モノマーは含まれない。環含有モノマーとしては、特に芳香環含有モノマーが好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0043】
芳香環含有モノマーは、例えば、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、スチレンマクロマー等が挙げられる
【0044】
脂環含有モノマーは、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
環含有モノマーは、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0046】
<その他モノマー単位>
分散剤は、マレイン酸単位、マレイン酸アミド単位、α-オレフィン単位、(メタ)アリルモノマー単位、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー単位および環含有モノマー単位以外のその他モノマー単位を含有できる。その他モノマー単位は、複素環含有モノマー(ただし、芳香環含有モノマーを除く)、およびその他ビニルモノマー等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0047】
複素環含有モノマーは、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルピリジン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルピペラジン、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0048】
<分散剤の合成>
分散剤は、マレイン酸単位前駆体を含むモノマー混合物に、ラジカル重合開始剤、および必要に応じて連鎖移動剤を添加し、重合させて合成できる。または、マレイン酸単位前駆体を含むモノマー混合物に、ラジカル重合開始剤、および必要に応じて連鎖移動剤を添加し、重合後、アンモニアもしくはアミン化合物と反応させることで合成できる。得られた分散剤は、本質的にはランダムに配列したマレイン酸単位とマレイン酸単位以外の単位が交互に配列する交互重合体となる。
【0049】
マレイン酸単位以外の単位の含有量は、分散剤の全モノマー単位中、20~60モル%が好ましく、25~55モル%がより好ましく、30~50モル%がさらに好ましい。適量含有すると分散剤は着色剤の表面に吸着し易くなり、保存安定性がより向上する。
【0050】
マレイン酸単位の含有量は、分散剤の全モノマー単位中、5~60モル%が好ましく、5~40モル%がより好ましく、5~20モル%がさらに好ましい。適量含有すると着色剤分散体の保存安定性を維持しながら、非塗工紙上での印刷濃度を高めることが出来る。
【0051】
マレイン酸アミド単位の含有量は、分散剤の全モノマー単位中、5~70モル%が好ましく、15~70モル%がより好ましく、30~70モル%がさらに好ましい。適量含有すると着色剤分散体の保存安定性を維持しながら、非塗工紙上での印刷濃度を高めることが出来る。
【0052】
(メタ)アリルモノマー単位の含有量は、分散剤の全モノマー単位中、1~30モル%が好ましく、1~20モル%がより好ましく、2~15モル%がさらに好ましい。適量含有すると分散剤とバインダー樹脂等との相溶性が向上し、印刷濃度がより向上する。
【0053】
ラジカル重合開始剤は、アゾ化合物、過酸化物が挙げられる。アゾ化合物は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス2,4-ジメチルバレロニトリル等が挙げられる。過酸化物は、例えば、キュメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジt-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0054】
ラジカル重合開始剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0055】
溶液重合に使用する有機溶剤は、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられるが用いられるが特にこれらに限定されるものではない。これらの重合溶媒は、2種類以上混合して用いても良い。
【0056】
有機溶剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0057】
分散剤の酸価は、50~300mgKOH/gがより好ましく、65~200mgKOH/gがより好ましく、80~150mgKOH/gさらに好ましい。適度な酸価を有すると、優れた静電反発効果を得られ、保存安定性、微細分散性が良化することに加え、紙中の僅かな金属イオンへの反応性が上がり、印刷濃度が向上する。
【0058】
分散剤の数平均分子量(Mn)は、2,000~35,000が好ましく、3,000~15000がより好ましく、多分散度(Mw/Mn)は1.2~4.0が好ましい。適度な数平均分子量、多分散度を有すると、着色剤への吸着率が向上し、保存安定性、微細分散性が良化する。
【0059】
<着色剤分散体>
本明細書の着色剤分散体は、少なくとも、分散剤、着色剤、水を含み、バインダー樹脂、架橋剤、塩基性化合物等から適宜選択して含有することが好ましい。
【0060】
<塩基性化合物>
塩基性化合物は、分散剤に由来するカルボキシル基を中和し、着色剤粒子を安定的に分散できる。さらに着色剤分散体の酸価と、pHを7~10程度に調整するために使用する。塩基性化合物は、例えば、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ;有機酸や鉱酸等が挙げられる。
【0061】
分散剤の中和度は、着色剤分散体の分散安定性の観点から、分散剤のカルボキシル基のうち10~200モル%が好ましく、40~160モル%がより好ましい。ここで中和度は、塩基性化合物のモル当量を分散剤のカルボキシル基のモル量で除したものである。下記式によって求めることができる。
{(塩基性化合物の重量(g)/塩基性化合物の当量)/[(分散剤の酸価(KOH
mg/g)×分散剤の重量(g)/(56.1×1,000)]}×100
【0062】
塩基性化合物は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0063】
<架橋剤>
