(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】TRECsの改良測定方法およびそれを用いた重症複合免疫不全症のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240820BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240820BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
(21)【出願番号】P 2020160873
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-06-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本マススクリーニング学会誌第29巻、第2号、第46回日本マススクリーニング学会学術集会抄録号、第117(220)頁、日本マススクリーニング学会(発行日:令和元年10月1日)。第46回日本マススクリーニング学会学術集会において、ポスター発表(開催日:令和元年11月23日)。
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】久米田 幸介
(72)【発明者】
【氏名】山内 芳裕
(72)【発明者】
【氏名】中村 公俊
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-118041(JP,A)
【文献】特許第6761093(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/686
C12Q 1/6851
C12Q 1/00 - 3/00
C12M 1/00 - 3/10
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥血液ろ紙に含まれる重症複合免疫不全症の疾患指標であるT細胞受容体切除サークル(T-cell receptor excision circles;以下、「TRECs」という)を定量PCRで測定する方法であって、以下の順の工程を含む方法:
(1)乾燥血液ろ紙をマイクロプレートに入れる工程、
(2)工程(1)の乾燥血液ろ紙に、特殊前処理として、KClを含むリン酸緩衝液からなる洗浄液を添加し、血液由来成分のPCR反応阻害物質を除去する工程、
(3)工程(2)の血液ろ紙を反応系に共存させたままTRECs遺伝子に対する定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値を測定する工程、ついで
(4)既知量のTRECs遺伝子配列を含むDNAスタンダードに対して定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値から得られる検量線から工程(3)のTRECs遺伝子の量を定量する工程。
【請求項2】
工程(2)における洗浄液のKClの濃度が0.3から0.5Mである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(2)における洗浄液のリン酸の濃度が10から12mMである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(2)における洗浄液のpHが7.3から7.6である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法に用いるための、以下の(1)~(4)を含む測定キット:
(1)マイクロプレート、
(2)KClを含むリン酸緩衝液からなる洗浄液、
(3)PCRプライマー、プローブおよびPCR酵素、および
(4)DNAスタンダード。
【請求項6】
(2)洗浄液のKClの濃度が0.3から0.5Mである、請求項5に記載の測定キット。
【請求項7】
(2)洗浄液のリン酸の濃度が10から12mMである、請求項5または6に記載の測定キット。
【請求項8】
(2)洗浄液のpHが7.3から7.6である、請求項5~7のいずれか一項に記載の測定キット。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法を用い
てTRECsを測定する工程、および
測定されたTRECsが所定のカットオフ値以上である場合に検体が陰性を示すと判断し、前記カットオフ値未満である場合に、検体が陽性を示すと判断する工程を含む、
重症複合免疫不全症のスクリーニング方法。
【請求項10】
陽性を示した検体についてさらに、以下の工程を含む抽出法を行う、請求項9に記載のスクリーニング方法:
(5)陽性を示した検体について残りの乾燥血液ろ紙をマイクロプレートに入れる工程、
(6)工程(5)の血液ろ紙からDNAを抽出する工程、
(7)工程(6)で得られたDNAについてTRECs遺伝子に対する定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値を測定する工程、ついで
(8)既知量のTRECs遺伝子配列を含むDNAスタンダードに対して定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値から得られる検量線から工程(7)のTRECs遺伝子の量を定量する工程。
【請求項11】
前記所定のカットオフ値が20copies/μLである、請求項9または10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に重症複合免疫不全症のスクリーニング検査法に関する。
【背景技術】
【0002】
新生児スクリーニングは、新生児に対する先天性代謝異常等についての集団検診である。新生児スクリーニングの目的は、生まれつき特定の栄養素を利用できないとか、成長ホルモンなどが過不足の状態となり、その結果知的障害や身体の発育に障害を起こす遺伝性疾患等について、早期発見・早期治療により未然に心身障害を予防することである。具体的なスクリーニング方法では、まず産科医療機関で生後4~6日目の新生児のかかとから、ごく少量の血液をろ紙に採り、スクリーニングセンターに郵送する。その後、スクリーニングセンターで乾燥血液ろ紙から抽出した試料から各種測定が行われる。
【0003】
