(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】窒素回収方法および窒素回収装置
(51)【国際特許分類】
C12P 3/00 20060101AFI20240820BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240820BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240820BHJP
B01D 53/58 20060101ALI20240820BHJP
B01D 53/84 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C12P3/00 Z
C12M1/00 D
C12N1/00 S
B01D53/58
B01D53/84
(21)【出願番号】P 2021545610
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034429
(87)【国際公開番号】W WO2021049603
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019166997
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516381884
【氏名又は名称】株式会社JFR
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】藤野 陽
(72)【発明者】
【氏名】笹川 綿子
(72)【発明者】
【氏名】諸田 淳一
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-239466(JP,A)
【文献】特開2004-195440(JP,A)
【文献】特開2002-153721(JP,A)
【文献】特開2004-358370(JP,A)
【文献】特開2014-018779(JP,A)
【文献】硝化について,水質屋の水処理通信[online],2018年03月10日,URL: https://web.archive.org/web/20180310195801/https://mizusyoli.com/dattitu/entry43.html,[retrieved on 2024.03.04]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00
C01B21/40
B01D53/58
B01D53/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア含有ガス中のアンモニア成分を硝化菌で分解し、アンモニア含有の窒素成分をアンモニアガス分解生成物として回収する窒素回収方法であって、
硝化菌を担持した硝化菌担持体を保持してなる微生物分解槽に、循環水を供給して、前記硝化菌担持体を含水率5~90%の湿潤状態に保持し、
この含水率5~90%の湿潤状態とされた硝化菌担持体に、酸素存在雰囲気下でアンモニア含有ガスを通気し、
アンモニア含有ガス中のアンモニア成分および硝化菌により分解されたアンモニアガス分解生成物を、前記循環水中に溶解して、前記循環水中にアンモニアガス分解生成物を蓄積し、かつ前記循環水のpHを5.0~9.0の範囲内に維持しながら、アンモニア含有ガスの分解処理を継続し、
前記循環水中におけるアンモニア分解生成物としての硝酸イオン濃度が、前記アンモニア含有ガスの通気を開始した時点の濃度から5000mg/L以上増加し
て10000mg/L以上となったとき、前記循環水の一部または全部をアンモニアガス分解生成物として回収することを特徴とし、
前記硝化菌担持体に担持する前記硝化菌には、アンモニア酸化細菌群および亜硝酸酸化細菌群が含まれるものである、窒素回収方法。
【請求項2】
硝化菌担持体が、無機多孔質体及び/又は無機繊維質体である請求項1に記載の窒素回収方法。
【請求項3】
硝化菌担持体が、発泡ガラスである請求項1に記載の窒素回収方法。
【請求項4】
微生物分解槽に供給される循環水は、硝化菌担持体の充填体積1L当りの水量が、50~50000mL/時間である請求項1~3のいずれかに記載の窒素回収方法。
【請求項5】
前記循環水に対してエアレーションを行い、循環水1L当りのエアレーション量が0.5~10L/分である請求項1~4のいずれかに記載の窒素回収方法。
【請求項6】
循環水は温度を10~60℃の範囲内に維持するものである請求項1~5のいずれかに記載の窒素回収方法。
【請求項7】
前記循環水中におけるアンモニア分解生成物としての硝酸イオン濃度が、前記アンモニア含有ガスの通気を開始した時点の濃度から5000mg/L以上増加し
て10000mg/L以上となったとき、前記循環水の一部または全部をアンモニアガス分解生成物として回収した後、新たな循環水を系内に供給し、アンモニア含有ガスの分解処理を再開するものである請求項1~6のいずれかに記載の窒素回収方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の窒素回収方法を実施するのに用いる窒素回収装置であって、
(A) 硝化菌を担持し
、含水率5~90%の湿潤状態に保持してなる硝化菌担持体を有し、酸素存在雰囲気下で前記アンモニアガスを分解する微生物分解槽と、
(B) 前記微生物分解槽に前記アンモニア含有ガスを供給するアンモニア含有ガス供給手段と、
(C) 前記微生物分解槽に対して水を供給する給水手段と、
(D) 前記微生物分解槽において生成した前記アンモニアガス分解生成物を含む水を微生物分解槽より導出する排水ラインと、
(E) 前記排水ラインより排出された前記アンモニアガス分解生成物を含む水を一時的に
貯留する貯留槽と、
(I)前記貯留槽に貯留した前記水のpHを5.0~9.0の範囲内に調整するpH調整機構と、
(F) 前記貯留槽と前記微生物分解槽とを接続し、前記貯留槽より前記アンモニアガス分解生成物を含む水を前記微生物分解槽に送る再処理ラインと、
(G) 前記微生物分解槽、前記排水ライン、前記貯留槽、および前記再処理ラインの間で、前記アンモニアガス分解生成物を含む前記水を循環させる循環手段と、
(H) 前記貯留槽より、所定の硝酸イオン濃度となった前記アンモニアガス分解生成物を含む水の一部または全部を回収する回収手段と、を備え、
前記硝化菌担持体に担持する前記硝化菌
には、アンモニア酸化細菌群および亜硝酸酸化細菌群
が含まれるものである、窒素回収装置。
【請求項9】
硝化菌担持体が無機多孔質体及び/又は無機繊維質体である請求項8に記載の窒素回収装置。
【請求項10】
硝化菌担持体が発泡ガラスである請求項8に記載の窒素回収装置。
【請求項11】
前記微生物分解槽が、縦長形状を有し、下部側よりアンモニア含有ガスを供給し、上部側より水を供給する向流接触式のものとされている請求項8~10のいずれかに記載の窒素回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素回収方法、窒素回収装置、およびこれにより得られる製品に関する。詳しく述べると本発明は、畜産施設や堆肥舎、汚水処理場等で発生するアンモニアガスから、高効率で窒素を回収する窒素回収方法、窒素回収装置、およびこれにより得られる製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、家畜農場、堆肥化施設、し尿処理施設等では、アンモニアを主体成分とする悪臭が発生し、近隣からの悪臭に対する苦情の問題や、現場で働く勤務者の健康被害が度々起こっている。そのため、発生したアンモニアガスは脱臭装置によって処理することが求められており、薬剤脱臭、吸着剤を使った吸着脱臭、燃焼による脱臭や生物脱臭が行われている。しかし、一方で、使用した薬剤の処理や吸着剤の処分にコストがかかったり、また、脱臭後にNOx等の環境負荷の高いガスが排出されてしまうなどの根本的な解決策とならない場合がある。
【0003】
例えば、畜産施設、堆肥舎や、汚水処理場等から生じるアンモニア含有の悪臭の対策として、アンモニアを、亜硝酸、さらに硝酸へと酸化して分解する硝化菌を用いた生物脱臭が広く普及しているが、こうした脱臭装置の多くは、装置内に残存する亜硝酸・硝酸を窒素ガスへと分解する脱窒工程用の部位を備えるために大型化し、コスト高なものとなっている。また、アンモニアが無事に分解され、環境汚染を防止できたとしても、窒素の有効利用ができていない。
【0004】
畜産施設や堆肥舎、汚水処理場等から大量に発生する悪臭アンモニアガスを、硝化菌を用いて硝酸に分解する技術として、従来より下記のものが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1においては、アンモニアガスを硝化反応及び硫黄脱窒反応に供する、活性汚泥を接種した脱臭資材を充填した脱臭槽と、前記脱臭槽にチオ硫酸ナトリウムを含有する水を供給する給水槽と、を備える、脱臭及び脱窒処理装置が提案されている。特許文献1に示される技術においては、硫黄脱窒反応と硝化反応とを組み合わせて、アンモニア除去に加え、循環水中の無機態窒素の蓄積を抑制でき、長期間にわたりアンモニアガスの脱臭処理が行えることを示している。しかしながら、特許文献1においては、チオ硫酸と脱臭槽で生成した亜硝酸及び硝酸が反応し、チオ硫酸は酸化により硫酸が生成し、亜硝酸及び硝酸の無機態窒素を窒素ガスとして除去するものであり、アンモニア性窒素の回収ないし有効利用は図られていない。
【0006】
また、特許文献2においては、微生物の担体を充填した充填層に循環水を間欠的に散水し、微生物によるガス中アンモニアの硝化反応によって生成する硝酸基および亜硝酸基とガス中のアンモニア基との化学反応により生成して前記担体に蓄積した硝酸アンモニウムと亜硝酸アンモニウムを洗浄する充填式生物脱臭塔において、循環水に酸を添加して循環水のpH値を7.5以下に抑制するとともに、循環水中のアンモニア性窒素濃度を1000mg-N/L以下に制御することを特徴とする充填式生物脱臭塔が提案されている。特許文献2においては、循環水中のアンモニア性窒素濃度の高まりに伴って微生物によるアンモニアの硝化率が低下することを防止する上で、循環水中に硫酸を添加し循環水中のアンモニア性窒素濃度を抑制するものであって、特許文献1と同様にアンモニア性窒素の回収ないし有効利用は図られていない。
