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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】分化誘導用ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/00 20060101AFI20240820BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
C07K19/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022515373
(86)(22)【出願日】2021-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2021015186
(87)【国際公開番号】W WO2021210537
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2020071429
(32)【優先日】2020-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110004233
【氏名又は名称】弁理士法人NSI国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(74)【代理人】
【識別番号】100186772
【弁理士】
【氏名又は名称】入佐 大心
(72)【発明者】
【氏名】松井 勇人
(72)【発明者】
【氏名】榎本 詢子
(72)【発明者】
【氏名】道上 雅孝
(72)【発明者】
【氏名】藤井 郁雄
【審査官】三谷 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-172647(JP,A)
【文献】特開2017-132743(JP,A)
【文献】米国特許第06548634(US,B1)
【文献】特表2011-504888(JP,A)
【文献】特表2013-512672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記配列番号9のアミノ酸配列である、合成ペプチド。
【化1】
【請求項2】
WQPPRARIG(配列番号49)が、下記配列番号9、27、47、または48に融合したアミノ酸配列である、合成ペプチド。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年4月13日に日本国特許庁に出願された日本国出願番号第2020-71429号の利益を主張するものである。当該日本国出願は、その出願書類(明細書、特許請求の範囲、図面、要約書)の全体が本明細書に明示されているかのように、全ての目的で参照により本明細書に援用される。
本発明は、再生医療を含む細胞培養の技術分野に属する。本発明は、多能性幹細胞から体細胞へ分化誘導するための液性因子に関するものである。詳しくは、本発明は、多能性幹細胞から体細胞へ分化誘導する際に有用なペプチドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
臓器不全等の治療のため細胞を移植する場合、ドナー不足により、必要な患者にオンデマンドで医療を提供することが困難であることが問題となっている。そこで、ES/iPS細胞等の多能性幹細胞から必要な臓器を生体外で作製し、患者に適用する再生医療が注目されている。必要な臓器を作製するためには、適切なタイミングで細胞に増殖因子や分化誘導因子等の液性因子を作用し、順に細胞の分化の方向を決定づける手法が一般的である。
【0003】
しかし、使用する液性因子が高価であるため、目的の細胞を作製するためのトータルコストが高くなり、再生医療の普及への障壁になっている。また、作製された細胞の機能が生体内の細胞の機能に及ばないといった問題も挙げられている。前者の液性因子が高価な理由は、液性因子は動物細胞等を使用して作られるタンパク質を主成分とするためである。後者の機能は、生体内の臓器発生を生体外で十分に模倣できていない、すなわち添加する液性因子の組み合わせが不十分であることが機能不足の理由の1つとして考えられる。
【0004】
前者の問題を解決するため、タンパク質を低分子化合物で置き換える方法が試みられている。しかし、作用メカニズムが不明な場合が多く、副作用等の予測できないリスク(例えば感染リスク(ウイルス、マイコプラズマ、プリオンなど)の発生)が危惧される。後者の問題を解決するためには、液性因子の添加濃度の向上や、種類を増やすこと、液性因子の構造改良が有効である。しかし、更なるコスト高や作業の煩雑化を促す。
【0005】
ES/iPS細胞等の多能性幹細胞から必要な臓器を生体外で作製する具体的な技術としては、例えば下記のような技術が知られている。
特許文献1に記載の発明は、多能性幹細胞から心筋細胞を製造する方法に関するものであり、アクチビン、BMP4、bFGF、VEGF等の液性因子を使用して効率よく心筋へ分化誘導することが可能である。しかしながら、複数の液性因子を使用するため高価である。
【0006】
特許文献2~5に記載の発明は、低分子化合物を使用して心筋へ分化誘導する方法に関するものである。この中、特許文献2の発明は、フィーダー細胞であるOP9を使用し、セルソーターを用いた細胞の分離が必要であり作業が煩雑である。特許文献3、4、および5の発明は、心筋細胞に特化した手法であり、他の分化系統へ使用できるか不明である。
【0007】
特許文献6に記載の発明は、膜透過ペプチドとエフリンの部分的ペプチドを含んだペプチドにより、細胞を分化誘導するものである。しかし、当該ペプチドによる分化誘導は肝細胞系列への分化を促進する作用を示すため、他の分化誘導では使用できない可能性が高い。
【0008】
特許文献7に記載の発明は、多能性幹細胞を、ヘパリン結合性増殖因子を含む培地を用いて体細胞に分化誘導する方法において、ラミニンE8フラグメントとヘパラン硫酸プロテオグリカンの増殖因子結合部位を含むフラグメントとが連結したコンジュゲートを細胞に接触させることを特徴とする分化誘導方法に関するものである。当該発明により、多能性幹細胞から任意の体細胞へ高効率で分化誘導することができるが、製造に動物細胞を使用するため、コストが高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6429280号公報
【文献】特許第5611035号公報
【文献】国際公開第2012/026491号
【文献】国際公開第2015/182765号
【文献】国際公開第2015/037706号
【文献】特開2011-98900号公報
【文献】国際公開第2018/088501号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
細胞の高効率な分化誘導を達成するべく、ES/iPS細胞等の多能性幹細胞から分化誘導する手法の開発が盛んに進められている。一方で、そのような系のほとんどは、次のような問題点を1つ以上伴う。
【0011】
・複数の液性因子を使用する。
・液性因子にタンパク質を使用するため高価である。
・タンパク質は細胞を使用して作製するため、内容物の規定(規格化)が困難である。
・作製された、例えば心筋細胞の機能が十分でない。
【0012】
本発明は、ES/iPS細胞等の多能性幹細胞から体細胞(例えば、心筋細胞)へ分化誘導するに際して、上記のような問題点を解決しうる新たな分化誘導剤ないし液性因子(ペプチド)を提供することを主な課題とする。また、本発明の課題として、例えば、多能性幹細胞から体細胞へ分化誘導するための新たな方法や、体細胞の新たな製造方法を提供することを含めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、多能性幹細胞から体細胞へ分化誘導する過程において、1日後の液性因子としてアクチビンと共にFGF(Fibroblast Growth Factors;線維芽細胞成長因子)受容体に結合するペプチドを適用することで体細胞へ分化誘導することができ、これによって上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに到った。
本発明として、例えば、以下の態様を挙げることができる。
【0014】
[1]下記で表されるアミノ酸配列(配列番号1)、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を分子構造上に有する、合成ペプチド:
【0015】
【化1】
【0016】
式中、配列(1)のN末端から1番目のXは、A、R、Q、V、L、K、F、またはHであり、2番目のXはEまたはHであり、3番目のXは、A、Q、V、Y、R、L、またはEであり、4番目のXはAまたはSであり、5番目のXは、E、L、H、R、G、またはKであり、6番目のXは、A、K、M、R、G、またはYであり、7番目のXはEまたはDであり、8番目のXは、A、Q、R、Y、E、K、またはGであり、9番目のXはAまたはIであり、10番目のXは、E、G、Y、Q、R、K、またはMであり、11番目のXは、F、A、Q、V、G、I、N、R、M、D、L、S、P、K、またはEであり、12番目のXは、G、V、K、T、P、R、M、N、E、D、S、C、W、H、またはAであり、13番目のXは、G、R、E、F、A、K、P、N、L、V、M、D、H、T、またはYであり、14番目のXは、V、D、L、M、S、T、A、N、H、G、F、E、R、P、Y、またはKであり、15番目のXは、V、K、Y、T、N、G、D、E、P、F、Q、H、またはIであり、16番目のXは、Y、R、H、L、P、N、E、M、A、G、V、I、またはSであり、17番目のXは、S、K、M、G、H、Q、T、V、C、L、N、A、E、P、またはRであり、18番目のXは、C、S、A、T、R、E、N、Q、G、K、Y、P、L、V、またはMであり、19番目のXは、E、K、S、V、L、R、G、I、F、T、A、H、Q、N、M、またはYであり、20番目のXは、WまたはGであり、21番目のXは、Q、K、F、またはHであり、22番目のXはAまたはLであり、23番目のXは、V、M、D、Y、K、L、I、R、S、Q、G、E、H、F、N、またはAであり、24番目のXは、Y、M、R、S、K、H、G、L、N、E、V、D、またはAであり、25番目のXは、H、F、Y、K、I、Q、M、またはVであり、26番目のXは、Y、W、G、L、N、D、Q、E、M、F、R、H、S、K、V、またはIであり、27番目のXは、K、R、またはQであり、28番目のXは、M、E、W、V、H、S、N、I、Q、Y、G、L、R、F、またはAであり、29番目のXは、R、L、V、S、H、Y、F、N、K、Q、W、E、I、G、またはAであり、30番目のXは、F、R、D、Q、M、K、L、またはHであり、31番目のXは、Q、G、Y、R、N、I、S、H、E、M、L、D、C、W、V、またはFをそれぞれ表す。
[2]下記で表されるアミノ酸配列(配列番号2)、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を分子構造上に有する、上記[1]に記載の合成ペプチド:
【0017】
【化2】
【0018】
式中、配列(2)のN末端から1番目のXは、F、A、Q、V、G、I、N、R、M、D、L、S、P、K、またはEであり、2番目のXは、G、V、K、T、P、R、M、N、E、D、S、C、W、H、またはAであり、3番目のXは、G、R、E、F、A、K、P、N、L、V、M、D、H、T、またはYであり、4番目のXは、V、D、L、M、S、T、A、N、H、G、F、E、R、P、Y、またはKであり、5番目のXは、V、K、Y、T、N、G、D、E、P、F、Q、H、またはIであり、6番目のXは、Y、R、H、L、P、N、E、M、A、G、V、またはIであり、7番目のXは、S、K、M、G、H、Q、T、V、C、L、N、A、E、またはRであり、8番目のXは、C、S、A、T、R、E、N、Q、G、K、Y、P、L、V、またはMであり、9番目のXは、E、K、S、V、L、R、G、I、F、T、A、H、Q、N、M、またはYであり、10番目のXは、WまたはGであり、11番目のXは、QまたはKであり、12番目のXはAまたはLであり、13番目のXは、V、M、D、Y、K、L、I、R、S、Q、G、またはEであり、14番目のXは、Y、M、R、S、K、H、G、L、N、E、またはVであり、15番目のXは、Y、W、G、L、N、D、Q、E、M、F、R、H、S、K、またはVであり、16番目のXは、KまたはRであり、17番目のXは、M、E、W、V、H、S、N、I、Q、Y、G、L、またはRであり、18番目のXは、R、L、V、S、H、Y、F、N、K、Q、W、E、I、またはGであり、19番目のXは、Q、G、Y、R、N、I、S、H、E、M、L、D、C、W、またはVをそれぞれ表す。
[3]前記アミノ酸配列(2)のN末端から1番目のXが、F、A、Q、V、G、I、N、R、M、D、L、S、またはPであり、2番目のXが、G、V、K、T、P、R、M、N、E、D、S、C、W、またはHであり、3番目のXが、G、R、E、F、A、K、P、N、L、V、またはMであり、4番目のXが、V、D、L、M、S、T、A、N、H、G、F、E、またはRであり、5番目のXが、V、K、Y、T、N、G、D、E、P、F、Q、またはHであり、6番目のXが、Y、R、H、L、P、N、E、M、A、G、またはVであり、7番目のXが、S、K、M、G、H、Q、T、V、C、L、N、またはAであり、8番目のXが、C、S、A、T、R、E、N、Q、G、K、Y、またはPであり、9番目のXが、E、K、S、V、L、R、G、I、F、T、A、またはHであり、10番目のXがWまたはGであり、13番目のXが、V、M、D、Y、K、L、I、またはRであり、14番目のXが、Y、M、R、S、K、H、G、L、N、またはEであり、15番目のXが、Y、W、G、L、N、D、Q、E、M、F、またはRであり、16番目のXがKであり、17番目のXが、M、E、W、V、H、S、N、I、Q、またはYであり、18番目のXが、R、L、V、S、H、Y、F、N、またはKであり、19番目のXが、Q、G、Y、R、N、I、S、H、E、M、L、またはDである、上記[2]に記載の合成ペプチド。
[4]前記アミノ酸配列(1)が、配列番号4~26からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列である、上記[3]に記載の合成ペプチド。
[5]前記アミノ酸配列(2)のN末端から1番目のXが、A、Q、V、G、R、L、S、K、またはEであり、2番目のXが、G、V、K、T、P、R、N、E、D、S、H、またはAであり、3番目のXは、E、F、A、P、N、V、M、D、H、T、またはYであり、4番目のXは、V、L、M、S、T、H、F、E、R、P、Y、またはKであり、5番目のXは、V、T、またはIであり、6番目のXが、R、L、M、G、V、またはIであり、7番目のXが、S、M、G、T、L、N、A、E、またはRであり、8番目のXが、S、T、R、Q、G、L、V、またはMであり、9番目のXが、K、S、V、L、R、T、A、Q、N、M、またはYであり、10番目のXがGであり、11番目のXがKであり、12番目のXがLであり、13番目のXが、V、M、L、I、S、Q、G、またはEであり、14番目のXが、M、S、H、G、L、またはVであり、15番目のXが、Y、L、Q、E、M、F、R、H、S、K、またはVであり、17番目のXが、E、W、V、H、N、Q、G、L、またはRであり、18番目のXが、R、S、H、N、Q、W、E、I、またはGであり、19番目のXが、Q、G、R、H、E、L、D、C、W、またはVである、上記[2]に記載の合成ペプチド。
[6]前記アミノ酸配列(1)が、配列番号27~46からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列である、上記[5]に記載の合成ペプチド。
[7]下記で表されるアミノ酸配列(配列番号3)、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を分子構造上に有する、上記[1]に記載の合成ペプチド:
【0019】
【化3】
【0020】
式中、配列(3)のN末端から1番目のXは、A、R、Q、V、L、K、F、またはHであり、2番目のXはEまたはHであり、3番目のXは、A、Q、V、Y、R、L、またはEであり、4番目のXはAまたはSであり、5番目のXは、E、L、H、R、G、またはKであり、6番目のXは、A、K、M、R、G、またはYであり、7番目のXはEまたはDであり、8番目のXは、A、Q、R、Y、E、K、またはGであり、9番目のXはAまたはIであり、10番目のXは、E、G、Y、Q、R、K、またはMであり、11番目のXはGまたはPであり、12番目のXは、G、P、D、またはSであり、13番目のXは、GまたはRであり、14番目のXは、V、G、またはPであり、15番目のXはGまたはHであり、16番目のXは、L、G、またはSであり、17番目のXはPまたはRであり、18番目のXはRまたはPであり、19番目のXはLまたはRであり、20番目のXはGであり、21番目のXは、K、F、またはHであり、22番目のXは、M、Y、L、R、Q、G、H、F、N、またはAであり、23番目のXは、R、L、N、D、またはAであり、24番目のXは、H、F、Y、K、Q、M、またはVであり、25番目のXは、Y、L、F、R、V、またはIであり、26番目のXはKまたはQであり、27番目のXは、H、Y、L、F、またはAであり、28番目のXは、L、N、E、G、またはAであり、29番目のXは、F、R、D、Q、M、K、L、またはHであり、30番目のXは、G、N、I、H、L、W、V、またはFをそれぞれ表す。
[8]前記アミノ酸配列(1)のN末端から17および18番目のXがPかつ19番目のXがLであるか、または、17~19番目のXがいずれもRである、上記[7]に記載の合成ペプチド。
[9]前記アミノ酸配列(1)が、配列番号47または48のアミノ酸配列である、上記[7]または[8]に記載の合成ペプチド。
[10]配列番号4~48からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されたアミノ酸配列からなる、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の合成ペプチド。