日本では、1977年10月より検査料の公費負担による国の事業として新生児スクリーニングが開始されている。現在日本における新生児スクリーニングの対象疾患は、糖代謝異常症であるガラクトース血症、内分泌疾患である先天性甲状腺機能低下症や先天性副腎過形成症、アミノ酸代謝異常疾患であるフェニールケトン尿症やメイプルシロップ尿症、有機酸代謝異常疾患であるメチルマロン酸血症やプロピオン酸血症、脂肪酸代謝異常疾患であるVLCADやMCADなどの合計20疾患となっている。
【0004】
重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency:以下、「SCID」ともいう)は先天性免疫不全症の一つであり、液性および細胞性免疫の複合免疫不全症の最重症型と位置付けられる。通常生後数か月以内に日和見感染を含む様々な重症感染症を発症し、根本的治療である造血幹細胞移植を行わなければ生後1年以内に死亡する。発症頻度はおよそ5万出生あたり1人と推定されている。現在までにSCIDの病態の理解が進み、約20の原因遺伝子が同定されている。SCIDは造血幹細胞移植によって治癒しうるが、感染症を合併していると移植成績は不良となるため、いかに感染症罹患前に診断できるかが重要である(非特許文献1)。
【0005】
SCIDではT細胞が遺伝子再構成される際にT細胞受容体切除サークル(T-cell receptor excision circles;以下、「TRECs」という)と呼ばれる環状DNAが産生されるが、PCR(polymerase chain reaction)法を利用すればごく少量の血液からもTRECs測定が可能である(非特許文献2)。したがって、血液ろ紙検体に含まれるTRECsの量をT細胞の正常成熟の指標として評価することで、SCIDをスクリーニングすることができる。すなわち、TRECsの存在はT細胞の成熟を意味するため、TRECsの減少はSCIDをスクリーニングする指標となる。近年、欧米を中心にTRECを検出する定量PCR法を用いた新生児スクリーニングが行われるようになり、その有用性が示されてきている。全米ではほとんどの州で行われているが、日本国内においては現状人口ベースでのSCID患者の新生児マススクリーニングは実施されておらず、一部の施設で検査が始まっていることから、日本のSCID患者の予後改善のためにも、広く新生児マススクリーニングが行われることが望まれている。
【0006】
アメリカ食品医薬品局は、2014年にSCIDの診断キットであるEnLite(登録商標)Neonatal TREC Kitおよびそのシステム(PerkinElmer Co,, Ltd.)を認可した(非特許文献3、4)。本キットはエンドポイントPCRによるセミ定量法であり、その後、ブラジル、カナダ、オーストラリアなどでも認可されている。また、SCREEN-ID/SPOT-it(登録商標:2018年に名称変更)(ImmunoIVD AB)は欧州を中心に普及しているSCID診断キットであり、Real-time multiplex PCRを用いた定量法である(非特許文献5)。さらに、特許文献1には、定量PCRによるSCID測定に最適なプライマーを含む診断キットが開示されている。
【0007】
新生児スクリーニング検査では、大量検体を迅速かつ低コストにて測定することが必要となるため、これらキットでは乾燥血液ろ紙ディスク(dried blood spot;DBS)を反応系に入れたまま定量PCRが行われる(ダイレクト法)。ダイレクト法では、反応系の中に乾燥血液ろ紙ディスクが含まれたままであるため、血液に由来するヘモグロビン中のヘム分子などのPCR反応阻害成分の影響で、TRECsが存在するにもかかわらず適切なPCR反応が起こらないことが一定頻度で発生する。このような検体は再度の測定、場合によっては複数回測定を行うと増幅反応が確認される場合がある。したがって、ダイレクト法ではリテスト率(全測定数に対する再測定数の割合)が高くなる傾向がある。スクリーニングシステムを運用するにあたり、リテスト率が高いと、結果報告の遅れ、測定回数の増加によるコスト高などが大きな課題となる。上記EnLite(登録商標)Neonatal TREC KitおよびSCREEN-ID/SPOT-itはいずれもダイレクト法による診断キットである。
【0008】
一方、ダイレクト法とは別の方法として、乾燥血液ろ紙ディスクを複数枚用い、乾燥血液ろ紙からDNAの抽出処理を行った後、TRECsを定量PCRで測定する抽出法がある(非特許文献2)。抽出法は反応系の中に乾燥血液ろ紙ディスクが含まれないため、測定精度がよく、かつ安定的に検査できるが、測定能、作業時間、コストの面から大量検体を短時間で処理することが求められるスクリーニング検査の初回測定法としては実用的ではないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】金兼弘和,今井耕輔,森尾友宏:重症複合免疫不全症~その発見から今後の展望~.Jpn. J. Clin. Immunol., 40(3)145-154(2017)
【文献】Chan, K., Puck, J.M.: Development of population-based screening for severe combined immunodeficiency. J Allergy Clin Immunol. 115: 391, 2005.
【文献】EnLite Neonatal TREC system商品カタログ:https://pdf.medicalexpo.com/pdf/perkinelmer/enlite-neonatal-trec-system/69673-178537.html
【文献】EVALUATION OF AUTOMATIC CLASS III DESIGNATION FOR ENLITETM NEONATAL TREC KIT DECISION SUMMARY:https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/reviews/DEN140010.pdf
【文献】ImmunoIVD社Webサイト:http://www.immunoivd.com/technology.html
【文献】Hazenberg MD, et al. Increased cell division but not thymic dysfunction rapidly affects the T-cell receptor excision circle content of the naive T cell population in HIV-1 infection. Nat Med. 2000; 6(9):1036-42.
