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特許7540449スポット溶接打痕の中心座標の検出方法、レーザー溶接方法、および接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】スポット溶接打痕の中心座標の検出方法、レーザー溶接方法、および接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/346 20140101AFI20240820BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20240820BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20240820BHJP
   B23K 26/04 20140101ALI20240820BHJP
   B23K 26/21 20140101ALN20240820BHJP
   B23K 26/22 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
B23K26/346
B23K11/11
B23K26/03
B23K26/04
B23K26/21 G
B23K26/22
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022019459
(22)【出願日】2022-02-10
(65)【公開番号】P2023117010
(43)【公開日】2023-08-23
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 隆太
(72)【発明者】
【氏名】山本 健史
(72)【発明者】
【氏名】本吉 隆
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-110565(JP,A)
【文献】特開2006-205182(JP,A)
【文献】特開2010-264503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/36、26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接打痕の中心座標の検出方法であって、
スポット溶接打痕の内側から外側に向かう方向と、前記スポット溶接打痕の外側から内側に向かう方向と、のうちの少なくとも一方向に、レーザー溶接装置において連続的に出力を発振してレーザー光を照射することにより、照射痕が線状をなす線レーザーを前記スポット溶接打痕上に複数照射する線レーザー照射工程と、
前記線レーザー照射工程において前記レーザー光を照射することによって加工点から発生する光である戻り光、の強度の波形を取得する波形取得工程と、
前記スポット溶接打痕の外縁上の3つ以上の複数の地点における位置座標を、前記戻り光の前記波形の強度のピーク位置から導出する外縁位置座標導出工程と、
前記外縁位置座標導出工程により導出された前記外縁上の3つ以上の複数の地点における前記位置座標から、前記スポット溶接打痕の中心座標を算出する中心座標算出工程と、
を備える、スポット溶接打痕の中心座標の検出方法。
【請求項2】
レーザー溶接方法であって、
請求項1に記載の前記中心座標の検出方法により検出された前記スポット溶接打痕の前記中心座標に基づいて、溶接用のレーザー光の照射位置を調整するレーザー光照射位置調整工程と、
前記溶接用の前記レーザー光を照射して溶接するレーザー溶接工程と、
を備えるレーザー溶接方法。
【請求項3】
複数の金属板をスポット溶接およびレーザー溶接により接合する接合方法であって、
抵抗溶接装置を用いて、複数の金属板を重ね合わせて一対の電極により保持した後に、前記一対の電極へ加圧通電することにより前記金属板を溶融して接合するスポット溶接工程と、
レーザー溶接装置を用いて、前記スポット溶接工程により前記金属板の表面に形成された前記スポット溶接打痕の中心座標を、請求項1に記載の中心座標の検出方法により検出する中心座標検出工程と、
前記中心座標検出工程により検出された前記中心座標に基づいて、溶接用のレーザー光の照射位置を調整するレーザー光照射位置調整工程と、
前記溶接用の前記レーザー光を前記金属板に照射して溶接するレーザー溶接工程と、
を備える接合方法。
【請求項4】
前記線レーザー照射工程において前記レーザー光を照射するときの出力値は、前記レーザー溶接工程において前記溶接用の前記レーザー光を照射するときの出力値よりも小さい、請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