[11]WQPPRARIG(配列番号49)がリンカーを介してまたは直接結合している、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の合成ペプチド。
[12]前記合成ペプチドが二量体化されている、上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の合成ペプチド。
[13]前記合成ペプチドの末端が分子修飾されている、上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の合成ペプチド。
【0021】
[14]上記[1]~[13]のいずれか一項に記載の合成ペプチドを含む、多能性幹細胞から体細胞へ分化誘導するための組成物。
[15]さらに、アクチビン、bFGF、BMP4、VEGF、IWP-3、トランスフェリン、および細胞外マトリックスからなる群から選択される1種以上を含む、上記[14]に記載の組成物。
[16]前記体細胞が、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞である、上記[14]または[15]に記載の組成物。
[17]前記外胚葉系細胞が神経細胞であり、前記中胚葉系細胞が心筋細胞であり、前記内胚葉系細胞が肝細胞である、上記[16]に記載の組成物。
[18]前記組成物が、培地または培養基材である、上記[14]~[17]のいずれか一項に記載の組成物。
【0022】
[19]FGF受容体に対し結合性を有する合成ペプチドを含む液性因子を多能性幹細胞の胚葉体に作用させる工程を含む、体細胞の製造方法。
[20]前記液性因子に、さらに他の分化誘導用液性因子を含む、上記[19]に記載の体細胞の製造方法。
[21]前記ペプチドが、上記[1]~[13]のいずれか一項に記載の1種以上の合成ペプチドである、上記[19]または[20]に記載の体細胞の製造方法。
[22]前記他の分化誘導用液性因子が、アクチビン、bFGF、BMP4、VEGF、IWP-3、およびトランスフェリンからなる群から選択される1種以上である、上記[20]または[21]に記載の体細胞の製造方法。
[23]前記体細胞が、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞である、上記[19]~[22]のいずれか一項に記載の体細胞の製造方法。
[24]前記外胚葉系細胞が神経細胞であり、前記中胚葉系細胞が心筋細胞であり、前記内胚葉系細胞が肝細胞である、上記[23]に記載の体細胞の製造方法。
【0023】
[25]FGF受容体に対し結合性を有する合成ペプチドを含む液性因子を多能性幹細胞の胚葉体に作用させる工程を含む、多能性幹細胞から体細胞への分化誘導方法。
[26]前記液性因子に、さらに、他の分化誘導用液性因子を含む、上記[25]に記載の分化誘導方法。
[27]前記ペプチドが、上記[1]~[13]のいずれか一項に記載の1種以上の合成ペプチドである、上記[25]または[26]に記載の分化誘導方法。
[28]前記他の分化誘導用液性因子が、アクチビン、bFGF、BMP4、VEGF、IWP-3、およびトランスフェリンからなる群から選択される1種以上である、上記[26]または[27]に記載の分化誘導方法。
[29]前記体細胞が、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞である、上記[25]~[28]のいずれか一項に記載の分化誘導方法。
[30]前記外胚葉系細胞が神経細胞であり、前記中胚葉系細胞が心筋細胞であり、前記内胚葉系細胞が肝細胞である、上記[29]に記載の分化誘導方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、分子量が中程度の合成ペプチドを用いて多能性幹細胞から体細胞へ効率的に分化誘導することができるので、従来の方法と比較して費用などを節減することができる。また、bFGF等の他の分化誘導用液性因子と併用することで、より効率的に当該分化誘導を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】心筋細胞分化誘導プロトコルを表す。
図2】ファージ表層提示ペプチドライブラリーの立体構造を表す。
図3】パンニング後に溶出したファージライブラリーからFGFR1に結合するファージを取得し、そのファージミドDNAに含まれるペプチドライブラリー由来の配列を網羅的に解析するまでのフローチャートを示す。
図4】表面プラズモン共鳴法によるFGFRへの結合性実験の結果を表す。左端はFGF受容体1に対する結果を、真中はFGF受容体2に対する結果を、右端はFGF受容体3に対する結果を、それぞれ表す。各図において、縦軸はレスポンスユニット(RU)を、横軸は時間(秒)を、それぞれ示す。
図5】心筋遺伝子マーカーの発現量を表す。左図はcTNT遺伝子、右図はActinin-2遺伝子の発現量をそれぞれ表す。
図6】細胞の免疫染色写真である。
図7】細胞の免疫染色写真である。
図8】心筋遺伝子マーカーの発現量を表す。左図はcTNT遺伝子、右図はActinin-2遺伝子の発現量をそれぞれ表す。
図9】心筋遺伝子マーカーの発現量を表す。左図はcTNT遺伝子、右図はActinin-2遺伝子の発現量をそれぞれ表す。
図10】心筋遺伝子マーカーの発現量を表す。左図はcTNT遺伝子、右図はActinin-2遺伝子の発現量をそれぞれ表す。
図11】表面プラズモン共鳴法による、ペプチドHBD-YXおよびHBD-F3-100nXのFGFRへの結合性実験の結果を表す。
図12】心筋分化誘導プロトコルを表す。
図13】心筋分化誘導における遺伝子発現解析の結果を表す。
図14】肝分化誘導プロトコルを表す。
図15】肝分化における遺伝子発現解析の結果を表す。
図16】肝分化におけるCYP3A4活性測定の結果を表す。
図17】神経分化誘導プロトコルを表す。
図18】神経分化における遺伝子発現解析の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳述する。
なお、本明細書において特に言及している事項(例えばペプチドの一次構造や鎖長)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばペプチド合成、細胞培養技法、ペプチドを成分とする薬剤組成物の調製に関するような一般的事項)は、細胞工学、医学、薬学、有機化学、生化学、遺伝子工学、タンパク質工学、分子生物学、衛生学等の分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の説明では、場合に応じてアミノ酸をIUPAC-IUBガイドラインで示されたアミノ酸に関する命名法に準拠した1文字表記(但し配列表では3文字表記)で表す。本明細書中に記載されるアミノ酸配列は、常に左側がN末端側であり右側がC末端側である。
本明細書中で引用されている全ての文献の全ての内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【0027】
1 本発明に係る合成ペプチド
本発明に係る合成ペプチド(以下、「本発明ペプチド」という。)は、下記で表されるアミノ酸配列(配列番号1)、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を分子構造上に有することを特徴とする。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基の置換、欠失および/または付加が生じたとしても、本発明の効果が損なわれない範囲の少数個であることをいい、通常、12個程度以下を意味する。かかる置換、欠失および/または付加されるアミノ酸残基は、10個以下であることが好ましい。より好ましくは5個以下、4個以下、3個以下、ないし2個以下である。
【0028】
【化4】
【0029】
(式中、配列(1)のN末端から1番目のXは、A、R、Q、V、L、K、F、またはHであり、2番目のXはEまたはHであり、3番目のXは、A、Q、V、Y、R、L、またはEであり、4番目のXはAまたはSであり、5番目のXは、E、L、H、R、G、またはKであり、6番目のXは、A、K、M、R、G、またはYであり、7番目のXはEまたはDであり、8番目のXは、A、Q、R、Y、E、K、またはGであり、9番目のXはAまたはIであり、10番目のXは、E、G、Y、Q、R、K、またはMであり、11番目のXは、F、A、Q、V、G、I、N、R、M、D、L、S、P、K、またはEであり、12番目のXは、G、V、K、T、P、R、M、N、E、D、S、C、W、H、またはAであり、13番目のXは、G、R、E、F、A、K、P、N、L、V、M、D、H、T、またはYであり、14番目のXは、V、D、L、M、S、T、A、N、H、G、F、E、R、P、Y、またはKであり、15番目のXは、V、K、Y、T、N、G、D、E、P、F、Q、H、またはIであり、16番目のXは、Y、R、H、L、P、N、E、M、A、G、V、I、またはSであり、17番目のXは、S、K、M、G、H、Q、T、V、C、L、N、A、E、P、またはRであり、18番目のXは、C、S、A、T、R、E、N、Q、G、K、Y、P、L、V、またはMであり、19番目のXは、E、K、S、V、L、R、G、I、F、T、A、H、Q、N、M、またはYであり、20番目のXは、WまたはGであり、21番目のXは、Q、K、F、またはHであり、22番目のXはAまたはLであり、23番目のXは、V、M、D、Y、K、L、I、R、S、Q、G、E、H、F、N、またはAであり、24番目のXは、Y、M、R、S、K、H、G、L、N、E、V、D、またはAであり、25番目のXは、H、F、Y、K、I、Q、M、またはVであり、26番目のXは、Y、W、G、L、N、D、Q、E、M、F、R、H、S、K、V、またはIであり、27番目のXは、K、R、またはQであり、28番目のXは、M、E、W、V、H、S、N、I、Q、Y、G、L、R、F、またはAであり、29番目のXは、R、L、V、S、H、Y、F、N、K、Q、W、E、I、G、またはAであり、30番目のXは、F、R、D、Q、M、K、L、またはHであり、31番目のXは、Q、G、Y、R、N、I、S、H、E、M、L、D、C、W、V、またはFをそれぞれ表す。)
【0030】
本発明ペプチドは、前記アミノ酸配列(1)において、N末端から1番目のXがAであり、2番目のXがEであり、3番目のXがAであり、4番目のXがAであり、5番目のXがEであり、6番目のXがAであり、7番目のXがEであり、8番目のXがAであり、9番目のXがAであり、10番目のXがEであり、16番目のXが、Y、R、H、L、P、N、E、M、A、G、V、もしくはIであり、17番目のXが、S、K、M、G、H、Q、T、V、C、L、N、A、E、もしくはRであり、21番目のXが、QもしくはKであり、23番目のXが、V、M、D、Y、K、L、I、R、S、Q、G、もしくはEであり、24番目のXが、Y、M、R、S、K、H、G、L、N、E、もしくはVであり、25番目のXがKであり、26番目のXが、Y、W、G、L、N、D、Q、E、M、F、R、H、S、K、もしくはVであり、27番目のXが、KもしくはRであり、28番目のXが、M、E、W、V、H、S、N、I、Q、Y、G、L、もしくはRであり、29番目のXが、R、L、V、S、H、Y、F、N、K、Q、W、E、I、もしくはGであり、30番目のXがKであり、31番目のXが、Q、G、Y、R、N、I、S、H、E、M、L、D、C、W、もしくはVであるか、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を、分子構造上に有する態様(以下、「100nX系ペプチド」ともいう。)を採り得る。
【0031】
すなわち、100nX系ペプチドは、下記で表されるアミノ酸配列(配列番号2)、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を分子構造上に有する。
【0032】
【化5】
【0033】
(式中、配列(2)のN末端から1番目のXは、F、A、Q、V、G、I、N、R、M、D、L、S、P、K、またはEであり、2番目のXは、G、V、K、T、P、R、M、N、E、D、S、C、W、H、またはAであり、3番目のXは、G、R、E、F、A、K、P、N、L、V、M、D、H、T、またはYであり、4番目のXは、V、D、L、M、S、T、A、N、H、G、F、E、R、P、Y、またはKであり、5番目のXは、V、K、Y、T、N、G、D、E、P、F、Q、H、またはIであり、6番目のXは、Y、R、H、L、P、N、E、M、A、G、V、またはIであり、7番目のXは、S、K、M、G、H、Q、T、V、C、L、N、A、E、またはRであり、8番目のXは、C、S、A、T、R、E、N、Q、G、K、Y、P、L、V、またはMであり、9番目のXは、E、K、S、V、L、R、G、I、F、T、A、H、Q、N、M、またはYであり、10番目のXは、WまたはGであり、11番目のXは、QまたはKであり、12番目のXはAまたはLであり、13番目のXは、V、M、D、Y、K、L、I、R、S、Q、G、またはEであり、14番目のXは、Y、M、R、S、K、H、G、L、N、E、またはVであり、15番目のXは、Y、W、G、L、N、D、Q、E、M、F、R、H、S、K、またはVであり、16番目のXは、KまたはRであり、17番目のXは、M、E、W、V、H、S、N、I、Q、Y、G、L、またはRであり、18番目のXは、R、L、V、S、H、Y、F、N、K、Q、W、E、I、またはGであり、19番目のXは、Q、G、Y、R、N、I、S、H、E、M、L、D、C、W、またはVをそれぞれ表す。)
【0034】
100nX系ペプチドは、上記アミノ酸配列(1)において、さらに、N末端から11番目のXが、F、A、Q、V、G、I、N、R、M、D、L、S、もしくはPであり、12番目のXが、G、V、K、T、P、R、M、N、E、D、S、C、W、もしくはHであり、13番目のXが、G、R、E、F、A、K、P、N、L、V、もしくはMであり、14番目のXが、V、D、L、M、S、T、A、N、H、G、F、E、もしくはRであり、15番目のXが、V、K、Y、T、N、G、D、E、P、F、Q、もしくはHであり、16番目のXが、Y、R、H、L、P、N、E、M、A、G、もしくはVであり、17番目のXが、S、K、M、G、H、Q、T、V、C、L、N、もしくはAであり、18番目のXが、C、S、A、T、R、E、N、Q、G、K、Y、もしくはPであり、19番目のXが、E、K、S、V、L、R、G、I、F、T、A、もしくはHであり、20番目のXがWもしくはGであり、23番目のXが、V、M、D、Y、K、L、I、もしくはRであり、24番目のXが、Y、M、R、S、K、H、G、L、N、もしくはEであり、26番目のXが、Y、W、G、L、N、D、Q、E、M、F、もしくはRであり、27番目のXがKであり、28番目のXが、M、E、W、V、H、S、N、I、Q、もしくはYであり、29番目のXが、R、L、V、S、H、Y、F、N、もしくはKであり、31番目のXが、Q、G、Y、R、N、I、S、H、E、M、L、もしくはDであるか、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を、分子構造上に有する態様(以下、「100nX」または「100nX-Monomer」ともいう。)を採り得る。
【0035】
すなわち、100nXは、上記アミノ酸配列(2)において、さらに、N末端から1番目のXが、F、A、Q、V、G、I、N、R、M、D、L、S、もしくはPであり、2番目のXが、G、V、K、T、P、R、M、N、E、D、S、C、W、もしくはHであり、3番目のXが、G、R、E、F、A、K、P、N、L、V、もしくはMであり、4番目のXが、V、D、L、M、S、T、A、N、H、G、F、E、もしくはRであり、5番目のXが、V、K、Y、T、N、G、D、E、P、G、F、Q、もしくはHであり、6番目のXが、Y、R、H、L、P、N、E、M、A、G、もしくはVであり、7番目のXが、S、K、M、G、H、Q、T、V、C、L、N、もしくはAであり、8番目のXが、C、S、A、T、R、E、N、Q、G、K、Y、もしくはPであり、9番目のXが、E、K、S、V、L、R、G、I、F、T、A、もしくはHであり、10番目のXがWもしくはGであり、13番目のXが、V、M、D、Y、K、L、I、もしくはRであり、14番目のXが、Y、M、R、S、K、H、G、L、N、もしくはEであり、15番目のXが、Y、W、G、L、N、D、Q、E、M、F、もしくはRであり、16番目のXがKであり、17番目のXが、M、E、W、V、H、S、N、I、Q、もしくはYであり、18番目のXが、R、L、V、S、H、Y、F、N、もしくはKであり、19番目のXが、Q、G、Y、R、N、I、S、H、E、M、L、もしくはDであるか、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を、分子構造上に有する。
【0036】
また、100nX系ペプチドは、前記アミノ酸配列(1)において、さらに、N末端から11番目のXが、A、Q、V、G、R、L、S、K、もしくはEであり、12番目のXが、G、V、K、T、P、R、N、E、D、S、H、もしくはAであり、13番目のXは、E、F、A、P、N、V、M、D、H、T、もしくはYであり、14番目のXは、V、L、M、S、T、H、F、E、R、P、Y、もしくはKであり、15番目のXは、V、T、もしくはIであり、16番目のXが、R、L、M、G、V、もしくはIであり、17番目のXが、S、M、G、T、L、N、A、E、もしくはRであり、18番目のXが、S、T、R、Q、G、L、V、もしくはMであり、19番目のXが、K、S、V、L、R、T、A、Q、N、M、もしくはYであり、20番目のXがGであり、21番目のXがKであり、22番目のXがLであり、23番目のXが、V、M、L、I、S、Q、G、もしくはEであり、24番目のXが、M、S、H、G、L、もしくはVであり、26番目のXが、Y、L、Q、E、M、F、R、H、S、K、もしくはVであり、28番目のXが、E、W、V、H、N、Q、G、L、もしくはRであり、29番目のXが、R、S、H、N、Q、W、E、I、もしくはGであり、31番目のXが、Q、G、R、H、E、L、D、C、W、もしくはVであるか、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を、分子構造上に有する態様(以下、「F3-100nX」または「F3-100nX-Monomer」ともいう。)を採り得る。
