(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】電子供与物可視化キット及び電子供与物可視化方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20240820BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G01N31/00 V
G01N21/78 Z
(21)【出願番号】P 2023503610
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2022000865
(87)【国際公開番号】W WO2022185727
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2021035299
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021161274
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 英志
(72)【発明者】
【氏名】南田 憲宏
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-507891(JP,A)
【文献】特開2011-257387(JP,A)
【文献】特表2007-514952(JP,A)
【文献】特開2001-235423(JP,A)
【文献】特開2001-174449(JP,A)
【文献】特開平10-288617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00 - 31/22
G01N 21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性着色剤と溶媒とからなる着色成分を含むA液と、電子受容剤と溶媒とからなる漂白成分を含むB液とを組み合わせたことを特徴とする電子供与物可視化キット。
【請求項2】
前記電子供与物が、少なくとも1つの求核性原子団を含む化合物であることを特徴とする請求項1に記載の電子供与物可視化キット。
【請求項3】
前記求核性原子団が、C=C、C-N、C=N、-NH
2、-NH-、-SH及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の電子供与物可視化キット。
【請求項4】
前記A液又はB液が、第4級アンモニウム塩を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子供与物可視化キット。
【請求項5】
前記A液又はB液が、カルシウムイオンによりゲル化する増粘剤を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電子供与物可視化キット。
【請求項6】
前記A液と前記B液とを、それぞれ別の噴霧容器に充填したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電子供与物可視化キット。
【請求項7】
電子供与物の付着面に、電子供与性着色剤と溶媒とからなる着色成分を含むA液と、電子受容剤と溶媒とからなる漂白成分を含むB液とを噴霧し、電子供与物の付着箇所を顕在化させることを特徴とする電子供与物可視化方法。
【請求項8】
前記電子供与物が、少なくとも1つの求核性原子団を含む化合物であることを特徴とする請求項7に記載の電子供与物可視化方法。
【請求項9】
前記求核性原子団が、C=C、C-N、C=N、-NH
2、-NH-、-SH及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項8に記載の電子供与物可視化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿成分その他の電子供与物を可視化できる電子供与物可視化キット及びこれを用いた電子供与物の可視化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トイレの床面や壁面には尿成分が飛散しやすく、放置すると細菌により分解されてアンモニア臭等の悪臭の原因となる。また、台所や食卓付近には牛乳のようなタンパク成分や、甘味料、ジュースなどが飛散し易く、放置すると汚れや臭気の原因となる。また、唾液、吐瀉物や指紋などの生体由来の汚れも、悪臭や感染症を予防するためには迅速かつ確実に除去することが好ましい。このため、定期的にあるいは随時清掃が行われるが、これらの付着物はほぼ透明であるから乾燥後は目視することが困難である。したがって、清掃しても完全に除去することができたか否かの確認ができず、その結果として清掃を行っても臭気が消えないと感じる人も多い。
