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特許7540645有機ハイドライド製造装置および膜電極接合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】有機ハイドライド製造装置および膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/25 20210101AFI20240820BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240820BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240820BHJP
   C25B 11/02 20210101ALI20240820BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20240820BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240820BHJP
【FI】
C25B3/25
C25B9/00 G
C25B9/23
C25B11/02 301
C25B11/032
C25B11/052
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020093355
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021188085
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2020年電気化学会第87回大会 講演要旨集、https://confit.atlas.jp/guide/event/ecsj2020s/proceedings/list(掲載アドレス)、令和2年3月10日(掲載日) [刊行物等] 2020年電気化学会第87回大会 Web討論会(集会名)、令和2年3月17~19日(開催日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST)「固体高分子電解質電解技術に基づく革新的反応プロセスの構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】高村 徹
(72)【発明者】
【氏名】三須 義竜
(72)【発明者】
【氏名】松岡 孝司
(72)【発明者】
【氏名】光島 重徳
(72)【発明者】
【氏名】長澤 兼作
(72)【発明者】
【氏名】杉田 雄也
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-072477(JP,A)
【文献】国際公開第2011/122155(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146012(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 3/25
C25B 9/00
C25B 9/23
C25B 11/02
C25B 11/052
C25B 11/032
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1面および第2面を有し、プロトンを移動させる電解質膜と、
前記電解質膜の前記第1面側に設けられるカソードと、
前記電解質膜の前記第2面側に設けられるアノードと、を備え、
前記カソードは、プロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成するカソード触媒層を有し、
前記アノードは、水を酸化してプロトンを生成し、
前記カソード触媒層は、前記電解質膜および前記カソードの積層方向に突出する複数の凸部を有し、前記カソード触媒層を構成する触媒インクが分散配置されたドット層と、前記触媒インクが連続する連続層とが圧着することで形成され、
前記複数の凸部は、裾野において互いに連結して、前記第1面の面内方向に分散配置される有機ハイドライド製造装置。
【請求項2】
前記カソード触媒層は、前記複数の凸部と、複数の凹部とが交互に配列された構造を有し、
前記積層方向における前記凹部の厚さは、前記積層方向における前記凸部の厚さの90%以下であり、前記凸部の厚さは、前記カソード触媒層において最も厚い部分の厚さであり、前記凹部の厚さは、前記カソード触媒層において最も薄い部分の厚さである請求項1に記載の有機ハイドライド製造装置。
【請求項3】
記ドット層の厚さと前記連続層の厚さとの比は、1:9~10未満:0超である請求項1または2に記載の有機ハイドライド製造装置。
【請求項4】
前記ドット層の厚さと前記連続層の厚さとの比は、1:9~5:5である請求項3に記載の有機ハイドライド製造装置。
【請求項5】
前記ドット層の厚さと前記連続層の厚さとの比は、3:7である請求項4に記載の有機ハイドライド製造装置。
【請求項6】
前記複数の凸部は、マトリクス状に配列される請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機ハイドライド製造装置。
【請求項7】
有機ハイドライド製造装置に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
前記膜電極接合体は、電解質膜およびカソードを有し、
前記カソードは、カソード触媒層を有し、
前記製造方法は、前記カソード触媒層を構成する触媒インクが分散配置されたドット層と、前記触媒インクが連続する連続層とを圧着することで、複数の凸部を有する前記カソード触媒層を形成することを含み、
前記複数の凸部は、前記電解質膜および前記カソードの積層方向に突出するとともに、裾野において互いに連結して、前記電解質膜の面内方向に分散配置される膜電極接合体の製造方法。
【請求項8】
前記カソードは、前記カソード触媒層およびカソード拡散層を有し、
前記製造方法は、
前記ドット層を前記電解質膜および前記カソード拡散層の一方に積層し、
前記連続層を前記電解質膜および前記カソード拡散層の他方に積層し、
前記電解質膜と前記カソード拡散層とを押し付けて前記ドット層と前記連続層とを圧着することを含む請求項7に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項9】
前記ドット層の厚さと前記連続層の厚さとの比は、1:9~10未満:0超である請求項7または8に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項10】
前記ドット層の厚さと前記連続層の厚さとの比は、1:9~5:5である請求項9に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項11】
前記ドット層の厚さと前記連続層の厚さとの比は、3:7である請求項10に記載の膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハイドライド製造装置および膜電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーの生成過程での二酸化炭素排出量を抑制するために、太陽光、風力、水力、地熱発電等で得られる再生可能エネルギーの利用が期待されている。一例としては、再生可能エネルギー由来の電力で水電解を行って、水素を生成するシステムが考案されている。また、再生可能エネルギー由来の水素を大規模輸送、貯蔵するためのエネルギーキャリアとして、有機ハイドライドシステムが注目されている。