【0037】
すなわち、F3-100nXは、上記アミノ酸配列(2)において、さらに、N末端から1番目のXが、A、Q、V、G、R、L、S、K、もしくはEであり、2番目のXが、G、V、K、T、P、R、N、E、D、S、H、もしくはAであり、3番目のXは、E、F、A、P、N、V、M、D、H、T、もしくはYであり、4番目のXは、V、L、M、S、T、H、F、E、R、P、Y、もしくはKであり、5番目のXは、V、T、もしくはIであり、6番目のXが、R、L、M、G、V、もしくはIであり、7番目のXが、S、M、G、T、L、N、A、E、もしくはRであり、8番目のXが、S、T、R、Q、G、L、V、もしくはMであり、9番目のXが、K、S、V、L、R、T、A、Q、N、M、もしくはYであり、10番目のXがGであり、11番目のXがKであり、12番目のXがLであり、13番目のXが、V、M、L、I、S、Q、G、もしくはEであり、14番目のXが、M、S、H、G、L、もしくはVであり、15番目のXが、Y、L、Q、E、M、F、R、H、S、K、もしくはVであり、17番目のXが、E、W、V、H、N、Q、G、L、もしくはRであり、18番目のXが、R、S、H、N、Q、W、E、I、もしくはGであり、19番目のXが、Q、G、R、H、E、L、D、C、W、もしくはVであるか、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を、分子構造上に有する。
【0038】
他方、本発明ペプチドは、前記アミノ酸配列(1)のN末端から11番目のXがGもしくはPであり、12番目のXが、G、P、D、もしくはSであり、13番目のXが、GもしくはRであり、14番目のXが、V、G、もしくはPであり、15番目のXがGもしくはHであり、16番目のXが、L、G、もしくはSであり、17番目のXがPもしくはRであり、18番目のXがRもしくはPであり、19番目のXがLもしくはRであり、20番目のXがGであり、21番目のXが、K、F、もしくはHであり、22番目のXがLであり、23番目のXが、M、Y、L、R、Q、G、H、F、N、もしくはAであり、24番目のXが、R、L、N、D、もしくはAであり、26番目のXが、Y、L、F、R、V、もしくはIであり、27番目のXがKもしくはQであり、28番目のXが、H、Y、L、F、もしくはAであり、29番目のXが、L、N、E、G、もしくはAであり、31番目のXが、G、N、I、H、L、W、V、もしくはFであるか、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を、分子構造上に有する態様(以下、「YX系ペプチド」ともいう。)をも採り得る。
【0039】
すなわち、YX系ペプチドは、下記で表されるアミノ酸配列(配列番号3)、またはそのアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/もしくは付加されて形成されているアミノ酸配列を分子構造上に有する。
【化6】
【0040】
(式中、配列(3)のN末端から1番目のXは、A、R、Q、V、L、K、F、またはHであり、2番目のXはEまたはHであり、3番目のXは、A、Q、V、Y、R、L、またはEであり、4番目のXはAまたはSであり、5番目のXは、E、L、H、R、G、またはKであり、6番目のXは、A、K、M、R、G、またはYであり、7番目のXはEまたはDであり、8番目のXは、A、Q、R、Y、E、K、またはGであり、9番目のXはAまたはIであり、10番目のXは、E、G、Y、Q、R、K、またはMであり、11番目のXはGまたはPであり、12番目のXは、G、P、D、またはSであり、13番目のXは、GまたはRであり、14番目のXは、V、G、またはPであり、15番目のXはGまたはHであり、16番目のXは、L、G、またはSであり、17番目のXはPまたはRであり、18番目のXはRまたはPであり、19番目のXはLまたはRであり、20番目のXはGであり、21番目のXは、K、F、またはHであり、22番目のXは、M、Y、L、R、Q、G、H、F、N、またはAであり、23番目のXは、R、L、N、D、またはAであり、24番目のXは、H、F、Y、K、Q、M、またはVであり、25番目のXは、Y、L、F、R、V、またはIであり、26番目のXはKまたはQであり、27番目のXは、H、Y、L、F、またはAであり、28番目のXは、L、N、E、G、またはAであり、29番目のXは、F、R、D、Q、M、K、L、またはHであり、30番目のXは、G、N、I、H、L、W、V、またはFをそれぞれ表す。)
【0041】
YX系ペプチドは、さらに、前記アミノ酸配列(1)もしくは(3)のN末端から17および18番目のXがPかつ19番目のXがLであるか、または、17~19番目のXがいずれもRである態様(以下、「YX」または「YX-Monomer」ともいう。)を採り得る。
【0042】
ここで「合成ペプチド」とは、当該ペプチド鎖がそれのみで独立して自然界に安定的に存在するものではなく、人為的な化学合成あるいは生合成(即ち遺伝子工学に基づく生産)によって製造され、所定の系(例えば細胞分化誘導剤を構成する組成物)の中で安定して存在し得るペプチド断片をいう。
「ペプチド」とは、複数のペプチド結合を有するアミノ酸ポリマーを指す用語であり、ペプチド鎖に含まれるアミノ酸残基の数によって限定されないが、典型的には全アミノ酸残基数が概ね100以下、好ましくは50以下(例えば30~50ないし40~50程度)のような比較的分子量の小さいものをいう。
【0043】
「アミノ酸残基」とは、特に言及する場合を除いて、ペプチド鎖に含まれる各アミノ酸(-NH-C(R)(H)-CO-)であって、ペプチド鎖のN末端アミノ酸およびC末端アミノ酸を包含する用語である。
なお、本発明ペプチドとしては、全てのアミノ酸残基がL型アミノ酸であるものが好ましいが、分化誘導活性を失わない限りにおいて、アミノ酸残基の一部または全部がD型アミノ酸に置換されているものであってもよい。
【0044】
線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)に結合する本発明ペプチド(100nX、F3-100nX、もしくはYX)、あるいは本発明ペプチドとヘパラン硫酸に結合するペプチドとを融合したペプチド(以下、「HBD-100nX」、「HBD-F3-100nX」、もしくは「HBD-YX」ともいう。)、または本発明ペプチドを二量体化したペプチド(以下、「100nX-Dimer」、「F3-100nX-Dimer」、もしくは「YX-Dimer」ともいう。)を用いることで、従来プロトコルより少ない種類の液性因子でiPS細胞等の多能性幹細胞から心筋細胞などの体細胞へ分化誘導することができる。
【0045】
また、100nX、HBD-100nX、または100nX-DimerをbFGF(basic FGF:塩基性線維芽細胞増殖因子)と合わせて作用することで、心筋細胞などの体細胞への分化を促進または心筋細胞などの体細胞の成熟化を促進しうる。
【0046】
また、FGFRに結合するペプチド(例えば、100nX、YX、F3-100nX)とヘパラン硫酸に結合するペプチドを融合したペプチド(例えば、HBD-100nX、HBD-YX、HBD-F3-100nX)を用いることにより、bFGFを使用することなく、iPS細胞から心筋細胞へ分化誘導しうる。
【0047】
また、HBD-100nXを用いることにより、bFGFを使用することなく、iPS細胞から肝細胞または神経細胞へ分化誘導しうる。
【0048】
100nXの中、下記の表1に示す配列番号4~26のいずれかの配列で表されるペプチドを分子構造上に有する化合物、または配列番号4~26のいずれかの配列で表されるペプチドが好ましい。より好ましい本発明ペプチドは、配列番号5、配列番号8、または配列番号9で表されるペプチドを分子構造上に有するもの、または配列番号5、配列番号8、または配列番号9で表されるペプチドである。
【0049】
F3-100nXの中、下記の表2に示す配列番号27~46のいずれかの配列で表されるペプチドを分子構造上に有する化合物、または配列番号27~46のいずれかの配列で表されるペプチドが好ましい。より好ましい本発明ペプチドは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、または配列番号32で表されるペプチドを分子構造上に有するもの、または配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、または配列番号32で表されるペプチドである。
【0050】
YXの中、下記の表3に示す配列番号47または48のいずれかの配列で表されるペプチドを分子構造上に有する化合物、または配列番号47または48のいずれかの配列で表されるペプチドが好ましい。
【0051】
本発明ペプチドの態様によっては、該ペプチドを構成する全アミノ酸残基数が100以下(特には50以下)であるため、化学合成が容易であり、かつ安価で取扱性に優れる。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
本発明ペプチドは、本発明の効果を損なわない限り、配列番号1~3、および4~48で表されるアミノ酸配列のうちの1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/または付加されて形成されていてもよい。かかる置換、欠失および/または付加されるアミノ酸残基は、10個以下であることが好ましい。より好ましくは5個以下ないし2個以下である。また、かかる置換、欠失および/または付加されるアミノ酸残基としては、例えば、配列番号1~3においてXで示されるアミノ残基が適当である。
【0056】
本発明ペプチドとして、ヘパラン硫酸に結合するペプチドと融合したペプチド(HBD-100nX)を挙げることができる。かかるヘパラン硫酸に結合するペプチドとしては、例えば、WQPPRARIG(配列番号49)を挙げることができる。
【0057】
本発明ペプチドとヘパラン硫酸に結合するペプチドとの融合は、直接または適当なリンカーを介して行うことができる。かかるリンカーとしては、例えば、ポリアミドリンカー、ポリエチレングリコール(PEG)リンカー、アルキルリンカー、ポリカーボネートリンカーを挙げることができる。
本発明ペプチドは二量体化していてもよい(100nX-Dimer)。かかる二量体化は、2つの本発明ペプチドが直接または適当なリンカーを介して行うことができる。かかるリンカーとしては、例えば、ポリアミドリンカー、ポリエチレングリコール(PEG)リンカー、アルキルリンカー、ポリカーボネートリンカーを挙げることができる。
本発明ペプチドをHBD-100nXや100nX-Dimerとすることにより、多能性幹細胞から体細胞への分化誘導をより効率的に行うことができる。
【0058】
本発明ペプチドは、そのN末端またはC末端が適当な化合物ないし物質で分子修飾されていてもよい。かかる分子修飾は、通常、蛍光標識、多量体化などの目的で行われる。当該分子修飾用の化合物等としては、例えば、ビオチン、ファージ、FITC等の蛍光化合物を挙げることができる。
【0059】
HBD-100nX、100nX-Dimer、およびN末端またはC末端の分子修飾体を含め、本発明ペプチドは、常法により化学合成(もしくは生合成)によって容易に人為的に製造することができる。例えば、従来公知の固相合成法または液相合成法のいずれを採用してもよい。アミノ基の保護基としてBoc(t-butyloxycarbonyl)あるいはFmoc(9-fluorenylmethoxycarbonyl)を適用した固相合成法が好適である。本発明ペプチドは、市販のペプチド合成機を用いた固相合成法により、所望するアミノ酸配列、修飾(C末端アミド化等)部分を有するペプチド鎖を合成することができる。
【0060】
また、遺伝子工学的手法に基づいて本発明ペプチドを生合成することもできる。具体的には、所望する本発明ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(ATG開始コドンを含む。)のDNAを合成する。そして、このDNAと該アミノ酸配列を宿主細胞内で発現させるための種々の調節エレメント(プロモーター、リボゾーム結合部位、ターミネーター、エンハンサー、発現レベルを制御する種々のシスエレメントを包含する。)とから成る発現用遺伝子構築物を有する組換えベクターを、宿主細胞に応じて構築する。
【0061】
一般的な技法によって、この組換えベクターを所定の宿主細胞に導入し、所定の条件で当該宿主細胞または該細胞を含む組織や個体を培養する。このことにより、目的とするポリペプチドを細胞内で発現、生産させることができる。そして、宿主細胞(分泌された場合は培地中)からポリペプチドを単離し、精製することによって、目的の本発明ペプチドを得ることができる。一般的な技法によって、この組換えベクターを所定の宿主細胞(例えばイースト、昆虫細胞)に導入し、所定の条件で当該宿主細胞または該細胞を含む組織や個体を培養する。このことにより、目的とするポリペプチドを細胞内で発現、生産させることができる。そして、宿主細胞(分泌された場合は培地中)からポリペプチドを単離し、精製することによって、目的の本発明ペプチドを得ることができる。
組換えベクターの構築方法及び構築した組換えベクターの宿主細胞への導入方法等は、当該技術分野で従来から行われている方法をそのまま採用することができる。
【0062】
例えば、宿主細胞内で効率よく大量に生産させるために融合タンパク質発現システムを利用することができる。すなわち、目的の本発明ペプチドのアミノ酸配列をコードする遺伝子(DNA)を化学合成し、該合成遺伝子を適当な融合タンパク質発現用ベクターの好適なサイトに導入する。そして該ベクターにより宿主細胞(典型的には大腸菌)を形質転換する。得られた形質転換体を培養して目的の融合タンパク質を調製する。次いで、該タンパク質を抽出および精製する。次いで、得られた精製融合タンパク質を所定の酵素(プロテアーゼ)で切断し、遊離した目的のペプチド断片(設計した本発明ペプチド)をアフィニティクロマトグラフィー等の方法によって回収する。このような従来公知の融合タンパク質発現システムを用いることによって、本発明ペプチドを製造することができる。
【0063】
また、無細胞タンパク質合成システム用の鋳型DNA(即ち細胞分化誘導ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む合成遺伝子断片)を構築し、ペプチド合成に必要な種々の化合物(ATP、RNAポリメラーゼ、アミノ酸類等)を使用し、いわゆる無細胞タンパク質合成システムを採用して目的のポリペプチドをインビトロ合成することができる。無細胞タンパク質合成システムについては、例えばShimizuらの論文(Shimizu et al., Nature Biotechnology, 19, 751-755(2001))、Madinらの論文(Madin et al., Proc. Natl. Acad.Sci. USA, 97(2), 559-564(2000))が参考になる。これら論文に記載された技術に基づいて、本願出願時点において既に多くの企業がポリペプチドの受託生産を行っており、また、無細胞タンパク質合成用キットが市販されている。
従って、ペプチド鎖を設計しさえすれば、そのアミノ酸配列に従って無細胞タンパク質合成システムによって目的の本発明ペプチドを容易に合成・生産することができる。
【0064】
本発明ペプチドは、当該分化誘導活性を損なわない限りにおいて、塩の形態であってもよい。例えば、常法に従って通常使用されている無機酸もしくは有機酸、または無機塩基もしくは有機塩基を付加反応させることにより得られ得る該ペプチドの酸付加塩ないし塩基付加塩を使用することができる。また、当該分化誘導活性を有する限り、他の塩(例えば金属塩)や水和物、溶媒和物などであってもよい。本発明ペプチドは、かかる塩形態のものを包含する。
【0065】
2 本発明に係る組成物
本発明として、本発明ペプチドを含む、多能性幹細胞から体細胞へ分化誘導するための組成物(以下、「本発明組成物」という。)を挙げることができる。
【0066】
2.1 多能性幹細胞について
多能性幹細胞(Pluripotent stem cells)は、当業者に周知の細胞であって、体を構成するすべての種類の細胞に分化することができる分化万能性と、その分化万能性を維持したまま増殖することができる自己複製能を併せ持つ細胞である。代表的な多能性幹細胞としては、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞、induced Pluripotent stemcells)、胚性幹細胞(ES細胞、Embryonic stem cells)、およびエピブラスト幹細胞(EpiS細胞、Epiblast stem cells)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(ntES)、精子幹細胞(GS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)、間葉系幹細胞(MSC、Mesenchymal stem cells)を挙げることができる。
【0067】
(1)iPS細胞
iPS細胞は、体細胞へ数種類の初期化因子(通常は3、4種の遺伝子)を導入することにより作製される多能性幹細胞である。iPS細胞は、特定の初期化因子を、DNAまたはタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる。iPS細胞の作製方法は、具体的には、例えば、WO2007/069666、WO2009/006930、WO2009/006997、WO2009/007852、WO2008/118820、Cell Stem Cell 3(5): 568-574 (2008) 、Cell Stem Cell 4(5): 381-384 (2009)、Nature 454: 646-650 (2008) 、Cell 136(3) :411-419 (2009) 、Nature Biotechnology 26: 1269-1275 (2008) 、Cell Stem Cell 3: 475-479 (2008) 、Nature Cell Biology 11: 197-203 (2009) 、Cell 133(2): 250-264 (2008)、Cell 131(5): 861-72 (2007)、Science 318 (5858): 1917-20 (2007)に記載される。後述のES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能を有する、体細胞由来の人工の幹細胞である。
