(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】耐ピリング加工された獣毛の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/285 20060101AFI20240820BHJP
D06M 13/192 20060101ALI20240820BHJP
D06M 13/292 20060101ALI20240820BHJP
D06M 11/71 20060101ALI20240820BHJP
D06M 11/55 20060101ALI20240820BHJP
D06M 101/12 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
D06M13/285
D06M13/192
D06M13/292
D06M11/71
D06M11/55
D06M101:12
(21)【出願番号】P 2020096322
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390022596
【氏名又は名称】千代田商事株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000185156
【氏名又は名称】小泉化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 旭
(72)【発明者】
【氏名】加古 邦夫
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第89/002497(WO,A1)
【文献】特開平05-272057(JP,A)
【文献】特開2004-162220(JP,A)
【文献】特開昭53-050090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
D06M10/00-11/84、16/00、19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排泄物に由来する物質で汚染され
た獣毛をJIS Z 8729に規定するL*a*b*表色系におけるL*値が5以上20以下となるように染色し、染色された該獣毛とシュウ酸を含む酸性水溶液とを接触させ、
前記獣毛と、リン酸塩を含む水溶液とを接触させ、次いで、
前記獣毛と、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンまたはそのエチレンオキシド付加物を含む水溶液、又は次亜リン酸塩を含む水溶液とを接触させる工程を有する、耐ピリング加工された獣毛の製造方法
であって、
前記酸性水溶液に含まれるシュウ酸の濃度が0.05g/L以上5g/L以下であり、
前記リン酸塩を含む水溶液に含まれるリン酸塩の濃度が0.1g/L以上5g/L以下であり、
前記水溶液中の前記トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンまたはそのエチレンオキシド付加物の濃度が0.01g/L以上1g/L以下であるか、又は前記水溶液中の前記次亜リン酸塩の濃度が0.25g/L以上5g/L以下である、耐ピリング加工された獣毛の製造方法。
【請求項2】
前記獣毛と前記酸性水溶液との浴比1:20以上1:80以下で該獣毛を該酸性水溶液に浸漬する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記獣毛と前記リン酸塩を含む水溶液との浴比1:10以上1:60以下で該獣毛を該リン酸塩を含む水溶液に浸漬する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記獣毛を前記酸性水溶液に浸漬した後、該酸性水溶液を水に置換して該獣毛を水洗いし、次いで、該獣毛を前記リン酸塩を含む水溶液に浸漬する、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
排泄物に由来する物質で汚染され
た獣毛をJIS Z 8729に規定するL*a*b*表色系におけるL*値が5以上20以下となるように染色し、染色された該獣毛とチオ硫酸ナトリウムを含む水溶液とを接触させ、次いで、
前記獣毛と、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンまたはそのエチレンオキシド付加物を含む水溶液、又は次亜リン酸塩を含む水溶液とを接触させる工程を有する、耐ピリング加工された獣毛の製造方法
であって、
前記水溶液に含まれるチオ硫酸ナトリウムの濃度が0.1g/L以上5g/L以下であり、
前記水溶液中の前記トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンまたはそのエチレンオキシド付加物の濃度が0.01g/L以上1g/L以下であるか、又は前記水溶液中の前記次亜リン酸塩の濃度が0.25g/L以上5g/L以下である、耐ピリング加工された獣毛の製造方法。
【請求項6】
