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特許7540637膜付き透明基板及び調理器用トッププレート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】膜付き透明基板及び調理器用トッププレート
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/245 20060101AFI20240820BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20240820BHJP
   F24C 15/10 20060101ALI20240820BHJP
   H05B 6/12 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C03C17/245 A
C03C17/34 Z
F24C15/10 B
H05B6/12 305
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021530000
(86)(22)【出願日】2020-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2020025428
(87)【国際公開番号】W WO2021002304
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019122894
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】伊村 正明
(72)【発明者】
【氏名】高村 仁
(72)【発明者】
【氏名】石井 暁大
(72)【発明者】
【氏名】山口 実奈
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0194065(US,A1)
【文献】国際公開第2018/197821(WO,A1)
【文献】特開平07-330379(JP,A)
【文献】特表2016-522317(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102653151(CN,A)
【文献】特開平10-087343(JP,A)
【文献】CAO, Feng et al.,Energy & Environmental Science,2014年,7,1615-1627
【文献】LIU, Yang et al.,The Journal of Physical Chemistry C,2015年,119,14834-14842
【文献】BOSE, R. Jolly et al.,Journal of Applied Physics,2012年,112,114311
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00 - 17/44
F24C 15/10
H05B 6/12
B32B 1/00 - 43/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板の一方側主面上に設けられている、光吸収膜と、
を備え、
前記光吸収膜は、バンドギャップが2.0eV以上、2.7eV以下の材料から構成された誘電体相と、金属相とを含み、
前記材料は、金属酸化物であり、
エリンガム図において、前記金属酸化物を構成する金属元素の標準ギブスエネルギーが、前記金属相を構成する金属元素の標準ギブスエネルギーよりも小さい、膜付き透明基板。
【請求項2】
前記光吸収膜における波長400nm~700nmの平均吸収係数が、0.5μm-1以上、80μm-1以下である、請求項1に記載の膜付き透明基板。
【請求項3】
前記光吸収膜において、波長436nmにおける吸収係数をα1とし、波長546nmにおける吸収係数をα2とし、波長700nmにおける吸収係数をα3としたときに、α1/α2が0.8以上、2.0以下であり、α3/α2が0.8以上、2.0以下である、請求項1又は2に記載の膜付き透明基板。
【請求項4】
前記光吸収膜において、前記α1/α2が0.8以上、1.25以下であり、前記α3/α2が0.8以上、1.25以下である、請求項に記載の膜付き透明基板。
【請求項5】
前記光吸収膜において、波長λにおける吸収係数をαλとし、波長400nm~700nmにおける平均吸収係数をαAVEとしたときに、下記式(1)で示される吸収平均偏差Mが0.30以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の膜付き透明基板。
【数1】
【請求項6】
前記光吸収膜上に、さらに誘電体多層膜が設けられている、請求項1~のいずれか1項に記載の膜付き透明基板。
