(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】電線および多芯ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/295 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
H01B7/295
(21)【出願番号】P 2024521035
(86)(22)【出願日】2023-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2023042520
【審査請求日】2024-04-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 成幸
(72)【発明者】
【氏名】福本 遼太
(72)【発明者】
【氏名】渡部 史
(72)【発明者】
【氏名】大川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】石井 達也
(72)【発明者】
【氏名】真山 裕平
(72)【発明者】
【氏名】堀 賢治
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-123291(JP,A)
【文献】特表2017-531899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を被覆する被膜と、を備える電線であって、
前記被膜は、第1層と、前記第1層上に形成された第2層と、を含み、
前記第1層は、架橋ポリオレフィン樹脂を主成分として含み、
前記第2層は、シルセスキオキサンを主成分として含み、
前記シルセスキオキサンは、(RSiO
3/2)を構成単位とするポリマーであり、
前記Rは、重合性基であり、
前記第2層の厚みは、0.1μm以上100μm以下である、電線。
【請求項2】
前記架橋ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂、エチレンと極性を有するコモノマーとの共重合体、またはその両方からなる、請求項1に記載の電線。
【請求項3】
前記エチレンと極性を有する前記コモノマーとの前記共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、またはその両方である、請求項2に記載の電線。
【請求項4】
前記架橋ポリオレフィン樹脂は、無水マレイン酸、カルボン酸、およびエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される1種の化合物で変性された樹脂である、請求項1に記載の電線。
【請求項5】
前記第1層の前記架橋ポリオレフィン樹脂は、親水化表面処理が施された状態の樹脂である、請求項1に記載の電線。
【請求項6】
前記親水化表面処理は、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、および活性ナトリウムによるエッチング処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面処理である、請求項5に記載の電線。
【請求項7】
前記重合性基は、ラジカル重合性基またはカチオン重合性基である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電線。
【請求項8】
前記重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、およびオキセタニル基からなる群より選択される1種の重合性基である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電線。
【請求項9】
請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の電線を備える、多芯ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電線および多芯ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車、産業ロボット、電気機器、熱機器などの各種の用途で、「導体と、該導体を被覆する被膜と、を備える電線」や「電線を備える、多芯ケーブル」が用いられている(特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-288914号公報
【文献】実開平4-61808号公報
【文献】特開2000-30535号公報
【文献】特開平8-255513号公報
【文献】国際公開第2018/074233号
【発明の概要】
【0004】
本開示の電線は、
導体と、該導体を被覆する被膜と、を備える電線であって、
該被膜は、第1層と、該第1層上に形成された第2層と、を含み、
該第1層は、架橋ポリオレフィン樹脂を主成分として含み、
該第2層は、シルセスキオキサンを主成分として含み、
該シルセスキオキサンは、(RSiO3/2)を構成単位とするポリマーであり、
該Rは、重合性基であり、
該第2層の厚みは、0.1μm以上100μm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る電線の模式的な斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-IIに沿った模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、評価試験1~3の評価方法の一部を図解する模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
自動車、産業ロボット、電気機器、熱機器などの各種の用途で電線が用いられる際に、電線の使用条件は過酷な場合がある。特に、電線の使用条件のうち、温度条件が過酷であり、且つ、油による劣化が生じ易い条件である場合において、電線に優れた耐熱性および優れた耐油性を付与することが求められている。
【0007】
そこで、本開示は、優れた耐熱性および優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、優れた耐熱性および優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することが可能である。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の電線は、
