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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】タンパク質用又は細胞用の添加剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20240820BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20240820BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
C12N1/00 F
C12N1/04 ZNA
C12N15/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022139117
(22)【出願日】2022-09-01
(65)【公開番号】P2023036560
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2021142896
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021163797
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021173568
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金井 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】田尾 文哉
(72)【発明者】
【氏名】荻原 直人
(72)【発明者】
【氏名】金丸 青里香
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2002/016454(WO,A1)
【文献】特開昭61-118313(JP,A)
【文献】特開2005-170810(JP,A)
【文献】特開2009-236906(JP,A)
【文献】特表平03-501446(JP,A)
【文献】米国特許第05630978(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミノ酸残基含有構造単位を有するアミノ酸系重合体(A)を含む、細胞培養用培地添加剤であって、
前記アミノ酸系重合体(A)は、下記一般式(4)~(6)で示されるアミノ酸残基構造を有する単量体(a1)~(a3)のうち少なくともいずれかを含む単量体の共重合により得られる、細胞培養用培地添加剤。
単量体(a1)
【化1】

・・・一般式(4)
単量体(a2)
【化2】

・・・一般式(5)
単量体(a3)
【化3】

・・・一般式(6)
(一般式(4)~(6)中の、Aはアミノ酸残基、XおよびYは、それぞれ独立してOまたはNH、R1はアルキレン基、R2はアルキレン基、1つ以上の水素原子がヒドロキシル基で置換されたアルキレン基、フェニレン基、エステル基、エーテル基、ウレタン結合、アミド結合、またはこれらの組み合わせから構成される非イオン性の2価の基、R3はHまたはCH を示す。)
但し、前記アミノ酸系重合体(A)が、下記[1]又は[2]である場合を除く。
[1]少なくとも下記一般式(7)で表される単量体と下記一般式(8)で表される単量体との共重合により得られる重合体。
【化4】
・・・一般式(7)
(一般式(7)中、R 11 は水素原子又はメチル基を示し、R 12 は単結合又は炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示す。)
【化5】

・・・一般式(8)
(一般式(8)中、R 13 は水素原子又はメチル基を示し、R 14 は水素原子、炭素数1~10の直鎖状、分岐状もしくは環状の、アルキル基、アルコキシル基もしくはアルキルアミノ基、アリール基、又は複素環基を示す。)
[2]下記一般式(9)の1またはそれ以上の繰返単位と、下記一般式(10)の1またはそれ以上の繰返単位とからなる重合体。

【化6】
・・・一般式(9)
【化7】
・・・一般式(10)

(一般式(9)及び(10)中、X(一般式(9)の繰返単位において同一であっても相異なってもよい)及びY(一般式(10)の繰返単位において同一であっても相異なってもよい)は重合体の主鎖を与える炭化水素残基であり、場合により置換されており;
(nまたはqが2またはそれ以上の場合一般式(10)の同一繰返単位において、または一般式(10)の相異なる繰返単位において、同一であっても相異なってもよい)は、水素またはメチル基であり;
(nまたはqが2またはそれ以上の場合一般式(10)の同一繰返単位において、または一般式(10)の相異なる繰返単位において、同一であっても相異なってもよい)は水素またはメチル基であり;但し、単一の単位CHR CHR OにおけるR 及びR の両者が同時にメチル基となり得ず;
(qが2またはそれ以上の場合一般式(10)の同一繰返単位において、または一般式(10)の相異なる繰返単位において、同一であっても相異なってもよい)は、水素、もしくは5個までの炭素原子を含む低級アルキル基、もしくは5個までの炭素原子を含むアルカン酸から誘導されたアシル基であり;
nは1~10の数であり;
pは1~4の数であり;
qは1~4の数であり;
各CO H基は炭化水素残基Xに1個または複数の中介結合Lを経て結合され、そしてpが2~4の場合にはXの同一または相異なる炭素原子にLにより結合されてよく;
Lは1またはそれ以上の中介結合を表わし、そしてLは一般式(9)の繰返単位において同一であっても相異なっていてもよく、1またはそれ以上の直接結合、及びCO H基をXと結合させるために各々1またはそれ以上の原子からなる鎖を与える1またはそれ以上の原子団、から選択され、但し2個よりも多くのCO H基はX中の同一炭素原子に直接に結合され得ず;
各(CHR CHR O)n基は炭化水素残基Yに1個または複数の中介結合Mを経て結合され、そしてqが2~4の場合にはYの同一または相異なる炭素原子にMにより結合されてよく;
Mは1またはそれ以上の中介結合を表わし、そしてMは一般式(10)の繰返単位において同一であっても相異なっていてもよく、1またはそれ以上の直接結合、及び(CHR CHR O)n基をYと結合させるために各々1またはそれ以上の原子からなる鎖を与える1またはそれ以上の原子団、から選択され、但し2個よりも多くのCHR CHR O基はY中の同一炭素原子に直接に結合され得ず;
-(CO H基の数):(-CHR CHR O-基の数)の比は1:20ないし20:1の範囲内である)
【請求項2】
アミノ酸系重合体(A)の質量平均分子量が2,000以上である、請求項1記載の細胞培養用培地添加剤。
【請求項3】
アミノ酸系重合体(A)の濃度が20.0w/v%である水溶液において測定した不凍水の量が、前記重合体(A)1gあたり200mg以上である、請求項1または2に記載の細胞培養用培地添加剤。
但し、上記不凍水の量は、下記の方法によって測定される。
装置:示差走査熱量計(DSC装置;株式会社日立ハイテクサイエンスDSC6200)
測定条件:窒素流量50mL/分、昇温速度5℃/分
温度プログラム:(i)室温から-100℃まで冷却、(ii)-100℃で5分間保持、(iii)-100℃から30℃まで加熱
測定方法:上記(iii)の過程での吸発熱量の測定を行った。
各試料について、DSC測定後にアルミパンにピンホールをあけて真空乾燥後、その重量を測定し、重量減少分を含水量とした。
サンプル毎に、0℃付近の吸熱量から、重合体に拘束されていない自由水の量を求め、-40℃付近における発熱量と-20℃以上の氷点下における吸熱量から中間水の量を求め、上記で求めた各サンプルの含水量(W1-W0)((W0:試料の乾燥重量(g)、W1:試料の含水重量(g))から自由水及び中間水の量を差し引いた量を不凍水の量として求めた。アミノ酸系重合体(A)1gあたりの不凍水の量は、求められた不凍水の量を試料の乾燥重量(W0)で除することにより求めた。
【請求項4】
アミノ酸系重合体(A)が、アミノ酸系重合体(A)を構成する構造単位の合計100質量%に対して、一般式(4)~(6)で示されるアミノ酸残基構造を有する単量体(a1)~(a3)に由来する少なくともいずれかの構造単位を30~100質量%含む、請求項1または2に記載の細胞培養用培地添加剤。
【請求項5】
請求項1または2に記載の細胞培養用培地添加剤を含む、細胞培養用培地。
【請求項6】
アミノ酸系重合体(A)の培地中の濃度が0.001~1質量%である、請求項に記載の細胞培養用培地。
【請求項7】
請求項に記載の細胞培養用培地中で細胞を培養する、スフェロイドまたは生理活性物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質用又は細胞用の添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動物細胞を大量培養することにより、モノクローナル抗体をはじめ有用な生理活性物質(ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、ビタミンやミネラル、酵素、核酸など)を工業的に量産することが非常に多くなってきている。その際には増殖因子として、ウシ胎児血清(FBS)などの動物血清が頻繁に使用される。具体的にはRPM11640、イーグルMEM、Ham’sF12などの合成基礎培地に10~20体積%程度のウシ胎児血清(FBS)などの動物血清を添加した培養液が一般に用いられる。
【0003】
しかしながら、ウシ胎児血清(FBS)などの動物血清は、その供給に制限があり、一般的に高価なものである。これにより、培地のコスト上昇を招き、生理活性物質の製造コストの上昇へとつながる。また、血清由来のタンパク質を含む培養液から目的とする生理活性物質を単離することが困難になる欠点にもつながる。さらに、血清にはロット間に品質のばらつきがみられる。そこで血清の使用に先立ってロットチェックを十分に行い、使用可能な血清を選択する必要があるが、この血清の選択には多くの労力を要する。それに加え、動物由来の血清に関しては、狂牛病、ウシ海綿状脳症、感染性海綿状脳、更にはクロイツフェルト・ヤコブ病といったプリオン関連の疾患に関する問題点の他、動物由来の血清はオートクレーブなどで滅菌できないため、ウイルス又はマイコプラズマ汚染される可能性があり、感染症などのリスク(安全性面)の問題が生じる。
【0004】
上記の問題を解決すべく、血清を用いない培地(無血清培地)の検討が行われてきた。
例えば、特許文献1には、グリシルグリシンを培地に添加することで、動物細胞に高濃度に有用物質を生産させることができることが開示されている。また、特許文献2には、リン脂質類似構造を有するポリマーを含有する培地で細胞培養した場合に、生理活性物質を効率的に生産できることが開示されている。また、特許文献3には、疎水性D-アミノ酸を含有する培地が、細胞増殖を促進させ、有用物質の生産量を増大させることが開示されている。
しかし、このような血清代替物を含む培地の多くは、抗体産生細胞の増殖性、生存性および抗体生産性の面で血清含有培地に比べて十分なものとは言えない。さらに血清代替物も天然物由来のものが多く、供給制限があり、一般的に高価である。
以上のことから、ウシ胎児血清(FBS)に代わる血清代替物の開発が期待されている。
【0005】
また、近年バイオテクノロジーの発達とともに、生物の遺伝子資源の確保が重要にとなり、動物、植物、微生物等の細胞や組織を永久的に保存することが必要とされるようになった。従来、動物細胞を凍結保存する場合、下記の課題が挙げられる。
多くの動物細胞を長期間良好な状態で保存するには、―130℃以下で(水のガラス化温度以下)の凍結保存が必要とされており、温度上昇した場合は細胞の機能低下を招く。そのため、凍結細胞を輸送する際は冷却手段として液体窒素を利用した極低温輸送の形態が採用されているがコストが高い問題がある。そこで、細胞を機能低下せずに低コストで長時間輸送が可能な細胞保存液の開発が望まれている。例えば、特許文献4には、間葉系幹細胞を、ヒドロキシエチルデンプン(HES)及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含む凍結保存液を用いて凍結し、この凍結細胞を―80℃で保存しても、解凍後の生存及び増殖能が維持できることが記載されている。この方法を用いることで、間葉系幹細胞を機能低下させずにドライアイス輸送が可能である。しかし、この凍害保護液には、血清アルブミンまたは血清が含まれることが多かった。血清の構成成分は、未だ完全に解明されておらず、その上、凍結保存中に動物細胞に何らかの変異を促す病原体ウイルス等が存在するリスクもある。また、平成25年6月に、欧州医薬品庁の医薬品安全監視リスク評価委員会より、製剤の安全性に関する問題が示された海外臨床試験の結果を根拠としてHES製剤の販売承認停止勧告が発表されている。よって、血清を使用することなく長時間の輸送が可能な凍結保存液が求められていた。
【0006】
細胞凍結保存には、DMSO、グリセリン、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)を含む低分子溶剤が使用されている。これらは、細胞の凍結時に、氷晶が細胞内にできることを防ぐために効果的だと考えられ、また、細胞膜透過性であり、細胞の脱水を促進させることによって、氷の結晶速度を遅らせ、氷晶形成を阻害する。しかし、DMSOを含む場合は、細胞毒性を低減するために、解凍した細胞を洗浄するなどの処理が必要であった(特許文献7)。また特に、DMSOを使用することで、多能性幹細胞であるOct-4の遺伝子発現量が低下したことが報告されている。(非特許文献2)
【0007】