【請求項7】
前記誘電体多層膜が、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と、相対的に屈折率が低い低屈折率膜とが交互に積層された積層膜であり、
前記高屈折率膜が、前記光吸収膜である、請求項に記載の膜付き透明基板。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の膜付き透明基板を備え、
前記透明基板が、調理器具が載せられる調理面及び該調理面とは反対側の裏面を有し、
前記透明基板の前記裏面上に、前記光吸収膜が設けられている、調理器用トッププレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜付き透明基板及び該膜付き透明基板を用いた調理器用トッププレートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁調理器、ラジアントヒーター調理器、ガス調理器などの調理器では、調理器内部の構造を隠蔽するために、黒色のガラスや、黒色の塗膜を設けた透明ガラスからなるトッププレートを使用している。このような調理器では、トッププレートに電源や加熱状態等の各種情報を表示するため、LED(Light Emitting Diode)や液晶ディスプレイ、あるいはタッチパネル機能を有する液晶ディスプレイ等が組み合わせて用いられることがある。
【0003】
下記の特許文献1には、ガラス板と、ガラス板の上に設けられた無機顔料層と、無機顔料層の上に設けられた表示層とを備える、調理器用トッププレートが開示されている。上記無機顔料層は、顔料とガラスとを含んでいる。上記表示層は、LED光等を透過させる透明樹脂部と、LED光等を遮光する耐熱性樹脂部とを有する。特許文献1では、このLED光等を透過させる透過部の形状を変えたり、透過部においてパターニングされた光を透過させたりすることにより、文字や数字、記号等を表示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-215018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、調理器用トッププレートに、LEDや、液晶ディスプレイ、あるいはタッチパネル機能を有する液晶ディスプレイ等を組み合わせて用いる場合、光源の点灯時には、各種情報を明確に見えるようにするとともに、光源の消灯時には調理器内部の構造を隠蔽することが求められる。しかしながら、トッププレートとして黒色に着色したガラス基板を用いた場合、光源の消灯時には調理器内部の構造を隠蔽することができるものの、光源の点灯時には、各種情報が見えにくいという問題がある。
【0006】
この点に関し、特許文献1では、表示領域にも黒色の無機顔料層が設けられており、それによって調理器内部の構造を隠蔽することが試みられている。しかしながら、特許文献1のトッププレートのように黒色の無機顔料層を設けた場合、光源の消灯時において無彩色の黒色とはならず、美観性が損なわれる場合がある。
【0007】
本発明の目的は、光源の消灯時においても美観性に優れる、膜付き透明基板及び該膜付き透明基板を用いた調理器用トッププレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る膜付き透明基板は、透明基板と、前記透明基板の一方側主面上に設けられている、光吸収膜と、を備え、前記光吸収膜は、バンドギャップが2.0eV以上、2.7eV以下の材料から構成された誘電体相と、金属相とを含むことを特徴としている。
【0009】
本発明においては、前記材料は、金属酸化物であることが好ましい。
【0010】
本発明においては、エリンガム図において、前記金属酸化物を構成する金属元素の標準ギブスエネルギーが、前記金属相を構成する金属元素の標準ギブスエネルギーよりも小さいことが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記光吸収膜における波長400nm~700nmの平均吸収係数が、0.5μm-1以上、80μm-1以下であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記光吸収膜において、波長436nmにおける吸収係数をα1とし、波長546nmにおける吸収係数をα2とし、波長700nmにおける吸収係数をα3としたときに、α1/α2が0.8以上、2.0以下であり、α3/α2が0.8以上、2.0以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明においては、前記光吸収膜において、前記α1/α2が0.8以上、1.25以下であり、前記α3/α2が0.8以上、1.25以下であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記光吸収膜において、波長λにおける吸収係数をαλとし、波長400nm~700nmにおける平均吸収係数をαAVEとしたときに、下記式(1)で示される吸収平均偏差Mが0.30以下であることが好ましい。