【0003】
その対策として壁紙を張り替えたり、空気清浄機を設置したりすることも行われているが、かなりのコストを必要とする。そこで多くの場合には単に換気を行ったり、芳香剤や消臭剤を設置したりするという対策が行われている。しかしこれらの対策は汚れや臭気の発生源を取り除く訳ではないので、その効果は限定的である。
【0004】
なお、特許文献1には、人または動物の尿成分にpH指示薬を噴霧し、健康チェックを行う方法が記載されている。これは尿成分が弱酸性であることを利用した方法であるが、床面や壁面に付着した尿成分の可視化を目的とするものではない。
【0005】
特許文献2には、蛋白質を染色する染料と界面活性剤とを含む洗浄用組成物が開示されている。この洗浄用組成物は汚染物の付着部位を可視化させる機能を持つ。しかし尿成分中に含まれる蛋白質は健康人の場合にはごく微量であるから、尿成分を可視化させる効果は不十分である。また、染色された領域も洗浄成分により脱色されるため、一定期間着色を維持できず、着色の安定性を確保できないという問題がある。しかも噴霧された表面に染料が付着して残留し、床面や壁面の外観を悪化するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、尿成分や微量な蛋白成分などの電子供与物の付着部位の着色を一定期間にわたり安定的に可視化することができ、しかも染料が残留することによる外観の悪化を招くこともない電子供与物可視化キットと、これを用いた電子供与物可視化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明の電子供与物可視化キットは、電子供与性着色剤と溶媒とからなる着色成分を含むA液と、電子受容剤と溶媒とからなる漂白成分を含むB液とを組み合わせたことを特徴とするものである。
【0010】
なお、前記電子供与物が、少なくとも1つの求核性原子団を含む化合物であることが好ましく、また、前記求核性原子団が、C=C、C-N、C=N、-NH2、-NH-、-SH及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかであることが好ましい。
【0011】
なお、前記A液又はB液が第4級アンモニウム塩を含有することが好ましく、また、前記A液又はB液が、カルシウムイオンによりゲル化する増粘剤を含有することが好ましい。
【0012】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の電子供与物可視化方法は、電子供与物の付着面に、電子供与性着色剤と溶媒とからなる着色成分を含むA液と、電子受容剤と溶媒とからなる漂白成分を含むB液とを噴霧し、電子供与物の付着箇所を顕在化させることを特徴とするものである。
【0013】
なお、前記電子供与物が、少なくとも1つの求核性原子団を含む化合物であることが好ましく、また、前記求核性原子団が、C=C、C-N、C=N、-NH2、-NH-、-SH及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により電子供与物を可視化するには、先ず、電子受容剤と溶媒とからなる漂白成分を含むB液を電子供与物の付着面に噴霧する。電子供与物の付着箇所においては漂白成分が電子供与物と反応し、その分だけ漂白能力が低下するが、その他の箇所においては漂白能力は低下しない。次に、電子供与性着色剤と溶媒とからなる着色成分を含むA液をその上に噴霧すると、電子供与物の付着箇所では漂白能力が低下しているため、着色成分は脱色されることがないが、その他の箇所において漂白能力は低下していないため、着色成分は脱色されて無色となる。なお、B液とA液はほぼ同時に噴霧してもよく、A液をB液よりも先に噴霧しても差し支えない。
【0015】
その結果、電子供与物の付着箇所のみに色素が残留し、付着していない色素が脱色されて無色となるため、電子供与物の付着箇所のみを一定期間にわたり安定的に顕在化させることが可能となる。しかも本発明によれば、電子供与物の付着箇所以外に噴霧された着色成分は無色となるため、噴霧された表面の外観が悪化することもない利点がある。A液又はB液に第4級アンモニウム塩を含有させておけば、A液とB液の反応による、A液の消色速度を早くすることができる利点がある。
【0016】
また本発明の電子供与物可視化キットは、これらのA液とB液を組み合わせたものであるから、それぞれの濃度を最適化して販売することができ、脱色が過剰となって壁紙などを変色させたり、脱色が不十分となって色素が残留したりすることを防止することができる。特にこれらを噴霧容器に充填して販売すれば、家庭において使用する上で便利である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の電子供与物可視化キットの一例を示す断面図である。