【0007】
特許文献3においては、アンモニアを亜硝酸化するためのアンモニア酸化細菌を担持した微生物担体が収容されている微生物担体収容槽にアンモニアガスを導入するとともに該微生物担体収容槽に散水を行って、前記アンモニアガスを散水した水に溶解させ、前記アンモニア酸化細菌によって水に溶解したアンモニアを亜硝酸態窒素に酸化し、散水した前記水を循環水として回収し、該循環水中のアンモニウムイオン濃度を500mg/L以上または/および亜硝酸性窒素濃度を650mg/L以上に調整して前記散水に供することを特徴とするアンモニア含有ガスの処理方法が提案されている。循環水中のアンモニウムイオン濃度または/および亜硝酸性窒素濃度を調整し、微生物担体収容槽をアンモニア酸化細菌に適していて、亜硝酸酸化細菌には不適な環境にして、アンモニア酸化細菌の活性を維持させながら亜硝酸酸化細菌の活性を阻害させ、アンモニアを安定的に亜硝酸態窒素に変換させるものとしている。この方法において得られた亜硝酸窒素は、その後、嫌気性アンモニア酸化細菌を用いた脱窒処理によって窒素ガスに分解処理したり、従属栄養細菌の脱窒菌と電子供与体としての有機物を利用して脱窒素したり、スルファミン酸を利用して、硝酸性窒素を除去したりするものとされており、特許文献3に記載の方法でも、特許文献1および2と同様にアンモニア性窒素の回収ないし有効利用は図られていない。
【0008】
特許文献4においては、食品廃棄物を嫌気分解させて発生させたアンモニアを、栽培養液に吸収させる吸収槽、アンモニアを吸収した栽培養液を水耕栽培の栽培養液槽に循環させる循環装置、および栽培養液槽を有する水耕栽培設備を配設したことを特徴とする水耕栽培装置が提案されており、栽培養液中に蓄積したアンモニアは多孔質担体に付着させた硝酸菌により硝酸へ変換することも示されている。しかしながら、特許文献4に示される水耕栽培装置では、食品廃棄物を嫌気分解させて発生させたアンモニアを直接的に栽培養液に吸収させて液肥として使用するものであって、アンモニア性窒素を肥料として利用するものとはいえ、低濃度の利用であって、効率的な有効利用とは言えないものであった。
【0009】
特許文献5においては、硝化菌担持体に相当する硝化菌等を含む土壌中にアンモニアガスを導入し、硝化菌によるアンモニアガスの分解生成物(硝酸塩等)を土壌中に固定させることが提案されている。しかし、特許文献5に示される方法では、土壌中に硝化菌を存在させ、これによりアンモニアが酸化分解されて亜硝酸または硝酸となり土壌中に吸着させる。このようにして得られた窒素を無機態として固定したアンモニア処理用土壌を植物栽培用土壌として用いることも開示されているが、前記したように、アンモニアを分解する硝化菌は土壌中に存在している。このため栽培用土壌として利用する上では、硝化菌もその度ごとに製造システムより除去され消費されてしまい、効率的なものとは言えないものであった。
【0010】
さらに、特許文献6においては、曝気手段を備え、少なくともアンモニア性窒素を含有する被処理液がアンモニア酸化細菌の存在下で曝気処理される部分亜硝酸化処理槽と、前記部分亜硝酸化処理槽で処理された被処理液を、嫌気性アンモニア酸化細菌の存在下で処理し、前記アンモニア性窒素と前記亜硝酸性窒素とを反応させて窒素ガスに転換する脱窒処理槽と、前記脱窒処理槽に導入される被処理液に、前記被処理液の亜硝酸性窒素濃度に応じて無機炭素成分を注入する無機炭素成分調整槽と、前記脱窒処理槽に導入される被処理液に、リンを含有するpH調整剤を注入するpH調整槽と、を備えたアンモニア性窒素含有液の処理方法において、前記脱窒工程に供される被処理液の亜硝酸性窒素濃度に応じて前記被処理液に無機炭素成分が注入され、前記脱窒工程に供される被処理液は、リンを含有するpH調整剤でpH調整されるアンモニア性窒素含有液の処理方法が提案されている。特許文献6に示される技術は、アンモニア性窒素を含有する被処理液を生分解反応させて得られる、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを効率よく反応させて、窒素ガスとする技術であって、回収ないし有効利用は図られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2018-130705号公報
【文献】特開平7-024247号公報
【文献】特開2005-161258号公報
【文献】特開2011-240254号公報
【文献】特開2000-000600号公報
【文献】特許第5742195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように従来、アンモニアガスを分解して脱臭する、あるいは窒素として無害化する方法はいくつか提案されているものの、アンモニアを分解して得られるアンモニア分解成分を高濃度にて回収し、効率よく有効利用する方法は確立されていなかった。
【0013】
従って、本発明は前記したような課題を解決する、新規な窒素回収方法、窒素回収装置、およびこれにより得られる液肥等の製品を提供することを課題とする。本発明はまた、畜産施設や堆肥舎、汚水処理場等で発生するアンモニアガスから、高効率で窒素成分を回収する窒素回収方法、窒素回収装置およびこれにより得られる液肥等の製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討、研究を行った結果、アンモニアガスを硝化菌で分解してアンモニアガスの窒素成分を回収する工程において、所定の条件を満たすことによって、アンモニアガスの硝化菌による分解を継続的に進行させつつ、系内を循環させる循環水中に窒素成分を硝酸として高濃度に蓄積でき、アンモニアガスより高効率で窒素成分を回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、前記課題を解決する本発明は、アンモニア含有ガス中のアンモニア成分を硝化菌で分解し、アンモニア含有の窒素成分をアンモニアガス分解生成物として回収する窒素回収方法であって、硝化菌を担持した硝化菌担持体を保持してなる微生物分解槽に循環水を供給して、前記硝化菌担持体を湿潤状態に保持し、この湿潤状態とされた硝化菌担持体に、酸素存在雰囲気下でアンモニア含有ガスを通気し、アンモニア含有ガス中のアンモニア成分および硝化菌により分解されたアンモニアガス分解生成物を、前記循環水中に溶解して、前記循環水中にアンモニアガス分解生成物を蓄積しながら、アンモニア含有ガスの分解処理を継続し、前記循環水中におけるアンモニア分解生成物としての硝酸イオン濃度が5000mg/L以上にまで高められて所定濃度に達したとき、前記循環水の一部または全部をアンモニアガス分解生成物として回収することを特徴とする窒素回収方法である。
【0016】
本発明の窒素回収方法の一実施形態においては、硝化菌担持体が無機多孔質体及び/又は無機繊維質体、例えば発泡ガラスであるものが示される。ただし、有機物であっても、腐敗によって臭気を発生しないプラスチックやゴム、樹脂等の有機物の多孔質体や繊維体であれば用いることができる。
【0017】
本発明の窒素回収方法の別の実施形態においては、微生物分解槽における硝化菌担持体の含水率を、5~90%とすることが示される。
【0018】
本発明の窒素回収方法のまた別の一実施形態においては、微生物分解槽に供給される循環水は、硝化菌担持体の充填体積1L当りの水量が、50~50000mL/時間であることが示される。ここで「硝化菌担持体の充填体積1L」とは、容積1Lの容器に摺切り迄硝化菌担持体を充填した時の硝化菌担持体の量を、体積として表わしたものである。
【0019】
本発明の窒素回収方法のさらに別の一実施形態においては、循環水に対してエアレーションを行い、循環水1L当りのエアレーション量を0.5~10L/分とすることが示される。
【0020】
本発明の窒素回収方法のさらに別の一実施形態においては、循環水はpHを5.0~9.0の範囲内、温度を10~60℃の範囲内に維持することが示される。
【0021】
本発明の窒素回収方法の一実施形態においては、硝化菌担持体に担持する硝化菌には、アンモニア酸化細菌群(AOB)および亜硝酸酸化細菌群(NOB)が含まれるものであることが示される。
【0022】
本発明の窒素回収方法の一実施形態においては、前記循環水中におけるアンモニア分解生成物としての硝酸イオン濃度が5000mg/L以上にまで高められて所定濃度に達したとき、前記循環水の一部または全部をアンモニアガス分解生成物として回収した後、新たな循環水を系内に供給し、アンモニア含有ガスの分解処理を再開するものであることが示される。
【0023】
本発明の窒素回収方法の一実施形態においては、上記の窒素回収方法において、前記循環水中における硝酸イオン濃度が、前記アンモニア含有ガスの通気を開始した時点の濃度から5000mg/L以上増加したとき、前記循環水の一部または全部をアンモニアガス分解生成物として回収する窒素回収方法が示される。
【0024】
本発明の窒素回収方法の一実施形態においては、前記アンモニア含有ガスは糞尿処理ないし汚水処理施設に由来のものであることが示される。
【0025】
前記課題を解決する本発明は、また、アンモニア含有ガス中のアンモニア成分を硝化菌で分解し、アンモニア含有の窒素成分をアンモニアガス分解生成物として回収する窒素回収装置であって、
(A) 硝化菌を担持した硝化菌担持体を有し、酸素存在雰囲気下で前記アンモニア含有ガスを分解する微生物分解槽と、
(B) 前記微生物分解槽に前記アンモニア含有ガスを供給するアンモニア含有ガス供給手段と、
(C) 前記微生物分解槽に対して水を供給する給水手段と、
(D) 前記微生物分解槽において生成した前記アンモニアガス分解生成物を含む水を微生物分解槽より導出する排水ラインと、
(E) 前記排水ラインより排出された前記アンモニアガス分解生成物を含む水を一時的に貯留する貯留槽と、
(F) 前記貯留槽と前記微生物分解槽とを接続し、前記貯留槽より前記アンモニアガス分解生成物を含む水を前記微生物分解槽に送る再処理ラインと、
