(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】網膜疾患の遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20240820BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240820BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240820BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20240820BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240820BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K38/16
A61K48/00
A61P27/02
C12N15/85 Z
C12N15/113 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2021523068
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 GB2019053036
(87)【国際公開番号】W WO2020084318
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-24
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オーランズ、ハリー オー
(72)【発明者】
【氏名】マクラーレン、ロバート イー
(72)【発明者】
【氏名】マックレメンツ、ミシェル イー
(72)【発明者】
【氏名】バーナード、アラン アール
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/151823(WO,A1)
【文献】特表2017-509632(JP,A)
【文献】HUMAN GENE THERAPY,2012年04月,Vol.23,pp.356-366
【文献】Nucleic Acids Research,2017年05月,Vol.45,p.7870-7885
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロドプシン導入遺伝子を発現する遺伝子治療ベクターであって、
前記導入遺伝子は機能的ロドプシンをコードするものであり、
前記導入遺伝子が配列番号5又は7の配列を含まないものであり、
前記導入遺伝子が配列番号12及び14のミルトロン配列を含み、
ミルトロンが、配列番号26を含む配列、又は配列番号26と少なくとも98%の配列同一性を有する配列中で、ロドプシン導入遺伝子の5’UTRに組み込まれており、
配列番号26又は配列番号26と少なくとも98%の配列同一性を含む組込み配列を除いた5’UTRの配列は、配列番号39と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含み、
前記組み込み配列が、前記組み込み配列を除いたロドプシン導入遺伝子5’UTR配列を配列番号39と整列させたときにヌクレオチド423と424の間に対応する位置に挿入されている、
遺伝子治療ベクター。
【請求項2】
前記ミルトロンが配列番号26を含む配列中の前記導入遺伝子の5’UTRに組み込まれている、請求項1に記載の遺伝子治療ベクター。
【請求項3】
前記組み込み配列を除いた5’UTRの配列が、配列番号39と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1又は2に記載の遺伝子治療ベクター。
【請求項4】
前記組み込み配列を除いた5’UTRの配列が、配列番号39と少なくとも98%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1又は2に記載の遺伝子治療ベクター。
【請求項5】
網膜色素変性を治療するための医薬の製造に使用するための請求項1~4のいずれか一項に記載の遺伝子治療ベクター。
【請求項6】
前記ロドプシン導入遺伝子が、配列番号24及び配列番号25の配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の遺伝子治療ベクター、又は請求項5に記載の医薬の製造に使用するための遺伝子治療ベクター。
【請求項7】
前記ロドプシン導入遺伝子が、配列番号1のコード配列を含むが、配列番号5及び7の配列がそれぞれ配列番号24及び25の配列で置き換えられている、請求項6に記載の遺伝子治療ベクター、又は請求項6に記載の医薬の製造に使用するための遺伝子治療ベクター。
【請求項8】
前記ロドプシン導入遺伝子の5’UTRが、配列番号27と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1~4、6又は7のいずれか一項に記載の遺伝子治療ベクター、又は請求項5~7のいずれか一項に記載の医薬の製造に使用するための遺伝子治療ベクター。
【請求項9】
前記ロドプシン導入遺伝子の5’UTRが、配列番号27の配列を有する、請求項8に記載の遺伝子治療ベクター、又は請求項8に記載の医薬の製造に使用するための遺伝子治療ベクター。
【請求項10】
前記ベクターが、配列番号28の配列、又は配列番号28の変異体であって配列番号29のWPRE配列が欠失している配列番号28の変異体を含む、請求項1に記載の遺伝子治療ベクター、又は請求項5に記載の医薬の製造に使用するための遺伝子治療ベクター。
【請求項11】
前記ベクターが、配列番号31のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の遺伝子治療ベクター、又は請求項5に記載の医薬の製造に使用するための遺伝子治療ベクター。
【請求項12】
前記ベクターが、配列番号64のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の遺伝子治療ベクター、又は請求項5に記載の医薬の製造に使用するための遺伝子治療ベクター。
【請求項13】
請求項1~4及び6~12のいずれか一項に記載の遺伝子治療ベクターを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ミルトロン(mirtron)を使用して網膜疾患を処置するための遺伝子治療の方法およびそれにおいて使用するためのベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
ミルトロンは、スプライシング後に放出され、細胞内でプロセシングされるイントロンに由来するマイクロRNAである。優性疾患を処置するために遺伝子治療ベクターの一部として人工ミルトロンを使用することが提案されている。ミルトロンは、「ブロックおよび置換」処理パラダイムの一部として、同時送達されたミルトロンに耐性となるように操作された標的遺伝子のコドン改変バージョンでベクターに付随させることができる。しかしながら、ミルトロンの効率的なスプライシングおよび適切な導入遺伝子発現の両方を維持する様式でのミルトロンと導入遺伝子との同時送達は困難であり(Curtisら、Nucleic Acids Research 45(13):7870-7885(2017))、今日まで達成されていない。
【0003】
優性網膜色素変性(RP)は、網膜に発現されるロドプシン遺伝子の突然変異によって一般的に引き起こされる失明疾患である。現在のところ、承認された処置法はない。しかしながら、アデノ随伴ウイルス(AAV)を使用してRP等の疾患を処置するために、網膜の細胞に遺伝子治療剤を送達する方法が開発されている(Fischer MDら(2017)。Molecular Therapy.25(8):1854-1865)。
【発明の概要】
【発明の効果】
【0004】
本発明者らは、ミルトロンを用いて網膜における標的遺伝子のノックダウンを達成した最初の発明者である。本発明者らは、インビボで任意の疾患を治療するためのミルトロンの最初の使用を実証した。本発明者らは、転写産物の発現がミルトロンの存在によって実質的に悪影響を受けない「置換」転写産物との人工ミルトロンの同時送達を達成することに成功した。本発明者らは、導入遺伝子の5’UTRにミルトロンを配置することによって、導入遺伝子の発現の妨害を回避できることを実証した。5’UTRからの効率的なスプライシングは、ミルトロンに隣接する5’UTRの領域にエキソンスプライスエンハンサーモチーフ(ESE)を含めることによって達成することができる。本発明者らは、インビボでの、および疾患モデルを処置するためのミルトロンの使用の成功、ミルトロンを首尾よく送達するためのアデノ随伴ウイルス(AAV)の使用、ならびに単一転写物からの複数のミルトロンの同時送達による遺伝子ノックダウンの増加を実証した。
【0005】
したがって、第1の態様において、本発明は、網膜疾患の処置を必要とする対象において網膜疾患を処置する方法であって、網膜において発現される標的遺伝子の発現をノックダウンするためのミルトロンを含むベクターを対象に投与することを含む方法を提供する。
【0006】
さらなる態様において、本発明は、ロドプシンノックダウンのためのミルトロンを含む遺伝子治療ベクターを提供する。
【0007】
いくつかの場合において、ベクターは、網膜における発現のための導入遺伝子をさらに含む。
【0008】
いくつかの場合において、導入遺伝子は標的遺伝子または変異ロドプシン遺伝子の変異体であり、変異体遺伝子はミルトロンによるノックダウンに耐性である。
【0009】
いくつかの場合において、ミルトロンは導入遺伝子または変異体ロドプシン遺伝子に埋め込まれている。
【0010】
いくつかの場合において、ミルトロンは、導入遺伝子の5’UTRまたは変異体ロドプシン遺伝子に位置する。
【0011】
いくつかの場合において、5’UTRは、1つ以上のエキソンスプライスエンハンサーモチーフをさらに含む。
【0012】
いくつかの場合において、ベクターは、網膜で発現される1つ以上の標的遺伝子の発現をノックダウンするための2つ以上のミルトロンを含む。
【0013】
さらなる態様において、本開示は、上記の遺伝子治療ベクターを含む医薬組成物を提供する。
【0014】
ここで、本開示を、限定ではなく例として、添付の図面を参照してより詳細に説明する。本開示を示された場合、当業者には、多くの同等の修正および変形が明らかであろう。したがって、記載された本開示の例示的な実施形態は、例示的であり、限定的ではないと考えられる。記載された実施形態に対する様々な変更は、本開示の範囲から逸脱することなく行うことができる。上記または下記にかかわらず、本明細書に引用されるすべての文献は、その全体が参照により明示的に組み込まれる。
【0015】
本開示は、そのような組み合わせが明らかに許容されないか、または明示的に回避されると述べられている場合を除いて、記載された態様および好ましい特徴の組み合わせを含む。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、内容が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「ベクター」への言及は、2つ以上のそのようなエンティティを含む。
【0016】
セクションの見出しは、便宜上本明細書で使用されているにすぎず、決して限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ロドプシンAAV導入遺伝子をkbでの有効サイズと共に示す概略図である。ITR、逆方向末端反復配列;RHOp、ヒトロドプシンプロモーター;Ex/Int、ウサギβグロビン由来のスプライスアクセプターと共にニワトリβアクチン遺伝子由来の第1のエクソンおよびイントロン;RHO、ヒトロドプシンコード配列;WPRE、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント;pA、ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列;ITR
sc、突然変異した逆方向末端反復配列(自己相補性をもたらす)。
【
図2】ssRHO、WPRE、Ex/IntおよびscRHO AAVによる形質導入後の解離したNrl.GFP/Rho
-/-網膜細胞におけるロドプシン発現のレスキュー。(A)ロドプシンから免疫染色された細胞の画像。形質導入された細胞ではロドプシン(赤色)についてGFP標識細胞(緑色)染色されるが、形質導入されていない細胞では染色されないことに留意されたい。年齢適合解離野生型細胞を陽性対照として左側のパネルに示す。(B)qPCRによって測定された、形質導入された解離細胞におけるヒトロドプシンmRNAレベルは、他の3つのベクターと比較して、scRHOの転写物の数の4倍の増加を明らかにした(
**p<0.01、一元配置ANOVA)。
【
図3】RHO発現AAVのインビボ比較を示す図である。(A)Nrl.GFP/Rho
-/-マウスに、4つのAAV-RHOウイルスの網膜下注射を行った。網膜切片におけるロドプシンについての免疫染色は、Ex/IntおよびSCベクターによる最大発現を示唆した。すべてのプロモーターが、桿体特異的発現を付与した。GCL 神経節細胞層;IPL 内網状層;INL 内核層;OPL 外網状層;ONL 外顆粒層;IS 内側セグメント;OS 外側セグメント。(B)SD-OCTを注射から4週間後に生存マウスで行った。光受容体層(PRL)の厚さは、免疫組織化学的所見を裏付けるEx/IntおよびSC注射マウスで最大であった。
*p<0.05、一元配置ANOVAホルム-シダック多重比較検定。
【
図4】AAV-RHOを注射したNrl.GFP/Rho
-/-マウスの神経網膜に由来するタンパク質溶解物のウエスタンブロットである。(A)ロドプシンについて染色した形質導入網膜溶解物のウエスタンブロットの例。トランスジェニックロドプシンは、はるかに低い発現レベルではあるが、形質導入されていない野生型マウスに由来するものと同様のバンドのパターンをもたらすことに留意されたい。(B)バンドデンシトメトリーは、Ex/IntおよびSCベクターで最大レベルのタンパク質発現が達成されることを示した。ベクターの効果についての二元配置ANOVA p<0.001。テューキーの多重比較検定:scRHO対ssRHOまたはWPRE、p<0.01;Ex/Int対ssRHOまたはWPRE、p<0.05;ssRHO対WPRE、ns;Ex/Int対SC、ns。
【
図5】Ex/IntおよびscRHOベクターの網膜下注射後のロドプシンの過剰発現を示すウエスタンブロットである。(A)注射されていない左眼(OS)と比較した、注射された右眼(OD)におけるロドプシンバンド密度(緑色)の増加を示す例示的なウエスタンブロット。(B、C)ベータアクチンに対して正規化されたバンドデンシトメトリー。二元配置ANOVA、SCの効果についてはp=0.21、Ex/Intの効果についてはp=0.023。
【
図6】AAV-Ex/Intを片側注射したP23Hマウスの暗順応網膜電図検査(ERG)記録から導出した強度応答曲線を示す図である。注射後1ヶ月または3ヶ月のいずれにおいても、眼間の応答の差は中間用量群において検出されず、変性の遅延は観察されなかった。高用量のベクターは毒性のようであった。
【
図7】GFP-ミルトロンプラスミドマップである。BstB1制限部位の76bpミルトロンインサートは、GFPコード配列を妨害し、正しく完全にスプライシングされていない場合にはGFPのフレームシフトを引き起こすと予測される。
【
図8】GFP-ミルトロンプラスミドによるHEK293細胞のトランスフェクションを示す図である。緑色蛍光のレベルが異なることは、ミルトロン設計間のスプライシング効率の変動を示す。
【
図9】ミルトロン1~7のスプライシング効率を示す図である。(A)
図8に示すトランスフェクト細胞の溶解物からのシグナルに基づく正規化蛍光アッセイ。(B、C)PCRを、GFP-ミルトロントランスフェクトHEK293 cDNAからミルトロン貫通プライマーを用いて行った。(B)(C)に示すPCRアンプリコンバンドからの相対デンシトメトリー読み取り値。
【
図10】PsiCHECK2プラスミドおよびDual Gloルシフェラーゼアッセイ(Promega)を示す図である。
【
図11】ヒトおよびマウスのコード配列に対するDual Gloルシフェラーゼアッセイで測定した、ミルトロン1~7のロドプシンノックダウン効率を示す図である。
****p<0.0001、一元配置ANOVA Dunnettの多重比較検定。
【
図12】ミルトロン媒介ロドプシンノックダウンを達成するためには、スプライシングおよび特異的標的配列の両方が必要であることを示す図である。
【
図13】mRNA標的コンテクストは、ミルトロンの効力に影響を及ぼすことを示す図である。「完全RHO」は、全長ヒトロドプシンコード配列がクローニングされたPsiCHECK2ベクターに対応する。「短RHO」PsiCHECK2プラスミドは、21bpのM3標的配列に対応するヒトロドプシン配列の領域のみを含み、25bpの5’および3’隣接DNAを有する。
****p<0.0001、2元配置ANOVA、シダックの多重比較検定。
【
図14】原形質膜へのRHO-GFP輸送を示す図である。 HEK293細胞をCAG.RHO-GFP.WPREプラスミドでトランスフェクトし、ロドプシンについてN末端指向抗体4D2で染色した。
【
図15】RHO-Lucは原形質膜に輸送されることを示す図である。HEK293細胞をPsiCHECK2-RHOプラスミド(従来の二重ルシフェラーゼアッセイのために設計される;上の行)またはRHO-Luc.PsiCHECK2プラスミド(二重ルシフェラーゼ融合アッセイのために設計される;下の行)でトランスフェクトした。対応するタンパク質の概略図を左に示す。
