(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240820BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2023564051
(86)(22)【出願日】2022-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2022020055
(87)【国際公開番号】W WO2023218599
(87)【国際公開日】2023-11-16
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深澤 一誠
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6271655(US,B1)
【文献】特開2019-106784(JP,A)
【文献】特開2003-224929(JP,A)
【文献】特開平9-205779(JP,A)
【文献】国際公開第2004/077076(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源又はコンデンサと配線を介して接続される電力変換器と、
前記電源又はコンデンサの電圧が短絡される短絡故障が発生したときに、前記配線の周囲であって、前記短絡故障によって発生する磁束が鎖交する位置に配置されるコイルと、
前記コイルの両端電圧の電圧値を検出する電圧検出回路と、
制御装置と、
を備える電力変換システ
ムであって、
前記制御装置は、
前記電圧検出回路によって検出される前記コイルの両端電圧の前記電圧値を取得する電圧取得部と、
前記電圧取得部によって取得される前記電圧値に基づいて、前記電力変換器の短絡故障を検出する故障検出部と、
を備え
、
前記電力変換器が、前記電源又はコンデンサと、前記配線を介して複数台並列接続されるときは、前記コイルは、複数台の前記電力変換器同士を接続する前記配線の周囲であって、前記短絡故障によって発生する磁束が鎖交する位置に配置される
ことを特徴とする電力変換システム。
【請求項2】
請求項1に記載の
電力変換システムにおいて、
前記故障検出部は、前記電圧値が所定の閾値を超えるときは、前記電力変換器の前記短絡故障を検出する
ことを特徴とする
電力変換システム。
【請求項3】
請求項
1に記載の
電力変換システムにおいて、
前記制御装置は、前記故障検出部によって、前記電力変換器の短絡故障が検出されるときは、前記電力変換器を保護停止させる動作指示を出力する動作制御部をさらに備える
ことを特徴とする
電力変換システム。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換システムにおいて、
前記故障検出部は、前記電圧値が所定の閾値を超えるときは、前記電力変換器の前記短絡故障を検出し、
前記制御装置は、前記故障検出部によって、前記電力変換器の短絡故障が検出されるときは、前記電力変換器を保護停止させる動作指示を出力する動作制御部をさらに備える
ことを特徴とする電力変換システム。
【請求項5】
請求項
1から請求項4の何れか1項に記載の電力変換システムにおいて、
前記配線は、電線、ブスバー、又はプリント基板配線のいずれかである
ことを特徴とする電力変換システム。
【請求項6】
請求項
1から請求項4の何れか1項に記載の電力変換システムにおいて、
前記コイルは、電線、ブスバー、又はプリント基板配線のいずれかである
ことを特徴とする電力変換システム。
【請求項7】
請求項
1から請求項
4の何れか1項に記載の電力変換システムにおいて、
前記コイルは、主回路とは電気的に絶縁されている
ことを特徴とする電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力変換システムにおいては、例えば、並列接続された単位電力変換器の直流側の各々に電流センサが備えられている。そして、短絡事故発生時には、直流コンデンサから短絡点に向かって流れる短絡電流が当該電流センサによって検出され、保護動作が行われることで、電力変換システムの保護が図られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、短絡電流の検出が行われる電流センサの取り付け部には、故障のない通常時にも電流が流れている。このため、故障のない通常時の電流に合わせた定格電流の大きな電流センサが必要であり、高コストとなることがあった。
【0005】
そこで、本件開示は、従来よりも簡素で安価な構成で、電力変換システムを保護可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様に係る電力変換システムは、電源又はコンデンサと配線を介して接続される電力変換器と、電源又はコンデンサの電圧が短絡される短絡故障が発生したときに、配線の周囲であって、短絡故障によって発生する磁束が鎖交する位置に配置されるコイルと、コイルの両端電圧の電圧値を検出する電圧検出回路と、制御装置と、を備える電力変換システムであって、制御装置は、電圧検出回路によって検出されるコイルの両端電圧の電圧値を取得する電圧取得部と、電圧取得部によって取得される電圧値に基づいて、電力変換器の短絡故障を検出する故障検出部と、を備え、電力変換器が、電源又はコンデンサと、配線を介して複数台並列接続されるときは、コイルは、複数台の電力変換器同士を接続する配線の周囲であって、短絡故障によって発生する磁束が鎖交する位置に配置される。
【0007】
なお、一態様に係る電力変換システムにおいて、故障検出部は、電圧値が所定の閾値を超えるときは、電力変換器の短絡故障を検出してもよい。
【0008】
また、一態様に係る電力変換システムにおいて、制御装置は、故障検出部によって、電力変換器の短絡故障が検出されるときは、電力変換器を保護停止させる動作指示を出力する動作制御部をさらに備えてもよい。
【0009】
一態様に係る電力変換システムにおいて、故障検出部は、電圧値が所定の閾値を超えるときは、電力変換器の短絡故障を検出し、制御装置は、故障検出部によって、電力変換器の短絡故障が検出されるときは、電力変換器を保護停止させる動作指示を出力する動作制御部をさらに備えてもよい。
【0010】
なお、一態様に係る電力変換システムにおいて、配線は、電線、ブスバー、又はプリント基板配線のいずれかであってもよい。
【0011】
また、一態様に係る電力変換システムにおいて、コイルは、電線、ブスバー、又はプリント基板配線のいずれかであってもよい。
【0012】
また、一態様に係る電力変換システムにおいて、コイルは、主回路とは電気的に絶縁されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本件開示によれば、従来よりも簡素で安価な構成で、電力変換システムを保護可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る電力変換システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図1に示す電力変換システムにおける制御装置の構成例を示す図である。
