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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】交差パイル等のパイル織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 27/00 20060101AFI20240820BHJP
   D03D 27/06 20060101ALI20240820BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20240820BHJP
   A46B 9/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
D03D27/00 A
D03D27/00 E
D03D27/06
D03D11/00 Z
A46B9/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020161523
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054363
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】394022015
【氏名又は名称】妙中パイル織物株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150153
【弁理士】
【氏名又は名称】堀家 和博
(74)【代理人】
【識別番号】100081891
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】妙中 伸行
(72)【発明者】
【氏名】妙中 清剛
(72)【発明者】
【氏名】妙中 正司
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-080012(JP,A)
【文献】特開2007-244598(JP,A)
【文献】特開2016-209210(JP,A)
【文献】特開2010-281005(JP,A)
【文献】特開2013-209774(JP,A)
【文献】特開2022-054364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18、
A47L11/00-11/40、
A46B9/02、
A47L13/00-13/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸(2)及び緯糸(3)で製織された基布(4)と、この基布(4)に織り込まれた複数のパイル糸(5)を有したパイル織物であって、
前記経糸(2)は、第1経糸(2A)と第2経糸(2B)を有し、
前記複数のパイル糸(5)それぞれは、前記経糸(2)の長手方向において前後する1本の前端側緯糸(3a)と1本以上の中間緯糸(3m)と1本の後端側緯糸(3b)によって基布(4)に係止され、
前記複数のパイル糸(5)は、前記第1経糸(2A)の下側に織り込まれた前端側緯糸(3a)の下を通過して前端側パイル片部(5A)が起立され且つ前記第1経糸(2A)の上側に織り込まれた後端側緯糸(3b)の下を通過して後端側パイル片部(5B)が起立されるパイル糸と、前記第1経糸(2A)の上側に織り込まれた前端側緯糸(3a)の下を通過して前端側パイル片部(5A)が起立され且つ前記第1経糸(2A)の下側に織り込まれた後端側緯糸(3b)の下を通過して後端側パイル片部(5B)が起立されるパイル糸を含み、
前記複数のパイル糸(5)それぞれは、前記前端側パイル片部(5A)と後端側パイル片部(5B)の間の中間部(5M)が、前記中間緯糸(3m)の上又は下を通過し、
前記前端側パイル片部(5A)は、前記前端側緯糸(3a)に隣接して第1経糸(2A)の上側に織り込まれた前端側隣接緯糸(3a’)と、前記前端側緯糸(3a)の間を通過して起立し、
前記後端側パイル片部(5B)は、前記後端側緯糸(3b)に隣接して第1経糸(2A)の上側に織り込まれた後端側隣接緯糸(3b’)と、前記後端側緯糸(3b)の間を通過して起立し、
前記前端側パイル片部(5A)のうち、前記前端側緯糸(3a)が第1経糸(2A)の下側に織り込まれた前端側パイル片部(5A)は、当該前端側緯糸(3a)を中心として前記前端側隣接緯糸(3a’)から離れる方向である後方寄りに傾斜し、又は、前記前端側緯糸(3a)が第1経糸(2A)の上側に織り込まれた前端側パイル片部(5A)は、当該前端側緯糸(3a)を中心として前記前端側隣接緯糸(3a’)に近づく方向である前方寄りに傾斜し、
前記後端側パイル片部(5B)のうち、前記後端側緯糸(3b)が第1経糸(2A)の上側に織り込まれた後端側パイル片部(5B)は、当該後端側緯糸(3b)を中心として前記後端側隣接緯糸(3b’)に近づく方向である後方寄りに傾斜し、又は、前記後端側緯糸(3b)が第1経糸(2A)の下側に織り込まれた後端側パイル片部(5B)は、当該後端側緯糸(3b)を中心として前記後端側隣接緯糸(3b’)から離れる方向である前方寄りに傾斜していることを特徴とするパイル織物。