導体と、前記導体を被覆する被膜と、を備える電線であって、
前記被膜は、第1層と、前記第1層上に形成された第2層と、を含み、
前記第1層は、架橋ポリオレフィン樹脂を主成分として含み、
前記第2層は、シルセスキオキサンを主成分として含み、
前記シルセスキオキサンは、(RSiO3/2)を構成単位とするポリマーであり、
前記Rは、重合性基であり、
前記第2層の厚みは、0.1μm以上100μm以下である。
【0010】
本開示によれば、優れた耐熱性および優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0011】
(2)上記(1)において、前記架橋ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂、エチレンと極性を有するコモノマーとの共重合体、またはその両方からなってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0012】
(3)上記(2)において、前記エチレンと極性を有する前記コモノマーとの前記共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、またはその両方であってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0013】
(4)上記(1)において、前記架橋ポリオレフィン樹脂は、無水マレイン酸、カルボン酸、およびエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される1種の化合物で変性された樹脂であってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0014】
(5)上記(1)において、前記第1層の前記架橋ポリオレフィン樹脂は、親水化表面処理が施された状態の樹脂であってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0015】
(6)上記(5)において、前記親水化表面処理は、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、および活性ナトリウムによるエッチング処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面処理であってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0016】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記重合性基は、ラジカル重合性基またはカチオン重合性基であってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0017】
(8)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、およびオキセタニル基からなる群より選択される1種の重合性基であってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0018】
(9)本開示の多芯ケーブルは、
上述の(1)から(8)に記載の電線を備える。
【0019】
本開示によれば、優れた耐熱性および優れた耐油性を兼備する電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の電線および多芯ケーブルの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0021】
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0022】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0023】
[実施形態1:電線]
本開示の一実施形態に係る電線について、
図1および
図2を用いて説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る電線の模式的な斜視図である。
図2は、
図1のII-IIに沿った模式的な断面図である。
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)は、
導体2と、該導体2を被覆する被膜5と、を備える電線1であって、
該被膜5は、第1層3と、該第1層3上に形成された第2層4と、を含み、
該第1層3は、架橋ポリオレフィン樹脂を主成分として含み、
該第2層4は、シルセスキオキサンを主成分として含み、
該シルセスキオキサンは、(RSiO
3/2)を構成単位とするポリマーであり、
該Rは、重合性基であり、
該第2層4の厚みは、0.1μm以上100μm以下である。
【0024】
本開示によれば、優れた耐熱性および優れた耐油性を兼備する電線1および該電線1を備える多芯ケーブルを提供することができる。その理由は、以下の通りと推察される。
【0025】
本実施形態の電線1において、被膜5は、第1層3と、該第1層3上に形成された第2層4と、を含み、該第1層3は、架橋ポリオレフィン樹脂を主成分として含み、該第2層4は、シルセスキオキサンを主成分として含み、該シルセスキオキサンは、(RSiO3/2)を構成単位とするポリマーであり、該Rは、重合性基であり、該第2層4の厚みは、0.1μm以上100μm以下である。これによると、第2層4が緻密な保護膜となる関係で空気中の酸素による酸化劣化を防ぐことができる為、優れた耐熱性および優れた耐油性を兼備する電線1および該電線1を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0026】
また、欧州における有機フッ素化合物(PFAS)の使用規制の観点で、この様な電線は、必ずしもPFASを用いることなく、本開示の効果を発揮することができるという利点がある。
【0027】
≪電線≫
電線1の長手方向に垂直な横断面の円相当径(equivalent circle diameter)は、0.1mm以上50mm以下であってもよく、0.2mm以上20mm以下であってもよく、0.5mm以上10mm以下であってもよい。なお、ここで、長手方向とは、後述する「第1方向」と言い換えることができる。
【0028】
