(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/06 20060101AFI20240820BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20240820BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F02D41/06
F02D41/34 100
F02D45/00 360A
(21)【出願番号】P 2022019430
(22)【出願日】2022-02-10
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】秋山 翔一
(72)【発明者】
【氏名】高木 登
(72)【発明者】
【氏名】金子 理人
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩和
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0172275(US,A1)
【文献】特開2021-105338(JP,A)
【文献】米国特許第09816454(US,B1)
【文献】特開2018-013043(JP,A)
【文献】特開2017-061872(JP,A)
【文献】特開昭62-099649(JP,A)
【文献】特開昭60-237132(JP,A)
【文献】特開2018-003603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁と、気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁とを備える内燃機関の制御装置であって、
機関始動時に燃料の増量補正制御を実施するとともに、
気筒内の暖機が完了したか否かを判定する判定処理と、
気筒内の暖機が完了したと判定される場合には、前記筒内噴射弁のみから燃料を噴射する筒内噴射モードを実行する処理と、
前記筒内噴射モードを実行する場合には、前記増量補正制御による燃料の増量補正量を前記筒内噴射モードを実行する前の増量補正量よりも少なくする減量処理と、を実行するように構成されて
おり、
前記増量補正制御では、時間経過とともに前記増量補正量を減少させていき、
前記減量処理では、前記筒内噴射モードを実行する前の場合よりも早く時間経過とともに前記増量補正量を減少させていくことで、前記増量補正量を前記筒内噴射モードを実行する前の増量補正量よりも少なくする
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関のピストンの温度を取得する処理を実行するとともに、
前記判定処理は、取得した前記ピストンの温度が既定の判定値以上である場合に気筒内の暖機が完了したと判定する処理を含む
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関のシリンダボアの壁面温度を取得する処理を実行するとともに、
前記判定処理は、取得した前記シリンダボアの壁面温度が既定の判定値以上である場合に気筒内の暖機が完了したと判定する処理を含む
請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
機関始動時にアイドル回転速度を増大させる処理を実行するとともに、
前記筒内噴射モードを実行する場合には、前記筒内噴射モードを実行する前と比べて前記アイドル回転速度の増大量の低下速度を速くする速度低下処理を実行する
請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記速度低下処理は、前記アイドル回転速度の増大を中止する処理である
請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の内燃機関は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁と、気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁とを備えている。機関始動時において内燃機関の冷却水温が低いときには吸気ポートの温度が低温になっている。上記内燃機関の制御装置は、吸気ポートの温度が低温になっている場合には増量補正制御を実施する。この増量補正制御は、吸気ポートに付着する燃料を補うためにポート噴射弁から噴射される燃料の量を増量する制御である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した増量補正制御を実行すると、噴射燃料が増量補正されるため、燃費が悪化する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する内燃機関の制御装置は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁と、気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁とを備える内燃機関の制御装置である。この制御装置は、機関始動時に燃料の増量補正制御を実施する。そして、制御装置は、気筒内の暖機が完了したか否かを判定する判定処理と、気筒内の暖機が完了したと判定される場合には、前記筒内噴射弁のみから燃料を噴射する筒内噴射モードを実行する処理と、前記筒内噴射モードを実行する場合には、前記増量補正制御による燃料の増量補正量を前記筒内噴射モードを実行する前の増量補正量よりも少なくする減量処理と、を実行するように構成されている。
【0006】
機関始動時において、気筒内の温度は、内燃機関の冷却水温に類似する吸気ポートの温度よりも早く上昇する。従って、気筒内の暖機は、吸気ポートの暖機よりも早期に完了する。気筒内の暖機が完了していれば、筒内噴射弁から噴射される燃料はピストンやシリンダボアに付着しても液膜化することなく速やかに気化する。そのため、液膜化した燃料から液滴が生じることで生成される粒子状物質の発生が抑えられる。また、筒内噴射弁のみから燃料を噴射する場合には、その噴射した燃料が吸気ポートに付着しにくい。そのため、ポート噴射弁から燃料を噴射する場合よりも、上記増量補正制御による燃料の増量補正量を少なくすることができる。
【0007】
そこで、同構成では、気筒内の暖機が完了したか否かを判定する。そして、気筒内の暖機が完了したと判定される場合には、筒内噴射弁のみから燃料を噴射する筒内噴射モードを実行する。そして、筒内噴射モードを実行する場合には、上記増量補正制御による燃料の増量補正量を、筒内噴射モードを実行する前の増量補正量よりも少なくする減量処理を実行するようにしている。従って、冷却水温に基づいて増量補正制御を実施する場合と比較して、より早期に燃料の増量補正量が少なくなる。そのため、機関始動時の燃費が向上するようになる。
【0008】
なお、同構成において、増量補正量を少なくする処理は、増量補正量を「0」にする処理を含む。
上記制御装置において、前記内燃機関のピストンの温度を取得する処理を実行する。そして、前記判定処理は、取得した前記ピストンの温度が既定の判定値以上である場合に気筒内の暖機が完了したと判定する処理を含んでもよい。
【0009】
上記制御装置において、前記内燃機関のシリンダボアの壁面温度を取得する処理を実行する。そして、前記判定処理は、取得した前記シリンダボアの壁面温度が既定の判定値以上である場合に気筒内の暖機が完了したと判定する処理を含んでもよい。
【0010】
上記制御装置において、機関始動時にアイドル回転速度を増大させる処理を実行する。そして、前記筒内噴射モードを実行する場合には、前記筒内噴射モードを実行する前と比べて前記アイドル回転速度の増大量の低下速度を速くする速度低下処理を実行してもよい。
【0011】
同構成によれば、筒内噴射モードを実行する場合には、速度低下処理が実行されることにより機関回転速度は速やかに低下する。機関回転速度が速やかに低下すると、単位時間当たりの燃料噴射回数が減少するため、これによっても機関始動時の燃費が向上するようになる。