【
図16】PsiCHECK2-RHO(「標準アッセイ」)およびRHO-Luc.PsiCHECK2(「融合アッセイ」)と組み合わせたDual Gloルシフェラーゼアッセイを使用したミルトロン媒介ロドプシンノックダウンを示す図である。2つのアッセイで測定した場合のノックダウン効果は、ミルトロン2を除き、すべての場合において同様であることに留意されたい。
【
図17】予測された「オフ標的」は、ミルトロン媒介性ノックダウンを受けないことを示す図である。
【
図18】ESEに富むミルトロン隣接eGFP CDS配列およびESEを示す図である。A:5’配列。B:3’配列。スプライスドナーモチーフの上流またはミルトロンのスプライスアクセプターモチーフの下流の距離が示されている。
【
図19】5’-UTRミルトロンの有効性および下流遺伝子発現に対するそれらの効果を試験するための実験設計を示す図である。
【
図20】ミルトロンは、GFPのCDSではなく5’-UTRに位置する場合により効果的であることを示す図である。二重ルシフェラーゼアッセイを、M2とM2-UTR(A)、M3とM3-UTR(B)、およびM5とM5-UTR(C)とを比較して行った。すべての場合においてn=6であった。ns、有意でない;
*p<0.05;
***p<0.001;
****p<0.0001;多重比較のための補正を伴う二元配置ANOVA。
【
図21】増強されたスプライシングは、5’-UTRミルトロンの改善された有効性を説明し得ることを示す図である。(A)入れ子型および5’-UTRのミルトロンのPCRスプライス産物分析。(B)バンドデンシトメトリー。n=3、**p<0.01、二元配置ANOVAシダックの多重比較検定。
【
図22】5’-UTRからのミルトロン3および5の正確なスプライシングが、トランスフェクトされたHEK293細胞からの増幅されたcDNAのサンガー配列決定によって確認されることを示す図である。
【
図23】タンデムのミルトロンがロドプシンノックダウンの増加をもたらすことを示す図である。(A、B)5’-UTR内の直列の2コピーのM3は、1コピーよりも有効である。(C、D)直列のM3の1つのコピーおよびM5の1つのコピーは、5’-UTRにおいてミルトロン単独よりも有効である。示されるデータは、その対応する種に対するM5のバージョン(M5HおよびM5M)に関するものである。ns=有意ではない;
*p<0.05;
**p<0.01;
****p<0.0001;2元配置ANOVAシダックの多重比較検定。
【
図24】タンデム5’-UTRミルトロンのスプライス分析を示す図である。非スプライシング型(412bp)、単一スプライシング型(336bp)またはエキソンスキップド(166bp)転写物について予測されたものに対応するバンドは検出されなかったことに留意されたい。
【
図25】タンデム5’-UTRミルトロンのスプライス分析を示す図である。サンガー配列決定により、GFPの5’-UTRにおけるタンデムミルトロンの独立した正確なスプライシングが確認された。
【
図26】GFPの5’-UTR内に位置するミルトロンが、RHO-ルシフェラーゼ融合タンパク質を効果的にノックダウンすることを示す図である。
*p<0.05;
***p<0.001二元配置ANOVAシダックの多重比較検定。
【
図27】5’-UTRミルトロンのレポーター遺伝子発現を示す図である。5’-UTRミルトロン-GFPコンストラクトでトランスフェクトしたHEK293細胞を、CAG.GFP.WPREのものと比較した。n=6;
****p<0.0001、一元配置ANOVAダネットの多重比較検定。
【
図28】M3/M5H-UTR(赤い矢印)は、ヒトおよびマウスロドプシンの両方の>75%のノックダウンを達成することを示す図である。
【
図29】ロドプシンのコドン修飾は、ミルトロンに対する耐性を付与することを示す図である。
【
図30】RHO
M3/5R配列がインビトロでロドプシンの発現をもたらすことを示す図である。(A)RHOおよびRHO
M3/5Rの両方から翻訳されたロドプシンタンパク質は、N末端特異的モノクローナル抗体(4D2、Abcam)、C末端特異的抗体(1D4、Abcam)およびポリクローナル抗体(ab3424、Abcam)によって認識される。(B)ロドプシンは、両方の場合において原形質膜に輸送される。
【
図31】RHO
M3/5Rは、桿体由来の網膜電図を駆動することができることを示す図である。注射から4週間後のRho
-/-マウスの注射した右眼および注射していない左眼に由来するa波およびb波に対する暗順応強度応答曲線。注入の効果についての二元配置ANOVA、a波についてはp=0.0022、b波についてはp=0.0043。
【
図32】RHO
M3/M5R転写産物から翻訳されたロドプシンは外側セグメントへ輸送されることを示す図である。Nrl.GFP/Rho
-/-マウス(桿体がGFPで標識されている)に、AAV2/8
Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5.RHO
M3/5R.WPREの片側網膜下注射を行った。4週間後、動物を屠殺し、網膜切片をロドプシン(赤色)について免疫染色した。
【
図33】「ブロック」および置換」AAVベクターのゲノムを示す図である。
【
図34】低用量(2×10
8gc)および高用量(2×10
9gc)のAAV注入Rho
P23H/+網膜に由来するcDNAを、転写産物のミルトロン領域にまたがるプライマーを用いたPCRの鋳型として使用したことを示す図である。上記のゲルは、一次PCR産物が、両方のミルトロンが個別にスプライシングされた転写物から予想されるサイズに対応することを示している(バンドデンシトメトリーに基づいて>90%(左))。
【
図35】mRNA分析:ミルトロン3は、インビボでマウスロドプシンのノックダウンを誘導することを示す図である。ミルトロンを含まないAAV-Ex/Intの送達後、低用量または高用量ではmRhoの有意な減少は認められなかった。ミルトロン含有ベクターを高用量で送達した場合、総網膜mRho mRNAの34%ノックダウンが、偽注射した他眼と比較して明らかであった(P=0.0024、二元配置ANOVAシダックの多重比較検定)。低用量では有意なノックダウンは見られなかった。
【
図36】mRNA分析の続き:AAV-M3/5
H.RHO
M3/5R.WPREの送達後のヒトRHO補充レベルを示す図である。偽注射された他眼における天然マウスRhoレベルに対する倍率変化として表されるヒトRHOによる「置換」。低用量では、RHO補充は天然レベルに近似する。高用量では4.6倍の増加が見られ(P=0.0011、二元配置ANOVAシダックの多重比較検定)、過剰発現の程度が示唆される。
【
図37】mRNA分析の続きを示す図である。ヒトRHO発現は、ミルトロン含有ベクターで処置した眼においてmRhoノックダウンと相関する(右)が、ミルトロン3で処理されないAAVでは相関しない(左)。合わせて、この遺伝子発現分析は、インビボでの人工ミルトロンの機能の最初の実証を表す。
【
図38】2×10
8gcのAAV-M3/5.RHOを注射したP23H眼における光受容体層の厚さの相対的レスキュー(黄色矢印)を示す図である。処置マウスの水平子午線に沿って撮影した代表的なSD-OCT画像。耳側および鼻側網膜において、PRL厚さは、注射された眼の方が注射されていない眼よりも大きかった(両方ともp<0.0001、2元配置ANOVA、シダックの多重比較検定)。網膜上側位置(網膜剥離の影響による可能性がある)または下側位置(不十分な用量による可能性がある)について有意差は検出されなかった。
【
図39】低用量(LD:2×10
8gc)AAV-M3/5.RHOの網膜下送達が、SD-OCTによってインビボで測定した場合に光受容体層(PRL)の相対的保存につながるという初期の証拠を示す図である。注射眼対非注射眼のPRL厚の比を、注射から1ヶ月後のLD群および偽注射群の網膜位置の関数として示す。水平子午線(鼻側および耳側網膜)に沿って、LDでは網膜の厚さが増加したが(比>1)、偽注射眼では増加しなかったことに留意されたい。
【
図40】処置効果を探求するOCT分析を示す図である。OCTは、網膜の非侵襲的なインビボ断面画像化を提供する。すべてのコホートについて、右眼に注射し、対照として左眼には注射しなかった。低用量コホートでは、全体的な光受容体層(PRL)の厚さに対する小さいが有意なプラスの効果が見られたが、偽群では小さいが有意な損傷効果が見られた(手術に起因し得る)。高用量を注射した眼では、全体的な平均PRL厚の有意な変化は見られなかった。 ベクター=AAV.RHOp.Ex/Int.M3.M5
H.RHO
M3/5R.WPRE
【
図41】上網膜下注射後の網膜位置による3つの群のOCT分析を示す図である。ベクター=AAV.RHOp.Ex/Int.M3.M5
H.RHO
M3/5R.WPRE
【
図42】AAV-Ex/Intベクターを用いたOCT分析を示す図である。示されるデータは、注射から1ヶ月後および2ヶ月後である。ミルトロンを含むベクターからの同等のデータ(
図7)と比較して、低用量では利益は見られず、高用量ではより損傷があるようである。
【
図43】上網膜下注射後の網膜位置による3つの群のOCT分析を示す。ここでも、
図8(ミルトロンを含むベクターのデータ)と比較して、低用量および高用量で見られる利点はなく、より損傷があるようである。ベクター=AAV.RHOp.Ex/Int.RHO.WPRE
【
図44】暗順応ERG分析を示す図である。ERGは網膜からの電気信号を測定し、a波は光受容体からのものであり、b波は内側網膜からのものである。低用量ではわずかな利益が見られるが、高用量および偽はわずかな有害作用を有するようである。
【
図45】明順応ERG分析を示す図である。錐体光受容体からのシグナルを表す。低用量ではわずかな利益が見られるが、高用量および偽は有害作用を有するようであり、高用量群はより多くの有害作用を有するようである。
【
図46】AAV.RHOp.Ex/Int.RHO.WPRE.の送達後の1カ月の暗および明順応ERG分析を示す図である。
【
図47】WPREを含まない新たなAAVベクターを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
配列の説明
配列番号1、2は、ヒトロドプシンCDSおよびアミノ酸配列を示す。
配列番号3~9は、ミルトロン1~7のロドプシン遺伝子における標的配列を示す。
配列番号10~16は、ミルトロン1~7のポリヌクレオチド配列を示す。
配列番号17~23は、ミルトロン1~7のガイド鎖配列を示す。
配列番号24、25は、ミルトロン3、5に耐性である改変標的配列を示す。
配列番号26は、eGFP CDSに由来する5’、3’および介在するESEリッチ配列を有するミルトロン3および5を示す。
配列番号27は、ベクターAAV2/8Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5.RHOM3/5R.WPREの5’UTR配列を示す。
配列番号28は、ベクターAAV2/8Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5.RHOM3/5R.WPREのITRおよび介在導入遺伝子配列を示す。
配列番号29は、WPRE配列を示す。
配列番号30は、BstB1制限部位および隣接する3’’G’を示す。
配列番号31は、ベクターAAV2/8Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5.RHOM3/5R.WPREのポリヌクレオチド配列を示す。
配列番号32および33は、AAv2フォワードおよびリバースITR配列を示す。
配列番号34は、ヒトロドプシンプロモーターの配列を示す。
配列番号35、36は、eGFP CDSおよびアミノ酸配列を示す。
配列番号37、38は、ESEリッチ5’および3’隣接配列を示す。
配列番号39は、ミルトロンを含まない5’UTR配列を示す。
配列番号40は、ESEリッチ配列を示す。
配列番号41~47は、ミルトロン1~7のフォワードオリゴヌクレオチド配列を示す。
配列番号48~54は、ミルトロン1~7のリバースオリゴヌクレオチド配列を示す。
配列番号55~57は、ミルトロンM5Mのミルトロン、フォワードオリゴヌクレオチドおよびリバースオリゴヌクレオチド配列を示す。
配列番号58~60は、ミルトロンM2U-M2のミルトロン、フォワードオリゴヌクレオチドおよびリバースオリゴヌクレオチド配列を示す。
配列番号61~63は、ミルトロンScr-M2のミルトロン、フォワードオリゴヌクレオチドおよびリバースオリゴヌクレオチド配列を示す。
配列番号64は、ベクターAAV2/8Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5.RHOM3/5Rのポリヌクレオチド配列を示す。
配列番号65は、ベクターAAV2/8Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5M.RHOM3/5Rのポリヌクレオチド配列を示す。
【0019】
詳細な説明
ミルトロン
ミルトロンは、スプライシングされ、マイクロRNAとして機能するヘアピンイントロンである。ミルトロンは、RNA干渉(RNAi)のプロセスを介して標的mRNAの遺伝子発現を阻害し得る。本明細書で言及される「ミルトロン」という用語は、5’および3’スプライス部位がヘアピンの基部近くに位置する古典的なミルトロン、およびスプライシング後にエキソヌクレアーゼ消化によってさらに処理され得る5’または3’テールのミルトロンを含む。
【0020】
人工ミルトロンを設計する際に考慮され得る考慮事項は、以前に、例えばSeowら、(RNA(2012)18:1328-1337)およびKockら(Nucleic Acids Research(2015))に説明されている。
【0021】
各ミルトロンは、スプライスドナーモチーフ(「GT」)で始まり、スプライスアクセプターモチーフ(「AG」)で終わる。ヘアピンのステムは、ガイド鎖および相補的なパッセンジャー鎖を含む。ガイド鎖は、相補的ワトソン・クリック塩基対合によって標的mRNA配列を認識するように設計されている。例えばSchwarzら(2003、Cell 115(2):199-208)に記載されているように、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)による正しい鎖選択を容易にするために、パッセンジャー鎖におけるヘアピンの基部にミスマッチが導入され得る。有効性を維持するために、ガイド鎖は標的配列を補完する。
【0022】
ガイド鎖は、典型的には、少なくとも15、16、17、18、19、20または21ヌクレオチド長であってもよく、最大21、22、23、24、25、30、35、40、45、50またはそれを超えるヌクレオチド長であってもよい。いくつかの場合において、ガイド鎖は、18~23ヌクレオチド長または21ヌクレオチド長である。ガイド鎖は、いくつかの場合において、5’スプライスドナーモチーフからの20、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1ヌクレオチド未満であってもよい。ガイド鎖および/またはパッセンジャー鎖は、位置21にTまたはより典型的にはAを含んでもよい。ガイド鎖および/またはパッセンジャー鎖は、A位置5を含んでもよい。ガイド鎖および/またはパッセンジャー鎖は、最後の5ヌクレオチドに3つ以上のAまたはTを含んでもよい。ガイド鎖および/またはパッセンジャー鎖は、位置15にA、CまたはTを含んでもよい。ガイド鎖および/またはパッセンジャー鎖は、A位置8を含んでもよい。
【0023】
ガイド鎖とパッセンジャー鎖との間には、ヘアピンループがある。ヘアピンループは、典型的には、5、6、7、8または9~9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35またはそれを超えるヌクレオチド長であってもよい。いくつかの場合において、ヘアピンループは、8~12ヌクレオチド長である。いくつかの場合において、ヘアピンループは、9ヌクレオチド長であり、および/または配列TTCAAGAGA(配列番号X)を含む。
【0024】
ラリアット分岐点は、ヘアピンループ(古典的なおよび5’テールミルトロン)内、またはヘアピン構造の3’末端付近、典型的にはヘアピン(3’テールミルトロン)の末端の5’または3’の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15ヌクレオチド以内に位置する。3’テールミルトロンでは、ヘアピンは、いくつかの場合において、ラリアット分岐点の3ヌクレオチド以内、2ヌクレオチド以内、または1ヌクレオチド以内で終了し得る。
【0025】
ヘアピンの下流には、ポリピリミジントラクトおよびAGスプライスアクセプターモチーフがある。ポリピリミジントラクトは、典型的には、少なくとも6個の中断されていないポリピリミジンを含み得る。さらに、ポリピリミジントラクトは、典型的には、最大で1つのプリン中断を有する少なくとも10個のポリピリミジンのストレッチ、または最大で2つのプリン中断を有する少なくとも13個のポリピリミジンのストレッチ、または最大で3つのプリン中断を有する少なくとも16個のポリピリミジンのストレッチを含み得る。
【0026】
分子レベルでは、ミルトロンに基づく遺伝子治療戦略は、以前になされた他の遺伝子ノックダウンまたは「ブロックおよび置換」アプローチを超える次のようないくつかの利点を提供する。