前記獣毛と前記チオ硫酸ナトリウムを含む水溶液との浴比1:20以上1:60以下で該獣毛を該チオ硫酸ナトリウムを含む水溶液に浸漬する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記獣毛と前記トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンまたはそのエチレンオキシド付加物を含む水溶液との浴比1:10以上1:40以下で該獣毛を該水溶液に浸漬する、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記獣毛と前記次亜リン酸塩を含む水溶液との浴比1:20以上1:80以下で該獣毛を該水溶液に浸漬する、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ピリング加工された獣毛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
羊毛を含む獣毛を用いた製品は我々の日常生活に広く利用されており、該製品に対する需要が近年増々高まっている。獣毛は動物から採取される動物繊維である。動物繊維のうち、動物の肛門や排尿口等の周りから採取される獣毛は、動物の糞や尿等の排泄物に由来する物質によって通常汚染されている。排泄物で汚染された獣毛と、排泄物で汚染されていない獣毛とは、所定の色に染色されると、それらの見分けが付き難くなってしまう。
【0003】
本出願人らは、トリスヒドロキシプロピルホスフィンと蛋白質分解酵素とを有効成分として含有する処理浴に、獣毛を浸漬処理する獣毛の処理方法を先に提案した(特許文献1)。本処理方法によれば、獣毛に対して、毛玉になり難いようにする耐ピリング性を付与することができ、しかも、カシミヤのような滑らかな風合を与えることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の処理方法は、処理する獣毛に関し、排泄物に由来する物質によって汚染された獣毛を予め除いた獣毛を処理することを想定しており、汚染された獣毛を含み且つ所定の色に染色されたものを処理することを想定していない。
【0006】
したがって本発明の課題は、汚染された獣毛を含み且つ所定の色に染色されたものを処理しても、汚染されていない獣毛を処理した場合と同様に、耐ピリング性を獣毛に付与できる処理方法を提供することにある。
【0007】
本発明者らは鋭意研究を積み重ねた結果、耐ピリング加工を施す前に、所定の化合物を含む水溶液に獣毛を浸漬して、獣毛に前処理を施すことによって、前記課題が解決されることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、排泄物に由来する物質で汚染されており且つ所定の色に染色された獣毛と、シュウ酸を含む酸性水溶液とを接触させ、
前記獣毛と、リン酸塩を含む水溶液とを接触させ、次いで、
前記獣毛と、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンまたはそのエチレンオキシド付加物を含む水溶液、又は次亜リン酸塩を含む水溶液とを接触させる工程を有する、耐ピリング加工された獣毛の製造方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、排泄物に由来する物質で汚染されており且つ所定の色に染色された獣毛と、チオ硫酸ナトリウムを含む水溶液とを接触させ、次いで、
前記獣毛と、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンまたはそのエチレンオキシド付加物を含む水溶液、又は次亜リン酸塩を含む水溶液とを接触させる工程を有する、耐ピリング加工された獣毛の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、汚染された獣毛を含み且つ所定の色に染色されたものを処理しても、耐ピリング加工された獣毛を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の耐ピリング加工された獣毛の製造方法は、動物の糞や尿等の排泄物に由来する物質で汚染された獣毛を含む繊維を原料とする。汚染された獣毛とは、例えば、排泄物に由来する水不溶性物質が毛の表面に付着した動物繊維である。
【0012】
使用する獣毛は、排泄物に由来する物質により汚染されており且つ所定の色に染色された動物繊維を含む繊維である。このように汚染され且つ染色された獣毛を、以下、単に「有色汚染獣毛」ともいう。使用する獣毛における有色汚染獣毛の割合は、獣毛全質量の少なくとも0.5質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以上99質量%以下、更に好ましくは5質量%以上95質量%以下である。
【0013】
染色された獣毛の色と汚染された獣毛の色とを略同じにして、両獣毛の区別を付き難くする観点から、染色の色としては、黒、紺又は茶色等の濃色であることが好ましい。濃色としては、JIS Z 8729に規定する「L*a*b*表色系」において、明るさを示すL*値が、好ましくは50以下、更に好ましくは30以下、特に好ましくは20以下である。L*値の下限値は、特に制限はないが、例えば5以上とすることもできる。染色方法は、特に制限がなく、公知の方法に従い、パドル染色機、チーズ染色機、液流染色機、ドラム染色機、ビーム染色機、ジッガー、高圧ジッガーなどを好適に採用することができる。
