(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】シリンダ部材の製造方法、シリンダ部材、及び車両
(51)【国際特許分類】
F02F 1/00 20060101AFI20240820BHJP
F02F 1/10 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F02F1/00 C
F02F1/10 A
(21)【出願番号】P 2023039973
(22)【出願日】2023-03-14
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】日比 大雅
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-039466(JP,U)
【文献】国際公開第2018/092176(WO,A1)
【文献】特開2009-156089(JP,A)
【文献】国際公開第2011/152216(WO,A1)
【文献】特開平05-026098(JP,A)
【文献】特開2007-154865(JP,A)
【文献】特開2007-224842(JP,A)
【文献】特開2008-298053(JP,A)
【文献】特開2007-224758(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016013783(DE,A1)
【文献】特開昭56-029036(JP,A)
【文献】特開2005-188366(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0282685(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0248645(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0010549(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00
F16J 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの摺動面となるボア部を内面に有する、シリンダ部材の製造方法であって、
前記シリンダ部材の、円筒状のボア部のスラスト方向及び反スラスト方向の両側の加圧領域を、径方向内方に加圧して内側に変形させた状態で
、前記シリンダ部材の前記内面を円筒状に研磨する、ホーニング処理を行
い、前記加圧の解除により前記加圧領域を径方向に拡張させること
により、
前記内面において上端部を含む第1領域の径及び下端部を含む第2領域の径より、第1領域及び第2領域の間の領域である第3領域の最大径が大きく構成され、軸方向の中央の領域が部分的に肉薄に形成されるとともに径方向外方に拡張した拡張部を、前記スラスト方向及び前記反スラスト方向の両側にそれぞれ有する、ボア部を形成する、
シリンダ部材の製造方法。
【請求項2】
前記加圧領域は、ピストンが前記ボア部の内側を往復運動する場合における中間位置を含む、
請求項1に記載のシリンダ部材の製造方法。
【請求項3】
前記シリンダ部材は、シリンダブロック、あるいはシリンダ部内に装着されるシリンダライナである、請求項1に記載のシリンダ部材の製造方法。
【請求項4】
前記シリンダ部材は、前記ボア部を複数備え、
前記ピストンは、前記スラスト方向における寸法が、前記スラスト方向と直交する方向の寸法よりも大きい、スカート部を有する、請求項1に記載のシリンダ部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリンダ部材の製造方法、シリンダ部材、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車やトラックなどの車両に用いられる内燃機関においてシリンダブロック又はシリンダライナ等のシリンダ部材に形成されるシリンダボアは、ヘッドボルトの締付や熱負荷により大きく変形する。この変形により、ピストンとのフリクションロスが増大し、燃費の悪化を招くことがある。
【0003】
このような問題に対し、近年では高度なホーニング技術が開発されており、実運転時において理想的な形状となるようにシリンダボアをホーニング加工することが求められる。