【0012】
上記制御装置において、前記速度低下処理は、前記アイドル回転速度の増大を中止する処理でもよい。この場合には、速度低下処理による効果を最大限に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態における内燃機関の模式図である。
【
図2】同実施形態の制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図3】冷却水の流量と第3熱抵抗との関係を示すグラフである。
【
図4】当量比と燃料補正係数との関係を示すグラフである。
【
図5】アルコール濃度と低位発熱量との関係を示すグラフである。
【
図6】同実施形態の制御装置が実行する処理を示すブロック図である。
【
図7】第1補正係数と遅角割合との関係を示す図である。
【
図8】第2補正係数と進角割合との関係を示す図である。
【
図9】第3補正係数と筒内割合との関係を示す図である。
【
図10】機関回転速度及び冷却水の流量と合成熱抵抗との関係を示す図である。
【
図11】油圧と第4熱抵抗との関係を示す図である。
【
図12】同実施形態の制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図13】機関始動時における各値の推移を示すタイミングチャートである。
図13(A)はピストン温度及びポート壁温、
図13(B)は筒内噴射割合、
図13(C)は燃料の増量係数、
図13(D)は機関回転速度、それぞれの推移を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、内燃機関の制御装置の一実施形態について、
図1~
図13を参照して説明する。
<内燃機関の構成>
図1に示すように、内燃機関1のシリンダブロック2には、シリンダ4が設けられている。シリンダ4の内壁を以下ではシリンダボア4bという。シリンダ4内にはピストン5が設けられており、ピストン5は、コネクティングロッド6を介してクランクシャフト7に連結されている。
【0015】
また、シリンダブロック2には、ウォータポンプ60から供給される冷却水が流れるウォータジャケット70が形成されている。
シリンダブロック2の上部にはシリンダヘッド3が組み付けられている。シリンダ4においてピストン5の頂面とシリンダヘッド3との間には、燃焼室8が形成されている。また、シリンダヘッド3には、気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁35と、燃焼室8の混合気を火花点火する点火プラグ11とが、内燃機関1の気筒ごとに設けられている。
【0016】
また、シリンダヘッド3には、燃焼室8に吸気を導入する吸気ポート9や、燃焼室8から排気を排出する排気ポート10が設けられている。
吸気ポート9は、吸入空気量を調整するスロットルバルブ14が設けられた吸気通路20に接続されている。また、吸気ポート9には同吸気ポート9を開閉する吸気弁12が設けられている。また、シリンダヘッド3には、吸気ポート9内に燃料を噴射するポート噴射弁36が内燃機関1の気筒ごとに設けられている。
【0017】
排気ポート10には同排気ポート10を開閉する排気弁13が設けられている。排気ポート10は排気通路30に接続されている。排気通路30には、排気を浄化する触媒32が設けられている。この触媒32は、目標空燃比となるように混合気の空燃比が制御されることによって排気を浄化する。
【0018】
内燃機関1は、ピストン5に向けて潤滑油を噴射するオイルジェット80を備えている。
なお、内燃機関1の燃料としては、アルコール燃料のみ(アルコール燃料の割合が「100%」の燃料)、ガソリン燃料(アルコール燃料の割合が「0%」の燃料)のみ、そしてアルコール燃料とガソリン燃料とが混合された混合燃料が使用可能になっている。
【0019】
内燃機関1は、排気をEGRガスとして吸気通路20に再循環させるEGR通路50を備えている。EGR通路50は、吸気通路20におけるスロットルバルブ14よりも下流側の部分と排気通路30とを接続している。EGR通路50には、EGRバルブ51が設けられている。EGRバルブ51の開度制御によって、排気通路30から吸気通路20に流入するEGRガスの流量が調整される。
【0020】
<制御装置について>
制御装置100は、中央処理装置(以下、CPUという)110、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリ120などを備えている。そして、メモリ120に記憶されたプログラムをCPU110が実行することにより、各種の機関制御や処理を実行する。
【0021】
制御装置100には、各種のセンサが接続されている。例えば制御装置100には、クランクシャフト7の回転角を検出するクランク角センサ41、吸入空気量GAを検出するエアフロメータ44、内燃機関1において熱交換された後の冷却水の温度である冷却水温Twを検出する水温センサ45が接続されている。また、制御装置100には、触媒32よりも上流の排気通路30に設けられて空燃比AFを検出する空燃比センサ46、ウォータポンプ60の回転速度であるポンプ回転速度Npを検出するポンプ速度センサ47が接続されている。また、制御装置100には、オイルジェット80に供給される潤滑油の温度である油温Toを検出する油温センサ48や、オイルジェット80に供給される潤滑油の油圧Poを検出する油圧センサ49が接続されている。
【0022】
制御装置100は、クランク角センサ41の出力信号Scrに基づいて機関回転速度Neを演算する。また、制御装置100は、機関回転速度Ne及び吸入空気量GAに基づいて機関負荷率KLを演算する。機関負荷率KLは、現在の機関回転速度Neにおいてスロットルバルブを全開とした状態で内燃機関1を定常運転したときのシリンダ流入空気量に対する、現在のシリンダ流入空気量の比率を表している。なお、シリンダ流入空気量は、吸気行程において各気筒のそれぞれに流入する空気の量である。また、制御装置100は、ポンプ回転速度Npに基づいてウォータジャケット70を流れる冷却水の流量Vを演算する。
【0023】
<燃料の噴き分けについて>
制御装置100は、内燃機関1の各種制御のひとつとして、3種類の燃料噴射モードを機関運転状態に応じて切り替える処理を実行する。本実施形態で切り替えられる燃料噴射モードの1つは筒内噴射弁35のみから燃料が噴射される筒内噴射モードである。また、本実施形態で切り替えられる燃料噴射モードの1つはポート噴射弁36のみから燃料が噴射されるポート噴射モードである。そして、本実施形態で切り替えられる燃料噴射モードの1つは筒内噴射弁35とポート噴射弁36の両方から燃料が噴射されるデュアル噴射モードである。
【0024】
上述した燃料噴射モードの切り替えは、機関運転状態に基づいて設定される燃料噴射量Qのうちでポート噴射弁36から噴射させる燃料量の割合を示すポート噴射割合Rpfを種々変更することにより実行される。
【0025】
ポート噴射割合Rpfは、機関負荷率KLや機関回転速度Ne等の機関運転状態に基づき「0≦Rpf≦1」の範囲内で可変設定される。そして、燃料噴射量Qにポート噴射割合Rpfを乗算した値が、ポート噴射弁36から噴射する燃料量であるポート噴射量Qpfとして設定される。一方、「1」からポート噴射割合Rpfを減じた値が、燃料噴射量Qのうちで筒内噴射弁35から噴射させる燃料量の割合を示す筒内噴射割合Rdとして算出される(Rd=1-Rp)。そして、燃料噴射量Qに筒内噴射割合Rdを乗算した値が筒内噴射弁35から噴射する燃料量である筒内噴射量Qdとして設定される。
【0026】
<EGR制御について>