【0068】
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
【0069】
(2)ES細胞
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor(LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などの物質を添加した培養液を用いて行うことができる。
【0070】
ES細胞としては、例えば、ヒト(Thomson J. A. et al., Science 282: 1145-1147 (1998) 、Biochem Biophys Res Commun. 345(3), 926-32 (2006);アカゲザルおよびマーモセット等の霊長類(Thomson J. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 7844-7848 (1995);Thomson J. A. et al., Biol. Reprod. 55: 254-259 (1996));ウサギ(特表2000-508919号);ハムスター(Doetshman T. et al., Dev. Biol. 127: 224-227 (1988))、ブタ(Evans M. J. et al., Theriogenology 33: 125128 (1990); Piedrahita J.A. et al., Theriogenology 34: 879-891 (1990); Notarianni E. et al., J. Reprod. Fert. 40: 51-56 (1990); Talbot N. C. et al., Cell. Dev. Biol. 29A: 546-554 (1993))、ヒツジ(Notarianni E. et al., J. Reprod. Fert. Suppl. 43: 255-260 (1991))、ウシ(Evans M. J. et al., Theriogenology 33: 125-128 (1990); Saito S. et al., Roux. Arch. Dev. Biol. 201: 134-141 (1992))、ミンク(Sukoyan M. A. et al., Mol. Reorod. Dev. 33: 418-431 (1993)) などのES細胞が挙げられる。
【0071】
(3)その他の多能性幹細胞
EpiS細胞は、受精卵着床後のエピブラストから作製される多能性幹細胞である。
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ。神経膠細胞系由来神経栄養因子(Glial cell line-derived neurotrophic factor(GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる。
【0072】
EG細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(Stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる。EG細胞として、例えば、ヒトEG細胞(Shamblott, et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 92: 7844-7848 (1995))が挙げられる。
ntES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している。
Muse細胞は、WO2011/007900に記載された方法にて製造された多能性幹細胞である。
【0073】
これら各多能性幹細胞は、ヒト由来であっても、マウスやラット、ウシ、ブタ、サル等の動物由来であってもよい。その他、ナイーブ(naive)状態であっても、プライムされた(primed)状態であってもよい。また、マウスの線維芽細胞(例、マウス胎児線維芽細胞(MEF))や、ヒト新生児もしくは成人の線維芽細胞をフィーダー細胞として培養作製されたものであっても、フィーダーレス培養により作製されたものであってもよい。
【0074】
2.2 体細胞
本発明組成物は、上記のような多能性幹細胞から体細胞へ分化誘導するために用いることができる。
本発明組成物で分化誘導される体細胞としては特に制限されず、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、および内胚葉系細胞のいずれであってもよい。具体的には、外胚葉由来の細胞としては、角膜細胞、神経細胞(ドーパミン産生神経細胞、運動神経細胞、末梢神経細胞等)、色素上皮細胞、皮膚細胞、内耳細胞などが挙げられる。内胚葉由来の細胞としては、肝細胞、膵前駆細胞、インスリン産生細胞、胆管細胞、肺胞上皮細胞、腸管上皮細胞などが挙げられる。中胚葉由来の細胞としては、心筋細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、血液細胞、骨細胞、軟骨細胞、腎前駆細胞、腎上皮細胞などが挙げられる。なお体細胞には最終分化した成熟細胞だけでなく、最終分化に至っていない分化途中の細胞も含まれる。この中、本発明組成物は、神経細胞、心筋細胞、または肝細胞の分化誘導に用いることが好ましい。
【0075】
ここで体細胞が心筋細胞の場合、かかる心筋細胞とは、自己拍動の特性を有する心筋の細胞を意味する。また、心筋細胞は心筋前駆細胞を含んでもよく、拍動筋肉と電気伝導組織を形成する心筋細胞および血管平滑筋を生じる能力を有する細胞を含みうる。当該心筋細胞および心筋前駆細胞は互いに混在していてもよく、また、単離された心筋前駆細胞でもよい。
【0076】
心筋細胞および心筋前駆細胞は、例えば、心筋マーカーである心筋トロポニン(cTNTまたはtroponin T type 2)やαアクチニン2(ACTN2)、αMHC(α myosin heavy chain)、GATA4、CXCR4、Flk1、ANPの発現量を調べることで当該細胞に誘導されたかどうか知ることができる。当該心筋細胞は、他の細胞種と比して心筋細胞の割合を多く含有した細胞集団であってもよく、30%以上あるいは50%以上が心筋細胞である細胞集団であることが好ましい。
【0077】
2.3 本発明組成物の形態
本発明組成物は、少なくとも本発明ペプチドが含まれていればよく、その他任意の適当な成分を含むことができる。
具体的には、本発明組成物として、例えば、細胞培養用の培地(液体培地、固体培地)を挙げることができる。例えば、一般的な培地であるMEM(最少必須培地)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、DMEM/F12、またはこれらを改変した培地に、本発明ペプチドを添加して本発明組成物とすることができる。本発明組成物としての培地には、所望に応じて、血清、タンパク質(アルブミン、トランスフェリン、成長因子等)、アミノ酸、糖類、ビタミン類、脂肪酸類、抗生物質、その他目的とする体細胞の分化誘導に有効な物質(例、液性因子)等を添加してもよい。
【0078】
本発明組成物は、また、本発明ペプチドを含む体細胞分化誘導(促進)用キットであってもよい。本発明のキットは、本発明ペプチドに加えて別の分化誘導用の液性因子を含んでもよい。本発明ペプチドと別の分化誘導用の液性因子は、別々の容器に保存されていても、同一の容器に保存されていてもよい。
【0079】
本発明組成物は、本発明ペプチドをその分化誘導活性が失われない状態で保持し得る限りにおいて、使用形態に応じて医薬上許容され得る種々の担体を含み得る。希釈剤、賦形剤等としてペプチド医薬において一般的に使用される担体が好ましい。本発明組成物の用途や形態に応じて適宜異なり得るが、典型的には、水、生理学的緩衝液、種々の有機溶媒が挙げられる。適当な濃度のアルコール(エタノール等)水溶液、グリセロール、オリーブ油のような不乾性油であり得る。またリポソームであってもよい。あるいは本発明組成物に含有させ得る他の成分としては、種々の充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、色素、香料、抗生剤等が挙げられる。あるいは他の公知の細胞分化誘導因子を含有してもよい。本発明ペプチドと他の細胞分化誘導因子(レチノイン酸、アクチビン、bFGF、VEGF、BMP4等)を併用することにより、細胞分化誘導を促進(増強)することができる。
【0080】
本発明組成物の形態について特に制限はない。例えば、溶液状、懸濁状、半固形状、固形状、ゲル状を挙げることができる。典型的な形態として、例えば、液剤、懸濁剤、乳剤、エアロゾル、泡沫剤、顆粒剤、粉末剤、錠剤、カプセル、軟膏、水性ジェル剤等が挙げられる。また、注射剤等に用いるため、使用直前に生理食塩水または適当な緩衝液(例えばPBS)等に溶解して薬液を調製するための凍結乾燥物、造粒物とすることもできる。
なお、本発明ペプチド(主成分)および種々の担体(副成分)を材料にして種々の形態の薬剤(組成物)を調製するプロセス自体は従来公知の方法に準ずればよい。
【0081】
3 本発明に係る体細胞の製造方法
本発明として、また、FGF受容体に対し結合性を有する合成ペプチド(以下、「FGFR結合ペプチド」という。)を含む液性因子を多能性幹細胞の胚葉体に作用させる工程を含む、体細胞の製造方法(以下、「本発明製造方法」という。)を挙げることができる。
【0082】
上記FGFR結合ペプチドとしては、適当な実験結果に基づきFGF受容体に対し結合性を有すると当業者が判断するものであれば特に制限されない。FGF受容体の中、FGFR1および/またはFGFR3に結合性を有するペプチドが好ましい。FGF受容体への結合性については、例えば、表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance:SPR)やELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)で確認することができる。
【0083】
当該FGFR結合ペプチドは、50以下のアミノ酸残基からなるものが適当であり、30~50ないし40~50のアミノ酸残基からなるものが好ましい。また、下記の配列番号50のアミノ酸配列を分子構造上に有するものがより好ましい。
【0084】
【化7】
【0085】
具体的な当該FGFR結合ペプチドとしては、例えば、本発明ペプチド、P3、C19、Dekafin1を挙げることができる。
【0086】
FGFR結合ペプチドは、例えば、次のようにして取得することができる。適当なファージミドベクター(例、pComb3、pCANTAB5E、pSEX)を用いて、ファージ表層提示ペプチドライブラリーを作製する。次いで、得られたファージ表層提示ライブラリーをヒトFc断片と混合し、Fcに対するネガティブセレクションを行う。この操作により、ファージライブラリーの中でFcに結合するファージを除くことができる。その後、ファージライブラリーをFGFR1(FGF受容体1)-Fcに作用し、結合ファージを回収する。回収したファージからファージミドDNAを抽出し、ファージミドDNAの網羅的解析を行う。得られたクローンのアミノ酸配列からFmoc固相合成法などに基づきペプチドを合成する。合成したペプチドについて、上記表面プラズモン共鳴法、ELISAといった技術を用いて結合活性を測定し、その測定結果に基づき目的とするFGFR結合ペプチドを取得することができる。
【0087】
本発明製造方法において用いることができる、FGFR結合ペプチド以外の液性因子としては、対象とする未分化細胞種や目的(製造したい分化細胞の種類)などによって異なるが、例えば、骨形成タンパク質2(BMP2: Bone Morphogenetic Protein-2)、骨形成タンパク質4(BMP4: Bone Morphogenetic Protein-4)、骨形成タンパク質7(BMP7)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF:basic Fibroblast Growth Factor、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)とも称する)、線維芽細胞増殖因子4(FGF4:Fibroblast Growth Factor 4)、線維芽細胞増殖因子8(FGF8)、線維芽細胞増殖因子10(FGF10)、肝細胞増殖因子(HGF: Hepatocyte Growth Factor)、血小板由来増殖因子BB(PDGF-BB:Platelet-Derived Growth Factor-BB)、Wnt3aタンパク質(Wnt3a)、ソニック・ヘッジホッグ(Shh: Sonic Hedgehog)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF:Vascular Endothelial Growth Factor)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β:Transforming Growth Factor-β)、アクチビンA(Activin A)、オンコスタチンM(OSM:Oncostatin M)、ケラチノサイト成長因子(KGF:Keratinocyte Growth Factor、線維芽細胞増殖因子7(FGF7)とも称する)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF:Glial-Cell Derived Neurotrophic Factor)、IWP-3(CAS No.687561-60-0)、トランスフェリン、上皮増殖因子(EGF;Epidermal Growth Factor)などが挙げられる。これらの液性因子は、培地に添加したものでもよく、培養中の細胞から分泌されたものでもよい。当該液性因子は1種類でも、2種類以上でもよい。
【0088】
また、生体内(インビボ)で未分化細胞(例えば所定の部位に移植したiPS細胞、ES細胞その他の幹細胞)を分化誘導させる場合においては、本発明組成物(本発明ペプチド)の適当量を例えば液剤として患部(即ち生体内)に所望量供給することができる。あるいは、錠剤等の固体形態のものや軟膏等のゲル状もしくは水性ジェリー状のものを患部(例えば火傷や創傷のような体表面)に投与することができる。これにより、生体内で、典型的には患部またはその周辺に存在する分化させたい目的の未分化細胞(幹細胞等)の分化誘導効率を向上(促進)させることができる。なお、添加量および添加回数は、分化誘導させたい細胞の種類、存在部位などの条件によって異なり得るため特に限定されない。
【0089】
本発明組成物(本発明ペプチド)を生体内の必要な部位に投与することにより、その分化誘導活性によって、神経再生能力、血管新生能力、皮膚再生能力、臓器再生能力等の向上を実現することができる。また、目的の細胞種や器官(臓器)への分化が促進されることにより、例えば、皮膚組織の改善、移植臓器の早期定着、交通事故その他の物理的障害による創傷部や火傷部の早期修復を実現することができる。また、例えば、パーキンソン病、脳梗塞、アルツハイマー病、脊髄損傷による身体の麻痺、脳挫傷、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、脳腫瘍、網膜変性症等の神経疾患を再生医療的アプローチによって治療することに資する薬剤組成物として使用することができる。
【0090】
さらに、材料とする幹細胞(iPS細胞やES細胞)の培養細胞株から目的の分化細胞(延いては分化した組織や器官)を効率よく生産することができる。即ち、ここで開示される生産方法(インビトロでの分化細胞または該分化細胞からなる組織体の生産方法)を採用することによって生体外(インビトロ)で効率よく生産した目的の分化細胞(あるいは該分化細胞から成る組織や器官)を、修復や再生が必要とされる患部に(即ち患者の生体内に)導入することにより、当該修復や再生を効果的に行うことができる。
【0091】
本発明製造方法は、FGFR結合ペプチドを含む液性因子を前記多能性幹細胞の胚葉体に作用させる工程を含み、所望の体細胞の種類などに応じた分化誘導プロトコルに従って、常法により実施することができる。当該分化誘導は、通常、細胞を培養することにより行われるが、かかる培養方法としては、例えば、接着培養法、浮遊培養法、懸濁培養法などから、多能性幹細胞から分化誘導される所望の細胞(例えば、心筋細胞)に従って、適宜選択される。
【0092】
本発明製造方法により製造しうる体細胞としては、例えば、前記した体細胞を挙げることができる。この中、本発明製造方法により中胚葉系細胞、特に心筋細胞を製造する場合には、FGFR結合ペプチドとして本発明ペプチドを用いることが好ましい。
【0093】
例えば、本発明製造方法で得られた体細胞が心筋細胞の場合、当該心筋細胞は、動物(好ましくはヒト)の心疾患の治療剤として用いることができる。心疾患の治療方法として、例えば、得られた心筋細胞を生理食塩水等に懸濁させ、患者の心臓の心筋層へ直接投与してもよく、あるいは得られた心筋細胞をシート化して、患者の心臓に貼付することによって行われてもよい。前者の場合、細胞単体で投与してもよく、好ましくは、生着を促すような足場材と共に投与され得る。ここで「足場材」とは、コラーゲンなどの生体由来の成分やこれに代替するポリ乳酸などの合成ポリマーが例示されるが、これらに限定されない。心筋シートを投与する場合、所望の部分を覆うように配置することによって達成される。ここで、所望の部分を覆うように配置することは、当該分野において周知技術を用いて行うことができる。配置に際し、所望の部分が大きい場合は、組織を取り巻くように配置してもよい。また、投与は、所望の効果を得るため、同部分へ数回の配置を行うこともできる。数回の配置を行う場合、所望の細胞が組織へ生着し、血管新生を行うために十分な時間をおいて行うことが望ましい。
