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特許75406668位にフッ素原子含有官能基を有するグアノシン誘導体の製造法及びその応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】8位にフッ素原子含有官能基を有するグアノシン誘導体の製造法及びその応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20240820BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20240820BHJP
   C07H 19/207 20060101ALN20240820BHJP
   C07H 19/173 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
C12Q1/6806
C07H19/207
C07H19/173
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020546848
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2019033875
(87)【国際公開番号】W WO2020054444
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2018172013
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】徐 岩
(72)【発明者】
【氏名】石塚 匠
(72)【発明者】
【氏名】鮑 宏亮
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-060394(JP,A)
【文献】国際公開第2007/055170(WO,A1)
【文献】Journal of Nucleic Acids,2011年,2011, ID.805253,1-19
【文献】Tetrahedron,2008年,64,3578-3588
【文献】Analytical Biochemistry,1979年,99,189-199
【文献】MedChemComm,2013年,4,1405-1410
【文献】Chemische Berichte,1972年,105,1497-1509
【文献】Nuclear Medicine and Biology,2000年,27,157-162
【文献】Journal of the American Chemical Society,2003年,125,13519-13524
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
C12N
C12Q
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1で表されるグアノシン誘導体化合物において,
R1およびR2は,いずれか一方がHであって,他方が,H,OH,OCH3,Fのいずれかで表され,
R3は,C19F3で表され,
R4は,DMF基,アセチル基,フェノキシアセチル基,4-イソプロピルフェノキシアセチル基,Hのいずれかで表され,
R5が4,4'-ジメトキシトリチル基,モノメトキシトリチル基のいずれかで表され,
R6が,化3で表される,
グアノシン誘導体化合物を,
1つ又は複数用い構成配列の一部として合成された化4で表される核酸であって,
前記核酸を核酸アプタマーとして用い,結合させた高次構造の安定性を向上させる安定化方法。
【化1】

【化3】

【化4】
(式中,X,Yは,リボ核酸またはデオキシリボ核酸で表される。)

【請求項2】
化1で表されるグアノシン誘導体化合物において,
R1およびR2は,いずれか一方がHであって,他方が,H,OH,OCH3,Fのいずれかで表され,
R3は,C19F3で表され,
R4は,DMF基,アセチル基,フェノキシアセチル基,4-イソプロピルフェノキシアセチル基,Hのいずれかで表され,
R5が4,4'-ジメトキシトリチル基,モノメトキシトリチル基のいずれかで表され,
R6が,化3で表される,
グアノシン誘導体化合物を,
1つ又は複数用い構成配列の一部として合成された化4で表される核酸であって,
前記核酸をNMRにより検出を行う核酸検出方法。
【化1】

【化3】

【化4】
(式中,X,Yは,リボ核酸またはデオキシリボ核酸で表される。)
【請求項3】
細胞内に取り込まれた前記核酸の検出を行う請求項2に記載の核酸検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,グアノシン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAは,アデニン,チミン,グアニン,シトシンの4種類の核酸塩基から構成され,2本のポリヌクレオチド鎖による二重らせん構造を基本的な構造とすることが知られている。加えて,DNAは,複雑な高次構造を有するとともに,この高次構造により機能のオンオフの調整を行っていることなどが明らかとなってきている。また,RNAについても,フォールディングにより二次構造を変化させることなどが知られている。
これらのことから,核酸の高次構造をダイナミックに解析し,その機能を明らかにすることは,生体機能の解析や医薬品開発などにとって,極めて重要である。これを目的とした種々の技術が開示されている(特許文献1,非特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2007/055170号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【文献】8-Methylguanosine: A Powerful Z-DNA Stabilizer, J. AM. CHEM. SOC. 2003, 125, 13519-13524.
【文献】Trifluoromethyl derivatives of canonical nucleosides: synthesis and bioactivity studies, Med. Chem. Commun., 2013, 4, 1405-1410.
【文献】Ultrafast Reversible Photo-Cross-Linking Reaction: Toward in Situ DNA Manipulation, ORGANIC LETTERS, 2008, Vol.10, No.15, p3227-3230.