近年は細胞を3次元培養し、様々な形態の細胞スフェロイド(3次元培養した細胞凝集物)を形成することに注目が集まっている。3次元培養したスフェロイドでは、平面培養した細胞とは異なる機能を発揮することが知られている。細胞スフェロイドは、生体により近い細胞環境にあり、生体内の細胞機能を発揮できると考えられていることから、細胞スフェロイドを用いた解析や、スフェロイドの応用技術について活発に研究が行われている。スフェロイドでは細胞―細胞がギャップジャンクションにより連結されており、内部の細胞まで凍結保護物質が均一に拡散しにくく、スフェロイド内部と周辺部で凍結に時間差が起きてしまう。これにより、細胞間接着のねじれや破壊等を生じ、単一細胞を凍結するときに比べ複雑な要素が絡みあうことにより、スフェロイドの凍結効率の低下が懸念されている。実際に、10v/v%DMSOを含有する凍結保護剤中で、ヒトES細胞やiPS細胞コロニー(2次元培養した細胞凝集物)を分散し、単一細胞と同様条件で緩慢凍結を行うと、解凍後の生存率が非常に低いことが報告されている(非特許文献2)。
【0008】
また、特許文献7では、ポリアミノ酸であるポリリジンのアミン基を無水コハク酸で変性したポリマーを細胞凍結保存剤として、プロピレングリコールと併用し、解凍後の生存効率を示した。更には、ヒト間葉系幹細胞やヒト脂肪由来幹細胞の未分化性を維持することが報告されている。これは、ポリリジンが、アミン基により細胞膜親和性を持ち、細胞の保護効果を果たすことに加え、カルボキシル基のマイナス電荷が細胞膜との親和性を低減されるため、細胞膜に対して非常に弱い相互作用を示し、毒性を与えずに細胞膜保護による凍害防御効果を示すことが要因と考えられる。しかし、特許文献7のポリリジンの合成プロセスが複雑であり、工業化の観点ではコストがかかるという問題があった。
【0009】
更に、幹細胞の中でもES細胞やiPS細胞は、培地成分やストレスなどによって容易に未分化状態を逸脱して分化してしまう。凍結保存液に含まれるDMSOもこのような分化因子として働くことが懸念されている。DMSOを含まない比較データは開示されていないものの、例えば、10v/v%DMSOを凍結保存液として用いた例で凍結保存後の未分化マーカー遺伝子の発現低下が報告されている(非特許文献2)。そこで、低分子溶剤の低減により、低毒性の細胞保存液の開発も望まれる。
【0010】
このような3次元培養した細胞凝集物の凍結方法として、体性細胞に比べる大きいマウス受精卵のガラス法(EG15v/v%、DMSO10v/v%、スクロース0.5Mを用いて、細胞の内部を脱水置換し、一気に液体窒素温度に低下することで細胞全体をガラス化させ固定させる手法)を改良したガラス法が開発された(非特許文献3)。しかし、この手法では、ガラス液が、DMSO/アセトアミド/PG=2/1/3[M]の混合液であり、非常に濃厚で浸透圧の高い溶液であった。そのため、細胞を懸濁して15秒や30秒で液体窒素に浸漬する必要があり、1分放置するだけでほとんどの細胞は死滅してしまう。また、解凍時にガラス化していた水が再結晶化を起こす危険性があるため、解凍をできるだけ急激に行う必要があり、操作が煩雑である。さらに、その輸送容器(液体窒素を細孔に閉じ込めた金属容器)は非常に大きく、輸送費が高額になる問題もある。その上、ガラス法により、一個ずつのコロニーや受精卵を凍結することは可能であったが、大量の細胞凝集物の凍結には不向きであった。そこで、より簡易で効率の高い凍結方法の開発が期待されている。
【0011】
一方で、従来、細胞凍結保存液には糖類と低分子溶剤の併用が多く提案されている。例えば、グリセリン20~70w/v%及びショ糖(スクロース)10~70w/v%及び所望により多価アルコール5~10w/v%を含有する水溶液からなる凍害防御液を使用した植物細胞の凍結保存方法(特許文献5)、EG、D―MEM、アルブミン、糖類を併用した凍結保存液を使用した幹細胞の凍結保存方法(特許文献6)等が報告されている。しかし、特許文献5、6に記載の方法では、植物または幹細胞のような特定細胞にしか適用できず、上記の課題を全て解決することができなかった。
【0012】
また、モノクローナル抗体をはじめとする生理活性物質はタンパク質であり、その安定性に課題がある。タンパク質はポリペプチド鎖内のファンデルワールス相互作用、水素結合、静電的相互作用などの非共有結合性の弱い極性相互作用によって高次構造が維持されており、このような高次構造により様々な機能が発現されている。これらの結合は外的なさまざまな要因(温度、pH、塩濃度、タンパク質自身の濃度、界面活性剤、変性剤、二価金属、プロテアーゼの共存)によって変化し、場合によってはタンパク質の構造が壊れて本来の機能が失われた状態となる。そのため、タンパク質の安定性は機能的な高次構造を維持する能力と言い換えることができる。
【0013】
このような理由からタンパク質を水溶液中で安定化させる必要があり、緩衝溶液中で常に所定の温度にして保存するなど保管条件の最適化や、安定化剤(アルブミンなど他のタンパク質、グリセロース・ポリエチレングリコール・スクロースなどの多価アルコール、グルタミン酸・リジンなどのアミノ酸、グルタチオン・ジチオトレイトールなどの還元剤、EDTAなどの金属キレート剤、クエン酸などの有機酸塩、重金属塩、基質、補酵素)を単独又は併用しての使用が検討されている(非特許文献4)。
【0014】
特に合成化合物の安定化剤としては、例えば、特許文献8にはホスホリルコリン基を有する重合体、特許文献9にはポリエチレングリコール部位を有する高分子化合物、特許文献3には低分子アミンオキシド化合物、特許文献11及び特許文献12には両性イオンポリマー、を使用する方法が開示されている。
しかし、これらの方法はタンパク質の種類によっては、保持率や安定期間が満足できるものではない場合があり、更なる改良が求められている。
【0015】
また、生化学分析の分野では、抗原抗体反応による特異吸着を利用し、DNAやタンパク質を検出し可視化する方法が、サザンブロッティング法、ウエスタンブロッティング法、ELISA法、免疫染色法等として広く知られている。抗体は、標的タンパク質以外とも非特異的な吸着反応を起こす。このような非特異的吸着を防ぐために、検出・測定対象表面を、非特異的な吸着は防ぐけれど特異的吸着は妨げないようなブロッキング剤を覆うような前処理が行われる。
【0016】
ブロッキング剤としては、正常血清、ウシ血清アルブミン、ゼラチン、スキムミルクのような生体由来のタンパク質が知られている(特許文献13、非特許文献5)。
また、ブロッキング剤としては、TWEEN(登録商標)20と称される界面活性剤、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリロイルモルホリンとその他のモノマーとの共重合体なども知られている(特許文献14、15、16)。
また、ホスホリルコリン基を側鎖に有する共重合体を用いたブロッキング剤も検討されている(特許文献17、非特許文献6)。
【0017】
しかし、特許文献13や非特許文献5に開示されるような生体由来のタンパク質は、強いブロッキング作用がある一方で、抗原抗体反応の阻害作用があるなど性能にばらつきが生じやすいという潜在的な課題を有している。ところで、ブロッキング剤には、染色の標的であるタンパク質に染色剤が特異吸着し、発色する際、その発色を妨げないと共に、標的以外のタンパク質を覆い、標的以外のタンパク質には染色剤が吸着せずに発色しないことが求められる。しかし、特許文献14~16に開示される界面活性剤等は、標的のタンパク質に対する染色剤の特異吸着による発色を妨げたり、標的以外のタンパク質を十分には覆えず、標的以外のタンパク質にも染色剤が吸着し、発色してしまったりするなどの課題を有している。さらに、特許文献17に開示される共重合体は、原料のモノマー合成時に複数の反応やそれに伴う精製が必要であるなど生産性に問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開平7-23780号公報
【文献】特開平4-304882号公報
【文献】特開2015-027265号公報
【文献】特開2020―39326
【文献】特開平6―292564
【文献】特開2019―154329
【文献】特開2011-30557
【文献】特開平10-45794号公報
【文献】特開平10-237094号公報
【文献】特表2007-509164号公報
【文献】国際公開第2019-131757号
【文献】特開2021-3020号公報
【文献】国際公開第2016/052690号
【文献】特開2004-219111号公報
【文献】特開平04-019561号公報
【文献】特開2008-209114号公報
【文献】特開平7-083923号公報
【非特許文献】
【0019】
【文献】Katkov et al., Cryobiology, 2006, 53(2).194-205
【文献】Nishigaki T, Teramura Y, SuemoriH,Iwata H, Cryobilogy 2010;6:159-164
【文献】Fujioka T, Yasuchika K, Nakamura Y, Nakatsuji N, Suemori H, Int. J. Dev. Biol. 2004, 48: 1149-1154
【文献】新生化学実験講座1 タンパク質I 分離・精製・性質 16章
【文献】「渡辺・中根 酵素抗体法」学際企画株式会社刊 2002年
【文献】高分子論文集 第35巻 7号 423(1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の課題は、優れた添加剤を提供することにある。
【0021】
また、本発明の課題は、タンパク質の機能を損なうことなく安定保管が可能な、タンパク質安定化剤を提供することにある。また、該タンパク質安定化剤を用いたタンパク質の安定化方法を提供することにある。
【0022】
また、本発明の課題は、抗原抗体反応を利用した免疫染色および免疫測定において、非特異反応を防止し、かつ測定の妨げとならない優れたブロッキング効果を示すものであって、かつ、検出感度を向上させ、しかも性能にばらつき差が生じにくい、ブロッキング剤を提供することを目的とする。また、該ブロッキング剤を用いた免疫染色方法および免疫測定方法を提供することにある。
【0023】
また、本発明の課題は、血清を使用することなく、動物細胞培養時における生理活性物質の高産生化に適した細胞用培地添加剤を提供することにある。さらに、本発明は、該細胞用培地添加剤を含有する培地を用いた生理活性物質の製造方法も提供する。
【0024】
また、本発明は血清を使用することなく、細胞毒性が低く、細胞凝集物の凍結にも利用可能な凍結保存液、および簡易で効率の高い細胞の凍結保存方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
〔1〕タンパク質用又は細胞用の添加剤であって、アミノ酸残基含有構造単位を有するアミノ酸系重合体(A)を含む、添加剤。
〔2〕アミノ酸系重合体(A)の質量平均分子量が2,000以上である、請求項1記載の添加剤。
〔3〕アミノ酸系重合体(A)の濃度が20.0w/v%である水溶液において測定した不凍水の量が、前記重合体1gあたり200mg以上である、〔1〕または〔2〕に記載の添加剤。
〔4〕アミノ酸系重合体(A)が、下記一般式(1)~(3)で示される少なくともいずれかの構造単位を有する、〔1〕または〔2〕に記載の添加剤。
【化1】
・・・一般式(1)
【化2】
・・・一般式(2)
【化3】
・・・一般式(3)
(一般式(1)~(3)中の、Aはアミノ酸残基、XおよびYは、それぞれ独立してOまたはNH、R1はアルキレン基、R2はアルキレン基、1つ以上の水素原子がヒドロキシル基で置換されたアルキレン基、フェニレン基、エステル基、エーテル基、ウレタン結合、アミド結合、またはこれらの組み合わせから構成される非イオン性の2価の基を示す。)
〔5〕アミノ酸系重合体(A)が、アミノ酸系重合体(A)を構成する構造単位の合計100質量%に対して、一般式(1)~(3)で示される少なくともいずれかの構造単位を30~100質量%含む、〔1〕または〔2〕に記載の添加剤。
〔6〕タンパク質安定化剤またはブロッキング剤である、〔1〕または〔2〕に記載の添加剤。
〔7〕アミノ酸系重合体(A)の濃度が、0.01~30.0w/v%である、〔6〕に記載の添加剤。
〔8〕〔6〕に記載のタンパク質安定化剤と、タンパク質とを共存させる、タンパク質の安定化方法。
〔9〕抗原または抗体を含む担体に〔6〕に記載のブロッキング剤を処理する工程を含む、免疫測定方法。
〔10〕担体がラテックス粒子である、〔9〕に記載の免疫測定方法。
〔11〕〔6〕に記載のブロッキング剤で一部または全部が被覆された、標的物質に対する抗原または抗体を含む担体。
〔12〕〔7〕に記載の担体を備えた、免疫測定のためのキット。
〔13〕〔1〕または〔2〕に記載の添加剤を含む、細胞用培地。
〔14〕アミノ酸系重合体(A)の培地中の濃度が0.001~1質量%である、〔13〕に記載の細胞用培地。
〔15〕〔13〕に記載の細胞用培地中で細胞を培養する、スフェロイドまたは生理活性物質の製造方法。
〔16〕細胞凍結保護剤である、〔1〕または〔2〕に記載の添加剤。
〔17〕〔16〕に記載の細胞凍結保護剤を含む、細胞凍結保存液。
〔18〕さらに低分子溶剤を含み、浸透圧は500~2500mOsm/kgである、〔17〕に記載の細胞凍結保存液。
〔19〕アミノ酸系重合体(A)の濃度は、0.1~30.0w/v%である、〔17〕に記載の細胞凍結保存液。
〔20〕低分子溶剤がジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、エチレングリコールおよびグリセリンからなる群より選択された少なくとも一種であり、低分子溶剤の含有量が5.0w/v%以下である、〔17〕に記載の細胞凍結保存液。
〔21〕〔17〕に記載の細胞凍結保存液と細胞とを混合する工程と、細胞凍結保存液と細胞との混合物を凍結する工程と、を含む、細胞の凍結方法。
〔22〕〔17〕に記載の細胞凍結保存液を用いて凍結された、スフェロイド。
〔23〕〔17〕に記載の細胞凍結保存液を用いて凍結された、オルガノイド。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、優れた添加剤を提供することができる。
【0027】
本発明の添加剤を利用した細胞用培地添加剤は、該添加剤を細胞用培地に添加し、得られた培地を用いて、生理活性物質の産生可能な細胞を培養した際に、生理活性物質の生産量を増大させることが可能である。特にDNA量あたりの生理活性物質の産生性を高めることができる。また、本発明の細胞用培地添加剤を添加することにより、所望の生理活性物質の産生性を促進することができるため、製造コストや手間を少なくすることができる点でも有用である。例えば、抗体の場合では抗体医薬品などのバイオ医薬品の製造に関して、大量供給に大きく貢献することができる。
