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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】探索型情報収集方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 28/08 20230101AFI20240820BHJP
   H04W 4/38 20180101ALI20240820BHJP
【FI】
H04W28/08
H04W4/38
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020185792
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022041798
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2020145191
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 総務省、異システム間の周波数共用技術の高度化に関する研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田久 修
(72)【発明者】
【氏名】小林 強志
(72)【発明者】
【氏名】末廣 太貴
(72)【発明者】
【氏名】不破 泰
【審査官】石田 信行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-109413(JP,A)
【文献】特開2015-191339(JP,A)
【文献】特表2014-529916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 - 99/00
H04B 7/24 - 7/26
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1,4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量の検出値が第1の閾値を超えたセンサから第1の通知を受け取る第1の受信処理を実行し、
前記第1の閾値を超えたセンサに近接するセンサのうち指定されたセンサから第2の通知を受け取る第2の受信処理を実行し、
前記第1の通知、及び、前記第2の通知に基づいて、前記第1の閾値を超えたセンサ及びそのセンサに近接するセンサのうち所定の条件を満たすものを探索対象センサに追加
前記所定の条件は、前記物理量の検出値が前記第1の閾値よりも小さい第2の閾値を超えることである、
探索型情報収集方法。
【請求項2】
前記所定の条件を満たすセンサを前記探索対象センサに追加した後、前記所定の条件を満たすその他のセンサからの通知を受信し、該その他のセンサを前記探索対象センサに追加することをさらに含む、請求項1に記載の探索型情報収集方法。
【請求項3】
前記第2の受信処理では、前記探索対象センサに近接するセンサにポーリングし、前記第2の通知を受信する、
請求項1~のいずれか1項に記載の探索型情報収集方法。
【請求項4】
前記物理量が電波であり、前記検出値が受信信号強度値である、
請求項1~のいずれか1項に記載の探索型情報収集方法。
【請求項5】
物理量の検出値が第1の閾値を超えたセンサから第1の通知を受け取る第1の受信処理を実行し、
前記第1の閾値を超えたセンサに近接するセンサのうち指定されたセンサから第2の通知を受け取る第2の受信処理を実行し、
前記第1の通知、及び、前記第2の通知に基づいて、前記第1の閾値を超えたセンサ及びそのセンサに近接するセンサのうち所定の条件を満たすものを探索対象センサに追加し、
前記物理量が電波であり、前記検出値が受信信号強度値であり、
前記第1の受信処理の後、前記第1の通知に基づいて、電波源を推定し、
前記推定した電波源、及び、所定の閾値を超える電波を受信するセンサの情報が登録されたデータベースに基づいて、探索対象となるセンサを含む対象クラスタを決定し、
前記第1の閾値を超えたセンサが含まれる前記対象クラスタに近接する前記対象クラスタに含まれるセンサのうち、指定されたセンサから第2の通知を受け取る第2の受信処理を実行し、
前記第2の通知に基づいて前記所定の条件を満たさないセンサを含むクラスタを対象クラスタから除外し、
前記第1の閾値を超えたセンサ及び前記所定の条件を満たすセンサを含む前記対象クラスタに属するセンサを探索対象センサに追加する、
索型情報収集方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空間的な空き周波数リソースの探知に向けた、探索型情報収集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年以降のIoTや第5世代移動通信システム(5G)などの普及に向けて、新たな周波数を確保するため、既存無線システムとの高度な周波数共用など、電波有効利用を推進することが求められている。このような状況で、近年、周波数資源の不足に対し、電波利用状態を観測する電波センサを利用した動的周波数共用の技術が注目されている。
【0003】
例えば、屋外に設置された受信装置(例えば、電波センサ)の各周波数帯において受信した電波の受信電力に基づいて、各周波数帯の電波を使用する装置が存在する範囲を推定し、特定されるエリアを示すマップ情報を表示し、空き周波数リソースの探査に使用する方法が検討されている(特許文献1)。
【0004】
さらに、エリア内に配置された各センサの位置と受信電力から、重心を求める演算を行うことによって、無線局の位置を推定する方法が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-118078号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】電子情報通信学会総合大会予稿集B-17-13、2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来技術のいずれの方法においても、電波センサは既存システムの電波利用を検知するため、受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)が一定値を超えたら通知するイベントドリブン型のアクセス制御を使用している。その結果、高RSSI値を検知した複数の電波センサが同時多発的に通知をすると、同時期に多くのパケットが発生し、パケット衝突が頻発し、情報集約が困難になることがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様による探索型情報収集方法は、物理量の検出値が第1の閾値を超えたセンサから第1の通知を受け取る第1の受信処理を実行し、前記第1の閾値を超えたセンサに近接するセンサのうち指定されたセンサから第2の通知を受け取る第2の受信処理を実行し、前記第1の通知、及び、第2の通知に基づいて、前記第1の閾値を超えたセンサ及びそのセンサに近接するセンサのうち所定の条件を満たすものを探索対象センサに追加する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の構成によれば、集約すべきセンサの数を減らすことにより、効率的にセンサ情報を集約することができる。
