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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20240820BHJP
   B60W 20/17 20160101ALI20240820BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F02D29/02 Z
B60W20/17
F02D45/00 362
F02D45/00 364A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021211241
(22)【出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2023095387
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】水野 匡
(72)【発明者】
【氏名】下里 裕也
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-180331(JP,A)
【文献】特開2010-138751(JP,A)
【文献】特開2013-067242(JP,A)
【文献】特開2015-098217(JP,A)
【文献】特開2015-131609(JP,A)
【文献】特開2019-182284(JP,A)
【文献】特開2021-062742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60W 20/17
F02D 29/00
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の制御装置であって、
処理回路と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置は、複数の動作ラインの情報を記憶しており、前記複数の動作ラインの各々は、前記内燃機関の複数の目標動作点からなるデータであり、前記複数の目標動作点の各々は、前記内燃機関における目標回転数と目標出力トルクとの組であり、
前記複数の動作ラインは、前記内燃機関の燃費を最適化するための燃費動作ラインと、前記内燃機関において、こもり音が一定限度を下回るようにするためのこもり音回避動作ラインとを含み、前記一定限度を上回る前記こもり音が発生する動作点領域が、こもり音領域であり、前記こもり音領域は、前記内燃機関の回転数が所定範囲内にあり、かつ、前記内燃機関の出力トルクが、前記内燃機関の回転数に応じて定まる出力トルク閾値以上となる領域であり、前記燃費動作ラインは、前記こもり音領域を通過する動作ラインである一方、前記こもり音回避動作ラインは、前記こもり音領域を通過しないように、前記目標出力トルクを前記燃費動作ラインと比較して低く設定した動作ラインであり、
前記処理回路は、
前記こもり音回避動作ラインに従って前記内燃機関を制御する第1処理と、
アクセル踏込量の単位時間当たりの変化量であるアクセル踏込変化速度に基づいて運転者が車両の速度を変化させようとしているか否かを判定する判定処理と、
前記運転者が前記車両の前記速度を変化させようとしていると判定してから所定期間の間は、前記燃費動作ラインに従って前記内燃機関を制御する第2処理と、
を実行するように構成されている、
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記処理回路は、
前記アクセル踏込変化速度が加速閾値以上である場合、前記運転者が前記車両を加速させようとしていると判定する前記判定処理と、
前記運転者が前記車両を加速させようとしていると前記判定処理において判定してから前記所定期間の間は、前記燃費動作ラインに従って前記内燃機関を制御する前記第2処理と、
を実行するように構成されている、
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記処理回路は、
前記アクセル踏込変化速度が減速閾値以下である場合、前記運転者が前記車両を減速させようとしていると判定する前記判定処理と、
前記運転者が前記車両を減速させようとしていると前記判定処理において判定してから前記所定期間の間は、前記燃費動作ラインに従って前記内燃機関を制御する前記第2処理と、
を実行するように構成されている、
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記目標回転数が第1回転数閾値以下の場合、前記燃費動作ラインの前記目標出力トルクは、前記こもり音回避動作ラインの前記目標出力トルクと一致し、
前記燃費動作ラインの前記目標出力トルクが前記こもり音回避動作ラインの前記目標出力トルクよりも大きくなるように、前記燃費動作ラインは、前記第1回転数閾値を境に前記こもり音回避動作ラインと乖離しており、
前記処理回路は、
前記判定処理において、前記アクセル踏込変化速度が第1加速閾値以上である場合に、前記運転者が前記車両を加速させようとしていると判定し、
前記判定処理において、前記目標回転数が前記第1回転数閾値未満である場合には、前記アクセル踏込変化速度が第2加速閾値以上である場合にも、前記運転者が前記車両を加速させようとしていると判定するように構成され、
前記第2加速閾値は、前記第1加速閾値よりも小さい、
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記目標回転数が第2回転数閾値以上の場合、前記燃費動作ラインの前記目標出力トルクは、前記こもり音回避動作ラインの前記目標出力トルクと一致し、
前記燃費動作ラインの前記目標出力トルクが前記こもり音回避動作ラインの前記目標出力トルクよりも大きくなるように、前記燃費動作ラインは、前記第2回転数閾値を境に前記こもり音回避動作ラインと乖離しており、
前記処理回路は、
前記判定処理において、前記アクセル踏込変化速度が第1減速閾値以下である場合に、前記運転者が前記車両を減速させようとしていると判定し、
前記判定処理において、前記目標回転数が前記第2回転数閾値よりも大きく、前記アクセル踏込変化速度が第2減速閾値以下である場合にも、前記運転者が前記車両を減速させようとしていると判定するように構成され、
前記第2減速閾値は、前記第1減速閾値よりも大きい、
請求項1又は4に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、内燃機関の制御装置を開示している。
内燃機関の回転数が所定範囲内にある場合、車室内において、こもり音と呼ばれる騒音が発生する場合がある。
【0003】
こもり音について説明する。複数の気筒を備えた内燃機関における燃焼の発生周期は、内燃機関の回転数に応じて変動する。ある周期で燃焼が行われていると、その燃焼によって生じる周期的な振動により、内燃機関から駆動輪までの動力伝達系の共振が発生する。こもり音とは、当該共振に起因した騒音である。
【0004】
内燃機関の出力トルクが大きいほど、こもり音は大きくなる。そのため、内燃機関の回転数が所定範囲内にある場合であっても、出力トルクを制限することにより、こもり音が一定限度を下回るようにできる。
【0005】