【文献】Efficient synthesis of 3-cyanovinylcarbazole-10-b-deoxyriboside-50-triphosphate:a reversible photo-cross-linking probe. Tetrahedron Letters, 2012, 53, p4012-4014.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には,パーフルオロアルキル基を有する核酸塩基類およびその製造方法に関する技術が開示されている。
非特許文献2には,Z-DNAの構造を安定化するための化合物に関する技術が開示されている。
非特許文献3には,核酸のトリフルオロメチル誘導体の製造方法が開示されており,これを用いて,インビトロにおける腫瘍細胞への毒性評価が行われている。
【0006】
これら先行技術に見られるように,核酸を安定化する技術や,核酸そのものを誘導体化する技術は存在する。加えて,核酸を,放射性ヨウ素などで標識し,検出可能とする技術は存在する。
しかしながら,核酸の高次構造を安定化し,かつ,これを検出可能とする技術は存在しない。
【0007】
上記事情を背景として,本発明では,核酸の高次構造を安定化し,かつ,核酸構造の解析に用いることが可能な技術の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは,鋭意研究の結果,核酸塩基の一つであるグアノシンを基礎として,これに核酸導入基と19Fを有する官能基を導入したグアノシン誘導体を合成することに成功した。かかるグアノシン誘導体を,核酸配列の一部に導入することで,かかる核酸がDNAを安定化するとともに,NMRによる検出を可能とすることを見出し,発明を完成させたものである。
【0009】
本発明は,以下の構成からなる。
本発明の第一の構成は,化1で表されるグアノシン誘導体であって,
R1およびR2は,いずれか一方がHであって,他方が,H,OH,OCH3,Fのいずれかで表され,
R3は,19Fを有する検出用官能基で表され,
R4は,アミン保護基又はHで表され,
R5又はR6のいずれかが,核酸へ導入するための導入用官能基で表される,
ことを特徴とするグアノシン誘導体化合物である。
【化1】
【0010】
本発明の第二の構成は,R1およびR2が,いずれか一方がHであって,他方が,HまたはOHのいずれかで表される第一の構成に記載のグアノシン誘導体化合物である。
本発明の第三の構成は,R3が,化2で表される置換基のいずれかである第一の構成に記載のグアノシン誘導体化合物である。
(式中,nは1から10の整数,Fは19Fとして表される)
【化2】
本発明の第四の構成は,R4が,ジメチルホルムアミジル基,イソブチリル基,アセチル基,フェノキシアセチル基,4-イソプロピルフェノキシアセチル基のいずれかで表される第一から第三の構成いずれかに記載のグアノシン誘導体化合物である。
本発明の第五の構成は,R6が,リン酸化アミダイド基で表される第一から第四の構成いずれかに記載のグアノシン誘導体化合物である。
本発明の第六の構成は,R6が,化3で表される第五の構成に記載のグアノシン誘導体化合物である。
【化3】

本発明の第七の構成は,R5が,4,4'-ジメトキシトリチル基,モノメトキシトリチル基のいずれかで表される第五又は第六の構成に記載のグアノシン誘導体化合物である。
本発明の第八の構成は,R5が三リン酸基,R6が水酸基で表される第一から第四の構成いずれかに記載のグアノシン誘導体化合物である。
【0011】
本発明の第九の構成は,前記第一から第八の構成いずれかに記載のグアノシン誘導体化合物を,1つ又は複数用い構成配列の一部として合成された核酸であって,
化4で表される構成単位を少なくとも1つ含む核酸である。
(式中,X,Yは,リボ核酸またはデオキシリボ核酸で表される。)
【化4】
本発明の第十の構成は,前記第九の構成に記載の核酸を用いて,核酸アプタマーの安定性を向上させる安定化方法である。
本発明の第十一の構成は,前記第九の構成に記載の核酸を核酸アプタマーとして用いて,標的蛋白質などと特異的に結合させ,標的蛋白質の機能を阻害する阻害方法である。
本発明の第十二の構成は,前記第八の構成に記載の核酸を用いて,NMRにより検出を行う核酸検出方法である。
本発明の第十三の構成は,細胞内に取り込まれた核酸の検出を行う第十二の構成に記載の核酸検出方法である。
【0012】
本発明の第十四の構成は,化5で表される,グアノシン誘導体化合物の製造方法であって,
グアノシンを出発物質として,8位に19Fを含む官能基(R3)を導入する検出用官能基導入工程と,