a.スプライシング後に放出されるミルトロンは、スプライスドナーおよびアクセプターmRNA配列によって正確に定義され、これは、得られた短いヘアピンRNAが、PolIIIクラスプロモーターからの異常なmiRNAプロセシング後に生じ得るより少ないオフターゲット効果に関連する可能性が高いことを意味する。
b.ミルトロン処理はDrosha非依存性であり、これはmiRNA経路の飽和に関連する毒性の可能性を低減し得る。
c.イントロン配列として、ミルトロンは、同じPolIIプロモーター下で「硬化」導入遺伝子転写物と共に共発現され得る。これは、「ブロック」および「置換」の完全な一致を可能にし、異なるプロモーターまたはベクターが他の研究者によって採用される処置、戦略のノックダウンおよび置換アームに使用される場合に生じ得る不均衡を回避する。確かに、別個のプロモーターを使用すると、置換転写物を駆動するプロモーターが時間と共にサイレンシングされる場合、実際に疾患プロセスを悪化させる可能性がある。
【0027】
ブロックおよび置換
本発明は、網膜で発現される遺伝子の発現をノックダウンするためのミルトロンを含む遺伝子治療ベクターの設計、製造および使用に関する。そのような遺伝子は、本明細書では「標的遺伝子」または「ミルトロンによって標的化される遺伝子」と呼ばれることがある。ミルトロンは、ミルトロンのガイド鎖のポリヌクレオチド配列が標的遺伝子に存在するポリヌクレオチド配列を補完する(したがって「認識する」)場合、標的遺伝子の発現をノックダウンすることができる。ミルトロンのガイド鎖を補完する標的遺伝子内のポリヌクレオチド配列は、本明細書では「標的配列」と呼ばれることがある。標的遺伝子は、対象の網膜で発現される任意の遺伝子であってもよく、対象は、単独で、または他の治療手段、例えば以下に考察されるような導入遺伝子の共発現と組み合わせて、網膜での遺伝子の発現の低減から治療上の利益を受ける。
【0028】
本発明によるいくつかの場合において、標的遺伝子はロドプシンである。ロドプシンは、網膜の桿体光受容体細胞で発現される感光性受容体タンパク質である。ヒトロドプシンのCDSは、配列番号1のポリヌクレオチド配列を有し得、配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトロドプシンタンパク質をコードし得る。したがって、ロドプシンノックダウンのための本発明によるミルトロンは、配列番号1の配列内に含まれる配列または機能的ロドプシンタンパク質をコードするその任意の変異体もしくはホモログを補完する上記の任意の適切なガイド鎖配列を含み得る。いくつかの場合において、ミルトロンガイド鎖は、配列番号3~9のいずれか1つから選択されるロドプシンポリヌクレオチド配列、または配列番号3~9のいずれか1つと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を補完し得る。本発明によるいくつかの場合において、ミルトロンは、配列番号10~16のいずれか1つのポリヌクレオチド配列および/または配列番号17~23のいずれか1つのポリヌクレオチド配列を含む、もしくはそれからなるガイド鎖配列を有する、ならびに/あるいは配列番号3~9から選択されるポリヌクレオチド配列を含む標的配列を補完する。
【0029】
いくつかの場合において、ベクターは、網膜におけるタンパク質の発現のための遺伝子をさらに含む。この遺伝子は、本明細書では「導入遺伝子」と呼ばれることがある。導入遺伝子は、単独で、またはミルトロンの同時発現等の他の治療手段と組み合わせて、網膜での発現が対象に治療上の利益を提供する任意の遺伝子であってもよい。
【0030】
いくつかの場合において、導入遺伝子は、ミルトロンによって標的化される遺伝子の変異体である。したがって、ミルトロンがロドプシンノックダウンのためのものである場合、導入遺伝子は変異体ロドプシン遺伝子であってもよい。そのようなベクターは、ミルトロンを使用して網膜におけるタンパク質の発現をノックダウンすると共に、それを変異体タンパク質の発現で置き換えるために使用され得る。これは、「ブロックおよび置換」処理または「ブロックおよび置換」ベクターの使用と呼ばれることがある。変異体遺伝子は、ミルトロンによるノックダウンに耐性であるかまたは「硬化」するように選択される。典型的には、変異体遺伝子は、ミルトロンガイド鎖によって、典型的には標的配列中の1個以上、いくつかの場合においては2、3、4、5、6、7、8、9または10個以上のヌクレオチドの置換によって認識されるポリヌクレオチド標的配列中の標的遺伝子とは異なる。例えば、導入遺伝子において、1つ以上のコドンは、同じアミノ酸をコードする代替コドンを有するミルトロンによって認識される標的配列中のコドンと比較して置換され得る。理想的には、「稀少」コドンは回避される。導入遺伝子は、ガイド鎖が変異体遺伝子内のいかなる配列も補完しないため、ミルトロンによるノックダウンの標的とはならない。
【0031】
いくつかの場合において、本発明によれば、導入遺伝子は、機能的ロドプシンをコードするが、配列番号17~23から選択されるいずれか1つのポリヌクレオチド配列に相補的な配列を含まない、または配列番号17~23から選択される2つ以上のポリヌクレオチド配列のいずれかの特定の組み合わせを含まない、または配列番号3~9から選択されるいずれか1つのポリヌクレオチド配列を含まない、または配列番号3~9から選択される2つ以上のポリヌクレオチド配列のいずれかの特定の組み合わせを含まない変異体ロドプシン遺伝子である。いくつかの場合において、ロドプシン導入遺伝子は、配列番号24のポリヌクレオチド配列および/または配列番号25のポリヌクレオチド配列を含む。
【0032】
複数のミルトロンを含むベクター
本発明者らは、両方ともロドプシンを発現するための同じ導入遺伝子の5’UTRからの、単一のベクターにおける2つの独立して機能的なミルトロンの送達の成功を実証した。
【0033】
同じベクターに複数の機能的ミルトロンを有すること、または同じ導入遺伝子に埋め込むことが望ましい場合がある理由はいくつかある。第1に、本発明者らは、同じベクターから発現された複数のミルトロンの標的遺伝子ノックダウンに対する効果が相加的であることを実証した。ミルトロンガイド鎖は、標的遺伝子内の同じまたは異なる配列を認識し得る。それにより、複数のミルトロンを使用すると、標的遺伝子に対するノックダウン効果が増大またはより強固になり得る。
【0034】
第2に、同じ標的遺伝子内の異なる配列を認識する複数のミルトロンを含めることにより、処置を必要とする対象において発現される標的遺伝子の任意の部分における突然変異によって引き起こされる疾患を処置するためにベクターを使用できることを確実にすることができる。例えばロドプシン遺伝子には有意な突然変異不均一性が存在するため、戦略としての標的化抑制のみでは普遍的に成功する可能性は低い。しかしながら、遺伝子治療ベクターに2つ以上のミルトロンが含まれる場合、そのベクターは、ミルトロンの1つの標的配列内に突然変異を偶然有する対象においてさえ、標的遺伝子の発現をノックダウンするのに少なくとも部分的に有効である可能性が高い。
【0035】
第3に、同じベクターを使用して複数の標的遺伝子の発現をノックダウンするために、複数のミルトロンを使用することができる。これは、いくつかの異なる遺伝子が関与する複雑な疾患の治療に特に有用である可能性が高い。
【0036】
第4に、例えばミルトロンの相対的効力を比較するために、実験目的で単一のベクターに複数のミルトロンを含めることが有用となり得る。
【0037】
したがって、本発明によるいくつかの場合において、プラスミドまたはベクターは、同じミルトロンの2つ以上のコピー、または同じ標的配列を補完する2つ以上のミルトロン、または同じもしくは2つ以上の異なる標的遺伝子内の異なる標的配列を補完する2つ以上の異なるミルトロンを含み得る。
【0038】
いくつかの場合において、2つ以上のミルトロンはそれぞれ、ミルトロンとの同時発現のために導入遺伝子の5’UTRに埋め込まれ得る。1つ以上の、またはそれぞれのミルトロンは、上記のESEを含むポリヌクレオチド配列に隣接していてもよい。
【0039】
いくつかの場合において、プラスミドまたはベクターは、配列番号17~23から選択される1つ以上のガイド鎖ポリヌクレオチド配列を有する2つ以上のミルトロン、または配列番号3~9から選択される1つ以上の標的ポリヌクレオチド配列を補完するガイド鎖を有する2つ以上のミルトロン、または配列番号10~16から選択される1つ以上のポリヌクレオチド配列を有する2つ以上のミルトロンを含む。標的遺伝子はロドプシンであってもよい。
【0040】
いくつかの場合において、プラスミドまたはベクターは、配列番号19のポリヌクレオチド配列を含むかもしくはそれからなるガイド鎖ポリヌクレオチド配列を有するミルトロン、および配列番号21のポリヌクレオチド配列を含むかもしくはそれからなるガイド鎖ポリヌクレオチド配列を有するミルトロンを;または配列番号5のポリヌクレオチド配列を含むかもしくはそれからなるポリヌクレオチド配列を補完するガイド鎖を有するミルトロン、および配列番号7のポリヌクレオチド配列を含むかもしくはそれからなるポリヌクレオチド配列を補完するガイド鎖を有するミルトロンを;または配列番号12のポリヌクレオチド配列を有するミルトロン、および配列番号14のポリヌクレオチド配列を有するミルトロンを含む。
【0041】
いくつかの場合において、プラスミドまたはベクターは、配列番号26のポリヌクレオチド、または配列番号26と少なくとも80%、85%、90%、95%、95%もしくは99%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含むが、ただし、その配列は上記で定義したようなミルトロンまたはガイド鎖および/またはESEモチーフを含むことを条件とする。いくつかの場合において、プラスミドまたはベクターは、配列番号27のポリヌクレオチド配列、または配列番号27と少なくとも80%、85%、90%、95%、95%もしくは99%の配列同一性を有する配列を含むか、またはそれらからなる5’UTRを有する導入遺伝子を含むが、ただし、その配列はミルトロンまたはガイド鎖および/またはESEモチーフまたは配列番号26の配列を含むことを条件とする。いくつかの場合において、プラスミドまたはベクターは、配列番号28から選択されるポリヌクレオチド配列、または、WPRE配列(配列番号29)が欠失されている、および/もしくは配列番号14のミルトロン(ミルトロンM5H)が配列番号49を含むミルトロン(ミルトロンM5M)によって置き換えられている、配列番号28の変異体を含む。いくつかの場合において、プラスミドまたはベクターは、配列番号31のポリヌクレオチド配列、または、WPRE配列(配列番号29)が欠失されている、および/もしくは配列番号14のミルトロン(ミルトロンM5H)が配列番号49を含むミルトロン(ミルトロンM5M)によって置き換えられている、配列番号31の変異体を含むか、またはそれらからなる。
【0042】
ベクター
いくつかの実施形態において、本発明は、プラスミド、ベクター、または遺伝子治療ベクターに関する。遺伝子治療ベクターは、遺伝子治療での使用に適した任意のベクター、すなわち、患者の網膜の標的細胞、例えば光受容細胞または網膜色素上皮(RPE)細胞への核酸ポリマーの治療的送達に適した任意のベクターである。ベクターは任意の種類のものであってもよく、例えばプラスミドベクターまたはミニサークルDNAであってもよい。典型的には、ベクターはウイルスベクターである。ウイルスベクターは、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス、またはアデノウイルスに由来し得る。
【0043】
AAV由来ベクター
ベクターは、AAVゲノムまたはその誘導体を含み得る。AAVゲノムは、AAVウイルス粒子の産生に必要な機能をコードするポリヌクレオチド配列である。これらの機能には、AAVゲノムのAAVウイルス粒子へのカプシド化を含む、宿主細胞におけるAAVの複製およびパッケージングのサイクルで作動するものが含まれる。天然に存在するAAVウイルスは複製欠損であり、複製およびパッケージングサイクルの完了のためにトランスでのヘルパー機能の提供に依存する。したがって、本発明のベクターのAAVゲノムは、典型的には複製欠損である。
【0044】
AAVゲノムは、一本鎖形態、正もしくは負のいずれかのセンス、または二本鎖形態であってもよい。二本鎖形態の使用は、標的細胞におけるDNA複製ステップのバイパスを可能にし、したがって導入遺伝子発現を加速することができる。
【0045】
典型的には、天然由来AAVのAAVゲノムは、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)を含む。ITR配列は、シスで機能的な複製起点を提供するように作用し、細胞のゲノムからのベクターの組み込みおよび切除を可能にする。AAVゲノムはまた、AAVウイルス粒子のパッケージング機能をコードするrepおよび/またはcap遺伝子等のパッケージング遺伝子を含み得る。rep遺伝子は、タンパク質Rep78、Rep68、Rep52およびRep40またはそれらの変異体の1つ以上をコードする。cap遺伝子は、VP1、VP2およびVP3等の1つ以上のカプシドタンパク質またはその変異体をコードする。これらのタンパク質は、AAVウイルス粒子のカプシドを構成する。カプシド変異体を以下で考察する。
【0046】
プロモーターは、各パッケージング遺伝子に作動可能に連結され得る。そのようなプロモーターの具体例としては、p5、p19およびp40プロモーターが挙げられる(Laughlinら、1979、PNAS、76:5567~5571)。例えば、p5およびp19プロモーターは、一般にrep遺伝子を発現するために使用され、p40プロモーターは、一般にcap遺伝子を発現するために使用される。
【0047】
AAVゲノムは、任意の天然由来の血清型またはAAVの単離物またはクレードに由来し得る。したがって、AAVゲノムは、天然に存在するAAVウイルスの全ゲノムであり得る。当業者に知られているように、自然界で発生するAAVウイルスは、様々な生物系に従って分類され得る。
【0048】
一般に、AAVウイルスは、それらの血清型に関して言及される。血清型は、カプシド表面抗原の発現のプロファイルのために、他の変異亜種と区別するために使用することができる特有の反応性を有するAAVの変異亜種に対応する。典型的には、特定のAAV血清型を有するウイルスは、任意の他のAAV血清型に特異的な中和抗体と効率的に交差反応しない。AAV血清型には、霊長類の脳から同定されたAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAV11、また組換え血清型、例えばRec2およびRec3も含まれる。本発明における使用のためのAAVのゲノム血清型は、例えばAAV2であってもよい。AAV血清型の総説は、Choiら(Curr Gene Ther.2005;5(3);299-310)およびWuら(Molecular Therapy.2006;14(3)、316-327)に見出すことができる。
【0049】
本発明における使用のためのITR配列、repまたはcap遺伝子を含むAAVゲノムの配列またはAAVゲノムの要素の配列は、AAV全ゲノム配列についての以下のアクセッション番号に由来し得る:アデノ随伴ウイルス1 NC_002077、AF063497;アデノ随伴ウイルス2 NC_001401;アデノ随伴ウイルス3 NC_001729;アデノ随伴ウイルス3B NC_001863;アデノ随伴ウイルス4 NC_001829;アデノ随伴ウイルス5 Y18065、AF085716;アデノ随伴ウイルス6 NC_001862;鳥類AAV ATCC VR-865 AY186198、AY629583、NC_004828;鳥類AAV株DA-1 NC_006263、AY629583;ウシAAV NC_005889、AY388617。
【0050】
AAVウイルスは、クレードまたはクローンの観点からも言及され得る。これは、天然由来のAAVウイルスの系統的関係を指し、典型的には、共通の祖先に遡ることができ、そのすべての子孫を含むAAVウイルスの系統的群を指す。さらに、AAVウイルスは、特定の分離株、すなわち自然界で見出される特定のAAVウイルスの遺伝的分離株に関して言及され得る。遺伝的分離株という用語は、他の天然に存在するAAVウイルスとの限られた遺伝子混合を受けたAAVウイルスの集団を表し、それによって遺伝的レベルで認識可能に異なる集団を定義する。
【0051】
本発明で使用され得るAAVのクレードおよび分離株の例には、以下が含まれる:
クレードA:AAV1 NC_002077、AF063497、AAV6 NC_001862、Hu.48 AY530611、Hu 43 AY530606、Hu 44 AY530607、Hu 46 AY530609
クレードB:Hu.19 AY530584、Hu.20 AY530586、Hu 23 AY530589、Hu22 AY530588、Hu24 AY530590、Hu21 AY530587、Hu27 AY530592、Hu28 AY530593、Hu 29 AY530594、Hu63 AY530624、Hu64 AY530625、Hu13 AY530578、Hu56 AY530618、Hu57 AY530619、Hu49 AY530612、Hu58 AY530620、Hu34 AY530598、Hu35 AY530599、AAV2 NC_001401、Hu45 AY530608、Hu47 AY530610、Hu51 AY530613、Hu52 AY530614、Hu T41 AY695378、Hu S17 AY695376、Hu T88 AY695375、Hu T71 AY695374、Hu T70 AY695373、Hu T40 AY695372、Hu T32 AY695371、Hu T17 AY695370、Hu LG15 AY695377、