上記制御装置は、動作ラインに従い内燃機関を制御する。動作ラインは、内燃機関の複数の目標動作点からなるデータである。複数の目標動作点の各々は、内燃機関における目標回転数と目標出力トルクとの組である。制御装置は、回転数が目標回転数に一致するとともに、出力トルクの平均値が目標出力トルクに一致するように内燃機関を制御する。
【0006】
上記制御装置は、出力トルクの変動が大きい場合、出力トルクが大幅に制限された動作ラインを設定する。これにより、内燃機関の回転数が所定範囲内にある場合であっても、こもり音が一定限度を下回るようにできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-138751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記制御装置は、内燃機関の燃費を最適化するための燃費動作ラインを基準にして動作ラインを設定する。制御装置が燃費動作ラインに従い内燃機関を制御した場合、内燃機関の回転数の所定範囲において一定限度を上回るこもり音が発生する。
【0009】
上記制御装置は、内燃機関の回転数の所定範囲において燃費動作ラインよりも出力トルクが制限された動作ラインを設定する。よって、上記制御装置は、燃費向上の点で改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
本開示の一態様によれば、内燃機関の制御装置であって、処理回路と、記憶装置と、を備え、前記記憶装置は、複数の動作ラインの情報を記憶しており、前記複数の動作ラインの各々は、前記内燃機関の複数の目標動作点からなるデータであり、前記複数の目標動作点の各々は、前記内燃機関における目標回転数と目標出力トルクとの組であり、前記複数の動作ラインは、前記内燃機関の燃費を最適化するための燃費動作ラインと、前記内燃機関において、こもり音が一定限度を下回るようにするためのこもり音回避動作ラインとを含み、前記一定限度を上回る前記こもり音が発生する動作点領域が、こもり音領域であり、前記こもり音領域は、前記内燃機関の回転数が所定範囲内にあり、かつ、前記内燃機関の出力トルクが、前記内燃機関の回転数に応じて定まる出力トルク閾値以上となる領域であり、前記燃費動作ラインは、前記こもり音領域を通過する動作ラインである一方、前記こもり音回避動作ラインは、前記こもり音領域を通過しないように、前記目標出力トルクを前記燃費動作ラインと比較して低く設定した動作ラインであり、前記処理回路は、前記こもり音回避動作ラインに従って前記内燃機関を制御する第1処理と、アクセル踏込量の単位時間当たりの変化量であるアクセル踏込変化速度に基づいて運転者が車両の速度を変化させようとしているか否かを判定する判定処理と、前記運転者が前記車両の前記速度を変化させようとしていると判定してから所定期間の間は、前記燃費動作ラインに従って前記内燃機関を制御する第2処理と、を実行するように構成されている、内燃機関の制御装置が提供される。
【0011】
車両が加減速するときには動力伝達系の挙動が変化する。このため、車両が加減速するときには、動力伝達系の挙動が変化に伴う騒音が発生する。そのため、運転者が車両の速度を変化させようとしているとき、すなわち、自ら加減速の操作を実行したときには、運転者はこもり音が発生しても気にならない。上記構成では、処理回路は、運転者が車両の速度を変化させようとしていると判定したことに基づいて、所定期間は燃費動作ラインに従って内燃機関を制御する。すなわち、当該所定期間中は、こもり音領域内の目標動作点を使用することになっても、燃費動作ラインに従って内燃機関を制御する。処理回路は、所定期間の経過後は再びこもり音回避動作ラインに従って内燃機関を制御する。このため、常にこもり音回避動作ラインに従って内燃機関を制御する構成と比較して、燃費を向上できる。
【0012】
したがって、上記構成は、運転者がこもり音に対して不快感を持つことを抑制するとともに、燃費を向上できる。
上記内燃機関の制御装置において、前記処理回路は、前記アクセル踏込変化速度が加速閾値以上である場合、前記運転者が前記車両を加速させようとしていると判定する前記判定処理と、前記運転者が前記車両を加速させようとしていると前記判定処理において判定してから前記所定期間の間は、前記燃費動作ラインに従って前記内燃機関を制御する前記第2処理と、を実行するように構成されていてもよい。
【0013】
上記構成では、処理回路は、運転者が車両を加速させようとしていると判定してから所定期間は燃費動作ラインに従って内燃機関を制御する。処理回路は、所定期間の経過後は再びこもり音回避動作ラインに従って内燃機関を制御する。このため、常にこもり音回避動作ラインに従って内燃機関を制御する構成と比較して、燃費を向上できる。
【0014】
上記内燃機関の制御装置において、前記処理回路は、前記アクセル踏込変化速度が減速閾値以下である場合、前記運転者が前記車両を減速させようとしていると判定する前記判定処理と、前記運転者が前記車両を減速させようとしていると前記判定処理において判定してから前記所定期間の間は、前記燃費動作ラインに従って前記内燃機関を制御する前記第2処理と、を実行するように構成されていてもよい。
【0015】
上記構成では、処理回路は、運転者が車両を減速させようとしていると判定してから所定期間は燃費動作ラインに従って内燃機関を制御する。処理回路は、所定期間の経過後は再びこもり音回避動作ラインに従って内燃機関を制御する。このため、常にこもり音回避動作ラインに従って内燃機関を制御する構成と比較して、燃費を向上できる。
【0016】
上記内燃機関の制御装置において、前記目標回転数が第1回転数閾値以下の場合、前記燃費動作ラインの前記目標出力トルクは、前記こもり音回避動作ラインの前記目標出力トルクと一致し、前記燃費動作ラインの前記目標出力トルクが前記こもり音回避動作ラインの前記目標出力トルクよりも大きくなるように、前記燃費動作ラインは、前記第1回転数閾値を境に前記こもり音回避動作ラインと乖離しており、前記処理回路は、前記判定処理において、前記アクセル踏込変化速度が第1加速閾値以上である場合に、前記運転者が前記車両を加速させようとしていると判定し、前記判定処理において、前記目標回転数が前記第1回転数閾値未満である場合には、前記アクセル踏込変化速度が第2加速閾値以上である場合にも、前記運転者が前記車両を加速させようとしていると判定するように構成され、前記第2加速閾値は、前記第1加速閾値よりも小さくてもよい。
【0017】
目標回転数に拘わらず、処理回路が、アクセル踏込変化速度が第1加速閾値以上である場合に限り、運転者が車両を加速させようとしていると判定する比較例が考えられ得る。比較例では、アクセル踏込変化速度が第2加速閾値以上、かつ、第1加速閾値未満の場合、処理回路は、運転者が車両を加速させようとしていると判定することはない。
【0018】
比較例とは異なり、上記構成では、処理回路は、目標回転数が第1回転数閾値未満であり、アクセル踏込変化速度が第2加速閾値以上である場合にも、運転者が車両を加速させようとしていると判定する。係る場合、処理回路は、運転者が車両を加速させようとしていると判定してから所定期間の間は、燃費動作ラインに従って内燃機関を制御する。したがって、比較例よりも燃費動作ラインに従って内燃機関を制御する機会が多い。よって、燃費を向上できる。
【0019】