【0003】
有機ハイドライドの製造技術に関して、従来、水からプロトンを生成する酸化極と、不飽和結合を有する有機化合物を水素化する還元極と、を備える有機ハイドライド製造装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この有機ハイドライド製造装置では、酸化極に水を供給し、還元極に被水素化物を供給しながら酸化極と還元極との間に電流を流すことで、被水素化物に水素が付加されて有機ハイドライドが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/091128号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上述した有機ハイドライドの製造技術について鋭意検討を重ねた結果、従来の技術には、有機ハイドライド製造装置の電流効率を向上させる余地があることを認識するに至った。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機ハイドライド製造装置の電流効率を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、有機ハイドライド製造装置である。この装置は、互いに対向する第1面および第2面を有し、プロトンを移動させる電解質膜と、電解質膜の第1面側に設けられるカソードと、電解質膜の第2面側に設けられるアノードと、を備える。カソードは、プロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成するカソード触媒層を有する。アノードは、水を酸化してプロトンを生成する。カソード触媒層は、電解質膜およびカソードの積層方向に突出する複数の凸部を有する。複数の凸部は、互いに独立して、または裾野において互いに連結して、第1面の面内方向に分散配置される。
【0008】
本発明の他の態様は、有機ハイドライド製造装置に用いられる膜電極接合体の製造方法である。膜電極接合体は、電解質膜およびカソードを有し、カソードは、カソード触媒層を有する。この製造方法は、カソード触媒層を構成する触媒インクが分散配置されたドット層と、触媒インクが連続する連続層とを圧着することで、複数の凸部を有するカソード触媒層を形成することを含む。複数の凸部は、電解質膜およびカソードの積層方向に突出するとともに、裾野において互いに連結して、電解質膜の面内方向に分散配置される。
【0009】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機ハイドライド製造装置の電流効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置の断面図である。
図2図2(A)および図2(B)は、有機ハイドライド製造装置の一部分を拡大して示す断面図である。
図3】カソード触媒層の形成方法を説明するための図である。
図4図4(A)~図4(C)は、カソード触媒層の形成に用いられるマスクの模式図である。
図5図5(A)~図5(C)は、複数の凸部の作用を説明するための模式図である。
図6】セル電圧(UiR free)と電流密度(i)との関係、および内部抵抗(R)と電流密度(i)との関係を示す図である。
図7図7(A)は、アノードの分極曲線を示す図である。図7(B)は、カソードの分極曲線を示す図である。
図8】電流密度(i)と電流効率(ε)との関係を示す図である。
図9】セル電圧(UiR free)と電流密度(i)との関係、および内部抵抗(R)と電流密度(i)との関係を示す図である。
図10図10(A)は、アノードの分極曲線を示す図である。図10(B)は、カソードの分極曲線を示す図である。
図11】電流密度(i)と電流効率(ε)との関係を示す図である。
図12】電流効率を一定とした場合のドット層の割合(rdot)と電流密度(i)との関係(実線)、ならびにドット層の割合(rdot)とカソード電位(E)との関係(破線)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
図1は、実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置の断面図である。図1では、各部の形状を簡略化して図示している。有機ハイドライド製造装置1は、被水素化物を電気化学還元反応により水素化する電解セルであり、主な構成として電解質膜2と、カソード4と、アノード6と、一対のエンドプレート8と、を備える。電解質膜2、カソード4、アノード6および一対のエンドプレート8はそれぞれ、おおよそ平板状あるいは薄膜状である。
【0014】
電解質膜2は、カソード4とアノード6との間に配置されて、アノード6側からカソード4側にプロトンを移動させる膜である。電解質膜2は、互いに対向する第1面2aおよび第2面2bを有し、第1面2aがカソード4と対向し、第2面2bがアノード6と対向する。電解質膜2は、例えばプロトン伝導性を有する固体高分子形電解質膜で構成される。固体高分子形電解質膜は、プロトンが伝導する材料であれば特に限定されないが、例えばナフィオン(登録商標)等の、スルホン酸基を有するフッ素系イオン交換膜が挙げられる。
【0015】
電解質膜2は、プロトンを選択的に伝導する一方で、カソード4とアノード6との間で物質が混合したり拡散したりすることを抑制する。電解質膜2の厚さは、特に限定されないが例えば5~300μmである。電解質膜2の厚さを5μm以上とすることで、電解質膜2の望ましい強度をより確実に得ることができる。また、電解質膜2の厚さを300μm以下とすることで、イオン移動抵抗が過大になることを抑制することができる。
【0016】
カソード4は、電解質膜2の第1面2a側に設けられる。カソード4は、カソード触媒層10と、カソード拡散層12と、を有する。カソード触媒層10は、カソード拡散層12よりも電解質膜2側に配置される。本実施の形態のカソード触媒層10は、電解質膜2の第1面2aに接している。電解質膜2の強度を増加させるために、電解質膜2に補強材を含有させてもよい。補強材を入れることで、電解質の膨潤を抑制して電解質膜2の強度が低下することを抑制することができる。
【0017】
カソード触媒層10は、プロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成する層である。カソード触媒層10は、カソード触媒として例えば白金(Pt)やルテニウム(Ru)等を有する。また、カソード触媒層10は、カソード触媒を担持する触媒担体を有する。触媒担体は、例えば多孔性カーボン、多孔性金属、多孔性金属酸化物等の電子伝導性材料で構成される。カソード触媒層10の厚さは、特に限定されないが例えば20~50μmである。カソード触媒層10の厚さを20μm以上とすることで、電解反応に必要な触媒量をより確実に得ることができる。また、カソード触媒層10の厚さを50μm以下とすることで、被水素化物の拡散性が過度に低下することを抑制することができる。