【請求項2】
前記第1経糸(2A)の縮率は、前記第2経糸(2B)の縮率より小さいことを特徴とする請求項1に記載のパイル織物。
【請求項3】
前記複数のパイル糸(5)の少なくとも一部は、隣接するパイル糸(5)同士が、前記緯糸(3)の長手方向視で交差していることを特徴とする請求項1又は2に記載のパイル織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経糸及び緯糸で製織された基布と、この基布に織り込まれたパイル糸を有したパイル織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、台部と、この台部の一方の面に設けられた把手部と、この台部の他方の面に設けられたパイル層とを備えた清掃用ブラシが知られている(特許文献1)。
この清掃用ブラシは、上記パイル層の自由端側の端面の形状が、ほぼ直線状であってこのパイル層の全長にわたって延びている長辺縁を有していること、この長辺縁の両端部の附近に鋭角部をそれぞれ有していること、上記長辺縁の両端部をそれぞれ通りこの長辺縁に対してそれぞれ直角を成して延びている第1の仮想直線と、上記長辺縁の両端部をそれぞれ通りこれら第1の仮想直線に対してそれぞれ4~40°傾斜して延びている第2の仮想直線とに挾まれた鋭角領域が、上記台部、上記把手部および上記パイル層のいずれも存在しない自由空間であること、の点で特徴付けられ、上記台部が平板状であり、上記台部の上記他方の面に上記パイル層を有するブラシ部が設けられ、上記パイル層は、多数の単繊維を1cm当り1,000~50,000本の植毛密度でその厚みが0.8~7.8mmになるように1本ずつ直立した状態で植毛することにより構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-353103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された清掃用ブラシは、上述したように、パイル層が1本ずつただ直立した状態で植毛されていることから、何れの方向にブラッシングしてもパイルが倒れ易い(謂わば、パイルの腰が弱い)とも言え、清掃時における塵や芥を落とし難い虞がある。
【0005】
本発明は、このような点に鑑み、第1経糸下側や上側の前端側緯糸の下を通過して起立させた前端側パイル片部や、第1経糸上側や下側の後端側緯糸の下を通過して起立させた後端側パイル片部を後方や前方に傾斜させる等によって、「多方向ブラッシング性の向上」等を実現できるパイル織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るパイル織物1は、経糸2及び緯糸3で製織された基布4と、この基布4に織り込まれた複数のパイル糸5を有したパイル織物であって、前記経糸2は、第1経糸2Aと第2経糸2Bを有し、前記複数のパイル糸5それぞれは、前記経糸2の長手方向において前後する1本の前端側緯糸3aと1本以上の中間緯糸3mと1本の後端側緯糸3bによって基布4に係止され、前記複数のパイル糸5は、前記第1経糸2Aの下側に織り込まれた前端側緯糸3aの下を通過して前端側パイル片部5Aが起立され且つ前記第1経糸2Aの上側に織り込まれた後端側緯糸3bの下を通過して後端側パイル片部5Bが起立されるパイル糸と、前記第1経糸2Aの上側に織り込まれた前端側緯糸3aの下を通過して前端側パイル片部5Aが起立され且つ前記第1経糸2Aの下側に織り込まれた後端側緯糸3bの下を通過して後端側パイル片部5Bが起立されるパイル糸を含み、前記複数のパイル糸5それぞれは、前記前端側パイル片部5Aと後端側パイル片部5Bの間の中間部5Mが、前記中間緯糸3mの上又は下を通過し、前記前端側パイル片部5Aは、前記前端側緯糸3aに隣接して第1経糸2Aの上側に織り込まれた前端側隣接緯糸3a’と、前記前端側緯糸3aの間を通過して起立し、前記後端側パイル片部5Bは、前記後端側緯糸3bに隣接して第1経糸2Aの上側に織り込まれた後端側隣接緯糸3b’と、前記後端側緯糸3bの間を通過して起立し、前記前端側パイル片部5Aのうち、前記前端側緯糸3aが第1経糸2Aの下側に織り込まれた前端側パイル片部5Aは、当該前端側緯糸3aを中心として前記前端側隣接緯糸3a’から離れる方向である後方寄りに傾斜し、又は、前記前端側緯糸3aが第1経糸2Aの上側に織り込まれた前端側パイル片部5Aは、当該前端側緯糸3aを中心として前記前端側隣接緯糸3a’に近づく方向である前方寄りに傾斜し、前記後端側パイル片部5Bのうち、前記後端側緯糸3bが第1経糸2Aの上側に織り込まれた後端側パイル片部5Bは、当該後端側緯糸3bを中心として前記後端側隣接緯糸3b’に近づく方向である後方寄りに傾斜し、又は、前記後端側緯糸3bが第1経糸2Aの下側に織り込まれた後端側パイル片部5Bは、当該後端側緯糸3bを中心として前記後端側隣接緯糸3b’から離れる方向である前方寄りに傾斜していることを第1の特徴とする。