【0015】
【数1】
【0016】
本発明においては、前記光吸収膜上に、さらに誘電体多層膜が設けられていることが好ましい。
【0017】
本発明においては、前記誘電体多層膜が、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と、相対的に屈折率が低い低屈折率膜とが交互に積層された積層膜であり、前記高屈折率膜が、前記光吸収膜であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る調理器用トッププレートは、本発明に従って構成される膜付き透明基板を備え、前記透明基板が、調理器具が載せられる調理面及び該調理面とは反対側の裏面を有し、前記透明基板の前記裏面上に、前記光吸収膜が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光源の消灯時においても美観性に優れる、膜付き透明基板及び該膜付き透明基板を用いた調理器用トッププレートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る膜付き透明基板を示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る膜付き透明基板を構成する光吸収膜を拡大して示す模式的断面図である。
図3図3は、金属及び金属酸化物のエリンガム図の一例を示す図である。
図4図4は、本発明の第2の実施形態に係る膜付き透明基板を示す模式的断面図である。
図5図5は、本発明の第3の実施形態に係る膜付き透明基板を示す模式的断面図である。
図6図6は、本発明の第4の実施形態に係る膜付き透明基板を示す模式的断面図である。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る調理器用トッププレートを示す模式的断面図である。
図8図8は、実施例で作製した光吸収膜の吸収係数を示す図である。
図9図9は、比較例で作製した光吸収膜の吸収係数を示す図である。
図10図10は、実施例1,3~6及び比較例2で作製した光吸収膜の吸収係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0022】
[膜付き透明基板]
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る膜付き透明基板を示す模式的断面図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係る膜付き透明基板を構成する光吸収膜を拡大して示す模式的断面図である。
【0023】
図1に示すように、膜付き透明基板1は、透明基板2と、光吸収膜3とを備える。透明基板2は、対向している第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。透明基板2の第1の主面2a上に、光吸収膜3が設けられている。
【0024】
本実施形態において、透明基板2は、略矩形板状の形状を有する。もっとも、透明基板2は、略円板状の形状を有していてもよく、形状は特に限定されない。
【0025】
透明基板2は、波長400nm~700nmにおける光を透過する。透明基板2は、有色透明であってもよいが、美観性をより一層高める観点から、無色透明であることが好ましい。なお、本明細書において、「透明」であるとは、波長400nm~700nmにおける可視波長域の光透過率が80%以上であることをいう。また、「無色」であるとは、D65光源を照射したときの透過光の彩度が2以下であることをいう。
【0026】
本実施形態において、透明基板2は、ガラスにより構成されている。もっとも、透明基板2は、透明な基板である限りにおいてセラミックスなどの他の材料により構成されていてもよい。
【0027】
透明基板2を構成するガラスとしては、ガラス転移温度が高く、低膨張なガラスや、低膨張の結晶化ガラスからなるものであることが好ましい。低膨張の結晶化ガラスの具体例としては、例えば、日本電気硝子社製の「N-0」が挙げられる。なお、透明基板2としては、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラスなどを用いてもよい。この場合、透明基板2の耐熱性をより一層高めることができ、熱膨張係数をより一層低めることができる。そのため、加熱及び冷却が繰り返される調理器用トップレートなどの用途に好適に用いることができる。
【0028】