クレードC:Hu9 AY530629、Hu10 AY530576、Hu11 AY530577、Hu53 AY530615、Hu55 AY530617、Hu54 AY530616、Hu7 AY530628、Hu18 AY530583、Hu15 AY530580、Hu16 AY530581、Hu25 AY530591、Hu60 AY530622、Ch5 AY243021、Hu3 AY530595、Hu1 AY530575、Hu4 AY530602 Hu2、AY530585、Hu61 AY530623
クレードD:Rh62 AY530573、Rh48 AY530561、Rh54 AY530567、Rh55 AY530568、Cy2 AY243020、AAV7 AF513851、Rh35 AY243000、Rh37 AY242998、Rh36 AY242999、Cy6 AY243016、Cy4 AY243018、Cy3 AY243019、Cy5 AY243017、Rh13 AY243013
クレードE:Rh38 AY530558、Hu66 AY530626、Hu42 AY530605、Hu67 AY530627、Hu40 AY530603、Hu41 AY530604、Hu37 AY530600、Rh40 AY530559、Rh2 AY243007、Bb1 AY243023、Bb2 AY243022、Rh10 AY243015、Hu17 AY530582、Hu6 AY530621、Rh25 AY530557、Pi2 AY530554、Pi1 AY530553、Pi3 AY530555、Rh57 AY530569、Rh50 AY530563、Rh49 AY530562、Hu39 AY530601、Rh58 AY530570、Rh61 AY530572、Rh52 AY530565、Rh53 AY530566、Rh51 AY530564、Rh64 AY530574、Rh43 AY530560、AAV8 AF513852、Rh8 AY242997、Rh1 AY530556
クレードF:Hu14(AAV9)AY530579、Hu31 AY530596、Hu32 AY530597、クローナル分離株AAV5 Y18065、AF085716、AAV 3 NC_001729、AAV 3B NC_001863、AAV4 NC_001829、Rh34 AY243001、Rh33 AY243002、Rh32 AY243003/
【0052】
当業者は、その共通の一般知識に基づいて、本発明で使用するためのAAVの適切な血清型、クレード、クローンまたは分離株を選択することができる。しかしながら、本発明は、まだ同定または特徴付けられていない可能性がある他の血清型のAAVゲノムの使用も包含することを理解されたい。
【0053】
本発明で使用されるAAVゲノムは、天然に存在するAAVウイルスの全ゲノムであってもよい。しかしながら、そのようなベクターは原則として患者に投与され得るが、これは実際にはまれにしか行われない。代わりに、患者への投与を目的としてAAVゲノムが誘導体化され得る。そのような誘導体化は当技術分野で標準的であり、本発明は、AAVゲノムの任意の公知の誘導体、および当技術分野で公知の技術を適用することによって生成され得る誘導体の使用を包含する。AAVゲノムおよびAAVカプシドの誘導体化(後述)は、CouraおよびNardi(Virology Journal、2007、4:99)、ならびに上記のChoiらおよびWuらに概説されている。
【0054】
AAVゲノムの誘導体には、本発明に従ってインビボでベクターからミルトロンの発現を可能にする任意の切断型または改変型のAAVゲノムが含まれる。典型的には、最小のウイルス配列を含むが上記機能を保持するようにAAVゲノムを有意に短縮することが可能である。このようにしてAAVゲノムのサイズを低減することにより、ベクター内に1つまたは複数の導入遺伝子およびミルトロンまたは調節エレメント等の他の配列エレメントを組み込む際の柔軟性を高めることが可能になる。それはまた、宿主細胞ゲノムへのベクターの組み込みの可能性を低減し、野生型ウイルスとのベクターの組換えのリスクを低減し、標的細胞におけるウイルス遺伝子タンパク質に対する細胞免疫応答の誘発を回避し得る。
【0055】
典型的には、誘導体は、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)または2つ以上のITRを含む。ITRの1つまたは複数は、異なる血清型を有するAAVゲノムに由来してもよく、またはキメラもしくは変異ITRであってもよい。例示的な変異ITRは、trs(末端解離部位)の欠失を有するものである。この欠失は、ゲノムの継続的な複製を可能にして、コード配列および相補配列の両方を含む一本鎖ゲノム、すなわち自己相補的AAVゲノムを生成する。これは、標的細胞におけるDNA複製のバイパスを可能にし、したがって、導入遺伝子発現の加速を可能にする。
【0056】
1つ以上のITRは、いずれかの末端においてミルトロンおよび/または導入遺伝子ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に隣接し得る。1つ以上のITRの包含は、例えば、宿主細胞DNAポリメラーゼの作用による一本鎖ベクターDNAの二本鎖DNAへの変換後の、宿主細胞の核における本発明のベクターのコンカテマー形成を補助し得る。そのようなエピソーマルコンカテマーの形成は、宿主細胞の寿命の間にベクターコンストラクトを保護し、それによってインビボでの導入遺伝子の長期発現を可能にする。ITR配列は、例えば、配列番号32および33の配列またはその変異体を有するAAV2の配列であってもよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、ITR要素は、誘導体中の天然AAVゲノムから保持された配列のみであってもよい。そのような誘導体は、天然ゲノムまたは天然ゲノムの任意の他の配列のrepおよび/またはcap遺伝子を含まない。
【0058】
したがって、本発明の誘導体では、以下の部分を除去することができる:1つの逆方向末端反復(ITR)配列、複製(rep)およびカプシド(cap)遺伝子。しかしながら、いくつかの実施形態において、誘導体は、AAVゲノムの1つ以上のrepおよび/またはcap遺伝子または他のウイルス配列をさらに含み得る。天然に存在するAAVウイルスは、ヒト19番染色体上の特定の部位で高い頻度で組み込まれ、無視できる頻度のランダムな組み込みを示し、その結果、ベクターにおける組み込み能力の保持は、治療状況において許容され得る。
【0059】
誘導体は、キメラ、シャッフルまたはカプシド改変誘導体であってもよい。キメラ、シャッフルまたはカプシド改変された誘導体は、典型的には、ウイルスベクターに1つ以上の所望の官能基を提供するように選択される。したがって、これらの誘導体は、天然に存在するAAVゲノム、例えばAAV2、AAV5、AAV6、AAV8またはAAV9を含むAAVウイルスベクターと比較して、遺伝子送達の効率の増加、免疫原性の減少(体液性もしくは細胞性)、指向性範囲の変化および/または特定の細胞型の標的化の改善を示し得る。遺伝子送達の効率の増加は、細胞表面での受容体または共受容体結合の改善、内在化の改善、細胞内および核内への輸送の改善、ウイルス粒子の脱殻の改善、ならびに一本鎖ゲノムから二本鎖形態への変換の改善によって達成され得る。効率の向上はまた、ベクター用量が必要とされない組織への投与によって希釈されないように、特定の細胞集団の指向性範囲または標的化の変化に関連し得る。
【0060】
本発明はさらに、天然AAVゲノムの配列とは異なる順序および構成のAAVゲノムの配列の提供を包含する。本発明はまた、1つ以上のAAV配列または遺伝子を別のウイルス由来の配列または2つ以上のウイルス由来の配列で構成されるキメラ遺伝子で置き換えることを包含する。そのようなキメラ遺伝子は、異なるウイルス種の2つ以上の関連ウイルスタンパク質由来の配列で構成され得る。
【0061】
AAVカプシドコート
アデノ随伴ウイルス(AAV)ゲノムまたはその誘導体を含むベクターは、カプシドコートを有してもよい。そのようなカプシド化ベクターは、AAVウイルス粒子と呼ばれることがある。
【0062】
本発明のAAVベクターまたは粒子は、1つの血清型、例えばAAV2のITRを有するAAVゲノムまたは誘導体が異なる血清型、例えばAAV8のカプシドにパッケージングされている、トランスカプシド化形態を含む。本発明のAAVベクターまたは粒子はまた、2つ以上の異なる血清型に由来する未改変カプシドタンパク質の混合物がウイルスコートを構成するモザイク形態も含む。コートはまた、改変カプシドタンパク質または変異体を含んでもよい。本発明は、同じベクターまたはAVVウイルス粒子内のAAVの異なる血清型、クレード、クローンまたは単離体からのカプシドタンパク質配列の提供、すなわちシュードタイピングを包含する。
【0063】
AAVカプシドは、AAVウイルスの感染の組織特異性(または指向性)を決定し得る。したがって、本発明における使用のためのAAVカプシド血清型は、標的細胞、例えば網膜の光受容細胞またはRPE細胞、例えばAAV8の感染に対する天然の指向性または高い感染効率を有するものであってもよい。さらに、カプシドタンパク質の1つまたは複数は、キメラカプシドタンパク質、シャッフルされたカプシドタンパク質、または改変された変異カプシドタンパク質等のカプシドタンパク質の変異体であってもよい。
【0064】
キメラカプシドタンパク質には、天然に存在するAAV血清型の2つ以上のカプシドコード配列間の組換えによって生成されるものが含まれる。これは、例えば、1つの血清型の非感染性カプシド配列を異なる血清型のカプシド配列と同時トランスフェクトし、指向性選択を使用して所望の特性を有するカプシド配列を選択するマーカーレスキュー手法によって行うことができる。異なる血清型のカプシド配列は、新規キメラカプシドタンパク質を産生するための細胞内の相同組換えによって変更することができる。
【0065】
キメラカプシドタンパク質には、2つ以上のカプシドタンパク質の間、例えば異なる血清型の2つ以上のカプシドタンパク質の間に特定のカプシドタンパク質ドメイン、表面ループまたは特定のアミノ酸残基を移入するようにカプシドタンパク質配列を操作することによって生成されるものも含まれる。
【0066】
シャッフルされたカプシドタンパク質またはキメラカプシドタンパク質はまた、DNAシャッフルまたはエラープローンPCRによって生成され得る。ハイブリッドAAVキャプシド遺伝子は、関連するAAV遺伝子、例えば複数の異なる血清型のキャプシドタンパク質をコードするものの配列をランダムに断片化し、次いでその後、自己プライミングポリメラーゼ反応で断片を再構築することによって作製することができ、これは配列相同性の領域で交差を引き起こす可能性もある。いくつかの血清型のカプシド遺伝子をシャッフルすることによってこのようにして作製されたハイブリッドAAV遺伝子のライブラリをスクリーニングして、所望の機能性を有するウイルスクローンを同定することができる。同様に、エラープローンPCRを使用して、AAVカプシド遺伝子をランダムに突然変異させ、所望の特性について選択され得る変異体の多様なライブラリを作製することができる。
【0067】
カプシド遺伝子の配列はまた、天然の野生型配列に対して特異的な欠失、置換または挿入を導入するように遺伝子改変され得る。特に、カプシド遺伝子は、カプシドコード配列のオープンリーディングフレーム内、またはカプシドコード配列のN末端および/もしくはC末端に、無関係のタンパク質またはペプチドの配列を挿入することによって改変され得る。
【0068】
無関係のタンパク質またはペプチドは、有利には、特定の細胞型に対するリガンドとして作用するものであってもよい。それにより、標的細胞への改善された結合が付与され得るか、または特定の標的細胞集団、例えば網膜の光受容細胞もしくはRPE細胞に対するベクターの標的化もしくは標的化の特異性が改善され得る。代替として、無関係のタンパク質は、産生プロセス、すなわちエピトープまたは親和性タグの一部としてウイルス粒子の精製を補助するものであってもよい。挿入部位は、典型的には、ウイルス粒子の他の機能、例えばウイルス粒子の内在化、輸送を妨げないように選択される。当業者は、共通した一般知識に基づいて挿入に適した部位を特定することができる。特定の部位は、上記のChoiらに開示されている。AAVベクターまたは粒子はまた、カプシド表面に吸着されたリガンドを有する化学修飾形態を含む。例えば、そのようなリガンドは、特定の細胞表面受容体を標的化するための抗体を含み得る。
【0069】
AAV由来ベクターに関する説明の関連するセクションは、以下でさらに説明するような他の供給源から誘導されたベクターの場合にも適用される。
【0070】
レトロウイルス由来ベクター
ベクターは、レトロウイルスゲノムまたはその誘導体を含み得る。レトロウイルスゲノムの誘導体には、本発明に従うインビボでのベクターからのミルトロンの発現を可能にする任意の切断型または改変型のレトロウイルスゲノムが含まれる。
【0071】
AAV由来ベクターと同様に、レトロウイルス由来ベクターは、典型的には、パッケージングおよびその後の宿主への組み込みに必要な最小限のウイルス配列を含むレトロウイルスゲノムの誘導体を含む。レトロウイルス由来ベクターの場合、1つ以上の長い末端反復配列(LTR)が、永続的な導入遺伝子発現をもたらすためのベクターの複製およびパッケージング、ならびにその後の標的細胞への組み込みに必要な最小要素である。しかしながら、他の要素もまた存在してもよい。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来ベクターは、典型的には、宿主細胞ゲノムへの組み込みに必要なHIV 5’LTR、ウイルスRNAのビリオンへのパッケージングに必要なPsiシグナル、導入遺伝子のプロモーター、および3’LTRを含む。他の適切なレトロウイルスベクターは、例えば、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、およびそれらの組み合わせに由来し得る。
【0072】
レトロウイルス由来ベクターの指向性は、ウイルスエンベロープタンパク質によって決定される。適切な細胞、例えば網膜の光受容細胞またはRPE細胞の標的化は、標的細胞のリガンドをウイルスエンベロープに組み込むことによって強化され得る。
【0073】
アデノウイルス由来ベクター
ベクターは、アデノウイルスゲノムまたはその誘導体を含み得る。アデノウイルスゲノムの誘導体には、本発明に従うインビボでのベクターからのミルトロンの発現を可能にする任意の切断型または改変型のアデノウイルスゲノムが含まれる。
【0074】
多数のヒトアデノウイルス血清型が同定されており、それらは核酸比較、繊維タンパク質特性、および生物学的特性に基づいて6つの亜属(A~F)に分類される。例えば、A群は血清型12および31を含み、B群は血清型3および7を含み、C群は血清型2および5を含み、D群は血清型8および30を含み、E群は血清型4を含み、F群は血清型40および41を含む。
【0075】
アデノウイルスビリオンのコアは、線状二本鎖DNAゲノムならびに関連タンパク質V、VII、X(mu)、IVa2および末端タンパク質(TP)を含有する。異なるアデノウイルスのゲノム構成は保存されており、ゲノムの末端が最初に転写される(前初期遺伝子E1およびE4は直鎖状ゲノムの両端に位置する)タイミング機能を有することが提案されている。E1およびE4の初期転写は、ゲノムの中央領域の開口をもたらし、中央領域の転写を可能にする。
【0076】
アデノウイルスゲノムは、典型的には、8つのRNAポリメラーゼII転写単位、すなわち、5つの初期単位、E1A、E1B、E2A-E2B、E3およびE4;ならびに2つの遅延早期単位IXおよびIVa2;ならびに主要後期転写単位を含む。主要後期転写単位は、選択的スプライシング部位の使用に基づいてL1~L5領域にさらに細分化される。転写単位は、類似の機能のタンパク質を発現することが多い。例えば、E1A単位は、細胞感染時の転写の活性化およびS期の誘導に関与する2つのタンパク質をコードし、E1B転写単位は、細胞アポトーシスを阻害する2つのタンパク質をコードし、E3転写単位は、免疫応答の回避に関与し、主要後期転写単位は、カプシドの構築に必要な構造タンパク質をコードする。
【0077】
異種ミルトロンおよび/または導入遺伝子配列は、例えば、初期転写単位ならびにヘキソン、ペントンおよび繊維等の様々な構造タンパク質のコード領域において、アデノウイルスゲノムに挿入され得る。複製欠損アデノウイルスベクターを作製するために、アデノウイルスゲノム(例えばE1領域において)に欠失が形成されてもいてもよく、これは一般にヒト対象への投与にとってより安全であると考えられている。
【0078】
本発明において、アデノウイルスは、導入遺伝子を標的細胞に送達するのに適した任意のアデノウイルスまたは誘導体であってもよい。アデノウイルスは、任意の血清型であってもよいが、典型的にはAd5またはAd2である。本発明のアデノウイルス由来ベクターは、任意のアデノウイルス血清型のゲノムの全部または一部、ならびにそれらの組み合わせ(すなわちハイブリッドゲノム)を含み得る。
【0079】