【0018】
カソード拡散層12は、外部から供給される液状の被水素化物をカソード触媒層10に均一に拡散させる層である。また、カソード触媒層10で生成される有機ハイドライドは、カソード拡散層12を介してカソード触媒層10の外部へ排出される。本実施の形態のカソード拡散層12は、カソード触媒層10の電解質膜2とは反対側の主表面に接している。
【0019】
カソード拡散層12は、カーボンや金属等の導電性材料で構成される。また、カソード拡散層12は、繊維あるいは粒子の焼結体、発泡成形体といった多孔体である。カソード拡散層12を構成する材料の具体的な例としては、カーボンの織布(カーボンクロス)、カーボンの不織布、カーボンペーパー等が挙げられる。カソード拡散層12の厚さは、特に限定されないが例えば200~700μmである。カソード拡散層12の厚さを200μm以上とすることで、被水素化物の拡散性をより確実に高めることができる。また、カソード拡散層12の厚さを700μm以下とすることで、電気的抵抗が過大になることを抑制することができる。
【0020】
アノード6は、電解質膜2の第2面2b側に設けられる。本実施の形態のアノード6は、電解質膜2の第2面2bに接している。アノード6は、アノード触媒として例えばイリジウム(Ir)やルテニウム(Ru)、白金等の金属、またはこれらの金属酸化物を有し、水を酸化してプロトンを生成する。アノード触媒は、電子伝導性を有する基材に分散担持またはコーティングされていてもよい。基材は、例えばチタン(Ti)やステンレス鋼(SUS)などの金属を主成分とする材料で構成される。また、基材の形態としては、織布や不織布のシート(繊維径:例えば10~30μm)、メッシュ(径:例えば500~1000μm)、多孔性の焼結体、発泡成型体(フォーム)、エキスパンドメタル等が例示される。
【0021】
アノード6が、基材にアノード触媒が分散担持またはコーティングされた構造を有する場合、アノード触媒および基材を含むアノード6の厚さは、特に限定されないが例えば0.05~1mmである。アノード6の厚さを0.05mm以上とすることで、電解反応に必要な触媒量をより確実に得ることができる。また、アノード6の厚さを1mm以下とすることで、被水素化物の拡散性が過度に低下することを抑制することができる。
【0022】
アノード触媒が基材にコーティングされて層をなす場合、層の厚さは、特に限定されないが例えば0.1~50μmである。また、アノード6は、電解質膜2の主表面にアノード触媒が直接コーティングされるなどして形成される層で構成されてもよい。この場合、アノード6を構成する層の厚さは、特に限定されないが例えば0.1~50μmである。これらの層の厚さを0.1μm以上とすることで、電解反応に必要な触媒量をより確実に得ることができる。また、これらの層の厚さを50μm以下とすることで、被水素化物の拡散性が過度に低下することを抑制することができる。
【0023】
一対のエンドプレート8は、例えばステンレス鋼、チタン等の金属で構成される。各エンドプレート8の厚さは、特に限定されないが例えば1~30mmである。エンドプレート8の厚さを1mm以上とすることで、加工性が著しく損なわれることを回避できる。また、エンドプレート8の厚さを30mm以下とすることで、コストの増加を抑制することができる。
【0024】
一方のエンドプレート8aは、カソード4の電解質膜2とは反対側に設置される。本実施の形態のエンドプレート8aは、カソード拡散層12の主表面に接している。有機ハイドライド製造装置1は、電解質膜2およびエンドプレート8aの間に配置される枠状のスペーサ14を有する。エンドプレート8aと、電解質膜2と、スペーサ14とによって、カソード4が収容されるカソード室が画成される。スペーサ14は、カソード液がカソード室の外へ漏洩することを防ぐシール材を兼ねる。
【0025】
カソード液は、カソード室に供給される、被水素化物および有機ハイドライドの混合液である。被水素化物は、有機ハイドライド製造装置1での電気化学還元反応により水素化されて有機ハイドライドとなる化合物、言い換えれば有機ハイドライドの脱水素化体である。被水素化物は、好ましくは20℃、1気圧で液体である。一例として、カソード液は、有機ハイドライド製造装置1の運転開始前は有機ハイドライドを含まず、運転開始後に電解によって生成された有機ハイドライドが混入することで、被水素化物と有機ハイドライドとの混合液となる。
【0026】
本実施の形態で用いられる被水素化物および有機ハイドライドは、水素化反応/脱水素反応を可逆的に起こすことにより、水素を添加/脱離できる有機化合物であれば特に限定されず、アセトン-イソプロパノール系、ベンゾキノン-ヒドロキノン系、芳香族炭化水素系等を広く用いることができる。これらの中で、エネルギー輸送時の運搬性等の観点から、芳香族炭化水素系が好ましい。
【0027】
被水素化物として用いられる芳香族炭化水素化合物は、少なくとも1つの芳香環を含む化合物であり、例えば、ベンゼン、アルキルベンゼン、ナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセン、ジフェニルエタン等が挙げられる。アルキルベンゼンには、芳香環の1~4の水素原子が炭素数1~6の直鎖アルキル基または分岐アルキル基で置換された化合物が含まれる。このような化合物としては、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン等が挙げられる。アルキルナフタレンには、芳香環の1~4の水素原子が炭素数1~6の直鎖アルキル基または分岐アルキル基で置換された化合物が含まれる。このような化合物としては、例えばメチルナフタレン等が挙げられる。これらは単独で用いられても、組み合わせて用いられてもよい。
【0028】
被水素化物は、好ましくはトルエンおよびベンゼンの少なくとも一方である。なお、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、N-アルキルピロール、N-アルキルインドール、N-アルキルジベンゾピロール等の含窒素複素環式芳香族化合物も、被水素化物として用いることができる。有機ハイドライドは、上述の被水素化物が水素化されたものであり、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、ピペリジン等が例示される。
【0029】
エンドプレート8aは、カソード拡散層12側を向く主表面に、供給流路16と、排出流路18と、を有する。本実施の形態の供給流路16および排出流路18は、エンドプレート8aの主表面に設けられた溝で構成されている。供給流路16は、カソード拡散層12の面内方向における一端側に接して、その内部にはカソード4に供給されるカソード液が流れる。排出流路18は、カソード拡散層12の面内方向における他端側に接して、その内部にはカソード4から排出されるカソード液が流れる。カソード拡散層12の面内方向とは、電解質膜2およびカソード4の積層方向に対して直交する平面の広がる方向である。
【0030】
