(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】熱劣化再現装置および熱劣化再現試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/28 20060101AFI20240820BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G01N33/28
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2021195674
(22)【出願日】2021-12-01
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000207399
【氏名又は名称】大同化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 一寛
(72)【発明者】
【氏名】増田 宏枝
(72)【発明者】
【氏名】宇田 紘助
(72)【発明者】
【氏名】黒田 将文
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-269323(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第02880689(FR,A1)
【文献】特開昭58-162865(JP,A)
【文献】米国特許第02174021(US,A)
【文献】特開昭61-253464(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0305428(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1580768(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源と金属パイプとを備え、前記金属パイプの外側に設置された前記熱源を加熱して
800~1000℃の高温部とし、前記金属パイプの内側に金属加工油剤を流し、金属パイプ内側の高温部に前記金属加工油剤を接触させることにより、金属加工油剤の熱劣化を再現することを特徴とする熱劣化再現装置。
【請求項2】
前記熱源が、電気抵抗線をコイル状に巻き付けたものであって、前記熱源と前記金属パイプの間に間隙を設けて、前記熱源と前記金属パイプを直接接触させないことを特徴とする請求項1に記載の熱劣化再現装置。
【請求項3】
前記金属パイプの材質が、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱劣化再現装置。
【請求項4】
前記熱源及び前記金属パイプはフレームに固定され、その固定角度は水平に対して20°~90°であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の熱劣化再現装置。
【請求項5】
前記熱源及び前記金属パイプの固定角度を変えることができる角度調節機構を備えていることを特徴とする請求項4に記載の熱劣化再現装置。
【請求項6】
ポンプと容器をさらに備えて、金属加工油剤を前記ポンプと前記容器で循環して繰り返し流すことにより、連続的に金属加工油剤を前記金属パイプに流すようにしたことを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の熱劣化再現装置。
【請求項7】
温度コントロールユニットをさらに備え、前記熱源の温度をコントロールすることを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の熱劣化再現装置。
【請求項8】
金属加工油剤の前記熱源への接触を間欠にし、前記熱源の温度低下を抑制することを特徴とする請求項1~
7のいずれかに記載の熱劣化再現装置。
【請求項9】
タイマーをさらに備えて、熱劣化再現装置および/または容器への水の自動補給を稼働と停止を制御して、無人稼働することを特徴とする請求項1~
8のいずれかに記載の熱劣化再現装置。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれかに記載の熱劣化再現装置を用いて金属加工油剤の熱劣化再現試験を行う熱劣化再現試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理加工や温熱間塑性加工で使用される金属加工油剤が高温条件下で繰り返し長時間使用されるうちに熱劣化する状況を簡易的に再現するための装置に関するものである。ここで言う熱処理加工とは、焼き入れや焼き戻しのような工程を指し、塑性加工とは鍛造、伸線、伸管、プレス、ロール成形のような加工を指す。