着色剤分散体は、分散剤を架橋剤で架橋することが好ましい。架橋剤は、着色剤分散体の分散剤に由来するカルボキシル基を架橋するために使用する。架橋剤は、カルボキシル基と反応可能な官能基(以下、反応性官能基という)を2以上有する化合物である。架橋により分散剤が着色剤を強固に被覆し、着色剤分散剤の分散安定性がより向上する。反応性官能基は、例えば、イソシアネート基、アジリジン基、カルボジイミド基、オキセタン基、オキサゾリン基、エポキシ基が好ましく、アジリジン基、カルボジイミド基、エポキシ基がより好ましく、エポキシ基がさらに好ましい。インクジェットインキとしての分散安定性を向上させる観点からも架橋剤の添加は好ましい。架橋剤は、例えば、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキセタン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物が挙げられる。
【0064】
イソシアネート化合物は、例えば、有機ポリイソシアネート又はイソシアネート基末端プレポリマーが挙げられる。有機ポリイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;トリレン-2,4-ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;脂環式ジイソシアネート;芳香族トリイソシアネート;それらのウレタン変性体等の変性体が挙げられる。イソシアネート基末端プレポリマーは、有機ポリイソシアネート又はその変性体と低分子量ポリオール等とを反応させることにより得ることができる。
【0065】
アジリジン化合物は、例えば、N,N’-ジフェニルメタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、N,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル-1-(2-メチルアジリジン)、トリ-1-アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N’-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ-β-アジリジニルプロピオネート、トリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1、3、5-トリアジン、4,4’-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等が挙げられる。
【0066】
カルボジイミド化合物は、例えば、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネート化合物を脱炭酸縮合反応させることによって生成した高分子量ポリカルボジイミドが挙げられる。このような高分子量ポリカルボジイミドは、例えば、日清紡績社製のカルボジライトシリーズが挙げられる。
【0067】
オキセタン化合物、例えば、4,4’-(3-エチルオキセタン-3-イルメチルオキシメチル)ビフェニル(OXBP)、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(EHO)、1,4-ビス[{(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ}メチル]ベンゼン(XDO)、ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル(DOX)、ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル(DOE)、1,6-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]ヘキサン(HDB)、9,9-ビス[2-メチル-4-{2-(3-オキセタニル)}ブトキシフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-[2-{2-(3-オキセタニル)}ブトキシ]エトキシフェニル]フルオレン等が挙げられる。
【0068】
オキサゾリン化合物は、例えば、脂肪族基又は芳香族基に2個以上、好ましくは2~3個のオキサゾリン基が結合した化合物、より具体的には2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、1,3-フェニレンビスオキサゾリン、1,3-ベンゾビスオキサゾリン等のビスオキサゾリン化合物、該化合物と多塩基性カルボン酸とを反応させて得られる末端オキサゾリン基を有する化合物が挙げられる。
【0069】
エポキシ化合物は、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0070】
これらの中でもエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが好ましい。市販品としては、ナガセケムテックス社製デナコールEX-810、EX-321、EX-321L、ADEKA社製アデカグリシロールED-505等が挙げられる。
【0071】
架橋剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0072】
架橋剤の分子量(式量または、数平均分子量Mn)は、反応のし易さ、着色剤分散体の保存安定性の観点から、100~2,000が好ましく、120~1,500が更に好ましく、150~1,000が特に好ましい。架橋剤に含まれる反応性官能基の数は、架橋後の分散剤の分子量を制御して保存安定性を向上する観点から、2~6が好ましい。
【0073】
架橋剤は、水中で効率よく分散剤のカルボキシル基と反応させる面で適度な水溶性があることが好ましい。水溶性は、架橋剤の25℃の水100gに対する溶解量が0.1~50gが好ましく、0.2~40gがより好ましく、0.5~30gがさらに好ましい。
【0074】
架橋剤の使用量は、前記分散剤のカルボキシル基100モル%に対して、反応性官能基が10~200モル%程度が好ましく、20~150モル%がより好ましく、30~120モル%がさらに好ましい。
【0075】
着色剤分散体の不揮発分は5~80質量%になる程度に水で調整することが好ましい。
【0076】
着色剤と分散剤の合計含有量は、着色剤分散体の100質量%中、5~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。適量含有すると保存安定性がより向上する。
【0077】
着色剤分散体の着色剤のD50平均粒子径(メディアン径)は、20~200nmが好ましく、25~150nmがより好ましく、30~130nmがさらに好ましく、35~90nmが特に好ましい。適度な粒子径を有するとノズルからに吐出安定性が向上し、着色剤分散体の保存安定性がより向上する。なお、D50平均粒子径の測定は、レーザー回折・散乱法を用いる。
【0078】
<着色剤分散体の製造>