本実施の形態では、鉛直方向におけるカソード拡散層12の下端に供給流路16が接し、カソード拡散層12の上端に排出流路18が接する。各流路は、水平方向に延びる。なお、エンドプレート8aの表面には、供給流路16と排出流路18とを連結する溝状の流路が設けられてもよい。これにより、カソード室内での被水素化体の偏流や、カソード液がカソード室内を通るときに受ける圧力損失が過大になることを抑制できる。供給流路16、排出流路18、および両流路を連結する流路の延在方向や形状は、上述したものに限らず、実施者が適宜設定することができる。
【0031】
供給流路16には、カソード液貯蔵槽(図示せず)が接続される。カソード液貯蔵槽には、カソード液が収容される。供給流路16とカソード液貯蔵槽との間には、ギアポンプやシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等で構成されるカソード液供給装置(図示せず)が設けられる。カソード液貯蔵槽に収容されたカソード液は、カソード液供給装置によって供給流路16に送られ、カソード拡散層12を介してカソード触媒層10に供給される。排出流路18は、一例としてカソード液貯蔵槽に接続される。カソード触媒層10で生成された有機ハイドライドと未反応の被水素化物とを含むカソード液は、排出流路18を介してカソード液貯蔵槽に戻される。
【0032】
他方のエンドプレート8bは、アノード6の電解質膜2とは反対側に設置される。有機ハイドライド製造装置1は、電解質膜2およびエンドプレート8bの間に配置される枠状のスペーサ20を有する。エンドプレート8bと、電解質膜2と、スペーサ20とによって、アノード6が収容されるアノード室が画成される。スペーサ20は、アノード液がアノード室の外へ漏洩することを防ぐシール材を兼ねる。アノード液は、アノード室に供給される水を含む液体である。アノード液としては、硫酸水溶液、硝酸水溶液、塩酸水溶液、純水、イオン交換水等が例示される。
【0033】
エンドプレート8bは、アノード6側を向く主表面に、供給流路22と、排出流路24と、連結流路26と、を有する。本実施の形態の供給流路22、排出流路24および連結流路26は、エンドプレート8bの主表面に設けられた溝で構成されている。供給流路22は、アノード6の面内方向における一端側に接して、その内部にはアノード6に供給されるアノード液が流れる。排出流路24は、アノード6の面内方向における他端側に接して、その内部にはアノード6から排出されるアノード液が流れる。連結流路26は、一端が供給流路22に接続され、他端が排出流路24に接続される。
【0034】
本実施の形態では、鉛直方向におけるアノード6の下端に供給流路22が接し、アノード6の上端に排出流路24が接する。供給流路22および排出流路24は水平方向に延び、連結流路26は鉛直方向に延びる。また、エンドプレート8bには複数の連結流路26が設けられ、各連結流路26は、水平方向に所定の間隔をあけて配置される。供給流路22、排出流路24および連結流路26の延在方向や形状は、上述したものに限らず、実施者が適宜設定することができる。
【0035】
なお、アノード室には、アノード6とエンドプレート8bとの間に配置されてアノード6を電解質膜2に押し当てる、電子伝導性の緩衝材が収容されてもよい。緩衝材により、電解質膜2とアノード6との間の接触抵抗を低減することができる。緩衝材は、バネ等の付勢部材でアノード6に押し付けられてもよい。また、緩衝材は、供給流路22、排出流路24および連結流路26を構成するスリットが入った流路ブロックで構成されてもよい。この場合、エンドプレート8bは、各流路を構成する溝を有しない平板で構成することができる。
【0036】
供給流路22には、アノード液貯蔵槽(図示せず)が接続される。アノード液貯蔵槽には、アノード液が収容される。供給流路22とアノード液貯蔵槽との間には、ギアポンプやシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等で構成されるアノード液供給装置(図示せず)が設けられる。アノード液貯蔵槽に収容されたアノード液は、アノード液供給装置によって供給流路22に送られ、一部は直に、他の一部は連結流路26を経由してアノード6に供給される。排出流路24は、一例としてアノード液貯蔵槽に接続される。アノード6に供給されたアノード液は、排出流路24を介してアノード液貯蔵槽に戻される。
【0037】
有機ハイドライド製造装置1には、制御部(図示せず)が接続されてもよい。制御部は、有機ハイドライド製造装置1のセル電圧(電解電圧)、または有機ハイドライド製造装置1を流れる電流を制御する。制御部は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。
【0038】
制御部には、有機ハイドライド製造装置1に設けられる電位検出部(図示せず)から、各電極の電位あるいは有機ハイドライド製造装置1のセル電圧を示す信号が入力される。各電極の電位や有機ハイドライド製造装置1のセル電圧は、公知の方法で検出することができる。一例として、参照極が電解質膜2に設けられる。参照極は、参照電極電位に保持される。例えば参照極は、可逆水素電極(RHE:Reversible Hydrogen Electrode)である。電位検出部は、参照極に対する各電極の電位を検出して、検出結果を制御部に送信する。電位検出部は、例えば公知の電圧計で構成される。
【0039】
制御部は、電位検出部の検出結果に基づいて、有機ハイドライド製造装置1の運転中に電源の出力や、カソード液供給装置およびアノード液供給装置の駆動等を制御する。有機ハイドライド製造装置1の電力源は、好ましくは太陽光、風力、水力、地熱発電等で得られる再生可能エネルギーであるが、特にこれに限定されない。
【0040】
有機ハイドライド製造装置1において、被水素化物の一例としてトルエン(TL)を用いた場合に起こる反応は、以下の通りである。被水素化物としてトルエンを用いた場合、得られる有機ハイドライドはメチルシクロヘキサン(MCH)である。
<アノードでの電極反応>
3HO→3/2O+6H+6e
<カソードでの電極反応>
TL+6H+6e→MCH
【0041】
すなわち、カソード触媒層10での電極反応と、アノード6での電極反応とが並行して進行する。そして、アノード6における水の電気分解により生じたプロトンは、電解質膜2を介してカソード触媒層10に供給される。また、水の電気分解により生じた電子は、エンドプレート8b、外部回路およびエンドプレート8aを介してカソード触媒層10に供給される。カソード触媒層10に供給されたプロトンおよび電子は、カソード触媒層10においてトルエンの水素化に用いられる。これにより、メチルシクロヘキサンが生成される。
【0042】
したがって、本実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置1によれば、水の電気分解と被水素化物の水素化反応とを1ステップで行うことができる。このため、水電解等で水素を製造するプロセスと、トルエンをプラント等のリアクタで化学水素化するプロセスとの2段階プロセスで有機ハイドライドを製造する従来技術に比べて、有機ハイドライドの製造効率を高めることができる。また、化学水素化を行うリアクタや、水電解等で製造された水素を貯留するための高圧容器等が不要であるため、大幅な設備コストの低減を図ることができる。
【0043】
なお、カソード4では、主反応であるトルエンの水素化反応とともに、副反応として以下に示す水素発生反応が生じ得る。副反応は、カソード触媒層10へのトルエンの供給量が不足する場合等に生じ得る。