本発明において使用されるアデノウイルスベクターは、複製不能または複製可能のいずれかであってもよい。そのようなベクターは周知である。例えば、複製不能ベクターでは、E1領域を欠失させ、異種導入遺伝子の発現を駆動する外因性プロモーターを有する発現カセットで置き換えてもよい。通常、E3領域もまた削除される。E3の欠失は、E1領域へのより大きな挿入を可能にする。そのようなベクターは、E1AおよびE1Bタンパク質を保持および発現するHEK293細胞等の適切な細胞株で増殖させることができる。他のベクターもまたE4領域を欠き、いくつかのベクターはさらにE2領域を欠く。E2およびE4ベクターは、E1、E4およびE2欠失を補完する細胞株上で増殖させなければならない。
【0080】
ベクターはまた、ほとんどまたはすべてのアデノウイルス遺伝子を欠くが、逆方向末端反復配列ならびにゲノムがパッケージングされ複製されるために必要とされるパッケージング配列等のシス作用配列を保持するヘルパー依存性ベクターであってもよい。これらのベクターは、ベクターストックから排除されなければならないヘルパーアデノウイルスの存在下で増殖される。この場合もやはり、そのようなシステムは当技術分野において周知である。
【0081】
カプシドは、7つの構造タンパク質:II(ヘキソン)、III(ペントン)、IIIa、IV(繊維)、VI、VII、およびIXで構成される。カプシドは252個のカプソメアを含み、そのうちの240個はヘキソンカプソメアであり、12個はペントンカプソメアである。ヘキソンカプソメアは、ヘキソンタンパク質の三量体であり、カプシドのタンパク質の約75%を構成する。ペントンカプソメアは、ペントンタンパク質の五量体であり、ビリオンの12個の頂点のそれぞれに位置する。各ペントンカプソマーは、6つの隣接するヘキサンカプソマーおよび繊維に結合している。繊維は、通常、繊維タンパク質の三量体であり、ペントンカプソマーから突出している。ヘキソンタンパク質、およびより少ない程度ではあるが繊維タンパク質は、アデノウイルスの主要な抗原決定基を含み、また血清型特異性を決定する。
【0082】
アデノウイルス由来ベクターは、ミルトロンおよび/または導入遺伝子の一過性発現が好ましい場合、本発明における使用に特に適している。
【0083】
単純ヘルペスウイルス由来ベクター
ベクターは、単純ヘルペスウイルス(HSV)ゲノムまたはその誘導体を含み得る。HSVゲノムの誘導体には、本発明に従ってインビボでベクターからミルトロンの発現を可能にする任意の切断型または改変型のHSVゲノムが含まれる。
【0084】
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、ヒト末梢感覚ニューロンの生涯潜伏感染を自然に確立する。組換えHSVベクターは、複製できないように遺伝子改変されているが、インビトロおよびインビボでニューロンにおいて潜在的様状態を確立する。
【0085】
プロモーターおよび他の調節エレメント
プラスミドまたはベクターにおいて、ミルトロンおよび/または導入遺伝子をコードする核酸は、典型的にはプロモーターに作動可能に連結される。当技術分野で周知の任意の適切なプロモーターが使用され得る。プロモーターは、構成的であってもよく、すなわち、任意の宿主細胞バックグラウンドにおいて作動可能であってもよい。プロモーターは、例えば、遍在性CAGプロモーターであってもよい。代替として、プロモーターは、特定の標的細胞型の発現を駆動する細胞特異的プロモーターであってもよい。例えば、いくつかの実施形態では、標的細胞は網膜の桿体光受容細胞である。いくつかの場合において、プロモーターは、配列番号34の配列を有し得るヒトロドプシンプロモーター、またはその機能的変異体であってもよい。これにより、ロドプシンの発現をノックダウンするためのミルトロンおよび/または置換ロドプシン遺伝子等のウイルス送達遺伝子産物が、桿体光受容体細胞においてのみ発現されることが保証される。
【0086】
1つ以上の他の調節エレメント、例えばエンハンサー、調節後エレメントおよびポリアデニル化部位もまた、プロモーターに加えて存在し得る。導入遺伝子および/またはミルトロンに作動可能に連結された調節配列は、例えば転写、プロセシング、mRNAの核外輸送または安定性を促進または調節することによって、導入遺伝子の発現を促進または制御する任意の配列である。「作動可能に連結された」という用語は、記載された成分が意図された方法で機能することを可能にする関係にある並置を指す。ミルトロンまたは導入遺伝子に「作動可能に連結された」制御配列(例えばプロモーター)は、ミルトロンまたは導入遺伝子の発現が制御配列と適合する条件下で達成されるように連結される。
【0087】
ベクターの調製
本発明のベクターは、遺伝子治療のためのベクターを提供するための当技術分野で公知の標準的な手段によって調製され得る。したがって、十分に確立されたパブリックドメインのトランスフェクション、パッケージングおよび精製方法を使用して、適切なベクターを調製することができる。
【0088】
遺伝子治療に使用されるウイルスベクターは、典型的には、核酸ベクターをウイルス粒子にパッケージングする細胞株を作製することによって生成される。ベクターは、典型的には、上記に例示したように、パッケージングおよびその後の宿主への組み込みに必要な最小限のウイルス配列を含み、他のウイルス配列は欠失され、ミルトロンまたは導入遺伝子等のポリヌクレオチドを発現させるための発現カセットの能力を残す。欠損したウイルス機能は、典型的には、パッケージング細胞株によってトランスで供給される。
【0089】
パッケージング細胞は、典型的には、宿主細胞に感染することができるウイルス粒子を形成するために使用される。パッケージング細胞は、当技術分野で公知の任意の適切な細胞型であり得る。パッケージング細胞は、典型的には、ヒト細胞またはヒト由来細胞である。適切な細胞には、ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞またはHEK293由来細胞クローン(例えばアデノウイルス由来ベクターをパッケージングするため)、HeLa細胞(例えばHIVまたは他のレンチウイルス由来ベクターをパッケージングするため)、およびψ2細胞またはPA317細胞(例えばレトロウイルス由来ベクターをパッケージングするため)が含まれる。
【0090】
本発明のAAV由来ベクターは、ミルトロンまたは導入遺伝子等の遺伝子治療のための要素に加えて、天然に存在するAAVウイルスの全ゲノムを含み得る。しかしながら、一般に、誘導体化ゲノム、例えば、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)を有するが、repまたはcap等のAAV遺伝子を欠いていてもよい誘導体が使用される。
【0091】
そのような実施形態において、誘導体化ゲノムのAAVウイルス粒子へのアセンブリを提供するために、AAVおよび/またはヘルパーウイルス機能を提供する追加の遺伝子コンストラクトが、誘導体化ゲノムと組み合わせて宿主細胞に提供される。これらのさらなるコンストラクトは、典型的には、構造的なAAVカプシドタンパク質(すなわちcap、VP1、VP2、VP3)をコードする遺伝子、およびrep等のAAVの生活環に必要とされる他の機能をコードする遺伝子を含有する。追加のコンストラクト上に提供される構造的カプシドタンパク質の選択は、パッケージングされたウイルスベクターの血清型を決定する。
【0092】
AAVウイルスは複製不能であるため、典型的には、ヘルパーウイルス機能、好ましくはアデノウイルスヘルパー機能もまた、AAV複製を可能にするために1つ以上の追加のコンストラクト上に提供される。
【0093】
追加のコンストラクトは、宿主細胞中のプラスミドもしくは他のエピソームエレメントとして提供されてもよく、または代替として1つ以上のコンストラクトが宿主細胞のゲノムに組み込まれてもよい。
【0094】
ミルトロン挿入
ミルトロンを発現するためのプラスミドまたはベクターを設計および/またはクローニングする場合、通常、ミルトロンからのスプライシングの効率および精度を最大化することが有益である。プラスミド、ベクターまたは導入遺伝子にミルトロンを挿入する場所を選択する場合、以下を考慮することができる。
【0095】
スプライシングを容易にするために、エキソンスプライスエンハンサーモチーフ(ESE)が豊富な位置を選択することが有益である。ESEについては以下でさらに論じる。5’エクソンの末端の「MAG」(「M」=「A」または「C」)モチーフおよび3’エクソンの始めの「G」は、通常、イントロンが認識されるために必要である(ならびにイントロン/ミルトロン自体の中のスプライスドナーおよびアクセプターモチーフ)。したがって、適切な挿入部位は、ミルトロンとの同時発現のための導入遺伝子の5’UTR等の関連配列のESEリッチ領域内の「MAGG」モチーフを検索することによって識別することができる。
【0096】
ミルトロンは、適切な制限酵素、またはオーバーラップ伸長PCR等の当技術分野で公知の他の適切な代替アプローチを使用して、選択された部位にクローニングされ得る。特に有利なのは、配列の適切な領域内のBstB1制限部位を特定することである。配列「TTCGAAG」を提供するために、BstB1制限部位の後に「G」残基が続くことが好ましい。最後の3つの塩基「AAG」は、「MAG」モチーフを提供する。スプライスドナーモチーフ「GT」で始まるミルトロンは、すぐ下流に挿入される。
【0097】
レポーター遺伝子CDSをBstB1で切断することによって作製されたものを補完する適切な「粘着末端」を有するミルトロンは、例えば、5’および3’末端に配列オーバーハングを有する相補的オリゴヌクレオチドをアニーリングすることによって作製することができる。フォワードオリゴヌクレオチドは、所望のミルトロンの配列と比較して5’の「CGAAG」モチーフを有し、それに対応して3’末端の「CGAAG」モチーフを省略する。これは、挿入されるとミルトロンの3’末端にあるように設計された「AG」スプライスアクセプターモチーフを含む。逆オリゴヌクレオチドは、所望のミルトロンの逆相補体と比較して5’末端の「CTT」モチーフを省略し、それに対応して3’末端に追加の「CTT」を含む。このアプローチをとることにより、ミルトロンがスプライシングされたときに遺伝子(例えばレポーター遺伝子)が再形成されるように、BstB1制限部位にミルトロンを挿入することができる。
【0098】
他の適切な制限酵素を使用して、同様のアプローチを原則として適用することができる。適切な制限酵素はまた、新規位置、例えば導入遺伝子の5’UTR、レシピエントプラスミドまたはベクターへの移入のために、ドナープラスミドまたはベクターからミルトロンを含む遺伝子の適切な断片を切除するために使用され得る。他の場合では、断片は、例えばPCR増幅によって増幅され得る。代替として、当技術分野で周知の任意の他の適切なクローニング方法が使用されてもよい。
【0099】
5’UTRおよびエキソンスプライスエンハンサー(ESE)
エキソンスプライスエンハンサー(ESE)は、イントロンからの正確で効率的なスプライシングを誘導または増強することができることが当技術分野で公知のエクソン内のある特定の6塩基DNA配列モチーフである。当技術分野では、ミルトロンからの効率的なスプライシングを促進するためにESEが豊富な導入遺伝子のコード領域内のミルトロンの挿入部位を選択することが提案されている。
【0100】
本発明によれば、ミルトロンと共発現するために、導入遺伝子の5’UTR内にミルトロンを配置することが有利である。本発明者らは、導入遺伝子開始コドンの上流にミルトロンを配置することによって、導入遺伝子の発現は、そのミルトロンがCDSに位置する場合よりも妨害されないはずであると推論した。導入遺伝子CDSが中断されないため、突然変異タンパク質産生のリスクはない(代替開始コドンとして作用し得るATGモチーフが5’UTRに導入されないことを条件とする)。5’UTRにおけるミルトロンの位置はまた、ミルトロンが3’UTRに位置する場合に起こり得るトランスジェニック転写物のナンセンス媒介性分解を増加させないはずである。
【0101】
さらに、本発明者らは、5’UTRにミルトロンを配置することによって、以前に提案されたようにCDS中に天然に生じるESE、または導入遺伝子の発現を妨害することなくCDS中に代替コドンを使用して操作することができる可能性があるESEに頼る必要がなくなることを認識した。代わりに、以下に記載されるような追加のESEを5’UTRに導入して、効率的なミルトロンスプライシングを促進または維持することができる。導入遺伝子の5’UTRは、ミルトロンと、1つ以上のESEを含み、5’UTRの非改変連続配列の一部ではない1つ以上の追加または外因性配列との両方の挿入によって改変され得る。しかしながら、追加のまたは外因性の配列は、典型的には、代替的な翻訳開始部位として作用し得るいかなる「ATG」モチーフも含まない。
【0102】
追加の配列は、改変5’UTR内のミルトロンの上流および/または下流であってもよい。5’UTRおよび/またはさらなる配列もしくは外因性配列は、(少なくとも)1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12またはそれを超えるESEを含み得る。1つ以上のESEは、完全に、スプライスドナーモチーフの6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、80または100ヌクレオチド5’またはミルトロンのスプライスアクセプターモチーフの3’内にあってもよい。ESEは、RESCUE-ESEオンラインツール(http://genes.mit.edu/burgelab/rescue-ese/)を使用して識別することができる。ESEは、表1の配列のいずれか1つを有し得る。
【0103】
【0104】
場合によっては、本発明によれば、1つまたは複数のミルトロンは、ミルトロンとの同時発現のために導入遺伝子の5’UTRに位置し、eGFP(増強された緑色蛍光タンパク質)レポーター遺伝子のCDSの断片によって5’および/または3’末端に隣接し得る。eGFP CDSは、配列番号35のポリヌクレオチド配列を有し得るか、またはその変異体、例えば蛍光タンパク質をコードする変異体であってもよい。いくつかの場合において、断片は、配列番号35と整列させたeGFP配列の位置346におけるミルトロン末端の5’である。いくつかの場合において、断片はミルトロンの3’であり、配列番号35と整列させたeGFP配列の位置347で開始する。断片は、断片の長さにわたって配列番号35のポリヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%または100%の配列同一性を有し得る。
【0105】
いくつかの場合において、断片は、配列番号35と整列させたeGFP配列中の以下の位置のいずれか、または最初の1、2、3、4、5、6、7もしくは8つすべてに、および/あるいはミルトロンのスプライスドナーモチーフに対して以下の位置にESEを含む:
位置340~345および/または1ヌクレオチド上流、任意選択でTTCGAAモチーフ;
位置334~339および/または7ヌクレオチド上流、任意選択でGTCAAGモチーフ;
位置330~335および/または11ヌクレオチド上流、任意選択でTGAAGTモチーフ;
位置329~334および/または12ヌクレオチド上流、任意選択でCTGAAGモチーフ;
位置317~322および/または24ヌクレオチド上流、任意選択でACAAGAモチーフ;
位置316~321および/または25ヌクレオチド上流、任意選択でTTCGAAモチーフ;
位置314~319および/または27ヌクレオチド上流、任意選択でTTCGAAモチーフ;
位置313~318および/または28ヌクレオチド上流、任意選択でTTCGAAモチーフ。
【0106】
いくつかの場合において、断片は、配列番号35と整列させたeGFP配列中の以下の位置のいずれかまたは最初の1、2、3、4もしくは5つすべてに、および/あるいはミルトロンのスプライスアクセプターモチーフに対して以下の位置にESEを含む:
位置373~378および/または27ヌクレオチド下流、任意選択でCTGAAGモチーフ;
位置374~379および/または28ヌクレオチド下流、任意選択でTGAAGGモチーフ;
位置391~396および/または46ヌクレオチド下流、任意選択でAAGGAGモチーフ;
位置329~334および/または47ヌクレオチド下流、任意選択でGAGGATモチーフ;
位置317~322および/または48ヌクレオチド下流、任意選択でGGAGGAモチーフ。
【0107】
いくつかの場合において、ミルトロンは、配列番号37のポリヌクレオチド配列、または配列番号37と少なくとも80%、82%、84%、86%、88%、90%、92%、94%、96%、98%、99%もしくは100%の配列同一性を有する配列を含むかまたはそれからなる配列に5’末端において隣接する。いくつかの場合において、ミルトロンは、配列番号38のヌクレオチド配列、または配列番号38と少なくとも80%、82%、84%、86%、88%、90%、92%、94%、96%、98%、99%もしくは100%の配列同一性を有する配列を含むかまたはそれからなる配列に3’末端において隣接する。
【0108】
いくつかの場合において、ミルトロン、または2つ以上のミルトロン、および任意選択で2つ以上のミルトロン間の任意の介在配列は、配列番号39のポリヌクレオチド配列と整列させた5’UTR配列の位置423と424との間に埋め込まれる。埋め込まれたミルトロンおよび任意の介在配列を除く5’UTR配列は、配列番号39のポリヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%または100%の配列同一性を有し得る。5’UTRにおける任意の2つのミルトロン間の配列は、配列番号40のポリヌクレオチド配列、または配列番号40のポリヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%もしくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を有し得る。配列は、上述の位置に1つ以上のESEを含むことができる。