上記内燃機関の制御装置において、前記目標回転数が第2回転数閾値以上の場合、前記燃費動作ラインの前記目標出力トルクは、前記こもり音回避動作ラインの前記目標出力トルクと一致し、前記燃費動作ラインの前記目標出力トルクが前記こもり音回避動作ラインの前記目標出力トルクよりも大きくなるように、前記燃費動作ラインは、前記第2回転数閾値を境に前記こもり音回避動作ラインと乖離しており、前記処理回路は、前記判定処理において、前記アクセル踏込変化速度が第1減速閾値以下である場合に、前記運転者が前記車両を減速させようとしていると判定し、前記判定処理において、前記目標回転数が前記第2回転数閾値よりも大きく、前記アクセル踏込変化速度が第2減速閾値以下である場合にも、前記運転者が前記車両を減速させようとしていると判定するように構成され、前記第2減速閾値は、前記第1減速閾値よりも大きくてもよい。
【0020】
目標回転数に拘わらず、処理回路が、アクセル踏込変化速度が第1減速閾値以下である場合に限り、運転者が車両を減速させようとしていると判定する比較例が考えられ得る。比較例では、アクセル踏込変化速度が第2減速閾値以下、かつ、第1減速閾値よりも大きい場合、処理回路は、運転者が車両を減速させようとしていると判定することはない。
【0021】
比較例とは異なり、上記構成では、処理回路は、目標回転数が第2回転数閾値よりも大きく、アクセル踏込変化速度が第2減速閾値以下である場合に、運転者が車両を減速させようとしていると判定する。係る場合、処理回路は、運転者が車両を減速させようとしていると判定してから所定期間の間は、燃費動作ラインに従って内燃機関を制御する。したがって、比較例よりも燃費動作ラインに従って内燃機関を制御する機会が多い。よって、燃費を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係る内燃機関の制御装置が適用されるハイブリッド車両の概略図である。
図2】内燃機関の制御に用いられる燃費動作ライン及びこもり音回避動作ラインを示す図である。
図3】動作ラインに従った内燃機関の制御に係るフローチャートである。
図4】ハイブリッド車両の加速時における内燃機関の制御を示す図である。
図5】ハイブリッド車両の減速時における内燃機関の制御を示す図である。
図6】ハイブリッド車両の緩加速時における内燃機関の制御を示す図である。
図7】ハイブリッド車両の緩減速時における内燃機関の制御を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、一実施形態に係る内燃機関の制御装置について、図面を参照しつつ説明する。
<ハイブリッド車両10の構成>
一実施形態に係る内燃機関の制御装置が適用されるハイブリッド車両10を、図1を参照して説明する。
【0024】
図1に示すように、ハイブリッド車両10(以下、単に車両10と記載する)は、内燃機関11(以下、単にエンジン11と記載する)を備えている。また、車両10は、同車両10の駆動源となる発電機、及びエンジン11の動力を受けて発電する発電機の双方として機能する2つの発電電動機(第1発電電動機12、第2発電電動機13)を備えている。
【0025】
また、車両10には、サンギア14、プラネタリキャリア15、リングギア16の3つの回転要素を有した遊星ギア機構17が設けられている。遊星ギア機構17のプラネタリキャリア15には、トランスアクスルダンパ18を介してエンジン11が連結されており、同遊星ギア機構17のサンギア14には第1発電電動機12が連結されている。また、遊星ギア機構17のリングギア16には、カウンタドライブギア19が一体に設けられている。カウンタドライブギア19には、カウンタドリブンギア20が噛み合わされている。そして、第2発電電動機13は、このカウンタドリブンギア20に噛み合わされたリダクションギア21に連結されている。
【0026】
カウンタドリブンギア20には、ファイナルドライブギア22が一体回転可能に連結されており、そのファイナルドライブギア22には、ファイナルドリブンギア23が噛み合わされている。そして、ファイナルドリブンギア23には、差動機構24を介して、車輪25の駆動軸26が連結されている。
【0027】
第1発電電動機12及び第2発電電動機13は、パワーコントロールユニット27(以下、PCU27と記載する)を介してバッテリ28に電気的に接続されている。PCU27は、バッテリ28から第1発電電動機12及び第2発電電動機13への電力供給量、及び第1発電電動機12及び第2発電電動機13からバッテリ28への充電量を調整する。
【0028】
エンジン11は、混合気を燃焼する複数の気筒31と、各気筒31に流入する吸気が流れる吸気通路32と、各気筒31での燃焼により生じた排気が流れる排気通路33と、を備えている。吸気通路32には、同吸気通路32を流れる吸気の流量を調整するための弁であるスロットルバルブ34が設けられている。また、エンジン11には、吸気中に燃料を噴射する燃料噴射弁35と、燃料と吸気との混合気を火花放電により点火する点火プラグ36とが気筒別に設けられている。さらに、エンジン11の排気通路33には、排気中のパーティキュレートマター(PM)を捕集するフィルタ37が設けられている。フィルタ37を構成する多孔質材の表面には、捕集したPMの酸化反応を促進する酸化触媒が担持されている。
【0029】
車両10には、エンジン11を制御する電子制御装置であるエンジン制御装置38が搭載されている。また、車両10には、エンジン制御装置38及びPCU27を統括的に制御する車両制御装置39が搭載されている。すなわち、本実施形態では、内燃機関の制御装置は、エンジン制御装置38及び車両制御装置39に相当する。エンジン制御装置38及び車両制御装置39はそれぞれ、制御用のプログラムやデータが記憶された記憶装置、記憶装置に記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)、CPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM(Random Access Memory)を備えたコンピュータユニットして構成されている。記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)である。
【0030】
エンジン制御装置38には、エンジン11の吸入空気量GAを検出するエアフローメータ40の検出信号が入力されている。エンジン制御装置38には、エンジン11の回転角を検出するクランク角センサ41の検出信号が入力されている。エンジン制御装置38には、エンジン11の冷却水の温度(エンジン水温TW)を検出する水温センサ42の検出信号が入力されている。エンジン制御装置38には、フィルタ37に流入する排気の温度(排気温TE)を検出する排気温センサ43の検出信号が入力されている。エンジン制御装置38は、クランク角センサ41の検出結果に基づき、エンジン11の回転数(機関回転数NE)を演算する。また、エンジン制御装置38は、機関回転数NE、及び吸入空気量GAに基づき、エンジン負荷率KLを演算する。エンジン負荷率KLは、現在の機関回転数NEにおいてスロットルバルブ34を全開とした状態でエンジン11を定常運転したときのシリンダ流入空気量に対する、現在のシリンダ流入空気量の比率を表している。なお、シリンダ流入空気量は、吸気行程において各気筒31のそれぞれに流入する空気の量を表している。
【0031】