(G) 前記微生物分解槽、前記排水ライン、前記貯留槽、および前記再処理ラインの間で、前記アンモニアガス分解生成物を含む前記水を循環させる循環手段と、
(H) 前記貯留槽より、所定の硝酸イオン濃度となった前記アンモニアガス分解生成物を含む水(循環水)の一部または全部を回収する回収手段と、を備える窒素回収装置により達成される。
【0026】
本発明の窒素回収装置の一実施形態においては、硝化菌担持体が無機多孔質体及び/又は無機繊維質体、例えば発泡ガラスであるものが示される。ただし、有機物であっても、腐敗によって臭気を発生しないプラスチックやゴム、樹脂等の有機物の多孔質体や繊維体であれば用いることができる。
【0027】
本発明の窒素回収装置の一実施形態においては、前記微生物分解槽が、縦長形状を有し、下部側よりアンモニア含有ガスを供給し、上部側より水を供給する向流接触式のものが示される。
【0028】
本発明の窒素回収装置の一実施形態においては、硝化菌が、アンモニア酸化細菌群(AOB)および亜硝酸酸化細菌群(NOB)を含むものであるものが示される。
【0029】
前記課題を解決する本発明は、また、前記窒素回収方法で回収されたアンモニアガス分解生成物を含む水を用いてなる液肥や、そこから窒素成分を抽出して製造された固形肥料等の製品(例えば、循環水中の硝酸を結晶化して回収)によっても達成される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、畜産施設や堆肥舎、汚水処理場等で発生するアンモニアガスから、高効率で窒素成分を回収することができ、かつ回収した窒素は、硝酸イオンとして高濃度に水中に保持されるものであることから、そのまま肥料として有効利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の窒素回収装置の一実施態様の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0033】
<窒素回収装置>
図1は、本発明の窒素回収装置の一実施態様の構成を模式的に示す図である。
図1に示す本発明の一実施形態に係る窒素回収装置においては、アンモニアガス源槽10、およびアンモニアガス源槽10において発生したアンモニア含有ガスを分解するための反応場である微生物分解槽20を備えている。また微生物分解槽20の上部側から水を供給する給水ライン30と、微生物分解槽20の内部を通過した水を微生物分解槽20の底部側より導出する排水ライン40と、前記排水ライン40より排出された水を一時的に貯留する貯留槽50と、この貯留槽50と前記微生物分解槽20の上部側とを接続し、前記貯留槽50に貯留された水を再び前記微生物分解槽に送る再処理ライン70を有している。そして前記微生物分解槽20、前記排水ライン40、前記貯留槽50、および前記再処理ライン70の間で、前記水を循環させるための循環手段として循環ポンプ(例えば、揚水ポンプ)60を貯留槽50内に配している。また、貯留槽50には、貯留槽50内の水が所定の硝酸イオン濃度となった場合に、貯留槽50より水を回収する回収手段として、開閉可能なバルブを有する硝酸水溶液回収ライン80が設けられている。さらに貯留槽50内には、貯留槽内の水のpHを測定するためのpHセンサ91が配置され、槽外のpHコントローラー90に電気的に接続されている。pHコントローラー90は、切替スイッチ(図示せず)によってアルカリ液槽101および酸液槽102のいずれの吐出ポンプ(図示せず)の作動を制御することができ、pHセンサ91において測定されたpH値が、所定のpH値よりも外れた場合に、アルカリ液槽101または酸液槽102よりpH調整剤供給ライン100を通して、貯留槽50にアルカリ液または酸液を送り込み、水のpHを前記所定のpH値に自動的に調整する構成とされている。以下、各構成要素につきさらに詳細に説明する。
【0034】
(アンモニア含有ガス供給手段)
前記アンモニアガス源槽10は、本発明に係る窒素回収装置において必須の構成ではなく、前記微生物分解槽20にアンモニア含有ガスを供給するアンモニア含有ガス供給手段の一部として、アンモニア含有ガスを発生するものであれば特に限定されるものではない。
【0035】
例えば、アンモニアガス源槽10は、家畜糞尿の堆肥化処理過程等の家畜排泄物処理過程において固液分離した汚水やさらにこれを有機分解して得られるようなアンモニア性窒素濃度の高い廃水に対して、アンモニアストリッピング法によってアンモニア含有ガスを発生させる構成のものとすることができる。また、廃液の種類は畜産廃液に限定する必要がなく、例えば、食品工場から排出される廃液中に含まれる、もしくは、処理過程で発生するアンモニウムイオンをアンモニアストリッピング法によって発生させる構成のものとすることができる。
【0036】
なお、本発明に係る窒素回収装置において、アンモニア含有ガス供給手段としては、前記したようなアンモニアガス源槽10を有する実施形態のみに何ら限定されない。例えば、アンモニア含有ガスとしては、一般に臭気を有し各種施設、例えば、前記したような家畜糞尿の堆肥化処理での臭気ガス、畜産業での臭気ガス、コンポスト化、廃水処理での臭気ガス、産業廃棄物処理過程での臭気ガスなどや、あるいは各種生産工程での排ガスなどが含まれ得、アンモニア含有ガス供給手段は、これらのアンモニア含有ガスをその発生源から直接、あるいは一旦捕捉回収したものから間接的に供給するものとしても良い。
【0037】
また、これらのアンモニア含有ガスには、アンモニアの他、硫化水素、メルカプタン類、アミン類、アルデヒド類、脂肪酸類、芳香族類などが含まれていても良い。特に限定されるものではないが、本発明においてアンモニア含有ガス供給手段より供給されるアンモニア含有ガス中のアンモニア総量の上限としては、例えば、硝化菌担持体充填体積1Lに対して1日当たり2000mg以下、1800mg以下、1600mg以下、1400mg以下、1200mg以下、1000mg以下、800mg以下、700mg以下、600mg以下、500mg以下程度のものとされる。また、下限は特に限定されないが、アンモニアガスの供給が長期間完全に止まってしまうと硝化菌の活性が低下する虞れがあることから、10mg以上が好ましく、50mg以上がより好ましく、100mg以上がさらに好ましい。ただし、アンモニアガスの供給は、数日間から2週間程度の期間にわたって一時的に止めたとしても、それから再開すれば大きな問題とはならない。また、循環水中にアンモニウムイオンが残っている場合にも、アンモニアガスの供給が止まることは問題にならない。
【0038】
図1に示す本発明の一実施形態に係る窒素回収装置においては、アンモニアガス源槽10より送出されるアンモニア含有ガスは、アンモニアガス源槽10から微生物分解槽20の下端近傍部に至るアンモニア含有ガス供給ライン11を介して、吸気ポンプ12によって、微生物分解槽20へと送られる。
【0039】
(微生物分解槽)
アンモニア含有ガスを分解するための反応場である微生物分解槽20には、十分な水分及び硝化菌を保持できるとともに、十分なガス接触効率が得られるように硝化菌担持体21が充填されており、この硝化菌担持体21には硝化菌が担持されている。
【0040】
なお、
図1に示す本発明の一実施形態に係る窒素回収装置においては、この微生物分解槽20の底部近傍には通気性(かつ通液性)の担持体把持プレート(図示せず)が微生物分解槽20の底部開口部断面を遮るように配してあり、その担持体把持プレート上に硝化菌担持体21を堆積させることにより、微生物分解槽20中に硝化菌担持体21を充填することができる構成とされている。
【0041】
また、
図1に示す本発明の一実施形態に係る窒素回収装置においては、この微生物分解槽20の上部は少なくともその一部は開口されたものとされている。そして、この微生物分解槽20の上部側からは、後から詳述するように、酸素存在雰囲気下である大気中で水(循環水)が散水器31より微生物分解槽20内に給水される構成とされている。なお、本発明の窒素回収方法及び装置においては、通常は大気中などの酸素存在雰囲気下で微生物分解が行われる。そのため、酸素供給工程や酸素共有装置等を別途設ける必要はないが、所望により、そうした工程・装置を含めることも可能である。
【0042】
従って、微生物分解槽20の底部開口部側からは、前記したようにアンモニア含有ガス供給ライン11から供給されるアンモニア含有ガスが、微生物分解槽20内部に流入し、微生物分解槽20内を上方に向かって通過しながら、給水された水を保水した状態にある前記硝化菌担持体21と接触し、アンモニア含有ガス中のアンモニア成分は、硝化菌担持体21が保持する水に溶け込み、その後、脱アンモニア化されたガスは、微生物分解槽20の上部開口より系外に排出される。
【0043】
一方、硝化菌担持体21が保持する水に溶け込んだアンモニアは、後から詳述するように、硝化菌担持体21上の2種以上の硝化菌によって分解され、分解によって生じたアンモニアガス分解生成物は後続して微生物分解槽20内に給水される水(循環水)が洗い流し、アンモニアガス分解生成物を含有する水(循環水)は、微生物分解槽20の底部開口部より導出され、排水ライン40を介して、循環水貯留槽50へと送られる。
【0044】
特に限定されるわけではないが、微生物分解槽20は、アンモニア含有ガスとその内部に配された硝化菌担持体21との均一かつ効率良い接触を行う上で、縦長形状、より具体的には、垂直上下方向の寸法が水平方向の寸法よりも大きい形状を有し、下部側よりアンモニア含有ガスを供給し、上部側より水を供給する向流接触式のものとされていることが望ましい。
【0045】
(硝化菌担持体)
微生物分解槽20に充填される硝化菌担持体21としては、その硝化菌担持体が保持できる水(吸水量)が多いほど、吸収できるアンモニアガスの量が増える一方で、水が多すぎると硝化反応に必要な酸素の供給が不十分となり、硝化反応速度が低下する要因となる。また、酸素供給が不十分な嫌気条件下では硝酸が窒素ガスに変化する脱窒反応が起こる。その結果、硝酸の回収率が下がるため、硝化菌担持体は適度な水分バランスを保持できる材質が好ましい。また、例えばもみがらや、ウッドチップなどの有機材料は、その腐敗によって発生する有機分が脱窒を促すため、少なくとも長期間安定した特性を得る上ではあまり望ましくない。従って、適度な水分保持力と通気性を保てる無機材料が好ましく、具体的には無機多孔質体及び/又は無機繊維質体、例えば、発泡ガラス、ロックウール、ガラスウール、パーライト、軽石、大谷石等が挙げられる。ただし、有機物であっても、腐敗によって臭気を発生しないプラスチックやゴム、樹脂等の有機物の多孔質体や繊維体であれば用いることができる。このうち特に好ましくは、発泡ガラスである。