透明基板2の厚みは、特に限定されない。透明基板2の厚みは、光透過率などに応じて適宜設定することができる。透明基板2の厚みは、例えば、0.035mm~5mm程度とすることができる。
【0029】
光吸収膜3は、透明基板2の第1の主面2a上に設けられている。図2に示すように、光吸収膜3は、誘電体相4と、金属相5とを有する。本実施形態では、誘電体相4がマトリックスであり、誘電体相4のマトリックス中に金属相5が分散している。もっとも、誘電体相4の表面に金属相5が露出していてもよい。また、誘電体相4と金属相5とが単に混合されたものであってもよく、混合の形態は特に限定されない。光吸収膜3全体に亘って金属相5による導電パスが形成されない限り、金属相5同士が一部接触していてもよいし、金属相5のサイズが均一でなくてもよい。このような構造は、例えば、誘電体相4及び金属相5を構成する材料の仕込み比により、適宜調整することができる。
【0030】
光吸収膜3の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、物理気相蒸着法(PVD法)である、スパッタリング法、パルスレーザー堆積法(PLD)、又は蒸着法等により成膜することができる。
【0031】
本実施形態において、誘電体相4は、バンドギャップが2.0eV以上、2.7eV以下の材料から構成されている。なかでも、誘電体相4は、バンドギャップが2.0eV以上、2.7eV以下の金属酸化物により構成されていることが好ましい。もっとも、誘電体相4は、バンドギャップが2.0eV以上、2.7eV以下の金属酸窒化物や金属窒化物により構成されていてもよい。バンドギャップは、例えば、Taucプロットから算出することができる。
【0032】
バンドギャップが2.0eV以上、2.7eV以下の金属酸化物としては、例えば、Bi(2.5eV)、Fe(2.1eV)、Fe(2.0eV)、V(2.3eV)、WO(2.5eV)、MoO(2.7eV)、Cr(2.6eV)等が挙げられる。もっとも、これらのカチオンを含むBiVO(2.3eV)等のような複合酸化物であってもよい。また、バンドギャップが2.0eV以上、2.7eV以下の金属酸窒化物としては、SrTaON、TiO2-x等が挙げられる。
【0033】
金属相5を構成する金属としては、特に限定されず、例えば、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Rh、Zn、Fe、Sn、Ni、Pb等が挙げられる。なお、金属相5は、これらの金属の合金により構成されていてもよい。合金としては、FeNi、CuNi等が挙げられる。
【0034】
本実施形態に係る膜付き透明基板1の特徴は、透明基板2の第1の主面2a上に設けられた光吸収膜3が、バンドギャップが2.0eV以上、2.7eV以下の誘電体相4と、金属相5とにより構成されていることにある。それによって、光源の点灯時には各種情報の表示を明確に見えるようにすることができ、消灯時には美観性に優れたものとすることができる。この点については、以下のように説明することができる。
【0035】
従来、調理器用トッププレートなどの基板に、黒色に着色したガラス基板を用いた場合、LEDや液晶ディスプレイなどの光源の消灯時には調理器内部の構造を隠蔽することができるものの、光源の点灯時には、各種情報が見えにくいという問題がある。一方で、ガラス基板などの透明基板の上に黒色の無機顔料層を設けた場合、光源の消灯時において無彩色の黒色とはならず、美観性が損なわれる場合がある。
【0036】
この点に関し、従来のトッププレートは、無機顔料層を構成する材料が、可視光の短波長側(紫や青色側;光のエネルギーとして高い)を強く吸収し、長波長側(赤色側;光のエネルギーとして低い)を弱く吸収するため、無彩色の黒色とはならないことが問題となっていた。
【0037】
これに対して、本実施形態の光吸収膜3では、可視光の短波長側の光吸収を誘電体相4のバンドギャップによる光吸収で担い、長波長側の光吸収を金属相5の自由電子による光吸収で担うことができるため、トッププレートが消灯時においても無彩色の黒色となり、美観性に優れる。
【0038】
より具体的には、光の波長に依存する吸収係数α(λ)は、下記式(I)で表される。
【0039】
α(λ)=α(λ)バンドギャップ型+α(λ)自由電子型=A・λ-n+B・λ≒C・λ…式(I)
(式(I)中、A、BおよびCは定数であり、n>0である。)
【0040】
すなわち、可視光の短波長側の光吸収を担う誘電体相4のバンドギャップによる吸収係数は波長の逆数のn乗に比例し、長波長側の光吸収を担う金属相5の自由電子による吸収係数は、波長の2乗に比例するため、これらの和で表される光吸収膜3の吸収係数α(λ)は、概ね波長に依存せず、いずれの波長においても一定値となりやすい。
【0041】