【
図3】
図1及び
図2に示す電力変換システムにおける制御装置の短絡故障検出動作の一例を示す図である。
【
図4】
図1から
図3に示す電力変換システムにおける制御装置の短絡故障検出動作の動作原理を説明する図である。
【
図5】第1実施形態の変形例に係る電力変換器の構成例を示す図である。
【
図6】第2実施形態に係る電力変換システムの構成例を示す図である。
【
図7】第2実施形態の変形例に係る電力変換器の構成例を示す図である。
【
図8】第3実施形態に係る電力変換器の構成例を示す図である。
【
図9】第4実施形態に係る電力変換器の構成例を示す図である。
【
図10】
図1~
図9に示した実施形態における制御装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
【
図11】比較例に係る電力変換システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本件開示に係る制御装置及び電力変換システムの実施形態について、図面を用いて説明する。
【0017】
<第1実施形態の構成>
図1は、第1実施形態に係る電力変換システム1の構成例を示す図である。
【0018】
図1に示すとおり、電力変換システム1は、直流電源(太陽電池)10と、交流電力系統(系統)20と、電力変換器30と、コイル40と、電圧検出回路50と、制御装置60とを有する。
【0019】
電力変換システム(PCS:Power Conditioning System)1は、例えば、直流電源10から供給される直流電力を、電力変換器30を介して交流電力に変換し、変換された交流電力を、交流電力系統20に出力する。
【0020】
直流電源10は、配線11を介して、電力変換器30の一端側と接続され、当該一端側を介して直流電力を電力変換器30に供給する。直流電源10は、例えば、太陽電池(PV:Photovoltaics)や蓄電池(ESS:Energy Storage System)等であっても、風力発電機と交流直流コンバータ等からなる直流電源システム等であってもよい。また、直流電源10は、例えば、コンデンサ、系統、他の電力変換器の入出力部等であってもよい。以下、本明細書では、直流電源10の一例として、「太陽電池10」を例にとって説明する。なお、直流電源(太陽電池)10は、「電源又はコンデンサ」の一例である。
【0021】
配線11は、太陽電池10と電力変換器30の一端側とを接続する導体(直流導体)である。なお、本明細書において、正極P側の配線11は、「正極配線11P」とも称され、負極N側の配線11は、「負極配線11N」とも称される。配線11は、例えば、電線、ブスバー、プリント基板配線等である。配線11は、寄生インダクタンス(自己インダクタンス)L
1を有する。なお、
図1において、寄生インダクタンス(自己インダクタンス)L
1(及び後述の磁束Φ)は、便宜上、配線11の一部に集中的に記載されているが、実際は、配線11の全体に存在している。
【0022】
交流電力系統20(以下、「系統20」とも称する。)は、交流回路21を介して、電力変換器30の他端側である出力端に接続される。系統20は、電力変換器30から出力された交流電力を需要家の受電設備に供給するための、発電・変電・送電・配電を統合したシステム等であり、例えば、不特定の負荷が接続されている。なお、交流電力系統(系統)20は、「電源又はコンデンサ」の一例である。
【0023】
交流回路21は、一端が電力変換器30の他端側である出力端に接続され、他端が系統20と接続される。交流回路21は、例えば、電流又は電圧の位相を互いにずらした三系統の単相交流を組み合わせた三相交流電力を三本の配線22を用いて供給する三相三線式の三相交流回路である。
【0024】
配線22は、交流回路21における電線・ケーブル等の導体であり、配線11と同様に、例えば、電線、ブスバー、プリント基板配線等であってもよい。なお、本明細書において、交流回路21におけるU相、V相、W相の各相の配線22は、それぞれ「U相配線22U」、「V相配線22V」、「W相配線22W」とも称される。
【0025】
電力変換器30は、
図1中左側の一端側で、配線11を介して、太陽電池10と接続され、
図1中右側の他端側で、交流回路21(配線22)を介して、系統20と接続される。また、電力変換器30は、不図示の信号線等を介して、制御装置60と接続され、制御装置60によって、動作が制御される。電力変換器30は、制御装置60による制御に従い、太陽電池10から供給された直流電力を交流電力に変換し、系統20に出力する。
【0026】
なお、電力変換器30は、直流電力を交流電力に変換するものには限られず、直流電力を直流電力に変換するものであっても、交流電力を交流電力に変換するものであってもよい。その場合、電力変換器30の一端側に接続されるのは直流電源(太陽電池)10には限られず、交流電源であってもよい。また、電力変換器30は、有効電力と無効電力のいずれか、または両方を変換するものであってもよい。また、電力変換器30は、直流側、又は交流側、又は交流側と直流側との両方で、「電源又はコンデンサ」と接続されていてもよい。
【0027】
電力変換器30は、直流コンデンサ31と、インバータ回路32と、交流リアクトル33とを有する。
【0028】
直流コンデンサ31は、端子間電圧の変動を平滑化するためのコンデンサであり、配線11における正極配線11Pと負極配線11Nとの間に接続される。なお、直流コンデンサ31は、「電源又はコンデンサ」の一例である。
【0029】
インバータ回路32は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の複数の半導体スイッチング素子Q等で構築される。なお、半導体スイッチング素子Qは、これに限定されるものではなく、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)等であってもよい。インバータ回路32は、一端側が太陽電池10と接続され、出力側である他端側が交流リアクトル33を介して系統20と接続される。
【0030】
インバータ回路32は、制御装置60における後述のPWM制御部65(
図2参照)で生成される半導体スイッチング素子Qのゲート駆動信号(ゲート信号)であるパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)信号によって制御される。インバータ回路32は、太陽電池10から供給される直流電力を一端側から取得し、PWM信号(ゲート信号)による制御に従い、取得した直流電力を交流電力に変換して、出力端である他端側から出力して系統20に供給する。
【0031】