例えば、特許文献1では、シリンダボアの下端を含む下部領域の径を、上端を含む上部領域の径よりも大きくした、略スカート型の形状を有するシリンダボアが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本開示は、ピストンとのフリクションを低減できるシリンダボアを容易に形成できるシリンダ部材の製造方法、シリンダ部材、及び車両の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態にかかるシリンダ部材の製造方法は、ピストンの摺動面となるボア部を内面に有する、シリンダ部材の製造方法であって、前記シリンダ部材の、円筒状のボア部のスラスト方向及び反スラスト方向の両側の加圧領域を、径方向内方に加圧して内側に変形させた状態で、前記シリンダ部材の前記内面を円筒状に研磨する、ホーニング処理を行い、前記加圧の解除により前記加圧領域を径方向に拡張させることにより、前記内面において上端部を含む第1領域の径及び下端部を含む第2領域の径より、第1領域及び第2領域の間の領域である第3領域の最大径が大きく構成され、軸方向の中央の領域が部分的に肉薄に形成されるとともに径方向外方に拡張した拡張部を、前記スラスト方向及び前記反スラスト方向の両側にそれぞれ有する、ボア部を形成する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ピストンとのフリクションを低減できるシリンダボアを容易に形成できるシリンダ部材の製造方法、シリンダ部材、及び車両の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る車両を示す説明図。
【
図2】本開示の一実施形態に係るシリンダブロックの製造方法を示す説明図。
【
図3】本開示の一実施形態に係るシリンダブロックの一部を拡大して示す断面図。
【
図4】本開示の一実施形態に係るシリンダブロックのシリンダボアの形状を示す説明図。
【
図5】比較例に係るシリンダボアの形状を示す説明図。
【
図6】比較例に係るシリンダボアの拡張部を示す説明図。
【
図8】比較例に係るシリンダボアの拡張部を示す説明図。
【
図9】実施形態に係るシリンダボアの実働時に起こる変形のシミュレーション結果を示す三次元グラフ。
【
図10】比較例に係るシリンダボアの実働時に起こる変形のシミュレーション結果を示す三次元グラフ。
【
図11】実施例及び比較例のシリンダボアとピストンスカートの摺動によるFMEP(Friction Mean Effective Pressure)を示すグラフ。
【
図12】本開示の他の実施形態に係るシリンダボアの説明図。
【
図13】本開示の他の実施形態に係るシリンダボアの説明図。
【
図14】本開示の他の実施形態に係るシリンダボアの説明図。
【
図15】本開示の他の実施形態に係るシリンダボアのライナー部材の説明図。
【
図16】本開示の他の実施形態に係るシリンダボアの製造方法を示す説明図。
【
図17】本開示の他の実施形態に係るシリンダボアの実働時に起こる変形のシミュレーション結果を示す三次元グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態に係る車両1、シリンダ部材としてのシリンダブロック10の構成、及び製造方法について図面を参照しながら説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る車両を示す説明図であり、
図2はシリンダブロック10の製造方法を示す説明図である。
図3は、
図2のシリンダブロック10の一部を拡大して示す断面図。
図4は実施形態に係るシリンダボア20の形状を示す説明図であり、
図5は比較例に係るシリンダボア120の形状を示す説明図である。
図6乃至
図8はシリンダボア20の拡張部24を示す説明図である。
【0010】
図1に示すように、車両1は、内燃機関2と、トランスミッション3と、例えば4つ以上の車輪4と、を備える。車両1は、車両1の内燃機関2のピストン30を駆動させると、トランスミッション3を介して車輪4に駆動力が伝達される。
【0011】
内燃機関2は、単数または複数のシリンダ部11を有するシリンダブロック10と、シリンダ部11に配置されるピストン30と、を有する。
【0012】
本実施形態にかかるシリンダブロック10は、一方向に並ぶ複数の円筒状のシリンダ部11を備える。シリンダ部11には円形のピストン室11aが形成される。ピストン室11aの内部にはピストン30が軸方向に往復動可能に配される。
【0013】
シリンダ部11は筒状に構成され、間に冷却液を収容可能な隙間を介して内壁部12及び外壁部13を一体に有している。内壁部12と外壁部13の間には冷却液が収容される冷却液室14が形成される。すなわちシリンダ部11の少なくとも一部は二重壁構造の冷却ジャケットを構成する。シリンダ部11の内壁部12の内面15に、ピストン30の摺動面となるシリンダボア20(ボア部)が形成される。
【0014】
シリンダブロック10の支持部としての外壁部13には、締結部材としてのボルトBが締結可能な、複数のねじ孔13aが形成されている。
【0015】
図2は、本開示の一実施形態に係るシリンダボア20と、比較例に係るシリンダボア120を示す模式図である。
図2は、加圧時と、加圧してホーニング処理を施した後に加圧を解除した後におけるシリンダボア20の縦断面にあらわれる摺動面(内面)の形状を示す。
図3は加圧時のシリンダボア20の加圧部位周辺を拡大して示す。