【0014】
獣毛としては、従来公知の各種動物繊維が挙げられ、例えば、山羊、カシミヤ、ウール、アンゴラ、モヘア、キャメル又はアルパカ等が挙げられる。獣毛の形態としては、獣毛を紡績した獣毛糸条、該獣毛糸条を製編織してなる獣毛編織物、上記動物繊維を集積してなる獣毛不織布等の製品形態、或いは、獣毛糸条、獣毛編織物又は獣毛不織布から形成された帽子、手袋、靴下、セーター、コート、ズボン、マフラー等の衣類形態が挙げられる。
【0015】
前記の製品形態及び衣類形態の獣毛製品は、有色汚染獣毛を含む獣毛のみから構成されたものであっても、獣毛と他の繊維とが混合されたものであってもよい。獣毛のみから構成されたものである場合、山羊、カシミヤ、ウール、アンゴラ、モヘア、キャメル又はアルパカの中の一種を単独で、或いは2種以上を混合したものであってもよい。獣毛と他の繊維とが混合されたものである場合、他の繊維としては、従来公知の各種繊維が挙げられ、例えば、セルロース繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等が挙げられる。獣毛と他の繊維とを混合した獣毛製品である場合、該獣毛製品における獣毛の割合は、特に限定されるものではなく、獣毛独自の風合いを生み出す観点から、獣毛製品の少なくとも50質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは60質量%以上70質量%以下、特に好ましくは70質量%以上80質量%以下である。
【0016】
本発明の製造方法においては、下記一般式(1)で表されるトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン(以下、単に「THPP」ともいう)を含む水溶液に、或いは次亜リン酸塩を含む水溶液に、有色汚染獣毛を浸漬して獣毛に耐ピリング加工を施す前に、前工程(A)及び前工程(B)の一方を行う。
【0017】
【0018】
前工程(A)は、有色汚染獣毛を含む獣毛とシュウ酸を含む酸性水溶液とを接触させる第1工程、次いで該獣毛とリン酸塩を含む水溶液とを接触させる第2工程を有している。一方、前工程(B)は、有色汚染獣毛を含む獣毛と、チオ硫酸ナトリウムを含む水溶液とを接触させる工程を有している。獣毛と水溶液とを接触させる方法としては、水溶液中に獣毛を浸漬したり、獣毛に水溶液を噴霧したりすること等が挙げられ、水溶液中の成分を獣毛に十分に作用させる観点から、水溶液中に獣毛を浸漬することが好ましい。
【0019】
前工程(A)の第1工程において酸性水溶液中に獣毛を浸漬する場合、獣毛と酸性水溶液との質量比、所謂浴比は、好ましくは1:10~1:100、更に好ましくは1:20~1:80である。
【0020】
前記酸性水溶液に含まれるシュウ酸の濃度は、獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、0.05g/L以上5g/L以下とすることが好ましく、0.25g/L以上3g/L以下とすることが更に好ましい。
【0021】
前記酸性水溶液は、シュウ酸以外に、他の成分として、界面活性剤及びpH調整剤を含有していてもよい。これらの成分を含有することで、獣毛の耐ピリング効果を更に向上させることが可能となる。また、この水溶液に、公知の抗菌剤、防カビ剤、消臭剤、消泡剤、染料、均染剤等を添加していてもよい。
【0022】
前記界面活性剤としては、特に制限されず、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性の界面活性剤の何れを使用してもよい。これらの界面活性剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。酸性水溶液中の界面活性剤の濃度は、好ましくは0.05g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.1g/L以上3g/L以下である。
【0023】
前記pH調整剤としては、特に制限されず、ギ酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸等のカルボン酸類、硫酸、亜硫酸、チオ硫酸等の硫黄系酸、塩酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の塩素系酸、硝酸、亜硝酸等の窒素系酸、オルソリン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ウルトラリン酸等のリン系酸、ホウ酸、フッ化水素酸、ブロム酸等の何れを使用してもよい。これらのpH調整剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。酸性水溶液を適正なpH域に維持する観点から、酸性水溶液中のpH調整剤の濃度は、好ましくは0.2g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.5g/L以上2.5g/L以下である。
【0024】