インバータ回路32は、例えば、3つのレグ(U相レグ、V相レグ、W相レグ)を並列に接続した回路を有する。各レグは、例えば、半導体スイッチング素子Qと還流ダイオードDとを逆並列に接続したアームを2つ直列に接続して構成される。各レグは、例えば、正極配線11Pと負極配線11Nとの間に並列に接続され、各レグの中間点は、交流回路21のU相配線22U、V相配線22V、及びW相配線22Wとそれぞれ電気的に接続される。
【0032】
交流リアクトル33は、AC(alternating-current)リアクトルとも称され、インバータ回路32の出力側の交流回路21に直列に接続される。交流リアクトル33は、例えば、騒音を低減させる効果やサージ電圧を抑制させる効果を有する平滑要素である。交流リアクトル33は、例えば、不図示のL型に接続された交流コンデンサとともにインバータ回路32の半導体スイッチング素子Qがスイッチングするときに発生するリプル(振動)を低減させるLCフィルタ回路(フィルタ回路)を構成する。
【0033】
コイル40は、配線11の周囲に配置される。例えば、インバータ回路32の半導体スイッチング素子Qの一部で短絡故障が発生した場合、配線11の寄生インダクタンスL
1には直流コンデンサ31の回路電圧が印可され、その周りに磁束Φが発生する。このため、コイル40は、当該磁束Φを検出するように、配線11の周囲において、当該磁束Φが鎖交する位置に配置される。図中L
2は、コイル40の自己インダクタンスである。なお、
図1に示される配線11とコイル40との位置関係は、一例であり、配線11とコイル40との位置は、磁束Φが鎖交する位置関係であればどこでもよく、
図1に示される位置には限られない。なお、上述のとおり、
図1において、配線11の寄生インダクタンス(自己インダクタンス)L
1及び磁束Φは、便宜上、配線11の一部に集中的に記載されているが、実際は、配線11の全体に存在している。コイル40の自己インダクタンスL
2も同様に、便宜上、コイル40の一部に集中的に記載されているが、実際は、コイル40の全体に存在している。
【0034】
コイル40は、例えば、電線、ブスバー、プリント基板配線等で構成される。なお、コイル40は、短絡故障発生時に発生する磁束Φを検出出来るものであればよく、例えば、一般的な電線を数回巻くものであってもよい。コイル40は、電力変換器30を含む主回路(例えば、配線11)とは、電気的に絶縁されており、主回路のような大きな電圧はかからない。このため、コイル40は、主回路と絶縁されていない場合と比べて、絶縁性能は高性能でなくても良く、絶縁距離を大きくする必要もない。なお、コイル40は、両端が電圧検出回路50と接続される。
【0035】
電圧検出回路50は、コイル40の両端と接続され、コイル40の両端電圧の電圧値Vを常時検出する。なお、電圧検出回路50は、コイル40の両端電圧の電圧値Vを、例えば、所定時間間隔毎に検出しても良く、不図示の上位装置や不図示の操作部を介したオペレータ等から受け付けた指示に従って検出してもよい。なお、電圧検出回路50は、電力変換器30や制御装置60の内部に組み込まれていてもよく、不図示の外部装置や上位装置に組み込まれていてもよい。
【0036】
制御装置60は、例えば、電力変換器30の内部又は外部に設けられ、図中配線等は省略されているが、インバータ回路32を始めとする電力変換器30の各要素や、電圧検出回路50と、有線又は無線によって電気的に接続されている。なお、制御装置60は、不図示のインバータ制御回路の機能として実現されていてもよい。
【0037】
制御装置60は、例えば、プログラムを実行することにより動作するCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の後述のプロセッサ91(
図10参照)を有する。制御装置60は、後述の記憶部70(
図2参照)やメモリ92(
図10参照)等を有し、例えば、記憶部70又はメモリ92に記憶された所定のプログラムを実行することによりプロセッサ91を動作させて電力変換器30の動作を統括的に制御する。なお、制御装置60は、例えば、不図示の上位装置や不図示の操作部を介してオペレータ等から受け付けた指示に従って動作してもよい。制御装置60は、電圧検出回路50によって検出されたコイル40の両端電圧の電圧値Vの大きさに応じて半導体スイッチング素子Q等の短絡故障を検出する。
【0038】
図2は、
図1に示す電力変換システム1における制御装置60の構成例を示す図である。
【0039】
制御装置60は、記憶部70を有し、例えば、記憶部70又は後述のメモリ92(
図10参照)に記憶された所定のプログラムを実行することにより、以下の各部として機能する。すなわち、制御装置60は、所定のプログラムを実行することにより、電圧取得部61と、故障検出部62と、故障発報部63と、動作制御部64と、PWM制御部65として機能する。なお、上記の各機能は、制御装置60が有するプロセッサ91(
図10参照)が実行するプログラムにより実現されても、ハードウェア93(
図10参照)により実現されてもよい。上記の各部は、所定のプログラムを実行して、以下の処理を行う。
【0040】
電圧取得部61は、電圧検出回路50と接続され、電圧検出回路50によって検出されたコイル40の両端電圧の電圧値Vを常時取得する。なお、電圧取得部61は、コイル40の両端電圧の電圧値Vを、例えば、所定時間間隔毎に取得しても良く、不図示の上位装置や不図示の操作部を介してオペレータ等から受け付けた指示に従って取得してもよい。
【0041】
故障検出部62は、電圧取得部61によって取得されたコイル40の両端電圧の電圧値Vの大きさに応じて、半導体スイッチング素子Q等の短絡故障を検出する。故障検出部62は、例えば、電圧取得部61によって取得されたコイル40の両端電圧の電圧値Vと、記憶部70又は後述のメモリ92(
図10参照)に記憶された所定の閾値とを比較する。そして、故障検出部62は、例えば、電圧値Vが所定の閾値よりも大きいときは、半導体スイッチング素子Q等の短絡故障を検出する。なお、故障検出部62は、現在の諸条件やシミュレーション結果等を基に所定の判定値を演算し、演算された所定の判定値と、コイル40の両端電圧の電圧値Vとを比較して短絡故障を検出してもよい。故障検出部62は、短絡故障を検出したときは、短絡故障を検出した旨の情報を故障発報部63及び動作制御部64の少なくともいずれか一方に出力する。
【0042】
故障発報部63は、故障検出部62から、短絡故障を検出した旨の情報を取得したときは、故障情報を発報する。故障発報部63は、例えば、不図示の上位装置等に故障情報を出力することや、電力変換器30の不図示の表示部や操作部等に警報やアラーム等を表示することにより、故障情報を発報する。なお、故障発報部63は、動作制御部64に故障情報を発報してもよい。
【0043】