【背景技術】
【0002】
一般的に高温条件下で繰り返し長時間使用される金属加工油剤は、組成中の高分子化合物が熱ダメージにより低分子化して油剤の粘度が低下する。
【0003】
それに伴い、熱処理加工においては冷却速度の変化が起こり、温熱間加工においては加工性の低下に繋がり、生産に悪影響を与えることが知られている。
【0004】
そのため、金属加工油剤の耐熱性向上は油剤メーカーにとっては重要な課題であり、過去から油剤の成分で耐熱性の様々な対策がとられているが、実機の高温条件下で繰り返し長時間使用されることを模擬した評価方法が確立されていないため、その油剤の耐熱性を確認するには実機で長期間使用してみなければならず、耐熱性の評価が非常に困難であった。
【0005】
特許文献1では、水溶性焼入れ油組成物の耐久性試験として誘導加熱で850℃に加温したφ25mm×50mmのSUS304材を400mlの液に5分間焼入れすることを100回繰り返されている。
【0006】
しかし、生産量から考えると実機で使用される条件ははるかに厳しく、焼き入れ回数としては少なすぎると考えられるが、この試験で焼き入れ回数を増やすことは効率を考慮すると現実的ではない。
【0007】
また特許文献2では、劣化防止剤の評価方法として、表面温度を900℃に赤熱したニクロム線を液に直接浸漬する熱安定性試験装置についての記載があるが、ニクロム線を20秒間浸漬し、40秒間引き上げる操作を1500回繰り返すとあり、試験効率を考慮すると現実的ではない上に、こちらも実機を想定すると繰り返し回数が非常に少ないと考えられる。
【0008】
更に、特許文献3には温度制御を特徴とする加熱装置が紹介されているが、ヒータの発熱部との間に熱媒体の流路を形成する筐体を備えた加熱装置に関するものであり、温度制御の対象が加熱部である本発明とは内容が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6787594号公報
【文献】特開平3-86767号公報
【文献】特許第5851930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来困難であった金属加工油剤の、実機における高温条件下での連続使用時の熱劣化を再現するための装置を提供し、金属加工油剤の耐熱劣化性を向上するための検討に役立てることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下に示す、金属加工油剤の高温条件下での連続使用時の熱劣化を簡易的に再現するための装置を提供する。
【0012】
1.熱源と金属パイプとを備え、前記金属パイプの外側に設置された前記熱源を加熱して高温部とし、前記金属パイプの内側に金属加工油剤を流し、金属パイプ内側の高温部に前記金属加工油剤を接触させることにより、金属加工油剤の熱劣化を再現することを特徴とする熱劣化再現装置。
【0013】
2.前記熱源が、電気抵抗線をコイル状に巻き付けたものであることを特徴とする項1に記載の熱劣化再現装置。
【0014】
3.前記金属パイプの材質が、ステンレス鋼であることを特徴とする項1または2に記載の熱劣化再現装置。
【0015】
4.熱源と金属パイプの間に間隙を設けて、前記熱源と前記金属パイプを直接接触させないことを特徴とする項1~3のいずれかに記載の熱劣化再現装置。
【0016】
5.ポンプと容器をさらに備えて、金属加工油剤を前記ポンプと前記容器で循環して繰り返し流すことにより、連続的に金属加工油剤を前記金属パイプに流すようにしたことを特徴とする項1~4のいずれかに記載の熱劣化再現装置。
【0017】
6.温度コントロールユニットをさらに備え、前記熱源の温度をコントロールすることを特徴とする項1~5のいずれかに記載の熱劣化再現装置。
【0018】
7.金属加工油剤の前記熱源への接触を間欠にし、前記熱源の温度低下を抑制することを特徴とする項1~6のいずれかに記載の熱劣化再現装置。
【0019】
8.タイマーをさらに備えて、熱劣化再現装置および/または容器への水の自動補給を稼働と停止を制御して、無人稼働することを特徴とする項1~7のいずれかに記載の熱劣化再現装置。
【0020】