【0028】
本発明の添加剤を利用した細胞凍結保護剤は、血清などの動物由来成分を使用することなく、細胞毒性が低く、細胞凝集物の凍結にも利用可能な凍結保存液、および簡易で効率の高い細胞の凍結保存方法を提供することができる。
【0029】
本発明の添加剤を利用したタンパク安定化剤は、アミノ酸残基含有構造単位を有し、かつ質量平均分子量が2,000以上であるアミノ酸系重合体を用いることで、タンパク質の機能を損なうことなく安定保管が可能な、タンパク質安定化剤を提供することできる。また、該タンパク質安定化剤とタンパク質とを共存させることで、タンパク質の機能を損なうことなく安定保管が可能な、タンパク質の安定化方法を提供することができる。
【0030】
また、本発明の添加剤を利用したブロッキング剤は、抗原抗体反応を利用した免疫測定法において、従来よりも広範囲の測定対象の場合の非特異的反応をブロッキングすることができる。すなわち、従来のブロッキング剤または方法では、目的物質の測定が阻害されるような場合であっても、アミノ酸残基含有構造単位を有し、かつ質量平均分子量が2,000以上であるアミノ酸系重合体を用いたブロッキングによれば、十分なブロッキング効果が得られ、そのような目的とする測定が阻害されることなく実施することができる。さらに、アミノ酸系重合体は、ウシ由来成分であるBSAの使用に伴うBSEの発病リスク懸念もなく、生体由来特有のロットによる性能ばらつきの懸念もなく、安定して機能を発現できる。このブロッキング剤を用いることにより、感度よくウエスタンブロッティングや免疫組織染色、ELISA法、イムノクロマト法などの抗原抗体反応を利用した生化学分析を行うことが可能になる。例えば、免疫組織染色では、基材表面に固定した病理組織に、本発明の生化学分析用ブロッキング剤を接触させた後、前記病理組織中の抗原に染色用抗体を吸着させて前記抗原を検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の添加剤は、アミノ酸残基含有構造単位を有するアミノ酸系重合体(A)を含むことを特徴とする。
【0032】
<アミノ酸系重合体(A)>
【0033】
本発明において、アミノ酸系重合体(A)は、アミノ酸残基含有構造単位を有する重合体であり、アミノ酸残基構造を有する単量体を含む単量体組成物の重合体であることが好ましい。アミノ酸残基構造を有する単量体としては、アミノ酸およびアミノ酸誘導体のアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、またはその他の反応性基を介してエチレン性不飽和基を導入したエチレン性不飽和単量体が好ましい。
【0034】
アミノ酸は、D体またはL体、またはその混合物であるDL体やラセミ体のいずれであってもよく、特に生体を構成するアミノ酸であることから、L-アミノ酸が好ましい。その中でも、生体を構成するアミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、トレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリンからなる群より選ばれる一種以上がより好ましい。
アミノ酸誘導体としては、アミノ酸のアミノ基、カルボシキル基、またはその他の官能基のどれか1つの水素原子が別の官能基に置換されたものであり、これらの置換基を介してエチレン性不飽和基を導入することもできる。置換基としては特に限定されないが、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等を有するアルキル基が好ましい。
アミノ酸およびアミノ酸誘導体は保護されたものでもよいが、最終的には脱保護されていることが好ましい。
【0035】
アミノ酸系重合体(A)は、アミノ酸系重合体(A)の濃度が20w/v%である水溶液において測定した不凍水量が、アミノ酸系重合体1gあたり200mg以上であることが好ましく、250mg以上であることがより好ましい。不凍水とは―100℃以下でも凍結しない水のことであり、この量が多いほど、細胞を凍結した際に氷の結晶成長による物理的なダメージを回避できる。一定量以上の不凍水を含有することで、細胞の細胞膜外での安定な水和状態を維持し、低分子溶剤による高い浸透速度を制御し、細胞の凍結保存性を向上することができる。
【0036】
<質量平均分子量(Mw)>
アミノ酸系重合体(A)の質量平均分子量は、2,000以上であることが好ましく、5,000~100,000であることがより好ましい。質量平均分子量が2,000以上であることにより、タンパク質安定化剤及びブロッキング剤として用いた際に、タンパク質の標的以外への非特異吸着を抑制できる。また、細胞用添加剤として用いた際に、細胞内への取り込みを抑制できる。質量平均分子量が100,000以下であることにより、水溶液とすることができ、培地等への溶解性が向上する。さらに、増粘作用を低下させ、ゲル化等の不具合を防ぐことができ、ピペット操作などの取り扱いが容易になる。
アミノ酸系重合体(A)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリエチレングリコール換算で計測した値を採用する。
【0037】
アミノ酸系重合体(A)は、アミノ酸残基含有構造単位として、一般式(1)~(3)で示される少なくともいずれかの構造単位を側鎖に有することが好ましい。当該構造単位は、アミノ酸系重合体を構成する構造単位の合計100質量%に対して、合計30~100質量%含まれることが好ましく、40~100質量%がより好ましく、50~100質量%がより好ましい。上記の範囲であることにより、細胞表面の膜タンパク質やリン脂質との相互作用が容易になり、細胞の抗体産生性をはじめとする性能をより向上させることができる。また、細胞の凍結保存性がより向上する。さらに、タンパク質と共存させた際に、好適な水溶性を発現するとともに、極性が制御され、周囲の環境を適切に制御することができ、タンパク質安定性が向上する。
【化4】
・・・一般式(1)
【化5】
・・・一般式(2)
【化6】
・・・一般式(3)
【0038】
式(1)~(3)中の、Aはアミノ酸残基、XおよびYは、それぞれ独立してOまたはNH、R1はアルキレン基、R2はアルキレン基、1つ以上の水素原子がヒドロキシル基で置換されたアルキレン基、フェニレン基、エステル基、エーテル基、ウレタン結合、アミド結合、およびこれらの組み合わせから構成される非イオン性の2価の基を示す。
【0039】
アミノ酸残基としては、前述したアミノ酸またはアミノ酸誘導体由来の構造であれば特に限定されないが、アミノ酸およびアミノ酸誘導体のアミノ基、カルボシキル基、またはその他の官能基のどれか1つの水素原子を除いた1価の基が挙げられる。
【0040】
R1のアルキレン基としては、直鎖、分岐または環状のアルキレン基が挙げられ、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン、1,2-シクロヘキセン基、1,3-シクロヘキセン基、1,4-シクロヘキセン基、2-メチルプロペン基等が挙げられる。好ましくは炭素数が1~6のアルキレン基である。
R2のアルキレン基としては、R1と同様のものが挙げられ、それに加え、1つ以上の水素原子がヒドロキシル基で置換されたアルキレン基も挙げられる。
R2のフェニレン基としては、オルト-フェニレン基、メタ-フェニレン基、パラ-フェニレン基が挙げられる。
R2のエステル基としては、エステル基、チオエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、硝酸エステル基、炭酸エステル等が挙げられる。
R2のエーテル基としては、エーテル結合のほか、ポリエーテル基であってもよく、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、テトラメチレングリコール基が挙げられ、これらが2つ以上連続した構造でも構わない。
上記以外にも、R2はウレタン結合やアミド結合でもよく、これらの置換基から2種類以上の組み合わせから構成されてもよい。
【0041】
アミノ酸系重合体は、水溶性であることが好ましく、使用するアミノ酸系単量体や他の単量体によって水溶性を適宜調整することができる。本発明において水溶性とは、25℃のイオン交換水中99g中に樹脂を1g入れて撹拌し、25℃で24時間放置した後、分離・析出せずに水中で樹脂が完全に溶解可能であることを指す。
【0042】
一般式(1)または(3)で示される構造単位は、アミノ酸系重合体の水溶性の調整が容易である点で好ましい。アミノ酸系重合体(A)の水溶性の観点からは、一般式(2)で示される構造単位は、アミノ酸系重合体(A)を構成する構造単位の合計100質量%に対して、75質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0043】
アミノ酸系重合体(A)は、下記一般式(4)~(6)で示されるアミノ酸残基構造を有する単量体(a1)~(a3)のうち少なくともいずれかと、必要に応じて他の単量体とを共重合することでも得ることができる。本明細書において、このような1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、アミノ酸残基構造とを有する単量体をアミノ酸系単量体という。
単量体(a1)
【化7】
・・・一般式(4)
単量体(a2)
【化8】
・・・一般式(5)
単量体(a3)
【化9】
・・・一般式(6)
【0044】
一般式(4)~(6)中の、Aはアミノ酸残基、XおよびYは、それぞれ独立してOまたはNH、R1はアルキレン基、R2はアルキレン基、1つ以上の水素原子がヒドロキシル基で置換されたアルキレン基、フェニレン基、エステル基、エーテル基、ウレタン結合、アミド結合、またはこれらの組み合わせから構成される非イオン性の2価の基、R3はHまたはCHを示す。
【0045】
アミノ酸系単量体(a1)は、例えば、アミノ酸またはアミノ酸誘導体と、一分子中にハロゲン化アルキルおよび(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを反応させることで得られる。このようなアミノ酸系単量体(a1)の好ましい製造方法としては、例えば、氷冷下でアミノ酸またはアミノ酸誘導体を含む水溶液に(メタ)アクリロイルクロライドを滴下して合成することができる。保護基で保護されたアミノ酸を使用する場合は、上記の反応後、脱保護することが好ましい。
【0046】
アミノ酸系単量体(a2)は、例えば、アミノ酸またはアミノ酸誘導体と、1分子中にスチレン骨格とハロゲン化アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体とを反応させることで得られる。
このようなアミノ酸系単量体(a2)の好ましい製造方法としては、例えば、保護アミノ酸と、必要に応じて塩基性化合物とをあらかじめプロトン性溶媒に溶解させた後、1分子中にスチレン骨格とハロゲン化アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体を添加して反応させて保護アミノ酸系単量体を前駆体として合成する。保護アミノ酸系単量体は脱保護させて、アミノ酸系単量体にすることが好ましい。また、保護アミノ酸に代えてプロリンを使用してアミノ酸系単量体(a2)を得ることもできる。
1分子中にスチレン骨格とハロゲン化アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、クロロメチルスチレン、クロロエチルスチレン、クロロプロピルスチレン、クロロブチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ブロモエチルスチレン、ブロモプロピルスチレン、ブロモブチルスチレン等が挙げられる。これらは、オルト体、メタ体、パラ体等の構造異性体を含んでいても構わない。
【0047】
アミノ酸系単量体(a3)は、例えば、アクリロイル基を有する2官能のエチレン性不飽和単量体のアクリロイル基にアミノ酸のアミノ基をマイケル付加反応させる事で得る事ができる。
【0048】
二官能のエチレン性不飽和単量体としては、1分子中に2つのアクリルロイル基を有するエチレン性不飽和単量体と、1分子中に1つのアクリロイル基と1つのメタクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられる。
1分子中に2つのアクリロイル基を有する2官能のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社製、ライトアクリレート4EG-A、9EG-A、14EG-A)、3-メチル―1,5-ペンタンジオールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、2-ブチル―2-エチル―1,3-プロパンジオールジアクリレート等が挙げられる。
【0049】
1分子中に1つのアクリルロイル基と1つのメタクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、メタクリロイルクロリドとヒドロキシル基含有アクリレート、もしくはアクリロイルクロリドとヒドロキシル基含有メタクリレートのエステル化反応により得られる二官能のエチレン性不飽和単量体、カルボキシル基含有アクリレートとグリシジル基含有メタクリレートもしくは、カルボキシル基含有メタクリレートとグリシジル基含有アクリレートの開環反応により得られる2官能のエチレン性不飽和単量体、イソシアネート基含有アクリレートとヒドロキシル基含有メタクリレートもしくは、イソシアネート基含有メタクリレートとヒドロキシル基含有アクリレートの付加反応により得られる2官能のエチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
これらの2官能のエチレン性不飽和単量体は、上記の1官能のエチレン性不飽和単量体の組み合わせで、反応させて合成しても構わないし、市販品を使用しても構わない。