核酸塩基部分のアミノ基にアミノ基保護基(R4)を導入するアミノ基保護工程と,
糖骨格における5’に水酸基保護基(R5)を導入する水酸基保護工程と,
糖骨格における3’の水酸基にリン酸化アミダイド基(R6)を導入するアミダイド基導入工程と,
からなることを特徴とするグアノシン誘導体化合物の製造方法である。
【化5】
(式中,R1およびR2は,いずれか一方がHであって,他方が,H,OH,OCH3,Fのいずれかで表される)
【発明の効果】
【0013】
本発明により,核酸の高次構造を安定化し,かつ,核酸構造の解析に用いることが可能な技術の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のグアノシン誘導体化合物の合成方法を示した図。
図2】本発明のグアノシン誘導体化合物の1H NMR結果を示した図。
図3】本発明のグアノシン誘導体化合物の19F NMR結果を示した図。
図4】本発明のグアノシン誘導体化合物の31P NMR結果を示した図。
図5】本発明のグアノシン誘導体化合物のHR Mass結果を示した図。
図6】ODN1を用いて,核酸構造の安定性を評価した結果を示した図。
図7】ODN2ならびにODN5を用いて,核酸構造の安定性を評価した結果を示した図。
図8】本発明のグアノシン誘導体化合物を導入したODN4と,それに相当するODN8の化学的性質を比較した結果を表した図。
図9】本発明のグアノシン誘導体化合物を導入したODN3と,それに相当するODN6を用いて,ODN7との高次構造における化学的性質を比較した結果を表した図。
図10】ODN1を用いて,NaCl濃度を変化させた場合の19F NMRの推移,ならびにZ-DNA ratioの結果を表した図。
図11】ODN2ならびにODN5を用いて,NaCl濃度を変化させた場合の19F NMRの推移,ならびにZ-DNA ratioの結果を表した図。
図12】ODN3ならびにODN7を用いて,ODN3/ODN7比や反応温度を変化させ,19F NMRの推移を調べた結果を示した図。
図13】ODN1を含む培地でHela細胞の培養を行い,培地と細胞を精製分離後の19F NMRの結果を示した図。
図14】塩化鉄傷害血栓モデルを用いた血液凝固評価の結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のグアノシン誘導体化合物等について説明を行う。
【0016】
本発明のグアノシン誘導体化合物は,下記化6で表されるグアノシン誘導体化合物であることを特徴とする。
すなわち,本発明のグアノシン誘導体化合物は,核酸配列の一部として導入することが可能であり,グアニンに相当する化合物として機能するものである。また,これを導入して作製された核酸は,高次構造を安定化するとともに,高次構造を形成した状態で,19F NMRによる動的検出を可能とするものである。
【0017】
【化6】
【0018】
前記化6において,R1およびR2は,いずれか一方がHであって,他方が,H,OH,OCH3,Fのいずれかで表さる。
すなわち,R1およびR2のいずれもがHの場合,デオキシグアノシン誘導体化合物として,DNAの核酸配列の一部として導入できるものである。また,R1およびR2のいずれかがOHの場合,グアノシン誘導体(非デオキシグアノシン誘導体)として,RNAの核酸配列の一部として導入できるものである。加えて,R1およびR2のいずれかがOCH3の場合,2’がメチル化されたメチルグアノシン誘導体として核酸配列の一部に導入できるものである。さらに,R1およびR2のいずれかがFの場合,Fを18Fや19Fなどとすることにより,検出用化合物として核酸配列の一部に導入できるものである。
【0019】
前記化6において,R319Fを有する検出用官能基で表される。すなわち,R319Fを有することにより,19F NMRでの動的検出を可能とするものである。また,これが塩基内に導入されていることにより,核酸の高次構造を安定化させる効果を合わせ持つものである。R3は,19Fによる動的検出ならびに化学的安定性を備える限り特に限定する必要はなく,種々の構造とすることができる。
R3として典型的には,下記化7で表される置換基のいずれかの官能基を用いることができる。式中,Fは19Fとして表されるものである。また,式中,nは,典型的には,1から10の整数で表されるが,化学的安定性の観点から,好ましくは1から8,より好ましくは1から6,特に好ましくは1から4,最も好ましくは1から3の整数で表される。
【化7】
【0020】