【0010】
より具体的には、センサが電波センサの場合、所定の期間に一定値を超えるRSSI値を検知した電波センサから、限られたより少ない通知数で電波センサ情報を集約することができ、その結果、パケット衝突の頻度を大幅に減らすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施の形態における無線通信環境を示す概念図である。
図2】本開示の一実施の形態における各センサが検知するRSSI値の例を示す図である。
図3】本開示の第1の実施の形態における探索型情報収集方法のフローチャートである。
図4】本開示の第1の実施の形態による集約の様子を示す図である。
図5】本開示の第2の実施の形態のフローチャートである。
図6A図5のS305の詳細を示すフローチャートである。
図6B図5のS306の詳細を示すフローチャートである。
図7】第2の実施の形態における都市空間モデルを示す図である。
図8】第2の実施の形態におけるエリアとクラスタとセンサの関係を示す図である。
図9】第2の実施の形態におけるデータベースについて説明する図である。
図10】他のエリアにおける各クラスタのデータベース登録値を示す図である。
図11】第2の実施の形態における近接対象センサの選別動作を示す図である。
図12】実施例1の探索型情報収集方法のフローチャートである。
図13】実施例1の都市空間モデルを示す図である。
図14】実施例1のシミュレーション結果を示す図である。
図15】実施例2の市街地モデルを示す図である。
図16】実施例2における電波源位置を示す図である。
図17】実施例2及び比較例のセンサ配置モデルを示す図である。
図18】実施例2におけるデータベース登録値を示す図である。
図19】実施例2のシミュレーション結果を示す図である。
図20】実施例2のシミュレーション結果を示す図である。
図21】第三報集約の分割実施を示す図である。
図22】本開示による電波センサと集約局のハードウェア構成図である。
図23】本開示の方法を実行する装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1の実施の形態>
図1は、本開示の一実施の形態における無線通信環境を示す概念図である。図1には、周辺の電波状況を確認するために必要なセンサを指定して、指定したセンサからのデータを集約する集約局10と、集約局10の処理に関連するデータを保存するデータベース11と、第1の電波源であるプライマリTX12と、電波を受信して電波強度を検知するセンサ13及び17(図1中で黒い三角形で示す)と、第2の電波源であるセカンダリTX14と、ホワイトスペース15と、セカンダリTX14と通信するセカンダリユーザー16が記載されている。ここで、ホワイトスペース15とは、同一周波数を共用する他のシステムへの与干渉が許容以下になる地理的な離隔距離を満たしている範囲のことである。例えば、TV放送における与干渉を与えないエリアのことはTVホワイトスペースと呼ばれ、共用利用が検討されている。
【0013】
図1において、エリア内に突然電波源であるプライマリTX12が出現したと仮定する(S1)。このとき、プライマリTX12の近くのセンサ(例えば、センサ13)は、プライマリTX12から強い電波強度(RSSI)の電波を受信し、プライマリTX12から遠くのセンサ(例えば、センサ17)ほど受信するRSSI値は弱くなる。
【0014】
ここで、電波源とは、対象となる周波数帯域の電波を発信(又は送受信)する機器のことであり、スマホなどの携帯端末を含む。
【0015】
次に、そのときの電波環境の変化をとらえた幾つかの電波センサは、集約局10へ通知を行う(S2)。集約局10は、解析に必要な電波センサを選択して、指定し、データを集約する(S3)。その後、指定漏れした電波センサ(すなわち、指定されていなかった電波センサ)が集約局10へデータを送信してもよい。最後に、集約局10は、さらにセカンダリTX14の最終的な処遇を決定する。ここで、最終的な処遇とは、例えば、セカンダリTX14が電波発射を継続してよいかどうかを判断することである。
【0016】
集約局10が電波センサを指定して、その指定された電波センサがRSSI値を集約局に通知するアクセス制御がPCF(Point Coordination Function)と呼ばれ、電波センサが所定の閾値を有し、RSSI値がその所定の閾値を超えたときにのみ通知するアクセス制御がDCF(Distributed Coordination Function)と呼ばれる。
【0017】
なお、DCFではその性質上、電波センサのアクセスが短期間に同時多発的に発生する可能性があり、そのためパケット間の衝突が生じやすい。したがって、探索型情報収集においてDCF及びPCFを併用し、DCFにおいて集約するセンサの数をある程度減らし、PCFにおいて集約するセンサの数をある程度増やすことが重要となる。
【0018】
図2は、本開示の一実施の形態における各センサが検知するRSSI値の例を示す図である。図2の外枠の正方形で示される全体が街などのあるエリアを示し、各メッシュ(四角)の中に1個のセンサがあると仮定する。対象となるエリアが市街地の場合、そこに存在する建物その他の障害物の影響によりRSSI値の分布は、通常、電波源から等方的とはならない。
【0019】
図2において、各センサが受信する電波強度RSSI値によって、各センサが置かれるメッシュ(正方形)の表示態様を変えている。具体的には、各メッシュは、RSSI<-80から-50≦RSSIまでの5段階で網掛けされている。―50は電波が強く、-80は電波が弱いことを示す。図2において、RSSI値の単位は、dBmである。この図では、メッシュが黒色のところが一番RSSI値が強い(-50≦RSSI)センサがあるメッシュを示し、メッシュが白色(空白)のところが一番RSSI値が小さい(RSSI<―80)センサがあるメッシュを示している。
【0020】
この図を見ると、電波の強いところが(-50≦RSSI)が上下でほぼ中心で、左右でやや左よりのところにあり(■の部分)、その周辺で非等方的に段々電波が弱くなっていくことが分かる。