<カソードで生じ得る副反応>
2H+2e→H
【0044】
続いて、本実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置1が備えるカソード触媒層10について詳細に説明する。図2(A)および図2(B)は、有機ハイドライド製造装置1の一部分を拡大して示す断面図である。図2(A)には、カソード触媒層10の一例を示す。図2(B)には、カソード触媒層10の他の一例を示す。
【0045】
カソード触媒層10は、電解質膜2およびカソード4の積層方向Xに突出する複数の凸部28を有する。図2(A)に示すように、カソード触媒層10の一例では、複数の凸部28は互いに独立して、第1面2aの面内方向に分散配置される。また、図2(B)に示すように、カソード触媒層10の他の一例では、複数の凸部28は裾野において互いに連結して、第1面2aの面内方向に分散配置される。第1面2aの面内方向とは、積層方向Xに対して直交する平面の広がる方向、言い換えれば第1面2aが広がる方向である。
【0046】
カソード触媒層10は、複数の凸部28と、複数の凹部30とが交互に配列された構造を有する。言い換えれば、カソード触媒層10は、各凸部28で構成される複数の厚層部と、各凹部30で構成される複数の薄層部と、を有する。複数の凸部28が互いに独立している場合、凹部30において第1面2aが露出する。この場合、各凸部28は、孤立部ともいう。また、各凹部30の厚さあるいは各薄層部の厚さは0である。複数の凸部28が裾野において互いに連結している場合、連結した裾野部分で凹部30が構成される。
【0047】
好ましくは、複数の凸部28は、積層方向Xから見てマトリクス状に配列される。したがって、凸部28と凹部30とは、鉛直方向および水平方向に周期的に繰り返される。また好ましくは、複数の凸部28は等間隔に配置される。前記「等間隔」は、好ましくは各凸部28の頂点が等間隔であることをいう。しかしながらこれに限らず、等間隔に並ぶ複数の仮想点に複数の凸部28が対応付けられるとともに、積層方向Xから見て各凸部28の延在範囲内に各仮想点が含まれる範囲で、各凸部28がずれて配置される場合も含めることができる。隣り合う2つの凸部28の頂点どうしの間隔、あるいは隣り合う2つの仮想点の間隔は、例えば1mm~3mmである。
【0048】
積層方向Xにおける凹部30の厚さは、好ましくは積層方向Xにおける凸部28の厚さの90%以下であり、より好ましくは凸部28の厚さの80%以下である。凸部28の厚さは、例えば複数の凸部28の厚さの平均値であり、凹部30の厚さは、例えば複数の凹部30の厚さの平均値である。また、凸部28の厚さは、カソード触媒層10において最も厚い部分の厚さとしてもよく、凹部30の厚さは、カソード触媒層10において最も薄い部分の厚さとしてもよい。
【0049】
複数の凸部28および複数の凹部30を有するカソード触媒層10は、以下に説明する方法によって形成することができる。図3は、カソード触媒層10の形成方法を説明するための図である。図4(A)~図4(C)は、カソード触媒層10の形成に用いられるマスクの模式図である。
【0050】
すなわち、図3に示すように、複数の凸部28および複数の凹部30を有するカソード触媒層10は、カソード触媒層10を構成する触媒インクが分散配置されたドット層32と、触媒インクが連続する連続層34とが圧着することで形成される。ドット層32における触媒インクの塗布部と連続層34とが重なることで凸部28が形成され、ドット層32における触媒インクの未塗布部と連続層34とが重なることで凹部30が形成される。連続層34は、実質的に均一な厚さを有する。触媒インクは、例えば、カソード触媒、触媒担体、純水、アイオノマー等の混合液である。
【0051】
例えば、ドット層32は、電解質膜2およびカソード拡散層12の一方に積層される。また、連続層34は、電解質膜2およびカソード拡散層12の他方に積層される。本実施の形態では、図3に示すように電解質膜2にドット層32を積層し、カソード拡散層12に連続層34を積層している。しかしながら、これに限らず電解質膜2に連続層34を積層し、カソード拡散層12にドット層32を積層してもよい。また、本実施の形態の各図には、凸部が第1面2aからカソード拡散層12側に突出した形状が図示されているが、凸部はカソード拡散層12の主表面から電解質膜2側に突出する場合もあり得る。つまり、複数の凸部28は、積層方向Xに突出していればよく、電解質膜2側に突出するか、カソード拡散層12側に突出するか、またはその両方である。
【0052】
ドット層32の形成には、図4(B)に示すマスクM2や、図4(C)に示すマスクM3が用いられる。マスクM2,M3には、マトリクス状に配列された複数の開口H2,H3が設けられる。マスクM2,M3は、例えばFEP等の樹脂シートに、レーザーカッター等を用いて複数の開口H2,H3を形成することで得られる。
【0053】
マスクM2に設けられる各開口H2は矩形状であり、各開口H2の2辺が鉛直方向に延び、残りの2辺が水平方向に延びている。以下では、マスクM2を用いて形成されるドット層32をスクエア型ドット層という。マスクM3に設けられる各開口H3は矩形状であり、各開口H3の一方の対角線が鉛直方向に延び、他方の対角線が水平方向に延びている。以下では、マスクM3を用いて形成されるドット層32をダイヤ型ドット層という。連続層34の形成には、図4(A)に示すマスクM1が用いられる。マスクM1は、例えばステンレス製であり、矩形状の1つの開口H1が設けられる。一例として、開口H2,H3の合計面積は、開口H1の面積の50%である。つまり、マスクM2,M3の開口率は、マスクM1の開口率の50%である。
【0054】
例えばPTFE等の樹脂シートにマスクM2,M3が積層されて、マスクM2,3を介して樹脂シートの表面に触媒インクが塗布される。これにより、複数の開口H2,H3に触媒インクが進入して、樹脂シートにドット層32が形成される。続いて、電解質膜2と、ドット層32が形成された樹脂シートとが加圧されながら押し付けられる(ホットプレス)。この結果、電解質膜2にドット層32が積層(転写)される。また、カソード拡散層12にマスクM1が積層されて、マスクM1を介してカソード拡散層12の表面に触媒インクが塗布される。これにより、開口H1に触媒インクが進入して、カソード拡散層12に連続層34が積層される。
【0055】
そして、電解質膜2とカソード拡散層12とが加熱されながら互いに押し付けられることで、ドット層32と連続層34とが圧着される。これにより、複数の凸部28と複数の凹部30とを有するカソード触媒層10が形成される。また、これにより電解質膜2およびカソード4を有する膜電極接合体36が得られる。なお、カソード拡散層12に連続層34を形成せずに、電解質膜2とカソード拡散層12とをホットプレスした場合には、複数の凸部28が互いに離間した、つまり凹部30の厚みが0であるカソード触媒層10が得られる。
【0056】
好ましくは、ドット層32の厚さと連続層34の厚さとの比は、1:9~10未満:0超である。つまり、図3におけるTは1以上10未満である。ドット層32の厚さと連続層34の厚さとの比(T:10-T)は、より好ましくは1:9~5:5であり、さらに好ましくは3:7である。ドット層32の厚さは、マスクM2,M3の厚さを変化させることで調整することができる。連続層34の厚さは、マスクM1の厚さを変化させることで調整することができる。