【0046】
本明細書において「発泡ガラス」とは、ガラスに発泡材を含有させ、加熱により発泡させた多孔状のバルクガラスを指す。発泡ガラスの材質は特に限定されず、ソーダ石灰ガラス、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス等、あるいは、例えば、廃ガラスを原料としたこれらの混合ガラス等が含まれ得る。このうち、好ましくは、ソーダ石灰ガラスからなる発泡ガラスが好ましい。
【0047】
発泡ガラスの細孔容積は、適度の水分保持力と通気性を保つ上で0.6cm3/g以上が好ましく、0.8cm3/g以上がより好ましく、1.0cm3/g以上がさらに好ましく、1.2cm3/g以上がより一層好ましく、1.4cm3/g以上が特に好ましく、1.6cm3/g以上が最も好ましい。他方、細孔容積が大きすぎることは、発泡ガラスが有する空隙の割合が大きくなり、耐久性の低下の虞れがあることから、上限は、例えば、4.0cm3/g以下(3.5cm3/g以下、3.0cm3/g以下、2.5cm3/g以下)としてもよい。ここで細孔容積は水銀圧入法にて測定する。
【0048】
発泡ガラスの比表面積は、大きければ大きいほど担持できる硝化菌が多くなるので、比表面積は3.0m2/g以上であることが望ましく、4.0m2/g以上がより好ましく、5.0m2/g以上がさらに望ましく、10m2/g以上がより一層好ましく、20m2/g以上が特に好ましく、40m2/g以上が最も好ましい。他方、上限に特に制限はないが、150m2/g以下(100m2/g以下、80m2/g以下、60m2/g以下)としてもよい。ここで比表面積は水銀圧入法にて測定する。
【0049】
発泡ガラス含水率は、アンモニア成分を吸収できる水量を微生物分解槽に保つために、充填体積1L当たりの含水量は5%以上が好ましく、7%以上、特に10%以上が望ましく、20%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましく、30%以上が特に好ましい。所望により、40%以上、例えば50%以上、あるいは60%以上としてもよい。他方、硝化に必要な酸素を十分に供給するために、上限は、90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下とすることができる。ここで、硝化菌担持体の含水率u(%)は、以下の方法で測定される。
【0050】
まず、100mL容器に摺り切りで硝化菌担持体(例えば発泡ガラス)を計りとり、計りとった硝化菌担持体を、完全に浸漬できる量(例えば1L)の水に一晩以上浸漬して、硝化菌担持体に水を十分に吸収させる。そして、硝化菌担持体の吸水前の乾燥重量(g)をW1、硝化菌担持体の吸水後の重量(g)をW2とするとき、(W2-W1)は、硝化菌担持体が吸収した水の重量(g)であって、水1gを1mLと換算すると、含水率u(体積%)は、以下の式で算出される。
u(%)={硝化菌担持体が吸収した水の体積(mL)/硝化菌担持体を計りとった容器の体積(mL)}×100
={(W2-W1)/100}×100
例えば、硝化菌担持体の吸水前の乾燥重量W1が10g、硝化菌担持体の吸水後の重量W2が25gである場合、硝化菌担持体が吸収した水の重量は(25-10=)15gであり、体積に換算すると15mLなので、含水率u(%)は、(15/100)×100であるので15%となる。
【0051】
上記のように硝化菌担持体としては、発泡ガラス等の多孔質体やロックウール等の繊維質体が好ましいが、その形状やサイズに特に制限はない。例えば略球状、略紡錘形、もしくは略立方体形状の多孔質体、又はランダムな形状、すなわち均一でない不定形な多孔質体を用いても良く、また、繊維径が0.1μm~10μm、特に3μm~8μmの繊維質体を使用することもできる。ここで、微生物分解槽20内に均一に充填するためには、多孔質体の形状は略球状や略紡錘形等、又はそれらに近い形状が好ましく、その粒径(短径)は好ましくは1mmを超え50mm以下、より好ましくは3mmを超え20mm以下、特に好ましくは3mmを超え10mm以下の範囲である。硝化菌担持体(例えば、発泡ガラス)の粒径が50mmよりも大きいと、微生物分解槽20内に均一に充填することが困難となる虞れがあり、また、粒子間隙間が大きくなるため、上方から供給した循環水が、硝化菌担持体の粒子間を簡単に通過しやすくなって、硝化菌担持体が担持する硝化菌との接触率(または接触時間)が低下する傾向がある。一方、硝化菌担持体の粒径が1mmよりも小さいと、微生物分解槽20内に充填した際に、微生物分解槽20内に充填した硝化菌担持体の粒子間隙間が不足し、十分な通気性と通液性を確保することが困難となる虞れがあり、また、充填された硝化菌担持体の層全体で均一にアンモニアガスの分解反応を生じさせることが困難となる虞れもある。加えて、粒径が1mmよりも小さい硝化菌担持体は、通液と共に微生物分解槽20外に流出し、装置の故障をもたらす虞れもある。
【0052】
ここで、多孔質体の粒径は、例えばレーザー回折法や位相ドップラー法等の公知の方法で計測することができる。しかしながら実用的な観点からは、多孔質体をJIS Z 8815-1994[ふるい分け試験方法通則]等に規定された篩分けによって分別して使用するのが好ましい。例えば、上記JIS法によって1mmを超え1.4mm以下、1.4mmを超え2mm以下、2mmを超え2.8mm以下、2.8mmを超え4mm以下、4mmを超え5.6mm以下、5.6mmを超え8mm以下、8mmを超え11.2mm以下、11.2mmを超え16mm以下、又は16mmを超え22.4mm以下等に分別されたものを、あるいは1mmを超え2mm以下又は3mmを超え20mm以下等の、所望の範囲に分別されたものを使用することができる。なお、本発明でいう「粒径がXmmを超えYmm以下」とは、具体的には、篩の目開きがYmmである篩を粒子硝化菌担持体(粒子)が通り抜けることができ、かつ、目開きがXmmである篩を通りぬけることができない粒子の粒径範囲を意味する。
【0053】
本明細書において「ロックウール」とは、例えば玄武岩等の天然岩石や高炉スラグを高温で溶融し、繊維化することにより生成された人造鉱物繊維を指す。
【0054】
また、硝化菌担持体21は、アンモニア含有ガスが担持体充填層内に均一にいきわたるように、硝化菌担持体21の充填体積1Lとしたときの充填高さが10cm以上が好ましく、20cm以上がより好ましく、30cm以上がさらに好ましく、40cm以上がより一層好ましく、50cm以上が特に好ましい。他方、充填高さは高ければ高いほどアンモニア含有ガスを硝化菌担持体21が充填された微生物分解槽20を通過させるために高圧で前記ガスを送ることが必要となるため、上限を200cm以下、好ましくは150cm以下、より好ましくは100cm以下となるように、微生物分解槽20内に充填されていることが、良好な反応効率を得る上で望ましい。ここで「硝化菌担持体の充填体積1L」とは、容積1Lの容器に摺切り迄硝化菌担持体を充填した時の硝化菌担持体の量を、体積として表わしたものである。
【0055】
(硝化菌)
そして硝化菌担持体21には硝化菌が担持されている。硝化菌としては、アンモニア含有ガスの分解処理時において、少なくともアンモニア酸化細菌群(AOB)および亜硝酸酸化細菌群(NOB)を含むものとされる。
【0056】
硝化菌担持体21に硝化菌を担持する上では、例えば、種菌として活性汚泥、例えば養豚廃水処理施設において活性汚泥法により処理された養豚廃水由来の活性汚泥等を用いることができる。活性汚泥としては、前記したようにAOBとNOBとを含むものである限り、特に限定されるわけではないが、例えば、前記種菌のメタゲノム解析をしたときに、種菌中のすべての微生物に対するAOBの存在割合(以下、単にAOB存在割合と記載することがある。)が0.5%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上、さらに好ましくは4.0%以上、特に好ましくは8.0%以上であれば、硝化菌叢を比較的早く立ち上げることができる。また、NOBの存在割合(以下、単に「NOB存在割合」と記載することがある。)が好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.4%以上、特に好ましくは1.0%以上であれば、硝化速度をより高いものとすることができる。AOB及びNOBの存在割合の上限にも特に制限はなく、両者が50%づつ存在していても良く、30%程度づつ存在していてもよい。両者の比率は、AOBの方が多くなることが好ましく、より好ましくはAOB:NOBの比率が2:1~30:1、特に3:1~20:1程度であることが、硝化促進の上で有利である。なお、ここでAOB及びNOBの存在割合を表す「%」は、「担持体に存在する全微生物数に対する相対%」である。また、硝化菌を担持するに先立ち、活性汚泥に前培養処理を施してもよい。特に、採取後の汚泥を冷蔵保存した場合などには、前培養によって菌の状態を回復させることができる。
【0057】
例えば、養豚廃水処理施設の活性汚泥を硝化菌培地(JuhlerS., Revsbech N.P., Schramm A., Herrmann M., Ottosen L.D.M. and Nielsen L.P. (2009) Distribution and rate of microbial processes in anammonia-loaded air filter biofilm. Appl. Environ. Microbiol. 75:3705-3713.あるいはKruemmeland Heinz (1982) Effect of organic matter on growth and cell yield of ammonia-oxidizing bacteria. Arch. Microbiol.133:50-54など)において15~40℃、特に20~35℃で、1日間~数週間好気的に培養し、得られた培養物を活性汚泥として使用することができる。