【0007】
本発明に係るパイル織物1の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、前記第1経糸2Aの縮率は、前記第2経糸2Bの縮率より小さい点にある。
【0008】
本発明に係るパイル織物1の第3の特徴は、上記第1又は2の特徴に加えて、前記複数のパイル糸5の少なくとも一部は、隣接するパイル糸5同士が、前記緯糸3の長手方向視で交差している点にある。
【0009】
その他、パイル織物1、経糸2及び緯糸3で製織された基布4と、前記基布4に織り込まれた複数のパイル糸5を有したパイル織物であって、前記複数のパイル糸5の少なくとも一部は、隣接するパイル糸5同士が、前記緯糸3の長手方向視で交差していても良い
【0010】
その他、パイル織物1は、前記隣接するパイル糸5同士は、前記緯糸3の長手方向視で逆方向に傾斜していても良い
【0011】
これらの特徴により、第1経糸2A下側や上側の前端側緯糸3aの下を通過して起立させた前端側パイル片部5Aや、第1経糸2A上側や下側の後端側緯糸3bの下を通過して起立させた後端側パイル片部5Bを後方や前方に傾斜させることで、特許文献1とは異なり、例えば、パイル織物1における後方にブラッシングした際には、前方に傾斜したパイル片部が、ただ直立しただけのパイルより倒れ難く(謂わば、パイルの腰が強く)、逆に、パイル織物1における前方にブラッシングした際には、後方に傾斜したパイル片部が、ただ直立しただけのパイルより倒れ難くなると言え、更に、パイル織物1における後方や前方に略直交する左右方向にブラッシングしても、隣接し且つ後方や前方に傾斜したパイル片部同士が互いを支え合うこととなるため、多くの様々な方向にブラッシングしても、ただ直立しただけのパイルより倒れ難く、清掃時における塵や芥をより落とし易くなる(「多方向ブラッシング性の向上」)。尚、パイル織物1は多方向ブラッシング性が向上しているため、回転ブラシ(当該パイル織物1のパイル糸5側を回転させながら清掃する対象物に当てるブラシ等)に用いてもよい。
この他、清掃時に当該パイル織物1を用いた際、塵や芥が複数のパイル糸5間に一旦挟まれば、後方や前方に傾斜した前端側パイル片部5Aや後端側パイル片部5Bの間に塵や芥を挟んだ状態が保持されるため、当該パイル織物1を用いて清掃しても、パイル糸5間の塵や芥は脱落し難くなり、塵や芥の離散が抑制される(「塵芥の離散抑制」)とも言える。
【0012】
又、第1経糸2Aの縮率を、第2経糸2Bの縮率より小さくすることで、緯糸3が第1経糸2Aの上側と下側に織り分けられ易くなり、前端側パイル片部5Aや後端側パイル片部5Bを、より安定的に後方や前方に傾斜させることが出来る。
【0013】
更に、複数のパイル糸5の少なくとも一部で、隣接するパイル糸5同士を緯糸3の長手方向視で(謂わば、側面視で)交差させることで、前端側パイル片部5Aや後端側パイル片部5Bの間に塵や芥を挟んだ状態がより強固に保持され、当該パイル織物1を用いて清掃しても、パイル糸5間の塵や芥は一層脱落し難くなり、更なる「多方向ブラッシング性の向上」が図れる。
ここで、パイル織物1は、隣接するパイル糸5同士が側面視で交差していれば、何れの織組織であっても良いとも言える。又、パイル織物1は、隣接するパイル糸5同士が側面視で交差しているのであれば、「交差パイル等のパイル織物」であるとも言える。
そして、隣接するパイル糸5同士を、緯糸3の長手方向視で(側面視で)逆方向に傾斜させることで、より更に「多方向ブラッシング性の向上」が図れるとも言える。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るパイル織物によると、第1経糸下側や上側の前端側緯糸の下を通過して起立させた前端側パイル片部や、第1経糸上側や下側の後端側緯糸の下を通過して起立させた後端側パイル片部を後方や前方に傾斜させる等によって、「多方向ブラッシング性の向上」等を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るパイル織物の表面斜視を例示する図面代用写真である。
図2】パイル織物の経糸の長手方向視を例示する図面代用写真である。
図3】パイル織物(中間緯糸が1本)の組織図である。尚、当該図3中の黒色は、パイル面視(平面視)において、経糸やパイル糸が緯糸の上側(又は上)を通過していることを意味する。又、当該図3中の緯糸に付された符号は、X-X矢視断面図における緯糸の符号を示す。
図4図3の組織図で例示されたパイル織物におけるX-X矢視断面図である。
図5図3の組織図で例示されたパイル織物におけるY-Y矢視断面図である。
図6図3の組織図で例示されたパイル織物におけるZ-Z矢視断面図である。
図7図3の組織図で例示されたパイル織物におけるV-V矢視断面図である。
図8図3の組織図で例示されたパイル織物の斜視図である。尚、当該図8中の緯糸に付された符号は、図3中のX-X矢視断面図における緯糸の符号を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