【文献】Stuart P. Adams, et al. Screening of Neonatal UK Dried Blood Spots Using a Duplex TREC Screening Assay. J Clin Immuunol 2014:DOI 10.1007/s10875-014-0007-6
【文献】Beth H. Vogel, et al. Newborn Screening for SCID in New York State: Experience from the First Two Years. J Clin Immunol. 2014 April; 34(3): 289-303. doi:10.1007/s10875-014-0006-7.
【文献】Stephan Borte, et al. Neonatal screening for severe primary immunodeficiency diseases using high-throughput triplex real-time PCRBLOOD,15 march 2012 119:2552-2555
【文献】Integration of SCID Screening into the Dutch Newborn Screening Program Benefits and shortcomings of the available screening assays. APHL-NBSGTS, St. Louis| 29.02.2016:https://www.aphl.org/conferences/proceedings/Documents/2016/NBS-Genetic-Testing-Symposium/15Schielen.pdf
【文献】Maryam Nourizadeh, et al. Newborn screening using TREC/KREC assay for severe T and Bcell lymphopenia in Iran. Scand J Immunol. 2018 Jun 26; e12699. doi: 10.1111/sji.12699.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、新生児スクリーニング検査に際して行われるダイレクト法では、乾燥血液ろ紙ディスクを反応系に入れたまま定量PCRが行われるため、血液に由来するヘモグロビン中のヘム分子などのPCR反応阻害成分の影響で、TRECsが存在するにもかかわらず適切なPCR反応が起こらないことが一定頻度で発生し、そのため、リテスト率が高くなるという問題があった。スクリーニングシステムを運用するにあたり、リテスト率が高いと、結果報告の遅れ、測定回数の増加によるコスト高などが大きな問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、従来のダイレクト法において、リテスト率を上げる要因となっている上記PCR反応阻害成分を排除すべく鋭意検討を重ねた結果、定量PCR反応前に乾燥血液ろ紙ディスクに対する特殊前処理工程を追加した改良ダイレクト法とすることでPCR反応阻害成分を除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、特殊前処理工程として、乾燥血液ろ紙ディスク由来の血液由来成分を反応系から除くのに最適なバッファー組成および処理条件を見出した。
【0013】
さらに、特殊前処理工程を追加した改良ダイレクト法を初回測定として実施し、その際、カットオフ未満の結果(陽性)を示した検体については再測定として残りの乾燥血液ろ紙を用いた抽出法での定量PCR測定を行うことで、リテスト率を抑えかつ偽陽性率の低いSCIDのスクリーニング検査となることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、改良ダイレクト法と抽出法とを組み合わせることで、簡便・迅速かつ従来法よりリテスト率および偽陽性率を低減したSCIDのスクリーニング方法を提供する。
【0014】
したがって、本発明は以下を含む。
[1]乾燥血液ろ紙に含まれる重症複合免疫不全症の疾患指標であるT細胞受容体切除サークル(T-cell receptor excision circles;以下、「TRECs」という)を定量PCRで測定する方法であって、以下の順の工程を含む方法:
(1)乾燥血液ろ紙をマイクロプレートに入れる工程、
(2)工程(1)の乾燥血液ろ紙に、特殊前処理として、KClを含むリン酸緩衝液からなる洗浄液を添加し、血液由来成分のPCR反応阻害物質を除去する工程、
(3)工程(2)の血液ろ紙を反応系に共存させたままTRECs遺伝子に対する定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値を測定する工程、ついで
(4)既知量のTRECs遺伝子配列を含むDNAスタンダードに対して定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値から得られる検量線から工程(3)のTRECs遺伝子の量を定量する工程。
[2]工程(2)における洗浄液のKClの濃度が0.3から0.5Mである、[1]に記載の方法。