制御装置100は、内燃機関1の各種制御のひとつとして、吸気通路20に再循環させる排気であるEGRガス(外部EGRガス)についてその再循環量、つまりEGR量を調整するEGR制御を行う。このEGR制御において制御装置100は、EGR通路50を介して吸気通路20に流入するEGR量を調整するための指令値である目標EGR率EGpを機関回転速度Ne及び機関負荷率KLなどの機関運転状態に基づいて算出する。なお、EGR率とは、筒内充填ガス総量に対するEGR量の比率のことである。そして、制御装置100は、目標EGR率EGp及び吸入空気量GAなどに基づき、目標EGR率EGpを得ることのできるEGRバルブ51の目標開度EAtを算出する。そして、EGRバルブ51の開度が目標開度EAtとなるようにEGRバルブ51の開度を調整する。なお、本実施形態では、EGRバルブ51が最大限に開弁しているときのバルブ開度EAを「100%」とし、EGRバルブ51が完全に閉じた全閉状態のときのバルブ開度EAを「0%」としている。
【0027】
<空燃比フィードバック制御について>
制御装置100は、内燃機関1の各種制御のひとつとして、空燃比フィードバック制御を実施する。この空燃比フィードバック制御は、混合気の空燃比を目標空燃比AFt(例えば理論空燃比など)にするために、空燃比センサ46で検出される空燃比AFに基づいて上記燃料噴射量Qを補正する制御である。制御装置100は、空燃比AFと目標空燃比AFtとの偏差が縮小するように空燃比補正値FAFを算出する。具体的には、制御装置100は、目標空燃比AFtと空燃比AFとの偏差を入力とする比例要素と積分要素と微分要素との和を空燃比補正値FAFとして算出する。そして、上記燃料噴射量Qを空燃比補正値FAFで補正することにより、混合気の空燃比を目標空燃比AFtに収束させる。
【0028】
<アルコール濃度の推定について>
制御装置100は、燃料のアルコール濃度ADを推定する処理を実行する。すなわち、内燃機関1では、上述した空燃比フィードバック制御が行われる。ここで、燃料中のアルコール濃度が高くなるほど、目標空燃比AFtを得るために必要とされる空燃比補正値FAFの値はリッチ側に多くなる傾向がある。そこで、例えば本実施形態の制御装置100は、目標空燃比AFtを維持するために算出された空燃比補正値FAFに基づき、燃料中のアルコール濃度ADを推定する処理を実行する。この推定に際して、制御装置100は、空燃比補正値FAFの値がリッチ側に多いときほど、算出されるアルコール濃度ADがより高い値となるように当該アルコール濃度ADを演算する。ちなみに、アルコール濃度ADの推定を行う場合には、実際の空燃比AFと目標空燃比AFtとの乖離度合が十分に小さくなっており、かつそうした状態がある程度継続しているときに実施することにより、アルコール濃度ADの推定精度を高めることができる。
【0029】
なお、燃料のアルコール濃度ADは、他の態様で推定してもよい。また、例えば燃料の電気伝導度や静電容量等に基づいてアルコール濃度を検出するセンサなどを用いて直接検出してもよい。
【0030】
<ノッキング制御について>
制御装置100は、内燃機関1の各種制御のひとつとして、センサなどによってノッキングの発生が検出されると、ノッキングの発生が収まるまで点火時期を遅角させる、いわゆるノッキング制御を行う。このノッキング制御では、機関回転速度Ne及び機関負荷率KLに基づいて基本点火時期AOPbが算出される。基本点火時期AOPbは、ノッキングの発生を抑えることのできる最進角点火時期として算出される値である。なお、吸気通路20に流入するEGR量が多くなると混合気の燃焼が緩慢になるため、ノッキングは起きにくくなるものの、機関トルクが低下するようになる。そのため、上記目標EGR率EGpとして大きい値が設定されるときほど、基本点火時期AOPbはより進角側の時期となるように設定されることにより、機関トルクの低下が抑えられる。また、ノッキングの発生状況に応じてノッキング補正量KHが算出される。そして、ノッキング補正量KHの分だけ基本点火時期AOPbを遅角側の時期に変更した時期が最終的な点火時期AOPとして設定されることにより、ノッキングの発生状況に応じた点火時期のフィードバック制御が行われる。
【0031】
<機関始動時の燃料の増量補正制御について>
機関始動時において吸気ポート9の暖機が完了しておらず、吸気ポート9の壁面温度が低い場合には、ポート噴射弁36から噴射された燃料の一部が吸気ポート9の壁面に付着して液膜化する。また、機関始動時において筒内の暖機が完了しておらず、ピストン5の頂面温度やシリンダボア4bの壁面温度が低い場合には、筒内噴射弁35から噴射された燃料の一部がピストン5の頂面やシリンダボア4bの壁面に付着して液膜化する。こうした付着燃料が生じる場合には、燃料噴射弁から燃焼室8に供給される燃料が不足する。そこで、制御装置100は、機関始動時の燃料噴射に際して燃料の増量補正制御を行う。
【0032】
この燃料の増量補正制御は、以下のようにして実施される。すなわち、制御装置100は、機関始動を開始すると、所定の算出周期毎に燃料噴射量Qを算出する。そして、算出された燃料噴射量Qが噴射されるように各噴射弁35,36を制御する。このときに算出される燃料噴射量Qは、基本噴射量Qbに増量係数Kqを乗算した値である。
【0033】
基本噴射量Qbは、機関の始動要求が生じたときの冷却水温Twに基づいて算出される値であり、制御装置100は、冷却水温Twが低いときほど基本噴射量Qbの値が大きくなるように同基本噴射量Qbを算出する。
【0034】
増量係数Kqは、上述した付着燃料を補うために燃料噴射量を増量補正する係数であって「1」以上の値が設定される。増量係数Kqの初期値は、始動要求が生じたときの冷却水温Twに基づいて設定される。すなわち、始動要求が生じたときの冷却水温Twが低いほど増量係数Kqの初期値は大きくなるように当該初期値が設定される。そして、所定の算出周期毎に既定の減衰係数Kgが増量係数Kqに乗算されることにより増量係数Kqの更新が行われる。なお、減衰係数Kgは「0」よりも大きく「1」よりも小さい値である。従って、増量係数Kqの更新が行われるたびに当該増量係数Kqの値は小さくなる。そして、増量係数Kqの値が小さくなることにより、始動時の燃料噴射量Qは時間経過とともに減少していく。
【0035】
<機関始動時のアイドルアップ制御について>
制御装置100は、機関の始動要求が生じたときの冷却水温Twが既定の判定値よりも低く、内燃機関1の早期暖機を図る必要がある場合などには、内燃機関1のアイドル回転速度Neidを既定の回転速度にまで増大させる、いわゆるアイドルアップ制御を行う。
【0036】
このアイドルアップ制御は、例えば以下のようにして実施される。すなわち、制御装置100は、機関始動を開始すると、機関の始動要求が生じたときの冷却水温Twに基づいて目標アイドル回転速度Neidtを算出する。制御装置100は、始動要求が生じたときの冷却水温Twが低いほど目標アイドル回転速度Neidtの値が大きくなるように当該目標アイドル回転速度Neidtを算出する。そして、制御装置100は、所定の算出周期毎に目標回転速度Netを算出する。この目標回転速度Netは、目標アイドル回転速度Neidtにアイドルアップ係数Kupを乗算することにより算出される。
【0037】
基本噴射量Qbは、機関の始動要求が生じたときの冷却水温Twに基づいて算出される値であり、制御装置100は、冷却水温Twが低いときほど基本噴射量Qbの値が大きくなるように同基本噴射量Qbを算出する。
【0038】
アイドルアップ係数Kupは、目標アイドル回転速度Neidtの増大補正を行うための係数であり、「1」以上の値が設定される。このアイドルアップ係数Kupの初期値は、始動要求が生じたときの冷却水温Twに基づいて設定される。すなわち、始動要求が生じたときの冷却水温Twが低いほどアイドルアップ係数Kupの初期値は大きくなるように当該初期値が設定される。
【0039】
そして、所定の算出周期毎に、既定の減衰係数Kgupがアイドルアップ係数Kupに乗算されることによりアイドルアップ係数Kupの更新が行われる。なお、減衰係数Kgupは「0」よりも大きく「1」よりも小さい値である。こうしてアイドルアップ係数Kupの更新が行われるたびに同アイドルアップ係数Kupの値は小さくなる。従って、始動時の目標回転速度Netは時間経過とともに目標アイドル回転速度Neidtに向けて低下していく。