前記化6において,R4はアミン保護基又はHで表される。すなわち,その後の反応工程において,必要に応じて,アミンにおける副反応を防ぐための保護基としてR4は機能するものである。R4がアミン保護基の場合,かかる副反応を防ぎ,かつ,核酸導入時の脱離が可能である限り特に限定する必要はなく,種々のアミン保護基を選択して用いることができる。
このようなR4として,典型的には,ジメチルホルムアミジル(DMF)基,イソブチリル(iBu)基,アセチル(Ac)基,フェノキシアセチル(Pac)基,4-イソプロピルフェノキシアセチル(iPr-Pac)基で表される置換基のいずれかを用いることができる。この場合,R6をリン酸化アミダイド基とすることが好ましい。
また,アミンにおける副反応がなく,R4をHとする場合,R5を三リン酸基とすることが好ましい。
【0021】
前記化6において,R5又はR6のいずれかが,核酸へ導入するための導入用官能基で表される。すなわち,核酸導入のために用いる手法により,R5およびR6の構造が決定されるものである。
核酸導入の手法としては,本発明のグアノシン誘導体化合物を,核酸へ導入しうる限り特に限定する必要はなく,種々の手法を用いることができ,例えば,リン酸化アミダイドを用いた手法(非特許文献3),三リン酸を用いた手法(非特許文献4)が挙げられる。
【0022】
リン酸化アミダイドを用いる手法として,R6をリン酸化アミダイド基とすることができる。これにより,本発明のグアノシン誘導体を効率よく核酸に導入することができる効果を有する。
リン酸化アミダイド基としては,核酸への導入が可能な種々のものを用いることができるが,好ましくは,下記化8で表されるものを用いることができる。
【化8】
【0023】
R6としてリン酸化アミダイド基を用いた場合,R5は水酸基保護基で表される。すなわち,その後の反応工程おいて,水酸基における副反応を防ぐための保護基としてR5は機能するものである。R5は,かかる副反応を防ぎ,かつ,核酸導入時の脱離が可能である限り特に限定する必要はなく,種々の水酸基保護基を選択して用いることができる。
このようなR5として,4,4'-ジメトキシトリチル基(DMT基),モノメトキシトリチル基(MMT基)などを用いることができる。
【0024】
三リン酸を用いた手法として,R5を三リン酸基とすることができる。これにより,本発明のグアノシン誘導体を効率よく核酸に導入することができる効果を有する。この場合,R6を水酸基とすればよい。
【0025】
グアノシン誘導体化合物は,化合物構造に応じた手法により,核酸配列の一部として導入することが可能である。
一例として,R6にリン酸化アミダイド基を用いたグアノシンアミダイド誘導体化合物の場合,ホスホロアミダイド法と呼ばれる固相合成法により,アミダイド誘導体化合物の核酸配列への導入を行うことができる。作製した核酸は,必要に応じ,カラムなどによる分離・精製をへて用いることができる。
【0026】
グアノシン誘導体化合物を導入した核酸配列は,下記化9の構造単位を少なくとも一つ含む核酸配列として表される。
すなわち,グアノシン誘導体化合物は,核酸配列の一部として,一つ(例えば,表1,ODN1,ODN3,ODN4で表される核酸),又は二つなどの複数(例えば,表1,ODN2で表される核酸)導入することができる。かかる導入数に応じては,用いる核酸の長さや実験目的などを考慮して,適宜,変更することができる。
また,式中,X,Yは,リボ核酸またはデオキシリボ核酸で表され,適宜,メチル化やF化などの化学修飾を受けていてもよい。
【化9】
【0027】
化9の構造単位を含む核酸の長さについては,特に限定する必要はなく,実験目的などに応じて,適宜,調整することができる。核酸の長さの例を挙げると,少なくとも3以上であり,長さの上限としては,100,1000,1万,10万,100万,1000万などから適宜選択して作製すればよい。
【0028】
グアノシン誘導体化合物を導入して作製された核酸は,核酸アプタマーの安定性を向上させる方法のために用いることができる。加えて,この核酸アプタマーは,蛋白質の機能部位に結合させることにより,その機能発揮を阻害させるための標的蛋白質の機能の阻害方法のために用いることができる。
また,高次構造を形成した状態で,19F NMRによる動的検出を可能とすることから,19F
NMRによる核酸検出の方法のために用いることができる。かかる核酸検出は,細胞内に取り込まれた状態での検出をも可能とするものである。
【0029】
本発明の別の態様としてグアノシン誘導体化合物の製造方法は,下記化10で表される,グアノシン誘導体化合物の製造方法であり,検出用官能基導入工程と,アミノ基保護工程と,水酸基保護工程と,アミダイド基導入工程とからなることを特徴とする。
