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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】絶対角度位置検出方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/20 20060101AFI20240820BHJP
   G01D 5/244 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G01D5/20 110Q
G01D5/244 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021091741
(22)【出願日】2021-05-31
(65)【公開番号】P2022184096
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】牛草 遼平
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-315634(JP,A)
【文献】特開2005-37254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/20
G01D 5/244-5/249
G01B 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2相励磁/2相出力のレゾルバ(1)により多回転検出を行う絶対角度位置検出方法であって、
通電時には、
切換部(120)が通電側に切り換えられ、
AC励磁部(132)において生成された互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を、前記切換部(120)経由で前記レゾルバ(1)の2つの励磁相に入力して2相励磁し、前記レゾルバ(1)から2相のレゾルバ信号を得るステップと、
前記2相のレゾルバ信号をレゾルバ/デジタル変換部(131)において処理して1回転データを生成するステップと、
前記2相AC励磁信号からタイミング部(133)において2相のタイミング信号を生成するステップと、
回転数カウント部(142)において前記2相のタイミング信号により前記2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータを生成するステップと、
前記1回転データと前記通電時多回転カウントデータとを演算部(150)において演算して絶対角度位置信号を生成するステップと、を有し、
停電時には、
前記切換部(120)が停電側に切り換えられ、
停電側に切り換えられた前記切換部(120)は、前記2つの励磁相を並列接続または直列接続し、パルス励磁部(141)において生成された1相パルス励磁信号を、前記切換部(120)経由で、前記並列接続または前記直列接続された前記2つの励磁相に入力して2相励磁し、前記レゾルバ(1)から前記2相のレゾルバ信号を得るステップと、
前記回転数カウント部(142)において前記1相パルス励磁信号により前記2相のレゾルバ信号をカウントして停電時多回転カウントデータを生成するステップと、
前記停電時多回転カウントデータを前記演算部(150)において演算して前記絶対角度位置信号を生成するステップと、を有する、
ことを特徴とする絶対角度位置検出方法。
【請求項2】
停電時には、前記パルス励磁部(141)と前記回転数カウント部(142)とがバックアップ電源により駆動される、
ことを特徴とする請求項に記載の絶対角度位置検出方法。
【請求項3】
前記回転数カウント部(142)は、前記通電時と前記停電時とにおいて共用され、前記通電時及び前記停電時を通して連続した多回転検出を行う、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の絶対角度位置検出方法。
【請求項4】
2相励磁/2相出力のレゾルバ(1)により多回転検出を行う絶対角度位置検出装置であって、
互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を生成するAC励磁部(132)と、
前記2相AC励磁信号を2相のタイミング信号に変換するタイミング部(133)と、
前記レゾルバ(1)から供給された2相のレゾルバ信号をデジタル変換して1回転データを生成するレゾルバ/デジタル変換部(131)と、
1相パルス励磁信号を生成するパルス励磁部(141)と、
前記2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータまたは停電時多回転カウントデータを生成する回転数カウント部(142)と、