<パイル織物1の全体構成>
図1~8には、本発明の実施形態に係るパイル織物1が例示されている。
パイル織物1は、後述する経糸2及び緯糸3で製織された基布4と、この基布4に織り込まれた複数のパイル糸5を有した織物である。
【0017】
特に、図4~7に示したように、パイル織物1は、まず、それぞれ上下二重に織成される2枚のパイル織物に製織され、それらを連結しているパイル糸5を上下のパイル織物1の略中央の線(謂わば、センターカットラインC)でセンターカットして2枚のパイル織物1に分割されても良い。
パイル織物1の厚みは、基布4の厚みと、パイル糸5の上下長さ(パイル長)を足した値であって、特に限定はないが、例えば、0.5mm以上5.0mm以下、好ましくは0.7mm以上4.5mm以下、更に好ましくは1.0mm以上4.0mm以下(2.0mmや2.2mm)であっても良い。
【0018】
<経糸2>
図1~8で示したように、経糸2は、製織される基布4における製織方向(一方向)又は、経糸2の長手方向2L(両方向、経方向とも言う)に沿って配置されている(換言すれば、織幅方向に並んで配置されている)。
経糸2は、モノフィラメントやマルチフィラメントなど何れの構成でも良く、経糸2の総繊度も、特に制限はないが、例えば、20d(デニール)以上1500d以下、好ましくは50d以上1000d以下、更に好ましくは100d以上600d以下であっても構わない。又、経糸2の単繊維繊度も、特に制限はないが、例えば、0.1d(デニール)以上1500d以下、好ましくは0.5d以上1000d以下、更に好ましくは1d以上600d以下であっても良い。
【0019】
経糸2の素材も、同様に特に制限はないが、例えば、コットン繊維や、PETなどのポリエステル繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、アセテート繊維、これらの交撚糸、混紡糸などでも良い。
又、経糸2の1インチに当りの本数も、特に制限はなく、例えば、10以上30本以下(21本)等であっても良い。
【0020】
<各経糸2A、2B>
図1~8に示したように、経糸2は、緯糸3と製織されて基布4を構成するのであれば、何れの組織でも良いが、例えば、第1経糸2Aと第2経糸2Bを有していて、これら2種類の経糸2A、2Bは、2本1組で織幅方向に並んで配置されていても良い。
第1経糸2Aと第2経糸2Bは、その繊度(総繊度)が略同じであったり、逆に異なっていても良く、又、第1経糸2Aと第2経糸2Bは、その素材も、互いに同じであったり、逆に異なっていても構わない。
【0021】
<各経糸2A、2Bの縮率S>
上述した第1経糸2A、第2経糸2Bの縮率Sは、特に限定はないが、例えば、第1経糸2Aの縮率SAは、第2経糸2Bの縮率SBより小さくても良い。
ここで、本発明における「経糸2の縮率S」とは、織成された後のパイル織物1における経糸2の長手方向2Lに略沿った当該パイル織物1の一定の長さL1と、この当該パイル織物1に織り込まれ且つパイル織物1の一定の長さL1に対応する経糸2(当該パイル織物1のうち長さL1を測った部分における第1経糸2Aや、第2経糸2B)自体の長さL2と、経糸2自体の長さL2とパイル織物1の一定の長さL1との差ΔL(=L2-L1)を求め、この差ΔLにおける当該パイル織物1の一定の長さL1に対する比率S(=100×ΔL/L1)を意味する。
尚、第1経糸2Aの縮率SAが第2経糸2Bの縮率SBよりも少ない(SA<SB)場合には、パイル織物1の一定の長さL1を織成するために必要とされる第2経糸2Bの長さ量(持ち掛かり量)が、第1経糸2Aの長さ量(持ち掛かり量)よりも多いとも言え、当該パイル織物1の一定の長さL1において第1経糸2Aよりも第2経糸2Bが大きく曲折し、第2経糸2Bに比べて第1経糸2Aの曲折が少なく、略一直線状に織り込まれている状態を示すとも言える。
【0022】
第1経糸2Aの縮率SAが第2経糸2Bの縮率SBより小さい場合、パイル織物1は、基布4が第1経糸2Aの上側と下側に緯糸が織り分けられた二層構造になっているとも言える。換言すれば、縮率Sの少ない第1経糸2Aは基布4において緊張状態になる一方、縮率Sの多い第2経糸2Bは基布4において弛緩状態になるので、第1経糸2Aと第2経糸2Bが形成する開口に順次打ち込まれる緯糸は緊張状態にある第1経糸2Aの上側と下側に織り分けられ、基布4が第1経糸2Aの上側と下側に緯糸が織り分けられた二層構造になるとも言える。
パイル織物1は、第1経糸2Aの上側と下側に織り分けられた緯糸が第2経糸2Bによって第1経糸2Aへと締め付けられていても良く、上述した二層構造を構成している基布4において、第1経糸2Aの下側に織り込まれた前端側緯糸3aは第2経糸2Bに吊り上げられるように第1経糸2Aへと締め付けられ、第1経糸2Aの上側に織り込まれた後端側緯糸22は第2経糸2Bに押し下げられるように第1経糸2Aへと締め付けられるとも言える。
【0023】
