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特許7540564流速測定方法およびマイクロ流体システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】流速測定方法およびマイクロ流体システム
(51)【国際特許分類】
   G01P 5/20 20060101AFI20240820BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G01P5/20 E
G01N37/00 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023154083
(22)【出願日】2023-09-21
【審査請求日】2024-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠午
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕一郎
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-270261(JP,A)
【文献】特開2006-126170(JP,A)
【文献】特開2008-116381(JP,A)
【文献】特開2010-271168(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111919(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0037728(US,A1)
【文献】特表2008-512683(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0160806(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0318999(US,A1)
【文献】特開2016-145737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 5/20
G01N 21/85
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イクロ流体システムであって、
前記マイクロ流体システムは、少なくともマイクロ流路および光学フィルタを備えるマイクロ流体デバイスと、光強度を取得する光検出部と、前マイクロ流路に光信号を照射する光源部とを含み、
前記マイクロ流体デバイスは、前記光検出部と前記光源部との間であって、かつ前記光源部から照射される前記光信号の照射方向と前記マイクロ流路の送液方向が垂直になるように配置され、
前記光学フィルタは、前記マイクロ流体デバイス内にかつ前記マイクロ流路と前記光検出部の間に配置され、複数の光透過領域と遮光領域によって構成される、
マイクロ流体システム。
【請求項2】
請求項に記載のマイクロ流体システムであって、前記光学フィルタは、前記複数の光透過領域の内の1つ以上の光透過領域が特定の波長領域の光を透過させることができる、
マイクロ流体システム。
【請求項3】
マイクロ流路および光学フィルタを備えるマイクロ流体デバイスに溶液を送液する第1工程と、
前記マイクロ流路に光信号を照射し、前記マイクロ流路を透過した光信号の光強度の分布を時系列に取得する第2工程と、
前記第2工程において取得された第1時刻の前記光強度の分布と第2時刻の前記光強度の分布との変化を示す時系列変化を算出し、前記光強度の分布の前記時系列変化から、前記マイクロ流路内の前記溶液の流速を算出する第3工程と、を含み、
前記光学フィルタは、前記マイクロ流体デバイス内に配置される、流速測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の流速測定方法において、
前記第2工程における前記光強度は、所定の時間間隔であるΔtごとに取得され、
t0を所定の時刻とした場合、前記マイクロ流路の所定の位置において、時刻t0+Δt・n(nは正の整数)における流速vnと時刻t0+Δt・(n-1)における流速vn-1を比較し、流速の増減を判断する第4工程と、をさらに含む流速測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の流速測定方法において、前記流速の増減から前記マイクロ流路の前記所定の位置においてつまりが発生したことを判断する第5工程と、をさらに含む流速測定方法。
【請求項6】
請求項3に記載の流速測定方法であって、
前記第2工程において前記光強度は光検出部によって取得され、
前記第2工程において前記光信号を光源部から照射され、
前記マイクロ流体デバイスは、前記光検出部と前記光源部との間であって、かつ前記光源部から照射される前記光信号の照射方向と前記マイクロ流路の送液方向が垂直になるように配置され、
前記光学フィルタは、前記マイクロ流路と前記光検出部の間に配置され、複数の光透過領域と遮光領域によって構成される、
流速測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流速測定方法およびマイクロ流体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、おおよそ1μmから1mm程度の毛管寸法のマイクロ流路やマイクロウェルを含むマイクロ構造によって微小容量の流体を操作できる、Lab-on-a-Chipもしくは、マイクロTAS、マイクロ化学チップなどと呼ばれるマイクロ流体デバイスが知られている。近年、このようなデバイスは、化学実験をダウンサイジングするための機器として、あるいは検体発生現場等において検体分析、いわゆるPOCT(point-of-care-testing)を簡便にかつ速やかに行うための機器として注目されている。特にPOCTにおいて、検体分析で対象となる検体としては、主に動物の体液、例えば、血液や唾液、尿などが挙げられる。一般に、体液内にはタンパク質や細胞などの生物由来の微粒子が含まれており、これらの微粒子を光学センサや電気的センサなどで検出することにより、生体情報を取得することが可能となる。
【0003】
