(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】移動中継局、移動通信システム、及び移動中継局の制御方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/155 20060101AFI20240820BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20240820BHJP
H04W 4/40 20180101ALI20240820BHJP
H04W 92/12 20090101ALI20240820BHJP
H04W 16/26 20090101ALI20240820BHJP
【FI】
H04B7/155
H04W16/28
H04W4/40
H04W92/12
H04W16/26
(21)【出願番号】P 2021574459
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2020039256
(87)【国際公開番号】W WO2021152931
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2020013566
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 幸一郎
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/100714(WO,A1)
【文献】特開2007-228509(JP,A)
【文献】特開2003-324381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/155
H04W 16/28
H04W 4/40
H04W 92/12
H04W 16/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される移動中継局であって、
車内と車外の双方で電波の送受信が可能なアンテナシステムと、
前記アンテナシステムの指向性を制御可能であり、下記の第1中継モードと第2中継モードとの切り替え機能を有する無線制御局と、を備え、
前記無線制御局は、
所定の制御情報に基づいて、前記第1及び第2中継モードをオン又はオフに切り替える移動中継局。
第1中継モード:車外の無線通信機と車内の無線通信機との間の通信を中継するモード
第2中継モード:車外の無線通信機と車外の他の無線通信機との間の通信を中継するモード
【請求項2】
前記制御情報には、前記車両の移動傾向が含まれ、
前記無線制御局は、
前記移動傾向が前記車両の走行を表す場合は、前記第1中継モードをオンにし、かつ、前記第2中継モードをオフにし、
前記移動傾向が前記車両の停止を表す場合は、前記第2中継モードをオンにする請求項1に記載の移動中継局。
【請求項3】
前記制御情報には、移動通信システムの上位装置が指定する前記無線制御局のアクセスモードが含まれ、
前記無線制御局は、
自局に指定された前記アクセスモードがCSGモードである場合は、前記第1中継モードをオンにし、かつ、前記第2中継モードをオフにし、
自局に指定された前記アクセスモードがnon-CSGモードである場合は、前記第2中継モードをオンにする請求項1又は請求項2に記載の移動中継局。
【請求項4】
前記上位装置は、
前記無線制御局が現在位置を含む所定範囲に滞在中であるか否かを表す指標である滞在指標に基づいて、前記無線制御局の前記アクセスモードの種別を判定し、
前記無線制御局の前記滞在指標が滞在中の場合は、前記無線制御局の前記アクセスモードをnon-CSGモードに指定し、
前記無線制御局の前記滞在指標が非滞在の場合は、前記無線制御局の前記アクセスモードをCSGモードに指定する請求項3に記載の移動中継局。
【請求項5】
前記上位装置は、
自局が移動中継局である旨の識別情報の受信を契機として、前記無線制御局に適用する前記アクセスモードを指定する請求項3又は請求項4に記載の移動中継局。
【請求項6】
前記制御情報には、前記車両の充電を契機として生成される切り替え指示が含まれ、
前記無線制御局は、
前記切り替え指示が入力された場合に、前記第1中継モードをオフにし、かつ、前記第2中継モードをオンにする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の移動中継局。
【請求項7】
前記無線制御局は、
建物における屋内への電波到達が容易である部分にビームを送出するように、前記アンテナシステムを制御する請求項6に記載の移動中継局。
【請求項8】
前記無線制御局は、
前記第2中継モードを実行する場合に、車外の周辺局から通知された受信電波の測定結果に基づいて、前記アンテナシステムに含まれる車外向けのアンテナ素子の送信電力値を調整する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の移動中継局。
【請求項9】
前記無線制御局は、更に、
前記アンテナシステムに含まれる車外向けのアンテナ素子のビーム送出方向に関係する送信パラメータを調整する請求項8に記載の移動中継局。
【請求項10】
上位装置と、
前記上位装置と通信する基地局と、
前記基地局と無線通信する車両に搭載された移動中継局と、を備える移動通信システムであって、
前記移動中継局は、
車内と車外の双方で電波の送受信が可能なアンテナシステムと、
前記アンテナシステムの指向性を制御可能であり、下記の第1中継モードと第2中継モードとの切り替え機能を有する無線制御局と、を有し、
前記無線制御局は、
所定の制御情報に基づいて、前記第1及び第2中継モードをオン又はオフに切り替える移動通信システム。
第1中継モード:車外の無線通信機と車内の無線通信機との間の通信を中継するモード
第2中継モード:車外の無線通信機と車外の他の無線通信機との間の通信を中継するモード
【請求項11】
車両に搭載される移動中継局の制御方法であって、
前記移動中継局は、
車内と車外の双方で電波の送受信が可能なアンテナシステムと、
前記アンテナシステムの指向性を制御可能であり、下記の第1中継モードと第2中継モードとの切り替え機能を有する無線制御局と、を有し、
前記無線制御局が、所定の制御情報を取得するステップと、
前記無線制御局が、取得した前記制御情報に基づいて、前記第1及び第2中継モードをオン又はオフに切り替えるステップと、を含む移動中継局の制御方法。