電線1の長手方向に垂直な横断面の円相当径は、以下の方法により特定することができる。先ず、測定対象が電線1である点を除いては、導体2の平均断面積と同様の方法で、電線1の平均断面積を求める。次に該「電線1の平均断面積」に基づいて、円相当径を算出することにより、電線1の長手方向に垂直な横断面の円相当径を特定することができる。
【0029】
なお、同一の電線1において上記方法で測定する限りにおいて、測定箇所を任意に変更しても測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0030】
≪導体≫
電線1は、導体2を備える。導体2の材質は、導電率が高く且つ機械的強度が大きい金属材料であり得る。このような金属材料としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼が挙げられる。導体2は、1種の金属材料を線状に形成した線材とすることができる。また、導体2は、線材をめっきなどの技術により、更に別の金属で被覆した多層構造としたものを用いることもできる。多層構造を有する導体2としては、例えば、錫めっき銅線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅めっきアルミニウム線、銅めっき鋼線が挙げられる。
【0031】
導体2の形状は特に制限されず、従来公知の形状を用いることができる。導体2の形状としては、例えば、断面が円形状の丸線、断面が正方形状の角線、長方形状の平角線、複数の素線を撚り合わせた撚り線が挙げられる。
【0032】
導体2の長手方向に垂直な横断面の円相当径(equivalent circle diameter)は、0.05mm以上30mm以下であってもよく、0.1mm以上15mm以下であってもよく、0.3mm以上8mm以下であってもよい。ここで、長手方向とは、後述する「第1方向」と言い換えることができる。
【0033】
導体2の長手方向に垂直な横断面の円相当径は、測定対象が導体2である点を除いては、電線1の長手方向に垂直な横断面の円相当径と同様の方法で特定することができる。
【0034】
なお、同一の導体2において上記方法で測定する限りにおいて、測定箇所を任意に変更しても測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0035】
導体2の平均断面積は特に制限されず、用途によって適宜選択することができる。導体2の平均断面積は、0.0015mm2以上550mm2以下であってもよく、0.006mm2以上140mm2以下であってもよく、0.05mm2以上40mm2以下であってもよい。本開示において、導体2の平均断面積の測定方法は以下の通りである。1本の導体2を直線状にのばし、導体2の一方の端部から他方の端部をつなぐ第1方向を法線とする平面で導体2を切断し、断面を露出させて断面積を測定する。1本の導体2について、任意の5箇所で第1方向を法線とする平面で導体2を切断して断面積を測定し、平均値を算出する。該平均値が、導体2の平均断面積に該当する。
【0036】
≪被膜≫
電線1は、導体2を被覆する被膜5を備える。被膜5は、第1層3と、該第1層3上に形成された第2層4と、を含む。被膜5は、第1層3と、該第1層3上に形成された第2層4と、のみからなってもよく、第1層3と、該第1層3上に形成された第2層4と、に加えて、後述する他の層を更に含んでもよい。
【0037】
被膜5の厚みは、0.025mm以上10mm以下であってもよい。被膜5の厚みが0.025mm未満である場合、被膜5に破損が生じ易い傾向がある。被膜5の厚みが10mm超である場合、電線1が硬く曲げ難くなる傾向と、コストが高くなる傾向とがある。被膜5の厚みは、0.050mm以上2.5mm以下であってもよく、0.150mm以上1mm以下であってもよい。
【0038】
本開示において、被膜5の厚みは以下の方法で特定することができる。電線1を直線状にのばし、該電線1の一方の端部から他方の端部をつなぐ第1方向を法線とする平面で、該電線1を切断し、断面を露出させる。該断面において、任意の3箇所の被膜5の厚さを測定し、これらの平均値を算出する。任意の計5箇所で第1方向を法線とする平面で電線1を切断して該平均値を求め、これらの平均を算出することにより、被膜5の厚みを特定する。
【0039】
なお、同一の電線1において上記方法で測定する限りにおいて、測定箇所を任意に変更しても測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0040】
<第1層>
第1層3は、架橋ポリオレフィン樹脂を主成分として含む。ここで、「架橋ポリオレフィン樹脂を主成分として含む」とは、架橋ポリオレフィン樹脂を例えば50質量%以上で含むことを意味する。第1層3は、架橋ポリオレフィン樹脂からなってもよい。「第1層3は、架橋ポリオレフィン樹脂からなってもよい」とは、第1層3は、架橋ポリオレフィン樹脂のみからなってもよく、本開示の効果を損なわない範囲で架橋ポリオレフィン樹脂に加えて、他の成分(第1不可避不純物など)を含んでもよいことを意味する。第1不可避不純物として、架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート、トリメチルペンテントリメタクリレートなど)、充填剤(シリカ、タルク、炭酸カルシウム、クレー、酸化亜鉛など)、滑剤(オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛など)、着色顔料(酸化チタンなどの無機顔料、有機顔料、カーボンなど)、難燃剤(臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなど)、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤など)、金属不活性化剤などが挙げられる。
【0041】