マイクロ流体デバイスへ微粒子を含む検体である懸濁液を送液し、生体情報が検出されるまでの間で、マイクロ流体デバイス中で懸濁液の濃縮やフィルタリング、混合など様々な前処理が実施される。そして、こうした前処理を行うことによって、より精度の高い解析が可能となる。これら前処理のなかには、マイクロ流体デバイス中のマイクロ構造を懸濁液が通過する際に行われる処理も含まれている。このような場合は、懸濁液がマイクロ流体デバイス内を正常に通過することによって適切な前処理が実現される。
【0004】
一方で、マイクロ構造に微粒子や夾雑物、気泡が付着すると、マイクロ流体デバイス内につまりが発生する場合がある。この場合、送液が正常に行われず、適切な前処理が実行されないまま検出および解析が行われ、その精度が低下することがある。このような解析精度の低下を防止するため、あるいは解析精度の低下の発生を予測するためには、マイクロ流体デバイス中における流速や流量、圧力など送液の情報をリアルタイムに取得する必要がある。
【0005】
特許文献1では、マイクロ流路に第1液を導入する第1ステップと、マイクロ流路に溶質を含む第2液を導入し、層流で送流させる第2ステップと、マイクロ流路に導入された第1液と第2液とを含む液体の屈折率を時系列的に測定する第3ステップと、上記屈折率の時系列データから、液体中の溶質の濃度が第1液と第2液とが接触する前の第2液中の溶質の濃度の半分となる濃度境界の位置の時間変化を示す濃度境界データを生成する第4ステップと、濃度境界データを第2液の拡散係数とマイクロ流路の厚さ方向の長さに基づいて換算した換算データを生成する第5ステップと、換算データに基づいて、マイクロ流路内の第1液および第2液を含む液体の流速を算出する第6ステップとを含むことを特徴とする流速測定法が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-9794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の流速測定法では、流れが層流かつ均一であることが必要であるため、流路の形状が直線型に限定される。しかし、マイクロ流体デバイスにおいては、検体を前処理する際に、マイクロ流路の形状を曲線型や蛇行型など直線流路よりも複雑な形状にしたり、流路内にマイクロピラーなどマイクロ流路より微細な構造を設けたりすることで、流れを不均一または乱流にすることが多い。しかし、特許文献1で提示される流速測定法では、直線以外の形状のマイクロ流路を持つマイクロ流体デバイスに適用することは想定されていない。
そこで、本発明では、マイクロ流路の形状に左右されずマイクロ流路内の流速情報を正確に取得可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の流速測定方法の一つは、マイクロ流路を備えるマイクロ流体デバイスに溶液を送液する第1工程と、前記マイクロ流路に光信号を照射し、前記マイクロ流路を透過した光信号の光強度の分布を時系列に取得する第2工程と、前記第2工程において取得された第1時刻の前記光強度の分布と第2時刻の前記光強度の分布との変化を示す時系列変化を算出し、前記光強度の分布の前記時系列変化から、前記マイクロ流路内の前記溶液の流速を算出する第3工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マイクロ流路の形状に左右されずマイクロ流路内の流速情報を正確に取得可能な技術を提供することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、マイクロ流体デバイスの構成を模式的に示す図である。
図2図2は、光学フィルタの構造を模式的に示す図である。
図3図3は、光学フィルタの形成工程の一例を示す図である。
図4図4は、マイクロ流体システムの構成を模式的に示す図である。
図5図5は、光源部から照射された光信号がマイクロ流路を透過する場合を示す図である。
図6図6は、図5の第2透過領域において、光検出部によって検出された光信号の光強度を時系列に示す図である。
図7図7は、物質の光特性と光学フィルタに要求される特性との関係を示す図である。
図8図8は、光検出部によって検出された光強度の分布を示す図である。
図9図9は、図8に示される光強度の分布の時系列変化から溶液の流速を算出する場合を示す図である。
図10図10は、光強度の分布の時系列変化から溶液の流速を算出する別の場合を示す図である。
図11図11は、流速測定のフローチャートである。
図12図12は、マイクロ流路におけるつまりの発生を判断する方法のフローチャートである。
図13図13は、第2実施形態の変形例のフローチャートである。
図14図14は、光強度を用いてマイクロ流路におけるつまりの発生を判断する方法のフローチャートである。
図15図15は、マイクロ流体システムの構成を模式的に示す図である。
図16図16は、S0とSの関係を示す図である。
図17図17は、第3実施形態の変形例のフローチャートである。
図18図18は、マイクロ流体システムの構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0012】
なお、本開示において、「面」とは、板状部材の面のみならず、板状部材に含まれる層について、板状部材の面と略平行な層の界面も指すことがある。また、「上面」、「下面」とは、板状部材や板状部材に含まれる層を図示した場合の、図面上の上方または下方に示される面を意味する。なお、「上面」、「下面」については、「第1面」、「第2面」と称することもある。
また、「上方」とは、板状部材または層を水平に載置した場合の垂直上方の方向を意味する。さらに、「上方」およびこれと反対の「下方」については、これらを「z軸プラス方向」、「z軸マイナス方向」ということがあり、水平方向については、「x軸方向」、「y軸方向」ということがある。さらに、z軸方向の距離を「高さ」と称し、x軸方向とy軸方向で規定されるxy平面上の距離を「幅」と称する。
【0013】
本開示において、「溶液」とは、マイクロ流体システムにおいて検体とされるものを指す。一般的には、溶液は、溶媒と溶質が均一に混合した液体の状態であるが、本開示においては、溶質が析出し、固体と液体が混在する場合をも含む。また、本開示は、単に固体と液体が混在したものを溶液として指す場合も含む。
【0014】
[第1実施形態]