複数の前記金属板は、それぞれ車両を構成する部材である請求項3または請求項4に記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スポット溶接打痕の中心座標の検出方法、レーザー溶接方法、および接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、レーザー溶接において、中心に未溶接部が残るように円周状にレーザーを走査して円周状の溶接痕を形成した後、画像から溶接痕の中心位置を把握し、レーザー照射の中心位置を補正する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-126832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、例えば、車両の製造過程において、複数の金属板を接合する場合において、スポット溶接とレーザー溶接とを組み合わせて使用する場合がある。こうした場合では、まず、スポット溶接を施し、複数の金属板同士の間隔である板隙を適度に詰めるように調整し、その後、スポット溶接に重ねて、または、スポット溶接位置から所定のオフセット量を取った位置にレーザー溶接を施すようにしている。
【0005】
上記のように、スポット溶接とレーザー溶接とを組み合わせて使用する場合には、スポット溶接とレーザー溶接との位置関係の緻密な制御が必要とされる。特に、量産において、スポット溶接工程とレーザー溶接工程が異なる設備により行われる場合、製品位置が工程によってばらつくことから、レーザー溶接位置がスポット溶接位置に対して狙い通りの位置にならずに、板隙が過大もしくは過少である位置にレーザー溶接を施してしまう場合が生じ、溶接品質が悪化するという問題が生じていた。
【0006】
スポット溶接とレーザー溶接との位置関係を正確に特定するためには、スポット溶接打痕の中心座標を正確に把握することが望まれる。また、スポット溶接自体の位置精度確認検査等においても、スポット溶接の中心座標を正確に求めることが望まれるところ、その解決には至っていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本開示の一形態によれば、中心座標の検出方法が提供される。この中心座標の検出方法は、スポット溶接打痕の中心座標の検出方法であって、スポット溶接打痕の内側から外側に向かう方向と、前記スポット溶接打痕の外側から内側に向かう方向と、のうちの少なくとも一方向に、レーザー溶接装置において連続的に出力を発振してレーザー光を照射することにより、照射痕が線状をなす線レーザーを前記スポット溶接打痕上に複数照射する線レーザー照射工程と、前記線レーザー照射工程において前記レーザー光を照射することによって加工点から発生する光である戻り光、の強度の波形を取得する波形取得工程と、前記スポット溶接打痕の外縁上の3つ以上の複数の地点における位置座標を、前記戻り光の前記波形の強度のピーク位置から導出する外縁位置座標導出工程と、前記外縁位置座標導出工程により導出された前記外縁上の3つ以上の複数の地点における前記位置座標から、前記スポット溶接打痕の中心座標を算出する中心座標算出工程と、を備える。
この形態の中心座標の検出方法によれば、線レーザー照射工程および波形取得工程により、レーザー光を照射することによって加工点から発生する戻り光の強度の波形が取得される。そして、外縁位置座標導出工程により、スポット溶接打痕の外縁上の3つ以上の複数の地点における位置座標が、戻り光の波形の強度のピーク位置から導出される。一般的に、スポット溶接打痕の平面視形状は略円形となる。したがって、中心座標算出工程により、外縁上の3つ以上の複数の地点における位置座標に基づき、スポット溶接打痕の中心座標を正確に特定できる。
さらに、この形態のスポット溶接打痕の中心座標の検出方法を、例えばスポット溶接の溶接位置精度確認や、スポット溶接とその後に実行されるレーザー溶接との位置関係の制御に適用することにより、溶接の品質を向上させることができる。
(2)本開示の第二の形態によれば、レーザー溶接方法が提供される。このレーザー溶接方法は、上記形態の前記中心座標の検出方法により検出された前記スポット溶接打痕の前記中心座標に基づいて、溶接用のレーザー光の照射位置を調整するレーザー光照射位置調整工程と、前記溶接用の前記レーザー光を照射して溶接するレーザー溶接工程と、を備える。