[3]工程(2)における洗浄液のリン酸の濃度が10から12mMである、[1]または[2]に記載の方法。
[4]工程(2)における洗浄液のpHが7.3から7.6である、[1]~[3]のいずれか一に記載の方法。
[5][1]~[4]のいずれか一に記載の方法に用いるための、以下の(1)~(4)を含む測定キット:
(1)マイクロプレート、
(2)KClを含むリン酸緩衝液からなる洗浄液、
(3)PCRプライマー、プローブおよびPCR酵素、および
(4)DNAスタンダード。
[6](2)洗浄液のKClの濃度が0.3から0.5Mである、[5]に記載の測定キット。
[7](2)洗浄液のリン酸の濃度が10から12mMである、[5]または[6]に記載の測定キット。
[8](2)洗浄液のpHが7.3から7.6である、[5]~[7]のいずれか一に記載の測定キット。
[9][1]~[4]のいずれか一に記載の方法を用いた重症複合免疫不全症のスクリーニング方法。
[10][1]~[4]のいずれか一に記載の方法を行った後、陽性を示した検体についてさらに、以下の工程を含む抽出法を行う、[9]に記載のスクリーニング方法:
(5)陽性を示した検体について残りの乾燥血液ろ紙をマイクロプレートに入れる工程、
(6)工程(5)の血液ろ紙からDNAを抽出する工程、
(7)工程(6)で得られたDNAについてTRECs遺伝子に対する定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値を測定する工程、ついで
(8)既知量のTRECs遺伝子配列を含むDNAスタンダードに対して定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値から得られる検量線から工程(7)のTRECs遺伝子の量を定量する工程。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ダイレクト法において定量PCR反応前に乾燥血液ろ紙ディスクに対する特殊前処理工程を追加することにより(改良ダイレクト法)PCR反応阻害成分を除去できることができ、その結果、従来法よりリテスト率および偽陽性率を低減することができる。
【0016】
さらに、特殊前処理工程を追加した改良ダイレクト法を初回測定として実施し、その際、カットオフ未満の結果(陽性)を示した検体についてさらに抽出法での定量PCR測定を行うことで、さらにリテスト率および偽陽性率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明によるSCIDのスクリーニング方法の検査フローを示す。
図1左:本発明による改良ダイレクト法。直径1.2mmの乾燥血液ろ紙1枚を切り出し、96プレートの各wellに入れる。その後特殊前処理を行い、洗浄液を取り除き、風乾した乾燥血液ろ紙が入ったwellに反応液を添加し、qPCR反応を実施する。
図1右:改良ダイレクト法についで行う抽出法:直径3.2mmの乾燥血液ろ紙3枚を切り出し、これに対し市販キットを用いてカラム処理含めDNA抽出を行う。1検体当たり20μLを抽出し、この抽出液3μLを96プレートの各wellに分注し、ここに反応液を添加し、改良ダイレクト法と同設定にてqPCR反応を実施する。
【
図2】
図2は、本発明によるSCIDのスクリーニング方法の検査アルゴリズムを示す。初回測定として改良ダイレクト法にてシングル測定を実施し、カットオフTRECsが20copies/μL以上であれば陰性、20copies/μL未満であれば再測定として、抽出法にてダブル測定を実施する。2データの片方でもカットオフTRECsが20copies/μL以上であれば陰性、両方ともが20copies/μL未満であれば再採血を実施する。再採血検体を用い、抽出法にてダブル測定を実施する。2データの片方でもカットオフTRECsが20copies/μL以上であれば陰性、両方ともが20copies/μL未満であれば要精密検査対象とする。
【
図3】
図3は、実施例2において、PCR反応阻害物質の除去に適した特殊前処理バッファー組成および条件を検討した結果を示す。A~Eは、それぞれ、バッファー組成候補として、水、生理食塩水、0.1%tritonX-100 in PBS、0.4M KCl in PBS、および0.4M KCl in 0.1%tritonX-100 in PBSを用いた場合の結果を示す。
【
図4】
図4は、実施例4の結果を示すヒストグラムを示す。本発明の改良ダイレクト法と抽出法を組み合わせたアルゴリズムでのスクリーニング運営を行ったところ、n=16,488にて再採血が29件、率として0.18%であった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、第一の側面において、乾燥血液ろ紙に含まれるSCIDの疾患指標であるTRECsを定量PCRで測定するダイレクト法において、定量PCR反応前に乾燥血液ろ紙ディスクに対する特殊前処理工程を追加した改良ダイレクト法に関する(
図1左)。
【0019】
本発明によるTRECsの改良測定方法は、以下の工程を含む:
(1)乾燥血液ろ紙をマイクロプレートに入れる工程、
(2)工程(1)の乾燥血液ろ紙に、特殊前処理として、KClを含むリン酸緩衝液からなる洗浄液を添加し、血液由来成分のPCR反応阻害物質を除去する工程、