【化10】
(式中,R1およびR2は,いずれか一方がHであって,他方が,H,OH,OCH3,Fのいずれかで表される)
【0030】
検出用官能基導入工程は,グアノシンを出発物質として,8位に19Fを含む官能基(R3)を導入する工程である。検出用官能基導入工程は,かかる検出用官能基を導入しうる限り特に限定する必要はなく,種々の手法を採用することができる。
検出用官能基導入工程の一例として,例えば,2’-デオキシグアノシンを出発物質として,ジメチルスルホキシド/硫酸を溶媒として,過酸化水素/硫酸鉄(II)存在下,ヨウ化トリフルオロメチルと反応させ,8位のトリフルオロメチル化を行うなどすればよい(図1,a)。
【0031】
アミノ基保護工程は,核酸塩基部分のアミノ基にアミノ基保護基(R4)を導入する工程である。アミノ基保護工程は,かかるアミノ基保護基を導入しうる限り特に限定する必要はなく,種々の手法を採用することができる
アミノ基保護工程の一例として,検出用官能基導入工程後の化合物について,塩基部分のアミノ基を,DMFを溶媒として,N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタールにて保護を行うなどすればよい(図1,b)。
【0032】
水酸基保護工程は,糖骨格における5’に水酸基保護基(R5)を導入する工程である。水酸基保護工程は,かかる水酸基を導入しうる限り特に限定する必要はなく,種々の手法を採用することができる
水酸基保護工程の一例として,アミノ基保護工程後の化合物について,糖骨格部分の5’の水酸基を,ピリジンを溶媒として,N,N-ジイソプロピルエチルアミン存在下,4,4'-ジメトキシトリチルクロリドにて保護を行うなどすればよい(図1,c)。
【0033】
アミダイド基導入工程は,糖骨格における3’の水酸基にリン酸化アミダイド基(R6)を導入する工程である。アミダイド基導入工程は,かかるリン酸化アミダイド基を導入しうる限り特に限定する必要はなく,種々の手法を採用することができる。
アミダイド基導入工程の一例として,水酸基保護工程後の化合物について,糖骨格部分の3’の水酸基を,ジクロロメタンを溶媒として,N,N-ジイソプロピルエチルアミン存在下,2-シアノエチルジイソプロピルクロロホスホロアミジトにてホスホロアミダイト化を行うなどすればよい(図1,d)。
【実施例
【0034】
ここでは,実施例を用いて,さらに詳述する。
【0035】
<<実験1.8-トリフルオロメチル-2’-デオキシグアノシンホスホロアミダイトの合成>>
1.8-トリフルオロメチルグアノシンについて,図1のスキームに従い,合成を行った。
(1) 2’-デオキシグアノシンを出発物質として,ジメチルスルホキシド/硫酸を溶媒として,過酸化水素/硫酸鉄(II)存在下,ヨウ化トリフルオロメチルと反応させ,8位のトリフルオロメチル化を行った(a,トリフルオロメチル化,検出用官能基導入工程)。
(2) 塩基部分のアミノ基を,DMFを溶媒として,N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタールにて保護を行った(b,アミノ基保護工程)。
(3) 糖骨格部分の5’の水酸基を,ピリジンを溶媒として,N,N-ジイソプロピルエチルアミン存在下,4,4'-ジメトキシトリチルクロリドにて保護を行った(c,5’水酸基保護工程)。
(4) 糖骨格部分の3’の水酸基を,ジクロロメタンを溶媒として,N,N-ジイソプロピルエチルアミン存在下,2-シアノエチルジイソプロピルクロロホスホロアミジトにてホスホロアミダイト化を行った(d,アミダイド基導入工程)。
【0036】
2.合成した化合物の1H,19F,31P-NMRチャートを,図2から4に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3), 8.60 (s, 2H), 8.37 (s, 1H), 8.32 (s, 1H), 7.48 (m, 2H), 7.38-7.16 (m, 20H), 6.75-6.70 (m, 6H), 6.34-6.30 (m, 2H), 5.01 (q, J = 2.4 Hz, 1H), 4.87 (q, J = 3.7 Hz, 1H), 3.81-3.73 (m, 14H), 3.62-3.50 (m, 4H), 3.39-3.21 (m, 8H), 3.03 (s, 6H), 2.93 (m, 6H), 2.59-2.25 (m, 6H), 1.25-1.06 (m, 24H).