着色剤分散体の製造方法は、例えば、下記のような方法が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。先ず初めに、分散剤、水とが少なくとも混合された水性媒体に着色剤を添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の着色剤分散体を得る。
【0079】
上記した着色剤の分散手段は、一般に使用される分散機で行う。分散手段は、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザー等が挙げられる。その中でも、ビーズミルが好ましく使用される。このようなものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0080】
また、上記の分散処理を行う前に着色剤の微細化処理を行うと、着色剤の一次粒子径をより微細にすることができ、これにより着色剤分散体の体積平均粒子径D50(メディアン径)がより微細な着色剤分散体を得ることができるため好ましい。特に着色剤をソルトミリング法にて、分散剤で被覆させ、微細化する方法が好ましい。ソルトミリング法は、例えば、水溶性溶剤、水溶性無機塩、着色剤、ならびに分散剤を混練して着色剤の表面を分散剤で被覆し、次いで水溶性無機塩および水溶性溶剤を除去する工程を含む。まず、水溶性溶剤、水溶性無機塩、着色剤、ならびに分散剤を混練して着色剤の表面を分散剤で被覆する。前記混練により着色剤を微細化しつつ、その表面を分散剤で被覆する。ソルトミリング法で混練すると着色剤を効率よく微細化できる。ソルトミリング法に使用する混練装置は、例えば、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、アトライター、横型サンドミル、縦型サンドミル及び/又はアニューラ型ビーズミル等が挙げられる。これらの中でも着色剤の表面を効率的に被覆できる面でニーダーが好ましい。混練条件は、着色剤の種類、微細化の程度等に応じて、適宜調整できる。また必要に応じて加熱するとも冷却することもできる。
【0081】
水溶性無機塩は、破砕助剤として働くものであり、水溶性無機塩の硬度の高さを利用して着色剤を破砕する。水溶性無機塩は、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。価格の点から塩化ナトリウム(食塩)を用いることが好ましい。なお、工業的に用いられる塩化ナトリウムは海水などの天然物から製造される事があるため、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の不純物を0.01~30質量%程度含んでいても良い。
【0082】
水溶性溶剤は、着色剤および水溶性無機塩を湿潤する。水溶性溶剤は、水に溶解(混和)しつつ、水溶性無機塩を溶解しない化合物である。水溶性溶剤は、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシル等のエーテル;プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、及びトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール等のアルコール類;スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類;グリセリン等が挙げられる。これらの中でもジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類が好ましい。
【0083】
水溶性溶剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0084】
水溶性溶剤の使用量は、着色剤100質量部に対し、5~1,000質量部が好ましく、50~500質量部がより好ましい。水溶性無機塩の使用量は、着色剤100質量部に対し、50~2,000質量部が好ましく、300~1,000質量部がより好ましい。分散剤の使用量は、着色剤100質量部に対し、5~100質量部が好ましく、10~80質量部が好ましい。適量使用すると保存安定性、微細分散性がより向上する。
【0085】
次に得られた着色剤を含む混合物から水溶性無機塩および水溶性溶剤を除去する。まず、混練装置から前記混合物を取り出し、イオン交換水を投入して撹拌を行い、懸濁液を得る。イオン交換水の使用量は、混練装置に投入した質量の10~10,000倍の質量が好ましい。撹拌温度は、25~90℃が好ましい。次いでろ過を行い着色剤を得る。これらの操作により水溶性溶剤、水溶性無機塩を除去できる。なお、さらにイオン交換水を除去する工程を行ってもよい。水の除去は、乾燥処理が好ましい。乾燥条件は、例えば、常圧下、80~120℃の範囲で12~48時間程度の乾燥を行う方法、減圧下、25~80℃の範囲で12~60時間程度の乾燥を行う方法が挙げられる。乾燥処理は、スプレードライ装置が好ましい。また、乾燥処理と同時もしくは乾燥処理後に粉砕処理を行うことができる。
【0086】
着色剤分散体は、活版印刷、フレキソ印刷等に用いる凸版印刷用インキ、グラビア印刷等に用いる凹版印刷用インキ、オフセット印刷等に用いる平版印刷用インキ、スクリーン印刷、捺染印刷等に用いる孔版印刷用インキ、インクジェット印刷、静電荷現像トナー印刷に用いるオンデマンド印刷用インキ等が挙げられる。その他、建材や自動車用などの塗料、文具用インキ、カラーフィルター、固体撮像素子、LiDAR等のセンサー等の用途に使用することが好ましい。これらの中でも、インクジェット印刷に用いるインクジェットインキが好ましい。
【0087】
<インクジェットインキ>
本発明におけるインクジェットインキは、着色剤分散体、水溶性溶剤を含む。本発明においてインクジェットインキは、水を溶媒(媒体)として使用するが、インキの乾燥を防止するため、水溶性溶剤を併用することが好ましい。水溶性溶剤は、水と比較し表面張力が低いため、印刷後の基材への浸透性、濡れ広がり性が向上する。
【0088】
水溶性溶剤は、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他水溶性溶剤等が挙げられる。
【0089】
多価アルコール類は、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、ペトリオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、5-ヘキセン-1,2-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等が挙げられる。これらの中でも、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-へプタンジオールが好ましい。