図1から図4を参照して、マイクロ流体システムの構成について説明する。まず、図1から図3を参照してマイクロ流体システムに含まれるマイクロ流体デバイスを説明し、続いて、図4を参照して、マイクロ流体システムの構成を説明する。
【0015】
(マイクロ流体デバイスの構成)
図1は、マイクロ流体デバイスの構成を模式的に示す図である。図1(a)はマイクロ流体デバイス10の斜視図を示し、図1(b)はマイクロ流体デバイス10のAA´断面図を示し、図1(c)はマイクロ流体デバイス10のBB´断面図を示す。AA´断面はy軸方向に平行な方向の断面であり、BB´断面はx軸方向に平行な方向の断面である。
【0016】
図1(a)に示されるように、マイクロ流体デバイス10は、基板11と隔壁部12と上面部13を含み、3つの部材がz軸方向に重ねられた構造を有する。隔壁部12の内部には空間が形成されており、この空間において、溶液が流れるマイクロ流路30が形成されている。マイクロ流路30は導入口32と排出口33を有しており、後述するマイクロ流体システムにおいて、導入口32からマイクロ流路30に溶液が導入され、排出口33から溶液がマイクロ流体デバイス10の外部へ排出される。なお、図1(a)では、マイクロ流路30の構造を説明するために、上面部13を透明にして示しているが、上面部13は必ずしも透明である必要はない。
【0017】
なお、図1において、マイクロ流路30はx軸方向に延びる直線流路の形状を有しているが、本開示がこれに限定されるものではない。マイクロ流路30としては、曲線型の流路を含む場合、蛇行型の流路を含む場合など、直線流路以外の場合をも適用することが可能である。また、導入口32と排出口33は説明のために便宜的に設定されたものであり、導入口と排出口を入れ替えて設定してもよい。導入口と排出口は1つずつの場合に限定されず、複数設けることも可能である。例えば、導入口を複数設けておき、後述するようにマイクロ流路内につまりの発生が検出された場合には、つまりの発生箇所を避けるように導入口を選択可能な構成とすることも可能である。
【0018】
図1(b)および図1(c)に示されるように、マイクロ流体デバイス10において、基板11上には光学フィルタ20が配置され、また光学フィルタ20上には床部14が配置されている。なお、光学フィルタ20については後述する。
図1において、マイクロ流路30は床部14と隔壁部12と上面部13の間に形成された空間であり、また、光学フィルタ20はマイクロ流路30の全面にわたって配置されている。しかし、本開示は、光学フィルタ20がマイクロ流路30の全面に配置される場合に限定されるものではなく、光学フィルタ20はマイクロ流路30の一部に形成されてもよい。例えば、光学フィルタ20は、マイクロ流路30における、つまりの発生が懸念される箇所に配置することも可能である。また、後述するように、マイクロ流体デバイス10にz軸プラス方向から光信号を照射し、光信号がマイクロ流路30および光学フィルタ20を透過する様子を検出することが行われる。基板11および上面部13は、光源部60から照射される光信号を遮蔽しないように、光信号を透過させるものが適用される。
【0019】
図2は、光学フィルタ20の構造を模式的に示す図である。図2は、図1に示されるマイクロ流体デバイス10のマイクロ流路30の一部分を拡大して示す図であり、光学フィルタ20の構造を説明するために床部14を透明にして表記している。
【0020】
光学フィルタ20は、複数の光透過領域と遮光領域によって構成される。具体的には、光学フィルタ20は、遮光領域21、第1透過領域22、第2透過領域23、第3透過領域24、および第4透過領域25を有している。遮光領域21は、マイクロ流体システムにおいて用いられる光信号のうち、すべての波長の光信号を遮光する。これに対し、第1透過領域22、第2透過領域23、第3透過領域24、および第4透過領域25は、それぞれ特定の範囲の波長領域の光信号を透過させる。
【0021】
各透過領域は、各透過領域の中心がx軸方向にΔxの距離で、y軸方向にΔyの距離で配置されている。各透過領域は、xy平面において同じ面積を有する正方形状の領域であり、隣接する領域の間の間隔は、x軸方向にgxの距離であり、y軸方向にgyの距離である。透過領域はxy平面における座標を用いて特定することが可能であり、例えば、iおよびjを正の整数とする場合、第1透過領域22は、座標(i-1、j-1)、座標(i、j+2)、座標(i+1、j+1)、座標(i+2、j)に配置されていると特定することが可能である。同様に、第2透過領域23は、座標(i-1、j)、座標(i、j-1)、座標(i+1、j+2)、座標(i+2、j+1)に配置される。第3透過領域24は、座標(i-1、j+1)、座標(i、j)、座標(i+1、j-1)、座標(i+2,J+2)に配置される。第4透過領域25は、座標(i-1、j+2)、座標(i、j+1)、座標(i+1、j)、座標(i+2、j-1)に配置される。遮光領域21は、各透過領域の間に位置しており、z軸プラス方向から見た場合にマイクロ流路30の全体にわたって形成されている。
【0022】
なお、図2においては、透過領域が4種類の場合を示しているが、本開示はこれに限定されない。透過領域の種類は4種類以外であってもよい。また、透過領域の形状を正方形状としているが、正方形以外の形状とすることも可能である。また、透過領域が配置される間隔についても、適宜設定することが可能である。
【0023】
(光学フィルタの形成工程)
図3は、光学フィルタ20の形成工程の一例を示す図である。まず、図3(a)に示されるように、基板11に遮光領域21を形成する。遮光領域21は、例えば、遮光性を有するレジスト(例えばブラックレジスト)を基板11上に塗布しフォトリソグラフィを行うことによって、基板11上に格子状のパターンを有するように形成される。
【0024】
続いて、図3(b)に示されるように、基板11の全面にカラーレジスト220を塗布する。カラーレジスト220は、第1透過領域22を構成する材料と同じ材料であってもよい。続いて、図3(c)に示されるように、フォトマスク221を介して第1透過領域22が配置されるパターンの露光を行う。
【0025】
続いて、現像液によりカラーレジスト220の不要な部分を除去した後、ベーキング処理を行いカラーレジスト220を硬化させる。これによって、図3(d)に示されるように、基板11上に第1透過領域22が配置された状態を得ることができる。