第1中継モード:車外の無線通信機と車内の無線通信機との間の通信を中継するモード
第2中継モード:車外の無線通信機と車外の他の無線通信機との間の通信を中継するモード
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動中継局、移動通信システム、及び移動中継局の制御方法に関する。
本出願は、2020年1月30日出願の日本出願第2020-013566号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムにおいて、車両などの移動体に搭載された移動中継局が実行する中継動作に関する技術が知られている(非特許文献1)。
この技術は、移動中継局が列車内のユーザ端末と基地局との通信を中継するために利用され(特許文献1及び2)、車両が列車である場合に好適な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-81435号公報
【文献】特開2017-92824号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】3GPP TR 36.836 v12.0.0
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る装置は、車両に搭載される移動中継局であって、車内と車外の双方で電波の送受信が可能なアンテナシステムと、前記アンテナシステムの指向性を制御可能であり、下記の第1中継モードと第2中継モードとの切り替え機能を有する無線制御局と、を備え、前記無線制御局は、所定の制御情報に基づいて、前記第1及び第2中継モードをオン又はオフに切り替える。
第1中継モード:車外の無線通信機と車内の無線通信機との間の通信を中継するモード
第2中継モード:車外の無線通信機と車外の他の無線通信機との間の通信を中継するモード
【0006】
本開示の一態様に係るシステムは、上位装置と、前記上位装置と通信する基地局と、前記基地局と無線通信する車両に搭載された移動中継局と、を備える移動通信システムであって、前記移動中継局は、車内と車外の双方で電波の送受信が可能なアンテナシステムと、前記アンテナシステムの指向性を制御可能であり、上記の第1中継モードと第2中継モードとの切り替え機能を有する無線制御局と、を有し、前記無線制御局は、所定の制御情報に基づいて、前記第1及び第2中継モードをオン又はオフに切り替える。
【0007】
本開示の一態様に係る方法は、車両に搭載される移動中継局の制御方法であって、前記移動中継局は、車内と車外の双方で電波の送受信が可能なアンテナシステムと、前記アンテナシステムの指向性を制御可能であり、上記の第1中継モードと第2中継モードとの切り替え機能を有する無線制御局と、を有し、前記無線制御局が、所定の制御情報を取得するステップと、前記無線制御局が、取得した前記制御情報に基づいて、前記第1及び第2中継モードをオン又はオフに切り替えるステップと、を含む。
【0008】
本発明は、上記のような特徴的な構成を備えるシステム及び装置として実現できるだけでなく、かかる特徴的な構成をコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現することができる。
また、本発明は、システム及び装置の一部又は全部を実現する半導体集積回路として実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、移動通信システムの全体構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、上位装置、基地局、及び移動中継局の内部構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、通信エリアの動的設定の動作手順を示すシーケンス図である。
【
図4】
図4は、設定情報の生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、中継パスによる通信が必要となる複数の通信ノードの位置関係の一例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、移動制御局同士の接続処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、移動制御局同士の接続処理の別例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、移動中継局を搭載した車両の利用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本開示が解決しようとする課題>
上記の従来技術では、例えば車両の走行状況などに基づいて、移動中継局による中継機能を車内向け及び車外向けのうちのいずれかに切り替えるなど、車両に搭載される移動中継局の中継動作を必要に応じて適切に変更することは想定されていない。
本開示は、かかる従来の問題点に鑑み、車両に搭載される移動中継局の中継動作を適切に変更できるようにすることを目的とする。
【0011】
<本開示の効果>
本開示によれば、車両に搭載される移動中継局の中継動作を適切に変更できる。
【0012】
<本発明の実施形態の概要>
以下、本発明の実施形態の概要を列記して説明する。
【0013】
(1) 本実施形態の移動中継局は、車両に搭載される移動中継局であって、車内と車外の双方で電波の送受信が可能なアンテナシステムと、前記アンテナシステムの指向性を制御可能であり、下記の第1中継モードと第2中継モードとの切り替え機能を有する無線制御局と、を備え、前記無線制御局は、所定の制御情報に基づいて、前記第1及び第2中継モードをオン又はオフに切り替える。
第1中継モード:車外の無線通信機と車内の無線通信機との間の通信を中継するモード
第2中継モード:車外の無線通信機と車外の他の無線通信機との間の通信を中継するモード
【0014】
本実施形態の移動中継局によれば、無線制御局が、所定の制御情報に基づいて、第1及び第2中継モードをオン又はオフに切り替えるので、車両に搭載される移動中継局の中継動作を適切に変更することができる。
【0015】