動作制御部64は、故障検出部62から、短絡故障を検出した旨の情報を取得したか、又は、故障発報部63から、故障情報の発報を受け付けたときは、電力変換器30を保護停止するよう電力変換器30の各部に動作指示を与える。動作制御部64は、例えば、半導体スイッチング素子Qのスイッチング動作を保護停止(ゲートブロック)するようPWM制御部65に動作指示を与えて電力変換器30を保護停止させても良い。また、動作制御部64は、例えば、電力変換器30の不図示の遮断器(開閉器)等を開放するなどの保護動作を行わせることで、電力変換器30を保護しても良い。また、動作制御部64は、例えば、並列接続された他の電力変換器30や太陽電池10との間の不図示の遮断器(開閉器)を開放するなどの保護動作を行わせることで、電力変換システム1の故障拡大を防いでもよい。なお、動作制御部64は、例えば、不図示の上位装置や不図示の操作部を介してオペレータ等から受け付けた指示に従って電力変換器30を保護停止させるよう動作指示を与えても良い。
【0044】
なお、制御装置60は、故障発報部63及び動作制御部64のいずれか一方の機能を有するものであってもよく、これらの機能は、不図示の上位装置等の外部装置が備えるものであってもよい。
【0045】
PWM制御部65は、例えば、所定の出力電圧指令信号と所定の三角波状のキャリア信号とに基づいてPWM制御を行い、インバータ回路32の半導体スイッチング素子Qをオンオフさせるゲート信号を生成する。PWM制御部65は、生成されたゲート信号を電力変換器30のインバータ回路32に出力し、インバータ回路32の動作を制御する。PWM制御部65は、動作制御部64から、電力変換器30を保護停止させる旨の動作指示を受け付けたときは、半導体スイッチング素子Qの動作を停止させるようインバータ回路32の動作を制御して、電力変換器30を保護停止させる。
【0046】
記憶部70は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、その他の半導体メモリ等の揮発性又は不揮発性の記憶媒体である。記憶部70は、例えば、制御装置60の各部の動作に必要なプログラムを記憶するとともに、制御装置60の各部により、各種の情報の書き込みや読み出しが行われる。記憶部70は、電圧取得部61によって取得されるコイル40の両端電圧の電圧値Vや、故障検出部62によって故障検出に用いられる所定の閾値等を記憶する。
【0047】
記憶部70は、例えば、不図示のバス等により、制御装置60の各部と接続されている。なお、記憶部70は、制御装置60の外部に設けられ、有線又は無線で制御装置60と接続されていてもよく、メモリカード、DVD(Digital Versatile Disc)等の外部記憶媒体等であっても、オンラインストレージ等であってもよい。また、記憶部70は、後述のメモリ92(
図10参照)と共通であってもよい。
【0048】
<第1実施形態の動作>
図3は、
図1及び
図2に示す電力変換システム1における制御装置60の短絡故障検出動作の一例を示す図である。
【0049】
例えば、電力変換器30において、U相の半導体スイッチング素子Qの短絡故障が発生すると、ループの短絡電流I1が流れ、電力変換器30の配線11の寄生インダクタンスL1に直流コンデンサ31の回路電圧が印加され、その周りに磁束Φが発生する。なお、ループの短絡電流I1は、太陽電池10等の直流電圧源を通るものであってもよい。
【0050】
このとき、
図1及び
図2で説明したとおり、回路の配線11(電線、ブスバー、プリント基板配線等)の周囲には、短絡故障によって発生する磁束Φが鎖交するようにコイル40が配置されている。そして、電圧検出回路50によってコイル40の両端電圧の電圧値Vが検出される。この場合、制御装置60の電圧取得部61は、電圧検出回路50によって検出されたコイル40の両端電圧の電圧値Vを取得する。そして、制御装置60の故障検出部62は、電圧値Vと所定の閾値とを比較して、電圧値Vが所定の閾値を上回った場合に、短絡故障を検出する。
【0051】
そして、制御装置60の故障発報部63は、短絡故障を検出した旨の情報を取得したときは、故障情報を発報し、制御装置60の動作制御部64は、電力変換器30を保護停止するよう電力変換器30の各部に動作指示を与える。例えば、制御装置60のPWM制御部65は、インバータ回路32の動作を制御して、電力変換器30を保護停止させる。これにより、電力変換システム1を保護することができ、また、故障拡大を防ぐことができる。
【0052】
ここで、上記においては、電力変換器30に直流コンデンサ31が接続され、直流コンデンサ31に充電された電圧が短絡されたことを検出して、電力変換システム1の保護及び故障拡大防止の例について説明した。しかし、これには限られず、電力変換器30に太陽電池や蓄電池や系統などの電源が接続され、当該電源の電圧が短絡された場合にも、上記と同様にすれば、電力変換システム1を保護することができ、また、故障拡大を防ぐことができる。
【0053】
なお、電力変換器30において、半導体スイッチング素子Qに短絡故障が発生した場合、例えば、半導体スイッチング素子Qと、U相配線22Uと、V相配線22Vとをループするように、交流回路21に短絡電流I2が流れることもある。この場合、電力変換器30の配線22の寄生インダクタンスL
1に系統20の電圧が印加され、その周りに磁束Φが発生する。このため、配線22の周囲であって、短絡故障によって発生する磁束Φが鎖交するようにコイル40が配置されてもよい。例えば、
図3中、Aの位置に、コイル40が配置されてもよい。
【0054】
<第1実施形態の動作原理>
図4は、
図1から
図3に示す電力変換システム1における制御装置60の短絡故障検出動作の動作原理を説明する図である。
図4(a)は、
図1から
図3に示す電力変換システム1に短絡故障が発生したときの等価回路を示す図である。
図4(b)は、
図4(a)の等価回路において短絡故障時に生じる電圧変化を示す図である。
図4(c)は、
図4(a)の等価回路において短絡故障時に生じる電流変化を示す図である。
【0055】
例えば、充電されたコンデンサの電圧が短絡されるような短絡故障が生じた場合、コンデンサと、短絡点と、その間の配線とによって閉回路が形成される。ここでいう配線は、例えば、電線や、ブスバーや、プリント基板配線等によって構成される。コンデンサ及び短絡点のインピーダンスが十分に小さい場合、コンデンサの電圧の大部分は、配線の寄生インダクタンス(自己インダクタンス)によって分担され、配線の周囲には磁束が発生する。そして、上記の磁束が鎖交するよう、コイルが配置されたとする。コイルは、例えば、電線や、ブスバーや、プリント基板配線等によって構成される。
【0056】
このとき、配線の寄生インダクタンス(自己インダクタンス)をL
1、コイルの自己インダクタンスをL
2、配線の寄生インダクタンスL
1とコイルの自己インダクタンスL
2との間の結合度をk、コイルの負荷抵抗をRとすると、
図4(a)の等価回路が描ける。
【0057】
なお、「結合度k」は、「結合係数k」とも呼ばれるもので、2つの巻線の間(
図4(a)の場合は、左側の短絡回路ループと右側のコイルとの間)の磁束の結合の度合いを表す。結合度kは、0から1の間で表され、例えば、結合度kが1のときは、一方の巻線で発生した磁束が、もう一方の巻線を漏れることなく全て貫く(鎖交する)関係性を表す。一方、例えば、結合度kが0のときは、一方の巻線で発生した磁束が、もう一方の巻線を全く貫かない(鎖交しない)関係性を表す。このため、「短絡によって発生する磁束が鎖交する」とは、換言すると、結合度kが0よりも大きいこと(0から1の間)であり、結合度kは、1に近いことが好ましい。