【0058】
活性汚泥添加量は、前記AOB存在割合によって変動するが、硝化菌担持体21の充填体積に対して、例えば、5体積%、10体積%、20体積%、30体積%、50体積%、70体積%、100体積%、150体積%、200体積%、300体積%、400体積%、500体積%というように5~500体積%の割合で接種する。なお、硝化菌担持体21に担持された硝化菌は、アンモニア含有ガスを通気しアンモニア分解反応をもたらすことによって、菌体の増減が生じるものであるため、当初の種菌としての接種量は、それ程重要なパラメーターとはならない。
【0059】
アンモニア酸化細菌群(AOB)としては、特に限定されるものではないが、例えば、ニトロソモナス(Nitrosomonadaceae)科ないしニトロソモナス(Nitrosomonas)属、ニトロソコッカス(Nitrosococcus)属、ニトロソスピラ(Nitrosospira)属、ニトロソロバス(Nitrosolobus)属、ブレビバチルス(Brevibacillus)属、及びザンソモナス(Xanthomonas)属に属する細菌が挙げられる。
【0060】
より具体的には例えば、ニトロソモナス(Nitrosomonas)属としては、ニトロソモナス・ユーロピア(Nitrosomonas europaea)、ニトロソモナス・マリナ(Nitorosomonasu marina)、ニトロソモナス・オリゴトロファ(Nitrosomonas oligotropha)、ニトロソモナス・コミュニス(Nitrosomonas communis)等;ニトロソコッカス(Nitrosococcus)属としては、ニトロソコッカス・モビリス(Nitrosococcus mobilis)等;ニトロソスピラ(Nitrosospira)属としては、ニトロソスピラ・マルチフォルミス(Nitrosospira multiformis)、ニトロソスピラ・テヌイス(Nitrosospira tenuis)等;ニトロソロバス(Nitrosolobus)属としてはニトロソロバス・マルティフォルミス(Nitrosolobus multiformis)等がそれぞれ非限定的に例示できる。
【0061】
亜硝酸酸化細菌群(NOB)としては、特に限定されるものではないが、例えば、ニトロコッカス(Nitrococaceae)科ないしニトロコッカス(Nitrococcus)属、ニトロバクター(Nitrobacter)属、及びニトロスピラ(Nitrospira)属に属する細菌が挙げられる。
【0062】
より具体的には例えば、ニトロコッカス(Nitrococcus)属としてはニトロコッカス・モビリス(Nitrococcus mobilis)等;ニトロバクター(Nitrobacter)属としては、ニトロバクター・ウィノグラドスキイ(Nitrobacter winogradskyi)、ニトロバクター・アルカリカス(Nitrobacter alkalicus)、ニトロバクター・ブルガリス(Nitrobacter vulgaris)、ニトロバクター・ハンブルゲンシス(Nitrobacter hamburgensis)等;ニトロスピラ(Nitrospira)属としては、ニトロスピラ・マリナ(Nitrospira marina)、ニトロスピラ・モスコビエンシス(Nitrospira moscoviensis)等がそれぞれ非限定的に例示できる。
【0063】
アンモニアガス源槽10において発生したアンモニア含有ガスが、微生物分解槽20内に流れて、酸素含有雰囲気下で、保水した状態にある前記硝化菌担持体21と接触すると、硝化菌担持体21においてアンモニア酸化細菌群(AOB)が増殖する。アンモニア酸化細菌群(AOB)によって、水中に溶け込んだアンモニウムイオン(NH4
+)が好気的条件下で以下に示す化学反応式(1)におけるように亜硝酸イオン(NO2
-)に酸化される。
NH4
++1.5O2 → NO2
-+2H++H2O (1)
【0064】
そして、水中の亜硝酸イオン(NO2
-)が増えてくると、亜硝酸酸化細菌群(NOB)が増殖し、酸素含有雰囲気下にある亜硝酸酸化細菌群(NOB)によって、亜硝酸イオン(NO2
-)が以下に示す化学反応式(2)におけるように硝酸イオン(NO3
-)に酸化される。
NO2
-+0.5O2 → NO3
-(2)
【0065】
上記化学反応式(1)と(2)とをまとめると
NH4
++2O2 → NO3
-+2H++H2Oとなる。
【0066】
なお、アンモニア酸化細菌群(AOB)と亜硝酸酸化細菌群(NOB)による前記したような硝化反応では、一般に、アンモニアの酸化による亜硝酸イオンの生成が反応速度を決める律速段階であり、亜硝酸イオンから硝酸イオンへの反応は迅速に進むと言われている。しかしながら、本発明に係る窒素回収装置および窒素回収方法においては、従来言われているようにアンモニアの酸化による亜硝酸イオンの生成反応が特に律速となるものではなく、硝化菌担持体上にアンモニア酸化細菌群(AOB)と亜硝酸酸化細菌群(NOB)の双方が一定の割合で存在すると、アンモニアが亜硝酸イオンに、亜硝酸が硝酸イオンに速やかに分解され、水中にアンモニアと亜硝酸イオンが残留する割合が減り、硝酸イオンの割合を高めることが可能となる。
【0067】
本発明に係る窒素回収装置においては、このように硝化菌担持体21に担持された硝化菌により分解されたアンモニアガス分解生成物である硝酸イオンは、未反応のアンモニウムイオンおよび亜硝酸イオンと共に、微生物分解槽20中で水に溶解し、後続して微生物分解槽20内に給水される水が洗い流し、微生物分解槽20の底部開口部より導出され、排水ライン40を介して、循環水貯留槽50へと送られる。循環水貯留槽50に一時的に蓄えられたアンモニアガス分解生成物を含む水は、前記したように循環ポンプ60によって再処理ライン70を通って再び微生物分解槽20内に、循環水という形で給水される。このため、本発明に係る窒素回収装置を稼働させ、アンモニアガス源槽10よりアンモニア含有ガスを送り続けて反応を続けると、循環水中の硝酸イオン(および亜硝酸イオン)濃度は、当然に経時的に上昇していく。
【0068】
一般的にこのような硝酸イオン、亜硝酸イオンの上昇は、硝化菌、特にアンモニア酸化細菌群(AOB)の活性低下を起こし、アンモニア酸化細菌群の減少を起こして、終局的にはアンモニアの分解反応が低下してしまうことが知られていた。
【0069】
詳細な作用機序は未だ十分に解明されていないが、本発明に係る窒素回収装置の構成においては、驚くべきことに、装置を長時間稼働させ、循環水中の硝酸イオン濃度が比較的高濃度のものとなっても、微生物分解槽20内での新たなアンモニウムイオンの酸化反応が十分に進行することが明らかとなった。水中の硝酸イオン濃度が、例えば、5000mg/L以上、好適には5000mg/L~200000mg/Lに達しても一定の割合のAOBとNOBが存在し、アンモニア成分の分解が進むことがわかった。この点から、反応が進むにつれて硝酸耐性を有するタイプのAOBとNOBが増殖しアンモニウムイオンの硝酸への分解が維持されるものと思われた。
【0070】
なお、このような特徴は、硝化菌担持体21に当初に種菌として撒種する硝化菌ないし活性汚泥を変えても同様に観察されたので、本発明に係る窒素回収装置の構成ないし本発明に係る窒素回収方法の工程に固有のものであると考えられる。
【0071】
また、本発明において、硝化菌担持体21におけるアンモニア酸化細菌群(AOB)および亜硝酸酸化細菌群(NOB)の分布状態としても、特に限定されず、AOBおよびNOBが硝化菌担持体21の全体において、ほぼ均等に混在して存在している状態であっても、あるいは、AOBとNOBがそれぞれ硝化菌担持体21の特定部位に別れて存在している状態であっても良い。なお、好ましい一つの分布状態としては、硝化菌担持体21において、微生物分解槽20の下方側、すなわち、微生物分解槽20にアンモニア含有ガスが流入してくる側の位置にAOBが偏在し、それより上方側にNOBが偏在するような分布状態が挙げられる。このような分布状態であるとアンモニア酸化細菌群(AOB)および亜硝酸酸化細菌群(NOB)のそれぞれの微生物分解槽20における反応がより効率良く行われ得る。このようなアンモニア酸化細菌群(AOB)および亜硝酸酸化細菌群(NOB)の分布状態は、本発明の窒素回収装置を稼働し、ある程度時間が経過してAOBおよびNOBが硝化菌担持体21において増殖してくると、比較的普通に形成され得る。
【0072】
(排水ライン、循環水貯留槽)
前記排水ライン40の構成としては、特に限定されるものではなく、微生物分解槽20の底部より流出する、アンモニア分解生成物を含む水(循環水)を確実に循環水貯留槽50へと導くことができるものであれば、その形状、管路長等はどのようなものであってもよい。また、循環水貯留槽50の構成としても、微生物分解槽20(硝化菌担持体21)の容積に対して、所定の循環水量を貯留できるものであれば、その形状、配置位置等のそれ以外の点は特に限定されるものではない。なお、アンモニア酸化細菌群(AOB)と亜硝酸酸化細菌群(NOB)とによる前記したような硝化反応は、好気性条件下で進行し、また嫌気性条件下においては、脱窒菌が存在すると、脱窒反応により水中に捕捉された窒素分を大気中に放出してしまう可能性があるため、排水ライン40、循環水貯留槽50等に循環水の流路もなるべく曝気できるような構成とすることが望ましい。
なお、特に限定されるものではないが、循環水貯留槽50は、例えば、クーラーおよびヒータ等の水温調整機構を備えていることが望ましく、循環水温度を、硝化菌の活動に適した温度範囲、具体的には、例えば10~60℃の範囲に調整することが好ましく、さらには15~50℃、特に20~40℃に調整することがより好適である。なお、アンモニア酸化細菌群(AOB)と亜硝酸酸化細菌群(NOB)とでは、さらに、これらそれぞれの細菌種によっては、活動に至適な温度範囲がある程度異なるものであるため、より精細に温度調節を行うことによって、アンモニア酸化細菌群(AOB)によるアンモニウムイオンの酸化反応と亜硝酸酸化細菌群(NOB)による亜硝酸イオンの酸化反応との間の反応進行の程度を調整することも可能となる。