(2) 本実施形態の移動中継局において、前記制御情報には、前記車両の移動傾向が含まれ、前記無線制御局は、前記移動傾向が前記車両の走行を表す場合は、前記第1中継モードをオンにし、かつ、前記第2中継モードをオフにし、前記移動傾向が前記車両の停止を表す場合は、前記第2中継モードをオンにすることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、車両の走行中は、移動中継局が車内の無線通信機(例えばユーザ端末)のための中継局として機能し、車両の停止中は、移動中継局が車外の無線通信機(例えば他の車両の移動中継局)のための中継局として機能する。
このため、車両の走行状況に応じて、移動中継局による中継動作を適切に変更することができる。
【0017】
(3) 本実施形態の移動中継局において、前記制御情報には、移動通信システムの上位装置が指定する前記無線制御局のアクセスモードが含まれ、前記無線制御局は、自局に指定された前記アクセスモードがCSGモードである場合は、前記第1中継モードをオンにし、かつ、前記第2中継モードをオフにし、自局に指定された前記アクセスモードがnon-CSGモードである場合は、前記第2中継モードをオンにすることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、CSGモードに指定された移動中継局は、車内の無線通信機(例えばユーザ端末)のための中継局として機能し、non-CSGモードに指定された移動中継局は、車外の無線通信機(例えば他の車両の移動中継局)のための中継局として機能する。
このため、上位装置が指定するアクセスモードの種別に応じて、移動中継局による中継動作を適切に変更することができる。
【0019】
(4) 本実施形態の移動中継局において、前記上位装置は、前記無線制御局が現在位置を含む所定範囲に滞在中であるか否かを表す指標である滞在指標に基づいて、前記無線制御局の前記アクセスモードの種別を判定し、前記無線制御局の前記滞在指標が滞在中の場合は、前記無線制御局の前記アクセスモードをnon-CSGモードに指定し、前記無線制御局の前記滞在指標が非滞在の場合は、前記無線制御局の前記アクセスモードをCSGモードに指定することが好ましい。
【0020】
その理由は、滞在中の車両は、車外の無線通信機(例えば他の車両の移動中継局)のための中継局として機能することが好ましいからである。
また、非滞在の車両は、車内の無線通信機(例えばユーザ端末)のための中継局として機能することが好ましいからである。
【0021】
(5) 本実施形態の移動中継局において、前記上位装置は、自局が移動中継局である旨の識別情報の受信を契機として、前記無線制御局に適用する前記アクセスモードを指定することが好ましい。
このようにすれば、移動中継局以外の基地局などの通信ノードに、誤ってアクセスモードが指定されるのを未然に防止することができる。
【0022】
(6) 本実施形態の移動中継局において、前記制御情報には、前記車両の充電を契機として生成される切り替え指示が含まれ、前記無線制御局は、前記切り替え指示が入力された場合に、前記第1中継モードをオフにし、かつ、前記第2中継モードをオンにすることが好ましい。
このようにすれば、充電中の車両を、車外の無線通信機(例えば建物内のユーザ端末)のための専用の中継局として機能させることができる。
【0023】
(7) この場合、前記無線制御局は、建物における屋内への電波到達が容易である部分(例えば窓ガラス部分)にビームを送出するように、前記アンテナシステムを制御することが好ましい。
このようにすれば、移動中継局が建物内のユーザ端末と接続され易くなり、移動中継局を搭載した車両をカスタマ構内設備として利用できるようになる。
【0024】
(8) 本実施形態の移動中継局において、前記無線制御局は、前記第2中継モードを実行する場合に、車外の周辺局から通知された受信電波の測定結果に基づいて、前記アンテナシステムに含まれる車外向けのアンテナ素子の送信電力値を調整することが好ましい。
このようにすれば、既存の車外の周辺局への影響を適切に抑制できる通信エリアを設定することができる。
【0025】
(9) 本実施形態の移動通信システムにおいて、前記無線制御局は、更に、前記アンテナシステムに含まれる車外向けのアンテナ素子のビーム送出方向に関係する送信パラメータを調整することが好ましい。
このようにすれば、接続中の周辺局(ユーザ端末又は他の移動中継局)ごとに、ビーム送出方向を適切に調整することができる。
【0026】
(10) 本実施形態の移動通信システムは、上述の(1)~(9)に記載の移動中継局を備える移動通信システムである。
従って、本実施形態の移動通信システムは、上述の(1)~(9)に記載の移動中継局と同様の作用効果を奏する。
【0027】
(11) 本実施形態の制御方法は、上述の(1)~(9)に記載の移動中継局の制御方法である。
従って、本実施形態の制御方法は、上述の(1)~(9)に記載の移動中継局と同様の作用効果を奏する。
【0028】
<本発明の実施形態の詳細>
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の詳細を説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0029】
〔移動通信システムの全体構成〕
図1は、移動通信システムの全体構成の一例を示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態の移動通信システムは、上位装置1と、少なくとも1つの基地局2、移動中継局3、及びユーザ端末4とを備える。本実施形態において、移動通信システムの世代は特に限定されないが、ここでは第4世代以降(例えば第5世代)であるものとする。
【0030】
上位装置1は、上位ネットワーク5に含まれるサーバコンピュータよりなる。
上位ネットワーク5は、例えばコアネットワークよりなり、上位装置1は、例えばコアサーバよりなる。コアサーバは、MME(Mobility Management Entity)又はSSGW(Serving Gateway)などよりなる。上位ネットワーク5は、メトロネットワークであってもよい。この場合の上位装置1は、エッジサーバにより構成される。
【0031】
基地局2は、マクロセル基地局、マイクロセル基地局、又はピコセル基地局よりなる。基地局2は、交差点の交通信号機6などの所定の構造物に設置されている。基地局2は、無線制御局20と、アンテナシステム21とを備える。