9.項1~8のいずれかに記載の熱劣化再現装置を用いて金属加工油剤の熱劣化再現試験を行う熱劣化再現試験方法。
【発明の効果】
【0021】
従来困難であった実機での模擬評価が可能となるため、金属加工油剤の耐熱性向上の検討が容易になる。
すなわち、本発明の金属加工油剤の熱劣化再現装置を用いると、実機では長期間使用しなければ結果が得られない熱による劣化度を、実験室的に短期間で評価することが出来る。装置自体も安価で簡易な構造であると同時に、ほぼ自動で稼働させることが出来るため、極めて利用価値が高いと言える。また、異物の混入がない環境で評価を行う事が出来るため、その物質の純粋な熱劣化性を評価することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は本発明の熱劣化再現装置を表す模式図である。
【
図2】
図2は熱劣化再現装置の固定方法を表す模式図である。
【
図3】
図3は熱劣化再現装置の角度調整機構を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[熱源]
熱処理や温熱間加工では、一般的に金属加工油剤は800℃~1000℃の加熱材料に繰り返し接触するため、再現装置の熱源も同様の温度域に設定する必要がある。
【0024】
安定的にこの温度域に設定するための熱源には電気抵抗線が好ましく、この電気抵抗線をコイル状に巻き付けた状態で使用するのが好ましい。
【0025】
電気抵抗線には、ニクロム線やカンタル線、リボンニクロムなどがあり、形状や線径、全長は特に制限されないが、希望の温度に設定できるよう適宜選択する必要がある。
【0026】
[金属パイプ]
金属パイプの外側から熱源で加熱した状態で、その内側に金属加工油剤を流すことで直接熱源に金属加工油剤を接触させないので、熱源が急冷されにくく断線などの故障を抑制することが出来ると同時に、熱源の温度を持続させ易く、連続的に効率良く試験を行う事が出来る。
【0027】
金属パイプの材質が鋼の場合、高温条件下では酸化スケールが発生し、金属加工油剤が汚染されてしまう恐れがあると同時に、金属パイプ自体の寿命が短く、交換頻度が高くなることも懸念されるため、金属パイプの材質はステンレスであることが好ましい。
【0028】
[設置方法]
熱源の金属パイプへの取り付け方は、耐熱布などの絶縁体を介して電気抵抗線を直接巻き付けても良いが、金属パイプの外径よりも一回り大きい内径のセラミック管などの筒状物に電気抵抗線を巻き付けたものを熱源として金属パイプに被せることで、金属パイプと熱源の間に空間が生まれ、金属パイプの内側に流す金属加工油剤による急冷から、熱源を保護することが出来るためより好ましい。金属パイプと筒状物との空隙は特に制限されないが、1mm~50mmが好ましい。
【0029】
金属パイプの寸法や形状は特に制限されず丸形状でも角形状でもよく、丸形状の円筒パイプでは外径は20mm~200mm、内径は10mm~190mm、全長は100mm~5000mmが好ましく、尚且つ熱源を金属パイプ全長の中央部付近に固定するのが好ましい。
【0030】
電気抵抗線がコイル状に巻かれた熱源の寸法や巻き方は特に制限されないが、試験時の加熱能力の確保が重要であるため、熱源の外径は上記金属パイプの外径に合わせて22mm~300mm、全長は50mm~500mmが好ましい。
【0031】
熱源への金属加工油剤の当て方は特に制限されないが、
図1の様に、熱源を取り付けた金属パイプは角度を付けた状態で固定しておき、金属パイプ上部の内径側から金属加工油剤をかけ流して熱源に当てる。
【0032】
金属パイプ及び熱源は、
図2に示す通り鋼材等を組んだフレームに固定治具等を利用して固定するのが好ましい。
【0033】
金属パイプ及び熱源の固定角度は特に制限されないが、水平に対して20°~90°で固定するのが好ましく、
図3に示す通り角度調節機構で角度を変えることがより好ましい。
【0034】
金属パイプ上部の内径側からかけ流した金属加工油剤は、落下しながら熱源で加熱された部分(高温部)に接触した後、金属パイプの下部から排出されるので、適当な大きさ・形状の容器で受ける必要がある。容器の容量や形状は試験時に用意する金属加工油剤の液量に応じて設定するが、試験によって液温が上昇することが予想されるため、それを想定した材質を選定する必要がある。
【0035】