ここで、本発明における「第1経糸2Aの上側」や「第1経糸2Aの下側」とは、パイル面を上向きにテーブルに水平に載せたパイル織物の第1経糸を基準とする「第1経糸2Aのパイル面側」を「第1経糸2Aの上側」を意味し、又、「第1経糸2Aのパイル面とは反対側となる裏側」を「第1経糸2Aの下側」を意味する用語であり、その「第1経糸2Aの上側」及び「第1経糸2Aの下側」との用語は、水平に織成されるパイル織物の製織過程において順次打ち込まれる複数本の緯糸の上下の位置関係を意味しない。
【0024】
<緯糸3>
図1~8に示したように、緯糸3は、製織される基布4における織幅方向又は緯糸3の長手方向3L(両方向、緯方向とも言う。)に沿って配置されている(換言すれば、製織方向に並んで配置されている)。
緯糸3も、モノフィラメントやマルチフィラメントなど何れの構成でも良く、緯糸3の総繊度も、特に制限はないが、例えば、20d(デニール)以上1500d以下、好ましくは50d以上1000d以下、更に好ましくは100d以上600d以下であったり、その他、綿番手の20番手単糸を2本撚り合わせた双糸(20/2)であっても構わない。又、緯糸3の単繊維繊度も、特に制限はないが、例えば、0.1d(デニール)以上1500d以下、好ましくは0.5d以上1000d以下、更に好ましくは1d以上600d以下であっても良い。
【0025】
緯糸3の素材も、同様に特に制限はないが、例えば、コットン繊維や、PETなどのポリエステル繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、アセテート繊維、これらの交撚糸、混紡糸などでも良い。
又、緯糸3の打込み本数(1インチにおいて打ち込んだ緯糸3の本数)も、特に制限はなく、例えば、40本以上220本以下(100本)等であっても良い。
【0026】
<各緯糸3a、3a’、3b、3b’、3m>
図1~8に示したように、緯糸3は、経糸2と製織されて基布4を構成するのであれば、何れの組織でも良いが、例えば、前端側緯糸3aや前端側隣接緯糸3a’、後端側緯糸3b、後端側隣接緯糸3b’、中間緯糸3mを有していても良く、これらの緯糸3a、3a’、3b、3b’、3mは、製織方向に並んで配置されていても良い。
ここで、前端側緯糸3aは、経糸2の長手方向2Lにおいて前後する3本以上の緯糸3のうち最も前側にあり且つ第1経糸2Aの下側又は上側に織り込まれた緯糸3であり、前端側隣接緯糸3a’は、上述した前端側緯糸3aに隣接し且つ後述する中間緯糸3m以外の第1経糸2Aの上側に織り込まれた緯糸3であり、後端側緯糸3bは、経糸2の長手方向2Lにおいて前後する3本以上の緯糸3のうち最も後側にあり且つ第1経糸2Aの上側又は下側に織り込まれた緯糸3であり、後端側隣接緯糸3b’は、上述した後端側緯糸3bに隣接し且つ後述する中間緯糸3m以外の第1経糸2Aの上側に織り込まれた緯糸3であり、中間緯糸3mは、経糸2の長手方向2Lにおいて前後する3本以上の緯糸3のうち上述した前端側緯糸3a及び後端側緯糸3b以外の緯糸3(前端側緯糸3aと後端側緯糸3bの間の緯糸3)である。
【0027】
前端側緯糸3aや前端側隣接緯糸3a’、後端側緯糸3b、後端側隣接緯糸3b’、中間緯糸3mは、その繊度(総繊度)が全て略同じであったり、逆に少なくとも2つが互いに異なっていても良く、又、前端側緯糸3aや前端側隣接緯糸3a’、後端側緯糸3b、後端側隣接緯糸3b’、中間緯糸3mは、その素材も、互いに同じであったり、逆に少なくとも2つが異なっていても構わない。
その他、各緯糸3a、3a’、3b、3b’、3mそれぞれに対しては、複数のパイル糸5が経糸2の長手方向2Lに沿って、緯糸3の1本以上(又は、0本)ズレて係止されており、あるパイル糸5にとっては、前端側緯糸3aとなる緯糸3や、別のパイル糸5にとっては、前端側隣接緯糸3a’となったり、後端側緯糸3bや、後端側隣接緯糸3b’、中間緯糸3mとなっても(兼用されていても)良い。
【0028】
尚、各緯糸3a、3a’、3b、3b’、3mの本数は、後述する1本のパイル糸5に対して、前端側緯糸3aや前端側隣接緯糸3a’、後端側緯糸3b、後端側隣接緯糸3b’は、それぞれ1本ずつであると言えるが、中間緯糸3mは、1本以上(1本や、2本、3本・・・など)であっても良い。
よって、各パイル糸5が係止する、製織方向に前後する緯糸3(前端側緯糸3aや後端側緯糸3b、中間緯糸3m)の本数は、3本以上であるとも言える。
【0029】
<基布4>
図1~8に示したように、基布4は、上述した経糸2(第1経糸2A、第2経糸2B)と、緯糸3(前端側緯糸3aや前端側隣接緯糸3a’、後端側緯糸3b、後端側隣接緯糸3b’、中間緯糸3m)を製織して構成される。
基布4の組織(織組織)は、特に制限はないが、例えば、経糸2における第1経糸2Aと第2経糸2Bが2本1組で織幅方向に並んで配置され、各第1経糸2Aは、複数本の緯糸3の上を通る毎に複数本の緯糸3の下を通っていても良い。
つまり、各第1経糸2Aは、各緯糸3と綾織組織を構成しているとも言える。
【0030】
一方、各第2経糸2Bは、1本の緯糸3の上を通る毎に1本以上の緯糸3の下を通っていても良く、各緯糸3と平織組織、又は、綾織組織を構成しているとも言える。
