(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】地下埋設管路健全劣化推定予測方法
(51)【国際特許分類】
E03F 7/00 20060101AFI20240820BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20240820BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240820BHJP
【FI】
E03F7/00
G06Q10/20
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2020108104
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-05-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 下水道協会誌、第56巻、第682号、118頁~126頁、公益社団法人日本下水道協会、令和1年8月1日発行
(73)【特許権者】
【識別番号】592185666
【氏名又は名称】管清工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091410
【氏名又は名称】澁谷 啓朗
(72)【発明者】
【氏名】藤生 和也
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-014063(JP,A)
【文献】特開2006-329383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 7/00
G06Q 10/20
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷状態の実際の調査が行われ、調査した損傷状態から導き出された健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測方法であって、
調査済み地下埋設管路管理単位の属性及び健全劣化指標が記録された基礎情報データベースを準備するステップと、
地下埋設管路管理単位の
管齢以外の属性について、量的データでは複数の区分に分割し、分割した区分ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求め、質的データでは、質的値ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求めるステップと、
調査済み地下埋設管路管理単位全体の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である管齢関数を求めるステップと、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについて、前記属性関数により算出した健全劣化度割合から、前記管齢関数により算出した健全劣化度割合を差し引いて差分健全劣化度割合を求めるステップと、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した健全劣化度割合、及び
管齢以外の少なくとも一つの属性に係る前記差分健全劣化度割合に基づいて、管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合、及び
管齢以外の少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合を説明変数とする線形判別関数式を求めるステップと、
前記線形判別関数式を用いて管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに健全劣化順位を示す判別値を算出して割り振るステップと、を備えたことを特徴とする地下埋設管路健全劣化推定予測方法。
【請求項2】
損傷状態の実際の調査が行われ、調査した損傷状態から導き出された健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測システムであって、
線形判別関数式算出装置と、この線形判別関数式算出装置から線形判別関数式を取得して管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する解析装置と、を備え、
前記線形判別関数式算出装置は、
調査済み地下埋設管路管理単位の属性及び健全劣化指標が記録された基礎情報データベースと、
地下埋設管路管理単位の
管齢以外の属性について、量的データでは複数の区分に分割し、分割した区分ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求め、質的データでは、質的値ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求める属性関数算出部と、
前記属性関数算出部で算出する属性関数を記憶しておくための属性関数記憶部と、
前記調査済み地下埋設管路管理単位全体の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である管齢関数を求める管齢関数算出部と、
前記管齢関数算出部で算出する管齢関数を記憶しておくための管齢関数記憶部と、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについて、前記属性関数により算出する健全劣化度割合から、前記管齢関数により算出する健全劣化度割合を差し引いて差分健全劣化度割合を求める差分算出部と、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれに、前記差分算出部で算出する差分健全劣化度割合を関連付けて記憶しておくための差分記憶部と、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した健全劣化度割合、及び
管齢以外の少なくとも一つの属性に係る前記差分健全劣化度割合に基づいて、管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合、及び
管齢以外の少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合を説明変数とする線形判別関数式を求める判別式算出部と、
判別式算出部で算出する線形判別関数式を記憶しておくための判別式記憶部と、を有し、
前記解析装置は、
管理対象の地下埋設管路管理単位の属性が記録された管理情報データベースと、
取得した線形判別関数式を用いて前記管理情報データベースに記録された管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれについて判別値を算出する判別値算出部と、を有している、ことを特徴とする地下埋設管路健全劣化推定予測システム。
【請求項3】
損傷状態の実際の調査が行われ、調査した損傷状態から導き出された健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて求めた線形判別関数式を用い、管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに判別値を算出することにより管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測方法であって、
前記線形判別関数式は、
調査済み地下埋設管路管理単位の属性及び健全劣化指標が記録された基礎情報データベースを準備するステップと、
地下埋設管路管理単位の
管齢以外の属性について、量的データでは複数の区分に分割し、分割した区分ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求め、質的データでは、質的値ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求めるステップと、
調査済み地下埋設管路管理単位全体の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である管齢関数を求めるステップと、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについて、前記属性関数により算出した健全劣化度割合から、前記管齢関数により算出した健全劣化度割合を差し引いて差分健全劣化度割合を求めるステップと、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した健全劣化度割合、及び
管齢以外の少なくとも一つの属性に係る前記差分健全劣化度割合に基づいて、説明変数としての管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合、及び
管齢以外の少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合の偏回帰係数及び定数項を求めるステップと、により求められることを特徴とする地下埋設管路健全劣化推定予測方法。
【請求項4】
損傷状態の実際の調査が行われ、調査した損傷状態から導き出された健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて求めた線形判別関数式を用い、管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに判別値を算出することにより管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測方法に用いられる線形判別関数式の算出装置であって、
調査済み地下埋設管路管理単位の属性及び健全劣化指標が記録された基礎情報データベースと、
地下埋設管路管理単位の
管齢以外の属性について、量的データでは複数の区分に分割し、分割した区分ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求め、質的データでは、質的値ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求める属性関数算出部と、
前記属性関数算出部で算出する属性関数を記録しておくための属性関数記憶部と、
前記調査済み地下埋設管路管理単位全体の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位
の健全劣化度割合の関数である管齢関数を求める管齢関数算出部と、
前記管齢関数算出部で算出する管齢関数を記憶しておくための管齢関数記憶部と、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについて、前記属性関数により算出する健全劣化度割合から、前記管齢関数により算出する健全劣化度割合を差し引いて差分健全劣化度割合を求める差分算出部と、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれに、前記差分算出部が算出する差分健全劣化度割合を関連付けて記録しておくための差分記憶部と、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した健全劣化度割合、及び
管齢以外の少なくとも一つの属性に係る前記差分健全劣化度割合に基づいて、説明変数としての管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合、及び
管齢以外の少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合の偏回帰係数及び定数項を求める判別式算出部と、を備えたことを特徴とする線形判別関数式の算出装置。
【請求項5】