このように、光吸収膜3を備える膜付き透明基板1は、特に可視光のほぼ全域において、光を均一に吸収することができる。そのため、膜付き透明基板1では、光源の消灯時において無彩色の黒色とすることができ、美観性に優れる。従って、膜付き透明基板1は、調理器用トッププレートやディスプレイのカバーガラス等の用途に好適に用いることができる。
【0042】
本発明においては、誘電体相4のバンドギャップが2.5eV以下であることが好ましく、2.3eV以下であることがより好ましい。この場合、より波長に依存せずに均一に光を吸収することができ、膜付き透明基板1の美観性をより一層高めることができる。
【0043】
誘電体相4のバンドギャップは、間接遷移型であることが好ましい。この場合、より波長に依存せずに均一に光を吸収することができ、膜付き透明基板1の美観性をより一層高めることができる。
【0044】
また、光吸収膜3は、誘電体相4と金属相5が共存できる化学的安定性を有していることが好ましい。この点について、誘電体相4が金属酸化物により構成される場合においては、図3に示すエリンガム図に従って、誘電体相4と金属相5との好ましい組み合わせを決定することができる。
【0045】
図3に示すエリンガム図では、各金属元素の標準ギブスエネルギーが低いほど、酸化物の状態が安定であることを示しており、各金属元素の標準ギブスエネルギーが高いほど、金属の状態が安定であることを示している。例えば、金属のAgは、Feの酸化物中で安定に存在することができるが、金属のFeは、Bi、Cu、Agの酸化物中では安定に存在できない(酸化物になりやすい)ことを意味する。従って、誘電体相4を構成する金属元素の標準ギブスエネルギーは、金属相5を構成する金属元素の標準ギブスエネルギーよりも小さいことが好ましい。この場合、誘電体相4と金属相5が共存できる化学的安定性をより一層高めることができ、膜付き透明基板1の美観性をより一層高めることができる。なお、図3のエリンガム図は、一例であり、他の金属にも適用することができる。
【0046】
このような観点から、誘電体相4と金属相5の好ましい組み合わせとしては、例えば、誘電体相4にPbOやBiのように卑な金属の酸化物を用いる場合は、金属相5にAu、Ag、Cu、Pt、Pd、Rh等を用いることが好ましい。誘電体相4にVやCrのように貴な金属の酸化物を用いる場合は、さらに金属相5にZn、Fe、Sn、Ni、Pb等を用いることが好ましい。
【0047】
また、誘電体相4と金属相5との好ましい組み合わせの具体例としては、FeとAg、BiとCu、PbOとPt、CrとPb、BiVOとAg、VとFeNi、SrTaON、CuNi等が挙げられる。
【0048】
なお、本実施形態のように、マトリックスとしての誘電体相4中に金属相5が分散されていることが好ましい。この場合、光吸収膜3の絶縁性をより一層高めることができる。従って、この場合、タッチパネル機能を有するディスプレイや、タッチパネル機能を有するディスプレイが内蔵された調理器用トッププレートに好適に用いることができる。
【0049】
光吸収膜3において、全体に占める金属相5の体積比(金属相5/(誘電体相4+金属相5))は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下である。上記体積比(金属相5/(誘電体相4+金属相5))が上記下限値以上である場合、光吸収膜3の絶縁性をより一層高めることができる。また、上記体積比(金属相5/(誘電体相4+金属相5))が上記上限値以下である場合、光学干渉を起こし易い波長でより十分な吸収が得られる。
【0050】
光吸収膜3における波長400nm~700nmの平均吸収係数は、好ましくは0.5μm-1以上、より好ましくは10μm-1以上、好ましくは80μm-1以下、より好ましくは70μm-1以下である。平均吸収係数が上記下限値以上である場合、例えば調理器用トッププレートに用いた場合に、調理器内部の構造をより一層確実に隠蔽することができる。他方、平均吸収係数が上記上限値以下である場合、光源の点灯時に、各種情報の表示をより一層確実に明確に見えるようにすることができる。なお、光吸収膜3の吸収係数は、分光エリプソメトリー、または分光光度計による透過率および反射率などの測定から導出し、その際には透明基板2の上に積層させた状態で光吸収膜3側から測定するものとする。
【0051】
また、光吸収膜3において、波長436nmにおける吸収係数をα1とし、波長546nmにおける吸収係数をα2とし、波長700nmにおける吸収係数をα3としたときに、α1/α2が0.8以上、2.0以下であり、α3/α2が0.8以上、2.0以下であることが好ましい。また、α1/α2が0.8以上、1.25以下であり、α3/α2が0.8以上、1.25以下であることがより好ましい。この場合、光源の消灯時においてより無彩色の黒色とすることができ、より一層美観性に優れたものとすることができる。
【0052】