【0058】
ここで、配線の寄生インダクタンスL1とコイルの自己インダクタンスL2との間の相互インダクタンスMを次の(1)式のようにおく。
【0059】
【0060】
このとき、
図4(a)に示す等価回路において、次の(2)式に示す回路方程式が成り立つ。但し、i
1は配線の寄生インダクタンスL
1の電流、i
2はコイルの自己インダクタンスL
2の電流、sはラプラス演算子である。また、v
1はコンデンサ電圧のうち、配線の寄生インダクタンスL
1の分圧に相当し、v
2はコイルの負荷抵抗Rに印加される電圧である。
【0061】
【0062】
(2)式に示す方程式からi1、i2を消去して整理することで、次の(3)式(一次側と二次側との電圧の関係式)が得られる。
【0063】
【0064】
(3)式より、v2は、v1の一次遅れの応答となっており、時定数は、次の(4)式に示すとおりである。
【0065】
【0066】
この(4)式に示す時定数に対して十分長い時間が経過した後は、v2はv1に略比例する。すなわち、一次遅れ系の時定数は、(4)式に示されるように、(3)式のsの係数の部分であることから、これが小さければ、一次遅れ系の時定数が小さくなるため、v2はv1に略比例するといえる。従って、コイルの両端電圧を、入力インピーダンスの十分大きい電圧検出回路で測定すれば、短絡事故発生時に短絡されたコンデンサの電圧に略比例する電圧を検出することができる。
【0067】
図4(b)は、
図4(a)の等価回路において短絡故障時に生じる電圧変化を示す図であり、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。
図4(c)は、
図4(a)の等価回路において短絡故障時に生じる電流変化を示す図であり、縦軸は電流を示し、横軸は時間を示す。
図4(b)及び
図4(c)において、横方向の破線は、短絡故障検出のための所定の閾値を示す。なお、
図4(b)及び
図4(c)では、二次側の回路は一旦無視されている。
【0068】
図4(a)に示す等価回路において、電流i
1は、
図4(c)に示すように、短絡によって構成された回路ループの寄生インダクタンスL
1の逆数と、短絡された電圧v
1の時間積分の積に略比例する。従って、例えば、
図4(b)に示される短絡時に発生する電圧変化に対して、
図4(c)に示される電流i
1の変化には遅れが生じる。
【0069】
例えば、
図4(a)に示される短絡故障が発生すると、
図4(b)に示されるように、電圧v
1は、ステップ的に寄生インダクタンスL
1に印加される。上述の原理では、一次遅れではあるものの一次遅れの時定数をかなり小さくできるため、略このままの波形に比例する電圧を遅れなく検出可能である。一方、電流i
1は、この電圧v
1の積分となるため、
図4(c)に示されるように、原理的に遅れが生じる。
【0070】
そのため、所定の閾値に基づいて、
図4(b)に示される短絡時に発生する電圧変化を検出する方式は、
図4(c)に示される電流変化を検出する方式と比較して、短絡故障を原理的に高速に検出できる。
【0071】
以上の原理により、
図1から
図3に示す電力変換システム1における制御装置60は、電圧検出回路50によって検出されたコイル40の両端電圧の電圧値Vを取得し、当該電圧値Vと所定の閾値とを比較することにより、短絡故障を遅れなく検出することができる。
【0072】
<第1実施形態の作用効果>
以上、
図1から
図4に示す第1実施形態では、太陽電池10、直流コンデンサ31、系統20等の電源の電圧が短絡される短絡故障が発生したときに、配線11や配線22の周囲であって、短絡故障によって発生する磁束Φが鎖交する位置にコイル40が配置される。そして、電圧検出回路50によってコイル40の両端電圧の電圧値Vが検出され、検出されたコイル40の両端電圧の電圧値Vが制御装置60によって取得される。そして、制御装置は、取得された電圧値Vが所定の閾値を超えるときに、電力変換器30の短絡故障を検出し、電力変換器30の保護停止や、不図示の遮断器の開放などの保護動作を行う。これにより、
図1から
図4に示す第1実施形態によれば、従来よりも簡素で安価な構成で、電力変換システム1を保護することができ、また、電力変換システム1の故障拡大を防ぐことができる。
【0073】
また、
図1から
図4に示す第1実施形態によれば、
図4で説明したとおり、短絡故障時に発生する電流i
1は、短絡によって構成された回路ループの寄生インダクタンスL
1の逆数と、短絡された電圧v
1の時間積分の積に略比例する。このため、短絡時に発生する電圧変化に対して、電流i
1には遅れが生じる。これにより、
図1から
図4に示す第1実施形態によれば、短絡電流I1を検出する方式と比較して、短絡故障を原理的に高速に検出することができる。
【0074】
また、
図1から
図4に示す第1実施形態によれば、短絡故障時に発生する磁束Φを検出するためのコイル40は、一般的な電線を数回巻くことでも作成できる。これにより、
図1から
図4に示す第1実施形態によれば、従来よりも簡素で安価な構成で、電力変換システム1を保護することができ、また、電力変換システム1の故障拡大を防ぐことができる。
【0075】
また、
図1から
図4に示す第1実施形態によれば、短絡故障時に発生する磁束Φを検出するためのコイル40は、電力変換器30を含む主回路とは電気的に絶縁されている。このため、
図1から
図4に示す第1実施形態によれば、短絡故障時に発生する電圧変化を直接測定して検出する場合よりも、簡素で安価な構成で、電力変換システム1を保護することができ、また、電力変換システム1の故障拡大を防ぐことができる。
【0076】
また、
図1から
図4に示す第1実施形態によれば、短絡故障時に発生する磁束Φを検出するためのコイル40は、一般的な電線を数回巻くことでも作成でき、かつ、電力変換器30を含む主回路とは電気的に絶縁されている。このため、
図1から
図4に示す第1実施形態によれば、既存の電力変換システム1にコイル40を後付けで設置することも可能であり、既存の電力変換システム1を後付けで保護することも可能である。
【0077】
<第1実施形態の変形例>
図5は、第1実施形態の変形例に係る電力変換器30Aの構成例を示す図である。なお、
図5に示す実施形態では、
図1~
図4に示す実施形態と同一又は同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略又は簡略化する。なお、
図5においては、図面の簡単のため、
図1~
図4に示す実施形態と同一又は同様の一部構成要素については、省略又は簡略化して示されている。
【0078】
図5に示す電力変換器30Aは、