損傷状態の実際の調査が行われ、調査した損傷状態から導き出された健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて求めた線形判別関数式を用い、管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに判別値を算出することにより管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測方法に用いられる線形判別関数式の算出方法であって、
地下埋設管路管理単位の
管齢以外の属性について、量的データでは複数の区分に分割し、分割した区分ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求め、質的データでは、質的値ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求めるステップと、
調査済み地下埋設管路管理単位全体の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である管齢関数を求めるステップと、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについて、前記属性関数により算出した健全劣化度割合から、前記管齢関数により算出した健全劣化度割合を差し引いて差分健全劣化度割合を求めるステップと、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した健全劣化度割合、及び
管齢以外の少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合に基づいて、説明変数としての管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合、及び
管齢以外の少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合の偏回帰係数及び定数項を求めるステップと、を備えていることを特徴とする線形判別関数式の算出方法。
【請求項6】
健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測方法であって、
地下埋設管路管理単位の管齢以外の属性についての属性関数を求めるステップと、
地下埋設管路管理単位についての管齢関数を求めるステップと、
前記属性関数により算出した属性関数値から、前記管齢関数により算出した管齢関数値を差し引いて差分関数値を求めるステップと、
前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した管齢関数値、及び管齢以外の少なくとも一つの属性に係る前記差分関数値に基づいて推定予測モデル式を求めるステップと、
前記推定予測モデル式を用いて管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに健全劣化順位を示す値を算出して割り振るステップと、を備えたことを特徴とする地下埋設管路健全劣化推定予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下水管渠等の地下埋設管路の健全又は劣化をスパン等の管理単位ごとで推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば各自治体で下水管渠を管理する際には下水管渠の健全又は劣化(健全劣化)をスパンごとに推定予測することが効果的である。なぜならば、スパンが下水道台帳の管理単位であるとともに、改築、更生、修繕、清掃がスパン単位で自治体から民間企業に発注されることが多いからである。下水管渠の健全劣化の推定予測では、例えば特許文献1に示すように、まず、下水管渠のスパンの属性(新築時の工事設計書、下水道台帳等から取得した管径、延長、布設年度、管種等)のうちから複数の説明変数を選択し、重回帰分析を行って線形判別関数式を算出する。次に、この線形判別関数式を用い、管理対象の下水管渠のスパンごとに判別値を算出して割り振る。そして、割り振られた判別値が下水管渠のスパンの健全劣化の順位を表すものとして必要な推定予測処理を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、より高い推定予測精度の線形判別関数式を用いた推定予測が期待される。
【0005】
そこで本発明は、推定予測精度に優れた地下埋設管路健全劣化推定予測を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するための本発明は、損傷状態の実際の調査が行われ、調査した損傷状態から導き出された緊急度ランク又は健全度ランク等の健全劣化指標(健全指標又は劣化指標)が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態(健全状態又は劣化状態)を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測方法であって、調査済み地下埋設管路管理単位の属性及び健全劣化指標が記録された基礎情報データベースを準備するステップと、地下埋設管路管理単位の属性(より具体的には管齢以外の一部の属性又は全部の属性)について、量的データでは複数の区分に分割し、分割した区分ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合(健全度割合又は劣化度割合)の関数である属性関数を求め、質的データでは、質的値ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求めるステップと、調査済み地下埋設管路管理単位全体の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である管齢関数を求めるステップと、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについて、一部又は全部の属性に係る前記属性関数により算出した健全劣化度割合又は属性関数値から、前記管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値を差し引いて差分健全劣化度割合又は差分関数値を求めるステップと、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る前記差分健全劣化度割合又は差分関数値に基づいて、管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合又は差分関数値を説明変数とする線形判別関数式(例えば、推定予測モデル式)を求めるステップと、前記線形判別関数式を用いて管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに健全劣化順位を示す判別値を算出して割り振るステップと、を備えたものである。判別値は例えば健全劣化状態を示している。属性関数や管齢関数は調査済み地下埋設管路管理単位の属性と健全劣化指標とに基づいて回帰分析により求めることができる。属性関数は、一つの質的値又は一つの区分に該当する調査済み地下埋設管路管理単位を対象として、管齢関数は、調査済み地下埋設管路管理単位の全体を対象として、管齢が同一のものを集めて管理単位集団を形成し、それぞれの管理単位集団に、集めた調査済み地下埋設管路管理単位の全体に対する健全であるものの割合を健全度割合又は高健全度割合として与え、管齢と健全度割合又は高健全度割合の関数として算出することができる。健全であることは健全劣化指標のうちの健全を示す指標が付されていることで判断する。あるいは、属性関数は、一つの質的値又は一つの区分に該当する調査済み地下埋設管路管理単位を対象として、管齢関数は、調査済み地下埋設管路管理単位の全体を対象として、管齢が同一のものを集めて管理単位集団を形成し、それぞれの管理単位集団に、集めた調査済み地下埋設管路管理単位の全体に対する劣化しているものの割合を劣化度割合として与え、管齢と劣化度割合の関数として算出することができる。劣化していることは健全劣化指標のうちの劣化を示す指標が付されていることで判断する。属性関数は、例えば、該当する地下埋設管路管理単位について、管齢を代入すると、健全を示す健全劣化指標又は非健全を示す健全劣化指標が付けられる割合又は確率を示すものと考えられ、管齢関数は、例えば、地下埋設管路管理単位について、管齢を代入すると、健全を示す健全劣化指標又は非健全を示す健全劣化指標が付けられる割合又は確率を示すものと考えられる。属性関数を求めるステップでは少なくとも1つの属性について属性関数を求める。属性関数を求めるステップでは少なくとも2つの属性について属性関数を求めることができる。線形判別関数式を求めるステップでは、少なくとも2つの属性に係る差分健全劣化度割合又は差分関数値を説明変数とする線形判別関数式を求めることができる。属性関数を求めるステップと管齢関数を求めるステップは任意の順序で行うことができる。
【0007】
地下埋設管路には下水管渠、上水道管路及びガス管路等が含まれる。管理単位は、下水管渠ではスパンであり、上水道管路では仕切弁で区切られた区間の管である。健全劣化指標は例えば下水管渠では日本下水道協会が定めている緊急度I乃至IV(IVは劣化なし、I、II、III、IVはローマ数字を表す)とすることができるが、例えば各自治体が独自に定めた、緊急度が5段階や6段階のものでもよく、例えば「平均不良率」のように連続量であってもよい。ただし、複数の判定基準を混在して使用することはできない。また、日本下水道協会の緊急度I乃至IVを緊急度I、II1~2、II3~5、III、IVの5段階に修正したもの(藤生和也、管渠マクロマネジメント解析における諸課題の検討、下水道協会誌Vol.50,No.609,(公社)日本下水道協会発行 2013、pp.109~118参照)を用いることもできる。すなわち、健全劣化指標は指標が記録されている地下埋設管路管理単位を健全と非健全とに区分けできるものであればよい。例えば緊急度I乃至IVが指標である場合は、緊急度Iを非健全、緊急度II、III、IVを健全とすることも緊急度I、IIを非健全、緊急度III、IVを健全とすることもできる。
【0008】
求められる線形判別関数式は、例えば健全か非健全かを目的変数とするものである。線形判別関数式は、管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合又は差分関数値を説明変数とし、管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれの健全劣化順位を示す判別値を目的変数とするものでもある。また、線形判別関数式を用いて管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに判別値を算出する際には、線形判別関数式を求める際に使用した属性関数及び管齢関数を利用することができる。
【0009】
損傷状態の実際の調査は、例えば調査員が目視又は専用テレビカメラにより道路地下にある下水管損傷の位置、大きさ等を実際に測定・記録することにより行われる。
【0010】