この形態のレーザー溶接方法によれば、スポット溶接打痕の中心座標を正確に検出することができる。そして、レーザー光照射位置調整工程において、スポット溶接打痕の中心座標に基づいてレーザー光の照射位置を調整するため、スポット溶接とレーザー溶接との位置関係を正確に保つことができ、レーザー溶接の位置精度を向上させることができる。また、スポット溶接とレーザー溶接とを組み合わせた溶接の品質低下を抑制できる。
(3)本開示の第三の形態によれば、接合方法が提供される。この接合方法は、複数の金属板をスポット溶接およびレーザー溶接により接合する接合方法であって、抵抗溶接装置を用いて、複数の金属板を重ね合わせて一対の電極により保持した後に、前記一対の電極へ加圧通電することにより前記金属板を溶融して接合するスポット溶接工程と、レーザー溶接装置を用いて、前記スポット溶接工程により前記金属板の表面に形成された前記スポット溶接打痕の中心座標を、上記形態の中心座標の検出方法により検出する中心座標検出工程と、前記中心座標検出工程により検出された前記中心座標に基づいて、溶接用のレーザー光の照射位置を調整するレーザー光照射位置調整工程と、前記溶接用の前記レーザー光を前記金属板に照射して溶接するレーザー溶接工程と、を備える。
この形態の接合方法によれば、複数の金属板の接合において、スポット溶接打痕の中心座標を正確に検出することができ、レーザー光照射位置調整工程において、スポット溶接打痕の中心座標に基づいてレーザー光の照射位置を調整するため、スポット溶接とレーザー溶接との位置関係を正確に保つことができ、溶接の精度を向上させることができる。
(4)上記接合方法の形態において、前記線レーザー照射工程において前記レーザー光を照射するときの出力値は、前記レーザー溶接工程において前記溶接用の前記レーザー光を照射するときの出力値よりも小さくてもよい。この形態の接合方法によれば、線レーザー照射工程において、レーザー溶接工程における出力値を超えるほどの、過度に大きな出力値でレーザー照射されることがないため、適度に金属板の表面が溶ける程度に抑えることができ、溶接品質を良好に維持できる。
(5)上記接合方法の形態において、複数の前記金属板は、それぞれ車両を構成する部材であってもよい。この形態の接合方法によれば、車両の製造過程において、車両を構成する部材である複数の金属板同士の接合を良好な品質にて実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の第1実施形態の接合方法の各工程を示すフローチャートである。
図2】本開示の第1実施形態の接合方法において、接合対象となる車両用部材の概略構成を示す図である。
図3】本開示の第1実施形態のスポット溶接打痕の中心座標の検出方法、レーザー溶接方法、および接合方法において用いるレーザー溶接装置の概略構成を示す図である。
図4】中心座標検出工程の詳細手順を示すフローチャートである。
図5】中心座標検出工程を説明するための図であって、スポット溶接打痕上に複数の線レーザーが照射された状態を模式的に示す平面図である。
図6】戻り光検出装置により取得された戻り光の波形を示す図である。
図7】戻り光検出装置により取得された戻り光の波形を示す図である。
図8】戻り光検出装置により取得された戻り光の波形を示す図である。
図9】第1実施形態の接合方法およびレーザー溶接方法により、レーザー溶接をスポット溶接に重ねて溶接した金属板の表面について説明する図である。
図10】スポット溶接工程およびレーザー溶接工程を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
[接合方法]
本開示の第1実施形態の接合方法、レーザー溶接方法、および中心座標位置検出方法について、図1図10を参照しつつ説明する。図1は、本開示の第1実施形態の接合方法の各工程を示すフローチャートである。第1実施形態の接合方法は、車両の製造過程において、車両を構成する部材である金属板の接合に用いられる方法であって、図1に示すように、スポット溶接工程(S10)と、中心座標位置検出工程(S20)と、レーザー光照射位置調整工程(S30)と、レーザー溶接工程(S40)と、を備えている。これらの各工程(S10,S20,S30,S40)は、順に実施される。
【0011】
図2は、本開示の第1実施形態の接合方法において、接合対象となる車両用部材の概略構成を示す図であり、接合箇所にスポット溶接およびレーザー溶接が施された状態を模式的に示している。第1実施形態の接合方法は、図2に示すように、例えば車両のサイドメンバ1のセンターピラー2部分における、図示しないリンホースメントとの接合に適用される。サイドメンバ1およびリンホースメントが「金属板」の一例に相当する。以下、接合対象となる部材を、単に「金属板」ともいう。図2において、スポット溶接部3を白い丸で簡易的に図示しており、レーザー溶接部4を黒い丸で簡易的に図示している。レーザー溶接部4は、スポット溶接部3に対して重なるように施される場合もあるし、所定のオフセット量を取った位置に施される場合もある。