前記2相AC励磁信号と前記1相パルス励磁信号との一方を切り換えて前記レゾルバ(1)に供給する切換部(120)と、
前記1回転データ、前記通電時多回転カウントデータ及び前記停電時多回転カウントデータを処理する演算部(150)と、を備え、
通電時には、
前記切換部(120)は、接続を通電側に切り換え、
2つの励磁相に前記2相AC励磁信号を入力して2相励磁し、前記レゾルバ(1)から前記2相のレゾルバ信号を得て、
前記2相のレゾルバ信号を前記レゾルバ/デジタル変換部(131)において処理して1回転データを生成し、
前記回転数カウント部(142)において前記2相のタイミング信号により前記2相のレゾルバ信号をカウントして前記通電時多回転カウントデータを生成し、
演算部(150)において前記1回転データと前記通電時多回転カウントデータとを演算して絶対角度位置信号を生成し、
停電時には、
前記切換部(120)は、接続を停電側に切り換え、
停電側に切り換えられた前記切換部(120)は、前記2つの励磁相を並列接続または直列接続し、前記並列接続または前記直列接続された前記2つの励磁相に前記1相パルス励磁信号を入力して2相励磁し、前記レゾルバ(1)から前記2相のレゾルバ信号を得て、
前記回転数カウント部(142)において前記1相パルス励磁信号により前記2相のレゾルバ信号をカウントして前記停電時多回転カウントデータを生成し、
前記演算部(150)において前記停電時多回転カウントデータを演算して前記絶対角度位置信号を生成する、
ことを特徴とする絶対角度位置検出装置。
【請求項5】
前記パルス励磁部(141)と前記回転数カウント部(142)とは、停電時において、バックアップ電源により駆動される、
ことを特徴とする請求項に記載の絶対角度位置検出装置。
【請求項6】
前記回転数カウント部(142)は、前記通電時と前記停電時とにおいて共用され、前記通電時及び前記停電時を通して連続した多回転検出を行う、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の絶対角度位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶対角度位置検出方法及び装置に関し、特に、2相励磁/2相出力のレゾルバを使用し、通電時及び停電時共に連続して多回転カウントデータを検出するための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
レゾルバを用いた絶対角度位置検出方法及び装置において、通電時はAC励磁による励磁を行い、停電時は電池バックアップによるパルス励磁を行うことが提案されている。従来、用いられていたこの種の絶対角度位置検出方法及び装置としては、例えば、特許文献1に示される構成を挙げることができる。
【0003】
ここで、特許文献1に記載された絶対角度位置検出装置は、1相励磁/2相出力のレゾルバを使用しており、通電時には、レゾルバを1相AC励磁すると共に、レゾルバ/デジタル変換部からの1回転データと、回転数カウント部からの通電時多回転カウントデータとを演算回路にて演算し、多回転位置を示す絶対角度位置検出信号を生成する。
一方、停電時において、絶対角度位置検出装置は、レゾルバを1相パルス励磁すると共に、通電時と共通の回転数カウント部を用いて、停電時多回転カウントデータを生成するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4709963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の特許文献1記載の絶対位置検出装置は、通電時と停電時とで連続した多回転カウントデータを得ることができるものの、1相励磁/2相出力のレゾルバを使用しているために高精度の絶対角度検出を行えない問題があった。
すなわち、1相励磁/2相出力のレゾルバは、2相の出力信号の振幅のアンバランスがそのまま誤差になる。このため、1相励磁/2相出力のレゾルバを用いた場合、高精度な絶対角度検出を実現することは難しいという課題があった。