本発明は、損傷状態の実際の調査が行われ、調査した損傷状態から導き出された緊急度ランク又は健全度ランク等の健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測システムであって、線形判別関数式算出装置と、この線形判別関数式算出装置から線形判別関数式を受け取って又は取得して管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する解析装置と、を備え、前記線形判別関数式算出装置は、調査済み地下埋設管路管理単位の属性及び健全劣化指標が記録された基礎情報データベースと、地下埋設管路管理単位の属性について、量的データでは複数の区分に分割し、分割した区分ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求め、質的データでは、質的値ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求める属性関数算出部と、前記属性関数算出部で算出する属性関数を記憶しておくための属性関数記憶部と、前記調査済み地下埋設管路管理単位全体の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である管齢関数を求める管齢関数算出部と、前記管齢関数算出部で算出する管齢関数を記憶しておくための管齢関数記憶部と、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについて、前記属性関数により算出する健全劣化度割合又は属性関数値から、前記管齢関数により算出する健全劣化度割合又は管齢関数値を差し引いて差分健全劣化度割合又は差分関数値を求める差分算出部と、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれに、前記差分算出部で算出する差分健全劣化度割合又は差分関数値を関連付けて記憶するための差分記憶部と、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る前記差分健全劣化度割合又は差分関数値に基づいて、管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合又は差分関数値を説明変数とする線形判別関数式を求める判別式算出部と、判別式算出部で算出する線形判別関数式を記憶しておくための判別式記憶部と、を有し、前記解析装置は、管理対象の地下埋設管路管理単位の属性が記録された管理情報データベース(管理対象データベース)と、受け取った又は取得した線形判別関数式を用いて前記管理情報データベースに記録された管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれについて判別値を算出する判別値算出部と、を有しているものとして構成できる。線形判別関数式算出装置と解析装置とは別々のコンピュータで構成することができる。また、線形判別関数式算出装置と解析装置とを一つの又は一台のコンピュータに構成することもできる。
【0011】
本発明は、損傷状態の実際の調査が行われ、調査した損傷状態から導き出された緊急度ランク又は健全度ランク等の健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて求めた線形判別関数式を用い、管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに判別値を算出することにより管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測方法であって、前記線形判別関数式は、調査済み地下埋設管路管理単位の属性及び健全劣化指標が記録された基礎情報データベースを準備するステップと、地下埋設管路管理単位の属性について、量的データでは複数の区分に分割し、分割した区分ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求め、質的データでは、質的値ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求めるステップと、調査済み地下埋設管路管理単位全体の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である管齢関数を求めるステップと、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについて、前記属性関数により算出した健全劣化度割合又は属性関数値から、前記管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値を差し引いて差分健全劣化度割合又は差分関数値を求めるステップと、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る前記差分健全劣化度割合又は差分関数値に基づいて、説明変数としての管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合又は差分関数値の偏回帰係数又は判別係数及び定数項を求めるステップと、により求められるといったように構成できる。
【0012】
本発明は、損傷状態の実際の調査が行われ、調査した損傷状態から導き出された緊急度ランク又は健全度ランク等の健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて求めた線形判別関数式を用い、管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに判別値を算出することにより管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測方法に用いられる線形判別関数式の算出装置であって、調査済み地下埋設管路管理単位の属性及び健全劣化指標が記録された基礎情報データベースと、地下埋設管路管理単位の属性について、量的データでは複数の区分に分割し、分割した区分ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求め、質的データでは、質的値ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求める属性関数算出部と、前記属性関数算出部で算出する属性関数を記憶しておくための属性関数記憶部と、前記調査済み地下埋設管路管理単位全体の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である管齢関数を求める管齢関数算出部と、前記管齢関数算出部で算出する管齢関数を記憶しておくための管齢関数記憶部と、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについて、前記属性関数により算出する健全劣化度割合又は属性関数値から、前記管齢関数により算出する健全劣化度割合又は管齢関数値を差し引いて差分健全劣化度割合又は差分関数値を求める差分算出部と、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれに、前記差分算出部が算出する差分健全劣化度割合又は差分関数値を関連付けて記憶しておくための差分記憶部と、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る前記差分健全劣化度割合又は差分関数値に基づいて、説明変数としての管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合又は差分関数値の偏回帰係数又は判別係数及び定数項を求める判別式算出部と、例えば、判別式算出部で算出する線形判別関数式(例えば偏回帰係数又は判別係数及び定数項)を記憶しておくための判別式記憶部と、を備えたものとして構成できる。
【0013】
本発明は、損傷状態の実際の調査が行われ、調査した損傷状態から導き出された緊急度ランク又は健全度ランク等の健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて求めた線形判別関数式を用い、管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに判別値を算出することにより管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測方法に用いられる線形判別関数式の算出方法であって、地下埋設管路管理単位の属性について、量的データでは複数の区分に分割し、分割した区分ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求め、質的データでは、質的値ごとに、該当する前記調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である属性関数を求めるステップと、調査済み地下埋設管路管理単位全体の情報に基づいて、管理単位の管齢と管理単位の健全劣化度割合の関数である管齢関数を求めるステップと、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについて、前記属性関数により算出した健全劣化度割合又は属性関数値から、前記管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値を差し引いて差分健全劣化度割合又は差分関数値を求めるステップと、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合又は差分関数値に基づいて、説明変数としての管齢又は管齢関数により算出した健全劣化度割合又は管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る差分健全劣化度割合又は差分関数値の偏回帰係数又は判別係数及び定数項を求めるステップと、を備えたものとして構成できる。
【0014】
また、本発明は、地下埋設管の属性情報及び地下埋設管を実際に調査した結果から導き出された劣化状態の情報に基づいた重回帰分析を使用して地下埋設管の劣化順位を推定予測する方法であって、下記A、B及びCのステップを備えているものである。
A:属性関数を求めるステップ
B:管齢関数を求めるステップ
C:地下埋設管の区間の差分健全度割合を求めるステップ
【0015】
さらに、本発明は、健全劣化指標が記録されている地下埋設管路管理単位の情報を収集し、収集した調査済み地下埋設管路管理単位の情報に基づいて管理対象の地下埋設管路管理単位の健全劣化状態を推定予測する地下埋設管路健全劣化推定予測方法であって、地下埋設管路管理単位の属性についての属性関数を求めるステップと、地下埋設管路管理単位についての管齢関数を求めるステップと、前記属性関数により算出した属性関数値から、前記管齢関数により算出した管齢関数値を差し引いて差分関数値を求めるステップと、前記調査済み地下埋設管路管理単位のそれぞれについての、管齢又は前記管齢関数により算出した管齢関数値、及び少なくとも一つの属性に係る前記差分関数値に基づいて推定予測モデル式を求めるステップと、前記推定予測モデル式を用いて管理対象の地下埋設管路管理単位のそれぞれに健全劣化順位を示す値を算出して割り振るステップと、を備えたものとして構成できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明を用いれば、精度の高い健全度又は劣化度を把握して下水管渠等の地下埋設管を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る下水管渠劣化推定予測システムを概略的に示す全体構成図である。
【
図2】線形判別関数式算出コンピュータでの、又は線形判別関数式算出コンピュータを用いた全体的な処理の内容を示す図である。
【
図3】基礎情報データベースの内容を示す図である。
【
図4】線形判別関数式算出コンピュータの全体構成を示す図である。
【
図5】線形判別関数式算出コンピュータの内蔵記憶装置の構成を示す図である。
【
図6】線形判別関数式算出コンピュータの制御部の構成と情報の流れを示す図である。
【
図7】属性関数算出部での具体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【
図8】属性関数算出部での管齢統合の処理手順を示すためのフローチャートである。
【
図9】量的データに係る近似曲線の係数の一覧表の例を示すための図である。
【
図10】質的データに係る近似曲線の係数の一覧表の例を示すための図である。
【
図11】管齢関数算出部での具体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【
図12】管齢関数算出部での管齢統合の処理手順を示すためのフローチャートである。
【
図13】管齢関数記憶部の内容を示すための図である。
【