容器に受けた金属加工油剤はポンプで循環する事により、繰り返し熱源に接触させることが出来る。ポンプの種類については、金属加工油剤の粘度や温度、液量に応じて適正なものを選定する。金属加工油剤の流し方は、スプレー式や直流式など特に制限は無い。
【0036】
熱源の温度は、センサーとコントロールユニットを利用して管理することが好ましく、熱源の温度をコントロールすることにより、実機の使用条件を再現することが可能となる。
【0037】
さらに金属加工油剤を循環するためのポンプは、タイマー(図示せず)を利用して間欠運転することが好ましく、所定の温度に設定された熱源に金属加工油剤がかかると熱源の温度は低下して行くが、ポンプを止めると熱源は再度設定温度まで回復するので、所定の温度で連続した試験を行う事が可能となる。
【0038】
さらに本発明の再現装置は、水補給コントロールユニットのタイマーを利用して定期的に水を自動補給することにより、金属加工油剤の濃度を出来るだけ一定に保った状態で試験することが好ましい。
【0039】
さらに本発明の装置は、金属加工油剤を受ける容器にチラーを設置するのが好ましく、熱源に触れて温度が上昇した金属加工油剤をチラーで冷却することにより、水分の蒸発を抑制して濃度管理の頻度を減少させる事が可能となる。
【0040】
さらに本発明の再現装置は、温度コントロールユニット及びポンプ及び水補給コントロールユニット及びチラーの電源タイマーを利用して稼働と停止をすることが好ましく、連続的に試験を行う上で高温の熱源を備えた再現装置であるため、試験の自動化と安全性確保の両立を図ることが出来る。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を理解し易くするための実施例を示すが、下記の実施例は本発明を制限するものではない。
【0042】
1. 熱劣化再現試験(1)
実施例及び比較例の試験条件により、熱劣化の再現を試みた。試験に用いた金属加工油剤は大同化学社製の水溶性熱処理剤ソリュブルクエンチS-811M-Aで、未使用の原液を水道水にて10%に希釈(S-811M-A 1:水道水9)された新液(以下、「新液1」という)を試験液1に用いた。
【0043】
実施例1は、直径φ2.0mm、長さ10mのニクロム線を、外径φ100mm、内径φ85mm、全長300mmのセラミック管にピッチ約10mmで巻き付けた熱源を、外径φ76.3mm、内径φ65.9mm、全長1000mmのSUS304材パイプの全長方向中央部付近に取り付けた状態で、水平に対して30°に傾けた状態で固定した再現装置を用いた。
【0044】
熱源は、SUS304材パイプの内径側に取り付けた熱電対をセンサーとして、コントロールユニットにて温度を850℃にコントロールした。
【0045】
試験液1の新液1を5L準備し、SUS304の容器(φ240mm×240mm)に入れておき、マグネットポンプにて流量2L/minでSUS304材パイプの内径側上端部からφ8mm、肉厚0.8mmの銅パイプ吐出口を用いて直流で流し入れ、下端部からSUS304の容器に戻した。
【0046】
熱源の温度を出来るだけ一定に保つため、マグネットポンプは電源タイマーを使用して1分間稼働と1分間停止を繰り返した。
【0047】
上記方法で試験液1を循環すると、流れ落ちながら加熱部分を通過することによって、熱影響を受けて液温が上昇するため、チラーを用いて冷却し、30~60℃に保った。
【0048】
同時に試験液1は、熱影響を受けることにより水分が蒸発して濃縮されるため、タイマーにて30分毎に、水道水約300mlがSUS304容器に流入する様設定しておき、自動的に液濃度を一定に保つ工夫を行った。
【0049】
実施例1の試験は、上記条件にて電源タイマーを利用して連続的に実施し、合計48時間試験を行った。
【0050】
実施例2は、直径φ2.0mm、長さ10mのニクロム線を、外径φ76.3mm、内径φ65.9mm、全長1000mmのSUS304材パイプの全長方向中央部付近に直接耐熱布を巻いた上から、ピッチ約10mmで巻き付けたものを熱源とし、水平に対して60°に傾けた状態で固定した再現装置を用いた。
【0051】
熱源は、SUS304材パイプの内径側に取り付けた熱電対をセンサーとして、コントロールユニットにて温度を900℃にコントロールした。
【0052】
試験液1の新液1を5L準備し、SUS304の容器(φ240mm×240mm)に入れておき、スプレーユニットを用いて流量500ml/minでSUS304材パイプの内径側上端部から流し入れ、下端部からSUS304の容器に戻した。
【0053】