前記酸性水溶液の適正なpH域は、獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、好ましくは1.5以上5.5以下、更に好ましくは3.5以上4.5以下である。
【0025】
前記酸性水溶液の温度は、獣毛の種類により適宜設定することができ、獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、好ましくは10℃以上90℃以下、更に好ましくは25℃以上80℃以下である。前記のpHはその温度における酸性水溶液の値である。獣毛を浸漬している酸性水溶液を加熱する場合、獣毛を酸性水溶液中に浸漬した状態から、1分間に1℃以上の割合で前記酸性水溶液の温度を上昇させることが好ましい。設定温度となった酸性水溶液中に獣毛を浸漬する時間(浸漬時間)は、好ましくは5分以上60分以下であり、更に好ましくは10分以上30分以下である。
【0026】
次いで前工程(A)においては、第1工程で処理された獣毛は、リン酸塩を含む水溶液と接触する第2工程に付される。リン酸塩を含む水溶液中に獣毛を浸漬する場合、獣毛とリン酸塩を含む水溶液との質量比は、好ましくは1:5~1:80、更に好ましくは1:10~1:60である。
【0027】
前記リン酸塩を含む水溶液に含まれるリン酸塩としては、リン酸2ナトリウム、リン酸3ナトリウム、ピロリン酸4ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、等のリン酸のナトリウム塩、リン酸2カリウム、リン酸3カリウム、ピロリン酸4カリウム、ポリリン酸カリウム等のリン酸のカリウム塩、リン酸アンモニウム等が挙げられる。これらのリン酸塩は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。第1工程で処理された獣毛を中和し、耐ピリング加工を施し易くする観点から、リン酸塩を含む水溶液中のリン酸塩の濃度は、好ましくは0.1g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.2g/L以上2g/L以下である。
【0028】
前記リン酸塩を含む水溶液は、リン酸塩以外に、他の成分として、界面活性剤及びpH調整剤を含有していてもよい。これらの成分を含有させることで、獣毛の耐ピリング効果を更に向上させることが可能となる。また、この水溶液に、公知の抗菌剤、防カビ剤、消臭剤、消泡剤、染料、均染剤等を添加してもよい。
【0029】
前記界面活性剤としては、特に制限されず、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性の界面活性剤の何れを使用してもよい。これらの界面活性剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。リン酸塩を含む水溶液中の界面活性剤の濃度は、好ましくは0.05g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.1g/L以上2g/L以下である。
【0030】
前記pH調整剤としては、特に制限されず、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム等の亜硫酸塩類、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸アンモニウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸アンモニウム等の低酸化数のリンのオキソ酸塩類等の何れを使用してもよい。これらのpH調整剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。リン酸塩を含む水溶液を適正なpH域に維持する観点から、リン酸塩を含む水溶液中のpH調整剤の濃度は、好ましくは0.1g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.5g/L以上3g/L以下である。
【0031】
リン酸塩を含む水溶液の適正なpH域は、第1工程で処理された獣毛を中和し、獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、5.0以上9.0以下であることが好ましく、6.5以上8.5以下であることが更に好ましい。
【0032】
前記リン酸塩を含む水溶液の温度は、獣毛の種類により適宜設定することができ、獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、好ましくは10℃以上90℃以下であり、更に好ましくは20℃以上60℃以下である。前記のpHはその温度におけるリン酸塩を含む水溶液の値である。獣毛を浸漬しているリン酸塩を含む水溶液を加熱する場合、獣毛をリン酸塩を含む水溶液中に浸漬した状態から、1分間に0.5℃以上5℃以下の割合で前記リン酸塩を含む水溶液の温度を上昇させることが好ましい。設定温度となったリン酸塩を含む水溶液中に獣毛を浸漬する時間(浸漬時間)は、好ましくは5分以上60分以下であり、更に好ましくは10分以上40分以下である。
【0033】