アンテナシステム21は、例えばアクティブフェーズドアレイアンテナ、機械駆動式パラボラアンテナ、或いはそれらの組み合わせよりなる。本実施形態では、アンテナシステム21はアレイアンテナであるとする。従って、以下において、基地局2のアンテナシステム21を「アレイアンテナ21」ともいう。
【0032】
無線制御局20は、アンテナシステム21の指向性を制御可能である。無線制御局20は、例えば光回線などを介して上位装置1と接続される。なお、上位装置1と基地局2の間の通信経路には、一部又は全部に無線通信の通信経路が含まれていてもよい。
図1の例では、アンテナシステム21は、交通信号機6の信号灯器に設置されているが、他の構造物に設置されていてもよい。以下、構造物などに固定的に設置される基地局2の無線制御局20を、「固定制御局20」ともいう。
【0033】
移動中継局3は、車両7に搭載された無線通信機よりなる。
車両7には、小型自動車7Aや大型自動車(例えば路線バス)7Bなど、各種サイズの車両が含まれる。車両7の駆動方式は、エンジン駆動、電気モータ駆動、及びハイブリッド方式のいずれでもよい。車両7の運転方式は、搭乗者が加減速及びハンドル操舵などを行う通常運転、及びそれらの操作をソフトウェアが実行する自動運転のいずれでもよい。
【0034】
移動中継局3は、無線制御局30と、アンテナシステム31とを備える。
アンテナシステム21は、例えばアクティブフェーズドアレイアンテナ、機械駆動式パラボラアンテナ、或いはそれらの組み合わせよりなる。本実施形態では、アンテナシステム31はアレイアンテナであるとする。従って、以下において、移動中継局3のアンテナシステム31を「アレイアンテナ31」ともいう。
【0035】
無線制御局30は、アンテナシステム31の指向性を制御可能である。アンテナシステム31は、車内に設けられた1又は複数のアンテナ素子と、車外に設けられた複数のアンテナ素子とを有し、車内と車外の双方で電波の送受信が可能である。
図1の例では、アンテナシステム31は、車両7の天井部分に設置されているが、他の部分に設置されていてもよい。以下、車両7などに搭載される移動中継局3の無線制御局30を、「移動制御局30」ともいう。
【0036】
ユーザ端末4は、ユーザ8が携帯する通信端末よりなる。通信端末は、例えば、スマートフォン、携帯電話機、タブレット型パソコン、又はノート型パソコンなどの、移動通信に対応する通信インタフェースを搭載した通信端末よりなる。
ユーザ端末4を携帯するユーザ8には、例えば、道路や駐車場などの屋外、及び建物内や地下街などの屋内を徒歩で移動する人間が含まれる。ユーザ端末4を携帯するユーザ8は、車両7の搭乗者であってもよい。
【0037】
〔上位装置の内部構成〕
図2は、上位装置1、基地局2、及び移動中継局3の内部構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態の上位装置1は、筐体40に収容された制御部41、記憶部42、及び通信部43を備える。上位装置1の筐体40には、操作部44及び表示部45が接続される。
【0038】
制御部41、記憶部42及び通信部43は、筐体40内のバックプレーンに装着されている。操作部44及び表示部45は、バックプレーンの所定のコネクタにそれぞれ接続されている。制御部41は、CPU(Central Processing Unit)及びRAM(Random Access Memory)よりなるメインメモリを含む演算処理装置よりなる。
制御部41のCPUは、記憶部42にインストールされたコンピュータプログラムをメインメモリに読み出し、当該プログラムに従って各種の情報処理を行う。
【0039】
記憶部42は、HDD(Hard Disk Drive)及びSSD(Solid State Drive)のうちの少なくとも1つの不揮発性メモリよりなる記録媒体、及び、外付け又は内蔵型の光学ドライブのうちの少なくとも1つを含む補助記憶装置よりなる。
通信部43は、所定の通信プロトコルに則って外部装置との有線通信を行う通信カードよりなる。通信部43は、光回線などを介して基地局2に接続される。
【0040】
操作部44は、キーボード及びポインティングデバイスなどの入力機器よりなる。通信事業者のオペレータは、操作部44に対するコマンド入力やクリックなどの操作入力により、上位装置1の制御部41に所定の指令を送信することができる。
表示部45は、液晶モニタ又は有機ELパネルなどの表示装置よりなる。表示部45は、操作部44に対する操作入力を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)画面などを表示することができる。
【0041】
〔基地局の内部構成〕
図2に示すように、基地局2の無線制御局(固定制御局)20は、通信制御部22、記憶部23、及び有線通信部24を備える。
通信制御部22は、所定の通信線を介してアレイアンテナ21に接続される。有線通信部24は、所定の通信プロトコルに則って外部装置との有線通信を行う通信カードよりなる。有線通信部24は、光回線などを介して上位装置1に接続される。
【0042】
通信制御部22は、例えば、CPU及びRAMよりなるメインメモリを含む演算処理装置よりなる。通信制御部22のCPUは、記憶部23にインストールされたコンピュータプログラムをメインメモリに読み出し、当該プログラムに従って各種の情報処理を行う。
通信制御部22は、CPU以外に又はCPUに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの1又は複数の集積回路で構成することもできる。
【0043】
固定制御局20の通信制御部22は、アレイアンテナ21の指向性制御、及び送信パラメータの調整処理など、所定の移動通信規格に則った各種の通信制御を行う。
【0044】
〔移動中継局の内部構成〕
図2に示すように、移動中継局3の無線制御局(移動制御局)30は、通信制御部32、及び記憶部33を備える。
通信制御部32は所定の通信線を介してアレイアンテナ31に接続される。通信制御部32は、例えば、CPU及びRAMよりなるメインメモリを含む演算処理装置よりなる。
【0045】
通信制御部32のCPUは、記憶部33にインストールされたコンピュータプログラムをメインメモリに読み出し、当該プログラムに従って各種の情報処理を行う。