【
図2】本発明における第4級アンモニウム塩の働きを示す説明図である。
【
図3】本発明の電子供与物可視化キットの使用方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
本発明では、電子供与性着色剤と溶媒とからなる着色成分を含むA液と、電子受容剤と溶媒とからなる漂白成分を含むB液とを組み合わせて使用する。A液とB液とをそれぞれ別の噴霧容器に充填したキットとして販売することが好ましい。本発明における電子供与物可視化キットは、A液及びB液を電子供与物に噴霧し、前記電子供与物を可視化させる為に用いる道具を指し、その形態は、例えば、A液及びB液がそれぞれ充填された1又は2以上の噴霧容器、パック、採取管、シリンジなどが考えられるが形態は問わない。また、センサーや電源を用いて電気的に駆動するような構成としても良いし、ガスの圧力で内容物が霧状に噴き出すエアゾールのような構成としても良い。さらに前記A液と前記B液とを、それぞれ別の噴霧容器に充填した形態とすることが好ましい。別の噴霧容器に充填した形態とは、必ずしも物理的に離れた2つの容器とする必要はなく、個別の第1及び第2容器が連接する形態としても良い。また、
図1のように、第1及び第2容器が連接し、かつ、両容器1、2を連通接続する吸い上げ管3によって、それぞれ異種の液体を噴霧前に混合して一つの噴射口から混合液を噴霧する構成としても良い。また、前記の噴霧容器は、センサーや電源を用いて電気的に駆動するような構成としても良いし、ガスの圧力で内容物が霧状に噴き出すエアゾールのような構成としても良い。
【0019】
可視化対象物である電子供与物は、少なくとも1つの求核性原子団を含む化合物であることが好ましい。また、前記求核性原子団が、C=C、C-N、C=N、-NH2、-NH-、-SH及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかであることが好ましい。
【0020】
前記電子供与物の具体例としては、アミノ酸、アミノ酸からなるタンパク質やペプチド、クレアチニン、炭水化物、ビタミンC、アミラーゼ、エタノール、アンモニアなどが挙げられる。アミノ酸のアミノ基、グルコース・ブドウ糖などのエーテル基は酸化され易い電子供与物であり、尿成分もタンパク質を含むため可視化可能である。このほか、C=C、C=N、C-N(ペプチド結合を含む)、-NH2、-NH-、-SHなどの電子密度の高い結合部位(δ-)を持つ化合物は酸化され易い。このため尿成分のほか、でんぷん、タンパク質やアミノ酸、糖などの化合物の可視化も可能である。これにより、尿成分や唾液、吐瀉物のほか、尿素やタンパク質を含む指紋や汗、バイオフィルムなどを可視化することができる。また、グルコース・ブドウ糖などを含む甘味料やジュース、酸化防止剤やビタミンCを含む清涼飲料水や茶類、酒、米、砂糖などの食品、石鹸カスなども可視化することができる。
【0021】
A液は、電子供与性着色剤と溶媒とからなる着色成分を含む液である。電子供与性着色剤とは電子を失って酸化され易い着色剤である。この性質は染料全般に及び、以下の表1,表2,表3に示す染料を用いることができる。表1はアントラキノン系染料を含む酸性染料、表2は塩基性染料、表3はその他の染料である。表中のC.I.は英国と米国の染色学会が定めたカラーインデックスである。添加量は、溶媒が着色されていれば良く、10ppm~10重量%程度が望ましく、さらに100ppm~1重量%が好ましい。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
溶媒としては、イオン交換水、純水、水道水等の水、または有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類や、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のジオール類又はトリオール類を単独または併用して用いることができる。添加量は、60~99.99重量%が望ましい。
【0026】
なおA液又は、B液には消去助剤として、第4級アンモニウム塩を含有させることができる。第4級アンモニウム塩としては、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化メチルベンゼトニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、臭化ベンザルコニウム、臭化セトリモニウム、臭化ドミフェン、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウムを用いることができる。さらに合成ヘクトライト等の増粘剤を添加して、付着性を高めることができる。消去助剤は、10ppm~10重量%の添加が好ましい。