(3)工程(2)の血液ろ紙を反応系に共存させたままTRECs遺伝子に対する定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値を測定する工程、ついで
(4)既知量のTRECs遺伝子配列を含むDNAスタンダードに対して定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値から得られる検量線から工程(3)のTRECs遺伝子の量を定量する工程。
【0020】
本発明では、乾燥血液ろ紙ディスク由来の血液由来成分を反応系より極力除くため、定量PCR反応前に乾燥血液ろ紙ディスクに対する特殊前処理工程(工程(2))を追加した。具体的には血液に由来するPCR反応阻害成分を除去するのに最適なバッファー組成および処理条件を見出した。
【0021】
本発明による特殊前処理に用いる最適なバッファー組成は、KClを含むリン酸緩衝液からなる洗浄液である。KClの濃度は0.3から0.5Mが好ましく、0.4Mがより好ましい。
【0022】
上記KClを含むリン酸緩衝液からなる洗浄液において、リン酸の濃度は10から12mMが好ましく、11mMがより好ましい。
【0023】
上記KClを含むリン酸緩衝液からなる洗浄液において、pHは7.3から7.6が好ましく、7.4がより好ましい。
【0024】
従って、本発明の特殊前処理に用いる最適なバッファー組成は、KClを含むリン酸緩衝液からなる洗浄液であり、具体的には、0.3から0.5MのKCl、10から12mMのリン酸からなり、pHが7.3から7.6の洗浄液である。一実施形態のバッファー組成は、「0.4MのKCl、11mMのリン酸」からなるpH7.4の洗浄液である。
【0025】
本発明によるTRECsの改良測定方法において、工程(2)の特殊前処理工程は、例えば、以下のようにして行うことができる。すなわち、qPCRプレートの各wellに入れた直径1.2mmディスクに本発明による上記洗浄液を添加し、調製用プレートシールにてシール後、サーマルサイクラーASTEC(またはブロックインキュベータ)にて加温する(50℃、3分)。ついでシールをはがし、8連マイクロピペット等を用いて洗浄液を取り除く。その後、室温で風乾する。
【0026】
本発明によるTRECsの改良測定方法は、工程(2)の特殊前処理工程以外は通常のダイレクト法と同様に行うことができる。ダイレクト法の手順は、例えば、非特許文献3および5に記載されている。具体的には、まず、乾燥血液ろ紙より直径1.2mm専用パンチャーを用いてディスクを切り出し、この直径1.2mmディスク一枚をqPCRプレートの各wellに入れる。ついで、本発明による工程(2)の後、血液ろ紙を反応系に共存させたままTRECs遺伝子に対するqPCRを行う。ここで、「qPCR」とは「定量PCR」を意味し、「リアルタイムPCR」と同義である。qPCRとしては、サイバー・グリーン法(SYBR Green)およびタックマン・プローブ法(TaqMan Probe)の2種類が知られているが、本発明ではタックマン・プローブ法(TaqMan Probe)を用いた。qPCR機器としては、例えば、Quant Studio 5リアルタイムPCRシステムを用いることができる。蛍光は、例えば、FAM(Reporter)/TAMRA(Quencher)を用いることができる。PCR反応は、例えば、1cycle/95℃(10分)、45cycle/94℃(30秒)、1cycle/60℃(1分)で行うことができる。反応終了後、その量に応じた蛍光値を測定する。次に、既知量のTRECs遺伝子配列を含むDNAスタンダードに対してPCR反応を行い、その量に応じた蛍光値から得られる検量線から、計算式を用いてTRECs遺伝子の量(copies/μL)を定量する。
【0027】
本発明はまた、第二の側面において、本発明によるTRECsの改良測定方法に用いる測定キットに関する。本発明の測定キットは、マイクロプレート、洗浄液、PCRプライマー、プローブ、PCR酵素およびDNAスタンダードを含む。本発明の測定キットにおいて、洗浄液は上記KClを含むリン酸緩衝液からなる洗浄液である。PCRプライマーおよびプローブは、例えば、非特許文献6を参考にして作成することができる。
【0028】
本発明はまた、第三の側面において、本発明による改良ダイレクト法にさらに抽出法を組み合わせた、簡便・迅速かつ従来法よりリテスト率および偽陽性率を低減したSCIDのスクリーニング方法に関する。すなわち、特殊前処理工程を追加した改良ダイレクト法を初回測定として実施し、その際、カットオフ未満の結果(陽性)を示した検体については再測定として残りの乾燥血液ろ紙を用いた抽出法での定量PCR測定を行う。このように、本発明による改良ダイレクト法と抽出法を組み合わせることで、リテスト率を抑えかつ偽陽性率の低いSCIDのスクリーニング検査となる。具体的には、本発明によるSCIDのスクリーニング方法は、上記(1)~(4)の工程を含む本発明による改良ダイレクト法を行った後、陽性を示した検体についてさらに、以下の工程を含む抽出法を行う方法である:
(5)陽性を示した検体について残りの乾燥血液ろ紙をマイクロプレートに入れる工程、