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するために、1相励磁/2相出力のレゾルバに比べて高精度な2相励磁/2相出力のレゾルバを用いた多回転検出による絶対角度検出を実現し、通電時と停電時とで連続した多回転カウントデータを得ることが可能な絶対角度位置検出方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る絶対角度位置検出方法は、2相励磁/2相出力のレゾルバにより多回転検出を行う絶対角度位置検出方法であって、通電時には、切換部が通電側に切り換えられ、AC励磁部において生成された互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を、切換部経由でレゾルバの2つの励磁相に入力して2相励磁し、レゾルバから2相のレゾルバ信号を得るステップと、2相のレゾルバ信号をレゾルバ/デジタル変換部において処理して1回転データを生成するステップと、2相AC励磁信号からタイミング部において2相のタイミング信号を生成するステップと、回転数カウント部において2相のタイミング信号により2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータを生成するステップと、1回転データと通電時多回転カウントデータとを演算部において演算して絶対角度位置信号を生成するステップと、を有し、停電時には、切換部が停電側に切り換えられ、パルス励磁部において生成された1相パルス励磁信号を、切換部経由で、2つの励磁相に入力して2相励磁し、レゾルバから2相のレゾルバ信号を得るステップと、回転数カウント部において1相パルス励磁信号により2相のレゾルバ信号をカウントして停電時多回転カウントデータを生成するステップと、停電時多回転カウントデータを演算部において演算して絶対角度位置信号を生成するステップと、を有する、ことを特徴とする。
【0008】
この発明に係る絶対角度位置検出装置は、2相励磁/2相出力のレゾルバにより多回転検出を行う絶対角度位置検出装置であって、互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を生成するAC励磁部と、2相AC励磁信号を2相のタイミング信号に変換するタイミング部と、レゾルバから供給された2相のレゾルバ信号をデジタル変換して1回転データを生成するレゾルバ/デジタル変換部と、1相パルス励磁信号を生成するパルス励磁部と、2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータまたは停電時多回転カウントデータを生成する回転数カウント部と、2相AC励磁信号と1相パルス励磁信号との一方を切り換えてレゾルバに供給する切換部と、1回転データ、通電時多回転カウントデータ及び停電時多回転カウントデータを処理する演算部と、を備え、通電時には、切換部は、接続を通電側に切り換え、2つの励磁相に2相AC励磁信号を入力して2相励磁し、レゾルバから2相のレゾルバ信号を得て、2相のレゾルバ信号をレゾルバ/デジタル変換部において処理して1回転データを生成し、回転数カウント部において2相のタイミング信号により2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータを生成し、演算部において1回転データと通電時多回転カウントデータとを演算して絶対角度位置信号を生成し、停電時には、切換部は、接続を停電側に切り換え、2つの励磁相に1相パルス励磁信号を入力して2相励磁し、レゾルバから2相のレゾルバ信号を得て、回転数カウント部において1相パルス励磁信号により2相のレゾルバ信号をカウントして停電時多回転カウントデータを生成し、演算部において停電時多回転カウントデータを演算して絶対角度位置信号を生成する、ことを特徴とする。
【0009】
この発明において、切換部は、停電時に2つの励磁相を並列接続し、並列接続された2つの励磁相に1相パルス励磁信号を入力することを特徴とする。
この発明において、切換部は、停電時に2つの励磁相を直列接続し、直列接続された2つの励磁相に1相パルス励磁信号を入力する、ことを特徴とする。
【0010】
この発明において、停電時には、パルス励磁部と回転数カウント部とがバックアップ電源により駆動されることを特徴とする。
【0011】
この発明において、回転数カウント部は、通電時と停電時とにおいて共用され、通電時及び停電時を通して連続した多回転検出を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、1相励磁/2相出力のレゾルバに比べて高精度な2相励磁/2相出力のレゾルバを用いて、2相のレゾルバ信号を使用した多回転検出により高精度な絶対角度検出を実現すると共に、通電時と停電時とで連続した多回転カウントデータを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1の絶対角度位置検出装置の構成を示す構成図である。
図2】実施の形態1の絶対角度位置検出装置における励磁信号供給の切り換えの様子を示す構成図である。