車両制御装置39には、バッテリ28の電流IB、電圧VB、及び温度TBが入力されている。そして、車両制御装置39は、これら電流IB、電圧VB、及び温度TBに基づき、バッテリ28の蓄電量SOC(SOC:State Of Charge)を演算している。また、車両制御装置39には、運転者のアクセルペダルの踏込量(アクセル踏込量ACCP)を検出するアクセルペダルセンサ44、車両10の速度(車速V)を検出する車速センサ45の検出信号が入力されている。そして、車両制御装置39は、アクセル踏込量ACCP及び車速Vに基づき車両10の駆動力の要求値である車両要求パワーを演算する。さらに、車両制御装置39は、車両要求パワー、及び蓄電量SOC等に基づき、要求エンジン出力、MG1要求トルク、及びMG2要求トルクをそれぞれ演算する。要求エンジン出力とは、エンジン出力の要求値である。MG1要求トルクとは、第1発電電動機12の力行/回生トルクの要求値である。MG2要求トルクとは、第2発電電動機13の力行/回生トルクの要求値である。そして、エンジン制御装置38が要求エンジン出力に応じてエンジン11の出力制御を行い、PCU27がMG1要求トルク及びMG2要求トルクに応じて第1発電電動機12及び第2発電電動機13のトルク制御を行うことで、車両10の走行制御が行われる。
【0032】
なお、車両制御装置39は、車両10の走行制御に際して、エンジン11を稼働した状態で走行するハイブリッド走行とエンジン11の稼働を停止した状態で走行する電動走行との切り替えを行っている。車両制御装置39は、アクセル踏込量ACCPや車速V、蓄電量SOC等に基づいてハイブリッド走行と電動走行との切り替えを自動的に行っている。車両制御装置39は、要求エンジン出力の値として、電動走行時には「0」を、ハイブリッド走行時には正の値をそれぞれ演算する。そして、エンジン制御装置38が、要求エンジン出力の値が正の値から「0」に切り替わったときにエンジン11の稼働を停止し、エンジン制御装置38が、要求エンジン出力の値が「0」から正の値に切り替わったときにエンジン11を始動する。これにより、ハイブリッド走行と電動走行とが切り替えられる。
【0033】
<動作ラインに従ったエンジン11の制御の概要>
記憶装置は、複数の動作ラインの情報を記憶している。複数の動作ラインの各々は、エンジン11の複数の目標動作点からなるデータであり、複数の目標動作点の各々は、エンジン11における目標回転数TRSと目標出力トルクTOTとの組である。
【0034】
上述したように、車両制御装置39は、車両要求パワー、及び蓄電量SOC等に基づき、エンジン出力の要求値である要求エンジン出力を演算する。そして、エンジン制御装置38が要求エンジン出力に応じてエンジン11の出力制御を行う。ここで、エンジン出力とは、機関回転数NEと、エンジン11の出力トルクOTとの積である。したがって、エンジン制御装置38は、要求エンジン出力を実現するように、機関回転数NEを目標回転数TRSに制御するとともに出力トルクOTを目標出力トルクTOTへと制御する。換言すると、エンジン制御装置38は、複数の動作ラインのいずれかに従い、エンジン11を制御する。エンジン制御装置38は、基本的には、後述のこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する第1処理を実行する。図3を参照して後述するように、エンジン制御装置38は、所定条件が満たされた場合、所定期間の間は、燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。そして、所定期間の経過後は、エンジン制御装置38は、再びこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する。
【0035】
<燃費動作ラインFELn及びこもり音回避動作ラインNVLn>
図2を参照して、燃費動作ラインFELn及びこもり音回避動作ラインNVLnを説明する。
【0036】
複数の動作ラインは、エンジン11の燃費を最適化するための燃費動作ラインFELnと、エンジン11において、こもり音が一定限度を下回るようにするためのこもり音回避動作ラインNVLnとを含む。一定限度を上回るこもり音が発生する動作点領域が、こもり音領域NRであり、こもり音領域NRは、機関回転数NEが所定範囲内にあり、かつ、エンジン11の出力トルクOTが、機関回転数NEに応じて定まる出力トルク閾値以上となる領域である。燃費動作ラインFELnは、こもり音領域NRを通過する動作ラインである一方、こもり音回避動作ラインNVLnは、こもり音領域NRを通過しないように、目標出力トルクTOTを燃費動作ラインFELnと比較して低く設定した動作ラインである。
【0037】
図2において実線で示すように、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1以下の場合、燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTは、こもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTと一致している。
【0038】
図2において実線で示すように、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1よりも大きい第2回転数閾値RTh2以上の場合、燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTは、こもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTと一致している。
【0039】
図2に示すように、こもり音領域NRは、機関回転数NEが第1回転数閾値RTh1以上第2回転数閾値RTh2以下の範囲内に存在する。
目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1よりも大きく、かつ、第2回転数閾値RTh2よりも小さい場合、破線で示す燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTは、実線で示すこもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTよりも大きい。換言すると、燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTがこもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTよりも大きくなるように、燃費動作ラインFELnは、第1回転数閾値RTh1を境にこもり音回避動作ラインNVLnと乖離している。燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTがこもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTよりも大きくなるように、燃費動作ラインFELnは、第2回転数閾値RTh2を境にこもり音回避動作ラインNVLnと乖離している。
【0040】