詳解すれば、各第2経糸2Bは、1本の緯糸3の上を通る毎に1本の緯糸3の下を通る場合(平織組織)と、1本の緯糸3の上を通る毎に2本の緯糸3の下を通る場合(綾織組織)と、1本の緯糸3の上を通る毎に3本の緯糸3の下を通る場合(綾織組織)の何れでも構わない。
【0031】
ここで、各第1経糸2Aが2本の緯糸3の上を通る毎に2本の緯糸3の下を通り、且つ、各第2経糸2Bが1本の緯糸3の上を通る毎に1本の緯糸3の下を通っている場合、第2経糸2Bのうち、各第1経糸2Aが上を通る2本の緯糸3における「前側に位置する1本の緯糸3の『上』」を通る毎に、各第1経糸2Aが上を通る2本の緯糸3における「後側に位置する1本の緯糸3の緯糸3の『下』」を通る第2経糸2Bを、第2経糸2B-1とし、この第2経糸2B-1とは逆に、各第1経糸2Aが上を通る2本の緯糸3における「前側に位置する1本の緯糸3の『下』」を通る毎に、各第1経糸2Aが上を通る2本の緯糸3における「後側に位置する1本の緯糸3の緯糸3の『上』」を通る第2経糸2Bを、第2経糸2B-2とする(図3~8参照)。
【0032】
基布4の厚みは、特に限定はないが、例えば、0.01mm以上1.00mm以下、好ましくは0.05mm以上0.90mm以下、更に好ましくは0.10mm以上0.80mm以下(0.3mm)であっても良い。
又、基布4の幅も、特に限定はなく、例えば、20~100インチ(65インチ)であっても良い。更に、基布4やパイル5を製織する織機の筬の数も、特に限定はなく、例えば、10羽/インチ以上90羽/インチ以下であっても良い。
【0033】
<パイル糸5>
図1~8に示したように、パイル糸5は、上述した基布4に複数織り込まれている。
パイル糸5は、基布4に織り込まれているのであれば、何れの構成でも良いが、例えば、2本1組となった第1経糸2Aと第2経糸2Bの間に、製織方向に沿って複数配置されても良い。
【0034】
又、各パイル糸5は、製織方向に前後する3本以上の緯糸3(上述した前端側緯糸3aや後端側緯糸3b、中間緯糸3m)に対して、1本の緯糸3の下を通る毎に1本の緯糸3の上を通った後に1本の緯糸3の下を通っていたり、1本の緯糸3の下を通る毎に2本以上の緯糸3の上を通った後に1本の緯糸3の下を通っていたり、2本以上の緯糸3の下を通る毎に1本の緯糸3の上を通った後に2本以上の緯糸3の下を通っていたり、2本以上の緯糸3の下を通る毎に2本以上の緯糸3の上を通った後に2本以上の緯糸3の下を通っていても良い。
この場合、基布4に織り込まれた各パイル糸5は、ファストパイル(Fast Pile )を構成しているとも言える。
【0035】
各パイル糸5は、モノフィラメントやマルチフィラメントなど何れの構成でも良く、パイル糸5の総繊度も、特に制限はないが、例えば、20d(デニール)以上1500d以下、好ましくは50d以上1000d以下、更に好ましくは100d以上600d以下であっても良い。又、パイル糸5の単繊維繊度も、特に制限はないが、例えば、0.1d(デニール)以上1500d以下、好ましくは0.5d以上1000d以下、更に好ましくは1d以上600d以下であっても良い。
各パイル糸5の素材も、同様に特に制限はないが、例えば、ナイロン繊維や、PETなどのポリエステル繊維、コットン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、これらの交撚糸、混紡糸などでも良い。
又、各パイル糸5の1インチに当りの本数も、特に制限はなく、例えば、10本以上100本以下等であっても良い。
【0036】
<前端側パイル片部5A、後端側パイル片部5B、中間部5M>
図1~8に示したように、前端側パイル片部5A、後端側パイル片部5Bは、前後する3本以上の緯糸3(上述した前端側緯糸3aや後端側緯糸3b、中間緯糸3m)における最も前方の前端側緯糸3aの下を通った後に基布4から突出する前端側パイル片部5Aと、前後する3本以上の緯糸3における最も後方の後端側緯糸3bの下を通った後に基布4から突出する後端側パイル片部5Bを形成しても良い。尚、これらパイル片部5A、5Bは突出した側の面をパイル面とも言う。
ここで、上述した各第2経糸2Bは、前端側緯糸3aと後端側緯糸3bのうちの少なくとも一方の緯糸3の上を通っていても良い。
【0037】
これによって、各パイル糸5のパイル片部5A、5Bが基布4の製織方向(経糸2の長手方向2L)に傾斜した状態に保持されるように形態安定加工を別途することなく、基布4の製織、パイル糸5の織り込みを行うだけで、パイル片部5A、5Bを、製織方向に傾斜させることが可能となる。
各パイル糸5は、経糸2の長手方向2Lにおいて前後する1本の前端側緯糸3aと1本以上の中間緯糸3mと1本の後端側緯糸3bによって基布4に係止されることを示している。
【0038】