図1に示す電力変換器30とほぼ同様の構成であるが、一部構成要素が変更されている。電力変換器30Aでは、直流コンデンサ31が2つ並列して配置され、インバータ回路32を構成する3つの半導体モジュールが配置され、それらが配線11を構成するブスバーで接続されている。
【0079】
この場合、半導体モジュール(インバータ回路
32)のp端子とn端子との間で短絡故障が発生すると、直流コンデンサ31からこの半導体モジュールの短絡点に向かってループの短絡電流I3が流れる。電流のループが有るところには磁束Φが発生するため、
図5に示す実施形態では、当該磁束Φが拾えるように、短絡電流I3のループの上にコイル40が配置されている。
【0080】
また、
図5に示す実施形態では、直流コンデンサ31が2つ並列されているが、2つ並列された直流コンデンサ31の間にも寄生インダクタンスL
1が発生するため、コイル40は、当該寄生インダクタンスL
1にかかる電圧も拾う形になっている。なお、コイル40が配置される場所は、短絡電流I3のループが発生させる磁束Φが鎖交する場所であればどこでもよく、例えば、
図5中、Bで示される場所に配置されてもよい。
【0081】
また、短絡電流I3のループが発生させる磁束Φが鎖交するような、コイル40の設置位置が容易にわからない場合には、電磁気学の法則に基づいて、短絡電流I3の周りに発生する磁束の向きと大きさを概算し、コイル40に十分な大きさの磁束が鎖交するように配置しても良い。
【0082】
また、コンピュータを用いた数値解析によって、短絡電流I3のループの周りに発生する磁束を計算し、コイル40に十分な大きさの磁束が鎖交するように配置しても良い。
【0083】
また、例えば、半導体モジュール(インバータ回路32)の交流側で短絡故障が発生すると、ループの短絡電流I4が流れる。このため、短絡電流I4のループの磁束Φが拾えるように、短絡電流I4のループの上の、例えば、
図5中、Cの位置にコイル40が配置されてもよい。
【0084】
以上、
図5に示す第1実施形態の変形例によれば、
図1~
図4に示す第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0085】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態に係る電力変換システム1Bの構成例を示す図である。なお、
図6に示す実施形態では、
図1~
図5に示す実施形態と同一又は同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0086】
図6に示す電力変換システム1Bでは、
図1に示す電力変換器30と同様の構成を有する電力変換器30Bが2台並列接続されている。すなわち、上側の電力変換器30Bに接続される配線11が接続点P1で分岐され、
図6中、縦方向の配線12によって、下側の電力変換器30Bに接続される配線13と接続されている。換言すれば、縦方向の配線12は、上側の電力変換器30Bと下側の電力変換器30Bとの間を接続する配線である。
【0087】
この場合、
図6中、上側の電力変換器30BのU相の半導体スイッチング素子Qに短絡故障が発生した場合、上側の電力変換器30Bの直流コンデンサ31からループの短絡電流I5が流れる。また、それとは別に、下側の電力変換器30Bの直流コンデンサ31からもループの短絡電流I6が流れる。
【0088】
このとき、
図1~
図4に示す実施形態では、ループの短絡電流I5が流れる位置にコイル40を配置していた。すなわち、
図1~
図4に示す実施形態では、上側の電力変換器30Bにおける直流コンデンサ31と、半導体スイッチング素子Qとの間の寄生インダクタンスL
1にかかる電圧を検出可能な位置にコイル40を配置していた。
【0089】
しかし、この場合、例えば、下側の電力変換器30Bに短絡故障が発生したときは、下側の電力変換器30Bにおける直流コンデンサ31と、半導体スイッチング素子Qとの間の寄生インダクタンスL
1にかかる電圧を検出することができない。このため、
図1~
図4に示す実施形態のようなコイル40の配置方法では、電力変換器30Bが複数台並列接続された場合、複数台の電力変換器30Bの台数分のコイル40が必要となる。
【0090】
一方、
図6に示す実施形態では、上側の電力変換器30Bと下側の電力変換器30Bとの間(電力変換器30B同士の間)を接続する縦方向の配線12の周囲であって、短絡故障によって発生する磁束Φが鎖交する位置にコイル40が配置されている。すなわち、
図6に示す実施形態では、ループの短絡電流I6が流れるため、短絡電流I6の経路の磁束Φが拾えるように、縦方向の配線12の周囲にコイル40が配置されている。換言すれば、コイル40は、並列接続された2台の電力変換器30Bの間にある寄生インダクタンスL
1にかかる電圧が拾える配線12の位置に配置されている。
【0091】
これにより、
図6に示す実施形態では、並列接続された2台の電力変換器30Bの何れで短絡故障が発生しても、電圧を検出することが出来る。また、電力変換器30B同士の間を接続する配線12の位置にコイル40を配置すれば、例えば2台以上の複数台の電力変換器30Bが並列接続された場合であっても、何れの電力変換器30Bで短絡故障が発生しても、コイル40は、電圧を検出することが出来る。
【0092】
なお、コイル40は、交流側の縦方向の配線23の周囲であって、短絡故障によって発生する磁束Φが鎖交する位置に配置されてもよい。例えば、コイル40は、
図6中、Dの位置に配置されてもよい。
【0093】
以上、
図6に示す第2実施形態によれば、
図1~
図5に示す実施形態と同様の効果を奏する。
【0094】
また、
図6に示す第2実施形態によれば、コイル40は、複数台の電力変換器30B同士の間を接続する配線12の周囲であって、短絡故障によって発生する磁束Φが鎖交する位置に配置される。これにより、複数台の電力変換器30Bのそれぞれに台数分のコイル40を配置する必要は無く、コイル40が1つ配置されれば、何れの電力変換器30Bで短絡故障が発生しても、短絡故障を検出することができる。このため、
図6に示す第2実施形態によれば、コイル40の数を抑制することが可能であり、より簡素で安価な構成で、電力変換システム1Bを保護することができ、また、電力変換システム1Bの故障拡大を防ぐことができる。
【0095】
<第2実施形態の変形例>
図7は、第2実施形態の変形例に係る電力変換器30Cの構成例を示す図である。なお、
図7に示す実施形態では、
図1~
図6に示す実施形態と同一又は同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略又は簡略化する。なお、
図7においては、図面の簡単のため、
図1~
図6に示す実施形態と同一又は同様の一部構成要素については、省略又は簡略化して示されている。
【0096】
図7に示す電力変換器30Cは、