【0073】
(給水手段)
図1に示す本発明の一実施形態に係る窒素回収装置においては、窒素回収装置に当初、新鮮な水を給水する上で、開閉可能なバルブを有して、再処理ライン70の途中へと接続された給水ライン30を有するが、本発明の窒素回収装置において微生物分解槽20に対して水を供給する給水手段としては、窒素回収装置に当初新鮮な水を供給でき、その後は循環水に切り替えられることが可能なものであれば、何ら
図1に示すような給水ラインの構成に限定されるものではなく、これ以外にも例えば、単純に循環水貯留槽50へと新鮮な水を供給できるような構成のものであるとか、あるいは、再処理ライン70とは独立して微生物分解槽20の上部側から水を供給することができるような構成のものであるものなど任意の構成とし得る。また、本発明の一実施形態に係る窒素回収装置においては、前記したような給水ライン30および再処理ライン70に接続され、微生物分解槽20の上部側より水(循環水)を分解槽20へと水を散布する散水器31が設けられているが、微生物分解槽20中の硝化菌担持体21の全体に対してほぼ均等に水(循環水)をかけることができるものであればその構成は特に限定されるものではない。また、この散水器31自体は特に設けなくともよい。
【0074】
(再処理ライン、循環手段)
本発明の窒素回収装置においては、循環水貯留槽50からの循環水を微生物分解槽20へと循環させて供給するための再処理ライン70および循環手段としての循環ポンプ60の構成も特に、
図1の実施形態において示すような構成のものに限定されるわけではなく、水の循環をなし得る限りにおいて任意の構成とすることができる。
【0075】
なお、循環水は、微生物分解槽20に充填された硝化菌担持体21に対して、連続的に供給するようにしても良いが、間欠的に供給する形態とする方が好ましい。すなわち、連続的に供給すると、その供給量にもよるが、反応場となる硝化菌担持体21の表面が常時水で覆われた状態となり酸素供給が不十分となり硝化反応速度が低下する虞れがあり、また嫌気条件下となって脱窒反応が生じる虞れが生じるためである。
【0076】
(硝酸水溶液回収ライン)
図1に示す本発明の一実施形態に係る窒素回収装置においては、貯留槽50内の水が所定の硝酸イオン濃度となった場合に、貯留槽50より水を回収する回収手段として、開閉可能なバルブを有する硝酸水溶液回収ライン80が設けられているが、この回収手段の構成としても、窒素回収装置における反応の進行時においては水の循環を維持するように閉鎖されており、水が所定の硝酸イオン濃度となった場合に、水の循環ラインから循環水の一部または全部を回収できるものであれば特に限定されるものではなく、どのような位置に配されていてもまたどのような機構によるものであってもよい。また水が所定の硝酸イオン濃度に達したことが検知された際に、自動的に作動して水を回収するものであっても、手動で作動させるものであっても良い。
【0077】
(pH調整機構)
図1に示す本発明の一実施形態に係る窒素回収装置においては、上述したように、pHセンサ91、pHコントローラー90、アルカリ液槽101、酸液槽102、pH調整剤供給ライン100を含んでなる、循環水のpHを調整するpH調整機構が設けられているが、本発明に係る窒素回収装置において、このようなpH調整機構を設けることは好ましいものであるものの、必須の構成要件ではなく、またpH調整機構の構成としても、
図1に示される実施形態のものに何ら限定されるものではなく、公知の各種の態様を用いることができる。例えば、
図1に示すpH調整機構では、アルカリおよび酸のいずれの添加も可能とされておりpHが酸性に傾いた場合であっても、アルカリ性に傾いた場合であっても調整可能とされているが、アルカリのみを添加可能なものとした構成とすることも可能である。すなわち、一般に、アンモニウムイオンが溶解した水がアンモニア酸化細菌群(AOB)により酸化されることで、水のpHが概して低下する傾向が高く、pHの低下により、アンモニア酸化が阻害されるため、アルカリのみを添加可能なものとした形態であっても、水のpH調整にほぼ対応可能なものとなるためである。なお、使用するアルカリおよび酸としては特に限定されるわけではないが、アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、前記のいずれかを含む消石灰等や超アルカリ水などを、また、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等を使用することができる。
【0078】
<窒素回収方法>
本発明に係る窒素回収方法は、上述したような構成を有する窒素回収装置を用い、アンモニア含有ガス中のアンモニア成分を硝化菌で分解し、アンモニア含有の窒素成分をアンモニアガス分解生成物として回収する窒素回収方法であり、硝化菌を担持した硝化菌担持体21を保持してなる微生物分解槽20に循環水を供給して、前記硝化菌担持体21を湿潤状態に保持し、この湿潤状態とされた硝化菌担持体21に、酸素存在雰囲気下でアンモニア含有ガスを通気し、アンモニア含有ガス中のアンモニア成分および硝化菌により分解されたアンモニアガス分解生成物を、前記循環水中に溶解して、前記循環水中にアンモニアガス分解生成物を蓄積しながら、アンモニア含有ガスの分解処理を継続し、前記循環水中におけるアンモニア分解生成物としての硝酸イオン濃度が5000mg/L以上にまで高められて所定濃度に達したとき、前記循環水の一部または全部をアンモニアガス分解生成物として回収することを特徴とするものである。
【0079】
上述したような構成を有する窒素回収装置を用いることで、循環水中における硝酸イオン濃度が高濃度化、すなわち、硝酸イオン濃度が5000mg/L以上、より好ましくは、30000mg/L以上、さらに好ましくは60000mg/L以上となっても、少なくともアンモニア酸化細菌群(AOB)および亜硝酸酸化細菌群(NOB)が存在する条件下では硝化菌によるアンモニア含有ガスの分解反応を高効率で維持することができるものであり、硝酸イオン濃度が5000mg/L以上にまで高められて、例えば10000mg/L以上、15000mg/L以上、20000mg/L以上、あるいは25000mg/L以上の所定濃度に達したときに、循環水を回収することができる。特に、硝酸イオン濃度が5000mg/L~200000mg/L、より好ましくは、30000mg/L~150000mg/L、さらに好ましくは60000mg/L~100000mg/Lとなって前記循環水を回収することで、例えば、液肥として有効利用できるような高濃度の硝酸水溶液が得られるものであり、窒素原子の質量基準で、投入したアンモニア含有ガスの含有する窒素のうち30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、より一層好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上を硝酸イオンに含まれる窒素として回収できるものである。
【0080】
なお、本発明に係る窒素回収方法においては、上記のようにして高濃度で硝酸イオンを含む循環水を回収した後においても、前記硝化菌担持体21に担持された硝化菌は有効に作用し得るものであるため、新たな循環水を系内に供給し、アンモニア含有ガスを通気して分解処理を再開すれば、先の処理回と同様に効率よくアンモニア含有ガスの分解反応が進行するので、硝化菌担持体21ないしはこれに担持された硝化菌を取り替えることなく、繰り返しアンモニア含有ガスからの窒素回収操作が可能である。新たな循環水としては、水もしくは硝化菌を含有する活性汚泥等でもよい。また、循環水を含む環境条件を急激に変えることは硝化菌の活性を低下させる可能性もあるため、一度に回収及び交換する循環水は全循環水量の100%未満が好ましく、90%以下がより好ましく、80%以下がさらに好ましく、70%以下がより一層好ましく、60%以下が最も好ましく、一方で、回収および交換を有効とする上で、全循環水量の少なくとも20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、最も好ましくは50%以上とすることが望ましい。但し、一度に回収および交換する循環水が全循環水量の100%となっても良い。
【0081】
本発明によれば、前記のように硝酸イオン濃度が5000mg/L以上、さらには60000mg/L以上となっても、硝化菌によるアンモニア含有ガスの分解反応を高効率で維持することができる。そのため、循環水の一部のみを回収・交換し、交換後の循環水の硝酸イオン濃度が例えば3000mg/L以上、さらには10000mg/L以上である条件下でアンモニア含有ガスを投入したとしても、アンモニア含有ガスを効率よく分解し、循環水中の硝酸イオン濃度を、アンモニア含有ガスの投入開始時点よりも格段に高めることができる。本発明はまた、上記窒素回収方法において、循環水中における硝酸イオン濃度が、アンモニア含有ガスの投入を開始した運転開始直後の濃度から5000mg/L以上増加させて所定の高濃度に達したとき、該循環水の一部または全部をアンモニアガス分解生成物として回収する窒素回収方法をも包含する。
【0082】
本発明の窒素回収方法において、前記したように循環水中に蓄積される硝酸イオン濃度が高濃度となっても安定的に硝化菌によるアンモニア含有ガスの分解反応を進める上で、特に限定されるものではないが、以下に示すような条件をそれぞれ規定する範囲内のものとすることが望ましいものである。
【0083】
すなわち、硝化菌担持体21の材質としては、前記したように適度な水分保持力と通気性を保てる無機材料が好ましく、特に発泡ガラスであることが望ましい。
【0084】