また、光吸収膜において、波長λにおける吸収係数をαとし、波長400nm~700nmにおける平均吸収係数をαAVEとしたときに、下記式(1)で示される吸収平均偏差Mが0.30以下であることが好ましい。この場合、光源の消灯時においてより無彩色の黒色とすることができ、より一層美観性に優れたものとすることができる。
【0053】
【数2】
【0054】
本発明において、光吸収膜3中の金属相5を構成する金属の含有量は、モル%で、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは12%以上、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下、特に好ましくは55%以下である。光吸収膜3中の金属相5を構成する金属の含有量が上記下限値より小さいと、上記α1/α2が大きくなりすぎることがあり、上記α3/α2が小さくなりすぎることがあり、上記吸収平均偏差Mが大きくなりすぎることがある。一方、光吸収膜3中の金属相5を構成する金属の含有量が上記上限値より大きいと、シート抵抗が低下しやすくなることがある。また、上記α1/α2が小さくなりすぎることがあり、上記α3/α2が大きくなりすぎることがあり、上記吸収平均偏差Mが大きくなりすぎることがある。
【0055】
光吸収膜3の厚みは、特に限定されないが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。光吸収膜3の厚みが、上記範囲内にある場合、光源の点灯時には、各種情報の表示をより一層明確に見えるようにすることができ、消灯時にはより一層美観性に優れたものとすることができる。
【0056】
膜付き透明基板1の透過光の彩度C は、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、さらに好ましくは0.5以下である。また、膜付き透明基板1の反射光の彩度C は、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、さらに好ましくは0.5以下である。ここで、彩度Cは、JIS Z 8781-4:2013で採用されているL*a*b*表色系における、D65光源を照射したときの彩度Cである。なお、彩度Cは色度a及びbより求められ、C=((a+(b1/2で表される。この場合、光源の消灯時においてより無彩色の黒色とすることができ、より一層美観性に優れたものとすることができる。
【0057】
なお、後述する表示領域Aと非表示領域Bとの境界をより一層見え難くする観点から、表示領域Aと非表示領域Bとの明度(L)の差の絶対値は、好ましくは3以下、より好ましくは1以下である。また、表示領域Aと非表示領域Bとの彩度(C)の差の絶対値は、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.4以下である。
【0058】
光吸収膜3のシート抵抗は、好ましくは10Ω/□以上、より好ましくは10Ω/□以上である。この場合、光吸収膜3が絶縁性であるため、画像表示装置のカバーガラスや調理器のトッププレートとして使用した場合に、タッチパネルを付与しても、静電容量式タッチセンサに必要な指の接触による静電容量の変化が維持され、タッチパネルを機能させられる。なお、シート抵抗は、ASTM D257またはJIS K 6271-6(2008年)に規定の手法で測定できる。
【0059】
(第2の実施形態、第3の実施形態及び第4の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る膜付き透明基板を示す模式的断面図である。図4に示すように、膜付き透明基板21では、光吸収膜3の上にさらに誘電体多層膜6が設けられている。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0060】
誘電体多層膜6は、相対的に屈折率が低い低屈折率膜7と、相対的に屈折率が高い高屈折率膜8とが、この順に交互に積層された積層膜である。本実施形態では、誘電体多層膜6の積層数は、6層である。
【0061】
低屈折率膜7の材料としては、例えば、本実施形態のような酸化ケイ素、あるいは酸化アルミニウムが挙げられる。
【0062】
高屈折率膜8の材料としては、例えば、本実施形態のような酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムが挙げられる。
【0063】
図5は、本発明の第3の実施形態に係る膜付き透明基板を示す模式的断面図である。図5に示すように、膜付き透明基板31では、透明基板2の第1の主面2a上に光吸収膜3を含む誘電体多層膜16が設けられている。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0064】