【0026】
図3(b)のカラーレジストの塗布、図3(c)の露光、図3(d)の現像およびベーキング処理を、第2透過領域23、第3透過領域24、および第4透過領域25それぞれに対応するカラーレジストおよびパターンについて行う。これによって、光学フィルタ20の透過領域が基板11上に形成される。
【0027】
光学フィルタ20の透過領域を形成した後、床部14および隔壁部12についても、レジストの塗布、露光、現像およびベーキング処理を行って形成していく。隔壁部12上に上面部13を配置して、マイクロ流体デバイス10が形成される。
以上、光学フィルタ20の形成工程およびマイクロ流体デバイス10の形成工程を説明した。本開示では、基板11がガラスであることを前提として、フォトリソグラフィを活用した形成方法を説明した。しかし、本開示はこれらの形成方法に限定されるものではなく、他の材料および成型手法を適用することも可能である。
【0028】
(マイクロ流体システムの構成)
図4は、マイクロ流体システムの構成を模式的に示す図である。マイクロ流体システム100は、マイクロ流体デバイス10、送液部40、廃液部50、光源部60、光検出部70、光信号処理部80、制御部90を含む。
【0029】
送液部40は、マイクロ流体デバイス10へ溶液を送液する機能を有しており、例えば溶液を貯留する遠沈管41と、溶液を遠沈管41からマイクロ流体デバイス10へ送り出すポンプ42とを含む。送液部40から送り出された溶液は、マイクロ流体デバイス10の導入口32に接続された接続チューブ45を通じて、マイクロ流体デバイス10へ流れる。
【0030】
廃液部50は、マイクロ流体デバイス10のマイクロ流路30を通過し、マイクロ流体デバイス10から排出された液体を収集する。接続チューブ55はマイクロ流体デバイス10の排出口33に接続されており、接続チューブ55を介して、マイクロ流体デバイス10から廃液部50へ溶液が流れる。
【0031】
光源部60は、光信号OSをマイクロ流体デバイス10へ照射する。光信号OSのうち、マイクロ流体デバイス10を透過した光信号OSは、光検出部70によって検出される。光信号処理部80は、光検出部70によって検出された光信号の信号処理を行う。制御部90は、光信号処理部80の処理結果に基づいて、送液部40の制御を行う。
【0032】
なお、光源部60は、可視光領域の光を照射するものを適用することが可能である。具体的には、450nmから500nmの青色光、500nmから600nmの緑色光、600nmから700nmの赤色光である。近赤外領域の光を照射することも可能である。また、光検出部70は、分光機能を有するものであってもよい。
【0033】
(流速の測定)
図5から図10を参照して、マイクロ流体システムにおける流速の測定について説明する。なお、図5および図6において、理解を容易にするため、流速の測定に特に関係が大きい構成を抽出して示している。また、光学フィルタ20はxy平面に複数の透過領域を有しているが、理解を容易にするため、図6においてはx軸方向にのみ透過領域が配列された場合を示している。ここで、マイクロ流体システム100は、少なくともマイクロ流体デバイス10と、光強度を取得する光検出部70と、光信号を照射する光源部60とを含んでいる。
また、マイクロ流体デバイス10は、光検出部70と光源部60との間であって、かつ光源部60から照射される光信号の照射方向とマイクロ流路30の送液方向LDが垂直になるように配置される。また、マイクロ流路30と光検出部70の間に、複数の光透過領域と遮光領域によって構成される光学フィルタ20が配置される。以下、具体的に説明する。
【0034】
(光強度の検出)
図5は、光源部60から照射された光信号OSがマイクロ流路30を透過する場合を示す図である。マイクロ流体デバイス10のマイクロ流路30において、溶液は、x軸プラス方向を向く矢印LDによって示される送液方向(以下、「送液方向LD」ともいう。)に流れている。マイクロ流体デバイス10は光源部60と光検出部70との間に配置されており、光源部60から照射された光信号OSは、送液方向LDに垂直な方向であるz軸マイナス方向に進行して、マイクロ流路30に侵入する。なお、送液方向LDは、マイクロ流体デバイス10における巨視的な送液の方向を示しているものであり、ミクロ的には、溶液の分子は様々な方向に動くことがある。
【0035】
光学フィルタ20は、マイクロ流路30と光検出部70の間に配置されている。光信号OSは、光学フィルタ20のうち、第1透過領域22と第3透過領域24を通過して光検出部70へ到達する。一方、溶液に含まれる物質31は光信号OSの通過を妨げており、第2透過領域23には光信号が到達しない。また、遮光領域21も、光信号OSの通過を妨げる働きをしている。
【0036】
図6は、図5の第2透過領域23において、光検出部70によって検出された光信号の光強度を時系列に示す図である。光検出部70は、マイクロ流路30を透過した光信号の光強度の分布を時系列に取得しており、横軸に示されるように時間間隔Δtで光信号OSの光強度を取得している。
【0037】
ここで、光学フィルタ20は、複数の光透過領域の内の1つ以上の光透過領域が特定の波長領域の光を透過させることができるため、光検出部70は波長領域毎の光強度を検出することができる。以下、具体例を挙げて説明する。
光源部60が波長λ1と波長λ2と波長λ3とを含む光を光信号OSとして照射するものとし、第2透過領域23は、波長λ1をおよび波長λ3を含む波長領域の光のみを遮り、波長λ2を含む波長領域の光を透過させる場合を想定する。また、物質31は、波長λ1を含む波長領域の光を遮り、波長λ2および波長λ3を含む波長領域の光を透過させる場合を想定する。
【0038】
なお、強度S0とは、光信号OSの基準となる光強度であるベース強度を意味し、例えばマイクロ流体デバイス10に溶液を流す前の状態において、光源部60から光信号OSを照射した場合に検出される光強度をベース強度として採用することが可能である。また、検体となる溶液に代えて、溶媒のみをマイクロ流体デバイス10に流した場合に検出される光強度を、ベース強度として採用することも可能である。また、光強度STは、光信号OSの透過を判定するための光強度のしきい値であり、光強度STよりも小さい光強度が検出された場合、光信号OSは遮られていると判定される。例えば、ベース強度S0の50%の値をしきい値STと設定してもよい。しきい値STは、溶媒や物質の特性等によって設定することが可能である。