架橋ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂、エチレンと極性を有するコモノマーとの共重合体、またはその両方からなってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線1および該電線1を備える多芯ケーブルを提供することができる。ここで、「ポリエチレン樹脂、エチレンと極性を有するコモノマーとの共重合体、またはその両方からなる」とは、ポリエチレン樹脂、エチレンと極性を有するコモノマーとの共重合体、またはその両方のみからなってもよく、本開示の効果を損なわない範囲で「ポリエチレン樹脂、エチレンと極性を有するコモノマーとの共重合体、またはその両方」以外の他の成分(第3不可避不純物など)を含んでもよいことを意味する。第3不可避不純物としては、例えば架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート、トリメチルペンテントリメタクリレートなど)、充填剤(シリカ、タルク、炭酸カルシウム、クレー、酸化亜鉛など)、滑剤(オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛など)、着色顔料(酸化チタンなどの無機顔料、有機顔料、カーボンなど)、難燃剤(臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなど)、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤など)、金属不活性化剤などが挙げられる。
【0042】
エチレンと極性を有するコモノマーとの共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、またはその両方であってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線1および該電線1を備える多芯ケーブルを提供することができる。ここで、「極性を有する」とは、炭素原子に、炭素原子よりも電気陰性度の高い原子(酸素原子、窒素原子など)が結合して電気的に分極した状態を意味する。
【0043】
架橋ポリオレフィン樹脂は、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、およびエチレン-ブチルアクリレート共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を電子線、過酸化物等の手段により架橋された架橋ポリオレフィン樹脂であってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線1および該電線1を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0044】
架橋ポリオレフィン樹脂は、無水マレイン酸、カルボン酸、およびエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される1種の化合物で変性された樹脂であってもよい。これによって、より優れた耐熱性を有する電線1および該電線1を備える多芯ケーブルを提供することができる。エポキシ基を有する化合物としては、例えば、エポキシ基含有ビニル単量体が挙げられる。例示するならば、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテンなどのエポキシオレフィン、ビニルシクロヘキセンモノオキシドなどからなる群より選択される少なくとも1種の化合物などが挙げられる。なお、「無水マレイン酸、カルボン酸、およびエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される1種の化合物で変性された」状態とは、無水マレイン酸、カルボン酸、およびエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される1種の化合物がポリマー分子鎖の末端または非末端に対しグラフト結合している状態、または、無水マレイン酸、カルボン酸、およびエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される1種の化合物がポリマー分子鎖中に共重合している状態を意味する。
【0045】
第1層3の架橋ポリオレフィン樹脂は、親水化表面処理が施された状態の樹脂であってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0046】
上記親水化表面処理は、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、および活性ナトリウムによるエッチング処理からなる群より選択される少なくとも1種の表面処理であってもよい。これによって、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線および該電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0047】
第1層3の組成は、核磁気共鳴(NMR)スペクトルおよびフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外吸収スペクトルの測定に基づく化学結合状態の解析と、示差走査熱量計による結晶融解温度および結晶融解熱量の測定と、を組み合わせて実行することによって特定することができる。
【0048】
架橋ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、10,000以上5,000,000以下であってもよく、50,000以上2,000,000以下であってもよく、100,000以上1,000,000以下であってもよい。電線において、架橋ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、JIS-K7252-1:2008「プラスチック-サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量および分子量分布の求め方-第1部:通則」に準拠して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することにより特定できる。
【0049】
第1層3の厚みは、0.025mm以上10mm以下であってもよい。これによって、電線1に対しより優れた耐熱性を付与することができる。また、電線1をより折り曲げ易くすることができる。第1層3の厚みの下限は、0.025mm以上であってもよく、0.050mm以上であってもよく、0.100mm以上であってもよく、0.200mm以上であってもよい。第1層3の厚みの上限は、10mm以下であってもよく、2.5mm以下であってもよく、1mm以下であってもよく、0.500mm以下であってもよい。第1層3の厚みは、0.050mm以上2.5mm以下であってもよく、0.100mm以上1mm以下であってもよい。
【0050】
第1層3の厚みは、測定対象が第1層3である点を除いては、被膜5の厚みと同様の方法で特定することができる。
【0051】