通信制御部32は、CPU以外に又はCPUに加えて、FPGA及びASICなどの1又は複数の集積回路で構成することもできる。
【0046】
移動制御局30の通信制御部32は、アレイアンテナ31の指向性制御、及び送信パラメータの調整処理など、所定の移動通信規格に則った各種の通信制御を行う。
移動制御局30の通信制御部32は、通信規格に則った通信制御の他、上位装置1から通知されたエリア設定情報を用いてアレイアンテナ31の通信エリアを設定する、通信エリアの設定処理(
図3のステップS5)などの制御も実行する。
【0047】
〔移動中継局の中継モードと通信エリア〕
本実施形態では、移動制御局30の通信制御部32が実行可能な中継モードには、次の2種類のモードが含まれる。
第1中継モード:車外の無線通信機(基地局2又は他の移動中継局3)と車内の無線通信機(ユーザ端末4)との間の通信を中継するモード
第2中継モード:車外の無線通信機(基地局2又は他の移動中継局3)と車外の他の無線通信機(他の移動中継局3又はユーザ端末4)と間の通信を中継するモード
【0048】
通信制御部32は、所定の制御情報の取得を契機として、上記の中継モードをそれぞれオン又はオフのいずれかに切り替えることができる。従って、移動制御局30による中継動作には、次の4種類が含まれる。
第1状態:第1中継モード=オン 第2中継モード=オン
第2状態:第1中継モード=オン 第2中継モード=オフ
第3状態:第1中継モード=オフ 第2中継モード=オン
第4状態:第1中継モード=オフ 第2中継モード=オフ
【0049】
第1中継モードの「オフ」とは、例えば、車内向けのアンテナ素子の送信動作を実質的に停止させることを意味する。第2中継モードの「オフ」とは、例えば、車外向けのアンテナ素子の送信動作を実質的に停止させることを意味する。
アンテナ素子の送信動作の実質的な停止は、例えば、当該アンテナ素子への電力供給の停止により実行できる。もっとも、すべてのアンテナ素子への電力供給を完全に停止する場合だけでなく、複数のアンテナ素子のうちの一部の電力供給を停止する場合や、各アンテナ素子への電力量を所定値以下に低減させる場合も、実質的な停止の概念に含まれる。
【0050】
移動制御局30は、例えば、自車両が道路を走行中であることを表す制御情報を取得した場合は、第1中継モードをオンとし第2中継モードをオフの状態(第2状態)に設定する。従って、車両7の走行中は、車両7の内部にのみ通信エリアが構築される。
移動制御局30は、例えば、自車両が所定時間以上にわたり停止する可能性が高いことを表す制御情報を取得した場合は、第1中継モードに加えて第2中継モードをオンに切り替える(第1状態)。
【0051】
第2中継モードをオンにする場合、移動制御局30は、光ビーコンのダウンリンク情報などに含まれる道路延伸方向、交通信号機6の位置情報、及び、車載カメラなどから特定される周辺車両の車高などに基づいて、車外への電波の送出方向を決定する。
移動中継局3が第2中継モードを実行すると、交差点で一時的に発生する見通し外エリアにも、カバレッジ(5Gの場合はFR2カバレッジ)を拡張できる。見通し外エリアは、例えば、大型自動車7Bなどにより基地局2の電波が回り込み難いエリアである。
【0052】
もっとも、基地局2や他の移動中継局3との干渉を考慮せずに、移動制御局30が車外の通信エリアを新たに設定すると、セル境界での通信品質が悪化する。
そこで、移動制御局30は、周辺局との干渉調停を実行しつつ、第2中継モードを実行する場合の車外の通信エリアを設定する(通信エリアの動的設定)。具体的には、移動制御局30は、ドナー局による干渉予測値情報、及び周辺局による受信電力の測定結果などに基づいて、車外に対する送信パラメータを調整する。
【0053】
なお、上記の通信エリアの設定処理は、車両7が交差点の近傍で停止した場合だけでなく、駐車場や道路脇などの所定場所に車両7が停止した場合に実行してもよい。
【0054】
〔通信エリアの動的設定の動作シーケンス〕
図3は、通信エリアの動的設定の動作手順を示すシーケンス図である。
図3において、移動制御局30Aは、第2中継モードを開始するために車外の通信エリアを新たに設定する移動制御局30である。移動制御局30Bは、通信エリアの動的設定が完了済みの移動制御局30である。また、固定制御局20と移動制御局30Bは、移動制御局30Aの近隣に位置する車外の周辺局であるとする。
【0055】
移動制御局30Aは、自車両の第2中継モードをオンに切り替える場合、エリア設定情報の生成要求を上位装置1に送信する(ステップS1)。
移動制御局30Aは、自局が移動中継局3である旨の識別情報を上記の生成要求に含める。従って、生成要求を受信した上位装置1は、送信元のノード種別が「移動制御局30」であることを察知する。
【0056】
移動制御局30Aから生成要求を受信した上位装置1は、設定情報の生成処理を実行する(ステップS2)。設定情報の生成処理は、電波干渉を伴わない通信エリアを設定するのに必要となる情報(以下、「エリア設定情報」という。)を生成する処理である。
エリア設定情報には、チャンネル品質の測定指示、調停対象となる無線制御局のノードIDと位置情報、ビームの送出角度などが含まれる。なお、設定情報の生成処理の詳細(
図4参照)については後述する。
【0057】
次に、上位装置1は、生成したエリア設定情報を移動制御局30Aに送信する(ステップS3)。移動制御局30A宛てに送信されるエリア設定情報には、接続許可のメッセージも含まれる。
また、上位装置1は、周辺局である移動制御局30Bと固定制御局20に干渉測定指示を送信する(ステップS4)。
【0058】
エリア設定情報を受信した移動制御局30Aは、取得したエリア設定情報を用いて、通信エリアの設定処理を実行する(ステップS5)。
通信エリアの設定処理は、移動制御局30Aが、自局のアレイアンテナ31に適用する通信エリアを設定する処理である。なお、通信エリアの設定処理の詳細については後述する。
【0059】
次に、移動制御局30Aは、周辺局との間でリファレンス信号に基づく受信強度の測定を相互に実行する(ステップS6,S7)。
具体的には、移動制御局30Aと移動制御局30Bは、リファレンス信号を交換し合って互いに受信強度を測定するとともに(ステップS6)、移動制御局30Aと固定制御局20も、リファレンス信号を交換し合って互いに受信強度を測定する(ステップS7)。
【0060】