【0040】
<ボア温度の推定について>
制御装置100は、シリンダボア4bの壁面温度であるボア温度Tbを推定する処理を実行する。
【0041】
図2に、制御装置100が実行するボア温度の算出処理についてその手順を示す。制御装置100は、既定の演算周期毎に本処理を繰り返し実行する。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、ステップ番号を表現する。
【0042】
図2に示す処理を開始すると、制御装置100は、冷却水温Tw、流量V、目標空燃比AFt、吸入空気量GA、燃料噴射量Q、アルコール濃度ADをそれぞれ取得する(S100)。
【0043】
次に、制御装置100は、流量Vに基づいて第3熱抵抗Rwを算出する(S110)。第3熱抵抗Rwは、シリンダボア4bとウォータジャケット70内の冷却水との間における熱移動に関する熱抵抗である。
【0044】
本発明者は、第3熱抵抗Rwがウォータジャケット70を流れる冷却水の流量Vに相関することを見出した。そこで、本実施形態では、流量Vと第3熱抵抗Rwとの関係が第3熱抵抗マップデータとしてメモリ120に予め記憶されている。そして、制御装置100は、そのマップデータに基づいて第3熱抵抗Rwを算出する。
【0045】
図3に示すように、第3熱抵抗マップデータには、流量Vが多いほど、算出される第3熱抵抗Rwの値は小さくなるように当該第3熱抵抗Rwの値が設定されている。
次に、制御装置100は、目標空燃比AFt及び吸入空気量GA及び燃料噴射量Qに基づいて当量比ERを算出する(S120)。燃料噴射量Qは、空燃比フィードバック制御にて補正された最終的な燃料噴射量である。当量比ERは、現在の吸入空気量GAにおいて理論空燃比を得るために必要な燃料噴射量で上記燃料噴射量Qを除した値である。従って、目標空燃比AFtが理論空燃比よりも小さい場合には、当量比ERは「1」よりも小さい値になる。なお、理論空燃比を、空燃比の検出値である上記空燃比AFで除することにより当量比ERを算出してもよい。
【0046】
次に、制御装置100は、当量比ERに基づいて燃料補正係数Kfを算出する(S130)。一般に、燃料が燃焼したときの単位質量当たりの発熱量は混合気の空燃比に応じて変化する。そこで、理論空燃比の混合気が燃焼したときの単位質量当たりの発熱量を基準にして、空燃比の違いによる発熱量の差違を補正するために燃料噴射量Qに乗算される補正値として、制御装置100は上記燃料補正係数Kfを算出する。
【0047】
本実施形態では、当量比ERと燃料補正係数Kfとの関係がマップデータとしてメモリ120に予め記憶されている。そして、制御装置100は、そのマップデータに基づいて燃料補正係数Kfを算出する。
【0048】
図4に示すように、燃料補正係数Kfのマップデータには、当量比ERが「1」のときには、燃料補正係数Kfが「1」となるように値が設定されている。また、当量比ERが「1」よりも小さくなるにつれて、燃料補正係数Kfの値は徐々に「1」よりも小さい値となるように値が設定されている。また、当量比ERが「1」よりも大きくなるにつれて、燃料補正係数Kfの値は徐々に「1」よりも大きい値となるように値が設定されている。こうした燃料補正係数Kfによる燃料噴射量Qの補正により、当量比ERが「1」よりも小さい場合、つまり混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンである場合には、燃料の発熱量を算出する際の燃料量が燃料噴射量Qよりも少なくなる。一方、当量比ERが「1」よりも大きい場合、つまり混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチである場合には、燃料の発熱量を算出する際の燃料量が燃料噴射量Qよりも多くなる。
【0049】
次に、制御装置100は、アルコール濃度ADに基づいて燃料の低位発熱量LCを算出する(S140)。本実施形態では、アルコール濃度ADと低位発熱量LCとの関係がマップデータとしてメモリ120に予め記憶されている。そして、制御装置100は、そのマップデータに基づいて低位発熱量LCを算出する。
【0050】
図5に示すように、低位発熱量LCのマップデータには、アルコール濃度ADが高くなるにつれて算出される低位発熱量LCの値は小さくなるように当該低位発熱量LCの値が設定されている。
【0051】
次に、制御装置100は、内燃機関1の気筒内に供給された燃料が燃焼するときの単位時間当たりの発熱量Qburnを次式(1)に基づいて算出する(S150)。
Qburn=Ne・(Q・Kf)・LC・α…(1)
Ne:機関回転速度
Q:燃料噴射量
Kf:燃料補正係数
LC:低位発熱量
α:単位を調整するための定数
なお、式(1)の「Q・Kf」で得られる値は、上述したように、混合気の空燃比に応じて変化する燃料の単位質量当たりの発熱量を補正するために、発熱量の算出に際して燃料噴射量Qを補正した値である。
【0052】
次に、制御装置100は、熱流量Qwを算出する(S160)。熱流量Qwは、シリンダボア4bからウォータジャケット70の冷却水に移動する単位時間当たりの熱量である。制御装置100は、上記発熱量Qburnに係数Kaを乗算した値を熱流量Qwに代入する。係数Kaは、発熱量Qburnを上記熱流量Qwに変換するための適合値である。なお、本実施形態では係数Kaは固定値であるが、例えば機関運転状態に応じて変化する可変値としてもよい。
【0053】
次に、制御装置100は、流量Vに応じて算出される上記第3熱抵抗Rwと、燃料の発熱量から算出される上記熱流量Qwと、冷却水温Twとに基づき、次式(2)からボア温度Tbを算出する(S170)。
【0054】
Tb=Rw・Qw+Tw…(2)
Rw:第3熱抵抗
Qw:熱流量
Tw:冷却水温
そして、S170の処理を実行すると、制御装置100は、今回の演算周期における本処理の実行を終了する。
【0055】
<ピストン温度の推定について>
制御装置100は、ピストン5の頂面の温度であるピストン温度Tpを算出する処理を実行する。以下、そうした処理について
図6を参照しつつ説明する。
【0056】
図6に、メモリ120に記憶されたプログラムをCPU110が実行することによって実現される処理を示す。
<受熱量算出処理>
受熱量算出処理M20は、燃料の燃焼によってピストン5が受熱するときのピストン5の受熱量であるピストン受熱量Qpを算出する処理である。この受熱量算出処理M20において、制御装置100は、
図2に示したS150の処理にて算出された上記発熱量Qburnと受熱量補正係数Kとを取得する。受熱量補正係数Kは、後述の補正係数算出処理M30にて算出される値である。そして、制御装置100は、発熱量Qburnに受熱量補正係数Kを乗算した値をピストン受熱量Qpに代入する。
【0057】
<補正係数算出処理>
補正係数算出処理M30は、受熱量補正係数Kを算出する処理である。受熱量補正係数Kは、内燃機関1の気筒内に供給された燃料が燃焼するときの上記ピストン受熱量Qpを算出するために、上述した発熱量Qburnに乗算される値である。この補正係数算出処理M30において、制御装置100は、まず、基本補正係数Kbを算出する。本実施形態では、機関負荷率KLと基本補正係数Kbとの関係が基本補正係数マップデータとしてメモリ120に予め記憶されている。そして、制御装置100は、その基本補正係数マップデータ及び取得した機関負荷率KLに基づいて基本補正係数Kbを算出する。なお、基本補正係数Kbは、「0」よりも大きく、「1」以下の値である。また、基本的には、機関負荷率KLが大きいときには、小さいときに比して値が小さくなるように設定されている。なお、基本補正係数Kbは、ノッキング補正量KHが「0」、目標EGR率EGpが「0」、ポート噴射割合Rpfが「1」となっている機関運転状態を基準として適合された値である。