19F-NMR (372 MHz, CDCl3) δ 60.88, 60.91.
31P-NMR (161 MHz, CDCl3) δ 149.23, 148.97.
3.合成した化合物4のHR-Massの結果を図5に示す。
(1) 想定されるアミダイド誘導体化合物の分子量(891.3578)と一致したピークが検出された。
(2) また,もう一つのピーク(653.3018)についても,アミダイド誘導体におけるフラグメントと考えられる分子量と一致していた。
4.これらより,目的としたアミダイド誘導体化合物であることが確認された。
【0037】
<<実験2.8-トリフルオロメチル-2’-デオキシグアノシンを含む核酸オリゴマーの合成>>
(1) DNA/RNA自動合成機により,固相合成法で合成した。
(2) CPG(Controlled Pore Glass)担体にAMA(28%アンモニア水溶液:メチルアミン=1:1)を加え,オリゴマーを切り出した。
(3) オリゴマーが溶解しているAMA溶液を65°Cで10分間インキュベーションし,核酸塩基の脱保護を行った。
(4) 溶媒を除去し,滅菌水で溶解し,Glen-Pakカートリッジを用いて,簡易精製した。
(5) 逆相HPLCにより,目的オリゴマーを精製した。
(6) MALDI-TOF MSにより,目的オリゴマーを同定した。
【0038】
表1.合成を行った核酸オリゴマーの配列一覧。表中,下線で記した部位が,本発明のグアノシン誘導体化合物を導入した部位である。
【表1】
【0039】
表2.ODN1からODN4のMALDI-TOF MS分析結果を示した図。
【表2】
【0040】
<<実験3.核酸オリゴマーを用いた安定性の検討>>
1.実験2で作製した核酸オリゴマーを用い,溶液中のCDスペクトルを測定することにより,高次構造の安定性の評価を行った。
【0041】
2.ODN1を用いた結果を図6に示す。
(1) 溶液中のNaCl濃度の上昇とともに,295nmでのCDスペクトルがマイナス側に大きくなっていた。
(2) 特に,NaCl濃度が,100mM以上の濃度で,CDスペクトル値がプラトーとなっていた。
(3) これらのことから,本発明のグアノシン誘導体を導入したODN1は,溶液中において,ODN1同士がスタッキングを起こして高次構造をとっていること,ならびに塩濃度の上昇とともに,ODN1は,左巻きのDNA構造としてより安定することが分かった。
(4) また,ODN1が,核酸オリゴマーとして問題なく機能することが確認された。
【0042】
3.ODN2,ODN5を用いた結果を図7に示す。
(1) 295nmでのCDスペクトルが,NaCl濃度50mMと100mMを境に,プラスからマイナスとなりおり,100mM以上では,NaCl濃度の上昇とともに,マイナス側に大きくなっていった。
(2) 特に,NaCl濃度が,500mM以上の濃度で,CDスペクトル値がプラトーとなっていた。
(3) これらのことから,本発明のグアノシン誘導体を導入したODN2は,溶液中において,ODN5とスタッキングを起こして高次構造をとっていること,ならびに塩濃度の上昇とともに,ODN2とODN5は,左巻きのDNA構造としてより安定することが分かった。
(4) また,ODN2が,核酸オリゴマーとして問題なく機能することが確認された。
【0043】
4.ODN4とODN8を比較した図8に結果を示す。
(1) 図8は,誘導体を導入したグアニンを一部に含むODN4と,これに相当する配列であるODN8の高次構造における熱安定性を,CD測定で比較した結果である。
(2) ODN4とODN8は,ほぼ同一のスペクトルを示し,二つのアプタマー構造はほぼ同じであることが分かった(図8)。
(3) 加えて,ODN4はODN8より,安定化することが分かった。
【0044】
5.ODN3とODN7,ODN6とODN7,これらを比較した結果を図9に示す。
(1) 図9は,誘導体を導入したグアニンを一部に含むODN3,ならびにこれに相当する配列であるODN6,これらそれぞれとODN7を用いて四重鎖を形成させ,高次構造における熱安定性を,CD測定で比較した結果である。
(2) ODN3とODN7により形成される四重鎖構造は,ODN6とODN7のものと比較して,ほぼ同一のスペクトルを示すことから,形成される四重鎖構造は,同一のものであることが分かった。