次に、移動制御局30A、移動制御局30B、及び固定制御局20は、それぞれ、送信パラメータの調整処理を実行する(ステップS8~S10)。
送信パラメータの調整処理は、アレイアンテナ31によるビームの送出方向に関係する送信パラメータを調整する処理である。なお、送信パラメータの調整処理の詳細については後述する。
【0061】
移動制御局30Aは、送信パラメータの調整処理を完了すると、設定完了通知を上位装置1に送信する(ステップS11)。
設定完了通知を受信した上位装置1は、自装置で管理する動作中の制御局リストの更新処理を実行する(ステップS12)。具体的には、上位装置1は、設定完了通知の送信元の移動制御局30Aのアクセスモードが、後述のnon-CSGモードであることを条件として、当該移動制御局30AのノードIDを動作中の制御局リストに登録する。
【0062】
移動制御局30Aは、送信パラメータの調整処理を完了すると、ユーザ端末4との間でリファレンス信号に基づく受信強度の測定を実行し(ステップS13)、ユーザ端末4との無線通信を開始する。
【0063】
〔設定情報の生成処理(
図3のステップS2)〕
図4は、設定情報の生成処理の一例を示すフローチャートである。
図4に示すように、上位装置1の制御部41は、生成要求のメッセージを受信すると、当該メッセージに含まれるノード種別が「移動制御局」であるか否かを判定する(ステップST11)。
【0064】
上記の判定結果が否定的である場合は、制御部41は、処理を終了する。
上記の判定結果が肯定的である場合は、制御部41は、移動制御局30Aの周辺に位置する車外の無線制御局(周辺局)を特定する(ステップST12)。
この特定処理は、例えば、移動制御局30Aの現在位置を中心とする所定半径(例えば100m)の円内に含まれる車外の無線制御局を抽出する処理である。
【0065】
次に、制御部41は、移動制御局30Aの接続許可とエリア設定情報を生成し、生成した情報を含むメッセージを移動制御局30Aに送信する(ステップST13)。
また、制御部41は、干渉測定指示を含むメッセージを、周辺局である移動制御局30Aと固定制御局20に送信したあと(ステップST14)、処理を終了する。
【0066】
エリア設定情報には、移動制御局30Aが周辺局との干渉を回避可能な周波数や周波数帯域幅などの他、移動制御局30Aに適用するアクセスモードの種別が含まれる。アクセスモードの種別には、例えばCSGモードとnon-CSGモードが含まれる。
CSG(Closed Subscriber Group)モードは、車両7のユーザのみにアクセス権を与えるアクセスモードであり、non-CSGモードは、アクセス権を与えるユーザを限定しないアクセスモードである。
【0067】
上位装置1の制御部41は、移動制御局30Aの滞在指標に基づいて、移動制御局30Aに適用するアクセスモードの種別を決定する。
滞在指標は、例えば、移動制御局30Aが現在位置を含む所定周囲(例えば現在位置を中心とする半径10mの円内)に滞在中であるか否かを表す指標である。滞在指標の判定に用いる推定滞在時間は、例えば、移動中継局30Aの現在位置を含む所定エリアのインフラ情報(渋滞区間又は駐車場)ごとに予め定義される。
【0068】
制御部41は、移動制御局30Aの推定滞在時間が所定時間(例えば5分)以上である場合は、当該移動制御局30Aの滞在指標を「滞在中」と判定する。
この場合、制御部41は、滞在中と判定した移動制御局30Aのアクセスモードをnon-CSGモードに指定する。
【0069】
制御部41は、移動制御局30Aの推定滞在時間が所定時間(例えば5分)未満である場合は、当該移動制御局30Aの滞在指標を「非滞在」と判定する。
この場合、制御部41は、非滞在と判定した移動制御局30AのアクセスモードをCSGモードに指定する。
【0070】
〔通信エリアの設定処理(
図3のステップS5)〕
移動制御局30Aによる通信エリアの設定処理には、中継モードの切り替え処理と、車外電波の干渉調整処理とが含まれる。
中継モードの切り替え処理は、上位装置1から通知されたアクセスモードの種別に基づいて、どのアンテナ素子を動作させるかを決定することにより、第1及び第2中継モードのオン/オフを切り替える処理である。
【0071】
例えば、通知されたアクセスモードの種別が「CSGモード」の場合には、移動制御局30Aは、アレイアンテナ31の車内向けのアンテナ素子のみを動作させる。
すなわち、移動制御局30Aは、第1中継モードをオンにし、かつ、第2中継モードをオフにする(第2状態)。
【0072】
また、通知されたアクセスモードの種別が「non-CSGモード」の場合には、移動制御局30Aは、アレイアンテナ31の動作制約を設けない。
すなわち、移動制御局30Aは、第1中継モードをオンにし、かつ、第2中継モードをオンにする(第1状態)。なお、この場合、第1中継モードをオフにし、かつ、第2中継モードをオンにしてもよい(第3状態)。
【0073】
車外電波の干渉調整処理は、第2中継モードを実行する場合に、アレイアンテナ31に含まれる車外向けのアンテナ素子の送信電力値を調整する処理である。
具体的には、移動制御局30Aは、周辺局における被干渉情報、或いは、送信電力の増加指示/減少指示などをドナー局からのフィードバックにより受信する。そして、移動制御局30Aは、受信した情報に基づいて、アレイアンテナ31の送信電力値を初期値に対して所定のステップ幅で調整する。
【0074】
上位装置1から通知されたアクセスモードがCSGモードである場合は、第2中継モードがオフになるので、移動制御局30Aは、上記の干渉調整処理を実行しない。
車外電波の干渉調整処理は、移動制御局30Aが搭載された車両7の位置変動を契機として、再度実行してもよい。この場合、移動制御局30Aからのチャネル測定結果の通知を契機として、上位装置1が実行を指示すればよい。或いは、車両7の位置変動を契機として、移動制御局30Aが自発的に干渉調整処理を実行してもよい。
【0075】
〔送信パラメータの調整処理(
図3のステップS8~S10)〕
無線制御局30A,30B,20による送信パラメータの調整処理は、例えば、周辺局からのフィードバック情報に基づく送信電力の調整後に行われる、アレイアンテナ31に含まれる車外向けのアンテナ素子のビーム送出方向に関係する送信パラメータを調整する処理である。
【0076】