ヒドロキシル基含有アクリレート(c-1)としては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル2-ヒドロキシエチルフタル酸、ポリエチレングリコールモノアクリレート(日油製、ブレンマーAE-90U、AE-200、AE-400)ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製、ブレンマーAP-200、AP-400、AP-550、AP-800)、ポリエチレングリコール―ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製、ブレンマーAEP)、ヒドロキシルエチルアクリルアミドなどが挙げられる。
ヒドロキシル基含有メタクリレート(c-2)としては、例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-メタクリロイロキシエチル2-ヒドロキシエチルフタル酸、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製、PE-90、PE-200、PE-350)ポリエチレングリコールモノメタクリレート(ブレンマーPP-1000、PP-500、PP-800)ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールものメタクリレート(日油製、ブレンマー50PEP-300、70PEP-350B)、ヒドロキシルエチルメタクリルアミドなどが挙げられる。
カルボキシル基含有アクリレート(d-1)としては、例えば、アクリル酸、2-アクリロイロキシエチルコハク酸、2-アクリロイロキシエチルフタル酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
カルボキシル基含有メタクリレート(d-2)としては、例えば、メタクリル酸、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
グリシジル基含有メタクリレート(e-1)としては、例えば、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。グリシジル基含有アクリレート(e-2)としては、例えば、グリシジルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。
イソシアネート基含有アクリレート(f-1)としては、例えば、2-イソシアナトエチルアクリレート等が挙げられる。イソシアネート基含有メタクリレート(f-2)としては、例えば、2-イソシアナトエチルメタクリレート、昭和電工社製、カレンズMOI-EG等が挙げられる。
【0050】
上記で挙げた2官能のエチレン性不飽和単量体の中でも、1分子中に1つのアクリロイル基と1つのメタクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体である事が好ましい。2つのアクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体では、2つともアミノ酸が付加された副生成物も同時に生成する。したがって、一方のアクリロイル基だけにアミノ酸が付加された目的物の収率は下がってしまう。一方で、1分子中に1つのアクリロイル基と1つのメタクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体では、アミノ酸がアクリロイル基に対して選択的に付加するため、メタクリロイル基だけが残った目的物をより高収率で得る事ができる。
【0051】
<単量体(b)>
アミノ酸系重合体を得る際に、アミノ酸系単量体(a1)~(a3)の他に、1分子中に1つのエチレン性不飽和基を有するその他の単量体(b)を共重合させることができる。
例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐、脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和モノマー;
1-プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどのα-オレフィン系エチレン性不飽和モノマー;
スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等の芳香族エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレンレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン親水性骨格含有の不飽和モノマーが挙げられる。
その他の単量体(b)は、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて適宜使用でき、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
<アミノ酸系重合体(A)の製造方法>
アミノ酸系重合体(A)は、例えば、アミノ酸系単量体(a1)~(a3)と、必要に応じて1分子中に1つのエチレン性不飽和基を有するその他の単量体(b)を使用して、通常の溶液重合により得られる。製造方法としては、下記の例が挙げられる。
窒素ガス導入管、コンデンサー、および撹拌機を備えた反応容器に、アミノ酸系ビニルモノマー、必要に応じてその他の単量体(b)と溶剤を仕込み、窒素置換しながら70~80℃に昇温する。モノマー成分の濃度は、反応時間の短縮と重合時の発熱を考慮して20~50重量%の範囲で行なう事が好ましい。窒素置換後、開始剤を添加し、還流条件下で反応させた。反応時間は、反応率(転化率)や残留モノマー成分の低減を考慮して5~24時間の範囲である事が好ましい。反応率(転化率)は98%以上とすることが好ましい。反応の終了や残留モノマーの確認は、ガスクロマトグラフィーなどの一般的な分析方法で確認する事ができる。反応終了後、冷却して目的のアミノ酸系重合体を得ることができる。
【0053】
重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限なく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。
【0054】
油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリルなどのアゾビス化合物を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。
水溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。
【0055】
重合時に使用する溶媒としては、アミノ酸系単量体を溶解するものであれば、任意のものを使用する事ができるが、重合後の除去を考慮すると、水、アルコール溶剤を使用する事が好ましい。また、アミノ酸系単量体を得る際に使用したアルコール溶剤は、そのまま重合工程に進む場合には、反応系から除去せずに重合時の溶剤としても使用する事も可能である。
【0056】
<タンパク質安定化剤またはブロッキング剤>
本発明の添加剤は、タンパク質安定化剤またはブロッキング剤としても有用である。以下に、タンパク質安定化剤及びブロッキング剤としての用途について述べる。
<タンパク質安定化方法>
本発明のタンパク質安定化剤と、タンパク質とを共存させることにより、タンパク質を安定に保管することができる。安定化剤とタンパク質とは、共通の溶媒に溶解又は分散させることで共存させることができる。
【0057】
安定化剤とタンパク質とを共存させる溶媒は水系の溶媒が好ましい。例えば、水やリン酸緩衝生理食塩水やトリス緩衝生理食塩水があげられる。水はメタノールやエタノール、プロピルアルコール、テトラヒドロフランなど水と混合できる有機溶剤を一部含んでもよい。
【0058】
本発明の安定化剤は、タンパク質に対して質量で100倍共存させることが好ましく、更に好ましくは10,000倍共存させることである。安定化剤の添加量が十分であると、適切な安定化効果が発現できる。同じ理由から、安定化剤の含有率は溶液の全量に対して好ましくは0.01w/v%以上、更に好ましくは0.1w/v%以上である。
【0059】
<免疫測定方法>
本発明のブロッキング剤を使用することで、免疫測定法において非特異的な反応を抑制することができる。本発明において、ブロッキングとは、免疫測定法において、検体中の標的物質(抗原または抗体)と該標的物質に対する抗原または抗体との抗原抗体反応以外に起因する非特異的な吸着を防止すること、また上記非特異的な吸着による担体の凝集の発生を防ぐことをいう。なお、検体中の標的物質が標的物質に対する抗原または抗体を介さずに担体に吸着すると測定値の異常が発生することがあり、それを防ぐことも含む。上記免疫測定法としては、ラテックス凝集法、ELISA法、化学発光法、免疫比濁法(TIA)法、放射免疫測定(RIA)、イムノクロマトグラフィー等による診断が挙げられる。
また、本発明において、ブロッキングとは、検体が病理組織であって病理組織中に含まれる抗原と前記抗原に対する抗体との抗原抗体反応以外に起因する非特異的な吸着を防止することを含む。このような免疫測定法としては、免疫染色法等が挙げられる。
【0060】
検体としては、通常、血清や血漿、尿、唾液等の各種生物学的液体サンプル、糞便や食品の検体粉砕物、病理組織等が挙げられる。測定サンプルとして、pH緩衝液、タンパク質、アミノ酸等で検体を希釈した検体希釈液を用いてよい。
【0061】
担体は、該標的物質に対する抗原または抗体や、標的物質(抗原または抗体)を固定化できるものであれば特に限定されないが、ELISA用プレート、イムノクロマトグラフィー用メンブレン、ラテックス粒子、金コロイド等が挙げられる。免疫染色法の場合は検体である病理組織を固定できる基材であればよく、シャーレ等が挙げられる。また、ラテックス粒子や金コロイドの平均粒子径は、好ましくは0.01~1μmである。
ラテックス粒子としては、(メタ)アクリルアミド化合物、(メタ)アクリレート化合物、不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物または不飽和無水カルボン酸化合物、不飽和スルホン酸化合物、スチレン化合物等のモノマーから誘導されるポリマー粒子が挙げられる。ポリマー粒子の中でも、スチレン化合物と不飽和カルボン酸化合物との共重合体であるものが好ましい。
【0062】
ブロッキング剤は、典型的には溶液の形態で使用される。抗原または抗体を含む担体にブロッキング剤を処理する工程としては特に限定されないが、例えば下記の方法が挙げられる。まず、担体を用意し、この担体に標的物質に対する抗原または抗体を吸着させたのち、ブロッキング剤を加えて接触させる。このとき、ブロッキング条件は、ブロッキング液を加えた状態で所定の時間保持することにより調整できる。例えば、加えられたブロッキング溶液の液温が約37℃の場合は30分から2時間、室温(例えば約20℃)の場合は1時間~3時間、約4℃の場合は2時間~12時間に保持するのが一般的な処理時間である。このような工程により、標的物質に対する抗原または抗体を含む担体の表面の一部または全部をブロッキング剤で被覆することができる。
【0063】
ブロッキング処理の後、さらに標的物質(抗原または抗体)を加えて、抗原抗体反応の特異的反応を進行させる。その後、標識を慣用の方法により測定して、免疫測定による結果を取得することができる。
【0064】
また、免疫染色法における具体的なブロッキング方法としては、例えば下記の方法が挙げられる。まず、基材表面に固定した病理組織を用意し、この組織にブロッキング剤を加えて接触させる。このとき、ブロッキング条件は、免疫測定法で記載した条件と同程度である。ブロッキング処理の後、前記病理組織中の抗原に染色用抗体を吸着させ、慣用の方法により色の濃さや染色された細胞または組織の割合などを評価する。
【0065】
ブロッキング剤の溶液の濃度は、ブロッキング剤の種類、検体及び担体の種類によって異なるが、一般に溶液の全量に対して0.01w/v%~3w/v%で使用できる。用いる溶媒としては通常この用途に用いられる水溶性溶媒をそのまま使用でき、生理活性物質の結合処理に用いられるような溶媒、例えば水、生理食塩水、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液が挙げられる。ブロッキング剤の添加量が十分であると、適切なブロッキング効果が発現できる。ブロッキング剤の含有率は、溶液の全量に対して好ましくは0.1w/v%以上である。
【0066】
<キット>
本発明の免疫測定のためのキットは、ブロッキング剤で一部または全部が被覆された、標的物質に対する抗原または抗体を含む担体を少なくとも備えるものである。本発明のキットは、通常の免疫測定による検体中の標的物質の検出に用いるためのキットと同様にして、本発明の免疫測定方法に使用できる。
【0067】
<細胞培養用培地添加剤>
本発明の添加剤は、細胞培養用培地添加剤としても有用である。以下に、細胞培養用培地添加剤としての用途について述べる。
【0068】
本発明の細胞培養用培地添加剤を含む培地で細胞を培養することで、細胞の機能を向上させることができる。特に、生理活性物質の産生の向上が期待できる。
【0069】
<細胞用培地>
本発明の細胞培養用培地添加剤を添加する細胞用培地としては、従来公知の細胞用培地を使用することができる、例えば、市販されている各種培地(αMEM、MEM、DMEM、IMDEM、RPMI1640、DMEM/F12など)や、これらの組み合わせが挙げられる。
【0070】
細胞用培地におけるアミノ酸系重合体(A)の濃度は0.001~1質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましく、0.05~1質量%がよりさらに好ましい。
細胞用培地には、必要に応じて、各種増殖因子(上皮成長因子やインスリン様成長因子、神経成長因子、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、塩基性繊維芽細胞増殖因子、トランスフェリン、ステロイドホルモン、2-メルカプトエタノールなど)や各種動物血清(ウシ胎児血清(FBS)やウシ血清など)、血清代替物などを添加するのが好ましい。
【0071】
<生理活性物質の製造方法>