図3】実施の形態1の絶対角度位置検出処理時における励磁信号とレゾルバ信号の位相関係を示す説明図である。
図4】実施の形態1の絶対角度位置検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の絶対角度位置検出方法と絶対角度位置検出装置の実施の形態につき、図面を用いて説明する。
【0015】
実施の形態1.
はじめに、実施の形態1における絶対角度位置検出装置100の基本的な構成について、図1を参照して説明する。図1は、実施の形態1の絶対角度位置検出装置100の構成を示す構成図である。なお、絶対角度位置検出装置100は、絶対角度位置検出方法の各処理ステップを実行する装置である。
【0016】
[絶対角度位置検出装置100の構成]
図1において、絶対角度位置検出方法を実行する絶対角度位置検出装置100は、主に、電源監視部110と、切換部120と、第1信号処理部130と、第2信号処理部140と、演算部150と有している。絶対角度位置検出装置100には、2相励磁/2相出力のレゾルバ1が接続されている。絶対角度位置検出装置100には、通電時には図示されない通電動作用電源から電力の供給を受け、停電時には図示されないバックアップ電源から電力の供給を受ける。なお、バックアップ電源は、電池などを供給源とする停電時等のための限定的な電源である。
【0017】
電源監視部110は、通電動作用電源の状態、すなわち、通電時であるか停電時であるかを監視しており、通電時と停電時とで切換部120の切り換え状態を変更する切換制御信号を生成する。ここで、通電時とは通電動作用電源が有効であるときを意味しており、停電時とは通電動作用電源が無効であってバックアップ電源が有効であるときを意味している。
【0018】
切換部120は、電源監視部110からの切換制御信号に基づいて、通電動作用電源が有効な通電時には、第1信号処理部130からの2相のAC励磁信号(以下、「2相AC励磁信号」)をレゾルバ1の2つの励磁相に供給する。また、切換部120は、電源監視部110からの切換制御信号に基づいて、通電動作用電源が無効であってバックアップ電源が有効な停電時には、第2信号処理部140からの1相パルス励磁信号をレゾルバ1の2つの励磁相に供給する。
【0019】
第1信号処理部130には、レゾルバ/デジタル変換部131と、AC励磁部132と、タイミング部133とが設けられている。ここで、第1信号処理部130は、通電動作用電源の供給を受け、通電時に動作する。
【0020】
レゾルバ/デジタル変換部131は、レゾルバ1から2相のレゾルバ信号を供給され、1回転データを生成し、生成した1回転データを演算部150に供給する。また、レゾルバ/デジタル変換部131は、2相AC励磁信号を生成するための2相励磁用データをAC励磁部132に供給する。AC励磁部132は、レゾルバ/デジタル変換部131から2相励磁用データの供給を受け、互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を生成する。生成された2相AC励磁信号は、通電時に、切換部120を経由してレゾルバ1の2つの励磁相に供給される。タイミング部133は、2相AC励磁信号を2相のタイミング信号に変換し、後述する第2信号処理部140内の回転数カウント部142に供給する。
【0021】
第2信号処理部140には、パルス励磁部141と、回転数カウント部142とが設けられている。なお、第2信号処理部140は、通電動作用電源とバックアップ電源との供給を受け、通電時と停電時とに動作する。
【0022】
パルス励磁部141は、停電時にバックアップ電源により駆動され、1相パルス励磁信号を生成する。生成された1相パルス励磁信号は、停電時に、回転数カウント部142に供給されると共に、切換部120を経由してレゾルバ1の2つの励磁相に供給される。
回転数カウント部142は、通電時と停電時とに共に動作する。すなわち、通電時において、回転数カウント部142は、2相のタイミング信号により2相のレゾルバ信号をカウントし、通電時多回転カウントデータを生成する。また、停電時において、回転数カウント部142は、1相パルス励磁信号により2相のレゾルバ信号をカウントし、停電時多回転カウントデータを生成する。
【0023】
演算部150は、通電時において通電動作用電源を供給され、レゾルバ/デジタル変換部131からの1回転データと通電時多回転カウントデータとにより演算を行う。演算の結果、演算部150は、多回転位置を示す絶対角度位置信号を生成する。また、演算部150は、停電時においてバックアップ電源を供給され、回転数カウント部142からの停電時多回転カウントデータを受けて絶対角度位置信号を生成する。
【0024】