図14】差分算出部での具体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【
図16】判別式算出決定部での全体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【
図17】目的変数列ベクトルの算出の具体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【
図18】重回帰分析の具体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【
図19】重回帰分析を行った場合の出力結果の例を示す図である。
【
図21】多重共線性の有無確認の処理を示すためのフローチャートである。
【
図22】最適な線形判別関数式の決定処理を示すためのフローチャートである。
【
図23】解析コンピュータの全体構成を示す図である。
【
図24】解析コンピュータの内蔵記憶装置の構成を示す図である。
【
図25】管理対象データベースの内容を示す図である。
【
図26】解析コンピュータの制御部の構成及び情報の流れを示す図である。
【
図27】判別値算出部の処理手順を示すためのフローチャートである。
【
図28】属性関数値の算出手順を示すためのフローチャートである。
【
図29】管齢関数値の算出手順を示すためのフローチャートである。
【
図30】差分関数値の算出手順を示すためのフローチャートである。
【
図31】判別値の算出手順を示すためのフローチャートである。
【
図33】緊急度曲線記憶部に記憶された緊急度曲線関数を示す図である。
【
図34】緊急度曲線記憶部に記憶された緊急度曲線を描画した図である。
【
図35】劣化推定予測部の全体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【
図36】管理対象の全下水管渠スパンに対する劣化推定予測部の処理手順を説明するための図である。
【
図37】管理対象の全下水管渠スパンに対する劣化推定予測部の処理手順をグラフを用いて説明するための図である。
【
図38】全スパン劣化記憶部の内容を示す図である。
【
図39】調査済み緊急度が付されている調査済み下水管渠スパンに対する劣化推定予測部の処理手順を説明するための図である。
【
図40】調査済み緊急度が付されている調査済み下水管渠スパンに対する劣化推定予測部の処理手順をグラフを用いて説明するための図である。
【
図41】劣化度の推定予測の調整手順を示すためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は本発明に係る下水管渠劣化推定予測システムを概略的に示す全体構成図である。
【0020】
マンホール1間に接続された下水管渠スパン3については、順次、テレビカメラにより、管の腐食、上下方向のたるみ、管の破損及び軸方向クラック、管の円周方向クラック、管の継手ずれ、扁平、変形、浸入水及び取付け管の突出し、油脂の付着、樹木根侵入及びモルタル付着が調査され、これらの調査結果から、定められた調査判定基準(ここでは日本下水道協会作成)に基づき導き出された劣化度ランクを表すI乃至IVのいずれかの緊急度が付される(I、II、III、IVの順で劣化度が低下する。すなわち、I、II、III、IVの順で健全度が向上する。)。緊急度Iは「3つの診断項目(管の腐食、上下方向のたるみ、不良発生率に基づくランク)におけるスパン全体でのランクで、ランクAが2項目以上ある場合」を、緊急度IIは「3つの診断項目におけるスパン全体でのランクで、ランクAが1項目もしくはランクBが2項目以上ある場合」を、緊急度IIIは「3つの診断項目におけるスパン全体でのランクで、ランクAがなく、ランクBが1項目もしくはランクCのみの場合」を、緊急度IVは「緊急度I~IIIに該当しない場合」を、それぞれ表している。また、下水管渠の新築時の工事設計書、下水道台帳等には布設年度、管種、管径及び路線延長(スパン延長)等の属性が記録されている。
【0021】
本発明に係る下水管渠劣化推定予測システム5は、調査が実施されて緊急度I乃至IVのいずれかが付された下水管渠スパン(地下埋設管路管理単位)3の情報を収集して作成されたデータベースを有し、それぞれの下水管渠スパンの緊急度及び属性により劣化推定予測モデルである属性関数、管齢関数及び線形判別関数式をそれぞれ算出する線形判別関数式算出コンピュータ7と、この線形判別関数式算出コンピュータ7から劣化推定予測モデルである属性関数、管齢関数及び線形判別関数式(属性関数、管齢関数及び線形判別関数式の係数データ、定数項データ)を受け取って又は取得して判別値算出部で管理対象の下水管渠スパンそれぞれについて判別値を算出する解析コンピュータ9と、を備えている。解析コンピュータ9で算出された判別値は管理対象スパンの劣化順位を表すものとして利用され、算出した判別値に基づき管理対象の下水管渠スパンそれぞれの残寿命が算出される。さらに、算出した残寿命に基づき管理対象の下水管渠スパンについて将来の各年度における調査及び修繕改築の路線延長及び費用を予測したり、固定資産評価額及び減価償却額を推定することも行うことができる。なお、ここでは線形判別関数式算出コンピュータ7と解析コンピュータ9とを別々のコンピュータとして構成しているが、それぞれのコンピュータ7、9が行う処理を一括して行う一つの又は一台のコンピュータを構成することもできる。
【0022】
図2は線形判別関数式算出コンピュータ7での又は線形判別関数式算出コンピュータを用いた全体的な処理の内容を示す図である。
【0023】
線形判別関数式算出コンピュータ7では、第1に、調査済み下水管渠スパンの緊急度及びそれぞれの属性情報を収集して
図3に示す基礎情報データベース11を作成又は取得する(S1)。基礎情報データベース11には、調査済み下水管渠スパンごとに、複数の質的データ及び量的データが記録され、また、I乃至IVのいずれかの緊急度が付されている。なお、「管齢」は緊急度調査時又は緊急度調査年度の管齢である。
【0024】
第2に、基礎情報データベース11を参照して属性関数を算出する(S2)。属性関数とは、下水管渠スパンの属性の細分域で算出した管齢と高健全度割合の関数である。細分域とは、属性が質的データである場合は各値(各質的値)であり、属性が量的データである場合は複数の区分に分割した場合の各区分である。例えば、属性「管種」では、「陶管」、「コンクリート管」又は「塩ビ管」が各質的値となり、属性「管径」では、「70mm以上230mm未満」、「230mm以上240mm未満」などが各区分となる。そして、一つの属性のうちの一つの質的値又は一つの区分に該当する具体的な属性を有する調査済み下水管渠スパンを対象とし又は集め、管齢と高健全度割合の関数を求める。例えばすべての質的値又は区分について求めた管齢と高健全度割合の関数の全体を当該属性に係る属性関数とする。属性関数は、例えば、一つの質的値又は一つの区分に該当する下水管渠スパンについて、管齢がXである場合の緊急度がIII又はIV(ここでは高健全度を緊急度IIIとIVとしているが、例えば高健全度を緊急度II、III、IVとしてもよい)である確率を表すものであり、具体的には、例えば、一つの質的値又は一つの区分に該当する調査済み下水管渠スパンを対象として、管齢(調査時管齢、例えば調査年度管齢)が同一のものを集めてスパン集団を形成し、それぞれのスパン集団について、集めた下水管渠スパンの総路線延長がL、集めた下水管渠スパンのうちの緊急度III又はIV(高健全度を例えば緊急度II、III、IVとした場合は緊急度II、III又はIV)が付されたものの路線延長の合計がL1のとき、L1/Lを高健全度割合として求めることができる。より具体的には、属性関数は、一つの質的値又は一つの区分に該当する調査済み下水管渠スパンを対象として、管齢が同一のものを集めてスパン集団を形成し、それぞれのスパン集団について、集めた下水管渠スパンの総路線延長がL、集めた下水管渠スパンのうちの緊急度III又はIVが付されたものの路線延長の合計がL1のとき、L1/Lを高健全度割合として、管齢と高健全度割合のグラフ又は横軸が管齢、縦軸が高健全度割合のグラフ上にドットを打ち、近似曲線を算出することにより求めることができる。あるいは、属性関数は、例えば、一つの質的値又は一つの区分に該当する調査済み下水管渠スパンを対象として、管齢が同一のものを集めてスパン集団を形成し、それぞれのスパン集団について、集めた下水管渠スパンの総本数がN、集めた下水管渠スパンのうちの緊急度III又はIVが付されたものの本数の合計がN1のとき、N1/Nを高健全度割合として求めることができる。より具体的には、属性関数は、一つの質的値又は一つの区分に該当する調査済み下水管渠スパンを対象として、管齢が同一のものを集めてスパン集団を形成し、それぞれのスパン集団について、集めた下水管渠スパンの総本数がN、集めた下水管渠スパンのうちの緊急度III又はIVが付されたものの本数の合計がN1のとき、N1/Nを高健全度割合として、管齢と高健全度割合のグラフ又は横軸が管齢、縦軸が高健全度割合のグラフ上にドットを打ち、近似曲線を算出することにより求めることもできる。近似曲線とドットの相関係数により、劣化作用に係る自然法則が実際の調査で得られた測定値の集計値に適合する程度を確認できる。
【0025】
第3に、基礎情報データベース11を参照して管齢関数を算出する(S3)。管齢関数は、例えば、下水管渠スパンについて、管齢がXである場合の緊急度がIII又はIV(ここでは高健全度を緊急度IIIとIVとしているが、例えば高健全度を緊急度II、III、IVとしてもよい)である確率を表すものであり、具体的には、例えば、すべての調査済み下水管渠スパンを対象として、管齢(調査時管齢、例えば調査年度管齢)が同一のものを集めてスパン集団を形成し、それぞれのスパン集団について、集めた下水管渠スパンの総路線延長がL、集めた下水管渠スパンのうちの緊急度III又はIV(高健全度を例えば緊急度II、III、IVとした場合は緊急度II、III又はIV)が付されたものの路線延長の合計がL1のとき、L1/Lを高健全度割合として求めることができる。より具体的には、管齢関数は、すべての調査済み下水管渠スパンを対象として、管齢が同一のものを集めてスパン集団を形成し、それぞれのスパン集団について、集めた下水管渠スパンの総路線延長がL、集めた下水管渠スパンのうちの緊急度III又はIVが付されたものの路線延長の合計がL1のとき、L1/Lを高健全度割合として、管齢と高健全度割合のグラフ又は横軸が管齢、縦軸が高健全度割合のグラフ上にドットを打ち、近似曲線を算出することにより求めることができる。あるいは、管齢関数は、例えば、すべての調査済み下水管渠スパンを対象として、管齢が同一のものを集めてスパン集団を形成し、それぞれのスパン集団について、集めた下水管渠スパンの総本数がN、集めた下水管渠スパンのうちの緊急度III又はIVが付されたものの本数の合計がN1のとき、N1/Nを高健全度割合として求めることができる。より具体的には、管齢関数は、すべての調査済み下水管渠スパンを対象として、管齢が同一のものを集めてスパン集団を形成し、それぞれのスパン集団について、集めた下水管渠スパンの総本数がN、集めた下水管渠スパンのうちの緊急度III又はIVが付されたものの本数の合計がN1のとき、N1/Nを高健全度割合として、管齢と高健全度割合のグラフ又は横軸が管齢、縦軸が高健全度割合のグラフ上にドットを打ち、近似曲線を算出することにより求めることもできる。なお、管齢関数を属性関数の一種と捉え、「属性関数の算出」によって算出するように構成してもよい。
【0026】
第4に、属性関数と管齢関数の差分を算出する(S4)。差分は、同一の管齢について、属性関数の高健全度割合又は属性関数値から管齢関数の高健全度割合又は管齢関数値を差し引いて算出することができる。すなわち、調査済み下水管渠スパンのそれぞれについて、該当する具体的な属性関数に管齢(調査時管齢、例えば調査年度管齢)を代入して算出した高健全度割合又は属性関数値から、管齢関数に管齢(調査時管齢、例えば調査年度管齢)を代入して算出した高健全度割合又は管齢関数値を差し引いた高健全度割合又は数値を当該属性に係る差分とする。属性関数そのものではなく差分を算出して重回帰分析に使用するのは、区分や質的値の特徴が属性関数から管齢関数を差し引いた数値に強く表れると推察されるからである。