なお、同一の電線1において上記方法で測定する限りにおいて、測定箇所を任意に変更しても測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0052】
<第2層>
第2層4は、シルセスキオキサンを主成分として含む。ここで、「シルセスキオキサンを主成分として含む」とは、シルセスキオキサンを例えば50質量%以上で含むことを意味する。シルセスキオキサンは、(RSiO3/2)を構成単位とするポリマーであり、該Rは、重合性基である。これらによって、電線1に対し、優れた耐熱性を付与することができる。第2層4は、シルセスキオキサンからなってもよい。「第2層4は、シルセスキオキサンからなってもよい」とは、第2層4は、シルセスキオキサンのみからなってもよく、本開示の効果を損なわない範囲でシルセスキオキサンに加えて、他の成分(第2不可避不純物など)を含んでもよいことを意味する。第2不可避不純物として、光ラジカル重合開始剤、熱重合開始剤、アクリルモノマー、有機溶剤、滑剤、および顔料などが挙げられる。
【0053】
シルセスキオキサンは、ランダム構造、ハシゴ構造、完全カゴ型構造、および不完全カゴ型構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を含んでもよい。なお、ここで「ランダム構造」とは、式1で表される構造を意味し、「ハシゴ構造」とは、式2で表される構造を意味し、「完全カゴ型構造」とは、式3で表される構造または式4で表される構造を意味し、「不完全カゴ型構造」とは、式5で表される構造または式6で表される構造を意味する。なお、式3で表される構造は、「T8」と言い換えることができ、式4で表される構造は、「T10」と言い換えることができる。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
重合性基は、ラジカル重合性基またはカチオン重合性基であってもよい。これらの重合性基は、重合反応性、特に光重合反応性に優れている関係で、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線1および該電線1を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0058】
重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、およびオキセタニル基からなる群より選択される1種の重合性基であってもよい。これらの重合性基は、重合反応性、特に光重合反応性に優れている関係で、より優れた耐熱性およびより優れた耐油性を兼備する電線1および該電線1を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0059】
第2層4の組成は、核磁気共鳴(NMR)スペクトルおよびフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外吸収スペクトルの測定に基づく化学結合状態の解析と、熱重量測定(TG)による灰分の測定と、を組み合わせて実行することによって特定することができる。
【0060】
第2層4の厚みは、0.1μm以上100μm以下である。これによって、第2層4は、耐熱性効果を十分に発揮することができる為、優れた耐熱性を有する電線1および該電線1を備える多芯ケーブルを提供することができる。第2層4の厚みの下限は、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよく、2μm以上であってもよい。第2層4の厚みの上限は、50μm以下であってもよく、20μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。第2層4の厚みは、0.5μm以上50μm以下であってもよく、1μm以上20μm以下であってもよい。
【0061】
第2層4の厚みは、測定対象が第2層4である点を除いては、被膜5の厚みと同様の方法で特定することができる。
【0062】
なお、同一の第2層4において上記方法で測定する限りにおいて、測定箇所を任意に変更しても測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0063】
<他の層>
上記被膜5は、他の層を更に含み得る。該他の層としては、表面層、中間層などが挙げられる。表面層とは、被膜5の表面に位置する層である。中間層とは、導体2と第1層3との間または第1層3と第2層4との間に位置する層です。
【0064】
≪電線の製造方法≫
本実施形態の電線1の製造方法は、例えば、導体2、第1層3形成用コンパウンド、および第2層4形成用ワニスを準備する、第1工程と、該導体2の外周面上に第1層3を形成する、第2工程と、該第1層3の表面上に第2層4を形成する、第3工程と、をこの順で含む。第1工程は、導体2を準備する、第1A工程と、第1層3形成用コンパウンドを準備する、第1B工程と、第2層4形成用ワニスを準備する、第1C工程と、を含む。本実施形態の電線1の製造方法は、「他の層を形成する工程」を更に含むことができる。なお、「他の層を形成する工程」は、従来公知の方法により実行することができる。
【0065】
<第1工程>
<第1A工程:導体を準備する工程>
第1A工程において、導体2を準備する。導体2は、従来公知の方法を用いて製造することにより準備してもよく、市販品を購入することにより準備してもよい。
【0066】
<第1B工程:第1層形成用コンパウンドを準備する工程>
第1B工程において、第1層3形成用コンパウンドを準備する。例えば、第1層3形成用コンパウンドは、以下の方法により準備することができる。先ず、原材料として、架橋ポリオレフィン樹脂を準備する。原材料として、該架橋ポリオレフィン樹脂に加えて、例えば、架橋助剤、滑剤、充填剤などを準備してもよい。次に、該原材料を混練することにより、第1層3形成用コンパウンドを準備することができる。
【0067】
架橋ポリオレフィン樹脂としては、例えば、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を電子線、過酸化物などの手段により架橋したものが挙げられる。
【0068】
架橋ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、10,000以上5,000,000以下であってもよく、50,000以上2,000,000以下であってもよく、100,000以上1,000,000以下であってもよい。