【0058】
本実施形態では、最適な基本補正係数Kbを算出するために、機関運転状態に応じて選択される3つの基本補正係数マップデータが用意されている。第1基本補正係数マップデータは、内燃機関1のアイドル運転に適合したマップデータである。第2基本補正係数マップデータは、内燃機関1の定常運転、つまりアイドル運転以外の運転に適合したマップデータである。第3基本補正係数マップデータは、内燃機関1において触媒32の急速暖機制御が実行されているときに適合したマップデータである。触媒32の急速暖機制御としては、例えば定常運転時において実施されない程度の大幅な点火時期遅角などが挙げられる。
【0059】
また、補正係数算出処理M30において、制御装置100は、第1補正係数K1及び第2補正係数K2及び第3補正係数K3をそれぞれ取得する。第1補正係数K1は、後述の第1補正係数算出処理M32にて算出される値である。第2補正係数K2は、後述の第2補正係数算出処理M34にて算出される値である。第3補正係数K3は、後述の第3補正係数算出処理M36にて算出される値である。そして、制御装置100は、基本補正係数Kb及び第1補正係数K1及び第2補正係数K2及び第3補正係数K3の乗算値を算出する。そして、その算出した値を受熱量補正係数Kに代入する(K=Kb・K1・K2・K3)。
【0060】
<第1補正係数算出処理>
第1補正係数算出処理M32は、取得した点火時期AOPに基づいて第1補正係数K1を算出する処理である。第1補正係数K1は、点火時期遅角による燃焼ガス温度の低下を発熱量Qburnに反映するための補正係数である。本実施形態では、点火時期AOPから求められる遅角割合REDと第1補正係数K1との関係が第1補正係数マップデータとしてメモリ120に予め記憶されている。そして、制御装置100は、その第1補正係数マップデータ及び遅角割合REDに基づいて第1補正係数K1を算出する。なお、第1補正係数K1は、「0」よりも大きく、「1」以下の値である。ただし、基本補正係数Kbを算出するマップデータとして、上記第1基本補正係数マップデータまたは上記第3基本補正係数マップデータのいずれかが選択される場合には、第1補正係数K1の値は「1」に設定される。つまり、第1補正係数K1による補正は行われない。
【0061】
遅角割合REDは、「点火遅角燃焼期間(CA)/MBT燃焼期間(CA)×100(%)」で定義される値である。点火遅角燃焼期間は、点火時期AOPにて混合気の点火が行われたときの混合気の燃焼期間をクランク角で表したものである。MBT燃焼期間は、MBTにて混合気の点火が行われたときの混合気の燃焼期間をクランク角で表したものである。従って、設定される点火時期AOPがMBTの場合、つまり点火時期の遅角量が「0」の場合、遅角割合REDは100%になる。そして、点火時期の遅角量が大きくなるに伴って混合気の燃焼開始時期は遅くなることから、点火遅角燃焼期間はMBT燃焼期間に比べて短くなる。従って、点火時期AOPが遅角側の値になるほど、遅角割合REDの値は小さくなる。なお、制御装置100は、点火時期AOPに基づいて点火遅角燃焼期間を算出する。また、制御装置100は、機関回転速度Neなどの機関運転状態に基づいてMBT燃焼期間を算出する。ちなみに、遅角割合REDを求めることにより、点火時期の遅角に関する値を無次元化している。そのため、内燃機関1と排気量が異なる内燃機関においても、第1補正係数マップデータを適用することができる。
【0062】
図7に示すように、上記第1補正係数マップデータには、遅角割合REDが「100%」のときには、第1補正係数K1が「1」となるように値が設定されている。そして、遅角割合REDが「100%」よりも小さくなるにつれて、第1補正係数K1の値は徐々に「1」よりも小さい値となるように設定されている。
【0063】
<第2補正係数算出処理>
第2補正係数算出処理M34は、取得した目標EGR率EGpに基づいて第2補正係数K2を算出する処理である。第2補正係数K2は、外部EGRによる燃焼ガス温度の低下を発熱量Qburnに反映するための補正係数である。本実施形態では、目標EGR率EGpから求められる進角割合ADDと第2補正係数K2との関係が第2補正係数マップデータとしてメモリ120に予め記憶されている。そして、制御装置100は、その第2補正係数マップデータ及び進角割合ADDに基づいて第2補正係数K2を算出する。なお、第2補正係数K2は、「0」よりも大きく、「1」以下の値である。ただし、基本補正係数Kbを算出するマップデータとして、上記第1基本補正係数マップデータまたは上記第3基本補正係数マップデータのいずれかが選択される場合には、第2補正係数K2の値は「1」に設定される。つまり、第2補正係数K2による補正は行われない。
【0064】
進角割合ADDは、「EGRガスの再循環を実施する場合のMBT燃焼期間(CA)/EGRガスの再循環を実施しない場合のMBT燃焼期間(CA)×100(%)」で定義される値である。MBT燃焼期間は、MBTにて混合気の点火が行われたときの混合気の燃焼期間をクランク角で表したものである。従って、EGRガスの再循環を実施しない場合、つまり目標EGR率EGpが「0%」の場合、進角割合ADDは100%になる。そして、目標EGR率EGpの値が大きくなるに伴ってMBTの時期は進角側に移行することから、「EGRガスの再循環を実施する場合のMBT燃焼期間」は、「EGRガスの再循環を実施しない場合のMBT燃焼期間」比べて進角側に長くなる。従って、目標EGR率EGpの値が大きくなるほど、進角割合ADDの値は「100%」を超えて大きくなる。なお、制御装置100は、目標EGR率EGpや機関回転速度Neなどの機関運転状態に基づいて進角割合ADDを算出する。ちなみに、進角割合ADDを求めることにより、外部EGRに関する値を無次元化している。そのため、内燃機関1と排気量が異なる内燃機関においても、第2補正係数マップデータを適用することができる。
【0065】
図8に示すように、上記第2補正係数マップデータには、進角割合ADDが「100%」のときには、第2補正係数K2が「1」となるように値が設定されている。そして、進角割合ADDが「100%」よりも大きくなるにつれて、第2補正係数K2の値は徐々に「1」よりも小さい値となるように設定されている。
【0066】
<第3補正係数算出処理>
第3補正係数算出処理M36は、取得した筒内噴射割合Rd及び燃料噴射量Q及び吸入空気量GAに基づいて第3補正係数K3を算出する処理である。第3補正係数K3は、筒内に噴射される燃料の気化潜熱による燃焼ガス温度の低下を発熱量Qburnに反映するための補正係数である。本実施形態では、筒内噴射割合Rd及び燃料噴射量Qから求められる筒内割合DDと第3補正係数K3との関係が第3補正係数マップデータとしてメモリ120に予め記憶されている。そして、制御装置100は、その第3補正係数マップデータ及び筒内割合DDに基づいて第3補正係数K3を算出する。なお、第3補正係数K3は、「0」よりも大きく「1」以下の値である。
【0067】
筒内割合DDは、「筒内噴射量(mg/st)/機関負荷率KLが100%の場合の理論燃料噴射量(mg/st)」で定義される値であり制御装置100が算出する。筒内噴射量は、筒内噴射割合Rdと燃料噴射量Qとの乗算値であり、制御装置100が算出する。また、理論燃料噴射量は、理論空燃比を得るために必要な燃料噴射量である。機関負荷率KLが100%の場合の理論燃料噴射量は、機関回転速度Neや予め定められたマップデータなどに基づき、制御装置100が算出する。従って、筒内噴射量が「0」の場合、つまり筒内噴射割合Rdが「0」であり、ポート噴射割合Rpfが「1」である場合には、筒内割合DDは0%になる。そして、筒内噴射割合Rdの値が大きくなるに伴って筒内噴射量は増加することから、筒内噴射割合Rdが大きくなるほど、筒内割合DDの値は大きくなる。ちなみに、筒内割合DDを求めることにより、筒内噴射量に関する値を無次元化している。そのため、内燃機関1と排気量が異なる内燃機関においても、第3補正係数マップデータを適用することができる。