図2において、等パワーラインEPLnを一点鎖線で示す。等パワーラインEPLnとは、所与の要求エンジン出力を実現する複数の目標動作点の集まりである。等パワーラインEPLnとこもり音回避動作ラインNVLnとの交点、等パワーラインEPLnと燃費動作ラインFELnとの交点に着目すると次のことが言える。所与の要求エンジン出力を実現する際、こもり音回避動作ラインNVLnの目標回転数TRSは、燃費動作ラインFELnの目標回転数TRSよりも大きい。すなわち、こもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御した場合、燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御した場合よりも機関回転数NEが大きくなる。大きな機関回転数NEを実現することに伴い、燃料の消費が増大する。したがって、こもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御した場合、燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御した場合よりも燃費が悪い。
【0041】
<動作ラインに従ったエンジン11の制御>
図3を参照して、動作ラインに従ったエンジン11の制御を説明する。エンジン制御装置38は、図3に示す処理を繰り返し実行する。上述したように、エンジン制御装置38は、基本的には、こもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する第1処理を実行する。エンジン制御装置38は、所定条件が満たされた場合、所定期間の間は、燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する第2処理を実行する。所定条件が満たされるとは、ステップS300、ステップS304、又はステップS306において肯定判定されることを意味する。
【0042】
エンジン制御装置38は、ステップS300において、アクセル踏込変化速度ACCPRが第1加速閾値ATh1以上であるか又は第1減速閾値DTh1以下であるか判定する。ここで、アクセル踏込変化速度ACCPRとは、アクセル踏込量ACCPの単位時間当たりの変化量である。第1加速閾値ATh1は、運転者の加速意図を把握できるように設定されている。第1加速閾値ATh1は正の値である。第1減速閾値DTh1は、運転者の減速意図を把握できるように設定されている。第1減速閾値DTh1は負の値である。すなわち、エンジン制御装置38は、アクセル踏込変化速度ACCPRが第1加速閾値ATh1以上である場合に、運転者が車両10を加速させようとしていると判定する。さらに、エンジン制御装置38は、アクセル踏込変化速度ACCPRが第1減速閾値DTh1以下である場合に、運転者が車両10を減速させようとしていると判定する。
【0043】
エンジン制御装置38は、ステップS300において肯定判定する場合(ステップS300:YES)、ステップS302に進む。エンジン制御装置38は、ステップS302において、所定期間の間は、燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。
【0044】
エンジン制御装置38は、ステップS300において否定判定する場合(ステップS300:NO)、ステップS304に進む。
エンジン制御装置38は、ステップS304において、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1未満であり、かつ、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2加速閾値ATh2以上であるか否かを判定する。エンジン制御装置38は、ステップS304において肯定判定する場合(S304:YES)、ステップS302に進む。すなわち、エンジン制御装置38は、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1未満である場合には、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2加速閾値ATh2以上である場合にも、運転者が車両10を加速させようとしていると判定する。第2加速閾値ATh2は正の値であり、第1加速閾値ATh1よりも小さい。このため、ステップS304において肯定判定することは、車両10の緩加速を行う運転者の意図があると判定することを意味する。
【0045】
エンジン制御装置38は、ステップS304において否定判定する場合(S304:NO)、ステップS306に進む。
エンジン制御装置38は、ステップS306において目標回転数TRSが第2回転数閾値RTh2よりも大きく、かつ、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2減速閾値DTh2以下であるか否かを判定する。エンジン制御装置38は、ステップS306において肯定判定する場合(S306:YES)、ステップS302に進む。すなわち、エンジン制御装置38は、目標回転数TRSが第2回転数閾値RTh2よりも大きく、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2減速閾値DTh2以下である場合にも、運転者が車両10を減速させようとしていると判定する。第2減速閾値DTh2は、負の値であり、第1減速閾値DTh1よりも大きい。このため、ステップS306において肯定判定することは、車両10の緩減速を行う運転者の意図があると判定することを意味する。
【0046】
エンジン制御装置38は、ステップS302を完了する場合又はステップS306において否定判定する場合(S306:NO)、図3の今回の処理を終了する。
このように、ステップS300、ステップS304、又はステップS306を通じて、エンジン制御装置38は、判定処理を実行する。判定処理とは、アクセル踏込変化速度ACCPRに基づいて運転者が車速Vを変化させようとしているか否かを判定する処理である。そして、エンジン制御装置38は、運転者が車速Vを変化させようとしていると判定した場合、ステップS302に進む。ステップS302において、エンジン制御装置38は、第2処理を実行する。第2処理とは、運転者が車速Vを変化させようとしていると判定してから所定期間の間は、燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する処理である。
【0047】
<車両10の加速時におけるエンジン11の制御>
図4を参照して、車両10の加速時におけるエンジン11の制御を説明する。
ここでは、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1よりも大きく、第2回転数閾値RTh2よりも小さい状態から運転者がアクセルペダルを踏み込んで車両10を加速させる場合を例示する。図4に点50で示すように、アクセルペダルを踏み込む前の状態では、エンジン制御装置38は、こもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御している。
【0048】
次に、運転者がアクセル踏込量ACCPを増大させる。これにより、要求エンジン出力が増大する。図4には、こうして増大した要求エンジン出力に応じた等パワーラインEPLnを一点鎖線で示している。エンジン制御装置38は、アクセル踏込変化速度ACCPRが第1加速閾値ATh1以上である場合に、燃費動作ラインFELnを選択する。図4に示すように、エンジン制御装置38は、等パワーラインEPLnと、燃費動作ラインFELnの交点である点52を目標にしてエンジン11を制御する。すなわち、エンジン制御装置38は、所定期間の間は燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。所定期間中は、こもり音領域NR内の目標動作点が使用される。運転者は、自ら加速の操作を実行したので、こもり音が発生しても気にならない。