以下、切換部120内部の接続における切り換え状態について、図2を参照して説明する。図2は、実施の形態1の絶対角度位置検出装置100における励磁信号供給の切り換えの様子を示す構成図である。
【0025】
ここで、切換部120は、第1信号処理部130からの2相AC励磁信号と、第2信号処理部140からの1相パルス励磁信号とのいずれか一方を、切換制御信号に応じて、レゾルバ1の2つの励磁相に供給する。
【0026】
図2の(a)は、通電時において電源監視部110から通電動作用電源が有効であるとの切換制御信号を受けた場合の切換部120内部の接続の切り換え状態を示している。この状態において、切換部120は、2相AC励磁信号のA相のa1~a2をレゾルバ1の励磁相AのA1~A2に供給し、2相AC励磁信号のB相のb1~b2をレゾルバ1の励磁相BのB1~B2に供給する。この結果、通電時に、AC励磁部132からの2相AC励磁信号は、切換部120を経由して、レゾルバ1の2つの励磁相A,Bに供給される。
【0027】
図2の(b)は、停電時において電源監視部110から通電動作用電源が無効であってバックアップ電源が有効であるとの切換制御信号を受けた場合の切換部120内部の接続の第1の切り換え状態を示している。この接続状態において、切換部120は、レゾルバ1の励磁相AのA1と励磁相BのB1とを並列に接続し、励磁相AのA2と励磁相BのB2とを並列に接続している。この結果、停電時に、パルス励磁部141からの1相パルス励磁信号は、切換部120を経由して、並列接続されたレゾルバ1の励磁相Aと励磁相Bとに同相で供給される。
【0028】
図2の(c)は、停電時において電源監視部110から通電動作用電源が無効であってバックアップ電源が有効であるとの切換制御信号を受けた場合の切換部120内部の接続の第2の切り換え状態を示している。この接続状態において、切換部120は、レゾルバ1の励磁相AのA2と励磁相BのB1と接続することで、励磁相Aと励磁相BとがA1~A2~B1~B2のように直列になるように接続している。この結果、停電時に、パルス励磁部141からの1相パルス励磁信号は、切換部120を経由して、直列接続されたレゾルバ1の第1励磁相と第2励磁相とに供給される。
【0029】
[絶対角度位置検出方法の説明]
次に、実施の形態1の絶対角度位置検出装置100において実行される絶対角度位置検出方法について説明する。
【0030】
実施の形態1において、絶対角度位置検出装置100は、2相励磁/2相出力のレゾルバ1を使用するものであり、通電時のみ動作する第1信号処理部130と、通電時と停電時の両方で動作する第2信号処理部140とのそれぞれの機能を、2相励磁/2相出力のレゾルバ1に対応させて、通電時には2相AC励磁信号によりレゾルバ1を2相励磁することにより2相のレゾルバ信号を得ると共に、停電時には直列接続または並列接続された2つの励磁相に1相パルス励磁信号を入力してレゾルバ1を2相同相励磁することにより2相のレゾルバ信号を得ることで、通電時と停電時とで連続した多回転カウントデータを得ることを特徴としている。
【0031】
[通電時の2相AC励磁信号による2相励磁]
以下、通電時における、2相励磁/2相出力のレゾルバ1の2相AC励磁信号による2相励磁について詳細に説明する。
2相励磁/2相出力のレゾルバ1は、sinωtとcosωtの2相AC励磁信号を用いて励磁されると、レゾルバ1の角度θに応じて位相の変化を有する位相変調信号を、レゾルバ信号として出力する。
そして、出力信号の振幅のアンバランスがそのまま誤差になる1相励磁/2相出力のレゾルバと比較すると、2相励磁/2相出力のレゾルバ1は、ノイズの影響を受けにくい位相変調信号を用いるため高精度であるという特長を有している。
【0032】
ここで、レゾルバ1において、2相AC励磁信号の供給を受ける励磁相A,Bについて、励磁相Aは励磁巻線R1と励磁巻線R3により形成され、励磁相Bは励磁巻線R2と励磁巻線R4により形成されているとする。また、レゾルバ1において、2相のレゾルバ信号を出力する出力相A,Bについて、出力相Aは検出巻線S1と検出巻線S3により形成され、出力相Bは検出巻線S2と検出巻線S4により形成されているとする。
この場合、次のような出力電圧方程式(1)~(4)が成立する。ここで、Eは電圧、Kは変圧比、θはレゾルバ1の角度、ωは励磁角周波数を意味している。なお、説明を容易にするため、倍角数を1とする。
励磁相A:ER1-R3=Ecosωt …(1)
励磁相B:ER2-R4=Esinωt …(2)
出力相A:ES1-S3=K(ER2-R4・sinθ+ER1-R3・cosθ)
=KEcos(ωt-θ) …(3)
出力相B:ES2-S4=K(ER2-R4・cosθ-ER1-R3・sinθ)