熱源の温度を出来るだけ一定に保つため、マグネットポンプは電源タイマーを使用して2分間稼働と30秒間停止を繰り返した。
【0054】
上記方法で試験液1を循環すると、加熱部分を通過することによって熱影響を受けて液温が上昇するため、チラーを用いて冷却し、試験液1の液温を30~60℃に保った。
【0055】
同時に試験液1は、熱影響を受けることにより水分が蒸発して濃縮するため、タイマーにて30分毎に、水道水約300mlがSUS304容器に流入する様設定しておき、自動的に液濃度を一定に保つ工夫を行った。
【0056】
実施例2の試験は、上記条件にて電源タイマーを利用して連続的に実施し、合計48時間試験を行った。
【0057】
比較例1は、材質SUS304、直径φ30mm、長さ50mmのテストピースを電気炉で1000℃に加熱したものを熱源として試験を行った。
【0058】
試験液1の新液1を2L準備してSUS304材の3L容器に入れておき、そこに加熱したテストピースを1個投入して1分後に取り出した後、液温が30~60℃になるようチラーを用いて冷却するまでを1セットとし、合計200セット繰り返した。
【0059】
試験液1は、熱影響を受けることにより水分が蒸発して濃縮するため、10セット毎に液濃度を確認し、適量の水分を補給した。
【0060】
比較例2は、材質SUS304、直径φ30mm、長さ150mmのテストピースを誘導加熱コイルで加熱したものを熱源として試験を行った。
【0061】
熱源は、テストピースの中心に取り付けた熱電対をセンサーとして、コントロールユニットにて温度を1000℃にコントロールした。
【0062】
試験液1の新液1を5L準備しておき、SUS304の容器(φ240mm×240mm)に入れておき、マグネットポンプにて流量2L/minで誘導加熱コイルの外側からテストピースの中心を狙って、φ8mm、肉厚0.8mmの銅パイプ吐出口を用いて約100mmの距離から直流でかけ流し、落下した試験液1を受け集めてSUS304の容器に戻した。
【0063】
熱源の温度を出来るだけ一定に保つため、マグネットポンプは電源タイマーを使用して1分間稼働と1分間停止を繰り返した。
【0064】
上記方法で試験液1を循環すると、熱源により熱影響を受けて液温が上昇するため、チラーを用いて冷却し、試験液1の液温を30~60℃に保った。
【0065】
同時に試験液1は、熱影響を受けることにより水分が蒸発して濃縮するため、1時間毎にSUS304容器の液濃度を確認し、適量の水分を補給した。
【0066】
比較例2の試験は、手動で電源を操作しながら合計48時間実施した。
【0067】
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2で試験後の試験液1は、全て糖度計を用いて濃度を原液に対して10%に調整した後、性状値と冷却性について比較を行い、表1に示した。
【0068】
また参考例1として、実機にて濃度10%管理で約1ヵ月間使用されたソリュブルクエンチS-811M-Aの工業用水希釈液(以下、「実機劣化液1」という)の数値も記載する。
【0069】
粘度は40℃のウォーターバスに浸漬したキャノンフェンスケ粘度計にて計測した。
【0070】
冷却性は、自動式焼入冷却能測定装置で測定を行った。
【0071】
その測定方法は、中心に熱電対を設置した、材質SUS310(φ20mm×30mm)の試片を大気雰囲気の電気炉で800℃に加熱し、上記試験後の各金属加工油剤試験液1および実機劣化液1を1L取って、1Lビーカーに入れ、液温30~40℃でφ8mm×44mmの回転子とスターラーにて450rpmで撹拌しながら加熱した試片を浸漬し、60秒間の温度変化を観察した。
【0072】
冷却性は、金属加工油剤の焼き割れに対する性能を判断する指標として800℃~500℃を最大冷却速度(℃/sec)、靭性に対する性能を判断する指標として350℃~100℃を低温域冷却速度(℃/sec)として表す。
【0073】
【0074】
表1の結果から、実施例1、実施例2、比較例2は、高温に接触して金属加工油剤成分がダメージを受けることにより粘度が低下して冷却速度が速くなっているが、比較例1は実機の使用方法に類似しているものの、手間がかかる割に粘度、冷却速度共に新液1
と大差なく、明確な液の劣化が見られなかったことから、劣化条件として満足の行くものではないと考えられる。
【0075】