【0109】
いくつかの場合において、本発明によれば、標的遺伝子はロドプシンであり、ベクターは配列番号26のポリヌクレオチド配列、または配列番号26のポリヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%もしくは99.5%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。配列は、本明細書で論じられるミルトロンおよび他の配列要素の任意の適切な組み合わせを含み得る。配列は、配列中のミルトロンとの同時発現のために導入遺伝子の5’UTRに位置してもよい。
【0110】
導入遺伝子は、例えば本明細書で論じられる変異体ロドプシン遺伝子のいずれか等、ミルトロンによるノックダウンに耐性のロドプシンの「硬化」バージョンをコードし得る。5’UTRは、配列番号27の配列、または5’UTRの完全な配列、もしくは配列番号12および14のミルトロンを除く5’UTR、もしくは配列番号26のポリヌクレオチド配列からなる配列の一部を除く5’UTRにわたって配列番号27のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%もしくは99.5%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列、または配列番号39のポリヌクレオチド配列と整列させた5’UTR配列の位置423と424との間に挿入された少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%もしくは99.5%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を有し得る。いくつかの場合において、ベクターは、配列番号31、64または65のいずれか1つのポリヌクレオチド配列を含む。
【0111】
本明細書のいずれかの箇所で言及される相同性または配列同一性は、既知の方法を使用して測定することができる。例えば、UWGCGパッケージは、相同性を計算するために使用することができるBESTFITプログラムを提供する(例えばそのデフォルト設定で使用される)(Devereuxら(1984)、Nucleic Acids Research 12、387~395)。PILEUPおよびBLASTアルゴリズムは、例えばAltschul S.F.(1993)J Mol Evol 36:290-300;Altschul,S,Fら(1990)J Mol Biol 215:403-10に記載のように相同性を計算するために、または配列を並べるために使用され得る(典型的にはそのデフォルト設定で)。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、国立生物工学情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公的に入手可能である。
【0112】
本明細書で使用される「断片」または「レポーター遺伝子のコード領域の断片」という用語は、アミノ酸のストリングまたは参照ポリペプチドと比較して典型的には長さが短く、共通部分にわたって参照ポリペプチドと同一のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を指す。本開示によるそのような断片は、適切な場合には、それが構成成分であるより大きなポリペプチドに含まれ得る。本明細書で言及される断片は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、41アミノ酸長から、41、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、120、140、160、180、200、250、300またはそれ以上のアミノ酸長までであってもよい。
【0113】
治療方法および医学的使用
本発明は、網膜疾患を処置するための方法およびそのような方法で使用するためのベクターに関する。この方法は、遺伝子治療の方法であってもよい。「遺伝子治療」という用語は、患者の細胞への核酸ポリマーの治療的送達を意味する。遺伝子治療のいくつかの場合において、対象にとって治療的であるタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子のコピーが、対象の細胞に導入される。細胞に導入するためのそのような遺伝子は、本明細書では導入遺伝子と呼ばれることがある。いくつかの場合において、遺伝子治療は、健常個体では通常発現されるが、対象では喪失または欠損している1つ以上の遺伝子を細胞に導入する。遺伝子治療の他の場合では、核酸ポリマーを導入して、対象における遺伝子の発現をノックダウンする、すなわち遺伝子産物の発現を低減することができる。本発明によれば、遺伝子治療は、網膜の細胞で発現される遺伝子の発現をノックダウンすることができるミルトロンを発現するベクターの投与を含む。ミルトロンによるノックダウンの標的となる遺伝子は、本明細書では内因性遺伝子または標的遺伝子と呼ばれることがある。
【0114】
網膜疾患は、網膜の細胞における遺伝子の発現または過剰発現によって引き起こされるかまたはそれによって悪化する任意の疾患、状態または障害であってもよい。いくつかの場合において、疾患は、野生型の健康な遺伝子と比較して、遺伝子の突然変異によって引き起こされ得る。疾患は、対象における遺伝子の2つのコピーのうちの1つにおける突然変異が、対象が疾患に罹患するのに、または疾患が増悪するのに十分であり得る優性遺伝(または常染色体優性)であってもよい。他の場合では、疾患は劣性遺伝性(または常染色体劣性)であってもよく、この場合、対象は、罹患するのに、または疾患が増悪するのに遺伝子の両方のコピーに突然変異を有さなければならない。いくつかの場合において、疾患は、単一の遺伝子における突然変異によって引き起こされるか、または主に引き起こされるもしくは誘発される。他の場合では、本発明は、おそらくは生活様式または環境的要因と組み合わせて、複数の遺伝子が関与し得る複雑な遺伝性疾患を治療するために使用され得る。
【0115】
本発明の方法に従って処置され得る網膜疾患の例としては、網膜色素変性症、常染色体優性シュタルガルト様黄斑ジストロフィー、常染色体優性および常染色体劣性ベスト病、パターンジストロフィー、ドインハニカム型ジストロフィー、常染色体優性ドルーゼン、進行性二焦点性網脈絡膜萎縮、ソルスビー眼底ジストロフィーおよび加齢黄斑変性が挙げられる。いくつかの場合において、網膜疾患は、網膜の光受容細胞または桿体光受容細胞における遺伝子の発現または過剰発現によって引き起こされるかまたはそれによって悪化する疾患、状態または障害である。いくつかの場合において、ミルトロンおよび/または導入遺伝子によるノックダウンの標的となる遺伝子は、ロドプシンである。いくつかの場合において、網膜疾患は、優性または劣性網膜色素変性である。
【0116】
対象は、ヒトまたは非ヒト動物であってもよい。非ヒト動物には、げっ歯類(マウスおよびラットを含む)、ならびにウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリ、両生類、爬虫類等を含む他の一般的な実験動物、家畜および農業動物が含まれるが、これらに限定されない。
【0117】
医薬組成物および投与様式
本発明の1つ以上のベクターは、医薬組成物に製剤化され得る。これらの組成物は、ベクターに加えて、薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤または当業者に周知の他の材料を含んでもよい。そのような材料は非毒性であるべきであり、有効成分の有効性を妨げるべきではない。適切な組成物および投与方法の例は、EssekuおよびAdeyeye(2011)、ならびにVanden Mooter G.(2006)に記載されている。担体または他の材料の正確な性質は、投与経路に従って当業者によって決定され得る。技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、2000、Lippincott,Williams&Wilkins出版に見出すことができる。
【0118】
本発明のベクターは、標的細胞の形質導入を可能にする任意の適切な経路および手段によって投与され得る。標的細胞は、光受容細胞、桿体光受容細胞、またはRPE細胞等の網膜の細胞である。典型的には、送達は網膜下または硝子体内である。ベクターは、例えば網膜下注射によって、網膜の下に外科的に送達され得る。
【0119】
投与量および投与計画は、組成物の投与を担当する医師の通常の技能の範囲内で決定され得る。本発明のベクターの用量は、様々なパラメータに従って、特に処置される患者の年齢、体重および状態;投与経路;ならびに必要なレジメンに従って決定され得る。医師は、任意の特定の患者に必要な投与経路および投与量を決定することができる。
【0120】
投与は、典型的には「予防有効量」または「治療有効量」(ただし場合によっては予防が治療とみなされ得るが)であり、これは個体への利益を示すのに十分である。例えば、治療有効量の本発明のベクターまたは本発明による有効な処置方法は、ミルトロンの標的遺伝子の発現の低減、および場合によっては網膜の標的細胞における導入遺伝子の発現ももたらし得る。処置は、臨床的応答をもたらす、または個体に臨床的利益を示す、例えば、疾患を治癒する、疾患もしくは状態もしくは1つ以上の症状の発症もしくは進行を予防もしくは遅延させる、1つ以上の症状を改善もしくは緩和する、寛解を誘導もしくは延長する、またはぶり返しもしくは再発を遅延させるのに十分である。いくつかの場合において、処置は、対象の視力を改善するのに十分であり、これはいくつかの場合において対象の視力の経時的な低下の遅延、低減または防止を含み得る。より具体的には、処置は、いくつかの場合において、低照度状態のそのような患者の視力を改善し得る。
【0121】
本発明の1つ以上のベクターの典型的な単回用量は、108もしくは109~1015もしくは1014もしくは1013もしくは1012もしくは1010ウイルスゲノム(vg)、またはその任意の範囲、例えば109~1013vgであってもよい。範囲の下端の用量は、典型的には網膜への直接投与に使用され、範囲の上端の用量は、典型的には全身投与に必要とされる。
【0122】
一本鎖DNA分子を含む単一のAAVカプシドは、単一のウイルスゲノム(vg)である。vgは、当技術分野で周知の任意の適切な方法、例えばリアルタイムPCRによって定量することができる。1つまたは複数のベクターは、好ましくは1回だけ投与され、使用されるベクターに応じて、標的遺伝子の永続的または一時的なノックダウンをもたらすが、例えばその後数年間および/または異なる血清型による反復投与が考慮され得る。
【0123】
本発明の組成物は、単独で、または他の治療用組成物もしくは処置と組み合わせて投与され得る。
【0124】
例
例1-ロドプシンをインビボで発現させるための導入遺伝子カセットの設計
AAV2/8
Y733Fベクターを発現する4つのヒトロドプシンを設計し、製造した(
図1)。4つすべてが、ヒトロドプシンプロモーター(RHOp;配列番号34)の下流にヒトロドプシンcDNA配列(RHO;配列番号1)を含有していた:
1.AAV-ssRHO(AAV2/8
Y733F.RHOp.RHO):ヒトロドプシンプロモーターの制御下でヒトロドプシンCDSを含有する一本鎖AAVゲノム。
2.AAV-WPRE(AAV2/8
Y733F.RHOp.RHO.WPRE):AAV-ssRHOに関してであるが、3’ウッドチャック肝炎転写後調節エレメント(WPRE)配列(配列番号29)が追加されている。この配列は、マウスおよびヒトにおける網膜遺伝子治療後の導入遺伝子発現を改善することが示されている(Patricioら(2017)、Mol.Ther.-Nucleic Acids 6:198-208)。
3.AAV-Ex/Int(AAV2/8
Y733F.RHOp.Ex/Int.RHO.WPRE):AAV-WPREに関してであるが、ニワトリベータ-アクチン遺伝子の第1のエクソンおよびイントロンが、RHOp配列とKozakコンセンサスとの間に位置するウサギベータ-グロビン遺伝子由来のスプライスアクセプターと共に追加されている。
4.AAV-scRHO(scAAV2/8
Y733F.RHOp.RHO):AAV-ssRHOの自己相補的(sc)バージョン。自己相補的ベクターは、AAV形質導入のプロセスにおいて律速であると考えられるステップである細胞内第2鎖合成を迂回するため、ベクター効率の増加をもたらす。scベクターの1つの主な欠点は、それらの一本鎖(ss)対応物の事実上半分のパッケージング能力を有することである。このベクターは能力に非常に近いため、自己相補性は、上記のベクター2および3に含まれる追加のエレメントの代替でなければならない。
【0125】
例2-ロドプシン発現カセットのエクスビボ検証
4つのウイルスを、出生後日(PND)3のNrl.GFP/Rho
-/-マウスからの解離網膜細胞を使用してエクスビボで検証した。これらの動物は、ロドプシンにホモ接合ヌル突然変異を有し、神経網膜ロイシンジッパー(Nrl)プロモーター下でGFPを発現する。したがって、桿体細胞は蛍光標識された緑色であり、天然ロドプシンを発現しない。4つすべてのウイルスによる形質導入およびRHOタンパク質の免疫蛍光染色後に、ロドプシン発現のレスキューが認められた(
図2A)。RNAはまた、解離した形質導入PND3網膜細胞から抽出し、cDNAに変換した。定量的PCR(qPCR)分析は、他の3つのウイルスで形質導入されたものと比較して、AAV-scRHO形質導入細胞のロドプシン転写物の数の4倍の増加を明らかにした(
図2B)。
【0126】
例3-ロドプシン発現カセットのインビボ検証
続いて、4つのベクターのインビボ比較を行った。1.5μl中の各ウイルスの2×10
9ゲノムコピー(gc)の網膜下注射をNrl.GFP/Rho
-/-マウスで行った。4週間後、生存マウスをスペクトル領域光干渉断層法(SD-OCT)に供し、そこから平均光受容体層(PRL)の厚さを計算した。次いで、マウスを屠殺し、眼を摘出した。いくつかは免疫組織化学のために固定、包埋および切片化し、他のいくつかはロドプシンタンパク質レベルのウエスタンブロット分析のために処理した。
図3Aは、ロドプシンについて染色されたそのようなマウスからの網膜凍結切片を示す。4つすべてのウイルスは、マウス網膜におけるヒトロドプシンタンパク質発現を駆動することができた。形質導入された桿体は、形質導入されていない眼には存在しなかったロドプシンが充填された外側セグメントを生成した。ロドプシン発現は、野生型状態を模倣し、プロモーター特異性を確定するこの層に限定された。ロドプシン発現は、AAV-Ex/Int注射眼およびAAV-scRHO注射眼において最も大きく現れた。注射動物からのSD-OCT画像の分析により、これらの2つのベクターが最大平均光受容体層(PRL)厚さをもたらすことが確認された(AAV-RHOおよびAAV-WPREに対する各々についてp<0.05、一元配置ANOVAホルム-シダック多重比較検定;
図3B)。同様に、これらの2つのベクターは、ウエスタンブロットバンドデンシトメトリーによって測定されるように、ロドプシンタンパク質発現の最大レベルをもたらした(
図4)。
【0127】
まとめると、上記のデータは、WPREおよびニワトリベータ-アクチン/ウサギベータ-グロビンエクソン-イントロン-エクソン配列の付加により、自己相補的ベクターに関連するものと同様のレベルの桿体特異的導入遺伝子発現が達成され得ることを示唆している。最適化された一本鎖コンストラクトの利点は、miRNA抑制エレメント(例えばミルトロン)のさらなる包含を可能にするように、さらなるパッケージング能力が維持されることである。
【0128】
例4-ロドプシン単独の過剰発現は網膜変性を低減しない
次に、ロドプシンのみの過剰発現が、ロドプシン優性網膜炎色素変性のマウスモデルにおける変性表現型をレスキューするのに十分であるかどうかを確立することが重要であった。P23Hロドプシンノックインマウス(Jackson laboratories)をこれおよびその後のベクター試験のために使用したが、これは、これが利用可能な最も生物学的に関連するマウスモデルを表すためである。ホモ接合RhoP23H/P23Hマウスをホモ接合Nrl.GFPマウスと交配し、両方の対立遺伝子についてヘテロ接合性の子孫を作製した。これらのマウス(経時的に変性するGFPで標識された桿体を有する)を、すべてのさらなる試験に使用したが、これらは以降で単に「P23H」マウスと呼ばれる。
【0129】
ロドプシン過剰発現が達成可能であるかどうかを試験するために、P23Hマウスに、上記で開発された2つの最も成功したロドプシン補充ベクター、AAV-scRHOおよびAAV-Ex/Intを注射した。1.5μl中2×10
9ゲノムコピーの網膜下注射を、3週齢のP23Hマウスの右眼に行った(各ベクターについてn=6)。4週間後、網膜を採取し、ウエスタンブロットによるバンドデンシトメトリーによって、注射した右眼と注射していない左眼との間でロドプシン発現を比較した。これは、両方のベクターについて約50%のロドプシンの過剰発現を示した(
図5)。
【0130】
次に、ロドプシン過剰発現単独がP23Hマウスの網膜変性を遅らせるのに十分であるかどうかを確立するためのパイロット研究を行った。このように、P23Hマウスの新たなコホートに、2×10