=KEsin(ωt-θ) …(4)
【0033】
以上の出力電圧方程式(3)と(4)とが示すとおり、2相励磁/2相出力のレゾルバ1の出力信号は位相変調信号である。この位相変調信号は、それぞれ電圧は等しく、位相がずれた励磁信号の振幅変調信号が合成された結果として得られるものである。従って、いずれか一方の励磁相のみを用いてレゾルバ1を励磁した場合、1相励磁/2相出力のレゾルバ信号と同じ振幅変調信号が得られることになる。よって、実施の形態1の絶対角度位置検出装置100において実行される絶対角度位置検出方法は、レゾルバ1についての2相励磁/2相出力と1相励磁/2相出力とを併用可能な特徴的な性質を、積極的に利用する。
【0034】
絶対角度位置検出装置100において、通電時にレゾルバ1を2相AC励磁信号により励磁している場合、レゾルバ信号の各励磁相に対する出力相の位相関係を基に、通電時多回転カウントデータを生成可能である。
【0035】
ここで、図3を参照してレゾルバ信号の位相関係を説明する。図3は、実施の形態1の絶対角度位置検出処理時における励磁信号とレゾルバ信号の位相関係を示す説明図である。図3において、2相励磁/2相出力のレゾルバ1を2相AC励磁信号により励磁した際の、レゾルバ角度毎の励磁信号とレゾルバ信号の位相関係を示している。
【0036】
図3は、レゾルバ1の角度0°~90°、90°~180°、180°~270°、270°~360°の象限ごとに、各励磁信号に対するそれぞれのレゾルバ信号の位相が、4種類の組合せに分けられることを示している。ここで、基準となる励磁信号に対して、レゾルバ信号の位相が0°~+180°を「進み」と定義している。また、基準となる励磁信号に対して、レゾルバ信号の位相が-180°~0°を「遅れ」と定義している。
【0037】
図3における「進み」と「遅れ」の組み合わせの状態から、象限を判定することが可能であり、従来技術におけるA相信号、B相信号を生成できることが明らかである。従って、回転数カウント部142は、通電時において、2相のレゾルバ信号と、タイミング部133において2相AC励磁信号から生成した2相のタイミング信号とから、A相/B相の通電時多回転カウントデータを生成することができる。
【0038】
[停電時の1相パルス励磁信号による2相励磁]
以下、停電時における、2相励磁/2相出力のレゾルバ1の1相パルス励磁信号による2相励磁について詳細に説明する。
【0039】
停電時においては、レゾルバ1の2相ある励磁相を、電圧と位相の揃った同じパルス励磁信号で励磁すれば、レゾルバ信号は振幅変調信号として生成される。このため、従来の1相励磁/2相出力のレゾルバと同様の処理にて停電時多回転カウントデータを得ることができる。
停電時のレゾルバ1における1相パルス励磁信号と2相のレゾルバ信号とについて、パルス励磁信号をf(t)として、出力電圧方程式(1)~(4)における2相AC励磁信号のEcosωtとEsinωtを、パルス励磁信号のf(t)に入れ替えると、次のような出力電圧方程式(5)~(8)が成立する。なお、ここでも、Eは電圧、Kは変圧比、θはレゾルバ1の角度を意味しており、説明を容易にするために倍角数を1とする。
励磁相A:ER1-R3=f(t) …(5)
励磁相B:ER2-R4=f(t) …(6)
出力相A:ES1-S3=K(ER2-R4・sinθ+ER1-R3・cosθ)
=√2・K・f(t)・sin(θ+45°) …(7)
出力相B:ES2-S4=K(ER2-R4・cosθ-ER1-R3・sinθ)
=√2・K・f(t)・cos(θ+45°) …(8)
【0040】
上の出力電圧方程式(5)~(8)によると、出力相A及び出力相Bとして生成される2相のレゾルバ信号の振幅変調位置は、実際のレゾルバ角度より45°ずれる。しかし、回転数カウント部142において予め多回転カウントデータを生成する際に、45°のずれを考慮に入れて補正することで対処可能である。
【0041】
2つの励磁相A,Bを同じパルス励磁信号f(t)で2相同相励磁するには、2種類の接続が考えられる。すなわち、図2(b)に示すように切換部120により2つの励磁相A,Bを並列接続してパルス励磁信号f(t)で2相同相励磁する手法と、図2(c)に示すように切換部120により2つの励磁相A,Bを直列接続してパルス励磁信号f(t)で2相同相励磁する手法とが存在する。
【0042】
切換部120により2つの励磁相A,Bを並列に接続してパルス励磁部141からのパルス励磁信号f(t)により2相同相励磁した場合、上述した出力電圧方程式の(7)と(8)とが得られる。これは、2つの励磁相A,Bの片側のみを励磁した場合に比べて、出力信号であるレゾルバ信号の信号レベルが√2倍されることになる。これは、信号強度が高まり、ノイズに対する耐性が上がる、すなわちSN比が向上することを意味している。