具体的には、無線制御局30A、30B,20は、接続端末の位置情報と自局の位置情報、及び正面方位情報などから算出される角度に基づいて、自局と接続すべきユーザ端末4が存在する方位を調整し、調整した方位に対してビームを送出するように、車外向けのアンテナ素子のビーム送出方向を制御する。
【0077】
また、無線制御局30A,30B,20は、自局のリファレンス信号を周辺局が一定品質以上で受信することにより、与干渉が過多と判定した場合には、自局と当該周辺局との間の相対的な位置関係から与干渉方位を算出し、算出した与干渉方位にビームを向けないように、車外向けのアンテナ素子のビーム送出方向を制御する。
【0078】
移動制御局30Aによる送信パラメータの調整処理(
図3のステップS8)の場合は、上記の調整処理の他に、中継モードの切り替え処理を実行してもよい。
例えば、移動制御局30Aは、車両7の移動傾向に基づいて、中継モードの切り替え処理を実行することにしてもよい。移動傾向は、例えば、過去の直近の所定時間(例えば1分)における車両7の走行速度データの移動平均値である。
【0079】
例えば、移動制御局30Aは、移動傾向が所定の閾値(例えば3km/h)以上の場合(走行中と推定される場合)は、アレイアンテナ31の車内向けのアンテナ素子のみを動作させる。
すなわち、移動制御局30Aは、第1中継モードをオンにし、かつ、第2中継モードをオフにする(第2状態)。
【0080】
また、移動制御局30Aは、移動傾向が所定の閾値(例えば3km/h)未満の場合(停止中と推定される場合)は、アレイアンテナ31の車内向け及び車外向けのアンテナ素子を動作させる。
すなわち、移動制御局30Aは、第1中継モードをオンにし、かつ、第2中継モードをオンにする(第1状態)。なお、この場合、第1中継モードをオフにし、かつ、第2中継モードをオンにしてもよい(第3状態)。
【0081】
移動制御局30Aは、上位装置1から滞在傾向が通知される場合には、当該滞在傾向に基づいて、中継モードの切り替え処理を実行してもよい。
具体的には、移動制御局30Aは、滞在傾向が非滞在である場合は、車内のみにビームを送出するようにアレイアンテナ31を制御し、滞在傾向が滞在である場合は、車外にもビームを送出するようにアレイアンテナ31を制御する。
【0082】
〔中継パスによる通信が必要な位置関係〕
図5は、中継パスPr1,Pr2による通信が必要となる複数の通信ノードN1~N3の位置関係の一例を示す説明図である。
図5に示すように、ここでは、通信ノードN1は、小型自動車7Aの移動制御局30であり、通信ノードN2は、大型自動車7Bの移動制御局30であり、通信ノードN3は、固定制御局20であるとする。
【0083】
小型自動車7Aは大型自動車7Bの後尾に近接しており、通信ノードN1及び通信ノードN3のアンテナ間距離が、通信ノードN2及び通信ノードN3のアンテナ間距離よりも大きい。
このため、通信ノードN1と通信ノードN3のアンテナ間を直線で結ぶ直接パスPdが大型自動車7Bにより遮られ、通信ノードN1と通信ノードN3が直接パスPdでは通信できない位置関係にある。
【0084】
交差点の流入路の上方には、反射板9が設置されている。反射板9は、図示しない支柱及び梁材により、所定高さ位置に水平状態で保持されている。
従って、通信ノードN2と通信ノードN1は、反射板9で反射するパスPr1で通信できる位置関係にある。また、通信ノードN2と通信ノードN3は、パスPr2で直接通信できる位置関係にある。
【0085】
図5に示すように、通信ノードN3が通信ノードN1と直接パスPrdで通信できない位置関係であっても、通信ノードN1と通信ノードN2が反射パスPr1で通信できるようになれば、通信ノードN1は中継パスPr1.Pr2を介して通信ノードN3と通信できるようになる。
従って、移動制御局30同士が自立的に接続可能となる処理が必要となる。以下、移動制御局30同士の接続処理の具体例を説明する。
【0086】
〔移動制御局同士の接続処理の一例〕
図6は、移動制御局30同士の接続処理の一例を示すフローチャートである。
図6の接続処理は、最もダウンリンク側にある末端の通信ノードN1(小型自動車7Aの移動制御局30)が実行する。
【0087】
図6に示すように、まず、通信ノードN1は、所定の通信ノードN3(固定制御局20)とのリンクを確立できるか否かを判定する(ステップST21)。
図5の例では、通信ノードN3が固定制御局20であるが、
図6の接続処理では、通信ノードN3は、固定制御局20及び移動制御局30のいずれであってもよい。
【0088】
ステップST21の判定処理は、例えば、自局から所定距離以上の通信ノードN3からの測定指示に基づくチャネル品質の測定結果が、所定の閾値以上であるか否かにより行われる。
具体的には、通信ノードN1は、チャンネル品質の測定結果が閾値以上であれば、リンクを確立可能と判定し、閾値未満であれば、リンクを確立不能と判定する。
【0089】
ステップST21の判定結果が肯定的である場合は、通信ノードN1は、処理を終了する。
ステップST21の判定結果が否定的である場合は、通信ノードN1は、更に、通信ノードN3を除いて、自局の周辺に接続可能な移動制御局30が存在するか否かを判定する(ステップST22)。
【0090】
ステップST22の判定処理は、例えば、上位装置1から通知された、リンク確立済みの移動制御局30の位置情報に基づいて行うことができる。
ステップST22の判定処理は、小型自動車7Aで撮影される画像データに基づいて行うこともできる。この場合、通信ノードN1は、画像データに含まれる大型自動車7Bが所定の車高以上であり、かつ、自局と通信ノードN3とを結ぶ方位の近傍に存在する場合に、大型自動車7Bの通信ノードN2を接続可能と判定すればよい。
【0091】
ステップST22の判定結果が否定的である場合は、通信ノードN1は、処理を終了する。
ステップST22の判定結果が肯定的である場合は、通信ノードN1は、検出した通信ノードN2とのリンク確立処理を実行する(ステップST23)。
【0092】
ステップST23のリンク確立処理は、通信ノードN1が通信ノードN2に接続リクエストを送信することを契機として実行される。ステップST23のリンク確立処理は、通信ノードN1が上位装置1に接続リクエストを送信し、上位装置1が通信ノードN2にリンク確立処理の開始を指示することにより、実行することもできる。