【0039】
光信号OSには複数の波長の光信号を含むことが可能であるところ、図6(a)は波長λ1の光信号の光強度を検出した場合を示し、図6(b)は波長λ2の光信号の光強度を検出した場合を示し、図6(c)は波長λ3の光信号の光強度を検出した場合を示す。
【0040】
図6(a)に示されるように、波長λ1の光強度は、時刻tにおいてしきい値STを下回る光強度S1が検出され、時刻tおよびtにおいてベース強度S0としきい値STの間の値が検出されている。時刻tにおいて検出された光強度がしきい値STより小さいため、時刻tにおいて物質31が第2透過領域23の上方に存在し、光信号OSを遮っていたと判定される。
【0041】
図6(b)と図6(c)を参照すると、いずれの場合においても、しきい値STより大きい光強度が検出されているため、時刻tからtの間で、物質31は、第2透過領域23の上方に存在したことが検知できないこととなる。なお、第2透過領域23は、波長λ3を含む波長領域の光のみを遮り、波長λ2を含む波長領域の光を透過させる。このため、図6(b)に示される波長λ2の場合の光強度のほうが、図6(c)に示される波長λ3の場合の光強度よりも、大きな値に検出されている。
【0042】
このように、光源部60から照射される光信号OSに含まれる光信号の波長領域、溶液に含まれる物質31の特性、および光学フィルタ20透過領域の特性に基づいて、物質31の存在を判定することが可能となる。ここで、図7は、物質31の光特性と光学フィルタ20に要求される特性との関係を示す図である。第1の場合として、上述の説明のように、物質31が一部の波長領域の光を透過し、透過した波長領域以外の波長領域の光を吸収する場合がある。この場合には、光検出部70には、物質31が透過した波長領域の光を検出することが要求される。ここで光学フィルタ20の透過領域に要求される第1の特性としては、物質31を透過した一部の波長領域の光を遮断することである。また、第2の特性として、物質31の吸収する波長領域の光のみを透過させることでもよい。これら2つの特性を1つの透過領域に付与してもよく、また、第1の特性を1つの透過領域に付与し、第2の特性を他の透過領域に付与する光学フィルタ20としてもよい。いずれかの態様でこれら2つの特性を光学フィルタ20内の透過領域に付与することによって、物質31が存在する場合と存在しない場合で異なる光強度を検出することができ、物質31の位置を判定することが可能となる。
【0043】
また、第2の場合として、物質31が一部の波長領域の光を吸収するものの、別の波長領域の光を発光する場合が考えられる。この場合には、光検出部70には、発光した別の波長領域の波長を含む波長領域のうち、透過した波長の光を検出することが要求される。ここで光学フィルタ20に含まれる透過領域に要求される第1の特性としては、発光の波長領域を遮断することである。また、第2の特性として、物質31を透過した波長領域の光を遮断することである。また、第3の特性として、物質31の吸収する波長領域の光のみを透過させることである。これら3つの特性を光学フィルタ20の透過領域に付与することによって、物質31が存在する場合と存在しない場合で異なる光強度を検出することができ、物質31の位置を判定することが可能となる。なお、3つの特性を一つの領域で兼ね備えることとしてもよいし、それぞれ別の領域で分担してもよいことは、前述の第1の場合と同様である。
【0044】
また、第3の場合として、物質31が光源部60から照射される光の波長のうち、すべての波長の光を吸収する場合が考えられる。この場合には、光検出部70には、物質31が存在する場合には、いずれの波長の光も検出することができない。ここで光学フィルタ20の透過領域に要求される特性としては、遮断する波長領域に要件は存在しない。つまり、透過領域における遮断する波長領域は任意に設定可能となる。例えば、透過領域として、すべての波長領域の光を透過するものを採用することが可能である。
【0045】
上述のように、透過領域の内、1つ以上の透過領域が特定の波長領域の光を透過させることによって、特定の波長領域の光を吸収する物質に対しても流速を測定することが可能となる。
なお、物質31の例として、生体物としては、プランクトン(1mm前後)、細胞(20μm程度)、細菌(数μmから10μm)、ウイルス(100nmオーダー)、タンパク質(10nmオーダー)を挙げることができる。また、非生物としてはマイクロプラスチック、金属微粒子、その他有機物などを挙げることができる。本開示はこれらに限定されず、様々な微粒子を含む溶液について適用することが可能である。例えば、溶液中の溶質とは異なる指標用粒子を含めておき、指標用粒子による光強度の変化を検出することによって流速を測定することも可能である。
【0046】
(光強度の分布)
図8は、光検出部70によって検出された光強度の分布を示す図である。図8(a)は時刻t=t0の場合であり、図8(b)は時刻t=t0+Δtの場合であり、時刻8(c)は時刻t=t0+2Δtの場合である。また、図8において、送液方向LDはx軸プラス方向である。なお、t0は所定の時刻を示し、Δtが所定の時間間隔を示す。図8において、マイクロ流路30を通過した光強度の分布の様子が、時系列的に変化する様子が示されている。以下、具体的に説明する。
【0047】
光強度は光学フィルタ20の透過領域および遮光領域の配置に従って二次元に分布するデータとして検出されるため、図8においては、透過領域の配置に従う矩形領域が示されている。kおよびmを正の整数とする場合、図8(a)において、座標(m、k)および座標(m、k+1)は、光強度がしきい値STより小さくなった箇所を示しており、したがって、物質31が存在していたと判定される箇所を示している。なお、図8に示される矩形領域は、理解を容易にするため、図2の光学フィルタ20における透過領域の配置(x軸方向4個配置され、y軸方向に4個配置される)とは異なる配置(x軸方向に4個配置され、y軸方向に6個配置される)で示されている。
【0048】
図8(b)においては座標(m+1、k)および座標(m+1、k+1)が、また図8(c)においては座標(m+2、k)および座標(m+2、k+1)が、それぞれ光強度がしきい値STより小さくなった箇所を示している。なお、図8(a)から図8(c)の光強度の移動の方向は送液方向LDに一致するため、図8(a)から図8(c)の光強度の変化は、同一の物質の移動によって生じたものと判定される。