前工程(A)においては、獣毛に耐ピリング加工を更に施し易くする観点から、第1工程と第2工程との間に、第1工程の酸性水溶液で処理した獣毛を水洗いする工程を有していてもよい。水洗いする工程においては、酸性水溶液を排水した後、水を加え、水溶液を水に置換する。獣毛を水に浸漬する場合、獣毛と水との浴比は、好ましくは1:10~1:60である。水の温度は、獣毛の種類により適宜設定することができ、好ましくは10℃以上80℃以下である。獣毛を浸漬している水を加熱する場合、獣毛を水中に浸漬した状態から、1分間に1℃以上20℃以下の割合で水の温度を上昇させることが好ましい。設定温度となった水中に獣毛を浸漬する時間(浸漬時間)は、好ましくは5分以上60分以下である。水洗いする工程は、複数回行ってもよい。
【0034】
本発明の製造方法では、上述した前工程(A)の代わりに、有色汚染獣毛を含む獣毛を、チオ硫酸ナトリウムを含む水溶液に接触させる前工程(B)に付してもよい。
【0035】
前工程(B)において前記水溶液中に獣毛を浸漬する場合、獣毛と水溶液との質量比は、好ましくは1:10~1:80、更に好ましくは1:20~1:60である。
【0036】
獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、前記水溶液中のチオ硫酸ナトリウムの濃度は、好ましくは0.1g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.5g/L以上2.5g/L以下である。
【0037】
前記水溶液は、チオ硫酸ナトリウム以外に、他の成分として、界面活性剤及びpH調整剤を含有していてもよい。これらの成分を含有させることで、獣毛の耐ピリング効果を更に向上させることが可能となる。また、この水溶液に、公知の抗菌剤、防カビ剤、消臭剤、消泡剤、染料、均染剤等を添加してもよい。
【0038】
前記界面活性剤としては、特に制限されず、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性の界面活性剤の何れを使用してもよい。これらの界面活性剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。水溶液中の界面活性剤の濃度は、好ましくは0.1g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.2g/L以上3g/L以下である。
【0039】
前記pH調整剤としては、特に制限されず、リン酸2ナトリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸2カリウム、リン酸3カリウム、リン酸アンモニウム、ピロリン酸4ナトリウム、ピロリン酸4カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム等のリン酸系塩類、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム等の亜硫酸塩類、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸アンモニウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸アンモニウム等の低酸化数のリンのオキソ酸塩類等の何れを使用してもよい。これらのpH調整剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。水溶液を適正なpH域に維持する観点から、水溶液中のpH調整剤の濃度は、好ましくは0.1g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.2g/L以上2.5g/L以下である。
【0040】
獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、前記水溶液の適正なpH域は、好ましくは5.5以上8.5以下、更に好ましくは6.5以上8.0以下である。
【0041】
前記水溶液の温度は、獣毛の種類により適宜設定することができ、獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、好ましくは10℃以上90℃以下、更に好ましくは20℃以上75℃以下である。前記のpHはその温度における水溶液の値である。獣毛を浸漬している水溶液を加熱する場合、獣毛を水溶液中に浸漬した状態から、1分間に0.5℃以上5℃以下の割合で前記水溶液の温度を上昇させることが好ましい。設定温度となった水溶液中に獣毛を浸漬する時間(浸漬時間)は、好ましくは5分以上60分以下であり、更に好ましくは10分以上40分以下である。
【0042】
前工程(B)を行う前に、有色汚染獣毛を含む獣毛を水溶液中に浸漬して洗浄する工程を行ってもよい。水溶液中に獣毛を浸漬する場合、獣毛と水溶液との質量比は、好ましくは1:10~1:100、更に好ましくは1:20~1:60である。
【0043】