1つのパイル織物1における複数のパイル糸5は、第1経糸2Aの下側に織り込まれた前端側緯糸3aの下を通過して前端側パイル片部5Aが起立されると同時に、第1経糸2Aの上側に織り込まれた後端側緯糸3bの下を通過して後端側パイル片部5Bが起立されるパイル糸5であったり、又、第1経糸2Aの上側に織り込まれた前端側緯糸3aの下を通過して前端側パイル片部5Aが起立されると同時に、第1経糸2Aの下側に織り込まれた後端側緯糸3bの下を通過して後端側パイル片部5Bが起立されるパイル糸5を含んでいる。
一方、1つのパイル織物1における複数のパイル糸5それぞれ(各パイル糸5)は、前端側パイル片部5Aと後端側パイル片部5Bの間に、中間部5Mを有しており、この中間部5Mが、上述した中間緯糸3mの上又は下を通過する。
【0039】
この中間部5Mと、1本以上である中間緯糸3mとの関係を詳解すれば、中間緯糸3mが1本であれば、各パイル糸5は、製織方向に前後する3本の緯糸3(それぞれ1本の前端側緯糸3aや後端側緯糸3b、中間緯糸3m)に対して、最も前方の前端側緯糸3aの下を通り、その後に1本の中間緯糸3mの上を通り、その後に最も後方の後端側緯糸3bの下を通ることとなる。
又、中間緯糸3mが2本であれば、各パイル糸5は、製織方向に前後する4本の緯糸3(それぞれ1本の前端側緯糸3aや後端側緯糸3bと、2本の中間緯糸3m)に対して、最も前方の前端側緯糸3aの下を通り、例えば、その後に2本の中間緯糸3mの上を纏めて通り、その後に最も後方の後端側緯糸3bの下を通ることとなっても良い。
【0040】
以下同様に、中間緯糸3mが3本であれば、各パイル糸5は、製織方向に前後する5本の緯糸3(それぞれ1本の前端側緯糸3aや後端側緯糸3bと、3本の中間緯糸3m)に対して、最も前方の前端側緯糸3aの下を通り、例えば、その後に1本の中間緯糸3mの上を通る毎に1本の中間緯糸3mの上を通り(3本の中間緯糸3mのうち、最も前方の中間緯糸3mの上を通り、その後に製織方向中央の中間緯糸3mの下を通り、その後に最も後方の中間緯糸3mの上を通り)、その後に最も後方の後端側緯糸3bの下を通ることとなっても良い。
更に、各パイル糸5は、中間緯糸3mが5本であれば、製織方向に前後する7本の緯糸3(それぞれ1本の前端側緯糸3aや後端側緯糸3bと、5本の中間緯糸3m)に対して、最も前方の前端側緯糸3aの下を通り、例えば、その後に1本の中間緯糸3mの上を通る毎に1本の中間緯糸3mの上を通り(5本の中間緯糸3mのうち、最も前方の中間緯糸3mの上を通り、その後に次に前方の中間緯糸3mの下を通り、その後に製織方向中央の中間緯糸3mの下を通り、その後に製織方向中央の次に後方の中間緯糸3mの上を通り、その後に最も後方の中間緯糸3mの上を通り)、その後に最も後方の後端側緯糸3bの下を通ることとなっても良い。
その他、各パイル糸5は、製織方向に前後する9本以上の緯糸3に対しても同様である。
【0041】
又、各パイル糸5における前端側パイル片部5Aは、前端側緯糸3aに隣接して第1経糸2Aの上側に織り込まれた前端側隣接緯糸3a’と、当該前端側緯糸3aの間を通過して起立していると言える。
一方、各パイル糸5における後端側パイル片部5Bは、後端側緯糸3bに隣接して第1経糸2Aの上側に織り込まれた後端側隣接緯糸3b’と、当該後端側緯糸3bの間を通過して起立していると言える。
【0042】
各パイル糸5における前端側パイル片部5Aのうち、前端側緯糸3aが第1経糸2Aの下側に織り込まれた前端側パイル片部5Aは、当該前端側緯糸3aを中心として前端側隣接緯糸3a’から離れる方向である後方寄りに傾斜することとなり、前端側緯糸3aが第1経糸2Aの上側に織り込まれた前端側パイル片部5Aは、当該前端側緯糸3aを中心として前端側隣接緯糸3a’に近づく方向である前方寄りに傾斜することとなる。
これに対して、各パイル糸5における後端側パイル片部5Bのうち、後端側緯糸3bが第1経糸2Aの上側に織り込まれた後端側パイル片部5Bは、当該後端側緯糸3bを中心として後端側隣接緯糸3b’に近づく方向である後方寄りに傾斜することとなり、後端側緯糸3bが第1経糸2Aの下側に織り込まれた後端側パイル片部5Bは、当該後端側緯糸3bを中心として後端側隣接緯糸3b’から離れる方向である前方寄りに傾斜することとなる。
【0043】
ここで、パイル糸5が係止している緯糸3が3本(中間緯糸3mが1本)であり、且つ、16本(又は8本)の緯糸3で1つの完全組織となる場合、図3~8に示したように、これら16本の緯糸3に1~16までの番号を仮に付けたとすると、パイル糸5のうち、各パイル片部5A、5Bが「『後方』寄り傾斜し、略中央部と後部(例えば、7番、15番)」から緯糸3に係止するパイル糸5を、パイル糸5-1とし、以下同様に、各パイル片部5A、5Bが「『前方』寄り傾斜し、略中央部と後部(例えば、6番、14番)」から緯糸3に係止するパイル糸5を、パイル糸5-2とし、各パイル片部5A、5Bが「『後方』寄り傾斜し、前半部と後半部(例えば、3番、11番)」から緯糸3に係止するパイル糸5を、パイル糸5-3とし、以下同様に、各パイル片部5A、5Bが「『前方』寄り傾斜し、前部と略中央部(例えば、2番、10番)」から緯糸3に係止するパイル糸5を、パイル糸5-4とする(図3~8参照)。
【0044】