【0049】
図9は、図8に示される光強度の分布の時系列変化から溶液の流速を算出する場合を示す図である。時系列変化は、等しい時間間隔で取得されたデータの変化のことを指す。矢印A1は、図8(a)の座標(m、k)および座標(m、k+1)から、図8(c)の座標(m+2、k)および座標(m+2、k+1)に向けて延びている。例えば、座標(m、k)および座標(m、k+1)における溶液の流速として、矢印A1の大きさおよび向きを流速として採用することができる。
【0050】
図10は、光強度の分布の時系列変化から溶液の流速を算出する別の場合を示す図である。図8および図9において物質31が1つの場合を示したが、図10においては、3個の物質が含まれる領域の場合を示す。矢印A2は、矢印A1と比較して幅が狭く示されている。これは、矢印A1は座標(m、k)および座標(m、k+1)における流速を示すが、矢印A2は座標(m+1、k+3)における流速を示している。両者を比較すると、座標(m、k)および座標(m、k+1)に比べて、座標(m+1、k+3)の位置に対応するマイクロ流路は、領域を流れる溶液の量が異なることが推察される。
【0051】
また、矢印A3は、座標(m+4、k-2)における流速を示している。矢印A1および矢印A2は送液方向LDと同じ方向であるx軸プラス方向を向いているが、矢印A3はx軸プラス方向から外れた方向を向いている。また、矢印A3は、矢印A1および矢印A2と比べて、大きさが小さい。したがって、座標(m+4、k-2、)の位置に対応するマイクロ流路においては、溶液の流れを妨げるつまりの発生の予兆があることが推察される。
【0052】
このように、光強度の分布において、複数の箇所で光強度の変化が検出される場合、マイクロ流路内の流速は、2次元に分布するデータとして取得される。なお、流速の分布を液体の流路に対する矢印として表現したが、表現の態様はこれに限定されない。例えば、ヒートマップや等高線マップなどの形式で、流速の分布を表現することも可能である。
【0053】
(流速測定のフローチャート)
図11を参照して、流速測定の方法について説明する。図11は、流速測定のフローチャートである。流速測定方法は、マイクロ流路30を備えるマイクロ流体デバイス10に溶液を送液する第1工程(ステップS10)と、マイクロ流路30に光信号を照射し、マイクロ流路30を透過した光信号の光強度の分布を時系列に取得する第2工程(ステップS11)と、第2工程において取得された第1時刻の光強度の分布と第2時刻の光強度の分布との変化を示す時系列変化を算出し、光強度の分布の時系列変化から、マイクロ流路30内の溶液の流速を算出する第3工程(ステップS12)と、を含む。以下、具体的に説明する。
【0054】
ステップS10(第1工程)において、マイクロ流体デバイス10に溶液が送液される。制御部90は、ポンプ42を制御して送液部40から溶液をマイクロ流体デバイス10へ送る。
【0055】
続いて、ステップS11(第2工程)において、光信号処理部80は、マイクロ流路30を透過した光信号の光強度の分布を時系列に取得する。光信号処理部80は、光検出部70によって検出された光強度を、時系列情報として取得する。また、光強度は、光学フィルタ20に透過領域の配置に対応した、二次元に分布するデータとして取得される。
【0056】
続いて、ステップS12(第3工程)において、制御部90は、光強度の分布の時系列変化から、マイクロ流路30内の溶液の流速を算出する。制御部90は、物質の移動の速度を算出し、物質の移動の速度を溶液の速度として採用する。
【0057】
(作用・効果)
上述のように、本開示によれば、マイクロ流路内の流速情報を正確に取得することが可能となる。また、光学フィルタ20の各透過領域は光信号の波長に応じて光信号を透過させるため、光学フィルタ20の特性は、光信号の入射角等の影響を受ける場合がある。これに対し、本開示においては光学フィルタ20がマイクロ流体デバイス10内に配置され、光学フィルタ20がマイクロ流路に近接した構成であるため、光学フィルタ20とマイクロ流路の間において光信号の入射角にずれが発生することを抑制することができ、光学フィルタ20によって検出された光信号を適切に評価することが可能となる。また、一般に光信号が物体を透過する場合に透過する物体に光が吸収され光強度が減少する可能性があるが、本開示においては光学フィルタ20とマイクロ流路デバイス10が一体化されているため、光強度の減少を抑えることが可能となる。
また、光学フィルタ20とマイクロ流路デバイス10が一体化されることによって、マイクロ流体システム100の構成が小型化される。なお、図3に示した光学フィルタ20の形成工程に続いて、フォトリソグラフィを活用して床部14、隔壁部12、および上面部13が形成されマイクロ流路デバイス10を得ることができる。共通のリソグラフィ設備を活用することができるため、マイクロ流路デバイス10の製造コストを抑えることが可能となる。
また、マイクロ流路内に光学フィルタ20を設定する箇所は制限されないので、マイクロ流路の形状に左右されずに、流速を測定することが可能である。また、光学フィルタ内の透過領域の配置に応じて流速を測定でき、マイクロ流路内の詳細な流速分布を測定することが可能となる。光学フィルタを用いて流路内の局所的な流速を測定することにより、マイクロ流路の形状や溶液の流れの均一性に依存しない測定が可能となる。
【0058】
また、上述の説明では物質が透過領域とほぼ同じ大きさであることを前提としていたが、透過領域と遮光領域のパターニングのサイズや形状を変更することで、物質のサイズに合わせた流速測定をすることが可能である。また、光検出部に光の信号強度の形状も取得する機能を付加する場合、信号形状のQ値から溶媒に含まれる物質のサイズを算定することも可能である。
【0059】
[第1実施形態の変形例]