【0094】
このような心疾患の治療の機序は、心筋シートの生着により生じる効果であってもよく、あるいは細胞の生着によらない間接的な作用(例えば、誘引物質を分泌することによるレシピエント由来細胞の損傷部位への動員による効果)であってもよい。心疾患の治療において、心筋シートを用いる場合には、心筋細胞に加えて、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン等の細胞足場材料(スキャホールド)を含んでいてもよい。あるいは、心筋細胞の他に、任意の細胞種(複数も可)を含んでいることも可能である。本発明において治療され得る心疾患は、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症、拡張型心筋症などの疾患または障害による欠損等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0095】
本発明において、心疾患の治療に用いられる心筋細胞の細胞数は、投与される心筋細胞もしくは心筋シートが心疾患の治療において効果を発揮するような量であれば特に限定されるものではなく、患部の大きさや体躯の大きさに合わせて適宜増減して調製されてもよい。
【0096】
4 本発明に係る、多能性幹細胞から体細胞への分化誘導方法
本発明として、また、FGFR結合ペプチドを含む液性因子を多能性幹細胞の胚葉体に作用させる工程を含む、多能性幹細胞から体細胞への分化誘導方法(以下、「本発明分化誘導方法」という。)を挙げることができる。
【0097】
上記FGFR結合ペプチドとしては、前記と同様のものを挙げることができる。また、FGFR結合ペプチド以外の液性因子や多能性幹細胞、体細胞などの用語の概念は前記と同義である。
本発明分化誘導方法は、FGFR結合ペプチドを含む液性因子を用いること以外は、常法により実施することができる。即ち、所望の体細胞の種類などに応じた分化誘導プロトコルに従って、適切な時期にFGFR結合ペプチドを含む液性因子を多能性幹細胞の胚葉体に作用させることにより本発明分化誘導方法を実施することができる。
【0098】
本発明分化誘導方法は、具体的には、例えば、多能性幹細胞から心筋細胞へ分化誘導する場合、図1(プロトコル2、5~9)に示す分化誘導プロトコルに従って実施することができる。図1の中、プロトコル1は、従来技術である特許文献1における心筋細胞の分化誘導プロトコル(従来プロトコル)を表す。
図1に示す通り、従来プロトコルでは、誘導開始1日後にアクチビンA、BMP4、およびbFGFといった液性因子を多能性幹細胞に作用させるのに対して、本発明分化誘導方法では、その中のBMP4とbFGFとを必ずしも必要とせず、本発明ペプチドとアクチビンAのみで心筋細胞への分化誘導を可能とする。それ故、本発明分化誘導方法は、BMP4やbFGFといった高価なタンパク質を用いず、比較的安価な中分子の本発明ペプチドを用いて効率的に体細胞へ分化誘導することができる。
【0099】
また、本発明分化誘導方法では、誘導開始1日後に、従来プロトコルと同様に、bFGFなど他の液性因子を加えて実施することができる。そうすることで一般に、体細胞への誘導をより効率的に行うことができる。
より具体的には、本発明分化誘導方法(特に心筋細胞へ分化誘導する方法)は、例えば、下記の工程を含みうる。
【0100】
(1)多能性幹細胞から胚様体を形成する工程
コロニーを形成した多能性幹細胞を解離して単細胞にしたのちに胚様体を形成することが好ましい。多能性幹細胞を解離させる工程においては、互いに接着して集団を形成している細胞を個々の細胞に解離(分離)させる。多能性幹細胞を解離させる方法としては、例えば、力学的に解離する方法、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(例えば、Accutase(TM)およびAccumax(TM)など)またはコラゲナーゼ活性のみを有する解離溶液を用いた解離方法が挙げられる。好ましくは、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(特に好ましくは、Accumax)を用いて多能性幹細胞を解離する方法が用いられる。
【0101】
胚様体を形成する方法として、解離した多能性幹細胞を、培養皿の表面を細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、マトリゲル(商品名)等の細胞外マトリックス、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチンによるコーティング処理)されていないもの、もしくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)によるコーティング処理)したものを用いて浮遊培養させることが例示できる。
心筋細胞を誘導する目的で胚様体を形成させるために好適に使用される多能性幹細胞数は、例えば、1000個から16000個であり、好ましくは2000個から8000個である。
【0102】
(2)胚様体を培養液中で培養する工程
本工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へ本発明ペプチド等のFGFR結合ペプチド、アクチビンAなどを添加することにより調製することができる。
【0103】
基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)、StemPro34(invitrogen)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、1-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含みうる。好ましい基礎培地は、トランスフェリン、1-チオールグリセロール、L-グルタミン、アスコルビン酸を含有するStemPro34である。
【0104】
本工程における本発明ペプチド等のFGFR結合ペプチドの濃度としては、本発明ペプチドやFGFR結合ペプチドの種類などによって異なるが、例えば、1pM~100μMの範囲内が適当であり、50pM~100nMの範囲内が好ましく、50pM~5nMの範囲内がより好ましい。
【0105】
本工程においてアクチビンAを用いる場合には、そのアクチビンAの濃度として、例えば、1ng/mL~100ng/mLの範囲内が適当であり、1ng/mL~50ng/mLの範囲内が好ましく、10ng/mL~20ng/mLの範囲内がより好ましい。
【0106】
本工程においてbFGFを用いる場合には、そのbFGFの濃度として、例えば、1ng/mL~100ng/mLの範囲内が適当であり、1ng/mL~20ng/mLの範囲内がより好ましい。
【0107】
本工程においてBMP4を用いる場合には、そのBMP4の濃度として、例えば、1ng/mL~100ng/mLの範囲内が適当であり、1ng/mL~50ng/mLの範囲内が好ましく、1ng/mL~20ng/mLの範囲内がより好ましい。
【0108】
培養条件については次の通りである。
培養温度は約30~40℃が適当であり、好ましくは約37℃であり、低酸素条件で行われることが望ましい。ここで、低酸素条件とは、大気中の酸素分圧(20%)より低い酸素分圧の条件であり、例えば、1%から15%の間の酸素分圧が挙げられる。好ましくは5%である。CO含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO濃度は、好ましくは約2~5%である。
培養期間については、例えば1日以上7日以下が挙げられ、心筋細胞の樹立効率を考慮すると1日以上5日以下、1.5日以上5日以下、2日以上4日以下が好ましい。
【0109】
(3)VEGFおよびWnt阻害剤を含有する培養液中で培養し、再凝集により胚様体を形成する工程
再凝集により胚様体を形成させるにあたり、使用する細胞数は、同細胞が互いに接着し、細胞塊を作製できる細胞数であれば、特に限定されないが1000個以上、20000個以下の細胞が適当であり、10000個が好ましい。培養に際しては、工程(1)と同様に、表面が細胞接着性を向上させる目的で人工的に処理されていない培養容器、もしくは人工的に接着を抑制する処理した培養容器を用いて浮遊培養させることが好ましい。
【0110】
本工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へVEGFおよびWnt阻害剤を添加することにより調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)、StemPro34(Invitrogen)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、1-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい基礎培地は、トランスフェリン、1-チオールグリセロール、L-グルタミン、アスコルビン酸を含有するStemPro34である。
【0111】
ここで「Wnt阻害剤」とは、Wntの受容体への結合からβカテニンの蓄積へと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるFrizzledファミリーへの結合を阻害する物質、またはβカテニンの分解を促進する物質である限り特に限定されず、例えば、DKK1タンパク質(例えば、ヒトの場合、NCBIのアクセッション番号:NM_012242)、スクレロスチン(例えば、ヒトの場合、NCBIのアクセッション番号:NM_025237)、IWR-1(Merck Millipore)、IWP-2(Sigma-Aldrich)、IWP-3(Sigma-Aldrich)、IWP-4(Sigma-Aldrich)、PNU-74654(Sigma-Aldrich)、XAV939(Sigma-Aldrich)およびこれらの誘導体などが例示される。この中、IWP-3またはIWP-4が好ましい。
【0112】
培養液中におけるIWP-3またはIWP-4などのWnt阻害剤の濃度としては、Wntを阻害する濃度であれば特に限定されないが、例えば、1nM~50μMの範囲内が適当であり、10nM~25μMの範囲内が好ましく、100nM~10μMの範囲内がより好ましい。
【0113】
本工程において用いられるVEGFの濃度としては、例えば、1ng/mL~100ng/mLの範囲内が適当であり、1ng/mL~50ng/mLの範囲内が好ましく、1ng/mL~20 ng/mLの範囲内がより好ましい。
【0114】
本工程では、さらに、BMP阻害剤および/またはTGFβ阻害剤を基本培地に添加してもよい。
「BMP阻害剤」とは、Chordin、Noggin、Follistatinなどのタンパク質性阻害剤、Dorsomorphin(すなわち、6-[4-(2-piperidin-1-yl-ethoxy)phenyl]-3-pyridin-4-yl-pyrazolo[1,5-a]pyrimidine)、その誘導体、およびLDN-193189(すなわち、4-(6-(4-(piperazin-1-yl)phenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl)quinoline)が例示される。DorsomorphinおよびLDN-193189は市販されており、それぞれSigma-Aldrich社およびStemgent社から入手可能である。好ましくは、Dorsomorphinであり得る。
【0115】
培養液中におけるDorsomorphinなどのBMP阻害剤の濃度としては、BMPを阻害する濃度であれば特に限定されないが、例えば、1nM~50nMの範囲内が適当である。
【0116】
「TGFβ阻害剤」とは、TGFβの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、またはALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質である限り特に限定されず、例えば、Lefty-1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al.,Mol.Cancer,2003,2:20)、SB505124(GlaxoSmithKline)、NPC30345、SD093、SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、LY580276(Lilly Research Laboratories)、A-83-01(WO2009146408)およびこれらの誘導体を挙げることができる。好ましくは、SB431542である。
【0117】
培養液中におけるSB431542などのTGFβ阻害剤の濃度としては、ALK5を阻害する濃度であれば特に限定されないが、例えば、1nM~50nMの範囲内が適当である。
【0118】
培養条件については次の通りである。
培養温度は約30~40℃が適当であり、好ましくは約37℃であり、低酸素条件で行われることが望ましい。ここで、低酸素条件とは、大気中の酸素分圧(20%)より低い酸素分圧の条件であり、ここで、低酸素条件とは、大気中の酸素分圧(20%)より低い酸素分圧の条件であり、例えば、1%から15%の間の酸素分圧が挙げられる。好ましくは5%である。CO含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO濃度は、好ましくは約2~5%である。
培養期間は、長期間培養することにより心筋細胞の樹立に影響がでないことから、上限は特に設けられないが、4日以上培養することが好ましい。これにより、再凝集により形成された胚様体が心筋細胞に分化する。
【0119】
(4)VEGFおよびbFGFを含有する培養液中で培養する工程
本工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へVEGFおよびbFGFを添加することにより調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)、StemPro34(Invitrogen)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、1-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい基礎培地は、トランスフェリン、1-チオールグリセロール、L-グルタミン、アスコルビン酸を含有するStemPro34である。
【0120】
本工程において用いられるVEGFの濃度としては、例えば、1ng/mL~100ng/mLの範囲内が適当であり、1ng/mL~50ng/mLの範囲内が好ましく、1ng/mL~10ng/mLの範囲内がより好ましい。
【0121】
本工程において用いられるbFGFの濃度としては、例えば、1ng/mL~100ng/mLの範囲内が適当であり、1ng/mL~50ng/mLの範囲内が好ましく、1ng/mL~10ng/mLの範囲内がより好ましい。
【0122】
培養条件については次の通りである。
培養温度は約30~40℃が適当であり、好ましくは約37℃であり、低酸素条件で行われることが望ましい。ここで、低酸素条件とは、大気中の酸素分圧(20%)より低い酸素分圧の条件であり、ここで、低酸素条件とは、大気中の酸素分圧(20%)より低い酸素分圧の条件であり、例えば、1%から15%の間の酸素分圧が挙げられる。好ましくは5%である。CO含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO濃度は、好ましくは約2~5%である。
培養期間は、長期間培養することにより心筋細胞の樹立に影響がでないことから、上限は特に設けられないが、12日以上培養することが好ましい。工程(3)で得られた細胞をさらに工程(4)に従って培養することにより、心筋細胞への分化効率が向上する。
【実施例
【0123】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0124】
[実施例1]本発明ペプチドの合成
(1)ファージ表層提示ペプチドライブラリーの作製
まず、ファージミドベクター pComb3(Barbas, C. et al., Assembly of Combinatorial Antibody Libraries on Phage Surfaces: The Gene III Site., Proc. National Acad. Sci., 88, 7978-7982 (1991), Fujii, I. et al., Evolving Catalytic Antibodies in a Phage-Displayed Combinatorial Library., Nat. Biotechnol. 16, 463-467 (1998)参照)を用いて、7つのファージ表層提示ペプチドライブラリー(ΔPTA-10RC、ΔPTA-12RC-1、ΔPTA-12RC-2、ΔPTA-20RC、ΔPTA-6R-Loop11-C、MFLIV-8R-ΔPTA-8RC-1、MFLIV-8R-ΔPTA-8RC-2)を作製した(図2)。当該ライブラリーを構成するペプチド鎖はそれぞれ下記表4に示すアミノ酸配列を有する。
【0125】
【表4】
【0126】
これらのペプチド鎖は公知である配列(AELAALEAELAALEGGGGGGGKLAALKAKLAALKA;配列番号51)からなるペプチドYT-1のアミノ酸配列を元にして構成された。表中のアミノ酸Xは、HLH(ヘリックス-ループ-ヘリックス)構造を構成するそれぞれ14アミノ酸残基からなる2本のα-ヘリックスにおいて、立体構造の保持に関与しないとされるアミノ酸であり、任意のアミノ酸に置換され得る。また、ライブラリーを構成する各ペプチド鎖はN末端側のα-ヘリックスのN末端に付加された2つのペプチドCAと、C末端側のα-ヘリックスのC末端に付加された1つのアミノ酸Cを有する。なお表4中ΔPTA-6R-Loop11-Cは、YT-1のアミノ酸のループ部分を伸長し、ランダム化したアミノ酸配列である。
【0127】