図6に示す電力変換器30Bとほぼ同様の構成であるが、一部構成要素が変更されている。2つの電力変換器30Cでは、直流コンデンサ31が2つずつ配置され、インバータ回路32を構成する3つの半導体モジュールが配置されている。これらの直流コンデンサ31と半導体モジュール(インバータ回路)32とが、上側の電力変換器30Cでは、配線14を構成するブスバー14で接続され、下側の電力変換器30Cでは、配線13を構成するブスバー13で接続されている。そして、上側の電力変換器30Cにおけるブスバー14と、下側の電力変換器30Cにおけるブスバー13とが、縦方向の配線12を構成するブスバー12で接続されている。また、縦方向のブスバー12は、配線11を構成するブスバー11によって、太陽電池10と接続されている。
【0097】
図7に示す実施形態では、上側の電力変換器30Cと下側の電力変換器30Cとの間(電力変換器30C同士の間)を接続する縦方向のブスバー12の周囲であって、短絡故障によって発生する磁束Φが鎖交する位置にコイル40が配置されている。すなわち、
図7に示す実施形態では、ループの短絡電流I7が流れるため、短絡電流I7の経路の磁束Φが拾えるように、縦方向のブスバー12の周囲にコイル40が配置されている。換言すれば、コイル40は、並列接続された2台の電力変換器30Cの間にある寄生インダクタンスL
1にかかる電圧が拾えるブスバー12の位置に配置されている。
【0098】
以上、
図7に示す第2実施形態の変形例によれば、
図6に示す第2実施形態と同様の効果を奏する。
【0099】
<第3実施形態>
図8は、第3実施形態に係る電力変換器30Dの構成例を示す図である。なお、
図8に示す実施形態では、
図1~
図7に示す実施形態と同一又は同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略又は簡略化する。なお、
図8においては、図面の簡単のため、
図1~
図7に示す実施形態と同一又は同様の一部構成要素については、省略又は簡略化して示されている。
【0100】
図8に示す実施形態では、電力変換器30Dは、中性点クランプ型3レベルのインバータ回路32Dを有する。この場合、
図8中、U相の半導体スイッチング素子Qに短絡故障が発生した場合、直流コンデンサ31から、例えば、ループの短絡電流I8や、ループの短絡電流I9等が流れる。
【0101】
図8に示す実施形態では、コイル40は、正極配線11Pと中性点配線11Mと負極配線11Nとを接続する、
図8中、縦方向の配線15の全体をカバーするように配置される。これにより、
図8に示す実施形態では、コイル40は、ループの短絡電流I8及びループの短絡電流I9の何れの経路の磁束Φも拾うことが出来る(何れの経路の磁束Φとも鎖交する)。また、
図8に示す位置にコイル40を配置すれば、インバータ回路32Dの何れの半導体スイッチング素子Qに短絡故障が発生した場合であっても、短絡故障を検出することができる。
【0102】
以上、
図8に示す第3実施形態によれば、
図1~
図7に示す実施形態と同様の効果を奏する。
【0103】
<第4実施形態>
図9は、第4実施形態に係る電力変換器30Eの構成例を示す図である。なお、
図9に示す実施形態では、
図1~
図8に示す実施形態と同一又は同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略又は簡略化する。なお、
図9においては、図面の簡単のため、
図1~
図8に示す実施形態と同一又は同様の一部構成要素については、省略又は簡略化して示されている。
【0104】
図9に示す実施形態では、電力変換器30Eは、中性点スイッチ型3レベルのインバータ回路32Eを有する。この場合、
図9中、U相の半導体スイッチング素子Qに短絡故障が発生した場合、直流コンデンサ31から、例えば、
図9に示すループの短絡電流I10やループの短絡電流I11等が流れる。
【0105】
図9に示す実施形態では、コイル40は、正極配線11Pと中性点配線11Mと負極配線11Nとを接続する、
図9中、縦方向の配線15の全体をカバーするように配置される。これにより、
図9に示す実施形態では、コイル40は、ループの短絡電流I10及びループの短絡電流I11の何れの経路の磁束Φも拾うことが出来る(何れの経路の磁束Φとも鎖交する)。また、
図9に示す位置にコイル40を配置すれば、インバータ回路32Eの何れの半導体スイッチング素子Qに短絡故障が発生した場合であっても、短絡故障を検出することができる。
【0106】
以上、
図9に示す第4実施形態によれば、
図8に示す第3実施形態と同様の効果を奏する。
【0107】
<ハードウェア構成例>
図10は、
図1~
図9に示した実施形態における制御装置60が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。上述した各機能は処理回路により実現される。一態様として、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ91と少なくとも1つのメモリ92とを備える。他の態様として、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア93を備える。
【0108】
処理回路がプロセッサ91とメモリ92とを備える場合、各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、メモリ92に格納される。プロセッサ91は、メモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0109】
処理回路が専用のハードウェア93を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、又はこれらを組み合わせたものである。各機能は処理回路で実現される。
【0110】
制御装置60が有する各機能は、それぞれ一部又は全部がハードウェアによって構成されてもよく、プロセッサが実行するプログラムとして構成されてもよい。すなわち、制御装置60は、コンピュータとプログラムとによっても実現可能であり、プログラムは、記憶媒体に記憶されることも、ネットワークを通して提供されることも可能である。
【0111】
<比較例>
図11は、比較例に係る電力変換システム100の構成例を示す図である。なお、
図11に示す実施形態では、
図1~
図10に示す実施形態と同一又は同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0112】
図11に示す比較例に係る電力変換システム100では、複数の単位電力変換器130が並列接続されている。複数の単位電力変換器130は、直流側は、不図示の直流電源110に接続され、交流側は、系統120に接続される。複数の単位電力変換器130の各々は、インバータ回路132と、直流コンデンサ131と、交流リアクトル133とを備え、インバータ回路132は、不図示の複数のスイッチング素子を備える。
【0113】
複数の単位電力変換器130において、正極P側と負極N側とは、互いに接続され、中性点Mは、互いに接続されていない。また、複数の単位電力変換器130では、電流センサ134が、正極P側に設けられ、正極P側に流れる電流を検出する。なお、電流センサ134は、負極N側に設けられ、負極N側に流れる電流を検出してもよい。