【0068】
図9に示すように、上記第3補正係数マップデータには、筒内割合DDが「0%」のときには、第3補正係数K3が「1」となるように値が設定されている。そして、筒内割合DDが大きくなるにつれて、第3補正係数K3の値は徐々に「1」よりも小さい値となるように設定されている。
【0069】
<収束先ピストン温度算出処理>
収束先ピストン温度算出処理M40は、現状の熱収支状態におけるピストン温度Tpの収束先の温度である収束先ピストン温度Tpcを算出する処理である。この収束先ピストン温度算出処理M40において、制御装置100は、ピストン受熱量Qp、冷却水温Tw、オイルジェット80から噴射される潤滑油の温度であるジェット油温Tpj、合成熱抵抗Rcr、及び第4熱抵抗Rpjを取得する。なお、制御装置100は、ジェット油温Tpjを示す値として油温Toを取得する。また、合成熱抵抗Rcr、及び第4熱抵抗Rpjは、後述の熱抵抗算出処理M45にて算出される値である。
【0070】
そして、制御装置100は、オイルジェット80から潤滑油が噴射されている場合には、熱回路モデルに基づいて求められた次式(3)により収束先ピストン温度Tpcを算出する。また、制御装置100は、オイルジェット80から潤滑油が噴射されていない場合には、熱回路モデルに基づいて求められた次式(4)により収束先ピストン温度Tpcを算出する。
【0071】
【0072】
【0073】
<熱抵抗算出処理>
熱抵抗算出処理M45は、上記合成熱抵抗Rcr及び上記第4熱抵抗Rpjを算出する処理である。合成熱抵抗Rcrは、ピストン5とシリンダボア4bとの間における熱移動に関する熱抵抗である第2熱抵抗Rbと、シリンダボア4bとウォータジャケット70内の冷却水との間における熱移動に関する熱抵抗である上記第3熱抵抗Rwとの和である。第4熱抵抗Rpjは、オイルジェット80から噴射される潤滑油とピストン5との間における熱移動に関する熱抵抗である。
【0074】
ここで、機関回転速度Neが高くなるほど、ピストン5とシリンダボア4bとの摺動回数は多くなるため、ピストン5からシリンダボア4bに移動する熱量が増える。そのため、機関回転速度Neが高くなるほど第2熱抵抗Rbは小さくなる傾向がある。また、上述したように、ウォータジャケット70内を流れる冷却水の流量Vが多くなるほど、シリンダボア4bから冷却水に移動する熱量が増える。そのため、流量Vが多くなるほど第3熱抵抗Rwは小さくなる傾向がある。従って、機関回転速度Neが高くなるほど、あるいは冷却水の流量Vが多くなるほど、合成熱抵抗Rcrは小さくなる傾向がある。
【0075】
そこで、本実施形態では、機関回転速度Ne及び流量Vと合成熱抵抗Rcrとの関係が合成熱抵抗マップデータとしてメモリ120に予め記憶されている。そして、制御装置100は、機関回転速度Ne及び流量Vを取得する。そして、取得した機関回転速度Ne及び流量Vと合成熱抵抗マップデータとに基づいて合成熱抵抗Rcrを算出する。
【0076】
図10に示すように、上記合成熱抵抗マップデータには、機関回転速度Neが高いときほど合成熱抵抗Rcrの値が小さくなるように同合成熱抵抗Rcrの値が設定されている。また、上記合成熱抵抗マップデータには、流量Vが多いときほど合成熱抵抗Rcrの値が小さくなるように同合成熱抵抗Rcrの値が設定されている。
【0077】
また、油圧Poが高くなるほど、オイルジェット80からピストン5に供給される潤滑油の流量が多くなるため、ピストン5から潤滑油に移動する熱量が増える。そのため、油圧Poが高くなるほど第4熱抵抗Rpjは小さくなる傾向がある。
【0078】
そこで、本実施形態では、油圧Poと第4熱抵抗Rpjとの関係が第4熱抵抗マップデータとしてメモリ120に予め記憶されている。そして、制御装置100は、油圧Poを取得する。そして、取得した油圧Po及び流量Vと第4熱抵抗マップデータとに基づいて第4熱抵抗Rpjを算出する。なお、オイルジェット80からピストン5への潤滑油供給量が把握できる場合には、油圧Poに代えて潤滑油供給量に基づき、第4熱抵抗Rpjを算出してもよい。
【0079】
図11に示すように、上記第4熱抵抗マップデータには、油圧Poが高いときほど第4熱抵抗Rpjの値が小さくなるように同第4熱抵抗Rpjの値が設定されている。
<ピストン温度算出処理>
ピストン温度算出処理M50は、ピストン温度Tpを算出する処理である。このピストン温度算出処理M50において、制御装置100は、収束先ピストン温度Tpc及び第2熱抵抗Rbを取得する。第2熱抵抗Rbは、後述の第2熱抵抗算出処理M55にて算出される値である。
【0080】
ここで、ピストン温度Tpは、収束先ピストン温度Tpcの一次遅れとなっている。そこで、制御装置100は、収束先ピストン温度Tpcを一次遅れ処理する次式(5)に基づいてピストン温度Tpを算出する。
【0081】
【0082】
なお、式(5)における「Rpb」の値は、第1熱抵抗Rpと第2熱抵抗Rbの調和平均である。第1熱抵抗Rpは、燃焼ガスとピストン5との間における熱移動に関する熱抵抗であり、予め求められている既定値である。また、式(5)における「Cp」の値は、ピストン5の熱容量であり、予め求められている既定値である。
【0083】
<第2熱抵抗算出処理>
第2熱抵抗算出処理M55は、上記第2熱抵抗Rb、つまりピストン5とシリンダボア4bとの間における熱移動に関する熱抵抗を算出する処理である。上述したように、第2熱抵抗Rbは機関回転速度Neが高くなるほど小さくなる傾向がある。
【0084】
そこで、本実施形態では、機関回転速度Neと第2熱抵抗Rbとの関係が第2熱抵抗マップデータとしてメモリ120に予め記憶されている。第2熱抵抗マップデータには、機関回転速度Neが高いときほど第2熱抵抗Rbの値が小さくなるように同第2熱抵抗Rbの値が設定されている。そして、制御装置100は、機関回転速度Neを取得する。そして、制御装置100は、取得した機関回転速度Neと第2熱抵抗マップデータとに基づいて第2熱抵抗Rbを算出する。ちなみに、上述した合成熱抵抗マップデータを利用して第2熱抵抗Rbを算出してもよい。例えば流量Vを「0」としたときに機関回転速度Neに基づいて算出される合成熱抵抗Rcrの値を第2熱抵抗Rbの値に代入してもよい。
【0085】
<機関始動時の燃費向上のための制御について>
図12に、機関始動時の燃費を向上させるために制御装置100が実行する処理の手順を示す。制御装置100は、機関始動に際して冷却水温Twが既定の判定値TWref以上になり、内燃機関1の完全暖機が完了したと判定するまで、
図12に示す一連の処理を既定の周期毎に繰り返し実行する。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、ステップ番号を表現する。
【0086】
図12に示す処理を開始すると、制御装置100は、上記処理にて算出されたピストン温度Tp、上記処理にて算出されたボア温度Tb、及びポート壁温Tpoを取得する(S200)。ポート壁温Tpoは、吸気ポート9の壁面の温度である。このポート壁温Tpoは冷却水温Twに類似している。そのため、制御装置100は、冷却水温Twをポート壁温Tpoの代用値として取得する。
【0087】
次に、制御装置100は、吸気ポート9の暖機であるポート暖機が完了したか否かを判定する(S210)。S210の処理において、制御装置100は、ポート壁温Tpoが既定の判定値Tporef以上である場合に、ポート暖機が完了したと判定する。
【0088】
S210の処理にて、ポート暖機が完了していないと判定する場合(S210:NO)、制御装置100は、第1モードを選択する(S230)。
この第1モードが選択されると、機関始動中の燃料噴射モードとして、例えばデュアル噴射モードまたは筒内噴射モードのいずれかが機関回転速度Ne及び機関負荷率KLに基づいて選択される。
【0089】