【0027】
後記する実施例のデータに示すように、消去助剤として陽イオン界面活性剤である第4級アンモニウム塩を含ませると、電子供与物が付着していない表面に噴霧された電子供与性着色剤は速やかに消色する。本発明における第4級アンモニウム塩の作用メカニズムは、次の通りであると考えられる。
【0028】
図2の上段に示す第4級アンモニウム塩型カチオンは、分子の両端に親水基と疎水基を有し、
図2の下段に示すように外側が親水基、内側が疎水基となったミセルを形成する。このミセルの内部に染料Xや漂白成分Yを取り込んで局所濃縮が行われ、漂白が促進される。
【0029】
さらに、A液又はB液に対して、公知の増粘剤を添加して、付着性を高めることが出来る。公知の増粘剤としては、水膨潤性ケイ酸塩粒子や、アルギン酸塩、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、アルギニン・ポリマー、アルギン酸ナトリウム、アルギンプロピレングリコール、エチルセルロース、キサンタンガム、カラギナン、ペクチン、ジェランガム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン樹脂、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、セルロースナノファイバー等が挙げられる。特に、A液又はB液に対して添加する増粘剤は、カルシウムイオンによりゲル化する増粘剤であることが望ましい。カルシウムイオンによりゲル化する増粘剤は、水膨潤性ケイ酸塩粒子や、アルギン酸塩、カラギナン、LMペクチン、LAジェランガムなどが挙げられる。前記カルシウムイオンによりゲル化する増粘剤は、尿成分中に含まれるカルシウムイオンと反応しゲル化する為、特に尿成分に対する付着性が高まり、例えば壁面に付着した尿成分に対し、液体を噴霧した際に、液垂れが防止される。さらに水膨潤性ケイ酸塩粒子は、チキソ性が高く、スプレー噴霧時に液体がノズルの微細孔を通過する際にかかる圧力によって、液体が著しく減粘し、噴霧時の液体拡散が高くなる効果を奏するので、より望ましい。添加量は、0.1~20重量%とすることが好ましい。
【0030】
水膨潤性ケイ酸粒子とは、スメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、雲母からなるグループの総称であり、前記スメクタイトとは、2八面体型含水層状珪酸塩鉱物であるモンモリロナイト、モンモリロナイトの構造に類似するハイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイトからなるグループの総称である。前記の水膨潤性ケイ酸塩粒子は、天然物か合成物かは問わない。
【0031】
アルギン酸塩はアルギン酸の塩であれば特に限定されないが、好ましくはアルギン酸の1価カチオン塩であり、例えば、アルギン酸のナトリウム塩(アルギン酸ナトリウム)、カリウム塩(アルギン酸カリウム)またはアンモニウム塩(アルギン酸アンモニウム)である。
【0032】
B液は、電子受容剤と溶媒とからなる漂白成分を含む液である。電子受容剤は電子を受け取ることにより相手物質を酸化する酸化剤であり、次亜塩素酸ナトリウム等の金属次亜塩素酸塩、金属塩素酸塩、過酸化水素、金属過ホウ酸塩、金属過炭酸塩、金属過酸化物、過酸化アシル、過酸化ベンゾイル、過酢酸、オゾン、重硫酸ナトリウム、二酸化窒素、塩素、二酸化塩素、アゾジカルボンアミド、亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、過炭酸塩、テトラアセチレンエチレンジアミン、金属過酸一硫酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。電子受容剤の添加量は10ppm~20重量%が好ましく、さらに100ppm~6重量%が好ましい。さらにB液にも合成スメクタイト等の増粘剤を添加して、付着性を高めることができる。B液に含まれる増粘剤も、前記の増粘剤を使用することが出来、添加量は0.01~20重量%が好ましい。
【0033】
上記したA液とB液はそれぞれ別の容器に充填され、電子供与物可視化キットとされる。容器は噴霧容器であることが好ましい。以下に
図3を参照しつつ、本発明の電子供与物可視化キットの使用方法の一例を説明する。
【0034】
図3の(1)は尿成分が付着した付着面を示す図である。ここでは尿成分の付着箇所を線で囲んで示しているが、実際には目視することができない状態である。一般的に、人や動物の尿成分には、尿素、クレアチニン、リン酸水素ナトリウム、塩化アンモニウム、亜硝酸ナトリウム、リン酸カリウム、カルシウムイオン等が含まれている。
【0035】
この付着面に対して、