【0090】
多価アルコールアルキルエーテル類は、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。多価アルコールアリールエーテル類は、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル等が挙げられる。
【0091】
含窒素複素環化合物は、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミイダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。アミド類は、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。アミン類は、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。含硫黄化合物類は、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等が挙げられる。
【0092】
その他水溶性溶剤は、糖が好ましい。糖類は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類、四糖類を含む)、多糖類等が挙げられる。糖は、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等が挙げられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、α-シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む。また、これらの糖類の誘導体は、例えば、前記糖類の還元糖(例えば、糖アルコール〔一般式:HOCH(CHOH)CHOH(ただし、n=2~5の整数を表す)で表される〕、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ酸等が挙げられる。これらの中でも、糖アルコールが好ましく、マルチトール、ソルビットがより好ましい。
【0093】
水溶性溶剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0094】
水溶性溶剤の含有量は、インクジェットインキ中、3~60質量%が好ましく、3~50質量%がより好ましい。また、水の含有量は、インクジェットインキ中、10~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。適度に水溶性溶剤を含有すると、ヘッドからのインキ吐出安定性が向上する。
【0095】
インクジェットインキは、バインダー樹脂を含有することが好ましい。これにより、印字した塗膜の耐水性、耐溶剤性、耐擦過性、光沢性などが向上する。バインダー樹脂は、例えば(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレンブタジエン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、シリコーン含有樹脂等が挙げられる。
【0096】
バインダー樹脂の含有量は、インクジェットインキの不揮発分中、1~30質量%が好ましく、2~20質量%がより好ましい。
【0097】
バインダー樹脂は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0098】
本発明のおけるインクジェットインキは、必要に応じて添加剤を含有できる。添加剤は、例えば、界面活性剤、消泡剤、ワックス、防腐剤等が挙げられる。添加剤の含有量は、インクジェットインキ中、0.05~10質量%が好ましく、0.2~5質量%がより好ましい。
【0099】
本発明のおけるインクジェットインキは、各種のインクジェット用プリンターに使用できる。インクジェット方式は、例えば、荷電制御型、スプレー型等の連続噴射型、ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等のオンデマンド型等が挙げられる。
【0100】
<フレキソ印刷インキ>
本発明のおけるフレキソ印刷インキは、着色分散体、およびバインダー樹脂を含有することがより好ましい。バインダー樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂が挙げられる。また、フレキソ印刷インキは、添加剤、溶剤、架橋剤を含有できる。
【0101】
(アクリル樹脂)
アクリル樹脂は、アクリル共重合体、アクリル酸-スチレン共重合樹脂、アクリル酸-マレイン酸樹脂、アクリル酸-スチレン-マレイン酸樹脂等が挙げられる。なお、アクリル共重合体は、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルのうち2種以上の単量体を使用する共重合体である。
【0102】
アクリル樹脂の重量平均分子量は200,000~800,000の範囲にある場合が好ましい。重量平均分子量が200,000未満であると、樹脂皮膜の強度が低下して、積層体の基材密着性、耐水摩擦性、耐スクラッチ性、耐ブロッキング性が低下する場合がある。一方で800,000を超えると、分子鎖の運動性が低下するため、低温乾燥条件では、インキ皮膜層間の融着が不十分となり、積層体の基材密着性、耐水摩擦性が低下する恐れがある。また、再溶解性も低下しやすい。
【0103】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-30℃~30℃程度が好ましい。適度なTgにより耐水摩擦性、耐ブロッキング性、基材への密着性がより向上する。
【0104】
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂には、ポリウレタン樹脂の他、ポリウレタン-ウレア樹脂も挙げられる。ウレタン樹脂は、造膜性の観点から、酸価を有することが好ましい。ウレタン樹脂の重量平均分子量は、10,000~100,000が好ましい。適度な分子量を有すると基材への密着性、耐水摩擦性、耐スクラッチ性、耐ブロッキング性がより向上する。
【0105】
バインダー樹脂の酸価は20~180mgKOH/gが好ましく、40~150mgKOH/gがより好ましい。適度な酸価により印刷における再溶解性、基材への密着性、耐水摩擦性、耐ブロッキング性がより向上する。
【0106】
フレキソ印刷インキに含まれるバインダー樹脂の量は、フレキソ印刷インキ100質量%中、1~50質量%が好ましい。適度に含有するとインキ塗膜の強度が向上、基材への密着性および耐水摩擦性がより向上する。
【0107】
フレキソ印刷インキは必要に応じて添加剤を含有できる。添加剤は、レベリング剤、濡れ剤、撥水剤、消泡剤、ワックス、架橋剤等が挙げられる。