(6)工程(5)の血液ろ紙からDNAを抽出する工程、
(7)工程(6)で得られたDNAについてTRECs遺伝子に対する定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値を測定する工程、ついで
(8)既知量のTRECs遺伝子配列を含むDNAスタンダードに対して定量PCR反応を行い、その量に応じた蛍光値から得られる検量線から工程(7)のTRECs遺伝子の量を定量する工程。
【0029】
抽出法は、乾燥血液ろ紙ディスクを複数枚用い、乾燥血液ろ紙からDNAの抽出処理を行った後、TRECsを定量PCRで測定する方法である(非特許文献2)。抽出法は、反応系の中に乾燥血液ろ紙ディスクが含まれないため、ダイレクト法とは異なり測定精度がよく、かつ安定的に検査できるが、測定能、作業時間、コストの面から大量検体を短時間で処理することが求められるスクリーニング検査の初回測定法としては実用的ではないとされている。
【0030】
抽出法は、市販のキット、例えば、NucleoSpin Tissue XS(TAKARA U0901B:74090.250)を用いて行うことができる。抽出法の手順は、例えば、非特許文献2に記載されている。具体的には、乾燥血液ろ紙より直径3.2mm専用パンチャーを用いてディスク3枚を切り出し、これに対しキットプロトコールを参考にDNA抽出操作を行えばよい。DNA抽出液を得た後は、ダイレクト法と同様にqPCR反応を行うことができる。
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
乾燥血液ろ紙を検体としてTRECsを検出するqPCRを原理とした改良ダイレクト法および抽出法を用いた測定によるパイロットスクリーニングを実施した。
【0033】
(1)検体、試薬、機器等
本発明でTRECsを検出するqPCRは蛍光標識プローブ法、いわゆるタックマン(TagMan)・プローブ法を用いた。プライマーは各0.5μM、プローブは各0.2μMとした。用いたプライマーおよびプローブ配列は非特許文献6を参考とした。具体的な配列は以下の表1に示す通りである。
表1:プライマーおよびプローブの配列
標準物質は、pT7Blue-2ベクタープラスミドにTRECs遺伝子131bp(配列:ccatgctgacacctctggtttttgtaaaggtgcccactcctgtgcacggtgatgcataggcacctgcaccccgtgcctaaaccctgcagctggcacgggccctgtctgctcttcattcaccgttctcacga;配列番号4)をRcoRVに挿入した。なお、プライマーおよびプローブ配列は株式会社日本遺伝子研究所にて作成した。
【0034】
その他、実施例において用いた検体、試薬等は以下の通りである。
[検体および標準品]
・検体:新生児乾燥血液ろ紙(n=9,592)。
[qPCR用試薬]
改良ダイレクト法:
・qPCRキット:Ampdirect Plus + BIOTAQ Shimadzu 241-08890-92
・qPCRプレート:MicroAmp Fast Optical 96-Well Reaction Plate,0.1mL,ABI,Cat#4346907
・qPCRプレートシール:MicroAmp 96-Optical Adhesive film,ABI,Cat#4360954または#4311971
・調製用プレートシール:BIO BIKシーリングフィルムB-TS
・qPCR機器:Quant Studio 5リアルタイムPCRシステム,ABI,QS5-96F
・サーマルサイクラー(加温用):サーマルサイクラーASTEC
抽出法:
・NucleoSpin Tissue XS TAKARA U0901B(74090.250)
【0035】
(2)測定操作
本実施例における測定操作は以下の通りである。
[改良ダイレクト法]
スタンダード原液を蒸留水にて80倍希釈したものを用い、キャリア溶液(RNA, MS2キャリア溶液)を用いて希釈することで2.26X105copies/μL、2.26X104copies/μL、2.26X103copies/μL、2.26X102copies/μL、2.26X10copies/μL、2.26copies/μLを調製した。続いて、Ampdirect Plus+BIOTAQを凍結状態より取り出し、on iceかつ遮光にて融解した。qPCR機器であるQuant Studio 5リアルタイムPCRシステムにパラメータ設定を行った。蛍光はFAM(Reporter)/TAMRA(Quencher)であった。反応は1cycle/95℃,10分、45cycle/94℃,30秒、60℃,1分で行った。乾燥血液ろ紙より直径1.2mm専用パンチャーを用い、ディスクを切り出した。この直径1.2mmディスク1枚に対し特殊前処理を実施した。具体的には、qPCRプレートの各wellに直径1.2mmディスク1枚を入れ、リンス液0.4M KCl in PBSを20μL添加し、調製用プレートシールにてシール後、サーマルサイクラーASTEC(またはブロックインキュベータ)にて50℃、3分加温した。その後シールをはがし、8連マイクロピペット等を用いてリンス液を取り除いた。その後、室温で風乾した(目安5分程度)。続いて、qPCR反応のための反応混合物を調製した。具体的には、1well当たりBIO TAQ 0.1μL、TRECsフォワードプライマー(10μM)1.0μL、TRECsリバースプライマー(10μM)1.0μL、TRECsプローブ(10μM)0.5μL、2XAmpdirect Plus 10.0μL、Nuclease free water 4.4μLを撹拌混合した。