(3) さらに,ODN3とODN7により形成される四重鎖構造は,ODN6とODN7のものと比較して,より安定化することが分かった。
【0045】
<<実験4.核酸オリゴマーを用いたNMR検出>>
1.実験2で作製した核酸オリゴマーを用い,19F-NMRによる検出を行った。
【0046】
2.ODN1を用いた結果を図10に示す。
(1) NaCl濃度の上昇とともに,19Fスペクトルがシフトしていた。
(2) これより,NaCl濃度の上昇により,立体構造が右巻から左巻へと変化し,これを反映して,19Fスペクトルがシフトしているものと考えられた。
(3) NaCl濃度が100mM以上で,Z-DNA ratioはプラトーに達し,ほぼ左巻のDNA構造として安定化することが分かった。
【0047】
3.ODN2とODN5を用いた結果を図11に示す。
(1) NaCl濃度の上昇とともに,19Fスペクトルがシフトしていた。
(2) これより,NaCl濃度の上昇により,立体構造が右巻から左巻へと変化し,これを反映して,19Fスペクトルがシフトしているものと考えられた。
(3) NaCl濃度が500mM以上で,Z-DNA ratioはプラトーに達し,ほぼ左巻のDNA構造として安定化することが分かった。
【0048】
4.ODN3とODN7を用いた結果を図12に示す。すなわち,本検討では,図12aに示すように,ODN3とODN7で,四重鎖を形成するかを検討したものである。
(1) ODN3に対しODN7の量を増加させると,19Fのスペクトルがシフトしていき,ODN3とODN7の比が1:1のとき,ODN3単独の19Fスペクトルが完全に消失していた(図12,b)。
(2) ODN3とODN7の比が1:1のまま温度を変化させると,23℃から40℃まではODN3の19Fスペクトルは検出されなかった。そして,45℃で若干のODN3の19Fスペクトルが検出されるとともに,温度を上昇するにつれ,ODN3の19Fスペクトルの増加と,もう一つの19Fスペクトルの減少が確認され,60℃以上では,完全に消失していた。
(3) これらの結果から,ODN3とODN7は,四重鎖と考えられる高次構造を形成することが確認された。加えて,温度変化に応じてその四重鎖がほどけていくこと,これらの現象を動的に解析しうることが確認された。
【0049】
<<実験5.細胞を用いた核酸オリゴマー検出>>
1.ODN1を用いて,細胞内における検出が可能かどうかを調べることを目的に行った。
2.SLOで処理したHeLa細胞に,ODN1を3mMを添加し,30分培養を行った。培養後1 mM CaCl2で処理し,細胞と培養液(上清)を分離精製し,それぞれ19F NMRによりシグナルの検出を行った。合わせて,ODN1単独でZ型とB型を調製し,同様に19F NMRによりシグナルの検出を行った。
【0050】
3.結果を図13に示す。
(1) ODN1のZ型と同じ19Fスペクトルが,細胞ならびに上清において確認された。
(2) このことから,ODN1は,細胞内に取り込まれるとともに,Z型のDNA構造を有することが確認された。
【0051】
<<実験6.塩化鉄傷害血栓モデルを用いた血液凝固評価>>
1.核酸アプタマー,KCl,リン酸カリウムバッファーを混ぜ,それぞれの終濃度を2mM,100mM,20mMとした溶液を調製し,その後,アニーリングを行った。
2.ラットを,三種混合麻酔10mL/kg腹腔内投与により麻酔し,背位に固定した。
3.ラット頸部を切開し,頚静脈を剥離,露出させ,核酸アプタマー 2μmol/kgを静脈注射により投与を行った。
4.露出・剥離した頸動脈の下にパラフィルムおよびろ紙を敷いた。この後,ろ紙に40%塩化鉄溶液を10μL添加し,頸動脈傷害を10分間誘発させた。
5.傷害を誘発させた頸動脈部位を摘出し,ホルマリン溶液に浸した。さらに,HE染色により,傷害の程度を評価した。
【0052】
6.結果を図14に示す。
(1) PBSを静脈注射したマウスの頸動脈の病理標本では血栓が確認され,天然TBAを静脈注射したマウスの頸動脈においては血栓形成が抑制された。さらに修飾TBAを静脈注射したマウスの頸動脈においては,ほぼ血栓が確認されなかった。
(2) このことから,修飾TBAは効率よく血栓形成を抑制することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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