【0108】
フレキソ印刷インキに使用する溶剤は、水、または前述の水溶性溶剤等が挙げられる。溶剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0109】
着色剤の含有量は、フレキソ印刷インキの濃度・着色力を確保するのに充分な量、すなわちフレキソ印刷インキ100質量%中、1~50質量%が好ましい。フレキソ印刷インキ組成物の粘度は、着色剤の沈降を防ぎ、適度に分散させる観点から10mPa・s以上、インキ製造時や印刷時の作業性効率の観点から1,000mPa・s以下の範囲であることが好ましい。なお、上記粘度はトキメック社製B型粘度計で25℃において測定された粘度である。
【0110】
フレキソ印刷インキは、前述の成分を混合分散して調製できる。例えば、本発明の着色剤分散体に加え、任意成分としてワックス、ぬれ剤等を添加して混合撹拌して水性フレキソインキを作製できる。分散、撹拌は、例えば、ハイスピードミキサー、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、トリミックス、ニーダー、エクストルーダー、横型サンドミル、縦型サンドミルまたは/およびアニューラ型ビーズミル、ペイントシェイカー、ボールミル等、超音波発振子を備える分散機、2本ロールミル、3本ロールミル等が挙げられる。
【0111】
<インキセット>
本発明のインキセットは、複数のインキ、例えば2色以上のインキを含み、少なくとも1色のインキに本発明の着色剤分散体を含む。インキセットが含む色は、例えば、シアン、イエロー、マゼンタ、ブラック、オレンジ、グリーン、ホワイト等が挙げられる。
【0112】
<インキの製造方法>
本発明のインキの製造方法を説明する。ただし本発明のインキの製造方法は以下に限定されるものではない。
【0113】
(調整)
上記着色剤分散体、水溶性溶剤、水、及び必要に応じてバインダー樹脂、界面活性剤やその他の添加剤を加え、撹拌・混合する。なお、必要に応じて前記混合物を40~100℃の範囲で加熱しながら撹拌・混合してもよい。
【0114】
(粗大粒子の除去)
上記混合物に含まれる粗大粒子を、濾過分離、遠心分離などの手法により除去し、インキとする。濾過分離の方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。またフィルター開孔径は、粗大粒子、ダストが除去できるものであれば、特に制限されないが、インクジェットインキの場合、好ましくは0.3~5μm、より好ましくは0.5~3μmである。また濾過を行う際は、フィルターは単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0115】
<印刷物の製造方法>
本発明の印刷物は、基材と、インキまたはインキセットから形成されてなる印刷層を備えるが好ましい。
前記基材は、例えば、上質紙、再生紙、コート紙、アート紙、キャスト紙、微塗工紙、合成紙の様な紙基材や、ポリ塩化ビニルシート、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等が挙げられる。また、基材は、複数の素材を積層した積層体であってもよい。これらの中でも上質紙等の非塗工紙が好ましい。
前記基材の厚さは、20~300μm程度であり、前記基材の坪量は、30~300g/m程度である。
前記印刷層の厚さは、0.01~5μmが好ましく、0.1~4μmがより好ましく、更に0.5~3μmが好ましい。印刷層の厚さを上記の範囲内にすることで、印刷物としての発色を十分に得ながら、印刷層作製時の乾燥工程で充分に溶剤を蒸発させ、強固な膜を形成することができる。
前記印刷層の形成は、インクジェット印刷機、フレキソ印刷機、グラビア印刷機、オフセット印刷機等、各インキに対応する印刷機を使用すればよい。
インキを印刷後、必要に応じて乾燥工程を追加できる。乾燥工程に使用する乾燥機は、例えば、熱風乾燥機、赤外線ヒーター等が挙げられる。
【0116】
<塗料>
本発明における塗料は、着色剤分散体、およびバインダー樹脂を含有することが好ましく、架橋剤を含有することがより好ましい。塗料は、着色剤分散体、バインダー樹脂を含む水性塗料が好ましい。着色剤分散体とバインダー樹脂との比率は、求められる用途によって異なり、特に限定されるものではない。
【0117】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、例えば、架橋性官能基を含有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン含有樹脂等が挙げられる。架橋剤は、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネ-ト化合物、エポキシ化合物、カルボキシル基含有化合物、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物等が挙げられる。これらの中でもアクリル樹脂とメラミン樹脂との併用が好ましい。
【0118】
塗料は、さらに必要に応じて、水、有機溶媒、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、架橋剤、体質顔料等を適宜含有できる。
【0119】
塗料は、前記の材料を混合・分散して作製できる。
【0120】
塗料は、様々な基材に塗工できる。基材は、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム等及びその表面処理物等の金属基材;セメント類、石灰類、石膏類等のセメント系基材;ポリ塩化ビニル類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、アクリル類等のプラスチック系基材等が挙げられる。
【0121】
塗料の塗工は、例えば、刷毛塗り、ローラー塗装、スプレー塗装等が挙げられる。塗工後、常温また加熱乾燥して被膜を形成する。被膜の厚みは、通常5~70μm程度である。
【0122】
<文具>
本発明における文具用インキは、着色剤分散体を含み、筆記具、記録計、プリンター等の用途に使用できる。文具は、バインダーを含むことが好ましい。文具は、各用途(例えば、ボールペン、マーキングペン等)に応じて、任意に、水溶性有機溶剤、増粘剤、分散剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤、防菌剤等を含有できる。着色剤とバインダー樹脂との比率は、求められる用途によって異なり、特に限定されるものではない。
【0123】