なお、ステップS10とステップS11の間に、マイクロ流路30に対して溶液が移動する方向を示す情報である送液方向情報を取得する工程を含めてもよい。例えば、制御部90は、ポンプ42を駆動させたことをトリガとして、マイクロ流路30の導入口32から排出口33へ向かう方向に溶液が流れ始めたと判定し、溶液が流れた方向を示す情報を送液方向情報として取得する。また、マイクロ流路30の流量センサまたは液圧センサを設けておくこととし、送液量および廃液量から溶液の送液方向を判定することも可能である。仮に、ポンプ42の配置箇所並びに導入口32および排出口33の配置箇所が定まっており、マイクロ流体システム100における送液方向が確定している場合、送液方向情報はすでに知られている情報であるため、送液方向情報を取得する必要はない。しかし、例えば、マイクロ流路が複数の経路を有しており、送液方向が所定の期間で変更される場合、制御部90は、送液方向情報を取得し、送液方向情報と光強度の分布の時系列変化から、マイクロ流路内の溶液の流速を算出する。例えば、制御部90は、光信号処理部80によって光強度としきい値STとの比較を行って物質の位置を判定し、物質の位置の変化の方向と送液方向とのずれが所定範囲内に収まる場合、物質の移動を溶液の流速として扱う。
【0060】
[第2実施形態]
第2実施形態は、流速測定の方法を適用して、マイクロ流路におけるつまりの発生を判断する点で、第1実施形態と異なる。以下の説明において、上述の第1実施形態と同一または同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略または省略する。
【0061】
図12は、マイクロ流路におけるつまりの発生を判断する方法のフローチャートである。図12の方法は、第1実施形態のマイクロ流体システム100と同じシステムにおいて行われる。図12のステップS20からステップS22は、図11に示される第1実施形態のステップS10からステップS12と同様の内容であるため、説明を省略する。
【0062】
ステップS23およびステップS24は、ステップS20の送液を開始してからステップS22において流速が算出されるごとに、リアルタイムに行われる。ステップS23(第4工程)において、t0を所定の時刻とした場合、前記マイクロ流路の所定の位置において、時刻t0+Δt・n(nは正の整数)における流速vと時刻t0+Δt・(n-1)における流速vn-1を比較し、流速の増減を判定する。言い換えると、所定の位置の座標(i、j)においてある時刻t(例えばt=t0+Δ・n)における流速をv(i、j)とし、tn-1、t、tn+1、…というように時系列に従って流速が算出される場合、ある時刻tにおけるv(i、j)とvn-1(i、j)が比較される。具体的には、図9を参照すると、矩形領域(k、m)において、流速vを時刻t0と時刻t0+2Δtの間の光強度の変化から算出された速度とし、流速vn-1を時刻t0-Δtと時刻t0+Δtとの光強度の変化から算出された速度とする場合、v(m、k)とvn-1(m、k)とを比較し、流速の増減が判定される。複数の座標について、同様の判定が行われる。
【0063】
続いて、ステップS24(第5工程)において、流速の増減からマイクロ流路30の所定の位置においてつまりが発生したことを判断する。具体的には、制御部90は、ステップS23においてv(i、j)がvn-1(i、j)より大きいと判定した場合(ステップS23においてYes)、座標(i、j)の位置に対応するマイクロ流路30において、つまりが発生したと判断する(ステップS24)。つまりの発生に対処するため、制御部90は、例えば、ポンプ42を制御し、送液部40から送液を停止する。
【0064】
なお、ステップS23においてv(i、j)がvn-1(i、j)以下と判定された場合(ステップS23においてNo)、ステップS22に戻り、流速の算出が行われる。
【0065】
[第2実施形態の変形例]
図13は、第2実施形態の変形例のフローチャートである。図13におけるステップS200からステップS240は、図12における第2実施形態のステップS20からステップS24と同じであるので、説明を省略する。
【0066】
ステップS240においてマイクロ流路30においてつまりが発生したと判断された後、制御部90は、ステップS200において実行している送液について、送液量を増加させる(ステップS250)。例えば、制御部90は、ポンプ42の吐出量を増加させるように制御をする。
【0067】
続いて、ステップS260において、制御部90は、ステップS250を行った後の時刻t(pはnより大きい整数)における流速v(i、j)を算出する。ステップS260は、ステップS210およびステップS220と同様の処理を含む。
【0068】
続いて、制御部90は、v(i、j)とv(i、j)とを比較する(ステップS270)。制御部90は、v(i、j)がv(i、j)より大きいと判定した場合(ステップS270においてYes)、座標(i、j)の位置に対応するマイクロ流路30において、つまりが発生したと判断する(ステップS280)。
【0069】
なお、ステップS270においてv(i、j)がv(i、j)以下と判定された場合(ステップS270においてNo)、ステップS220に戻り、流速の算出が行われる。
【0070】
(作用・効果)
上述のように、リアルタイムで流速分布を測定し流速の増減を判定することによって、マイクロ流路内のつまりを検出することが可能となる。
また、第2実施形態の変形例においては、送液量を変化させたうえで流速に変化が生じることを確認する工程が加えられる。これによって、つまりの発生の判断をより確実に行うことが可能となる。
【0071】
[第3実施形態]
第3実施形態は、つまりの発生を判断する場合に光強度を用いる点で第2実施形態とは異なる。以下の説明において、上述の第1実施形態および第2実施形態と同一または同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略または省略する。
【0072】
図14は、光強度を用いてマイクロ流路におけるつまりの発生を判断する方法のフローチャートである。また、図15は、マイクロ流体システムの構成を模式的に示す図である。マイクロ流体システム100aは、送液部40に遠沈管43とポンプ44を有する点で、図4のマイクロ流体システム100と異なる。遠沈管41は溶液を貯留するところ、遠沈管43は溶媒のみを貯留する。
【0073】
ステップS30において、制御部90は、溶質を含まない溶媒を送液する。例えば、制御部90は、溶媒のみを含む遠沈管43から送液を行うことが可能である。
【0074】
続いて、ステップS31において、制御部90は、光源部60を発光させ、光信号をマイクロ流路30に照射させる。