【0021】
図3は、本開示の第1の実施の形態における探索型情報収集方法のフローチャートである。図3において、まず、第1の閾値thを超えるRSSI値を検知した電波センサが集約局10へ、データを通知する(S101)。
【0022】
本明細書において、電波センサは、できる限り間隔が均等になるように屋内又は屋外に説値されていてもよい。分割した空間に含まれる電波センサを「クラスタ」と呼び、電波センサをグループ化し、それぞれのクラスタのサイズ(すなわち、センサの台数)が等しくなるように分割する。
【0023】
通知を受けた集約局10は、エリア内における電波センサのメッシュ状配置を仮定し、データを通知した電波センサから近接する(例えば、その電波センサに隣接する8方向の)電波センサを集約する(S201)。ここで「集約」とは、限定されたセンサからのデータを収集することを言う。集約局10は、次に、各センサから集約されたRSSI値のそれぞれが、第2の閾値thを超えるか否かを判定する(S202)。ここでth<thである。集約された各センサのRSSI値が、第2の閾値thを超える場合は、YESに進み、受信したRSSI値が閾値thを超えるセンサを探索対象センサに追加し、集約する(S203)。
【0024】
上述の例では、S201である電波センサに隣接するメッシュ状に配置された8方向の電波センサを対象として集約したが、この集約対象となる電波センサは、この8方向とは異なるように手動で事前に決めてもよいし、又は所定の規則にしたがって自動的に決めてもよい。
【0025】
ステップS203で探索対象センサを追加集約後、探索対象センサに近接するセンサに対してポーリングを実施し、それらのセンサからデータを収集する(S204)。本明細書において、「ポーリング」とは、集約局10が特定のセンサに対して順番に、検出した電波強度値などの値を通知するようにリクエストを送信することを言う。
【0026】
集約処理(S203)は、全ての集約されたRSSI値が閾値thを下回るまで繰り返し継続する(S202)。以上の集約処理がすべて終了すれば、S202でNOへ行き、閾値をthからthへ更新するコマンドを集約局10から各電波センサに通知する(S205)。
【0027】
ステップS205の通知を受けた各電波センサのうちthを超えるRSSI値を検知した電波センサは、集約局10へデータを通知する(S102)。
【0028】
図3において、S101及びS102の処理は、DCF側の処理であり、S201~S205の処理は、PCF側の処理である。
【0029】
本第1の実施の形態において、図3に記載のステップのうち、S101を第一報、S201からS205までを第二報、S102を第三報と呼ぶ。
【0030】
図4は、本開示の第1の実施の形態による第一報から第三報までの集約の様子を示す図である。図4Aは、第一報を示す。上述の図3のS101においてRSSI>thを検知したセンサの場所が黒い四角(■)で示されている。この図では、RSSI>thを検知したセンサが横長に示されている。
【0031】
図4Bは、第二報を示す。第一報で検出されたセンサが黒で示されていることに加えて、図3の第二報のS201からS205の処理によって、RSSI>thであるRSSI値を検知したセンサが網掛けで示されている。他方、第二報の処理で、RSSI≦thであるRSSI値を検知したセンサが×で示されている。この図から分かるように、第二報で、RSSI>thの網掛けで示された領域を取り囲むように、第二報で、RSSI≦thの領域が×で示されている。
【0032】
図4Cは、第一報及び第二報で検出されたセンサに加えて、上述の図3の第三報のS102で、閾値thがthで更新された後にもう一度第一報を送り検出されたセンサが×で囲まれた部分の外側に黒丸(●)で示されている。測定対象となる市街地にある建物などの状況によって、RSSI≦thの外側(×で囲まれた領域の外側)に、再度RSSI>thの領域(●で示された領域)ができる場合があることが分かる。このような第一報から第三報までの動作を一度のみ行ってもよいし、又は所定の間隔で繰り返すことにより、その時点で閾値thを下回るRSSI値を有する電波センサまで波及的にRSSIを集約してもよい。
【0033】
以上のように本第1の実施の形態によれば、PCF側の処理において近接センサに対するポーリングを順次実施することにより第二報を通知するセンサを効率的に集約させることができる。後述のように、DCF側の処理である第三報(S102)の数を必要最小限に抑えることが可能となり、パケットの衝突リスクを低減することができる。
【0034】
なお、PCF側の処理の比率を高めるためにはDCF側の処理である第一報の閾値thが関係してくる。これについては、以下で実施例1において詳細に説明する。
【0035】
<第2の実施の形態>
図5は、本開示の第2の実施の形態のフローチャートである。この第2の実施の形態では、図3(第1の実施の形態)のS201とS203において、過去の履歴を参考にして近接探査の対象とならないセンサを除外することで、探索対象となるセンサの数を減らし、第1の実施の形態よりもさらに効率的にセンサ情報を集約する。
【0036】
図5において、まず、第1の閾値thを超えるRSSI値を検知した電波センサが集約局10へ、データを通知する(S101)。
【0037】
次に、電波センサから受信した通知に基づいて従来技術と同様に電波源を推定する(S301)。推定した電波源に基づいて使用するデータベースを決定する(S302)。決定したデータベースを使用して、後述するように対象となる通知センサを含む対象クラスタを決定する(S303)。決定した対象クラスタ内の各センサに対してポーリングを実施する(S304)。ポーリングしたセンサのうち基準を満たさないクラスタを対象クラスタから除外する(S305)。データベース基準を満たす近接クラスタを対象クラスタに追加する(S306)。これらの処理については、後に詳しく説明する。
【0038】
S304からS306のステップを、追加できる近接クラスタが無くなるまで繰り返す。追加できる近接クラスタが無くなった場合、閾値thをthへ更新するコマンドを各電波センサに通知する(S307)。
【0039】
ステップS307の通知を受けた各電波センサのうちthを超えるRSSI値を検知した電波センサは、集約局10へデータを通知する(S102)。
【0040】
図5において、ステップS101及びステップS102は、DCF側の処理として、ステップS301~S307は、PCF側の処理として行われる。
【0041】
本第2の実施の形態において、図5に記載のステップのうち、ステップS101を第一報、ステップS301からステップS307までを第二報、ステップS102を第三報と呼ぶ。