(2)バイオパンニング
上記で得られたファージ表層提示ライブラリーを混合し、FGFR1(FGF受容体1)-Fcキメラに対するバイオパンニングを行った。まず、ネガティブセレクションとして、200μlのPBS(pH7.4)に1012cfuのペプチド提示ファージをhIgG Fcを固定化したプレートに作用し、hIgG Fcに結合しないファージを回収した。回収したファージライブラリーを100nMのFGFR溶液と混合し、4℃で終夜反応させた(表5:Panning Round1)。
【0128】
【表5】
【0129】
反応後、プロテインAが修飾された磁気ビーズで結合性ファージを捕え、PBS-Tで3回洗浄後、結合ファージをGly-HCl(pH2.0)で溶出した。これを2M Trisで中和し、大腸菌へ感染させた。4時間培養したのち、ヘルパーファージを加え、一晩かけて大腸菌にファージを産生させた。次にこの培養上清からファージ溶液を調製した。調製したファージ溶液を、FGFR溶液と混合し、4℃で終夜反応させた(表5:Panning Round2)。反応後、結合ファージを溶出した。同様に調製したファージ溶液を、FGFR溶液と混合し、4℃で1時間反応させた(表5:Panning Round3)。反応後、結合ファージを溶出した。この操作をさらに2回繰り返し、Panning Round5の後に、結合ファージを溶出した。なお、ラウンドを重ねるにつれて、PBS-Tによる洗浄回数を増やした(表5)。また、各ラウンドのOutputファージの力価(タイター)を求めた。ファージの力価は、ファージと接触させた大腸菌TG1株を、37℃一晩培養することで得られたコロニー数から求めた。その結果を表5の右端に示した。
【0130】
(3)アミノ酸配列の決定
図3<Input phage(Round5)>に示す通り、パンニング後に溶出したファージライブラリーをHuman IgG Fcを固定化したプレートに作用し、結合しないファージを回収することでネガティブセレクションを実施した。その後、ファージライブラリーを100nM、 10nM、1nMの各濃度に調製したFGFR1に作用した。そして結合ファージを回収した。回収したファージのファージミドDNAを抽出し、Illumina社のMiseq用プロトコルに従ってサンプル調製し、ファージミドDNAの網羅的解析を実施した。得られた配列のうち、配列出現割合が高い配列を23種類選別した(表6)。
【0131】
【表6】
【0132】
(4)ペプチドの合成とFGF受容体への結合性確認
上記で得られたクローンのアミノ酸配列から1種を選定し、100nX(Xは9:配列番号9、以下同じ。)のペプチドを合成した。Fmoc固相合成法に基づき合成した。ペプチドの結合活性を測定するためにSPR装置Biacore T200(GE Healthcare社)の操作マニュアルに従い、装置のセンサーチップCM5に、アミンカップリング法を用いてFGFR1をリガンドとして固定化した。また、他種のFGFRに結合するか確認するため、FGFR2、FGFR3を固定化したセンサーチップを合わせて用意した。リファレンスとしてエタノールアミンを固定化し、サンプルをアナライトとして測定を行った。
【0133】
測定は全て25℃で行い、ランニングバッファーにはHBS-EP+を使用した。ペプチドを溶解したランニングバッファーを、各種FGFRを固定化したセンサーチップCM5へインジェクト(流速30μl/min、2分間)した後、ランニングバッファーを3分間流して、ペプチドを解離させた。得られたセンサーグラムに直接反応式をカーブフィッティングさせ、非線形最小二乗法により速度定数を算出した。解離定数はBiacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare社)を用いたカイネティクス解析により算出した。解析には1:1 bindingモデルを使用した。その結果を図4に示す。
図4に示す通り、100nXは、FGFRに対して高い結合性を有することが確認された。
【0134】
[実施例2]iPS細胞から心筋細胞への分化誘導(HBD-100nXの評価)
次に、ヘパラン硫酸結合ペプチドWQPPRARIG(配列番号49)を100nXに融合したペプチド(HBD-100nX)を合成し、iPS細胞から心筋細胞への分化誘導系に適用することを試みた。iPS細胞は、「iPS cell-KAC、hFB(N)」(KAC社、製品番号;IPS-F001)(以下、iPS-hFB)を使用した。まず、分化誘導開始時(Day0)において、分化誘導開始の7日前(Day-7)に100φディッシュに播種したiPS-hFBを、4mlのPBSで洗浄した。0.5xTrypLE Selectを3ml添加し、37℃で3分間静置した。細胞が球状になったことを確認し、0.5xTrypLE Selectを除去した。さらに4mlのPBSで洗浄し、分化誘導用培地(1% L-Glutamine(invitrogen)、150μg/mL Transferrin(Roche)、50μg/mL Ascorbic Acid(sigma)、3.9×10-3%MTG(1-Thyoglycerol)(sigma)、10μM Rock inhibitor(Y-27632、Wako)、5% matrigel(Corning)、および2ng/mL BMP4(R&D)を添加したSTEMPRO34(invitrogen))を4ml添加した。その後、セルスクレーパーで細胞を剥離し、ピペッティングで細胞を単離した。細胞数を測定し、8000個/wellとなるように96well丸底プレートに播種し、37℃・5%CO条件下で培養した。
【0135】
翌日(Day1)、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、 50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、10ng/mL BMP4、5ng/mL bFGF(R&D)および6ng/mL Activin A(R&D)を添加したSTEMPRO34を100μl/wellで添加した(従来プロトコル;図1、プロトコル1)。
【0136】
一方、ペプチドサンプル作用群では、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、0.05μMもしくは0.5μM HBD-100nX、および6ng/mL Activin A(R&D)を添加したSTEMPRO34を100μl/wellで添加した(本発明分化誘導方法;図1、プロトコル2)。さらに、対照群として、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、 10ng/mL BMP4、および6ng/mL Activin A(R&D)を添加したSTEMPRO 34を100μl/wellで添加した群(図1、プロトコル3)、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、 3.9×10-3%MTG、および6ng/mL Activin A(R&D)を添加したSTEMPRO34を100μl/wellで添加した群(図1、プロトコル4)を用意した。その後、3日間、37℃・5%CO条件下で培養した。
【0137】
続いて(Day4)、得られたEBを200gで3分間遠心分離し、培地を除去した。PBSを添加し、200gで3分間遠心し上清を除去した。Accumaxを添加し37℃で5分静置後、 ピペティングによりシングルセルに解離し、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、 10ng/mL VEGFおよび1μM IWP-3を添加したSTEMPRO34(Day4心筋誘導用培地)を2ml添加し、200gで3分間遠心後に上清を除去した。Day4心筋誘導培地用で細胞を懸濁し、細胞数を測定した後、10000個/wellで96well丸底プレートに播種した。そして、37℃・5%CO条件下で、4日間培養した。
【0138】
続いて(Day8)、96wellプレートから24wellプレートに細胞塊をまとめて移動し(1wellあたり細胞塊8個以下)、細胞塊を自然沈降させてから培地を除去し1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、10ng/mL VEGFおよび5ng/mL bFGFを添加したSTEMPRO34(Day8心筋誘導用培地)を添加し、細胞を自然沈降させ上清を除去した。Day8心筋誘導用培地を添加後、37℃・5%CO条件下で培養した。この際、2日に1度同じ条件の培地に交換した。
【0139】
培養後、得られた細胞を評価したところ、プロトコル1もしくは3では、Day16~Day22で細胞塊の一部が弱く拍動していた、あるいは拍動が認められなかったのに対し、プロトコル2では、Day16~Day22に細胞塊の全体が拍動し、80%以上の細胞塊が拍動していた。
【0140】
また、心筋細胞に分化しているかを確認するため、Day23で定量リアルタイムPCR(RT-qPCR)により、心筋マーカーであるcTNTおよびActininの発現量を調べた。具体的には、total RNAをQIAGEN Rneasy Kit(キアゲン)により回収し、RNAをcDNA Reverse Transcription Kit(サーモサイエンティフィック社製)により逆転写することでcDNAを調製した。得られたcDNAから、cTNT、Actininを特異的に増幅するプライマーとそれぞれの遺伝子に特異的に結合するプローブを用いて、TaqManPCR法によるリアルタイムPCRを実施した。内部標準コントロールとしては、GAPDH量を計測した。その結果を図5に示す。
【0141】
図5に示す通り、本発明ペプチド(HBD-100nX)を使用したプロトコル2では、cTNTおよびACTN2の発現量が従来のプロトコル1(Day1;ActivinA、BMP4、bFGFの3種類添加)、および対照のプロトコル3(Day1;ActivinAのみ)、プロトコル4(Day1;ActivinA、BMP4の2種類添加)と比較して有意に増加した。また、ペプチド濃度依存的に遺伝子発現量が増加することが示された。
【0142】
さらに、Day23にActininを免疫染色することで、心筋細胞特異的なサルコメア構造が認められるか観察した。具体的には、Day23の細胞塊をコラゲナーゼ処理およびAccumax処理でシングルセルにし、フィブロネクチンをコーティングした24wellプレートに10000cells/wellで播種した。翌日、細胞を4%パラホルムアルデヒド溶液で固定化し、0.1% Triton-X/PBSで透過処理した。その後、5% Donkey Serum、1%BSA含有PBSでブロッキング処理した。0.01%Triton-X/PBSで洗浄後、mouse anti-Actinin抗体(Sigma)を添加し、室温で60分間反応した。その後、0.01%Triton-X/PBSで洗浄し、Alexa594修飾Anti-mouse抗体(abcam)を添加し、室温で60分間反応し、キーエンスBZ-X810で細胞の蛍光を観察した。その結果を図6および図7に示す。
【0143】
図6、7に示す通り、本発明ペプチド(HBD-100nX)を使用したプロトコルでは、顕著なサルコメア構造が認められ、高機能な心筋細胞が形成されていることが観察された。
【0144】
[実施例3]iPS細胞から心筋細胞への分化誘導(100nX-Dimerの評価)
次に、100nXを二量体化したペプチド(100nX-Dimer)について評価した。対照として、本発明ペプチドの単量体(100nX-Monomer)を用いた。
【0145】
実施例2と同様に心筋細胞の分化誘導を実施し、Day1で使用する培地を次のように変更した。ペプチドサンプル作用群では、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、0.05μM 100nX-Dimerもしくは100nX-Monomer、および6ng/mL Activin A(R&D)を添加したSTEMPRO34を使用した(本発明分化誘導方法;図1、プロトコル5、6)。
【0146】
培養後、得られた細胞を評価したところ、プロトコル5では、Day11で細胞塊の拍動が認められたのに対し、プロトコル6では、Day16以降に拍動が認められた。また、心筋細胞に分化しているかを確認するため、Day23で、定量リアルタイムPCR(RT-qPCR)により、心筋マーカーであるcTNTおよびActininの発現量を調べた。具体的には、total RNAをQIAGEN Rneasy Kit(キアゲン)により回収し、RNAをcDNA Reverse Transcription Kit(サーモサイエンティフィック社製)により逆転写することでcDNAを調製した。得られたcDNAから、cTNT、Actininを特異的に増幅するプライマーとそれぞれの遺伝子に特異的に結合するプローブを用いて、TaqManPCR法によるリアルタイムPCRを実施した。内部標準コントロールとしては、GAPDH量を計測した。その結果を図8に示す。
【0147】
図8に示す通り、本発明ペプチド(100nX-Dimer)を使用したプロトコル5では、cTNTおよびACTN2の発現量が従来のプロトコル1(Day1;ActivinA、BMP4、bFGFの3種類添加)、および対照のプロトコル3(Day1;ActivinAのみ)、プロトコル4(Day1;ActivinA、BMP4の2種類添加)、あるいはプロトコル6と比較して有意に増加した。
【0148】
[実施例4]iPS細胞から心筋細胞への分化誘導(ペプチドサンプルとbFGFを混合した条件の評価)
次に、本発明ペプチドとbFGFを同時に作用する手法について評価した。
【0149】
実施例2と同様に心筋分化誘導を実施し、Day1で使用する培地を次のように変更した。ペプチドサンプル作用群では、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、5ng/mL bFGF、0.05-5μM HBD-100nXもしくは5μM 100nX-Dimerもしくは5μM 100nX-Monomer、および6ng/mL Activin A(R&D)を添加したSTEMPRO34を使用した(本発明分化誘導方法;図1、プロトコル7、8、9)。さらに、対照群として、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、5ng/mL bFGFおよび6ng/mL Activin A(R&D)を添加したSTEMPRO34を添加した群(図1、プロトコル10)を用意した。
【0150】
培養後、得られた細胞を評価したところ、いずれのプロトコル7、8、9、10でも、Day10~Day11以降に細胞塊の拍動が認められ、群間で拍動の様子に差異は認められなかった。一方で、心筋細胞に分化しているかを確認するため、Day23で、定量リアルタイムPCR(RT-qPCR)により、心筋マーカーであるcTNTおよびActininの発現量を調べた。具体的には、total RNAをQIAGEN Rneasy Kit(キアゲン)により回収し、RNAをcDNA Reverse Transcription Kit(サーモサイエンティフィック社製)により逆転写することでcDNAを調製した。得られたcDNAから、cTNT、Actininを特異的に増幅するプライマーとそれぞれの遺伝子に特異的に結合するプローブを用いて、TaqManPCR法によるリアルタイムPCRを実施した。内部標準コントロールとしては、45S rRNA量を計測した。その結果を図9および図10に示す。
【0151】
図9図10に示す通り、本発明ペプチド(HBD-100nX)をbFGFと合わせて使用した際、cTNTおよびACTN2の発現量がペプチド濃度依存的に上昇した。また、本発明ペプチド(HBD-100nX、100nX-Dimer、100nX-Monomer)のいずれも従来のプロトコル1と比較して遺伝子発現量が有意に上昇し、HBD-100nXが最も高い値を示した。
【0152】
したがって、100nXはbFGFと組み合わせて使用することで、心筋細胞への分化誘導を促進する、または心筋の成熟化を促進する可能性が示された。
【0153】
[実施例5]ファージ表層提示ペプチドライブラリーの作製
まず、ファージミドベクターpComb3(Barbas, C. et al., Assembly of Combinatorial Antibody Libraries on Phage Surfaces: The Gene III Site., Proc. National Acad. Sci., 88, 7978-7982 (1991), Fujii, I. et al., Evolving Catalytic Antibodies in a Phage-Displayed Combinatorial Library., Nat. Biotechnol. 16, 463-467 (1998)参照)を用いて、6つのファージ表層提示ペプチドライブラリーを作製した。当該ライブラリーを構成するペプチド鎖はそれぞれ表7に示すアミノ酸配列を有する。これらのペプチド鎖は公知である配列(AELAALEAELAALEGGGGGGGKLAALKKLAALK;配列番号51)からなるペプチドYT-1のアミノ酸配列を元にして構成された。表中のアミノ酸Xは、HLH(ヘリックス-ループ-ヘリックス)構造を構成するそれぞれ14アミノ酸残基からなる2本のα-ヘリックスにおいて、立体構造の保持に関与しないとされるアミノ酸であり、任意のアミノ酸に置換され得る。また、ライブラリーを構成する各ペプチド鎖はN末端側のα-ヘリックスのN末端に付加された2つのペプチドCAと、C末端側のα-ヘリックスのC末端に付加された1つのアミノ酸Cを有する。なお表7中ΔPTA-6R-Loop11-Cは、YT-1のアミノ酸のループ部分を伸長し、ランダム化したアミノ酸配列である。
【0154】
【表7】
【0155】
[実施例6]酵母表層提示ペプチドライブラリーの作製