【0036】
特殊前処理を経たディスクが入ったプレートの各wellに反応混合物を20μLずつ添加した。検量線サンプルとして6ポイント濃度のスタンダード溶液をダブルにて各wellに3μL添加し、Negative controlとしてNuclease free waterをダブルで各wellに3μL添加し、これらのwellに反応混合物を20μLずつ添加した。その後、qPCRプレートシールにてシール後、軽くスピンダウンし泡を除去したのち、qPCR機器に設置しqPCRを開始した。qPCR開始90分後に反応を終了し、検量線から算出される蛍光値を確認した。その後、計算式を用いて各検体のTRECs定量値(copies/μL)を算出した。
【0037】
[抽出法]
市販キットNucleoSpin Tissue XS (TAKARA U0901B:74090.250)を用いて抽出を行った。乾燥血液ろ紙より直径3.2mm専用パンチャーを用いてディスク3枚を切り出し、これに対し当該キットプロトコールを参考にDNA抽出操作を行った。具体的には、ディスク3枚を1.5mLマイクロチューブに入れ、BufferT1(160μL)添加し、ボルテックス5秒を2回行った。ブロックインキュベーターにて94℃10分インキュベート後、室温に戻し、プロテイナーゼK溶液(16μL)を添加し、ボルテックス後軽くスピンダウンした。その後、56℃で1時間インキュベートした。その際、抽出効率を上げるため約10分毎にボルテックスを行った。その後、室温に戻してスピンダウンを行った後、当該溶液をマイクロピペットを用いて新しい1.5mLマイクロチューブに移し、Buffer B3(160μL)を添加し、ボルテックス5秒を2回行い、70℃で5分インキュベートし、その後、軽くボルテックス後、室温に戻し、スピンダウンした。その後、96~100%エタノールを160μL添加し、ボルテックス5秒を2回行い、軽くスピンダウンした。その後、Collection Tubeの中のNucleoSpin Tissue XS Columnに溶液を移し、11,000xgにて1分遠心後、flow-throughを取り除き、再度新しいCollection Tubeを取り付けた。その後、Buffer B5(50μL)をNucleoSpin Tissue XS Columnに添加し、11,000xgにて1分遠心後、Buffer B5(50μL)をNucleoSpin Tissue XS Columnに添加し、11,000xgにて今度は2分遠心後、Collection Tubeを取り除いた。最後にDNA抽出作業として、新しい1.5mLマイクロチューブを取り付け、70℃に加温したmilliQ滅菌水(20μL)を添加し、11,000xgにて1分遠心してDNA抽出液を得た。これ以降のqPCR測定作業はダイレクト法と同様とした。
【0038】
(3)解析操作
Quant Studio 5 リアルタイムPCRシステム,ABI,QS5-96Fに附属のDesign and Analysis Softwareを用いて解析を行った。具体的には、各濃度StandardのCq値を用いてソフト内で検量線が作成され、各検体のCq値よりTRECsのコピー数が算出された。
【実施例2】
【0039】
特殊前処理バッファーの検討:
PCR反応阻害物質の除去に適した特殊前処理バッファー組成および条件を検討した。特殊前処理バッファー液添加後の加温およびバッファー組成候補を設定し、条件設定を実施した。バッファー組成候補として、水、生理食塩水、0.1%tritonX-100 in PBS、0.4M KCl in PBS、および0.4M KCl in 0.1%tritonX-100 in PBSを用い(
図3A~E)、ダイレクト法検査を行った。すなわち、直径1.2mmディスク1枚をqPCRプレートの各wellに入れ、上記特殊前処理バッファー候補を各20μL添加し、シール後、50℃で3分加温した。当該液を除去後風乾し、サンプルを用いてqPCR反応を実施した。検体は健常新生児より採取した血液ろ紙を用いた。より良い前処理条件は、安定かつばらつきのない増幅が確認され、増幅がより早期から確認されることであるが、0.4M KCl in PBS は、CT(Threshold Cycle:反応の蛍光シグナルがThreshold Line、つまりリアルタイムPCR反応の閾値と交差する時点のサイクル数)値にばらつきが少なく、比較的CTが低値を示す、つまり早期より増幅が確認されたので、特殊前処理バッファーとしてより適していると判断された(
図3)。
【実施例3】
【0040】
本発明による改良ダイレクト法と従来のダイレクト法の検査精度比較:
本発明による改良ダイレクト法と従来のダイレクト法(Enlite;非特許文献4)の検査精度を比較した。本発明による改良ダイレクト法を行う際に測定毎に検体と同時に測定しているコントロール(2濃度)の測定精度と、Enliteでの検査精度を比較したものを表2に示す。この結果より低濃度から中高濃度域のどの領域においても、本発明での検査精度は比較的高いことが確認できる。