【0042】
図6Aは、図5で説明した基準を満たさないクラスタを対象から除外するステップ(S305)の内容をさらに詳細に説明する図である。先ず、対象クラスタ毎にセンサのRSSI値の集計値を求める(S3051)。ここで、集計値とは、RSSI>thとなるセンサのクラスタ毎の個数である。次に、求めた集計値が、集計値>基準値pを満たすか否か検査する(S3052)。その検査の結果、集計値が集計値>基準値pを満たす場合は、YESに行き、S3051へ戻る。一方、その検査の結果、集計値≦基準値pの場合は、NOに行き、そのセンサを対象クラスタから除外する(S3053)。S3051~S3053の処理を全ての対象クラスタに対して繰り返して実行し、対象クラスタがなくなったら、S305を終了する。
【0043】
例えば、基準値pは、RSSI>thとなるセンサのクラスタ毎の過去の平均個数である。また、基準値pは変数であってもよく、この場合、pを集約続行変数と呼ぶ。
【0044】
図6Bは、図5で説明したデータベース基準を満たす近接クラスタを対象クラスタに追加するステップ(S306)の内容をさらに詳細に説明する図である。先ず、対象クラスタに近接するクラスタの基準値をデータベースから取得する(S3061)。ここで基準値は、図6Aに関して説明したように、RSSI>thとなるセンサのクラスタ毎の過去の平均個数でもよい。次に、基準値が、基準値>qを満たすか否か検査する(S3062a)。閾値qは変数であってもよく、この場合、qを隣接集約変数と呼ぶ。この検査の結果、NOの場合は、S3062aに戻り、全ての近接クラスタに対してS3062aを繰り返し実行する。この検査の結果、YESの場合は、その近接クラスタを対象クラスタに追加する(S3062b)。次に、追加できるクラスタの個数が0(ゼロ)か否か検査する(S3063)。NOの場合は、(D)へ移動し、YESの場合は、(C)に移動して、S306を終了する。
【0045】
図7は、第2の実施の形態における都市空間モデルを示す図である。仮想的な都市空間が<1>~<4>の4つの正方形のエリアに分割されていると仮定する。図7では、電波源出現推定位置は、エリア<4>に○で描かれている。図7では、各エリアの境界は明確に直線で書かれているが、境界は必ずしも明確なものでなくてもよい。電波源が境界付近(例えば、図7のエリア<2>と<4>の境界付近など)に位置したときのエリア選択誤りを避けるため、エリア同士を多少オーバーラップさせてもよい。また、エリア同士の境界は、直線でなくてもよい。
【0046】
図8は、第2の実施の形態におけるエリアとクラスタとセンサの関係を示す図である。図8では、エリアは実線の正方形で描かれており、クラスタは破線の正方形で描かれており、センサは黒い三角形で描かれている。センサは、エリア<4>の右上のクラスタ内のみにしか描かれていないが、このエリアの他のクラスタ及び他のエリアの他のクラスタにも同様にセンサが存在している。都市空間のエリアは、仮想的にクラスタに分割されている。各クラスタは複数のセンサを含む。図8において、便宜上、クラスタとエリアの境界は一致しているように描かれているが、クラスタの境界とエリアの境界は必ずしも一致していなくてもよい。クラスタは、1個以上のセンサを含んでおり(この図では、16個のセンサが1つのクラスタに含まれている)、エリアは、1つ以上のクラスタを含んでいる(この図では、4個のクラスタが1つのエリアに含まれている)。
【0047】
図9は、第2の実施の形態におけるデータベースについて説明する図である。データベースには、クラスタごとの基準値が登録されている。図9Aには、4つのエリアと、各エリアに含まれる4つのクラスタが描かれている。図9Bは、エリア<4>の任意のポイントに電波源があったとき閾値を超えるRSSI値を検出したセンサの個数である集計値を基準値としてクラスタ毎に示したものである。
【0048】
例えば、図9Aのエリア<4>の左上のクラスタに電波源があると推定する(○で示した位置)。その結果、閾値を超えたRSSI値を検出したクラスタ毎のセンサの個数の過去の平均値は、通常電波源があると推定されるエリア<4>で高く(図9Bの例では、エリア<4>の各クラスタのRSSI値を超えたセンサの数は、14、13、11、7)、他のエリア<1>~<3>では、低い(他の3つのエリアでは、最大値でも7)。
【0049】
基準値として使用される当該集計値は、予め電波源のあるエリア内のポイントを変えて測定を複数回行い、閾値超えのRSSI値を検出したクラスタごとのセンサの個数を平均したものであってもよい。
【0050】
データベースに登録する基準値の取得方法については、例えば以下の2つの方法があり得る。第1の方法は、過去の集約結果から各クラスタ別に雑音レベル以上の電波を受信したセンサを持っていた数を平均化して求める方法である。第2の方法は、電波伝搬環境を計算機上で再現するレイトレーシングシミュレーションを実施して、基準値を求める方法である。第1の方法では、実際に測定を行う必要があるが、第2の方法では、実際の測定を行わずにレイトレーシングシミュレーションを実行することによって、データベースに登録する基準値を計算することが可能であるので、短時間で基準値を取得することが可能となる。第1の方法と第2の方法を混ぜて使用してもよいし、又は第1の方法と第2の方法のいずれか一方のみを使用するようにしてもよい。特に対象となる地域にある建物などの建造物の位置、高さ、材質などの情報の精度が高い場合は、第2の方法だけでもかなりの精度が得られる。
【0051】
図10は、他のエリアにおける各クラスタのデータベース登録値を示す図である。図10の場合は、エリア<1>に電波源があると推定される。データベースには、図9のエリア<4>及び図10のエリア<1>に限らず、電波源があったエリア毎に、閾値を超えるRSSI値を検出したセンサの集計値が登録されている。どのエリアのデータベースを選択するかは、電波源の推定位置に基づいて決定される(S302、S303)。
【0052】
図10では、エリア<1>に電波源がある場合のデータベース登録値が示されている。エリア<1>に電波源があると推定されているため、データベースに登録されている、閾値を超えるRSSI値の検出したセンサの集計値は、エリア<1>で大きくなっている(各クラスタで、集計値が14、11、15、13である)。一方エリア<1>から遠いクラスタでは、データベースに登録されている集計値は小さくなっていることが分かる(最大でも集計値は10)。
【0053】