【0012】
以下、第1実施形態の接合方法における各工程について説明する。スポット溶接工程(S10)は、後に実行されるレーザー溶接工程(S40)における品質を維持するために、接合される2部材間の隙間(以下、「板隙」という)を適度な間隔となるように詰めて調整するための工程である。すなわち、所謂、隙詰め処理を行う工程である。
【0013】
スポット溶接工程(S10)では、図示しない抵抗溶接装置を用いて、複数の金属板を重ね合わせて一対の電極により保持した後に、一対の電極へ加圧通電することにより金属板を溶融して接合する。なお、抵抗スポット溶接装置は周知のものを用いることができ、図示は省略する。電極への通電により、積層された部材の重なり部分には溶融部が形成される。溶融部は、冷却されて凝固して溶接部となる。こうしてできたスポット状の溶接部(いわゆるナゲット)により、2つの部材は接合される。一般的には、溶接部の平面視形状は略円形である。
【0014】
中心座標位置検出工程(S20)では、レーザー溶接装置を用いて、スポット溶接工程(S10)により形成されたスポット溶接打痕の中心座標が検出される。まずここで、中心座標位置検出工程(S20)および後のレーザー溶接工程(S40)において用いられるレーザー溶接装置100の構成について説明する。図3は、本開示の第1実施形態のスポット溶接打痕の中心座標の検出方法、レーザー溶接方法、および接合方法において用いるレーザー溶接装置100の概略構成を示す図である。
【0015】
[レーザー溶接装置100の構成]
レーザー溶接装置100は、図3に示すように、レーザー発振器10と、ガルバノスキャナ20とを備える。レーザー発振器10は、光ファイバコネクタ11によりガルバノスキャナ20と接続されている。ガルバノスキャナ20の内部には、コリメートレンズ30が配置されている。ガルバノスキャナ20は、第1の反射ミラー21、回折光学素子(DOE)22、Zレンズ23、Zレンズ駆動ユニット24、第2の反射ミラー25、集光レンズ26、ガルバノスキャナユニット27、保護ガラス28、およびガルバノスキャナドライバ29を備える。また、ガルバノスキャナ20には、ダイクロミラー40と共に、戻り光検出装置50が装着されている。
【0016】
レーザー発振器10よりレーザー光が出射されると、レーザー光は、光ファイバコネクタ11を介してガルバノスキャナ20の内部に進入する。そして、レーザー光は、コリメートレンズ30により、平行状態に調整される。その後、レーザー光は、ダイクロミラー40および第1の反射ミラー21により反射され、DOE22に至る。
【0017】
DOE22は、レーザー光の照射パターンを調整することができる。具体的には、DOE22は、入射したレーザー光を、その入射したときとは異なるパワー密度分布形状を持つレーザー光として放射することができる。また、DOE22はスライド部に取り付けられており、スライド移動可能に構成されている。
【0018】
DOE22により調整されたレーザー光は、Zレンズ23に到達する。Zレンズ23は、レーザー光の焦点ずれを補正するために使用されるものである。Zレンズ23は、Zレンズ駆動ユニット24により駆動されることによって移動可能に構成されている。
【0019】
その後、レーザー光は、第2の反射ミラー25により反射され、集光レンズ26を介してガルバノスキャナユニット27に入射し、保護ガラス28を介して、ワーク200の表面に出射される。出射されたレーザー光により、ワーク200の表面に溶接痕を形成することができる。
【0020】
また、ガルバノスキャナドライバ29は、レーザー発振器10、Zレンズ駆動ユニット24、およびガルバノスキャナユニット27に接続されており、内蔵されたプログラムにより、これらを制御可能に構成されている。よって、ガルバノスキャナドライバ29により、レーザー光の出力、照射位置等を制御することができる。このように制御が可能であることから、レーザー溶接装置100は、自動プログラム運転が可能に構成されている。
【0021】
戻り光検出装置50は、レーザー照射時に金属が溶融した際に、加工点Iが1000℃を超えるような高温になることで加工点Iから発生し、戻ってくる光(以下、「戻り光」という)を検出する。戻り光は、図3において破線RLで示すように、第2の反射ミラー25,第1の反射ミラー21,ダイクロミラー40等を適宜通過して、戻り光検出装置50に入射する。戻り光検出装置50は、予めレーザー光の種類等に基づいて選定された所定の周波数帯(例えば800nm~1000nmなど)の光を検出し、光の強さを電圧値に変換する。戻り光検出装置50は、時間経過における電圧値の変化を、光の強度の波形として取得することができる。なお、戻り光の波形の例については、以下に中心座標検出工程(S20)について後述する際に併せて説明する。