表2:本発明による改良ダイレクト法と従来のダイレクト法の検査精度の比較
※1:2019年5月-2020年5月での検査運営した際に活用したコントロールに対する測定精度。n=265での結果を示す。単一実験室、単一測定器。
※2:非特許文献4(Table2 TR1,TR3,TR4)
【実施例4】
【0041】
従来の方法を活用したSCIDスクリーニングと本発明による改良ダイレクト法と抽出法とを組み合わせた検査アルゴリズムでのSCIDスクリーニングでの再採血およびスクリーニング陽性率の比較:
本発明による改良ダイレクト法と抽出法とを組み合わせたアルゴリズムでのスクリーニングを行ったところ、n=16,488にて再採血が29件、率として0.18%、スクリーニング陽性が2件、率として0.012%であった。カットオフ値は<20copies/μL、平均は102.5copies/μLであった。その結果のヒストグラムを
図4に示す。
【0042】
従来のダイレクト法でのSCIDスクリーニングでは、PerkinElmer社のEnlite(登録商標)Neonatal TREC kitを活用した1.5mmの乾燥血液ろ紙を用いたダイレクト法による英国でのSCIDスクリーニング報告(非特許文献7のTable VII)がある。この報告では、複数のカットオフ設定でのスクリーニング陽性率を算出しているが、このうち最も低く、つまり最も陽性率を低く抑えるよう設定した20copies/μLでのカットオフに対し、スクリーニング陽性率が0.04%であった(表3参照)。この結果はキットメーカーから提示されている当該キットの性能評価報告に示されたアメリカ7つの州などの陽性率0.038%とほぼ同等である(非特許文献4のTable15:364/961,925[Positive/Total Screened]X100=0.038%)。またSCREEN-IDキットを活用したSCIDスクリーニングの実施例では、スクリーニング陽性率が1.62%、または0.56%という報告がある(非特許文献10のScreening scheme p12:21/1295[Presumptive positive/Dutch newborns]X100=1.62%;非特許文献11のFIGURE3:12/2160[(Positive + suspected)/Iranian newborns]X100=0.56%;表3参照)。
【0043】
従来の抽出法でのSCIDスクリーニングでは、ニューヨーク州で血液ろ紙にリンス前処理を行った後、血液ろ紙を含んだままで4℃にて一晩保存後、この抽出液を用いてqPCRを実施する方法が報告されている。この報告では再採血率が0.27%、陽性率が0.11%であった(非特許文献8のFig.1:1307/485,912 [(Repeat requested for premature infants(<37 weeks gestation)+Repeat requested for term Infants))/infants Screened]X100=0.27%、531/485,912[Referrals/Infants Screened]X100=0.11%;表4参照)。またスウェーデンでの報告では、陽性率が0.12%であった(非特許文献9のFigure2:4/2560[Abnormal(KREC(kappa-deleting recombination excision circles;カッパ削除組換え切除サークル)のみ異常の2例を除外)/Swedish newborns]X100=0.12%;表4参照)。
【0044】
表3:本発明の方法と従来のダイレクト法(Enlite、SCREEN-ID)の比較
※3:カットオフ20copies/μLでの評価
※4:リテスト(再測定)無しでの初回サンプル陽性率
※5:TRECsおよびKRECでの評価
【0045】
【0046】
このように従来のダイレクト法や抽出法でのTRECsを指標としたSCIDスクリーニング報告における再採血とスクリーニング陽性率を確認したところ、本発明での再採血率、スクリーニング陽性率は、これら従来の方法と比べ同等あるいは低い数値に抑えられていることが確認できる。
【0047】
スクリーニング陽性率について:
SCID患者は疫学的に5万人に1名程度との報告がある。スクリーニング検査の的中率が100%であれば、理論的にはスクリーニング陽性率は0.002%となる。本発明の方法および従来の測定法でのスクリーニング陽性率は、上記に示した通り、本数値より高い値となっている。これまでのところ地域間でのSCID患者数の有意な差は報告されていない。先天性免疫不全症の最重症型であるSCID(重症複合免疫不全症)患者を選定するスクリーニング検査としては、0.002%により近いスクリーニング陽性率での検査法が偽陽性率の低い検査法といえる。この観点より本発明の方法は従来のスクリーニング検査法に比べ優れているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によるTRECsの改良測定方法およびそれを用いたSCIDのスクリーニング方法は、新生児スクリーニング検査等において利用可能である。
【配列表】