(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】電動機のロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20240820BHJP
H02K 1/28 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
H02K1/22 C
H02K1/28 A
(21)【出願番号】P 2022037591
(22)【出願日】2022-03-10
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】林 賢一郎
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-172310(JP,A)
【文献】特開2021-141679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
H02K 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、前記シャフトの外周面に固定される円筒状のロータコアと、を備える電動機のロータであって、
前記シャフトの外周面には、内周側に向かって凹むキー溝が少なくとも1つ形成され、
前記ロータコアの内周面には、内周側に向かって突き出し、且つ、組付状態において前記キー溝に嵌合する少なくとも1つのキー部が形成され、
前記ロータコアの内周面は、前記キー部の頂部を形成するコア底部、前記コア底部の端部から外周側に向かって傾斜するコア傾斜部、円弧状に形成されたコア内周面部、および前記コア傾斜部と前記コア内周面部との間を繋ぐコア湾曲部、から少なくとも形成され、
前記キー部の前記キー溝と対向する部位は、前記コア底部、前記コア傾斜部、および前記コア湾曲部が、前記ロータコアの周方向に連続して繋がることによって形成され、
前記シャフトの外周面は、前記キー溝の溝底を形成するシャフト底部、前記シャフト底部の端部から外周側に向かって傾斜するシャフト傾斜部、円弧状に形成されたシャフト外周面部、および前記シャフト傾斜部と前記シャフト外周面部との間を繋ぐシャフト湾曲部、から少なくとも形成され、
前記キー溝の前記キー部と対向する部位は、前記シャフト底部、前記シャフト傾斜部、および前記シャフト湾曲部が、前記シャフトの周方向に連続して繋がることによって形成され、
前記コア傾斜部および前記シャフト傾斜部が互いに接触し、
前記コア湾曲部および前記シャフト湾曲部の間には、径方向の隙間が形成されている
ことを特徴とする電動機のロータ。
【請求項2】
前記コア傾斜部の前記シャフト傾斜部と接触する部位から前記コア内周面部までの間では、前記ロータコアの内周面は、複数の曲率半径の異なる曲線が連続的に繋がることによって形成されている
ことを特徴とする請求項1の電動機のロータ。
【請求項3】
前記隙間の寸法が、0.5mm以下に設定される
ことを特徴とする請求項1または2の電動機のロータ。
【請求項4】
前記キー部を構成する一対の前記コア傾斜部において、前記シャフト傾斜部と接触する部位を通る一対の接線が交差することで形成される交差角が、30度から180度未満の範囲に設定される
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1に記載の電動機のロータ。
【請求項5】
前記キー溝および前記キー部が互いに嵌合する嵌合部が2個設けられ、
2個の前記嵌合部は、前記ロータの回転軸線を挟んで互いに対向する位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1に記載の電動機のロータ。
【請求項6】
前記ロータコアの前記コア内周面部と、前記シャフトの前記シャフト外周面部との間が圧入される
ことを特徴とする請求項1から5の何れか1に記載の電動機のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機のロータを構成するロータコアとシャフトとの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機のロータを構成するロータコアをシャフトに固定する構造として、シャフトの外周面にV字状のキー溝を形成するとともにロータコアの内周面にキー部を形成し、シャフトのキー溝にロータコアのキー部を圧入して固定する方法が提案されている。特許文献1に記載の構造がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の構造では、ロータコアのキー部が略矩形に形成されており、また、キー部の根本の曲線形状が鋭く変化している。