本発明の細胞用培地中で細胞を培養することで、生理活性物質を高効率で生産することができる。本実施形態に係る生理活性物質の製造方法では、前述のアミノ酸系重合体(A)を含む細胞用培地添加剤を含む細胞用培地を用いて、細胞を培養することを含む。
【0072】
本実施形態に係る生理活性物質とは、例えば、抗体タンパク質(以下抗体という)やアルブミンなどである。ここで産生される抗体は特に限定されず、例えば、マウスモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体またはヒトモノクローナル抗体である。また、免疫グロブリンのクラスは特に限定されないが、例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2など)である。
【0073】
<細胞用培地で培養される細胞>
上記細胞用培地で培養される細胞は特に限定されず、生理活性物質の生産に使用可能な細胞であればよい。特に抗体生産可能な細胞であれば、例えば、CHO細胞、BHK細胞、HepG2細胞、rodentmyeloma細胞、(SP2/O細胞、NSO細胞などのマウス骨髄腫細胞など)、ハイブリドーマ、および、それらの細胞に外来遺伝子を導入した形質転換細胞が挙げられる。
【0074】
本発明において、培養を行う際、通常培養に用いられている容器または装置を使用することができる。例えば、マルチウェルプレート、シャーレ、培養フラスコ、スピナーフラスコ、ジャーファーメンター、ファーメンター、ローラーボトル、ホローファイバー、マイクロキャリアーなどが挙げられる。
【0075】
本実施形態における培養条件は、通常の動物細胞の培養条件でよく、例えば、5体積%CO雰囲気下で、温度37℃である条件とすることができる。
【0076】
培養液から細胞を採取するには、浮遊細胞の場合は、例えば、培養液を直接遠心分離機やろ過機にかけて集める。接着細胞の場合は、例えば0.25w/v%トリプシン-0.02w/v%EDTA液を添加して細胞を浮遊させた後、遠心分離やろ過により集める。
【0077】
細胞培養によって生産される生理活性物質、特に抗体は、その物質が培養液中に蓄積される場合、ろ過または遠心分離により上澄み液を得、これから採取される。また、細胞内に蓄積される物質の場合には、ろ過または遠心分離により得た細胞をホモジナイズ、超音波処理、化学薬品処理などを施し、生産物を抽出した上澄み液を得る。
【0078】
上記上澄みから抗体を分離、精製するには、公知の方法を適宜組み合わせて行う。例えば、硫安沈殿、透析、限外ろ過、電気泳動、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィなどが好ましい。
【0079】
<細胞凍結保護剤>
本発明の添加剤は、細胞凍結保護剤としても有用である。以下に、細胞凍結保護剤としての用途について述べる。
【0080】
<細胞凍結保存液>
本発明の細胞凍結保護剤を、例えば低分子溶剤と混合することにより、細胞凍結保存液とすることができる。細胞凍結保存液は、アミノ酸系重合体(A)を含むものであり、低分子溶剤を含むことが好ましく、天然の動物由来成分を含まないことが好ましい。
また、本細胞凍結保存液は、凍結過程において、細胞が細胞膜内に脱水するのを促進させること等によって、氷晶形成を防ぐことで、細胞の生存率を向上させることができるものと考えられる。このため、該細胞保存液の浸透圧は500~2,500mOsm/kgが好ましく、より好ましくは1,000~2,500mOsm/kg、さらに好ましくは1,500~2,300mOsm/kgである。細胞凍結保存液の浸透圧は、該細胞凍結保存液に含有されるイオンを含む全物質の濃度により定まる。細胞培養用培地の浸透圧は含まれるアミノ酸系重合体で310~360mOsm/kgに調整することができるが、本細胞凍結保存液の浸透圧は、それ以外に糖類、アミノ酸、ビタミンなどの細胞培養用培地に含有する低分子化合物や低分子溶剤を後から添加することで適宜調整することができる。
本発明の細胞凍結保存液を用いることで、ES細胞やiPS細胞等のコロニーや3次元培養した(幹)細胞スフェロイド等の細胞凝集物をより簡易で効率よく凍結、輸送できる。
【0081】
<凍結保存に付される細胞>
本明細書で用いる細胞は、凍結保存に付されることがある細胞であれば特に限定されず、微生物、細菌、動物細胞、植物細胞のいずれであってもよい。ここでいう動物には、ヒトを含む哺乳類、魚類、鳥類、昆虫類等が包含される。
本発明における「動物細胞」としては、培養細胞として株化された細胞、生物組織から得られる株化されていない正常細胞、遺伝子工学的手法により得られた形質転換細胞など、いずれの形式のものであってもよい。細胞は、組織または臓器中のすべての種類の細胞などの体細胞;全能性幹細胞、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞)、及び前駆細胞などのすべての型の幹細胞;卵母細胞;精子;および生殖細胞などの任意の型の細胞を含む。
細胞は、単離された形態または細胞含有体液、細胞コロニーや3次元培養した(幹)細胞スフェロイド、組織、臓器の形態などの単離されない細胞凝集体であってもよい。
【0082】
本発明の細胞凍結保存液に、0.1~30.0w/v%のアミノ酸系重合体(A)を含むことが好ましく、1.0~20.0w/v%含むことがより好ましい。アミノ酸系重合体の含有量を1.0w/v%以上とすることで、不凍水による、充分な凍結保護効果を発揮する上で有利である。化合物の含有量を20.0w/v%以下とすることで、アミノ酸系重合体が細胞凍結保護剤中に安定に分散することができる。
【0083】
<低分子溶剤>
本発明による細胞凍結保存液は、低分子溶剤を含むことが好ましい。低分子溶剤とは、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、グリセリンが挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用してもよい。低分子溶剤を有することは、充分な凍結保護効果を得る上で有利である。
本発明による細胞凍結保存液中における低分子溶剤の含有量は、使用する成分の種類により適宜変更することが可能であるが、好ましくは、最終濃度が5.0w/v%以下となるような量である。5.0w/v%以下であると、細胞に対する毒性が低くなり好ましい。また、DMSOは分化に影響を与える可能性があるため、含まないことが好ましい。
【0084】
<天然の動物由来成分>
本発明の細胞凍結保存液は、天然の動物由来成分を含まないことが好ましい。天然の動物由来成分としては、例えば、アルブミン、血清、血漿及び基礎培地等が挙げられる。血清としては成牛血清、仔牛血清、新生仔牛血清、および牛胎児血清等が挙げられる。
本発明の細胞凍結保存用溶液は、天然の動物由来成分を含まないため、天然の動物由来成分のロット間での品質の違いといった問題を生じることがない上、血清に含まれる各種サイトカイン、増殖因子およびホルモン等の本来細胞保存に不必要な成分による細胞の性質の変化を回避でき、更に、由来不明な基礎培地中の成分による影響も回避できる。そのため、本発明の細胞凍結保存用溶液は、特に臨床使用において生体に安全に適用することができるという観点で、非常に有用である。しかも、後述の実施例で示されるとおり、天然の動物由来成分が含まれていなくとも細胞を良好な生存率で凍結保存することができる。
【0085】
<細胞凍結保存液中の培地>
本発明による細胞凍結保存液は、細胞培養用培地を含むことが好ましい。細胞培養用培地の種類は特に限定はされず、本技術的分野における当業者によって、その細胞の培養が可能である培地を適宜選択することができるが、細胞培養用培地成分は、天然の動物由来成分を含有しない動物組織培養用の基本培地の成分を用いることが好ましい。培地としては、αMEM、MEM、DMEM、IMDEM、RPMI1640、DMEM/F12等が挙げられる。また、本発明による細胞凍結保存液は、培地の含有量が高い程、低い細胞毒性を示すため、低分子溶剤、化合物以外の成分が全て培地であってもかまわない。
【0086】
<その他>
本発明の細胞凍結保存液は、アミノ酸系重合体や低分子溶剤以外の成分を含んでもよく、その他の成分としては、細胞培養用培地等に含まれるものであれば好適に使用できる。例えば、糖類やアミノ酸、ビタミン類、抗酸化剤、微量元素等が挙げられる。
糖類としては、グルコース、スクロース等が好ましい。
ビタミン類としては、ビオチン、パントテン酸、コリン、ホラシン(葉酸)、myo-イノシトール、ナイアシン、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、コバラミンなどのビタミンB 群のビタミン類が挙げられる。
抗酸化剤としては、グルタチオン、アスコルビン酸等が挙げられる。
微量元素としては、Ag+、Al3+、Ba2+、Cd2+、Co2+、Cr3+、Ge+、Mn2+、Mo6+、NI2+、Rb+、Se4+、Si4+、Sn2+、V5+、Zr4+、Br-、F-、I-等が挙げられる。
上記アミノ酸、ビタミン類、抗酸化剤、微量元素などの成分は2種以上併用してもよく、また各成分はそれぞれ2種以上用いてもよい。
更に、pH調製剤等を含んでも良い。pH調整剤としては、例えば、リン酸緩衝液および炭酸緩衝液等が挙げられる。また、Basic Stock Solution (BSS)にリン酸緩衝液を添加しない場合には、生理食塩水を添加したものも用いることができる。このうちリン酸緩衝液を用いることが特に好ましい。pH調整剤は細胞凍結保存用溶液中のpHをおよそ6.5~9.0、好ましくは7.0~8.5に調整するために適宜用いることが好ましい。なお、本発明におけるリン酸緩衝液とは、塩化ナトリウム、リン酸一ナトリウム(無水)、リン酸一カリウム(無水)、リン酸二ナトリウム(無水)、リン酸三ナトリウム(無水)、塩化カリウム、及びリン酸二水素カリウム(無水)などのことをいい、特に塩化ナトリウム、リン酸一ナトリウム(無水)、塩化カリウム、またはリン酸二水素カリウム(無水)を用いることが好ましい。また、リン酸二水素カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、およびリン酸水素二ナトリウムの組み合わせも好ましい。pH調整剤は細胞保存液中に0.01~1.0w/v%含まれることが好ましく、0.05~0.5w/v%含まれることがより好ましい。
【0087】
<滅菌>
本発明による細胞凍結保存液は、滅菌されていることが好ましい。細菌等の感染のリスクが低減されるため、より安全に生体へ適用することができる。滅菌の種類としては、細胞凍結保護液の成分が変性・分解等しない方法であればどれでもよく、その中でもフィルター滅菌が好ましい。
【0088】
<細胞の凍結方法>
本発明の細胞保存液を使用する細胞の凍結方法としては、特に限定されないが、細胞凍結保存液と細胞を混合する混合工程と、細胞凍結保存液と細胞の混合物を凍結する凍結工程とを含むことが好ましい。
混合工程の前に、細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)等の洗浄液を用いて洗浄してもよい。これによって、例えば、培養培地等の成分の混入をより低減することができる。
混合工程において、細胞凍結保存液1mLあたりの細胞数は、特に限定されないが、好ましくは10~10個/mL、より好ましくは10~10個/mLになるように調製することが好ましい。
また、細胞凝集体(コロニー、スフェロイド)の混合工程においては、細胞凍結保護剤1mLあたりの細胞凝集体の数は、特に限定されないが、好ましくは1~10個/mL、より好ましくは1~10個/mLになるように調製することが好ましい。
混合物は、例えば、アンプルまたはクライオチューブ等の耐寒性容器に移して、氷上でよくピペッティングする。耐寒性容器は、内部が滅菌されていることが好ましい。
凍結工程において、冷却速度は特に限定されないが、例えば、急激に冷却した場合には、細胞内と細胞外の水分の氷結に差が生じ、細胞の微細構造を破壊するおそれがあるため、耐寒性容器を温度制御可能なフリーザーもしくは緩慢凍結容器にセットし、1分間に0.5℃ から3℃ の速度で冷却を行われていることが好ましい。
温度制御可能なフリーザーもしくは緩慢凍結容器としては、ワケンビーテック社のCoolCell(登録商標)、Nalgene社のMr.Frosty、及び日本フリーザー株式会社のバイセル等が挙げられる。最終的な凍結温度は特に限定されないが、好ましくは-80℃以下、より好ましくは-150℃以下、さらに好ましくは-196.5℃以下である。また、-80℃付近で保存した後、-180℃~-200℃(例えば、液体窒素中)に移して保存してもよい。これにより、凍結細胞が得られる。
また、細胞のコロニー、スフェロイド等の細胞凝集体は、細胞の内部を脱水置換し、一気に液体窒素温度に低下することで細胞全体をガラス化させ固定させる方法が使用されてもよい。例えば、耐寒性容器を液体窒素に直接浸漬することにより、細胞凝集体の凍結物を得ることができる。
本発明における細胞凍結保存液は、例えば、耐寒性容器、温度制御可能なフリーザーもしくは緩慢凍結容器、または使用説明書等と組み合わせて、キットとしてもよい。キットの使用説明書には、例えば、上記の凍結保存方法等が記載されている。
【0089】
<凍結細胞>
本発明の凍結細胞は、保存の対象となる細胞によって異なるが、例えば、保存1週間経過後またはそれ以上経過後(例えば、10日間以上、10年以上経過後)において、良好な生存率、増殖率を達成し得る。本発明の解凍後の生存率は、解凍直後において、細胞生存率=生細胞の数/(生細胞の数+死細胞の数)×100%と定義される。解凍後の生存率は、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。解凍直後とは、解凍後12時間以内を意味する。
また、本発明の解凍後の増殖率は、細胞増殖率=解凍3日後細胞の数/解凍初期に播種した細胞の数×100%と定義される。増殖率は、105%以上、好ましくは150%以上、より好ましくは200%以上である。
【0090】
<細胞の解凍>