【0069】
混練は、例えば、160℃以上200℃以下に加熱したロールを用いて実行することができる。また、混練の時間は、5分以上30分以下とすることができる。
【0070】
<第1C工程:第2層形成用ワニスを準備する工程>
第1C工程において、第2層4形成用ワニスを準備する。例えば、第2層4形成用ワニスは、以下の方法により準備することができる。先ず、原材料として、シルセスキオキサン誘導体を準備する。シルセスキオキサン誘導体は、従来公知の方法で製造することにより準備してもよく、市販品を購入することにより準備してもよい。原材料として、シルセスキオキサン誘導体に加えて、例えば、光ラジカル重合開始剤、アクリルモノマー、溶剤などを準備してもよい。次に、シルセスキオキサン誘導体に対し、光ラジカル重合開始剤などを添加し、撹拌することにより、第2層4形成用ワニスを準備することができる。
【0071】
撹拌速度は、例えば、10rpm以上1000rpm以下とすることができる。撹拌時の温度は、10℃以上40℃以下とすることができる。撹拌時の温度は、室温であってもよい。撹拌時間は、5分以上30分以下とすることができる。
【0072】
<第2工程>
第2工程において、導体2の外周面上に第1層3を形成する。例えば、第1層3は、以下の方法により形成することができる。先ず、第1層3形成用コンパウンドを、ヘッドが175℃以上225℃以下、シリンダーが170℃以上210℃以下に設定された押出機内に圧入する。次に、上記導体2の外周に対し、第1層3形成用コンパウンドを押出被覆する。次に押出被覆された第1層3形成用コンパウンドに対し、0.1kGy以上500kGy以下の電子線を照射することによって、導体2の外周面上に第1層3を形成することができる。
【0073】
<第3工程>
第3工程において、第1層3の表面上に第2層4を形成する。例えば、第2層4は、以下の方法により形成することができる。先ず、第1層3の表面上に第2層4形成用ワニスを塗布する。次に、第1層3の表面上に塗布された第2層4形成用ワニスに対し、以下の条件で光硬化処理を実行することにより、第1層3の表面上に第2層4を形成することができる。なお、第2層4の厚みが所定の厚みとなるまで、第3工程を繰り返し実行してもよい。
(光硬化処理の条件)
光源:高圧水銀灯(入力電力:10W/cm以上300W/cm以下)
ランプ高さ:1cm以上50cm以下
コンベアスピード:1m/分以上10m/分以下
1パス当たりの積算光量:1,000mJ/cm2以上30,000mJ/cm2以下
パス回数:1回以上10回以下
雰囲気:空気
【0074】
[実施形態2:多芯ケーブル]
本実施形態の多芯ケーブルは、実施形態1に記載の電線を備える。
【0075】
本開示によれば、優れた耐熱性および優れた耐油性を兼備する電線を備える多芯ケーブルを提供することができる。
【0076】
本実施形態に係る多芯ケーブルは、実施形態1に記載の電線を備える限りにおいて特に制限されない。なお、本開示において、多芯ケーブルとは、複数の電線を備えるケーブルを意味する。「本実施形態の多芯ケーブルは、実施形態1に記載の電線を備える」とは、本実施形態に記載の多芯ケーブルが備える複数の電線のうち、少なくとも1つは、実施形態1に記載の電線であることを意味する。
【0077】
≪多芯ケーブルの製造方法≫
本実施形態に係る多芯ケーブルの製造方法は、実施形態1に記載の電線を用いる点を除いては、従来公知の方法と同様の方法により実行することができる。
【実施例】
【0078】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0079】
≪電線の作製≫
以下の様にして、試料1~11、101~108に係る電線を作製した。
【0080】
<第1工程>
表4に記載の導体を、市販品を購入することにより準備した(第1A工程)。また、表1に記載の原材料を、表1に記載の組成で、表1に記載の温度に加熱したロールを用いて、表1に記載の時間混練することにより、第1層形成用コンパウンドを準備した(第1B工程)。なお、架橋ポリオレフィン樹脂としては、表4に記載の樹脂を用いた。具体的には、低密度ポリエチレンとしては、住友化学株式会社製の「スミカセンC215」(商標)を用いた。また、エチレン-エチルアクリレート共重合体としては、日本ポリエチレン株式会社製の「レクスパールA3100」(商標)を用いた。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体としては、旭化成株式会社製の「サンテックEVA EF1510」(商標)を用いた。また、無水マレイン酸で変性された樹脂としては、三井化学社製の「アドマーLB540」(商標)を用いた。また、カルボン酸で変性された樹脂としては、ダウ社製の「FUSABOND E100」(商標)を用いた。また、エポキシ基を有する化合物で変性された樹脂としては、住友化学社製のポリエチレンである「ボンドファーストE」(商標)を用いた。架橋助剤としては、日本化成株式会社製の「TAIC」(商標)を用いた。難燃剤としては、アルべマール日本株式会社製の「サイテックスBT93」(商標)および三酸化アンチモンを質量基準で2:1の比率で用いた。表1の「難燃剤[質量部]」欄に記載の数値は、「サイテックスBT93」(商標)および三酸化アンチモンの合計の質量部を意味する。酸化防止剤としては、BASFジャパン株式会社製の「イルガノックス1076」を用いた。滑剤としては、日油株式会社製の「粉末ステアリン酸 さくら」を用いた。なお、表4において、「PO」は「ポリオレフィン」を意味し、「PE」は、ポリエチレンを意味する。
【0081】
また、シルセスキオキサン誘導体に対し、表2に記載の原材料(言い換えれば、シルセスキオキサン誘導体以外の原材料)を表2に記載の組成となる様に添加し、表2に記載の条件で撹拌することにより、第2層形成用ワニスを準備した(第1C工程)。なお、「第1C工程」欄の全ての欄に「-」と記載されている場合、「第1C工程」が実行されなかったことを意味する。なお、「シルセスキオキサン誘導体」としては、表5に記載のシルセスキオキサンの誘導体を用いた。R(重合性基)がアクリロイル基(ラジカル重合性基)であるシルセスキオキサンの誘導体としては、東亞合成株式会社製の「AC-SQ TA-100」(商標)を用い、R(重合性基)がメタクリロイル基(ラジカル重合性基)であるシルセスキオキサンの誘導体としては、東亞合成株式会社製の「MAC-SQ TM-100」(商標)を用い、R(重合性基)がオキセタニル基(カチオン重合性基)であるシルセスキオキサンの誘導体としては、東亞合成株式会社製の「QX-SQ SI-20」(商標)を用いた。光ラジカル重合開始剤としては、ELKEM社製の「BLUESIL PI 2074」(商標)を用いた。