【0027】
第5に、線形判別関数式を算出し、例えば算出した線形判別関数式の中から適した又は最適の式を決定する(S5)。線形判別関数式の説明変数には、例えば、管齢又は管齢関数に管齢を代入して算出した高健全度割合又は管齢関数値(管齢及び管齢関数に管齢を代入して算出した高健全度割合又は管齢関数値のいずれか一つ)と、管齢以外の1つ又は複数の属性に係る差分と、が含まれる。ここでは、例えば、説明変数候補として特定された属性のすべての組み合わせのそれぞれを説明変数とする線形判別関数式が算出される。より具体的には、例えば、説明変数候補として特定された属性のすべての組み合わせのそれぞれと管齢との組み合わせを説明変数とする線形判別関数式及び説明変数候補として特定された属性のすべての組み合わせのそれぞれと管齢関数に管齢を代入して算出した高健全度割合又は管齢関数値との組み合わせを説明変数とする線形判別関数式が算出される。管齢又は管齢関数に管齢を代入して算出した高健全度割合又は管齢関数値を例えば必ず選択する理由は、管齢は劣化現象の最も本質的な属性であり、管齢関数はこれに準ずるものだからである。そして、それぞれの調査済み下水管渠スパンについて、管齢又は管齢関数に管齢を代入して算出した高健全度割合又は管齢関数値と、その他の説明変数としての差分と、を説明変数の値とし、この説明変数の値から重回帰分析によりそれぞれの説明変数の偏回帰係数又は判別係数及び定数項の値を求めて線形判別関数式を導き出す。そして、例えば、導き出した線形判別関数式の中から適切な又は最も適切な線形判別関数式を決定する。なお、説明変数候補としてすべての属性が、例えば自動的に選定又は特定されるように構成することもできる。
【0028】
決定された線形判別関数式は管理対象の下水管渠スパンの判別値を算出するのに用いられる。
【0029】
図4は線形判別関数式算出コンピュータ7の全体構成を示す図である。
【0030】
線形判別関数式算出コンピュータ7はパーソナルコンピュータにより構成され、制御部13と、内蔵記憶装置15(例えばハードディスク)と、キーボード及びマウス等の入力部17と、プリンタ等の出力部19と、液晶ディスプレイ21と、通信部23と、を備えている。
【0031】
【0032】
内蔵記憶装置15は、特に、基礎情報データベース11と、属性関数記憶部25と、管齢関数記憶部27と、説明変数値記憶部29と、判別式記憶部31と、を有している。基礎情報データベース11には、
図3に示すように、調査済み下水管渠スパンごとに、質的データとして、「自治体」、「管種(2はコンクリート管)」、「道路種別」、「歩車道」及び「排水種別」の属性が記憶され、量的データとして、「管齢」、「管径」、「路線延長」、「スパン内管本数」、「取付管本数」、「調査年度」、「布設年度」及び「土被り」の属性が記録されていて、また、緊急度I乃至IVの何れかが付されている。質的データ及び量的データとしてその他の属性が記憶されることもある。なお、属性「自治体」の「市(5)」や「政令市(4)」はスパンが所属する特定の市や政令市を表している。また「管齢」は調査時管齢、例えば調査年度管齢であり、調査年度から布設年度を差し引いた年数である。
【0033】
図6は制御部13の構成と情報の流れを示す図である。
【0034】
制御部13は、線形判別関数式算出コンピュータ7全体の動作を制御するが、特に、属性関数や管齢関数を算出する関数算出部36を有している。関数算出部36には、管齢以外の属性についての値又は区分ごとに管齢の関数である高健全度割合を属性関数として導き出し、属性関数記憶部25に記憶するための属性関数算出部33と、すべての調査済み下水管渠スパンを対象として又は集めて、管齢の関数である高健全度割合を管齢関数として導き出し、管齢関数記憶部27に記憶するための管齢関数算出部35と、を構成できる。制御部13は、また、属性関数記憶部25及び管齢関数記憶部27を参照して差分を算出し、説明変数値記憶部29に記憶するための差分算出部37と、説明変数値記憶部29を参照して線形判別関数式を導き出し、判別式記憶部31に記憶するとともに、適切な又は最適の線形判別関数式を決定して判別式記憶部31に記憶する判別式算出決定部39と、を有している。
【0035】
図7は属性関数算出部33での具体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【0036】
管理対象の下水管渠スパンそれぞれに劣化度を示す判別値を算出して割り振る線形判別関数式又は推定予測モデル式は、管齢又は管齢関数と、基礎情報データベース11に記載された、管齢を除く一つ又は複数の属性に係る差分を説明変数とするものである。そこで、関数算出部36は例えば関数処理すべき属性を一つずつ選択し、又は属性ごとに関数処理を実行する。関数算出部36は、説明変数として採用したい説明変数候補の属性(例えば管齢以外の属性)が決定され、例えば入力部17から入力された範囲内の属性を選択し又は対象とするように構成できる。また、説明変数候補の属性の範囲が自動的に決定されるように構成できる。例えば、ある属性に含まれる質的値の数が少なく、しかも特定の質的値に該当する調査済み下水管渠スパンの本数が少ない場合にはこの属性を説明変数候補から自動的に除くように構成できる。さらに、管齢以外のすべての属性を例えば自動的に説明変数候補とし、すべての属性を選択し又は対象とするように構成できる。または、管齢以外の少なくとも2つの属性を例えば自動的に説明変数候補とするように構成できる。ただし、管齢は必ず選択され関数処理される必要がある。そして、対象の属性又は選択された属性が管齢以外の属性であれば、属性関数算出部33で処理される(S1)。ここでは、管齢以外の全属性(全説明変数)が処理対象となっている。次に、対象の属性又は選択された属性が量的データに係るものか質的データに係るものかが判断される(S2)。なお、判別精度向上は、有限要素法の計算で物体形状を細分化することにより良好な形状関数の近似が実現するように、細分化された区分の特徴が漏れなく属性関数の数値に反映されることで実現すると期待される。
【0037】
1.属性が量的データの場合
対象の属性又は選択された属性のデータの最小値と最大値との間を複数区分に分割する(S3)。線形判別関数式の判別精度向上のためには細かく分割することが好ましい。そして、分割された各区分に該当する調査済み下水管渠スパンを管齢統合処理対象とし(S4)、例えば最小値側の区分から一つの区分が選択され又は区分ごとに、この区分に該当する対象調査済み下水管渠スパンに対して(S5)管齢統合処理を行う(S6)。
【0038】
管齢統合処理
管齢統合処理では、
図8に示すように、対象調査済み下水管渠スパンの管齢(調査時管齢、例えば調査年度管齢)それぞれに対して(S6-1)、当該管齢のスパンの路線延長の合計が2.5km~5.0kmの範囲で設定されている所定距離(例えば3.0km又は5.0km)以上で所定距離近くであれば当該管齢のスパン集団を形成し、当該管齢のスパンの路線延長の合計が所定距離未満であればスパンの路線延長の合計が所定距離以上となるように隣接する管齢と統合したスパン集団を形成する(S6-2)。すべての管齢について統合処理を行ったら(S6-3)、形成したスパン集団(管齢グループ)のそれぞれに対して(S6-4)、代表管齢を延長加重平均で算出する(S6-5)。すなわち、総路線延長X1、管齢Y1のスパン集団と、総路線延長X2、管齢Y2のスパン集団を統合した場合には、統合後のスパン集団は、総路線延長X1+X2、代表管齢(Y1×X1+Y2×X2)÷(X1+X2)となる。統合を行っていないスパン集団ではそれぞれのスパンの管齢が代表管齢となる。代表管齢を算出したら、代表管齢に属するスパン集団のうちIII又はIVの緊急度が付されたスパン(1群)の合計路線延長L1をこのスパン集団のすべてのスパンの総路線延長Lで除した値を算出し、代表高健全度割合とする(S6-6)。統合を行っていないスパン集団では、スパン集団のうちIII又はIVの緊急度が付されたスパンの合計路線延長L1をこのスパン集団のすべてのスパンの総路線延長Lで除した値が代表高健全度割合となる。そして、直交座標(横軸が管齢、縦軸が高健全度割合)上に代表管齢及び代表高健全度割合を座標値としてドットを記載する(S6-7)。すべてのスパン集団に対して代表管齢及び代表高健全度割合を座標値としてドットを記載する処理を終了したら(S6-8)、当該対象調査済み下水管渠スパン又は当該区分に対して管齢統合処理を終了する。
【0039】
管齢個数の調整
管齢統合を終了したら管齢個数の調整を行う。管齢個数の調整では、まず、同一管齢のスパン集団が、算出する属性関数(近似曲線)の係数の個数未満の個数であるか否かが判断される(S7)。近似曲線関数の種類は選択可能であるが、ここでは
図7のWeibull関数式に記載された2係数のワイブル曲線(Excel関数表示でEXP(-POWER(t/η、m))を採用しているので、係数の個数未満のドット数は1個となる。すなわち、直交座標上のドットの個数が2つ未満であるか否かが判断され(S7)、直交座標上のドットの個数が2つ未満であれば、処理対象が区分(量的データ)であることを確認してから(S8)当該区分の上限側区分境界を引き上げ(S9)、再び、管齢統合処理を行い(S6)、直交座標上のドットの個数を確認する(S7)。なお、最大値を上限側区分境界とする区分に管齢個数の調整を行う必要がある場合には、例えば、隣接する区分と合体させるか、下限側区分境界を引き下げるなどの処理を行うことが考えられるが、最上位の区分を十分な大きさのものとして設定し、最上位の区分で管齢個数不足が生じないようしておくこともできる。
【0040】
近似曲線の係数の決定
区分の直交座標上のドットの個数が2つ以上であれば、直交座標上に記載した代表管齢及び代表高健全度割合のドットに対し、ワイブル曲線の近似曲線の係数を最小二乗法等により算出する(S10)。すべての区分に対して近似曲線の係数を算出したら(S11)、当該量的データの属性に係る近似曲線係数の算出を終了する。そして、
図9に示すように、当該属性に係る属性関数を、区分の名称(NO.)に対応させて、下限値(以上)及び上限値(未満)並びに近似曲線の係数(η、m)を記録することにより一覧表とし、属性関数記憶部25に記憶しておき(S12)、別の説明変数候補の属性関数を作成する(S13)。
【0041】
2.属性が質的データの場合
質的データに含まれる各値(質的値)に該当する調査済み下水管渠スパンを管齢統合処理対象とする(S14)。質的値とは、例えば「管種」という質的データに含まれる「陶管」、「コンクリート管」及び「塩ビ管」の三つのそれぞれの値をいう。そして、質的値ごとに、質的値に該当する対象調査済み下水管渠スパンに対して(S2)管齢統合処理を行う(S6)。
【0042】
管齢統合処理
管齢統合処理では、
図8に示すように、対象調査済み下水管渠スパンの管齢(調査時管齢、例えば調査年度管齢)それぞれに対して(S6-1)、当該管齢のスパンの路線延長の合計が2.5km~5.0kmの範囲で設定されている所定距離(例えば3.0km又は5.0km)以上で所定距離近くであれば当該管齢のスパン集団を形成し、当該管齢のスパンの路線延長の合計が所定距離未満であればスパンの路線延長の合計が所定距離以上となるように隣接する管齢と統合したスパン集団を形成する(S6-2)。すべての管齢について統合処理を行ったら(S6-3)、形成したスパン集団(管齢グループ)のそれぞれに対して(S6-4)、代表管齢を延長加重平均で算出する(S6-5)。すなわち、総路線延長X1、管齢Y1のスパン集団と、総路線延長X2、管齢Y2のスパン集団を統合した場合には、統合後のスパン集団は、総路線延長X1+X2、代表管齢(Y1×X1+Y2×X2)÷(X1+X2)となる。統合を行っていないスパン集団ではそれぞれのスパンの管齢が代表管齢となる。代表管齢を算出したら、代表管齢に属するスパン集団のうちIII又はIVの緊急度が付されたスパン(1群)の合計路線延長L1をこのスパン集団のすべてのスパンの総路線延長Lで除した値を算出し、代表高健全度割合とする(S6-6)。統合を行っていないスパン集団では、スパン集団のうちIII又はIVの緊急度が付されたスパンの合計路線延長L1をこのスパン集団のすべてのスパンの総路線延長Lで除した値が代表高健全度割合となる。そして、直交座標(横軸が管齢、縦軸が高健全度割合)上に代表管齢及び代表高健全度割合を座標値としてドットを記載する(S6-7)。すべてのスパン集団に対して代表管齢及び代表高健全度割合を座標値としてドットを記載する処理を終了したら(S6-8)、当該対象調査済み下水管渠スパン又は当該質的値に対して管齢統合処理を終了する。