また、硝化菌担持体21の温度としては、微生物の活性を保つ上で10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましく、25℃以上が特に好ましい。所望により、30℃以上、さらには35℃以上、特に37℃以上としてもよい。他方、過度な上昇は微生物の活性を低下させ、かつ、アンモニアガスの気化を促し窒素回収率を低下させる原因になり得ることから、上限は、60℃以下、より好ましくは55℃以下、さらに好ましくは50℃以下、より一層好ましくは45℃以下とすること、特に40℃以下とすることが、硝化菌による活発な反応を進行させ、高い窒素回収率を達成する上で好ましい。なお、硝化菌担持体21の温度調整方法は特に限定されるものではなく、電熱ヒータを用いて直接温度調整する方法、後述の方法等で温度を調整した循環水を硝化菌担持体21に給水する方法や別途冷却水を給水する方法をとることができる。また、循環水の温度としても同様に10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。他方、上限は、60℃以下、より好ましくは55℃以下、さらに好ましくは50℃以下、より一層好ましくは45℃以下とすること、特に40℃以下とすることが望ましい。循環水の温度を10~60℃、より好ましくは15~50℃、中でも20~40℃、特に25~35℃にすることが、硝化菌の活性化に有効である。なお、循環水の温度調整方法は特に限定されるものでなく、循環水中に投げ込み式ヒータを投入する方法をとることができる。
【0085】
また硝化菌担持体21は、硝化菌担持体21の充填体積1Lとしたときの充填高さが前述したように10cm以上が好ましく、20cm以上がより好ましく、30cm以上がさらに好ましく、40cm以上がより一層好ましく、50cm以上が特に好ましい。他方、上限は200cm以下、より好ましくは150cm以下、さらに好ましくは100cm以下となるように、微生物分解槽20内に充填されていることが望ましい。
【0086】
さらに微生物分解槽20における硝化菌担持体21の含水率は前述したように、硝化菌担持体21の充填体積1L当り5%以上が好ましく、7%以上、特に10%以上が望ましく、20%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましく、30%以上が特に好ましい。所望により、40%以上、例えば50%以上、あるいは60%以上としてもよい。含水率を例えば10%以上、特に20%以上とすることにより、アンモニアガスの捕捉能力をも高めることが可能となり、中でも30%程度以上とすることによって、脱臭率も高めることができる。上限は、90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下とすることが、好気性条件を維持し硝化反応を促進させる上で望ましい。
【0087】
また循環水のpHとしては、アンモニア酸化細菌群(AOB)および亜硝酸酸化細菌群(NOB)を含む硝化菌の活動を良好に保つ上で、調整するpH範囲の下限はpH5.0以上が好ましく、5.5以上がより好ましく、6.0以上がさらに好ましく、6.2以上がより一層好ましく、6.5以上が特に好ましく、6.8以上が最も好ましい。循環水のpHを約5.5以上、特に約6.5以上とすることにより、アンモニアの残留がかなり抑制される利点もある。他方、上限は9.0以下が好ましく、8.8以下がより好ましく、8.6以下がさらに好ましく、8.4以下がより一層好ましく、8.2以下が特に好ましく、8.0以下が最も好ましい。pHが9.0を超えると、硝化活性の低下を来す虞があり、また、アンモニアが揮発しやすくなるため装置外にアンモニアガスが漏れ出す虞がある。ここで循環水のpHは、循環水の恒常的なpHを意味するのであって、例えば、pH調整のために投入されたアルカリまたは酸が循環水中で均一化するまでに局所的かつ一時的に前記範囲を外れることは問題とはならない。超高濃度のアンモニアガスが、短期間の間に集中的に流入し、pHが9を超える場合もあり得るが、一時的なpH上昇であれば問題を生じることはない。
【0088】
さらに循環水の液量としては、窒素回収装置内の硝化菌担持体21の充填体積の好ましくは0.01倍以上、より好ましくは0.05倍以上、さらには0.5倍以上、特に0.5~10倍の量とすることが、硝化菌担持体21を十分に湿潤状態とし、かつ通気されたアンモニア含有ガスからのアンモニウムイオン、並びに硝化反応によって生成する亜硝酸イオンおよび硝酸イオンを循環水中に安定に保持、蓄積していく上で望ましい。
【0089】
循環水の1時間当たりの循環量は、硝化菌担持体を適度な湿潤状態にし、硝化菌の活性を保ち、かつ、アンモニア成分が溶け込むための水を供給して、さらにはアンモニア分解生成物を洗い流すことを目的としており、硝化菌担持体21の充填体積1L当り50mL以上/時間が好ましく、100mL/時間以上がより好ましく、200mL/時間以上がさらに好ましく、400mL/時間以上がより一層好ましく、1000mL/時間以上が特に好ましく、5000mL/時間以上が最も望ましい。他方で、適度の酸素供給を保つ上で、上限は50000mL/時間以下が好ましく、30000mL/時間以下がより好ましい。
【0090】
さらに、循環水中のエアレーション量としては、好気性条件下で反応を進行させるため、また、アンモニア酸化細菌群(AOB)および亜硝酸酸化細菌群(NOB)による酸化反応で消費される酸素分を供給するとともに、循環水中が嫌気状態に陥り、脱窒による窒素回収率の低下を防ぐ上で、循環水1Lに対し0.5L/分以上が好ましく、1L/分以上がより好ましく、1.5L/分以上がさらに好ましく、2.0L/分以上がより一層好ましく、3.0L/分以上が特に好ましく、4.0L/分以上が最も好ましい。他方、過度のエアレーションはアンモニアの気化を促す虞れがあるため、上限は、循環水1Lに対し10L/分以下が好ましく、8.0L/分以下がより好ましく、6.0L/分以下がさらに好ましい。
なお、循環水のエアレーションは、例えば、曝気ポンプにより行うことができるが、例えば、アンモニア含有ガス供給手段より供給されるアンモニア含有ガスが、十分な酸素(空気)を含むものである場合においては、必ずしも必要ではない。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
【0092】
[実施例1]
図1に示すような構成を有する窒素回収装置を用いてアンモニア含有ガスの分解処理を行った。
【0093】
硝化菌担持体としては、発泡ガラス((株)村上開明堂製、バブグラスG0004)を350g(充填体積1Lに相当)用い、これに埼玉県内の養豚場の活性汚泥槽より得られた活性汚泥(AOB、NOB含有)を種菌として、3L(発泡ガラスの充填体積の300体積%の割合に相当する量)接種した。
【0094】
そして、硝化菌担持体21の温度を28~33℃(微生物分解槽の上部から温度計を差し込み計測)、循環水の温度を28~33℃、硝化菌担持体21の充填体積1Lとしたときの充填高さを20cm、微生物分解槽20における硝化菌担持体21の含水率を30%、循環水のpHを7.0~9.0の範囲(この範囲を外れるとpHコントローラーにて、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを自動調整する。)、循環水の液量を硝化菌担持体21の体積の3倍、循環水の1時間当たりの循環量を、硝化菌担持体21の充填体積1L当り200mL/時間、循環水中のエアレーション量を、循環水3Lに対し4L/分として、アンモニア含有ガスを窒素回収装置に通気した。アンモニア含有ガスの通気は、高濃度のアンモニア水を入れたタンク内のガスを、吸引ポンプで装置中に導入することにより行った。アンモニア投入量は、窒素原子の質量換算で約350mg/日とした。
【0095】
循環水を所定の経過日数毎に10mLの量を採取し、比色分析法により循環水中のアンモニウムイオン、亜硝酸イオン、及び硝酸イオンの各イオン濃度を測定した。これら測定値を窒素原子分の濃度に換算して、各イオンの窒素濃度を計算し、その計算結果に基づき、循環水中の窒素原子における各窒素形態の比率を求めた。それらの結果を、表1に示す。
【0096】
【0097】
表1に示す試験結果から、循環水中の硝酸イオン(NO3
-)濃度は、試験開始から28日目には6640mg/Lと5000mg/Lを大きく上回り、84日目には29886mg/Lまで高くなった。本発明に従い、アンモニアを分解して脱臭し、得られる硝酸態窒素(N(NO3
-))を高濃度で回収し得ることが示された。前記したように、一般に硝酸イオン(NO3
-)、亜硝酸イオン濃度(NO2
-)の上昇によって硝化菌、特にAOBの活性が低下して、アンモニア分解反応が進み難くなることが知られていたが、本実施例ではそうした傾向は観察されなかった。なお、28日目までの結果からは、初めにAOBによるアンモニア酸化が進行し、次いでNOBによる亜硝酸酸化が進んでいることが示唆される。
【0098】
なお、投入したアンモニア含有ガス中の窒素が循環水中の窒素として回収される率(窒素回収率)は、循環水中のイオンが硝化菌担持体中に断続的に捕捉され得るために測定日毎に大きく変動したが、初日及び84日目の窒素イオン濃度に基づき、循環水3L中の窒素原子重量の増分を計算すると、19545mg(=(13/18+15/46+29886/62-319/18)×14×3)となり、投入したアンモニア中の窒素(全量=350mg/日×84日=29400mg)の66%程度を回収できたことが確認された。しかも回収された窒素のほぼ100%が、硝酸態窒素(N(NO3
-))であった。また、84日目以降に、循環水の全量の50%(3L中1.5L)を水に交換してから運転を再度継続したところ、循環水中に、交換前と同等の濃度まで高められた硝酸イオンが蓄積されていたことも、その後に継続した試験によって確かめられた。
【0099】
[実施例2~3]
硝化菌担持体として、発泡ガラスに代えてロックウール(含水率86%:実施例2)又はパーライト(含水率44%:実施例3)を用いたこと以外は、実施例1と同様の構成とし、同様な操作を行った。試験結果を表2に示す。
【0100】
【0101】