本発明に係る凍結方法または保存方法を用いて凍結保存された細胞は、上述のとおり、解凍後に良好な生存率、増殖率を示し得る(後述の実施例も参照)。解凍は、素早く行うことが好ましく、例えば、37℃±1℃のウォーターバスに浸漬して行うことが好ましい。解凍後の細胞の使用において、細胞凍結保護剤は除去されてもよいし、除去されなくてもよい。
【実施例
【0091】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例及び比較例におけるmolとは物質量を表し、mol%は全単量体中の物質量の割合を表す。
【0092】
[製造例1]
・アミノ酸系単量体1
4つ口フラスコに、L-グリシン(10.0g,0.133mol)、水酸化ナトリウム(10.7g,0.266mol)、水25mLを入れ、溶解させた。反応溶液を氷浴中で冷却し、塩化アクリロイル(13.26g,0.147mol)を1時間かけて滴下した。滴下後、氷浴中で30分間攪拌した後に、室温でさらに2時間攪拌した。反応液に塩酸水を加えてpH1~2に調製した後に、酢酸エチルで抽出を行い、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧溜去した。得られた固体をさらにジエチルエーテルで洗浄した後、濾過し、24時間減圧乾燥させ、下記構造のアミノ酸系単量体1(12.12g、70.5%)を得た。
アミノ酸系単量体1
【化10】
【0093】
[製造例2~5]
・アミノ酸系単量体2~5
表1に示す材料に変更した以外は、製造例1と同様の方法で下記構造のアミノ酸系単量体をそれぞれ得た。また、アミノ酸は製造例1におけるL-グリシンと同モル量を使用した。
アミノ酸系単量体2、3、5
【化11】
アミノ酸系単量体4
【化12】
【0094】
【表1】
【0095】
[製造例6]
・アミノ酸系単量体6
撹拌機および温度計、還流器、滴下ロートを備えた反応容器に、グリシンtert-ブチル塩酸塩(54.9g,0.327mol)、水酸化ナトリウム(19.6g,0.491mol)、エタノール100mLを入れた。撹拌しながら70℃まで昇温して溶解させた後、温度を40℃まで冷却した。滴下ロートから、4-クロロメチルスチレン(52.8g,0.344mol)を1時間かけて滴下した。反応温度を40℃に維持して6時間反応させた。反応後、溶液を濾過し、濾液を分取した。この濾液に酢酸エチルを少しずつ加え、冷却して再結晶させた。再度、得られた結晶をエタノールに溶解させ、酢酸エチルで再結晶下後、室温で24時間、減圧乾燥して下記構造のアミノ酸系単量体前駆体1(84.21g,80.3%)を得た。
アミノ酸系単量体前駆体1
【化13】
【0096】
撹拌機および温度計、還流器、滴下ロートを備えた反応容器に、アミノ酸系単量体前駆体1(89.7g,0.280mol)、ジクロロメタン100mLを入れ、溶解させた。反応溶液を氷浴中で冷却し、トリフルオロ酢酸(63.9g,0.560mol)を30分間かけて滴下した。滴下後、室温でさらに2時間攪拌した。反応後、ジクロロメタンを減圧濃縮で除去した後、アセトンで再結晶させた。その後、室温で24時間、減圧乾燥して下記構造のアミノ酸系単量体6(45.72g,85.4%)を得た。
アミノ酸系単量体6
【化14】
【0097】
[製造例7]
・アミノ酸系単量体7
表2に示す材料に変更した以外は、製造例6と同様な方法で下記構造のアミノ酸系単量体前駆体2を得た。また、アミノ酸は製造例6におけるグリシンtert-ブチル塩酸塩と同モル量を使用した。
アミノ酸系単量体前駆体2
【化15】
【0098】
ついで、表2に示す材料に変更した以外は、製造例6と同様の方法で下記構造のアミノ酸系単量体7を得た。なお、アミノ酸前駆体は製造例6におけるアミノ酸系単量体前駆体1と同モル量を使用した。
アミノ酸系単量体7
【化16】
【0099】
[製造例8]
・アミノ酸系単量体8
グリシンtert-ブチル塩酸塩をL-プロリンに変更した以外は製造例6のアミノ酸系単量体前駆体1と同様な方法で、下記構造のアミノ酸系単量体8を得た。また、L-プロリンは製造例6におけるグリシンtert-ブチル塩酸塩と同モル量を使用した。
アミノ酸系単量体8
【化17】
【0100】
【表2】
【0101】
[製造例9]
・2官能の単量体1
還流器および撹拌機を備えた反応容器に、4-ヒドロキシブチルアクリレート(138.0g,0.957mol)、ピリジン80mLを仕込んだ。氷冷しながら、メタクリル酸クロリド(110.1g,1.05mol)を1時間かけて滴下した。4時間反応させた後、溶液を濾過し、濾液を減圧溜去し、下記構造の2官能の単量体1(130.0g,64.0%)を得た。
2官能の単量体1
【化18】
【0102】
[製造例10~12]
・2官能の単量体2~4
表3に示す材料に変更した以外は、製造例9と同様の方法で下記構造の2官能の単量体をそれぞれ得た。
2官能の単量体2
【化19】
2官能の単量体3
【化20】
2官能の単量体4
【化21】
【0103】
【表3】
【0104】
表3に記載したヒドロキシル基含有アクリレートを下記に示す。
・ポリエチレングリコールモノアクリレート:日油製、ブレンマーAE-90U
・ポリプロピレングリコールモノアクリレート:日油製、ブレンマーAP-200
【0105】
[製造例13]
・アミノ酸系単量体9
還流器および撹拌機を備えた反応容器に、2官能の単量体1(89.06g,0.420mol)、及びグリシンtert-ブチル塩酸塩(72.1g,0.225mol)、エタノール120mLを仕込んだ。撹拌しながら昇温した後、70℃で5時間反応させた。反応終了後、減圧乾燥によりエタノールを除去し、アセトンで再結晶をし、下記構造のアミノ酸系単量体前駆体3(96.11g,88.0%)を得た。
アミノ酸系単量体前駆体3
【化22】
【0106】
製造例6のアミノ酸系単量体前駆体1をアミノ酸系単量体前駆体3に変更した以外は、製造例6と同様の方法で下記構造のアミノ酸系単量体9を得た。
アミノ酸系単量体9
【化23】
【0107】
[製造例14,15]
・アミノ酸系単量体10,11
表4に示す材料に変更した以外は、製造例12と同様の方法でアミノ酸系単量体10,11をそれぞれ得た。
【0108】
【表4】
アミノ酸系単量体10
【化24】
アミノ酸系単量体11
【化25】
【0109】
[製造例16]
・アミノ酸系単量体12
グリシンtert-ブチル塩酸塩をL-プロリンに、かつ2官能の単量体1から2官能の単量体4に変更した以外は、製造例13のアミノ酸系単量体前駆体9と同様の方法で下記構造のアミノ酸系単量体12を得た。また、L-プロリンは製造例13におけるグリシンtert-ブチル塩酸塩と同モル量を使用した。
アミノ酸系単量体12
【化26】
【0110】
[重合体製造例1]
・アミノ酸系重合体1
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、エタノール150部を仕込み、内温を75℃に昇温し十分に窒素置換した。別途用意しておいた、アゾビスイソブチルニトリル0.4部、(アミノ酸系単量体1)100部を75℃に保ちながら3時間滴下を続け、さらに8時間撹拌を続けた。反応終了後、冷却して取出した。その後、減圧乾燥でエタノールを完全に揮発させ、アミノ酸系重合体1を得た。
【0111】
[重合体製造例2~16]
表5に示す配合組成で、重合体製造例1と同様の方法でアミノ酸系重合体2~16をそれぞれ得た。表中において、質量平均分子量および不凍水量以外の数字は部数を表す。
【0112】
25℃のイオン交換水中100mL中に、得られたアミノ酸系重合体1~16を1g入れて撹拌し溶解後、25℃で24時間放置した。その結果これらの樹脂は分離、析出ともに見られず、完全に溶解可能であり、水溶性であることが示された。
【0113】
<質量平均分子量(Mw)の測定>
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリエチレングリコール換算の値として表5に示す。
装置;GPCSYSTEM24H(昭和電工社製)
カラム;SB-803HQ+SB-804HQ(昭和電工社製)
溶出溶媒;20mMリン酸緩衝液
標準物質;ポリエチレングリコール(アジレント・テクノロジー社製)
流速;0.5mL/分、試料溶液使用量;10μL、カラム温度;40℃
【0114】
<不凍水の測定>
・アミノ酸系重合体の不凍水の測定
アミノ酸系重合体1~16について、アミノ酸系重合体の濃度が20.0w/v%である水溶液を調整した。この水溶液を不凍水の測定用サンプルとした。アミノ酸系重合体に含有される不凍水量の測定方法は、特開2016-063801号公報に詳しく説明される方法を用いて測定した。本願明細書に記載の発明においては、示差走査熱量計(DSC装置;株式会社日立ハイテクサイエンスDSC6200)を用い、窒素流量50mL/分、5℃/分間の条件で各種の割合で含水させたポリマーにおける潜熱の移動について測定をした。
温度プログラムは、(i)室温から-100℃まで冷却、(ii)-100℃で5分間保持、(iii)-100℃から30℃まで加熱を行った。上記(iii)において、水の低温結晶化に起因する発熱ピーク及び水の低温融解に起因する吸熱ピークの有無によって自由水、中間水の有無が確認される。つまり、DSCチャートにおいて、-40℃付近における潜熱の放出や、-20℃以上の氷点下における潜熱の吸収は、アミノ酸系重合体に含有される中間水の規則化と再不規則化に起因するものと考えられている。
DSC装置を用いて、酸化アルミパンを室温から-100℃まで冷却し、ついで5分間ホールドした後、昇温速度5℃/分で-100℃から30℃まで加熱を行う過程での吸発熱量の測定を行った。
各試料について、DSC測定後にアルミパンにピンホールをあけて真空乾燥後、その重量を測定し、重量減少分を含水量とした。
含水率(WC)は、酸化アルミパンの質量を除外した上で、以下の式(I)で求める。
含水率(WC)=(W1-W0)/W0(I)
(W0:試料の乾燥重量(g)、W1:試料の含水重量(g))
また、サンプル毎に、0℃付近の吸熱量から、自由水の量を求め、-40℃付近における発熱量と-20℃以上の氷点下における吸熱量から中間水の量を求め、上記で求めた各サンプルの含水量(W1-W0)から自由水と中間水の量を差し引いた量を不凍水量として求めた。アミノ酸系重合体1gあたりの不凍水量は、求められた不凍水量を試料の乾燥重量(W0)で除することにより求めた。実験の結果を表5に示す。
【0115】
【表5】
【0116】
表5に記載した単量体(b)を下記に示す。
BMA:n-ブチルメタクリレート
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
AA:アクリル酸
【0117】
以下に、タンパク質安定化剤、および、ブロッキング剤としての評価を示す。
【0118】
<タンパク質安定化剤水溶液の調製>
【0119】
[実施例1-1~1-18、比較例1-1~1-2]
(タンパク質安定化剤水溶液1~20)
重合体製造例1~16で得られたアミノ酸系重合体1~16、ポリビニルピロリドン(以下PVP)、およびプロリンを表6に記載の濃度になるように、リン酸緩衝生理食塩水(以下PBS溶液)にて調整し、タンパク質安定化剤水溶液1~18を得た。
PVP:ポリビニルピロリドン、質量平均分子量10,000
【0120】
<タンパク質安定化剤の評価>
得られたタンパク質安定化剤について以下の評価を実施した。結果を表6に示す。
【0121】
[評価用酵素水溶液の調整]
HRP標識抗CRP抗体ab24462(abcam社製)を8.0ng/mLとなるように、得られたタンパク質安定化剤水溶液1mLで希釈・混合し、評価用の酵素水溶液を作成した。評価用酵素水溶液は濃度変化がないよう、よく密閉し25℃暗所で保管した。
【0122】
[酵素活性評価]
ペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト製)を用い、発色剤(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)溶液)を10mLと基質液(過酸化水素水)100μLを混合し発色液を得た。
この発色液100μLと、評価用酵素水溶液100μLとを96穴ウェルプレートに加え、30℃暗所で20分間静置した。これに停止液(硫酸水溶液)を100μL加え反応を停止させた。その後、450nmでの吸光度をプレートリーダーMultimodeReaderMithras2LB943(BERTHOLDTECHNOLOGIES社製)で測定し、反応により生じたTMBZ酸化物の量を定量した。TMBZの酸化反応はHRP標識CRP抗体の活性と相関するため、得られた吸光度を酵素活性の指標として使用することができる。
【0123】
[タンパク質安定化効果の評価]
上記酵素活性評価を、評価用酵素水溶液の保管前と25℃30日間保管後の2回行い、吸光度を測定した。保管前の吸光度を100%としたときの、保管後の吸光度の比率を計算して相対吸光度とし、下記基準にてタンパク質の変性を評価した。結果を表6に示す。
【0124】
30日保管後の相対吸光度
◎:95%以上(極めて良好)
○:90%以上、95%未満(良好)
△:80%以上、90%未満(使用可能)
×:80%未満(使用不可)
【0125】
【表6】
【0126】
表6に示すように、本発明のタンパク質安定化剤を用いることで、高いタンパク質安定化効果が得られた。具体的には、アミノ酸系重合体1~16を使用したタンパク安定化剤(実施例1-1~1-18)は、保管前の吸光度に対する25℃30日保管後の吸光度の変化が小さく、タンパク質の構造安定化効果を確認できた。一方、PVPやプロリンを用いた比較例1-1~1-2は、タンパク質と共存させ保管しても十分な安定化効果が得られないことが分かった。これは、アミノ酸残基を有していない、または、アミノ酸単体であるため、タンパク質の外部環境を適切に制御できなかったためであると考えられる。
【0127】
<ブロッキング剤水溶液の調製>
【0128】
[実施例2-1~2-18、比較例2-1~2-2]
(ブロッキング剤水溶液1~20)
重合体製造例1~16で製造したアミノ酸系重合体1~16、PVP、およびプロリンを表7に記載の濃度になるように、PBS溶液にて調整し、ブロッキング剤水溶液1~20を得た。
【0129】
<ブロッキング剤の評価>
得られたブロッキング剤溶液について、下記の通り、[抗原抗体反応試験]及び[非特異吸着試験]を実施し、吸光度の差異を基準に評価した。結果を表7に示す。