【0043】
管齢個数の調整
管齢統合を終了したら管齢個数の調整を行う。管齢個数の調整は、まず、同一管齢のスパン集団が、算出する属性関数(近似曲線)の係数の個数(ここでは2つ)未満の個数であるか否か、すなわち、直交座標上のドットの個数が2つ未満であるか否かが確認され(S7)、直交座標上のドットの個数が2つ未満であれば、処理対象が質的値であることを確認してから(S8)同一の属性で、当該質的値と別の質的値とを合体させて新たな質的値とし(S15)、再び、管齢統合処理を行い(S6)、直交座標上のドットの個数を確認する(S7)。例えば、属性「排水種別」という質的データには、「雨水」、「汚水」、「合流」、「分流(雨水)」、「分流(汚水)」及び「空欄」の6種類の質的値があるが、「分流(雨水)」に該当する個数が不足していて係数の個数未満の個数のスパン集団しかない場合には、「雨水」と合体させて「雨水系」という新たな質的値を作り出す。質的値の合体は概念又は意味内容の近いものの間で行なう。合体させることのできる質的値の組み合わせ及び組み合わせの優先順位は、例えば予め決められて設定されている。
【0044】
近似曲線の係数の決定
質的値の直交座標上のドットの個数が2つ以上であれば、直交座標上に記載した代表管齢及び代表高健全度割合のドットに対し、ワイブル曲線の近似曲線の係数を最小二乗法等により算出する(S10)。すべての質的値に対して近似曲線の係数を算出したら(S11)、当該質的データの属性に係る近似曲線係数の算出を終了する。そして、
図10に示すように、当該属性に係る属性関数を、質的値の名称に対応させて、近似曲線の係数(η、m)を記録することにより一覧表とし、属性関数記憶部25に記憶しておき(S12)、別の説明変数候補の属性関数を作成する(S13)。
【0045】
一つの属性についての処理が完了した場合
説明変数候補の属性が他にあるか否かが判断され(S13)、ある場合にはその属性について順次S1以降の処理が行なわれる。そして、すべての説明変数(属性)について属性関数一覧表を作成し記録を行ったら(
図7の「属性関数記憶部内」参照)属性関数の算出処理を終了する。なお、属性関数においてドットと近似曲線との相関係数を算出して強い相関があることが確認されている。
【0046】
図11は管齢関数算出部35での具体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【0047】
対象の属性又は選択された属性が管齢であれば(S1)、線形判別関数式の説明変数として管齢の代わりに用いられることがあり、また、差分を算出する場合に用いられる管齢関数を管齢関数算出部35で算出し作成する。
【0048】
管齢関数算出部35では、すべての調査済み下水管渠スパンを対象として(S2)管齢統合処理が行われる(S3)。管齢統合処理は、
図12に示す手順で行われ、調査済み下水管渠スパンの管齢(調査時管齢、例えば調査年度管齢)それぞれに対して(S3-1)、当該管齢のスパンの路線延長の合計が2.5km~5.0kmの範囲で設定されている所定距離(例えば3.0km又は5.0km)以上で所定距離近くであれば当該管齢のスパン集団を形成し、当該管齢のスパンの路線延長の合計が所定距離未満であればスパンの路線延長の合計が所定距離以上となるように隣接する管齢と統合したスパン集団を形成する(S3-2)。すべての管齢について統合処理を行ったら(S3-3)、形成したスパン集団(管齢グループ)のそれぞれに対して(S3-4)、代表管齢を延長加重平均で算出する(S3-5)。すなわち、総路線延長X1、管齢Y1のスパン集団と、総路線延長X2、管齢Y2のスパン集団を統合した場合には、統合後のスパン集団は、総路線延長X1+X2、代表管齢(Y1×X1+Y2×X2)÷(X1+X2)となる。統合を行っていないスパン集団ではそれぞれのスパンの管齢が代表管齢となる。代表管齢を算出したら、代表管齢のスパン集団のうちIII又はIVの緊急度が付されたスパンの合計路線延長L1をこのスパン集団のすべてのスパンの総路線延長Lで除した値を算出し、代表高健全度割合とする(S3-6)。統合を行っていないスパン集団では、スパン集団のうちIII又はIVの緊急度が付されたスパンの合計路線延長L1をこのスパン集団のすべてのスパンの総路線延長Lで除した値が代表高健全度割合となる。そして、直交座標(横軸が管齢、縦軸が高健全度割合)上に代表管齢及び代表高健全度割合を座標値としてドットを記載する(S3-7)。すべてのスパン集団に対して代表管齢及び代表高健全度割合を座標値としてドットを記載する処理を終了したら(S3-8)、管齢統合処理を終了して、直交座標上に記載した代表管齢及び代表高健全度割合のドットに対し、ワイブル曲線の近似曲線の係数を最小二乗法等により決定し(S4)、管齢関数記憶部27に係数(η、m)と近似曲線図を記憶する(S5、
図11の「管齢関数記憶部内」及び
図13参照)。例えば、ワイブル曲線の係数の決定及び近似曲線のグラフの作成は、Microsoft社の表計算ソフトExcel上でソルバー機能を使用して行うことができる。
【0049】
図14は差分算出部37での具体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【0050】
それぞれの調査済み下水管渠スパンについては、説明変数候補の属性(ここでは管齢を除いたすべての属性)に係る属性関数から管齢関数を差し引いて求めた差分を対応させる。差分算出部37では、調査済み下水管渠スパンから一つを選択し又は調査済み下水管渠スパンごとに(S1)、管齢関数値(管齢関数に調査済み下水管渠スパンの管齢(調査時管齢、例えば緊急度調査年度管齢)を代入して求めた高健全度割合又は数値)を算出して、この調査済み下水管渠スパンに対応するように説明変数値記憶部29(
図15参照)の管齢関数列ベクトル中に記録する(S2)。説明変数値記憶部29では管齢関数値は管齢関数(B)列に記録されている。例えば、管齢関数は管齢関数記憶部27から近似曲線係数を取得し、近似曲線関数式を作成することにより得ることができる。次に、説明変数候補の属性(ここでは管齢を除いたすべての属性)から一つを選択し又は説明変数候補の属性ごとに(S3)、調査済み下水管渠スパンが属する属性関数(調査済み下水管渠スパンが属する区分又は質的値の属性関数)に当該スパンの管齢(調査時管齢、例えば調査年度管齢)を代入して高健全度割合又は数値(属性関数値)を算出し、調査済み下水管渠スパンに対応するように説明変数値記憶部29の該当する属性関数列ベクトルに属性関数値を記録するとともに、算出した属性関数値から管齢関数値を差し引いて差分関数値(差分値又は差分数値)を求め、調査済み下水管渠スパンに対応するように説明変数値記憶部29の当該属性に係る差分関数列ベクトル中に記録する(S4)。説明変数値記憶部29では属性関数値は属性関数(A)列に記録され、差分関数値は差分関数(A-B)列に記録されている。例えば、属性関数は属性関数記憶部25の対応する属性関数一覧表の該当する区分又は質的値の近似曲線係数を取得し(例えば、ExcelではVLOOKUP関数又はINDEX関数及びMATCH関数を使用できる)、近似曲線関数式を作成することにより得ることができる。対象の又は選択した調査済み下水管渠スパンに対してすべての属性に係る差分関数値を求めて説明変数値記憶部29に記録したら(S5)、次の調査済み下水管渠スパンを選択し、あるいは、次の調査済み下水管渠スパンに対して、管齢関数値、属性関数値及び差分関数値を算出して記録する。この処理がすべての調査済み下水管渠スパンに対して行われると差分算出処理又は差分関数算出処理を終了する(S6)。なお、
図15の説明変数値記憶部29の管齢は調査時管齢又は調査年度管齢である。
【0051】
図16は判別式算出決定部39での全体的な処理手順を示すためのフローチャートである。
【0052】
線形判別関数式の偏回帰係数又は判別係数及び定数項は、それぞれの調査済み下水管渠スパンについての説明変数の数値から重回帰分析により求めることができるが、ここでは例えばMicrosoft社の表計算ソフトExcelの「回帰分析」を用いることができる。
【0053】
まず、調査済み下水管渠スパンのそれぞれに対して目的変数を求め、目的変数列ベクトルを算出する(S1)。次に、重回帰分析を行って線形判別関数式の偏回帰係数及び定数項を算出するとともに、自由度調整済み決定係数及び的中率を算出する(S2)。そして、多重共線性を検討して(S3)最適な線形判別関数式を決定する(S4)。
【0054】
図17を参照して目的変数列ベクトルの算出の具体的な処理手順を説明する。
【0055】
調査済み下水管渠スパンの一つを選択し又は調査済み下水管渠スパンごとに(S1)、緊急度がI又はII(0群)か緊急度がIII又はIV(1群)かを判断する(S2)。緊急度がI又はIIの場合には、-N1/(N0+N1)の値を(S3)、緊急度がIII又はIVの場合にはN0/(N0+N1)の値を(S4)、対象の調査済み下水管渠スパン又は選択した調査済み下水管渠スパンの目的変数に設定し、説明変数値記憶部29の目的変数列ベクトル(目的変数の列)に記録する(S5)。ここで、N0は0群のスパン数、N1は1群のスパン数である(ここでの目的変数の設定方法については森田浩著「多変量解析の基本と実践がよ~くわかる本」(株)秀和システム発行、2014、pp.150~153参照)。すべての調査済み下水管渠スパンについて目的変数を設定し、目的変数列ベクトルに記録したら(S6)、目的変数列ベクトルの算出処理を終了する。
【0056】
図18を参照して重回帰分析の具体的な処理手順を説明する。
【0057】
次に、管齢又は管齢関数(管齢関数値)の一方を選択し、説明変数候補の属性(ここでは管齢を除いたすべての属性である)のうちから一つ又は複数の属性(差分関数値)を選択して説明変数グループの組み合わせを一つ形成する(S1)。すなわち、説明変数グループごとに処理が実行される(S1)。そして、それぞれの調査済み下水管渠スパンの目的変数の数値及び説明変数グループの具体的な数値を説明変数値記憶部29から取得し(管齢の数値は調査時管齢、例えば調査年度管齢の数値である)、例えば目的変数の数値及び説明変数グループの数値を列ベクトルとして、回帰分析又は重回帰分析を行う(S2)。例えば目的変数、説明変数の値をそれぞれ、縦方向をスパン名、横方向を変数名の順序で整列させた列ベクトル、マトリクスとして例えばExcelの「回帰分析」に入力して回帰分析を行う。そうすると
図19に示すようなフォーマットの出力が得られる。ここでは、管齢及び自治体に係る差分関数値を説明変数とし、健全か非健全か、すなわち緊急度I及びIIか、緊急度III及びIVかを目的変数とする、Y=-0.01558×管齢+1.041814×自治体に係る差分関数値+0.541043の線形判別関数式を得ることができる。また、この線形判別関数式の自由度調整済み決定係数も算出されて出力される。さらに、それぞれの調査済み下水管渠スパンの説明変数の値又は数値をこの線形判別関数式に代入して判別値を算出し、算出した判別値の正負の符号と目的変数の値又は数値の正負の符号が一致した場合には的中判定値を「1」に設定し、一致しない場合には的中判定値を「0」に設定する。それから、的中判定値の合計をスパン数で除して的中率を算出できる。そして、回帰分析によって算出された偏回帰係数又は判別係数及び定数項(線形判別関係式)と自由度調整済み決定係数及び例えば的中率を判別式記憶部31に記憶する(S3、