洗浄する工程で用いる水溶液は、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、特に制限されず、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性の界面活性剤の何れを使用してもよい。これらの界面活性剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。前記水溶液中の界面活性剤の濃度は、好ましくは0.1g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.25g/L以上2.5g/L以下である。尚、界面活性剤以外に、他の成分として、一般的なpH調整剤を含有させてもよい。
【0044】
本発明の製造方法においては、上述した前工程(A)又は前工程(B)で有色汚染獣毛を含む獣毛を処理した後、該獣毛に耐ピリング処理を施す工程を行う。耐ピリング処理を施す工程としては、上記一般式(1)で表されるTHPP又はそのエチレンオキシド付加物を含む水溶液と獣毛とを接触させる工程(C)、或いは次亜リン酸塩を含む水溶液と獣毛とを接触させる工程(D)が挙げられる。
【0045】
THPPのエチレンオキシド付加物とは、THPPのヒドロキシアルキル基にエチレンオキシドが付加反応して得られるもののことである。エチレンオキシドの付加モル数としては、1~5の範囲のものが挙げられる。THPPの付加物とTHPPとは、獣毛に耐ピリング処理を施す機能において実質的に同じものである。
【0046】
工程(C)で用いる水溶液中に、前工程で処理した獣毛を浸漬する場合、獣毛と水溶液との質量比は、好ましくは1:5~1:100、更に好ましくは1:10~1:40である。
【0047】
前記水溶液中のTHPP又はそのエチレンオキシド付加物の濃度は、獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、好ましくは0.01g/L以上1g/L以下、更に好ましくは0.03g/L以上0.1g/L以下である。
【0048】
本発明の製造方法では、工程(C)の代わりに、次亜リン酸塩を含む水溶液と獣毛とを接触させる工程(D)を行い、獣毛に耐ピリング処理を施してもよい。次亜リン酸塩としては、次亜リン酸ナトリウム,次亜リン酸カリウム,次亜リン酸アンモニウム,次亜リン酸カルシウム等が挙げられる。
【0049】
工程(D)で用いる水溶液中に、前工程で処理した獣毛を浸漬する場合、獣毛と水溶液との質量比は、好ましくは1:10~1:100、更に好ましくは1:20~1:80である。
【0050】
前記水溶液中の次亜リン酸塩の濃度は、獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、好ましくは0.25g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.5g/L以上3g/L以下である。
【0051】
工程(C)の水溶液は、THPP又はそのエチレンオキシド付加物以外に、他の成分を含有していてもよい。同様に工程(D)の水溶液は、次亜リン酸塩以外に、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、界面活性剤及びpH調整剤が挙げられる。これらの成分を含有させることで、獣毛の耐ピリング効果を更に向上させることができる。また水溶液に、公知の抗菌剤、防カビ剤、消臭剤、消泡剤、染料、均染剤等を添加することもできる。
【0052】
工程(C)又は工程(D)の水溶液が界面活性剤を含むとき、該界面活性剤としては、特に制限されず、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性の界面活性剤の何れを使用してもよい。これらの界面活性剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。前記水溶液中の界面活性剤の濃度は、好ましくは0.1g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.5g/L以上3g/L以下である。
【0053】
工程(C)又は工程(D)の水溶液がpH調整剤を含むとき、該pH調整剤としては、特に制限されず、例えば酢酸-酢酸ナトリウム系、塩酸-酢酸ナトリウム系、リン酸2ナトリウム-酢酸2ナトリウム系のものが使用される。これらのpH調整剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。水溶液を適正なpH域に維持する観点から、水溶液中のpH調整剤の濃度は、好ましくは0.25g/L以上5g/L以下、更に好ましくは0.5g/L以上2.5g/L以下である。
【0054】
工程(C)又は工程(D)の水溶液の適正なpH域は、獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、それぞれ独立に、好ましくは5.5以上8.5以下、更に好ましくは6.5以上8以下である。
【0055】
工程(C)又は工程(D)の水溶液の温度は、獣毛の種類により適宜設定することができ、獣毛に耐ピリング加工を施し易くする観点から、それぞれ独立に、好ましくは20℃以上80℃以下、更に好ましくは40℃以上60℃以下である。獣毛を浸漬している工程(C)又は工程(D)の水溶液を加熱する場合、獣毛を水溶液中に浸漬した状態から、1分間に0.5℃以上3℃以下の割合で前記水溶液の温度を上昇させることが好ましい。設定温度となった水溶液中に獣毛を浸漬する時間(浸漬時間)は、好ましくは5分以上40分以下であり、更に好ましくは10分以上30分以下である。