【0049】
所定期間の経過後は、図4に示すように、エンジン制御装置38は、等パワーラインEPLnと、こもり音回避動作ラインNVLnの交点である点54を目標にしてエンジン11を制御する。すなわち、所定期間の経過後は、エンジン制御装置38は、再びこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する。
【0050】
<車両10の減速時におけるエンジン11の制御>
図5を参照して、車両10の減速時におけるエンジン11の制御を説明する。
ここでは、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1よりも大きく、第2回転数閾値RTh2よりも小さい状態から運転者がアクセルペダルの踏み込みを緩めて車両10を減速させる場合を例示する。図5に点60で示すように、車両10を減速させる前の状態では、エンジン制御装置38は、こもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御している。
【0051】
次に、運転者がアクセル踏込量ACCPを減少させる。これにより、要求エンジン出力が減少する。図5には、こうして減少した要求エンジン出力に応じた等パワーラインEPLnを一点鎖線で示している。エンジン制御装置38は、アクセル踏込変化速度ACCPRが第1減速閾値DTh1以下である場合に、燃費動作ラインFELnを選択する。図5に示すように、エンジン制御装置38は、等パワーラインEPLnと、燃費動作ラインFELnの交点である点62を目標にしてエンジン11を制御する。すなわち、エンジン制御装置38は、所定期間の間は燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。所定期間中は、こもり音領域NR内の目標動作点が使用される。運転者は、自ら減速の操作を実行したので、こもり音が発生しても気にならない。
【0052】
所定期間の経過後は、図5に示すように、エンジン制御装置38は、等パワーラインEPLnと、こもり音回避動作ラインNVLnの交点である点64を目標にしてエンジン11を制御する。すなわち、所定期間の経過後は、エンジン制御装置38は、再びこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する。
【0053】
<車両10の緩加速時におけるエンジン11の制御>
図6を参照して、車両10の緩加速時におけるエンジン11の制御を説明する。
図6に示すように、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1以下においては、燃費動作ラインFELnは、こもり音回避動作ラインNVLnと一致している。
【0054】
ここでは、第1回転数閾値RTh1よりも小さい状態から運転者がアクセルペダルを踏み込んで車両10を加速させる場合を例示する。図6に点70で示すように、アクセルペダルを踏み込む前の状態では、エンジン制御装置38は、こもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御している。
【0055】
次に、運転者がアクセル踏込量ACCPを増大させる。これにより、要求エンジン出力が増大する。図6には、こうして増大した要求エンジン出力に応じた等パワーラインEPLnを一点鎖線で示している。
【0056】
エンジン制御装置38は、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1未満である場合には、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2加速閾値ATh2以上である場合にも、燃費動作ラインFELnを選択する。よって、図6に示すように、エンジン制御装置38は、等パワーラインEPLnと、燃費動作ラインFELnの交点である点72を目標にしてエンジン11を制御する。すなわち、エンジン制御装置38は、所定期間の間は燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。所定期間中は、こもり音領域NR内の目標動作点が使用される。運転者は、自ら加速の操作を実行したので、こもり音が発生しても気にならない。
【0057】
所定期間の経過後は、図6に示すように、エンジン制御装置38は、等パワーラインEPLnと、こもり音回避動作ラインNVLnの交点である点74を目標にしてエンジン11を制御する。すなわち、所定期間の経過後は、エンジン制御装置38は、再びこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する。
【0058】
このように、エンジン制御装置38は、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1未満である場合には、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2加速閾値ATh2以上である場合にも、運転者が車両10を加速させようとしていると判定する。第2加速閾値ATh2に基づいて、第1加速閾値ATh1に基づいて捉えることができない加速意図を把握することが可能となる。例えば、車両10が停止した状態から車両10を発進させる場合に、加速意図を把握することが可能となる。或いは、車両10の定速巡航中において、車速Vの調整のために加速を行う場合に、加速意図を把握することが可能となる。
【0059】
<車両10の緩減速時におけるエンジン11の制御>
図7を参照して、車両10の緩減速時におけるエンジン11の制御を説明する。
図7に示すように、目標回転数TRSが第2回転数閾値RTh2以上においては、燃費動作ラインFELnは、こもり音回避動作ラインNVLnと一致している。
【0060】
ここでは、目標回転数TRSが第2回転数閾値RTh2よりも大きい状態から運転者がアクセルペダルの踏み込みを緩めて車両10を減速させる場合を例示する。図7に点80で示すように、車両10を減速させる前の状態では、エンジン制御装置38は、こもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御している。
【0061】
次に、運転者がアクセル踏込量ACCPを減少させる。これにより、要求エンジン出力が減少する。図7には、こうして減少した要求エンジン出力に応じた等パワーラインEPLnを一点鎖線で示している。
【0062】
エンジン制御装置38は、目標回転数TRSが第2回転数閾値RTh2よりも大きい場合には、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2減速閾値DTh2以下である場合にも、燃費動作ラインFELnを選択する。よって、図7に示すように、エンジン制御装置38は、等パワーラインEPLnと、燃費動作ラインFELnの交点である点82を目標にしてエンジン11を制御する。すなわち、エンジン制御装置38は、所定期間の間は燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。所定期間中は、こもり音領域NR内の目標動作点が使用される。運転者は、自ら減速の操作を実行したので、こもり音が発生しても気にならない。