図20参照)。この重回帰分析処理を説明変数グループのすべての組み合わせについて行ったら重回帰分析処理を終了する(S4)。なお、重回帰分析処理を行う説明変数グループを複数の属性(差分関数値)を有するものとすることができる。すなわち、算出され判別式記憶部31に記憶される線形判別関数式を、説明変数として複数の属性を有するもの又は少なくとも2つの属性を有するものとすることができる。
【0058】
図21を参照して多重共線性の有無確認の具体的な処理を説明する。
【0059】
多重共線性の有無確認の処理は、例えば、目的変数と各説明変数との相関係数(単相関係数)を算出し(S1)、線形判別関数式(偏回帰係数と定数項の組み合わせ)を一つ選択し又は線形判別関数式ごとに行うことができる(S2)。各説明変数について、算出された相関係数と各偏回帰係数の正負符号を比較して(S3)、正負符号が一致している場合には多重共線性なしと判断し(S4)、正負符号が一致していない場合には多重共線性ありと判断する(S5)。そして、正負符号が一致していない説明変数に正負符号逆転の記録を行うことにより、判別式記憶部31に多重共線性の有無を記録する(S6)。この処理をすべての線形判別関数式に行って多重共線性の有無確認処理を終了する(S7)。
【0060】
図22を参照して最適な線形判別関数式の決定処理を説明する。
【0061】
判別式記憶部31内を検索し、多重共線性がある線形判別関数式は除外し、多重共線性がない線形判別関数式のみを抽出する(S1)。そして、自由度調整済み決定係数又は例えば的中率が一番大きい線形判別関数式を最適のものとして採用し、例えば判別式記憶部31にその旨を記録する(S2)。最適とされたCaseB-1では、多重共線性が生じることなく、的中率が82.269%となっている。ここでの線形判別関数式は、緊急度I、II、III、IVが付された約20万本の下水管渠スパンのデータに基づき実際に導き出されたものである。なお、最適な線形判別関数式として複数の式を採用することもできる。
【0062】
図23は解析コンピュータ13の全体構成を示す図である。
【0063】
解析コンピュータ13はパーソナルコンピュータにより構成され、制御部41と、内蔵記憶装置43(例えばハードディスク)と、キーボード及びマウス等の入力部45と、プリンタ等の出力部47と、液晶ディスプレイ49と、通信部51と、を備えている。
【0064】
【0065】
内蔵記憶装置43は、特に、管理対象データベース53と、属性関数記憶部25と、管齢関数記憶部27と、判別式記憶部31と、属性関数値記憶部55と、管齢関数値記憶部57と、差分関数値記憶部59と、判別値記憶部61と、基礎情報データベース11と、緊急度曲線記憶部63と、全スパン劣化記憶部65と、調査済みスパン劣化記憶部67と、推定予測劣化記憶部69と、を有している。管理対象データベース53には、判別値を算出して割り振り、判別値の大きさによって劣化度の順位付けを行う対象である、例えば特定の自治体が管理する、実際に調査が行われて緊急度が記録された下水管渠スパン及び未調査であり緊急度が記録されていない下水管渠スパンが記憶されていて、
図25に示すように、それぞれの下水管渠スパンには線形判別関数式算出コンピュータ7の基礎情報データベース11と同一の量的データ及び質的データに係る属性が記憶され、実際に調査が行われた下水管渠スパンには、調査年度及び調査年度における管齢が記録されるとともに、解析年度及び解析時管齢が記録されている。また、属性関数記憶部25、管齢関数記憶部27、判別式記憶部31及び基礎情報データベース11は、線形判別関数式算出コンピュータ7の属性関数記憶部25、管齢関数記憶部27、判別式記憶部31及び基礎情報データベース11と同一の内容を有していて、これらのデータは線形判別関数式算出コンピュータ7からオンライン又はオフラインで取得することができる。なお、判別式記憶部31に記憶された判別式から解析コンピュータ13側で、使用する判別式を選択できるように構成することもできる。また、判別式記憶部31には最適の判別式だけが記録されていてもよい。属性関数値記憶部55、管齢関数値記憶部57、差分関数値記憶部59は、判別値を算出する際の計算結果を記録し、全スパン劣化記憶部65、調査済みスパン劣化記憶部67、推定予測結果記憶部69はそれぞれ、異なる態様での推定予測劣化を記録する。
【0066】
図26は制御部41の構成及び情報の流れを示す図である。
【0067】
制御部41は、解析コンピュータ13全体の動作を制御するが、特に、管理対象データベース53に記録されたそれぞれの下水管渠スパンに判別式記憶部31に記憶された線形判別関数式を用いて判別値を算出して割り振り、判別値記憶部61に出力する判別値算出部71と、基礎情報データベース11を参照して緊急度曲線(緊急度曲線の係数)を算出し、緊急度曲線記憶部63に出力する緊急度曲線算出部73と、判別値記憶部61を参照し、緊急度曲線記憶部63に記憶された緊急度曲線を用いて管理対象の下水管渠スパンに残寿命を算出して全スパン劣化記憶部65、調査済みスパン劣化記憶部67、推定予測劣化記憶部69に出力する劣化推定予測部75と、を有している。
【0068】
図27乃至
図31は判別値算出部71の処理手順を示すためのフローチャートである。
【0069】
判別値算出部71では、
図27に示すように、管理対象データベース53に記録された下水管渠スパンのそれぞれを対象として、属性関数値の算出(S1)、管齢関数値の算出(S2)、属性関数値と管齢関数値を用いる差分関数値の算出(S3)、差分関数値を用いる判別値の算出(S4)の各処理を実行する。
【0070】
属性関数値の算出処理では、
図28に示されているように、例えば管理対象データベース53に記録された下水管渠スパンのうちから一つを選択し、あるいは、管理対象データベース53に記録された下水管渠スパンごとに処理を実行する(S1)。対象の又は選択した下水管渠スパンの管齢を除くすべての属性(説明変数)から一つを選択し又は管齢を除く属性(説明変数)ごとに(S2)、この属性が該当する区分又は質的値の属性関数の近似曲線係数を属性関数記憶部25から取得する(S3)。そして、Weibull関数(
図7参照)にこの下水管渠スパンの管齢値(解析時管齢)を代入して高健全度割合又は属性関数値を算出し(S4)、属性関数値記憶部55に記憶する(S5)。なお、管齢値(解析時管齢)は(現在の年度(解析年度)-布設年度)によって算定されるので年度によって表される。また、布設年度に月又は月日まで記載されていたとしても年度のみが記載されているものとして処理することができる。対象の又は選択した下水管渠スパンのすべての属性にこの処理を施したら(S6)、例えば管理対象データベース53に記録された別の下水管渠スパンを選択して又は別の下水管渠スパンに対して、このスパンに高健全度割合(属性関数値)を算出する(S1)。例えば管理対象データベース53に記録されたすべての下水管渠スパンにすべての高健全度割合(属性関数値)を算出したら属性関数値の算出処理を終了する(S7)。
【0071】
管齢関数値の算出処理では、
図29に示されているように、まず、例えば管理対象データベース53に記録された下水管渠スパンのうちから一つを選択し又は下水管渠スパンごとに(S1)、管齢値(解析時管齢)=現在の年度(解析年度)-布設年度を算出する(S2)。そして、管齢関数の近似曲線係数を管齢関数記憶部27から取得し(S3)、Weibull関数式(
図11参照)にこの下水管渠スパンの管齢値を代入して高健全度割合(管齢関数値)を算出し(S4)、管齢関数値記憶部57に記録する(S5)。例えば管理対象データベース53に記録されたすべての下水管渠スパンに高健全度割合(管齢関数値)を算出したら(S6)管齢関数値の算出処理を終了する。なお、
図25に示すように、管齢値(解析時管齢)が管理対象データベース53に記録されている場合には、この管齢値を取得して処理を行ってもよい。
【0072】
差分関数値の算出処理では、
図30に示されているように、まず、例えば管理対象データベース53に記録された下水管渠スパンのうちから一つを選択し又は下水管渠スパンごとに処理を実行する(S1)。対象の又は選択した下水管渠スパンのすべての属性関数値から一つを選択し又は属性関数値ごとに(S2)、差分関数値=属性関数値-管齢関数値を算出し(S3)、差分関数値記憶部59に記憶する(S4)。対象の又は選択した下水管渠スパンのすべての属性関数値にこの処理を施したら(S5)、例えば管理対象データベース53に記録された別の下水管渠スパンを選択して又は別の下水管渠スパンに対してこのスパンに高健全度割合(差分関数値)を算出する(S6)。例えば管理対象データベース53に記録されたすべての下水管渠スパンにすべての高健全度割合又は差分関数値を算出したら差分関数値の算出処理を終了する。
【0073】
判別値の算出処理では、
図31に示すように、まず、例えば管理対象データベース53に記録された下水管渠スパンのうちから一つを選択し又は下水管渠スパンごとに処理を実行する(S1)。対象の又は選択した下水管渠スパンの管齢値、管齢関数値、差分関数値のうちから、判別式記憶部31に最適の判別式として記録されている判別式又は判別式記憶部31に記録されている判別式の中から選択採用された判別式の説明変数に該当するものを取得し、判別式に代入して判別値を算出し(S2)、判別値記憶部61に記録する(S3)。例えば管理対象データベース53に記録されたすべての下水管渠スパンに判別値を算出したら(S4)判別値の算出処理を終了する。判別値記憶部61では、
図32に示すように、判別値の低い順(補修等の管理の優先度の高い順)に各下水管渠スパンが記録される。
図32は、管齢(解析時管齢、解析年度管齢)、路線延長に係る差分関数値及び管径に係る差分関数値を説明変数とする判別式により算出した判別値の記録例である。なお、判別値の算出処理で使用される判別式は複数の又は2つ以上の属性を説明変数にしているものとすることができる。
【0074】
図33及び
図34は緊急度曲線記憶部63に記憶された緊急度曲線を説明するための図である。
【0075】
劣化推定予測部75は、緊急度曲線記憶部63に記憶された緊急度曲線データを用い、各管理対象のスパンの管齢に応じた残存率(健全率)を予測する。残存率(健全率)は高健全度割合に生存率であるw1の数値を乗じた積である。緊急度曲線には
図33に示すワイブル係数(η、m)に応じてw1、w2、w3及びw4の4種類のワイブル曲線が含まれている。ワイブル係数η、mは、基礎情報データベース11に記録されている情報に基づき緊急度曲線算出部73により統計的に求められる。ここで、w1、w2、w3及びw4の4種類のワイブル曲線をグラフに表すと、横軸を管齢、縦軸を残存率(健全率)として
図34のように描画される(管齢と残存率(健全率)のグラフ)。