例えば、電波源の位置は、第一報(RSSI値が閾値thを超えたセンサからの通報)を行ったセンサの分布から推定する。具体的には、第一報を通知したセンサの分布から、重心演算法(非特許文献1など)を用いて電波源を推定する。ただし、このやり方での電波源の推定は多少の誤差を伴う。特に電波源の位置がエリアの境界付近にあった場合、誤って隣のエリアのデータベースを参照するおそれもあるからである。
【0054】
このような事態を避けるため、データベースにおけるエリアの境界をオーバーラップさせる、又は推定電波源がエリア境界付近にあるときは、無条件でその近接クラスタを対象クラスタに追加するようにしてもよい。
【0055】
図11は、第2の実施の形態における近接対象センサの選別動作を示す図である。図11Aにおいて、エリア4(<4>)に電波源があると推定されたと仮定する(この図では、エリア<4>の左上のクラスタ内)。都市空間において、閾値を超えたセンサ16個と11個のセンサがエリア4(<4>)に出現したとする。ここで集約続行変数pを12とすると、閾値を超えたセンサ数が11のクラスタは集約続行変数p=12未満のため、上述の図5のステップS305(特に、図6AのS3053)により、このクラスタは探索対象の起点から除外される。集約続行変数pとは、探索対象の起点を選択するための閾値である。
【0056】
次に、図11Bを参照して、探索対象として残ったセンサを起点として近接探査(図5のS306)を実施するが、ここでデータベースに登録された過去の閾値を超えたセンサの数が隣接集約変数q(ここでは8とする)以上のクラスタのみが、探索対象に追加される(S3062)。隣接集約変数qとは、探索対象に追加するクラスタを選択するための閾値である。その後、S304に戻り、PCFで探索対象のクラスタ内のセンサからRSSIを集約する。
【0057】
S306において、近接探査の対象は、隣のクラスタとされる。例えば、4つのクラスタA、B、C、Dが隣り合っていると仮定する。Aが集約済みでこれから、B、C、Dの集約を考える。B、C、Dの過去の結果をデータベースから集約し、qと比較してB、C、Dがthを上回り対象であるとする。そのとき、Bを実際に集約した結果、thを上回るセンサの数がp未満である場合は、ここで集約が止まる。一方、Aの集約が終了した段階で、CとDを集約対象として決定してしまうと、Bの集約結果を受けた判断ができなくなる。この例では、逐次的に探索対象を判断する消極的なやり方をとっており、次隣接(すなわち隣接の隣)までは見に行かない。
【0058】
このように本実施の形態によれば、クラスタごとに過去の電力分布データを参照しながら探索対象となるセンサを絞り込むことによって、より少ないアクセス(すなわち、通知)で閾値を超えるRSSI値の分布を正確に把握することができる。
【0059】
なお、RSSI値の分布が把握できれば、重心演算(非特許文献1)等により、電波源の位置(すなわちエリア)を高い精度で特定できる。そこで、このタイミングで当該エリアにおける閾値超えのセンサをクラスタごとに集計し、データベースに反映することで、データベースの集約値のデータの更新を逐次行うこともできる。
【実施例1】
【0060】
図12は、実施例1の探索型情報収集方法のフローチャートである。図12に記載した実施例1の探索型情報収集方法のフローチャートは、図3に記載した第1の実施の形態の探索型情報収集のフローチャートとは、S201、S204の部分が異なっている。図3における近接するセンサが、図12では、上下左右斜めの8方向に隣接するセンサになっている。
【0061】
図12において、まず閾値thを超えるRSSI値を検知した電波センサが集約局10へデータを通知する(S101)。
【0062】
通知を受けた集約局10は、エリア内における電波センサの配置に対してメッシュ状の配置を想定し、電波センサから8方向に近接する電波センサを集約する(S201a)。集約局は、次に、集約RSSI値が閾値thを超える場合には(S202)、YESとなり、RSSI>thを検知したセンサを探索対象センサに追加し(S203)、探索対象センサの8方向に近接するセンサに対してポーリングを実施する(S204a)。一方、S202で、閾値thを下回るRSSI値の場合は、NOへ行き、集約を終了する(S202)。集約処理(S203)は全ての集約RSSI値が閾値th以下になるまで繰り返し継続する。以上の集約処理がすべて終了すれば、閾値をthからthへ更新するコマンドを各電波センサに通知する(S205)。
【0063】
通知を受けた各電波センサのうち、thを超えるRSSI値を検知した電波センサは集約局10へデータを通知する(S102)。
【0064】
上述のステップは、以降、S101を第一報、S201aからS205までを第二報、S102を第三報と呼ぶ。閾値th以下のRSSI値を有する電波センサまで波及的にRSSIを集約する。
【0065】
以上のように、本実施例1によれば探索対象センサの数を限定することにより、エリア内の全電波センサからのデータの通知を同時に受けることを回避でき、それによりパケット衝突の頻度を大幅に減らすことが可能となる。なお、本実施例1において、閾値thは変動させてもよい。閾値thを変動させた場合における第二報及び第三報の集約状況について、以下の実施例で説明する。
【0066】
本実施例1においては、あらかじめ都市空間(エリア)をn分割し、分割されたエリアブロックに設置されている電波センサをクラスタと呼ぶ。第一報(S101)で閾値thを超えた電波センサが属するクラスタ全体を第二報(S201a~205)で集約する方法である。表1は、実施例1のシミュレーション諸元を示す。例えば、本明細書中の実施例をシミュレーションするために、レイトレーシングシミュレーションを用いた電波伝搬観測用ソフトウェアを用いてもよい。
【0067】
【表1】
【0068】
表1の1行目を参照すると、閾値thとして、-50、-60、-70、-80dBmが、閾値thとして、-90dBmが選択されていることが分かる。また、この例では、都市空間の大きさは、4.2km×4.2kmの正方形であり、都市空間の面積は、17.64kmとなる。送信周波数は、2300MHzであり、電波センサの設置間隔は、70mであり、都市空間全体では、3650台のセンサが設置されている。比較例の方法の空間分割数nは、150であり、その場合、比較例の方法の1クラスタ当たりの平均センサ数は、24.3台となる。
【0069】
比較例として用いた集約法(以下、「比較例の方法」という)は、閾値thを超えた電波が属するクラスタに含まれる電波センサすべてを集約対象とするものである。
【0070】
図13は、実施例1の都市空間モデルを示す図である。ここで、比較例におけるクラスタは、上述の第2の実施形態又は後述の実施例2におけるクラスタとは異なる。表1に記載したように、比較例におけるクラスタは、平均24.3個のセンサを含むように図13の都市空間を仮想的に150個にグループ分けしたものである(グループ分けは図示せず)。