8gc(「低用量」)もしくは2×10
9(「中用量」)の用量のAAV-scRHO、または2×10
9(「中用量」)もしくは2×10
10gc(「高用量」)の用量のAAV-Ex/Intのいずれかを片側注射した。注射から1ヶ月後および3ヶ月後に行われた網膜電図検査は、これらの処置が網膜変性の速度に影響を及ぼさないことを示した(
図6)。
【0131】
例5-ロドプシン発現をノックダウンするためのミルトロンの設計
インビボで「ブロックおよび置換」パラダイムの「置換」アームを最適化した後、ロドプシンをノックダウンすることができるコンストラクトを設計および製造するための実験室研究を行った。M1~M7、配列番号10~16と命名した7つのミルトロンを設計した。各ミルトロンを、ヒトおよび/またはマウスロドプシン遺伝子を標的とするように操作した。
【0132】
相補的オリゴヌクレオチドをアニーリングすることによって、二本鎖ミルトロンを操作した。フォワードオリゴヌクレオチドは、一般構造5’-P-CGAAG-(短縮ミルトロン配列)を有し、式中、Pはリン酸基を表し、短縮ミルトロン配列は、76bpミルトロン設計から3’CGAAGモチーフ(配列番号41~47)を引いたものを表す。逆方向オリゴヌクレオチドは、一般構造5’-P-(短縮逆方向ミルトロン配列)-CTTを有し、短縮逆方向ミルトロン配列は、76bpミルトロン配列から5’CTTモチーフ配列番号48~54を引いたものの逆相補体を表す。オリゴヌクレオチドは、Sigma-Aldrich、UKによって製造され、受領時に10μMの濃度に再構成された。10μlの順方向溶液および10μlの逆方向溶液を完全に混合し、PCRサーモサイクラー(Multigene、Labnet International Inc.)を使用して95℃の温度に加熱した。次いで、効率的なアニーリングを容易にするために、試料を30分間にわたって室温まで段階的にゆっくり冷却した。
【0133】
得られた二本鎖ミルトロン配列(設計により既にBstB1粘着末端を有していた)を、BstB1/エビアルカリホスファターゼ(New England Biolabs、UK)処理CAG.eGFP.WPREプラスミドにそれぞれ個別にライゲーションした(
図7)。コンストラクト内のeGFPコード領域(配列番号35)のヌクレオチド346と347との間のミルトロンの正しい配向が、市販のサンガーシーケンシング(Source Biosciences、UK)によって確認された。
【0134】
例6-正確なミルトロンスプライシングの定量
例5に記載の各プラスミドを、個々にHEK293細胞にトランスフェクトした。いずれの場合も、スプライシングの失敗はミルトロン部位の下流のGFP CDSのフレームシフトをもたらすため、緑色蛍光はミルトロンからの成功した正確なスプライシングを示した。このようにして、各ミルトロン設計の正確なスプライシングの程度をインビトロで容易に確立することができ、定量的蛍光アッセイ(GFPトランスフェクト細胞溶解物の蛍光プレート読み取り値をGFPトランスフェクト細胞溶解物の蛍光プレート読み取り値に対して正規化)を使用して測定した(
図8および
図9A)。
【0135】
例7-ミルトロンスプライス変異体の決定
GFP-ミルトロンコンストラクトのスプライス変異体もまた決定した。GFP-ミルトロントランスフェクト細胞からのRNAを抽出し、cDNAに逆転写した。隣接GFP配列に対する一連のミルトロン貫通プライマーを使用して、スプライシングされた領域を増幅した。得られたPCR産物を電気泳動によって2%アガロースゲルに流した。得られた各バンドは、異なるスプライス生成物に対応していた。バンドデンシトメトリーによって決定された正確にスプライシングされた生成物の割合は、上記で概説した蛍光スプライスアッセイによって予測されたものに対応していた(
図9Bおよび
図9C)。
【0136】
例8-ミルトロン媒介ノックダウンのインビトロ決定:3’UTRにおける標的配列
製造業者の説明書に従って、PsiCHECK2ベクター系(いずれもPromega)と組み合わせたDual Gloルシフェラーゼアッセイを使用して、7つすべてのミルトロンに対するロドプシンノックダウン効率をインビトロで決定した。簡潔には、PsiCHECK2プラスミドは、独立してユビキタスプロモーターの制御下にある2つのルシフェラーゼ遺伝子(ウミシイタケおよびホタル)を含む。各ルシフェラーゼは、ルミノメーター(Dual Gloアッセイ)で定量することができる光を生成する反応を順次触媒する(
図10)。ウミシイタケルシフェラーゼは、その終止コドンと、ロドプシンコード配列がクローニングされたポリA配列との間に位置する多重クローニング部位を有する。HEK293細胞をこのベクターおよび各GFP-ミルトロンプラスミドで同時トランスフェクトした。有効なミルトロンは、その標的配列を切断し、ウミシイタケルシフェラーゼ転写物を脱アデニル化し、ウミシイタケルミネセンスシグナルを減少させると予想される。しかしながら、ミルトロンは、アッセイにおいて内部トランスフェクション対照として作用するホタルシグナルに影響を及ぼすべきではない。このようにして、ミルトロンのないGFP対照読み取り値に対して正規化される相対ルシフェラーゼ比(ウミシイタケ:ホタル)により、ミルトロン媒介ノックダウン効率が定量される。7つすべてのミルトロン設計を、ヒトおよびマウスロドプシンの両方についてPsiCHECK2ベクターに対して試験した。ミルトロンM1~4およびM6のガイド鎖は、マウスおよびヒトロドプシンmRNAの両方について完全なアンチセンス一致であった。2つの種の標的ヌクレオチド配列の対応する違いに従って21個のガイド鎖ヌクレオチドのうちの2つが異なる、別個のヒトおよびマウスバージョンのミルトロン5(「M5H」および「M5M」と命名、配列番号55;フォワードオリゴ:配列番号56;リバースオリゴ:配列番号57)をクローニングした。ミルトロン7は、ヒトロドプシン配列との完全なアンチセンスマッチであったが、マウスにおいて対応する標的との単一ヌクレオチドのミスマッチを有していた。結果を
図11に示す。ミルトロン2、3および5は、40~70%のロドプシンの有意なノックダウンを誘導した。M5HおよびM5Mは、それらの対応する種のロドプシンを標的とする場合にのみ有効であったことに留意されたい。
【0137】
例9-スプライシングおよび特異的アンチセンス配列の両方がミルトロン誘導RNAノックダウンに必要である
ミルトロン媒介ロドプシンノックダウンに対する正確なスプライシングおよび特異的アンチセンス配列の必要性を、ミルトロン2(M2)の2つの代替バージョンをクローニングすることによって調べた。1つ目は、いわゆるスプライス不可能なバージョン(M2U、配列番号58;フォワードオリゴ:配列番号59;リバースオリゴ:配列番号60)であった。M2およびM2Uは、M2Uのアデニンヌクレオチドの代わりに用いた第1のヌクレオチド(カノニカルスプライスドナー部位の1位における「G」)を除いてすべて同一であった。2つ目は、スプライシングに関与すると予測されなかったガイド鎖のヌクレオチド(7~21位)をランダムに並べ替えた「スクランブル」バージョン(M2S、配列番号61;フォワードオリゴ:配列番号62;リバースオリゴ:配列番号63)であった。
図12は、M2UがGFPからスプライシングされず(緑色蛍光の欠如によって示される)、ロドプシンノックダウンを媒介することができなかったことを示す。M2SはM2と同程度にスプライシングされたが、それもロドプシンノックダウンを誘導しなかった。したがって、スプライシングおよび特異的アンチセンス配列の両方が、ミルトロン誘導RNAノックダウンに必要である。
【0138】
例10-ミルトロン効力に対する標的配列状況の影響
ミルトロン効力に対する標的配列状況の影響を調べるために、25bpの上流および下流DNAを有する21bpのミルトロン3(M3)標的配列を含むヒトロドプシン標的の「短い」バージョンを、PsiCHECK2ベクターの多重クローニング部位にクローニングした。このコンストラクトに対するM3有効性を、全長配列に対して測定したものと比較した(
図13)。興味深いことに、M3は、より短い隣接配列を有するRHO標的に対して有意により効果的であった。したがって、標的部位の状況は、ミルトロンの効力に有意な影響を及ぼし得る。これはおそらく、転写物標的部位へのRISCのアクセスを様々に許容または制限し得るmRNA二次構造の局所的差異に起因し、同一の標的配列を有するミルトロンについてヒト標的とマウス標的との間で観察される差異を説明し得る(
図11を参照されたい)。
【0139】
例11-ミルトロン媒介ノックダウンのインビトロ決定:コード領域内の標的配列
Dual Gloルシフェラーゼアッセイは、ウミシイタケルシフェラーゼの3’UTRにクローニングされた目的の遺伝子を標的とするRNAiエフェクターの有効性を定量する。能動的に翻訳されているCDS内に標的部位が位置する場合、mRNA切断がインビボで同じ程度に起こるとは限らない。実際、コード配列を標的とする天然miRNAは、mRNA切断よりも翻訳阻害を介してその効果を発揮し得ると考えられており、そのようなmiRNAは、標的タンパク質レベルに対してより小さい影響を有するようである。
【0140】
翻訳配列に対するミルトロンの有効性を調べるために、ヒトロドプシン遺伝子をPsiCHECK2ベクターにクローニングして、ルシフェラーゼがAPVATリンクペプチドを介してロドプシンの細胞質C末端にタグ化されたRHO-ウミシイタケルシフェラーゼ融合タンパク質を作製した。このアプローチの有効性は、まず、ロドプシン-APVAT-GFP配列をCAG/WPREプラスミド骨格にクローニングすることによって確立された。これを使用してHEK293細胞をトランスフェクトし、その後、タンパク質の細胞外N末端を標的とする4D2抗ロドプシン抗体を使用して免疫染色した。共焦点蛍光顕微鏡法により、RHO-GFP融合タンパク質が原形質膜に局在していることが明らかになり、このタンパク質は蛍光の二重環として見える(
図14)。次いで、HEK293細胞を、RHO-ウミシイタケルシフェラーゼ融合PsiCHECK2プラスミドでトランスフェクトし、ロドプシンおよびルシフェラーゼについて染色した。2つの抗体からの蛍光の原形質膜への共局在化。対照的に、PsciCHECK2-RHO(ヒトロドプシン配列がウミシイタケルシフェラーゼ3’UTRの多重クローニング部位にクローニングされている)でトランスフェクトした細胞の染色は、サイトゾル内のルシフェラーゼ局在化を示し、ロドプシンシグナルは示さなかった(
図15)。
【0141】
RHO-Luc.PsiCHECK2内のミルトロン標的配列が確かにタンパク質に翻訳されることが確認されたため、プラスミドを使用して、さらなるDual Gloルシフェラーゼアッセイでミルトロン1~7を試験した。この融合アッセイの結果は、融合アッセイを使用して試験した場合に非効果的であると思われるミルトロン2の結果を除いて、すべての場合において標準的なアッセイの結果に匹敵した(
図16)。
【0142】
これは、RNAiの有効性が、いくつかのエフェクターについて、3’UTRではなくCDSが標的化される場合に異なり得るという仮説を裏付けている。このアッセイは、ミルトロン3および5が、下流のインビボ適用のための7つの候補設計のうちで最も効果的である可能性が高いことを示唆した。我々の知る限りでは、デュアルルシフェラーゼアッセイが融合ベクターに適用されたのはこれが初めてである。このアプローチは、コード配列を標的とするように設計されたすべてのRNA干渉エフェクターのインビトロ試験に有用となり得る。
【0143】
例12-オフターゲット相同配列のBLAST検索
ミルトロンを網膜色素変性患者の処置に使用する場合、形質導入された桿体内のオフターゲット効果が最小限であることが重要である。M5HおよびM5Mについて上に提示されたデータは、ミルトロンの標的配列の小さな違いが十分に許容されない可能性があることを示唆している。
【0144】
これをさらに調査するために、3つの最も有効なミルトロン(2、3、5)の21bp標的配列を、マウスおよびヒトトランスクリプトーム内の相同性についてBLAST検索(www.endembl.org)に供した。10未満のE値(入力配列と対象配列との間の整列が偶然によるものである計算された確率)とのすべての一致を検討した(表2)。最長一致は、GPT2 CDS内の18bp相補配列(1つの内部ミスマッチを有する)であった(E値=5.5)。ヒトトランスクリプトーム内のいくつかの14bpの整列もまた、M3ガイド配列とSEC14L2遺伝子の3’-UTRとの間の一致を含むミルトロン3および5Hについて同定された(E値=5.5)。SEC14L2のナンセンス変異は、稀な形態の劣性網膜色素変性、RP41/シュタルガルト病4型に関連しているため、この潜在的な標的を(GTP2と共に)さらに調査した。これらの予測配列がM3の真のオフターゲットである程度を定量するために、それぞれの標的配列を(上流および下流の隣接DNAの25bpと共に)PsiCHECK2ベクターの多重クローニング部位にライゲーションした。ミルトロン3に対して行ったその後のDual Gloアッセイは、GPT2およびSEC14L2のmRNAレベルがミルトロンの影響を受けないことを示唆していた(
図17)。
【0145】
【0146】
例13-レポーター遺伝子の5’UTRにおけるミルトロンおよびESEの挿入
ミルトロン2、3および5を、CAG.GFP.WPREプラスミドの5’-UTRにクローニングした。本発明者らは、以下のように、ミルトロンのすぐ上流および下流にエキソンスプライスエンハンサー(ESE)モチーフを含む追加の配列も含めることによって、ミルトロンの効率的なスプライシングを促進しようとした。
【0147】
ESEは、RESCUE-ESE(http://genes.mit.edu/burgelab/rescue-ese/)を使用して、eGFP CDSのミルトロン挿入部位(BstB1制限部位の1ヌクレオチド下流)の配列5’(配列番号37)および3’(配列番号38)で同定された(
図18)。これらの配列は、上記のように、ミルトロンスプライシングの精度および効率を決定するために使用されるレポータープラスミドのミルトロンに隣接する配列に有利に対応する。これは、ミルトロンおよび追加のESEの両方を5’UTRに導入するプロセスを単純化し、レポーターコンストラクト(例5に記載のプラスミド)において既に達成されたスプライシング精度および効率を維持するのに役立つ。オンラインソフトウェア(Spliceport、http://spliceport.cbcb.umd.edu)を使用してコンピュータスプライス分析を実施し、ミルトロン挿入部位の周りの最適な5’および3’隣接部長さを特定した(表3)。次の5’または3’ATGモチーフ(そうでなければ潜在的な翻訳開始部位として作用し得る)まで(ただしそれらを除く)の最も長い5’および3’隣接配列を、新たなコンストラクト内のイントロンに隣接するように選択した。全配列(5’隣接-ミルトロン-3’隣接)をレポーターコンストラクトから増幅し、EcoRV平滑末端制限部位(GAT|ATC)で、導入遺伝子の5’-UTR内の制限部位にクローニングした。これは、コンストラクトが挿入されると、EcoRV制限部位が3’末端で再形成されるため、この目的にとって理想的である。これにより、複数の同様のコンストラクト(同じまたは異なるミルトロンを含む)をタンデムに連続して挿入することができる(以下の例15を参照されたい)。
【表3】
【0148】
「置換」導入遺伝子の5’UTRに「ノックダウン」ミルトロンを配置することには、いくつかの潜在的な利点がある。ミルトロンは導入遺伝子開始コドンの上流にあるため、導入遺伝子の発現は、ミルトロンがCDS内のイントロンとして位置する場合よりも妨害されにくい可能性がある。導入遺伝子CDSが中断されないため、突然変異タンパク質産生のリスクはない(代替開始コドンとして作用し得るATGモチーフが5’UTRに導入されないことを条件とする)。5’UTRにおけるミルトロンの位置はまた、ミルトロンが3’UTRに位置する場合に起こり得るトランスジェニック転写物のナンセンス媒介性分解を増加させないはずである。さらに、5’UTR内にミルトロンを配置することにより、導入遺伝子の発現を妨害することなく、ミルトロンからの効率的で正確なスプライシングを促進するために、ミルトロンに隣接して、ESEを含む追加の配列を挿入することが可能になる。
【0149】
例14-5’UTRのミルトロンはCDSのミルトロンよりも有効である
M2-UTR、M3-UTRおよびM5-UTRとして知られている新たなコンストラクトを、二重ルシフェラーゼアッセイを使用したロドプシンノックダウンのための、および上記の蛍光アッセイによる下流の遺伝子発現のためのミルトロンのないGFPプラスミドと比較した(
図19)。ミルトロンは、ヒトおよびマウスロドプシン標的の両方について、GFPコード配列内にネストされている場合よりも5’-UTRに位置する場合の方が有効であることが見出された(
図20)。トランスフェクト細胞由来のcDNAを鋳型として使用するPCRスプライス分析を上記のように行った。その後のゲルに対して行われたバンドデンシトメトリーにより、それらのCDSネスト型対応物のものと比較した場合、転写物のより大きな割合が5’UTRミルトロンに対して正しくスプライシングされたことが明らかになった(
図21)。最も低いバンドが実際に正しくスプライシングされたmRNAを表すことの確認は、抽出されたDNAのサンガー配列決定によって達成された(
図22)。
【0150】
例15-タンデムの2つのミルトロンは発現をより効率的にノックダウンする:3’UTRにおける標的配列
補充転写物の5’-UTRからスプライシングされたときにミルトロンが依然として有効であることが確立されたため、5’-UTR内のタンデムの複数のミルトロンの効果を調べた。以下のプラスミドをクローニングした:
1.M3/M3-UTR:CAG.GFP.WPREプラスミドの5’-UTRにクローニングされた、それぞれ上記の独自のESE隣接配列を有する直列のM3の2つのコピー。
2.M3/M5-UTR:CAG.GFP.WPREプラスミドの5’-UTRにクローニングされた、それぞれ上記の独自のESE隣接配列を有する直列のM3の1つのコピーおよびM5の1つのコピー。
【0151】
二重ルシフェラーゼアッセイを使用した単一5’-UTRミルトロンに対するヒトおよびマウスロドプシンのノックダウンの比較は、両方の場合においてタンデムコンストラクトの優れた有効性を示した(
図23)。PCRスプライス分析およびサンガー配列決定により、タンデムミルトロンが独立して正確にスプライシングされることが確認された(
図24および
図25)。
【0152】
例16-標的配列がCDSにある場合、タンデムの二つのミルトロンは有効のままである
試験された5’UTRミルトロンは、上記のRHO-ルシフェラーゼ融合タンパク質に対するものである場合、すべて有効のままであった(
図26)。興味深いことに、このアッセイでは、標準的な二重ルシフェラーゼアッセイを使用して測定した場合よりも、M2-UTRの効力は低く、M3/M3-UTRの効力は高かった。
【0153】
例17-タンデムの2つのミルトロンはレポーター遺伝子発現をわずかに低下させる
すべての5’UTRミルトロンに対して、下流の遺伝子発現に対するそれらの影響を解明するために蛍光アッセイを実施した。
図27は、これらのプラスミドでトランスフェクトされたHEK293細胞の代表的な画像を、これらの細胞からのタンパク質溶解物に対して行われた定量的蛍光アッセイの結果と共に示す。要約すると、単一の5’UTRミルトロンは最終的なタンパク質レベルに悪影響を及ぼさなかったが、タンデムミルトロンは、レポーター遺伝子発現のわずかであるが有意な低減をもたらした(M3/M3およびM3/M5についてそれぞれ23%および24%の低減)。
【0154】
図28は、ヒトおよびマウスロドプシンの両方に対するM3-UTR、M5H-UTR、M5M-UTR、M3/M3-UTR、M3/M5H-UTRおよびM3/M5Mのノックダウン効果を示す。M3単独は両方の種において有効であるが、ノックダウン効果はマウス転写物に対して有意により大きい。このため、M3とM5Hとの組み合わせが両方の種において同様のレベルの効率的なノックダウン(>75%)を達成したため、この組み合わせをブロックおよび置換ベクターのために選択した(赤色矢印)。
【0155】
例18-「置換」ロドプシンの遺伝子設計
効果的な「ブロックおよび置換」ベクターのために、AAVコンストラクトに含まれるヒトロドプシンのCDSは、共発現ミルトロンに対して耐性でなければならない。これを達成するために、ミルトロン3および5の標的部位を構成するコドンを、可能な場合は同じアミノ酸をコードする代替配列に変更した(「稀少」コドンを回避した)。得られるmRNA配列は、これらのミルトロンに相補的ではなく、分解を受けないはずであるが、それにもかかわらず正常なヒトロドプシンタンパク質の翻訳をもたらすはずである。
【0156】
これを試験するために、M3(RHO
M3R)、M5(RHO
M5R)および両方(RHO
M3/5R)に耐性のヒトロドプシンのコドン改変バージョンを、psiCHECK2ベクターの多重クローニング部位に個別にクローニングした。次いで、対応するミルトロンによる分解に対するこれらの転写物の耐性を、Dual Gloアッセイによって確立した(
図29)。各ガイド鎖によって補完されるRHO(配列番号1)の標的配列および「置換」ロドプシン遺伝子における対応する配列は以下の通りである
RHO内のM3標的部位(ヌクレオチド153~173):CTTCCCCATCAACTTCCTCAC(配列番号5)
RHO
M3/5R内のM3標的部位(ヌクレオチド153~173):ATTTCCAATTAATTTTCTGAC(配列番号24)
RHO内のM5標的部位(ヌクレオチド598~618):ATCTACATGTTCGTGGTCCAC(配列番号7)
RHO
M3/5RのM5標的部位(ヌクレオチド598~618):AATGAATCCTTCGTGATTTAT(配列番号25)
【0157】
例20-RHO
M3/5R CDRはHEK293細胞において正常に発現する
RHO
M3/5R CDSが正常なロドプシンタンパク質を発現することを確認するために、3’WPRE(CAG.RHO
M3/5R.WPRE)を用いてCAGプロモーターの制御下でプラスミドに配列をクローニングした。次いで、このプラスミドを使用してHEK293細胞をトランスフェクトし、その後、3つの異なる抗体を使用する免疫細胞化学によってロドプシンについて染色した。CAG.RHO.WPREプラスミドでトランスフェクトした細胞と比較して、これらの細胞では染色の差は観察されず、両方のバージョンが原形質膜に輸送された(
図30)。
【0158】
例21-RHO
M3/5R CDSはインビボで正常に発現および機能する
インビボでのRHO
M3/5Rの適切な発現および機能を試験するために、総体積1.5μl中2×10
9gcのベクターを10Nrl.GFP/Rho
-/-マウスの右眼の網膜下に注射した。4週間後、暗順応網膜電図検査(ERG)を行い、その後、動物を屠殺し、眼の凍結切片を免疫組織化学(IHC)によってロドプシンについて染色した。注入された右眼および注入されていない左眼について暗順応強度応答曲線(IRC)を構築し、網膜電図の桿体由来の応答のレスキューを確認した(
図31)。網膜切片のIHCにより、注射されていない眼には存在しなかった外側セグメントの存在が明らかとなった。これらにロドプシンを充填した。異所性ロドプシン発現(すなわち外側セグメントの外側)はいずれの場合も特定されなかった(
図32)。したがって、ミルトロン3および5の両方に耐性であるmRNA転写物から翻訳されたロドプシンタンパク質は、桿体の外側セグメントに移動し、暗順応光応答を駆動することができる。
【0159】
例22-ベクター「AAV-M3/5.RHO」の設計および製造
AAV2/8Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5.RHOM3/5R.WPRE(以降でAAV-M3/5.RHOと呼ばれる)(配列番号31)を、上に概説したエレメントからクローニングした導入遺伝子プラスミドを使用して製造したが、これは以下を含む:
-AAVゲノム:AAVゲノムは、AAV血清型2に由来する逆方向末端反復(ITR)配列に隣接している。
-カプシド:使用されるカプシドは、この処置の標的細胞型である光受容体の素因を有するAAV血清型8に由来する。使用される特定の変異体は、ウイルス形質導入後に遺伝子発現を増加させることが示されているY733F変異体である4、5。
-RHOp:AAVゲノムは、ヒトロドプシンプロモーターを使用する。これにより、ウイルス送達された遺伝子産物が、桿体光受容体細胞においてのみ発現されることが保証される。
-Ex/Int:ウサギベータ-グロビン遺伝子からのスプライスアクセプターと共にニワトリベータ-アクチン遺伝子の第1のエクソンおよびイントロンは、RHOプロモーターの3’に含まれる。上記のように実験的に、これはプロモーター細胞特異性を維持しながら下流の導入遺伝子発現を改善することが示された。
-M3/M5:ヒトロドプシンmRNA転写物の異なる領域を標的とするように設計された2つの3’テールのミルトロン(「ミルトロン3」および「ミルトロン5」);
-2つのミルトロンに隣接し、それらの間にある増強された緑色蛍光タンパク質(eGFP)遺伝子に由来するエキソンスプライスエンハンサー(ESE)を含むDNA配列。
-コザックコンセンサス配列。
-RHOM3/5R:ヒトロドプシンコード配列(CDS)。上記のように、転写産物がミルトロン媒介性ノックダウンに耐性であるが、それでもなお同じ機能性タンパク質をコードするように、代替コドンを使用して、ミルトロン3および5の21塩基対の標的領域を改変した。
-WPRE:RHO終止コドンの下流にウッドチャック肝炎転写後調節エレメント(WPRE)が含まれる。この配列は、マウスおよびヒトにおける網膜遺伝子治療後の導入遺伝子発現を改善することが示されている。
-ウシ成長ホルモンポリAシグナル。
【0160】
【0161】
例23-インビボ実験設計
ロドプシン突然変異によって引き起こされるRPの処置としてのAAV-M3/5.RHOの有効性を評価するために、ベクターをP23Hマウスで試験した。ベクターを、1.5μl中2×108gcの「低用量」(n=17)または2×109gcの「高用量」で3週齢マウスの右眼に網膜下送達した。左眼には注射せず、内部対照として機能させた。2つのさらなる群のマウスに、AAV-M3/5.RHOと同一であるが、ミルトロンおよび付随するESEに富む隣接配列がなく、RHOコドン修飾がないベクターAAV-Ex/Int(上記参照)を同様に注射した。
【0162】
P23Hマウスの別個の群(n=12)に対して、右眼に1.5μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の偽網膜下注射を行った。ここでも、左眼には注射しなかった。すべての場合において、注射は上方に送達された。
【0163】
いくつかのマウスの網膜を、RNA抽出、cDNA合成およびRT-qPCRのために注射から4週間後に抽出した(
図34~
図37)。注射したマウスの網膜溶解物に由来するミルトロン貫通プライマーおよび鋳型cDNAを使用したPCRスプライス分析は、インビボで非常に効率的なスプライシングを示した(
図34)。RT-qPCRでは、レスキュー/毒性効果を説明するために、各眼におけるマウスおよびヒトロドプシンをGFPレベル(P23Hマウスにおいて桿体でのみ発現される遺伝子)に対して正規化した。このデータは、ミルトロン3がインビボでマウスロドプシンのノックダウンを誘導することを実証している。ミルトロンを含まないAAV-Ex/Intの送達後、低用量または高用量ではmRhoの有意な減少は認められなかった。ミルトロン含有ベクターを高用量で送達した場合、総網膜mRho mRNAの34%ノックダウンが、偽注射した他眼と比較して明らかであった(P=0.0024、二元配置ANOVAシダックの多重比較検定)。低用量では有意なノックダウンは見られなかった(
図35)。低用量では、RHO補充は天然レベルに近似する。高用量では、4.6倍の増加が見られ(P=0.0011、二元配置ANOVAシダックの多重比較検定)、過剰発現の程度を示唆している(
図36)。ヒトRHO発現は、ミルトロン含有ベクターで処置した眼においてmRhoノックダウンと相関したが、ミルトロン3を含まないAAVでは相関しなかった(
図37)。合わせて、この遺伝子発現分析は、インビボでの人工ミルトロンの機能の最初の実証を表す。
【0164】
残りのマウスについては、網膜の解剖学的構造がこれまでに注射から1、2および3ヶ月後にSD-OCTによって評価されており、網膜機能が注射から1ヶ月後および3ヶ月後に網膜電図検査(ERG)によって評価されている。
【0165】
例23-OCTスキャン
1ヶ月目の処置されたP23Hマウスの低用量注射右眼および非注射左眼からの代表的なOCTスキャンを
図38に示す。処置された眼には、網膜変性の遅延を示唆するより厚いPRLが存在することに留意されたい(矢印参照)。
【0166】
図39は、AAV注射群および偽注射群の各マウスについて、注射された眼の光受容体層(PRL)の厚さを注射されていない対応物の厚さに対して正規化したものを示す。手術の結果として、偽注射動物ではPRL厚のわずかな低下(PRL比<1)を優位に理解することができる。AAV注射群では、この低下は存在せず、水平子午線(鼻側網膜および耳側網膜の両方についてp<0.0001、二元配置ANOVA、シダックの多重比較試験)に沿って網膜の厚さの増加(PRL比>1)が明らかであった。
【0167】
3ヶ月の時点までのさらなるOCT分析を、
図40~
図43に示す。
【0168】
例25-暗および明順応ERG分析
3ヶ月の時点までの暗および明順応網膜電図検査分析を、
図44~
図46に示す。
【0169】
例26-WPREを含まない新たなベクターの設計および製造
上記の例は、P23HマウスにおけるAAV-M3/5
Hの利益が低用量を使用して達成されるが、高用量ではある程度の毒性が明らかであったことを実証している。mRNA分析が非常に高いRHO発現レベル(
図36を参照されたい)、および光受容体に対して毒性であることが知られているこのタンパク質の過剰発現を示したことを考えると、これが原因である可能性が高い。この毒性はミルトロンのないベクターでも見られたため、ミルトロン発現が原因である可能性は低い。
【0170】
RHO発現をより生理学的なレベルまで低減するはずのWPREなしで、2つのベクターを製造した。2つのベクターの概略図を、
図47に示す。ベクターAAV2/8
Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5H.RHO
M3/5R(「AAV-M3/5H」)は、AAV2/8
Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5.RHO
M3/5R.WPRE(AAV-M3/5.RHO)と同じ2つのミルトロンを含むのに対して、AAV2/8
Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5M.RHO
M3/5R(「AAV-M3/5M」)は、ヒトRHOに対するミルトロン5をマウスRHOに対するミルトロン5に置き換えている。これにより、インビボで1つまたは2つの活性ミルトロンを有することの違いを評価することが可能になる。
【配列表フリーテキスト】
【0171】
配列表3 <223>ミルトロン1の標的配列
配列表4 <223>ミルトロン2の標的配列
配列表5 <223>ミルトロン3の標的配列
配列表6 <223>ミルトロン4の標的配列
配列表7 <223>ミルトロン5Hの標的配列
配列表8 <223>ミルトロン6の標的配列
配列表9 <223>ミルトロン7の標的配列
配列表10 <223>ミルトロン1
配列表11 <223>ミルトロン2
配列表12 <223>ミルトロン3
配列表13 <223>ミルトロン4
配列表14 <223>ミルトロン5H
配列表15 <223>ミルトロン6
配列表16 <223>ミルトロン7
配列表17 <223>ミルトロン1のガイド鎖配列
配列表18 <223>ミルトロン2のガイド鎖配列
配列表19 <223>ミルトロン3のガイド鎖配列
配列表20 <223>ミルトロン4のガイド鎖配列
配列表21 <223>ミルトロン5のガイド鎖配列
配列表22 <223>ミルトロン6のガイド鎖配列
配列表23 <223>ミルトロン7のガイド鎖配列
配列表24 <223>ミルトロン3の改変標的配列
配列表25 <223>ミルトロン5Hの改変標的配列
配列表26 <223>5’UTR挿入(eGFP-M3-eGFP-M5-eGFP)
配列表27 <223>ミルトロンおよび追加のESEリッチ配列を有する5’UTR
配列表28 <223>AAV配列
配列表30 <223>BstB1制限部位および隣接する下流側の「G」
配列表31 <223>遺伝子治療ベクター
配列表32 <223>フォワードITR
配列表33 <223>リバースITR
配列表34 <223>フォワードITRヒトロドプシンプロモーター
配列表36 <223>eGFPアミノ酸
配列表37 <223>5’ESEリッチ配列
配列表38 <223>3’ESEリッチ配列
配列表39 <223>ミルトロンおよび追加のESEリッチ配列を有さない5’UTR
配列表40 <223>タンデムミルトロン間のESEリッチ配列
配列表41 <223>ミルトロン1フォワードオリゴヌクレオチド
配列表42 <223>ミルトロン2フォワードオリゴヌクレオチド
配列表43 <223>ミルトロン3フォワードオリゴヌクレオチド
配列表44 <223>ミルトロン4フォワードオリゴヌクレオチド
配列表45 <223>ミルトロン5Hフォワードオリゴヌクレオチド
配列表46 <223>ミルトロン6フォワードオリゴヌクレオチド
配列表47 <223>ミルトロン7フォワードオリゴヌクレオチド
配列表48 <223>ミルトロン1リバースオリゴヌクレオチド
配列表49 <223>ミルトロン2リバースオリゴヌクレオチド
配列表50 <223>ミルトロン3リバースオリゴヌクレオチド
配列表51 <223>ミルトロン4リバースオリゴヌクレオチド
配列表52 <223>ミルトロン5Hリバースオリゴヌクレオチド
配列表53 <223>ミルトロン6リバースオリゴヌクレオチド
配列表54 <223>ミルトロン7リバースオリゴヌクレオチド
配列表55 <223>ミルトロン5M
配列表56 <223>ミルトロン5Mフォワードオリゴヌクレオチド
配列表57 <223>ミルトロン5Mリバースオリゴヌクレオチド
配列表58 <223>ミルトロンM2U-M2
配列表59 <223>ミルトロンM2U-M2フォワードオリゴヌクレオチド
配列表60 <223>ミルトロンM2U-M2リバースオリゴヌクレオチド
配列表61 <223>ミルトロンScr-M2
配列表62 <223>ミルトロンScr-M2フォワードオリゴヌクレオチド
配列表63 <223>ミルトロンScr-M2リバースオリゴヌクレオチド
配列表64 <223>ベクターAAV2/8Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5.RHOM3/5R
配列表65 <223>AAV2/8Y733F.RHOp.Ex/Int.M3/M5M.RHOM3/5R
【配列表】