そのため、ロータの回転時には、キー部の根本周辺で応力集中が発生する虞があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ロータの回転中において、ロータコアに応力集中が発生することを抑制できる電動機のロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)シャフトと、前記シャフトの外周面に固定される円筒状のロータコアと、を備える電動機のロータであって、(b)前記シャフトの外周面には、内周側に向かって凹むキー溝が少なくとも1つ形成され、(c)前記ロータコアの内周面には、内周側に向かって突き出し、且つ、組付状態において前記キー溝に嵌合する少なくとも1つのキー部が形成され、(d)前記ロータコアの内周面は、前記キー部の頂部を形成するコア底部、前記コア底部の端部から外周側に向かって傾斜するコア傾斜部、円弧状に形成されたコア内周面部、および前記コア傾斜部と前記コア内周面部との間を繋ぐコア湾曲部、から少なくとも形成され、(e)前記キー部の前記キー溝と対向する部位は、前記コア底部、前記コア傾斜部、および前記コア湾曲部が、前記ロータコアの周方向に連続して繋がることによって形成され、(f)前記シャフトの外周面は、前記キー溝の溝底を形成するシャフト底部、前記シャフト底部の端部から外周側に向かって傾斜するシャフト傾斜部、円弧状に形成されたシャフト外周面部、および前記シャフト傾斜部と前記シャフト外周面部との間を繋ぐシャフト湾曲部、から少なくとも形成され、(g)前記キー溝の前記キー部と対向する部位は、前記シャフト底部、前記シャフト傾斜部、および前記シャフト湾曲部が、前記シャフトの周方向に連続して繋がることによって形成され、(h)前記コア傾斜部および前記シャフト傾斜部が互いに接触し、(i)前記コア湾曲部および前記シャフト湾曲部の間には、径方向の隙間が形成されていることを特徴とする。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記コア傾斜部の前記シャフト傾斜部と接触する部位から前記コア内周面部までの間では、前記ロータコアの内周面は、複数個の曲率半径の異なる曲線が連続的に繋がることによって形成されていることを特徴とする。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第1発明または第2発明において、前記隙間の寸法が、0.5mm以下に設定されることを特徴とする。
【0009】
第4発明の要旨とするところは、第1発明から第3発明の何れか1において、前記キー部を構成する一対の前記コア傾斜部において、前記シャフト傾斜部と接触する部位を通る一対の接線が交差することで形成される交差角が、30度から180度未満の範囲に設定されることを特徴とする。
【0010】
第5発明の要旨とするところは、第1発明から第4発明の何れか1において、前記キー溝および前記キー部が互いに嵌合する嵌合部が2個設けられ、2個の前記嵌合部は、前記ロータの回転軸線を挟んで互いに対向する位置に設けられることを特徴とする。
【0011】
第6発明の要旨とするところは、第1発明から第5発明の何れか1において、前記ロータコアの前記コア内周面部と、前記シャフトの前記シャフト外周面部との間が圧入されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、キー部のキー溝と対向する部位は、コア底部、コア傾斜部、およびコア湾曲部が連続して繋がるようにして形成され、且つ、コア湾曲部とシャフト湾曲部との間に径方向の隙間が形成されるため、コア傾斜部のシャフト傾斜部と接触する部位からコア内周面部までの間の、ロータコアの内周面をなだらかな曲線で形成することができる。従って、コア湾曲部に高い応力が発生した場合であっても、この部位で発生する応力を一様に分布させることができる。その結果、ロータコアにおいて応力集中が発生することを抑制することができる。
【0013】
第2発明によれば、コア傾斜部のシャフト傾斜部と接触する部位からコア内周面部までの間におけるロータコアの内周面が、複数の曲率半径の異なる曲線が連続的に繋がることで、なだらかな曲線形状に形成することができる。従って、ロータの回転中においてコア湾曲部に作用する応力の分布が一様になり、ロータコアで応力集中が発生することを抑制することができる。
【0014】
第3発明によれば、隙間の寸法が、0.5mm以下に設定されるため、コア湾曲部の内周面をなだらかな曲線形状に形成することができる。
【0015】
第4発明によれば、キー部を構成する一対のコア傾斜部において、シャフト傾斜部と接触する部位を通る一対の接線が交差することによって形成される交差角が、30度から180度未満の範囲に設定されるため、コア傾斜部とコア湾曲部との間をなだらかな曲線で繋ぐことができる。