【0022】
以上説明したレーザー溶接装置100の構成は、あくまで一例であり、レーザー溶接装置100は、以下説明する本実施形態に係る各方法を実施できるものである限り、他の構成を有していてもよい。
【0023】
[中心座標検出方法]
次に、上記説明したレーザー溶接装置100を用いて行う、中心座標検出工程(S20)について説明する。中心座標検出工程(S20)では、スポット溶接工程(S10)により金属板の表面に形成されたスポット溶接打痕の中心座標が検出される。図4は、中心座標検出工程(S20)の詳細手順を示すフローチャートである。図4に示すように、中心座標検出方法は、線レーザー照射工程(S21)と、戻り光強度波形取得工程(S22)と、外縁位置座標導出工程(S23)と、中心座標算出工程(S24)とを含んでいる。
【0024】
図5は、中心座標検出工程(S20)を説明するための図であり、スポット溶接打痕60上に複数の線レーザー61,62,63,64,65が照射された状態を模式的に示す平面図である。線レーザー照射工程(S21)では、図5において矢印Aに示すように、スポット溶接打痕60の外側から内側に向けて、レーザー溶接装置100において連続的に出力を発振してレーザー光を照射することにより、照射痕が線状をなす線レーザー61,62,63,64,65をスポット溶接打痕60上に複数照射する。図5に示す例では、5本の線レーザー61,62,63,64,65が照射されている。
【0025】
ここで、線レーザー照射工程(S21)においてレーザー光を照射するときの出力値は、レーザー溶接工程(S40)において溶接用のレーザー光を照射するときの出力値よりも小さく設定される。これは、本溶接であるレーザー溶接工程(S40)を超えるほどの高出力でレーザーを照射し、上層の金属板を貫通してしまうと、品質低下の虞があり、また、適切な戻り光波形を取得できないためである。よって、線レーザー照射工程(S21)でのレーザー出力値は、適度に上層の金属板の表面が溶ける程度に抑えた出力値に設定される。
【0026】
また、線レーザー61,62,63,64,65の長さは、スポット溶接打痕60の外側から内側まで確実に到達するように、例えば、スポット溶接打痕60の直径の長さと同程度等に設定される。また、線レーザー61,62,63,64,65の照射開始位置は、スポット溶接打痕60の外側であって、スポット溶接打痕60の外縁から適度に離れた位置に設定される。なお、複数の線レーザー61,62,63,64,65の長さは同一でもよいし、異なっていてもよい。また、図5に示す例では、5本の線レーザー61,62,63,64,65が同一の点で交わる態様にて照射されているが、こうした形態に限られない。
【0027】
戻り光強度波形取得工程(S22)では、戻り光の強度の波形が取得される。図6図8は、戻り光検出装置50により取得された戻り光の波形を示す図である。図6は、図5における第1線レーザー61を照射するときに発生する戻り光の波形を示している。図7は、図5における第2線レーザー62を照射するときに発生する戻り光の波形を示している。図8は、図5における第3線レーザー63を照射するときに発生する戻り光の波形を示している。図6図8の各図において、横軸は時間であり、縦軸は電圧値である。
【0028】
なお、図4に示すフローチャートにおいて、線レーザー照射工程(S21)と、戻り光強度波形取得工程(S22)とは、別の処理であるため便宜状分けて記載したが、実際には、線レーザー61,62,63,64,65の照射と略同時に、戻り光強度波形の取得が行われる。
【0029】
次に、外縁位置座標導出工程(S23)では、戻り光強度波形取得工程(S22)において取得された複数の波形のピーク位置(図6に示す位置P1、図7に示す位置P2、図8に示す位置P3、)から、スポット溶接打痕60の外縁上の複数の地点E1,E2,E3(図5参照)における位置座標が導出される。本願発明者の検討により、スポット溶接打痕60の外側から内側へレーザーを連続的に照射していくと、レーザーがスポット溶接打痕60の外縁を通過するとき、すなわちスポット溶接打痕60によって表面において凹となった部分へ進入するときに、戻り光による電圧値が一時的に大きくなることが分かっている。よって、戻り光強度波形における電圧値のピークに対応する位置は、スポット溶接打痕60の外縁上の位置である。