文具は、高濃度な着色剤分散体を作製し、それを更に水で希釈し前記バインダー樹脂、必要に応じてその他の添加剤を添加して調製することが好ましい。前記着色剤分散体の分散方法は、特に限定されず前述の公知の分散方法でよい。文具は、例えば、チキソトロピー性インキ(例えば、ゲルインキ水性ボールペン用インキ)、ニュートニアン性インキ(例えば、低粘度水性ボールペン用インキ)等の用途がより好ましい。また、文具のpH(25℃)は、使用性、安全性、インキ自身の安定性、インキ収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、6~9.5がより好ましい。
【0124】
着色剤の含有量は、文具の描線濃度に応じて適宜調整できるところ、文具用インキ組成物全量中、0.1~40質量%程度が好ましい。
【0125】
<捺染剤>
本発明における捺染剤は、着色剤分散体、水、バインダー樹脂を含むことが好ましい。捺染剤は、織布や不織布、編布などの布帛に、文字、絵、図柄などの画像を記録できる。なお、覆着色剤とバインダー樹脂との比率は、求められる用途によって異なり、特に限定されるものではない。
【0126】
バインダー樹脂は、前述のバインダー樹脂を使用できる。バインダー樹脂は、水分散粒子、水溶性樹脂等いずれの形態でも使用できる。バインダー樹脂は、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0127】
捺染剤は、着色剤分散体を作製した後、さらに水と、バインダー樹脂と、その他必要に応じた添加剤を混合して、着色したい繊維に応じて浸染、捺染など好ましい処理方法に合わせて捺染剤を作製できる。スクリーン記録用の捺染剤は、添加剤として、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、架橋剤等を含有することが好ましい。スクリーン記録用の捺染剤の着色剤濃度は、1~10質量%が好ましい。また、浸染用の捺染剤は、添加剤として、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、架橋剤等を含有することが好ましい。浸染用の捺染剤の着色剤濃度は、1~10質量%の範囲であるものを使用することが好ましい。浸染用の捺染剤の粘度は、1mPa・s~100mPa・sの範囲で印捺装置に合わせて任意に設定される。スプレー捺染用の捺染剤は、添加剤として、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を含有することが好ましい。スプレー記録用の捺染剤の着色剤濃度は、1質量%~10質量%が好ましい。スプレー記録用の捺染剤の粘度は1mPa・s~100mPa・sの範囲で装置に合わせて任意に設定される。インクジェット記録用の捺染剤は、添加剤として、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等を含有することが好ましい。インクジェット記録用の捺染剤の着色剤濃度は、1質量%~20質量%が好ましい。前記添加剤は、前記被覆着色剤の水分散体に、前記バインダー樹脂ととともに添加することが好ましい。防腐剤は、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンジソチアゾリン-3-オン(アーチケミカルズ社のプロキセルGXL、プロキセルXL-2、プロキセルLV、プロキセルAQ、プロキセルBD20、プロキセルDL)等が挙げられる。粘度調整剤の具体例は、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、スターチ等の主として水溶性の天然あるいは合成高分子物が挙げられる。pH調整剤は、例えば、コリジン、イミダゾール、燐酸、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ほう酸等が挙げられる。キレート化化剤は、例えば、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、ニトリロ三酢酸、1,3-プロパンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N-ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、イミノ二酢酸、ウラミル二酢酸、1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸及びこれらの塩(水和物を含む)等が挙げられる。酸化防止剤は、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキノン系化合物、ホスファイト系化合物及びこれらの置換体、ハロゲン化銅、アルカリ金属ハロゲン化物等が挙げられる。紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の有機化合物系紫外線吸収剤;酸化チタン、酸化亜鉛等の無機化合物系紫外線吸収剤;が挙げられる。捺染剤をインクジェット記録法に適用する場合、その表面張力を20mN/m以上60mN/m以下と調整することが好ましい。より好ましくは、20mN以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、20mN/m以上40mN/m以下である。表面張力が20mN/m未満となるとノズル面に液体が溢れ出し、正常に印字できない場合がある。一方、60mN/mを超えると非吸収基材でのはじきが発生し易い傾向がある。また粘度は、1.2mPa・s以上20.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2.0mPa・s以上15.0mPa・s未満、更に好ましくは3.0mPa・s以上12.0mPa・s未満である。粘度がこの範囲において、優れた吐出性と、長期間にわたる良好な噴射性の維持が達成できる。表面張力は前記界面活性剤により適宜調整可能である。
【0128】
本発明における捺染剤は、布帛、人工皮革、天然皮革等に対して印捺することができる。特に布帛に対しての印捺に優れる。布帛は、繊維で構成される媒体であることが好ましく、織物の他不織布でもよい。素材は、例えば、綿、絹、羊毛、麻、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、レーヨン等が挙げられる。
【実施例
【0129】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。本発明は、実施例に
限定されないことはいうまでもない。以下、特に断らない限り「部」は「質量部」、「%」は「質量%」で
ある。
【0130】
(質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn))