実施例1、実施例2、比較例2の試験後の液状態は、参考例1の実機劣化液1と類似しており、本発明の熱劣化再現装置を利用すれば、実験室的に短期間で実機の使用状況を模擬できることが明白である。
【0076】
ただし、比較例2は誘導加熱装置が非常に大がかり且つ高価で、電波法に基づき行政への届け出が必要な設備である。また、加熱コイルに直接試験液1が接触するため加熱コイルの故障リスクが高く、熱劣化再現装置としては適さないと考えられる。
【0077】
今回の実施例及び比較例のpHは、新液1と比較して大きな変化が見られなかった。
【0078】
現場使用液の劣化判断指標の一つとしてpHの低下が挙げられるが、一般的にpHの低下原因は前工程からの持ち込みや作動油などの異物混入によるものが主であり、今回の実施例及び比較例では異物が混入することが無いため、pHの変化が見られず、純粋に熱による劣化度を評価することが出来る方法であると言える。
【0079】
2. 熱劣化再現試験(2)
実施例及び比較例の試験条件により、熱劣化の再現を試みた。試験に用いた金属加工油剤は大同化学社製の水溶性熱間塑性加工用潤滑剤ホットアクアルブF-900で、未使用の原液を水道水にて20%に希釈(F-900 2:水道水8)された新液(以下、「新液2」という)を試験液2に用いた。
【0080】
実施例3は、直径φ2.0mm、長さ10mのニクロム線を、外径φ100mm、内径φ85mm、全長300mmのセラミック管にピッチ約10mmで巻き付けた熱源を、外径φ76.3mm、内径φ65.9mm、全長1000mmのSUS304材パイプの全長方向中央部付近に取り付けた状態で、水平に対して30°に傾けた状態に固定した再現装置を用いた。
【0081】
熱源は、SUS304材パイプの内径側に取り付けた熱電対をセンサーとして、コントロールユニットにて温度を900℃にコントロールした。
【0082】
試験液2の新液2を5L準備しておき、SUS304の容器(φ240mm×240mm)に入れておき、マグネットポンプにて流量2L/minでSUS304材パイプの内径側上端部からφ8mm、肉厚0.8mmの銅パイプ吐出口を用いて直流で流し入れ、下端部からSUS304の容器に戻した。
【0083】
熱源の温度を出来るだけ一定に保つため、マグネットポンプは電源タイマーを使用して1分間稼働と1分間停止を繰り返した。
【0084】
上記方法で試験液2を循環すると、加熱部分を通過することによって熱影響を受けて液温が上昇するため、チラーを用いて冷却し、試験液2の液温を30~60℃に保った。
【0085】
同時に試験液2は、熱影響を受けることにより水分が蒸発して濃縮するため、タイマーにて30分毎に、水道水約300mlがSUS304容器に流入する様設定しておき、自動的に液濃度を一定に保つ工夫を行った。
【0086】
実施例3の試験は、上記条件にて合計48時間実施した。
【0087】
実施例4は、直径φ2.0mm、長さ10mのニクロム線を、外径φ76.3mm、内径φ65.9mm、全長1000mmのSUS304材パイプの全長方向中央部付近に直接耐熱布を巻いた上から、ピッチ約10mmで巻き付けたものを熱源とし、水平に対して60°に傾けた状態で固定した再現装置を用いた。
【0088】
熱源は、SUS304材パイプの内径側に取り付けた熱電対をセンサーとして、コントロールユニットにて温度を900℃にコントロールした。
【0089】
試験液2の新液2を5L準備しておき、SUS304の容器(φ240mm×240mm)に入れておき、マグネットポンプで流量2L/minにてSUS304材パイプの内径側上端部からφ8mm、肉厚0.8mmの銅パイプ吐出口を用いて直流で流し入れ、下端部からSUS304の容器に戻した。
【0090】
熱源の温度を出来るだけ一定に保つため、マグネットポンプは電源タイマーを使用して1分間稼働と1分間停止を繰り返した。
【0091】
上記方法で試験液2を循環すると、加熱部分を通過することによって熱影響を受けて液温が上昇するため、チラーを用いて冷却し、試験液2の液温を30~60℃に保った。
【0092】
同時に試験液2は、熱影響を受けることにより水分が蒸発して濃縮するため、タイマーにて30分毎に、水道水約300mlがSUS304容器に流入する様設定しておき、自動的に液濃度を一定に保つ工夫を行った。
【0093】
実施例4の試験は、上記条件にて合計48時間実施した。
【0094】
比較例3は、材質SUS304、直径φ30mm、長さ50mmのテストピースを電気炉で1000℃に加熱したものを熱源として試験を行った。