誘電体多層膜16では、相対的に屈折率が低い低屈折率膜7と、相対的に屈折率が高い高屈折率膜としての光吸収膜3とが、この順に交互に積層されている。本実施形態では、誘電体多層膜16の積層数は、6層である。なお、光吸収膜3は、第1の実施形態で説明した光吸収膜3であり、低屈折率膜7は、第2の実施形態で説明した低屈折率膜7である。なお、3層ある光吸収膜3の少なくとも1層を、第2の実施形態で説明した高屈折率膜8としてもよい。
【0065】
図6は、本発明の第4の実施形態に係る膜付き透明基板を示す模式的断面図である。図6に示すように、膜付き透明基板41では、透明基板2の上に光吸収膜3が2層設けられ、透明基板2と光吸収膜3の間及び2つの光吸収膜の間にさらに誘電体多層膜6が設けられている。その他の点は、第2の実施形態と同様である。
【0066】
第2の実施形態、第3の実施形態及び第4の実施形態においても、透明基板2の第1の主面2a上に設けられた光吸収膜3が、バンドギャップが2.0eV以上、2.7eV以下の誘電体相4と、金属相5とにより構成されている。そのため、光源の点灯時には、各種情報の表示を明確に見えるようにすることができ、消灯時には、美観性に優れたものとすることができる。
【0067】
また、第2の実施形態のように光吸収膜3の上に誘電体多層膜6が設けられていてもよいし、第3の実施形態のように透明基板2の上に光吸収膜3を含む誘電体多層膜16が設けられていてもよいし、第4の実施形態のように透明基板2の上に光吸収膜3が2層設けられ、透明基板2と光吸収膜3の間及び2つの光吸収膜の間にさらに誘電体多層膜6が設けられていてもよい。このように、誘電体多層膜6,16が設けられている場合、さらに例えば反射防止機能を付与することができる。この場合、ディスプレイのコントラストを改善させることもできる。
【0068】
[調理器用トッププレート]
図7は、本発明の一実施形態に係る調理器用トッププレートを示す模式的断面図である。図7に示すように、調理器用トッププレート51は、膜付き透明基板1を備える。
【0069】
調理器用トッププレート51では、膜付き透明基板1を構成する透明基板2の第2の主面2bが、調理面である。一方、膜付き透明基板1を構成する透明基板2の第1の主面2aが、裏面である。調理面は、鍋やフライパンなどの調理器具が載せられる側の面である。裏面は、調理器の内部側においてLEDやディスプレイ等の光源52や加熱装置と対向する面である。従って、調理面及び裏面は、表裏の関係にある。なお、本実施形態において、透明基板2は、ガラス基板である。
【0070】
透明基板2の裏面(第1の主面2a)上には、光吸収膜3が設けられている。光吸収膜3上には、耐熱樹脂層53が設けられている。なお、耐熱樹脂層53は、透明基板2と光吸収膜3の間に設けられていてもよい。本実施形態では、平面視において、耐熱樹脂層53が設けられていない領域が、表示領域Aとされている。また、平面視において耐熱樹脂層53が設けられる領域が、非表示領域Bとされている。
【0071】
耐熱樹脂層53は、遮光層である。従って、耐熱樹脂層53を設けることにより、調理器の内部構造の隠蔽性をより一層確実に高めることができる。耐熱樹脂層53は、シリコーン樹脂のような耐熱樹脂と、着色顔料等により構成することができる。なお、耐熱樹脂層53は設けられていなくともよい。
【0072】
膜付き透明基板1の下方には、ディスプレイやLEDなどの光源52が設けられている。光源52は、表示領域Aで情報を表示するため設けられる部材である。表示領域Aで表示する情報としては、特に限定されるものではなく、例えば、電源がオン状態であることや、加熱中であることなどのように調理器の状態を示す情報や、時間などの情報が挙げられる。
【0073】
光源52からの光は、表示領域Aでは、光吸収膜3及び透明基板2を透過して外部に出射される。また、光源52からの光は、非表示領域Bでは、耐熱樹脂層53により遮光される。従って、表示領域Aにおいて、光源52からの光を透過させることにより、文字や数字、記号等を表示することができる。
【0074】
調理器用トッププレート51は、膜付き透明基板1を備える。そのため、光源52の点灯時には、各種情報の表示を明確に見えるようにすることができ、消灯時には、美観性に優れたものとすることができる。また、調理器内部の構造を隠蔽しつつ、表示領域と非表示領域との境界を見え難くすることができる。なお、調理器内部には、タッチパネル機能を有するディスプレイが内蔵されていてもよい。
【0075】
以下、本発明について、実施例に基づいてさらに詳細を説明する。但し、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0076】
(実施例1~2)