【0082】
<第2工程>
先ず、第1層形成用コンパウンドを、ヘッドが表3に記載の温度に設定され、且つシリンダーが表3に記載の温度に設定された押出機内に圧入した。次に、上記導体の外周に対し、第1層の厚みが表4に記載の通りとなる様に、第1層形成用コンパウンドを押出被覆した。次に押出被覆された第1層形成用コンパウンドに対し、表3に記載の線量の電子線を照射することによって、導体の外周面上に第1層を形成した。
【0083】
<第3工程>
先ず、第1層の表面上に第2層形成用ワニスを塗布した。次に、第1層の表面上に塗布された第2層形成用ワニスに対し、以下の条件で光硬化処理を実行することにより、第1層の表面上に第2層を形成した。第2層の厚みが、表5に記載の通りになるまで、第2層形成用ワニスの塗布と、光硬化処理とを繰り返し実行した。なお、「第3工程」欄の全ての欄に「-」と記載されている場合、「第3工程」が実行されなかったことを意味する。
(光硬化処理の条件)
光源:高圧水銀灯(入力電力[W/cm]は、表3に記載の通り)
ランプ高さ:表3に記載の通り
コンベアスピード:表3に記載の通り
1パス当たりの積算光量:表3に記載の通り
パス回数:表3に記載の通り
雰囲気:空気
【0084】
以上により、試料1~11、101~108に係る電線を作製した。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
≪電線の特性評価≫
<第1層の組成>
各試料に係る電線について、第1層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表4の「第1層」欄の「組成」欄に記す。なお、表4の「第1層」欄の「組成」欄に樹脂が記載されている場合において、第1層は、該樹脂を主成分として含むことを意味する。例えば、表4の「第1層」欄の「組成」欄に「架橋PO樹脂(低密度PE)」と記載されている場合、第1層は、架橋ポリオレフィン樹脂を主成分として含み、該架橋ポリオレフィン樹脂は、低密度ポリエチレンであることを意味する。
【0092】
<第2層の組成>
各試料に係る電線について、第2層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表5の「第2層」欄の「組成」欄に記す。なお、表5の「第2層」欄の「組成」欄に成分名が記載されている場合においては、第2層は、表5の「第2層」欄の「組成」欄に記載された成分を主成分として含んでいることを意味する。例えば、表5の「第2層」欄の「組成」欄に「シルセスキオキサン」と記載され、且つ、表5の「第2層」欄の「R」欄に「アクリロイル基(ラジカル重合性基)」と記載されている場合、第2層は、シルセスキオキサンを主成分として含み、該シルセスキオキサンは、(RSiO3/2)を構成単位とするポリマーであり、該Rは、重合性基であり、該重合性基は、ラジカル重合性基であり、且つ、アクリロイル基であることを意味する。
【0093】
<被膜の厚み>
各試料に係る電線について、被膜の厚みを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表5の「被膜」欄の「厚み[mm]」欄に記す。
【0094】
<電線の長手方向に垂直な横断面の円相当径>
各試料に係る電線について、電線の長手方向に垂直な横断面の円相当径を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表5の「電線」欄の「円相当径[mm]」欄に記す。
【0095】
<評価試験1(耐熱性の評価試験)>
先ず、各試料に係る電線(長さ:350mm)を8本ずつ準備した。次に、該電線の両端に対し、末端と、該末端から該電線の長手方向に25mm離れた位置とに挟まれた領域の被膜を剥がした。次に、各試料に係る8本の電線(長さ:350mm)のそれぞれを、85±2℃、100±2℃、125±3℃、150±3℃、175±3℃、200±3℃、225±4℃、および250±4℃のそれぞれの温度の恒温槽中で3000時間放置した。次に、該電線を該恒温槽から取り出した後、室温で16時間放置した。次に、電線12の長手方向に垂直な横断面の円相当径の1.5倍の直径を有するマンドレル11に、重し13の質量5kg、ワインディング速度1s
-1、室温の条件で2箇所に2回ずつ巻き付けた(
図3)。次に、各試料に係る電線において、導体が露出していないことを目視で確認した後、該電線を塩水(3質量%)に10分間浸漬させた。次に、該電線に対し、1kV、1分間の条件で課電を行った。次に、該電線を目視で観察することによって、該電線において、被膜の破壊の有無を特定した。次に、以下の評価基準に基づいて、電線の耐熱性を評価した。得られた結果を、表6の「評価試験1」欄に記す。評価結果が、D、E、F、G、またはHであることは、電線の耐熱性が優れていることを意味する。
(評価基準)
A:恒温槽の温度が85±2℃以下である場合において、被膜の破壊なし
B:恒温槽の温度が100±2℃以下である場合において、被膜の破壊なし
C:恒温槽の温度が125±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
D:恒温槽の温度が150±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
E:恒温槽の温度が175±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
F:恒温槽の温度が200±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
G:恒温槽の温度が225±4℃以下である場合において、被膜の破壊なし
H:恒温槽の温度が250±4℃以下である場合において、被膜の破壊なし
【0096】
≪評価試験2(耐熱性の評価試験)≫
先ず、各試料に係る電線(長さ:350mm)を8本ずつ準備した。次に、該電線の両端に対し、末端と、該末端から該電線の長手方向に25mm離れた位置とに挟まれた領域の被膜を剥がした。次に、各試料に係る8本の電線(長さ:350mm)のそれぞれを、110±2℃、125±3℃、150±3℃、175±3℃、200±3℃、225±4℃、250±4℃、および275±4℃のそれぞれの温度の恒温槽中で240時間放置した。次に、該電線を該恒温槽から取り出した後、室温で16時間放置した。次に、電線12の長手方向に垂直な横断面の円相当径の5倍の直径を有するマンドレル11に、重し13の質量5kg、ワインディング速度1s