質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、TSK-GELSUPERHZM-Nカラム(東ソ-社製)を用い、カラム温度40℃において、RI検出器を装備したGPC(東ソ-社製、HLC-8320GPC)で、展開溶媒にTHFを用いて流速0.35ml/分で測定したポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)である。
【0131】
(多分散度)
多分散度は、下記の式から求められる。
多分散度=質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)
【0132】
(酸価)
三角フラスコ中に試料、約1gを精密に量り採り、蒸留水/ジオキサン(重量比:蒸留水/ジオキサン=1/9)混合液50mlを加えて溶解する。上記試料溶液に対して、電位差測定装置(京都電子工業社製、装置名「電位差自動滴定装置AT-710M」)を用いて、0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液(力価F)で滴定を行い、滴定終点までに必要な水酸化カリウム・エタノール溶液の量(α(mL))を測定した。乾燥状態の分散剤の値として、酸価(mgKOH/g)を次式により求めた。
酸価(mgKOH/g)={(5.611×α×F)/S}/(不揮発分濃度/100)
ただし、S:試料の採取量(g)
α:0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の消費量(ml)
F:0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の力価
【0133】
分散剤の合成に使用した(メタ)アリルモノマーを表1-1、アミンを表1-2に示す。(メタ)アリルモノマーは、特開平01-000109号などの公知の合成方法に従って入手した。
モノマーM3およびM4は、一般式(1)で示されるアルキレンオキシ基を有するアリルエーテルモノマーである。
アミン1~10、16を用いると、マレイン酸アミド単位は、直鎖状または分岐鎖状の炭素原子数1~22のアルキル基である官能基を有する。アミン11~14を用いると、マレイン酸アミド単位は、環構造基である官能基を有する。アミン15を用いると、マレイン酸アミド単位は、アルキレンオキシ基である官能基を有する。
【0134】
【表1-1】
【0135】
【表1-2】
【0136】
JEFFAMINE:メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン Mw1000 PO/EOモル比=3/19
【0137】
<分散剤の製造>
(分散剤1の製造)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、1-ヘキセンを23.0部(35モル%)、無水マレイン酸を45.9部(60モル%)、(メタ)アリルモノマーとしてモノマーM4を31.1部(5モル%)、溶剤としてメチルエチルケトン100部を仕込み、窒素置換した後、130℃で加熱、撹拌した。そこへ、撹拌しながら、ラジカル重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.0部を2時間かけて滴下した。その後、温度を130℃に保ったままさらに1時間撹拌して反応させた。その後重合転化率が95~100%になったことを確認した後、続いて反応温度を60℃まで下げて、アミン9を88.1部(無水マレイン酸の仕込み量に対して0.75当量分)、水を2.0部(無水マレイン酸の仕込み量に対して0.25当量分)、触媒としてジアザビシクロウンデセンを0.01部加え、撹拌しながら80℃に加温し、4時間保持して反応を終了した。溶剤を減圧濃縮して完全に除去した。得られた分散剤の数平均分子量は5,400、酸価は165.3mgKOH/g、多分散度は2.3であった。その後、ジメチルアミノエタノールを、得られた分散剤の酸価から中和度が100%になるように加え、不揮発分が30%になるようにイオン交換水を加え、50℃にて1時間攪拌し、分散剤1を得た。
【0138】
(分散剤2~49の製造)
分散剤1の原料と仕込み量を表2-1~2-5に記載した通りに変更した以外は分散剤1と同様にして合成を行い、分散剤2~49を得た。なお、表2-1~2-5の配合量は、モル%である。
【0139】
【表2-1】
【0140】
【表2-2】
【0141】
【表2-3】
【0142】
【表2-4】
【0143】
【表2-5】
【0144】
<着色剤分散体の製造>
(着色剤分散体セット1の製造)
着色剤KとしてPrintex85(カーボンブラック、オリオンエンジニアドカーボンズ社製)を20部、分散剤1を20部、水60部を混合し、攪拌機でプレミキシングした後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、ブラックの着色剤分散体を得た。下記の顔料に変更した以外は同様の方法を用いることで、着色剤分散体セット1(K,C,M,Y)を得た。
着色剤Cとしてシアン:トーヨーカラー社製LIONOGEN BLUE FG-7358G(C.I.PigmentBlue15:3)
着色剤Mとしてマゼンタ:東京色材社製TOSHIKI RED150TR(C.I.ピグメントレッド150)
着色剤Cとしてイエロー:トーヨーカラー社製LIONOL YELLOW TT1405G(C.I.ピグメントイエロー14)
【0145】
(着色剤分散体セット2~49の製造例)
使用する分散剤を表3-1~3-2に従って変更した以外は、着色剤分散体セット1と同様の方法を用いることで、着色剤分散体セット2~49を得た。
【0146】
【表3-1】
【0147】
【表3-2】
【0148】
<インクジェットインキセットの製造>
(インクジェットインキセット1製造)
得られた着色剤分散体セット1のうちブラックの着色剤分散体を25.0部、プロピレングリコールを20.0部、1,2-ヘキサンジオールを5.0部、バインダー樹脂としてJoncryl780(アクリル樹脂)を10.0部、イオン交換水を38.9部、活性剤としてサーフィノールDF110D(エアープロダクツジャパン社製)を0.1部、BYK-349(BYK社製)を0.5部、pH調整剤としてトリエタノールアミンを0.5部、防腐剤としてプロキセルGXL(s)(アーチケミカル社製)混合し、ブラックのインクジェットインキを得た。着色剤分散体セット1のうち使用する着色剤分散体の色を変更した以外は同様の方法を用いることで、インクジェットインキセット1(K,C,M,Y)を得た。
【0149】
<インクジェットインキセット2~49の製造>
使用する着色剤分散体1を、着色剤分散体2~49に代えた以外は、インクジェットインキセット1と同様にして、インクジェットインキセット2~49を得た。
【0150】
<印刷物の製造>