【0130】
[抗原抗体反応試験]
(ウェルプレートの固相抗体処理)
固相用の抗CRP抗体ab8279(abcam社製)が25μg/mLの濃度になるようにPBS溶液で調整した。この固相用の抗CRP抗体溶液をPSt製96穴ウェルプレートに50μLずつ添加し、室温2時間静置した後、溶液を吸引し除去した。
【0131】
(ブロッキング処理)
前述の固相抗体処理した96穴ウェルプレートに、得られたブロッキング剤水溶液を200μLずつ添加し吸引除去し、これを3回繰り返した。最後にブロッキング剤水溶液を50μLずつ添加し、室温2時間静置した後、溶液を吸引し除去した。
【0132】
(抗原吸着処理)
CRP抗原8C72(Hytest社製)が2μg/mLになるようにPBS溶液で調整した。このCRP抗原溶液を、前述のブロッキング処理した96穴ウェルプレートに50μLずつ添加し、30℃2時間静置した後、溶液を吸引し除去した。その後、余剰の抗原を除去する目的で、得られたブロッキング剤水溶液を200μLずつ添加し吸引除去する操作を3回繰り返した。
【0133】
(標識抗体吸着処理)
HRP標識抗CRP抗体ab24462(abcam社製)が0.08μg/mLになるようにPBS溶液で調整した。このHRP標識抗CRP抗体溶液を、前述の抗原処理した96穴ウェルプレートに50μLずつ添加し、室温2時間静置した後、溶液を吸引し除去した。その後、余剰の標識抗体を除去する目的で、得られたブロッキング剤溶液を200μLずつ添加し吸引除去する操作を3回繰り返した。
【0134】
(発色反応)
ペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト製)の発色剤10mLと基質液0.1mLを用いて発色溶液を調整した。この発色溶液を前述の標識抗体吸着処理した96穴ウェルプレートに100μLずつ添加し、30℃暗所で20分静置した。次に各ウェルに住友ベークライト社製ペルオキシダーゼ用発色キットの停止液(硫酸水溶液)100μLを添加した。
【0135】
(吸光度A測定)
各ウェルの450nmの吸光度(吸光度Aとする)を測定した。これは、抗原抗体反応(特異吸着)によりウェルに吸着した抗体量を表す吸光度である。
【0136】
[非特異吸着試験]
(ウェルプレートの固相抗体処理)
固相用抗CRP抗体ab8279(abcam社製)が25μg/mLの濃度になるようにPBS溶液で調整した。この固相用抗CRP抗体溶液をPSt製ELISA用96穴ウェルプレートに50μLずつ添加し、室温2時間静置した後、溶液を吸引し除去した。
【0137】
(ブロッキング処理)
前述の固相抗体処理した96穴ウェルプレートに、得られたブロッキング剤水溶液を200μLずつ添加し吸引除去し、これを3回繰り返した。最後にブロッキング剤水溶液を50μLずつ添加し、室温2時間静置した後、溶液を吸引し除去した。
【0138】
(標識抗体吸着処理)
HRP標識抗CRP抗体ab24462(abcam社製)が0.08μg/mLになるようにPBS溶液で調整した。このHRP標識CRP抗体溶液を、前述のブロッキング処理した96穴ウェルプレートに50μLずつ添加し、室温2時間静置した後、溶液を吸引し除去した。その後、余剰の標識抗体を除去する目的で、得られたブロッキング剤水溶液を200μLずつ添加し吸引除去する操作を3回繰り返した。
【0139】
(発色反応)
ペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト製)の発色剤10mLと基質液0.1mLを用いて発色溶液を調整した。この発色溶液を前述の標識抗体吸着処理した96穴ウェルプレートに100μLずつ添加し、30℃暗所で20分静置した。次に各ウェルに住友ベークライト社製ペルオキシダーゼ用発色キットの停止液(硫酸水溶液)100μLを添加した。
【0140】
(吸光度B測定)
各ウェルの450nmの吸光度(吸光度Bとする)を測定した。これは、抗原がないため、標識抗体の非特異吸着によるウェルに吸着した抗体量を表す吸光度である。
【0141】
[評価基準]
◎:1.0≦(吸光度A-吸光度B):良好
〇:0.8≦(吸光度A-吸光度B)<1.0:使用可能
△:0.5≦(吸光度A-吸光度B)<0.8:使用不可
×:(吸光度A-吸光度B)<0.5:不良
【0142】
【表7】
【0143】
表7に示すように、本発明のブロッキング剤を用いることで、非特異反応を防止し、検出感度の高い免疫測定を行うことができた。具体的には、アミノ酸系重合体1~16を使用したブロッキング剤(実施例2-1~2-18)は、CRP抗原抗体反応と非特異吸着反応の吸光度の差が大きく、CRP抗原抗体反応を高感度に検出することができた。すなわち、これは本発明のブロッキング剤に含まれるアミノ酸系重合体が、アミノ酸残基を有するため抗体との相互作用が適切に制御され、CRPの抗原抗体反応を阻害せず、CRP抗原抗体反応以外の非特異的な吸着反応を抑えることができたためであると考えられる。
【0144】
続いて、以下に細胞培養用培地添加剤の評価を示す。
【0145】
<細胞培養用培地の調製>
[実施例3-1~3-18、比較例3-1~3-2]
(細胞培養用培地1~20)
重合体製造例1~16であるアミノ酸系重合体1~16、PVP、およびメチオニンを以下に述べるそれぞれの基礎培地に表8に記載の濃度になるように添加し、ピペッティングをすることで細胞培養用培地1~20を得た。
【0146】
<細胞培養用培地添加剤の評価>
以下の通り、細胞培養用培地添加剤の評価を行った。結果を表8に示す。
【0147】
<抗体産生細胞凝集物の発生抑制性>
培地はDynamisMedium(Gibco製)を用い、L-Glutaminを1質量%になるように添加した。以後これを基礎培地とする。これを2セット用意し、アミノ酸系重合体を含む細胞培養用培地添加剤を表8に記載の濃度となるようにそれぞれ添加した。それぞれの基礎培地にIgG遺伝子を導入しIgG抗体を分泌産生するCHO細胞株を加え、CHO細胞株の濃度が1,000,000cells/mLとなる細胞懸濁液を作製した。得られた細胞懸濁液20mLを、125mLの三角フラスコに播種し、37℃にて培養した。なお、培養中、栄養源が枯渇する前に3~4日に一度、上澄み液15mLを回収し、新たな基礎培地15mLと交換し、これを5回繰り返した。
抗体産生細胞凝集物の発生抑制性は、培地交換を5回繰り返した後の三角フラスコの液
面付近を目視観察することによって評価した。
◎:凝集物が三角フラスコの液面付近に発生していない:良好
○:凝集物が三角フラスコの液面付近に僅かに発生している:使用可
×:凝集物が三角フラスコの液面付近に一様に発生している:使用不可
【0148】
<抗体産生性>
抗体産生細胞凝集物の発生抑制性評価と同様にしてCHO細胞の培養をし、培地交換を5回繰り返した後の細胞培養液を遠心分離することで、培地上清を回収した。培地中の抗体量を、BethylLaboratories,Inc製のHumanIgGELISAQuantitationSetを用いて測定した。また、沈降した細胞群のDNA量も定量し、単位DNA量あたりの抗体生産量として算出した。アミノ酸系重合体を含む細胞用培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。
◎:1.5以上(非常に良好)
○:1.2以上1.5未満(良好)
△:1以上1.2未満(やや不良)
×:1未満(不良)
【0149】
<アルブミン産生性評価>
10%FBS-DMEM培地(以下、DMEM培地とする)にアミノ酸系重合体を含む細胞培養用培地添加剤を表8に記載の濃度となるように添加し、攪拌をすることで細胞培養用培地を調製した。ヒト肝がん細胞株HepG2細胞を、250,000細胞/mLとなるように上記のアミノ酸系重合体を含む細胞用培地添加剤を添加した細胞培養用培地に播種した後、96ウェルU底マイクロプレートのウェルに1ウェルあたり200μLになるように分注した。その後、本プレートをCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内にて静置状態で3日間培養した。3日間培養後のHepG2細胞を含む培養液を回収し、遠心分離にすることで培地上清を回収した。培地中のアルブミン量を、BethylLaboratories,Inc製AlbuminELISAQuantitationSetを用いて測定した。また、沈降した細胞群のDNA量も定量し、単位DNA量あたりのアルブミン生産量として算出した。アミノ酸系重合体(A)を含む細胞培養用培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。
◎:1.5以上(非常に良好)
○:1.2以上1.5未満(良好)
△:1以上1.2未満(やや不良)
×:1未満(不良)
【0150】
<薬物代謝酵素活性の評価>
アルブミン産生性評価と同様に、HepG2細胞を3日間培養した。その後、HepG細胞をPBS溶液にて洗浄し、DMEM培地を入れ替えた。CYP3A4活性はP450-GloTMCYP3A4AssayKits(Promega製)を用い、CYP3A4の基質としてLuciferin-IPAを用いた。CYP3A4活性値はプレートリーダー(Berthold製)を用いて測定した。また、細胞群のDNA量も定量し、単位DNA量あたりのCYP3A4活性値として算出した。アミノ酸系重合体(A)を含む細胞培養用培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。
◎:1.5以上(非常に良好)
○:1.2以上1.5未満(良好)
△:1以上1.2未満(やや不良)
×:1未満(不良)
【0151】
<qRT-PCR法による遺伝子発現解析>
アルブミン産生性評価と同様に、HepG2細胞を3日間培養した。その後、HepG2細胞を回収し、RNeasyMicroKit(QIAGEN製)を用いてトータルRNAを抽出した。抽出した各全RNAをReverTraAceqPCRRTMasterMix(TOYOBO製)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。cDNAと目的遺伝子(CYP3A4とアルブミン)のTaqManprobe(LifeTechnologies製、CYP3A4:Hs00604506_m1,アルブミン:Hs00609411_m1)を用いてqRT-PCRを実施した。リファレンス遺伝子にはGAPDH(LifeTechnologies製、Hs02786624_g1)を用いた。各遺伝子の相対発現量はGAPDHを基準に比較Ct法を用いて算出した。アミノ酸系重合体(A)を含む細胞培養用培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。
◎:2以上(非常に良好)
○:1.2以上2未満(良好)
△:1以上1.2未満(やや不良)
×:1未満(不良)
【0152】
<スフェロイド形成性評価>
DMEM培地にアミノ酸系重合体(A)を含む細胞培養用培地添加剤を表8に記載の濃度になるように添加し、攪拌をすることで細胞培養用培地を調製した。ヒト肝がん細胞株HepG細胞を100,000細胞/mLとなるように、上記のアミノ酸系重合体を含む細胞用培地で調整しマイクロプレート(住友ベーラクイト社製PrimeSurfaceMS-9096U)のウェルに1ウェルあたり100μLになるように播種した。その後、本プレートをCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内にて静置状態で3日間培養した。スフェロイド形成性は、3日後に細胞培養状態を透過式光学顕微鏡40倍で写真撮影し、細胞の形態を観察することによって、以下の基準で判定した。評価結果を表8に示す。
〇:1つのスフェロイドを形成(良好)
△:複数個のスフェロイドを形成(やや不良)
×:スフェロイドを形成しない(不良)
【0153】
<ATP活性>
DMEM培地にアミノ酸系重合体を含む細胞用培地添加剤を表8に記載の濃度になるように添加し、攪拌をすることで細胞培養用培地を調製した。ヒト肝がん細胞株HepG2細胞を100,000細胞/mLとなるように、上記のアミノ酸系重合体を含む細胞用培地添加剤を添加した細胞培養用培地で調整し、96ウェルU底マイクロプレートのウェルに1ウェルあたり100μLになるように分注した。その後、本プレートをCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内にて静置状態で5日間培養した。
ATP活性は、1、5日後にATPアッセイを行うことによって評価した。具体的には、培養後のウェルに100μLのATP試薬(『塊』のATP測定試薬:東洋ビーネット社製)を添加、5回ピペッティングし、5分間室温で静置した後、100μLの試薬・細胞溶解液を別プレートに分取し1分間撹拌した。これをMithrasLB940(Berthold社製)を用いて発光量を測定した。評価結果を表8に示す。
ATP活性=(培養5日後の発光量)/(培養1日後の発光量)×100
◎:120%≦ATP活性ATP活性がかなり高い。(非常に良好)
〇:50%≦ATP活性<120%ATP活性が高い。(良好)
△:20%≦ATP活性<50%ATP活性がやや高い。(可)
×:ATP活性<20%ATP活性が低い。(不良)
【0154】
【表8】
【0155】
本発明のアミノ酸系重合体1~16を使用した実施例3-1~3-18は、優れた細胞凝集物発生抑制性、抗体産生性やアルブミン産生性、薬物代謝酵素の活性、遺伝子発現量、スフェロイド形成性、スフェロイドのATP活性を示すことが分かった。これは、アミノ酸残基を有するアミノ酸系重合体が、細胞の代謝活性や細胞外環境を適切に制御したため細胞培養時における生理活性物質の高産生化に有用であると考えられる。一方で、比較例3-1、3-2の細胞培養用添加剤は、どの評価においても実施例3-1~3-18の細胞用培地添加剤に劣る結果となった。
【0156】
続いて、以下に細胞凍結保護剤、および細胞凍結保存液の評価を示す。
【0157】
<細胞凍結保存液の調製>
【0158】
[実施例4-1]
・細胞凍結保存液1
重合体製造例1であるアミノ酸系重合体1を30w/v%とDMSOを5w/v%、富士フィルム和光純薬製のDMEM(製品コード:042-32255)70v/v%を配合し、十分均一になるまでピペッティングし、溶解させた後、これをフィルターで濾過して無菌的な細胞凍結保存液1を得た。