酵母発現用プラスミドpYD11-BxXN(Ramanayake Mudiyanselage T. M. R. et al., An Immune-Stimulatory Helix-Loop-Helix Peptide: Selective Inhibition of CTLA-4-B7 Interaction, ACS Chem. Biol., 15, 360-368 (2020)参照)を用いて、6つの酵母表層提示ペプチドライブラリーを作製した。当該ライブラリーを構成するペプチド鎖はそれぞれ表8に示すアミノ酸配列を有する。これらのペプチド鎖は公知である配列(AELAALEAELAALEGGGGGGGKLAALKKLAALK;配列番号51)からなるペプチドYT-1のアミノ酸配列を元にして構成された。表中のアミノ酸XおよびZは、HLH(ヘリックス-ループ-ヘリックス)構造を構成するそれぞれ14アミノ酸残基からなる2本のα-ヘリックスにおいて、立体構造の保持に関与しないとされるアミノ酸であり、NDK、NNK、BNSのいずれかの3塩基により指定された任意のアミノ酸である。また、ライブラリーを構成する各ペプチド鎖はN末端側のα-ヘリックスのN末端に付加された2つのペプチドCAと、C末端側のα-ヘリックスのC末端に付加された2つのアミノ酸ACを有する。なお表7中ΔPTA-6R-Loop11-C、 ΔIKMNT-Loop11-C、 ΔPTA-6R-ΔIKMNT-Loop11Cは、YT-1のアミノ酸のループ部分を伸長し、ランダム化したアミノ酸配列である。
【0156】
【表8】
【0157】
[実施例7]FGFR3結合ペプチド取得のためのバイオパンニング
実施例5で得られたファージ表層提示ライブラリーを混合し、FGFR3(FGF受容体3)-Fcキメラに対するバイオパンニングを行った。まず、ネガティブセレクションとして、200μLのPBS(pH7.4)に1012cfuのペプチド提示ファージをhIgG Fcを固定化したプレートに作用させ、hIgG Fcに結合しないファージを回収した。回収したファージライブラリーを100nMのFGFR3溶液と混合し、4℃で終夜反応させた(表9.Panning Round1)。反応後、プロテインAが修飾された磁気ビーズで結合性ファージを捕え、 PBS-Tで3回洗浄後、結合ファージをGly-HCl(pH 2.0)で溶出した。これを2M Trisで中和し、大腸菌(TG1株)へ感染させた。4時間培養した後、 ヘルパーファージを加え、 一晩かけて大腸菌(TG1株)にファージを産生させた。次にこの培養上清からファージ溶液を調製した。調製したファージ溶液を、FGFR3溶液と混合し、4℃で終夜反応させた(表9.Panning Round2)。反応後、結合ファージを溶出した。同様に調製したファージ溶液を、FGFR3溶液と混合し、4℃で1時間反応させた(表9.Panning Round3)。反応後、結合ファージを溶出した。この操作をさらに繰り返し、Panning Round4の後に、結合ファージを溶出した。なお、ラウンドを重ねるにつれて、PBS-Tによる洗浄回数を増やした(表9)。また、各ラウンドのOutputファージの力価(タイター)を求めた。ファージの力価は、ファージと接触させた大腸菌TG1株を、37℃一晩培養することで得られたコロニー数から求めた。その結果を表9の右端に示した。
【0158】
【表9】
【0159】
[実施例8]FGFR2結合ペプチド取得のためのバイオパンニング
磁気細胞分離(Magnetic-activated cell sorting:MACS)により、実施例で得られた酵母表層提示ライブラリーから、FGFR2(FGF受容体2)に結合する酵母クローンをスクリーニングした。まず、 酵母表層提示ペプチドライブラリーとFGFR2-Fc融合タンパク質を混合した後、Fc部分と結合するProteinAを標識した磁気ビーズを加えた。その後、 磁気スタンドに備え付けたLSカラムにチャージした。FGFR2に結合していない酵母細胞を除くために、7mLのPBSMを2回にわたってLSカラムに流した。そして、LSカラムを磁気スタンドから取り外し、SDCAA培地を流すことで、FGFR2結合性酵母クローンを回収し、培養した。上記の操作を1ラウンドとし、合計3ラウンド実施した(表10)。次にMACSで回収した酵母からFACS(Fluorescence-activated cell sorting)を用いて、結合活性の高い酵母クローンをスクリーニングした。酵母ライブラリーにFGFR2-Fcとマウス抗FLAG抗体を結合させ、その後、抗マウスIgG-Alexa488と抗ヒトFc抗体-Alexa647を結合させた。HLHペプチドのC末端にはFLAGタグが発現しているので、Alexa488の蛍光強度よりペプチドの提示量を検出できる。また、Alexa647の蛍光強度よりFGFR2への結合を検出できる。そこで、Alexa488とAlexa647の蛍光強度の高い酵母クローンをFACS cell sorter(BD FACS AriaIII)で回収した。
【0160】
【表10】
【0161】
[実施例9]アミノ酸配列の決定
実施例7のパンニング後に溶出したファージライブラリ(表9、Output phage(Round4))をHuman IgG Fcを固定化したプレートに作用し、結合しないファージを回収することでネガティブセレクションを実施した。その後、ファージライブラリを100nM、10nM、1nMの各濃度に調製したFGFR3に作用した(図3)。そして結合ファージを回収した。回収したファージのゲノムDNAを抽出し、Illumina社のMiseq用プロトコルに従ってサンプル調製し、ファージゲノムDNAの網羅的解析を実施した。得られた配列のうち、配列出現割合が高い配列を20種類選別した(表11)。実施例8のスクリーニングで獲得した酵母細胞をSDCAA寒天プレートに播種し、培養した。寒天プレート上に形成したシングルコロニーを無作為に14つ選択し、それぞれのクローンについてサンガー法を用いて酵母発現プラスミドに組み込まれているペプチドのDNA配列を解析した(表12)。
【0162】
【表11】
【0163】
【表12】
【0164】
[実施例10]ペプチドの合成とFGF受容体への結合確認
実施例8で得られたクローンのアミノ酸配列から1種を選定し、ペプチド(F3-100nX)をFmoc固相合成法に基づき合成した。SPR装置Biacore T200(BIACORE社)の操作マニュアルに従い、装置のセンサーチップCM5に、 アミンカップリング法を用いてFGFR1、FGFR2、FGFR3をリガンドとして固定化した。リファレンスとしてエタノールアミンを固定化し、ペプチドをアナライトとして測定を行った。測定は全て25℃で行い、ランニングバッファーにはTBSを使用した。ランニングバッファーに溶解したペプチドを、各種FGFRを固定化したセンサーチップCM5へインジェクト(流速30μL/min、2分間)した後、ランニングバッファーを3分間流して、ペプチドを解離させた。解離定数はBiacore T200 Evaluation Software(BIACORE社)を用いたカイネティクス解析により算出した。得られたセンサーグラムに直接反応式をカーブフィッティングさせ、非線形最小二乗法により速度定数を算出した。解析には1:1 bindingモデルを使用した。結果を図11に示した。
【0165】
[実施例11]FGFR1およびFGFR3に結合するペプチド(100nX)
100nXは、実施例1と同様のペプチドを調製して実験に使用した(表6)。
【0166】
[実施例12]iPS細胞から心筋への分化誘導(HBD-100nX、HBD-YX、HBD-F3-100nXの評価)
ヘパラン硫酸結合ペプチドWQPPRARIG(配列番号49)を100nX、YX、F3-100nXに融合したペプチド(HBD-100nX、HBD-YX、HBD-F3-100nX)を合成し、iPS細胞から心筋細胞への分化誘導系に適用することを試みた。iPS細胞は、「iPS cell-KAC、hFB(N)」(KAC社、製品番号;IPS-F001)(以下、iPS-hFB)を使用した。まず、分化誘導開始時(day0)において、分化誘導の7日前(day-7)に100φディッシュに播種したiPS-hFBを、4mLのPBSで洗浄した。0.5xTrypLE Selectを3mL添加し、37℃で3分間静置した。細胞が球状になったことを確認し、0.5xTrypLE Selectを除去した。 さらに4mLのPBSで洗浄し、分化誘導用培地(1% L-Glutamine(invitrogen)、150μg/mL Transferrin(Roche)、50μg/mL Ascorbic Acid(sigma)、3.9×10-3%MTG (1-Thyoglycerol)(sigma)、10μM Rock inhibitor(Y-27632、Wako)、5% matrigel (Corning)、および2ng/mL BMP4(R&D)を添加したSTEMPRO 34(invitrogen))を4mL添加した。その後、セルスクレーパーで細胞を剥離し、ピペッティングで細胞を単離した。細胞数を測定し、8000個/wellとなるように96well丸底プレートに播種し、37℃・5%CO条件下で培養した。翌日(day1)、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、10ng/mL BMP4、5ng/mL bFGF(R&D)および6ng/mL Activin A(R&D)を添加したSTEMPRO 34を100μl/wellで添加した(従来プロトコル;図12、プロトコル1)。一方、ペプチドサンプル作用群では、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、10ng/mL BMP4、0.0005、0.005、0.05、0.5μM HBD-100nX、HBD-YX、HBD-F3-100n9(配列番号27)および6ng/mL Activin A(R&D)を添加したSTEMPRO 34を100μL/wellで添加した(本発明プロトコル;図12、プロトコル2、3、4)。その後、3日間、37℃・5%CO条件下で培養した。続いて(day4)、 得られたEBを200gで3分間遠心分離し、培地を除去した。PBSを添加し、200g、3分間遠心し上清を除去した。Accumaxを添加し37℃で5分静置後、 ピペティングによりシングルセルに解離し、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、10ng/mL VEGFおよび1μM IWP-3を添加したSTEMPRO 34(心筋誘導培地Day4)を2mL添加し、200gで3分間遠心後に上清を除去した。 心筋誘導培地Day4で細胞を懸濁し、細胞数を測定した後、10000個/wellで96well丸底プレートに播種した。そして、37℃・5%CO条件下で、4日間培養した。続いて(day8)、96 wellプレートから24 wellプレートに細胞塊をまとめて移動し(1wellあたり細胞塊8個以下)、細胞塊を自然沈降させてから培地を除去し1% L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG、10ng/mL VEGFおよび5ng/mL bFGFを添加したSTEMPRO 34(心筋誘導培地Day8)を添加し、細胞を自然沈降させ上清を除去した。心筋誘導培地Day8を添加後、37℃・5%CO条件下で培養した。この際、2日に1度同じ条件の培地に交換した。培養後、心筋細胞に分化しているかを確認するため、Day23で定量リアルタイムPCR(RT-qPCR)により、心筋マーカーであるcTNTおよびActininの発現量を調べた(図13)。具体的には、total RNAをQIAGEN Rneasy Kit(キアゲン)により回収し、RNAをcDNA Reverse Transcription Kit(サーモサイエンティフィック)により逆転写することでcDNAを調製した。得られたcDNAから、cTNT、Actininを特異的に増幅するプライマーとそれぞれの遺伝子に特異的に結合するプローブを用いて、TaqManPCR法によるリアルタイムPCRを実施した。内部標準コントロールとしては、GAPDH量を計測した。その結果、本発明のペプチド(HBD-100nX、HBD-YX、HBD-F3-100n9(配列番号27))を使用したプロトコル2、3、4では、cTNTおよびACTN2の発現量が添加ペプチドの種類によって効果を発揮する濃度に違いは認められるものの、従来のプロトコル1(Day1;ActivinA、BMP4、bFGFの3種類添加)と比較して有意に増加した。HBD-100nX、HBD-YXは、ペプチド濃度依存的に遺伝子発現量が増加することが示された。HBD-F3-100n9(配列番号27)は、原因は不明であるが、他のペプチド添加条件とは異なる傾向を示した。
【0167】
[実施例13]iPS細胞から肝細胞への分化誘導(100nXの評価)
iPS細胞から肝細胞への分化誘導系に100nXを適用することを試みた。iPS細胞は、「iPS cell-KAC、hFB(N)」(KAC社、製品番号;IPS-F001)(以下、iPS-hFB)を使用した。分化誘導の7日前(day-7)に100φディッシュに播種したiPS-hFBを、4mLのPBSで洗浄した。0.5xTrypLE Selectを3mL添加し、37℃で3分間静置した。細胞が球状になったことを確認し、0.5xTrypLE Selectを除去した。 さらに4mLのPBSで洗浄し、4mLのStemFitを添加後、セルスクレーパーで剥離しピペッティングで細胞をシングルセルに単離した。その後、1.5×10cells/wellで6wellプレートに播種した。分化誘導開始日(Day0)に、培地を除去し、分化誘導用培地(B-27 Plus Supplement(Thermo)、100 ng/mL Activin A(R&D)を添加したRPMI1640(Thermo))を2mL/wellで添加した。同様の培地を使用してDay3に培地を交換した。Day5で培地を除去し、B-27 Plus Supplement(Thermo)、20ng/mL BMP4、20ng/mL bFGFを添加したRPMI1640を2 mL/wellで添加した(従来プロトコル;図14、プロトコル1)。一方、ペプチドサンプル作用群では、B-27 Plus Supplement(Thermo)、20ng/mL BMP4、0.1nM HBD-100nXもしくは100nX-monomerを添加したRPMI1640を2mL/wellで添加した(従来プロトコル;図14、プロトコル3、4)。さらに、対照群として、B-27 Plus Supplement(Thermo)、20ng/mL BMP4を添加したRPMI1640を2 mL/wellで添加した(従来プロトコル;図14、プロトコル2)。同様の培地を使用してDay8に培地を交換した。全ての条件においてDay10で培地を除去し、B-27 Plus Supplement(Thermo)、20 ng/mL HGFを添加したRPMI1640を2 mL/wellで添加した。同様の培地を使用してDay12およびDay14に培地を交換した。Day15にHCM BulletKit(Lonza)(HBM、Ascorbic Acid、BSA-FAF、 Hydrocortisone、Transferin、GA-1000、Insulinを含有)を用いて、2mL/wellで培地交換した。Day17およびDay18に同様の培地で培地交換した。培養後、肝細胞に分化しているかを確認するため、Day20で定量リアルタイムPCR(RT-qPCR)により、肝マーカーであるAlbumin(ALB)、CYP3A4および胆管マーカーであるITGB4の発現量を調べた(図15)。具体的には、total RNAをQIAGEN Rneasy Kit(キアゲン)により回収し、RNAをcDNA Reverse Transcription Kit(サーモサイエンティフィック)により逆転写することでcDNAを調製した。得られたcDNAから、ALB、CYP3A4、ITGB4を特異的に増幅するプライマーとそれぞれの遺伝子に特異的に結合するプローブを用いて、TaqManPCR法によるリアルタイムPCRを実施した。内部標準コントロールとしては、GAPDH量を計測した。その結果、本発明のペプチド(100nX-monomer)を使用したプロトコル4では、ALBの発現量が従来のプロトコル1(Day5;BMP4、bFGFの2種類添加)、および対照のプロトコル2(Day5;BMP4添加)と比較して有意に増加した。また、CYP3A4およびITGB4の遺伝子発現量が対照のプロトコル2(Day5;BMP4添加)と比較して有意に増加し、従来のプロトコル1(Day5;BMP4、bFGFの2種類添加)と同程度であった。以上から、100nX-monomerは従来のbFGFと同等以上に肝分化を促進することが示された。
【0168】
[実施例14]100nXを使用して分化誘導した肝細胞の機能評価
実施例13と同様の手法でiPS細胞を分化誘導し、Day20においてPBSで細胞を洗浄後、3μMルシフェリン-IPAを含んだHCM BulletKit(Lonza)を用いて1mL/wellで培地交換した。37℃で1時間反応後、上清100μLを96wellホワイトプレートに移した後、Luciferin Detection Reagentを100μL/wellで添加した。室温で20分間反応し、発光値を測定した。また、細胞を破砕し、TaKaRa BCA Protein Assay Kit(タカラバイオ)を用いてタンパク質を定量し、発光値を補正した。その結果、CYP3A4活性は対照のプロトコル2(Day5;BMP4添加)と比較して有意に増加し、従来のプロトコル1(Day5;BMP4、bFGFの2種類添加)と同程度の活性を示した。以上から、100nX-monomerはbFGFと同程度のレベルで肝機能に寄与することが示された(図16)。
【0169】
[実施例15]iPS細胞から神経細胞への分化誘導(100nXの評価)