【0016】
第5発明によれば、嵌合部がロータの回転軸線を挟んで互いに対向する位置に2個設けられているため、ロータの重心がロータの回転軸線に対してずれることが抑制される。その結果、ロータの回転中における偏心が抑制される。
【0017】
第6発明によれば、ロータコアのコア内周面部とシャフトのコア外周面部との間が圧入されることで、コア内周面部が径方向外側に広げられ、コア湾曲部にはコア内周面部側への引張応力が発生する。これに対して、コア湾曲部の内周面がなだらかな曲線で形成されることで、コア湾曲部にかかる応力を一様に分布させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明が適用された電動機を回転軸線方向に見た図である。
【
図3】ロータの回転中にロータコアのキー部周辺に作用する応力分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明が適用された電動機MGを回転軸線CL方向に見た図である。電動機MGは、例えば車両用の駆動力源として使用される。電動機MGは、図示しないケース内に、回転軸線CLを中心にして配置されている。
【0021】
電動機MGは、ケースにボルト等によって固定されているステータ12と、ステータ12の内周側に配置されているロータ14と、を備えている。
【0022】
ステータ12は、円筒状に形成されているステータコア16と、ステータコアを回転軸線CL方向に貫通するステータコイル18と、を備えている。ステータコア16は、絶縁された複数枚の電磁鋼板が回転軸線CL方向に積層されて構成されている。ステータコア16には、内周面から径方向に伸びる空間であるスロット20が形成されている。スロット20は、ステータコア16の周方向で等角度間隔に複数個形成されている。各スロット20には、回転軸線CL方向に貫通する複数本のステータコイル18が配置されている。ステータコイル18は、断面が矩形に形成され、各スロット20内において径方向に並ぶようにして配置されている。
【0023】
ロータ14は、ロータシャフト24と、ロータシャフト24の外周面に固定される円筒状のロータコア22と、を備えている。ロータコア22とロータシャフト24とは、互いに一体的に固定され、回転軸線CLを中心にして回転可能とされている。なお、ロータシャフト24が、本発明のシャフトに対応している。
【0024】
ロータコア22は、絶縁された複数枚の電磁鋼板が回転軸線CL方向に積層されて構成されている。ロータコア22には、複数個の磁石26が内蔵されている。ロータシャフト24は、回転軸線CL方向の両端に配置される図示しない軸受によって回転可能に支持されている。
【0025】
ロータコア22とロータシャフト24との間には、2個のキー嵌合部28が設けられている。キー嵌合部28は、ロータコア22の後述するキー部34およびロータシャフト24の後述するキー溝32が互いに嵌合する嵌合部に相当する。2個のキー嵌合部28は、回転軸線CLを挟んで互いに対向する位置に設けられている。キー嵌合部28が設けられることで、ロータコア22とロータシャフト24との間での相対回転が阻止される。また、キー嵌合部28が、回転軸線CLを挟んで対向する位置に設けられることで、ロータ14の重心が回転軸線CLからずれることが抑制され、ロータ14の回転中の偏心が抑制される。
【0026】
図2は、
図1の2個のキー嵌合部28のうちの一方を拡大した拡大図である。なお、他方のキー嵌合部28についても構造は同じであるため、その説明を省略する。また、キー嵌合部28が、本発明の嵌合部に対応している。
【0027】
キー嵌合部28は、ロータシャフト24の外周面に形成されているキー溝32と、ロータコア22の内周面に形成されているキー部34とから構成されている。
【0028】
キー部34は、ロータコア22の内周面から径方向内側に向かって突き出し、回転軸線CLと平行に連続して長手状に形成されている。また、回転軸線CL方向から見ると台形状に形成されている。キー溝32は、ロータシャフト24の外周面から径方向内側に向かって凹んでおり、回転軸線CLと平行に連続して長手状に形成されている。また、キー溝32は、回転軸線CL方向から見ると、溝底を有するV字状に形成されている。組付状態において、キー溝32とキー部34とが互いに嵌合することにより、ロータコア22とロータシャフト24との相対回転が阻止される。
【0029】
ロータコア22の内周面は、コア底部36a、コア傾斜部36b、コア湾曲部36c、およびコア内周面部36dから構成されている。
【0030】
コア底部36aは、回転軸線CL方向から見て台形状に形成されたキー部34の頂部を形成している。
【0031】