[実施例4-2~4-18、比較例4-1~4-6]
表9に示す配合組成で、実施例4-1と同様の方法で細胞凍結保存液2~24を得た。
【0159】
<浸透圧の測定>
薬局方に準拠する「氷点降下法」により、GONOTEC社製浸透圧測定装置(オズ゛モメータ)を用いて、細胞凍結保護液の浸透圧を測定した。結果を表9に示す。
【0160】
<細胞(シングルセル)の凍結保存>
15mL遠心管に9mLのMEMα培地を分注し、洗浄用培地とした。ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(タカラバイオ社製、C-12977)(パッセージ数:2)が凍結保存され、入っているクライオチューブを37℃温水浴にて振盪し、細胞を解凍した。解凍した細胞を洗浄用MEMα培地が入った15mL遠沈管に加え、遠心(500×g3分、室温)を行った。上清をアスピレートし、ペレットをタッピングし、MEMα培地を2mL添加し、の細胞培養用φ100mmディッシュ(AGCテクノグラス製、3020-100)に、細胞を播種した。
37℃、5%CO2インキュベーターにて3日培養した。培養3日後、1mLのトリプシンEDTA溶液を加え、37℃、5%CO2インキュベーターで3分間静置し、細胞を細胞培養用ディッシュから剥離させ、細胞を回収した。2継代目の細胞(パッセージ数:4)をヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(以下、P-hATMSC細胞とも呼ぶ)として以下の実験で使用した。
細胞凍結保存液1~22 1mLを、上記で得られたP-hATMSC細胞の総数が1×106の細胞に添加し、数回ピペッティングした後に、クライオチューブに移した。そして、適量の2-プロパノールを入れたMr.Frostyに、クライオチューブを入れ、蓋を閉め、―80℃に設定した冷凍庫で水平に12時間保管した後に、―152℃に設定した冷蔵庫で水平に3日保管した。
【0161】
<スフェロイド(細胞凝集体)の凍結保存>
上記で得られたP-hATMSC細胞を培養シャーレ上で培養後、トリプシン処理により剥離、回収した。その後、96wellU底プレート(住友ベークライト(株)製、PrimeSurface(登録商標)、MS-9096U)に1000個細胞/ウェルの細胞数で播種し、浮遊培養することでスフェロイド形成を誘導した。培養3日後に直径約200μmのスフェロイドを得た。
上記のように作成したスフェロイド50個をマイクロピペッターにて培養液中から回収し、遠心分離(500×g、3分、室温)をかけた後、上清をアスピレートし、ペレットをタッピングした。ペレットに細胞凍結保存液(S―1~17)を添加し、スフェロイドを細胞凍結保存液中で数回ピペッティングした後に、クライオチューブに移し、蓋を閉め、―80℃に設定した冷凍庫で水平に12時間保管した。12時間後、―152℃に設定した冷蔵庫で水平に3日保管した。
【0162】
<細胞の解凍>
クライオチューブを37℃温水浴にて振盪し、細胞を解凍した。
【0163】
<細胞の生存率評価>
解凍した細胞懸濁液を100μL分注し、100μLの0.5%のトリパンブルー染色液をピペットで注いた。数回のピペット操作により混合した後、トリパンブルー染色細胞懸濁液を血球計算盤に乗せ、16の小さな四角を含む各1mm×1mmの4つの大きな四角内で、青色に染色された死細胞と、染色されない生細胞の数を計数した。
【0164】
<評価基準>
細胞の生存率%を下記の式にて算出した。
(生存率%)=(非染色細胞の数)/(非染色細胞と青色に染色された細胞との総数)
◎:生存率%≧90%(特に良好)
〇:90%>生存率%≧75%(良好)
△:75%>生存率%≧60%(可)
×:60%>生存率%(不良)
評価結果を表9に示す。
【0165】
<シングルセルの増殖性評価>
10%のウシ胎児血清と、1%のペニシリンーストレプトマイシンーアンホテリシンB(共にBiologicalIndustries社製)とを添加したDMEM(以下:(DMEM+10%FBS+1%PS)培地)を15mL遠心管に9mL分注し、洗浄用培地とした。解凍した細胞を洗浄用培地へ加え、遠心分離(500×g3分、室温)を行った。上清をアスピレートし、ペレットをタッピングし、(DMEM+10%FBS+1%PS)培地を2mL添加し、AGCテクノグラス製のφ35mmIWAKI接着処理ディッシュに細胞を播種した。播種する前に100μL分注し、細胞数を血球計算盤で計測した。37℃、5%CO2にて、インキュベーターで3日培養した。培養3日後、0.5mLのトリプシンEDTA溶液を加え、37℃、5%CO2インキュベーターで3分間静置し、残りの細胞を接着処理から剥離した。剥離した細胞の数は血球計算盤で計測した。細胞増殖率を、(培養3日後細胞の数)/(播種した細胞の数)×100%によって計算した。評価結果を表9に示す。
<評価基準>
◎:増殖率%≧200%(特に良好)
〇:200%>増殖率%≧150%(良好)
△:150%>増殖率%≧105%(可)
×:105%>増殖率%(不良)
【0166】
<シングルセルの未分化評価―定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)>
増殖性評価で使用した培養の3日後の細胞に、TRIzol試薬(InvitrogenCorporation,Carlsbad,CA.USA)で培養物から全RNAを抽出し、製造業者のプロトコルに従ってPrimeScriptTMRTMasterMix(PerfectRealTime)(Takara、Cat#RR036A)でcDNAを合成した。qRT-PCRは、ThermalCyclerDiceRealTimeSystem(TakaraTP900)を用いて、TBGreenPremixExTaqII(Takara、RR820A)を用いて3回行った。
qRT-PCRの容量は25μLであり、1μL(μg)cDNA、12.5μLTBGreenPremixExTaqII(Takara、RR820A)、それぞれ1μLの特異的フォワード及びリバースプライマー、並びに9.5μL滅菌水を含有する。
【0167】
qRT-PCRは、95℃で30秒間、続いて、95℃で5秒間、60℃で30秒間の40サイクル、次いで、95℃で15秒間、60℃で30秒間、95℃で15秒間の反応を行った。
データは、ΔΔCt比定量により解析した。データをGAPDHレベルに対して標準化し、対象値と比較した。
【0168】
使用したプライマーの配列は以下の通りである:
SSEA1(Fut4としても知られる)
フォワードプライマー:GCAGGGCCCAAGATTAACTGAC(配列番号1)
リバースプライマー:AAGCGCCTGGGCCTAAGAA(配列番号2)
Sox2
フォワードプライマー:GTTCTAGTGGTACGTTAGGCGCTTC(配列番号3)
リバースプライマー:TCGCCCGGAGTCTAGCTCTAAATA(配列番号4)
Nanog
フォワードプライマー:TGCCTCACACGGAGACTGTC(配列番号5)
リバースプライマー:AGTGGGTTGTTTGCCTTTGG(配列番号6)
Glyceraldehyde-3-phosphatedehydrogenase(Gapdh)(内部陽性対照として)
【0169】
[統計解析]
データは、一元配置分散分析(One-wayanalysisofvariance)(ANOVA)により分析した。有意なF比の場合、Tukeyの事後試験を行った.有意水準P<0.05とし、他に示さない限り平均±標準偏差として示した。すべてのデータは、特に示さない限り少なくとも3回独立した実験から得た。
【0170】
・遺伝子発現量の評価基準
[SSEA1、Sox2、Nanog]
◎:2≦遺伝子発現量;遺伝子発現量がかなり高い。
〇:1.5≦遺伝子発現量<2;遺伝子発現量が高い。
△:1≦遺伝子発現量<1.5;遺伝子発現量がやや高い。
×:遺伝子発現量<1;遺伝子発現量が低い。
【0171】
<スフェロイド(細胞凝集体)の生存率評価>
解凍したスフェロイドを洗浄用培地へ加え、遠心分離(500×g3分、室温)を行った。上清をアスピレートし、PBSを2ml添加し、培地洗浄した後、上清を更にアスピレートし、Accumax(イノベーティブセルテクノロジーズ製)を2mL添加し、ペレットをタッピングした後に、20分間静置し、単一浮遊細胞を得た。洗浄用培地へ加え、遠心分離(500xg3分、室温)を行い、上清をアスピレートで除去した。PBSを2mL添加した後、100μL分注し、100μLの0.5%のトリパンブルー染色液にピペットで注いた。数回のピペット操作により混合した後、トリパンブルー染色細胞懸濁液を血球計算盤に乗せ、青色に染色された死細胞と、染色されない生細胞の数を計数した。
【0172】
<評価基準>
細胞の生存率%を下記の式にて算出した。
(生存率%)=(非染色細胞の数)/(非染色細胞と青色に染色された細胞との総数)
◎:生存率%≧50%(特に良好)
○:50%>生存率%≧40%(良好)
△:40%>生存率%≧20%(可)
×:20%>生存率%(不良)
評価結果を表9に示す。
【0173】
<再播種におけるスフェロイドの増殖性評価>
細胞凍結保存液1~22を使用し、スフェロイド(細胞凝集体)の凍結実験の保存全ての培養物を0.25%Trysin-EDTAで37℃3分間解離させた後に、MEMα培地で2回洗浄し、300gで5分間4℃遠心分離した後、スフェロイド及び単細胞を回収した。
MEMα中に、播種初期の細胞数を、5×104細胞/ウェルになるように調整し、TPP社製培養用平底24平面ウェル(ポリスチレン製、培養表面は接着処理有)に播種した。培養後6日目にスフェロイド縁部の接着、伸展状態を観察し、細胞のコンフルエント状態を評価した。
・再播種におけるスフェロイドの細胞増殖性の評価基準
◎:視野にスフェロイドが観察されず、細胞の接着、伸展が観察され、細胞がコンフルエントとなっている。細胞の増殖性が優れている。
〇:視野にスフェロイドが観察されず、細胞の接着、伸展が観察されるが、細胞がコンフルエントとなっていない。細胞の増殖性が良好である。
△:視野に直径が200μm以下(200μmを含む)のスフェロイドが1つ以上、培養面に残留していることが観察される。細胞の増殖性がやや良好となっている。
×:視野に直径が200μm以上のスフェロイドが1つ以上、培養面に残留していることが観察される。細胞の増殖性が不良となる。
【0174】
<スフェロイドの未分化評価―定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)>
増殖性評価で使用した培養の3日後の細胞に、TRIzol試薬(InvitrogenCorporation,Carlsbad,CA.USA)で培養物から全RNAを抽出し、製造業者のプロトコルに従ってPrimeScriptTMRTMasterMix(PerfectRealTime)(Takara、Cat#RR036A)でcDNAを合成した。qRT-PCRは、ThermalCyclerDiceRealTimeSystem(TakaraTP900)を用いて、TBGreenPremixExTaqII(Takara、RR820A)を用いて3回行った。
qRT-PCRの容量は25μLであり、1μL(μg)cDNA、12.5μLTBGreenPremixExTaqII(Takara、RR820A)、それぞれ1μLの特異的フォワード及びリバースプライマー、並びに9.5μL滅菌水を含有する。
【0175】
qRT-PCRは、95℃で30秒間、続いて、95℃で5秒間、60℃で30秒間の40サイクル、次いで、95℃で15秒間、60℃で30秒間、95℃で15秒間の反応を行った。
データは、ΔΔCt比定量により解析した。データをGAPDHレベルに対して標準化し、対象値と比較した。
【0176】
使用したプライマーの配列は以下の通りである:
SSEA1(Fut4としても知られる)
フォワードプライマー:GCAGGGCCCAAGATTAACTGAC(配列番号1)
リバースプライマー:AAGCGCCTGGGCCTAAGAA(配列番号2)
Sox2
フォワードプライマー:GTTCTAGTGGTACGTTAGGCGCTTC(配列番号3)
リバースプライマー:TCGCCCGGAGTCTAGCTCTAAATA(配列番号4)
Nanog
フォワードプライマー:TGCCTCACACGGAGACTGTC(配列番号5)
リバースプライマー:AGTGGGTTGTTTGCCTTTGG(配列番号6)
Glyceraldehyde-3-phosphatedehydrogenase(Gapdh)(内部陽性対照として)
【0177】
[統計解析]
データは、一元配置分散分析(One-wayanalysisofvariance)(ANOVA)により分析した。有意なF比の場合、Tukeyの事後試験を行った.有意水準P<0.05とし、他に示さない限り平均±標準偏差として示した。すべてのデータは、特に示さない限り少なくとも3回独立した実験から得た。
【0178】
・遺伝子発現量の評価基準
[SSEA1、Sox2、Nanog]
◎:2≦遺伝子発現量;遺伝子発現量がかなり高い。
〇:1.5≦遺伝子発現量<2;遺伝子発現量が高い。
△:1≦遺伝子発現量<1.5;遺伝子発現量がやや高い。
×:遺伝子発現量<1;遺伝子発現量が低い。
【0179】
【表9】
【0180】
以上から、本発明の細胞凍結保存液を用いることで、解凍後の細胞の生存率、増殖率、未分化性が良好であることが示された。
【0181】
これは本発明の細胞凍結保存液に含まれるアミノ酸系重合体が、近傍の水と強く相互作用している大量の不凍水を含有し、凍結工程において通常の水のような水素結合を形成せず、凍結の際の氷の結晶成長による物理的なダメージを回避し、解凍後の細胞生存率、増殖率を確保したためであると考えられる。
また、細胞凍結保護剤中の不凍水の存在により、細胞膜外での安定な水和状態を維持し、低分子溶剤による膜内へ浸透速度の制御は可能となり、スフェロイドの凍結の過程において、スフェロイド内部と周辺部で凍結に時間差を緩和することで、解凍後のスフェロイドの生存率を確保したためであると考えられる。
それに対して、比較例4-1~4-6はアミノ酸系共重合体を含まない細胞凍結保存液であり、スフェロイドの凍結保存ができなかったと考えられる。