【0071】
図14は、実施例1のシミュレーション結果を示す図である。この図では、実施例1が実線と●で示され、比較例が破線と■で示されている。
【0072】
比較例では、第一報センサを含むクラスタ内のセンサに第二報が限定されるため(すなわち、第一報を通知しないセンサしか含まないクラスタは除外される)、第二報において全センサの通知を受信しなくともよい。各クラスタの中にはRSSI値が雑音レベル以下のセンサも含まれており、こういった情報の通知も含めてすべてのセンサから通知を受信すると無駄が発生する。さらに比較例では対象となるクラスタの外側のクラスタが集約されないため、センサの収集に漏れが生じ、その結果、第三報が増える傾向がある。したがって、図14に示されるように、比較例の場合は、第一報の閾値(th)に対して、第二報の台数と第三報の台数がトレードオフの関係で大きく変化する(すなわち、第二報の台数と第三報の台数が反比例する)。
【0073】
一方、本実施例1では第二報がほぼ漏れなく集約できるので、thが多少増減しても、第二報の台数は100程度に、第三報の台数は10~25台程度に収まる。絶対数を比較してみても、本実施例1は比較例に対し、集約すべきセンサ情報(すなわち、センサの台数)が大幅に削減されていることが分かる。本実施例1において、th=-0の場合、比較例に対し第二報が775.4台(=877.2台-101.8台)削減された。本実施例1において、th=-50の場合、比較例に対し第三報が57.8台(=82.8台-25.0台)削減された。本実施例1の場合は、閾値thが低い方が、第二報、第三報ともにより低減傾向にあることが分かる。
【実施例2】
【0074】
本実施例2では実施の形態2の探索型情報収集方法を用いたシミュレーションとその結果について説明する。
【0075】
図15は、実施例2の市街地モデルを示す図である。都市空間における4つのエリア<1>~<4>には、便宜上同じ市街地パターンを設定しているが、実際の都市では通常異なる市街地パターンになる。
【0076】
図16は、実施例2における電波源位置を示す図である。図16は、上述の図15の市街地モデルの都市空間に配置されたセンサの位置を示している。本実施例2では、都市空間内の任意に位置に1つの電波源が存在すると仮定する。ただし、任意といっても、本実施例では便宜上、各エリアに30個、4つのエリアで計120個の予め設けられたポイント(すなわち、センサが設置された位置)のいずれかに、電波源が位置しているものとする。ただし、実際は、センサが設置された位置に電波源が位置していなくてもよい。
【0077】
図16Aは、対象となる都市空間全体を示し、図16Bは、図16Aに示された対象となる都市空間のうち破線で囲まれた部分の拡大図である。いずれの図においても、TX#xx(xxは、1桁から3桁までの数字を表す)は、各センサの識別番号を表す。図16Aには、TX#1からTX#120までの120個のセンサが配置されている。各センサの配置間隔は、図16に示されているように均等でなくてもよい。
【0078】
図17は、実施例2及び比較例のセンサ配置モデルを示す図である。図17Aは、実施例2のシミュレーション結果を示し、図17Bは、比較例のシミュレーション結果を示す。
【0079】
前述の図16の都市空間には30×32=960個のセンサが碁盤目状に配置されていると仮定した。このような条件下で、クラスタのサイズ(すなわち、各クラスタに含まれるセンサの数)を、4、6、8、12、20と変化させて、それぞれについてシミュレーションを行った。
【0080】
図17及び後述する図18に示したセンサ配置モデルは、各クラスタに5×4=20のセンサが含まれる場合である。(図示されてはいないが)都市空間は、それぞれ3×4=12個のクラスタを含む4つのエリアに分割されている。なお、比較例では、エリア及びクラスタの概念がないので、図17Bにはエリアもクラスタも記載されていない。図17A及びBにおいて、RSSI>-50の場所が■で示されている。図17Aの本実施例2でも図17Bの比較例でも、RSSI>-50のセンサの位置は、同じ結果となっている。
【0081】
表2は、実施例2のシミュレーション諸元を示す。
【表2】
【0082】
表2の1行目に示すように、閾値thとして、-50dBmが選択され、2行目に示すように、thとして、-85dBmが選択されている。この例では、送信局利用周波数は、2300MHzである。この例では、都市空間面積は、2.4kmである。電波センサの設置間隔は、50mである。この場合の集約続行変数pは、1であり、隣接集約変数qは、1である。
【0083】
図18は、実施例2におけるデータベース登録値の例を示す図である。図18aは、エリア<2>に電波源がある場合のデータベース登録値であり、図18bは、エリア<4>に電波源がある場合のデータベース登録値であり、図18cは、エリア<1>に電波源がある場合のデータベース登録値であり、図18dは、エリア<3>に電波源がある場合のデータベース登録値である。データベースには、いずれかのエリアに電波源があった場合の閾値を超えるRSSI値を検出したセンサの個数、すなわち集計値が、登録値として登録されている。
【0084】
上述の図17A及び図17B中における■は、電波源がエリア1の右寄り上部境界付近(図16のTX#30のポイント)に位置しているときの第一報(RSSI>th)を通知したセンサを示す。
【0085】
この場合、重心演算などにより電波源がエリア<1>にあると推定され、その結果同じエリア<1>に電波源があるエリア<1>のデータベースが選択される。図18cは、エリア<1>に電波源がある場合のデータベースの登録値を示しているので、この図17Aの例の場合に使用される。このデータベースに基づいて探索対象となるクラスタ(センサ)を絞り込み、最終的に第二報のセンサが集約された。
【0086】
本実施例2では、図16に示したように、電波源を順次TX#1~#120のポイントに設定して同様の処理を行い、第三報を通知するセンサの台数の平均値を求めた。
【0087】
なお、本実施例2における比較例は、第1の実施例と同様、閾値thを超えた電波が属するクラスタに含まれる電波センサすべてを集約対象とするものであるが、クラスタは本実施例1と同じ分け方(すなわち、各クラスタに含まれるセンサ台数が、4、6、8、12、20)としている。
【0088】
図19は、実施例2のシミュレーション結果を示す図である。図19は、クラスタサイズ(すなわち、クラスタに含まれる電波センサの数)に対する第三報の集約台数の評価結果を示す。図19では、本実施例2が実線及び●で示されており、比較例は破線及び■で示されている。
【0089】