コア傾斜部36bは、コア底部36aの端部に連結され、コア底部36aの端部から外周側に向かって傾斜している。コア傾斜部36bは、回転軸線CL方向から見て台形状に形成されたキー部34の傾斜する部位を形成している。コア傾斜部36bは、1つのキー部34に対して2箇所形成される。コア傾斜部36bは、専ら曲率半径Rc1の曲線によって形成されている。コア底部36aとコア傾斜部36bとの連結部は、互いの端部が連続してなだらかに繋がる曲線形状を有している。なお、コア傾斜部36bは、直線から形成されていてもよく、曲率半径Rc1だけでなく曲率半径が異なる複数の曲線によって形成されていても構わない。
【0032】
コア湾曲部36cは、コア傾斜部36bとコア内周面部36dとの間を繋ぐ位置に形成されている。コア湾曲部36cは、キー部34の根本の部位を形成し、径方向外側に向かって凹む円弧状に形成されている。コア湾曲部36cは、専ら曲率半径Rc3の曲線によって形成されている。コア傾斜部36bとコア湾曲部36cとの連結部は、例えば曲率半径Rc2の曲線から形成されることで、コア傾斜部36bとコア湾曲部36cとの間が連続して滑らかに繋がれている。なお、コア湾曲部36cは、曲率半径Rc3だけでなく曲率半径が異なる複数の曲線によっても形成されていても構わない。
【0033】
コア内周面部36dは、ロータコア22の内周面の大部分を占め、組付時においてロータシャフト24の後述するシャフト外周面部38dに圧入される。コア内周面部36dは、円弧状に形成され、ロータコア22の内周面を形成する部位のうち組付前においてコア内径dcが最も大きい寸法を有している。具体的には、コア内周面部36dは、
図2の一点鎖線で示すコア内径dcを有している。コア湾曲部36cとコア内周面部36dとの連結部は、例えば曲率半径Rc4の曲線から形成されることで、コア湾曲部36cとコア内周面部36dとの間が連続して滑らかに繋がれている。
【0034】
キー部34のキー溝32と対向する部位は、コア底部36a、コア傾斜部36b、およびコア湾曲部36cが、ロータコア22の周方向に連続して繋がることによって形成されている。なお、
図2では、キー部34のうち周方向の一方側のみ記載されているが、キー部34は、
図2に示す周方向の中心線Mすなわちキー部34を周方向で二等分した中心線Mに対して左右対称に形成されているため、キー部34の周方向の他方側においても同様に形成されている。
【0035】
ロータシャフト24の外周面は、シャフト底部38a、シャフト傾斜部38b、シャフト湾曲部38c、およびシャフト外周面部38dから構成されている。
【0036】
シャフト底部38aは、キー溝32を回転軸線CLから見たときのV字形状の溝底を形成している。
【0037】
シャフト傾斜部38bは、断面がV字状のキー溝32の傾斜する部位を形成し、シャフト底部38aの端部から外周側に向かって傾斜している。シャフト傾斜部38bは、直線から形成されている。シャフト底部38aとシャフト傾斜部38bとの連結部は、互いの端部が連続してなだらかに繋がる曲線形状を有している。
【0038】
キー溝32は、断面がV字状に形成されているため、キー溝32の周方向で反対側の端部においても、シャフト傾斜部38bが形成されている。ここで、一対のシャフト傾斜部38bを形成する一対の直線を延長した直線L1、L2が交差することで形成される第1交差角θ1は、30度から180未満の範囲が好適とされ、本実施例では、第1交差角θ1が90度に設定されている。なお、第1交差角θ1が、本発明の交差角に対応している。
【0039】
シャフト湾曲部38cは、シャフト傾斜部38bとシャフト外周面部38dとの間を繋ぐ位置に形成されている。シャフト湾曲部38cは、キー溝32の出口近傍の部位を形成し、径方向外側に向かって膨らむ円弧状に形成されている。シャフト湾曲部38cは、専ら曲率半径Rs2の曲線によって形成されている。シャフト傾斜部38bとシャフト湾曲部38cとの連結部は、例えば曲率半径Rs1の曲線から形成されることで、シャフト傾斜部38bとシャフト湾曲部38cとの間が連続して滑らかに繋がれている。なお、シャフト湾曲部38cは、曲率半径Rs2だけでなく曲率半径が異なる複数の曲線によっても形成されていても構わない。
【0040】
シャフト外周面部38dは、ロータシャフト24の外周面の大部分を占め、組付時においてロータコア22のコア内周面部36dに圧入される。シャフト外周面部38dは、円弧状に形成され、ロータシャフト24の外周面を形成する部位のうち組付前においてシャフト外径dsが最も大きい寸法を有している。具体的には、シャフト外周面部38dは、
図2の一点鎖線で示すシャフト外径dsを有している。シャフト湾曲部38cとシャフト外周面部38dとの連結部は、例えば曲率半径Rs3の曲線から形成されることで、シャフト湾曲部38cとシャフト外周面部38dとの間が連続して滑らかに繋がれている。