【0057】
図5(A)~図5(C)は、複数の凸部28の作用を説明するための模式図である。図5(A)~図5(C)には、被水素化物としてトルエンを用いた場合を例示している。図5(A)に示すように、カソード触媒層10が複数の凸部28を有せず、厚さが均一である場合、カソード触媒層10の全面でメチルシクロヘキサンの生成反応が均一に起こる。これにより、カソード拡散層12側を向くカソード触媒層10の表面にメチルシクロヘキサンが滞留しやすくなり、メチルシクロヘキサンの層Lが形成されてしまう。
【0058】
特に、アノード6の基材が緻密になるほどアノード6と電解質膜2との接触面積が増えるため、プロトンはより均一にカソード触媒層10に伝達される。例えば、アノード6の基材を、金属繊維を編んだメッシュやエキスパンドメタルで構成される基材から微細な金属繊維を焼結したウェブに変更すると、プロトンがより均一にカソード触媒層10に伝達される。これにより、カソード触媒層10におけるカソード触媒の利用率が高まるため、有機ハイドライド製造装置1のセル電圧が低減する一方で、メチルシクロヘキサンの層Lがより形成されやすくなる。
【0059】
メチルシクロヘキサンの層Lが形成されると、この層Lによってカソード触媒層10へのトルエンの供給が阻害され、カソード触媒層10へのトルエンの供給量が低下する。トルエンの供給量が不足すると、カソード触媒層10において副反応が進行し、水素が発生する。副反応の進行は、有機ハイドライド製造装置1の電流効率の低下につながる。
【0060】
これに対し、図5(B)に示すように、互いに離間した複数の凸部28でカソード触媒層10を構成することで、つまり、カソード触媒層10をドット状にすることで、カソード触媒層10の面内方向でメチルシクロヘキサンの生成を不均一にすることができる。これにより、メチルシクロヘキサンの層Lが形成されることを抑制して、カソード触媒層10へのトルエンの供給量が低下することを抑制できる。よって、副反応の進行を抑えて、有機ハイドライド製造装置1の電流効率を高めることができる。
【0061】
しかしながら、各凸部28が孤立する構造では、各凸部28にプロトンおよび電流が集中して、メチルシクロヘキサンの生成反応がより促進され得る。この場合、各凸部28でのトルエンの消費量がトルエンの供給量を上回ってトルエンの供給不足に陥り、副反応が進行してしまう。各凸部28が互いに離間した構造を有することに起因する電流効率の低下は、メチルシクロヘキサンの層Lに起因する電流効率の低下に比べて程度は小さい。このため、複数の凸部28が互いに離間した構造でも電流効率の向上効果は得られるが、さらなる改善の余地がある。
【0062】
これに対し、図5(C)に示すように、ドット層32と連続層34とを圧着して、複数の凸部28が裾野部分で連結した形状とすることで、メチルシクロヘキサンの不均一生成を維持しつつ、各凸部28への過度な電流集中を緩和して副反応の進行を抑制することができる。よって、有機ハイドライド製造装置1の電流効率をより一層向上させることができる。
【0063】
また、凹部30の厚さを凸部28の厚さの90%以下(0%超)とすることで、複数の凸部28を互いに離間させる場合よりも電流密度を高めることができる。有機ハイドライド製造装置1の電流密度を高めることで、メチルシクロヘキサンの単位時間当たりの生産量を高めることができる。あるいは、メチルシクロヘキサンの一定量の生成に必要な電極の大きさを小さくすることができる。つまり、凹部30の厚さと凸部28の厚さとの差をカソード触媒層10の厚さの10%以上とすることで、有機ハイドライド製造装置1の性能向上効果をより確実に得ることができる。
【0064】
また、凸部28の厚さと凹部30の厚さとの差を大きくしていくと、メチルシクロヘキサンの不均一な生成が助長される。一方、当該差を小さくしていくと、カソード触媒層10における電流集中が抑制される。したがって、凸部28の厚さと凹部30の厚さとのバランスを調整することで、有機ハイドライド製造装置1の性能をさらに向上させることができる。凸部28の厚さと凹部30の厚さとは、ドット層32の厚さと連続層34の厚さとの比を変化させることで調整することができる。
【0065】
具体的には、ドット層32の厚さと連続層34の厚さとの比を1:9~10未満:0超とすることで、ドット層32のみの場合よりも電流密度を高めることができる。また、ドット層32の厚さと連続層34の厚さとの比を1:9~5:5とすることで、電流密度をより高めることができる。さらに、ドット層32の厚さと連続層34の厚さとの比を3:7とすることで、電流密度を最も高めることができる。なお、ドット層32の厚さと連続層34の厚さとの比を3:7~7:3とすることで、ドット層32のみの場合に比べて電流効率をより確実に向上させることができる。
【0066】
以上説明したように、本実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置1は、互いに対向する第1面2aおよび第2面2bを有し、プロトンを移動させる電解質膜2と、電解質膜2の第1面2a側に設けられるカソード4と、電解質膜2の第2面2b側に設けられるアノード6と、を備える。カソード4は、プロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成するカソード触媒層10を有する。アノード6は、水を酸化してプロトンを生成する。カソード触媒層10は、電解質膜2およびカソード4の積層方向Xに突出する複数の凸部28を有する。複数の凸部28は、互いに独立して、または裾野において互いに連結して、第1面2aの面内方向に分散配置される。
【0067】
このように、カソード触媒層10に複数の凸部28を設けることで、カソード触媒層10の面内方向での有機ハイドライドの均一な生成を抑制することができる。これにより、カソード触媒層10への被水素化物の供給量の低下を抑制して、副反応の進行を抑制することができる。よって、本実施の形態によれば、有機ハイドライド製造装置1の電流効率を向上させることができる。
【0068】
また、本実施の形態のカソード触媒層10は、複数の凸部28と複数の凹部30とが交互に配列された構造を有し、好ましくは、積層方向Xにおける凹部30の厚さは積層方向Xにおける凸部28の厚さの90%以下である。これにより、有機ハイドライド製造装置1の電流密度をより高めることができる。
【0069】
また、本実施の形態において、複数の凸部28および複数の凹部30は、触媒インクが分散配置されたドット層32と、触媒インクが連続する連続層34とが圧着することで形成される。そして、ドット層32の厚さと連続層34の厚さとの比は、好ましくは1:9~10未満:0超であり、より好ましくは1:9~5:5であり、さらに好ましくは3:7である。これにより、有機ハイドライド製造装置1の電流密度をより高めることができる。
【0070】
また、本実施の形態において、複数の凸部28はマトリクス状に配列される。これにより、カソード触媒層10のより広い範囲で有機ハイドライド生成の不均一化を図ることができるため、電流効率の向上効果をより確実に発揮させることができる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。