【0043】
一方、2つの励磁相A,Bは一般的に同等なインピーダンスであることから、切換部120により2つの励磁相A,Bを直列に接続してパルス励磁部141からのパルス励磁信号f(t)により2相同相励磁した場合、2つの励磁相を同じパルス励磁信号で励磁可能である。この場合、2つの励磁相のうち1つあたりに発生する励磁電圧は、分圧によりf(t)の半分になる。すなわち、従来と同じレゾルバ信号の信号レベルを保ちつつ、2つの励磁相A,Bの全体の励磁電流を更に1/2程度に低減させ、回路全体の消費電流を抑えることが可能になる。
【0044】
[絶対角度位置検出の処理手順]
次に、絶対角度位置検出装置100の動作である絶対角度位置検出方法について、図4を参照して説明する。図4は、実施の形態1の絶対角度位置検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0045】
まず、ステップS100において、電源監視部110は、通常動作用電源が有効な通電時であるか、通常動作用電源が無効であってバックアップ電源が有効な停電時であるか、を監視している。この後、通電時には処理がステップS111に進み、停電時には処理がステップS121に進む。
【0046】
ステップS111において、通電時には、切換部120の接続は図2の(a)に示す通電側に切り換わる。この後、処理はステップS112に進む。
【0047】
ステップS112において、AC励磁部132は、2相AC励磁信号を生成し、生成した2相AC励磁信号を切換部120経由でレゾルバ1の2つの励磁相に供給する。この後、処理はステップS113に進む。
【0048】
ステップS113において、レゾルバ1は、2相励磁されて2相のレゾルバ信号を生成する。レゾルバ1は、生成した2相のレゾルバ信号をレゾルバ/デジタル変換部131と回転数カウント部142とに供給する。この後、処理はステップS114に進む。
【0049】
ステップS114において、レゾルバ/デジタル変換部131は、レゾルバ1から供給された2相のレゾルバ信号をデジタル変換して1回転データを生成し、生成した1回転データを演算部150に供給する。この後、処理はステップS115に進む。
【0050】
ステップS115において、タイミング部133は、2相AC励磁信号を2相のタイミング信号に変換し、第2信号処理部140内の回転数カウント部142に供給する。この後、処理はステップS116に進む。
【0051】
ステップS116において、回転数カウント部142は、レゾルバ1からの2相のレゾルバ信号と、タイミング部133からの2相のタイミング信号とを受け、2相のタイミング信号により2相のレゾルバ信号をカウントし、A相/B相の通電時多回転カウントデータを生成する。この後、処理はステップS117に進む。
【0052】
ステップS117において、演算部150は、レゾルバ/デジタル変換部131からの1回転データと、回転数カウント部142からのA相/B相の通電時多回転カウントデータとを受けて演算することで、従来の1相励磁/2相出力のレゾルバよりも高精度な絶対角度位置信号を生成することができる。そして、処理はステップS100に戻り、電源判定以降の処理を繰り返し実行する。
【0053】
一方、ステップS121において、停電時には、切換部120の接続が停電側に切り換わる。ここで、切換部120は、レゾルバ1の2つの励磁相を、図2の(b)に示す並列接続、または図2の(c)に示す直列接続にする。この後、処理はステップS122に進む。
【0054】
ステップS122において、パルス励磁部141は、バックアップ電源により駆動されて、1相パルス励磁信号を生成し、生成した1相パルス励磁信号を切換部120経由でレゾルバ1の2つの励磁相に供給する。この後、処理はステップS123に進む。
【0055】
ステップS123において、レゾルバ1は、1相パルス励磁信号により2相同相励磁されて2相のレゾルバ信号を生成する。レゾルバ1は、生成した2相のレゾルバ信号を回転数カウント部142に供給する。この後、処理はステップS124に進む。
【0056】
ステップS124において、回転数カウント部142は、バックアップ電源により駆動され、レゾルバ1において生成された2相同相励磁/2相出力のレゾルバ信号と、パルス励磁部141からの1相パルス励磁信号とを受け、2相のレゾルバ信号を1相パルス励磁信号のパルス幅によりカウントし、停電時多回転カウントデータを生成する。この後、処理はステップS125に進む。
【0057】