【0114】
このような、
図11に示す比較例では、例えば、
図11中、一番上の単位電力変換器130のインバータ回路132で短絡故障が発生した場合、並列接続されている直流コンデンサ131から、例えば、
図11に示すループの短絡電流I’が流れる。このため、
図11に示す比較例では、電流センサ134によって、短絡電流I’が検出され、電力変換システム100の保護を図られている。しかし、
図11に示す比較例では、電流センサ134が配置される位置には、故障のない通常時にも電流が流れるため、それに合わせた定格電流の電流センサ134が必要であり、高コストとなることがある。また、短絡時に発生する電圧変化に対して、短絡電流I’には遅れが生じるため、
図11に示す比較例では、電圧変化を検出する方式と比較して、短絡故障の検出が遅くなる。
【0115】
一方、
図11に示す比較例において、短絡故障によって生じる電圧変化を直接測定しようとすると、正極P側と負極N側との間に、絶縁せずに不図示の電線を接続させて不図示の電圧センサで電圧値V’を測定する必要がある。このとき、例えば、単位電力変換器130の主回路の電圧は、1000ボルト程度であることも珍しくないため、それに応じた絶縁性能のある電線を使用しなければならず、また、それに応じた絶縁距離も必要であるため、高コストとなることがある。
【0116】
また、
図11に示す比較例における短絡電流I’を検出する方式では、電流センサ134を複数の単位電力変換器130にそれぞれ配置しなければならない。また、
図11に示す比較例における電圧値V’を直接測定する方式では、不図示の電線や電圧センサを複数の単位電力変換器130にそれぞれ配置しなければならない。このため、電流センサ134や不図示の電線や電圧センサを複数の単位電力変換器130の台数分配置しなければならず、高コストとなることがある。
【0117】
一方、
図1から
図10に示す実施形態によれば、配線11等の周囲であって、短絡故障によって発生する磁束Φが鎖交する位置にコイル40が配置され、電圧検出回路50によってコイル40の両端電圧の電圧値Vが検出されることで、短絡故障が検出される。そして、短絡故障時に発生する磁束Φを検出するためのコイル40は、一般的な電線を数回巻くことでも作成できる。このため、
図1から
図10に示す実施形態によれば、
図11に示す比較例と比べて、簡素で安価な構成で、電力変換システム1等を保護することができる。
【0118】
また、
図1から
図10に示す実施形態によれば、
図11に示す比較例における短絡電流I’を検出する方式と比較して、短絡故障を原理的に高速に検出することができる。
【0119】
また、
図1から
図10に示す実施形態によれば、短絡故障時に発生する磁束Φを検出するためのコイル40は、主回路とは電気的に絶縁されている。このため、
図1から
図10に示す実施形態によれば、
図11に示す比較例における電圧値V’を直接測定する方式と比べて、簡素で安価な構成で、電力変換システム1等を保護することができる。
【0120】
また、
図1から
図10に示す実施形態によれば、
図11に示す比較例とは異なり、コイル40を後付けで設置することが可能であり、既存の電力変換システム1等を後付けで保護することも可能である。
【0121】
また、
図1から
図10に示す実施形態によれば、
図11に示す比較例とは異なり、複数台の電力変換器30が並列接続された場合であっても、コイル40が1つ配置されれば、何れの電力変換器30で短絡故障が発生しても、短絡故障を検出することができる。このため、
図1から
図10に示す実施形態によれば、
図11に示す比較例と比べて、より簡素で安価な構成で、電力変換システム1等を保護することができる。
【0122】
<実施形態の補足事項>
以上、
図1から
図10に示す実施形態によれば、本件開示の一態様として、電力変換システム1~1E(電力変換器30~30E)及びこれらが有する制御装置60を例に説明したが、これには限られない。本件開示は、制御装置60の各部における処理ステップが行われる短絡故障検出方法としても実現可能である。
【0123】
また、本件開示は、制御装置60の各部における処理ステップをコンピュータに実行させる短絡故障検出プログラムとしても実現可能である。
【0124】
また、本件開示は、短絡故障検出プログラムが記憶された記憶媒体(非一時的なコンピュータ可読媒体)としても実現可能である。短絡故障検出プログラムは、例えば、CD(Compact Disc)あるいはDVD(Digital Versatile Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリ等のリムーバブルメディア等に記憶して頒布することができる。なお、短絡故障検出プログラムは、制御装置60が有する不図示のネットワークインタフェース等を介してネットワーク上にアップロードされてもよく、ネットワークからダウンロードされ、記憶部70等に格納されてもよい。
【0125】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲がその精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずである。したがって、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物に拠ることも可能である。
【符号の説明】
【0126】
1,1A,1B,1C,1D,1E…電力変換システム;10…直流電源(太陽電池);11…配線(ブスバー);11M…中性点配線;11N…負極配線;11P…正極配線;12…配線(ブスバー);13…配線(ブスバー);14…配線(ブスバー);15…配線(ブスバー);20…交流電力系統(系統);21…交流回路(三相交流回路);22…配線(ブスバー);22U…U相配線;22V…V相配線;22W…W相配線;23…配線(ブスバー);30,30A,30B,30C,30D,30E…電力変換器;31…直流コンデンサ;32,32A,32B,32C,32D,32E…インバータ回路(半導体モジュール);33…交流リアクトル;40…コイル;50…電圧検出回路;60…制御装置;61…電圧取得部;62…故障検出部;63…故障発報部;64…動作制御部;65…PWM制御部;70…記憶部;91…プロセッサ;92…メモリ;93…ハードウェア;100…電力変換システム;120…系統;130…単位電力変換器;131…直流コンデンサ;132…インバータ回路;133…交流リアクトル;134…電流センサ;C…コンデンサ;D…還流ダイオード;I,I’,I1~I11…短絡電流;i1,i2…電流;k…結合度(結合係数);L1…寄生インダクタンス(自己インダクタンス);L2…自己インダクタンス;M…相互インダクタンス;M…中性点;N…負極;P…正極;P1…接続点;Q…半導体スイッチング素子;R…負荷抵抗;V,V’…電圧値;v1,v2…電圧;Φ…磁束