実施例1では、Ag及びFeOの混合ターゲットを用いて、パルスレーザー堆積法(PLD)により、透明基板2であるガラス基板上に光吸収膜3を成膜した。なお、混合ターゲット中のAg含有量は、60モル%とした。この時の基板温度は300℃、酸素分圧は0.5Paとした。また、光吸収膜3中におけるAg含有量は、45モル%であった。
【0077】
また、実施例2では、Cu及びBiの混合ターゲットを用いて、パルスレーザー堆積法(PLD)により、透明基板2であるガラス基板上に光吸収膜3を成膜した。なお、混合ターゲット中のCu含有量は、30モル%とした。この時の基板温度は350℃、酸素分圧は0.1Pa未満とした。また、光吸収膜3中におけるCu含有量は、30モル%であった。
【0078】
なお、Feのバンドギャップは2.1eVであり、Biのバンドギャップは2.5eVである。
【0079】
図8は、Ag及びFeの光吸収膜3と、Cu及びBiの光吸収膜3の波長400nm~700nmにおける吸収係数を示す図である。図8より、Ag及びFeの光吸収膜3と、Cu及びBiの光吸収膜3では、波長400nm~700nmにおいて、吸収係数がほぼ一定であることがわかる。なお、Ag及びFeの光吸収膜3において、α1/α2は1.05、α3/α2は1.00、吸収平均偏差Mは0.02であり、Cu及びBiの光吸収膜3において、α1/α2は1.22、α3/α2は0.84、吸収平均偏差Mは0.26であった。
【0080】
なお、Ag及びFeの光吸収膜3の電気抵抗を白金電極を用いた直流2端子法により測定したところ、シート抵抗値は、1.2×10Ω/□であった。また、Cu及びBiのシート抵抗値は、3.4×1013Ω/□であった。
【0081】
また、Cu及びBiの光吸収膜3は、大気中で150℃以上に熱すると吸収係数がやや低下した。一方、Ag及びFeの光吸収膜3は、400℃程度まで安定であった。なお、耐熱性をより一層高めるためには、光吸収膜3にAl等の高融点材料をさらに添加してもよい。
【0082】
(比較例1)
比較例1では、Ag及びTiOの混合ターゲットを用いて、パルスレーザー堆積法(PLD)により、ガラス基板上に光吸収膜を成膜した。この時の基板温度は600℃、酸素分圧は0.5Paとした。なお、TiOのバンドギャップは2.8eVである。
【0083】
図9は、Ag及びTiOの光吸収膜の波長400nm~700nmにおける吸収係数のグラフを示す図である。図9より、Ag及びTiOの光吸収膜では、波長が大きいほど吸収係数が大きくなっており、波長400nm~700nmにおいて、吸収係数が一定ではないことがわかる。また、α1/α2は0.79、α3/α2は2.51、吸収平均偏差Mは0.36であった。これにより、誘電体相のバンドギャップが2.7eVより大きい場合、可視光全域において、吸収係数を一定にすることが難しいことがわかる。
【0084】
なお、実施例1~2の膜付き透明基板では、光源の点灯時には各種情報の表示を明確に見えるようにすることができ、消灯時には美観性に優れたものとすることができることが確認できた。一方、比較例1では、光源の消灯時において美観性が損なわれていた。
【0085】
(実施例3~6及び比較例2)
実施例3~6では、Ag及びFeOの混合ターゲットにおけるAgの含有量及び光吸収膜3におけるAg含有量を下記の表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして光吸収膜3を成膜した。また、比較例2では、Agを含有しないFeOのターゲットを用いたこと以外は、実施例1と同様にして光吸収膜を成膜した。なお、下記の表1には、各実施例及び比較例におけるα1/α2、α3/α2、吸収平均偏差M、及びシート抵抗値を併せて示した。
【0086】
【表1】
【0087】
図10は、実施例1,3~6及び比較例2の光吸収膜の波長400nm~700nmにおける吸収係数を示す図である。図10より、実施例3~6の光吸収膜においても、波長400nm~700nmにおいて、吸収係数がほぼ一定であることがわかる。また、図10より、比較例2の光吸収膜では、波長が大きいほど吸収係数が小さくなっており、波長400nm~700nmにおいて、吸収係数が一定ではないことがわかる。
【0088】
なお、実施例3~6の膜付き透明基板においても、光源の点灯時には各種情報の表示を明確に見えるようにすることができ、消灯時には美観性に優れたものとすることができることが確認できた。一方、比較例2では、光源の消灯時において美観性が損なわれていた。
【符号の説明】
【0089】
1,21,31,41…膜付き透明基板
2…透明基板
2a…第1の主面
2b…第2の主面
3…光吸収膜
4…誘電体相
5…金属相
6,16…誘電体多層膜
7…低屈折率膜
8…高屈折率膜
51…調理器用トッププレート
52…光源
53…耐熱樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10