【0095】
試験液2の新液2を2L準備してSUS304材の3L容器に入れておき、そこに加熱したテストピースを1個投入して1分後に取り出した後、液温が30~60℃になるようチラーを用いて冷却するまでを1セットとし、合計200セット繰り返した。
【0096】
試験液2は、熱影響を受けることにより水分が蒸発して濃縮するため、10セット毎に液濃度を確認し、適量の水分を補給した。
【0097】
比較例4は、材質SUS304、直径φ30mm、長さ150mmのテストピースを誘導加熱コイルで加熱したものを熱源として試験を行った。
【0098】
熱源は、テストピースの中心に取り付けた熱電対をセンサーとして、コントロールユニットにて温度を1000℃にコントロールした。
【0099】
試験液2の新液2を5L準備しておき、SUS304の容器(φ240mm×240mm)に入れておき、マグネットポンプで流量2L/minにて誘導加熱コイルの外側からテストピースの中心を狙って、φ8mm、肉厚0.8mmの銅パイプ吐出口を用いて約100mmの距離から直流でかけ流し、落下した試験液2を受け集めてSUS304の容器に戻した。
【0100】
熱源の温度を出来るだけ一定に保つため、マグネットポンプは電源タイマーを使用して1分間稼働と1分間停止を繰り返した。
【0101】
上記方法で試験液2を循環すると、熱源により熱影響を受けて液温が上昇するため、チラーを用いて冷却し、試験液2の液温を30~60℃に保った。
【0102】
同時に試験液2は、熱影響を受けることにより水分が蒸発して濃縮するため、1時間毎にSUS304容器の液濃度を確認し、適量の水分を補給した。
【0103】
比較例4の試験は、上記条件にて合計48時間実施した。
【0104】
実施例3、実施例4、比較例3、比較例4で試験後の試験液2は、全て濃度を20%に調整した後、粘度と付着量、潤滑性能について比較を行い、表2に示す。
【0105】
また参考例2として、実機にて濃度20%管理で約1ヵ月間使用されたホットアクアルブF-900の工業用水希釈液(以下、「実機劣化液2」という)の数値も記載する。
【0106】
粘度は30℃のウォーターバスに浸漬したキャノンフェンスケ粘度計にて計測した。
【0107】
付着量は、電気炉で200℃に加熱した材質S-45C(60mm×60mm×10mm)の材料に、上記試験後の液温が室温の試験液2を吐出量200ml/minのエアミックススプレーにて距離300mmで0.5秒間塗布する前後の重量差から算出した。
【0108】
潤滑性能は、
図4に示すようなスパイクテストにて評価を行った。
【0109】
[スパイクテスト条件]
加工機:110トンクランクプレス機
加工速度:35ストローク/min
材料:SUS304、φ18mm×22mm、温度1000℃
金型:SKD61(表面コーティングなし)、温度200℃
塗布条件:200ml/minのエアミックススプレーにて距離300mmで0.5秒間塗布
【0110】
加工時の荷重と加工後材料のスパイク(突起)高さを比較データとし、加工荷重は低く、スパイク高さは高い方が潤滑性能良好と判断する。
【0111】
【0112】
表2の結果から、実施例3、実施例4、比較例4は、高温に接触して金属加工油剤成分がダメージを受けることにより粘度が低下して冷却速度が速くなっているが、比較例3は実機の使用方法に類似しているものの、手間がかかる割には粘度、冷却速度共に新液2
と大差なく、明確な液の劣化が見られなかったことから、劣化条件として満足の行くものではないと考えられる。
【0113】
実施例3、実施例4、比較例4の試験後の液状態は、参考例2の実機劣化液2と類似しており、本発明の熱劣化再現装置を利用すれば、実験室的に短期間で実機の使用状況を模擬できることが明白である。
【0114】
ただし、比較例4は誘導加熱装置が非常に大がかり且つ高価で、電波法に基づき行政への届け出が必要な設備である。また、加熱コイルに直接試験液2が接触するため加熱コイルの故障リスクが高く、熱劣化再現装置としては適さないと考えられる。
【0115】
本発明の実施例3~4及び比較例3~4のpHは、新液2と比較して大きな変化が見られなかった。
【0116】
現場使用液の劣化判断指標の一つとしてpHの低下が挙げられるが、一般的にpHの低下原因は前工程からの持ち込みや作動油などの異物混入によるものが主であり、本発明の実施例及び比較例では異物が混入することが無いため、pHの変化が見られず、純粋に熱による劣化度を評価することが出来る。