【0063】
所定期間の経過後は、図7に示すように、エンジン制御装置38は、等パワーラインEPLnと、こもり音回避動作ラインNVLnの交点である点84を目標にしてエンジン11を制御する。すなわち、所定期間の経過後は、エンジン制御装置38は、再びこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する。
【0064】
このように、エンジン制御装置38は、目標回転数TRSが第2回転数閾値RTh2よりも大きい場合には、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2減速閾値DTh2以下である場合にも、運転者が車両10を減速させようとしていると判定する。第2減速閾値DTh2に基づいて、第1減速閾値DTh1に基づいて捉えることができない減速意図を把握することが可能となる。
【0065】
<本実施形態の効果>
(1)車両10が加減速するときには動力伝達系の挙動が変化する。このため、車両10が加減速するときには、動力伝達系の挙動が変化に伴う騒音が発生する。そのため、運転者が車速Vを変化させようとしているとき、すなわち、自ら加減速の操作を実行したときには、運転者はこもり音が発生しても気にならない。上記構成では、エンジン制御装置38は、運転者が車速Vを変化させようとしていると判定したことに基づいて、所定期間は燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。すなわち、当該所定期間中は、こもり音領域NR内の目標動作点を使用することになっても、燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。エンジン制御装置38は、所定期間の経過後は再びこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する。このため、常にこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する構成と比較して、燃費を向上できる。
【0066】
したがって、上記構成は、運転者がこもり音に対して不快感を持つことを抑制するとともに、燃費を向上できる。
(2)上記構成では、エンジン制御装置38は、運転者が車両10を加速させようとしていると判定してから所定期間は燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。エンジン制御装置38は、所定期間の経過後は再びこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する。このため、常にこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する構成と比較して、燃費を向上できる。
【0067】
(3)上記構成では、エンジン制御装置38は、運転者が車両10を減速させようとしていると判定してから所定期間は燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。エンジン制御装置38は、所定期間の経過後は再びこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する。このため、常にこもり音回避動作ラインNVLnに従ってエンジン11を制御する構成と比較して、燃費を向上できる。
【0068】
(4)目標回転数TRSに拘わらず、エンジン制御装置38が、アクセル踏込変化速度ACCPRが第1加速閾値ATh1以上である場合に限り、運転者が車両10を加速させようとしていると判定する比較例が考えられ得る。比較例では、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2加速閾値ATh2以上、かつ、第1加速閾値ATh1未満の場合、エンジン制御装置38は、運転者が車両10を加速させようとしていると判定することはない。
【0069】
比較例とは異なり、上記構成では、エンジン制御装置38は、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1未満であり、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2加速閾値ATh2以上である場合にも、運転者が車両10を加速させようとしていると判定する。係る場合、エンジン制御装置38は、運転者が車両10を加速させようとしていると判定してから所定期間の間は、燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。したがって、比較例よりも燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する機会が多い。よって、燃費を向上できる。
【0070】
第1加速閾値ATh1及び第2加速閾値ATh2を設定した意義について次に説明する。
目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1よりも大きい場合、燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTは、こもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTよりも大きい。係る場合、目標動作点がこもり音回避動作ラインNVLnと燃費動作ラインFELnとの間であまりに頻繁に切り替わると、エンジン11の動作が不安定になる可能性がある。したがって、第1加速閾値ATh1は、エンジン11の動作の安定性を考慮して設定されている。
【0071】
機関回転数NEが第1回転数閾値RTh1未満になっている低回転域では、アクセルを緩やかに踏み込んで、車両10を緩やかに加速させる緩加速が行われやすい。上記比較例の場合には、第1加速閾値ATh1が大きすぎるため、こうした緩加速の場合には、運転者が車両10を加速させようとしていると判定できない。これに対して、上記構成においては、判定処理において、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1未満である場合には、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2加速閾値ATh2以上である場合にも、運転者が車両10を加速させようとしていると判定する。第2加速閾値ATh2に基づいて、第1加速閾値ATh1に基づいて捉えることができない加速意図を把握することが可能となる。上記構成を採用した場合には、所定期間の間に機関回転数NEが第1回転数閾値RTh1以下の回転数域から第1回転数閾値RTh1を超えて上昇していくような緩加速の場合に、燃費を向上できる。
【0072】
(5)目標回転数TRSに拘わらず、エンジン制御装置38が、アクセル踏込変化速度ACCPRが第1減速閾値DTh1以下である場合に限り、運転者が車両10を減速させようとしていると判定する比較例が考えられ得る。比較例では、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2減速閾値DTh2以下、かつ、第1減速閾値DTh1よりも大きい場合、エンジン制御装置38は、運転者が車両10を減速させようとしていると判定することはない。