図34では、ある管齢又はこれに対応する布設年度の下水管渠スパンを集めてスパン集団を形成したときの、当該スパン集団のうちで損壊、緊急度I、緊急度II、緊急度III及び緊急度IVのものの推定割合が示されている。すなわち、横軸の特定の管齢については、グラフの残存率1.0の高さ(全高)は、当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンの総路線延長又は総スパン数を示し、w1から上側の高さは、当該管齢時までに寿命に至り損壊していると推定予想される当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンの路線延長の合計又はスパン数の合計を示し、全高に対するw1から上側の高さの割合が、当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンに関し、総路線延長又は総スパン数に対する当該管齢時までに寿命に至り損壊していると推定予測される路線延長の合計又はスパン数の合計の割合を示す。また、w4から下側の高さは、当該管齢時まで健全(緊急度IV)であると推定予想される当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンの路線延長の合計又はスパン数の合計を示し、全高に対するw4から下側の高さの割合が、当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンに関し、総路線延長又は総スパン数に対する当該管齢時まで健全と推定予測される路線延長の合計又はスパンの合計の割合を示す。w3から下側かつw4から上側の高さは、当該管齢時までに緊急度IIIに達している、又は当該管齢時に緊急度IIIであると予想される当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンの路線延長の合計又はスパン数の合計を示し、全高に対するw3から下側かつw4から上側の高さの割合が、当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンに関し、総路線延長又は総スパン数に対する当該管齢時までに緊急度IIIに達している、又は当該管齢時に緊急度IIIであると推定予測される路線延長の合計又はスパン数の合計の割合を示す。w2から下側かつw3から上側の高さは、当該管齢時までに緊急度IIに達している、又は当該管齢時に緊急度IIであると推定予想される当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンの路線延長の合計又はスパン数の合計を示し、全高に対するw2から下側かつw3から上側の高さの割合が、当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンに関し、総路線延長又は総スパン数に対する当該管齢時までに緊急度IIに達している、又は当該管齢時に緊急度IIであると推定予測される路線延長の合計又はスパン数の合計の割合を示す。そして、w1から下側かつw2から上側の高さは、当該管齢時までに緊急度Iに達している、又は当該管齢時に緊急度Iであると推定予想される当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンの路線延長の合計又はスパン数の合計を示し、全高に対するw1から下側かつw2から上側の高さの割合が、当該管齢に対応する布設年度の下水管渠スパンに関し、総路線延長又は総スパン数に対する当該管齢時までに緊急度Iに達している、又は当該管齢時に緊急度Iであると推定予測される路線延長の合計又はスパン数の合計の割合を示す。なお、
図34等では管齢100年近くにおいてw4とw3が交差しているが、これは高い管齢での劣化情報が不足しているための現象であり、このような場合にはw4が交差点位置で終了しているものとして処理することができる。
【0076】
図35乃至
図38を参照して劣化推定予測部75の処理手順を説明する。
【0077】
劣化推定予測部75は、
図35に示すように、管理対象データベース53に記録された管理対象の下水管渠スパン全てを対象として劣化度を推定予測する(S1)。また、管理対象の下水管渠スパンのうちの調査済み下水管渠スパンを対象として劣化度を推定予測する(S2)。そして、これらの推定予測結果から推定予測の調整を行う(S3)。
【0078】
下水管渠スパン全てを対象とした劣化度の推定予測処理では、
図36に示すように、管理対象データベース53又は判別値記憶部61に記録された下水管渠スパンの全てを対象とし(S1)、管齢を一つずつ選択して(S2)選択した管齢(スパン集団を選択した年度又は解析年度における管齢)を有するスパンを選び出し、スパン集団を形成する(S3)。あるいは、管齢ごとに(S2)スパン集団を形成する(S3)。
【0079】
そして、形成したスパン集団の管齢を、管齢-残存率グラフ(横軸が管齢、縦軸が残存率(健全率)のグラフ)における横軸の管齢に対応させ、緊急度IVから緊急度Iの高さ(グラフの横軸からw1までの高さ、緊急度全高)に対してスパン集団内の各対象スパンを割り振る処理を実行する(S4)。割り振りは、スパン集団内の対象スパンの総路線延長:各対象スパンの路線延長=緊急度全高:各スパンの割り振り高さ、となるように、かつ、スパンの判別値が低いほど上側に割り振られるようにして行われる(
図37参照、
図37は劣化推定予測部75のこの処理をグラフ化したものである)。スパン集団の選択時又は寿命予想時(解析年度)における管齢が28年の場合には、グラフ上の管齢が28年の位置の緊急度全高に各対象スパンを割り振ることとなる。このようにして割り振られた各スパンの高さ方向中央から管齢が増す方向又は管齢が減る方向に延びる横線とw1乃至w4との交点位置の管齢がそれぞれ、当該対象スパンが全寿命、緊急度I、緊急度II、緊急度IIIに該当することとなる又は該当することとなったと推定予想される管齢(布設年度からの管齢、すなわち経過年数)を示すものとして(S5)全スパン劣化記憶部65に出力する(S6、
図38参照)。すなわち、
図37の上から4番目のスパン(No.4のスパン)では、w3(緊急度II領域の下端に到達)となるのは管齢34年(z3)、w2(緊急度I領域の下端に到達)となるのは管齢75年(z2)、w1(全寿命、損壊領域の下端に到達)、すなわち崩壊に達するのは管齢79年(z1)であることが示されている(横線y2参照)。また、w4との交点位置(z4)の管齢15年は解析年度よりも13年前に緊急度IIIに到達していたことを示している。なお、緊急度を付すための実際の調査が行われていないスパンでは、全スパン劣化記憶部65の「(推定予測)緊急度」の欄には、各スパンを割り振ったときの各スパンの高さ方向中央が位置する区域の緊急度が記録される(
図38の下側に表示されたH-2-2-25H-2-4-4及びH-2-4-4H-2-4-9のスパン参照)。
【0080】
この処理をすべての管齢に対して実行する(S7)。
【0081】
劣化推定予測部75はまた、
図39に示すように、管理対象データベース53又は判別値記憶部61に記録された管理対象の下水管渠スパンのうちの調査年度及び調査済み緊急度が付されているスパンを対象として劣化度を推定予測する。まず、調査年度及び実際に調査した緊急度が付されているスパンを対象とし(S1)、調査時管齢と実際に調査した緊急度(緊急度無しである緊急度IVを含む)の組み合わせを一つずつ選択し(S2)、選択した調査時管齢及び緊急度に該当するスパンを選び出してスパン集団を形成する(S3)。あるいは、調査時管齢と実際に調査した緊急度の組み合わせごとに(S2)スパン集団を形成する(S3)。
【0082】
そして、スパン集団の調査年度での管齢又は調査時管齢を、管齢と残存率のグラフ(横軸が管齢、縦軸が残存率(健全率)のグラフ)における横軸の管齢に対応させ、スパン集団の調査済み緊急度に対応する緊急度の区間の高さに対してスパン集団内の各対象スパンを割り振る処理を実行する(S4)。割り振りは、スパン集団内の対象スパンの総路線延長:各対象スパンの路線延長=当該緊急度の区間の高さ:各対象スパンの割り振り高さ、となるように、かつ、スパンの判別値が低いほど上側に割り振られるようにして行われる(
図40参照、
図40は劣化推定予測部75のこの処理をグラフ化したものである)。スパン集団の調査年度における管齢が19年で緊急度がIIIの場合には、グラフ上の管齢が19年の位置の緊急度IIIの区間(w3とw4との間の区間)に各対象スパンを割り振ることとなる。このようにして割り振られた各対象スパンの高さ方向中央から管齢が増す方向又は管齢が減る方向に延びる横線(例えばy1)とw1乃至w4との交点位置の管齢(布設年度からの管齢)がそれぞれ、当該対象スパンが全寿命、緊急度I、緊急度II、緊急度IIIに該当することとなる又は該当することとなったと推定予想される管齢であるとして(S5)、調査済みスパン劣化記憶部67に記憶される。調査済みスパン劣化記憶部67の記録項目は例えば全スパン劣化記憶部65と同一である。例えば、
図41の下から5番目のスパン(No.6のスパン)では、調査年度の管齢が19年であり、w3(緊急度II領域の下端に到達)となるのは管齢35年(z5)、w2(緊急度I領域の下端に到達)となるのは管齢68年(z6)、w1(全寿命、損壊領域の下端に到達)となるのは、すなわち崩壊に達するのは管齢75年(z7)であることが示されている。また、w4との交点位置(z8)の管齢12年は、調査年度よりも7年前に緊急度3に該当する状態となっていたことを示している。
【0083】
この処理をすべての調査時管齢と緊急度の組み合わせに対して実行する(S6)。
【0084】
なお、
図38に示すように、全スパン劣化記憶部65では、「緊急度IIIに到達する管齢」、「緊急度IIに到達する管齢」及び「緊急度Iに到達する管齢」の欄にそれぞれの緊急度に到達する推定予測年度の管齢が記録され、「解析年度から緊急度III到達年度までの年数」、「解析年度から緊急度II到達年度までの年数」及び「解析年度から緊急度I到達年度までの年数」のそれぞれの欄には「緊急度IIIに到達する管齢」、「緊急度IIに到達する管齢」及び「緊急度Iに到達する管齢」から「解析時管齢」を差し引いた年数が記録される。また、「残寿命」の欄には「全寿命」から「解析時管齢」を差し引いた年数が記録され、「残寿命率」の欄には「全寿命」に対する「残寿命」の割合が記録される。なお、「(推定予測)緊急度」の欄が「-」となっているスパンは調査時において緊急度3に達していなかったこと(緊急度なし、すなわち緊急度IV)を示している(
図38の中間に表示されたH-2-2-22H-2-2-25及びH-2-4-13H-2-2-22のスパン参照)。
【0085】
劣化推定予測部75は、
図41に示すように、管理対象データベース53又は判別値記憶部61に記録された管理対象の下水管渠スパン全てを対象として劣化度の推定予測を調整する。劣化度の推定予測の調整は、全スパン劣化記憶部65内の調査済み下水管渠スパンについての推定予測結果を調査済みスパン劣化記憶部67内の推定予測結果に置き換えたものである。推定予測の調整処理では、管理対象の下水管渠スパンのうちから一つを選択し(S1)、このスパンについて全スパン劣化記憶部65内及び調査済みスパン劣化記憶部67内を検索する(S2)。あるいは、管理対象の下水管渠スパンごとに(S1)このスパンについて全スパン劣化記憶部65内及び調査済みスパン劣化記憶部67内を検索する(S2)。そして、調査済みスパン劣化記憶部67のデータの有無が確認され(S3)、調査済みスパン劣化記憶部67のデータが有れば、調査済みスパン劣化記憶部67の値(「緊急度IIIに到達する管齢」、「緊急度IIに到達する管齢」及び「緊急度Iに到達する管齢」等の値)を取得し(S4)、当該スパンについて推定予測劣化記憶部69に記憶する(S5)。調査済みスパン劣化記憶部67のデータが無ければ、全スパン劣化記憶部65の値を取得し(S6)、当該スパンについて推定予測劣化記憶部69に記憶する(S5)。
【0086】
この処理をすべての管理対象の下水管渠スパンに対し実行する(S7)。推定予測劣化記憶部69の記録項目は例えば全スパン劣化記憶部65と同一である。
【0087】
全スパン劣化記憶部65、調査済み劣化記憶部67及び推定予測劣化記憶部69の内容は液晶ディスプレイ49に表示し、又は出力部47から出力できる(具体的な表示構成及び出力構成は省略している)。
【0088】
なお、解析コンピュータ13での、将来の各年度における調査及び修繕改築の路線延長及び費用の具体的な予測処理及び固定資産評価額及び減価償却額の具体的な推定処理については説明を省略している。
【符号の説明】
【0089】
5 下水管渠劣化予測システム
7 線形判別関数式算出コンピュータ
11 基礎情報データベース
25 属性関数記憶部
27 管齢関数記憶部
29 説明変数値記憶部
31 判別式記憶部
33 属性関数算出部
35 管齢関数算出部
37 差分算出部
39 判別式算出部
61 判別値記憶部
71 判別値算出部