図4は、実運転前のシリンダボア20とシリンダボア20の摺動面の形状を示す。
【0016】
図4に示すように、本実施形態に係るシリンダボア20の摺動面の上端部を含む第1領域21と、摺動面の下端部を含む第2領域22と、摺動面における第1領域21及び第2領域22の間の領域である第3領域23と、を含む。摺動面の縦方向の長さ(ピストンが摺動する方向における長さ)はhとする。
【0017】
シリンダボア20は、第3領域23の最大径d3は、第1領域21の径d1及び第2領域22の径d2よりも大きく構成されている。シリンダボア20は、最大径d3が径d1及び径d2よりも大きい。例えば、
図2に示すように、シリンダボア20は、円筒形状の中間部分が部分的に膨らんだ形状を有する。すなわち径方向外方に張り出すとともに肉薄に形成される拡張部24を有する。
【0018】
拡張部24は、軸方向における中央の領域を含むように配置される。例えば
図6は、ピストン30の位置による摺動速度V0を示す。
図6におけるピストン30の位置は、それぞれ往復運動における上端(上死点)位置と下端(下死点)位置とを示す。ピストン30は、上側にピストンリングが設けられた頭頂部と、頭頂部のピストンリングが設けられた領域よりも下側のスカート(スカート部)を有する。
図6に示すように、ピストン摺動速度V0は、ピストン30の位置がシリンダボア20における往復運動の中間位置付近で、大きくなる。ピストン30のスカートとシリンダボア20の摺動面との間で発生する摩擦(フリクション)は、ピストン摺動速度V0が大きいほど、大きくなる。したがって、ピストン30がシリンダボア20を往復運動する場合に、ピストン30の位置がシリンダボア20における往復運動の中間位置付近にある時に、スカートのフリクションが大きくなる。例えばピストン摺動速度V0が最も高くなるところでスカートのフリクションが大きくなる傾向がある。したがって、この部分を膨らませることで、フリクションを効果的に抑制できる。すなわち、拡張部24は、ピストン30の往復運動における中間位置を含む領域に設けられることが望ましいといえる。
【0019】
図5は比較例にかかるシリンダボア120の形状を示す。比較例に係るシリンダボア120は、摺動面が円筒状であり、上端から下端まで同一の径d11を有する。縦方向の長さ(ピストンが摺動する方向における長さ)は、本実施形態に係るシリンダボア20の長さと同じhである。
【0020】
図6に示すように、ピストン30のストロークをSとし、ピストン30の頂面からスカート中心(ピストンピンの中心)までの高さをHとする。この時、拡張部24は、高さ方向において、シリンダボア20においてピストン30が上死点にある時におけるピストン30の頂面の位置から、H+S/2の位置で拡張量が大きくなるように、配置される。すなわち、H+S/2を含む高さ位置に拡張部24があることが望ましい。また、H+S/2近傍で拡張量が大きくなる配置とすることが望ましい。
【0021】
また、一例として、
図8に示すように、拡張部24は、周方向において複数個所に設けられる。一例として、スラスト方向及び反スラスト方向の両側に3箇所ずつ、等間隔で配置される。
【0022】
図8に示す例では、スラスト方向及び反スラスト方向となる2箇所と、一対のポイントから同じ角度で周方向の両側にずれた4箇所の、合計6箇所を、ボアの内径が拡張する拡張部24とする構成である。
【0023】
すなわち、例えば、
図7に示すように、ピストン30のスカート部31の外形は、スラスト方向及び反スラスト方向において、スラスト方向及び反スラスト方向と直交する方向の寸法よりも、大きく構成されているため、拡張部24は、当該スラスト方向及び反スラスト方向における幅が拡大するように、設定されている。このように、ピストン30とあたりやすい部位を拡張部24に設定することでピストン30とのフリクションを効果的に低減できる。
【0024】
本実施形態のシリンダブロック10の製造方法において、シリンダボア20を形成する工程を説明する。シリンダブロック10の製造方法は、シリンダボア20の形成工程として、シリンダブロック10の内壁部12を加圧する加圧工程と、加圧状態で内壁部12をホーニング加工するホーニング工程と、加圧を解除する解除工程と、を備える。
【0025】
加圧工程として、中央部である第3領域23の外周面にボルトB等の締結部材を締結し、内壁部12を外方から加圧することで、内壁部12の第3領域23を内方に変形させる。予めシリンダブロック10の側面である外壁部13に形成されたねじ孔13aからシリンダボア20が形成される内壁部12に向けてボルトBを通し、ボルトを締め付けることでシリンダボア20を内側に変形させる。
【0026】