【0073】
比較例とは異なり、上記構成では、エンジン制御装置38は、目標回転数TRSが第2回転数閾値RTh2よりも大きく、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2減速閾値DTh2以下である場合に、運転者が車両10を減速させようとしていると判定する。係る場合、エンジン制御装置38は、運転者が車両10を減速させようとしていると判定してから所定期間の間は、燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する。したがって、比較例よりも燃費動作ラインFELnに従ってエンジン11を制御する機会が多い。よって、燃費を向上できる。
【0074】
第1減速閾値DTh1及び第2減速閾値DTh2を設定した意義について次に説明する。
目標回転数TRSが第2回転数閾値RTh2よりも小さい場合、燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTは、こもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTよりも大きい。係る場合、目標動作点がこもり音回避動作ラインNVLnと燃費動作ラインFELnとの間であまりに頻繁に切り替わると、エンジン11の動作が不安定になる可能性がある。したがって、第1減速閾値DTh1は、エンジン11の動作の安定性を考慮して設定されている。
【0075】
機関回転数NEが第2回転数閾値RTh2よりも大きい高回転域は、高速走行中に使用される。こうした高回転域が使用されている高速走行中には、アクセルを緩やかに戻して、車両10を緩やかに減速させて速度調整する緩減速が行われることがある。上記比較例の場合には、第1減速閾値DTh1が小さすぎるため、こうした緩減速の場合には、運転者が車両10を減速させようとしていると判定出来ない。これに対して、上記構成においては、判定処理において、目標回転数TRSが第2回転数閾値RTh2よりも大きい場合には、アクセル踏込変化速度ACCPRが第2減速閾値DTh2以下である場合にも、運転者が車両10を減速させようとしていると判定する。第2減速閾値DTh2に基づいて、第1減速閾値DTh1に基づいて捉えることができない減速意図を把握することが可能となる。上記構成を採用した場合には、所定期間の間に機関回転数NEが第2回転数閾値RTh2以上の回転数域から第2回転数閾値RTh2を下回って低下していくような緩減速の場合に、燃費を向上できる。
【0076】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0077】
・上記実施形態では、一実施形態に係る内燃機関の制御装置は、エンジン11と第1発電電動機12と第2発電電動機13とを備えるハイブリッド車両10に適用されている。しかしながら、これは例示にすぎない。内燃機関の制御装置は、エンジン11のみを備える車両に適用されてもよい。
【0078】
・上記実施形態では、ステップS300、ステップS304、及びステップS306が実行される。ステップS300における、アクセル踏込変化速度ACCPRが第1加速閾値ATh1以上であるか判定する処理は、省略されてもよい。或いは、アクセル踏込変化速度ACCPRが第1減速閾値DTh1以下であるか判定する処理は、省略されてもよい。ステップS304は省略されてもよい。ステップS306は省略されてもよい。
【0079】
・上記実施形態では、目標回転数TRSが第2回転数閾値RTh2以上の場合、燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTは、こもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTと一致している。しかしながら、これは例示にすぎない。燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTは、こもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTよりも大きくてもよい。
【0080】
・上記実施形態では、目標回転数TRSが第1回転数閾値RTh1以下の場合、燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTは、こもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTと一致している。しかしながら、これは例示にすぎない。燃費動作ラインFELnの目標出力トルクTOTは、こもり音回避動作ラインNVLnの目標出力トルクTOTよりも大きくてもよい。
【0081】
・上記実施形態では、車両制御装置39、エンジン制御装置38、及びPCU27の各々は、CPUとROMとRAMとを備えて、ソフトウェア処理を実行する。しかしながら、これは例示に過ぎない。例えば、車両制御装置39は、上記実施形態において実行されるソフトウェア処理の少なくとも一部を処理する専用のハードウェア回路(例えばASIC等)を備えてもよい。すなわち、車両制御装置39は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)車両制御装置39は、プログラムに従って全ての処理を実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。すなわち、車両制御装置39は、ソフトウェア実行装置を備える。(b)車両制御装置39は、プログラムに従って処理の一部を実行する処理装置と、プログラム格納装置とを備える。さらに、車両制御装置39は、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路を備える。(c)車両制御装置39は、全ての処理を実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、ソフトウェア実行装置、及び/又は、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。エンジン制御装置38及びPCU27についても同様である。すなわち、上記処理は、ソフトウェア実行装置及び専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路(processing circuitry)によって実行され得る。処理回路に含まれるソフトウェア実行装置及び専用のハードウェア回路は複数であってもよい。プログラム格納装置すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【符号の説明】
【0082】
10…ハイブリッド車両(車両)
11…内燃機関(エンジン)
ACCP…アクセル踏込量
ACCPR…アクセル踏込変化速度
ATh1…第1加速閾値
ATh2…第2加速閾値
DTh1…第1減速閾値
DTh2…第2減速閾値
FELn…燃費動作ライン
NR…こもり音領域
NVLn…こもり音回避動作ライン
RTh1…第1回転数閾値
RTh2…第2回転数閾値
TOT…目標出力トルク
TRS…目標回転数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7