【0056】
本発明の製造方法によれば、有色汚染獣毛に耐ピリング加工を施しても、汚染されていない獣毛を処理した場合と同様の仕上がりで、耐ピリング加工された獣毛が得られる。この理由は明らかではないが、以下のように推定される。有色汚染獣毛には、繊維の表面に排泄物に由来する水不溶性物質が強固に付着している。この水不溶性物質は、通常実施される水洗や、石鹸による洗浄では、繊維の表面から除去され難いものである。繊維の表面に水不溶性物質が付着していると、例えばTHPPを使用して耐ピリング加工を施したとしても、THPPによる効用が獣毛の内部にまで及ばず、獣毛の蛋白組織であるシスチンの-SS-結合を開裂させることができず、獣毛を軟化することが難しい。それに対し、本発明の製造方法によれば、有色汚染獣毛に耐ピリング加工を施す前に、前工程(A)又は前工程(B)を行うことによって、繊維の表面から水不溶性物質が除去され易くなる。したがって、その後にTHPP又は次亜リン酸塩を使用して耐ピリング加工を施すと、THPP又は次亜リン酸塩による効用が獣毛の内部にまで到達し易く、シスチンの-SS-結合の開裂による獣毛内部の変化が耐ピリング効果を生むと考えられる。ただし、このメカニズムは推定によるものであり、本発明は該メカニズムに限定して解釈されない。
【0057】
耐ピリング処理を施した獣毛には、常法により水洗及び乾燥の後処理を施してもよい。また耐ピリング処理を施した獣毛には、該獣毛中に残存するTHPP又はそのエチレンオキシド付加物等の還元力を消去する処理を施してもよく、常法により柔軟加工を施してもよい。
【0058】
本発明の製造方法は、THPP又はそのエチレンオキシド付加物を含む水溶液と獣毛とを接触させる工程(C)、及び次亜リン酸塩を含む水溶液と獣毛とを接触させる工程(D)の一方を行うことによって、有色汚染獣毛に耐ピリング処理を施しているが、THPP又はそのエチレンオキシド付加物に加えて、次亜リン酸塩を含む水溶液と、獣毛とを接触させることによって、有色汚染獣毛に耐ピリング処理を施してもよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。特に断らない限り「%」は「質量%」を意味する。
実施例及び比較例で使用した獣毛における有色汚染獣毛の割合は65質量%に設定した。使用した獣毛は、原料の繊維の段階において濃紺に染色されていた。
【0060】
〔実施例1〕
獣毛として、反応染料で濃紺に染色済みの梳毛原料繊維を編地となし、該編地をパドル染色機によって、獣毛と水溶液との浴比を1:40で濃紺に染色したものを用いた。染色した編地は、JIS Z 8729に規定する「L*a*b*表色系」におけるL*値が13.30であった。獣毛に耐ピリング加工を施す前に、上記の前工程(A)を行った。その後、上述したTHPPを含む水溶液に獣毛を浸漬する上記の工程(C)を行い、獣毛に耐ピリング加工を施した。前工程(A)及び工程(C)について、具体的に説明する。
【0061】
〔前工程(A)〕
シュウ酸1g/L、ダイヤノール45(新中村化学工業(株)社製の界面活性剤)1g/Lを含有し、pH値を2.5に調整した酸性水溶液を用いて、獣毛と酸性水溶液との浴比1:40で獣毛を酸性水溶液に浸漬する第1工程を行った。第1工程においては、酸性水溶液を、1分間に1℃の割合で80℃まで上昇させ、80℃の酸性水溶液中に獣毛を20分間浸漬した。その後、酸性水溶液に水を加え、pH値を3.5に調整し且つ40℃に冷却した。
その後、酸性水溶液を水に置換して、獣毛と水との浴比1:40で常温において水中に獣毛を10分間浸漬し、獣毛を1回水洗いした。
次いで、リン酸2ナトリウム4g/L、チオ硫酸ナトリウム1g/L、ダイヤノール45(新中村化学工業(株)社製の界面活性剤)1g/Lを含有し、pH値を7.6に調整したリン酸塩を含む水溶液を用いて、獣毛とリン酸塩を含む水溶液との浴比1:40で獣毛をリン酸塩を含む水溶液に浸漬する第2工程を行った。第2工程においては、リン酸塩を含む水溶液を、1分間に1℃の割合で80℃まで上昇させ、80℃のリン酸塩を含む水溶液中に獣毛を20分間浸漬した。
【0062】
〔工程(C)〕
THPP0.036g/L、リン酸2ナトリウム1g/L、デスポール300(一方社油脂工業株式会社製の界面活性剤)1g/Lを含有する水溶液を用いて、獣毛と水溶液との浴比1:40で獣毛を水溶液に浸漬し、獣毛に耐ピリング加工を施した。工程(C)においては、水溶液を、1分間に1℃の割合で50℃まで上昇させ、50℃の水溶液中に獣毛を20分間浸漬した。その後、徐冷し排液した。
【0063】
工程(C)の耐ピリング加工処理後の獣毛を1回水洗し、35%過酸化水素0.5g/L、ソフトクリーンMS(ミヨシ油脂(株)社製の界面活性剤)1g/Lを含有する水溶液を用いて、浴比1:40で50℃において30分間保持して、獣毛中に残存するTHPPの還元力を消去する処理を施した。その後、獣毛を更に1回水洗し、ベルスエード AF(千代田商事株式会社製の柔軟剤)0.75g/L、ベルスエード NYS(千代田商事株式会社製の柔軟剤)0.75g/L、90%酢酸0.125g/Lを含有する水溶液を用いて、浴比1:40で40℃において20分間保持して、獣毛に柔軟処理を施した。その後、乾燥機を用いて乾燥して、耐ピリング加工された獣毛を得た。