そして内壁部12が部分的に内側に変形した状態で、円筒形状となるホーニング処理を施す。円筒状のシリンダ部11を部分的に径方向内方に加圧して内側に変形させた状態で、ホーニング処理を行う。ホーニング工程において、内壁部12を円筒形状に研磨する。このとき、軸方向において、ピストン室11aを構成するホーニング孔の内径は一定となるように加工する。すなわち、内壁部12のうち加圧により内側に変形した部分がホーニング工程により研磨される。これにより、加圧工程によって、第3領域23の加圧部位は、他の部位よりも、肉薄となる。すなわち、第3領域23において周方向に沿って複数箇所に厚みが減少する肉薄部が形成される。
【0027】
解除工程として、加圧の解除により加圧領域を拡張させる。具体例として、締付けていたボルトBを取り外すことで、肉薄部が外側に張り出すように変形させる。すなわち、円筒形状にホーニングされたシリンダボア20は、シリンダ部11の外壁部13の側面のボルトBを取り外すことで、内側に変形した分外側に張り出すようなボアプロファイルとなり、円筒形状の中間部分の箇所が膨らんだ形状を得る。
【0028】
既に述べたように、シリンダボア20,120は、ヘッドボルトの締付や運転時の熱負荷によって形状が大きく変形する。
図9及び
図10は、各シリンダボア20,120について、形状の変化をシミュレートした結果である。
【0029】
図9は、上記実施形態に係るシリンダボア20の使用時に起こる変形のシミュレーション結果を示すグラフである。
図10は、比較例に係るシリンダボア120の使用時に起こる変形のシミュレーション結果を示すグラフである。
図9及び
図10のグラフは、実際の使用時に起こる変形をシミュレーションした結果を三次元グラフで表したものである。すなわち、実施形態にかかるシリンダボア20と比較例にかかるシリンダボア120について、ヘッドボルト等の取付けをしてさらに熱負荷をかけた場合の、実際の使用時に起こる変形をシミュレーションした結果を示している。
【0030】
図10に示すように、摺動面が上端から下端まで同一径の円筒状のシリンダボア120は、実際の使用時において、上端が膨張すると予測される。
【0031】
一方、
図9に示すように、拡張部24を有するシリンダボア20は、シリンダボア120に比べ、フリクションが低減でき、変形量が抑えられる。
【0032】
図11は、変形したシリンダボア20,120について、ピストンがストロークした際のピストンと摺動面とのフリクションをシミュレートしたものである。比較例と実施例において、シミュレーション条件は同一である。
【0033】
図11のグラフから分かるように実施例におけるFMEPは、比較例のFMEPからほぼ半減している。これらのデータから、本実施形態に係るシリンダボア20は、ピストン30とのフリクションを低減させていることが分かる。
【0034】
本実施形態にかかるシリンダ部材の製造方法によれば、加工設備等の高価な投資をせずに、既存の加工設備を用いて一定の性能改善を見込むことが可能となる。また、ピストン摺動速度が高いボア中腹付近で外側に張り出すようなボアのプロファイルであることにより、フリクションが低下し、エンジン性能に効果があると考えられているが、予めシリンダボア20の外面を加圧してホーニング加工を行った後加圧を解除することで、加圧部分が膨らむホーニングプロファイルを容易に得ることができる。このため、ホーニング前に外壁部13に締結したボルトBの位置や軸力によってボア形状をボルトBの配置によって任意にコントロールすることが可能となる。すなわち、高度なホーニング技術を用いることなく、シリンダボア20の高さごとにホーニング径を任意に制御することが可能である。したがって、量産で行う場合にも、加工設備を入れ替える必要がなく、製造コストを抑えることができる。また、一例として、スラスト方向及び反スラスト方向に、拡張部24配置したことにより、ピストン30のスカート部31とのフリクションが大きくなるところでフリクションを効果的に抑制できる。さらに、高さ方向においても、ピストン摺動速度V0が最も高くなるところでスカートのフリクションが大きくなる傾向があるため、この部分を膨らませることで、フリクションを効果的に抑制できる。
【0035】
以上、本開示に係る一実施形態について詳述したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。本発明には、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0036】
例えば上記実施形態において、スラスト方向及び反スラスト方向の両側に、3カ所ずつ、拡張部24が配置された例を示したが、これに限られるものではない。例えば周方向の全周において均等に拡張する形状としてもよい。また、両側1カ所ずつ、あるいは両側2カ所ずつの計4カ所に、拡張部24を設けてもよい。
【0037】
また、上記実施形態において、締結部材としてのボルトBが締結可能な、複数のねじ孔13aが形成され、ねじ孔13aにボルトBを締結することでボア20を加圧する例を示したが、これに限られるものではない。例えば
図11に示すシリンダブロック10Aのように、もともとシリンダブロック10に砂抜き用の孔13bが形成されている構成とし、砂抜き用の孔13bから直接治具や締結具で押圧して加圧してもよい。