【0072】
実施の形態は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[項目1]
有機ハイドライド製造装置(1)に用いられる膜電極接合体(36)の製造方法であって、
膜電極接合体(36)は、電解質膜(2)およびカソード(4)を有し、
カソード(4)は、カソード触媒層(10)を有し、
当該製造方法は、カソード触媒層(10)を構成する触媒インクが分散配置されたドット層(32)と、触媒インクが連続する連続層(34)とを圧着することで、複数の凸部(28)を有するカソード触媒層(10)を形成することを含み、
複数の凸部(28)は、電解質膜(2)およびカソード(4)の積層方向(X)に突出するとともに、裾野において互いに連結して、電解質膜(2)の面内方向に分散配置される膜電極接合体(36)の製造方法。
[項目2]
カソード(4)は、カソード触媒層(10)およびカソード拡散層(12)を有し、
当該製造方法は、
ドット層(32)を電解質膜(2)およびカソード拡散層(12)の一方に積層し、
連続層(34)を電解質膜(2)およびカソード拡散層(12)の他方に積層し、
電解質膜(2)とカソード拡散層(12)とを押し付けてドット層(32)と連続層(34)とを圧着することを含む膜電極接合体(36)の製造方法。
【実施例
【0073】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0074】
(触媒インクの調整)
PtRu/C触媒(TEC61E54E、田中貴金属工業社製)、純水、5wt%ナフィオン(登録商標)溶液(デュポン社製)、1-プロパノール(Wako社製)をボールミル容器に入れて混合し、カソード触媒層用の触媒インクを調製した。触媒インクのナフィオン/カーボン比は0.8とした。
【0075】
(膜電極接合体の作製)
上述したマスクM3を用いて、PTFEシートにドット状に触媒インクを塗布した。そして、このPTFEシートと、電解質膜としてのナフィオン(登録商標)N117(デュポン社製)とを130℃、5MPaで5分間ホットプレスした。これにより、電解質膜にドット状の触媒インクを転写して、ダイヤ型ドット層を形成した。また、上述したマスクM1を用いて、カソード拡散層としてのカーボンペーパー(35BC、SGLカーボン社製、4cm×4cm)に触媒インクを均一に塗布して、連続層を形成した。連続層が形成されたカソード拡散層を縦3.3cm、横3.5cmの四角形になるようにカッターで加工した。そして、ダイヤ型ドット層が形成された電解質膜と連続層が形成されたカソード拡散層とを120℃、2.5MPaで3分間ホットプレスして、膜電極接合体(ダイヤ型)を作製した。
【0076】
膜電極接合体(ダイヤ型)の作製にあたって、マスクM1,M3の厚さを変えてドット層および連続層の厚さを調整した。これにより、ドット層の厚さと連続層の厚さとの比率が3:7、5:5、7:3である膜電極接合体(ダイヤ型3:7、ダイヤ型5:5、ダイヤ型7:3)を作製した。また、ダイヤ型ドット層を形成した電解質膜と、連続層を非形成のカソード拡散層とをホットプレスして、ドット層の厚さと連続層の厚さとの比率が10:0である膜電極接合体(ダイヤ型10:0)を作製した。
【0077】
また、マスクM2を用いてスクエア型ドット層を形成した電解質膜と、連続層を非形成のカソード拡散層とをホットプレスして、ドット層の厚さと連続層の厚さとの比率が10:0である膜電極接合体(スクエア型10:0)を作製した。さらに、ドット層を非形成の電解質膜と、連続層を形成したカソード拡散層とをホットプレスして、ドット層の厚さと連続層の厚さとの比率が0:10である膜電極接合体(連続型0:10)を作製した。なお、各膜電極接合体において、凸部における触媒金属量(連続層のみの場合は連続層の触媒金属量)は、0.75mg/cmとした。
【0078】
(有機ハイドライド製造装置の作製)
アノードとして、厚さ1mmのTi基板上にIrTa酸化物を被覆したウェブ状のDSE(Dimensionally Stable Electrode)電極(デノラ・ペルメレック社製)を用意した。アノードの幾何面積は、12.25cmである。そして、各膜電極接合体とアノードとを積層した。また、アノードに対し、鉛直方向に延びるスリットが入った流路ブロックをばねで押し付けた。これらを一対のエンドプレートで挟み、ボルトおよびナットで締結した。これにより、各膜電極接合体を有する有機ハイドライド製造装置(電解槽)を得た。
【0079】
(電気化学測定)
各有機ハイドライド製造装置に参照極としてのRHEを接続した。また、各有機ハイドライド製造装置を電気化学特性評価装置(NF、エヌエフ回路設計ブロック社製)に接続した。電気化学特性評価装置は、電解槽運転特性分析器(As-510-4 100/20)、電解槽電気化学特性分析器(MTB55867)および交流インピーダンス測定器(FRA5014)を含む。前処理として、アノードへのアノード液の循環、カソードへのカソード液の循環、定電圧電解を実施した。
【0080】
前処理を施した各有機ハイドライド製造装置を用いて、以下に説明する所定の条件でトルエンの電解還元反応を実施した。そして、リニアスイープボルタンメトリー、クロノアンペロメトリー、交流インピーダンス測定、電流効率測定等の公知の測定方法により、各有機ハイドライド製造装置の電気化学評価を実施した。
【0081】
なお、電流効率測定では、電圧を印加していない状態での流路中の溶液の質量と、ある電圧を印加した状態での流路中の溶液の質量を比較することで、カソード反応で副反応により生成した水素ガスの発生量(体積)を算出した。また、電流が全て水素発生に使われた際の水素発生量を算出した。2つの水素の発生量から水素発生効率を算出し、その値を100から差し引いた値をトルエンの電解水素化反応の電流効率とした。なお、カソードでは、トルエンの電解水素化反応と水素発生反応以外は起きていないと仮定した。
【0082】
[複数の凸部が電気化学特性に与える影響の評価]
膜電極接合体(ダイヤ型10:0)、膜電極接合体(スクエア型10:0)および膜電極接合体(連続型0:10)のそれぞれを有する有機ハイドライド製造装置を用い、カソードに濃度10%のトルエンを流量5mL/分で供給し、アノードに濃度1Mの硫酸を流量10mL/分で供給し、運転温度は60℃として、トルエンの電解還元反応を実施した。そして、各有機ハイドライド製造装置の電気化学特性を評価した。
【0083】
図6は、セル電圧(UiR free)と電流密度(i)との関係、および内部抵抗(R)と電流密度(i)との関係を示す図である。電流密度は、クロノアンペロメトリーにより得られた値であり、IR損失は交流インピーダンス測定により得られた高周波切片を用いて補正されている。各有機ハイドライド製造装置の内部抵抗は、いずれも0.4~0.5Ωcm程度であり、大きな差は見られなかった。また、セル電圧にも差はほとんどなく、カソード触媒層に複数の凸部を設けてもセル電圧が維持されることが確認された。
【0084】