-1、室温の条件で2箇所に2回ずつ巻き付けた(
図3)。次に、各試料に係る電線において、導体が露出していないことを目視で確認した後、該電線を塩水(3質量%)に10分間浸漬させた。次に、該電線に対し、1kV、1分間の条件で課電を行った。次に、該電線を目視で観察することによって、該電線において、被膜の破壊の有無を特定した。次に、以下の評価基準に基づいて、電線の耐熱性を評価した。得られた結果を、表6の「評価試験2」欄に記す。評価結果が、D’、E’、F’、G’、またはH’であることは、電線の耐熱性が優れていることを意味する。
(評価基準)
A’:恒温槽の温度が110±2℃以下である場合において、被膜の破壊なし
B’:恒温槽の温度が125±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
C’:恒温槽の温度が150±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
D’:恒温槽の温度が175±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
E’:恒温槽の温度が200±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
F’:恒温槽の温度が225±4℃以下である場合において、被膜の破壊なし
G’:恒温槽の温度が250±4℃以下である場合において、被膜の破壊なし
H’:恒温槽の温度が275±4℃以下である場合において、被膜の破壊なし
【0097】
≪評価試験3(耐熱性の評価試験)≫
先ず、各試料に係る電線(長さ:350mm)を8本ずつ準備した。次に、該電線の両端に対し、末端と、該末端から該電線の長手方向に25mm離れた位置とに挟まれた領域の被膜を剥がした。次に、各試料に係る8本の電線(長さ:350mm)のそれぞれを、135±3℃、150±3℃、175±3℃、200±3℃、225±4℃、250±4℃、275±4℃、および300±4℃のそれぞれの温度の恒温槽中で6時間放置した。次に、該電線を該恒温槽から取り出した後、室温で16時間放置した。次に、電線12の長手方向に垂直な横断面の円相当径の1.5倍の直径を有するマンドレル11に、重し13の質量5kg、ワインディング速度1s
-1、室温の条件で2箇所に2回ずつ巻き付けた(
図3)。次に、各試料に係る電線において、導体が露出していないことを目視で確認した後、該電線を塩水(3質量%)に10分間浸漬させた。次に、該電線に対し、1kV、1分間の条件で課電を行った。次に、該電線を目視で観察することによって、該電線において、被膜の破壊の有無を特定した。次に、以下の評価基準に基づいて、電線の耐熱性を評価した。得られた結果を、表6の「評価試験3」欄に記す。評価結果が、D’’、E’’、F’’、G’’、またはH’’であることは、電線の耐熱性が優れていることを意味する。
(評価基準)
A’’:恒温槽の温度が135±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
B’’:恒温槽の温度が150±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
C’’:恒温槽の温度が175±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
D’’:恒温槽の温度が200±3℃以下である場合において、被膜の破壊なし
E’’:恒温槽の温度が225±4℃以下である場合において、被膜の破壊なし
F’’:恒温槽の温度が250±4℃以下である場合において、被膜の破壊なし
G’’:恒温槽の温度が275±4℃以下である場合において、被膜の破壊なし
H’’:恒温槽の温度が300±4℃以下である場合において、被膜の破壊なし
【0098】
≪評価試験4(耐油性の評価)≫
ISO6722 method2に準じて行った。具体的には、先ず、各試料に係る電線から600mmの試験サンプルを準備した。次に、ISO1817に規定されるガソリンに該試験サンプルを23±5℃で20時間浸漬した。次に、該試験サンプルを取り出して表面を拭い、室温で30分乾燥後、5分以内に該試験サンプルの外径を測定した。次に、下記の式7に示す外径変化率を求めた。得られた結果を、表6の「評価試験4」欄の「外径変化率[%]」欄に記す。なお、ここで「外径」は、実施形態1に記載の「電線の長手方向に垂直な横断面の円相当径」の測定方法と同じ方法で特定した。外径変化率が20%以下のものは、耐油性が優れていることを意味する。
(外径変化率[%])={(浸漬後の外径[mm]-浸漬前の外径[mm])/(浸漬前の外径[mm])}×100[%] 式7
【0099】
≪評価試験5(耐油性の評価)≫
「ISO1817に規定されるガソリン」に代えて、「ISO1817に規定される軽油」が用いられた点を除いては、評価試験4と同じ方法で外径変化率を求めた。得られた結果を、表6の「評価試験5」欄の「外径変化率[%]」欄に記す。外径変化率が20%以下のものは、耐油性が優れていることを意味する。
【0100】
試料1~11に係る電線は実施例に該当する。試料101~108に係る電線は比較例に該当する。表6の結果から、試料1~11に係る電線は、試料101~108に係る電線に比して、優れた耐熱性および優れた耐油性を兼備することが分かった。
【0101】
以上により、試料1~11に係る電線は、優れた耐熱性および優れた耐油性を兼備することが分かった。
【0102】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0103】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0104】
1 電線、2 導体、3 第1層、4 第2層、5 被膜、11 マンドレル、12 電線、13 重し
【要約】
電線は、導体と、前記導体を被覆する被膜と、を備える電線であって、前記被膜は、第1層と、前記第1層上に形成された第2層と、を含み、前記第1層は、架橋ポリオレフィン樹脂を主成分として含み、前記第2層は、シルセスキオキサンを主成分として含み、前記シルセスキオキサンは、(RSiO3/2)を構成単位とするポリマーであり、前記Rは、重合性基であり、前記第2層の厚みは、0.1μm以上100μm以下である、電線。