【0075】
ここで、所定の位置の座標(i、j)における光強度を、S(i、j)と表記する。ステップS32において、光源部60から照射された光信号は溶媒のみを透過するため、制御部90は、ベース強度であるS0(i、j)を取得することができる。
【0076】
続いて、ステップS33において、制御部90は、溶質を含む溶媒、つまり検体としての溶液を送液する。例えば、制御部90は、送液部40において溶液を含む遠沈管41に切り替えて、送液を行う。
【0077】
続いて、ステップS34において、制御部90は、光強度S(i、j)を一定時間ごとに取得する。例えば、制御部90は、Δtごとに光強度を取得することが可能である。
【0078】
ここで、ある時刻とt=t0+Δt・nとし、時刻tにおける光強度をS(i、j)と表記する。ステップS35において、制御部90は、S(i、j)が取得された場合、S0(i、j)とS(i、j)の差の絶対値を算出し、絶対値が0より大きいか否かを判定する。ここで、図16は、S0とSの関係を示す図である。ベース強度S0と時刻tにおける光強度Sの間に差がある場合、図16に示されるような光強度の変化が検出される。
【0079】
光強度の変化が検出された場合(ステップS35においてYes)、ステップS36において、制御部90は、マイクロ流路30においてつまりが発生したと判断する(ステップS36)。つまりの発生に対処するため、制御部90は、例えば、ポンプ42を制御し、送液部40から送液を停止する。
【0080】
なお、ステップS35において光強度の変化が検出されない場合(ステップS35おいてNo)、ステップS34に戻り、光強度の取得が行われる。
【0081】
[第3実施形態の変形例]
図17は、第3実施形態の変形例のフローチャートである。図17におけるステップS300からステップS350は、図14における第3実施形態のステップS30からステップS35と同じであるので、説明を省略する。
【0082】
ステップS360においてマイクロ流路30においてつまりが発生したと判断された後、制御部90は、ステップS43において実行している送液について、流速を上昇させる(ステップS370)。例えば、制御部90は、ポンプ42の吐出量を増加させるように制御をする。
【0083】
続いて、制御部90は、ステップS370を行った後の時刻t(pはnより大きい整数)における光強度を取得し、ステップS350において算出したS0(i、j)とS(i、j)の差の絶対値(以下、「時刻tの絶対値」という。)と、S0(i、j)とS(i、j)の差の絶対値(以下、「時刻tの絶対値」という。)と、を比較する(ステップS380)。時刻tの絶対値が時刻tの絶対値以下である場合(ステップS380においてNo)、制御部90は、マイクロ流路30においてつまりが発生したと判断する(ステップS390)。一方、時刻tの絶対値が時刻tの絶対値よりも大きい場合(ステップS380においてYes)、制御部90は、ステップS340に戻り、光強度の取得を行う。
【0084】
(作用・効果)
第3実施形態およびその変形例において、光強度の変化に基づいてマイクロ流路においてつまりが発生したかどうかを判断することが可能である。第2実施形態と比較して、流速を求める工程が省略できるため、制御部における処理負荷を抑えることが可能となる。
また、第3実施形態の変形例においては、流速を変化させたうえで光強度の差の絶対値に変化が生じることを確認する工程が加えられる。これによって、つまりの発生の判断をより確実に行うことが可能となる。
【0085】
[第4実施形態]
第4実施形態は、廃液部にポンプおよび遠沈管が設けられる点で、第1実施形態と異なる。以下の説明において、上述の第1実施形態と同一または同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略または省略する。
【0086】
図18は、マイクロ流体システムの構成を模式的に示す図である。マイクロ流体システム100bにおいて、廃液部50は、遠沈管51とポンプ52を有する。送液を行う場合、制御部90は、ポンプ52を制御し、送液部40の遠沈管41からマイクロ流体デバイス10へ溶液を流す。マイクロ流路30を流れた溶液は、廃液部50の遠沈管51に貯留される。
【0087】
(作用・効果)
送液部および廃液部の構成を変更しても、マイクロ流路の流速測定を行うことが可能である。また、第4実施形態の構成を、第1実施形態から第3実施形態に適用することも可能である。仮にマイクロ流体デバイス10に分岐する複数のマイクロ流路が設けられ、複数の送液部および廃液部を要する場合にも、送液部および廃液部の各々を制御したうえで、流速測定を行うことが可能となる。
【0088】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0089】
10 マイクロ流体デバイス、11 基板、12 隔壁部、13 上面部、14 床部、20 光学フィルタ、21 遮光領域、22 第1透過領域、23 第2透過領域、24 第3透過領域、25 第4透過領域、30 マイクロ流路、31 物質、32 導入口、33 排出口、40 送液部、41 遠沈管、42 ポンプ、43 遠沈管、44 ポンプ、45 接続チューブ、50 廃液部、51 遠沈管、52 ポンプ、55 接続チューブ、60 光源部、70 光検出部、80 光信号処理部、90 制御部、100、100a、100b マイクロ流体システム、220 カラーレジスト、221 フォトマスク
【要約】
【課題】本発明では、マイクロ流路の形状に左右されずマイクロ流路内の流速情報を正確に取得可能な技術を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の流速測定方法の一つは、マイクロ流路を備えるマイクロ流体デバイスに溶液を送液する第1工程と、前記マイクロ流路に光信号を照射し、前記マイクロ流路を透過した光信号の光強度の分布を時系列に取得する第2工程と、前記第2工程において取得された第1時刻の前記光強度の分布と第2時刻の前記光強度の分布との変化を示す時系列変化を算出し、前記光強度の分布の前記時系列変化から、前記マイクロ流路内の前記溶液の流速を算出する第3工程と、を含むものである。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18