【0030】
戻り光強度波形により、照射開始から電圧値のピークまでの時間が取得でき、レーザー光を照射する照射距離および照射速度は、共に制御のパラメータであり分かっているため、これらの情報を用いて、電圧値のピークにおける位置座標を、例えば金属板と平行であり、かつ、互いに直交するX軸およびY軸で規定される2次元座標として導出できる。
【0031】
そして、中心座標算出工程(S24)では、外縁位置座標導出工程(S23)により導出されたスポット溶接打痕60の外縁上の複数の地点E1,E2,E3の位置座標から、スポット溶接打痕60の中心座標(中心CのX,Y座標)が算出される。上述のように、スポット溶接打痕60の平面視形状は略円形である。したがって、中心座標の算出は、外縁上の任意の3点の位置座標に基づき、円の2次関数を用いて求めることができる。本実施形態では、外縁上の3点E1,E2,E3の位置座標に基づき求めた。なお、この中心座標算出のためには、線レーザー61,62,63,64,65は、最低3本照射され、戻り光波形および外縁上の地点についても同様に最低3つ検出される必要がある。また、外乱を受けてノイズが乗ってしまい電圧値のピークを読み取れない場合も考えられるため、電圧値のピークを読み取ることが可能な波形を確実に取得するために、線レーザーは4本以上の複数(例えば5本)照射し、その中から明確にピークが読み取れる波形を3つ選択するようにしてもよい。
【0032】
再び、図1を参照して、接合方法について説明する。上記詳述したように、S20においてスポット溶接打痕60の中心座標が検出された後には、レーザー光照射位置調整工程(S30)に進み、中心座標検出工程(S20)にて検出された中心座標に基づいて、レーザー光の照射位置が調整される。具体的には、例えば、レーザー溶接をスポット溶接と重ねて行いたい場合には、レーザー光の照射位置を、中心座標検出工程(S20)にて検出された中心座標と一致するように調整し、改めて設定する。また、レーザー溶接を、スポット溶接から所定距離離間した位置に行いたい場合には、中心座標検出工程(S20)にて検出された中心座標からのオフセット量が所定距離と一致するようにレーザー光の照射位置を調整する。
【0033】
図9は、第1実施形態のスポット溶接打痕60の中心座標の検出方法、レーザー溶接方法、および接合方法により、レーザー溶接をスポット溶接に重ねて溶接した金属板の表面について説明する図であり、溶接部位の上面視における写真が示されている。図9において、図9に示すように、スポット溶接打痕60の中心座標に基づいて、レーザー溶接における照射位置を調整して行う方法によれば、レーザー溶接痕66とスポット溶接打痕60とが狙い通りに重なり、レーザー溶接痕66がスポット溶接打痕60からはみ出ることもなく、良好な品質にて溶接を行うことができた。
【0034】
[効果]
(1)上記第1実施形態のスポット溶接打痕60の中心座標の検出方法によれば、線レーザー照射時に取得される戻り光の波形に基づいて、スポット溶接打痕60の外縁上の複数の地点E1,E2,E3の位置座標を導出した後、スポット溶接打痕60の中心Cの座標を算出できる。このため、スポット溶接打痕60の中心座標を正確に検出できる。
【0035】
(2)上記第1実施形態のレーザー溶接方法、および接合方法によれば、スポット溶接により板隙を調整した後、スポット溶接打痕60に対して設定された所定の位置に、正確にレーザー溶接を行うことができる。
【0036】
図10は、スポット溶接工程(S10)およびレーザー溶接工程(S40)を説明するための図であり、例示として複数(2枚)の金属板71,72をスポット溶接の通電方向に切断した状態を模式的に示す断面図である。図10に示すように、例えば、レーザー光Rの照射位置R1が、狙いの位置Rbからずれてスポット溶接(ナゲット73)の位置から離れ過ぎている場合、板隙過大となっている部位にレーザーを照射してしまうことになり、板隙過大により溶接不十分となり溶接欠陥Dを生じる。図10では、このような溶接欠陥Dの例を模式的に図示している。
【0037】
また、レーザー光Rの照射位置R2が、狙いの位置Rbからずれて、上記とは逆にスポット溶接(ナゲット73)の位置に近付き過ぎた場合には、例えば金属板71,72が亜鉛メッキ板であると、スポット溶接によりナゲット73の側方に滞留した亜鉛が一気に気化し爆飛してしまい、孔が生じて溶接欠陥を生じる。なお、ナゲット73の真上には亜鉛は滞留していないため、レーザー照射することが可能である。
【0038】