【0041】
キー溝32のキー部34と対向する部位は、シャフト底部38a、シャフト傾斜部38b、およびシャフト湾曲部38cが、ロータシャフト24の周方向に連続して繋がることによって形成されている。
【0042】
ロータコア22のコア内周面部36dとロータシャフト24のシャフト外周面部38dとの間が互いに圧入されることによって、ロータコア22およびロータシャフト24が一体的に固定される。また、組付前におけるロータシャフト24のシャフト外周面部38dのシャフト外径dsが、組付前におけるロータコア22のコア内周面部36dのコア内径dcよりも大きくされている。従って、コア内周面部36dとシャフト外周面部38dとの間に締め代Gが形成される。
図1において、破線で囲まれた部位に、コア内周面部36dとシャフト外周面部38dとの間に締め代Gが形成される。
【0043】
キー嵌合部28において、コア底部36aとシャフト底部38aとの間には径方向の隙間S1が形成されている。一方で、キー嵌合部28において、コア傾斜部36bとシャフト傾斜部38bとの間が互いに接触する。ここで、コア傾斜部36bが曲率半径Rc1からなる曲線によって専ら形成されている一方で、シャフト傾斜部38bが直線によって形成されている。従って、微視的には、コア傾斜部36bは、シャフト傾斜部38bの直線に形成された部位との接触点Xで点接触させられる。接触点Xは、コア内径dcよりも径方向内側に形成されている。なお、コア傾斜部36bとシャフト傾斜部38bとの間は、隙間ばめ、締まりばめ、中間ばめの何れもよく、締まりばめおよび中間ばめの場合には、コア傾斜部36bおよびシャフト傾斜部38bの互いの接触部が変形することで、少なくとも接触点Xを含んだ部位で線接触した状態になる。なお、接触点Xが、本発明のコア傾斜部においてシャフト傾斜部と接触する部位に対応する。
【0044】
上述したように、ロータコア22において、少なくともコア傾斜部36bの接触点Xからコア内周面部36dまでの間では、ロータコア22の内周面が、上述した曲率半径Rc(Rc1~Rc4等)が異なる複数の曲線が連続的に繋がることによる曲線形状に形成されている。従って、コア傾斜部36bの接触点Xからコア内周面部36dの間では、ロータコア22の内周形状を形成する曲線の曲率半径Rcが段階的に変化している。
【0045】
また、コア湾曲部36cとシャフト湾曲部38cとの間には、径方向の隙間S2が形成されている。隙間S2の寸法は、最大値が0.5mm以下の寸法に設定されている。上記隙間S2が形成されるように、コア湾曲部36cの内周形状を専ら形成する曲率半径Rc3、および、シャフト湾曲部38cの外周形状を専ら形成する曲率半径Rs2の寸法が設定されている。例えば、隙間S2が形成されるように、コア湾曲部36cの曲率半径Rc3が、シャフト湾曲部38cの曲率半径Rs2よりも小さく(Rs2>Rc3)されている。隙間S2が形成されることで、コア湾曲部36cにおける内周面の内周形状の自由度が高まり、コア湾曲部36cをなだらかな形状とすることが可能になる。また、隙間S2の寸法の最大値が0.5mm以下に制限されることで、コア湾曲部36cが例えば外周側に大きく突き出すことのないなだらかな曲線で形成される
【0046】
また、コア湾曲部36cは、コア傾斜部36bとの連結点Y1を通る接線L3と、コア内周面部36dとの連結点Y2を通る接線L4とが交差することで形成される第2交差角θ2が、鈍角となるように設定されている。第2交差角θ2が鈍角とされることで、コア湾曲部36cの内周面がなだらかな曲線で形成され、コア湾曲部36cに高い応力がかかっても応力の分布が一様(すなわち略均一)になり、ロータコア22で応力集中が発生することが抑制される。
【0047】
図3は、ロータ14の回転中にロータコア22のキー部34周辺に作用する応力の分布(応力分布)を、数値シミュレーションによって解析した解析結果を示している。
図3において、紙面上方に位置する斜線が施された部位がロータコア22に対応し、紙面下方に位置する部位がロータシャフト24に対応している。
【0048】
図3のロータコア22において、斜線の網目間隔が細かい部位ほど応力が高いことを示している。従って、ロータコア22のコア湾曲部36cの内周側に向かうほど応力が高くなり、コア湾曲部36cの内周面にかかる応力が最大となる。ロータ14では、ロータコア22のコア内周面部36dとロータシャフト24のシャフト外周面部38dとの間に締め代Gが設定されているため、ロータコア22のコア内周面部36dには外周方向に広げられる方向に荷重がかかる。このとき、コア湾曲部36cにはコア内周面部36d側に引っ張られる方向の引張応力が発生する。また、コア傾斜部36bの接触点Xで回転方向の荷重を受けると、キー部34に対する曲げ荷重が発生する。このとき、キー部34に対する曲げ荷重によってキー部34の根本に曲げ応力が発生する。これより、コア内周面部36d側への引張荷重と、キー部34の根本での曲げ荷重が足し合わされることによって、キー部34の根本すなわちコア湾曲部36cに高い応力が発生する。