表2に示す試験結果から、硝化菌担持体としてロックウールを用いた実施例2は、循環水の硝酸イオン濃度が、42日目に8587mg/Lと5000mg/Lを大きく超え、84日目に30265mg/Lと30000mg/Lを超えていることがわかる。初日と84日目のイオン濃度から実施例1と同様にして計算したところ、窒素回収率は66%を超えていたことも確認された。また、硝化菌担持体としてパーライトを用いた実施例3は、循環水の硝酸イオン濃度が、53日目に17657mg/Lと5000mg/Lを大きく超え、84日目に24381mg/Lと20000mg/Lを超えていることがわかる。さらに、窒素回収率も50%を超えていたことが確認された。
【0102】
[実施例4~5]
実施例4は、活性汚泥を32℃に2日間保持して種菌を培養し、アンモニア投入量を、窒素原子の質量換算で約380mg/日とした以外は、実施例1と同様の構成とし、同様な操作を行った。実施例5は、種菌として静岡県内の養豚場の活性汚泥槽より得られた活性汚泥を用い、32℃で8日間培養し、アンモニア投入量を、窒素原子の質量換算で約425mg/日とし、硝化菌担持体の温度を35℃に、循環水の温度を32℃にそれぞれ調整した以外は、実施例4と同様の構成及び操作を行った。なお、実施例5では、全微生物に対するAOB及びNOBの存在割合を、16S rRNAメタゲノム解析により分析した。
実施例4および5の試験結果を、表3に示す。
【0103】
【0104】
表3に示す試験結果から、実施例4は、硝酸イオン濃度が、24日目に6005mg/Lとなり、試験開始の初日の値(158mg/L)から5000mg/L以上増加し、56日目に28771mg/Lと30000mg/L近くまで増加した。また、60日目の窒素回収率を実施例1と同様にして計算したところ、およそ65%であったことが確認された。また、実施例5は、硝酸イオン濃度が、31日目に14802mg/Lと5000mg/Lを大きく超え、47日目に40450mg/Lと30000mg/Lをも大きく超え、95日目には62458mg/Lと60000mg/L以上の値となった。なお、これらの実施例4および5はいずれも、硝化菌として、活性汚泥の培養を行ったものを用いているため、試験開始時から亜硝酸イオン等が検出されている。
【0105】
実施例5で測定したAOB及びNOBの存在割合、並びに各イオン濃度の推移から、0~7日目の間はAOBの割合が7%強となるのに並行して亜硝酸イオンの濃度が高まり、一方で硝酸イオン濃度はNOBの割合が0.4%となる18日目から高まり始め、NOBの割合が1%を超える25日目以降に著しく増大したことが見て取れる。
【0106】
[実施例6]
活性汚泥の培養日数を22日間とし、実施例1と同様の装置及び条件で150日以上運転した後に回収した水を1.2L混合して3Lの循環水として用い、かつ循環水の温度及びpHを調整せず(環境温度で)、エアレーションも行わずに、また、アンモニア投入量を、窒素原子の質量換算で約280mg/日とした以外は、実施例4と同様の操作を行った。試験結果を表4に示す。
【0107】
【0108】
実施例6は、pH調整を行わなかったため、22日経過後以降の循環水のpHは6.0前後に低下し、47日経過後は5.5前後に低下していた。温度条件等を調整していない実施例6でも、初期硝酸イオン濃度が10000mg/L以上にも関わらず、硝酸イオンの蓄積が継続され、初日からの硝酸イオン濃度の増加分は、39日目に7228mg/L(=18476-11248mg/L)と5000mg/Lを超えた。一方で、実施例4の49日目や実施例5の47日目と比較すると、実施例6の47日目の硝酸イオン濃度は同程度であるのに対して、アンモニウムイオン濃度は実施例4及び5におけるよりも明らかに多く蓄積していた。また、32日目以降は、硝酸態窒素(N(NO3
-))は回収された窒素中の56~80%であり、アンモニア態窒素(N(NH4
+))が20~39%を占めていた。温度やpH等を調整することが、高濃度の硝酸イオンを回収し、かつアンモニア量を抑制する上で好ましいことが示唆される。
【0109】
[実施例7]
硝化菌担持体として、含水率を9%とした発泡ガラス((株)村上開明堂製、バブグラスG0001)を、種菌として他の実施例で使用した微生物をそれぞれ使用し、かつアンモニア投入量を、窒素原子の質量換算で約340mg/日として、実施例4と同様の構成とし、同様な操作を行った。微生物は、実施例1と同条件で100日以上運転した窒素回収装置で使用した発泡ガラスを循環水中に懸濁することにより、発泡ガラス表面から回収した。回収後の液3Lを、上記発泡ガラス0.9Lを備えた窒素回収装置に入れて12日間循環させ、微生物を発泡ガラスに馴染ませたのちに、循環水を10倍希釈した。それ以降は、実施例4と同様の構成及び操作を行い、各イオン濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0110】
【0111】
実施例7では、硝酸イオン濃度の初日からの増加分は、20日目に7391(=9546―2155)mg/Lと5000mg/Lを超え、27日目に7507(=9662-2155)mg/L、さらに41日目に14497(=16652-2155)mg/Lとなった。硝酸濃度が初日から高かった理由は、培養液に別の装置の循環水を使用したためである。本実施例では、硝酸濃度が5000mg/Lを超えた後も投入したアンモニアの多くが硝酸に酸化され、循環水中にアンモニア態窒素がほとんど残らなかったことから、硝化活性が十分に発揮されたといえる。担持体の含水率が9%であっても硝酸イオンを高濃度で回収し得ることが示された。ただし、担持体中の水の量は装置を通過するアンモニアガスの捕捉能力に影響するため、アンモニアガスの投入量を増やした場合に含水率の低い担持体ではアンモニアガスを十分に捕捉できず、窒素回収率が低下する虞がある。
【0112】
[実施例8~11]
実施例1と同条件で200日以上運転した窒素回収装置3台を使用し、その中の循環水10%を残した上でイオン交換水を加えて新規循環水の全量を2.8Lとし、そのpH下限値を6.5に調整しながら、アンモニアの投入量を(窒素原子の質量換算で)約200~300mg/日としたこと以外は、実施例1と同様の構成とし、同様の操作を行った。すなわち、既に活性汚泥(硝化菌)を担持した発泡ガラス(上記のバブグラスG0004、含水率30%)を用い、循環水のpHの下限値を6.5とした試験をn=3で行った(実施例8)。
実施例8の試験終了後の窒素回収装置3台を使用し、その中の循環水10%を残した上でイオン交換水を加えて新規循環水2.8Lとし、そのpHの下限値を6.0に調整しながら、実施例8と同様の試験を行った(実施例9)。
実施例9の試験終了後の窒素回収装置3台を使用し、循環水のpHの下限値を5.5に調整した以外は、実施例9と同様の試験を行った(実施例10)。
実施例10の試験終了後の窒素回収装置3台を使用し、循環水のpHの下限値を5.0に調整した以外は、実施例9及び10と同様の試験を行った(実施例11)。
各実施例の試験結果を、表6に示す。なお、表6中の数値は、n=3の平均値である。
【0113】
【0114】
表6に示す試験結果から、循環水のpHの下限値を5.0に調整した実施例11は、硝酸イオン濃度が14日目に6033mg/Lと5000mg/Lを超え、硝化反応の進行が確認された。但し、実験開始時の硝酸イオン濃度を考慮すると、実施例11では、該濃度の増加分が21日目でも、3161(=6305-3144)mg/Lと5000mg/L未満と少なく、pH下限値を5.5以上に調整した実施例8~10、特にpHの下限値を6.5に調整した実施例8に比べると、硝化の度合いは明らかに低かった。なお、実施例8~10では、回収された窒素分の90%以上が硝酸態窒素であった。それに対して実施例11では、回収された窒素分の内、硝酸態窒素は80%前後であり、アンモニア態窒素が17~23%を占めていることが確認された。循環水のpHは、5.5以上、特に6.5以上に調整するのが好ましいことが示された。
【0115】
[実施例12~13]
実施例11の試験終了後の窒素回収装置3台を使用し、循環水2.8Lを新たに用いた上で、循環水の温度を20℃、pH下限値を7.0にそれぞれ調整し、一方で発泡ガラスの温度は調整せず、かつアンモニア投入量を、窒素原子の質量換算で約300mg/日とした以外は、実施例8と同様の試験を行った(実施例12)。
実施例12の試験終了後の窒素回収装置の内1台を使用し、循環水の温度を15℃に調整した以外は、実施例12と同様の試験を行った(実施例13)。
各実施例の試験結果を、表7に示す。
【0116】
【0117】
表7に示すように、実施例12及び13では、硝酸イオン濃度の初日から21日目までの増加分は、それぞれ5503(=9122-3619)mg/L、5028(=8861-3833)mg/Lと、いずれも5000mg/Lを超えていた。これらの値は循環水温度を30℃に調整した実施例8における20日目の値(濃度11790mg/L、初日からの増加分8384mg/L;循環水の温度だけでなくpHも異なるので確言はできないが、循環水のpHは6.8以上が最も好ましいことを考慮すると、循環水のpH下限値を7.0とした上で温度を30℃に調整した場合、実施例8よりもさらに高い硝酸イオン濃度が得られると推定される)には及ばないものの、硝酸イオン濃度が5000mg/Lを超えた後にも硝化が進行することが判明した。特に循環水温度を20℃とした実施例12では、28日経過後に硝酸イオン濃度が11965と10000mg/Lを超える値となった。硝化の進行度合いは、15℃での運転(実施例13)<20℃での運転(実施例12)<30℃での運転(実施例8)の順であった。なお、実施例12及び13のいずれにおいても、21日以上経過後には、投入したアンモニアから回収された窒素分の99%前後が硝酸態窒素であったことが確認された。
【0118】
本発明によれば、循環水の温度を20℃や15℃前後にまで下げても、アンモニアから硝酸イオンを高濃度で回収することでき、窒素ガスとして排出する従来の技術とは異なり、硝酸態窒素として有効利用し得ることが示された。
【符号の説明】
【0119】
10 アンモニアガス源槽
11 アンモニア含有ガス供給ライン
12 吸気ポンプ
20 微生物分解槽
21 硝化菌担持体
30 給水ライン
31 散水器
40 排水ライン
50 循環水貯留槽
60 循環ポンプ
70 再処理ライン
80 硝酸水溶液回収ライン
90 pHコントローラー
91 pHセンサ
100 pH調整剤供給ライン
101 アルカリ液槽
102 酸液槽