比較例では第一報が通知されたセンサを含むクラスタのみの集約となるため、プライマリの出現位置周りのセンサは集約できる一方、遠方で雑音レベルに近いRSSIを持つセンサを集約することは難しい。その結果、第二報までの集約に際して雑音レベル(RSSI値<th)以上のセンサの集約に漏れが生じ、第三報が増える傾向がある。
【0090】
一方、本実施例2では、第二報からデータベースから抽出された過去データに基づいて集約すべきクラスタが適切に探索集約されるため、第二報は増えるものの、第三報は抑えられている。また、第二報はポーリングで集約するため、ネットワーク負荷が比較的少ない(集約時間が短い)。
【0091】
図19から分かるように、本実施例2の場合は、クラスタあたりの電波センサの数が4程度の場合も、20程度の場合も、比較例と比較して、第三報を通知する電波センサの数がかなり少ないことが分かる。この傾向は、特にクラスタあたりの電波センサの数が多い場合に顕著となる。例えば、クラスタあたりの電波センサ数が4の場合は、比較例では、第三報の台数が90以上となるのに対して、実施例2の場合は、第三報の台数は、50未満である。また、クラスタあたりの電波センサ数が20の場合は、比較例では、第三報の台数が約70台であるのに対して、実施例2の場合は、第三報の台数は、20台未満となる。
【0092】
図20は、実施例2の別のシミュレーション結果を示す図である。図19では、同じ実施例2のシミュレーション結果として、クラスタあたりの電波センサ数と第三報を通知する電波センサの台数の変化を示したが、図20は、実施例2のシミュレーション結果として、クラスタあたりの電波センサ数に対する、集約時間の変化を示している。
【0093】
図20では、本実施例2は、実線及び●で示され、比較例は、破線及び■で示されている。クラスタサイズを変化させた場合(すなわち、クラスタあたりの電波センサの台数を変化させた場合)における全集約完了に要する集約時間の評価を示す。この場合、集約時間は、第一報及び第三報においてはセンサ1台あたり800ms、第二報においてはセンサ1台あたり100mそれぞれ要すると仮定した。
【0094】
比較例においては、上述のように集約漏れのため第三報のセンサ数が多く、その結果集約に時間がかかる。本実施例2は、第三報の数を抑えられるプロトコルを使用しているため、全体として集約時間は短い。この図から分かるように、クラスタあたりの電波センサの台数が、4台から20台と変化しても、いずれの台数でも本実施例2の方が比較例より集約時間が短いことが分かる。特に、クラスタあたりの電波センサ数が少ないときに、実施例2と比較例との集約時間の差が大きい。
【0095】
図21は、第三報を送るセンサの集約の分割実施を示す図である。第三報は、1回で実施してもよいが、2回又はそれ以上に分けて実施してもよい。例えば、図3図5又は図12のS102において、第1の閾値thと第2の閾値thの間に第3の閾値thを設定する(ここで、th>th>thとする)。この図において、1dBmのビンで区切られた区間内、例えば、最も左側は、-85dBmから-84dBm以内のRSSIを取るセンサの発生確率を示す。本実施例2の場合、まず第三報の閾値として第3の閾値thを-75dBmに設定して、第三報対象となる全電波センサの17.9台のうち、47%にあたる8.4台を最初に集約させる。次に第三報の閾値として、第3の閾値thである-75dBmから第2の閾値thである-85dBmまで下げ、残りを集約させる。これにより、第三報としての対象電波センサからの通知がほぼ半減し(47%と53%)、パケットの衝突リスクをさらにさげることができる。
【0096】
前提として、RSSIは、雑音レベル以上であるときに有効なセンシング結果となる。雑音レベルとしては、例えば、P=VI=4kTΔf[W]で表される熱雑音レベルが基準となってもよい。ここで、kはボルツマン定数、Tは温度[k]、Δfは、帯域幅[Hz]である。この前提において、S202のthでは雑音レベルに設定して集約したRSSIが有効かどうかを判断する。一方、S102の閾値thを雑音レベルとした場合には、有効なRSSIを持つセンサはすべてDCF(S102内の処理)で送信することになる。この集約が完了した段階で、有効なRSSI値を持つセンサは存在しないため、S201に戻る必要はない。
【0097】
一方、S102で用いるthの閾値を雑音レベルよりも高く設定した場合には、S102で通知を完了したセンサ以外に、雑音レベル以上のRSSIを持つセンサがいる場合がある。その場合は、S201に戻り、再度雑音レベル以上の近接センサが無いか探索する。
【0098】
S102でthを雑音レベル以上に設定する理由は、S102で集約する方法はDCFのため、集約対象のセンサの数が過剰に増えると集約に余計な時間を要するためである。そこで、S102のthを雑音レベルよりも多少高くして、該当するセンサ数を限定し、再びS201のPCFで集約するという方法を取ったほうが、全体として集約を短時間で終わらせる可能性がある。これは、特にセンサの数が多く、広範囲を対象としている場合に有効となる。
【実施例3】
【0099】
本実施例3では、実施例2の情報収集方法を用いたときに、所定レベル(-85dBm)のRSSI値を検出したセンサの集約時間と送信パケット数をシミュレーションにより求めた。比較対象としてPCF側の処理を全く行わない(近接探査や上述の比較例のクラスタごとの取捨選択を行わない)、全センサ通知方式を用いた。
【0100】
すなわち、本実施例3においては、第一報におけるRSSI閾値(th)を-50dBmとし、第三報におけるRSSI閾値(th)を-85dBmとしているが、全センサ通知方式では当初より雑音レベルの-85dBmを閾値としている。その結果、所定レベル(この場合は、-85dBm)を超えるセンサが一斉に集約局10に通知を発し、パケット衝突が発生する。そこで、本実施例3では、RSSI情報の伝送にCSMA(Carrier Sense Multiple Access(搬送波感知多重アクセス))を用いることを前提としている。
【0101】
本実施例3のシミュレーションに用いたパラメータ諸元を表3に示す。なお、都市空間モデル、エリア、クラスタ、データベースの構成は図15~18に示したものと同様である。シミュレーション結果を表4、表5に示す。
【0102】
【表3】
【0103】