【0049】
これに対して、コア傾斜部36bの接触点Xからコア内周面部36dの間の内周面が、曲率半径Rc(Rc1~Rc4等)の異なる複数の曲線がなだらかに繋がる曲線形状に形成されているため、コア湾曲部36cの内周面の応力分布が一様になる。その結果、コア湾曲部36cにおいて応力集中が発生することが抑制される。
【0050】
また、一対のシャフト傾斜部38bを形成する直線を延長した一対の直線L1、L2が交差することで形成される第1交差角θ1が、30度~180度の範囲に設定される。これに関連して、コア傾斜部36bのシャフト傾斜部38bとの接触点Xを通る一対の接線(すなわち直線L1、L2)が交差することで形成される第1交差角θ1についても、30度~180度の範囲になる。第1交差角θ1が上記範囲とされることで、ロータコア22のコア傾斜部36bの接触点Xからコア内周面部36dまでの間における、ロータコア22の内周面をなだらかな曲線形状とすることが可能になる。一方、第1交差角θ1が30度未満になると、コア傾斜部36bの傾斜が急になるため、コア湾曲部36cの内周面の曲線形状の変化が急になってしまう。その結果、コア湾曲部36cにおいて応力集中が発生しやすくなる。
【0051】
上述のように、本実施例によれば、キー部34のキー溝32と対向する部位は、コア底部36a、コア傾斜部36b、およびコア湾曲部36cが連続して繋がるようにして形成され、且つ、コア湾曲部36cとシャフト湾曲部38cとの間に径方向の隙間S2が形成されるため、コア傾斜部36bのシャフト傾斜部38bと接触する接触点Xからコア内周面部36dまでの間の、ロータコア22の内周面をなだらかな曲線で形成することができる。従って、コア湾曲部36cに高い応力が発生した場合であっても、この部位で発生する応力を一様に分布させることができる。その結果、ロータコア22において応力集中が発生することを抑制することができる。
【0052】
また、本実施例によれば、コア傾斜部36bのシャフト傾斜部38bと接触する接触点Xからコア内周面部36dまでの間におけるロータコア22の内周面が、複数の曲率半径Rcの異なる曲線が連続的に繋がることで、なだらかな曲線形状に形成することができる。従って、ロータ14の回転中においてコア湾曲部36cに作用する応力分布が一様になり、ロータコア22で応力集中が発生することを抑制することができる。また、隙間S2の寸法が、0.5mm以下に設定されるため、コア湾曲部36cの内周面をなだらかな曲線形状に形成することができる。また、キー部34を構成する一対のコア傾斜部36bの、シャフト傾斜部38bと接触する接触点Xを通る一対の接線(直線L1、L2)が交差することで形成される第1交差角θ1が、30度から180度未満の範囲に設定されるため、コア傾斜部36bとコア湾曲部36cとの間をなだらかな曲線で繋ぐことができる。
【0053】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0054】
例えば、前述の実施例では、ロータ14には、回転軸線CLを挟んで互いに対向する位置に、2個のキー嵌合部28が設けられていたが、キー嵌合部28の個数は必ずしも2個に限定されない。例えば、3個、4個、またはそれ以上のキー嵌合部28が設けられるものであっても構わない。
【0055】
また、前述の実施例において、コア傾斜部36bの接触点Xからコア内周面部36dまでの間における、ロータコア22の内周面が、曲率半径Rc1~曲率半径Rc4の曲線が連続的に繋がることで形成されていたが、ロータコア22の内周面を形成する曲率半径Rcは、必ずしも曲率半径Rc1~曲率半径Rcの4個に限定されない。例えば、ロータコア22の内周面が、5個以上の曲率半径Rcの曲線が連続的に繋がることで形成されても構わない。要は、複数の曲率半径Rcの曲線が連続的に繋がれることで、ロータコア22の内周面がなだらかに形成されるものであればよい。
【0056】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0057】
14:ロータ
22:ロータコア
24:ロータシャフト(シャフト)
28:キー嵌合部(嵌合部)
32:キー溝
34:キー部
36a:コア底部
36b:コア傾斜部
36c:コア湾曲部
36d:コア内周面部
38a:シャフト底部
38b:シャフト傾斜部
38c:シャフト湾曲部
38d:シャフト外周面部
MG:電動機
CL:回転軸線
S2:隙間
Rc1~Rc4:曲率半径
θ1:第1交差角(交差角)