iPS細胞から神経細胞への分化誘導系に100nXを適用することを試みた。iPS細胞は、「iPS cell-KAC、hFB(N)」(KAC社、製品番号;IPS-F001)(以下、iPS-hFB)を使用した。まず、分化誘導開始時(day0)において、分化誘導の7日前(day-7)に100φディッシュに播種したiPS-hFBを、4mLのPBSで洗浄した。0.5xTrypLE Selectを3mL添加し、37℃で3分間静置した。細胞が球状になったことを確認し、0.5xTrypLE Selectを除去した。 さらに4mLのPBSで洗浄し、分化誘導用培地(20% KSR(Thermo)、1xNEAA(Thermo)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(和光純薬)、1mMピルビン酸ナトリウム(Thermo)、20μM Y27632(和光純薬)、3μM IWR-1-endo(和光純薬)、5μM SB431542(和光純薬)を添加したG-MEM(Thermo)を4mL添加した。その後、セルスクレーパーで細胞を剥離し、ピペッティングで細胞を単離した。細胞数を測定し、9000個/wellとなるように96well丸底プレートに播種し、37℃・5%CO条件下で培養した。Day3において、20% KSR(Thermo)、1xNEAA(Thermo)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(和光純薬)、1mMピルビン酸ナトリウム(Thermo)、20μM Y27632(和光純薬)、3μM IWR-1-endo(和光純薬)、5μM SB431542(和光純薬)、0.3nM bFGFを含むG-MEMを100μl/wellで添加した(従来プロトコル;図17、プロトコル1)。 一方、ペプチドサンプル作用群では、20% KSR(Thermo)、1xNEAA(Thermo)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(和光純薬)、1mM ピルビン酸ナトリウム(Thermo)、20μM Y27632(和光純薬)、3μM IWR-1-endo(和光純薬)、5μM SB431542(和光純薬)、0.25nM HBD-100nXもしくは100nX-monomerを含むG-MEMを100 μL/wellで添加した(図14、プロトコル3、4)。対照群として、20% KSR(Thermo)、1xNEAA(Thermo)、0.1 mM 2-メルカプトエタノール(和光純薬)、1mM ピルビン酸ナトリウム(Thermo)、20μM Y27632(和光純薬)、3μM IWR-1-endo(和光純薬)、5μM SB431542(和光純薬)を含むG-MEMを100 μL/wellで添加した群を用意した((図14、プロトコル2)。Day6において、Y27632(和光純薬)を除いた各条件の培地に100μl/wellで全量交換した。同様に、Day10およびDay14で培地交換した。Day18で培地を除去し、1% N-2 Supplement、1% Chemically Defined Lipid Concentrateを含むDMEM/F12(GlutaMax)(Thermo)を添加した細胞をEZSPHERE(AGCテクノグラス)に2 mL/wellで移動した。Day21、24、27で1% N-2 Supplementを含むDMEM/F12(GlutaMax)(Thermo)で培地交換した。さらに、Day30およびDay33に1% N-2 Supplement、1% Chemically Defined Lipid Concentrateを含むDMEM/F12(GlutaMax)(Thermo)で培地交換した。培養後、神経細胞に分化しているかを確認するため、Day35で定量リアルタイムPCR(RT-qPCR)により、神経マーカーであるSYN1、MAP2、Nr2f1の発現量を調べた(図18)。具体的には、total RNAをQIAGEN Rneasy Kit(キアゲン)により回収し、RNAをcDNA Reverse Transcription Kit(サーモサイエンティフィック)により逆転写することでcDNAを調製した。得られたcDNAから、SYN1、MAP2、Nr2f1を特異的に増幅するプライマーとそれぞれの遺伝子に特異的に結合するプローブを用いて、TaqManPCR法によるリアルタイムPCRを実施した。内部標準コントロールとしては、GAPDH量を計測した。その結果、本発明のペプチド(HBD-100nX)を使用したプロトコル3では、Nr2f1の遺伝子発現量が従来のプロトコル1(Day3;bFGF添加)、および対照のプロトコル2(Day3;bFGF非添加)と比較して有意に増加した。また、SYN1およびMAP2の遺伝子発現量が対照のプロトコル2(Day3;bFGF非添加)と比較して有意に増加し、従来のプロトコル1(Day3;bFGF添加)と同程度であった。また、本発明のペプチド(100nX-monomer)を使用したプロトコル4では、いずれの遺伝子においても対照のプロトコル2(Day3;bFGF非添加)と比較して遺伝子発現量が増加する傾向を示した。なかでもNr2f1の遺伝子発現量は対照のプロトコル2(Day3;bFGF非添加)と比較して有意に増加し、従来のプロトコル1(Day3;bFGF添加)と同程度であった。以上から、HBD-100nXは従来のbFGFと同等以上に神経分化を促進すること、100nX-monomerは従来のbFGFと同程度に神経分化に寄与することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明は、細胞を分化する、または細胞の分化を促進する細胞研究用材料として有用である。また、再生医療のための組織構築、薬物スクリーニング用細胞の調製などにおいても有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0171】
配列番号1:N末端から3番目のアミノ酸残基であるXaaは、Ala、Arg、Gln、Val、Leu、Lys、Phe、またはHisを表す。
配列番号1:N末端から4番目のアミノ酸残基であるXaaは、GluまたはHisを表す。
配列番号1:N末端から6番目のアミノ酸残基であるXaaは、Ala、Gln、Val、Tyr、Arg、Leu、またはGluを表す。
配列番号1:N末端から7番目のアミノ酸残基であるXaaは、AlaまたはSerを表す。
配列番号1:N末端から9番目のアミノ酸残基であるXaaは、Glu、Leu、His、Arg、Gly、またはLysを表す。
配列番号1:N末端から10番目のアミノ酸残基であるXaaは、Ala、Lys、Met、Arg、Gly、またはTyrを表す。
配列番号1:N末端から11番目のアミノ酸残基であるXaaは、GluまたはAspを表す。
配列番号1:N末端から13番目のアミノ酸残基であるXaaは、Ala、Gln、Arg、Tyr、Glu、Lys、またはGlyを表す。
配列番号1:N末端から14番目のアミノ酸残基であるXaaは、AlaまたはIleを表す。
配列番号1:N末端から16番目のアミノ酸残基であるXaaは、Glu、Gly、Tyr、Gln、Arg、Lys、またはMetを表す。
配列番号1:N末端から18番目のアミノ酸残基であるXaaは、Phe、Ala、Gln、Val、Gly、Ile、Asn、Arg、Met、Asp、Leu、Ser、Pro、Lys、またはGluを表す。
配列番号1:N末端から19番目のアミノ酸残基であるXaaは、Gly、Val、Lys、Thr、Pro、Arg、Met、Asn、Glu、Asp、Ser、Cys、Trp、His、またはAlaを表す。
配列番号1:N末端から20番目のアミノ酸残基であるXaaは、Gly、Arg、Glu、Phe、Ala、Lys、Pro、Asn、Leu、Val、Met、Asp、His、Thr、またはTyrを表す。
配列番号1:N末端から21番目のアミノ酸残基であるXaaは、Val、Asp、Leu、Met、Ser、Thr、Ala、Asn、His、Gly、Phe、Glu、Arg、Pro、Tyr、またはLysを表す。
配列番号1:N末端から22番目のアミノ酸残基であるXaaは、Val、Lys、Tyr、Thr、Asn、Gly、Asp、Glu、Pro、Phe、Gln、His、またはIleを表す。
配列番号1:N末端から23番目のアミノ酸残基であるXaaは、Tyr、Arg、His、Leu、Pro、Asn、Glu、Met、Ala、Gly、Val、Ile、またはSerを表す。
配列番号1:N末端から24番目のアミノ酸残基であるXaaは、Ser、Lys、Met、Gly、His、Gln、Thr、Val、Cys、Leu、Asn、Ala、Glu、Pro、またはArgを表す。
配列番号1:N末端から25番目のアミノ酸残基であるXaaは、Cys、Ser、Ala、Thr、Arg、Glu、Asn、Gln、Gly、Lys、Tyr、Pro、Leu、Val、またはMetを表す。
配列番号1:N末端から26番目のアミノ酸残基であるXaaは、Glu、Lys、Ser、Val、Leu、Arg、Gly、Ile、Phe、Thr、Ala、His、Gln、Asn、Met、またはTyrを表す。
配列番号1:N末端から27番目のアミノ酸残基であるXaaは、TrpまたはGlyを表す。
配列番号1:N末端から28番目のアミノ酸残基であるXaaは、Gln、Lys、Phe、またはHisを表す。
配列番号1:N末端から29番目のアミノ酸残基であるXaaは、AlaまたはLeuを表す。
配列番号1:N末端から30番目のアミノ酸残基であるXaaは、Val、Met、Asp、Tyr、Lys、Leu、Ile、Arg、Ser、Gln、Gly、Glu、His、Phe、Asn、またはAlaを表す。
配列番号1:N末端から31番目のアミノ酸残基であるXaaは、Tyr、Met、Arg、Ser、Lys、His、Gly、Leu、Asn、Glu、Val、Asp、またはAlaを表す。
配列番号1:N末端から33番目のアミノ酸残基であるXaaは、His、Phe、Tyr、Lys、Ile、Gln、Met、またはValを表す。
配列番号1:N末端から34番目のアミノ酸残基であるXaaは、Tyr、Trp、Gly、Leu、Asn、Asp、Gln、Glu、Met、Phe、Arg、His、Ser、Lys、Val、またはIleを表す。
配列番号1:N末端から35番目のアミノ酸残基であるXaaは、Lys、Arg、またはGlnを表す。
配列番号1:N末端から37番目のアミノ酸残基であるXaaは、Met、Glu、Trp、Val、His、Ser、Asn、Ile、Gln、Tyr、Gly、Leu、Arg、Phe、またはAlaを表す。
配列番号1:N末端から38番目のアミノ酸残基であるXaaは、Arg、Leu、Val、Ser、His、Tyr、Phe、Asn、Lys、Gln、Trp、Glu、Ile、Gly、またはAlaを表す。
配列番号1:N末端から40番目のアミノ酸残基であるXaaは、Phe、Arg、Asp、Gln、Met、Lys、Leu、またはHisを表す。
配列番号1:N末端から41番目のアミノ酸残基であるXaaは、Gln、Gly、Tyr、Arg、Asn、Ile、Ser、His、Glu、Met、Leu、Asp、Cys、Trp、Val、またはPheを表す。
【0172】
配列番号2:N末端から18番目のアミノ酸残基であるXaaは、Phe、Ala、Gln、Val、Gly、Ile、Asn、Arg、Met、Asp、Leu、Ser、Pro、Lys、またはGluを表す。
配列番号2:N末端から19番目のアミノ酸残基であるXaaは、Gly、Val、Lys、Thr、Pro、Arg、Met、Asn、Glu、Asp、Ser、Cys、Trp、His、またはAlaを表す。
配列番号2:N末端から20番目のアミノ酸残基であるXaaは、Gly、Arg、Glu、Phe、Ala、Lys、Pro、Asn、Leu、Val、Met、Asp、His、Thr、またはTyrを表す。
配列番号2:N末端から21番目のアミノ酸残基であるXaaは、Val、Asp、Leu、Met、Ser、Thr、Ala、Asn、His、Gly、Phe、Glu、Arg、Pro、Tyr、またはLysを表す。
配列番号2:N末端から22番目のアミノ酸残基であるXaaは、Val、Lys、Tyr、Thr、Asn、Gly、Asp、Glu、Pro、Phe、Gln、His、またはIleを表す。
配列番号2:N末端から23番目のアミノ酸残基であるXaaは、Tyr、Arg、His、Leu、Pro、Asn、Glu、Met、Ala、Gly、Val、またはIleを表す。
配列番号2:N末端から24番目のアミノ酸残基であるXaaは、Ser、Lys、Met、Gly、His、Gln、Thr、Val、Cys、Leu、Asn、Ala、Glu、またはArgを表す。
配列番号2:N末端から25番目のアミノ酸残基であるXaaは、Cys、Ser、Ala、Thr、Arg、Glu、Asn、Gln、Gly、Lys、Tyr、Pro、Leu、Val、またはMetを表す。
配列番号2:N末端から26番目のアミノ酸残基であるXaaは、Glu、Lys、Ser、Val、Leu、Arg、Gly、Ile、Phe、Thr、Ala、His、Gln、Asn、Met、またはTyrを表す。
配列番号2:N末端から27番目のアミノ酸残基であるXaaは、TrpまたはGlyを表す。
配列番号2:N末端から28番目のアミノ酸残基であるXaaは、GlnまたはLysを表す。
配列番号2:N末端から29番目のアミノ酸残基であるXaaは、AlaまたはLeuを表す。
配列番号2:N末端から30番目のアミノ酸残基であるXaaは、Val、Met、Asp、Tyr、Lys、Leu、Ile、Arg、Ser、Gln、Gly、またはGluを表す。
配列番号2:N末端から31番目のアミノ酸残基であるXaaは、Tyr、Met、Arg、Ser、Lys、His、Gly、Leu、Asn、Glu、またはValを表す。
配列番号2:N末端から34番目のアミノ酸残基であるXaaは、Tyr、Trp、Gly、Leu、Asn、Asp、Gln、Glu、Met、Phe、Arg、His、Ser、Lys、またはValを表す。
配列番号2:N末端から35番目のアミノ酸残基であるXaaは、LysまたはArgを表す。
配列番号2:N末端から37番目のアミノ酸残基であるXaaは、Met、Glu、Trp、Val、His、Ser、Asn、Ile、Gln、Tyr、Gly、Leu、またはArgを表す。
配列番号2:N末端から38番目のアミノ酸残基であるXaaは、Arg、Leu、Val、Ser、His、Tyr、Phe、Asn、Lys、Gln、Trp、Glu、Ile、またはGlyを表す。
配列番号2:N末端から41番目のアミノ酸残基であるXaaは、Gln、Gly、Tyr、Arg、Asn、Ile、Ser、His、Glu、Met、Leu、Asp、Cys、Trp、またはValを表す。
【0173】
配列番号3:N末端から3番目のアミノ酸残基であるXaaは、Ala、Arg、Gln、Val、Leu、Lys、Phe、またはHisを表す。
配列番号3:N末端から4番目のアミノ酸残基であるXaaは、GluまたはHisを表す。
配列番号3:N末端から6番目のアミノ酸残基であるXaaは、Ala、Gln、Val、Tyr、Arg、Leu、またはGluを表す。
配列番号3:N末端から7番目のアミノ酸残基であるXaaは、AlaまたはSerを表す。
配列番号3:N末端から9番目のアミノ酸残基であるXaaは、Glu、Leu、His、Arg、Gly、またはLysを表す。
配列番号3:N末端から10番目のアミノ酸残基であるXaaは、Ala、Lys、Met、Arg、Gly、またはTyrを表す。
配列番号3:N末端から11番目のアミノ酸残基であるXaaは、GluまたはAspを表す。
配列番号3:N末端から13番目のアミノ酸残基であるXaaは、Ala、Gln、Arg、Tyr、Glu、Lys、またはGlyを表す。
配列番号3:N末端から14番目のアミノ酸残基であるXaaは、AlaまたはIleを表す。
配列番号3:N末端から16番目のアミノ酸残基であるXaaは、Glu、Gly、Tyr、Gln、Arg、Lys、またはMetを表す。
配列番号3:N末端から18番目のアミノ酸残基であるXaaは、GlyまたはProを表す。
配列番号3:N末端から19番目のアミノ酸残基であるXaaは、Gly、Pro、Asp、またはSerを表す。
配列番号3:N末端から20番目のアミノ酸残基であるXaaは、GlyまたはArgを表す。
配列番号3:N末端から21番目のアミノ酸残基であるXaaは、Val、Gly、またはProを表す。
配列番号3:N末端から22番目のアミノ酸残基であるXaaは、GlyまたはHisを表す。
配列番号3:N末端から23番目のアミノ酸残基であるXaaは、Leu、Gly、またはSerを表す。
配列番号3:N末端から24番目のアミノ酸残基であるXaaは、ProまたはArgを表す。
配列番号3:N末端から25番目のアミノ酸残基であるXaaは、ArgまたはProを表す。
配列番号3:N末端から26番目のアミノ酸残基であるXaaは、LeuまたはArgを表す。
配列番号3:N末端から27番目のアミノ酸残基であるXaaは、Glyを表す。
配列番号3:N末端から28番目のアミノ酸残基であるXaaは、Lys、Phe、またはHisを表す。
配列番号3:N末端から30番目のアミノ酸残基であるXaaは、Met、Tyr、Leu、Arg、Gln、Gly、His、Phe、Asn、またはAlaを表す。
配列番号3:N末端から31番目のアミノ酸残基であるXaaは、Arg、Leu、Asn、Asp、またはAlaを表す。
配列番号3:N末端から33番目のアミノ酸残基であるXaaは、His、Phe、Tyr、Lys、Gln、Met、またはValを表す。
配列番号3:N末端から34番目のアミノ酸残基であるXaaは、Tyr、Leu、Phe、Arg、Val、またはIleを表す。
配列番号3:N末端から35番目のアミノ酸残基であるXaaは、LysまたはGlnを表す。
配列番号3:N末端から37番目のアミノ酸残基であるXaaは、His、Tyr、Leu、Phe、またはAlaを表す。
配列番号3:N末端から38番目のアミノ酸残基であるXaaは、Leu、Asn、Glu、Gly、またはAlaを表す。
配列番号3:N末端から40番目のアミノ酸残基であるXaaは、Phe、Arg、Asp、Gln、Met、Lys、Leu、またはHisを表す。
配列番号3:N末端から41番目のアミノ酸残基であるXaaは、Gly、Asn、Ile、His、Leu、Trp、Val、またはPheを表す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
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【配列表】
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