上記の手続を契機とするリンク確立処理は、例えば、3GPP NR Rel-16 IAB (3GPP TR 38.874 v16.0.0) に記載の「無線バックホール確立処理」に基づいて行うことができる。
【0093】
〔移動制御局同士の接続処理の別例〕
図7は、移動制御局30同士の接続処理の別例を示すフローチャートである。
図7の接続処理は、中継パスPr1,Pr2の途中にある中継を担う通信ノードN2(大型自動車7Bの移動制御局30)が実行する。
【0094】
図7に示すように、まず、通信ノードN2は、自局が周辺の無線制御局20,30と接続中であるかを判定する(ステップST31)。
上記の判定結果が否定的である場合は、通信ノードN2は、処理を終了する。
上記の判定結果が肯定的である場合は、通信ノードN2は、自局の周囲に他の移動制御局30が存在するか否かを判定する(ステップST32)。
【0095】
ステップST32の判定処理は、例えば、大型自動車7Bで撮影される画像データに基づいて行うことができる。この場合、通信ノードN2は、画像データに小型自動車7Aが含まれておれば、自局の周囲に更に他の移動制御局30が存在すると判定すればよい。
【0096】
ステップST32の判定処理は、自局への移動制御局30の接近を検知した場合に、自局における信号受信品質などの品質指標に基づいて判定してもよい。
この場合、通信ノードN2は、品質指標が所定の閾値以上である場合は、他の移動制御局30が存在すると判定し、所定の閾値未満である場合は、他の移動制御局30が存在しないと判定すればよい。なお、判定条件に、自局が搭載された大型自動車7Bの車高が所定値以上であることを含めてもよい。
【0097】
ステップST32の判定結果が否定的である場合は、通信ノードN2は、処理を終了する。
ステップST32の判定結果が肯定的である場合は、通信ノードN2は、存在を検出した移動制御局30に接続許可を送信する(ステップST33)。
【0098】
ステップST33の接続許可は、自局の周囲に存在する移動制御局30に対して、自身が接続可能な無線制御局であることを周知する方法により実行される。
例えば、通信ノードN2は、通信品質測定用のリファレンス信号の周期的な送信を開始してもよいし、自局が接続可能な移動制御局30であることを通知するメッセージを、上位装置1に送信することにしてもよい。
【0099】
次に、通信ノードN2は、接続許可に応答した移動制御局30(通信ノードN1)とのリンク確立処理を実行する(ステップST34)。リンク確立処理については、上述のステップST23と同様であるので、説明を省略する。
なお、
図7の接続処理において、ステップST32の判定処理を省略してもよい。すなわち、通信ノードN2は、他の移動制御局30が周囲に存在するか否かを確認することなく、接続許可を送信してもよい。
【0100】
〔カスタマ構内設備としての利用例〕
図8は、移動中継局3を搭載した車両7の利用例を示す説明図である。
図8の利用例では、移動中継局3を搭載した車両7が電気自動車7Cよりなり、電気自動車7Cがカスタマ構内設備(以下、「CPE」という。)として利用される。電気自動車7Cは、充電可能であればよく、駆動源が電動モータのみである自動車に限らず、ハイブリッド自動車であってもよい。
【0101】
図8に示すように、ユーザの家屋である建物10の敷地内に、充電スタンド11が設置されている。従って、ユーザ宅では、敷地内に駐車した電気自動車7Cに充電スタンド11の給電カプラを接続することにより、電気自動車7Cを充電することができる。
電気自動車7Cは、電源制御用のECU(Electronic Control Unit)12を有する。ECU12は、電動モータへの電力供給が停止されて給電カプラの接続を検出すると、中継モードの切り替え指示を移動制御局30に出力する。
【0102】
移動制御局30は、切り替え指示が入力されると、アレイアンテナ31の車内向けのアンテナ素子を停止させ、アレイアンテナ31の車外向けのアンテナ素子を動作させる。
すなわち、移動制御局30は、第1中継モードをオフにし、かつ、第2中継モードをオンにする(第3状態)。また、移動制御局30は、中継動作を第3状態とした上で、建物10の窓ガラス部分13に向けてビームを送出するように、アレイアンテナ31を制御する。
【0103】
具体的には、移動制御局30は、自局の位置情報と窓ガラス部分13の位置情報とに基づいて、自局から窓ガラス部分13までの方位を算出し、ビーム送出方向が算出された方位となるようにアレイアンテナ31の指向性を調整する。
窓ガラス部分13の位置情報は、例えば、移動制御局30に対する設定入力、充電スタンド11からの通知、或いは、上位装置1などのサーバからの通知などにより取得することができる。
【0104】
図8の利用例によれば、移動制御局30が、電気自動車7Cの充電中にアレイアンテナ31のビーム送出方向を窓ガラス部分13に向けるので、建物10内のユーザ端末4が通信ネットワークに繋がり易くなる。従って、移動中継局3を搭載した車両7を、建物10内のユーザ端末4との接続を確実にするためのCPEとして利用することができる。
なお、アレイアンテナ31のビーム送出方向は、屋内への電波到達が容易である部分に向ければよく、窓ガラス部分13に限定されない。
【0105】
〔その他の変形例〕
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の実施形態では、車両7が道路を走行する自動車の場合を例示したが、車両7は、所定の軌道に沿って走行する鉄道又はモノレールなどの列車であってもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 上位装置
2 基地局
3 移動中継局
4 ユーザ端末
5 上位ネットワーク
6 交通信号機
7 車両
7A 小型自動車
7B 大型自動車
7C 電気自動車
8 ユーザ
9 反射板
10 建物
11 充電スタンド
13 窓ガラス部分
20 無線制御局(固定制御局)
21 アンテナシステム(アレイアンテナ)
22 通信制御部
23 記憶部
24 有線通信部
30 無線制御局(移動制御局)
30A 無線制御局(移動制御局)
30B 無線制御局(移動制御局)
31 アンテナシステム(アレイアンテナ)
32 通信制御部
33 記憶部
40 筐体
41 制御部
42 記憶部
43 通信部
44 操作部
45 表示部
N1~N3 通信ノード