ステップS125において、演算部150は、回転数カウント部142からの停電時多回転カウントデータを受けて演算し、絶対角度位置信号を生成する。そして、処理はステップS100に戻り、電源判定以降の処理を繰り返し実行する。
【0058】
以上のように、回転数カウント部142は、通電時と停電時とにおいて共用されるため、通電時及び停電時を通して連続した多回転検出を行うことができる。また、停電時には、レゾルバ1の2つの励磁相をパルス励磁信号によりパルス励磁することで、停電時の消費電流を低減することができる。
【0059】
[実施の形態により得られる効果]
実施の形態1に説明した絶対角度位置検出装置100及び絶対角度位置検出方法によれば、2相励磁/2相出力のレゾルバ1を用いて、以下のように、高精度な絶対角度検出を実現する。
【0060】
通電時には、切換部120が通電側に切り換えられ、AC励磁部132において生成された互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を、切換部120経由でレゾルバ1の2つの励磁相に入力して2相励磁し、レゾルバ1から2相のレゾルバ信号を得て、2相のレゾルバ信号をレゾルバ/デジタル変換部131において処理して1回転データを生成し、2相AC励磁信号からタイミング部133において2相のタイミング信号を生成し、回転数カウント部142において2相のタイミング信号により2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータを生成し、1回転データと通電時多回転カウントデータとを演算部150において演算して絶対角度位置信号を生成する。
一方、停電時には、切換部120が停電側に切り換えられ、パルス励磁部141において生成された1相パルス励磁信号を切換部120経由で直列接続または並列接続された2つの励磁相に入力して2相励磁し、レゾルバ1から2相のレゾルバ信号を得て、回転数カウント部142において1相パルス励磁信号により2相のレゾルバ信号をカウントして停電時多回転カウントデータを生成し、停電時多回転カウントデータを演算部150において演算して絶対角度位置信号を生成する。
【0061】
通電時には、1相励磁/2相出力のレゾルバに比べて高精度な2相励磁/2相出力のレゾルバ1を使用することで、絶対角度検出を実現することが可能になる。また、停電時には、間欠的なパルス励磁信号を用いてレゾルバ1の2つの励磁相をパルス励磁することで、通電時よりも消費電流を低減することができる。そして、回転数カウント部142は、通電時には通電時多回転カウントデータを生成し、停電時には停電時多回転カウントデータを生成するため、通電時及び停電時を通して連続した多回転検出を行うことができる。
【0062】
停電時において、レゾルバ1の2つの励磁相A,Bを切換部120により並列に接続し、並列接続された2つの励磁相にパルス励磁部141からの1相パルス励磁信号を入力することにより、2つの励磁相A,Bの片側のみを励磁した場合に比べてレゾルバ信号の信号レベルが上昇し、ノイズに対する耐性が上げることができる。
停電時において、レゾルバ1の2つの励磁相A,Bを切換部120により直列に接続し、直列接続された2つの励磁相にパルス励磁部141からの1相パルス励磁信号を入力することにより、2つの励磁相A,Bの全体の励磁電流を更に低減させ、回路全体の消費電流を抑えることが可能になる。
【0063】
停電時においてパルス励磁部141と回転数カウント部142とはバックアップ電源により駆動されるため、通電動作用電源からの電源供給が停止した場合であっても、レゾルバ1の励磁と回転数カウント部142でのカウントの動作を継続することができ、通電時及び停電時を通して連続した多回転検出を確実に行うことが可能になる。
【0064】
回転数カウント部142は、通電時と停電時とにおいて共用され、通電時及び停電時を通して連続した多回転検出を行うことにより、通電時及び停電時を通して、途切れることなく、連続した多回転検出を行うことが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明してきた絶対角度位置検出装置100は、レゾルバ1に限られず、シンクロと呼ばれる角度検出器に対して適用することも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 レゾルバ、100 絶対角度位置検出装置、110 電源監視部、120 切換部、130 第1信号処理部、131 レゾルバ/デジタル変換部、132 AC励磁部、133 タイミング部、140 第2信号処理部、141 パルス励磁部、142 回転数カウント部、150 演算部。
図1
図2
図3
図4