S210の処理にて、ポート暖機が完了したと判定する場合(S210:YES)、制御装置100は、気筒内の暖機である筒内暖機が完了したか否かを判定する判定処理を実行する(S220)。S220の判定処理において、制御装置100は、ピストン温度Tpが既定の判定値Tpref以上である場合、あるいはボア温度Tbが既定の判定値Tbref以上である場合に、筒内暖機が完了したと判定する。
【0090】
S220の処理にて、筒内暖機が完了していないと判定する場合(S220:NO)、つまりピストン温度Tpが上記判定値Tpref未満、且つボア温度Tbが上記判定値Tbref未満である場合には、制御装置100は、第2モードを選択する(S240)。
【0091】
この第2モードが選択されると、機関始動中の燃料噴射モードとして、例えばポート噴射モードまたはデュアル噴射モードまたは筒内噴射モードのいずれかが機関回転速度Ne及び機関負荷率KLに基づいて選択される。
【0092】
S220の処理にて、筒内暖機が完了したと判定する場合(S220:YES)、制御装置100は、第3モードを選択する(S250)。
この第3モードが選択されると、機関始動中の燃料噴射モードとして、機関回転速度Ne及び機関負荷率KLによらず、筒内噴射モードが選択される。また、この第3モードを選択する場合、制御装置100は、減量処理及び速度低下処理を併せて実行する。
【0093】
上記減量処理は、増量補正制御による燃料の増量補正量を、筒内噴射モードを実行する前の増量補正量よりも少なくする処理である。より具体的には、第3モードが選択されているときの上記減衰係数Kgの値として、予め定められた既定の値Kgdを設定する処理を実行する。この既定の値Kgdは、第3モードが選択される前に設定されている上記減衰係数Kgの値よりも小さい値である。従って、増量係数Kqの更新が行われるたびに当該増量係数Kqの値はより早く小さくなる。そして、増量係数Kqの値がより早く小さくなることにより、始動時の燃料噴射量Qは時間経過とともにより早く減少していく。
【0094】
なお、こうした減量処理が実行されるときの燃料の増量補正量の減衰速度が、空燃比フィードバック制御による燃料噴射量の補正速度を超えてしまうと、空燃比が一時的にリーンとなることによりNOxの発生量が増えるおそれがある。従って、上述した減量処理による増量補正量の減衰速度が、空燃比フィードバック制御による燃料の補正速度を超えないように上記値Kgdは設定されている。
【0095】
上記速度低下処理は、筒内噴射モードを実行する前と比べてアイドル回転速度Neidの増大量の低下速度を速くする処理である。つまり、上述したアイドルアップ制御によって増大された機関回転速度Neをより速やかに低下させる処理である。本実施形態では、速度低下処理として、例えば上記アイドルアップ係数Kupの値を「1」に設定する処理を実行する。アイドルアップ係数Kupの値が「1」に設定されると、アイドル回転速度Neidの増大量は「0」となり、アイドル回転速度の増大はただちに中止される。そのため、機関回転速度Neは目標アイドル回転速度Neidtにまで速やかに低下する。
【0096】
そして、上記S230の処理、上記S240の処理、及び上記S250の処理のうちのいずれかの処理を実行すると、制御装置100は、今回の周期における本処理の実行を終了する。
【0097】
<作用>
本実施形態の作用を説明する。
図13に、機関始動時における各値の推移を示す。
図13(A)はピストン温度及びポート壁温の推移を示している。
図13(B)は筒内噴射割合の推移を示している。
図13(C)は燃料の増量係数の推移を示している。
図13(D)は機関回転速度の推移を示している。なお、
図13において実線L1で示す推移は、本実施形態における各値の推移を示す。また、
図13において二点鎖線L2で示す推移は、上述した第3モードによるポ筒内噴射モードを実施せずにポート噴射モードを実施した場合の各値の推移を示す。
【0098】
時刻t1において機関始動が開始されると、ポート壁温Tpo及びピストン温度Tpが上昇していく。
そして、ポート壁温Tpoが判定値Tporefに達するまでは、第1モードによる燃料噴射が実施される。
【0099】
また、時刻t1において機関始動が開始されると、燃料の増量補正制御が開始されることにより増量係数Kqの算出が行われて燃料噴射量は増量される。この増量係数Kqは時間経過とともに「1」に向かって徐々に小さくなっていく。
【0100】
また、時刻t1において機関始動が開始されると、アイドルアップ制御が開始されることにより機関回転速度Neは目標アイドル回転速度Neidtよりも高められる。高められた機関回転速度Neは、時間経過とともに目標アイドル回転速度Neidtに向かって徐々に低下していく。
【0101】
時刻t2において、ポート壁温Tpoが判定値Tporefに達することによりポート暖機が完了したと判定されると、第2モードによる燃料噴射が実施される。
時刻t3において、ピストン温度Tpが判定値Tprefに達することにより筒内暖機が完了したと判定されると、第3モードが選択されることにより筒内噴射モードが実施される。
【0102】
また、第3モードが選択されると、上記減量処理が実行される。減量処理が実行されると、二点鎖線L2に示すポート噴射モードを実施した場合の増量係数Kqの変化に比べて、増量係数Kqの値は早く小さくなる。増量係数Kqの値が早く小さくなることにより、燃料噴射量の増量補正量は時間経過とともにより早く減少していく。
【0103】
また、第3モードが選択されると、上記速度低下処理が実行される。速度低下処理が実行されると、二点鎖線L2に示すポート噴射モードを実施した場合の変化に比べて、機関回転速度Neは速やかに目標アイドル回転速度Neidtにまで低下する。
【0104】
<効果>
本実施形態の効果を説明する。
(1)機関始動時において、気筒内の温度は、内燃機関1の冷却水温Twに類似する吸気ポート9の温度よりも早く上昇する。従って、気筒内の暖機は、吸気ポート9の暖機よりも早期に完了する。気筒内の暖機が完了していれば、筒内噴射弁35から噴射される燃料はピストン5やシリンダボア4bに付着しても液膜化することなく速やかに気化する。そのため、液膜化した燃料から液滴が生じることで生成される粒子状物質の発生が抑えられる。また、筒内噴射弁35のみから燃料を噴射する場合には、その噴射した燃料が吸気ポート9に付着しにくい。そのため、ポート噴射弁36から燃料を噴射する場合よりも、増量補正制御による燃料の増量補正量を少なくすることができる。
【0105】
そこで、本実施形態では、ピストン温度Tpやボア温度Tbに基づいて気筒内の暖機が完了したか否かを判定する(
図12のS220)。そして、気筒内の暖機が完了したと判定される場合には(S220:YES)、
図12に示したS250の処理を実行する。このS250の処理が実行されると第3モードが選択される。第3モードが選択されると、制御装置100は、筒内噴射弁35のみから燃料を噴射する筒内噴射モードを実行する。そして、筒内噴射モードを実行する場合には、上記増量補正制御による燃料の増量補正量を、筒内噴射モードを実行する前の増量補正量よりも少なくする減量処理を実行する。従って、冷却水温Twに基づいて増量補正制御を実施する場合と比較して、より早期に燃料の増量補正量が少なくなる。そのため、機関始動時の燃費が向上するようになる。
【0106】
(2)第3モードを選択して筒内噴射モードを実行する場合には、上記の速度低下処理が実行されることにより機関回転速度Neは速やかに低下する。機関回転速度Neが速やかに低下すると、単位時間当たりの燃料噴射回数が減少するため、これによっても機関始動時の燃費が向上するようになる。
【0107】
(3)上記速度低下処理として、アイドル回転速度の増大を中止する処理が実行される。アイドル回転速度の増大が中止されると、アイドル回転速度の増大量はただちに「0」になる。従って、速度低下処理による上記の効果を最大限に得ることができる。
【0108】