なお、本実施例ではp(集約続行変数)=q(隣接集約変数)=1の場合と併せてp=q=3の場合についてもシミュレーションを行い、クラスタ取捨選択の条件が集約時間等にどのように影響するかを示した。ここで、スロット幅と最大ランダム遅延時間とは、CSMA/CAの通信プロトコルを用いたときのパラメータのことである。最大ランダム遅延時間は、バックオフ時間とも呼ばれる。スロット幅(又はスロット時間)は、パケット通信を想定したとき、時間を一定時間幅で区切ったスロットを定義し、各センサはスロットの開始時点でパケット送信の判断をする。そして、スロット長=パケット長と設定しているため、各センサはスロット内でパケットの送信を完了する。最大ランダム遅延時間は、DCFにおいて、送信タイミングを意図的にずらすための遅延時間である。最大ランダム遅延時間は、最大40ビットに対応する13.3msである。最大ランダム遅延時間である13.3msから0msの間でランダムに振ればよい。再送上限とは、パケット衝突等により復調に失敗した場合のパケット再送の上限回数を示す。第1報と第3報は、DCFであるため、パケットが衝突して、再送が必要になる場合がある。集約終了スロット数とは、この待ち時間を待ったときに、第1報と第3報が終了したと判断する待ち時間となり、概ねランダム遅延時間の最大値に相当する。
【0104】
表4は、閾値(-85dBm)越えのセンサが集約局10に通知を終えるまでの所要時間を示す。
【0105】
【表4】
【0106】
全センサ通知方式では、-85dBm以上のRSSI値を検出した121個のセンサが一斉にCSMA伝送を実施するため、全センサの通知が終了するまでの所要時間は約143秒となる。一方、実施例3でp=q=1の場合は、第一報が3.27秒、第二報が57.50秒、第三法が6.36秒となり、第一報から第三報までの合計が、67.13秒となった。また、実施例3でp=q=3の場合は、第一報が3.27秒、第二報が36.80秒、第三法が15.70秒となり、第一報から第三報までの合計が、55.77秒となった。本実施例3ではCSMA伝送するのは第一報のセンサと第三報のセンサに限られ、しかも集約局側にアクセス制御権がある第二報ではパケット衝突は発生しない、合計した所要時間は全センサ通知方式の半分以下となった。結局、実施例3のp=q=1の場合、p=q=3の場合、全センサ通知の場合を比較すると、実施例3のp=q=3の場合が一番合計時間が短いことが分かる。
【0107】
p、qを高めに設定すると第二報における探索対象クラスタの選択がより厳しくなり第二報の対象となる電波センサの数は減り、第三報は増えるが第二報の探索回数は減る。本実施例3の場合、p=q=1としたときよりもp=q=3の方が、2割程度所要時間が短くなることが確認された。
【0108】
表5は、閾値(-85dBm)越えのセンサが集約局10に通知を終えるまでのパケット送信回数を示す。
【0109】
【表5】
【0110】
パケット送信回数についても、表4とほぼ同様な結果が得られた。本実施例3では第二報におけるセンサの収集数がp=q=1の場合は、500回、p=q=3のとき320となるが、第二報では集約局側からのポーリングによりRSSI値の収集を行うため、1センサにつき1スロットしか消費しない。その結果、パケット送信回数の合計は、全センサCSMA伝送の場合と比べ三分の一から半分程度に低減できる。なお、以上の結果は、CSMA伝送における隠れ端末問題の解消にもつながることが示唆される。
【0111】
図22は、本開示による電波センサ13と集約局10のハードウェア構成図である。図22Aは、本開示による電波センサ13のハードウェア構成の概略を示し、電波センサ13は、CPU221と、電波測定器222と、位置検出器223と、メモリ224と、ネットワークインタフェース225とを備え、これらの構成要素はバス226を介して相互に接続されている。また、固定式の電波センサを使用するが、他の方法でその電波センサの位置を特定することができる場合は、位置検出器223はなくてもよい。図22Bは、本開示による集約局10のハードウェア構成の概略を示し、CPU251と、表示部252と、入力部253と、メモリ254と、ネットワークインタフェースとを備え、これらの構成要素はバス256を介して相互に接続されている。
【0112】
図23は、本開示の方法を実行する装置の機能ブロック図である。例えば、本開示を実装した集約局10で実行される方法を実行する機能ブロックが示されている。送受信部231は、電波センサ13などの外部の装置と有線又は無線で通信する。受信信号処理部232は、送受信部231で受信した信号又は送受信部231を介して送信する信号を処理する。探索対象決定部233は、受信信号処理部232から受信した各電波センサから受け取った受信信号強度値などに基づいて、探索対象となる電波センサを決定する。電波源位置推定部234は、探索対象決定部233によって決定された探索対象となる電波センサから受信した受信電波強度値などに基づいて、所定のアルゴリズムなどに従って電波源の位置を推定する。
【0113】
本開示は、通信分野における空間的な空き周波数リソースの探知に向けた探索型情報収集に限定されるものではなく、IoT、照度センサ、水量計など情報を収集して通知する各種のセンサ及びそのデータを集約して処理する装置に適用可能である。この場合、図22においては、電波測定器222の代わりに、所望の物理量を検知できる検知器が設けられる。また、p又はqの値の最適化などは、過去のデータをAIに学習させて最適化してもよい。さらに、本開示は、例えば、屋外の温度、湿度等を観測する環境モニタリングや、店舗の空調制御、監視、POS、ビル制御、工場の監視、制御、物流監視等、幅広い分野において利用可能である。また、HEMS、BEMS等のエネルギー管理システムにおいても利用できる。
【0114】
本明細書において、センサが受信する電波の信号強度としてRSSI値を使用したが、信号強度として、RSSI以外を使用してもよい。
【0115】
本開示はソフトウェア、ハードウェア、又は、ハードウェアと連携したソフトウェアで実現することが可能である。ソフトウェアは、記録媒体に記憶されていてもよいし、又はネットワーク経由でダウンロードして使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、コグニティブ無線やIoT機器を含む無線システムに広く利用することができ、無線周波数の動的割り当てなど、電波の有効利用を図ることができる。
【符号の説明】
【0117】
10 集約局
11 データベース
12 プライマリTX
13 電波センサ
14 セカンダリTX
15 ホワイトスペース
16 セカンダリユーザー
221 CPU
222 電波測定器
223 位置検出器
224 メモリ
225 ネットワークインタフェース
231 送受信部
232 受信信号処理部
233 探索対象決定部
234 電波源位置推定部
251 CPU
252 表示部
253 入力部
254 メモリ
255 ネットワークインタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23