図3の(2)に示すように、電子受容剤と溶媒とからなる漂白成分を含むB液を噴霧する。尿成分の付着箇所においてはB液の漂白成分が尿成分と反応し、その分だけ漂白能力が低下する。しかしその他の箇所においては漂白能力は低下しない。この状態を(3)に示す。次に(4)に示すように電子供与性着色剤と溶媒とからなる着色成分を含むA液をその上に噴霧する。尿成分の付着箇所では先に噴霧されたB液の漂白能力が低下しているため、着色成分は脱色されることがなく、A液により着色された状態となるが、その他の箇所においてはB液の漂白能力は低下していないため、A液の着色成分は脱色されて無色となる。
【0036】
この結果、
図3の(5)に示すように尿成分の付着箇所はA液の色素が残った状態となって着色され、その他の部分においてはA液の色素は脱色された状態となる。このため、尿成分の付着部位を顕在化させ、視認することが可能となり、その付着部位を清掃することにより付着した尿成分を確実に除去することができる。しかも、尿成分の付着箇所以外においてはA液の色素は脱色されるため、A液の色素が残留することによる外観の悪化を防止することができる。なお、A液又はB液に消去助剤となる第4級アンモニウム塩を含有させておけば、脱色反応を促進し、A液とB液の反応によるA液の消色速度を高めることが可能となる。
【0037】
図3ではB液を噴霧した後にA液を噴霧したが、B液とA液はほぼ同時に噴霧してもよく、A液をB液よりも先に噴霧しても差し支えない。しかし尿成分とB液との反応をより確実に進行させるためには、
図3のようにB液、A液の順で噴霧することが好ましい。
【実施例】
【0038】
表4、表5に示す通りA液とB液を調合し、それぞれ噴霧容器に充填した。溶媒はA液、B液ともにイオン交換水である。これらのA液とB液を、対象物質を付着させて乾燥させた壁面タイル上に順次噴霧して、対象成分の付着箇所の視認性、非付着箇所の消色速度、非付着箇所の着色性、壁面への付着性、噴霧液体の拡散性を評価し、表4及び表5中に記載した。なお、対象成分のうち「尿」は、尿素、塩化アンモニウム、カルシウムイオンを含有する人工尿を用いた。また、対象成分のうち「市販飲料水(茶)」は、酸化防止剤成分としてビタミンCを含むものである。
【0039】
表4、表5における評価基準について、視認性とは、対象成分の付着箇所の視認性を指し、対象成分の付着箇所が、付着箇所とそうでない部分と比較して、着色剤によって着色され、前記付着箇所が、目視ではっきりと視認出来る場合は〇、前記付着箇所と前記付着箇所でない部分の境界があいまいで、目視で視認しにくい場合は△~×と評価した。
また、汚れ付着箇所以外の消色速度とは、付着箇所以外の部分に付着したA液の着色成分が、B液の漂白成分によって、消色する速度のことを指し、30秒以内で著しく速く消色する場合は◎、1分以内で速く消色する場合は〇、1分より長い時間がかかる場合は△~×と評価した。
【0040】
さらに、汚れ以外の着色性とは、付着箇所以外の部分の着色性を指し、A液及びB液の噴霧により、付着箇所以外の部分が着色されていない場合は〇、一方着色されてしまっている場合は、×と評価した。
また、壁への付着性とは、対象物質を壁に付着させ、A液及びB液の噴霧液体を壁に付着している対象成分に噴霧した場合における噴霧液体の様態を指す。噴霧液体が垂れずに対象成分付着箇所から殆ど移動していない場合は◎。噴霧液体に若干垂れが生じて、対象成分付着箇所から若干移動してしまっているものの、その程度が小さく、前記噴霧液体のふき取りが容易である場合は〇。噴霧液体に垂れが生じ、対象成分付着箇所から移動して、前記噴霧液体のふき取りが難しい場合は△~×と評価した。
【0041】
さらに、噴霧液体の拡散性では、タイルに付着、乾燥させた対象物質に、噴霧容器で前記液体を噴霧させた場合における、液体の拡散性を評価した。液体が、対象成分付着箇所を十分に覆う程度に拡散した場合は◎、液体が、対象成分付着箇所を覆う程度に拡散した場合は〇、液体が十分に拡散せず、対象成分付着箇所をカバーできない場合は△~×と評価した。噴霧拡散性は、A液の噴霧容器、B液の噴霧容器のそれぞれで実施した。
【0042】
実施例1-39は◎または〇で示す良好な評価であったが、B液を使用しない比較例1-3の視認性について、前記付着箇所と前記付着箇所でない部分の境界があいまいで視認性が悪い結果となり、また、汚れ以外の着色性は、付着箇所以外の部分も着色されていて、×で示す結果となった。また、電子供与性の原子団を有しない酢酸を対象物質とした比較例4では、対象成分を可視化することができなかった。
【0043】
これらの実施例から分かるように、A液の電子供与性着色剤として様々な染料を用いることができる。またB液の電子受容剤として、次亜塩素酸ナトリウム以外の酸化剤を使用することができる。
【0044】
【0045】
【符号の説明】
【0046】
1 第1容器
2 第2容器
3 吸い上げ管