図7(A)は、アノードの分極曲線を示す図である。図7(B)は、カソードの分極曲線を示す図である。それぞれの分極曲線は、クロノアンペロメトリーにより得られた定常状態の分極であり、IR損失は交流インピーダンス測定により得られた高周波切片を用いて補正されている。各有機ハイドライド製造装置において、アノードの分極曲線およびカソードの分極曲線ともに差はほとんどなく、カソード触媒層に複数の凸部を設けても過電圧が維持されることが確認された。したがって、アノード、カソードともに触媒利用率が維持されたと考えられる。
【0085】
トルエンの流量を20mL/分とした点を除いて、上記と同様の条件でトルエンの電解還元反応を実施し、電気化学特性を評価した。図8は、電流密度(i)と電流効率(ε)との関係を示す図である。膜電極接合体(ダイヤ型10:0)および膜電極接合体(スクエア型10:0)では、膜電極接合体(連続型0:10)に比べて電流効率が向上した(同じ電流密度で見たとき、得られる電流効率が上昇している)。つまり、カソード触媒層に互いに離間した複数の凸部を設けることで、電流効率を向上させられることが確認された。なお、ダイヤ型のドット層は、スクエア型のドット層に比べて電流効率の上昇が大きかった。スクエア型のドット層では、略矩形状である各ドットの2辺が、供給流路16と排出流路18とが並ぶ鉛直方向に対し平行に延びている。一方、ダイヤ型のドット層では、略矩形状である各ドットの4辺が、供給流路16と排出流路18とが並ぶ鉛直方向に対し交わる方向に延びている。したがって、ダイヤ型のドット層では、スクエア型のドット層に比べて、各ドットに接触することなく通過してしまうトルエンの量を減らすことができる。つまり、ダイヤ型のドット層の方がスクエア型のドット層よりもトルエンの供給量が多くなる。このため、ダイヤ型のドット層の方が、スクエア型のドット層に比べて電流効率の上昇が大きかったと考えられる。
【0086】
[ドット層と連続層との比率が電気化学特性に与える影響の評価]
膜電極接合体(連続型0:10)、膜電極接合体(ダイヤ型3:7)、膜電極接合体(ダイヤ型5:5)、膜電極接合体(ダイヤ型7:3)および膜電極接合体(ダイヤ型10:0)のそれぞれを有する有機ハイドライド製造装置を用い、カソードに濃度10%のトルエンを流量5mL/分で供給し、アノードに濃度1Mの硫酸を流量10mL/分で供給し、運転温度は60℃として、トルエンの電解還元反応を実施した。そして、各有機ハイドライド製造装置の電気化学特性を評価した。
【0087】
図9は、セル電圧(UiR free)と電流密度(i)との関係、および内部抵抗(R)と電流密度(i)との関係を示す図である。電流密度は、クロノアンペロメトリーにより得られた値であり、IR損失は交流インピーダンス測定により得られた高周波切片を用いて補正されている。各有機ハイドライド製造装置の内部抵抗は、いずれも0.4~0.5Ωcm程度であり、大きな差は見られなかった。また、セル電圧にも差はほとんどなく、ドット層と連続層との比率を変えてもセル電圧が維持されることが確認された。
【0088】
図10(A)は、アノードの分極曲線を示す図である。図10(B)は、カソードの分極曲線を示す図である。それぞれの分極曲線は、クロノアンペロメトリーにより得られた定常状態の分極であり、IR損失は交流インピーダンス測定により得られた高周波切片を用いて補正されている。各有機ハイドライド製造装置において、アノードの分極曲線およびカソードの分極曲線ともに差はほとんどなく、ドット層と連続層との比率を変えても過電圧が維持されることが確認された。したがって、アノード、カソードともに触媒利用率が維持されたと考えられる。
【0089】
トルエンの流量を20mL/分とした点を除いて、上記と同様の条件でトルエンの電解還元反応を実施し、電気化学特性を評価した。図11は、電流密度(i)と電流効率(ε)との関係を示す図である。膜電極接合体(ダイヤ型3:7)、膜電極接合体(ダイヤ型5:5)および膜電極接合体(ダイヤ型7:3)では、膜電極接合体(ダイヤ型10:0)に比べて電流効率が上昇した。つまり、互いに連結した複数の凸部をカソード触媒層に設けることで、互いに独立した複数の凸部を設ける場合に比べて電流効率を向上させられることが確認された。また、ドット層32の厚さと連続層34の厚さとの比を3:7~7:3とすることで、電流効率をより確実に向上させられることが確認された。さらには、当該比を3:7にすることで、測定した中では最も高い電流効率が得られることが確認された。
【0090】
図12は、電流効率を一定とした場合のドット層の割合(rdot)と電流密度(i)との関係(実線)、ならびにドット層の割合(rdot)とカソード電位(E)との関係(破線)を示す図である。ドット層の割合は、ドット層の厚さと連続層の厚さとの合計に対するドット層の厚さの割合である。ドット層の割合を10%以上100%未満とすることで、つまりドット層と連続層との比を1:9~10未満:0超とすることで、ドット層の割合が100%であるとき以上に電流密度が高まることが確認された。
【0091】
また、ドット層32の割合を10%以上50%以下とすることで、つまりドット層と連続層との比を1:9~5:5とすることで、電流密度がより高まることが確認された。さらに、ドット層の割合を30%とすることで(ドット層:連続層=3:7)、電流密度が最も高まることが確認された。なお、ドット層の割合が30%であるとき、カソード電位が最も低くなっているが電流効率は90,95,100%に維持できている。したがって、トルエン水素化の選択性は、触媒上の電荷移動の速度論に支配されるのではなく、カソード触媒層における物質移動プロセスに強く依存していると考えられる。
【0092】
理論上、凸部の厚さはドット層の厚さと連続層の厚さとの合計に等しく、凹部の厚さは連続層の厚さに等しい。したがって、ドット層の割合が10%であるとき、凹部の厚さは凸部の厚さの90%になる。よって、ドット層の割合を10%以上としたときの結果から、凹部の厚さを凸部の厚さの90%以下とすることによる電流密度の向上効果を確認することができる。
【0093】
ただし、実際はドット層と連続層とをホットプレスで圧着すると、凸部に相当する部分から凹部に相当する部分に触媒インクが流動して、凸部の厚さは理論値よりも小さくなり、凹部の厚さは理論値よりも大きくなり得る。しかしながら、図12に示されるように、電流密度は、ドット層の割合が10%から増えるにつれて上昇している。したがって、凹部の厚さが凸部の厚さの90%であるカソード触媒層は、ドット層の割合が10%のときよりも高い電流密度が得られるドット層と連続層との組み合わせによって形成される。よって、凹部の厚さが凸部の厚さの90%以下であれば、高い電流密度が得られることが理解できる。
【符号の説明】
【0094】
1 有機ハイドライド製造装置、 2 電解質膜、 2a 第1面、 2b 第2面、 4 カソード、 6 アノード、 10 カソード触媒層、 12 カソード拡散層、 28 凸部、 30 凹部、 32 ドット層、 34 連続層、 36 膜電極接合体。
図1
図2
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図5
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図7
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図10
図11
図12