【0064】
〔実施例2〕
実施例1における前工程(A)の第2工程で用いるリン酸塩を含む水溶液を、リン酸2ナトリウム2g/L、ダイヤノール45(新中村化学工業(株)社製の界面活性剤)1g/Lを含有し、且つpH値を7.5に調整した水溶液に変更した。それ以外は、実施例1と同様に処理して、耐ピリング加工された獣毛を得た。
【0065】
〔実施例3〕
実施例1における前工程(A)に代えて、下記に示す前工程(B)を行う以外は、実施例1と同様に処理して、耐ピリング加工された獣毛を得た。
〔前工程(B)〕
チオ硫酸ナトリウム1g/L、リン酸2ナトリウム1g/L、ダイヤノール45(新中村化学工業(株)社製の界面活性剤)1g/Lを含有し、pH値を7.2に調整した水溶液を用いて、獣毛と水溶液との浴比1:40で獣毛を水溶液に浸漬する前工程(B)を行った。前工程(B)においては、水溶液を、1分間に1℃の割合で80℃まで上昇させ、80℃の水溶液中に獣毛を20分間浸漬した。
【0066】
〔実施例4〕
実施例3において使用した獣毛に代えて、染色済み原料繊維を紡糸してなる梳毛糸をボビンに巻き付け、チーズ状糸体を形成し、該チーズ状糸体をチーズ染色機によって、獣毛と水溶液との浴比を1:10で濃紺に染色したものを用いた。染色したチーズ状糸体は、JIS Z 8729に規定する「L*a*b*表色系」におけるL*値が13.31であった。
また、実施例3における工程(C)で用いた水溶液を、THPP0.144g/L、リン酸2ナトリウム1g/L、デスポール300(一方社油脂工業株式会社製の界面活性剤)1g/Lを含有するものに変更し、獣毛と水溶液との浴比1:10で獣毛を水溶液に浸漬して、獣毛に耐ピリング加工を施した。それ以外は、実施例3と同様に処理して、耐ピリング加工された獣毛を得た。
【0068】
〔実施例6〕
実施例3におけるTHPPを含む水溶液を用いる工程(C)に代えて、次亜リン酸塩を含む水溶液を用いる工程(D)を行う以外は、実施例3と同様に処理して、耐ピリング加工された獣毛を得た。
〔工程(D)〕
次亜リン酸ナトリウム1.5g/L、リン酸2ナトリウム1g/L、デスポール300(一方社油脂工業株式会社製の界面活性剤)1g/Lを含有する水溶液を用いて、獣毛と水溶液との浴比1:40で獣毛を水溶液に浸漬し、獣毛に耐ピリング加工を施した。工程(D)においては、水溶液を、1分間に1℃の割合で50℃まで上昇させ、50℃の水溶液中に獣毛を20分間浸漬した。その後、徐冷し排液した。
【0069】
〔参考例1〕
実施例1において使用した獣毛に代えて、排泄物で汚染されていない乳白色の原料繊維を編地となし、該編地を反応染料で濃紺に染色した獣毛を用いた。染色した編地は、JIS Z 8729に規定する「L*a*b*表色系」におけるL*値が13.29であった。これ以外は、実施例1と同様に処理して、耐ピリング加工された獣毛を得た。
【0070】
〔比較例1〕
実施例1における前工程(A)に代えて、ダイヤノール45(新中村化学工業(株)社製の界面活性剤)1g/Lを主に含有する水溶液を用い、獣毛と水溶液との浴比1:40で獣毛を水溶液に浸漬する前工程を行った。それ以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0071】
〔比較例2〕
実施例1における前工程(A)に代えて、リン酸2ナトリウム1g/L、及びダイヤノール45(新中村化学工業(株)社製の界面活性剤)1g/Lを主に含有する水溶液を用い、獣毛と水溶液との浴比1:40で獣毛を水溶液に浸漬する前工程を行った。それ以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0072】
〔評価〕
実施例、参考例および比較例の獣毛について耐ピリング性を評価した。獣毛の耐ピリング性は、耐ピリング性試験JIS L 1076 A法によって、5時間後の毛玉の発生状況を評価した。その結果を以下の表1に示す。
【0073】
【0074】
また実施例、参考例および比較例の獣毛について、JIS Z 8729に規定する「L*a*b*表色系」におけるL*値を測定した。その結果、実施例、参考例および比較例の獣毛におけるL*値は、当初のL*値とほとんど変わらなかった。
【0075】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例の有色汚染獣毛の耐ピリング性は、汚染されていない参考例1の有色獣毛と略同じであること、及び、各比較例の有色汚染獣毛の耐ピリング性に比べて良好であることが判る。特に、実施例1及び4における獣毛の耐ピリング性の結果から、染色方法によらず、獣毛の耐ピリング性が良好となることが判る。比較例1及び2の獣毛については、耐ピリング加工を施す前に、シュウ酸を含む酸性水溶液に浸漬する前工程で処理されていないこと、或いはチオ硫酸ナトリウムを含む水溶液に浸漬する前工程で処理されていないことに起因して、獣毛の耐ピリング性の評価が低いことが判る。