(印刷物1の製造)
得られたインクジェットインキセット1をインクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、型番:EM-930C、ピエゾ方式)に装填し、上質紙(日本製紙社製NPiフォームNEXT-IJ、米坪64g/m)、およびコート紙(王子製紙社製OKトップコート、米坪104.7g/m)に、ブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ、それぞれで全面ベタ印刷(ファインモード)した。その後、25℃、相対湿度50%で24時間放置後、印刷物1を得た。
【0151】
<印刷物2~49の製造>
使用するインクジェットインキ2~49に変更した以外は、印刷物1と同様にして、印刷物2~49を得た。
【0152】
<実施例1~46、比較例1~3>
上記で製造した着色剤分散体、インクジェットインキ、印刷物について、以下に示す評価1~4を行った。
【0153】
<評価1:保存安定性評価>
得られた着色剤分散体セットに関して、ブラックの着色分散体を使用して、保存安定性の評価を下記の通り行った。着色剤分散体を70℃の恒温機に保存し、経時促進させた後、経時前後での着色剤分散体の粘度変化を評価した。粘度測定は、E型粘度計(東機産業社製TVE-20L、標準コーン)を用いて、25℃において回転数50rpmという条件で測定し、1分後の値を粘度値とした。評価基準は下記のとおりとした。評点2以上を実用可能領域とした。
5:四週間保存後の粘度変化率が±10%未満
4:二週間保存後の粘度変化率が±10%未満
3:一週間保存後の粘度変化率が±10%未満
2:一週間保存後の粘度変化率が±10~20%
1:一週間保存後の粘度変化率が±20%超
【0154】
<評価2:粗粒量評価>
得られた着色剤分散体セットに関して、ブラックの着色分散体を使用して、着色剤分散体中の粗粒量の評価を下記のように行った。具体的には定量の着色剤分散体の25mmφのガラスファイバー製フィルター(GF/BGEヘルスケアライフサイエンス社製)への通過時間で評価した。粗粒が多い場合はフィルターが目詰まりをおこし通過時間が長く観測される。またさらに粗粒が多い場合はフィルターが閉塞し着色剤分散体を全量ろ過することができない。一般にインクジェットヘッドへインキを供給する経路に使用されるフィルターは1μmより大きく、またインクジェット記録用インキの着色剤濃度は着色剤分散体に比べ低いものが一般的であり、本試験方法によりろ過を通過すれば十分といえるが、よりろ過速度が速い方が着色剤粒子の再溶解性や解砕性が高く、生産性に優れると言える。具体的な評価条件を以下に示す。コックを経由して減圧ポンプを付属したサクションベッセルに15mlの目盛のついたファンネルと25mmφのガラスファイバー製フィルター(GF/BGEヘルスケアライフサイエンス社製)をのせた直径25mmフィルターホルダー(ADVANTEC社製)をのせる。サクションベッセル内が減圧されないようにコックを使用して減圧ポンプを稼働する。着色剤分散体15gをファンネルにはかり取る。ポンプとサクションベッセルの開圧をスタートとし着色剤分散体全量がフィルターを通過する時間を計測する。この時のサクションベッセル内の圧力は0.05MPa~0.07Mpaである。評点2以上を実用可能領域とした。
5:30秒未満でろ過ができる
4:30秒以上45秒未満でろ過ができる
3:45秒以上60秒未満でろ過ができる
2:60秒以上90秒未満でろ過ができる
1:90秒未満でろ過できない
【0155】
<評価3:上質紙濃度評価>
得られたインクジェットインキをインクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、型番:EM-930C、ピエゾ方式)に装填し、上質紙(日本製紙社製NPiフォームNEXT-IJ、米坪64g/m)に、ブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ、それぞれでベタ100%画像を印刷した。印刷物を25℃、相対湿度50%で24時間放置後、得られた試験片をX-rite社製の濃度計、eXactAdvanceにて測色した。測色条件は、濃度基準にISOステータスT、視野角2°、光源D50である。印刷濃度は数値が大きい方が、印刷濃度がより高いことを意味する。評価基準は、下記のとおりとした。評点2以上を実用可能領域とした。
5:OD値K、C、M、Y各色において、比較例3の濃度に対して、0.3以上の範囲で高い
4:OD値K、C、M、Y各色において、比較例3の濃度に対して、0.2以上0.3未満の範囲で高い
3:OD値K、C、M、Y各色において、比較例3の濃度に対して、0.1以上0.2未満の範囲で高い
2:OD値K、C、M、Y各色において、比較例3の濃度に対して、0.1未満の範囲で高い
1:OD値K、C、M、Y各色において、比較例3の濃度以下である
【0156】
<評価4:コート紙濃度評価>
得られたインクジェットインキをインクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、型番:EM-930C、ピエゾ方式)に装填し、コート紙(王子製紙社製OKトップコート、米坪104.7g/m)に、ブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ、それぞれでベタ100%画像を印刷した。印刷物を25℃、相対湿度50%で24時間放置後、得られた試験片をX-rite社製の濃度計、eXactAdvanceにて測色した。測色条件は、濃度基準にISOステータスT、視野角2°、光源D50である。印刷濃度は数値が大きい方が、印刷濃度がより高いことを意味する。評価基準は、下記のとおりとした。評点2以上を実用可能領域とした。
5:OD値K、C、M、Y各色において、比較例3の濃度に対して、0.7以上の範囲で高い
4:OD値K、C、M、Y各色において、比較例3の濃度に対して、0.5以上0.7未満の範囲で高い
3:OD値K、C、M、Y各色において、比較例3の濃度に対して、0.2以上0.5未満の範囲で高い
2:OD値K、C、M、Y各色において、比較例3の濃度に対して、0.0超え0.2未満の範囲で高い
1:OD値K、C、M、Y各色において、比較例3の濃度以下である
【0157】
実施例及び比較例の評価結果を上記の表5に示す。
【0158】
【表5】
【0159】
表5の結果から、実施例1~46は、インク受容層を必要とせず、塗工紙と非塗工紙の双方で高い濃度の印刷が可能であり、良好な保存安定性を有するインクジェットインキを作製できる着色剤分散体が提供出来ることがわかる。
なお、比較例1は、特許文献4で開示された、酸価が本願規定外のものであり、比較例2は、特許文献5で開示された、マレイン酸単位がすべてマレイン酸アミド単位に変性されたものである。