(4)ボア温度Tbは、内燃機関1の気筒内に供給された燃料が燃焼するときの発熱量、シリンダ4を冷却する冷却水の温度、及びシリンダ4と冷却水との間の熱抵抗に相関する値である。ここで、本発明者は、その熱抵抗がウォータジャケット70を流れる冷却水の流量Vに相関することを見出した。そこで、本実施形態では、ウォータジャケット70を流れる冷却水の流量Vと、冷却水温Twと、燃料が燃焼するときの発熱量Qburnとに基づいてボア温度Tbを算出するようにしている。そのため、ボア温度Tbを精度よく算出することができる。そして、ボア温度Tbを精度よく算出することができるため、
図12に示したS220の処理における筒内暖機の完了判定に関する判定精度が向上するようになる。
【0109】
(5)発熱量Qburnの算出に際して、燃料噴射量Qを燃料補正係数Kfにて補正するようにしている。従って、混合気の空燃比に応じて変化する燃料の単位質量当たりの発熱量を考慮して発熱量Qburnが算出される。そのため、そうした燃料補正係数Kfによる補正を行わない場合と比較して、ボア温度Tbの推定精度が向上するようになる。
【0110】
(6)発熱量Qburnの算出に際して、燃料の低位発熱量LCを燃料のアルコール濃度ADに基づいて算出するようにしている。従って、アルコール濃度ADに応じて変化する低位発熱量を考慮して発熱量Qburnが算出される。そのため、そうしたアルコール濃度ADに応じた低位発熱量の算出を行わない場合と比較して、ボア温度Tbの推定精度が向上するようになる。
【0111】
(7)ピストン5の温度は、ピストン5の受熱量、ピストン5の温度に関与する熱抵抗、及び冷却水の温度に相関する。そこで、本実施形態では、ピストン受熱量Qp及び第1~第4熱抵抗及び冷却水温Twに基づいてピストン温度Tpを算出するようにしている。このようにして燃焼ガス温度を推定することなくピストン5の温度を算出することができるので、ピストン温度Tpの推定精度が向上するようになる。そして、ピストン温度Tpの推定精度が向上するため、
図12に示したS220の処理における筒内暖機の完了判定に関する判定精度が向上するようになる。
【0112】
(8)点火時期遅角による燃焼ガス温度の低下を上記発熱量Qburnに反映するために上記第1補正係数K1を算出するようにしている。そのため、そうした第1補正係数K1を算出しない場合と比較して、発熱量Qburnの算出精度が向上するようになる。そして発熱量Qburnの算出精度が向上することにより、ピストン温度Tpの推定精度がさらに向上するようになる。
【0113】
(9)外部EGRによる燃焼ガス温度の低下を発熱量Qburnに反映するために上記第2補正係数K2を算出するようにしている。そのため、そうした第2補正係数K2を算出しない場合と比較して、発熱量Qburnの算出精度が向上するようになる。そして発熱量Qburnの算出精度が向上することにより、ピストン温度Tpの推定精度がさらに向上するようになる。
【0114】
(10)筒内に噴射される燃料の気化潜熱による燃焼ガス温度の低下を発熱量Qburnに反映するために上記第3補正係数K3を算出するようにしている。そのため、そうした第3補正係数K3を算出しない場合と比較して、発熱量Qburnの算出精度が向上するようになる。そして発熱量Qburnの算出精度が向上することにより、ピストン温度Tpの推定精度がさらに向上するようになる。
【0115】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0116】
・上記減量処理として、増量係数Kqの値を「1」に変更する処理を実行してもよい。この場合には、第3モードが選択されると、燃料の増量補正量が「0」になるため、始動時における燃料の増量補正が速やかに中止される。従って、燃費が更に向上するようになる。
【0117】
・上記速度低下処理として、アイドルアップ係数Kupの値を「1」に設定することにより、アイドル回転速度の増大を中止するようにした。この他、アイドルアップ係数Kupに乗算される減衰係数Kgupの値を、予め定められた既定の値Kgupdに設定する処理を実行してもよい。この既定の値Kgupdとしては、第3モードが選択される前に設定されている減衰係数Kgupの値よりも小さい値を設定しておく。こうした減衰係数Kgupの変更によって、アイドルアップ係数Kupの更新が行われるたびに当該アイドルアップ係数Kupの値はより早く小さくなる。そして、アイドルアップ係数Kupの値がより早く小さくなることにより、アイドル回転速度の増大量の低下速度は速くなる。そのため、始動時の機関回転速度Neは時間経過とともにより早く低下していく。機関回転速度Neが時間経過とともにより早く低下していくと、単位時間当たりの燃料噴射回数が減少する。そのため、この変更例でも上記実施形態と同様に、機関始動時の燃費が向上するようになる。
【0118】
・上記速度低下処理の実行を省略してもよい。この場合でも、上記(2)以外の効果を得ることができる。
・ボア温度Tbやピストン温度Tpを他の態様で算出してもよい。
【0119】
・ボア温度Tb、ピストン温度Tp、ポート壁温Tpoのいずれかを実測して取得してもよい。また、ボア温度Tb、ピストン温度Tp、ポート壁温Tpoの全てを実測して取得してもよい。
【0120】
・
図2や
図6に示した各処理の手順は適宜変更してもよい。
・マップデータから求められる各値を関数式で算出してもよい。
・上記第1補正係数K1の算出を省略してもよい。この場合でも、上記(8)以外の効果が得られる。
【0121】
・上記第2補正係数K2の算出を省略してもよい。この場合でも、上記(9)以外の効果が得られる。
・上記第3補正係数K3の算出を省略してもよい。この場合でも、上記(10)以外の効果が得られる。
【0122】
・燃料補正係数Kfによる燃料噴射量Qの補正を省略してもよい。この場合でも、上記(5)以外の効果を得ることができる。
・アルコール濃度ADに応じた低位発熱量LCの算出を省略してもよい。この場合でも、上記(6)以外の効果を得ることができる。
【0123】
・上記制御装置100はCPU110とメモリ120とを備えており、ソフトウェア処理を実行する。しかしながら、これは例示に過ぎない。制御装置100は、例えば、上記実施形態において実行されるソフトウェア処理の少なくとも一部を処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御装置100は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てをプログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するメモリ等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置及びプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置及びプログラム格納装置を備えたソフトウェア回路、及び専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア回路及び1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって実行されればよい。プログラム格納装置すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【符号の説明】
【0124】
1…内燃機関
2…シリンダブロック
3…シリンダヘッド
4…シリンダ
4b…シリンダボア
9…吸気ポート
10…排気ポート
11…点火プラグ
11…内燃機関
12…吸気弁
13…排気弁
14…スロットルバルブ
20…吸気通路
22…ポート噴射弁
30…排気通路
35…筒内噴射弁
36…ポート噴射弁
41…クランク角センサ
44…エアフロメータ
45…水温センサ
46…空燃比センサ
47…ポンプ速度センサ
60…ウォータポンプ
70…ウォータジャケット
80…オイルジェット
100…制御装置