尚、前端側パイル片部5Aと後端側パイル片部5Bの傾斜方向の1つである「後方寄り」とは、経糸2の長手方向2Lに略沿う方向の他、経糸2の長手方向2Lを挟んで緯糸3の長手方向3Lの何れかの方向に向いた角度としては、0°以上60°以下、好ましくは0°以上50°以下、0°以上45°以下に向いた方向であっても良い。
又、前端側パイル片部5Aと後端側パイル片部5Bの傾斜方向のもう一方である「前方寄り」とは、経糸2の長手方向2Lに略沿い且つ上述した「後方寄り」とは逆方向である方向の他、上述した「後方寄り」とは逆方向で且つ経糸2の長手方向2Lを挟んで緯糸3の長手方向3Lの何れかの方向に向いた角度としては、0°以上60°以下、好ましくは0°以上50°以下、0°以上45°以下に向いた方向であっても良い。
【0045】
各パイル糸5における前端側パイル片部5Aや後端側パイル片部5Bの基布4(基布4の上面(表面))に対する傾斜角度αは、10°以上80°以下でも良く、好ましくは30°以上75°以下、更に好ましくは50°以上70°以下(60°や、65°など)であっても構わない。
パイル糸5の上下長さ(パイル長)とは、これら各パイル片部5A、5Bの上下方向の長さであって、特に制限はないが、例えば、0.4mm以上5.0mm以下、好ましくは0.6mm以上4.5mm以下、更に好ましくは0.9mm以上4.0mm以下(1.7mmや1.9mm)であっても良い。
【0046】
ここまで述べた複数のパイル糸5は、その少なくとも一部において、隣接するパイル糸5同士が、緯糸3の長手方向視で(側面視で)交差していても良い。
緯糸3の長手方向視で(側面視で)「交差」とは、同方向に傾斜し且つ交差している場合と、逆方向に傾斜し且つ交差している場合を含む。
又、上述した隣接するパイル同士5は、緯糸3の長手方向視で逆方向に傾斜していても良い。
【0047】
<その他>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。パイル織物1等の各構成又は全体の構造、形状、寸法などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することが出来る。
パイル糸5(前端側パイル片部5Aと後端側パイル片部5B)は、後方寄り又は前方寄りに傾斜していれば、緯糸3の長手方向視で(側面視で)交差していなくとも良い。
【0048】
パイル織物1は、上述した基布4に係止されたパイル糸5と、当該パイル糸5が係止されていない無パイル糸部分5’が、第1経糸2Aと第2経糸2Bに略沿って(経糸2の長手方向2Lに略沿って)交互に形成されていても良い。
又、無パイル糸部分5’に、上述した前端側隣接緯糸3a’や後端側隣接緯糸3b’が配置されていても良い。
【0049】
パイル織物1は、上述した基布4に係止されたパイル糸5と、当該パイル糸5が係止されていない無パイル糸部分5’が、緯糸3である前端側緯糸3aや前端側隣接緯糸3a’、後端側緯糸3b、後端側隣接緯糸3b’、中間緯糸3mに略沿って(緯糸3の長手方向3Lに略沿って)交互に形成されていても良い。
パイル織物1は、基布4に係止されたパイル糸5が、第1経糸2Aと第2経糸2Bに略沿って略列状に形成されたパイル列と、当該パイル糸5が係止されていない無パイル糸部分5’が、第1経糸2Aと第2経糸2Bに略沿って略列状に形成された無パイル列を有していても良く、これらのパイル列と無パイル列が、ストライプ縞模様状となっていても構わない。又、無パイル糸部分5’は、緯糸3のうち、上述した前端側緯糸3aや前端側隣接緯糸3a’、後端側緯糸3b、後端側隣接緯糸3b’、中間緯糸3m以外の緯糸3によって製織されている部分とも言える他、無パイル糸部分5’は、緯糸3ではなく、パイル織物1として、各パイル片部5A、5Bは突出していない基布4の上面(表面)であるとも言える。
基布4の裏面に、アクリル樹脂系接着剤などの合成樹脂を塗布して、バックコーティング(バッキング)していても良い。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るパイル織物は、電気掃除機のノズルにおける吸込口の周辺に用いるなど、空気等の気体の吸込口周辺に利用可能であり、又、握り柄付きブラシ支桿や回転ブラシ円筒に装着して使用することが出来、その他、布帛表面の塵埃拭取り、衣服表面の塵埃拭取り、シーツ表面の塵埃拭取り、ソファやベッド表面の塵埃拭取り、座席表面の塵埃拭取り、液晶パネル表面の塵埃拭取り、プラスチックフィルム表面の塵埃拭取り、金属シート表面の塵埃拭取り等にも使用できるなど、塵芥を掃き取る何れの製品にも利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 パイル織物
2 経糸
2A 第1経糸
2B 第2経糸
3 緯糸
3a 前端側緯糸
3a’ 前端側隣接緯糸
3b 後端側緯糸
3b’ 後端側隣接緯糸
3m 中間緯糸
4 基布
5 パイル糸
5A 前端側パイル片部
5B 後端側パイル片部
5M 中間部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8