特に、車両の製造過程における量産工程では、スポット溶接工程(S10)とレーザー溶接工程(S40)とが異なる設備による別工程で行われることが一般的であり、各工程(S10,S40)での製品位置や、製品を保持する治具等のバラツキにより、溶接位置が左右され、結果的に狙いの位置Rbからずれてしまい、板隙が過大もしくは過少である位置にレーザー溶接を施してしまう場合が生じ、溶接品質が悪化する虞があった。
【0039】
以上説明したように、上記の例では金属板71,72として亜鉛めっき板を例に説明したが、その他の材料により構成される金属板の接合においても板隙の管理は溶接不良を回避するために重要である。スポット溶接からの距離によって板隙Sが異なってくるため、スポット溶接とレーザー溶接の位置関係の緻密な制御が要求される。その点、上記第1実施形態では、スポット溶接打痕60の中心座標を正確に検出でき、スポット溶接打痕60の中心座標に基づいて、レーザー溶接における照射位置を調整してからレーザー溶接を行う。このため、レーザー溶接を、スポット溶接打痕60に対して狙い通りの位置、すなわち板隙Sが適切に管理された位置に実施でき、溶接品質を向上させることができる。
【0040】
(3)上記第1実施形態のレーザー溶接方法、および接合方法では、線レーザー照射工程(S21)においてレーザー光を照射するときの出力値は、レーザー溶接工程(S40)において溶接用のレーザー光を照射するときの出力値よりも小さく設定される。このため、線レーザー照射工程(S21)において、本溶接における出力値を超えるほどの過度に大きな出力値によりレーザー照射されることがないため、適度に上層の金属板の表面が溶ける程度に抑えることができ、溶接品質を良好に維持できる。
【0041】
B.他の実施形態:
(B1)上記第1実施形態の接合方法は、車両の製造過程において用いられ、車両のセンターピラー2部分における、サイドメンバ1と、リンホースメントとの接合を例に説明したが、この部位の接合に限られない。車両の製造過程では、複数の金属板を接合する場面が多々あり、適宜上記接合方法を適用できる。例えば、サイドメンバ1のドアオープニングのフランジ部分周辺の接合に上記接合方法を適用してもよいし、サイドメンバ1とルーフとの合わせ部分等に上記接合方法を適用してもよい。また、車両の製造過程ではなく、修理過程において用いてもよい。
【0042】
(B2)また、接合対象となる部材は車両を構成する部材でなくてもよく、車両の製造過程において用いられる接合方法に限られない。2つ以上の複数の部材を、スポット溶接の後にレーザー溶接を用いて接合する方法であれば、上記接合方法を適用できる。
【0043】
(B3)さらに、上記第1実施形態の接合方法におけるスポット溶接工程(S10)は、所謂隙詰め処理を行う工程として説明したが、これに限られず、レーザー溶接工程(S40)と組み合わせて複数の金属板を強固に接合するための処理であってもよい。
【0044】
(B4)上記第1実施形態の中心座標検出方法は、後のレーザー溶接工程(S40)におけるレーザー光の照射位置の調整のために用いたが、その他の用途に用いてもよい。例えば、スポット溶接自体の位置精度確認、すなわち、狙った位置にどの程度正確に溶接できたかを検査するために中心座標を検出してもよい。
【0045】
(B5)上記第1実施形態の中心座標検出方法における線レーザー照射工程(S21)では、スポット溶接打痕60の外側から内側に向けて、レーザー光を照射したが、戻り光強度波形に基づいてスポット溶接打痕60の外縁上の位置を検出できればよく、スポット溶接打痕60の内側から外側に向けてレーザー光を照射してもよい。選定される戻り光の計測波長の具体例としては、内側から外側への照射であれば1070nm程度、外側から内側への照射であれば800nmや1070nm程度である。
【0046】
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…サイドメンバ、3…スポット溶接部、4…レーザー溶接部、10…レーザー発振器、11…光ファイバコネクタ、20…ガルバノスキャナ、21…第1の反射ミラー、23…Zレンズ、24…Zレンズ駆動ユニット、25…第2の反射ミラー、26…集光レンズ、27…ガルバノスキャナユニット、28…保護ガラス、29…ガルバノスキャナドライバ、30…コリメートレンズ、40…ダイクロミラー、50…戻り光検出装置、60…スポット溶接打痕、61…第1線レーザー、62…第2線レーザー、63…第3線レーザー、66…レーザー溶接痕、71,72…金属板、73…ナゲット、100…レーザー溶接装置、200…ワーク
図1
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図10