【0038】
また、例えば
図12に示すように他の実施形態にかかるシリンダブロック10Bは、例えば二重壁構造となる冷却液室14が浅い構成であり、シリンダ部材の製造方法として、シリンダ部11の外壁部13の外面を直接押圧して加圧する。また、例えば外壁部13の外面において、押圧する箇所に押圧の治具を配置するためのボス等の凹部が形成されていてもよい。
【0039】
例えば上記実施形態において、ライナレス構造とし、シリンダブロック10の内壁部12の内面を加工してシリンダボア20を形成する例を示したが、これに限られるものではない。例えば他の実施形態にかかるシリンダブロック10Cは、
図14に示すように、シリンダ部11の内壁部12の内面に、シリンダ部材としてのシリンダライナ17が圧入等により装着されている構成であってもよい。この場合、例えばシリンダブロック10Cは別体として構成されたシリンダライナ17を、シリンダブロック10Cのシリンダ部11内に圧入した状態で、上記実施形態と同様に、加圧、ホーニング処理、及び加圧の解除を行ってもよい。
【0040】
例えばシリンダ部材の製造方法として、シリンダブロック10の円筒状のボア部を部分的に径方向内方に加圧して内側に変形させた状態で、ホーニング処理を行う例を示したがこれに限られるものではない。
【0041】
例えば、他の実施形態にかかるシリンダ部材の製造方法として、例えば
図14乃至
図16に示すように、シリンダブロック10Cは別体として構成されたシリンダライナ17が圧入される構成である。本実施形態にかかるシリンダ部材の製造方法において、シリンダライナ17の内面であるシリンダボア20を、径方向内方に加圧して内側に変形させた状態で、ホーニング処理を行う。例えば
図15及び
図16に示すように、円筒形状のシリンダライナ17の外面の周りの所定の箇所に、締付部材40を装着し、部分的に加圧した状態で、シリンダライナ17の内面を円筒状にホーニング処理し、ホーニング処理後に締付部材40を取り外すことで、拡張部24を有するボア20を形成することができる。例えば、周方向の全周を均一に締付ける場合、全周が均一に膨らむバレル形のホーニングプロファイルが得られる。
【0042】
本実施形態においても、
図17にシミュレーション結果を示すように、フリクションを効果的に低減できる。また、シリンダライナ17を予め加工することにより、シリンダブロック10に圧入された状態で加工するよりも締付け位置の自由度が高く、プロファイルを任意に調整しやすい。
以下に、本願出願当初の特許請求の範囲に記載された発明と同等の記載を付記する。
(1)
円筒状のボア部の加圧領域を部分的に径方向内方に加圧して内側に変形させた状態で、ホーニング処理を行うことと、
前記加圧の解除により前記加圧領域を径方向に拡張させることと、
を備える、シリンダ部材の製造方法。
(2)
前記ホーニング処理において、軸方向の中央の領域を加圧して内面を円筒状に研磨する、
(1)に記載のシリンダ部材の製造方法。
(3)
前記加圧領域は、ピストンが前記ボア部の内側を往復運動する場合における中間位置を含む、
(1)に記載のシリンダ部材の製造方法。
(4)
シリンダブロックの前記ボア部は、外壁部と、外壁部の内側に配置される内壁部を有し、
前記ホーニング処理において、前記シリンダブロックの前記外壁部に締結部材を締結し、前記締結部材により前記内壁部の外面を外側から加圧するとともに、
前記ホーニング処理の後に前記締結部材を取り外す、(1)に記載のシリンダ部材の製造方法。
(5)
前記シリンダ部材は、シリンダブロック、あるいはシリンダ部内に装着されるシリンダライナである、(1)に記載のシリンダ部材の製造方法。
(6)
円筒状のボア部を備え、
前記ボア部の軸方向の中央の領域に、部分的に肉薄に形成されるとともに、前記ボア部の内面が径方向外方に拡張する拡張部を有する、シリンダボア。
(7)
(6)に記載のシリンダボアを有するシリンダ部材。
(8)
(7)に記載のシリンダ部材を有する車両。
【符号の説明】
【0043】
1…車両
2…内燃機関
3…トランスミッション
4…車輪
10…シリンダブロック
11…シリンダ部
11a…ピストン室
12…内壁部
13…外壁部
13a…ねじ孔
13b…孔
14…冷却液室
17…シリンダライナ
20…シリンダボア
21…第1領域
22…第2領域
23…第3領域
24…拡張部
30…ピストン
31…スカート部
40…締付部材
120…シリンダボア
【要約】 (修正有)
【課題】ピストンとのフリクションを低減できるシリンダボアを容易に形成できるシリンダ部材の製造方法、シリンダ部材、及び車両の提供を目的とする。
【解決手段】本開示の一実施形態にかかるシリンダ部材の製造方法は、円筒状のボア部の加圧領域を部分的に径方向内方に加圧して内側に変形させた状態で、ホーニング処理を行うことと、前記加圧の解除により前記加圧領域を径方向に拡張させることと、を備える。
【選択図】
図2